从'ー'从は死神のようです
- 4: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/04/12(日) 20:10:14.18 ID:rE6u3h8cO
最終話「決着」
- 5: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/04/12(日) 20:11:48.50 ID:rE6u3h8cO
- 先に目覚めたのはツンだった。
起きる時刻を設定された携帯のアラームが鳴る五分前。
しっかり者のツンらしく、
寝坊とは無縁の生活を送っていることが見て取れる。
ξ゚听)ξ「そろそろ起きなさい、ブーン。
あ、先に着替えるから、やっぱまだ寝てていいわ」
( ^ω^)「ん、起きた起きたお。
起きたけど、気にせず着替えてていいお」
すぐさま目を覚ましたブーンだが、
すでに制服に着替え終わっているツンを見て騙されたことを知った。
ξ*゚ー゚)ξ「作戦成功。眠気より色香、団子より夢の世界より花ね」
子供みたいな無邪気な笑顔は、確かに魅力的な花を思わせた。
( ^ω^)「むぅ、ブーンとしたことが。
まぁ、学校に行く前にやらなきゃならないことあったし、早く起きて損はないお」
- 6: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/04/12(日) 20:13:15.61 ID:rE6u3h8cO
- ξ゚听)ξ「やることって? あ、綾子ちゃん?」
( ^ω^)「うむ。昨夜襲われたかどうかの確認と、幼馴染みくんの性格やら行動やらを聞いてプロファイリングしとくお」
ξ゚听)ξ「ブーンが詳しいのは犯罪知識だけじゃないってことを見せ付けてあげなきゃね」
(;^ω^)「……若干、言葉にトゲがないかお?」
ξ゚听)ξ「そう? トゲしか含まない言い方したつもりだったんだけど」
トゲばかりか、毒まで塗りつけられている感じではあった。
- 7: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/04/12(日) 20:15:25.90 ID:rE6u3h8cO
- ( ^ω^)「とりあえず、渡辺さんに話聞きたいんだけど、
絶対寝起き悪いお、あの天然娘」
ξ゚听)ξ「悪いっていうか、悪どい気がする」
( ^ω^)「ツンは思考が毒されてるからだお。
でも、寝起きが悪どいって表現はなかなかだお」
ξ゚ー゚)ξ「でしょ? 寝起きキチガイでもいいけど。
とにかく、私は起こしに行くの嫌だからね」
( ^ω^)「言うと思ったお。ここはブーンにお任せあれだお」
ξ゚听)ξ「よろしい。すぐに余の前に連れてまいれ」
( ^ω^)「ははあ! ちょっとハンガー借りるお」
変な小芝居を演じてから、ブーンはクローゼットから使っていないハンガーを持ち出して窓に向かった。
怪訝そうな顔をするツンを横目に、窓を開けて体を思いっきり伸ばす。
そうしてブーンは、手の先のハンガーを器用に操って自分の部屋の窓ガラスを開け放った。
- 8: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/04/12(日) 20:16:26.95 ID:rE6u3h8cO
- ξ゚听)ξ「……そうやって、いつも私の部屋の窓を開けていたわけね」
( ^ω^)「危険なので、良い子は気をつけてくださいお」
ξ゚听)ξ「真似はしてもいいのか」
( ^ω^)「ヒーローの真似をして育つのが子供ってもんだお」
ξ゚听)ξ「不法侵入を試みるヒーローなんて絶対やだ」
相変わらず、ごもっともな指摘だった。
- 9: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/04/12(日) 20:18:14.31 ID:rE6u3h8cO
- ( ^ω^)「ちょっと秘密兵器取ってくるお!」
そう言い残したブーンは部屋を出て階段を下りていった。
( ^ω^)「ただいま! これでばっちりだお!」
戻ってきたブーンは、その手に色のついたビニール袋を持っていたが中身までは見えなかった。
( ^ω^)「じゃ、ちょっと悪戯してくるお、ハァハァ」
疑問符を顔に浮かべるツンを無視し、さっそく慣れた様子で窓から窓へ飛び移った。
見事な着地を見せ、ブーンにとっては見慣れた雑然とした自室の壁側に鎮座するベッドへと向かう。
そこには、予想するに容易い光景が広がっていた。
布団を蹴り飛ばした体勢のまま悠々とスペースを使いきる寝相、
見慣れないパジャマであっても服はめくれていて今時流行りのへそ出しルック、
可愛らしい顔なのに口と目が半開きのアホ顔を晒している。
- 11: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/04/12(日) 20:20:08.10 ID:rE6u3h8cO
- ( ^ω^)「ふっふっふっ、どの程度の時間我慢できるかお?」
意地悪い笑みを浮かべながら、例のビニール袋から何やら取り出した。
秋の味覚、秋刀魚現る。
生臭さ全開の秋刀魚の尻尾を持ったブーンは、迷うことなく渡辺の鼻先へ持っていった。
1、2、3、4、5――
枕元に置かれた目覚まし時計だけが部屋に響く。
6、7、8――
从;;つД'从「――生臭っ!!!」
悪臭に耐えかねた渡辺は、文字通り飛び起きた。
从;'―'从「え、何、臭っ!」
( ^ω^)「おはようだお、渡辺さん。
久しぶりのベッドで、いい夢見れたかお?」
喉を込み上げる何かを堪える渡辺に、何事もなかったかのように問う悪魔の如き少年。
- 12: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/04/12(日) 20:22:09.46 ID:rE6u3h8cO
- 从;'ー'从「あ、悪夢です悪夢! 暗殺者に襲われる夢を見ました!
その暗殺者ってのが、私の口に無理矢理魚を突っ込んで窒息死させようとして、
その生臭さと息苦しさで死ぬ寸前でした!」
( ^ω^)「ずいぶん個性的な暗殺者だお。
嫌な結末を迎える前に起こしてやったブーンに感謝しろお」
もちろん、先ほどの秋刀魚はすでにビニールにしまわれた後だった。
从*'ー'从「なんだか魚が苦手になっちゃいそうな悪夢でしたけど、
ブーンさんのおかげでトラウマにならずに済みました!
ありがとうございました!」
( ^ω^)「どういたしましてだお! 魚だけにギョッとする悪夢だったお」
从;'ー'从「臭っ! 今度は親父臭です!」
渡辺の過激な突っ込みによってブーンは意気消沈してしまった。
部屋の隅で体育座りを始めたブーンの機嫌を直すのに、およそ10分かかった。
- 13: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/04/12(日) 20:24:13.63 ID:rE6u3h8cO
- 从'ー'从「ところで、わざわざ起こしたってことは何か用があるんですか?」
( ^ω^)「くだらない親父ギャグしか言えない蝿みたいな脳みそで、渡辺さんに比べたら塵芥にも等しい非才の身なれど、
僭越ながらこのブーンめが用があるなんて大変おこがましいのですが、姫がお待ちですので呼びに参りましたお。
逆らったりしないでご足労願うお」
从;'ー'从「ブ、ブーンさん?」
( ^ω^)「ブーンごときに畏くも『さん』を付けてくださるなど身に余る光栄だお。
空の女神の寵愛に包まれている気分だお。
でも、とりあえずご足労願うお」
从;'ー'从「は、はい」
( ^ω^)「あ、ありがたき幸せ! ブーンごとき鈍物の言うことを聞いてくださるなんて天罰がくだるお。
それじゃ行くお」
なんだか妙なテンションのブーンに圧倒された渡辺は、
一足早く「とぅっ」と窓枠を蹴ったブーンに続き、「とぅっ」と真似をして飛んだ。
きちっとジャンブを成功させるブーン、一歩遅れて渡辺が着地――
- 14: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/04/12(日) 20:26:17.61 ID:rE6u3h8cO
- するわけもなく、高く飛びすぎて頭を窓枠上部に打ち、
勢いを失って窓枠下部にお尻を打ち、
前のめり状態のまま顔から床に着地して見せた。
ξ゚听)ξ「早かったわね、ブーン。
どんな手を使って起こしたわけ?」
( ^ω^)「おっおっ、これを鼻先に。
後で冷蔵庫に戻しといてくれお」
何事もなかったかのようにツンとブーンは話し始めた。
渡されたビニールの中身を見たツンは、無言で顔をしかめて渡辺に同情の視線を向けた。
その哀れ死神少女といえば、頭やらお尻やらをさすって「痛みよ消えろ、ケアルガ!」とかやっている。
MPの無駄遣いもいいとこだ。同情の眼差しは強まった。
ξ゚听)ξ「それにしても、メイド服姿を見慣れてるから、
パジャマ姿が似合わなく感じるわね。寝癖全開だし」
( ^ω^)「ブーンも思ったお。ボタン掛け間違ってるし」
パジャマ姿の渡辺に対し、二人は好き勝手にコメントした。
- 16: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/04/12(日) 20:28:44.72 ID:rE6u3h8cO
- ξ゚听)ξ「だらしないわね。
ほら、胸元見えちゃうからブーンに見られないように直しなさい」
( ^ω^)「まな板には興味ないから堂々と直していいお。
ちょ! ツンのことじゃないお!」
ξ゚ー゚)ξ「……誰も何も言ってないけど、私の胸もまな板って言いたいのかしら?」
(;^ω^)「嘘ですごめんなさい。
ツンはレモンくらいは実ってるお!」
ξ゚ー゚)ξ「小さいことは変わりないって言いたいわけね」
( ^ω^)「だから、揉んでパイナップルくらいにしてやるお」
ξ゚听)ξ「大きいけど、いびつで魅力的とは言えないわ、それ」
あまりいい表現ではないのは確かだった。
( ^ω^)「パイだけにパイナップルって言ったら蝿を見る目で見られそうだから、
さっそく渡辺さんへの尋問を始めるお、サー!」
ξ゚听)ξ「そうして」
司令官のツンに軍隊式の敬礼を一つ取ってから、ブーンは死神少女に向き直った。
- 17: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/04/12(日) 20:30:22.53 ID:rE6u3h8cO
- ( ^ω^)「さて、ブーンはともかく、我らが司令官は気が長いほうじゃないお。
さっさと話してもらうお」
从'ー'从「何をですか?」
( ^ω^)「アレだおアレ。
ほら、軽くアメリカンジョークでも交えつつ話してみるお」
从'ー'从「……HA。あれは私が公園暮らしを始めて一週間も経った頃の話でーす」
頭のネジが二、三外れている渡辺がブーンの言葉をどのように捉えたのかはわからない。
从'ー'从「公園にはお風呂がありませんから、
たまに水道でタオルを濡らして体を拭いたりしてたんですけど、
やっぱりお風呂に入りたくなっちゃったんでーす」
ξ゚听)ξ「あ、やっぱり女の子なんだよね、綾子ちゃんも」
同じ女の子として、ツンは同情と哀れみの眼差しを向けた。
从'ー'从「そこで、人間には私の姿が見えませんからこっそり銭湯に入ることにしたんですけど、
せっかくだからメイド服も洗うことにしましたでーす」
- 18: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/04/12(日) 20:32:20.15 ID:rE6u3h8cO
- ξ゚听)ξ「どうしよう、ブーン。オチが見えたわ」
( ^ω^)「おっおっ、ブーンもだお。でもどこがオチかは聞いてはいけないし、
答えてもいけないって決まりがあるんだお。
まさか、メイド服のまま入れば一石二鳥とか蝿並の脳みそで考えて、
着替えを用意してなかったなんてしょぼいオチがあるわけないお」
ブーンの言葉を聞いて明らかに動きの止まる渡辺。
( ^ω^)「おっおっ、こっちの話だから気にせず最後まで話してくれお」
从;'ー'从「うぅ……そんなこと言われても……」
ξ゚听)ξ「まさかオチ言い当てちゃったってことはないわよね?」
从;'ー'从「……HA。当たり前でーす! 着替えを用意してなかったんですけど、
乾かす方法をとっさに思い付いて実行したんでーす!」
( ^ω^)「して、その方法とは?」
从*'ー'从「服を着たまま入らないでください、
って注意書きをしてなかった銭湯の責任ですから、
放火してその炎で服を乾かしましたでーす!いっつあ、あめりかんじょーく!」
- 20: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/04/12(日) 20:34:19.73 ID:rE6u3h8cO
- 一週間前。
この街で最も背の高い建築物、商店街の中ほどにある銭湯「武蔵湯」が突如として燃え上がった。
番台にいた素直空三十二歳独身の証言では、
「何もない場所からいきなり火が出た。
心臓が飛び出したが無視して、
慌てて男湯に入って大声を出したら誰もいなくて恥ずかしかった。
苛ついたから女湯の客は放置した」
と語っている。
女湯を後に調べたところ、何故か男性客と思われる焼死体が見つかった。
男性の遺族は、
「女湯にいた息子の思考がわからない。親として恥ずかしいです」
と泣きながら訴えている――
男性客 ブーム(36) ニート
- 21: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/04/12(日) 20:35:52.66 ID:rE6u3h8cO
- ξ;゚听)ξ「……予想を超えた展開にお姉さんびっくり」
(;^ω^)「先週の放火事件は渡辺さんの仕業かお。
ちょっと警察の人とお話したくなったから行ってくるお」
从;'ー'从「わわわっ! 内緒にしといてください! 私、まだ捕まりたくないです!」
( ^ω^)「いや、犯罪行為を犯したら罪を償うのは当然ののことだお。
善良な市民としては、通報せざるをえないお」
ξ゚听)ξ「法に抵触する行為を平然と行うブーンのセリフではないけどね」
まったくもってツンが正しい。女神かもわからない。
ξ゚听)ξ「無駄話はもういいから。
早く用事済ませて学校行かないと遅刻するわよ」
( ^ω^)「それもそうだったお。そろそろ単位がやばいから、
今日は真面目に行かなきゃいけないお」
こほん、と咳払いをしてブーンは思考を切り替えた。
- 22: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/04/12(日) 20:37:54.86 ID:rE6u3h8cO
- ( ^ω^)「時に渡辺さん。
昨日寝てる時にショボちゃんが夜這いしに来なかったかお?」
从;'ー'从「なななんで知ってるんです!?
そうです! ショボちゃんに猫耳を襲われました!」
( ^ω^)「寝込みだお。猫耳属性に手を出す前に、
世のため人のためにドジっ子属性を捨てろお」
从'ー'从「寝込みとも言うんですね! メモメモ……」
( ^ω^)「そうとしか言わねーお。
まぁいいお、だとしたら予想通りだお」
あっさりと行動予測されたばかりか、罠を張られ回避されたのだ。
たかが人間にしてやられたとあっては、優秀な死神としてのプライドをずたずたに傷付けられた結果となったことだろう。
( ^ω^)「冷静さを失えば失うほど、行動予測は容易いお」
ξ゚听)ξ「例えば、今その幼馴染みくんが何してるかとかわかるわけ?」
ツンの問いに当然だと言わんばかりに頷くブーン。
( ^ω^)「十中八九、ブーンの家の前にいるはずだお」
ξ゚听)ξ「自信満々ね。いつものことだけど」
- 25: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/04/12(日) 20:39:23.25 ID:rE6u3h8cO
- ( ^ω^)「すぐにでもブーンに復讐したい、でも渡辺さんには頭が上がらないショボちゃん。
再度踏み込んで渡辺さんに聞き出したくても聞き出せなくて、
イライラとブーンの帰宅を待つ気満足――ってとこだお」
ξ゚听)ξ「なるほど? 家にいないとしても、学校に行くには制服に着替えたり、
教科書を用意したりするために家に帰るはずだ、って考えてるわけね」
( ^ω^)「そういうことだお。
一先ず、こっちのペースに巻き込むことには成功してるわけだお。
問題は、ここからどうやって相手の行動を防ぐか、だお」
ξ゚听)ξ「? 昨日の作戦じゃダメなの?」
例の渡辺さん人質作戦についてツンが言及した。
( ^ω^)「いや、あれも手の一つだお。
けど、根本的な解決策にはならないお」
ξ゚听)ξ「まぁそうね。毎日連れ歩いてるわけにもいかないし」
( ^ω^)「そこで、ショボちゃんのことをもっとよく知って
諦めさせる方法を考える必要があるわけだお」
- 26: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/04/12(日) 20:42:11.25 ID:rE6u3h8cO
- 从'ー'从「私に聞きたいのは、ショボちゃんについてですか?」
話の半分以上は理解出来ていない表情を浮かべていた渡辺だが、自分の関わる要点くらいは把握できたようだった。
( ^ω^)「幼馴染みなら、ショボちゃんについてkwsk!」
从'ー'从「kwsk……?
k=コルト・ガバメント
w=ワルサーP38
S=スミス&ウェッソン
k=コルト・シングル・アクション・アーミーですか?」
( ^ω^)「……誰が拳銃を答えろって言ったお。
それに、コルトの頭文字はCだお」
天然ボケを前にしては、やはりブーンも突っ込みに回るしかなかった。
ξ゚听)ξ「ブーン、綾子ちゃん相手じゃ話進めるのも大変だから、
学校まで連れていくわよ。遅刻はしたくないでしょ?」
時計を見れば、朝食を取る時間を削るか削らないか、といった瀬戸際の時間帯だった。
( ^ω^)「むぅ、これだから天然は」
話の大半をこじれさせた主犯だというのに全てを天然のせいに仕立て上げ、
ブーンは一先ず尋問を先延ばしすることにしたのだった。
- 27: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/04/12(日) 20:43:53.40 ID:rE6u3h8cO
- 結論から言えば遅刻はしなかった。
遅刻はしなかったが担任に出欠を確認させたら授業そっちのけで屋上に向かうのだから、
学校に通うという意義があるのかは微妙なところだ。
( ^ω^)「さて、忙しい中集っていただいたのは他でもない、
世間を賑わせている『ツンデレ』についての議論を行いたいと思った次第だお」
ξ゚听)ξ「そんな議論するなら帰るわよ?」
場に集まったのは、仕方なく授業をサボってきたツンと、無理矢理連れてこられた渡辺の二人だ。
( ^ω^)「さすが大御所、さっそくツンツンして見せてくれたわけだお。
だけど、果たしてそれは正しくツンツンなのかどうかが今日の論点だお」
ツンを無視してさっそく意味不明の議論を繰り出すブーン。
- 28: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/04/12(日) 20:45:58.80 ID:rE6u3h8cO
- ( ^ω^)「知っての通り、『ツンデレ』はツンツンした態度とデレデレした態度を併せ持ったキャラを指すわけだけど、
比率が一対一でない場合も当然出現してくるわけだお」
ξ゚ー゚)ξ「……続けなさい」
( ^ω^)「つまり、正しいツンデレキャラを作るには、比率を一対一にするのが恐らくこの場合の黄金比率であり、
ツンツン要素が多かったり、また逆の場合は違う呼び名を付けるべきで、それはもうツンデレとは言えないんだお」
ξ゚ー゚)ξ「続けなさい」
( ^ω^)「ツンみたいにツンツンばっかのキャラは『ツンデ』、
逆の場合は『ンデレ』という名称を設けようという案をここに提出するお!」
ξ゚ー゚)ξ「 続 け な さ い 」
(;^ω^)「え、あ、あの、言いたいことは全て言いましたお……」
議論が終わった。
- 29: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/04/12(日) 20:48:10.75 ID:rE6u3h8cO
- 从*'ー'从「ツンさんさすがです! ブーンさんを物ともしないなんて!」
ξ゚听)ξ「こういう馬鹿は、相手にしなければその内諦めるもんよ」
从*'ー'从「メモメモです!」
ξ゚听)ξ「でも、あんまりやりすぎるといじけて手に負えなくなるわ、アレみたいに。
だから、ちょっと見てなさい」
隅で体育座りをしていたブーンに近付く。
ξ*゚ー゚)ξ「無事に幼馴染みくんを追い返せたら、昨日みたいに腕枕させてあげてもいいわよ」
( ^ω^)「渡辺さん! いつまでぼーっとしてるんだお!
二秒以内に原稿用紙一枚程度でショボちゃんの情報を書き出してこいお!」
ξ*゚听)ξ「まったく現金なやつね」
そう言うツンの頬は、心なしか赤く染まっていた。
从'ー'从「自分の利益にしか興味のない豚野郎ですね。
まぁいいです。予想以上に時間がかかっちゃったんで三行で」
熱いお風呂に入れない。
ショボちゃんには苦手なお姉さんがいる。
プライドが高い。
- 30: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/04/12(日) 20:49:23.86 ID:rE6u3h8cO
- ( ^ω^)「一行目から天然かお。もうお腹いっぱいです。
今すぐダーマ神殿に行ってヤンデレに転職してこいお」
ξ゚听)ξ「それはともかく、他は使えそうじゃないかしら。
まず、お姉さんについて教えて、綾子ちゃん」
从*'ー'从「ショボちゃんのお姉さんは、私の憧れの人で、
ショボちゃんはそのお姉さんにいつもいじめられていました!」
( ^ω^)「そういった有力情報をずっと待ってましたお。ブーンカンゲキ」
从'ー'从「けど、そう簡単には話は進まないんです!
なじぇなら、お姉さんは宇宙人を倒せる唯一のパイロットで日本にはいないからです!」
( ^ω^)「なじぇなら?」
ξ゚听)ξ「難易度低いとこで噛んだわね」
ブーンとツンは丁寧に突っ込んだ。
- 32: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/04/12(日) 20:51:48.83 ID:rE6u3h8cO
- ( ^ω^)「つまり、地球はUFOの侵略を受けていて、お姉さんはパイロットで、
最後の戦いに負けたら人類は滅亡――」
ξ゚听)ξ「詳しく言うなら、そもそもの火種はひょんなことから発明された重力制御機関。中略。
――お姉さんはそう信じて、自分と同じような敵のパイロットをもう何十人も撃墜して、
敵国の民間人を何十万人も殺してる。そういうわけね」
从;'ー'从「そんな感じです。ちょっと危ないネタですけど……」
(;^ω^)「この作戦はダメだお、色々ダメだお!!」
ξ;゚听)ξ「そうね、著作権的に考えて」
- 33: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/04/12(日) 20:52:46.31 ID:rE6u3h8cO
- ( ^ω^)「他に何か弱点はないのかお?
怖がるとか嫌がるじゃなくて、悔しくてたまらない感じの」
从'ー'从「うーん……ないこともないですけど、難しいですよ?」
( ^ω^)「言ってみるお」
从'ー'从「ショボちゃん、プライドが高いですから、
負けを認めさせることが出来たら素直に引き下がるような気がします」
( ^ω^)「プライドを刺激……悪くないお」
ようやく手掛かりになりそうな話を聞けて、ブーンは深く考え込む。
( ^ω^)「よし、それでいってみるお。
名付けて『悪役Aと奴隷商人とヤンデレ祭り』だお!」
奴隷商人に仕立て上げられたツンが怒り狂ったのは言うまでもない。
- 34: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/04/12(日) 20:54:59.63 ID:rE6u3h8cO
- ショボンは激怒した。
必ず、かの邪知暴虐のブーンを除かねばと決意した。
太陽も高く天に上りきった頃合いである。
脅威の忍耐力を見せてブーンの家の前で待ち伏せていたが、待てども待てども帰ってくる気配はない。
すでに学校に行ったのではないかという憶測をするが、
後十分、後五分、と伸ばし伸ばしにしていたら途中から意地になってきて、ここを離れたら負けだ、と思うようになってきた。
天然娘の言う通り、無駄にプライドが高いようだ。
「あ、ショボちゃんいましたー」
どこからか聞き覚えのある声がしてショボンが周囲を見回せば、駆け寄ってくる幼馴染みの姿があった。
(´・ω・`)「なんかとてつもなく嫌な予感がする」
天然が走ればどうなるのか、ショボンは実によく知っている。
ぼそりと少年が呟いた瞬間、渡辺は自分の足に自分の足を引っかける超高等技術を披露してみせた。
コーナーキックから低く浮いたボールに合わせての綺麗なダイビングヘッドを思わせる前方への体の投げ出しだった。
- 36: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/04/12(日) 20:57:05.72 ID:rE6u3h8cO
- 嫌な予感は的中し、少年の目前で転んだ少女の頭が見事に鳩尾に突き刺さった。
(;´・ω・`)「「はぅっ!!」」从'ー';从
同時に呻きながら、もつれ合うように倒れる二人。
(;´・ω・`)「あ、綾子ちゃん……頼むからあまり走らないでくれ……」
从;'ー'从「うぅ、ごめんなさい……」
さすがの渡辺も申し訳なさそうに謝る。
(´・ω・`)「で、何しに来たんだ?」
顔をしかめて痛みを堪えながら、ショボンは聞いた。
从'ー'从「そうでした! えとえと、ショボちゃんに渡すものがあって、
このクソ忙しい中わざわざ来てやったんです、豚野郎」
(´・ω・`)「……その汚い口調はどこで覚えたんだ?」
从'ー'从「ブーンさんが、ショボちゃんはドMだから罵られるのが
三度の芥子(けし)より好きだって言ってましたから試してみました!」
(´・ω・`)「……三度の飯ね。
芥子だとアヘンだから。僕は薬物中毒じゃないから」
突っ込まずにはいられないショボンだった。
- 38: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/04/12(日) 21:01:42.64 ID:rE6u3h8cO
- (´・ω・`)「それで、渡すものって?」
从*'ー'从「そうでした!えっと、いつまでもこのままじゃ嫌だから、
もっと関わっていかなきゃって……だから、これ受け取ってください」
そう言って、どこからかピンク色の便箋を取り出す渡辺。
(*´・ω・`*)「こ、これ、僕に?」
ドキドキしながら聞き返すショボン。
幼馴染みであることに不満を持ち、
もっと仲の良い関係にしたいと願っていた少年からすれば、風雲急を告げる出来事だった。
从*'ー'从「受け取ってくれますか?」
(*´・ω・`*)「あ、あぁ、ありがとう」
上ずった声を気にしながら、便箋を少年は受け取った。
(*´・ω・`*)「い、今、みみ、見てもいい?」
从'ー'从「見てもいいですけど、それを読んで嫌な気分になっても知りませんよ?」
(*´・ω・`*)「嫌な気分になんてなるもんか!
綾子ちゃんの気持ちしっかり受け取るつもりだよ!」
从'ー'从「ならよかったです」
渡辺に微笑みを見せてから、ショボンは便箋を開いた。
- 39: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/04/12(日) 21:03:34.94 ID:rE6u3h8cO
- ――Dear ショボちゃんへ。
おっすおらブーン!!この手紙は恋文じゃないから、まず深呼吸して手紙を破かないでほしい。
うん、果たし状なんだ、ごめんNE!
突然だけど、血で血を洗うデュエルをしねえか?
この手紙はサービスだお。
ショボちゃんはこの手紙を受け取ったとき、言葉では言い表せない「ときめき」みたいなものを感じてくれたと思う。
殺伐とするであろう戦場に、
その恥ずかしいくらいピュアな心を忘れないで、
早く来いお、豚野郎^^
from ブーン――
- 48: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/04/12(日) 21:23:35.56 ID:rE6u3h8cO
- くしゃ。
(´・ω・`)「綾子ちゃん、これについて説明してくれるか?」
精神的圧力をこれでもかと放出しながら問うショボン。
渡辺は、何より表情が変わっていないことに恐れおののいた。
从;'ー'从「シ、ショボちゃん、落ち着くんです!
だから、嫌な気分になっても知らないって最初に言いましたよ!?」
(´・ω・`)「『いつまでもこのままじゃ嫌だから』?」
渡辺の発言を無視して聞き返す。
从;'ー'从「ブーンさんがそう言いながら渡せって言いましたもん! 私は悪くないです!」
そもそもの勘違いの原因となる言葉の出所は、やはりブーンが握っていたようだった。
時代錯誤な果たし状を渡すに当たって、ラブレターだと誤解するように仕向けたのだろう。
ブーンの思考にまんまと嵌まった形になったわけだ。
全てを察したショボンは、勘違いした恥ずかしさを怒りに変えて、ブーンへの復讐を激しく誓った。
- 49: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/04/12(日) 21:24:58.44 ID:rE6u3h8cO
- (´・ω・`)「血で、血を、洗う? そんなもの、軽い。軽すぎて三日は笑えます。
――生まれてきたことを、後悔させてやる」
猛る思いを胸に、ショボンは歩き出した。
その後ろを、叱られた子供のような距離をおいて渡辺が歩く。
こうして決着をつける時が来たのだった。
- 51: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/04/12(日) 21:27:16.85 ID:rE6u3h8cO
- 着いたのはブーンたちが通う学校の屋上だった。
(´・ω・`)「綾子ちゃん、これは何の冗談だ?」
半眼で問うショボンの視線は、地面を向いている。
从'ー'从「むむ、さすがはショボちゃん! さっそく罠を見破るとは!」
驚愕してみせる渡辺だが、その表情は真剣そのもの。
そして、屋上へ出る扉を開けすぐ地面に仕掛けられた罠というのは、もうお馴染みの黄色いアレだったりする。
从'ー'从「三人もの犠牲を出した必殺のバナナも、ショボちゃんには通用しないですね!」
(;´・ω・`)「こんな罠、引っかかるほうが難しいぞ」
从'ー'从「? テクニックが必要なんですか?」
(;´・ω・`)「お笑い芸人にでも極意を聞いてくれ……」
面倒になったショボンは説明を放棄した。
その横で、天然娘は「ショボちゃんの話は深いです」などとホザいている。
(´・ω・`)「それでブーンさんはどこにいるんだ?」
バナナの皮を避けて屋上に歩み出てみるが、辺りを見回しても午後の授業中とあっても屋上には誰もいなかった。
呼び出した憎き敵すらも。
- 52: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/04/12(日) 21:28:41.54 ID:rE6u3h8cO
- ショボンが疑問を口にした直後、何かが地面を転がる音がした。
コロコロと可愛い音で転がるそれは、スプレー缶サイズで円筒状の物体X――
(;´・ω・`)「ちょ、これは!」
間違いなく可愛くない能力を持つ、その正体に気付いたショボンは、即座にその場を飛び退いて回避行動をとった。
直後、光と音の爆発が炸裂した。
鋭い閃光が辺りを太陽の輝きよりも眩しく照らし出し、地を揺らす爆音が空気を振るわせる。
視覚と聴覚を一時的に破壊する非殺傷兵器は、ここぞとばかりに威力を発揮してみせた。
从; ー 从「め、目が痛いです! み、耳も痛いです!」
騒がしく悲鳴を上げるのは狙われた少年ではなく、案内役としてその場にいた少女だけ。
狙われたショボンはというと、転がってきた物体Xが『閃光爆音手榴弾』だといち早く気付き、
目を硬くつむり、耳を塞いで光と音をシャットアウトしていた。
(;´・ω・`)「綾子ちゃん、大丈夫か!?」
慌てて駆け寄って介抱しようとしたが、
視覚と聴覚をやられてのた打ち回る渡辺は錯乱状態で手の出しようがなかった。
- 53: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/04/12(日) 21:31:24.36 ID:rE6u3h8cO
- (´・ω・`)「ブーンさん、出てきてください! あなたの仕業でしょう!?」
殺傷能力はないと見て、一先ず渡辺を放置してショボンは声を上げる。
( ^ω^)「ふっふっふ、よくぞ見破ったお! 瞬時に閃光爆音手榴弾だと判断し、
回避してみせるとは……さすがは美少女戦士!」
(´・ω・`)「誰が美少女戦士だ」
物陰から現れながら悪役じみたセリフを吐くブーンに、ショボンはすぐさま突っ込んだ。
( ^ω^)「自らを美少女戦士と名乗るそのおこがましさに、お兄さんは脱帽……
いやいや、帽子は被ってないから、ここは一つ脱サラでもしちゃおうかな!」
サラリーマンでもないのに脱サラできるのだから、おこがましさではブーンの方が上に違いない。
( ^ω^)「それにしても、渡辺さんには手榴弾のこと教えておいたのにお約束通り食らってるんだから脱帽……
いやいや、帽子は被ってないから、ここは一つ脱ダム宣言でもしちゃおうかな!」
(´・ω・`)「あなたなんかにダム事業に口出し出来る権利があるはずもない」
既出ネタ二連発に対して、ショボンは冷静に突っ込んだ。
- 55: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/04/12(日) 21:34:24.85 ID:rE6u3h8cO
- ( ^ω^)「ショボちゃんってば冷たいお。
愛のある突っ込みくれなきゃボケ役は映えないんだお!」
(´・ω・`)「お笑い談義なら余所でやってください。
ブーンさんだって、そのために僕を呼び出したわけじゃないでしょう?」
相変わらず渡辺以外の相手には丁寧な言葉遣いで、
しかし温かみの欠片もない辛辣な言葉が飛ぶ。
( ^ω^)「おっおっ。ラブレターと見せかけて果たし状渡したのには理由があったんだお。
ところで、ラブレターと間違えてくれたかお?」
(;´・ω・`)「う、うるさいですよ! あんなので騙される僕じゃないです!」
途端に頬を赤く染め、動揺を顔に出しながら否定するショボン。
从'ー'从「シ、ショボちゃん、嘘吐いてます!
綾子ちゃんの気持ちしっかり受け取るよ、って言いながら受け取りましたもん!」
割り込んで来たのは、ようやく視力と聴力が回復した渡辺。
その言葉を聞いて、悪魔のごとき策士はにやりと口角を吊り上げた。
- 56: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/04/12(日) 21:36:48.02 ID:rE6u3h8cO
- ( ^ω^)「ほぅ。けっこう単純だお、ショボちゃん。
いやいや、純粋で可愛いじゃないかお」
(;´・ω・`)「う、うるさい! 人の心を弄ぶ卑劣な人ですね、あなたは!」
( ^ω^)「おっおっ、そんなに誉めるなお!」
赤面しているショボンの力強い口撃は、ブーンにダメージを与えられなかった。
(´・ω・`)「あなたと話していても埒が明かない! さっさと勝負をつけてやります!」
恥ずかしさをごまかすように力強く言い放つ。
右手を二、三、虚空に振ると、いつの間にかその手に死神の大鎌が握られていた。
( ^ω^)「そんなに慌てなくても、ちゃんと相手してやるお。
――渡辺さん!」
エリート階級にある実力派の死神を前にしても、ブーンは少しも怯む様子がなかった。
一方、「はいっ!」と元気よく返事した渡辺は、すぐさま立ち上がって両手を前に突き出して構えた。
- 58: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/04/12(日) 21:40:25.38 ID:rE6u3h8cO
- Long Range Acostic Davice (ロング・レンジ・アコースティック・デバイス)――
長距離音響装置。
百五十デシベル、二.一〜三.一キロヘルツの高周波に指向性を与えて打ち出し
敵を倒すという非殺傷が売りの最先端兵器である。
物騒な兵器を目にしても、ショボンは驚きではなく呆れた表情を作ってみせた。
(´・ω・`)「……LEADが一台持ち出されて行方不明って騒いでたけど、綾子ちゃんの仕業だったのか。
貸し出し申請もしないで持ち出したんだろ、どうせ」
从;'ー'从「あ、申請忘れてました!」
若年性健忘症じみた天然娘は、ショボンの予想を裏切らない発言をしてみせた。
( ^ω^)「渡辺さんらしいお。ところで、つかぬ事をお伺いするけど、
先ほどの呪文みたいなのは意味があるのかお? やっぱり、雰囲気重視なのかお?」
変なところで細かいブーンは、状況も気にせず問いを投げかける。
- 59: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/04/12(日) 21:41:48.32 ID:rE6u3h8cO
- 从*'ー'从「たとえばですよ? ドラえもんが煙草でも吸うかのような
何気ない仕草で四次元ポケットから道具を出したらでう思います!?
味気ないですよね? 盛り上がりに欠けますよね!? それと同じなんです!!」
( ^ω^)「ブーンとしては声優が変わった時点で味気なくなったからどうでもいいお」
ここに一つの論争が幕を閉じた。
- 61: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/04/12(日) 21:43:25.99 ID:rE6u3h8cO
- ( ^ω^)「さぁ、馬鹿は放っておいてショボちゃん退治と洒落こみますかお」
飄々と宣言すると、ブーンはすぐさまLRADに取り付き、摘みを弾いて起動していく。
(´・ω・`)「そんなものが僕に通用するとでも思ってるんですか?」
( ^ω^)「ほぉ、自信満々かお。
一度音波を発射したら、この距離を縮められる前にショボちゃんを捕らえられる自信くらいあるお!
なんてったって駆動式だもん!」
台車をくいくいっと動かして、自由に向きを変えられることを示すブーン。
言ってみれば、拳銃を突きつけられているのと大差はない。
(´・ω・`)「避ける必要も近付く必要もないです。
痛い目見るのはブーンさんでしかないことを知らしめてあげますよ」
冷静沈着に言い放ったショボンに、さすがのブーンも不安になる。
かつてLRADを前にして策を弄さなくては近付けなかったブーンだからこそ、
近付かずに対処出来るはずもないという思いがある。
しかし、こうも自信を表されると揺らぐものがあった。
( ^ω^)「……やってみなきゃわからないお!」
不安を払拭するかのように、勢いに任せてブーンはスイッチを入れて音波を射出した。
- 63: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/04/12(日) 21:45:10.33 ID:rE6u3h8cO
- エリート死神少年は、宣言通り一歩も動くことなく、
優雅に指を打ち鳴らして何かを出現させることしかしなかった。
(;^ω^)「うぐあああっ! ちょ、何だおこれ!」
叫んだのは、LRADを操作していたブーンだった。
脳を直接揺すられているかのような衝撃を受け続け、ついには地面に片膝をついてしまう。
(´・ω・`)「だから言ったでしょう? 痛い目を見るのはブーンさんだって」
事も無げに言ってみせるショボンの前には、盾のように立てられた鉄製の何か。
- 64: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/04/12(日) 21:46:53.31 ID:rE6u3h8cO
- (´・ω・`)「音の仕組みってわかります? 簡単に言えば空気の振動です」
誇る様子もなく少年はカラクリを説明し始めた。
(´・ω・`)「所詮は空気振動、音の対策を施せばいいだけです。
防音には、遮音と吸音の二種類があります。
前者は密度の薄い軟体で音を遮ることで吸収透過し、
後者は密度の濃い剛体で遮ればほぼそのまま音を反射出来ます」
すらすらと解説し続ける間も、ブーンは頭を抱えて苦しんでいる。
(´・ω・`)「つまり、僕は特殊金属充填材を多量に配合した高密度の剛体を置くことで、
LRADの音波を反射してブーンさんにお返ししている、ということです」
簡単な理屈です、とショボンは締めくくった。
- 65: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/04/12(日) 21:49:16.85 ID:rE6u3h8cO
- (´・ω・`)「さて、自らの手で首を絞めてくれてますから、
この隙を突かせてもらいますよ」
動くことも儘ならないブーンの元へ、一歩一歩もったいぶるようにショボンは歩いていく。
(´・ω・`)「終わりです。呆気ないですけど、自分の力を過信しすぎなんですよ、あなたは」
幼い風貌からは想像出来ないほどの冷たく重い圧力を放出しながら、
ついに座り込むブーンの眼前に辿り着いた。
その手には、鈍く光る死神の大鎌。
(´・ω・`)「綾子ちゃんはもらいます。さようなら」
決別の言葉を口にしたショボンは刹那の躊躇いもなく、振り上げた断罪の鎌を振り下ろした。
( ^ω^)「――なんちゃって」
- 67: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/04/12(日) 21:51:36.04 ID:rE6u3h8cO
- そんな声が聞こえたかと思えば。
ブーンは身を翻して空を裂く弧の刃をやり過ごし、
完全に油断していたショボンの背後を取った。
( ^ω^)「おっおっ、形成逆転だお。
ショボちゃんこそ、“自分の力を過信しすぎ“だお」
(´・ω・`)「……どういうことです?」
納得いかない、というようにショボンは詳細を求めた。
( ^ω^)「ショボちゃんは表面的な部分しか見てないってことだお。
簡単だお、LRADの出力を最小にしてあるだけなんだお」
兵器と言えど、所詮は非殺傷を謳うもの。
最小出力で音波を投射すれば、人体への影響も軽減出来る。
それに、とブーンは続けた。
( ^ω^)「ブーンは一度、渡辺さんとのやり取りでアレを喰らってるお。
あのときの威力に比べたら、
最小の威力なんて蚊に吸われたようなもんだおwwwwww」
- 68: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/04/12(日) 21:53:37.37 ID:rE6u3h8cO
- もちろん、やせ我慢である。
いくら非殺傷を謳うとは言え兵器は兵器。
耐性が出来ているからと言っても、人体への影響は軽くない。
その証拠に、ブーンの足が軽く震えていた。
(´・ω・`)「まんまと騙されたということですね」
( ^ω^)「だお。ショボちゃんなら簡単に対処してくれると読んで、
その直後の油断を狙うつもりだったお。
……ツン、もう安全だから出てきていいおー」
不思議とそのやせ我慢を、
ξ゚听)ξ「おー」
陰で見ていたツンだけが気付いていた。
だが、口には出さず。
勝負が決したと判断したブーンが呼びつけると、貯水タンクの物陰からツンが姿を現した。
(´・ω・`)「……もう勝った気でいるんですか?」
背後を取られて身動きを封じられた形になるショボンが、諦め悪くもそう言う。
( ^ω^)「いや、これで終わらせてもショボちゃんは納得がいかないはずだお。
ブーンに負けたからっておめおめと帰るような性格には思えないお」
- 69: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/04/12(日) 21:55:46.81 ID:rE6u3h8cO
- (´・ω・`)「……それは綾子ちゃんから?」
从'ー'从「はい! ショボちゃん、プライドが高いから
必ず復讐しなきゃ終わりにしてくれないって教えました」
渡辺の言葉通り、負けを認めていながら隙を伺って牙を剥こうとしているのが、
少年の様子から見て取れた。
(´・ω・`)「もちろんです。命を奪うことで救える命もある。
そのためには、どんな手を使ってでも対象を抹殺するのが死神の仕事ですから」
仕事への責任感がそのままプライドに反映しているような言葉だった。
- 71: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/04/12(日) 21:58:13.41 ID:rE6u3h8cO
- ( ^ω^)「そうは言っても、ブーンも死んであげるわけにはいかないんだお。
今回は、完璧渡辺さんのせいで命狙われてるんだし、
出来ることなら、騒がしいだけだし連れて帰ってほしいくらいなんだお」
从;'ー'从「ブ、ブーンさん! 約束が違います! バラしますよ!?」
( ^ω^)「……というわけで、渡辺さんを連れていかれても困るわけだお。
だから、何度でもかかってくるといいお。
七縦七擒(しちしょうしちきん)と言えば、聡明なショボちゃんには通じるかお?」
ブーンの言う七縦七擒とは、中国三国時代の名軍師「諸葛亮孔明」が、
叛乱を企てた南蛮の王を七度捕らえておきながら、何もせず七度逃がしたという戦略をいう。
段違いの実力を見せつけられ、南蛮王は心を砕かれて孔明に心酔したとされる。
とん、と背中を押して距離を置き、言葉通りブーンはショボンを手中から手放して見せた。
- 73: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/04/12(日) 22:01:15.16 ID:rE6u3h8cO
- (´・ω・`)「情けをかけるわけですか?」
( ^ω^)「違うお。こうでもしなきゃ、ショボちゃんは追い払えないと思ったまでだお」
(´・ω・`)「僕がブーンさんに心服するとでも?」
( ^ω^)「してもらわなきゃ困るお。
そのために何度でも勝ってやるお」
滅多に見せない真面目な顔をしてブーンは応じていた。
(´・ω・`)「そうですか。では僕も何度でも言いましょう。
どんな手を使ってでも対象を抹殺するのが仕事なんです。
――例え、人質を取ろうとも」
すっ、と足音も立てずに素早く移動して見せた先には、
ξ;゚听)ξ「ちょっ、私!?」
もう安全だと油断していたツンの姿。
その首元に大鎌の先端が突き付けられていた。
(´・ω・`)「手負いの獣を甘く見ると、思わぬ反撃を食らうものです。
相手の息の根を止めるまでは、
何があっても気を抜いちゃいけないのが勝負の世界でしょう?」
死神の少年は、卑怯な手を取りながらも少しも恥じる様子がない。
- 74: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/04/12(日) 22:03:35.12 ID:rE6u3h8cO
- (´・ω・`)「さぁ、ブーンさんの大事な人がピンチです。
賢いあなたですから、どんな選択肢があるのかわかってますよね?」
( ^ω^)「……ニア にげる」
ξ#゚听)ξ「馬鹿ブーン! この場面で冗談に走るな!!」
ツンがブチ切れた。
( ^ω^)「ふっ、ここぞという場面でやるのがブーンだお。
後で、愛してる、って耳元で囁いてくれたら助けてあげるお」
何やら、脅されている立場だというのにブーンは、ツンを脅し始めた。
ξ#゚听)ξ「アホブーン! 大事な彼女が殺されそうな時に悠々と脅すな!!」
(´・ω・`)「まったくです。緊張感ゼロにしたところで、状況が好転するわけでもないのに」
今だけはツンとショボンの意見は一致した。
- 77: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/04/12(日) 22:06:42.59 ID:rE6u3h8cO
- ( ^ω^)「おふざけだってしたくなるお。
あまりにも予定調和すぎて」
吐き捨てるように言ったブーンの言葉に、
聞き捨てならないとばかりにショボンが、
(´・ω・`)「予定調和? 僕の行動が予測済みだとでも言うんですか?」
( ^ω^)「おっおっ。ツンを人質に取ってブーンの命と交換しろ、
なーんて迫るのは目に見えていたお」
にやり、と口角を吊り上げてブーンは笑みを形作って見せる。
ショボンはその笑みに一抹の不安を覚えた。もしや、人質に取ったことに罠が仕掛けられているのか。
迷いが生じ、大鎌を握っている手の力を緩めようとした瞬間、
( ^ω^)「ポーカーフェイスが崩れてるお、ショボちゃん。
大丈夫、今回は何の仕掛けもしてないお」
ブーンが揺さぶる。
不安を言い当てられて不愉快な思いになるが、
罠がないと宣言するブーンの思惑がまったく読めずにますます不安を覚えるショボン。
アドバンテージを握っているはずのショボンは、追い詰められているような心境に陥っていた。
- 79: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/04/12(日) 22:08:40.38 ID:rE6u3h8cO
- ( ^ω^)「大分余裕ないみたいだお。
人質を取っているのに、何でそんなに恐れているんだお?」
(;´・ω・`)「……何を考えているのかが読めない相手なんて、初めてのことなんです」
( ^ω^)「初体験の相手に選んでくれてありがとうだおwww優しくするおwwww」
どんな相手も煙に巻くのはブーンの常套手段。
とぼけているように見せ相手を翻弄して、
自分のペースに持っていくことに於いては誰よりも長けている。
ショボンは初めてブーンを恐ろしく思った。
- 80: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/04/12(日) 22:10:43.53 ID:rE6u3h8cO
- (;´・ω・`)「何が目的なんですか?」
( ^ω^)「そう構えるなお。取り乱したほうが負けだお」
(´・ω・`)「そんなの重々承知しています。
ですが、わかっていても心をかき乱される。
おちゃらけているようで、深い人ですね、ブーンさん」
( ^ω^)「買い被りだお。楽しければそれでいい。
ブーンのモットーはそれだけだから、どんな時でも楽しんで生きてるだけだお」
本音か、はたまたブラフか。
それすらも判断出来ないほどショボンは翻弄されてしまっていた。
( ^ω^)「選択肢の話、答えは一つしかないお。
――ブーンの命をあげるから、ツンを解放してくれお」
極めつけに、ブーンは真剣そのものの表情でそう言ってみせた。
これには、ショボンばかりか、ツンも渡辺も驚きの表情を見せる。
- 82: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/04/12(日) 22:13:12.60 ID:rE6u3h8cO
- ξ;゚听)ξ「何言ってるのよ、ブーン! 本当に何の策もないわけ!?」
从;'ー'从「そうです! ブーンさん、血迷ったんですか!?
素直に応じるなんて、ブーンさんらしくないです!!」
二人して呼び掛けるが、ブーンは気にも留めてない。
( ^ω^)「策なんて何もないお。
ショボちゃんがここまでするなら諦めようって考えてただけだお。
今後もずっと命を狙われ続ける羽目になるんだし、
逃れる術があるとは思えないお。
だから、ここでどんな形でも決着をつけないといけないお」
ξ;゚听)ξ「だ、だからって!!」
( ^ω^)「まぁ、最後まで聞けお。ブーンだって、ただ殺されてやるわけじゃないお。
ショボちゃんと勝負するつもりなんだお。
ブーンはツンのために命をかけ、ショボちゃんは渡辺さんのために命を狩る。
どっちが想い人に対して愛を注げられるか、だお」
- 83: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/04/12(日) 22:15:31.14 ID:rE6u3h8cO
- それは、無茶苦茶な勝負だった。
人を殺すのが仕事である死神に対して、
殺せたら勝ち、殺せなかったら負けとせまっているのだ。
どう見てもブーンのほうが分が悪い。
( ^ω^)「ショボンもよく考えてみるお。今回は仕事抜きで。
誰かのために何かをするってのは容易じゃないんだお。
ましてや、そこに人の命がかかっているなら尚更だお。
ブーンを殺してでも無理矢理連れて帰って、渡辺さんは喜ぶと思うかお?
それが渡辺さんのためでも、だお」
初めてショボンを呼び捨てにし、問いかける。
( ^ω^)「どんな手を使ってでも、ってショボンは言ったお。
それはいいけど、目的は本当に正しいのかお?
渡辺さんのためだって建前を作ってるけど、本当は自分のためじゃないのかお?」
間隙を幾ばくも取らず、さらにブーンは言葉を紡ぐ。
いつしか、屋上に聞こえる音はブーンの声のみになっていた。
- 85: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/04/12(日) 22:18:12.08 ID:rE6u3h8cO
- ( ^ω^)「死神の仕事は人の命を取り扱う重みのあるものだお。
その責任に押しつぶされてしまいそうになるのも無理のないことだお。
けど、今回はショボンの意思でブーンの命を刈り取る。
本来ならその責任はショボンにあるけど、渡辺さんのためと口にすればするだけ、
渡辺さんに責任を押し付けているようなものだと気付かないのかお?」
唇を固く結んで、ショボンは突き刺さる言葉の一つ一つを噛み締める。
( ^ω^)「他人を思いやることの難しさを知らないのに、誰かのためだなんて口にするなお。
結局は自分のためでしかないんだお、そんなのは。
ブーンだってそうだお。ツンのために命をはって死んでしまっても、ツンはきっと喜ばないお。
ツンのためを思うなら、それこそどんな手を使ってでも生き延びてやることだお」
- 86 名前: >>84ごめwwwこっから笑えるとこないwww 投稿日: 2009/04/12(日) 22:19:54.27 ID:rE6u3h8cO
- ξ )ξ「…………」
毅然とした態度で頷くツン。
その瞳には光るものがあった。
( ^ω^)「それでもブーンはツンのために命をかけるんだお。
ツンへの気持ちを形にしたいから。渡辺さんを思うショボンの気持ちにも負けないんだって」
渡辺はおろおろと落ち着きなく様子を伺っていたが、
決して口を挟んだりはせずに心配げに見守っていた。
- 89: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/04/12(日) 22:22:04.52 ID:rE6u3h8cO
- ( ^ω^)「さぁ、考えるお。ブーンは殺されることでツンへの気持ちを思う存分表現出来るお。
悔いはあるけど、惚れた女の子に命を捧げられるなら本望だお。
ショボンはブーンを殺すことで何を得られるお? 渡辺さんに何を捧げられるお?」
はっきりとブーンは語りきった。
淀みない言の葉は確かな力を持ち、聞くものの理解を促す。
普段は不真面目一辺倒である男の言葉だからこそ、
めったに吐かない正論には正統性と重みが現れていた。
( ω )「…………」
人質を取って絶対的優位を確立していながら、
ショボンは拳銃を突き付けられているかのような心境に思いやられて沈黙を余儀なくされる。
自分の行動が何のためなのか。
行動の果てに何が得られるのか。
自らの行動理念を根本から覆される問いかけは、確実にショボンの思考を蝕んでいく。
行き着く先は――。
- 91: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/04/12(日) 22:24:48.36 ID:rE6u3h8cO
- (´・ω・`)「綾子ちゃん。僕がブーンさんを殺すことを正しいと思えるか?
綾子ちゃんのためじゃなく、僕自身のためだったとしてだ」
問いかけは、あれほど自信に満ちていたショボンとは思えないほど小さく弱々しいものだった。
从'―'从「えとえと……ショボちゃんは正しい行動ばかり取ってた気がします。
でもそれは、ショボちゃんにとって正しい行動であっても、
私にとっては間違ってるように見える時がありました。
私のためを思っての行動だってわかるから口には出せなかったですけどね」
渡辺はとつとつと述壊した。
从'―'从「今回に関しても、目的も方法も間違っているように思えるんです。
逃げ回る私も悪いのはわかってますけど、
馬鹿な私でもわかるように天界へ戻る理由を言い聞かせて連れ帰るようにしてくれたら、
いやいやながらでもショボちゃんについていったはずです」
(´・ω・`)「そうか……」
力なく頷いて、ショボンはまた深く沈黙した。
- 92: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/04/12(日) 22:26:39.73 ID:rE6u3h8cO
- すでに死神の大鎌はだらりと下げられ、ツンは自由の身と何ら変わりはない。
それは、ブーンの勝利を意味していた。
( ^ω^)「渡辺さん、一度天界に帰ったらどうだお? ショボちゃんも十分にフォローしてくれるだろうし、
何よりも責任を放棄して逃げ回ることで周りに迷惑をかけ続けるのも辛いはずだお」
ブーンは渡辺にも正論を説いた。
从;―'从「はい。私のせいでブーンさんが死んじゃうかもしれなかったんですよね。
もしそうなってたら、私は一生後悔していました。ごめんなさい……」
普段は無駄に元気を撒き散らす渡辺が、今は泣きながら頭を下げて見せた。
- 96: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/04/12(日) 22:31:09.29 ID:rE6u3h8cO
- ( ´ω`)「よし、これならショボちゃんの面目も保てるお。
面倒だから、ブーンにこんな真面目な役は二度とやらせるなお。
大体最初の設定じゃ、」
ぶつぶつと呟くブーンは、どことなく照れた表情をしていた。
その姿を見て、ツンは嬉しそうに笑う。
ξ*゚ー゚)ξ「たまには真面目になるものもいいものよ。
いざというときには絶対的に頼りになることを、久しぶりに再認識出来たわ」
( ^ω^)「惚れ直したかお? それならあれだお、今夜は肉じゃがパーティーだお!」
ξ*゚ー゚)ξ「あらゆる料理を肉じゃが味にしてみせるわ」
打てば響くようにツンは返してみせた。
- 99: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/04/12(日) 22:44:12.68 ID:rE6u3h8cO
- 从*つー'从「私もいつかツンさんの手料理食べたいです!」
ξ*^ー^)ξ「ちゃんと天界で責任を果たしてきたらまた遊びにおいで。いつでも作ってあげる」
从*'ー'从「はい! ショボちゃんも無理矢理連れて行きます!」
(;´・ω・`)「え、綾子ちゃん! 僕はいいから!」
从'ー'从「何でですか? ショボちゃんも肉じゃが好きですよね?」
(;´・ω・`)「いや、それはそうだけど……」
どこの世界に人質に取った相手と仲良く食卓の席を並べられるというのか。
そんな気持ちを欠片も感じ取れず、空気が読めない天然娘は言葉を続けた。
从*'ー'从「ショボちゃんは恥ずかしがりやだから遠慮してるんですね! 大丈夫です!
ツンさんは優しいですし、胸の小ささを指摘しなければ怒ったりもしないですから!」
( ^ω^)「っwwwwwwwひっwwwwwww」
(;´・ω・`)「……綾子ちゃん。そういうのは本人がいる前で言うのはやめたほうがいいぞ?」
思わずショボンも突っ込んでしまう天然ぶりを発揮し、
当然ながら会話の全てを聞きもらすことがなかったので、
渡辺の背後では何やら殺気じみたものが発生しだした。
- 103: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/04/12(日) 22:47:07.80 ID:rE6u3h8cO
- ξ゚ー゚)ξ「あはは。綾子ちゃん、ちょっといいかしら? お姉さんとお話しよう?」
从;'ー'从「わわっ! ツンさん、笑顔なのに目が冷たいです!
ブ、ブーンさんヘルプミーです!!」
首根っこをツンに掴まれて後ろ向きにずるずると引きずられ、
渡辺は「あーれー」と言いながら物陰へと連れ去られていった。
( ^ω^)「天然ってのも色々大変だお」
二人の姿を眺めつつ、しみじみとブーンは呟いた。
- 105: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/04/12(日) 22:50:04.49 ID:rE6u3h8cO
- ( ^ω^)「さて、ショボちゃん。
決着はついただろうけど、最後に一つだけ言わせてもらうお」
(´・ω・`)「……なんですか?」
( ^ω^)「今回は本気で危なかったお。
ショボちゃんが思い直すかどうか、一つの賭けでしかなかったんだお」
(´・ω・`)「自信満々に見えましたけどね」
( ^ω^)「ブラフに決まってるお。内心ドキドキだったんだお。
ショボちゃんに恋しちゃったかと勘違いしそうだったお」
ブーンの冗談に嫌悪感を抱いていたショボンだが、
今では真面目なブーンのほうが抗し難いと悟って何も言わなかった。
( ^ω^)「それで言いたいことっていうのは――
二度とブーンとツンの前に現れないでくれ、ってお願いだお」
(´・ω・`)「…………」
- 106: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/04/12(日) 22:53:04.83 ID:rE6u3h8cO
- ( ^ω^)「ブーンが狙われるくらいならどうとでも出来るお。
けど、ツンに危険が迫るのだけはどうしても許しがたいお。
少しでもツンを傷付けてたら……
ブーンも本気でショボちゃんを傷付けに行ってるとこだったと思うお」
(´・ω・`)「…………」
( ^ω^)「だから、渡辺さんも含めて二度とブーンたちの前に現れないようにしてくれお」
不真面目極まりないブーンの、本当の姿がそこにあった。
- 107: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/04/12(日) 22:56:08.59 ID:rE6u3h8cO
- (´・ω・`)「……わかりました。綾子ちゃんには言わないほうがいいですね」
( ^ω^)「言ったらきっと落ち込むお。内緒にしといてくれお」
(´・ω・`)「了解です」
話はそれだけだ、と小さく言ってブーンは締めくくった。
気まずさが漂う中で、どこからか賑やかな怒鳴り声だけが響き渡る。
ブーンは目を細めて声が聞こえてくる物陰に見やり、優しく微笑んでいた。
(´-ω-`)「この人には敵わないな……」
( ^ω^)「ん? 何か言ったかお、美少女戦士?」
(´・ω・`)「何も言ってませんよ、変態仮面さん」
ショボンは冗談につられて冗談で返していた。
- 108: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/04/12(日) 22:59:03.06 ID:rE6u3h8cO
- (;^ω^)「ちょ! それ女性の下着を被って悪事を退治する下品なヒーローじゃないかお!
ショボちゃん通だお、意外と!」
(´・ω・`)「ブーンさんにぴったりだと思いまして」
心から笑いながらショボンはそう言った。
人の命を奪う仕事のために、自分を律して笑うこともなかった少年の姿はそこにはいなかった。
本人も知らず知らずの内に無邪気さを取り戻したショボンを見て、ブーンもまま満足そう笑うのだった。
抜けるような青空の下、平和な午後を彩る笑い声だけが優しげに木霊していた。
从'ー'从は死神のようです
おわり
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