ξ゚听)ξバスは走るようです

117: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/23(月) 00:55:07.18 ID:KcSPyTwy0

バスは今日も進む。
それは誰かに別れを告げる。

バスは今日も進む。
不安な気持ちを抱えたまま。

バスは今日も進む。
人はそれに乗る。



122: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/23(月) 01:00:12.30 ID:KcSPyTwy0

私はバスを待っていた。
海岸沿いの、綺麗なバス停で。

鳥が海の上を滑るようにして飛んでいるのがよく見える。
海面に陽の光があたり、キラキラと砕ける。

ξ゚听)ξ「・・・まぶしい」

まだ暑い夏。
終わることがなさそうな暑い夏。

私は実家に帰ってきていた。



126: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/23(月) 01:02:16.49 ID:KcSPyTwy0

父が亡くなった。

その連絡を受けて、少し前に帰省していた。
死に顔は安らかなもので、本当に眠っているだけに見えた。

葬儀の最中、私はずっと母を支えていた。
罅の入ったガラスのように、少し目を離したら割れてしまいそうで。

辛いけども、泣くわけにはいかないと思った。
それが何故なのかは知らない。

長女としてしっかりしようとでも思っていたのかもしれない。

そんな私を見て聞こえてくる言葉は「しっかり者」。
だけどそれと同時に「冷たい子」と言うのも聞こえてきた。

そう言われても仕方がないのかも、と開き直ってみるが少し辛い。



127: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/23(月) 01:04:18.66 ID:KcSPyTwy0

すべてが終わると、家に残るのは私と、弟と、母の三人。
騒がしかった家は恐ろしいほど静かになった。

いつもの四人家族は、もう無い。

(`・ω・´)「お茶淹れてくるよ」

そう言って弟のシャキンは席を立つ。
部屋に残るのは私と母だけ。

静けさが増したようにも思える。

('、`*川「ねえ、ツン」

母が弱々しくこちらを向く。
「どうかしたの?」と出来るだけ気を使って返事を返した。

('、`*川「アルバム、見ない?」



129: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/23(月) 01:06:09.83 ID:KcSPyTwy0

ξ゚听)ξ「おー・・・」

('、`*川「ちょっと、これ見てよ」

(`・ω・´)「え?これ俺なの?」

いくつかのアルバムをゆっくりと捲っていく。
生前、バスの運転手をしていた父の趣味は写真撮影。

だからほとんどの写真に父は写っていない。
それでも、父をとの思い出を振り返るには十分だった。

ところどころにある、家族四人の写真。
私は恥ずかしがってそっぽを向いて、母は微笑んで。
シャキンは満面の笑みで、父はどっしりと構えている。

('、`*川「あの人写真撮るのは巧いのに写るのは駄目ねー」

母の一言に笑いがこぼれる。
そのいつもより小さな笑いが寂しさを増やした気がした。



132: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/23(月) 01:08:28.40 ID:KcSPyTwy0

(`・ω・´)「じゃあ、俺そろそろ行くよ」

シャキンの一言に母は少し塞ぎ込むが、すぐに微笑み返した。

(`・ω・´)「何かあったらすぐ呼んで構わないから」

ひらひらと手を振りながら影を小さくしていく。
母は手を振り終えると、やはりどこか寂しそうにしていた。

('、`*川「あなたは行かなくていいの?」

ξ゚听)ξ「ん・・・もう少ししたら行くわ」

('、`*川「だったら、私とお父さんの話聞いてみる?」

そういえば馴れ初めだのは一度も聞いたことがない。
私はすぐに頷き返し、母は照れくさそうに話を始めた。



136: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/23(月) 01:10:41.18 ID:KcSPyTwy0

そして私はバス停に居る。
これは帰り道じゃない。

むしろ反対。

だけど、母の話を聞いたらここに来たくなった。
海沿いのバス停。

父が運転していたバスが走っていた場所。
それがここだった。

ξ゚听)ξ「もう少しか」

バスが来るまでまだ時間がある。
少し想い出に耽ってみることにした。

父がいた生活。



138: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/23(月) 01:12:58.30 ID:KcSPyTwy0

初めて好きな人が出来た。
バレンタインに向けて必死でチョコを作ったりもした。

余ったものは父と弟にくれてやった。
父は「本命貰った!」などとはしゃいでいた。

余り物だと教えると涙を流して食べていた。


反抗期に冷たくしたら、熱を出して寝込んでいた。
うかうか反抗期にすら入っていられなかった。

中学の卒業式、声を出して泣いていた。
恥ずかしかったので他人のふりをした。

高校に入学する時、力強く抱きしめられた。
苦しくて、恥ずかしくて、「やめてよ」などと言ったが凄く嬉しかった。

一人暮らしを決心した時、誰よりも悩んでくれたのは父だった。
出る時には顔をぐちゃぐちゃにして泣いていた。



141: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/23(月) 01:15:15.28 ID:KcSPyTwy0

ξ--)ξ「今思うと、かなり変な人だったわ」

だけど、大好きだった。
それを面と向かって言ったことは無いけど。

言えばよかったのかな、なんて考えてるとバスが来た。
私はそれに乗り、窓から外を眺める。

ゆったりとした大きなカーブを、綺麗な曲線を描いて走る。
客は私を含めても4人しか乗っていない。

客と運転手、それが母と父の関係だったらしい。
母はいつもこれに乗っていた。
父はいつもそれを運転していた。

『私は、ここを走っている時の風景が大好きなんです』

二人がまだ客と運転手だったころに、父が母に言った言葉だそうだ。
だから私はこのバスに乗ってみようと思った。

大好きな父の大好きな風景が見たくて。



143: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/23(月) 01:17:51.26 ID:KcSPyTwy0

ξ゚听)ξ「・・・」

バスからは少しずつ人が降りて行く。
一人、また一人。

最後には私一人になってしまっていた。

ここまでに見た風景、父が好きだと言ったのも分かる。
そして、そう思った瞬間にようやく涙を流した。

ξ;;)ξ「・・・」

窓を少し開けて風を浴びる。
眺める景色は少しずつ動いていく。

そんな父の愛した景色に、私は寂しさを覚えた。



145: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/23(月) 01:20:06.41 ID:KcSPyTwy0

終点まではどれくらいなのか知らないけれど、このまま乗っていよう。
私はそう考えていた。

空は曇ることを知らないような顔をしている。
そこを、飛行機が我が物顔で通過する。

父がいなくたって、世界は廻る。
私が居なくなったってそれは変わらない。

だからバスは走り続ける。
私たちなどお構いなしに。

最後のバス停で私はバスを降りた。
その際、運転手に訪ねてみた。
なんでバスを運転しているのですか、と。

「このバスを運転してる時に見える風景が好きなんです」

恥ずかしそうに答える運転手の答えが、誰かの答えと重なった。
変ですよね、と彼は言う。

私はそうは思わない。



147: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/23(月) 01:21:56.47 ID:KcSPyTwy0

ξ゚ー゚)ξ「とっても素敵だと思います。私の好きな人もそう言ってましたから」

運転手はポカンとしていたが、すぐに笑顔になった。

「また、乗ってください」

その一言に強く頷いて私はバス停を離れた。

今度はきっと、もっとこの景色を好きになれる。
その次はそれよりもさらに。

ξ゚听)ξ「お父さん・・・。ありがとう」

素敵な景色を見せてくれて。
バスは長い道のりを、綺麗に走って行く。



149: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/23(月) 01:24:44.62 ID:KcSPyTwy0

バスは今日も走る。
それは新たな出逢いを生む。

バスは今日も走る。
新たな期待に胸をふくらませて。

バスは今日も走る。
人はそれに乗る。



151: ξ゚听)ξバスは走るようです :2009/02/23(月) 01:26:26.74 ID:KcSPyTwy0



ξ゚听)ξバスは走るようです  END



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