( ^ω^)と9枚のトランプのようです

4: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/23(月) 20:53:40.35 ID:mncOCThD0
全ての家具は黄金色だった。
全ての人間は黄金色だった。
全ての物人は黄金色だった。

ここに存在するものは全てが金なのだ。
美でありながらも美ではない、悪魔に染められた魔の空間。

黄金で作られた家具、金箔を散りばめられた食物、金の装飾を施された衣服を着る執事たち。
金銭感覚を狂わせる豪華さに吐き気を催す者が過去にいた。

しかし、その部屋の主人は、恍惚とした表情を浮かべ、にっこりと笑みを顔に貼り付け、こうつぶやいた。


( ^ω^)「世の中、金だお」



5: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/23(月) 20:58:09.86 ID:mncOCThD0
金がなければこの世を過ごせない。
初めて彼がそう思ったのは10歳の頃である。

なんてことはない。
両親は借金を原因に失踪、彼は孤児院に預けられた。

ぼんやりと「ああ、父さんと母さんは死んだな」なんて考えたり、
そしてこの世の理「金がなければ生きてけないな」ということに気付いたのはその時。

彼は両親が失踪したことにはショックを受けず、自分が借金を背負わなくて済んだ事を喜んでいた。
それ以外には、大した考えも浮かばず、孤児院の先生に、


( ^ω^)「世の中、金だお」


と、口癖ともなる言葉を発した。



6: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/23(月) 21:03:46.57 ID:mncOCThD0
16歳、高校生になったことを彼はたいそう喜んだ。
働ける資格を得るからである。
放課後の時間は全てバイトにつぎ込み、株なども学んでいった。

働けば働くだけ金が増える。
それだけで十分だった、周りの学生がいわゆる青春を送っていようと、彼にはそれに対しての興味はまるでなかった。

( ^ω^)「うへへ、金、金、金だお、うへへへへへへ」

通帳の残高が増える度、彼はそう言いながら自室で転げまわった。
高校生活を一年終わるころには、100万近い金が通帳に刻まれていた。

彼は娯楽を好まなかった。
故に、贅沢などをしたことはないし、貯金する一方だった。

もっとも、彼にとっての娯楽とは、金を得ることだったので、仕事はむしろ楽しかった。



7: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/23(月) 21:09:07.32 ID:mncOCThD0
とある日のこと、彼は数少ない友人に尋ねられる。

('A`)「お前、金持ちなんだよな?」

( ^ω^)「おっおっ、お金だいすきだお、アイラブマニー」

('A`)「なら、ギャンブルやんね? うまくやれば金増えるぜ?」

( ^ω^)「うひょひょひょひょひょ、そいつぁたまらん、涎ずびずばー」


二つ返事で、その怪しい誘いを承諾した。

しかし友人の考えは実は狡猾なものだった。
友人は先輩に言われたのだ「カモネギ連れて来い」と。

つまり、彼はたかられることになった。
イカサマギャンブルで、金を毟られることになった。

そんな事実など露知らず、彼はギャンブルが行われている場所へと向かうことにした。
笑顔のまま、友人の誘われるまま、てくてく歩く。

友人は「こいつは相変わらずくるってるなぁ」と思った。



9: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/23(月) 21:16:42.23 ID:mncOCThD0
(´・ω・`)「こんちわ」

( ^ω^)「ちわーっす、賭けしにきますた、ふひひ」

('A`)「ショボンさんは先輩だぞ、敬語でな」

( ^ω^)「別にいいお、早くなにするか決めるお!」

(;´・ω・`)「君が許可するのはおかしいと思うけど……まぁいいか」

そう言って、ショボンはトランプを切り始めた、
彼は驚いた。
早い早い、残像が見えるほど切るのが早いではないか。


(´・ω・`)「山札から5枚カードを引いて、ポーカーの役を作るだけ。
     一つだけ変則的なルールを付け加えるなら……」

ショボンは言ったとおり5枚カードを引いて、全てのカードを伏せた。


(´・ω・`)「見ちゃダメね、全部勘と運で」



13: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/23(月) 21:23:51.29 ID:mncOCThD0
当然、これはイカサマギャンブル。
ショボンは見えなくとも、カードの柄も数字も把握できる。

それは傷痕で感知するという、至って簡単な方法だった。


(´・ω・`)「5枚引いて、ダメだと思ったら一回だけ5枚まで山札から取り替えていいよ」

( ^ω^)「てら意味なす」

(´・ω・`)「そうだね、見えないもんね、うふふふふふふ!!」

ショボンの笑いを、彼は気持ち悪いと思った。
でも言わない、それくらいの配慮は出来るくらいには成長している。

このルール、ショボン有利ではあるが、それも微妙なとこである。
札が見えていようと、それでは普通のポーカと何ら変わりがない。
どうせするならもっとイカサマすればいいと友人は言ったが、ショボンはそれを拒否した。

「ギャンブルである」という概念は最後まで残しておきたかった。
悪党にはなりきれない、中途半端な屑だった。



14: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/23(月) 21:29:23.40 ID:mncOCThD0
とりあえず3人はカードを5枚引いて、それを伏せた。
何故だか友人も参加していた。

(´・ω・`)「……じゃあ、僕はこれを取り換えるよ、うひゅひゅ」

笑いが止まらなかった。
山札の一番上と、ショボンの手札を1枚取り換えると、ストレートの役が完成していた。

ショボンは他の二人の札を見渡す。
どちらもぶただった。

('A`)「じゃあ、俺はこれを取り換えますね」

友人も同じく1枚取り換えた。
しかし結果は同じくぶただった。


(*´・ω・`)「ぶっぶひひひいひひひいひひひひ!!」

('A`)「…………」

その笑い声を聞いて、友人は「あ、ダメだったか、そして気持ち悪い」と思った。
もっとも、友人が金を毟られることはない、参加したのは単なる気まぐれ。

二人が狙うのは彼の金のみ、それを後で山分けするつもりだった、



16: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/23(月) 21:37:22.30 ID:mncOCThD0
( ^ω^)「じゃあね〜、僕はこれとこれとこれとこれ!!」

(´・ω・`)「……あれ?」

目を疑った。
だから目玉が飛び出るんじゃないかっていうくらいの勢いで、目をこすった。

彼の札が作り上げた役は、ジョーカー二枚入りのロイヤルソトレートフラッシュだった。


(´・ω・`)「……あのさぁ、結局裏じゃん、でも何となく危険だってわかる時ってあるじゃん。
     だからさ、あのさ、表にする前にかけたくないって思ったら、そのゲームはなかったことにしない?
     各自5回までならこれしてもいいってことで」

( ^ω^)「おうともさ、いいともさ、加藤ローサ」

ショボンはとんでもルールを付け加えた。
そうして、ショボンは全てのトランプを山札に加えて、切りなおした。

(´・ω・`)「その権限をいま使ったから、今のなしね、じゃあ次行こうか」

この時点でこのゲームはギャンブルではなくなった。
まずショボンが負けないようなルールになってしまった。



17: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/23(月) 21:43:55.76 ID:mncOCThD0
( ^ω^)「待って待って、次は僕が切るお」

彼はそう言ってショボンからトランプを奪い取り、カードを切った。
ショボンは恨めしそうな瞳を浮かべていたが、やがてそれは驚愕の色に変わった。

トランプの捌き方が、あまりに常人離れしていた。
ショボンの扱いだって、それなりものである、学生仲間に見せたのなれば、喜ばれることだろう。

しかし、彼の扱い方は、プロの手品師顔負けだった。
見えなかった、残像どころではない、既にどこにトランプがあるのか見えなかった。


('A`)「おい、トランプ落としてるよ」

( ^ω^)「いっけね★」

トランプは地面に散らばっていた。それは見えないのも納得。



18: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/23(月) 21:49:14.61 ID:mncOCThD0
( ^ω^)「んじゃ、いっくおー」

そう言って彼はトランプをそれぞれに五枚ずつ配り始めた。
ショボンはそれを制止しようとした、『配る』だとイカサマの可能性が出てくるからだ。

山札から個人が引くという形をとった方が安全……しかし、途中でその考えはけしとんだ。


(*´・ω・`)「お、おぅふ!!」

配られた札は、ロイヤルストレートフラッシュだった。
別人にとはいえ、ニ連続ロイヤルが出るなんて、それも自分に。

彼はドラクエもカジノ以外でロイヤルを出したのは初めてだった。
だから、『配られた』ということはすっかりどうでもよくなっていた。



20: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/23(月) 21:55:19.64 ID:mncOCThD0
( ^ω^)「じゃ、オープン」

(*´・ω・`)「おーぴゅん!!」


札を空けると、ロイヤルが輝いた。
初ロイヤル、67万9740分の1という確率を引き当てた。

(*´・ω・`)「やったああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」

ショボンは吠えた。

( ^ω^)「負けた次行くお」


(*´・ω・`)「うへへ、負けたから一万な」

( ^ω^)「おけおけ、次」


一ゲーム一万だそうだ。
次も彼がトランプを配ったが、ショボンは有頂天だったのでどうでもよかった。



22: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/23(月) 21:59:39.95 ID:mncOCThD0
それから10回ほど繰り返し、
彼の戦績は〇×○○○○×○×○という結果に終わった。

7勝4敗、彼は三万の勝ちで終わった。


( ^ω^)「んじゃ、そろそろ帰りマスオはサザエの旦那」

(´・ω・`)「うん、わかった、ばいばい」


ショボンは負けたものの、ロイヤルの喜びでそんなことはどうでもよかった。
……と思い込むことにした、やはり3万の負けはつらかった。



23: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/23(月) 22:04:56.86 ID:mncOCThD0
( ^ω^)「うへへへ、これは次回も期待できそうだお」

('A`)「驚いた、俺はお前が負けると思ったよ」

彼らの会話が廊下に木霊する。
夕日が差し込んではいるものの薄暗い場を賑やかす唯一の要因だった。

( ^ω^)「ドクオは、もう友人じゃないお、お前は最低だお」

('A`)「なんだ知ってたのか」

( ^ω^)「おう、何人を嵌めようとしてんだこら、でも次の場を設けてくれたら許すお」

('A`)「ショボン先輩は馬鹿だからいいよ、次もいけるさ」

( ^ω^)「はっはっはっ、お前最低だオ」

('A`)「お前につくのも、ショボン先輩につくのも、俺は損しなければどっちでもいいんだ。
   ……イカサマ知ってたのか?」

( ^ω^)「オウイエー、ダンカン」



26: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/23(月) 22:13:29.47 ID:mncOCThD0
やっべぇ飽きてきた、だれだよここの本当の>>1は。
なんて思った人が世界のどこかにいたらしい。
それでも世界はきれいだ、ああ美しい。


( ^ω^)「ていうか、お前と仲良くしてたのも、いつかショボンをカモにしたかったからなんだお」

('A`)「マジか、俺の初めての友達だったのに、マジショック、リーマンショック」

( ^ω^)「ショボンがイカサマギャンブルって聞いた時、楽して儲けられると思ったんだお。
       あ、トランプの傷は、ショボンがトランプを手放した時に盗み見したお」

('A`)「ショボンを何度か勝たせたのはなんでだ?」

( ^ω^)「怪しまれたら負けだお、あいつは自分が優位だと思ってる、だからこそ僕がイカサマし返せる。
       トランプを切りながら絵柄を合わせるなんて、目をつぶっても出来るお、嘘だけど。
  
( ^ω^)「一度に摂取するんじゃない、こつこつと、じわじわとしみこませるように金を奪う……美学であり、理にかなった方法だお」


友人でなくなった男、ドクオは感心するようにへぇと頷く。



28: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/23(月) 22:18:13.78 ID:mncOCThD0
('A`)「でもさ、一番最初って、なんかショボン負けてたよな?
    あれはおかしくね、お前ら全員普通に引いてたじゃん」

そうドクオが尋ねると、彼はトランプをポッケから取り出した。


( ^ω^)「……たとえば、このトランプ適当に引くとするお?」

('A`)「ん、ああ?」

( ^ω^)「すると、ほら、こんな風になる」


彼の手には、ダイヤ、スペード、ハート、クラブ、それぞれのエースが揃えられていた。



29: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/23(月) 22:22:29.76 ID:mncOCThD0
('A`)「すげぇな、どんなイカサマだ?」

( ^ω^)「……うふふ、うふふ、僕の存在というイカサマだお」

('A`)「ん?」

( ^ω^)「……にしても、こんなに楽して金が稼げるなんてギャンブルはいいお……うふふ、あはは、いっひっひっ」


さも楽しそうに笑う彼ヲ、ドクオは不思議そうに、やがて恐れるように眺めていた。


後日、ショボンと彼は何度か対戦し、やはりショボンが連敗するという結果に終わっていた。
この二人の対戦が終わったのは、ショボンが今までにイカサマギャンブルで稼いだ五十万を消費した後だった。



30: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/23(月) 22:29:54.00 ID:mncOCThD0
黄金色の部屋の主人が、踊り始めた。
流れ始めたBGMは、屋敷の庭に呼ばれた合唱団の歌声。
本来大きな劇場で歌う彼らが屋外で歌うなどという屈辱を味わわせられるのは、彼だけだった。

世界で一番の大金持ち。
子が抱くような幻想を手にした彼は、かんがえ得る限りの贅沢を尽くしている。

今まで貯めた金を使い切るなどとは不可能だ。
湯水のように使おうが、消費するどころか金は増え続ける。

その金の螺旋の中心に立つ男が呟いた。


( ^ω^)「世の中、金だお」



35: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/23(月) 22:36:47.12 ID:mncOCThD0
高校を卒業してから十五年後のある日、ドクオはとある酒場でとある噂を耳にした。
街で一千万以上の金を持ち歩いていると、謎のギャンブラーが現れるらしい。

そのギャンブラーは滅法弱いらしく、あったものはみな、金を増やせるのだと。



そんなお伽噺は馬鹿らしいと吐き捨て、ドクオは酒場を後にした。

しかし、彼は今や企業の社長の立場にいる。
成功しきった生活に退屈してきていたところだ。

その馬鹿らしさが、逆にメリハリのない生活に、良いスパイスになるのではないかと感じ、ドクオはふだんから2000万以上の金を持ち歩くことにした。



36: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/23(月) 22:42:33.67 ID:mncOCThD0
('A`)「……あんたかい?」

それから僅か3日後、謎のギャンブラーがドクオの前に姿を現した。

みすぼらしい恰好だった。
ホームレスの方がまだ清潔に思える。
ボロ雑巾のような衣服を身に纏い、髪は油汚れでガチガチに固まっていて、髭は胸元にまで達している。

しかし、手にしたバッグだけは新品そのもので、中からは束になった万札がいくつものぞいていた。


『滅法弱いギャンブラー』

破滅への道に最も適した渾名をつけられていた男、


( ^ω^)「ギャンブル、するお」


彼は細々としタ声でそういった。



38: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/23(月) 22:49:40.34 ID:mncOCThD0
('A`)「オレたちがまだ高校生だったあの日、おまえはギャンブルでショボンに勝ったな。
    それから卒業するまで、お前はずっとギャンブルで勝ち続けていた」

( ^ω^)「ギャンブル、するお」

('A`)「オレはずっと、お前が悪魔じゃないかと思ってたんだ。
    あんなにもギャンブルに強かったおまえは、無敵だと思ってた」

( ^ω^)「ギャンブルだお、ギャンブル、さぁギャンブルだお」

('A`)「そんなお前が……ギャンブルで破滅するなんてな、信じられんくらいだ」

( ^ω^)「ギャンブル、ギャンブル、ギャンブル、ギャンブル、
       ギャンブル、ギャンブル、ギャンブル、ギャンブル、
       ギャンブル、ギャンブル、ギャンブル、ギャンブル、
       ギャンブル、ギャンブル、ギャンブル、ギャンブル、ギャンブル、ギャンブル、ギャンブル、」


壊れた男は一つの言葉を繰り返し、ドクオは、深いため息でそれに応えた。



39: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/23(月) 22:54:35.89 ID:mncOCThD0
('A`)「残り2000万ってとこか、いいだろう、俺がお前に引導を渡してやる」

( ^ω^)「ギャンブル、するお?」

('A`)「ああ、俺もお前と同じく元金は2000万、丁度いいだろ」

( ^ω^)「だおだお、だおおおおおおお!!
       じゃあ、ナインカードするお、うひょおおおおおお!!」

('A`)「ナインカード?」


ドクオの疑問の声も無視して、彼は鞄の奥底から九枚のカードを取り出す。
ボロボロになったそれは、手に取るのも躊躇うほどに汚れていた。



43: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/23(月) 23:14:19.15 ID:mncOCThD0
誰かのっとってくれないかと思う人間がどこかにいた。
しかし、世界は無情にも、特にこの二人の対峙する空間では突き進む、


( ^ω^)「四枚引いて、足した数字の大きい方の勝ちだお」

('A`)「余った一枚は?」

( ^ω^)「ハンデで君にあげるお、ギャンブルうけてくれたお礼だお」


五枚対四枚、圧倒的な差があるのは間違いない。
彼がすでにまともな思考にはないのだと、ドクオは判断し、憐みの念を覚えた。



44: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/23(月) 23:18:04.33 ID:mncOCThD0
( ^ω^)「うへ、うへへへへへ」

彼は九枚のカードを路上に並べた。
薄汚れたカードは地面によく馴染んで見えた。


( ^ω^)「じゃあ、五枚引くといいお」

('A`)「いいのか?」

( ^ω^)「どうせ僕がカツオはサザエの弟」


訳のわからない戯言は聞き流し、ドクオは五枚のカードを手にした。



46: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/23(月) 23:22:45.49 ID:mncOCThD0
('A`)「…………」

カードの数字は8、7、5、4、2。
この時点で、ドクオは確実な勝利に悲しみを覚えた。


( ^ω^)「ぼぼぼぼ、僕も四枚GETだぜ」

('A`)「なぁ、もうやめないか?」

( ^ω^)「死ね、そんなことより負けたら絶対に金払えお、絶対だお、絶対」

('A`)「……わかったよ」



47: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/23(月) 23:26:47.85 ID:mncOCThD0
彼は、きっと死を望んでいるのだとドクオは思った。
ギャンブルで死とぬ、それこそが彼の望みなのだだろうと。

いつかは悪魔のように思えた男が、今や破滅寸前の屑になり果てている。
そんな現状に、ドクオはやはり深い悲しみをもって溜息をついた。

しかし、その止めをさすのが自分であることを、ドクオは神に感謝した。


( ^ω^)「オープン」

('A`)「オープン」



49: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/23(月) 23:35:00.81 ID:mncOCThD0
( ^ω^)「うへ、うへへへへへへへへへへへへへへ!!
       くひひひひひひひひひひひひひひひひひ!!
       あっひゃはyひゃhyひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!」


笑い声が辺りに木霊した。
はじめ、ドクオはそれを彼が完全に壊れたからだと思った。

しかし、


('A`)「……あ?」


彼の手札は9、6、3、そしてK。


ドクオの合計は26、対し彼は31。

予想だにしない、事態にドクオの視界が歪んだ。



53: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/23(月) 23:41:40.18 ID:mncOCThD0
( ^ω^)「勝った、僕の勝ち!!お金ゲッツ!!」

(;'A`)「……ま、マテ、こんなのは認められな―――」

言いかけて、ドクオは言葉を止めた。
彼がバッグから包丁を取り出したからだった。


( ^ω^)「余計なこと言うなお、僕の勝ちだお、数字が1〜9であるなんて、誰も言ってないお。
       これはれっきとしたギャンブルだったはずだお」

(;'A`)「……」

壊れかけていたはずの眼光は、いつか見た悪魔のソレと全く同じものだった。



54: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/23(月) 23:48:37.93 ID:mncOCThD0
( ^ω^)「ああ、そうだった、僕はいつだってギャンブルで勝利してきた。
       ショボンの時だってそうだ、あの時、一番最初の勝負の時、僕が勝利したのは紛れもない運によるものだった」

('A`)「……じゃあ、あれもか?」

( ^ω^)「エースをすべて出した時かお、さぁ、あれがどうだったかなんて僕は覚えてないお」

嘘であることはまず間違いないとドクオは思った。
同時にあの時言われた言葉の意味を理解した。

自身の存在がイカサマだというのは、桁外れの豪運を持っているからだということを知っていたからなのだ。
イカサマや知略も必要のない、彼は生粋のギャンブラーだった。



55: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/23(月) 23:53:23.09 ID:mncOCThD0
('A`)「……殺すのか、俺を?」

( ^ω^)「別にそれでもいい、でも君は死にたくない、そうだお?」

('A`)「そりゃ、まぁ」

( ^ω^)「……僕に2千万のうち半分僕にくれお」

('A`)「殺さないどころか、随分と慈悲深いな?」


( ^ω^)「半分なら、別に払ってもいいかなと思うお?
       賭けとはいえ、こんなにもあり得ないシチュエーションなのに、本当に殺されるかもわからないのに、払ってしまう気になるお?
       本当ならこんなこと言わないけど、まぁドクオにならってことで」
       
つくづくいやな奴だなと、ドクオは感心しつつ溜息をついた。



56: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/23(月) 23:59:23.46 ID:mncOCThD0
( ^ω^)「それと、これは契約料ってことで」

('A`)「契約?」

( ^ω^)「『僕が弱かった』と噂するようにしてくれお。
       破滅寸前であることを誇張して噂してくれお」

('A`)「ああ、なるほどな」


全てだまされていたのだ。

噂も、格好も、口調も……全て他を騙し、油断させる為だったのだ。

金を摂取することだけを求めた悪魔は、尚も健在だった。



57: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/23(月) 23:59:25.47 ID:djr0KtcA0
本当の>>1なんて初めからいなかったのに…

>>3

ミミ彡゙         ミミ彡彡
ミミ彡゙ _    _   ミミミ彡
ミミ彡 '´ ̄ヽ  '´ ̄` ,|ミミ彡
ミミ彡  ゚̄ ̄' 〈 ゚̄ ̄ .|ミミ彡
 彡|     |       |ミ彡
 彡|   ´-し`)  /|ミ|ミ   / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
  ゞ|     、,!     |ソ  < 痛みに耐えてよく頑張った!感動した!
   ヽ '´ ̄ ̄ ̄`ノ /      \________
    ,.|\、    ' /|、



58: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/24(火) 00:07:39.09 ID:8jMxKNUE0
>>57、てめぇのせいで酷い目にあったと思った男がどこかにいた。
そんな事とはまるで関係なく、話は進む。




( ^ω^)「たった、9枚だお」

('A`)「何がだ?」

( ^ω^)「たった、9枚のトランプで僕は既に1憶以上の金を稼いでいる。
       あの頃は汗水流して働いて、通帳の金が僅かに増えることだけで喜んでいたのに……」

('A`)「そうか」

( ^ω^)「きっと、僕は9枚のトランプで金を手にして、同時に人生を壊したんだお。
       世の中には金しかないという想いは、確かにあった。
       でも、今や世の中は金だという思いこそが僕であり、僕は金しかない、金は僕で、僕は金で……」


彼は、破滅寸前ではなく、既に壊れきっていた。
ドクオの考えとは逆に、金を持ったからこそであったが、確かに破滅を迎えていた。



59: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/24(火) 00:10:06.05 ID:8jMxKNUE0
( ^ω^)「さようならドクオ、僕はきっとこれからも金を稼ぎ続けるお」

('A`)「その先には何があるんだ?」

( ^ω^)「決まってるお、その先にも金しかまってないお」


そう言って、彼は深い夜の闇に吸い込まれていった。
その背中をドクオは黙って見送り、そして元友人に、永久の別れを告げた。



61: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/24(火) 00:14:04.62 ID:8jMxKNUE0
黄金に染まる部屋のバルコニーに彼は立っていた。
あれから更なるギャンブルにギャンブルを重ね、彼は不動の地位を手にした。

そして、あの日言ったように、その先に合ったのは金だけだった。
それに以外には何もない、友人も、恋人も、家族も、金以外には何もない。


( ^ω^)「世の中、金だお」


金の螺旋の中心にいる男は、そう呟いた。
いや、既に彼は金に溶け込んでいるのだ。

そして、さらに言葉を紡いだ。



62: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/24(火) 00:18:36.13 ID:8jMxKNUE0


( ^ω^)「ああ、それでも、僕は、金以外の何かが欲しかった。
     
       誰か、誰でもいい、僕の名前を、愛を込めて呼んでくれお」


それだけ言って、彼はバルコニーから空へと飛び出した。
高さは人の命を奪うには十分すぎて、合唱団は歌を悲鳴に変えた。


そして、彼と同時に9枚のトランプが舞う。

一つ一つに文字が書かれており、それを合わせると一つの人名が出来上がる。

「な」「い」「と」「う」「ホ」「ラ」「イ」「ゾ」「ン」


誰もが呼ばなかった、彼の名前だった。


―――おしまい



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