( ^ω^)ブーンが戦い、川 ゚ -゚)クーが護るようです

114: ◆BYUt189CYA :2006/11/12(日) 21:00:41.61 ID:d2iKSpY90
  
第八話 『存在の意味』

午後五時。
ニューソクの外れの夕日が射す森の中。
そこにクルト博士の元・研究所があった。
数年前から誰も使っておらず、壁はツタだらけ、窓ガラスも割れており
とてもじゃないが人がいるような雰囲気ではなかった。

その廃墟とも言える少々規模が大きな研究所に、一人の影。
クーだ。

川 ゚ -゚)「……また、ここに戻ってくるとはな」

一人呟く。

自分の存在が定義付けられた因縁の場所。
失敗作と呼ばれ、ここを出て以来一度も来ていない場所。
二度と、来たくは無かった場所。

川 ゚ -゚)「…………」

無言で足を進めていく。
今の彼女に躊躇はない。

彼女は、『これから』強くなろうとしているのだから。



115: ◆BYUt189CYA :2006/11/12(日) 21:03:09.87 ID:d2iKSpY90
  
――遡ること、四時間前。

『バーボンハウス』で過ごすようになって数日が経った。
仕事にも慣れつつ、少しずつ心の氷を溶かしていくようにも見えた彼女に
一つの仕事の依頼が舞い込んできた。
依頼主は、弟者。

(´・ω・`)「ちょっと、ここに行ってきてほしいんだ」

ショボンが詳細を書いた紙を差し出す。
受け取った彼女の表情が、青ざめるように一変した。

川 ゚ -゚)「私に……ここへ行け、と?」

(´・ω・`)「うん、申し訳ないと思うんだけどね。
      でも三人の中で、そこに一番詳しいのは君なんだよ」

川 ゚ -゚)「確かにそうだが……」

(´・ω・`)「駄目かな?」

川 ゚ -゚)「…………」

嫌だから仕事から断るのは、どうなのだろうか。
嫌だからといって、避けることの出来る仕事なのだろうか。
それは、相手にとても失礼ではないのだろうか。



117: ◆BYUt189CYA :2006/11/12(日) 21:06:19.27 ID:d2iKSpY90
  
クーの頭に様々な疑問が浮かぶ。
そして、ふと苦笑。
自分の常識の無さを、今さらながらに痛感する。

川 ゚ -゚)「……解った、私に任せてくれ」

(´・ω・`)「ありがとう。
      帰ってきたら、オレンジジュース奢るよ」

川;゚ -゚)「いや、別に私はオレンジジュースが特別好きなわけでは――」

(´・ω・`)「じゃあ、何が良いかな?」

川 ゚ -゚)「あ、いや……わざわざ注文するつもりもない。
     オレンジジュースでいい」

(´・ω・`)「そう?」

――それが四時間前だ。

今、彼女はクルト博士の元・研究所にいる。
仕事のためとはいえ、いつかは来なければならなかった場所。
過去の自分に決着をつけるために。



118: ◆BYUt189CYA :2006/11/12(日) 21:08:42.32 ID:d2iKSpY90
  
川 ゚ -゚)「しかし……荒れ放題だな」

中は凄惨の一言だ。
机は倒れ、椅子は破壊され、棚は無惨にも倒れ、本や資料はバラバラ。
まるでわざと荒らしていったかのような光景だ。
だが――

川 ゚ -゚)「…………」

クーは見つけた。
床が見えぬほど荒れているそれに、足跡と見える泥がついていることに。
点々と、一定の方角を目指して続いていた。
つまり、誰かがここを通っていったことになる。
しかも最近に、だ。

川 ゚ -゚)「……用心するか」

隠していた刀を腰に差す。

点々と続くそれは、ある部屋に入っている。
ドアを少し開き中を伺うが、人の入る様子はない。

川 ゚ -゚)「……?」

足跡と思われるそれは、そこで途切れていた。
部屋の中は相変わらず乱雑としているが、床が見えることはない。



120: ◆BYUt189CYA :2006/11/12(日) 21:11:53.60 ID:d2iKSpY90
  
川 ゚ -゚)「どこへ――」

(  )「動くな」

男の声と、カチャリという音と共に、クーの後頭部に硬い何かが押しつけられる。
冷たい感触の正体はおそらく拳銃だろう。

川 ゚ -゚)「…………」

(  )「……名乗れ」

川 ゚ -゚)「クー、だ」

(  )「クー……? あの、失敗作か?」

その言葉は、今の彼女にとっては禁句だった。
瞬間、クーの身体から殺気が溢れる。
背後の男の視界から消えるように、膝を折りしゃがむ。

(  )「!?」



121: ◆BYUt189CYA :2006/11/12(日) 21:14:15.52 ID:d2iKSpY90
  
銃口を下に向けようとした時には、既にクーの腕が男の腕を捕らえていた。

(;´_ゝ`)「クッ……!」

その見覚えのある顔に、クーは目を見開いた。

川;゚ -゚)「お、弟者……さん?」

続いて男も目を見開く。

(;´_ゝ`)「え?」

川;゚ -゚)「え?」



123: ◆BYUt189CYA :2006/11/12(日) 21:16:31.97 ID:d2iKSpY90
  
ブーンの部屋にメロディが響く。
それは、ブーンの携帯から鳴っていた。

( ^ω^)「お?」

取り出し、通話ボタンを押す。
聞こえてきた声は――

( ,,゚Д゚)『内藤か』

( ^ω^)「ギコさん?」

意外な相手に、ブーンは戸惑う。
ギコはそんなブーンに構わず話を続けた。

( ,,゚Д゚)『話がある。 今、時間はあるか?』

( ^ω^)「はいはい、いつでもどうぞですお」

そうかと言い、しばしの沈黙。
確認するような口調で

( ,,゚Д゚)『……クーはそちらに戻っていないな?』

(;^ω^)「え、いや、その……はいだお」



127: ◆BYUt189CYA :2006/11/12(日) 21:19:11.57 ID:d2iKSpY90
  
( ,,゚Д゚)『焦るな……事情は知っているからな』

(;^ω^)「どこにいるか知ってるんですかお!?」

思わず、声を荒げる。

( ,,゚Д゚)『知ってはいるが……教えることは出来ん。
     彼女はまだお前とは会えない』

(;^ω^)「ど、どういうことですかお……?」

( ,,゚Д゚)『いずれ解る時が来る。
     それよりも――』

( ^ω^)「?」

( ,,゚Д゚)『お前……強くなる気はあるか?』

(;^ω^)「え? どういう――」

( ,,゚Д゚)『答えろ』



128: ◆BYUt189CYA :2006/11/12(日) 21:21:23.48 ID:d2iKSpY90
  
( ^ω^)「……はい、ありますお」

( ,,゚Д゚)『なら、今からニューソクの……お前らが『キタコレ山』と呼ぶ山の頂上に来い。
     ついでにドクオとやらにも聞いて、ついて来ると言うならつれて来い』

(;^ω^)「い、いきなりどうしたんですお?」

( ,,゚Д゚)『伝えておきたいことがある。
     それも、指輪に関してだ』

(;^ω^)「わ、解りましたお……んじゃあ、今から行きますお」

( ,,゚Д゚)『待っている』

通話が途切れる。
ブーンは携帯でドクオの番号を出しながら思った。

( ^ω^)(よく解んないけど、強くなれるっていうなら頑張るお。
      皆を、自分を、クーを護れるように……)



130: ◆BYUt189CYA :2006/11/12(日) 21:23:34.27 ID:d2iKSpY90
  
静寂が支配する空間。
乱雑した部屋の椅子に座るのは、二つの影。
先ほど出会った、兄者とクーだ。

( ´_ゝ`)「そうか……弟者を知っているか」

川 ゚ -゚)「貴方は彼の兄なのか。
     彼が唯一適わないと言っていた――」

その言葉に兄者は笑みを浮かべた。

( ´_ゝ`)「アイツ、そんなこと言ってたのか」

双子、というヤツだろうか。
その笑顔も何もかも、あの弟者と瓜二つだった。

川 ゚ -゚)「貴方は何故、ここに?」

( ´_ゝ`)「おそらくアンタと同じような目的だ。
      クルト博士の研究資料の捜索……しかも依頼主は弟者、だろ?」

川 ゚ -゚)「あぁ」

( ´_ゝ`)「さて、どうする? 俺を殺すか?」

川 ゚ -゚)「…………」



133: ◆BYUt189CYA :2006/11/12(日) 21:25:52.52 ID:d2iKSpY90
  
( ´_ゝ`)「気付いているんだろう? 俺が『VIP』の一員だということに。
      あの病院の一件で、荒巻達とお前が同時期に遭遇したのも
      俺が弟者のPCをハッキングして情報を得たからだと、気付いているんだろう?」

兄者はベラベラと真相を語っていく。

川 ゚ -゚)「確かに、許せんな」

( ´_ゝ`)「ならどうする?」

川 ゚ -゚)「以前の私なら問答無用で切り殺していたかもしれんが……今はそんな気分じゃないんだ。
     後は勝手にしてくれ」

(;´_ゝ`)「え? あ……おい!」

クーは背を向け、部屋を出ようとする。
予想外だった返答に兄者は戸惑いながら、彼女を呼び止めた。

( ´_ゝ`)「俺、敵なんだけど?」

川 ゚ -゚)「だが、弟者の兄だろう?」

あっけらかんとした返答。



134: ◆BYUt189CYA :2006/11/12(日) 21:28:10.02 ID:d2iKSpY90
  
( ´_ゝ`)「おいおい、まさかそんな理由で――」

川 ゚ -゚)「悪いか?」

( ´_ゝ`)「…………」

兄者は腕を組み、少し考える素振りを見せる。

( ´_ゝ`)「アンタ……随分とイメージと違うな」

川 ゚ -゚)「何のイメージかは知らんが、私は私だ」

( ´_ゝ`)「自我を確立した、のか?」

川 ゚ -゚)「……貴様に何が解る?」

己への呼び方が変わったことで、兄者はクーの逆鱗に触れてしまったと気付く。
慌てるように

(;´_ゝ`)「あ、いや、悪気があって言ったんじゃないんだ」

川 ゚ -゚)「……時間の無駄だ。
     捜索するなら勝手にしろ……ただ、私の邪魔はをするな」



135: ◆BYUt189CYA :2006/11/12(日) 21:30:39.26 ID:d2iKSpY90
  
再び背を向けるクー。

(;´_ゝ`)「お、おい、だから待てって」

再び呼び止める兄者。
二度目の振り返った彼女の顔には、少しの苛立ちが見えた。

川 ゚ -゚)「……まだ何か用か」

( ´_ゝ`)「まぁな。 これ、見てみなよ」

兄者がファイルを投げて寄越す。
受け取ったクーはそれを怪訝そうな顔で開く。
もちろん兄者への警戒は忘れない。
だが、そのファイルを見ていく彼女の表情が、みるみる変化していく。

川;゚ -゚)「これは……」

( ´_ゝ`)「実に興味深い内容だとは思わんか?
      ウェポンに関しての情報もそうだが……って、全部揃ってないけど
      それ以外の情報……特に最後の資料はどうだ?」



138: ◆BYUt189CYA :2006/11/12(日) 21:32:45.74 ID:d2iKSpY90
  
川;゚ -゚)「これを、どこで?」

( ´_ゝ`)「荒巻が集めていた資料だよ」

川 ゚ -゚)「荒巻の? よく手に入ったな……」

その言葉を聞き、兄者は思い出したように顔を上げた。

( ´_ゝ`)「あぁ、そうか……アンタは知らないんだな」

川 ゚ -゚)「何をだ?」

( ´_ゝ`)「荒巻は死んだよ」

川;゚ -゚)「……え?」

兄者は適当に、あの時起こった事を話した。

( ´_ゝ`)「まぁ、ぶっちゃけると俺にとっちゃどうでも良かったけどな。
      クルト博士の研究成果を知りたいと思って、『VIP』に接触したわけだし」



141: ◆BYUt189CYA :2006/11/12(日) 21:35:40.12 ID:d2iKSpY90
  
川 ゚ -゚)「じゃあ、貴方は――」

( ´_ゝ`)「もう『VIP』って名乗る気は無いってことだよ。
      後に残ったのは馬鹿と馬鹿と馬鹿だからな」

ジョルジュとツーとクックルのことだろう。
そして彼らが荒巻という司令塔無しで、連携して動くようには見えなかった。
むしろ好き勝手に暴れ出すに違いない。
それはそれで問題だが。

川 ゚ -゚)「それで……この情報を私に見せて、何がしたい?」

( ´_ゝ`)「いや、アンタは知るべきだと思ってね」

川 ゚ -゚)「?」

( ´_ゝ`)「俺の勘なんだが……アンタは、アンタが思っている以上に『重要』な存在だ」

川 ゚ -゚)「重要、だと?」

( ´_ゝ`)「勘だから確証は無いがな。
      けど、アンタにクルト博士の情報は見せるべきだと思った」

川 ゚ -゚)「私は失敗作だぞ? 何故、重要だと思う?」

( ´_ゝ`)「今まで、おかしいとは思わなかったのか?」



142: ◆BYUt189CYA :2006/11/12(日) 21:37:58.60 ID:d2iKSpY90
  





( ´_ゝ`)「アンタ……何で生きてるんだよ?」






144: ◆BYUt189CYA :2006/11/12(日) 21:40:17.03 ID:d2iKSpY90
  
意外な問いかけ。
クーはつい言葉をなくしてしまう。

川;゚ -゚)「…………」

( ´_ゝ`)「俺は一応、科学者の端くれだから解るんだが
      失敗作や欠陥品ってのはな……本当に役立たずでクズだから、そう呼ぶんだ。
      そしてそんな失敗作は、すぐ廃棄か分解さ。
      存在が無駄だからな」

川;゚ -゚)「それはつまり――」

( ´_ゝ`)「アンタが生きているってことは……
      クルト博士にとって、何らかの意味があるんだと思わないか?」

川 ゚ -゚)「私に……意味?」

( ´_ゝ`)「だってそうだろう。
      あの鎖馬鹿も言っていたが、優秀作だの失敗作だの……所詮はサンプルに過ぎない」



145: ◆BYUt189CYA :2006/11/12(日) 21:42:43.82 ID:d2iKSpY90
  
川;゚ -゚)「まさか――」

( ´_ゝ`)「あるんだよ、『完成品』ってヤツがな。
      優秀作のジョルジュ、失敗作のアンタ……そして何かの完成品が、な」

川;゚ -゚)「だが、何故サンプルであるジョルジュと……特に失敗作の私を生かす必要が?」

( ´_ゝ`)「そこまでは解らん。 だから、俺はここまで来た」

川;゚ -゚)「…………」

( ´_ゝ`)「俺は既に『VIP』ではなく、そしてお互いにクルト博士の情報を得に来た。」

だから

( ´_ゝ`)「俺と組まないか? もちろん、この研究所内だけという限定で構わんが」

川 ゚ -゚)(最近の私は……選択を迫られてばかりだな)

だが、悪くない提案だ。
自分はここを知ってはいるものの、専門知識は皆無だ。
兄者と一緒に行動することで、知れる情報が増える可能性がある。

川 ゚ -゚)「……解った、少しの間一緒に行動しよう」

( ´_ゝ`)b「OK、把握した」



146: ◆BYUt189CYA :2006/11/12(日) 21:45:12.29 ID:d2iKSpY90
  
(;^ω^)「ふぅ、疲れたお」

('A`)「久しぶりに登ったな、ここ」

この山は、二人にとってとても懐かしい場所だった。
お互い一緒には遊んだことは無かったが、幼少の頃からの遊び場だった。
頂上までの近道を通り、草木を掻き分け進む。

キタコレ山の頂上に着くころには、既に夕日は沈みかけていた。
一面草原。
頂上には木は生えていない。
昔はこの広大な草原で、サッカーや野球をやったものだ。
よくボールを無くしたが。

( ,,゚Д゚)「来たか」

その草原の中央付近で、ギコとしぃが待ち構えていた。

( ^ω^)「こんばんわだお、ギコさん、しぃさん」

('A`)ノシ「こんちゃーす」

( ,,゚Д゚)「さて……早速話をしようか」



149: ◆BYUt189CYA :2006/11/12(日) 21:47:09.97 ID:d2iKSpY90
  
挨拶もそこそこに話を切り出すギコ。
その彼の台詞に、ブーンはふと疑問を持った。

( ^ω^)「ギコさん……何か急いでいるのかお?」

( ,,゚Д゚)「……まぁな」

('A`)「?」

(*゚ー゚)「…………」

少しの沈黙。
ギコが、それを破るように口を開く。

( ,,゚Д゚)「で、話の続きだが……お前らは強くなりたいからここへ来たのだろう?」

('A`)「でも、そう簡単に強くなれるもんなんスかね?
    漫画とかじゃ、ちょっと修行するだけでメッチャ強くなったりするけど」

( ,,゚Д゚)「簡単なようで簡単じゃない。
     本人の素質と、指輪の相性次第だ」

( ^ω^)「素質と相性?」



151: ◆BYUt189CYA :2006/11/12(日) 21:49:21.08 ID:d2iKSpY90
  
( ,,゚Д゚)「指輪に擬似的な精神が宿っていることは知っているな?」

('A`)「あるのは知ってるッスけど、その存在はよく解んないッスね」

( ,,゚Д゚)「その存在を、今からお前達に知ってもらう」

( ^ω^)「……知ると、どうなるんですかお?」

( ,,゚Д゚)「指輪を知ることは、更に力を貸してくれるという意味に繋がる。
     つまり――」

('A`)「それが更に強くなる方法、ッスか?」

( ,,゚Д゚)「あぁ、そうだ。
     そしてこれを『OVER ZENITH』と呼ぶ」

( ^ω^)「おーばーぜにす……?」

覚えがあった。
確か始めて戦ったときに、ジョルジュが言っていた言葉。
その言葉を言った直後、彼の持っていた鎖が巨大化したのを憶えている。



156: ◆BYUt189CYA :2006/11/12(日) 22:06:16.58 ID:d2iKSpY90
  
あれがそうなら――

( ^ω^)「ブリーチで言う卍解みたいだお!」

( ,,゚Д゚)「ばん……?
     何やらよく解らんが、理解したならそれでいい」

( ^ω^)「卍解っていうのは、刀と会話して――」

( ,,゚Д゚)「さぁ、とりあえず始めよう。
     二人とも、指輪を出せ」

( ^ω^)「…………」

押し黙る親友の肩を、ドクオが叩きながら

(;'A`)「ブーン、お前、何ていうか……ドンマイ」



157: ◆BYUt189CYA :2006/11/12(日) 22:09:07.93 ID:d2iKSpY90
  
クルト博士の元・研究所の調査は思いの外、順調に進んでいった。

元々ここにいたというクーと、科学者の端くれである兄者。

この二人が組んで調査すれば、仕事が速いのも当然であるが。
しかし――

川 ゚ -゚)「……無い、な」

( ´_ゝ`)「あぁ、おかしい」

二人の調査は、それこそ無駄が無い完璧なものだった。
そこそこ価値のある資料も手に入ったのだが

川 ゚ -゚)「見付からない……」

( ´_ゝ`)「完成品の情報……ここに無ければおかしいのだが」

手に入った情報は三つ。

一つ目は、クルト博士の経歴。
二つ目は、3rd−Wの情報。
三つ目は、クーとジョルジュについての資料。



161: ◆BYUt189CYA :2006/11/12(日) 22:11:51.19 ID:d2iKSpY90
  
一つ目は特に重要では無い。

二つ目は割と重要だ。
3rd−Wの場所が記されている。
『ミーディ=アストクルフ』という人物に、指輪を託したらしい。
この情報はショボンの方へ送っておいた。

三つ目は更に重要だ。
クーとジョルジュについての資料。
何故、クーとジョルジュが失敗作・優秀作と呼ばれるかの理由が詳細に書かれていた。

(;´_ゝ`)「これは……!」

川;゚ -゚)「……!」

それは、兄者の疑問を解決……いや、予想を確定する内容だった。

攻撃力はウェポンが司る。
では、体力は?

その疑問の答えが、クーとジョルジュだったのだ。
つまり、クルト博士のとった手段とは――



165: ◆BYUt189CYA :2006/11/12(日) 22:14:38.96 ID:d2iKSpY90
  
『一から人間を作り出すこと』

(;´_ゝ`)「人造人間……!?」

川 ゚ -゚)「その失敗作が私で、優秀作がジョルジュ……」

何を以って失敗・優秀とするのかも、そこには書かれていた。

クルト博士が作り出した人造人間は、ただ体力が優れているだけではなかった。
ウェポンとの適合適正が調整されているのだ。
その点で失敗したのが、クー。
そして成功したのが、ジョルジュ。

成功したジョルジュには、更なる改造を進めていく。
そしてあの9th−W・ユストーンを使いこなす個体が出来上がったというわけだ。
最後に注釈がある。
戦闘能力を上げすぎ、その分知性を失ってしまった、と。
その結果、あの戦闘狂が出来上がってしまったのだろうか。

対するクーには、ウェポンの適正が無かった。
故に戦闘力強化もされることなく、しかし何故か廃棄されなかった。

クーは、己が失敗作だとは聞いてはいたが、その理由を知るのは初めてだった。



167: ◆BYUt189CYA :2006/11/12(日) 22:17:46.54 ID:d2iKSpY90
  
川 ゚ -゚)「…………」

資料は更に続く。
そこには、失敗作・優秀作・完成品の定義が記されいた。


失敗■(女性■)   能■は低い。
             完全な失敗作である。
             し■■■■■■■■■、■■■■■。

優秀作(男■型)   能力が高■、ウェポン適正■一番の反■を示■。
             が、改造を重■た結果、情■が欠け落ちている故に■■■■■■。

完成品(■■■)   能力が非■に高■、ウェポン適正も完■。
             ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
             ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■。


川 ゚ -゚)「ふむ、読めんところが多いな……」



169: ◆BYUt189CYA :2006/11/12(日) 22:20:58.56 ID:d2iKSpY90
  
隣にいる兄者に資料をまとめて渡す。
受け取った彼は、額に汗を浮かべながら

(;´_ゝ`)「しかし……一から人間を作り出すなど……
      ありえんことではないが、よくやる気になったものだ」

川 ゚ -゚)「……うむ」

( ´_ゝ`)「この読めない部分……研究所内にバックアップとかあるのだろうか?」

川 ゚ -゚)「それは考えにくい。
     全て、私と貴方で完璧に捜査したからな」

( ´_ゝ`)「そうだな……」

川 ゚ -゚)「そして、一つ疑問がある」

( ´_ゝ`)「疑問?」

川 ゚ -゚)「これほどの研究……特に人造人間やウェポンの開発はどこでしていたのだ?」

( ´_ゝ`)「そういえば……」

各階、各部屋を調査はしたが
そんな大規模ともいえる研究・開発をするための部屋や機械類が、まったく見当たらなかった。



171: ◆BYUt189CYA :2006/11/12(日) 22:23:44.66 ID:d2iKSpY90
  
川 ゚ -゚)「……隠されている、とでも言うべきか。
     探す必要があるな」

( ´_ゝ`)「あぁ、おそらくそこに――」

川 ゚ -゚)「完成品とやらがある、か」

( ´_ゝ`)「考えられる場所は?」

川 ゚ -゚)「地下だな。
     それでなければ……時空が歪められた部屋、とかな」

(;´_ゝ`)「いや、時空が歪んでって……そんな非科学的なこと、無いだろ」

川;゚ -゚)「……気付け、冗談だ」

ぷいっと顔を背け、部屋を出て行くクー。
その微かに見えた耳は赤かった。
一瞬、笑いが込み上げてきた兄者だが、殺されるのは勘弁なので慌てて黙って後を追った。



172: ◆BYUt189CYA :2006/11/12(日) 22:26:32.39 ID:d2iKSpY90
  
( ^ω^)「…………」

('A`)「…………」

二人は草原の中で座っていた。
それぞれの手には、指から外した指輪。
彼らはジーッとそれを見つめている。

( ^ω^)「ドクオ……何か聞こえたかお?」

('A`)「……いんや」

( ^ω^)「僕も聞こえないお」

先ほどからやっているのは、指輪との意思疎通だ。
詳しい方法をギコが教えてくれなかったので
二人はとりあえず指輪とコンタクトをとるために、ジーッと見つめていたのだが……。

('A`)「うーん、やっぱこういう方法じゃ駄目なんじゃね?」

( ^ω^)「そうかお……」

('A`)「だってさ、考えてもみろよ。
    ジーッと見つめられて、友好的だと判断するヤツっているか?」

(;^ω^)「それは無いお……むしろ不審者だお」



174: ◆BYUt189CYA :2006/11/12(日) 22:29:34.54 ID:d2iKSpY90
  
('A`)「ギコさんはあの調子だし……どうするよ?」

ドクオが振り返る。
その視線の先には、やはり草原に座ったギコとしぃだ。
二人は寄り添い、しぃの手の中にある一つのものを見つめていながら、会話をしている。

( ^ω^)「何してるんだお、あれ?」

('A`)「さぁ……」

とりあえずアドバイスは聞けそうに無いので、違う疑問の議論に入る。

( ^ω^)「そもそも、おーばーぜにすってどんなんだお?」

('A`)「何かガシーンってなって、グシャーンってなるんじゃね?」

(;^ω^)「意味が解んないお」

('A`)「お前、一回発動見てるんだろ?
    それの真似するのはどうよ?」

( ^ω^)「おっお、やってみるお」



176: ◆BYUt189CYA :2006/11/12(日) 22:32:26.88 ID:d2iKSpY90
  
立ち上がり、指輪を装着。

( ^ω^)「8th−W『クレティウス』! 発動!」

いらぬ言葉、そして発光と共に、ブーンの両手に白いグローブが装着された。
その様子を見ながら、ドクオが

('A`)「そうやって発動出来るってことは、見捨てられてはいないんだよなぁ」

今以上の力を欲したとき、何を見せれば良いのか。
今以上の力を欲したとき、何を聞かせれば良いのか。
今以上の力を欲したとき、何を感じさせれば良いのか。

( ^ω^)「えーっと、ジョルジュがやってたのは――」

思い出す。
あの男は鎖を手元に引き寄せ、『OVER ZENITH』と叫んだ。

( ^ω^)「じゃあ、僕も――」

グローブをはめた手を、眼前に持っていく。



177: ◆BYUt189CYA :2006/11/12(日) 22:35:22.87 ID:d2iKSpY90
  
深く息を吸い、発した。

( ^ω^)「OVER ZENITH!!」

ゼニス……

ゼニス……

ニス……

響いた声の後は、虫が鳴く音と風によってざわめく草原の音のみだ

(;'A`)「見事に無視されたな」

(;^ω^)「ちょっとショックだお」

あーあ、と言い、ドクオが草原に寝そべる。

('A`)「全然駄目じゃん……どうすりゃいいってんだよ」

つられてブーンも隣に寝そべる。

( ^ω^)「……指輪が、僕達に更なる力を与える理由、かお」

うーん、と二人で唸るが答えは出ない。



179: ◆BYUt189CYA :2006/11/12(日) 22:38:10.97 ID:d2iKSpY90
  
と、そんな時だ。

( ^ω^)「お、流れ星だお」

('A`)「マジ?」

ブーンが指を指す。
その方角の空には、動いている光点があった。

( ^ω^)「クーが戻ってきますように、つよきす大好き、強くなれますように――」

念仏、もしくは早口のような口調でブーンが呟く。

(;'A`)「同じ願いを3回、だろ。
    それに何か間にノイズが入って――」

ドクオの言葉が止まる。

( ^ω^)「……どうしたお?」

(;'A`)「お、おい……アレ、流れ星なんかじゃねぇぞ?」

( ^ω^)「え?」



182: ◆BYUt189CYA :2006/11/12(日) 22:40:54.57 ID:d2iKSpY90
  
見れば、先ほどと同じ位置に微かに揺れ動く光の点があった。
それはみるみる大きくなっていく。
否――

(;^ω^)「ち、近付いてる……?」

(;'A`)「なぁ、あれ……ヘリじゃねぇか?」

(;^ω^)「お?」

耳を澄ませば、断続的なヘリ特有の音が響いてくるのが解った。
流れ星と思っていたのは、ヘリのライトだったというわけだ。
しかし――

(;^ω^)「なんでこっちに近付いてきてるんだお?」

(;'A`)「お、俺が知るかよ……」

思わず立ち上がり、向かってくるヘリを見つめる。
ふと視線をズラせば、ギコとしぃも立ち上がりヘリを見ていた。

( ,,゚Д゚)「来たか……」

呟く。
が、その声もヘリの奏でる爆音でかき消された。



186: ◆BYUt189CYA :2006/11/12(日) 22:55:21.67 ID:d2iKSpY90
  
ヘリが、とうとうブーン達の頭上まで達し、移動が止まった。

(;^ω^)「い、一体何事だお……」

(;'A`)「嫌なヨカーン」

ヘリが巻き起こす風と音が、ブーンとドクオの動きと声を止める。
と、ヘリの側面のドアが開いた。

(;^ω^)「お?」

淵には人が立っていた。
藍色のスーツを着込んだ、利発そうな男。
その睥睨するような鋭い視線は、ギコを見ていた。

('A`)「誰だ、ありゃ……」

声と共に動きがあった。
スーツの男が飛び降りたのだ。
いくら低空を飛んでいるといえど、その高さは10m前後はある。

(;^ω^)「あ、危ないお!」

人影が地面に墜落するが、すぐに畳んだ身体を広げ、立ち上がる。
どうやら無傷で着地したようだ。
驚くべき運動神経である。



192: ◆BYUt189CYA :2006/11/12(日) 22:58:35.15 ID:d2iKSpY90
  
ふと、男が腕を上げた。
それを合図とするように、ヘリが高度を上げる。
一陣の風と爆音と男を運んだヘリは、星が輝く夜の闇へと遠ざかっていった。

残るは静寂。
そして降り立ったスーツの男。
彼が見ているのは、ブーン達ではなくギコの方だ。
対するギコは、鋭い視線で男の視線と向き合っている。
ヘリの音が聞こえなくなった頃、男が口を開いた。

( ・∀・)「久しぶり、とでも言うべきかね?」

( ,,゚Д゚)「……二度と会いたく無かった」

( ・∀・)「おやおや、手厳しい。
     だが、それにしては広い場所を確保しておいてくれているではないか」

( ,,゚Д゚)「アイツらの修行のためだ、お前のためじゃない。
     来るのは解ってはいたがな」

ギコが指だけを、ブーン達の方向へ指した。
スーツの男がつられるように視線を移す。



194: ◆BYUt189CYA :2006/11/12(日) 23:02:05.63 ID:d2iKSpY90
  
(;^ω^)「…………」

(;'A`)「…………」

( ・∀・)「ふむ……彼らも適合者かね」

( ,,゚Д゚)「だが、彼らは俺達とは関係ない。
     そして……彼らが手を出すまでも無く、俺が勝つ」

何故なら

( ,,゚Д゚)「俺はあの時とは違うからな」

対する男は右手をポケットに手を入れ、何かを取り出す。
それを左手に移しながら

( ・∀・)「君は昔から少しばかり結論を急ぐ癖があるね?
      少しは落ち着いて物事を判断した方がいい」

スーツの男が、左手を掲げる。
その人差し指には、黄色の指輪。



197: ◆BYUt189CYA :2006/11/12(日) 23:05:18.73 ID:d2iKSpY90
  
途端、ギコの青い指輪が共鳴を開始した。

(;,,゚Д゚)「なっ……?」

( ・∀・)「懐かしいね。
     君と対峙するのは、これで二度目だ」

男は優雅に両手を広げ、天を仰いだ。

( ・∀・)「一度目は君が逃げを決め、我々の元を去った。
     さぁ……今回はどうかね? ん?」

( ,,゚Д゚)「……共鳴を起こしたという事は」

( ・∀・)「そう……君にとって最高の相手が、2nd−Wを持ったようだね」

まるで他人事のように話す男。
その様子を気に入りはしないのか、ギコの口調と視線は厳しい。



199: ◆BYUt189CYA :2006/11/12(日) 23:08:40.48 ID:d2iKSpY90
  
( ,,゚Д゚)「…………」

(*゚ー゚)「ギコ君……」

( ,,゚Д゚)「下がっていろ、しぃ……俺はここでやられるつもりはない。
     そして、お前を一人にするつもりもない」

( ・∀・)「そこの彼女は誰かね? 当時の君の側にはいなかった女性だが……」

( ,,゚Д゚)「貴様には関係ない」

ギコが、右手を前方に突き出す。
瞬間、青光。
まず柄が現われ、青く太い刀身が伸びていく。
完成されたのは巨剣。
片手でそれを軽く振り回し、肩に担う。

( ・∀・)「やはり美しいよ、1st−W『グラニード』は。
     私が最も気に入っていたウェポンであったことを知っているかね?」

( ,,゚Д゚)「美しいの後に能力が高い、を付け足し忘れているぞ」

( ・∀・)「私にとっては能力など在って無いようなものだよ」



200: ◆BYUt189CYA :2006/11/12(日) 23:12:03.46 ID:d2iKSpY90
  
男が、指輪をはめた手をポケットに突っ込む。
片方の手でネクタイの位置を調整しながら

( ・∀・)「能力に頼ってばかりではいけない。
     それは自身の停滞といい、そして君は立ち止まってしまった男だ」

( ,,゚Д゚)「貴様の定義は貴様のものだ。
     俺に勝手に適用するな」

( ・∀・)「相変わらず現実的だね、君は。
     好きだよ、そういうところは」

( ,,゚Д゚)「吐き気がする」

( ・∀・)「そうかね。
     何なら嘔吐用の袋を用意するが?
     あの飛行機とかに用意されてるアレだよ、アレ」

( ,,゚Д゚)「……くたばれ、クソ野郎」

( ・∀・)「ふふふ……君に言われるのなら、その度にゾクゾクするよ」



202: ◆BYUt189CYA :2006/11/12(日) 23:15:23.08 ID:d2iKSpY90
  
月下。
怒りを露わにするギコと、肩を揺らし笑う男。
見事に対照的な二人は、しかし似たような気配を匂わせ始める。
それは強者という猛獣特有の気配だ。
呼応するように風がざわめき、草原を揺らす。

普段の様子とは違う彼に、ブーン達は戸惑いを隠せない。

(;^ω^)「きょ、今日のギコさん……何か怖いお」

(;'A`)「っつか、俺達完全に蚊帳の外だな……」

とりあえず座って観戦することにした。
コイツら、何気に余裕である。

( ・∀・)「さぁ、そろそろ始めようか?」

( ,,゚Д゚)「何をだ」

( ・∀・)「ははは、グラニードを構えて言う台詞じゃないね?
     ナイスジョークだよ」

( ,,゚Д゚)「貴様は昔から何を考えているか解らんからな。
     後で後悔しないよう、聞いておきたい」



206: ◆BYUt189CYA :2006/11/12(日) 23:18:33.08 ID:d2iKSpY90
  
( ・∀・)「ならば言おう。
     目的は、グラニードの回収だ」

( ,,゚Д゚)「それだけか」

( ・∀・)「組織としては、ね。
     私個人としては、君と決着を付けたいと思っている」

( ,,゚Д゚)「それは都合がいい」

( ・∀・)「何故かね?」

( ,,゚Д゚)「貴様を叩き伏せたいと思っていた……!」

ギコの身体から殺気が噴き出す。
少し遠くまで離れているブーン達にも明確に感じ取れるほどだ。

対する男は涼しい顔をしている。
が、その目つきは刃のように鋭い。

因縁の二人が対峙する。
『1st』と『2nd』の戦いが始まろうとしていた――



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