( ^ω^)それはまあたらしいゆりかごのようです

1: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/15(日) 14:34:44.22 ID:pf9ab4w70
※閲覧注意



3: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/15(日) 14:37:36.94 ID:pf9ab4w70
  (1)

僕は何もしない。
ただ俯いている。



4: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/15(日) 14:42:24.40 ID:pf9ab4w70
  (2)

きいきい、きいきい。

夜半になり風はますます強くなって家中に吹き付けていて部屋の梁が軋む。
少しだけ気になって見上げるが照明の陰になった天井の様子は見えない。

かりかり、かりかり。

二階にある僕の書斎には僕が鉛筆を紙に走らせる音が響いている。
原稿用紙の升目は右上から始まり上から下へ右から左へ整然と埋め尽くされる。

ぱきん。ぱきん。

筆圧が強いせいか柔らかい鉛筆の芯はその内折れてしまい乾いた音を立てる。
並べてある別の鉛筆と交換し書き始めるがまた折れてしまい別の鉛筆を手に取る。

こほっ、こほっ。

ドアの向こうから乾いた咳払いの音が聞こえてきて僕は立ち上がり戸を開く。
暗がりの中には夜着を着た妻がかるく背を丸め口元に手を当てて咳き込みながら
窺うような視線で遠慮がちに僕を上目遣いに見ている。

また咳き込み僕をじっと見る。

ξ゚听)ξ「ブーン。こんな夜遅くまで頑張って、身体は大丈夫なの?
      いくら収入があっても、身体を壊してしまったらしようがないのよ」



6: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/15(日) 14:47:06.33 ID:pf9ab4w70
( ^ω^)「大丈夫だお。もう一息なんだお。
      ツンも早く寝るお。今気を付けないといけないのは、ツンの方なんだお」

妻はまた咳き込む。身体をくの字に折り曲げてがらがらと喉を鳴らして掠れた咳を
する。その下腹部は大きく盛り上がって薄いレースの夜着を暗闇でもはっきりそれと
分かるほど押し上げている。じっと見つめているともぞり、もぞりと動いているのが分かる。

彼女の臨月の腹部を見ながら僕はまた声を掛ける。

( ^ω^)「大丈夫。僕のことは気にしないで、寝るんだお。
      もういつ生まれてもおかしくないんだから、それまで頑張るんだお」

ξ゚听)ξ「うん。貴方も、きりのいいところで休んでね」

そう言って彼女はゆっくりドアを閉める。重く厚い木製の扉が閉じドアノブが元の位置に
戻りボルトが元の位置に戻る音を聞き届けて僕は席に戻り執筆の続きに取り掛かろうとする。

椅子に戻り続きの前に一服しようと机の上を見るがそこには煙草の箱はない。
クリスタルガラスの灰皿に積み上げられた吸殻の山を見ながら僕は思案し迷った末に
外に出て煙草を補充することに決め椅子の背に掛けられたジャケットを羽織りドアを開く。

正面の寝室にいる妻を起こさないように足音を殺して階段を降り玄関に置かれた
サンダルを突っかけて外に出た。玄関の重いドアノブをしっかり掴んで音を立てないよう
注意しそっと閉じて上階の寝室に明かりが点らない事を確認してから僕はゆっくりと歩き出す。

( ^ω^)「寒いお」

まだ春を迎えていない晩冬の深夜の寒さはコート無しに出歩くには少し厳しくて僕は羽織った
ジャケットの襟に首を埋めながら早足に歩く。外気は重く冷たく吐く息は体内との温度差で白い
もやを形成して空中に拡散する。



7: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/15(日) 14:51:22.53 ID:pf9ab4w70
いくつかの交差点を曲がりバス停を越えて横断歩道を渡るとそこは駅前のショッピング
モールだ。僕は自動販売機で煙草を購入するためのICカードを持っていないのでこの時間だと
コンビニエンスストアに行かなければいけない。

横断歩道に差し掛かったところでちょうど信号が赤になり僕は立ち止まる。

白と黒の斑の横断歩道の上をヘッドランプを点灯させた自動車が何台も通り過ぎていくのを
見つめている内に何故か眩暈を覚えて僕は目を閉じた。

( ^ω^)「・・・何だお」

目を開くとそこは駅前の路上ではなく白い内装の小さな部屋だった。
壁に沿って設えられた棚の中にはガラスやプラスチックのビンが並んでいて蛍光灯の
明かりを反射しており、僕はその部屋の中央にある小さな椅子に両手を揃えて座っていた。

白衣を着た女が僕の正面に座っていた。
彼女は手にしたクリップボードにボールペンで細かく字を書き込んでいた。僕が何も言わずに
そのまま座っていると女はたっぷり一分程をかけてクリップボードを見返してから顔を上げた。

('、`*川「内藤さん。あれから調子はどう、何か思い出せたかしら?」

( ^ω^)「・・・?」

そう言われても僕には何のことなのか見当もつかずただ無言で数度瞬きする。
それでも女はただ無言で僕の口元を見ている。
いつまでも黙っていてもどうしようもないので仕方なく口を開く。

( ^ω^)「何を言っているんですかお?
      そもそも、ここは何処ですかお? あなたは誰なんですかお?」



8: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/15(日) 14:56:18.75 ID:pf9ab4w70
女は溜息を付き持っていたクリップボードをデスクに置く。
座ったまま前髪を掻きあげて身を乗り出し僕の目を覗き込みながら言う。

('、`*川「ここは、『あかかぎクリニック』。
     私はペニサス伊藤。ここの医師よ。また忘れてしまった?」

僕は何も忘れてなどいない。思い出すべきことなど何もない。
この女は何を言っているのだろう。

( ^ω^)「忘れるも何も。
      僕は家で小説を書いていて、煙草を買いに出たんですお。
      こんな所は知らないし、来た覚えもなくて当然ですお」

女は、そう、と言いまた溜息を付く。
気だるげに机上のクリップボードを拾い上げてちらちらと僕の顔を見ながらまた
何事かを書き込みまた机に戻して僕に向き直る。

('、`*川「分かったわ。
     気にしなくても大丈夫よ。良くあることだから。
     あまり気にしないで頂戴」

そう言って脚を組み替える女の腰の下で粗末なスツールがぎしりぎしりぎしりと音を
立てて彼女の尻を支える。僕はそれをただ見ている。



9: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/15(日) 15:02:14.19 ID:pf9ab4w70
('、`*川「そんなに焦らなくてもいいのよ。
     不安に思うかもしれないけれど、時間を掛けていけば大丈夫だから。
     ゆっくり思い出していけばいいのよ。ね?」

( ^ω^)「僕は何も忘れてないお。おかしいのはそっちの方だお。
      僕はこんな所に来た覚えはないんだお。とにかく帰らせてもらうお」

そう言い放つと僕はまた眩暈を覚え目頭を押さえながらもドアノブを掴み回す。

その瞬間意識が途切れまた気が付くと路上に立っている。

腕時計を見ると家を出てから2時間以上が経過していた。その間僕が何をしていたのかは
分からないが妻に無用な心配を掛けるわけにも行かず煙草は諦めて家に戻ることにした。



11: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/15(日) 15:08:30.42 ID:pf9ab4w70
  (3)

何日も部屋に篭り切りになっているが執筆は一向に進まず、久しぶりに顔を出した
編集者も部屋中に散らばった丸めた原稿用紙と僕の顔を見てから他人行儀な挨拶だけ
残して足早に家を出て行ってしまった。

( ^ω^)「書けないものは書けないんだお」

編集者が帰って数分以上後に僕は呟いたがそれでどうなるものでもない。仕方なく
机に向かうがやはり取りとめもないアイデアは決して具体的な形を見せてくれることは
なく今日も途方に暮れて椅子に座ったまま鉛筆を削っていると深夜になってしまった。

妻は体調を崩して臥せっている。
今も寝室から途切れ途切れに咳き込む音が聞こえて来る。
できることなら代わってやりたいがそんなことは不可能だ。

薄い夜着を着こんで布団に包まり眠っている妻の胎内で育ちつつある新しい命は
出産日が間もない今ではその姿は人間のものと同様の四肢を恐らく備えている。
出産は楽しみだが妻の体調は気懸りだ。

( ^ω^)「ツン。大丈夫かお。
      僕にできることはないのかお。僕はツンが心配なんだお」

椅子の背もたれに寄り掛かり溜息をつきながらひとり呟く。
妻の体調が思わしくないことが執筆が進まない理由だということは明確だった。

結婚して5年目でやっと授かった子供に僕達は涙を流して喜んだ。生まれたらどんな
名前を付けよう、男の子ならこんな名前で女の子ならこんな名前でそしてどんな産着を
着せてどんなベビーベッドに寝かせてどんな歌を歌ってどんな絵本を読み聞かせようかと
僕達はそれだけのことを丸一晩眠らずに話し合った。



12: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/15(日) 15:14:20.63 ID:pf9ab4w70
妻は食事の時や二人でベッドに入る時や散歩の間やあるいは何もせずにただ膨らんで
いく子宮を抱えて安楽椅子に座って寛いでいるときにさえ不意に声を上げて泣いた。

ξ;凵G)ξ「ありがとう、ブーン。ありがとう、私幸せよ。
        大事にしようね、大事に育てようね。たった一人の子供だもの。
        いっぱい愛してあげようね」

涙を拭いながらそう呟く妻を見ている内に僕も同じように耐え切れず涙を流して妻を
強く抱きしめてその度毎に幸せを実感した。

僕は幸せだった。

臨月が迫るまでに僕は恐怖物のアンソロジーと下劣で低俗なグロテスク物を書いた。
どちらも妻が見れば卒倒するような内容だったがそれでもそれらは僕の作品だ。

けれども妻の体調が悪化してから後はすべてが悪くなる一方だった。
僕は取材と思索の為の時間を削って妻に付き添い看護をし、病院に連れて行き身の
回りの世話をして家事をこなした。それと反比例するように筆は鈍っていった。

妻のことを第一に考えるならば自分自身のことは後回しにしなければいけないがそう
していれば逆に執筆のペースは落ちるばかりで、ついにどれほど根を詰めて机に張り
付いても箸にも棒にもかからないような愚劣極まる駄文しか書けなくなっていた。

そのジレンマに僕は追い詰められつつあった。

妻との会話も気晴らしにもならず机に向かえば頭を抱える日々が続いていて僕は自分の
精神が危険な状態に近づきつつあることをはっきりと自覚していた。けれども妻に負担を
掛ける訳にはいかずそのことを誰にも打ち明けられないまま時間だけが経っていく。



14: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/15(日) 15:20:58.08 ID:pf9ab4w70
その日僕は思い立ち寝室のドアをノックした。

( ^ω^)「ツン、大丈夫かお。
      煙草買いに行って来るお。いい子にして待ってるんだお」

ξ゚听)ξ「お願いブーン、早く帰ってきて。
       私、寂しいの。一人でいると頭がおかしくなってしまいそうなの。
       お願いだからすぐに帰ってきて」

乾いて掠れた声で妻はそう言い僕はそれに曖昧な頷きを返して家を出た。

向かう先は駅前のコンビニエンスストアではない。駅前の交差点に続く見慣れた通りを
記憶を探りながら徘徊しようやく「あかかぎクリニック」の看板を見つける。心療内科。
僕はその入り口のドアをそっと開き中の様子を窺った。

入ってみるとそこは普通の内科とさして変わらないこじんまりとした待合室だった。

こういう場所では極力病院のイメージを与えないよう普通の居室のような内装にする
のが普通ではないかと思ったが他の心療内科を訪れたことがないので正しいか
どうかは定かではない。

それに精神病院と心療内科はそもそも別物のなのでこれはこれでいいのかもしれない。

保険証を受付に出して何をするでもなく粗末なビニル製のソファに腰掛け脇の本棚に
詰め込まれたよれよれの週刊誌の表紙の既に話題遅れな事件記事に目を通していると
内藤さん、内藤さん、と受付から声を掛けられる。

僕は返事をせずに立ち上がり黙って奥の診察室に続くドアノブを引いた。



15: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/15(日) 15:27:26.57 ID:pf9ab4w70
  (4)

その部屋は部屋は白い内装の小さな部屋だった。
壁に沿って設えられた棚の中にはガラスやプラスチックのビンが並んでいて蛍光灯の
明かりを反射しており、僕はその部屋の中央にある小さな椅子に両手を揃えて座っていた。

白衣を着た女が僕の正面に座っておりデスクの上に広げたノートにシャープペンシルで
何事かを書き込んでいたがやがて顔を上げ無表情に言った。

('、`*川「始めまして。あなたが内藤さんね」

僕はこの女とは初対面ではないはずなのだが彼女にとっては違うようだ。

僕はここにいて彼女と向き合い彼女に意味不明な言葉を掛けられたのだがそれは
僕の記憶違いだろうか。そうだとするならなぜ記憶に残るこの場所にこの心療内科が
存在するのだろうか。

( ^ω^)「いや、何日か前に会いませんでしたかお」

('、`*川「いえ、初めてね。
      私はあなたのことを知らないわ。他人の空似ではないの?」

( ^ω^)「そんなはずはないお!」

僕は机を叩き立ち上がるがその拍子に机の上に置かれたノートの上に置かれた鉛筆が
ころころと転がり床に落ちる。彼女はその様子をただ無表情に見つめている。

('、`*川「分かったわ。あなたは、前にもここに来たことがあるかもしれない。
     私とあなたは初対面ではないかもしれない。これで満足?」



17: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/15(日) 15:33:39.74 ID:pf9ab4w70
全くの無表情を続けている女の思考を僕はどうしても読み取ることができずどう考えても
理不尽な態度を取ったのは女の方のはずなのに、妙に気恥ずかしい気分になって
黙って腰を下ろす。

女は黙って無表情で床に屈み込み鉛筆を拾い上げると聞く。

('、`*川「自己紹介が遅れたわね。
     私はペニサス伊藤。ここの医師よ。
     それじゃ、あなたの話を聞かせて貰えるかしら」

僕は頷き白い天井を見上げながら妻の妊娠を発端としたここ数ヶ月の出来事と僕自身の
心境を話し始める。女医は何も言わず口を挟むことすらせずに黙って僕の顔を見つめ時折
手元のノートに視線を落として細かい文字をそこに書き込んでいく。

( ^ω^)「・・・そして妻との会話も気晴らしにもならず机に向かえば頭を抱える日々が
      続いていて僕は自分の精神が危険な状態に近づきつつあることをはっきりと
      自覚していたお」

僕の話を聞きながら女はノートに鉛筆を走らせる。

( ^ω^)「けれども妻に負担を掛ける訳にはいかずそのことを誰にも打ち明けられない
      まま時間だけが経っていったんですお」

僕が長い話を終えて黙りこくると女もノートに何やら書き込むのをやめて顔を上げ僕を見て
口を開く。その唇には薄い色の口紅が塗られている。僕はそれをじっと見ている。

('、`*川「ありがとう、では私からいくつか、質問をするわ。
      あなたの今の心の状態を測るためのものなので、正直に答えて」

僕は頷き姿勢を正す。



19: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/15(日) 15:40:27.34 ID:pf9ab4w70
('、`*川「まず・・・あなたはストレスやプレッシャーに強いほうだと思いますか?」

( ^ω^)「強いほうだと思いますお」

僕の答えを聞きながら女は再びノートに書き込み始める。かりかりかりかりと炭素が
紙の表面を擦る音が断続的に響く。
質問は続く。

('、`*川「この一週間で一番腹が立った出来事と、その理由を教えて下さい」

( ^ω^)「書きかけの原稿を間違えてシュレッダーに掛けてしまったことですお。
      一日の努力が無になってしまったからですお」

('、`*川「一昨日の夕食のおかずは何でしたか? 思いつく限り教えて下さい」

( ^ω^)「焼き魚と味噌汁だけですお」

('、`*川「誰かを殺したい、もしくは傷つけたいと本気で思ったことがありますか?」

( ^ω^)「一度もないですお」

('、`*川「政治家のスキャンダルばかり掲載されているような週刊誌を読みますか?」

( ^ω^)「全く読みませんお」

('、`*川「明らかに自分に非がある場合でも、それを他人に指摘されると不愉快ですか?」

( ^ω^)「そんなことはないですお」



21: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/15(日) 15:46:26.24 ID:pf9ab4w70
('、`*川「あなたの命があと一分しかないとしたら、何をしたいですか?」

( ^ω^)「妻と一緒にいたいですお」

('、`*川「爪を噛む癖がありますか?」

( ^ω^)「ないですお」

('、`*川「自分の名前を覚えていますか?」

( ^ω^)「当然だお。僕は内藤ホライゾンですお」

('、`*川「和食と洋食と中華ではどれが一番好きですか?」

( ^ω^)「和食ですお」

白衣の女はどうでもいい質問を幾つも幾つも僕に投げ掛ける。
最初のうちは何も考えずに反射的に答えていたが平板な声で続くいくつもいくつもの
質問に僕は次第に辟易して投げやりな回答を返すようになる。

女はまたいくつもいくつもの質問を僕に投げ掛けてはその答えを聞いて何事かをノートに
書き込んでいく。かりかり。



23: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/15(日) 15:52:40.04 ID:pf9ab4w70
('、`*川「あなたは砂漠にいます。砂漠には亀がいます」

( ^ω^)「待ってくれお。なんで砂漠に亀がいるんだお?」

('、`*川「いいから、聞いて頂戴。あなたは亀を引っくり返します」

( ^ω^)「だから、なんでだお。何で僕はそんなことをしなくちゃいけないんだお」

('、`*川「内藤さん、これは心理テストなの。たとえ話。だから気にしないで。
      亀は引っくり返って動けません。砂漠の灼熱の陽の下で、起き上がる
      ことのできない亀はやがて干からびて・・・」

( ^ω^)「やめてくれお。もう、やめてくれお!」

かりかり。かりかり。

('、`*川「分かったわ。質問を変えるわね。あなたは奥さんを本当に愛していますか?」

( ^ω^)「当たり前だお」

('、`*川「奥さんはあなたを本当に愛していますか?」

( ^ω^)「・・・」

('、`*川「お子さんが産まれたら、奥さんの愛情はあなたとお子さんのどちらに
     向くと思いますか?」

( ^ω^)「・・・それが、僕の精神状態と何の関係があるんだお」

かりかり。かりかり。



26: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/15(日) 16:02:27.12 ID:pf9ab4w70
('、`*川「奥さんが妊娠している間、性行為を行いましたか?」

( ^ω^)「・・・答える必要性を、感じないお」

女医は鉛筆を動かす手をぱたりと止めて無表情に僕を見、そして思い出したように
僕の顔もろくに見ずにまたノートに鉛筆で何事かを書き始める。この女はいつまで
書いているのだろう。この女はいつまでノートを見ているのだろう。

('、`*川「あなたの診断のためよ。答えて頂戴。
     性行為の際に積極的なのはどちらですか?」

( ^ω^)「それは本当に必要な質問なのかお?」

('、`*川「一度の性行為で奥さんに複数回のオーガスムを感じさせたことがありますか?」

( ^ω^)「僕の質問にも答えてくれお」

('、`*川「どんな体位で性行為を行う頻度が一番高いですか?」

( ^ω^)「僕の話を聞いてるのかお? 答えてくれって言ってるんだお!」

('、`*川「屋外で性行為を行ったことはありますか?」

( ^ω^)「・・・」

('、`*川「奥さんの身体を拘束したり目隠しするなどした状態で性行為を行ったことは
     ありますか? もしくはあなた自身が拘束されたり目隠しされるなどの状態で
     性行為を行ったことはありますか?」

この女は何を言っているのだろう。



30: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/15(日) 16:10:04.04 ID:pf9ab4w70
僕は答えるどころか口を開くことさえ忘れて質問を続ける女の薄い色の口紅が塗られた
唇が途切れずに動きその隙間から小さな白い歯と肉色の舌が時折覗くのを黙って見ている。

('、`*川「奥さんとの性行為を第三者に見られた、または見せたことはありますか?」

('、`*川「バイブレータなどの器具を使用したことがありますか?」

('、`*川「肛門性交を行ったことはありますか? または行いたいと思いますか?」

('、`*川「性行為の様子をビデオカメラ又はカメラで撮影したことはありますか?
     またそれをインターネットなどを通じて不特定多数の他人が閲覧可能な状態に
     したことはありますか?」

('、`*川「自分の目の前で自慰行為を行うよう奥さんに強要したことはありますか?」

( ^ω^)「・・・やめるお」

('、`*川「あなたは、奥さんの」

( ^ω^)「もうやめるお!」

僕は立ち上がり叫ぶ。女は驚いたように書くのを止めて顔を上げ視線を僕の顔に向けて、
なぜ逆らうの、とでも言いたげな目で僕うを見てまたノートに視線を落とす。

何故だか分からないが急に腹が立ち僕は机の上の女のノートを手で払いのける。
ノートは女の手を離れ開いた面を上にして机の上から落ちくるくると水平回転しながら
飛び壁に当たって白い床に落ちる。

覗き込んだそのノートには一面にびっしりと細かい文字が書かれておりこの距離からでは
僕には判読できない。



33: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/15(日) 16:16:41.19 ID:pf9ab4w70
( ^ω^)「不愉快だお。帰らせてもらうお」

女は無言で床に落ちたノートをじっと見続けている。

何度か鉛筆を持ったままの手元と床に落ちて開いているノートを見比べてそれから
ゆっくりと立ち上がり屈んでノートを拾い上げ二三度埃を払ってまた机に戻し無表情のまま
僕の顔をじっと無言で見る。

('、`*川「内藤さん。あなたのためよ。あなたのために私は質問しているの」

( ^ω^)「うるさいお。冗談じゃないお」

不快極まりない。

僕は大変で身重で病気の妻の世話もしなくてはいけなくてその合間に執筆をしなければ
いけなくてそれで僕は自分の精神が危険な状態に近づきつつあることをはっきりと自覚して
いてどうにかしなければいけないと思って何故か記憶に残るこの心療内科にやってきたのだ。

それなのに何故ここまで不快な気分にさせられて僕と妻の間の愛情も疑われて下世話な
質問ばかり浴びせかけられなければいけないのだろう。僕は惨めで悔しくて泣きたくなり
腹立ち紛れにL字型のドアノブを思い切り捻って引き診察室から出た。

苛立ち紛れに靴音を高く慣らして僕は歩き自宅の前まで来る。
腕時計を見るともう随分遅い時間になってしまっていて僕は急いで玄関のドアを開く。
階段を駆け上り妻の寝室の前まで来ると呼吸を整えてからドアを開く。

そこは四つの病室が並ぶ心療内科の三階の病棟の白く狭くこじんまりとした廊下だった。

何度も目を擦ったが、それは変わらなかった。
僕はどこにいて、どこに来たのだろう。



35: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/15(日) 16:22:18.03 ID:pf9ab4w70
  (13)

僕は一つ目の扉の前に立ち鉄格子に覆われた窓ガラスの嵌め込まれた覗き窓から中を見る。

中では小太りの中年の男が鏡に向かって両手を動かしている。髭でも剃っているのかと
思うとそうではなく男は右手に握り締めたペンチで一本ずつ自分の歯を抜いては白い琺瑯の
洗面台に並べているのだった。

(´;ω;`) 「あがが、がっ――が、げぐっ」

上下の前歯は既に無くなっていて男はその隣に生えた犬歯を抜こうとしているところだった。
けれど丸く尖った歯は血と唾液に塗れていてぬるぬると滑りなかなか歯をペンチで挟む
ことができず男は難儀しながら口の端からピンク色の唾液を流しながら鏡に映る自分の
歯と格闘している。

ようやくペンチの先端が歯を捉えて男はペンチを持った右手をぎりぎりと何度か左右に
捻った後に左手を右手に沿え思い切り引き抜く。びちびちと嫌な音が窓越しにでもはっきり
と聞こえて飛び散った血液と肉片が鏡にへばりつく。

(´;ω;`) 「ふぁ、は、ががっ――ぎいいいいいぃぃっ」

男は首を激しく左右に振り叫び身悶えるが歯茎の纏わり付いた右上の犬歯をはさんだ
ペンチを握り締めた右手を支えた左手は決して離さずに身もだえしながらがたがたと
震える腕で歯茎の纏わり付いた右上の犬歯を洗面台の手前に並べる。

洗面台に置かれた歯茎の纏わり付いた右上の前歯と歯茎の纏わり付いた右下の前歯と
歯茎の纏わり付いた左上の前歯と歯茎の纏わり付いた左下の前歯が歯茎の纏わり
付いた右上の犬歯と擦れ合ってかりかりと音を鳴らす。かりかり。



36: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/15(日) 16:27:07.99 ID:pf9ab4w70
(´;ω;`) 「ごぼっ、はあが、あぐっ」

男は振り向き僕を見て何かを言おうとするが歯を失った状態ではうまく発音することが
できないらしく千切れた歯茎から血の泡と唾液と引き千切られて細かく繊維状に裂けた肉を
口から垂らしながら不明瞭な音声を発する。

下唇から流れる血液は白い衣服の襟元を真っ赤に染めている。

僕はそれをただ見ている。

僕は二つ目の扉の前に立ち鉄格子に覆われた窓ガラスの嵌め込まれた覗き窓から中を見る。

中では髪の長い痩せた女が床に這いつくばってベッドの下に片手を差し入れている。
落し物でもしたのかと思うとそうではなく女はもう片方の手と肩でベッドを持ち上げては床に
置いた手に落とし自分の手の指を一本ずつ押し潰しているのだった。

川 ; -;)「うあ、ひ、ひ――」

床に置いたその手の親指と人差し指と中指は既に潰された後で平らに伸びて破け
白い骨と黄色い脂肪と赤い血液の斑になって流れ出た血液は手元に血溜りを作っている。

どうにか女はベッドの足を5センチほど持ち上げてその下に親指と人差し指が砕けた
手の中指をピンと伸ばして差し込みそのまま勢いをつけてその上にベッドの足を落とす。

川 ; -;)「が、あぐっ!」

白く細いピンク色のマニキュアを塗って伸ばした爪の中指はベッドの重量にあっさりと押し
潰されて鈍い音と共に血液を飛び散らせ折れて飛んだ爪が一拍遅れて女の顔の横に落ちる。



39: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/15(日) 16:31:42.61 ID:pf9ab4w70
女は更にそのままベッドを支えていた手に力を篭めて親指と人差し指が砕けた手の中指を
下敷きにしたままのベッドの足をぐりぐりと動かし親指と人差し指が砕けた手の中指を
擂り潰す。骨と残っている爪がさらに砕かれてぱきん、ぱきんと音を立てる。ぱきん。

川 ; -;)「あう、は、ああ、ああああああ」

力が抜けるような声を漏らしながら女は続けて親指と人差し指が砕けた手の中指が
砕けた手の薬指を床に置く。

女は既に失禁しており白い床に広がる黄色がかった液体と砕けた指からぶら下がる肌色の
皮膚と脂肪と手骨の切れ端から滴る血液が床で混じり合い始めている。

僕はそれをただ見ている。

僕は三つ目の扉の前に立ち鉄格子に覆われた窓ガラスの嵌め込まれた覗き窓から中を見る。

中では痩せぎすで顔色の悪い男が壁際で体育座りの姿勢になったまま口元に手を当てている。
何か食べているのかと思うとそうではなく男は青い色のゴムホースを何十センチも飲み込んでは
吐き出し飲み込んでは吐き出しを繰り返しているのだった。

( ;A;)「ああ、ん、ふごっ、おごおおお」

男の足元に巻かれた青いゴムホースは先端から順に男の喉に押し込まれどんどん消えて
いきそれが数十センチにも達したところでそれ以上飲み込めなくなったのだろう、男の動きは
止まり口元にゴムホースを運ぶその動きも止まり今度は激しく両肩を上下させてゴムホースを
口から垂れ下がらせたままえずき始めている。

( ;A;)「おおおぉ、ご、ごぐ、ふ、げぼおっ」



41: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/15(日) 16:35:24.25 ID:pf9ab4w70
ついに耐え切れなくなった男は震える手で数十センチにも達する飲み込んだそのゴムホースを
両手で勢い良く口から引き抜く。男の口腔から押し出されるゴムホースは唾液と胃液と血液と
涙と鼻水に塗れて半透明の粘膜に覆われている。

唾液と胃液と血液と涙と鼻水に塗れて半透明の粘膜に覆われているゴムホースを吐きながら
同時に男は胃に残っていた胃液を口から噴出させる。

足元には黄土色の吐瀉物が一面に広がっているが男の胃は既に空のようで吐瀉物ではなく
黄ばんだ透明の胃液と一緒にどす黒い血液を吐く。

( ;A;)「うげあ、ぐごぼっ、ごぼっ」

男は茶色の服を着ていると思ったがそれは僕の見間違いで座ったまま嘔吐を繰り返した
彼の衣服は自分自身の吐瀉物と胃液に濡れそぼって茶色い色に見えているだけだった。

胃液と血液を吐き出しながら同時に唾液と胃液と血液と涙と鼻水に塗れて半透明の粘膜に
覆われているゴムホースを引きずり出しそれが全て終わると男は顔を伏せて力なくこほっ
こほっと咳き込む。こほっ。

僕はそれをただ見ている。
何だかとても疲れていてそして眠い。

僕は四つ目の扉の前に立ち鉄格子に覆われた窓ガラスの嵌め込まれた覗き窓から中を見る。

中には誰もいない。

目を落として窓の下にはめ込まれたプレートを見ると「内藤」と書かれている。



42: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/15(日) 16:40:31.04 ID:pf9ab4w70
  (2)

病室にある僕の机には僕が鉛筆を紙に走らせる音が響いている。
原稿用紙の升目は右上から始まり上から下へ右から左へ整然と埋め尽くされる。

筆圧が強いせいか柔らかい鉛筆の芯はその内折れてしまい乾いた音を立てる。
並べてある別の鉛筆と交換し書き始めるがまた折れてしまい別の鉛筆を手に取る。

ドアの向こうから乾いた咳払いの音が聞こえてきて僕は立ち上がり戸を開く。

暗がりの中には冬服を着た妻がかるく背を丸め口元に手を当てて咳き込みながら
窺うような視線で遠慮がちに僕を上目遣いに見てい。
また咳き込み僕をじっと見る。

ξ゚听)ξ「ブーン。診察の時間ですって。
      頑張ってね。私、あなたが戻ってくるのを待ってるから。頑張ってね」

( ^ω^)「分かったお。行って来るお。
      ツンも早く寝るお。今気を付けないといけないのは、ツンの方なんだお」

ξ゚听)ξ「うん。頑張って、早く出られるように頑張ってね」

妻はまた咳き込む。身体をくの字に折り曲げてがらがらと喉を鳴らして掠れた咳を
する。その下腹部は大きく盛り上がって冬服の腹部を暗闇でもはっきりそれと
分かるほど押し上げている。じっと見つめているともぞり、もぞりと動いているのが分かる。

妻の声に勇気付けられて僕はドアを開き病室の外に出る。



44: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/15(日) 16:45:42.47 ID:pf9ab4w70
地下にあるその病室は暗く壁は薄汚れて黄ばんでおりかび臭い臭いがするので
あまり好きではないので我慢しながら歩く。途中に三つの病室があったが照明が
不十分なために暗くて中の様子はよく分からないので無視して診察室に向かう。

廊下の突き当たりにあるエレベータで下って外に出るとすぐ正面に診察室の扉がある。
僕はそのドアを控えめにノックしてからノブを掴みそっとドアを開ける。

( ^ω^)「失礼しますお」

一声掛けて入ったその部屋は部屋は白い内装の小さな部屋だった。
壁に沿って設えられた棚の中にはガラスやプラスチックのビンが並んでいて蛍光灯の
明かりを反射しており、僕はその部屋の中央にある小さな椅子に両手を揃えて座った。

白衣を着た女が僕の正面に座っておりデスクの上に広げたレポート用紙にボールペンで
何事かを書き込んでいたがやがて顔を上げ無表情に言った。

('、`*川「おはようございます、内藤さん。
     早速、今日の問診を始めるわね」

ここは診察室だというのにその女医は煙草を銜えており女医が机の上に置いている
レポート用紙の脇に置いたクリスタルガラスの灰皿に積み上げられた吸殻の山を
見ながら僕は辟易している。

僕は煙草が嫌いだ。

( ^ω^)「先生。煙草は消して欲しいですお」

('、`*川「何故?」

( ^ω^)「臭いし、頭痛がしますお」



46: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/15(日) 16:52:07.90 ID:pf9ab4w70
女医は無言で僕の顔を見てまた手元のレポート用紙に視線を落とし顔を上げて無言で
僕を見た後に黙って煙草を灰皿に押し付け消す。灰皿から溢れた吸殻が机に零れ落ちて
灰を机の上に飛び散らせそれを見ている僕はまた気分が悪くなる。

いったいこの女はどれだけ煙草を吸えば気が済むのだろう。

灰皿から溢れた吸殻をそのままにして女医は脚を組み直し袖机の引き出しを開いてそこ
から何冊かの低俗な政治家のスキャンダルばかりが載っているような週刊誌を取り出し
そのうち何冊かを開いて中身を確かめ、うち一冊の中ほどのページを開いて僕の目の前に
差し出す。

('、`*川「これを読んでみて頂戴」

言われるがままに僕はその週刊誌を開き指し示された記事に目を通す。
「白昼に堂々の犯行 妊婦惨殺」という見出しがセンセーショナルさを繕った下品な縞状の
インクの染みを背景にしてでかでかと印刷されている。

( ^ω^)「これを読んで、それからどうすればいいんですかお?」

('、`*川「いいから読んで。話はその後にするから」

面倒くさそうに女医は自分だけやけに大きく高価な革張りの椅子の背もたれに大きく
身体をもたせ掛けて胸元のポケットから有名なブランドのメンソールの煙草の箱を
取り出して煙草を出しそれをくわえて火を点ける。

だらしなく開いたブラウスの首元から白い鎖骨と胸元が覗く。
僕はそれをただ見ている。



49: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/15(日) 16:57:33.66 ID:pf9ab4w70
しばらく黙ってその低俗な政治家のスキャンダルばかりが載っているような週刊誌を
膝に広げたまま女医を見ていたが彼女は何も言わずに煙草の煙を天井に向かって
吐き出しているだけなので仕方なくそこに書かれた文章に目を通すことにする。

文章は所々が黒く塗りつぶされており断片的にしか読むことができない。

「■■月■■日未明、■■さん(■歳)宅の玄関で■■ ■■さん(■歳)が倒れているのを
新聞配■員が発見し、警察に通報した。■■さんは首の■を■るなどの重傷を負っており、
至急■■病院に搬送されたがまもなく■■した。■■さんは妊■しており、病院ではこの
■■に対しても■■■■と■■■■のため必死の■■を続けたが、■■さんの数日後に
■■した。

夫の■■は事件の数日前から出張■■ており、警察は■■の留守中を狙った■■と見て
捜査を続けているが、未だ■■は見付かっていない。しかし、事件発■前日の深夜に■■
さん宅を■■■いた■審な■がいたとの目■■報もあり、この■が■■に■■している
■■■が■いと■て■き■き■■を■■■■■■■■。

事件を発見した■■配達員(■さん・仮名)は■る。
  A:そりゃあ■■■■■■■。■■■■■■が■■■、あの朝■■■■■■■■■。
   .それで■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■、慌てて■■■■■た。

――それは■■■だったのではないですか。

  A:■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■。
   .あれは■■■■■■■■■■■。

――■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■可能性■■■■■■■。

  ■:■■■■■■■■■■■よ。
    .■■■■■■■■■。■■■■■■■■■■■きっとあの■が■■■■■■」



52: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/15(日) 17:02:03.97 ID:pf9ab4w70
後半部分はほとんど黒く塗りつぶされておりほとんどの箇所は読むことができなかったが
それでもどうにか判読可能な部分だけをその低俗な政治家のスキャンダルばかりが載って
いるような週刊誌から拾い読みする。

何度か繰り返し目を通してから顔を上げると女医が僕の顔を無表情で無言でじっと覗き
込んでいる。

( ^ω^)「読みましたお」

('、`*川「そう。それで、あなたはどう思った? その記事を読んで」

そう言われても僕にはよく意味が分からない。死んだ人間は可哀相だが僕には何の縁も
ゆかりもない話でせいぜい僕の妻が同じような目に遭わされないように気を付けるだけだ。

そう言うと女医はまた無表情で僕の目をじっと覗き込む。

('、`*川「分かったわ。
      それじゃ、もう少し詳しい話をしましょうか」

そう言って女は頷き机の二段目の引き出しから分厚いファイルを取り出して音を立てて
机の上に置き開いてページを繰りやがて目当てのページを見つけるとそれをファイルから
取り出して目の前に置き見ながら話し始める。



54: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/15(日) 17:06:41.71 ID:pf9ab4w70
('、`*川「■■さんはその時自宅に侵入していた誰かに呼び出されて玄関に出たわ。
     そこで■■は待ち構えていて、降りてきた■■さんの髪の毛を掴んで玄関
     ポーチ脇の下駄箱の角に叩き付けた。

     余りにも強い力で引いたせいで■■さんの頭皮は剥がれて髪の毛ごと千切れたわ。

     ■■さんは軽い脳震盪を起こしてそこに座り込んだ。けれど■■は容赦せずに
     ■■さんの首筋を掴んで今度は階段の角に側頭部を打ち付けた。

     ■■さんは悲鳴を上げて、必死で両手で顔を庇った。
     でも、自分のお腹に赤ちゃんがいることを思い出したの。
     だから顔から手を離して膨らんだお腹を守るようにうずくまった。

     階段の角に13回も頭を打ち付けられて、■■さんのこめかみは骨折したわ。
     耳は千切れかかって、頬の横にぶら下がっていた。

     けれど赤ちゃんの命は自分の命よりも大事だった。だから■■さんは自分の
     身を守ることをやめて、ただ大きくなったお腹を庇ってじっと動かなかったわ。

     ■■はそれを見て■■さんが失神したと思ったのでしょうね。
     倒れた■■さんをその場に残して奥の部屋に向かおうとした。

     そして■■さんは、その■■の様子を見て、■■が■■さんに■■を加える
     ことを諦めたと勘違いした。
     衣服のポケッ■から携帯電■を取り出して、■■■電話を■けようとした。

     ■■は驚いたわ。あれだけ痛めつけて、もう死んだか■■したとばかり思っていた
     ■■さんが起き上がり、助■を求めようとしたの■■■。



57: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/15(日) 17:13:18.96 ID:pf9ab4w70
     どんなに痛めつけてもどんな■■■■■ても、■■さんはまた起き上がって
     逃げ■■■、あるいは助けを求めようと■■かもしれない。

     だから、■■は決心したわ。■■さんを■さなければいけない。
     二度と起き上がって■ないように■■を■■なければいけない。

     そう思■■、階段の段差に寄り掛かるように倒れた■■さんの■■を思い切り■った。
     その衝撃は、両手で■■を庇ったぐらいでは全然防げるような■■ではなかった。
     ■■さんは■■しながら階段から転げ落ちて玄関に■を向けて■れた。

     ■■の蹴りのせいで両手の■■■が■れていたけれど、■■が■■ではなかった。

     ■■さんは、その時■■したのよ。

     ■液が混じった■水が■から■■出しているのが彼女には分かったわ。
     ■■と■■■■■ウェアの■■に染みが広がっていた。
     ■■さんは折れた両手で必死に■■を体の中に押し戻そうとして押さえた。
     
     ■■はそんな■■さんのお腹を、体重を掛けて■■だ。
     大人一人分の体重を■■に■■られた■■さんの■■器は■■■■■■され大きく
     裂けた。そして■■■■■■音を■■■■■と■液が噴き出た。

     出てきたのはもちろんそれだけではなく■■が出きってしまった後に、もう■まれる
     寸前だった■■さんの■■■■が■■■■で■■さんと■■■■まま押し出されて
     フローリングの床に落ちたわ。

     ■■さんはそれに気付いた。気付いて泣きながら■■■をしたわ。このことは
     誰に■言わな■■■すぐに■■■を呼んで欲しい、自分は■■■■■■いいから
     この■だけは■■て欲しいと■■■■も泣き■■■■っ■。



59: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/15(日) 17:19:11.33 ID:pf9ab4w70
     その時フローリングの床に■み落とされた■■さんの■■■■■■■を上げた。

     ■■は■■みより■■■■■■■■を感じたわ。

     ■■聞き付けて■■■来るかも■■■■■■から。
     ■■■■■■■■■一度■を振り上げ今度は■■■■■■■■■した。

     ■■くて■■かい■■ゃんの■■はたっ■■一踏■で■れて■■■■■が■■や
     ■や■や■■や■■や■■や■■■■■■■■■。

     そ■■は■まれて■■て上げる■■■■■をすら最後まで続ける■■がで■■■
     ■■■。その■■は■■■■■手足はぴ■■■■■■■■■■■それ■もう■■■に
     なった■■■反応に■■■その■は既に■■■■いた。

     ■■■■■■は■度■何度も■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■。

     ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■り未発達■■■■■■から
     ■■■■■■■■■■らせ■■■■■■■■■■■■■半分■■■■■■■■
     ■■■■■■■■■■■■視神■■繋が■た■■■■■■■■■■ら■ぐ■■ずに
     な■た■■の■■■■■■■■■る。

     ■■は大きく■■■■■■■■■■■■■■■に■■り■■■■■■■■■■でいる。

     それは■■■■■■■■■■■■■■■■■■もう■■■■■■認識できない」

僕はただ黙って部屋の中央にある小さな椅子に両手を揃えて座ったまま無表情に女医の
言葉を聞いているが後半部分は低くかすれてよく聞き取れない。全て話し終えて女医はただ
無表情に僕を見る。そしてまた煙草に火を点ける。

( ^ω^)「・・・その話が僕の治療と何の関係があるんですかお」



62: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/15(日) 17:25:04.92 ID:pf9ab4w70
僕はそれだけ言い返して部屋の中央にある小さな椅子に両手を揃えて座ったまま両方の拳を
握り締める。その両手はいつの間にか力を入れて握っていたようで指の付け根は真っ白になり
血管が薄く青く浮き出ていて小刻みに震えている。

女医は何も言わずにただ僕を見て天井に向かって煙草の煙を吐き出す。

( ^ω^)「そんな話、僕には何の関係も無いことですお。殺された人たちは可哀相だと
      思うけど、僕にはツンがいるから。だからせめてツンが同じ目に遭わされない
      ように気を付けることしかできませんお」

僕の妻は無事だ。そして身重で臨月で体調を崩して一日中寝込んでいる。
今日だって診察に向かう僕の所までわざわざ来て励ましてくれたのだ。
だから僕は頑張らないといけない。

なにを?

女医は粗末なスチール製の椅子に座ったままぱたんと音を立てて机の上のバインダーを
閉じる。それを壁のロッカーに仕舞おうと持って立ち上がったときそのバインダーの背中の
部分に貼られたラベルに書かれた文字が僕の目に飛び込む。検証調書。

立ち上がった女医は思い出したように僕を振り返り初めて感情を露わにして笑う。
下卑た嫌らしい表情でにやにやと笑って笑いながら言う。

('、`*川「でも、馬鹿よね。ふふっ。
      子供なんて後からいくらでも作れるんだから、大人しく自分の身を守ればいいのに。
      一匹ぐらい死んだって、どうってことないでしょうにね」

その言葉を聴くなり僕は自分でも分からない内に立ち上がり拳を握り締めたまま女医に
歩み寄り背後から書類棚に向けて突き飛ばした。女医は声も上げずに前のめりに倒れ書類棚
に手を突くとガラスが割れて女医は手を切った。



65: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/15(日) 17:30:22.09 ID:pf9ab4w70
僕は自分でも何をしているのかよく分からないまま手を押さえて座り込む女医の襟首を
後ろから掴んで引き摺り立たせ部屋の隅のベッドに向かって突き飛ばす。
倒れ込んだ女医の両肩を掴んで無理やり仰向けにし着ていた白衣を荒々しく剥ぎ取る。

('、`*川「内藤さん、何をするのっ」

そう言われても僕自身も自分が何をしているのか分からない。ただ女医が下卑た嫌らしい
表情でにやにやと笑って笑いながら言うのを聞いているうちにとても悲しく悔しくそして耐え
がたい怒りを感じてその自分の感情に従って行動しているだけだ。

気が付くと僕は涙を流しながら女医に覆い被さっている。

( ;ω;)「・・・」

荒々しく女医のブラウスを剥ぎ取り荒々しく女医のスカートを剥ぎ取り荒々しく女医の
ストッキングを剥ぎ取りブラジャーを剥ぎ取り荒々しく女医のショーツを剥ぎ取りながら
何故だか分からないが僕は泣いている。泣きながら黙って女医の服を剥ぎ取る。

そして裸になった女医の肩に手を掛けて力任せにこちらを向かせる。

女医は妊娠している。

乳房は硬くなって腫れぼったくなっていて乳首は授乳期に特有の色素の沈殿を示して
黒ずんでいる。そして腹部も膨らんでいてその伸び切った腹部の皮膚には妊娠線が
はっきりと現れて腹部を上から下に一直線に断裂した皮膚の弾性繊維が所々盛り
上がりあるいはへこんで蜘蛛の巣状に赤白い模様を女医の腹の表面に刻んでいる。

女医は激しく咳き込む。身体をくの字に折り曲げてがらがらと喉を鳴らして掠れた咳を
する。その下腹部は大きく盛り上がってはっきりそれと分かるほど押し上がっている。
じっと見つめているともぞり、もぞりと動いているのが分かる。



68: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/15(日) 17:35:53.46 ID:pf9ab4w70
('、`*川「そんなに焦らなくてもいいのよ。ふふっ。
      不安に思うかもしれないけれど、時間を掛けていけば大丈夫だから。ふふっ。
      ゆっくり、していけばいいのよ。ね? ふふっ」

彼女の臨月の腹部を僕はただ見ている。切れた手首から流れた血液が肘を伝って滴り
脚を開いた女医の乾いた女性器と陰毛とそして臍の窪みに落ちるのをただ見ている。

携帯電話から場違いに明るい音楽が流れる。

番号は自宅のものだ。電話に出るとその向こうからがらがらと喉を鳴らして掠れた咳を
しながら妻の困り果てた声が遠慮がちに聞こえてくる。

ξ゚听)ξ「ねえブーン、聞いて。外に警察の人がたくさん来てるの。
       何を言っているのか全然分からないけど、ブーンを出せって騒いでるの。
       怖いの、私怖いわ」

( ^ω^)「分かったお。ちょっと行ってくるんだお。
      いい子にして待ってるんだお」

ξ゚听)ξ「お願いブーン、早く帰ってきて。
       私、寂しいの。一人でいると頭がおかしくなってしまいそうなの。
       お願いだからすぐに帰ってきて」

僕は頷いて心療内科を出る。

まだ春を迎えていない晩冬の深夜の寒さはコート無しに出歩くには少し厳しくて僕は羽織った
ジャケットの襟に首を埋めながら早足に歩く。外気は重く冷たく吐く息は体内との温度差で白い
もやを形成して空中に拡散する。



71: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/15(日) 17:41:01.21 ID:pf9ab4w70
  (4)

僕は自分の部屋に戻り荷物を纏めている。これから警察に行かないといけないのでちゃんと
した服を着ていかなければいけないと思いスーツを探している。だがスーツは見付かったが
ネクタイがどうしても見付からない。

ネクタイはどこを探してもどこにも見付からないので椅子の背もたれに寄り掛かり溜息をつき
ながら上を見るとネクタイは梁に下がっていた。

いくつかの交差点を曲がりバス停を越えて横断歩道を渡るとそこは駅前の警察署だ。僕は
訳も分からずに警察署に出向くことになり自分が何をしたのかすら思い出せないまま取調べを
受けることになる。

僕はまだペニサス先生の治療が終わっておらず記憶が混濁して一昨日食べた夕食のおかずを
思い出すことすらできないというのに。

昼だというのに警察署の廊下はがらんとしていて薄暗く全く人の気配は感じられない。
僕は地味なスーツを着て地味な革靴を履いた地味な顔の刑事に連れられて取調室に向かう。

やっとのことで取調室のある地下13階まで来るとそこは四つの病室が並ぶ心療内科の病棟の
白く狭くこじんまりとした廊下に良く似ていて僕は促され一番奥の扉に入った。

そこは薄暗く粗末で殺風景な内装の小さな部屋だった。
壁に沿って設えられた棚の中にはファイルやバインダーの束が並んでいて蛍光灯の
明かりを反射しており、僕はその部屋の中央にある小さな椅子に両手を揃えて座っていた。

目の前にいる男が口を開く。

(´・ω・`) 「何度でも言うぞ。一番怪しいのはお前なんだよ。
      なあ、もう認めろよ。お前が殺したんだろ?」



74: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/15(日) 17:46:56.04 ID:pf9ab4w70
そう言って刑事は頷き机の二段目の引き出しから分厚いファイルを取り出して音を立てて
机の上に置き開いてページを繰りやがて目当てのページを見つけるとそれをファイルから
取り出して目の前に置き僕に見せつけながら話し始める。

('A`)「・・・」

扉の傍に立つ陰険な靴を履いて陰険なスーツを着た陰険な顔の刑事は黙ってただ僕を
見ている。この刑事も僕を犯人だと思っているのだろうか。

僕は何もしていないし何も思い出せないしそもそ死んだ人間は可哀相だが僕には何の縁も
ゆかりもない話でせいぜい僕の妻が同じような目に遭わされないように気を付けるだけだと
いうのに。

(´・ω・`) 「見ろよ」

地味な顔の刑事は机の上に開いたファイルのページを何度か捲って何枚かの写真が収め
られたページを開き僕の目の前に突き出して言う。

(´・ω・`) 「見て、思い出せよ。
      ひどいよなぁ。■■もこの子も報われないよなぁ。
      なあ、なんだってこんな真似をしたんだ」

そう言いながら僕の目を見る。しかしその写真を見ても僕には何の事かさっぱり分からない。

なぜなら刑事が男が僕に突き付ける写真に映っているのは屠殺場の水槽に浸かっている
親子の豚の写真なのだから。

僕は突き付けられるままに写真の束を受け取り何枚か捲ってみるが映っているのはやはり
豚の親子の解体過程だけだった。



76: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/15(日) 17:56:53.35 ID:pf9ab4w70
僕はじっとその写真を見る。
見ているうちにその写真に写った豚が自分の運命に気付いているのだと分かる。

母親の豚は気付いて泣きながら命乞いをしていて、このことは誰にも言わないからすぐに
救急車を呼んで欲しい、自分はどうなってもいいからこの子だけは助けて欲しいとそう
何度も泣きながら言っているように見える。

でもそれは所詮家畜だ。

( ^ω^)「仕方ないですお。殺してバラバラにしないと食べられないんですお。
      元々殺されるために生まれて育てられるんだから、当然のことですお」

僕は当然の事を言っただけなのに何故か地味な顔の刑事は血相を変えて立ち上がり
落ち着かない様子で扉の前に立つ陰気な顔の刑事に言う。

(;´・ω・)「おい、聞いたか今の」

('A`)「・・・」

陰気な顔の男も緊張した面持ちで頷き懐に手を入れて落ち着かなそうな様子を見せそれを
見ながら僕は何故家畜を殺して食べることがいけないことなのか分からないまま黙っている。

(;´・ω・)「お前、まさか食べたのか」

( ^ω^)「当たり前ですお。いつも食べてますお。
      刑事さんだって同じじゃないですかお?」

そう言った瞬間刑事は立ち上がり僕の後ろに回り力任せに僕の襟を後ろから掴んで引き摺り
立たせ部屋の中央の机に向かって押しつける。倒れ込んだ僕の両肩を掴んで無理やり仰向け
にして顔面を掴み机に叩き付ける。



77: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/15(日) 18:04:39.61 ID:pf9ab4w70
(#´・ω・)「お前ふざけんなこの野郎っ、ぶっ殺してやるっ」

叫んで刑事は僕の髪の毛を掴んで粗末な事務机の角に叩き付けた。余りにも強い力で引いた
せいで僕の頭皮は剥がれて髪の毛ごと千切れ机に衝突した前歯が折れて僕の口の中で擦れ
てかりかりと音を立てる。

僕は何をした覚えもないのにいきなり刑事に捕まれ顔面を粗末な事務机に叩き付けられたので
とても怖くなり同時にこれはひどい人権侵害ではないかと気付いて妻に電話を掛けようとズボン
のポケットに入れた携帯電話を取り出してボタンを押そうとする。

それを見た刑事はどんなに痛めつけてもどんな目に遭わせても、僕はまた起き上がって逃げようと、
あるいは助けを求めようとするかとでも思ったのだろう、粗末な事務机に寄り掛かるように倒れた
僕の携帯電話を持った右手を思い切り蹴った。

さらに刑事は僕の右手を踏み付ける。砕けた中指の手の骨と血液を飛び散らせ折れて飛んだ
爪が一拍遅れて僕の顔の横に落ち踏み潰されてぱきんと鳴る。

( ;ω;)「が、あぐっ!」

刑事はそんな僕のお腹を、体重を掛けて踏んだ。

大人一人分の体重を腹部に掛けられた僕の胃腸は過剰に圧迫され大きくへこんだ。同時に僕は
胃に残っていた胃液を口から噴出させる。足元には黄土色の吐瀉物が一面に広がっているが
僕の胃は既に空のようで吐瀉物ではなく黄ばんだ透明の胃液と一緒にどす黒い血液を吐く。

( ;ω;)「うげあ、ぐごぼっ、ごぼっ」

凄まじい音に部屋のドアが開き髪の長い痩せた婦警が顔を覗かせる。



79: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/15(日) 18:17:46.91 ID:pf9ab4w70
川 ゚ -゚)「・・・」

('A`)「・・・」

入り口の脇に立つ陰気な顔の刑事がその婦警に耳打ちする。
婦警は頷き、しかし両手を口に当てて顔をしかめ僕を見る。

刑事達は僕をただ見ている。
頭が痛い。
そして何だかとても疲れていてそして眠い。

視界が涙に滲み暗くなる。

次に目が覚めた僕がいたその部屋は白い内装の小さな面会室だった。

壁に沿って設えられた棚の中には屠殺場の豚の写真やバイブレータが並んでいて蛍光灯の
明かりを反射しており、僕はその部屋の中央にある小さな椅子に両手を揃えて座っていた。

目の舞にはペニサス先生がいて薄く微笑みながら顔を押さえる僕の目の前に立っていて
煙草をアルミの粗末な灰皿に押し付けて立ち上り消えていく煙草の煙を黙ってただ見ている。
そして薄く笑いながら口を開く。

('、`*川「もう大丈夫、これで大丈夫よ。
     もう障害は無いのよ。私たちを邪魔する奴はいないわ」

よく覚えていないが僕にはどうやら邪魔者がいるらしい。そしてペニサス先生がそう言って
くれるということは誰だか知らないがその邪魔者がいなくなったことは僕にとっても喜ばしい
ことなのだろう。

僕はペニサス先生を信じている。だが煙草は嫌いだ。



80: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/15(日) 18:27:03.30 ID:pf9ab4w70
('、`*川「痛かったでしょう、辛かったでしょう。
      誤認逮捕でここまでやるなんて、ひどい奴らね。
      でも、もう大丈夫。私達は、これでやっと自由になれる。どこへでも行ける」

どうやら僕は自由でどこにでも行けるらしい。それは僕が訳も分からず警察に捕まってつい
さっきまで取調べを受けていたことと何か関係があるのだろうか。

そういえば妻はどこに行ったのだろう。

結婚して5年目でやっと授かった子供に僕達は涙を流して喜んだ。生まれたらどんな
名前を付けよう、男の子ならこんな名前で女の子ならこんな名前でそしてどんな産着を
着せてどんなベビーベッドに寝かせてどんな歌を歌ってどんな絵本を読み聞かせようかと
僕達はそれだけのことを丸一晩眠らずに話し合った。その妻とお腹の子が待っている。

( ^ω^)「それは良かったお。
      先生、ツンに会いたいお。ツンは来ているのかお?」

僕が聞くとペニサス先生は少し表情を曇らせて奥さんは来ないわ、と言った。奥さんは来ない。
きっとどこか遠くに大事な用事があって、それで急いで行かなければいけなくなったの。

でも僕は妻に会いたい。僕は妻を本当に愛していてそして妻も僕を本当に愛していると今なら
自信を持って言うことが出来る。

ペニサス先生は立ち上がり僕の後ろに回り僕の顔にそっと手を添えて横を向かせ横を向いた
僕の頬にそっと唇を押しつけ、そして両手を優しく広げて僕の両肩を抱く。

('、`*川「大丈夫、大丈夫よ。
      もういいの。貴方は何も思い出せなくていいの。
      私と一緒にいてくれればそれでいいの」



83: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/15(日) 18:35:11.86 ID:pf9ab4w70
ペニサス先生は何故か泣いていて生温かい涙が伝う頬を僕の机の角に13回も机に叩き付け
られた頬に押し付ける。

('、`*川「私は、貴方のためにしたのよ。
      あなたのために、あんな・・・」

僕は幸せに感じなければいけないような気がしたがペニサス先生の唇は妻に比べて乾いて
いて腕は妻に比べて細く堅い。僕にしがみついたまま黙って泣いているペニサス先生を見て
いると僕は何故か取り返しの付かないことをしてしまったような気がしてひどく悲しくなり無意識
に爪を噛む。

妻に会いたいと思うが何故かもう二度と会えないような気がする。



84: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/15(日) 18:46:16.43 ID:pf9ab4w70
  (5)

家に帰るともうすっかり大きくなった娘が出迎えてくれ僕の脚にまとわりついてじゃれる。

ζ(゚ー゚*ζ「おとうさん、おそーい」

( ^ω^)「ごめんだお。最近ちょっと忙しくて、なかなか帰ってこられないんだお。
      明日はちゃんと帰ってくるから、許して欲しいお」

ζ(゚ー゚*ζ「ほんとに? ねえ、ほんとに?」

( ^ω^)「本当だお。だから今日はもう寝るんだお。僕のことは気にしないで、寝るんだお」

娘は満面の笑みを浮かべて頷いてから僕の足に一度ぎゅっとしがみつき何か言いたげな顔を
一瞬してから振り返ってぱたぱたと診察室に続く階段を駆け上がっていった。それと入れ違いに
妻が階段を下りてきた。

妻は妊娠している。

乳房は硬くなって腫れぼったくなっていて乳首は授乳期に特有の色素の沈殿を示して
黒ずんでいる。そして腹部も膨らんでいてその伸び切った腹部の皮膚には妊娠線が
はっきりと現れて腹部を上から下に一直線に断裂した皮膚の弾性繊維が所々盛り
上がりあるいはへこんで蜘蛛の巣状に赤白い模様を妻の腹の表面に刻んでいる。

ξ゚听)ξ「仕事はちゃんとやってるの?
       早めに終わらせて帰ってきたりしていないでしょうね」

そう言いながらくわえていた煙草を玄関の下駄箱の上にあるクリスタルガラスの灰皿に
押し付けて消し目を細めて僕を見る。僕は煙草が嫌いだ。それに妊娠している女性が
煙草を吸うのは自分にとってもこれから生まれてくる赤ちゃんにとっても良くない。



87: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/15(日) 18:57:30.70 ID:pf9ab4w70
( ^ω^)「ツン。煙草は消して欲しいお」

ξ゚听)ξ「何故?」

( ^ω^)「臭いし、頭痛がするお」

妻は無言で僕の顔を見てまた手元の火がついたに視線を落とし顔を上げて無言で
僕を見た後に黙って煙草を灰皿に押し付け消す。灰皿から溢れた吸殻が下駄箱に
零れ落ちて灰を下駄箱の上に飛び散らせそれを見ている僕はまた気分が悪くなる。

いったいこの女はどれだけ煙草を吸えば気が済むのだろう。

ξ゚听)ξ「私の事なんてどうでもいいでしょう。
       あなたは黙って働いていればいいの。家にお金を入れてくれればいいの」

( ^ω^)「・・・」

ξ゚听)ξ「分かる? あなたに子供を産む苦しみが分かる?
      身体のことだけじゃないのよ。お金がいるの。全然足りないのよ」

僕は下駄箱の上のクリスタルガラスの灰皿を見ている。

ξ゚听)ξ「出産費用も必要だけれど、それだけじゃないでしょう?
      体型を戻すのにエステにも行かなきゃいけないし、新しい服も買わなきゃ
      いけないし、アクセサリも新しくして、美容院にも行かないといけないの」

この女は何を言っているのだろう。

僕は答えるどころか口を開くことさえ忘れて話し続ける女の薄い色の口紅が塗られた
唇が途切れずに動きその隙間から小さな白い歯と肉色の舌が時折覗くのを黙って見ている。



89: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/15(日) 19:02:41.50 ID:pf9ab4w70
ξ゚听)ξ「いい? あなたの事なんてどうでもいいの。お金が必要なの。
      もうあなたがいなくっても子供は産めるもの。あなたは黙って稼げばいいの。
      死んでもいいからとにかく働けばいいの」

結婚して5年目でやっと授かった子供に僕達は涙を流して喜んだ。生まれたらどんな
名前を付けよう、男の子ならこんな名前で女の子ならこんな名前でそしてどんな産着を
着せてどんなベビーベッドに寝かせてどんな歌を歌ってどんな絵本を読み聞かせようかと
僕達はそれだけのことを丸一晩眠らずに話し合った。

僕は咳き込む。

身体をくの字に折り曲げてがらがらと喉を鳴らして掠れた咳をする。身体をくの字に折り曲げ
ながら見上げるその下腹部は大きく盛り上がって薄いレースの夜着を暗闇でもはっきりそれと
分かるほど押し上げている。じっと見つめているともぞり、もぞりと動いているのが分かる。

彼女の臨月の腹部を見ながら僕はまた咳き込む。

ペニサス先生のカウンセリングも気晴らしにもならず机に向かえば頭を抱える日々が
続いていて僕は自分の精神が危険な状態に近づきつつあることをはっきりと自覚していた。
けれども妻に負担を掛ける訳にはいかずそのことを誰にも打ち明けられないまま時間だけが
経っていった。

僕は体調を崩している。

ξ゚听)ξ「何よ、わざとらしく咳き込んだりして。仮病? 働きたくないの?
      やめてよね。もっとお金がいるの。もっともっといるの。
      働きなさい。死んでもいいからもっともっともっと働きなさいよ」

妻はそう言ってまた煙草に火を付けて深く吸い込み僕の顔に向かって吐く。僕はまた咳き込む。
僕はどうすればいいのだろう。ペニサス先生なら教えてくれるだろうか。



91: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/15(日) 19:08:02.68 ID:pf9ab4w70
ξ゚听)ξ「倒れたり死んだりするのは職場にしてよね。いい?
      保険金も出るし労災も下りるし、あなたの代わりに会社を訴えて慰謝料も貰うから。
      ここで勝手に死んで私に迷惑掛けたりしないで。分かった?」

僕はペニサス先生に会いたいと思う。

ペニサス先生にまた相談しに行こうと僕は振り返って玄関のドアに手を掛ける。するとドアは
音もなく静かに開いて男物の服を着てマスクをしたペニサス先生が入ってきて黙って僕の妻を
見つめる。

( ^ω^)「ペニサス先生。
       こんなところで何をしているんですかお?」

僕の顔を見た女医は思い出したように僕を振り返り初めて感情を露わにして笑う。
下卑た嫌らしい表情でにやにやと笑って笑いながら言う。

('、`*川「雌豚はその時自宅に侵入していた私に呼び出されて玄関に出たわ。
     そこで私は待ち構えていて、降りてきた雌豚の髪の毛を掴んで玄関
     ポーチ脇の下駄箱の角に叩き付けた。

     余りにも強い力で引いたせいで雌豚の頭皮は剥がれて頭の毛ごと千切れたわ。

     雌豚は軽い脳震盪を起こしてそこに座り込んだ。けれど私は容赦せずに
     雌豚の首筋を掴んで今度は階段の角に側頭部を打ち付けた。

     雌豚は悲鳴を上げて、必死で両前足で顔を庇った。
     でも、自分のお腹に赤ちゃんがいることを思い出したの。
     だから顔から前足を離して膨らんだお腹を守るようにうずくまった」

僕は振り返り妻を見る。



93: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/15(日) 19:13:17.51 ID:pf9ab4w70
妻は階段の段差に寄り掛かるようにして倒れていてその向こう側には4つの病室が並ぶ
心療内科の三階の病棟の白く狭くこじんまりとした廊下が見えていてその奥には水槽と
高圧電流を流すための設備を持った屠殺場とビデオカメラ又はカメラが見えている。

階段の角に13回も頭を打ち付けられて、雌豚のこめかみは骨折した。
耳は千切れかかって、頬の横にぶら下がっていた。

けれど子豚の命は自分の命よりも大事だった。だから雌豚は自分の
身を守ることをやめて、ただ大きくなった腹を庇ってじっと動かなかった。

女医はそれを見て雌豚が失神したと思ったのだろう。
倒れた雌豚をその場に残して奥の部屋に向かおうとした。

そして雌豚は、その女医の様子を見て、女医が雌豚に暴行を加える
ことを諦めたと勘違いした。
衣服のポケットから携帯電話を取り出して、警察に電話を掛けようとした。

女医は驚いた。あれだけ痛めつけて、もう死んだか気絶したとばかり思っていた
雌豚が起き上がり、助けを求めようとしたのだから。

どんなに痛めつけてもどんな目に遭わせても、雌豚はまた起き上がって
逃げようと、あるいは助けを求めようとするかもしれない。

だから、女医は決心した。雌豚を殺さなければいけない。
二度と起き上がってこないように止めを刺さなければいけない。

そう思って、階段の段差に寄り掛かるように倒れた雌豚のお腹を思い切り蹴った。
その衝撃は、両手でお腹を庇ったぐらいでは全然防げるような衝撃ではなかった。
雌豚は絶叫しながら階段から転げ落ちて玄関に頭を向けて倒れた。



95: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/15(日) 19:18:59.88 ID:pf9ab4w70
女医の蹴りのせいで両前足の中手骨が折れていたが、それが原因ではなかった。

雌豚は、その時破水したのだ。

血液が混じった羊水が体から流れ出しているのが雌豚には分かった。
下着とマタニティウェアの股間に染みが広がっていた。
雌豚は折れた前足で必死にそれを体の中に押し戻そうとして押さえた。

女医はそんな雌豚のお腹を、体重を掛けて踏んだ。
大人一人分の体重を腹部に掛けられた雌豚の女性器は内側から圧迫され大きく
裂けた。そして排泄音に似た音を立てて羊水と血液が噴き出た。

出てきたのはもちろんそれだけではなく羊水が出きってしまった後に、もう生まれる
寸前だった雌豚の子豚がへその緒で雌豚と繋がったまま押し出されて
フローリングの床に落ちた。

雌豚はそれに気付いた。気付いて泣きながら命乞いをした。このことは
誰にも言わないからすぐに救急車を呼んで欲しい、自分はどうなってもいいから
この子だけは助けて欲しいとそう何度も泣きながら言った。

その時フローリングの床に産み落とされた雌豚の子豚が産声を上げた。

女医は哀れみより先に焦りと危機感を感じた。

声を聞き付けて誰かが来るかも知れなかった。
だから反射的にもう一度足を振り上げ今度は子豚に振り降ろした。

小さくて柔らかい子豚の肋骨はたったの一踏みで折れて折れた肋骨が心臓や
肺や胃や肝臓や脾臓や腎臓や大腸に突き刺さった。



98: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/15(日) 19:23:39.13 ID:pf9ab4w70
その子豚は生まれて始めて上げる最初の産声をすら最後まで続けることができずに
死んだ。その身体はまだ温かく足はぴくぴくと痙攣していたがそれはもう抜け殻に
なった肉体の反応に過ぎずその命は既に失われていた。

激昂した女医は何度も何度も何度も何度ももう動かないその子豚を踏む。

四本の足は関節ではない場所から二重三重に折れ曲がり未発達な性器と肛門から
血液と破れた内臓を滴らせ踏み潰された頭蓋骨は変形して半分ほどの横幅になり
眼窩から破れてかろうじて視神経で繋がった眼球が垂れ下がり奥からはぐずぐずに
粉砕された大脳の蛋白質が流れ出ている。

胸郭は大きくへこんで破れた内臓と血液が腹腔に溜まり腹だけが異様に膨らんでいる。

それはへその緒で母体に繋がっていなければもう胎児だとすら認識できない。

終わってからペニサス先生は立ち上がり僕の後ろに回り僕の顔にそっと手を添えて横を
向かせ横を向いた僕の頬にそっと唇を押しつけそして両手を優しく広げて僕の両肩を抱く。

('、`*川「大丈夫、大丈夫よ。
     もういいの。貴方は何も思い出せなくていいの。
     私と一緒にいてくれればそれでいいの」

僕は幸せに感じなければいけないような気がしたがペニサス先生の唇は妻に比べて乾いて
いて腕は妻に比べて細く堅い。僕にしがみついたまま黙って泣いているペニサス先生を見て
いると僕は何故か取り返しの付かないことをしてしまったような気がしてひどく悲しくなり無意識
に爪を噛む。

僕は妻と娘を愛している。



102: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/15(日) 19:28:02.46 ID:pf9ab4w70
  (3)

何日も病室に篭り切りになっているが執筆は一向に進まず、久しぶりに顔を出した
看護婦も部屋中に散らばった丸めた原稿用紙と僕の顔を見てから他人行儀な挨拶だけ
残して足早に部屋を出て行ってしまった。

( ^ω^)「書けないものは書けないんだお」

看護婦が帰って数分以上後に僕は呟いたがそれでどうなるものでもない。仕方なく
机に向かうがやはり取りとめもないアイデアは決して具体的な形を見せてくれることはなく
今日も途方に暮れて椅子に座ったまま鉛筆を削っていると深夜になってしまった。

妻は体調を崩して臥せっている。
今も扉の向こうから途切れ途切れに咳き込む音が聞こえて来る。
できることなら代わってやりたいがそんなことは不可能だ。

雌豚の胎内で育ちつつある新しい豚は出産日が間もない今ではその姿は親豚のものと
同様の四肢を恐らく備えている。豚のソテーは楽しみだが今日のメニューは気がかりだ。
僕は洋食が好きなのにここでは焼き魚と味噌汁しか出てこない。

それにそろそろ診察の時間が近づいているので僕は執筆をやめて外に行き診察室まで
行って女医の診察を受けないといけない。

そう思って僕は立ち上がり部屋の外に出ようとするが拘束服が両腕にきつく食い込んでいて
どうしてもドアノブを回すことが出来ない。困っていると妻が代わりにドアを開けて僕を
手招きしてくれる。

ξ゚听)ξ「ブーン。診察の時間ですって。
      頑張ってね。私、あなたが戻ってくるのを待ってるから。頑張ってね」



106: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/15(日) 19:32:33.81 ID:pf9ab4w70
( ^ω^)「分かったお。行って来るお。
      ツンも早く寝るお。今気を付けないといけないのは、ツンの方なんだお」

ξ゚听)ξ「うん。頑張って、早く出られるように頑張ってね」

妻はまた咳き込む。身体をくの字に折り曲げてがらがらと喉を鳴らして掠れた咳を
する。その下腹部は大きく盛り上がって冬服の腹部を暗闇でもはっきりそれと分かる
ほど押し上げている。じっと見つめているともぞり、もぞりと動いているのが分かる。

彼女の臨月の腹部を僕はただじっと見ている。

ξ゚听)ξ「待って、ブーン」

何事かと思い振り返ると妻は布に包まれた弁当箱を取り出してそっと僕に渡す。

ξ゚听)ξ「はい、お弁当。たくさん入ってるから気をつけて開けてね」

( ^ω^)「ありがとうだお、ツン。行ってくるお」

僕はそれを受け取り歩き出すがその弁当箱がやけに重くそれに揺らすと水が入っているように
たぷんたぷんと揺れるのでどうしても気になり診察室の手前で布を解き弁当箱をそっと開けて
みる。

弁当箱の中には豚の胎児が何匹も何匹も詰め込まれている。

四本の足は関節ではない場所から二重三重に折れ曲がり未発達な性器と肛門から
血液と破れた内臓を滴らせ踏み潰された頭蓋骨は変形して半分ほどの横幅になり
眼窩から破れてかろうじて視神経で繋がった眼球が垂れ下がり奥からはぐずぐずに
なった大脳の蛋白質が流れ出ていてそれが僕の手を伝い零れる。
生温かい。



108: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/15(日) 19:39:09.11 ID:pf9ab4w70
僕は妻を見る。妻は思い出したように僕を振り返り僕の顔を見て感情を露わにして笑う。
下卑た嫌らしい表情でにやにやと笑って笑いながら言う。

ξ゚听)ξ「でも、馬鹿よね。ふふっ。
      子供なんて後からいくらでも作れるんだから、一匹ぐらい死んだって、
      どうってことないわよね。でしょう?」

よく覚えていないが僕にはどうやら子供なんて後からいくらでも作れるらしい。そして妻が
そう言ってくれるということは誰だか知らないが一匹ぐらい死んでもどうってことはないようで
僕にとっても喜ばしいことなのだろう。

僕は妻を本当に愛していてそして妻も僕を本当に愛していると今なら自信を持って言う
ことが出来る。

だが煙草を吸う妻は嫌いだ。

僕は黙って病室に戻った。
弁当箱は床に捨てた。



110: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/15(日) 19:44:31.00 ID:pf9ab4w70
  (2)

夜半になり風はますます強くなって家中に吹き付けていて部屋の梁が軋む。
少しだけ気になって見上げるが照明の陰になった天井の様子は見えない。

心療内科にある僕の書斎には僕が鉛筆を紙に走らせる音が響いている。
原稿用紙の升目は右上から始まり上から下へ右から左へ整然と埋め尽くされる。

筆圧が強いせいか柔らかい鉛筆の芯はその内折れてしまい乾いた音を立てる。
並べてある別の鉛筆と交換し書き始めるがまた折れてしまい別の鉛筆を手に取る。

( ^ω^)「出来たお」

僕は深く頷いて束ねた手元の原稿用紙を立てて何度か机で叩き角を揃える。
いろいろなことがあって、本当にいろいろなことがあってひどく混乱してしまったが
それでもどうにか書き上げることが出来たので満足して一服しようと机の上を見るが
そこには煙草の箱はない。

安っぽいアルミの灰皿に積み上げられた吸殻の山を見ながら僕は思案し迷った末に
外に出て煙草を補充することに決め椅子の背に掛けられたジャケットを羽織りドアを開く。

外に出るとそこは薄暗い警察の留置場に続く地下13階の廊下で曲がり角の先に診察室へ
続く階段室がある。僕は階段室に入り13階のボタンを押して診察室行きのエレベータが
来るのを待つ。もうすっかり大きくなった子豚が僕の脚にまとわりついてじゃれる。

エレベータの開いた戸から漏れてくる明かりが闇に慣れた僕の目には眩しく僕は目を閉じる。

目を開くとそこは駅前の路上ではなく白い内装の小さな部屋だった。
壁に沿って設えられた棚の中にはガラスやプラスチックのビンが並んでいて蛍光灯の
明かりを反射しており、僕はその部屋の中央にある小さな椅子に両手を揃えて座っていた。



111: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/15(日) 19:49:39.85 ID:pf9ab4w70
白衣を着た女が僕の正面に座っていた。
彼女は手にしたスケッチブックにクレヨンで何かを書き込んでいた。僕が何も言わずに
そのまま座っていると女はたっぷり一分程をかけてスケッチブックを見返してから顔を上げた。

( ^ω^)「先生、出来ましたお。
      力作ですお。是非先生に一番最初に読んで欲しいんですお」

('、`*川「ありがとう。嬉しいわ」

ペニサス先生は事務的な愛想笑いを浮かべて僕の持った原稿用紙の束を受け取る。
無言で僕の顔を見てまた手元の原稿用紙に視線を落とし顔を上げて無言で僕を見た後に
黙って煙草を灰皿に押し付け消す。

灰皿から溢れた吸殻が机に零れ落ちて灰を机の上に飛び散らせそれを見ている僕はまた
気分が悪くなる。僕は煙草が別に嫌いではないが煙草の煙を見ていると不快になる。

ペニサス先生はずいぶん長いこと僕の渡した原稿用紙を何度もめくりながらその中身を
見てまた僕の顔を見て煙草に火を付け、その動作を何度か繰り返した後に頷いて原稿用紙を
机の上に戻した。

('、`*川「分かりました。
     内藤さん、ずいぶん詳しく書いてくれたわね。ありがとう」

( ^ω^)「お礼なんて、そんな。とんでもないですお」

ペニサス先生は事務的な愛想笑いを浮かべたままで僕を見ている。

( ^ω^)「書きかけの原稿を間違えてシュレッダーに掛けてしまった時はどうしようかと
      思いましたお。一日の努力が無になってしまいましたお」



113: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/15(日) 19:53:56.23 ID:pf9ab4w70
しかしペニサス先生はゆっくり首を振って手元のスケッチブックに視線を落とし顔を上げて
無言で僕を見た後に黙って煙草を灰皿に押し付け消す。灰皿から溢れた吸殻が机に零れ
落ちて灰を机の上に飛び散らせそれを見ている僕はまた気分が悪くなる。

('、`*川「内藤さん。クリエイティブ・アーツセラピーというものを知っている?」

僕は黙って頷くがペニサス先生は何がなぜ突然そんなことを言い出すのかが分からない。
今は僕の作品の話をしていて僕はどこもおかしくないのだから芸術療法の話などしている
場合ではないはずだ。

('、`*川「あなたは、とてもたくさんのことを忘れているようね。
     そして、様々な事柄の区別が付かなくなってしまっているようね」

この女は何を言っているのだろう。

('、`*川「とても深刻だけれど、大丈夫。
     時間はたくさんあるのだから、ゆっくり進めていきましょう」

気だるげに机上のスケッチブックを拾い上げてちらちらと僕の顔を見ながらまた何事かを
書き込みまた机に戻して僕に向き直る。

この女は何を言っているのだろう。

('、`*川「そんなに焦らなくてもいいのよ。
     不安に思うかもしれないけれど、時間を掛けていけば大丈夫だから。
     ゆっくり思い出していけばいいのよ。ね?」

僕は何も忘れてなどいない。思い出すべきことなど何もない。
この女は何を言っているのだろう。それ以前にこの女は何者なのだろう。



115: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/15(日) 19:58:18.20 ID:pf9ab4w70
( ^ω^)「僕は忘れてなんかいないおっ!」

僕は立ち上がり叫ぶ。女は驚いたように書くのを止めて顔を上げ視線を僕の顔に向けて
なぜ逆らうの、とでも言いたげな目で僕うを見てまたスケッチブックに視線を落とす。

何故だか分からないが急に腹が立ち僕は机の上の女のスケッチブックを手で払いのける。
スケッチブックは女の手を離れ開いた面を上にして机の上から落ちくるくると水平回転しな
がら飛び壁に当たって白い床に落ちる。

覗き込んだそのスケッチブックには赤いクレヨンで大きく「手遅れ」と書いてある。手遅れ。

でも、何が?

僕はそのスケッチブックに走り寄り女医の制止も聞かずに拾い上げ部屋の隅に走っていって
壁を背にして座り込み手にしたそのスケッチブックをぱらぱらとめくる。

次のページには屠殺場で胎児を掴み出される豚の絵がクレヨンで大雑把に描かれている。
次のページには豚を蹴る白衣の女の絵がクレヨンで大雑把に描かれている。
次のページには豚の背に腰掛けて悩む男の絵がクレヨンで大雑把に描かれている。

次のページには豚から腹の大きな女に矢印を引いた絵がクレヨンで大雑把に描かれている。
次のページにはクリスタルガラスの大きな灰皿がクレヨンで大雑把に描かれている。
次のページには豚のソテーを食べる男の絵がクレヨンで大雑把に描かれている。

('、`*川「内藤さん。貴方は疲れてるのね。
     いろいろなことがあって、本当にいろいろなことがあってひどく混乱しているのね」

外は風が強い。



120: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/15(日) 20:05:46.89 ID:pf9ab4w70
('、`*川「けれど、それでも・・・本当に大事なことは思い出せずにいるのね」

僕はもう帰りたい。

('、`*川「あなたの小説の書き出しを覚えている?
     私があなたにした最初のいくつか質問のうち、あなたが見過ごして
     しまっているものを覚えている?」

本当に、僕はもう帰って妻に会いたいのだ。

('、`*川「・・・いいわ。
     今日はもうおしまいにしましょう。ゆっくり休んで、明日また続けましょう」

結婚して5年目でやっと授かった子供に僕達は涙を流して喜んだ。生まれたらどんな
名前を付けよう、男の子ならこんな名前で女の子ならこんな名前でそしてどんな産着を
着せてどんなベビーベッドに寝かせてどんな歌を歌ってどんな絵本を読み聞かせようかと
僕達はそれだけのことを丸一晩眠らずに話し合った。

その妻とお腹の子が待っている。

( ^ω^)「先生、ツンに会いたいお。ツンは来ているのかお?」

('、`*川「ええ、外で待っているわ。
     さあ、今日はもう帰って」

女医の声に頷いて僕は鉄格子を開き病室の外に出る。



121: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/15(日) 20:10:40.18 ID:pf9ab4w70
地下にあるその病室は暗く壁は薄汚れて黄ばんでおりかび臭い臭いがするので
あまり好きではないので我慢しながら歩く。途中に三つの病室があったが照明が
不十分なために暗くて中の様子はよく分からないので無視してエレベータに向かう。

エレベータの前ではお腹の大きな妻がにっこりと微笑みながら僕を待っていてくれて
エレベータのドアが開くとその中から目が合うなり小さく手を振ってくれる。僕は少し
照れながらも妻に小さく手を振り返して一緒にエレベータに乗り込む。

ξ゚听)ξ「ブーン、良かった。早く帰ってきてくれて。
       私、寂しかったの。一人でいると頭がおかしくなってしまいそうだったの。
       すぐに帰ってきてくれて本当に良かった」

閉じたエレベータの扉の中で妻はそう言って僕に肩を寄せる。
妻が僕を信じてくれることが嬉しい。ここにいてくれることが嬉しい。
もう二度と離れたくない。別れたくない。

二度と。

僕はそっと目を閉じ妻を抱き寄せようとする。

長い長い時間を共に過ごした妻の身体は隅々まで知っていて体臭を嗅ぐだけでそれが
思い出せるほどで僕はそれだけで幸せで柔らかい腕の感触だけを頼りに手を伸ばす。

けれど身体に伝わるのは妻のいい匂いのする柔らかい身体ではなく冷たい風だった。

気がつくとそこは心療内科のある屠殺場前の警察署に続く見慣れた廊下だ。
僕はただそこに立って青と赤の斑の横断歩道に立って信号が黒から白に変わりまた黒に
変わるのをただじっと見つめている。

何だかとても疲れていてそして眠い。



122: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/15(日) 20:14:50.31 ID:pf9ab4w70
誰かが叫ぶ。

振り向くと地味な服を着て地味な靴を履いた地味な顔の男が焦った様子で僕の服と顔を
交互に指差しながら叫んでいる。この男は確か刑事でやはり地味な服を着ていてそして
洗面台に向かって一本一本自分の歯を抜いていた男だ。

(;´・ω・)「オ――イオマ。
       ソレドウ――タンダ」

彼は何事かを叫んでいるようだがその声はトンネルの中で聞くように低くひずんでそして
間延びして聞こえるので僕は何だかよく分からないが笑ってしまった。

(;´・ω・)「イダ――イジョウブナカ――イ――」

男はなにやらよく分からないことをわめき僕の服と顔を交互に指差しながら喚き続けていて
僕は不快になる。僕は何だかとても疲れていてそしてとても眠いのにこの男は何を言いたくて
喚き続けているのだろう。

僕は疲れている。

(;´・ω・)「ウワアアアアアア――アアア。
       ウワア――アアアアアアアア」

僕は無言でその男の顔を見てまた洋服の首元に視線を落とし顔を上げて無言でその男を
見た後に黙って顔面を掴みコンクリートの塀に叩き付ける。折れた歯がアスファルトに零れ
落ちて歯茎の纏わり付いた右上の前歯と擦れかりかりと音を立てる。かりかり。

(´;ω;`) 「――、ア――」



123: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/15(日) 20:19:09.85 ID:pf9ab4w70
男は顔を起こし何かを言おうとするが歯を失った状態ではうまく発音することができない
らしくちぎれた歯茎から血の泡と唾液と引き千切られて細かく繊維状に裂けた肉を口から
2センチほど垂らしながら不明瞭な音声を発する。

下唇から流れる血液は白い衣服の襟元を真っ赤に染めている。

それを黙って見下ろしていると僕は誰かに肩を力任せに掴まれて顔をしかめる。
振り返ると髪の長い痩せた女が僕の両肩を両手で掴んで引き留めている。

川 ゚ -゚) 「ナヲシ――テルダメ――ロ」

彼は何事かを叫んでいるようだがその声はやはりトンネルの中で聞くように低くひずんで
そして間延びして聞こえるので僕は何だかよく分からなくて黙ってその顔を見る。
女はどうやら僕を責めているようで倒れた男と僕を交互に見ながら叫んでいるようだ。

髪の長い痩せた女の唇は妻に比べて乾いていて腕は妻に比べて細く堅い。
僕にしがみついたまま喚いている髪の長い痩せた女を黙って見ているといると僕は何故か
取り返しの付かないことをしてしまったような気がしてひどく悲しくなり無意識に爪を噛む。

川 ゚ -゚) 「オイキコテ――ルノ、ケイ――サツヨブ」

その言葉を聞くなり僕は自分でも分からない内に僕は手を伸ばしてその女の手を振り払い
拳を握り締めたままその女に歩み寄り背後から信号機に向けて突き飛ばした。
その女は声も上げずに前のめりに倒れアスファルトに手を突くと勢いよく擦れてその女は
手を切った。

僕は危機感を感じた。

声を聞き付けて誰かが来るかも知れなかった。
だから反射的にもう一度足を振り上げ今度は地面に着いた女の手に振り降ろした。



126: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/15(日) 20:25:19.50 ID:pf9ab4w70
川 ; -;)「――。」

白く細いピンク色のマニキュアを塗って伸ばした爪の中指は僕の足の重量にあっさりと押し
潰されて鈍い音と共に血液を飛び散らせ折れて飛んだ爪が一拍遅れて女の顔の横に落ちる。

僕は更にそのまま女の手を踏んでいた足に力を篭めて親指と人差し指が砕けた手の中指を
下敷きにしたままの僕の足をぐりぐりと動かし親指と人差し指が砕けた手の中指を
擂り潰す。骨と残っている爪がさらに砕かれてぱきん、ぱきんと音を立てる。ぱきん。

男と女の悲鳴を聞いていると僕はとても寂しく心細くなり早く帰りたい、帰って妻と娘の
顔を見て安心したいと思い歩き出す。
だがすぐ隣で陰気な顔の男が叫び始めて急に気分が悪くなる。

僕は悲鳴を聞くのが苦手らしい。
ついさっき、痩せた髪の長い女を見たときもそう感じた。その前もそうだった。その前も。

('A`)「ヒイイイイイ――イイイアアアアア――アアアアア」

男が何に驚いているのかには興味はないが何より大声で騒ぎ立てるのを止めて欲しかった
ので僕は握ったままの拳を陰気な男の口に押し込む。

握ったままの拳は先端から順に男の喉に押し込まれどんどん消えていきそれが数十センチ
にも達したところでそれ以上飲み込めなくなったのだろう、男の動きは止まり今度は激しく
両肩を上下させて僕の腕を口から垂れ下がらせたままえずき始めている。

( ;A;)「ボ」

ついに耐え切れなくなった男は震える手で数十センチにも達する飲み込んだ僕の拳を
両手で勢い良く口から引き抜く。男の口腔から押し出される僕の拳は唾液と胃液と血液と
涙と鼻水に塗れて半透明の粘膜に覆われている。



128: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/15(日) 20:30:32.83 ID:pf9ab4w70
唾液と胃液と血液と涙と鼻水に塗れて半透明の粘膜に覆われている僕の拳を吐きながら
同時に男は胃に残っていた胃液を口から噴出させる。

口は裂け両端から血を流してだらしなく開いたままで手で押さえていないと閉じられない。
男は顔を伏せて力なくこほっこほっと咳き込む。こほっ。

僕はそれをただ見ている。

遠くから赤い光と騒音が見えてそして聞こえてきて僕は思わず目を閉じる。
目を閉じながら彼らが指差していた僕の顔と服には何が付いていたのだろうと首を傾げる。

気がつくとそこは妻と二人きりで乗り込んだエレベータの中だ。
ドアがまだ閉まりきっていない所を見ると僕は妻と二人でエレベータに乗り込んだ瞬間立ち
くらみのようなものを起こして一瞬の間白昼夢を見ていたようだ。

僕は手を伸ばして地下四階のボタンを押す。エレベータの扉は閉まらない。
またボタンを押す。エレベータの扉は閉まらない。また押す。閉まらない。

( ^ω^)「おかしいお、何で閉まらないんだお?」

僕は隣に立つ妻に声を掛けながらエレベータのボタンを連打する。
エレベータのドアは半分ほどは閉まるのだがその後はがたがた揺れるばかりで一向に閉じる
気配はない。

だが妻は当然だと言わんばかりに頷く。

ξ゚听)ξ「当たり前じゃない。ブーン、何言ってるの。
      ほら、見てご覧なさい」

妻はそう言ってエレベータのドアとシャフトの隙間の空間を指差す。



131: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/15(日) 20:36:15.33 ID:pf9ab4w70
そのドアとシャフトの隙間の空間には上も下も左右も一面に生まれたばかりの胎児がぬめる
粘液と赤黒い血液にまみれて挟まり折れた四肢から血液を滴らせながら苦しんでいるのか
それとも誘っているのか、関節ではない場所から二重三重に折れ曲がった腕や脚や首を
蠢かせてひしめいている。

ξ゚听)ξ「ほら、見える? ブーン。
      あそこにいるのが生まれなかった娘のデレ。
      その隣にいるのがデレが生むはずだった私達の初孫。その隣はその妹。
      その隣はその妹が大学で出会った同級生と結婚して生むはずだった曾孫。
      その隣はその子供。その隣はその子供。その隣はその子供。その隣は」

妻は激しく咳き込む。身体をくの字に折り曲げてがらがらと喉を鳴らして掠れた咳をする。
その下腹部は大きく盛り上がって暗闇でもはっきりそれと分かるほど押し上がっている。
じっと見つめているともぞり、もぞりと動いているのが分かる。

ξ;凵G)ξ「ねえ、ブーン。
       私、寂しかった。怖かった。痛かったの。頭がおかしくなってしまいそうだったの。
       何故私だけがこんな目に遭うの? どうして? 教えてよ」

僕はただ黙って妻を見る。
妻の冬服の裾は大きくはだけられ下着は降ろされて女性器は大きく裂け胎児がぬめる粘液と
どす黒い血液にまみれて挟まり折れた四肢から血液を滴らせながらぶら下がっている。

生臭く水っぽくわずかに酸味のある匂いが狭いエレベータの中に立ち籠めている。

( ^ω^)「愛してるお、ツン。
      本当に、愛してるんだお」

僕はしばらくの間黙って考え込んだ後にようやくその言葉を口に出すが自分でもどうして
そんな言葉が出てくるのか何度考えても分からない



133: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/15(日) 20:42:06.46 ID:pf9ab4w70
  (13)

・・・おぎやあ。
  おぎやあ。

分娩室に産声が響いたのは午前四時過ぎだった。僕は白い待合室の中央の小さな椅子に
不安定な姿勢で座ったままうとうとしていたがその声に目を覚まし暗い廊下を走って分娩室に
急いだ。

途中には三つの分娩室がありそのどれからも同じような産声が聞こえていた。

('、`*川「おめでとう、内藤さん。
     元気な女の子よ」

分娩室ではペニサス先生が生まれたばかりの僕の娘を抱いて疲れ切った表情でそれでも
明るい声で出迎えてくれる。

僕は娘をそっと受け取る。

娘はまだ生まれたばかりで、肌は真っ赤で、全身はぬめる粘液と血液に濡れているけれど
それはこれから始まる長い人生の始まりの儀式で、歯のない口を大きく開いて顔をくしゃ
くしゃにして体中でこの世界中の空気を吸い込み吐き出す、その呼吸という生命活動を
全身全霊で行おうとする様子を見て僕は無表情のまま涙を流す。

ξ;凵G)ξ「ブーン、私頑張ったの、私達の子供なのよ。
       私達の、初めての子供なのよ」

妻は大きく脚を開いて分娩台に座っているがその姿は不思議と汚いとか淫らだとは全然
思えず、しかし僕は自分の中に湧き起こる感情を堪えて腕の中の我が子を見る。



136: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/15(日) 20:46:23.74 ID:pf9ab4w70
おぎやあ。
おぎやあ。

ξ;凵G)ξ「ブーン、愛してる、愛してる、ありがとう。
       あなたのおかげよ、私幸せよ、本当に幸せなの」

僕はどうすればいいのだろう。
どこか遠いところからやってきたこの子に僕はなんと言葉を掛けてやればいいのだろう。
いろいろ考えたが何も思い浮かばず、結局無言のまま腕の中の娘を見る。

ξ;凵G)ξ「ブーン、見せて。私にも。
       私の赤ちゃん、私にも見せて」

僕は腕の中の子を妻に向けて差し出す。

その子はおよそ人間の姿をしていない。

その頭部は人間と言うよりむしろ鳥に近く横に倒した卵形をしていて盛り上がった焦点の
合わない眼球が頭の両側で緩慢に瞬いている。
頭の尖った先端にある鼻と唇は癒着しており、いびつに傾いた鼻の穴を蠢かせだらだら
零れる唾液に濡れた閉じきらない唇をめくり上げ、もう生えている歯を覗かせ、ぎいいい、と泣く。

お、ぎいいいやああああ。

髪の毛が一本も生えていない頭部に見る間に赤い水ぶくれがぽつぽつと浮かび上がって
崩れ破れた皮膚から白濁した粘液がとろとろと流れ出る。

その扁平な頭を支える首は細く長くチューブ状の骨と異常に太い頸静脈を浮き上がらせて
ぶるぶると痙攣している。その首筋にも水ぶくれがぽつぽつと浮かび上がって崩れ白濁した
粘液を滴らせる。泣きながら振る首は捻れて曲がり自重で頸椎が折れそうになる。



138: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/15(日) 20:51:02.29 ID:pf9ab4w70
お、ぎいいいやああああ。

その胴体は生まれたばかりだというのに真っ白い包帯でぐるぐる巻きにされて身体を見る
ことは出来ない。だが包帯に巻かれてすらその胴体は頭より遙かに小さくとても正常な
人間の四肢を備えているようには見えない。

これは一体何なのだろう。

結婚して5年目でやっと授かった子供に僕達は涙を流して喜んだ。生まれたらどんな
名前を付けよう、男の子ならこんな名前で女の子ならこんな名前でそしてどんな産着を
着せてどんなベビーベッドに寝かせてどんな歌を歌ってどんな絵本を読み聞かせようかと
僕達はそれだけのことを丸一晩眠らずに話し合った。

僕が求めていたのはこんなものではない。

お、ぎいいいやああああ。

('、`*川「良かったわね、内藤さん。
     元気な赤ちゃんで、本当に良かったわね」

女医が下卑た嫌らしい表情でにやにやと笑って笑いながら言う。
僕はその言葉を聞いているうちにとても悲しく悔しくそして耐えがたい怒りを感じてその
自分の感情に従って抱えたものを思い切り床に叩き付けようと振り上げる。

お、ぎいいいやああああ。

僕の手の中のそれが一層大きな声で泣き身体を震わせる。不完全な身体のどこかが
損傷したらしく胴体に巻かれた包帯に血液と黄土色の膿汁が染みて広がっていく。
そして頭の両側に付いた目やにの一杯に溜まった目から黄色がかった涙が流れる。



141: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/15(日) 21:05:08.69 ID:pf9ab4w70
ξ;凵G)ξ「やめて、ブーン、やめてよ!
       私達の子に何てことするの、誰か止めてよっ」

僕は瞬く間に数人の白い服を着た男に取り押さえられそれを取り上げられる。

こいつらは一体何をしているのだろうか。
僕はただ普通の子供が欲しいだけだというのに。
妻と二人で愛情を注ぐ子供が欲しかったのにこんな化物を押し付けられた僕の気持ちを
理解しようとは思わないのだろうか。僕が欲しかったのは豚でも化物でもなくて人間だ。

ξ;凵G)ξ「お願いします、主人を止めて下さい。
       主人は病気なんです、主人は病気なんです」

おぎやあ。
おぎやあ。

ξ;凵G)ξ「主人は、この、うちの主人は、病気なんです」

おわあ。
おわああ。

いろいろなことがあって、本当にいろいろなことがあって僕はひどく混乱しているのだろうか。
僕は自分の名前すら思い出すことができずに組み敷かれたまま大きく裂けた妻の女性器を
見ている。そこから羊水と血液がどろりと流れ出すのを見ている。

組み敷かれて床に押し付けられる僕の腕に誰かが太い注射針を突き刺す。
ひどく疲れていてそしてとても眠い。必死で顔を起こそうとする僕の口元と服の胸元は粘液と
どす黒い血液にまみれて糸を引いている。

お、ぎいいいやああああ。



143: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/15(日) 21:10:18.27 ID:pf9ab4w70
  (  )

きいきい、きいきい。

夜半になり風はますます強くなって家中に吹き付けていて部屋の梁が軋む。
少しだけ気になって見上げるが照明の陰になった天井の様子は見えない。

かりかり、かりかり。

二階にある僕の書斎には僕が鉛筆を紙に走らせる音が響いている。
原稿用紙の升目は右上から始まり上から下へ右から左へ整然と埋め尽くされる。

ぱきん。ぱきん。

筆圧が強いせいか柔らかい鉛筆の芯はその内折れてしまい乾いた音を立てる。
並べてある別の鉛筆と交換し書き始めるがまた折れてしまい別の鉛筆を手に取る。

きいきい、きいきい。

夜半になり風はますます強くなって家中に吹き付けていて部屋の梁が軋む。
少しだけ気になって見上げるが
こほっ、こほっ。

ドアの向こうから乾いた咳払いの音が聞こえてきて僕は立ち上がる。
照明の陰になった天井の様子は見えない。
戸を開こうと手を伸ばした時、かちり、と時計の長針が音を立てて動く。

ドアの向こうには何もなかった。



146: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/15(日) 21:15:37.58 ID:pf9ab4w70
  (0)

僕は何もしない。
ただ俯いている。

部屋の隅で、まあたらしいゆりかごが揺れている。


                                               <終>



戻るあとがき+解説