( ^ω^)ブーンが戦い、川 ゚ -゚)クーが護るようです

254: ◆BYUt189CYA :2006/11/13(月) 21:47:05.24 ID:fa3uZeUT0
  
第九話 『依存はただの停滞だ』

クルト博士の元・研究所。
夜の闇に閉ざされ、光さえ届かない空間に、二人の男女が立っている。
空間の名は『クルト博士の私室』。

川 ゚ -゚)「ここ、か」

( ´_ゝ`)「ここしかあるまい」

二人の前には本棚があった。
他の棚が全て倒れているのに、この本棚だけは倒れずその姿を保っている。
怪しいと思わない方がおかしい。
おそらくは隠し扉なのだろうが、肝心の開け方が解らない。
だが――

( ´_ゝ`)「こういう扉は、本がキーになってるパターンが多いぞ」

川 ゚ -゚)「そういうものか。
     だとすれば、どの本だろうか」

( ´_ゝ`)「クルト博士の作りし隠し扉。
      それはつまりクルト博士とその密接な関係者くらいしか
      入ることの出来ない空間だろう」



255: ◆BYUt189CYA :2006/11/13(月) 21:51:03.33 ID:fa3uZeUT0
  
川 ゚ -゚)「それで?」

( ´_ゝ`)「だとすれば、そこらへんにある汎用な本をキーにするはずがない」

川 ゚ -゚)「と、なると――」

( ´_ゝ`)「たとえば、これだ」

兄者が、奥に設置された机に向かう。
おそらくはクルト博士が使っていたと思われる机だ。
机上にはいくつかの書物と書類、そして文房具が散らばっている。
その中の一つを兄者は持ってきた。

川 ゚ -゚)「それは?」

彼の右手に握られていたのは、少し分厚いハードカバーの本だ。
全体は赤く、金と銀の装飾が施されている。

( ´_ゝ`)「……クルト博士の日記帳だよ」

川 ゚ -゚)「なるほど……確かに近しい者しか触れることさえ出来ぬキーだな」

うむ、と言いながら兄者は本棚へ向かう。



257: ◆BYUt189CYA :2006/11/13(月) 21:55:22.14 ID:fa3uZeUT0
  
不自然に空いているスペースにそれを入れ込んだ。
カチリ、と音が鳴る。

川 ゚ -゚)「む」

( ´_ゝ`)「ぬ」

声を発したのは同時。
そして本棚が動き始めたのも同時。
ゴゴ、と重い音を立てながら、本棚が二つに割れるように開いていく。

川 ゚ -゚)「これは――」

階段だ。
向かう先は地下。
光が無いため、数メートル先は闇に閉ざされ奥を確認することは出来ない。
が、その闇の奥から得体の知れない何かを感じる。

川 ゚ -゚)「……行くか」

( ´_ゝ`)「OK」

二人は同時に足を進める。
男女の身は、何も見えぬ闇の中へ吸い込まれるように消えていった。



261: ◆BYUt189CYA :2006/11/13(月) 21:59:40.46 ID:fa3uZeUT0
  
風が鳴る。
月が、星が光り輝き、草原という戦場を照らす。

月下に人影。
対峙するは二人の男。

片方は青い巨剣を肩に担う、茶色のロングコートを着込んだ男。
片方はその手をポケットに突っ込んだ、藍色のスーツを着た男。

二人の視線は、種類は違えど鋭く冷えている。

動きは無い。

互いの出方を見るかのように、視線だけを絡ませる。



264: ◆BYUt189CYA :2006/11/13(月) 22:03:09.37 ID:fa3uZeUT0
  
( ,,゚Д゚)「やる前に、一つ言っておく」

( ・∀・)「何かね?」

それは、かつてブーンにも放った言葉。

( ,,゚Д゚)「死んでも恨むなよ」

途端、状況が動く。
ギコが地を蹴り、男の元へ疾駆を開始した。

対する男は不敵な笑みを浮かべたまま微動だにしない。
距離が縮まる。
二人の猛獣が接触――

( ,,゚Д゚)「!」

しなかった。
スーツの男が、大きなステップで後退する。
男がいた空間を巨剣が薙いだ。

( ・∀・)「やはり、目の前にすると怖いね……グラニードと君は」

( ,,゚Д゚)「戯言を――」



267: ◆BYUt189CYA :2006/11/13(月) 22:06:32.73 ID:fa3uZeUT0
  
( ・∀・)「次は私の番だ」

ギコの言葉を遮るように、男が宣言する。
動きは同時。
バックステップした衝撃を地面に流し、反動で前へ飛び出した。
対するギコは巨剣を振りかぶり、迎撃の姿勢。
男は右手をポケットから出し、握る。

接触。

空気を弾くような音が響いた。
ギコの頬に、男の拳が直撃している。
が、ギコは巨剣を振るってはいなかった。

( ・∀・)「その心意気、感嘆に値するよ」

ヒュッと風を切りながら背後の空間へ飛ぶ男。
その足先を、横薙ぎに巨剣が通り過ぎていく。

( ・∀・)「打撃を入れ、安心したところでカウンターかね。
     解っていても実行することは難しい……流石はギコ君だ」

言いながら着地。



268: ◆BYUt189CYA :2006/11/13(月) 22:09:44.15 ID:fa3uZeUT0
  
頬を殴られたギコは、血の混ざった唾を吐き捨てながら

( ,,゚Д゚)「お喋りが過ぎるぞ」

( ・∀・)「勘違いしないたまえよ。
     私はこの戦いを楽しんでいるのだから」

( ,,゚Д゚)「侮辱か」

( ・∀・)「まさか……むしろ賛美だよ」

言葉と共に、男が再度ギコの元へ向かう。
その速度は高速。
身を低くしながら、獣の如く走る。
今度は両手を解放し、しかし握り締めていた。

( ・∀・)「ふっ!」

腹部を狙った打撃だ。
しかし回避される。
続いて、ギコのカウンターが――



269: ◆BYUt189CYA :2006/11/13(月) 22:13:40.46 ID:fa3uZeUT0
  
( ,,゚Д゚)「!?」

行動を開始する前に、胸部に打撃。
出鼻を挫かれる。

( ・∀・)「君は解っていない」

連打を続けながら、男は語る。

( ・∀・)「確かに君のグラニードは強力だがね。
     攻撃の回転数は拳の方が圧倒的に勝るのだよ」

打突。
熊手。
裏拳。
肘打。

四連撃が、ギコの身体の各部にめり込む。



274: ◆BYUt189CYA :2006/11/13(月) 22:17:14.45 ID:fa3uZeUT0
  
( ,,゚Д゚)「ッ……!」

思わず声が出かけるが、歯を噛み押し留めた。
その際に生じた身体の力を、剣先に篭める。

振り下ろす。

動きは相手を脳天から両断する唐竹割りだ。

( ・∀・)「遅いよ?」

が、横に軽くステップされるだけで回避される。
直後、地面に巨剣が叩き込まれた。
刀身の三分の一程度が地にめり込み、一瞬ギコの動きが硬くなる。

( ,,゚Д゚)「ちっ!」

動きが取れないギコに、今度は蹴りを混ぜた嵐のような打撃が襲い掛かった。

音は一つ。
だが、打の数は七つ。

横からまともに喰らったギコは、剣を地から抜きながらも軽く吹き飛んだ。
宙で体勢を整え、着地。



277: ◆BYUt189CYA :2006/11/13(月) 22:21:57.59 ID:fa3uZeUT0
  
顔を上げれば――

( ・∀・)「どうしたのかね? 君らしくもない」

男が真正面から迫る。
ギコは巨剣を正面に構え、盾代わりに構えた。

ウェポンは存在自体が非常に強力だ。
生身で殴れば、その皮膚は裂け、最悪骨が砕ける。
しかし――

キン、という金属音が響いた。
疑問に思う間もなく、構えた巨剣の位置が横にズラされる。
視界から外れていく刀身の影からは、笑みを浮かべた男の顔。
巨剣の刀身に触れているのは、左手にはめた指輪だった。

( ,,゚Д゚)(指輪を用いた接触――!?)

( ・∀・)「言ったろう? 能力にとらわれていては、それはただの停滞だと」

言葉と共に、右半身を前にした男が蹴りを放った。
足刀。
言葉の通り、鋭く貫く強力な足技だ。
それがギコの腹に当てられた。
一瞬、二人の動きが止まる。



278: ◆BYUt189CYA :2006/11/13(月) 22:27:18.02 ID:fa3uZeUT0
  
( ・∀・)「破ッ!!」

男が気合の声を発した瞬間、畳まれていた足が伸び切り、ギコの内臓を圧迫する。
貫く衝撃はギコの身体を蹂躙し、遂には背中から抜けていった。

轟、という強烈な波動の音。

男が足を引く。
後に残るは、背を曲げ、虚ろな表情で地を見るギコだ。

一時的な意識の剥奪という、強力な一撃。
それがギコの意識と動きを完全に失わせた。

( ・∀・)「停滞した者に強さは得られないよ」

更に衝撃。
ギコの下げられた顎先に、真下からの男のつま先が直撃した。
そのまま蹴り上げられる。
ギコの身体は、弾け飛ぶように身を仰け反らせながら飛んだ。



280: ◆BYUt189CYA :2006/11/13(月) 22:31:05.51 ID:fa3uZeUT0
  
放物線を描くように飛ぶギコに対して、男が背を向ける。

( ・∀・)「君の敗因は……そのウェポンに依存する慢心と停滞。
     そして――」

ギコの身体が地面に直撃する音と共に

( ・∀・)「私を、調子に乗らせたことだ」

果たして聞こえなかったのか、それとも耳には入ったが意識には届かなかったのか。
ギコはそれに答えることも反論もすることも無く、落ちたままの姿勢でピクリとも動かない。

(;^ω^)「ギ、ギコさん!?」

あれほどの強さを誇ったギコが、何も出来ずに沈んだ。
動きを一通り見ていたが、あの男の格闘能力はとんでもない。
おそらくブーンでも一撃さえ入れられず、そして一撃でも防げないだろう。

( ・∀・)「ウェポンなんて使わなくても、イケるところまではイケるのだよ」

両手を軽く振りながら、男は淡々と語る。
その息は乱れてさえいない。



281: ◆BYUt189CYA :2006/11/13(月) 22:34:08.74 ID:fa3uZeUT0
  
(;'A`)「と、とんでもねぇぞ、アイツ……」

ドクオ
が声を震わせながら呟く。
あれほどの男が、次に自分達に牙を剥いたら?
そう考えただけで、ドクオは勝手に身体が震え始めた。

( ・∀・)「さて、と」

男は背後に振り返る。
ギコの姿勢は先ほどと変わらない。
うつ伏せに、身を丸くして倒れている。

( ・∀・)「結果は呆気なかったが、事実は事実だ。
     1st−W・グラニード……返してもらおうか」

ザッ、ザッ、と短く生えた草を踏みしめる音。
倒れた巨剣の剣士を真下に見据え、彼は少し悲しそうな表情を浮かべる。

( ・∀・)「能力にとらわれた停滞、か。
     君がまさかそうなるとは思わなかったのだがね」

その目が見るは、ギコの右手の中指にはめられた青い指輪だ。
手を伸ばす。



282: ◆BYUt189CYA :2006/11/13(月) 22:37:37.70 ID:fa3uZeUT0
  
( ・∀・)「ん?」

その手を止める動きがあった。
右方向を見れば、しぃの手が男の腕を止めている。

(*゚ー゚)「やめて……!」

( ・∀・)「何かね、君は」

(*゚ー゚)「これ以上、これ以上ギコ君を苦しめないで!」

( ・∀・)「はは……まるで私が悪役のようだね、これは」

(*゚ー゚)「それ以外に何があるの!?」

しぃは涙が浮かんだ目で、男を睨みつける。

( ・∀・)「ならば言わせてもらおうか。
     本当の悪はね……ギコ君なんだよ」

(*゚ー゚)「え……」

( ・∀・)「何も聞かされてはいないのだね……哀れだよ、君は本当に哀れだ」



287: ◆BYUt189CYA :2006/11/13(月) 22:40:48.59 ID:fa3uZeUT0
  
その言葉に、しぃが顔を怒りに染める。
華奢な両手で男を突き飛ばした。

(*゚ー゚)「ふざけないでよ!
     ギコ君が……ギコ君が悪なわけないじゃない!」

押された男はフラリとよろめき、しぃと少し距離をとった。

( ・∀・)「では問おうかね。
      君はギコ君の何を知っていると?」

(*゚ー゚)「何をって――」

( ・∀・)「知らぬなら教えよう。
     私が構える会社がある都市で、強盗などの凶悪犯罪――
     更には殺人を犯したギコ君を拾ったのが私だ」

(*゚ー゚)「ッ……!?」

( ・∀・)「彼はいわゆる死刑囚というヤツでね」



288: ◆BYUt189CYA :2006/11/13(月) 22:44:04.93 ID:fa3uZeUT0
  
ニューソクとは異なる、しかし巨大な都市。
その郊外にあるスラム街でギコは育つ。
両親は最初からいなかった。
捨てられたからか、そうでないのか、今になっては解らない。

その汚い世界で育ったギコ。
青年といわれる歳になる頃には、その名を知らぬ者はいないというほどの大量の犯罪を犯していた。
強盗、窃盗、脅迫、誘拐、暴行、殺人……金になることなら何でもやった。

しかしその犯罪劇も幕を閉じることとなる。
仲間のミスで、己だけ警察に捕まってしまったのだ。

裁判は異例な速度で進んでいき、言うまでもなく死刑が確定。
死を待つだけの牢獄での毎日が始まった。

それに目をつけたのが、スーツの男だった。
男の正体は『フィーデルト・コーポレーション』社長。
営業内容は武力関係。
ヤクザやマフィアとは違う、しかし武力を主とした正義を振りかざす会社。
警察からの要請があれば兵を貸し出し、軍から依頼があれば武器を売る。

スーツの男は、ギコのその戦闘力……そして行動力を買う。
そして初めて出会ったのは牢屋越しだった。



291: ◆BYUt189CYA :2006/11/13(月) 22:47:06.25 ID:fa3uZeUT0
  
( ・∀・)「やぁ、君がギコ君かね」

( ,,゚Д゚)「…………」

( ・∀・)「外に出たくないかね? ん?」

( ,,゚Д゚)「……別に」

( ・∀・)「正直な返事をありがとう……でもぶっちゃけると、私は君という人材が欲しいんだ」

( ,,゚Д゚)「……何故?」

( ・∀・)「我らは正義の名の元に、武力という裁きの鉄槌を下す集団でね。
     君にぴったりな仕事がいくつかあるんだが、どうだね?」

ギコは少し黙り、そして重々しく口を開いた。

( ,,゚Д゚)「そこは……自由か?」

( ・∀・)「心は皆、平等に自由だと思うのだが? ん?」

( ,,゚Д゚)「……解った」

後は金が解決した。
巨大な都市ほど、汚い政治家や警察官は多い。
死刑囚のギコを引き取るのに、さほど苦労は無かった。



293: ◆BYUt189CYA :2006/11/13(月) 22:49:25.24 ID:fa3uZeUT0
  
(*゚ー゚)「そんな……」

しぃが愕然とした表情で男を見る。

( ・∀・)「彼がね……私の会社へ入って、初めてしたことは何だと思う?」

(*゚ー゚)「…………」

( ・∀・)「かつての仲間の始末だった」

己が捕まる原因となった元・仲間。
ミスとはいえ、当時のギコにはそんな分別や良心など皆無だった。

( ・∀・)「その後スッキリしたのか、彼は順調に仕事をこなしていったよ」

しかし

( ・∀・)「彼の反抗期は割と早めに来てしまってね」



295: ◆BYUt189CYA :2006/11/13(月) 22:52:11.06 ID:fa3uZeUT0
  
クルト博士が死亡したというニュースを聞いたスーツの男は
その遺産とも呼べるウェポンをいち早く集め始めた。

理由は、単純な興味。
武力を主とする会社の社長としては、そのウェポンという武器に興味があったのだ。
金と人脈を巧みに利用し、男の手に入ったのは1st−W『グラニード』。

だが、グラニードは男を主とは認めなかった。
兵士全員に試したところ、適合したのは意外にもギコだった。

男は喜ぶ。
ウェポンを間近で見れ、しかもそれが己の部下にいることに。
だが、その歓喜の時間も長くは続かなかった。

ギコが、グラニードを持って脱走したのだ。

理由は解らない。
彼は、死ぬはずだったところを助けた男を裏切り、1st−Wを持って逃げた。

一度は追い詰めるところまでいったのだが、一瞬の隙を突かれて逃げられる。
それが男の言う、一度目の対峙だ。



298: ◆BYUt189CYA :2006/11/13(月) 22:54:26.71 ID:fa3uZeUT0
  
月下。
スーツを着た男は、淡々と過去を語っていく。

( ・∀・)「あの時の、そしてその後の彼に何があったかは知らないが
      随分と幸せにやっているようだね?」

(*゚ー゚)「嘘よ……ギコ君は、そんなことしない!」

( ・∀・)「何故、そうと言える?」

(*゚ー゚)「だって、だって――」

しぃが理由を告げようとしたときだ。

( ・∀・)「!」

男は気付いた。
しぃの背後の空間。

ギコの姿が、無い。

一瞬我が目を疑う男。
が、その疑いは次の瞬間に晴れることとなった。



299: ◆BYUt189CYA :2006/11/13(月) 22:56:58.58 ID:fa3uZeUT0
  
「死ね」

声が頭上から聞こえた。
首を上げる時間も煩わしい。
男は一瞬でバックステップを踏んだ。
直後。

( ・∀・)「ッ!」

男が元いた位置に、青い稲妻とも言える一撃が降り立った。
壊と破と砕が混ざった凄まじい音、そして衝撃波。
その吹き荒れるような衝撃に、男としぃは地にしがみつく様に耐える。

( ・∀・)「今のは――!」

前方に巻き上がった砂煙を見る。

誰だ?

問うまでもなく――



305: ◆BYUt189CYA :2006/11/13(月) 23:10:10.10 ID:fa3uZeUT0
  
( ,,゚Д゚)「…………」

青い巨剣を肩に担いだ、ギコだった。
先ほどと変わらない姿で――

( ・∀・)(いや、あれは……?)

青い巨剣。
その刀身の周囲が歪んでいる。
まるで陽炎のようだ。

( ・∀・)「しかし……今のは何かね? 初めて見る一撃だったが」

( ,,゚Д゚)「悪いが話す余裕も、意思もない」

言いながらギコが接近してくる。
男は迎え撃つように構えた。

横から、薙ぐような一撃が迫る。
刀身の長さと速度から、男は回避は難しいと判断。
ならば方法は一つ。
左手に装着した指輪。
それを向かってくる青い刃に向かって突き出した。



308: ◆BYUt189CYA :2006/11/13(月) 23:13:28.01 ID:fa3uZeUT0
  
金属音、そして衝撃。

押さえた、と男は判断。

巨剣の弱点は、その重量ゆえの遅さだ。
つまり一撃をかわすか防御すれば、あとはカウンターを入れ放題。
しかし――

( ・∀・)「!?」

左手で刃を押さえ、右手で打撃を入れようとした瞬間に気付く。
ギコが、ギコの手が、ギコの振りかぶった姿勢が、先ほどとは違い全て『逆』を向いていることに。

見れば左手の指輪に既に刃は無く、更にギコの再攻撃は始まっていた。
来る。
青い斬撃。

( ・∀・)「ッ!」

青の線がスーツの胸部を切り裂き、その奥にある皮膚をも狙う。
しかし判断は男が早かった。
カウンターを入れようとしていた右腕を無理矢理引き、その反動で背後へ身を投げたのだ。
まさにギリギリというタイミングで、青い刃が胸部の皮膚をかする。
砂埃を上げながら後退。



311: ◆BYUt189CYA :2006/11/13(月) 23:16:34.16 ID:fa3uZeUT0
  
( ・∀・)「その速度……」

ふと頬を冷や汗が伝う。
見れば、胸の位置で真一文字にスーツが裂けていた。
少しでも遅ければ、おそらく胸部の皮膚を切り裂かれ、心臓や諸々をぶちまけていただろう。

( ,,゚Д゚)「これが、何だか解るか?」

ギコが青い巨剣を片手で振り回す。
陽炎のようなものが追従するようについていく。
そこで男は気付いた。

( ・∀・)「その陽炎……熱によるものではないな。
      思うに重力や引力関係だね?」

( ,,゚Д゚)「ご名答」

ブオン、と巨剣を風車の如く眼前で回転させる。

( ,,゚Д゚)「グラニードの能力は『刀身に対する引力操作』。
     言い換えるならば、引力強弱を自在変更可、か」



313: ◆BYUt189CYA :2006/11/13(月) 23:20:45.42 ID:fa3uZeUT0
  
( ,,゚Д゚)「殺れると思ったんだがな……。
     最初の攻防で、この巨剣が重く攻撃が遅いという事を
     貴様の脳に叩き込んだつもりだったが」

( ・∀・)「なるほどね……先ほどの頭上からの攻撃は
      刀身に対する引力をプラス化し、落下威力を上げた一撃。
      そしてその後の攻撃は、逆に刀身に対する引力をマイナス化して刀身を軽くし
      私の反撃よりも速く剣を振れた、か」

( ・∀・)「正直、危なかったよ……見たまえ、スーツが破れてしまった」

言いながら、男は左手を掲げる。

黄色の閃光。
現われたのは薄い黄色の長い柄だ。
先端に、鉄の塊ともいえる頭部が付属する。
その形は、ハンマーもしくは鉄槌と呼ばれるものだった。

ハンマーの柄の中間部分を持ち、フォン、という高い音を立てながら回転していく。
そしてピタリ、とその動きを止めた。

( ・∀・)「使わせてもらうよ……『2nd−W・ロステック』を」

( ,,゚Д゚)「構わん。 そうでもしないと貴様に勝ちはない」



314: ◆BYUt189CYA :2006/11/13(月) 23:24:11.59 ID:fa3uZeUT0
  
対峙している二人とは少し離れた場所。
先ほどのギコの反撃に、ブーン達は開いた口が塞がらなかった。
ギコの過去もそうだが、グラニードのその能力の使い勝手の良さに驚愕したのだ。

(;^ω^)「な、なんか僕のクレティウスがとても貧弱に見えるお」

(;'A`)「お前なんてまだいいよ。
    俺のガロンなんて、ただ光の弾撃つだけだぜ?」

理不尽だー、と二人で同時に声をあげた。

そんな二人に、ギコが声を掛ける。

( ,,゚Д゚)「お前ら、見ておけよ」

( ^ω^)「お?」

( ,,゚Д゚)「これが俺の『OVER ZENITH』だ」



319: ◆BYUt189CYA :2006/11/13(月) 23:28:27.33 ID:fa3uZeUT0
  
瞬間、ギコが真上に高く飛んだ。
巨剣を振りかぶり、叫ぶ。

( ,,゚Д゚)「『OVER ZENITH』……!!」

途端、青い光が巨剣を包む。
その光の強さは、発動時の発光とは比べ物にならない。

( ・∀・)「見せてくれたまえ……君の力を!」

モララーが地上で迎撃の姿勢を取る。

( ,,゚Д゚)「おおおおぉぉぉぉあああぁぁぁ!!」

1st−W『グラニード』。
誇り高きその青の巨剣が、吠えた。
大気が震える。

『OVER ZENITH』とは、限界突破の意。

限界を超えた攻撃が月下で発動する。



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