(・∀ ・)たった一つのようです

2: ◆q/GlKnlG6s :2009/01/05(月) 22:37:07.53 ID:vU/jIWx50

6:蛾【ガ】



ひらひら

ひらひら

ひらひら

ひらひら、ひらひらひらひらひらひら………

(・∀ ・)「あーーーーーーーーーー……」

それは人間のいない世界
しかし人語を解する蛾がいる世界

僕は今その中心に立っている。
蝶のように華々しくはないが、印象深いその羽をひらひらとはためかせ、彼らは飛ぶ。
その姿はさながら夕闇の中、チュチュを着て踊るバレリーナのように、可憐に、優雅に。
うっとり見惚れてしまうような光景だった。

ぞわぞわとした鳥肌が湧き上がってくるほどに。



3: ◆q/GlKnlG6s :2009/01/05(月) 22:37:55.51 ID:vU/jIWx50

〜( ´_ゝ`)「旅人さんよ、貴方も舞おう」

(´<_` )〜「旅人さんよ、貴方も踊ろう」

ぼんやりと突っ立っていると、茶色が多い印象のその中で
真っ白い羽に少しだけ茶を混ぜたような蛾達が、僕に話しかけてきた。
話を聞いたところ、彼らは双子の蛾なのだという。

幼い頃猛烈な毒で敵を刺すということから、刺す蛾兄弟と呼ばれていたらしい。

( ´_ゝ`)「刺す蛾だよな、俺ら」

(´<_` )「ああ」

そんな彼らも、今では立派に成長して、ひらひらと舞う蛾の一人となった。
僕はなんだか羨ましくなってついつい問いかけてしまう。
それは自分でもどうしようもない気持ちになるような愚問だった。

(・∀ ・)「どうすれば、僕も君達のように飛べますか?」

〜( ´_ゝ`)「なぁに簡単さ、羽をつければ飛べる飛べる」

(´<_` )〜「余裕余裕」

双子の兄弟は軽く言うが、そんな風に羽をつけるなんて、出来るはずもない。
なんせ僕は神様から作られた一介のよりしろに過ぎないんだから。



4: ◆q/GlKnlG6s :2009/01/05(月) 22:38:53.97 ID:vU/jIWx50

軽く首を振ってそれは出来ないことなのだと告げると、兄弟はがっかりしたように顔を見合わせた。
ふわん、とりん粉が中を舞う。

〜( ´_ゝ`)「じゃあ無理だ、諦めろ。美しくなるのは難しいことだ」

(´<_` )「お前もな」

( ´_ゝ`)「え? 弟が冷たい……」

(・∀ ・)「…君達は自分が美しいと思っているの?」

( ´_ゝ`)「え? 旅人も冷たい……なにこれ…」

(´<_` )「無論だ、人はすぐに外見で美しさの優劣を決める」

(・∀ ・)「僕らは皆、単純だから」

( ´_ゝ`)「何このシカトの嵐……」

(´<_` )「故に俺らは美しく振舞うことで、自らの美を自覚するんだ」

( ;_ゝ;)



5: ◆q/GlKnlG6s :2009/01/05(月) 22:39:57.08 ID:vU/jIWx50

刺す蛾兄弟と呼ばれた蛾の、弟の方がキッパリとそう言い放つ。
兄の方はなんだかぼんやりしていたが、その飛び方は弟と対を成していて
話しながらも綺麗なシンメトリーを描いていた。

確かに、人は外見だけで優劣を決めてしまうのかもしれない。
例えその人がどんな性格や、仕草を持っていても、まず決めるのはその外見での第一印象。

しかし、この蛾たちにはそれがないんだ。

(・∀ ・)「羨ましいなぁ」

(´<_` )「何がだ?」

(・∀ ・)「何かはわからないさ」

(´<_` )「おかしい人だ」

弟は笑う。
兄は泣いていたけれど、僕もなんとなく一緒に笑った。
いいなぁ、羨ましい。
僕も、こんな風に誰かと一緒に笑いあったりしてみたかった。



7: ◆q/GlKnlG6s :2009/01/05(月) 22:41:44.90 ID:vU/jIWx50

誰かって………誰と?
そりゃあ、神様とさ。
……神様?いいや、それは違った気がする。
じゃあ、他の誰か?

ばかな、僕に神様以外の誰かがいるものか。

……………。

………僕は一体何を考えているんだろう、人のいない世界に来て、頭がちょっとどうにかしているんだろうか?

その場で大きく息を吸い込むと、なんだか高いところにいった時のように耳がキィンと響いて、
くらくらしてくる。

(・∀ =)「……?」

顔を手で多い、そのまま地面に膝を突いた。

(´<_` )「どうした? 旅人よ」

(・∀ =)「いや、なんだか頭が痛くてね……」

( ´_ゝ`)「ああ、気をつけたほうがいいな、旅人よ、何せここは人はいないが、我々蛾は沢山いる。
       中には毒性の強いものもいるから、長くいすぎると"人"にはよくないかもしれない」

(・∀ =)「そ、そう…」



9: ◆q/GlKnlG6s :2009/01/05(月) 22:42:52.34 ID:vU/jIWx50

復活した兄がこともなげに言ったが、そういうことは早く言って欲しかった。
だが時すでに遅く僕の体はすでに自由がきかない状態にあり、目の前が陽炎のように歪んでいく。
それは回り続けた後のあの感覚に少し似ていて
ぐらり、と体が傾いたと思った瞬間、僕の世界は真っ暗になった。

あぁ、あ、

気持ち悪い。




(= ∀ = )



11: ◆q/GlKnlG6s :2009/01/05(月) 22:44:16.23 ID:vU/jIWx50

・・・・・・・

・・・・

・・




( ∀  )

(つ∀  )「う……」

(・∀ ・) ハッ

(・∀ ・)

(・∀ ・)「あれ? ここはどこ?」

目を覚ますと、そこは真っ黒い暗闇の中。
何の音も聞こえない、自分の声が聞こえるのが不思議なくらいだ。
光の刺さない闇の中で僕は辺りを見回すのだけど、人の姿が全く見えない。

それどころか、生命の鼓動を感じなかった。

(・∀ ・)「どこ?」

返事は無い。



12: ◆q/GlKnlG6s :2009/01/05(月) 22:45:35.08 ID:vU/jIWx50

(・∀ ・)「神様?」

返事は無い。

(・∀ ・)「刺す蛾さん?」

返事は無い。

(・∀ ・)「誰かー」

返事は無かった。

シンとした空間に僕の声だけが虚しく響く。
どうしたものかと思い悩んでいると、闇の先に何かが見えた、アレは一体なんだろう?

(・∀ ・)「………?」

暗闇にぼんやりと浮かぶそれは、人の形のように見えたが、ゆっくり近付くにつれはっきりとした形を成していった。

それは一人の少年だった。
年の頃は外見的には僕と同じくらいだろうか。
どこか悲しそうな瞳でこっちを見ている。
なんで、僕をそんな目で見るのかがわからない。



13: ◆q/GlKnlG6s :2009/01/05(月) 22:46:14.41 ID:vU/jIWx50

(・∀ ・)「……だーれ?」

しかしその少年は何も言わない。
近付いても触れることは出来ず、手はただ闇をすり抜けていく。
どうにもならなくて、仕方なくもう一度問いかけるが、やはり返事は返ってこなかった。

(・∀ ・)「何か言ってくれないかな?」

「…………」

(・∀ ・)「君は誰?」

「…………」

(・∀ ・)「ここはどこ?」

「…………」

しかし少年はやはり何も答えない。

(・∀ ・)「ねぇ」

(・∀ ・)

(・∀ ・)「ねぇってば」



14: ◆q/GlKnlG6s :2009/01/05(月) 22:47:35.39 ID:vU/jIWx50

(・∀ ・)

( ∀  )「おい……」

ナンデ、ナニモイワナインダヨ

(・∀ ・#)「なんとか………言えよっ!」

いい加減鬱陶しくなって、その少年を手で追い払おうとした瞬間
彼の唇が小さく揺れた。

(・∀ ・;)「っ……!?」



15: ◆q/GlKnlG6s :2009/01/05(月) 22:48:00.91 ID:vU/jIWx50







( ,,゚Д゚)「ごめん、な」







……………!?



17: ◆q/GlKnlG6s :2009/01/05(月) 22:48:47.32 ID:vU/jIWx50



・・・・

・・・・・・

・・・・・・・・



(・∀ ・;)「うわぁぁああ!?」

( ´_ゝ`)「ああ、旅人よ、死んでしまうとは情けない」

(´<_` )「落ち着け兄者、死んでない」

(・∀ ・)

(つ∀ ・)「………? あれ……?」

目を覚ますと、そこではさっきと同じように兄弟がひらひらと舞っていた。
僕の上でよくわからないコントを繰り広げながら飛ぶその姿は
さっきの少年のインパクトを一瞬忘れさせるような光景だった。
しかしそれも一瞬のこと。



18: ◆q/GlKnlG6s :2009/01/05(月) 22:50:24.58 ID:vU/jIWx50

(・∀ ・)「僕は一体……」

( ´_ゝ`)「だからいっただろう、長居イクナイ!と」

(´<_` )「ここは我々の住む土地だからな、人が長くいすぎると、良くないものを見たりするんだ」

(・∀ ・)「よくない、もの?」

( ´_ゝ`)「そうだ」

ふわん、と再びりん粉が舞った。
妙に甘い匂いが僕の鼻腔をくすぐったが、ここで話を中断させるわけにもいかない。
くしゃみを我慢して聞き続ける。

(´<_` )「まぁ、人の事情など我々にはわからないが……
       主に思い出したくないものや、恐怖を感じるものを見てしまうと聞いたことがある」

(・∀ ・)「恐怖……?」

それはおかしいな。
だって僕は、あの少年に見覚えはない。
ないはずだ。見たことも無いのに、どうして恐怖を覚えなくちゃいけない?



19: ◆q/GlKnlG6s :2009/01/05(月) 22:54:49.04 ID:vU/jIWx50

それに、僕が怖いと思うもの、喜びを感じるもの、悲しさを覚えるもの、それらすべては神様が対象にあるはずだ
当たり前だろう、だって僕は神様から生まれたんだから。

(・∀ ・)「…あれは、誰だったのかなあ」

( ´_ゝ`)「さあねぇ」

(´<_` )「人のことにあまり興味はないんだ。我々は見ているだけが好きなただの蛾なのでね
       巻き込まれたら敵わない」

( ´_ゝ`)「人はあまりにも色々なものを壊しすぎる、関わりたくないんだよ」

(・∀ ・)「でも……」

( ´_ゝ`)「そんなことよりも食事の時間だ」

(´<_` )「さらば旅人よ、刺す蛾な我らと刹那の時間、楽しんでいただければ幸いだ」

(・∀ ・;)「あ、ちょ」

一体どういうことなのかもっと詳しく彼らに聞こうと思ったのに、兄弟はもう僕の話に
耳を傾けてはくれなかった。
わからなかったのかもしれないし、もう面倒くさくなったのかもしれない。



20: ◆q/GlKnlG6s :2009/01/05(月) 22:56:02.96 ID:vU/jIWx50

僕をその場に残して、彼らはひらひら立ち去ってしまった。
周りには相変わらず無数の蛾が舞っていて、その姿は、不気味で、それでいて酷く美しく見える。


見方を変えれば、醜いものもこんなに美しくなれるのに

どうしてだろう

その光景に、僕はなんだか少しだけ泣きそうになったんだ。






空飛ぶ彼らは優雅にそ知らぬふりをていたけれど。



21: ◆q/GlKnlG6s :2009/01/05(月) 22:57:58.65 ID:vU/jIWx50

::::::::::::::::




( ・∀・)「おかえりー」

(・∀ ・)「た、ただいまです」

突然のお出迎えに、僕はなんだか目線を逸らしてしまった。
よくわからないけど、なんだか後ろめたかったからだ。
どうしてこんな後ろめたい気持ちにならなくちゃいけないのかはわからない。
他でもない神様に隠し事なんてもっての他だというのに。

(・∀ ・)「………」

僕は俯いた顔を上げてちらりと神様の顔を見た。

( ・∀・)「ん?」

相変わらずこの方は美しい笑みを浮かべたままだ、さっき見たあの光景が薄れるほどに、この方は美しい。
オーロラのように七色のカーテンの向こうで微笑む彼は、僕にとっての世界の全てのはずだ。



22 名前: ■q/GlKnlG6s 投稿日: 2009/01/05(月) 22:58:39.86 ID:qE8ToVGH0

僕をその場に残して、彼らはひらひら立ち去ってしまった。
周りには相変わらず無数の蛾が舞っていて、その姿は、不気味で、それでいて酷く美しく見える。


見方を変えれば、醜いものもこんなに美しくなれるのに

どうしてだろう

その光景に、僕はなんだか少しだけ泣きそうになったんだ。






空飛ぶ彼らは優雅にそ知らぬふりをていたけれど。



24: ◆q/GlKnlG6s :2009/01/05(月) 23:00:34.49 ID:vU/jIWx50

(・∀ ・)「…………」

( ・∀・)「押し黙っちゃって、どうしたの?今回の旅は楽しくなかった?」

(・∀ ・)「イエ……」

( ・∀・)「もしかして、よくないものでも見たのかな?」

その言葉に、僕は口をつぐんだ。
噤むつもりなんてなかったのに。

(・∀ ・)「あの、僕はそんな……」

( ・∀・)「冗談だよ」

そういって笑い、神様は立ち上がった。
コツコツと靴の音が波紋のように広がって、眩暈を覚える。
それはあの時意識を失った感覚に似ていて、僕は目を細めた。

(・∀ = )「神様……?」

( ・∀・)「今回の旅は、失敗だったなぁ……」

(・∀ = )「え……?」

( ・∀・)「人に触れさせるのがダメかと思ってたのに、まったくとんだ失敗だ」

この方の言う意味が良くわからない。
僕は目をこすりながら、歪む世界の彼に問いかけた。



25: ◆q/GlKnlG6s :2009/01/05(月) 23:04:52.83 ID:vU/jIWx50

(・∀ = )「それは……一体どういう」

言いかけたところで、唇を指で押さえられた。シィ、と内緒話でもするかのように。

( ・∀・)「忘れるんだ、全部、思い出す必要なんてなにもない」

もう片方の手が僕の頭を撫でてきた、その手はとても優しいもので、僕はいつものようにまどろみの世界へ落ちていく。
落ちる瞬間、神様の酷く悲しそうな顔が見えた気もするけど、それはきっと気のせいだったのだろう。

だって神様は神様だ、この世界の神様でありこの世界の全ては彼の思い通りに運ぶんだから。
暇はあっても悲しむことなんて何も無いはず。

そう思って目を閉じる。
もうあたりは真っ暗闇だ、神様の姿さえ見えやしない。

(−∀ −)





しかし意識が消える最後の瞬間、暗闇の中浮かんできたのは、優雅に舞う蛾の中で佇む、少年だった。

……君は一体、だあれ?



26: ◆q/GlKnlG6s :2009/01/05(月) 23:05:11.82 ID:vU/jIWx50



6:雅【ガ】

            了



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