(・∀ ・)たった一つのようです
- 16: ◆q/GlKnlG6s :2009/01/02(金) 23:32:40.09 ID:qL4TPaYC0
5:回【かい】
その国の人々は、回る回る。
朝昼晩と一日中。
ぐるぐるぐるぐる回っている。
三半規管が壊れているかのような回りっぷりだが、そもそも彼らに三半規管があるのかどうかわからない。
わかるのは彼らが回っているというその事実だけだ。
街中の人が回るその街で、僕はただ一人回らないで立っている。
回る街で回らないのは些か不自然だったので、軽く回りながら僕は近くの少女に話しかけた。
((・∀ ・))「あのぉぉー、すみませぇぇえん」
((ノハ ))「なぁぁあああああんんんんんんだぁああああああ!!!?」
((・∀ ・))「どうしてぇえ、ここの人たちはぁああ、回ってぇええ、いるんですかぁああああ」
((ノハ ))「自分がぁぁぁああ世界の中心にぃぃぃぃいいい思えるからだぞぉぉおおおおお!!」
僕は回るのを止めた。
- 17: ◆q/GlKnlG6s :2009/01/02(金) 23:34:23.43 ID:qL4TPaYC0
(・∀ ・)「中心?」
((ノハ ))「そうだぞぉぉおおおおおお!! 回っているとぉぉおおおお!!
自分が中心になれるんだぁああああああああ!!!」
そういって、少女は回る。
ぐるぐる、ぐるぐる、ぐーるぐる。
目が回らないのかと尋ねると、回っていて気持ちいいと答えてくれた。
うん、狂っているね。口には出さず心で言う。
((ノハ ))「君はぁああああああ!!回らないのかぁああああああ!?」
(・∀ ・)「回りませんねー」
((ノハ ))「なぜだぁあああ!?」
(・∀ ・)「僕の世界の中心は僕ではないからです」
そう、僕の中心はいつだって神様なのである。
だから、回って自分が中心になる必要なんてない。
中心になりたいのは、きっと仲間はずれが怖いからだ、中心になれば、外れることなんてなくなるから。
って、一体僕は何を考えているんだ?
その間にも少女は大きく言葉を紡ぐ。
((ノハ ))「そうかぁあああああ!残念だぁあああああ!!」
(・∀ ・)「ええ、残念ですね」
- 18: ◆q/GlKnlG6s :2009/01/02(金) 23:35:57.05 ID:qL4TPaYC0
((ノハ ))「でもなぁああああああ!旅人よぉぉぉおおおお!! こうやって回っているとなぁああああ!
敵の侵入を跳ね返せるんだぞぉぉぉおおお!?」
(・∀ ・)「侵入?」
((ノハ ))「そうだぁぁあああああああああ!!」
また、敵ときたもんだ。
この辺りの国の人々は、隣国を敵と思っているフシが多い。
もしかしたら、そんなことはないのかもしれないのに、話し合いということをしないのだろうか。
しかし少女が言うには、隣国にはとても強い敵がいて、こうやって回っていれば不気味がって攻めて来るはずがないという。
その言葉に少しだけ納得しながら頷いた。
(・∀ ・)「ああ、なるほど、それはあるかもしれませんね」
((ノハ ))「だろぉおおおおおお!!??」
(・∀ ・)「でも、もし攻め込まれたらどうするんですか?」
ほんの、軽い気持ちで聞いてみる。
- 19: ◆q/GlKnlG6s :2009/01/02(金) 23:37:08.79 ID:qL4TPaYC0
((ノハ ))
(ノハ )
ノハ )
ノパ听)
ノパ听)「そんなハズないよ」
しかし、その言葉は予想外に打撃を与えたようだった。
少女は回転を徐々に弱めていくと、その赤い髪を静かに風に揺らしながら、それはそれは静かに言った。
周りの人々は相変わらず回っているのに、僕達の空間だけがまるで揺れぬ水面のように静かになった。
その姿に、僕は少しだけ息をのみ、それから優しく問いかける。
(・∀ ・)「……どうして?」
ノパ听)「どうしてもこうしてもないよ、こうしていれば大丈夫なんだ。当たり前だろ」
(・∀ ・)「その気持ちが僕にはわからないんだ」
- 20: ◆q/GlKnlG6s :2009/01/02(金) 23:38:17.59 ID:qL4TPaYC0
そういうと、少女は心底僕を軽蔑したような目で見て、それから「そうか」、とだけ答えた。
その答え方は、いつか見た、大地になった女性に似ていて、ほんの少し若葉の色を思い出した。
おかしいね、この少女は若葉というよりも、まるで彼岸花のように毒々しい赤なのに。
ノパ听)「お前は、バカだなぁ」
(・∀ ・)「バカですかね」
ノパ听)「バカだ、人に合わせるということを知らない」
それはいえているのかもしれない、よくも悪くも僕は自分とあの人以外を信じていないから。
(・∀ ・)「君、名前は?」
ノパ听)
ノパ听)「ヒート」
少し迷ってから、少女はぽつりと答えた。
その言葉は、この国では"熱量"という意味なのだと、僕は後から知ることになる。
- 21: ◆q/GlKnlG6s :2009/01/02(金) 23:39:42.68 ID:qL4TPaYC0
(・∀ ・)「似合いますね」
ノパ听)「お前は?」
(・∀ ・)「マタンキといいます」
ノパ听)「変わった名前」
(・∀ ・)「僕の信じる神様がくれました」
ノパ听)「よかったな」
どうでもよさそうな口ぶりで、彼女、ヒートちゃんは言った。
僕はちょっとカチンときたけれど、その言葉は合えて聞かなかった風に振舞い
問いかける。
(・∀ ・)「君には?神様っている?」
ノパ听)「いるよ」
なんでもないように言ったが、ちょっとだけ口が綻んだのを僕は見逃さなかった。
(・∀ ・)「誰?」
ノパ听)「お兄ちゃん」
(・∀ ・)「お兄さん?」
ノパ听)「うん、私のお兄ちゃん。大好きなのだ」
- 22: ◆q/GlKnlG6s :2009/01/02(金) 23:40:49.86 ID:qL4TPaYC0
そういう少女の頬が少し赤い。
その姿を見て、僕はなんとなく察してしまった。
ああ、この少女はそのお兄ちゃんとやらに恋しているのだと。
(・∀ ・)「そのお兄ちゃんってどこにいるの?」
ノパ听)「今は知らない、他の国に行っちゃったから。けど、お兄ちゃんが教えてくれたんだ」
(・∀ ・)「何を?」
ノパ听)「回るということは、いいことなんだよって、回っていれば、ヒートはずっと楽しく過ごせるよって」
(・∀ ・)「今はもうこの国にいないのに?」
ノパ听)「そんなことは関係ないんだ、大切なのは、"お兄ちゃん"が、"私"に言った言葉だけ」
そう言う彼女の目の意思は強く、僕は口を挟むことが出来なかった。
また、挟む気も無かった。
彼女の言うお兄ちゃんは、まさしく僕にとっての神様だから、人のことは何も言えない。
言えるのは肯定の言葉だけだ。
(・∀ ・)「………そうだね、君の言うとおりだ」
- 23: ◆q/GlKnlG6s :2009/01/02(金) 23:42:08.76 ID:qL4TPaYC0
ノパ听)「だろう?」
ヒートちゃんはここで初めて嬉しそうに笑う。
(・∀ ・)「うん」
ノパ听)「だから私は回り続けるんだ!」
(・∀ ・)「そっか……」
(・∀ ・)
(・∀ ・)「それは」
(・∀ ・)「いつまで?」
- 24: ◆q/GlKnlG6s :2009/01/02(金) 23:42:45.00 ID:qL4TPaYC0
ノパ听)「死ぬまで」
- 25: ◆q/GlKnlG6s :2009/01/02(金) 23:43:54.03 ID:qL4TPaYC0
そういって、ヒートちゃんはまた回り始めた。
もう僕の方を振り向こうともしない、僕も再び話しかけようとは思わなかった。
それから、少しだけ街の人と話をしたけど、誰も彼も回っているのできちんとした話にはならなかったので
早々に出て行った。
きっと彼らも、死ぬまで回り続けるのだろう、とかそんなことを思いながら。
(・∀ ・)「ふぅ」
*
その後、その国の隣国に行ってみると、そこは殺伐とした街だった。
国の皆がギラギラして、異様な雰囲気を放っている。
どうかしたんですか、と尋ねると、聞かれた男はこう答えた。
('A`)「ああ、あんた隣の国を知っているか? なにやら住人がいつも回っている可笑しな国なんだが」
(・∀ ・)「ええ、知ってますよ」
('A`)「そうか、じゃあ、最近この国では流行病が起こっていることは?」
(・∀ ・)「僕は来たばかりなので……」
- 26: ◆q/GlKnlG6s :2009/01/02(金) 23:45:21.30 ID:qL4TPaYC0
('A`)「なら、早々に出たほうがいい。水分が取れなくなってからからに干からびる病が移っちまうからな。
……つっても、そのうちなくなるだろうが」
男はニタニタと不気味に笑った。
その笑みはどこか狂人を思わせる笑みだった。この国もまた、別の意味で狂っている。
(・∀ ・)「どうしてです?」
('A`)「隣の国さ、怪しいだろ?だから、きっとあいつらがあの変な回り方で俺たちに呪いをかけてるんだよ。
隣の国を潰せば、きっとこの病も治まって、皆安心して暮らせるんだ」
(・∀ ・)「……隣国に攻め込むんですか?」
ニヤァっと、男は笑い、そして頷いた。
('A`)「そうだ、あんな怪しい国、潰してしまった方がいい、文句あるのか?」
その問いに、僕はフルフルと首を振る。
(・∀ ・)「僕はただの旅人ですから」
('A`)「そうだよな、フヒヒ、フヒヒヒヒヒ」
- 27: ◆q/GlKnlG6s :2009/01/02(金) 23:46:31.74 ID:qL4TPaYC0
('∀`)「フヒヒヒヒヒヒッヒヒヒヒヒ!」
(・∀ ・)
(−∀ −)
僕はその国には入らず、そのままそこを立ち去った。
近いうち、隣国の人々は回るのを止めるのかもしれないが
もしかしたらあの少女だけは、死んでも回り続けるかもしれないな、となんとなく思った。
::::::::::::
クリームのようにふんわりとしてなめらかな舌触り。
舐めるとそれは冷たくて暖かく、口の中でしゅわしゅわ溶けていく。
綿飴にも似たよくわからないそれを食べながら、僕はゆったりと寝そべっていた。
- 28: ◆q/GlKnlG6s :2009/01/02(金) 23:47:54.66 ID:qL4TPaYC0
( ・∀・)「……ただいま」
(・∀ ・)「お帰りなさい、神様、どこに行ってらっしゃったんですか」
( ・∀・)「君が帰ってくるのが遅いから、ちょっと向こうで寝ていたんだ」
(・∀ ・)「あまり僕の知らないところで寝ないで下さい。探してしまったじゃないですか」
( ・∀・)「その割にはのんびりしていたようだけど?」
(・∀ ・)「神様は、きっとここに戻ってくると思いまして」
僕は恭しく頭を下げると、彼の傍らに跪いた。
( ・∀・)「……お帰り」
(・∀ ・)「はい」
( ・∀・)「今回はどうだった?」
(・∀ ・)「……何事も、うまくいかないものだと痛感しましたね」
僕がそういうと、神様は含んだ笑いをしながら
ゆっくりと絹糸のような髪に指を通し、退屈さを露にくるくると回した。
- 29: ◆q/GlKnlG6s :2009/01/02(金) 23:48:54.91 ID:qL4TPaYC0
( ・∀・)「当たり前だろうさ」
(・∀ ・)「あの後、国はどうなったんです?」
尋ねると、相変わらずどこまでも見通すような目で、僕を射抜いてくる。
その目に僕の体はぶるり、打ち震え
( ・∀・)「知りたい?」
(・∀ ・)「………いいえ」
それにかぶりを振った。
どうせ、知ったところでどうなるわけでもないのだ。
今回は久々に、国を何個か続けて巡ったせいか、酷く疲れた。
体が気だるく、後から後から眠気が襲ってくる。
僕はそのままそこにしゃがみ込む。
( ・∀・)「……疲れたの?」
(・∀ ・)「……少し」
( ・∀・)「じゃあ、次は人間のいないところに行くといい」
囁くような、声が聞こえる。
深く優しい声、僕の好きな声。
- 30: ◆q/GlKnlG6s :2009/01/02(金) 23:49:28.97 ID:qL4TPaYC0
( ・∀・)「そうすれば、悩むこともないかもしれないよ…」
(・∀ ・)「は……い……」
( ・∀・)「そして、今度はもっと楽しい思いをできるといいね」
(−∀ −)
そうですね、という言葉は続かなかった。
伸びてくる神様の手が僕の頭に触れた瞬間、僕は意識を手放してしまったから。
ああ、次は何処に行ってみようか?
そう、人のいない国へ。
きっと楽しいよ。
怪【カイ】
了
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