(´・ω・`)ショボン警部が虚構の城を崩すようです

173: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/01/10(土) 21:02:29.26 ID:LMrzUhjJO

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
201            |202             |203
( ・∀・)川 ゚ -゚)*(‘‘)*  |空き部屋           | ('A`)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
101            |102              |103
( ゚∀゚)           |(-@∀@)           | (,,゚Д゚)(*゚ー゚)



183: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/01/10(土) 21:11:57.19 ID:zsRICkY/0

 −22−

 アサピーは自室で必死に数式を解いていた。いくら勉強しても不安で仕方が無かった。
 受験で合格しても、大学に通えないかもしれない。
 勉強のモチベーションに大きく関わる大事を抱えていたからだ。

 アサピーは相当な努力家だった。
 小学生の頃から勉強ばかりしていた。
 苦労している母親の為に、大学に行き、高給が得られる職に就くのが彼の夢だった。

 勉強と平行してバイトにも精を出した。
 中学生になったら毎朝三時に起き、新聞配達をして回った。
 高校に上がると、週休零日でバイトを始めた。
 全ては苦しい家計の為、護るべき家族の為、障害を持った弟の為、最愛の母親の為だった。

 しかしバイト続きで勉強がおろそかになり、目標としていた国立大学を落ちた。
 滑り止めとして私立大学を受けるようなことはしなかった。
 例え私立に受かっても、とても学費など払えなかったからだ。

 浪人になってからは、バイトは辞めた。
 極貧の生活となったが、もう大学に入れるチャンスは一回限りだったので、賭けてみたかったのだ。



185: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/01/10(土) 21:14:01.37 ID:zsRICkY/0

 一人暮らしにも慣れ、勉強もはかどってきた頃に、母親から涙を流しながら言われた言葉を、
 時々思い出しては、アサピーは胸が潰れるような思いをしていた。
 「大学、諦めてくれないかな」涙で震えた声だった。

 眼鏡のレンズに、涙がこぼれた。
 眼鏡を外し、服で拭う。何日も洗っていない服では、逆にレンズが汚れてしまった。

 共同トイレから、トイレットペーパーを借りてこよう。
 思い立ったアサピーは、玄関へ向かった。
 ドアノブを掴もうとした直前、部屋に呼び鈴の音が響いた。

 嫌な予感がした。全身に鳥肌が立った。
 扉の向こうに、自分じゃどうすることも出来ないような絶望が待っている気がした。
 それでいて頭の奥では、この日、この瞬間を予期していたような、妙な感覚があった。

 ドアノブを回し、扉を開けた。今まで数回話をした警察が、一人で立っていた。

(´・ω・`)「こんばんは。アサピーさん」

(-@∀@)「こんばんは」

 自分の声が震えているのがわかった。
 心の中に無力感が広がり、体の力が抜けていった。



187: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/01/10(土) 21:16:21.06 ID:CcYqyUbF0

(´・ω・`)「鬱田ドクオ殺害容疑で、署まで同行をお願いします」

 アサピーは無意識の内に両手を出していた。
 手錠をかけられると思っていたからだ。

 ショボンは彼の様子を見て、そっと肩に触れた。手錠を出すような仕草は無かった。
 暖かい手だった。開いたドアから、外にパトカーが止まっているのが見えた。
 拭いたレンズが、もう一度涙で濡れてしまった。



189: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/01/10(土) 21:18:01.86 ID:CcYqyUbF0

 −23−

 ショボンは喫煙室で休憩を取っていた。
 アサピーの逮捕後に、次々に検挙していった人物の取り調べに心身共に疲れ切っていたからだ。

 逮捕したしぃ、クー、モララー、ジョルジュ、黒服のアクマの取り調べは、ほとんど流れ作業だった。
 ドラッグのバイヤーであるアクマ以外の取り調べはすぐに終わり、現在進めているアクマの取り調べは
 他の警部に任せることにして、まだ途中であるアサピーの取り調べをショボンが担当していた。

(´・ω・`)「お」

 喫煙室のガラスドアをくぐってきたのは、いつもはいないはずのルカだった。

(´・ω・`)「煙草を吸うようになったのか」

从*゚ -ノリ「吸いませんよ。そんな臭いもの」

 嫌煙者のルカは、鼻先を手で扇ぎ、大げさなリアクションを取った。
 彼女は壁に立てかけられていたパイプ椅子を出し、ショボンの隣に座った。



191: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/01/10(土) 21:19:42.27 ID:CcYqyUbF0

从*゚ -ノリ「ショボンさんからは訊きたいことがたくさんあるんです」

(´・ω・`)「やめてくれ。取り調べの連続で疲れてるんだ。
     その上君から取り調べをくらったら、疲労で倒れてしまう」

从*゚ -ノリ「聞かせてくださいよ。
      どうして202号室でドラッグパーティが行われているって気付いたか」

 ショボンは煙草をもみ消し、腕を組んでルカを見上げた。
 何から話せばいいかわからなかった。

(´・ω・`)「そうだな、結論はドラッグパーティだ。だがそれを話すには過程が必要だ」

从*゚ーノリ「教えてくれるんですか、過程?」

(´・ω・`)「といっても不完全な要素を切り合わせ、推測と一緒に捜査してわかったことだからな。
     うまく話せるかわからんぞ」

 前置きのあと、ショボンは天井を見上げ、事件を最初の方から思い出し始めた。



192: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/01/10(土) 21:21:37.37 ID:CcYqyUbF0

(´・ω・`)「まずアパートの住人が、どうして嘘をついているとわかったか(>>63)」

从*゚ーノリ「勘でしょう」

(´・ω・`)「勘だ。だが勘にも勘なりに理由がある。
     アパートの住人の証言を全て鵜呑みにすると、あの日アパートにはほとんどの部屋に人がいたことになる。
     ジョルジュが空けていた101号室、そして空き部屋の202号室以外は全て明かりがついていたはずだ。
     そんな状況で人殺しを企もうとするかなと思ったんだ。
     普通なら人がいないとき、もしくは他の住人が寝入ったときを狙って犯行を企むだろう」

从*゚ーノリ「でも鬱田ドクオは、寝ているときよりも注意がおろそかになる瞬間があった」

(´・ω・`)「それが絵を描いているときだ。要するに犯行にベストな瞬間とはつまりこうだ。
     ドクオが絵を描いていて、さらに他の住人が出かけている、もしくは寝入っているとき、となる。
     実際アサピーは住人たちが不思議といなくなる金曜日の夜を狙って犯行を行った」

从*゚ーノリ「しかし住人たちは出かけていなかった」

(´・ω・`)「202号室に、しぃとモララー、ジョルジュがいて、ドラッグパーティを行っていた。
     ドラッグが犯罪というのがミソだ。素直に証言をすればアリバイがあったことになる。
     しかし彼らにとっちゃアリバイなんてどうでも良くて、とにかくドラッグをやっていたことを隠したかった。
     自分たちが容疑者なんて自覚が無かったからな。アリバイよりも、我が身を案じて嘘を吐くのを選んだんだよ」



193: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/01/10(土) 21:24:50.81 ID:CcYqyUbF0

从*゚ーノリ「202号室が使われていたのって、いつ気がついたんですか?」

(´・ω・`)「202号室に入ったときからだよ。あのとき押し入れの中に毛布があっただろう。(>>25
     1年前の住人が使っていたものにしては綺麗過ぎたし、臭いもしなかった。(>>25
     それに油絵の臭いが混じってて気がつかなかったが、あの部屋、よく嗅ぐと化学薬品の臭いがするんだ。
     毛布にはちゃんとその臭いが染みついていた。初めて嗅いだときはドラッグとは気がつかなかったが」

从*゚ーノリ「いつからドラッグって気がついたんです?」

(´・ω・`)「それに至るまでにも、またいろいろな過程があるんだ。
     結果的にはあの黒服だな。(>>74)昔ドラッグ関係で逮捕していた男に似てると思って、調査したのが決定打だ。
     顔に入れたタトゥーは消したつもりでも、俺の記憶にはあった。
     クーたちを逮捕出来たのは、あいつのおかげともいえる」

从*゚ -ノリ「クーはモララーのためにドラッグを買っていたんですよね」

(´・ω・`)「そのモララーは、アパートの住人のしぃとジョルジュに横流しして、仲良く乱交ドラッグパーティだ。
     クーが知らなかったというのが、何とも言い難いよ」



203: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/01/10(土) 21:40:10.68 ID:CcYqyUbF0

从*゚ーノリ「あのう、過程も訊きたいんですけど」

(´・ω・`)「まあ、あとになって思い返すことは色々とある。まずはジョルジュだ。
     異様に寒がっていただろう。(>>61)鼻をすすったり、体を震わせたり、瞬きが多かったり。
     全てはドラッグの症状だ。それとしぃ。手の甲に絆創膏を貼っていた。(>>46
     あとで調べてみてわかったが、手の甲に注射の痕があった」

从*゚0ノリ「よく見てますねえ」

(´・ω・`)「ドラッグと気がついたのは黒服の存在からだが、住人たちが犯罪をしていると思ったのはもっと前だ。
     さっきも言ったように、アパートに人が残っているのはおかしい。
     では全員、もしくは複数の人間が手を組んでドクオを殺したのかとも考えた(>>111)が、それだとアリバイが無いのがおかしい。
     手を組んで殺したのであれば、アリバイ工作くらいするのが普通だからな。
     ではドクオ殺害の犯人でもない人間がどうして嘘をつく必要があったか。
     そう考えると、警察にはいえないことをしていたとして、真っ先に犯罪が思いつく。
     そこから他の犯罪があったという仮定をして捜査を始めた」

从*゚ーノリ「怪しい人が多かったですからね」

(´・ω・`)「無職のモララーや、挙動不審のジョルジュなどね。だが僕が最初に疑ったのはしぃだ。
     僕は途中からアサピーが犯人ではないかと目星をつけていた。理由はあとで話そう。
     まずしぃだが、彼女はドクオ殺害において最も邪魔な人間だった。
     侵入経路である103号室の住人だからな」



205: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/01/10(土) 21:44:03.22 ID:CcYqyUbF0

从*゚ーノリ「彼女がいては、あのベランダを使ってよじ上ることが出来ない(>>121)」

(´・ω・`)「事件当日、犯人でないにも関わらず、本当は別の場所にいたのではと考えた。
     そのときすぐに202号室が思い浮かんだよ。
     誰かが使っていた形跡があったし、犯人が何故玄関から逃げたか、説明がつきやすいからね」

从*゚ーノリ「ベランダから出ようとしたら、202号室に人の気配を感じた。
      だから慌てて玄関から出て、廊下から逃げた、でしたっけ」

(´・ω・`)「そうだ。これがベランダと玄関が開きっぱなしになっていた真相だ」

从*゚ーノリ「202号室から指紋が出てきて良かったですね」

(´・ω・`)「のんびりパーティやってたときには警察に調べられるとは思ってなかったろうからな。
     三人の指紋がべたべたと出てきたらしい」

从*゚ーノリ「モララーを疑ったのはそこからですか?」

(´・ω・`)「その前に黒服のことがわかっていたからな。
     むしろモララーとドラッグ、そして202号室の関連性に確信を持ったのがその指紋という訳だ」

从*゚ーノリ「ヘリカルちゃんの証言も、決定的でしたよね(>>148)」



209: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/01/10(土) 21:49:21.69 ID:CcYqyUbF0

(´・ω・`)「小学一年生の証言だから、大きな証拠にはならないが、後押しはしてくれたな」

从*゚ーノリ「ショボンさんの言った通り、モララーから口止めされていましたからね。
     あの後モララーが部屋に居なかったことを」

(´・ω・`)「しかもたいそうなおまけ付きの証言をね」

从*゚ -ノリ「そういえばショボンさん。どうして私が19日にした聞き込みの順番を訊いたんですか?(>>154)」

(´・ω・`)「ああ、あれね」

从*゚ -ノリ「あのときしぃが電話をしていたというのがわかっていたらしいし」

(´・ω・`)「簡単な話さ。モララーは嘘を吐いた。202号室に居たなんて言えないからな。
     あの後すぐにしぃに連絡を取って、とにかく家に居たと嘘をつけと強要したんだ。
     きっと君と同じ発想(>>80)で、下手に外に出たことにすると逆に疑われると思ったんだろう。
     これについては既に裏は取れている。ちなみにモララーはジョルジュにも連絡しようとした。
     しかし電話は繋がらなかった。何故だと思う?」

从*゚0ノリ「電池が切れていた」

(´・ω・`)「そう。ジョルジュが言っていたことだ。(>>59)あのときジョルジュは自分の判断で咄嗟に嘘をついた。
     彼はモララーからの指示を仰げなかった為に、一人だけ外に居たなんて言ってしまったんだ」



211: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/01/10(土) 21:52:16.50 ID:CcYqyUbF0

从*゚ーノリ「じゃあそろそろ……」

(´・ω・`)「んっ?」

从*゚ーノリ「アサピーを疑いだした理由の方を」

(´・ω・`)「そうだな。一番最初におかしいと思ったのはこれだよ」

 ショボンは懐から、一枚の紙切れを取りだした。
 ルカには見覚えがあった。アサピーの部屋にあった宝くじの券の一部だ。(>>39

(´・ω・`)「手袋を買うことさえ躊躇する(>>106-107)彼が、どうして宝くじなんて買うのか。
     ちょっと考えたらすぐに推測出来た。これは大金を手に入れたことを誤魔化す為のくじだとね」

从*゚ーノリ「ドクオの金庫から手に入れた金を、宝くじの金と言って親に渡すつもりだったらしいですね」

(´・ω・`)「そこでアサピーが犯人だと仮定して捜査を進めた結果、他の三人のアリバイが確立された」

从*゚ -ノリ「アリバイというか、犯罪というか」

(´・ω・`)「侵入経路の謎も解けた。残るは確固たる証拠だけだった。これはかなりの賭けだったよ」



212: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/01/10(土) 21:55:19.76 ID:CcYqyUbF0

从*゚ーノリ「アサピー逮捕は私のお手柄じゃないですか?」

(´・ω・`)「そうかもしれない。
     君が侵入経路の実験をした日、怪我をしてくれなかったら、この事件はもう少し難航していただろう」

从*゚ーノリ「あの金属片から血液反応が出なかったらアウトでしたね」

(´・ω・`)「赤さびかと思っていた(>>96)のが血だったなんてね」

从*゚ーノリ「アサピーが手に怪我をしているのを見抜いたのはいつなんです?」

(´・ω・`)「全くの思いつきに近いよ。
     実験の日に傷だらけになった君を見て、もしかしたら犯人は怪我をしているかもしれないと思った。
     そのあと、そういえばアサピーの手袋が破けていたなと思い出したんだ。(>>106)
     犯行時にその軍手を使っていたとして、怪我をしているのは手だと当たりをつけた」

从*゚ーノリ「ショボンさんが変な質問をしてきて、何事かと思いましたよ」

(´・ω・`)「何て言ったっけ」

从*゚ーノリ「『19日の聞き込み、および20日の聞き込みの際、アサピーは手をポケットに入れていたか?』です」

(´・ω・`)「そうだ。君が覚えていてくれたおかげで血液反応検査に踏み込む勇気が出た。
     最初は態度が悪いな、程度に思っていたんだが、ポケットに手を入れていたのは傷を見られたくなかったからだ(>>38)」



216: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/01/10(土) 21:58:39.31 ID:CcYqyUbF0

从*゚ーノリ「アサピーに関しても、ヘリカルの証言が出てきますね」

(´・ω・`)「ああ。まさか彼女が父親が居ないことに気がついて、ドアの前で待っていたなんてな。
     覗き穴で外を覗いているときにアサピーを見たと聞いたときは、本当に驚いたよ。
     彼女は父親がいないとき、よくそうしていたようだな。
     僕が家に聞き込みにいったときも、同じようにしてモララーを待っていたんだろう。(>>151
     ドアを開けたのはクーじゃなくて彼女だった(>>26)」

从*゚ーノリ「でもアサピーにトイレにいっていたって言われたら、その証言も大した効果はありませんでしたね」

(´・ω・`)「アサピーは一階だから、一階の共同トイレを使うはずだろう。それに忘れたのか?」

从*゚ーノリ「はい?」

(´・ω・`)「二階のトイレはボヤ騒ぎ(>>2)があってから、使えなくなっていたんだ」

从*゚0ノリ「あぁ、そういえば」

(´・ω・`)「君は人間の言動と文字情報以外は覚えられないのかい」

从*゚ーノリ「あはは……」



217: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/01/10(土) 22:00:40.23 ID:CcYqyUbF0

(´・ω・`)「202号室に人がいたこと。金属片で怪我をしたこと。ヘリカルが見ていたこと。
     アサピーにとっては、不運の連続だったな」

从*゚ーノリ「住人たちが嘘をついていなかったら、逮捕は早かったんじゃないですか」

(´・ω・`)「相当早かったと思うよ。実際にアリバイが無いのは彼一人なんだから。
     嘘で塗り固められた証言のせいで、見抜くべき嘘が隠れた。
     嘘を隠すのは嘘の中っていうことかね。
     まあ、真実っていうの暴いてみれば一番シンプルでわかりやすいものなんだよ」

从*゚ーノリ「心に留めておきます」

 ショボンは時計に目を落とした。
 少しのはずだった休憩が思ったよりも長引いてしまっている。

(´・ω・`)「アサピーの取り調べがまだ終わっていない。戻るぞ」

从*゚ーノリ「はい」

 二人は立ち上がり、喫煙室から出て行った。
 最後の取り調べが始まろうとしていた。



218: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/01/10(土) 22:03:06.16 ID:CcYqyUbF0

 −結−

 アサピーの取り調べはスムーズに進んでいたが、動機の部分でいつも詰まっていた。
 彼は毎日の勉強のせいでノイローゼにかかっていた。
 病んだ精神が起こした犯罪といって片付けるのは簡単だったが、
 もっと芯の深い部分に動機があると見て、ショボンは取り調べをしていた。

(-@∀@)「ドクオさんは、いつも自分のことを天才だと言っていました」

 厳しい追及をしても無駄だろうと思ったショボンは、粘り強く話し続けることにした。
 彼の努力は、今日やっと実を結ぼうとしていた。
 ぽつり、ぽつりと語り出した内容は、ショボンが初めて聞くものだった。

(-@∀@)「自分は才能のある人間だと。認められた人間だと。
      いつも僕に言ってきました。金は腐るほどあるとか、そういうのも」

(´・ω・`)「ああ。そういう人だったと聞いている」

(-@∀@)「ちゃんちゃらおかしい。あんなやつに才能なんてあるわけが無い。
      でも金庫の話は本当のようだったんです。あの中には相当な額が入っていたはずです」

(´・ω・`)「それはドクオさんから?」

(-@∀@)「はい。はっきりと聞きました」



221: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/01/10(土) 22:05:06.98 ID:CcYqyUbF0

(´・ω・`)「大学受験の為の資金にしようとしたんだよね」

(-@∀@)「はい。わざわざ宝くじを買って、偽装の準備までしたけど、失敗しました。
      十枚の宝くじ、3000円もしたのに」

(´・ω・`)「ドクオさんが、憎かった」

(-@∀@)「はい。だっておかしいでしょう。あの道楽ジジイに金があって、僕には無い。
      おかしいんですよ。僕は中学生になってから三時間以上眠ったことはありません。
      普通の人間が遊んだり眠ったりするときに、バイトか、勉強か、内職をしていました。
      それでもお金は無かった。お母さんはいつも汚い服で工場に仕事に行っていた。
      僕のお母さんは、言っちゃ悪いけど、頭が良くないです。
      だから手取りも安い、そういう場所でしか働けなかった。
      でもお母さんは骨と皮になるまで必死に働いていました。
      僕も働いた。死ぬつもりで働いて、死ぬつもりで勉強しました。今まで、ずっと」

(´・ω・`)「辛かったろう」

(-@∀@)「とんでもない。僕にとって、生きるとはそういうことなんですよ。
      それをあいつは、こういった。努力は才のない人間のあがきに過ぎないって。
      悔しかった。憎かった。僕は成功すべき人間だ。
      大学に行って、良いところに就職して、親孝行をするんだ」



222: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/01/10(土) 22:06:27.36 ID:CcYqyUbF0

(´・ω・`)「ならどうしてこんなことを」

(-@∀@)「金が欲しかった。これが理由の半分です。大学は反対されていました。
      金が無いから。でもこれで大学受験の足しになれば、大学を許してもらえるかもしれないと思った。
      残りの半分は、憎かったからです。せっかく親戚の人に勉強場所を無料で提供してもらえたのに、
      あいつは毎日油絵を描いて、悪臭をそこら中に振りまくんだ。
      勉強に専念しようとした一年を、やつは潰した。見事なまでにぶっつぶした」

(´・ω・`)「大家に言えば良かっただろう」

(-@∀@)「無駄なのをわかっていたんです。
      僕以外にも住人がいて、その住人が大家に文句を言っているはずですから。
      それに部屋を貸してもらっている手前、そんなことを僕が言えるはずないじゃないですか」

(´・ω・`)「しかし」

(-@Д@)「うるせえな」

 アサピーの口調が変わった。

(-@Д@)「金だっつってんだろ。金だよ。金が無いと人は死ぬんだよ」

 腹の底から悪意をはき出そうとしているような声だった。
 ショボンは悟った。アサピーが憎んでいるのは、ドクオではなく、自らの境遇なのだと。



224: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/01/10(土) 22:08:25.74 ID:CcYqyUbF0

(-@Д@)「金が無いと幸せにはなれねえんだ。何も出来ない。大学にも行けない。
      仕事にも就けない。三食飯を食べることも出来ない。布団はあっても毛布は無い。
      枕は無い。ティッシュペーパーも買えない。本はほとんどもらい物。
      でも本を置く本棚は買えない。爪切りは無い。ハサミで切るしかない。
      ハサミももらい物。眼鏡ももらい物。度が合ってないから視力を合わせるしかない。
      服は一着しかない。下着も靴下も靴も。臭くなったらシンクで洗うんだ。
      全裸になって、部屋の中でじっと乾くのを待つんだ。
      友達は出来なかった。貧乏がコンプレックスだった。
      中学生のとき、好きだった人に臭いって言われた。みんなから笑われた。
      僕も笑った。愛想笑いだ。愛想はタダだからな。よくやってるよ。
      僕には何も無い。無いんだ。何も無い。金が無いからだ。だから殺した。
      金を持ってるあいつを殺した」

(´・ω・`)「……」

从*゚ -ノリ「……」

(-@Д@)「金はしかるべき所にあるべきだ。あいつじゃない。僕が持っているべきなんだ。
      努力する人間のところに無いと駄目なんだ。ねえ、そうでしょう刑事さん。
      僕は努力しましたよね? 死ぬほど努力したんですけど、まだ駄目でしたか?」



225: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/01/10(土) 22:10:37.51 ID:CcYqyUbF0

(´・ω・`)「君の努力は報われるべきだった」

(-@Д@)「そうでしょう。普通の人間が一生にやる努力を既にやったと思う。
      これで幸せになれないなんておかしい。おかしいんだ。狂ってる。
      僕は狂ってない。あいつが死んだのは必然だ。僕は当然のことをやったんだ。
      金は必要なやつが必要な分だけ持っていれば良いんだ。だから、あの金庫を」

(´・ω・`)「アサピー君。あの金庫の中身、知っているかい?」

(-@Д@)「金だろ」

(´・ω・`)「違う」

 ルカは手で口を覆った。出来れば、アサピーには伝えて欲しくなかった。

(´・ω・`)「あの中には、写真が入っていた」

(-@Д@)「しゃしん?」

(´・ω・`)「写真だ」



228: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/01/10(土) 22:12:22.66 ID:CcYqyUbF0

(-@Д@)「写真」

(´・ω・`)「ああ。写真だ」

(-@Д@)「金は」

(´・ω・`)「一円も入っていなかった。入っていたのは、ドクオさんの妻の、生前の写真だった」

 「おおおおおおおお!」獣のような声を上げ、アサピーはショボンに掴みかかった。
 取調室にいた警察官二人がアサピーを止めようとしたが、それをショボンは制した。

(-@Д@)「金は!?」

(´・ω・`)「嘘だったんだ。大金なんて無かったんだ」

(-@Д@)「糞ジジイ! 糞が! 糞が!」

(´・ω・`)「しかし、彼にとっては金に代えられない価値があったのかもしれない」

(-@Д@)「金より価値がある!? ふざけんな! 糞が! 糞が! 糞が! 糞が! 糞が!」

 アサピーは壊れた人形のように叫び続けた。
 瞳孔が広がった目は真っ赤に充血し、噛みしめた唇からは血が滴り落ちていた。



231: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/01/10(土) 22:13:55.95 ID:CcYqyUbF0

(´・ω・`)「ものの価値なんて、人によって違うものなんだ」

(-@Д@)「糞が! 糞が! 糞が! 糞が! 糞が! 糞が! 糞が!」

(´・ω・`)「君にだって、何ものにも代えられない大切なものがあるだろう」

(-@Д@)「糞が! 糞が! 糞が! 糞がぁ! ちくしょう! 糞! 糞!」

(´・ω・`)「君は言ったね。金はしかるべき所にあるべきだと」

 ショボンはコートから、宝くじの券を一枚取り出し、机の上に置いた。
 アサピーは焦点の合わない目で、券を見下ろしていた。

(´・ω・`)「君の買ったくじ、当たってるんだ。一等の1億円が」

 取調室にいた警官が小さく息を吸い込むのが聞こえた。



239: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/01/10(土) 22:17:51.65 ID:683EXuWp0

 アサピーは微動だにせず、券を見つめていた。

(´・ω・`)「君の努力は、きっと1億なんていう価値では無いだろう。
     それこそ、金には代えられないものだ」

 アサピーは動かない。正確には、動けなかった。
 膨大な量の感情の渦が、嵐のように体を駆け巡っていた。

(´・ω・`)「このお金、どうしたい? 君のお金だ。君が掴み取った幸せのかけらだ」

 ショボンは黙って俯いたままのアサピーの返事を待った。
 まるで永遠のような沈黙だった。

 取調室に、すすり泣く声が聞こえた。アサピーだった。
 全く同じ体勢のまま、大粒の涙を流していた。

 同室の警官たちは、必死に涙をこらえていた。
 ルカは努めて無表情になろうとしていた。目元にはこぼれそうな涙のしずくが溜まっていた。

 「お母さんに……」聞こえたのは、か細いアサピーの声だった。
 ショボンは力強く「わかった」と答えた。



240: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/01/10(土) 22:18:22.19 ID:683EXuWp0






 ショボン警部が虚構の城を崩すようです −了−






248: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/01/10(土) 22:20:16.42 ID:683EXuWp0

 −終2−

 取調室を出たショボンは、報告書を纏める為に捜査一課の本部に向かった。

从*゚ -ノリ「ショボンさん」

 廊下を駆けてきたルカに、ショボンは振り返った。

从*゚ -ノリ「ショボンさんが警部でいる理由、わかった気がします」

 ショボンは何も答えなかった。
 ルカの瞳に新しく宿った何かを、見つめ続けていた。

从*゚ -ノリ「真実を見つけること。これが警察なんでしょう」

(´・ω・`)「違う」

从*゚ -ノリ「えっ」

 ショボンは踵を返し、歩き出した。

(´・ω・`)「暴くだけならロボットでも出来る。大切なのはその先にあるものだ」

 遠ざかっていく背中をぼうっと眺めていたルカは、はっと意識を取り戻し、
 「もう置いてけぼりはさせませんから!」とショボンに向かって走り始めた。



249: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/01/10(土) 22:20:58.36 ID:683EXuWp0

登場人物紹介  【AA名】

ショボン警部 【ショボン】
ルカ警部 【橘ルカ】

アサピー 【アサピー】

鬱田ドクオ 【ドクオ】
モララー 【モララー】
クー 【素直クー】
ジョルジュ 【ジョルジュ長岡】
しぃ 【しぃ】
ギコ 【ギコ・ハニャーン】
ヘリカル 【ヘリカル】

アクマ 【悪魔】※特別出演
デミタス 【盛岡デミタス】



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