(・∀ ・)たった一つのようです
- 3: ◆q/GlKnlG6s :2009/01/02(金) 23:05:46.60 ID:qL4TPaYC0
4:背【せ】
その国はとても奇妙な国だった。
何せ話す人話す人全てが僕に背を向けている。
いや、僕だけじゃなく、住人全員がお互い背を向けている。
それは話す時だけに留まらず、道行く人全てが背を向けて、目を合わせずにいるんだ。
別に喋らないわけじゃないのに、話しているときも背を向ける。
まったく奇妙な国だった。
(・∀ ・)「あのー、すみません」
( )「なんだモナ」
(・∀ ・)「ちょっとこっち向いてくれませんか?」
( ;)「と、とんでもないことを言うなモナ!そんなことできるわけないモナ!?」
(・∀ ・)「あ……ちょ…」
止める暇もなく、すげなく断りその人はそそくさと走っていってしまった。
仕方なく僕は次の人へと話しかける。今度は、ちょっと話を聞くのが好きそうな青年だ。
(・∀ ・)「あのー、すみません」
( )「なにかな」
- 6: ◆q/GlKnlG6s :2009/01/02(金) 23:09:36.18 ID:qL4TPaYC0
(・∀ ・)「どうして背を向けているんですか?」
( )「これはね、油断させるためだよ」
(・∀ ・)「油断?」
( )「背を見せていれば、敵は油断していると思って襲い掛かってくるだろう?
しかし常に注意を配っていれば、その敵を一網打尽にできるのさ」
(・∀ ・)「はぁ……」
敵って誰だよ。
と僕は思ったけれど、それは突っ込まずにいた。
青年がさも得意げに言っていたから、なんだか言うのが憚られたのだ。
どこかのバーテンのような格好をした彼は、僕の話を聞いてくれたのでそれだけで良しとする。
(・∀ ・)「ちなみにご飯とかはどうやって食べるんですか?」
( )「こうやってさ!」
彼はその人は首をごきり、と奇妙にまげて、いつの間に手に持っていたのか
フランクフルトを口に含み、はむはむと美味そうに味わった。
最後にしゃぶるように舐めると、そのまま笑顔を向ける。
( ´・ω)「こうすれば、背を向けたままで食べられるだろう?」
- 7: ◆q/GlKnlG6s :2009/01/02(金) 23:11:42.49 ID:qL4TPaYC0
首を不自然な状態のままで、フランクフルトを食べる青年はどうにも不思議な生き物だった。
まず第一に、フランクフルトは後ろを向いたままでも食べれるのに、どうしてわざわざ食べ辛い格好で食べ始めたのだろう
ということと。
第二に、僕が聞いたのはそういうことじゃなくて、食べるときは向かい合うのかそれともそっぽを向いたままなのか
口で聞きたかったのに、いきなり実践されたことだ。
まぁ、それは別にそれはいいんだけど、正直彼の首の方向がおかしいので元に戻って欲しい。
怖い。
(・∀ ・)「首、痛くないんですか?」
( ´・ω)「痛いよ。だから早く食べなくちゃいけない」
(・∀ ・)「体ごと前を向いたらいいじゃないですか」
(;´・ω)「とんでもない!そんなことして攻撃されたらどうするんだい!?」
(・∀ ・)「誰にですか?」
( ´・ω)「知らないよそんなの」
うーん
僕は首を傾げる。
わからなかったからだ。主に全体的な意味が。
- 8: ◆q/GlKnlG6s :2009/01/02(金) 23:14:29.88 ID:qL4TPaYC0
純粋にそれだけだったのに、何を勘違いしたのか、突然男が僕の首に手を伸ばし
そしてそのまま首をひねってきた。
(゚∀ ゚;)「いっ!?」
い、いたたたたた……!!
一体何をするんだ!
(・∀ ・;)「痛い!痛い!」
両手をばたつかせてもがくが、青年はやけに鼻息荒くして離してくれそうにない。
色んな意味で大ピンチだ。
( *´・ω)「嬉しいなあ、同志ができて。君もいずれ首が180度回転したらいいと思っているんだね?
そうだよ、それが正しい僕達のあり方なんだ」
(・∀ ・;)「違いますよ!離して……はな……」
( *´・ω)「そうすれば敵に襲われても無事でいられるし、反撃もできるものね……ふふ」
(・∀ ・;)「だから違うっつーの!離せ……はなっ……離せっ!!」
あまりにも首が痛かったので、あまり得策ではなかったけれど僕はその男を思い切りぶん殴った。
鬼気迫るその表情が怖かったのもぶっちゃけある。
結構あっけなく男は倒れ、そのまま地面に蹲った。
しかし僕が肩で息をしている間にすぐさままた立ち上がる。
- 9: ◆q/GlKnlG6s :2009/01/02(金) 23:15:40.40 ID:qL4TPaYC0
(#´・ω・`)「痛いだろう!?何をするんだ!!」
(・∀ ・)「あ……」
(´・ω・`)「あれ?」
その時、彼は首がきちんと正面に戻っていた。
ので、僕と向かい合う形になる。
(´・ω・`)「あ……」
(´゚ω゚`)「あ……あぁ……」
(・∀ ・;)
しばらくぽかんとしていたが、その事実に気が付くと、彼はまず愕然とした。
それから震えるように体を抱きしめ、雄たけびを上げながら走っていく。
その声に、人々は驚いたように声をあげるけれど、決して振り返るということはしなかった。
(´゚ω゚`)「あ……あぁあああああああああああ!!!終わりだ!殺される!
僕は敵に殺される!!」
(・∀ ・;)「あ、ちょ……」
「わぁああああああああああああああああああ!!!」
- 11: ◆q/GlKnlG6s :2009/01/02(金) 23:17:37.98 ID:qL4TPaYC0
フェードアウトするような声だけを残して、男は走っていった。
周りに敵なんているわけもないのに、どうしてあの男は逃げ惑うのだろう?
僕はもう一度首を傾げようと思ったが、またねじられてはたまらないので、それはやめておいた。
変わりに、近くにいた女性に聞く。
その女性も、やっぱり僕に背を向ける。
(・∀ ・)「あのう」
从 从「なあに〜?」
(・∀ ・)「どうして後ろを向いているんですか?」
从 从「敵を誘い込んで倒すためよ〜」
(・∀ ・)「その考え、おかしいと思わないんですか?」
从 从「どうして〜?」
(・∀ ・)「だってほら、そんなことしてたら油断してるとあっという間にやられちゃうし」
从 从「油断してないもの〜」
(・∀ ・)「いやでも、首が180度曲がるなんておかしいし……」
そう言った瞬間、その女性の空気が変わった。
いや、女性だけじゃない、近くの住人全員の空気が冷たくなった。
- 12: ◆q/GlKnlG6s :2009/01/02(金) 23:21:09.55 ID:qL4TPaYC0
从 从「それはあなたがおかしいのよ?」
(・∀ ・)「え?」
その声は、酷く暗い。
从 从「この国では、皆それが正しいと信じてるの〜、だから、それを否定する貴方がおかしい」
(・∀ ・)「…………」
从 从「何が正しいのかなんて、その人次第よ〜?」
僕にとって、この国は正しくなんてなく、しかし彼らにとってこの習慣は紛れもなく正しい。
確かに、ここでおかしいのは僕の方なのかもしれない。
それ以上何もいえなくなって、僕はぺこりと頭を下げた。
(・∀ ・)「そうですね、失礼しました……」
从 从「うん、ばいばい〜、旅人さん」
(・∀ ・)「ええ、さよなら」
振り向かず女性は手を振って、そのまま歩き出した、が
3歩歩いたところで首をごきり、と奇妙な方向に曲げた。
从 ー'从「さよならついでに教えてあげるね〜、隣に国があるんだけど〜」
- 13: ◆q/GlKnlG6s :2009/01/02(金) 23:23:55.46 ID:qL4TPaYC0
(・∀ ・)「はぁ」
从 'ー从「その国はとっても怖い国なの〜。 私達はいつかこの国を油断して攻め込んでくると思うから〜
行かないほうがいいよ〜」
間延びした口調はどうにも怖いとは思えなかったが、僕はとりあえず頷いておいた。
(・∀ ・)「……ありがとうございます」
一礼だけして、その国を去る。
帰るとき、僕は振り返ってみてみたが
相変わらず、住人は僕に背を向けたままだった。
それがひどく寂しく感じたのは、どうしてだろう。
*
隣の国へ行くと、そこは平和な街だった。
攻め込むことや、武力とは酷く無縁の、和やかな緑に包まれた優しげな街。
- 14: ◆q/GlKnlG6s :2009/01/02(金) 23:27:16.79 ID:qL4TPaYC0
僕は道行く人を捕まえて尋ねた。
(・∀ ・)「あのちょっといいですか?」
(`・ω・´)「はいはい、なんだい?」
(・∀ ・)「隣にある国のこと、知ってます?」
男はその質問に苦笑すると、知っているよ、とだけ答えてくれた。
(・∀ ・)「どう思います? なんか隙だらけだから攻め込んでやる!とか、そう思います?」
その問に、男はとんでもない!と首を振った。
豊かな顎髭がふわふわと揺れる。
(`・ω・´)「我々は平和主義者なんだ!それにあんな背中を見せるような国の隙をつくなんて!
そんな非道なことするわけないだろう!?」
(・∀ ・)「……それは彼らが背中を向けている限り?」
(`・ω・´)「ああ!当然だ!」
僕はその言葉を聞くと、お礼だけ言ってその国を出た。
成る程。
確かに、その人にとって何が正しくて、何が間違っているのかなんて
その人にしかわからないことだ。
- 15: ◆q/GlKnlG6s :2009/01/02(金) 23:27:29.16 ID:qL4TPaYC0
4:正【せ】
了
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