( <●><●>)樹にかけるはさくらの想いのようです

72: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/04/10(金) 23:10:01.56 ID:f5HkohWr0

「登ってみよう!」

「お前……意外と度胸あるな?」

「確実に落ちるのはわかってます」

「なら止めろよ……」

「大丈夫だって。心配なら、いっしょに登って捕まえててよ」

「やれやれ……」

「あ、俺はここにいるよ……フヒヒ」

「……流石にスカートで登るのはどうかと思いますが」

「まずドクオ君を落っことそうか」

「いや、待て待て、そんな疾しい気持ちは──」

「賛成」

「だから、止めろって──」

「あ、落ちた」

「俺のかばんーっ!?」



74: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/04/10(金) 23:12:40.23 ID:f5HkohWr0
・・・・
・・・

('A`) 「よう……」

それからしばらくの後、記憶の中と変わらぬ沈んだ声と共に、昔馴染みは姿を見せた。
私もきっと、彼の記憶の中にあるそれとさほど変わらない返事をしたと思う。

( <●><●>) 「どうも。一々問答するのも面倒なのでまず状況を説明しますね」

私は、帰ってきた経緯から、ここに来てビロードに会った事、桜が寂しがっている事を順に話した。
ドクオは、時折合いの手は入れるものの、基本的には黙して私の言葉に耳を傾けていた。

( <●><●>) 「これがその、役立たずの精です」

(;><) 「桜の精なんです」

('A`) 「なるほどね……」

(;><) 「てか、さっきからあんたら全然驚かないんですね?」

( <●><●>) 「初見はかなり驚きましたが」



75: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/04/10(金) 23:14:19.46 ID:f5HkohWr0

('A`) 「まあ、コイツが受け入れてる以上、それはそういう事なんだと納得するしかないんでね」

( ><) 「はあ……」

私を指差し、そう宣言したドクオに、ビロードは何とも間の抜けた呟きで返した。
私は、2人のやり取りを傍目に、ドクオから袋を奪い、中身を取り出す。

('A`) 「それに、こんなのは2次元じゃ日常茶飯事だろ」

(;><) 「ここ、3次元ですよ?」

( <●><●>) 「ドクオ」

('A`) 「……いらねーよ」

( <●><●>) 「脛かじりが生意気を言うものではないですよ」

私はドクオに5千円札を1枚突き付ける。
一旦は拒否したドクオだが、釣りだと、私に千円札を2枚と5百円玉を握らせた。



76: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/04/10(金) 23:16:17.44 ID:f5HkohWr0

('A`) 「んじゃ、始めるかね。……何に乾杯だ? 再開を祝してか?」

( <●><●>) 「ドクオ君が就職出来ますように。乾杯」

('A`) 「ふざけんな。……ああ、もうあれだ、そいつだ」

( ><) 「僕ですか?」

( <●><●>) 「桜に」

('A`) 「乾杯」

(*><) 「かんぱーいなんです!」

発泡酒の缶を軽くぶつけ、形だけは整えた乾杯を交わす。
元々、付き合いでしか飲まないアルコールは、旧友を前にしても普段通り、美味いとは感じなかった。

空いた時間、空いた距離。
言葉に負荷を与え、絡みつく。

時折、当たり障りの無い近況報告を誰に聞かせるでもなく口にし、残りは沈黙が大半を支配するという、
おおよそ世間一般的な花見と呼ばれるそれからは程遠い空気のまま、時間だけが過ぎて逝く。



80: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/04/10(金) 23:18:54.91 ID:f5HkohWr0

(;><) 「さっきから暗いんです。久しぶりの再会なんじゃなかったんですか?」

( <●><●>) 「……」

('A`) 「……」

空気の読めない部外者がいた事は、幸運な事だったのかもしれない。
2人だけならきっと、ほとんど何も話さずに終わっていただろう。

( <●><●>) 「色々あるのですよ」

(;><) 「それは何となくわかりますが、お友達として呼んだんですよね?」

騒がないとぽっぽちゃんが喜ばないとビロードは続けます。
私が、それならいっそ桜を酔わせてみるかと試みようとしていると、沈鬱な声がそれを遮った。

('A`) 「……まあ、そうだな。こう、探り合いのようなやり方は性に合わん」

( <●><●>) 「……」



82: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/04/10(金) 23:21:52.10 ID:f5HkohWr0

('A`) 「単刀直入に聞く。あいつは呼ばなかったのか?」

( <●><●>) 「ええ、呼んだのはあなただけです」

( ><) 「あいつって誰なんですか?」

('A`) 「……まあ、それはこの場を見りゃわかってたことだが」

( <●><●>) 「そうですね」

( ><) 「無視されたんです……」

('A`) 「何で連絡すらしなかったんだ?」

( <●><●>) 「……さあ、何故でしょうね?」

('A`) 「別にお前から何かしろとは言わんが、返事ぐらいは寄越してやってもよかったんじゃないか?」

( <●><●>) 「……忙しかったのですよ」

当然、嘘だ。
メールの返事ぐらい、どんなに忙しくても、一言二言ぐらいは返せる。

ドクオにはきっと嘘がわかっているのだろう。
それでいて、私の意図を測ろうとしているのか、口をつぐんだまま、こちらをじっと見詰める。



86: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/04/10(金) 23:24:51.78 ID:f5HkohWr0

('A`) 「……心配してたぞ?」

( <●><●>) 「あなたが相談に乗ってくれたのでしょう?」

('A`) 「……ああ、愚痴は聞いたさ」

( <●><●>) 「そうですか」

('A`) 「……」

(;><) 「そろそろ会話に参加させて欲しいなぁー……なんて──」

( <●><●>) ピクッ

(;><) 「な、何でもないんです!」

('A`) 「俺達の、共通の友達だよ。よく、3人でここに来てた」

( <●><●>) 「……そうでしたね」

( ><) 「そうなんですか? じゃあ、何でその人呼ばないんですか?」

('A`) 「それはこいつに聞いてくれよ」

ドクオは面倒臭そうに私を指差す。
私は肩をすくめ、特に理由はないと答える。



90: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/04/10(金) 23:28:06.40 ID:f5HkohWr0

( ><) 「じゃあ、呼びましょうよ」

( <●><●>) 「咲きませんね、桜」

('A`) 「露骨に話を逸らすなよ。つーか、ちっとも騒いでねーし、こいつも全然楽しくないだろうに」

そう言ってドクオは立ち上がり、桜の木の幹を軽く叩く。
相変わらず蕾のままの桜の花が、わずかに揺れ動いた。

( <●><●>) 「では、ドクオが何か歌でも歌って盛り上げればいいでしょう」

('A`) 「なあ……」

( <●><●>) 「……」

('A`) 「あいつはさ……」

( <●><●>) 「……」

('A`) 「お前の事……」

( <●><●>) 「……」

囁くように低いドクオの声に、あの日この場所で、同じ様に彼女と向かい合った記憶が何故か鮮明に呼び起こされた。

・・・・
・・・



92: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/04/10(金) 23:30:40.05 ID:f5HkohWr0

「そっかー、じゃあ、しばらく会えないんだね」

「そうですね」

「……」

「場合によっては、そのまま向こうでしょうね。私は次男ですし、別に家に縛られる理由もありませんし」

「……ドクオ君は、家業を継ぐのかな?」

「でしょうね。と言いますか、他に選択肢もない気がします」

「あはは……、まあ、そうだねー」

「では、この辺で」

「──私は!」

「……」

「私も、この町から離れられない……」

「そうでしょうね」



94: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/04/10(金) 23:33:23.07 ID:f5HkohWr0

「……それだけなんだ」

「あなたの事情はわかってますからね」

「いつも……」

「……」

「何でも、わかってるんだよね……」

「何でもはわかりませんよ」

「ううん、きっとわかってる」

「……」

「全部わかってて、そう言ってるんだよね」

「どうでしょうね」

「……」

「……」



98: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/04/10(金) 23:36:29.14 ID:f5HkohWr0

「……また」

「……」

「またここで、もう1度会えるかな?」

「……」

「……」

「……生きていれば、いつかは会えるかもしれませんね」

「……そうだね」

「ええ……。では……」

「うん……。また……ね」

「……」

・・・・
・・・



99: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/04/10(金) 23:38:30.06 ID:f5HkohWr0

結ばなかった言葉は、何を避けての事だったのか、今となっては思い出せない。
全ては自分の事なのに、何もわかりはしない。

( <●><●>) 「あなたも、彼女の事が好きでしたでしょう?」

('A`) 「!」

ずっと言わなかった言葉。
いや、言えなかった言葉。

それが壊す言葉だと、わかっていたから。

だが、言ってしまってやっと気付いた事がある。

きっと私は──

( A ) 「──れが──か?」

( <●><●>) 「……」

何処か遠くへ飛んでいた意識を、震える低い声が呼び戻す。
何の反応も出来ずにいる私に、再度ドクオが口を開く。

(#'A`) 「それが理由なのかと聞いている!」



102: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/04/10(金) 23:41:15.19 ID:f5HkohWr0

( <●><●>) 「何の話だかわかりま──」

(#'A`) 「お前はいつも! 何でもわかってやがる!」

あの日、この場所で聞いた同じ台詞を、今度は別の友人が私に投げ付ける。
どちらも大切で、掛け替えのなかった2人。

返す言葉は、あの日と同じ物。

( <●><●>) 「何でもはわかりませんよ」

(#'A`) 「嘘吐け!」

同じ言葉を返しても、返される言葉はまた違う物。
目の前の彼は、あの日の彼女ではない。

(#'A`) 「全部わかってて、お前が引いて、譲って、それで!」

( <●><●>) 「そこから先はがんばれば皆が幸せになれますよ」

(#'A`) 「お前は!」

温厚とは言い難いドクオだが、感情を露にする事は稀だ。
そんなドクオが、拳を握り振りかぶっている。

私はただ、それを受け入れた。



104: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/04/10(金) 23:43:11.64 ID:f5HkohWr0

( <●><●>) スパァン! ('A`)
    グハァ!(><(#そミ⊃


(;'A`) 「は?」

( <●><●>) 「何を……」

静かに待ったその時は一向に訪れず、代わりに響く乾いた音と転がる身体。
私は、ビロードを引き起こし、その意を問う。

(><(#) 「うう……ケンカはダメなんです」

( <●><●>) 「……あなたが口を挟む問題ではないですよ」

(><(#) 「そうかもしれないんです。でも、やっぱり友達は仲良くなんです」

( <●><●>) 「……」

('A`) 「……あー、くそっ」

黙って私とビロードのやり取りを眺めていたドクオが、何やら悪態を吐き、ビロードに歩み寄る。



107: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/04/10(金) 23:46:09.33 ID:f5HkohWr0

('A`) 「殴って悪かったな」

( ><) 「いえ、でしゃばってごめんなさいなんです」

( <●><●>) 「暴力はよくありませんね」

(;><) 「出会っていきなり殴り飛ばした人がどの口でそう言うんですか?」

怪異への対応としては割と的確だったとは思うが、ビロードは不満げに言う。
私は、ビロードには聞こえないほどの声で感謝の意を示しておいた。

何となく白けてしまった場を持て余し、空を眺めてみる。
春の空は青く、白い雲が緩やかに流れていた。

('A`) 「何か白けちまったな」

( <●><●>) 「誰のせいでしょうね」

('A`) 「……俺は帰るよ」

( <●><●>) 「後片付けはしないつもりですか?」

('A`) 「大した量じゃないだろ」



109: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/04/10(金) 23:48:51.21 ID:f5HkohWr0

( <●><●>) 「1人で持ち帰るにはそれなりの量ですよ」

('A`) 「……俺はそれを1人で持ってきたんだぞ?」

そういうとドクオはくるりときびすを返し、降りの道の方へ向かう。
引き止めないのかとビロードが小声で問うが、私はただ、首を振った。

('A`) 「じゃあな……」

( <●><●>) 「ええ、今日はわざわざ──」

('A`) 「──あ、そうそう、流石に1人で片付けるのは大変だろうから、人手は呼んどいたから」

( <●><●>) 「……はい?」

('A`) 「ちょっと遅れるとは言ってたけど、そろそろ来るんじゃないかなー?」

( <●><●>) 「……ちょっと待て、貴様、それはどういう──」

(*'A`) 「あー俺って優しいなー、フヒヒヒ……おっと、そうだ……」

ドクオは薄気味悪い笑みを浮かべ、何故かビロードに手招きをした。
ビロードが応じると、ドクオはそれを抱え、坂道を駆け出す。



112: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/04/10(金) 23:52:00.27 ID:f5HkohWr0

(;><) 「な、何なんですか! わかんないんです!」

('A`) 「いいからお前も来い!」

(;><) 「ぼ、僕は桜の精で、ぽっぽちゃんから離れるわけには──」

('A`) 「後で戻ればいいだろ? いいから今は大人しく──」

「あれ?」

(*'A`) 「おう! 俺は帰るから、後よろしく!」

「え? あれ? えっと……うん、またね?」

慌しくドクオは去り、代わりにどこか緊張感の欠落した、気の抜けた声が懐かしい声が響く。
想定出来ていなかった事態に、ただ立ち尽くしていた私は、彼女の声で我に返った。



114: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/04/10(金) 23:55:06.25 ID:f5HkohWr0

ζ(゚ー゚*ζ「久しぶり」

( <●><●>) 「……」

ζ(゚ー゚*ζ「どうしたの? 鳩が豆鉄砲を食らったような顔をして?」

あの日と変わらぬあどけない笑顔で私の顔を覗き込む彼女。
あの日と変わらぬ無表情を保てないでいる私。

( <●><●>) 「……いいえ、些か予想が外れましたので」

ζ(゚ー゚*ζ「そう? 珍しいね、そういうの」

( <●><●>) 「……何でもはわかりませんよ」

私が、ようやく、あの日を模した顔で告げると、彼女は一層にこやかに微笑んだ。

ζ(^ー^*ζ「変わらないね」

眩しくて、ほんのわずかの間だが見とれていた私は──

( <●><●>) 「……あなたは……少し」

ζ(^ー^*ζ



116: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/04/10(金) 23:57:05.72 ID:f5HkohWr0

( <●><●>) 「老けましたね」

ζ(^ー^*ζ

( <●><●>)


       スパァン! ζ(゚д゚#ζ
グハァ! (<●><●(#そミ⊃



119: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/04/11(土) 00:00:25.95 ID:Fj4Wd6uH0

ζ(゚д゚#ζ 「な、なんば言いよっとね、あんたは!」

(<●><●>(#) 「……冗談ですよ」

ζ(゚д゚*ζ 「もう……」

( <●><●>) 「やれやれ……」

膨れっ面を見せる彼女から視線を逸らし、また樹上を見上げる。
一気に騒がしくなった場に、桜は楽しげに枝を揺らしているかに見えた。

ほんのわずかに、蕾が膨らんだようにも見えたが、それは多分気のせいだろう。

でもきっと、桜は咲くのだろう。

これからもっと、賑やかになるのだから。

( <●><●>) 「さて、そこの2人も出て来て下さい」

ζ(゚ー゚*ζ 「お? これからお花見?」

('A`) 「……んだよ、もうちょい話してから呼べよ」

(*><) 「あれあれ、おじゃまじゃないですか〜?」



121: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/04/11(土) 00:02:59.56 ID:Fj4Wd6uH0

( <●><●>) スパァーンッ!
    ⊂彡Σ#)><) ギャァァァ!


( <●><●>) 「さて、改めて……」

('A`) 「乾杯と行くか……」

ζ(゚ー゚*ζ 「何に?」

('A`) 「そりゃまあ……」

( <●><●>) 「桜に」

('A`) 「乾杯」

ζ(^ー^*ζ 「かんぱーい!」

いつの間にか、ぎこちない空気は消え、あの日に戻った様なドクオがいて、あの日と変わらないデレがいる。
自分も恐らく、昔の様な姿で2人の目には映っているのだろう。

避けていたのが何からだったのか、何故足を遠ざけていたのか、その答えはもう、わかっています。
でもきっと、私は何もわかっていなかったのだろう。

彼と彼女の想いは。



123: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/04/11(土) 00:05:06.80 ID:Fj4Wd6uH0

ζ(゚ー゚*ζ 「あ! 見て

('A`) 「ほう……」

( <●><●>) 「おや……」


( ><)(*‘ω‘ *)


いつの間にか桜の精は消え、代わりにわずかに花開いた桜がそこにあった。
何が良かったのかは、私にはわかりません。
空けた距離の詰め方も、冷たい態度の溶かし方も。

それでも2人が、そして桜が受け入れてくれたのは、まだいくらでも、やり直せるからなのでしょう。

( <●><●>) 「また近い内に、戻ってきますよ」

('A`) 「土産ぐらい買って来いよ」

ζ(゚ー゚*ζ 「うん、じゃあ……」

( <●><●>) 「ええ……」

「またね」


 − ( <●><●>)樹にかけるはさくらの想いのようです 了 −



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