( ^ω^)ブーンが戦い、川 ゚ -゚)クーが護るようです

5: ◆BYUt189CYA :2006/11/11(土) 21:37:26.14 ID:J6PhgTje0
  
第七話 『巡らずのすれ違い』

寂れたバー、『バーボンハウス』。
おそらくもう既に彼らにとっては行き着けになったであろう、その場所で

( ,,゚Д゚)「どういうことか、説明してもらおうか」

問い詰めが始まっていた。

(´・ω・`)「いきなりどうしたいんだい? 何か情報に不具合でも?」

酒を出しつつ、主は戸惑いながら問い返した。
しぃが嬉しそうに酒に飛びつき、飲み始める。

( ,,゚Д゚)「情報自体は合っていたさ」

だが

( ,,゚Д゚)「その情報、敵も入手していたぞ」

(´・ω・`)「敵だって馬鹿じゃないし――」

( ,,゚Д゚)「同時期に、同じ情報を得、同じ行動を起こしたんだぞ?
     しかも向こうは、俺達が情報を得ていることを知っているかのようだった」

(´・ω・`)「同時期に……?」



8: ◆BYUt189CYA :2006/11/11(土) 21:39:37.27 ID:J6PhgTje0
  
( ,,゚Д゚)「裏切り者か?」

(´・ω・`)「いや、それはありえない……」

でも、と主は付け足す。

(´・ω・`)「心当たりなら、ある」

( ,,゚Д゚)「……それは?」

(´・ω・`)「うん、実を言うと……情報は僕自身が集めてるわけじゃないんだ」

( ,,゚Д゚)「情報提供者がいるのか?」

(´・ω・`)「っていうか、このバーの部屋の奥で仕事をしてもらってるんだけどね。
       彼が情報を集めて僕が売る、っていう役割なんだよ」

と、上げた親指で背後の扉を指す。

( ,,゚Д゚)「それが、どうした?」

(´・ω・`)「もしかしたら、ハッキングを受けたのかもしれない。
       彼の仕事は全てPCでするから」

(;,,゚Д゚)「おいおい……」



9: ◆BYUt189CYA :2006/11/11(土) 21:41:39.10 ID:J6PhgTje0
  
(´・ω・`)「いや、決して悪い腕じゃないんだよ?」

ただ、と付け足す。

(´・ω・`)「彼は、この世で勝てない相手が一人いるって言ってたんだ」

( ,,゚Д゚)「勝てない相手……?」

(´・ω・`)「『どう足掻いても勝てない……彼は流石だ』ってね」

言葉と同時にカラン、とギコの酒に入った氷が鳴った。



10: ◆BYUt189CYA :2006/11/11(土) 21:43:35.91 ID:J6PhgTje0
  
『VIP』の本拠地である廃ビルの一室。
兄者に与えられた部屋は、質素な部屋だった。
明かりはほとんど無く、その暗闇の中で兄者はPCを操っていく。

結局、先日ジョルジュが殺してしまった荒巻が生き返ることはなかった(当然だが)。
とりあえずどうしようかという話になり、暫定リーダーに選ばれたのが兄者だった。
ジョルジュは馬鹿で、ツーも馬鹿で、クックルは問題外。
兄者が選ばれるのは、ある意味必然だった。
もちろんそれを口に出すことは無かったが。

( ´_ゝ`)「これが荒巻の持っていた資料……」

荒巻の目的を知るために、兄者は彼の集めた資料を解析していた。
ほとんどは合成獣に関する資料だったが、その中に一つ二つ興味深い資料を見つける。

( ´_ゝ`)「『最強』の生物、か」

クルト博士の最終結論。
人間こそが最強の種。
一応、兄者はこの意見に賛成だった。

知能で人間に勝る生物はいない。
知能があれば、何だって可能だ。



12: ◆BYUt189CYA :2006/11/11(土) 21:46:00.00 ID:J6PhgTje0
  
ただ、攻撃力や体力という点においては劣る。
だからウェポンという攻撃力を与えるための武器を作り上げた。

ここまでは納得出来る。
だが――

( ´_ゝ`)「体力、という点が完全に抜けている……?」

攻撃力はウェポンで補える。
だが、体力は?
その補う方法は資料に載っていなかった。
または資料自体が足りないのか。

兄者は、何かを見落としていると感じる。

( ´_ゝ`)「……体力を補うにはどうすればよいか、か」

おそらくクルト博士も同じ疑問にぶつかっただろう。
彼はどうやってその壁をクリアしたのか。
まさか諦めたわけではあるまい。
彼はそういう人間ではないはずだ。



14: ◆BYUt189CYA :2006/11/11(土) 21:48:09.96 ID:J6PhgTje0
  
( ´_ゝ`)「ドーピング、か?」

薬物で身体を強化する。
確かにそれは可能だ。
だが、それは一時的なもので、しかも副作用があるモノの存在する。
リスクが高い。
それに、いちいち用があるときにドーピングしていたら、時間と金の無駄だ。
更に言うならば、そんなもの『最強』の生物ではない。
偽りの『最強』だ。

( ´_ゝ`)「では、何をした……クルト博士……」

思考。
と、その時だ。
兄者の頭に、ある単語が浮かんだ。
『奴』が頻繁に言っていた言葉。

(:´_ゝ`)「……まさか」

いや、ありえないことはない。
そして、それを荒巻が利用しようとしているのならば――

(;´_ゝ`)「まさか……まさかクルト博士、アンタは――」

結論が出てしまう。
それは、とても恐ろしいことだった。



15: ◆BYUt189CYA :2006/11/11(土) 21:50:35.75 ID:J6PhgTje0
  
(;´_ゝ`)「何を、何を考えていたんだ、荒巻は……!?」

机を叩く。
こんなもの、『VIP』の利益にはならない。
そもそも何故、奴は組織など作り上げた?
ジョルジュやツーのような馬鹿を、何故に仲間に入れた?
戦闘力が高いから?
ウェポンを使いこなせるから?

そうだ。

戦闘力が高く、ウェポンを使いこなせるからこそ――

(;´_ゝ`)「だとすれば、まだ調べる必要があるな……。
      行くべきは『全ての始まりの地』か」

席を立ち、部屋を出る。

急がねば。

兄者は自分の探究心を抑え切れなかった。
たとえそれが、己の身を滅ぼす道だとしても。



16: ◆BYUt189CYA :2006/11/11(土) 21:53:12.65 ID:J6PhgTje0
  
ギコ達が去ってから数時間後。
ここ、『バーボンハウス』
の客席には人影が無かった。


(´・ω・`)「いくら情報屋のカモフラージュにバーやってるからって
       これはカモフラージュにすらなってないよね……」

小さく呟く。
やがてやることが無くなり、ボーっとしていた時だ。
ドアが音を立てて開く。

(´・ω・`)「ようこそ、バーボンハウスへ」

川 ゚ -゚)「…………」

黒いロングコートの女性。
そのコートはもはや漆黒ではなく、土や埃でボロボロだった。

彼女は黙ってカウンターの席に座る。
こういう客は慣れっこだ。



19: ◆BYUt189CYA :2006/11/11(土) 21:55:19.26 ID:J6PhgTje0
  
(´・ω・`)「やぁ、何か飲むかい?」

川 ゚ -゚)「私は20歳を過ぎてはいないから、酒は飲めない」

(´・ω・`)「え、じゃあ、何でここに来たんだい?」

川 ゚ -゚)「ある男が落としていった紙に、ここのことが書いてあった」

淡々と語る女。
その表情に感情も生気も無かった。
目は濁り切り、どこを見ているのかさえも解らない。
危険だ、と若い主は思った。

(´・ω・`)(誰に紹介されたか知らないけど
       これは丁重に扱わないと後々大変なことになりそうだね)

川 ゚ -゚)「…………」

沈黙。
おそらく、彼女はここに『来る』のが目的であって、それからのことは何も考えていないのだろう。

(´・ω・`)「はい、どうぞ」

グラスに入ったオレンジジュースを差し出す。



23: ◆BYUt189CYA :2006/11/11(土) 21:57:39.05 ID:J6PhgTje0
  
川 ゚ -゚)「これは……」

(´・ω・`)「サービスだよ。 何も出さないわけにはいかないからね」

川 ゚ -゚)「…………」

彼女はしばらくグラスを見つめていた。
ふと、手に取り口につける。

川 ゚ -゚)「……美味しい」

(´・ω・`)「それは良かった……まぁ、そこらへんで売ってるようなジュースだけどね」

ところで、と彼は続ける。

(´・ω・`)「何か悩み事があるなら、ここで吐くのも一つの手だよ。
       僕でよければアドバイスだって出来るだろうし」

川 ゚ -゚)「…………」

(´・ω・`)「まぁ、話したくなったら話してよ。
       僕はいつでも暇だしね」

若い主は特にすることもないのか、座って読書を始める。
彼女は結局、その後一時間ほど口を開くことはなかった。



26: ◆BYUt189CYA :2006/11/11(土) 22:01:47.72 ID:J6PhgTje0
  
主が2冊目の本に手を伸ばそうとした時に、ようやく彼女は語り始める。

川 ゚ -゚)「……殺して、しまったんだ」

(´・ω・`)「……誰をだい?」

本を置き、ようやく口を開いた彼女の前に歩いていく。

川 ゚ -゚)「子供を……私が、巻き込んでしまったんだ」

(´・ω・`)「そう……」

追加のオレンジジュースを継ぎ足しながら、答える。

川 ゚ -゚)「私は、弱いんだ。
     私は、情けないんだ。
     私は、失敗作なんだ。
     私は、欠陥品なんだ」

淡々と、機械的に言葉を並べる。
自虐ともいえる言葉の羅列を、若い主は一つ一つ受け止めていく。



28: ◆BYUt189CYA :2006/11/11(土) 22:04:31.04 ID:J6PhgTje0
  
(´・ω・`)(この女性……)

失敗作、という言葉に聞き覚えがあった。
あれは奥の部屋の彼も口にしていた気がする。

(´・ω・`)(まさか、ギコやクルト博士の関係者?)

川 ゚ -゚)「私は……誰も護れないんだ」

(´・ω・`)「どうして、そう思うのかな?」

川 ゚ -゚)「護れなかったから」

(´・ω・`)「その子供を?」

川 ゚ -゚)「自分だって、内藤だって護れやしないさ」

吐き捨てるように呟く。
その言葉の中に、かつての友の名があったことに彼は驚いた。

(´・ω・`)「君……内藤を、内藤ホライゾン君を知ってるの?」

川 ゚ -゚)「……あぁ」

意外だった。
彼がクルト博士の遺産騒動に巻き込まれたとは知っていたが、彼女と共にいたとは。



29: ◆BYUt189CYA :2006/11/11(土) 22:06:39.95 ID:J6PhgTje0
  
(´・ω・`)(ギコの言っていた良いパートナーとは、この人のことだったのか)

ならば

(´・ω・`)(なおさら見捨てるわけにはいかないよね)

川 ゚ -゚)「貴方も内藤を知っているのか?」

(´・ω・`)「かつての友達だよ」

川 ゚ -゚)「……どういった関係だったんだ?」

(´・ω・`)「彼が原因で、僕はここの主になった。
      彼のお陰で、僕はここの主になった」

川 ゚ -゚)「…………」

(´・ω・`)「高校入学当時のことだよ」

主は淡々と語り始めた。



30: ◆BYUt189CYA :2006/11/11(土) 22:09:04.41 ID:J6PhgTje0
  
当時、若い主は気弱だった。
小学・中学時代は友達がおらず、イジメの対象で9年間過ごした。
高校入学したときは、正直、不安だらけでどうしようもなくて――

しかし、そんな時に話しかけてくれたのがブーンとドクオだった。

「ショボン! 一緒に弁当食べるお!」

「おい、ショボン、お前マジ頭いいじゃん」

二人はよくショボンに構ってくれた。
確かにテンションが高すぎるブーンを疎ましくは思ったこともあるが
クールなドクオがそれを中和しているような感じがした。
彼らは誰が見ても良い親友同士だった。

なら、自分は彼らにとって何なんだろう?

ふと、疑問に思った。
それを聞いたのが、歯車が狂う原因であり始まりであった。



32: ◆BYUt189CYA :2006/11/11(土) 22:12:40.08 ID:J6PhgTje0
  
「ねぇ」

「何だお?」

「僕って、君達にとって何?」

「……どういう意味だお?」

「君達は、僕のことどう思ってるの?」

「は? 意味がわかんねぇ」

「だから――」

「友達だお! ショボンとドクオは、大事な大事な友達だお!」

「おい、馬鹿……んな照れくさいこと堂々と言うなよ」

「…………」

「どうした、ショボン?」

「本当に……本当に、僕は君達の友達なの?」



33: ◆BYUt189CYA :2006/11/11(土) 22:14:48.57 ID:J6PhgTje0
  
当時、主は相当に人間不信だった。
小学生・中学生時代はイジメの連続だった。
それこそ自殺も考えた。
でも、死ぬ勇気なんて無かった。
高校でも、それが続くんじゃないかって思っていて……
そうなることが運命なんじゃないかって、そんな小説に出てきそうなフレーズを頭に思い描いていた。
馬鹿だった。
最低だった。

「……ねぇ、本当のところはどうなのさ?」

「おい、ショボン……?」

「君達も、アイツらみたいに僕に近寄ってさ……イジめるつもりなの?」

「そ、そんなことしないお!」

「金を奪って、ストレス解消に僕を殴って、影でコソコソ悪口言って……」

そして

「僕を裏切るつもりなの?」

裏切ったのは僕だった。
彼らは純粋に僕と友達になりたかっただけなのに。
僕はそれを踏みにじるようなことをしてしまった。



35: ◆BYUt189CYA :2006/11/11(土) 22:17:27.89 ID:J6PhgTje0
  
「そんなことしないお!」

「ブーン、そんなキレるなって」

「あ……ショボン……ごめ――」

「や……やっぱり、君達は僕を騙してたんだね!?」

「ショボン、おい、お前おかしいぞ!」

「おかしい!? おかしいのはお前らだろ!?
 僕に近付いて、信頼を裏切って何が楽しいんだよ!」

「ふ……」

「お、おい、ブーン?」

「ふざけんなお!!」

「うあっ!」

「ちょ、待てって、ブーン!」

「離すお、ドクオ! ショボンは、ショボンは――」



36: ◆BYUt189CYA :2006/11/11(土) 22:19:29.07 ID:J6PhgTje0
  
「……は、はは……やっぱりそうだ。
 気に入らなければすぐ暴力に走る。
 最低だな、お前は!」

「最低!? 最低なのはどっちだお!」

「馬鹿、二人ともやめろって!」

結局、二人ともボロボロになるまで――
って、そんな青春的な結果にはならなかった。
ブーンは武道をしていたから、僕なんかが太刀打ち出来るわけがない。
結果、キレたブーンによって僕は全治2週間の怪我を負った。
その後、僕は学校に行かなくなった。
そして――

川 ゚ -゚)「そして?」

(´・ω・`)「色々考えたさ。
      でも、僕はもう彼の目の前に姿を現す資格なんてなかった。
      だから都市ニューソクから引っ越して、違う高校に通うことにしたんだ」



37: ◆BYUt189CYA :2006/11/11(土) 22:22:01.76 ID:J6PhgTje0
  
川 ゚ -゚)「…………」

(´・ω・`)「結局、向こうの高校でも僕は上手くいかなかった。
      引き篭もりになって、両親には見放されて……」

川 ゚ -゚)「…………」

(´・ω・`)「そんな人生が嫌になってさ、家を飛び出したんだ。
      でも高校生が移動できる範囲なんて知れてるし
      そもそも引き篭もりだった僕が、社会の波に乗れるわけが無かった」

川 ゚ -゚)「それで……?」

(´・ω・`)「僕はまたこのニューソクに戻ってきた。
      とりあえずの目標は、人の役に立ちたい、だった。
      人の気持ちを理解して、アドバイスして……。
      二度と僕のような人を出したくないと思ったんだ」

でも

(´・ω・`)「そんなカウンセラーみたいな仕事に、僕が就けるわけがない。
      だから、未成年でこんなバーを、違法だけど開いたんだ」



39: ◆BYUt189CYA :2006/11/11(土) 22:24:29.72 ID:J6PhgTje0
  
川 ゚ -゚)「……客足はどうなんだ?」

(´・ω・`)「いや、それがまったく」

若い主――ショボン――は苦笑する。

(´・ω・`)「でもね、そのお陰で色々と考えることが出来たよ。
      あの後、ブーンがどんな気持ちだっただろうか、とか
      一般人と喧嘩したブーンは、道場で叱られたんだろうな、とかさ」

川 ゚ -゚)「……そうか」

(´・ω・`)「僕ばかり語って悪かったね。
      何か言いたいことはあるかな?」

川 ゚ -゚)「彼に……内藤に会ったら、どうしたい?」

(´・ω・`)「はは、いきなり難しい質問だね」

彼は笑顔で続ける

(´・ω・`)「うーん……正直、彼とはまだ会いたくないんだ」



40: ◆BYUt189CYA :2006/11/11(土) 22:26:36.65 ID:J6PhgTje0
  
川 ゚ -゚)「何故?」

(´・ω・`)「なんて言うか、気まずくてさ。
      それに何て言っていいのか解らない。
      気持ちの整理がついてないんだ」

川 ゚ -゚)「…………」

(´・ω・`)「弱いだろ、僕も」

川 ゚ -゚)「そんなこと……ないと思う。
     貴方は立派だ」

(´・ω・`)「どこがさ?」

川 ゚ -゚)「自分で考え、自分で決め、自分で行動して……。
     それが出来るということは、とても強いことなんだと思う」

(´・ω・`)「そうかな?」

ショボンは予想外の返答をする。



42: ◆BYUt189CYA :2006/11/11(土) 22:28:44.97 ID:J6PhgTje0
  
(´・ω・`)「自分で考えることが普通なの?
      自分で決めることが正しいの?
      自分で行動することが素晴らしいの?」

川 ゚ -゚)「それは……」

(´・ω・`)「人間に定義なんてないんだ。
      弱い、強いなんて、所詮は他人の評価だよ。
      受け止めることはあれ、それを気にしちゃいけない」

川 ゚ -゚)「しかし、私は――!」

つい、語気が強まる。
そんな様子の彼女に対し、ショボンは真実を用いた。

(´・ω・`)「うん、確かに君は護れなかったよ」

川 ゚ -゚)「だったら!」

(´・ω・`)「『かつて』と『これから』は違うんだ。
      『かつて』の君がどんなだったのかは知らないけど
      『これから』の君は、君自身が作っていくんだよ」



43: ◆BYUt189CYA :2006/11/11(土) 22:31:02.36 ID:J6PhgTje0
  
未来は自分で作る、とはよくいったものだ。
その言葉を聞いた彼女はうつむき

川 ゚ -゚)「私は……忘れることが出来ないんだ。
     護れなかったことを、不甲斐ない自分を」

(´・ω・`)「それは、むしろ忘れちゃいけないよ。
      忘れれば、それは最低な人間の出来上がりさ」

だって

(´・ω・`)「人間はそれを糧に成長するんだから」

川 ゚ -゚)「私は……人間ですら……」

(´・ω・`)「誰がどう見ても君は人間だよ。
      感情を表し、自分で動いて、そして悩む。
      これのどこが人間じゃないんだい?」

川 ゚ -゚)「…………」

(´・ω・`)「君が何故、失敗作と呼ばれるかは知らないけど
      それは他人が勝手に言っているだけだろう?
      君は失敗作として生まれることを望んだのかい?」

川 ゚ -゚)「それは……違う」



46: ◆BYUt189CYA :2006/11/11(土) 22:33:12.45 ID:J6PhgTje0
  
(´・ω・`)「だったら、君が望む人間になればいい。
      あまり強くは言えないけどね。
      僕だって自分が望む人間になれた覚えはないし」

まぁ、と彼は付け足した。

(´・ω・`)「諦めたわけじゃないけど」

苦笑。

(´・ω・`)「今では何の因果か、情報屋なんてものをやってるわけだけどね。
      気が合う友人が出来たんだ」

と、カウンターの奥の扉が開いた。
中からは長身の男。

(´<_` )「ショボン、例の情報……どうやら当たりだ」

(´・ω・`)「ありがとう、弟者さん」

(´<_` )「ん、客がいたのか……邪魔してすまない」

(´・ω・`)「いや、いいんだ。 それに――」



48: ◆BYUt189CYA :2006/11/11(土) 22:35:32.06 ID:J6PhgTje0
  
彼はクーの方をチラリと見る。

川 ゚ -゚)「?」

(´・ω・`)「もしかしたら、彼女は僕らと良い関係になれるかもしれない」

(´<_` )「どういうことだ?」

川 ゚ -゚)「??」

疑問符を頭に浮かべる彼女に、ショボンは

(´・ω・`)「ねぇ、君は……元いた場所に戻る気はあるかな?」

問いかけた。
対する彼女は、オレンジジュースが入ったグラスを持つ手に力を入れながら

川 ゚ -゚)「いや……正直、まだ気持ちの整理がつかない」

(´・ω・`)「だろうね……だから僕はここで君に提案したい」

川 ゚ -゚)「何をだ?」



49: ◆BYUt189CYA :2006/11/11(土) 22:37:52.02 ID:J6PhgTje0
  
(´・ω・`)「僕らと共に、しばらく一緒に仕事をしないかな?」

それは、彼女にとって意外な申し出。

川 ゚ -゚)「仕事……?」

(´・ω・`)「僕は情報の売り役、弟者さんはPCでの情報収集をしてるんだけど
      現地で情報を収集する役がいなくてね」

川 ゚ -゚)「それを、私に?」

(´・ω・`)「色々経験したり見たりする良い機会になると思うけど、どうかな?
      もちろん強制はしないけどね」

川 ゚ -゚)「…………」

呆けたような顔をするクー。
まさかここまで話が進むとは思っていなかったのだろう。

(´・ω・`)「まぁ、すぐに結論は出さなくていい。
      オレンジジュースのおかわりはいくらでもあるからね」

(´<_` )「何気に逃がす気ないのか」



51: ◆BYUt189CYA :2006/11/11(土) 22:40:41.15 ID:J6PhgTje0
  
(´・ω・`)「何を言っているのか解らないね。
      僕は彼女に時間を与えただけだよ」

(´<_` )「喰えない奴だな、相変わらず」

川 ゚ -゚)「……本人の前で堂々と話す内容じゃないと思うが」

それを聞いた弟者が笑う。

(´<_` )「はは、確かにそうだな」

(´・ω・`)「で、どうするか決めたかい?」

彼女はふと、考える素振りを見せる。
数秒。
顔を上げ、出した結論は

川 ゚ -゚)「私は――」



52: ◆BYUt189CYA :2006/11/11(土) 22:42:51.17 ID:J6PhgTje0
  
( ´ω`)「クー……一体どこに行ったんだお」

ブーンは部屋で一人、ベッドに横になってため息を吐いていた。

( ´ω`)「あのメール以来、連絡もないし……一体、どうしちゃったんだお」

寝返りをうつ。
もう何度もしている行為。

( ´ω`)「クー……早く帰ってきてほしいお」

本心だった。
頼れる味方のクー。
自分を支えてくれるクー。

彼女がいないと、どうにも落ち着かない。

いつの間に、こんなに彼女のことを思うようになったのだろうか。
この戦いに巻き込んだ張本人なのに。



53: ◆BYUt189CYA :2006/11/11(土) 22:45:53.79 ID:J6PhgTje0
  
そうだ、確か――

( ´ω`)(あの瞳が、どうしても気になったんだお……)

時折見せる、寂しそうな目。
あの目がどうしてもブーンは気になっていた。
おそらく、たびたび何故か『失敗作』と呼ばれることに理由があるのだろう。

ブーンはそれを知りたいと思う。
知って、彼女の気持ちを理解したいと思う。
彼女がブーンに力をくれたように、自分も彼女の力になりたいと思う。

強く、思った。



54: ◆BYUt189CYA :2006/11/11(土) 22:48:22.73 ID:J6PhgTje0
  
川 ゚ -゚)「私は――」

私は、弱い。
私は、情けない。
私は、失敗作。

あの時、それが私の全てだと感じた。
絶望した。
失敗作でも、欠陥品でも、何とかやっていけるのではないかと思っていたのに。

違った。
情に流され、結果あの少年を殺してしまった。

私は失敗作。

でも、それは勝手に決められたこと。
だから――

川 ゚ -゚)「私は――」



55: ◆BYUt189CYA :2006/11/11(土) 22:51:25.13 ID:J6PhgTje0
  
答えを出す。

川 ゚ -゚)「――私で、良ければ」

その言葉を聞いた二人は、顔を少し輝かせた。

(´・ω・`)「おぉ、そりゃありがたいよ」

(´<_` )「これで我々の仕事率もアップというやつだ」

ショボンと弟者が同時に握手を求めてくる。

川 ゚ -゚)「…………」

ここには自分を必要としてくれる人がいる。

今の彼女には、それだけでも充分な動機だった。



58: ◆BYUt189CYA :2006/11/11(土) 22:53:48.77 ID:J6PhgTje0
  
闇がある。
夜の作り出す漆黒の色。
場所は、おそらく室内。
その暗闇の中でふと、小さな明かりが灯る。
フーッ、と息と共に白い煙が吐かれた。
煙草だ。

( ・∀・)「…………」

煙草の主は、藍色のスーツの内ポケットから携帯電話を取り出す。
操作し、通話ボタンをプッシュ。
耳に当てる。

しばしの沈黙。

( ・∀・)「……私だ」

煙草の煙を吐きながら、男は続ける。

( ・∀・)「そちらに、『牙猫』が来ていたと聞いたが?
      ん? …………言い訳のつもりかね?」



59: ◆BYUt189CYA :2006/11/11(土) 22:55:55.34 ID:J6PhgTje0
  
( ・∀・)「……ハハ、君は面白いことを言う。
     だが、私に報告が無いのは契約違反じゃないのかね?
     …………。
     なるほど、ね……まぁ、その程度の理由なら構わないよ。
     こちらとしては『牙猫』の位置を補足出来れば文句は無い。
     では、このナンバーに送っておいてくれ」

と、男は数字とアルファベットが混ざった妙なナンバーを告げていく。
相手は了承した。

( ・∀・)「あぁ、あぁ、頼むよ……ショボン君」」

電話を切る。
携帯電話を懐に入れながら、男は笑い出した。

( ・∀・)「フフ、ハハハハ……彼もなかなかの策士だね。
     すっかり出し抜かれた気分だ。
     だが――」

表情が一変。
それは猛獣を狩る、鋭い猟師の顔。

( ・∀・)「勝つのは、私だよ」



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