( ^ω^)ブーンが戦い、川 ゚ -゚)クーが護るようです
- 5: ◆BYUt189CYA :佐賀暦2006年,2006/11/07(佐賀県警察) 21:52:35.01 ID:ojnZUBWN0
- 第六話 『折れた心』
ニューソク高校。
今日は月曜日だ。
学校は普段の喧騒に溢れている。
そんな中、2−Aの教室では二人の男子が熱い議論を展開していた。
( ^ω^)「いや、だから掛け声は『○○―W・××、発動!!』がいいお!
もちろん、両手で構えてブワーって!」
('A`)「それなんてヒーロー?
それよりも『発動……○○―W・××!』の方がよくね?
片手を掲げてさ、クールに決める感じで」
(;^ω^)「むむむ……!」
(;'A`)「ぬぬぬ……!」
睨み合う両者。
言うまでもないが、ウェポン発動時の掛け声議論だ。
クーが言うには『掛け声などいらん』そうなのだが。
ξ゚听)ξ「アンタら……何の話してんの?」
完全に話についていけないツンが口を挟む。
- 6: ◆BYUt189CYA :佐賀暦2006年,2006/11/07(佐賀県警察) 21:54:51.36 ID:ojnZUBWN0
- ( ^ω^)「これは男のプライドをかけた戦いだお!
略してプラ戦!」
('A`)「なんかプラモで戦うみてぇだな。
昔そんな漫画あってさぁ――」
( ^ω^)「あ、それ好きだったお!」
('A`)「お、気が合うな、俺もだ」
話が方向転換を始める。
ξ゚听)ξ「意味解んないわ……」
彼女は呆れ果て、隣のクラスへ行ってしまった。
気付かず、二人の議論は続く。
( ^ω^)「いや、だから僕はWの方が――」
('A`)「評価低いけどX好きだぜ、俺。
あと色物だけどGガンも――」
(#^ω^)「弱い奴がうろうろするなぁ!」
(;'A`)「あのさ、なんで殴りかかってくるの?
そもそも自分の好きなの語るのって自由だろ、常識的に考えて――」
- 8: ◆BYUt189CYA :佐賀暦2006年,2006/11/07(佐賀県警察) 21:57:41.05 ID:ojnZUBWN0
- クーは公園にいた。
ブーン達が学校へ行っている間、ぶっちゃけると暇だからだ。
警戒するために学校へ一緒に付いて行くとも言ったのだが、黒コートでは目立ちすぎるとブーンに断られたのだ。
川 ゚ -゚)「ふむ……」
ふと、腹を撫でる。
昨日の傷はようやく塞がった。
ブーン達は今朝の今朝まで心配していたが
服をたくし上げて塞がった傷跡を見せたら納得をしたようだった。
(*'A`)「いい腹してんじゃねぇかよぉ、クーさんよぉ」
などと言っていたドクオの顔面を蹴り飛ばしたのは、正解だったのだろうか。
何故かいきなり蹴る気が湧いてきたのだが、これはかりそめの女としての佐賀か。
ブーンは素直に塞がった傷を感心してみていた。
治癒時間が異常に速い理由については、いつか必ず話そうと思う。
腹をマジマジと見ていたブーンが、ふとすぐに気付いて顔が赤くなっていたのは可愛かった。
が、それ以上に、自分を女性として見てくれた二人には感謝している。
川 ゚ -゚)(私は所詮、失敗作……だが……)
なんだろう、この気持ちは。
人間が、普通の人間がひどく羨ましい。
今までそんなこと考えもしなかったのに。
- 9: ◆BYUt189CYA :佐賀暦2006年,2006/11/07(佐賀県警察) 22:00:34.52 ID:ojnZUBWN0
- その時だ。
川 ゚ -゚)「む」
辺りに『Information High』が響き出す。
ごめんね、作者の趣味でごめんね。
彼女は黒いコートの内ポケットから、黒い携帯電話を取り出す。
通話ボタンを押し、耳に当てる。
川 ゚ -゚)「……もしもし?」
( ,,゚Д゚)『お、この番号でやっぱ合ってたか。
俺だ、俺。 牙猫と言ったら解るか?』
川 ゚ -゚)「……何故、貴様が私の携帯の番号を?」
( ,,゚Д゚)『なに、腕の良い情報屋がいてな。
まぁ、そんなことはどうでもいい』
川 ゚ -゚)「……いいのか」
( ,,゚Д゚)『お前達に、一つ頼みごとがあるんだ』
川 ゚ -゚)「ほぅ、出鱈目に強い貴様が弱い私達に頼み、か。
それは面白いな、ハハハ」
- 10: ◆BYUt189CYA :佐賀暦2006年,2006/11/07(佐賀県警察) 22:02:39.70 ID:ojnZUBWN0
- ( ,,゚Д゚)『……何かトゲを感じるんだが、気のせいか?』
川 ゚ -゚)「気にするな。
で、その頼みごととは?」
( ,,゚Д゚)『13th−Wの所在が判明した。
至急、お前達に回収に向かって欲しい』
川 ゚ -゚)「貴様が行けば良かろうに」
( ,,゚Д゚)『行けたら行っている。
行けないから、こうしてお前達に頼んでいる』
川 ゚ -゚)「……それは本当に確実な情報か?」
( ,,゚Д゚)『嘘は嫌いだ』
川 ゚ -゚)「……仕方ない、不甲斐ない貴様の代わりに私が行ってやろう。
別に貴様のためではないから、勘違いするな」
(;,,゚Д゚)『それ、違う奴の言う台詞じゃないか?
確かツンデ――』
通話終了。
携帯電話を折りたたみ、懐へしまう。
- 12: ◆BYUt189CYA :佐賀暦2006年,2006/11/07(佐賀県警察) 22:05:14.61 ID:ojnZUBWN0
- 数秒後に、また着信音が鳴り出す。
川 ゚ -゚)「しつこい男だ」
(;,,゚Д゚)『場所も聞かずに何処へ行くつもりだ』
川 ゚ -゚)「早く言わない貴様が悪い」
( ,,゚Д゚)『……理不尽さを感じるが、まぁいい。
場所は『ニューソク総合病院』だ』
川 ゚ -゚)「病院……?」
( ,,゚Д゚)『そこに反応があったのは確かだ。
悪いが、真相を確かめ、存在していれば回収を頼む』
川 ゚ -゚)「……解った」
- 15: ◆BYUt189CYA :佐賀暦2006年,2006/11/07(佐賀県警察) 22:08:13.11 ID:ojnZUBWN0
- 携帯電話をしまい、クーは少しの間黙考した。
病院。
彼女が、頑なに行くのを拒む場所。
川 ゚ -゚)(……ブーン達と一緒に行くべきか)
いや、彼らが帰ってくるまで、まだだいぶ時間がある。
その間に『VIP』の刺客が13th−Wを狙うとも限らない。
しかし黙って行くのも悪いので、ブーンの携帯にメールをしておく。
川 ゚ -゚)「行くか……」
彼女は公園を出、ニューソク総合病院へ向かった。
- 16: ◆BYUt189CYA :佐賀暦2006年,2006/11/07(佐賀県警察) 22:10:34.68 ID:ojnZUBWN0
- 学校。
昼休み。
弁当を食べているブーンの携帯が震えた。
( ^ω^)「お?」
取り出し、画面を見る。
クーからのメールだ。
('A`)「おー、彼女からメールかよ、おめでてーな」
ξ;゚听)ξ「彼女!? 彼女って何!?」
(;'A`)「あっ! おま! 机揺らすから俺のオニギリ落ちたぞ!?」
(;^ω^)
「か、彼女じゃないお!
ただの大切な人なんだお!」
ξ;゚听)ξ「大切な人ぉぉぉぉぉ!?」
('A`)「3秒ルール、3秒ルール……」
- 18: ◆BYUt189CYA :佐賀暦2006年,2006/11/07(佐賀県警察) 22:13:28.72 ID:ojnZUBWN0
- ξ゚听)ξ「ちょっと、そのメール見せて!」
(;^ω^)「あ、あう!」
送信者:クー
件名:無し
本文:大事な用件で、病院へ行くことになった。
あとで来れれば来てほしい。
君にとっても、大切なことだ。
ξ゚听)ξ「びょ、病院……」
( ^ω^)「お?」
ξ;゚听)ξ「いつの間にそんな関係にぃぃぃぃ!?」
(;'A`)「あ、やっぱコレ駄目だったわ、腹痛ぇ。
ちょっとトイレ逝ってくる」
- 20: ◆BYUt189CYA :佐賀暦2006年,2006/11/07(佐賀県警察) 22:15:47.71 ID:ojnZUBWN0
- ニューソク総合病院。
都市ニューソクにある、大きな病院だ。
設備も人員も充実しており、ニューソクで怪我や病気をしたらまずはここ、といった感じだ。
その入り口に、怪しい黒い影。
クーだ。
ロータリーに立つ柱の影に隠れ、何やら思考している。
川 ゚ -゚)「……やはりこういう施設は嫌いだ」
人間の身体をイジるような、そんな施設。
クーにとっては研究所も病院も似たようなイメージだった。
失敗作と罵られ、捨てられた過去。
今では白い床や天井、薬品の匂いだけでも、気分が悪くなるほどだった。
川;゚ -゚)「……行くぞ」
人知れず覚悟を決め、自動ドアをくぐる。
まず目に入るのはロビーだ。
診察待ちの病人や怪我人が、椅子に座って順番を待っている。
が、クーはそれには見向きもしない。
- 23: ◆BYUt189CYA :佐賀暦2006年,2006/11/07(佐賀県警察) 22:17:51.99 ID:ojnZUBWN0
- ギコは『病院に13th−Wがある』と言った。
つまり、今日昨日来たような病人が指輪を持っているわけがない。
持っているとすれば、医師関係者か――
川 ゚ -゚)「入院患者、か」
確率的には後者の方が高いだろう。
常時病院にいるのだから。
歩く。
目指すは3階以上。
入院患者の病室は3階から6階。
クーの捜索が始まった。
- 24: ◆BYUt189CYA :佐賀暦2006年,2006/11/07(佐賀県警察) 22:20:06.70 ID:ojnZUBWN0
- その病院の屋上。
誰もいないはずのそこに、人影が二つ。
ローブを羽織った老人と、巨躯の男。
/ ,' 3「ふむ……」
(゜∈゜)「…………」
/ ,' 3「さてさて、失敗作が入ったようだが……どう思うかね?」
(゜∈゜)「…………」
/ ,' 3「クックル、これを見るといい」
一枚の資料を、クックルと呼ばれた男に見せる。
内容は『13th−W』の詳細だった。
指輪の色、発動後の形態、能力――
それらが詳細に記された、クルト博士の遺す資料だった。
- 26: ◆BYUt189CYA :佐賀暦2006年,2006/11/07(佐賀県警察) 22:22:15.54 ID:ojnZUBWN0
- / ,' 3「どう思う?」
(゜∈゜)「…………」
しばらく資料を見ていたクックルは、ふと荒巻に背を向ける。
行く先は屋上からの出口である階下への扉だ。
/ ,' 3「どうやら気に入ったようじゃの」
ふ、と口を歪める。
/ ,' 3「死者はいくつ出るか……。
賭けをしたいところじゃが、相手がおらんのが寂しいのぉ」
老人の独り言は、屋上に吹く風に流され消えていった。
- 27: ◆BYUt189CYA :佐賀暦2006年,2006/11/07(佐賀県警察) 22:24:43.66 ID:ojnZUBWN0
- 白い廊下をクーは歩いていた。
13th−Wを探す方法は至極簡単。
一人一人の腕を取り、指輪がはめられていないか見て、指輪を持っていないか問いだす。
実に地道で原始的な作業だ。
しかも完全に不審者。
だが、仕方の無いことだった。
クーはウェポンを持っていないので、共鳴反応で探すことは出来ない。
川 ゚ -゚)「ふぅ……次は5階か」
階段へ向かう。
エレベータを使うのは嫌だった。
昔の記憶が蘇ってしまうから。
5階へ辿り着く。
川 ゚ -゚)「ん……?」
階段の出口に、少年がいた。
まだ小学生くらいだろうか。
だが、少年にしては不似合いな寂しげな表情で、壁に背を付け立っている。
- 28: ◆BYUt189CYA :佐賀暦2006年,2006/11/07(佐賀県警察) 22:27:24.48 ID:ojnZUBWN0
- (=゚ω゚)「…………」
川 ゚ -゚)「…………」
お互い、目が合うが言葉は無い。
ふと、少年の手に目がいった。
指輪。
緑色に輝くそれは、ブーンやドクオのものと同じ形状だ。
川;゚ -゚)「少年、それは……」
慌てて近付く。
子供とはあまり接したことが無いので不安だったが、とりあえず話しかける。
(=゚ω゚)「?」
純粋な目をしている。
クーは思う。
自分とは違う。
濁ってなんかいない、綺麗な目だ。
- 29: ◆BYUt189CYA :佐賀暦2006年,2006/11/07(佐賀県警察) 22:30:43.00 ID:ojnZUBWN0
- つい目を奪われかけたクーだが、気を取り直して会話を開始する。
川 ゚ -゚)「君は、ここの病院で?」
(=゚ω゚)「うん、入院してるよぅ」
川 ゚ -゚)「そうか……ところで、その指輪は?」
(=゚ω゚)「父ちゃんがくれた、大切なモノなんだよぅ。
これを指にはめてれば、どんな手術だって怖くなくなるんだよぅ」
嬉しそうに語りだす少年。
どうやら話し相手が欲しかったらしい。
川 ゚ -゚)「少年、君の手は――」
気付く。
指輪をしている手とは逆の手。
その手首から先が、全て包帯で覆われている。
(=゚ω゚)「車に轢かれたんだよぅ。
それで、指が全部取れちゃったんだよぅ」
痛々しく包帯を巻かれた腕を、クーに見せる少年。
- 34: ◆BYUt189CYA :佐賀暦2006年,2006/11/07(佐賀県警察) 22:33:02.61 ID:ojnZUBWN0
- 川 ゚ -゚)「そうか……大変だったろう」
クーは自然と少年の頭を撫でた。
少年はくすぐったそうに、しかし嬉しそうに目を細める。
(=゚ω゚)「お姉ちゃん、いい人なんだよぅ」
川 ゚ -゚)「私が……?」
(=゚ω゚)「皆、僕のこと呪われてるって言うんだよぅ。
僕の身の周りには、悪魔がいるんだよぅ」
少し悲しげに言う。
もう諦めてしまっているような、そんな声色だ。
川 ゚ -゚)「悪魔……」
(=゚ω゚)「母ちゃんは、僕が生まれた時に死んじゃったんだよぅ。
友達のタケちゃんも、シホちゃんも、僕と遊んでたら事故に遭っちゃったんだよぅ」
川 ゚ -゚)「それが、悪魔の仕業……だと?」
(=゚ω゚)「皆そう言ってるよぅ」
- 35: ◆BYUt189CYA :佐賀暦2006年,2006/11/07(佐賀県警察) 22:35:41.46 ID:ojnZUBWN0
- でも、と少年は付け加えた。
(=゚ω゚)「父ちゃんは、そんなこと言わないんだよぅ。
この指輪を渡して、『頑張ってくれ』って言ってくれたんだよぅ」
川 ゚ -゚)「そうか……良い父親なのだな」
(=゚ω゚)「仕事が忙しいって言ってて、もう一ヶ月くらい会ってないけど
僕、寂しいなんて言わないよぅ。
この指輪があれば、全然平気なんだよぅ」
川 ゚ -゚)「え……」
父親が、一ヶ月も子供を放置している……?
いくら仕事が忙しくても、それは――
川 ゚ -゚)「…………」
(=゚ω゚)「どうしたんだよぅ?」
川 ゚ -゚)「……いや、何でもないさ」
嫌な想像が頭を駆け巡る。
おそらく、当たっているのだろう。
- 37: ◆BYUt189CYA :佐賀暦2006年,2006/11/07(佐賀県警察) 22:39:28.71 ID:ojnZUBWN0
- クーは、そんな嫌な結論を吹き飛ばすように話を続けた。
川 ゚ -゚)「ここでは何だ、君の病室へ行こう。
もっと話を聞かせてくれないか」
(=゚ω゚)「いいよぅ!」
嬉しそうにクーの手を握る少年。
その温かい感触に、つい彼女は目を細める。
これは――
懐かしい?
川 ゚ -゚)「……?」
ふと記憶が蘇りそうになる。
何か、大切な記憶が……。
しかし、それはすぐに頭の奥へ失せてしまった。
川 ゚ -゚)(なんだ、今の感情は……?)
疑問に思うが答えは無い。
彼女は諦め、少年と共に歩いていった。
- 38: ◆BYUt189CYA :佐賀暦2006年,2006/11/07(佐賀県警察) 22:41:51.77 ID:ojnZUBWN0
- ニューソク総合病院6階。
そこにクックルはいた。
ドスドスと音を立て歩く姿は、もはや人間とは言いがたい。
彼の無表情な目は、何かを探すようにキョロキョロと動き回る。
その様子を妙だと受け取ったのか、白衣を着た中年の医師が話しかけてきた。
「君、どうしたのかね?
どこか具合でも悪いのかね?」
(゜∈゜)「…………」
クックル
は何も語らない。
相変わらず、その目はギョロギョロと忙しなく動いている。
「……?
君、聞いているのかね?」
医師が男に触れようとした。
その時だ。
ゴキリ
何か硬い物を無理にへし折った音が響く。
見れば、医師の差し出した右手がありえない方向を向いていた。
- 40: ◆BYUt189CYA :佐賀暦2006年,2006/11/07(佐賀県警察) 22:44:29.42 ID:ojnZUBWN0
- 「う、う、うあぁぁぁぁぁぁ!?」
続いて襲い掛かってくる激痛に、医師は廊下に伏せ、悶え苦しんだ。
その頭部に、足。
グシャリという水音と破砕の音が重なり、またもやありえない音が響いた。
頭部を失った医師がビクビクと身体を痙攣させ、そして動かなくなる。
(゜∈゜)「…………」
「き、きゃあぁぁぁぁぁぁ!?」
見ていた看護士の女性が叫んだ。
それを契機に、クックルが走り出す。
ニューソク総合病院6階。
阿鼻叫喚の地獄が始まった。
- 43: ◆BYUt189CYA :佐賀暦2006年,2006/11/07(佐賀県警察) 22:46:45.90 ID:ojnZUBWN0
- その叫び声を、クーは5階の病室で聞いた。
川 ゚ -゚)「今のは……?」
(=゚ω゚)「な、何だよぅ、今の声は……」
心配そうにつぶやく少年――名はイヨウというらしい――をベッドに残し
クーは廊下の様子を見に行く。
廊下では、他の病室の人達も心配そうな顔で様子を伺っていた。
クーがその内の一人を捕まえ、話を聞こうとしたときだ。
川 ゚ -゚)「!?」
廊下の最奥。
その影から何かが飛び出してきた。
人の形をしていたそれは、糸の切れた操り人形のように転がり地に伏せる。
その後から、巨躯の男が出てきた。
両腕を血で真っ赤に染めた男。
ゾクリ、とクーの背中に悪寒が走った。
川;゚ -゚)「まさか――」
- 44: ◆BYUt189CYA :佐賀暦2006年,2006/11/07(佐賀県警察) 22:49:14.75 ID:ojnZUBWN0
- この時期。
このタイミング。
この状況。
川;゚ -゚)「くそっ!」
大男目掛けて走り出す。
ここで止めねば、少年の命が危ない。
コートに隠し持っていた刀を取り出し、疾駆する。
巨躯の男が気付いた。
ギョロリと両目をこちらに向けてくる。
腕を上げた。
来る。
川 ゚ -゚)「ッ!」
男の直前でブレーキ。
その停止エネルギーを逸らし、巨躯の男の真横へ飛ぶ。
- 45: ◆BYUt189CYA :佐賀暦2006年,2006/11/07(佐賀県警察) 22:51:43.67 ID:ojnZUBWN0
- 川 ゚ -゚)「はっ!」
己の元へ上げられた太い腕を切断――
川;゚ -゚)「!?」
出来ない。
刃は皮膚を切れはしたが、筋肉と骨はそれを通さなかった。
川;゚ -゚)「な、何だと……!?」
刀を引き、距離をとる。
(゜∈゜)「…………」
男は傷口を見つめていた。
浅く裂かれたその皮膚からは、少しばかりの血が流れ出ている。
しばらくそれを眺めていたと思えば、彼はその傷口に顔を近づけた。
舐める。
ベロリ、と。
実に美味しそうに。
川;゚ -゚)「……こいつ」
- 47: ◆BYUt189CYA :佐賀暦2006年,2006/11/07(佐賀県警察) 22:54:02.62 ID:ojnZUBWN0
- 先日の戦いが思い出される。
高速移動を用いる、ナイフ使いの女。
彼女も血を欲していた。
ジョルジュといい彼女といい、どうやら『VIP』にはそんな狂人が集まっているらしい。
(=゚ω゚)「お姉ちゃん……?」
少し離れた場所から少年の声。
見れば、イヨウが病室から心配そうに顔を覗かせていた。
川;゚ -゚)「来るな――ッ!?」
気付く。
病室の扉に、イヨウの手が掛けられている。
指輪がはめられている手を。
(゜∈゜)「…………」
まずい。
気付かれた。
そう思った瞬間には、巨躯の男は走り出していた。
目指すは少年。
いや、少年の指に光る緑色の指輪だ。
- 48: ◆BYUt189CYA :佐賀暦2006年,2006/11/07(佐賀県警察) 22:56:28.13 ID:ojnZUBWN0
- 数瞬遅れてクーも走り出す。
(=゚ω゚)「う、うわぁ……!」
向かってくる巨躯の男を見て怯えるイヨウ。
だが、先に辿り着いたのはクーだった。
幸運にも、クックルの足はそれほど速くは無い。
走りながらイヨウを脇に抱え、更に駆け出す。
(=゚ω゚)「お、お姉ちゃん……!」
川 ゚ -゚)「少し揺れるぞ、我慢しろ!」
階下へ向かう階段を駆け下りる。
目指すは一階だ。
外へ逃げれば、何とか逃げ切れるかもしれない。
瞬間、轟音。
頭上から、大量の破片が降り注ぐ。
川;゚ -゚)「っ!?」
(=゚ω゚)「うわぁぁ!?」
慌てて退避。
クーが先ほどまでいた場所に、クックルの巨体が降り立った。
- 49: ◆BYUt189CYA :佐賀暦2006年,2006/11/07(佐賀県警察) 22:58:46.06 ID:ojnZUBWN0
- 川;゚ -゚)「階段を無視か……非常識な」
だが、このままではまずい。
イヨウを抱えたまま戦うなど、愚の骨頂だ。
結果は二人の死。
それだけは絶対に避けねばならない。
イヨウの指輪が目に入る。
これが奴の狙っているもの。
これを私が持っていれば、イヨウが狙われることは無くなる。
そうだ、私がこれを――
――父ちゃんがくれた、大切なモノなんだよぅ。
川;゚ -゚)「ッ……」
指輪に伸ばした手が止まる。
駄目だ。
何が?
取るんだ。
私が囮になれば、この少年は助かる。
取れ。
取るんだ。
- 51: ◆BYUt189CYA :佐賀暦2006年,2006/11/07(佐賀県警察) 23:02:33.95 ID:ojnZUBWN0
- 川;゚ -゚)「……う」
動かない。
理性では解っていても、腕が動かない。
この少年から、指輪を奪うなんて――
出来ない。
したくない。
(=゚ω゚)「お姉ちゃん……?」
甘い、甘すぎる。
最低だ。
最低で最悪だ。
この状況で何を考えている?
何を甘ったれたことを考えている?
私は、どうすれば――
(=゚ω゚)「お姉ちゃん!」
イヨウの言葉で我に返る。
目の前の巨躯の男が、腕を振りかぶっていた。
川;゚ -゚)「チッ!」
跳躍――破壊された階段を飛び、更に駆け下りる。
- 53: ◆BYUt189CYA :佐賀暦2006年,2006/11/07(佐賀県警察) 23:05:21.69 ID:ojnZUBWN0
- 背後からは力の塊が迫ってくる。
(=゚ω゚)「怖いよぅ……」
脇に抱えられたイヨウが、泣きながらつぶやく。
川;゚ -゚)(くそっ……!!)
最悪だ。
この少年に、こんな怖い思いまでさせて。
私は何を――何を躊躇う!
指輪を取るだけだ!
取って少年を安全な場所に隠し、私が囮になればいい!
この少年だけは死なせたくない!
だが
駄目、だ。
奪えない。
偽りとはいえ、唯一の父親との接点。
私が勝手に奪っていい物じゃない。
ならば聞くか?
説明するか?
それだけの時間と余裕はあるのか?
- 55: ◆BYUt189CYA :佐賀暦2006年,2006/11/07(佐賀県警察) 23:07:40.48 ID:ojnZUBWN0
- ――否。
背後からは、あの男が迫ってきている。
止まっている暇などない。
どうする?
どうする!?
一階に辿り着いた。
息を弾ませ、走る。
周りの看護士や病人達が怪訝な顔でこちらを見るが、知ったことではない。
早く出口から外へ――
- 59: ◆BYUt189CYA :佐賀暦2006年,2006/11/07(佐賀県警察) 23:11:13.87 ID:ojnZUBWN0
- (=゚ω゚)「お姉ちゃん」
川 ゚ -゚)「!?」
声が聞こえた。
自分の脇からではない。
少し遠い距離から、イヨウの声が――
(=゚ω゚)「お姉ちゃん」
(=゚ω゚)「お姉ちゃん」
(=゚ω゚)「お姉ちゃん」
川;゚ -゚)「なっ!?」
病院のロビー。
至る所に少年が立っていた。
皆、同じ表情でクーに声をかける。
(=゚ω゚)「お姉ちゃん」
(=゚ω゚)「お姉ちゃん」
(=゚ω゚)「お姉ちゃん」
- 61: ◆BYUt189CYA :佐賀暦2006年,2006/11/07(佐賀県警察) 23:14:28.72 ID:ojnZUBWN0
- 川;゚ -゚)「な、何だ……と?」
悪夢のような光景。
わけが解らない。
その時、脇に抱えたモノが動いた。
(゚=ω。)「オネエチャン」
川;゚ -゚)「う、うわぁ!?」
異形とも言える生物が、クーの脇に抱えられていた。
慌てて放り出す。
落ちた異形は、蠢くようにクーに近付こうとする。
(゚=ω。)「オネエチャン、ドウシタノ? イタイヨゥ、イタイヨゥ」
(=゚ω゚)「お姉ちゃん」
(=゚ω゚)「お姉ちゃん」
(=゚ω゚)「お姉ちゃん」
周りのイヨウが一斉に声を上げる。
川;゚ -゚)「これ……は……!?」
- 62: ◆BYUt189CYA :佐賀暦2006年,2006/11/07(佐賀県警察) 23:16:36.01 ID:ojnZUBWN0
- 川;゚ -゚)「これ……は……!?」
至る所にイヨウ。
そしてその数は未だに増え続ける。
どれだ。
どれが本物だ!?
ふと、視界に巨躯の男が入った。
階段をようやく降りてきたらしい。
川;゚ -゚)「くそッ……!」
刀を構える。
が、巨躯の男はクーを無視。
先ほど放り投げた異形の生物の元へと歩いていく。
川;゚ -゚)「……?」
(゜∈゜)「…………」
異形を持ち上げる。
不思議に思ったその時だ。
- 65: ◆BYUt189CYA :佐賀暦2006年,2006/11/07(佐賀県警察) 23:18:59.86 ID:ojnZUBWN0
- 「ミシュガルド、解除」
老人の声。
途端、ガラスが割れるような音がクーの耳に響いた。
一瞬、目の前が光に溢れ視界が奪われる。
川;つ-゚)「い、今のは……」
目を擦り、周囲を確認。
先ほどまでいた大量のイヨウはいなかった。
川;゚ -゚)「これは……どういう……?」
まるで夢から覚めた気分だ。
周りには既に人はいない。
退避したのか、それとも最初からいなかったのか。
ふと、困惑する彼女に声が掛かった。
/ ,' 3「久しぶりじゃな、失敗作」
病院の入り口に、黒いローブを羽織った老人がいた。
見覚えがある。
- 66: ◆BYUt189CYA :佐賀暦2006年,2006/11/07(佐賀県警察) 23:21:06.65 ID:ojnZUBWN0
- 川;゚ -゚)「あ、荒巻……!?」
/ ,' 3「ほ……いつ、呼び捨てでいいと許可したかの?」
川;゚ -゚)「うるさい……!」
刀を向け、睨む。
その様子を楽しげに見ていた荒巻は
/ ,' 3「ほっほ、ワシを相手にしておってもいいのかのぅ?」
川;゚ -゚)「何だと……!?」
/ ,' 3「あれを見ぃ」
老人が指を指す。
その先には、クックルが異形の生物を――
- 68: ◆BYUt189CYA :佐賀暦2006年,2006/11/07(佐賀県警察) 23:23:18.27 ID:ojnZUBWN0
- (=゚ω゚)「お、お姉ちゃん……」
川;゚ -゚)「イヨウ!?」
その強靭な腕が、イヨウの首を持ち上げていた。
何故?
疑問に思う間もなく、身体が動いていた。
川;゚ -゚)「イヨウを放せッ!!」
クックルの元へ突進。
だが、彼はクーのことなど見向きしない。
(゜∈゜)「…………」
(=゚ω゚)「う……ぁ……」
ギリギリと首を絞める音が響きだす。
少年の幼い首が、骨が、気道が悲鳴を上げる。
川;゚ -゚)「や、やめ――」
- 69: ◆BYUt189CYA :佐賀暦2006年,2006/11/07(佐賀県警察) 23:25:42.42 ID:ojnZUBWN0
- ゴキッ
イヨウの首が、異常な方向へ曲がった。
その口からは泡と涎が混ざったものが流れ出る。
鼻からは血。
その両目は別々の方向を向いて――
川;゚ -゚)「うわああああぁぁぁぁぁぁ!!?」
クックルがイヨウの指を引き千切り、死体と化した幼い身体を放り投げる。
ドサリ、と音を立て転がるイヨウだったモノ。
それは二度と動くことは無かった。
クーが駈け寄り、抱き上げる。
イヨウはもう動くことは無い。
その事実が、クーの意識を刺し貫いた。
/ ,' 3「ほっほっほ……13th−W、回収完了じゃ」
愉快そうに笑う老人の声がロビーに響く。
/ ,' 3「単純な幻術じゃよ、失敗作。
ワシの11th−W『ミシュガルト』の能力でな」
- 71: ◆BYUt189CYA :佐賀暦2006年,2006/11/07(佐賀県警察) 23:28:25.82 ID:ojnZUBWN0
- (゜∈゜)「…………」
クックルが引き千切った指から指輪を抜き、己の指にはめる。
緑色に輝く指輪。
彼は見惚れるように、それをマジマジと見つめる。
/ ,' 3「滑稽、滑稽じゃな。
哀れで仕方ないよ、貴様は」
川 - )「…………」
/ ,' 3「貴様が殺したようなものじゃ。
幻術に動転し、あの少年を放り投げた。
その結果が、貴様の腕の中にある」
川 - )「…………」
/ ,' 3「やはり貴様は失敗作じゃ。
この程度の幻術も見抜けず、結果少年を殺してしまった。
どうせ少年を連れて逃げたのも、情に駆られたのだろう?」
川 - )「…………」
/ ,' 3「生きる価値無し、じゃな。
生きておるだけで害を振りまく悪魔じゃよ、貴様は」
- 73: ◆BYUt189CYA :佐賀暦2006年,2006/11/07(佐賀県警察) 23:30:50.05 ID:ojnZUBWN0
- くっく、と笑う。
クーの姿が可笑しくて仕方ないらしい。
/ ,' 3「さて、撤収するかの。
クックル、そろそろ――」
川 - )「……待て」
/ ,' 3「何じゃ、悪魔の欠陥品。
もう貴様と話すことはないぞ」
川 - )「……許さん」
/ ,' 3「で? 許さないから、何だと?」
川 - )「……す」
/ ,' 3「ほ?」
川 ゚ -゚)「殺すッ……!!」
地を蹴り、疾駆。
一直線に、荒巻の元へ走る。
- 74: ◆BYUt189CYA :佐賀暦2006年,2006/11/07(佐賀県警察) 23:32:55.34 ID:ojnZUBWN0
- 川 ゚ -゚)「うあぁぁぁぁぁ!!」
/ ,' 3「……愚か者が」
呟いた瞬間、クーの目の前に立ちふさがる影。
クックルだ。
川 ゚ -゚)「がっ!?」
裏拳で顔面を殴り飛ばされる。
ロビーに並べてある長椅子を蹴散らしながら、クーは吹き飛んだ。
/ ,' 3「愚かで仕方ないなぁ、貴様は。
情に駆られ、情で殺し、情でやられる。
だから貴様は欠陥品で失敗作なんじゃよ」
川 ゚ -゚)「っ……」
立ち上がる。
川 ゚ -゚)「くそぉぉぉぉぉ!!」
再度、疾駆。
だがそれは、またもやクックルによって阻まれた。
ガシリと首根を握られ、宙に浮かせられる。
- 76: ◆BYUt189CYA :佐賀暦2006年,2006/11/07(佐賀県警察) 23:36:15.36 ID:ojnZUBWN0
- 川;゚ -゚)「っく……うぁ……」
/ ,' 3「ここで死ぬか、失敗作?」
川;゚ -゚)「ぁ……ぁぅ……」
情けない。
ひどく、情けない。
――私は弱い。
ジョルジュに追われ、ギコには手出しすら出来ず、ツーはブーンとドクオがいなければ駄目だった。
今では荒巻の術にかかり、イヨウの命を失わせ、更にはクックルという大男に捕まれ何も出来ずにいる。
仇すら取れない、脆弱者。
私は弱かったんだ……。
弱くて、情けなくて、落ちこぼれで、失敗作で、欠陥品で――
クーの目から涙が溢れた。
ポロポロと流れるそれは、頬を伝って落ちていく。
川 ; -;)「う……うぅ……!」
残った力を振り絞り、クックルを蹴る。
が、ダメージにはならない。
/ ,' 3「無駄なことを……」
- 78: ◆BYUt189CYA :佐賀暦2006年,2006/11/07(佐賀県警察) 23:38:43.97 ID:ojnZUBWN0
- 斬る。
薙ぐ。
突く。
蹴る。
殴る。
噛む。
暴れる。
肩を斬り
腕を薙ぎ
胸を突き
膝を蹴り
腹を殴り
手を噛み
全身を震わせて暴れる。
小さな、小さすぎる抵抗がクックルに牙を剥くが、歯が立つことはなかった。
- 80: ◆BYUt189CYA :佐賀暦2006年,2006/11/07(佐賀県警察) 23:41:17.23 ID:ojnZUBWN0
- 川 ; -;)「ぁ……うぁぁ……!」
あまりにも情けない姿。
遂に見かねたか、荒巻が命令を出す。
/ ,' 3「これ以上生きていても仕方あるまいて。
クックル、殺るんじゃ」
(゜∈゜)「…………」
首に掛けた手に力が入る。
気道が押さえられ、血管が閉じ、骨がギシギシと音を立てる。
川 ; -;)「……!」
死が刻々と近付く
息が止まり、声が出ない。
終わりか――
- 81: ◆BYUt189CYA :佐賀暦2006年,2006/11/07(佐賀県警察) 23:43:23.19 ID:ojnZUBWN0
- 諦めかけたときだ。
「なんだ、随分と派手にやられているようだな」
新たな声。
/ ,' 3「何奴!」
荒巻も想定していなかったのか、声を荒げる。
新たな招かれざる客人は入り口から堂々と入ってきた。
( ,,゚Д゚)「用を済ませて来てみればこれか。
お前に任せたのは間違いだったか、クー?」
/ ,' 3「『牙猫』か……!」
経過した荒巻が腕を振るう。
それに反応したクックルはクーを投げ飛ばし、荒巻の護衛につく。
( ,,゚Д゚)「貴様が荒巻だな……会えて光栄だ」
- 82: ◆BYUt189CYA :佐賀暦2006年,2006/11/07(佐賀県警察) 23:45:42.83 ID:ojnZUBWN0
- / ,' 3「あの1st−Wに認められた男が来るとはな……!
くく……しかし遅かった!
13th−Wはこちらの手に入っておる!」
( ,,゚Д゚)「それはもはや諦めないとならんことだが……一つ疑問が残る」
一息。
( ,,゚Д゚)「その情報、どこから仕入れた?」
/ ,' 3「言う必要は無い。
まぁ、こちらにも良い頭脳がいるということじゃ」
( ,,゚Д゚)「そうか」
右手を掲げる。
青い発光。
( ,,゚Д゚)「なら、殺す」
青い巨剣がその右手に現われた。
数回転させ、肩に担ぐ。
- 84: ◆BYUt189CYA :佐賀暦2006年,2006/11/07(佐賀県警察) 23:47:53.20 ID:ojnZUBWN0
- / ,' 3「ほっほ、戦う気など更々無いわ」
( ,,゚Д゚)「問答無用、という言葉を知れ」
/ ,' 3「そちらがな」
瞬間、発光。
荒巻の手から光が発せられた。
( ,,゚Д゚)「ちぃっ……!」
ギコの周りに声が響く。
「また会えたら会おう。
それまでお互い生きておればよいなぁ」
老人特有の力無い笑いと共に、光が失われていく。
ロビーが元の姿を戻したときには、既に荒巻とクックルの姿は無かった。
それを確認したギコは舌打ちを一つ。
( ,,゚Д゚)「……まぁ、いいか。
一つの疑問は解けた」
- 85: ◆BYUt189CYA :佐賀暦2006年,2006/11/07(佐賀県警察) 23:49:55.81 ID:ojnZUBWN0
- それより
( ,,゚Д゚)「おい……いつまで寝ているつもりだ」
崩れた長椅子の群の中で、クーはうつ伏せに倒れていた。
気絶はしていない。
小さな泣き声ともとれる嗚咽が聞こえてくるからだ。
川 ; -;)「わ、私は……」
( ,,゚Д゚)「…………」
川 ; -;)「駄目なんだ……失敗作で、欠陥品で、弱くて、情けなくて……」
( ,,゚Д゚)「……それがどうした」
川 ; -;)「放っておいてくれ……」
( ,,゚Д゚)「そうか、ならそうする……だが――」
ギコがクーの元へ歩いていく。
無理矢理クーを起こし――
川 ; -;)「ッ……!」
殴る。
- 86: ◆BYUt189CYA :佐賀暦2006年,2006/11/07(佐賀県警察) 23:52:09.34 ID:ojnZUBWN0
- ( ,,゚Д゚)「言わせてもらおう。
馬鹿か、お前は」
川 ; -;)「…………」
( ,,゚Д゚)「失敗作? 欠陥品? 弱い? 情けない?
それがどうした? 誰が決めた? 自分で決めたのか?」
川 ; -;)「…………」
( ,,゚Д゚)「他人が決めたことなんぞ、クソ喰らえだ。
お前はそれが解っていないし、更には言い訳にさえ使っている」
だから
( ,,゚Д゚)「『かつて』が大事なんじゃない。
『これから』が本当に大事なものだ。
それだけは憶えておけ、クー」
背を向け歩き出す。
その折に、小さな紙を落とした。
背後から小さな嗚咽と、地を殴る音。
しかし彼は振り向かない。
二度と、振り返ることはなかった。
- 87: ◆BYUt189CYA :佐賀暦2006年,2006/11/07(佐賀県警察) 23:54:21.69 ID:ojnZUBWN0
- 夕方。
その赤い光に照らされた廃ビルの一室で、二つの人影。
片方はノートPCを操っている。
片方は鎖と戯れている。
( ´_ゝ`)「OK、ブラクラゲット」
( ゚∀゚)「何やってるかと思えば……遊んでんじゃねぇよ」
( ´_ゝ`)「これも俺のアレなのさ」
(;゚∀゚)「もはや意味わかんねぇ」
( ´_ゝ`)「趣味っていうか、プライドっていうかぁ?」
( ゚∀゚)「いっぺん自分の血を見ねぇと解らねぇか?
特に空気の読み方」
( ´_ゝ`)「仕事はちゃんとしている……ほら、これを見てみろ」
( ゚∀゚)「あ?」
兄者がノートPCの画面を差し出してくる。
覗き込むジョルジュ。
- 89: ◆BYUt189CYA :佐賀暦2006年,2006/11/07(佐賀県警察) 23:56:28.18 ID:ojnZUBWN0
- ( ´_ゝ`)「ジャジャーン、俺と弟者のスペシャルセクシー画像〜」
(#゚∀゚)「お前死ね! 氏ねじゃなくて、死ね!!
このクソブラコンが!」
(#´_ゝ`)「クソではない!」
(#゚∀゚)「ブラコン否定しろやぁぁぁ!!」
/ ,' 3「お主ら……ホント仲が良いのぅ」
暗がりから荒巻が姿を現す。
傍らにはクックル。
( ゚∀゚)「おう、ジジイ、回収出来たのか?」
/ ,' 3「無論じゃ。
それと、お前にとって悪い知らせがある」
( ゚∀゚)「悪い知らせ? いわゆるバッドニュース?」
( ´,_ゝ`)「プッ」
(#゚∀゚)「おい、何で笑うよ? 何でお前笑うよ!?」
- 90: ◆BYUt189CYA :佐賀暦2006年,2006/11/07(佐賀県警察) 23:58:46.96 ID:ojnZUBWN0
- / ,' 3「ほれほれ、落ち着け」
( ゚∀゚)「ったく……で、その悪いニュースって何だ?」
/ ,' 3「失敗作がの……。
もしかすると、いや、ほぼ確実に再起不能になったかもしれん」
( ゚∀゚)「は?」
/ ,' 3「いや、ちょいと調子に乗りすぎてのぅ……壊しちゃった♪」
数秒の沈黙。
(#゚∀゚)「ど、どういうことだよ、このクソジジィィィ!?」
/ ,' 3「落ち着きなさい」
(#゚∀゚)「俺の目的とってんじゃねぇぇぇぇぇ!
ってか『壊しちゃった♪』じゃねぇぇぇぇ!!」
暴れるジョルジュをクックルが押さえる。
- 92: ◆BYUt189CYA :佐賀暦2006年,2006/11/08(佐賀県職員) 00:01:04.59 ID:FMqWxbTG0
- / ,' 3「まぁ、結果オーライというヤツでな?
勘弁してもらえんかのぅ?」
(#゚∀゚)「許すかボケェ!
俺の手で殺すことが目的だっつってんだろぉが!」
/ ,' 3「どうやったら許してくれるかのぅ?」
(#゚∀゚)「テメェを殺せば気が済むかもなぁ!」
/ ,' 3「じゃ、どうぞ」
まるで『さぁ来なさい』とでも言うように、老人が両手を広げる。
その自分をからかうような動作に、ジョルジュは遂にキレた。
(#゚∀゚)「死ねぇぇぇぇ!!」
9th−W・ユストーンを解放。
一瞬で荒巻の首元へ鎖が向かっていく。
- 93: ◆BYUt189CYA :佐賀暦2006年,2006/11/08(佐賀県職員) 00:03:29.68 ID:FMqWxbTG0
- / ,' 3「ガッ"……!?」
妙な音
を立て、荒巻の首がドサリと落ちた。
立っていた身体も崩れるように倒れ、みるみる赤い血溜まりを作っていく。
(;゚∀゚)「……え?」
(;´_ゝ`)「…………」
(゜∈゜;)「…………」
沈黙。
(*゚∀゚)「おーっす、皆のアイドルツーちゃん参上ー」
壊れかけた扉を開き、ツーが入ってくる。
が、迎えの返事はない。
- 95: ◆BYUt189CYA :佐賀暦2006年,2006/11/08(佐賀県職員) 00:05:42.44 ID:FMqWxbTG0
- (*゚∀゚)「……どったの?」
(;゚∀゚)「あ……え、っと……」
( ´_ゝ`)「〜♪」
(゜∈゜)「…………」
ジョルジュは焦り、兄者は知らん顔でPCに向かい、クックルは筋トレを始める。
(;*゚∀゚)「あ、あれ?
マッキーどうしたの?」
死体なので返事があるわけがない。
(;*゚∀゚)「え? え? 皆、何やったらこうなったの?」
問いかけの声は闇に吸い込まれるように消えていった。
- 99: ◆BYUt189CYA :佐賀暦2006年,2006/11/08(佐賀県職員) 00:08:08.94 ID:FMqWxbTG0
- 夜。
ブーンの部屋。
ブーンとドクオは向かい合わせに座っていた。
(;^ω^)「もう10時だお……クーはどうしたんだお?」
(;'A`)「俺が知るかよ……」
あの後、学校が終わり、すぐに病院へ向かった二人。
ツンが一緒に着いて行くと騒がしかったが、丁重に何とかお断りした。
病院に、クーはいなかった。
代わりに警察が何やら騒がしく動いていた。
話を聞くに、大量殺人事件があったらしい。
(;^ω^)「絶対にクーはそれに巻き込まれてるはずだお……」
(;'A`)「でも、死亡者のリストにはクーさん、いなかったぞ?」
(;^ω^)「う、うーん……どうなってんだお……」
妙な胸騒ぎがする。
直感だが、ブーンは嫌な予感がして堪らない。
結局その夜、クーが帰ってくることは無かった。
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