( ^ω^)ブーンが戦い、川 ゚ -゚)クーが護るようです

7: ◆BYUt189CYA :2006/11/14(火) 21:46:18.34 ID:AzjoSFQM0
  
――高いな。

上空特有の冷たい空気を身に受けながら、ギコは思う。

実を言うと、彼は高所恐怖症だ。

しかし、この高さは良いと思う。
心地よいと思える。

( ,,-Д-)「――――」

眼下では、奴が待ち構えているだろう。
己の全力を受け止めるために。

ならば、と思う。

ならば、ならば受けてみろ。

過去を清算するための一撃を。
過去を断ち切るための一撃を。
過去を終わらせるための一撃を。



8: ◆BYUt189CYA :2006/11/14(火) 21:48:21.28 ID:AzjoSFQM0
  
聞こえるのは音だ。

風の音。
草の音。
空の音。

振りかぶったグラニード。
青く光るそれは、己の意思を反映するかのように輝く。

かつての恩人だろうが。
かつての上司だろうが。
かつての仲間だろうが。

全てを断つ。

それが、グラニード。
それが、俺の剣。
それが、俺の意思。

喰らえよ、剣神の一撃を――



9: ◆BYUt189CYA :2006/11/14(火) 21:50:55.73 ID:AzjoSFQM0
  




第十話 『少年の成長、彼女の決意』





12: ◆BYUt189CYA :2006/11/14(火) 21:54:09.12 ID:AzjoSFQM0
  
( ,,゚Д゚)「おぉぉぉぉ!!」

腰を限界まで捻り、その先の腕にある巨剣を限界まで振りかぶる。
そこから発せられるのは、限界にまで輝く青の光。

( ,,゚Д゚)「ッ!!」

振る。
最速の振りだ。
残像さえ見えぬ速度。

そこから発せられたのは、刃だ。
巨剣の刀身。
それが丸ごと、地上にいる男目掛けて発射された。

( ・∀・)「その程度」

ふ、と笑みを浮かべバックステップ。
一瞬後に青い刀身が、撃音と共に地面に突き立った。

(;^ω^)「そ、そんな!」

( ・∀・)「やれやれ、それが君の限界かね?」



16: ◆BYUt189CYA :2006/11/14(火) 21:56:23.38 ID:AzjoSFQM0
  
上空を見上げる。
ギコはまだそこにいた。

身を捻り、更に巨剣を振るような格好だ。
その連続動作を回転という。

身を一周した巨剣が再度振られた。

発射されたのは先ほどと同様の刀身だ。

( ・∀・)「刃の無限生成……?」

今度はサイドへステップを踏む。
先ほどと同じく、一瞬送れて刀身が地へ突き立った。

( ・∀・)「と、なると――」

もはや見上げるまでも無い。
来る。
更にバックステップ。
一瞬遅れて刀身。

(;^ω^)「ま、まさか――」



18: ◆BYUt189CYA :2006/11/14(火) 21:59:00.10 ID:AzjoSFQM0
  
( ,,゚Д゚)「あああぁぁぁぁぁ!!」

振る。
振る。
振る。
振れば刃が出るのだ。
振れ。
振れ――
振れ――――!

( ・∀・)「これは――!」

轟音、轟音、更に轟音。

もはやギコの姿は回転する残色に紛れて確認不可能だ。
だが、回転の各部から青い巨剣の刀身が次々と発射されていく。

無限ともいえる数の刃。
それらはまるでミサイル群のように、一直線にスーツの男を狙う。

( ・∀・)「ふむ……これは厄介かもしれな――」

その言葉も轟音にかき消された。



20: ◆BYUt189CYA :2006/11/14(火) 22:01:37.05 ID:AzjoSFQM0
  


突き立つ、そして轟音、更に衝撃。


突き立つ、轟音、衝撃。

突き立つ轟音衝撃。
突き立轟音突衝き立つ撃轟音。
突衝き撃音突き立衝轟音突撃き立つ轟音。
突音突き衝轟突き撃立轟音撃突き轟衝突き立撃つ音。
轟立つ撃突音轟衝突き轟つ音突衝立突轟撃音突突立衝轟つ音撃轟――

音と言えるのか解らぬほどの轟音と威力が地表に牙を剥いた。
その衝撃により地面は振動どころか揺れに揺れ、もはやブーン達は立っていられない状況だ。

(;^ω^)「う、う、うわぁぁぁ!?」

(;'A`)「死ぬぅぅぅぅ!?」



22: ◆BYUt189CYA :2006/11/14(火) 22:03:48.33 ID:AzjoSFQM0
  
音が場を支配し、地表を刃が支配する。

もはや視界は激震により機能しない。
耳はあまりの轟音に麻痺し、脳は揺さぶられる。
身体に感じるのはひたすらに振動と衝撃。

上空。

「――――――!!」

無数の刃を撒き散らしながらも響く声。
それはギコの声でもあり、そしてグラニードの発する咆哮でもあった。



24: ◆BYUt189CYA :2006/11/14(火) 22:06:17.51 ID:AzjoSFQM0
  
神の裁きかとも思えるそれが終わった。
どれくらいの時間の攻撃だったのだろうか。
一時間のような気もするし、数秒だった気もする。

( ´ω`)「あう……」

何とか気絶せずに済んだブーンは、よろよろと身を起こす。

無音。
いや、聞こえないのは耳が麻痺しているからだろうか。

周囲を見渡す。
一部は草原だった。
己の視界の左右には、それがしっかりと残っている。
しかし中央部分は違った。

(;^ω^)「な、何なんだお、これは……」

あまりの光景に絶句する。

青。

青色の刃が、これでもかというほど地表に突き立っている。
その数はもはや数えることは出来ないだろう。
もはや刃の山ともいえる状態だ。



26: ◆BYUt189CYA :2006/11/14(火) 22:08:55.52 ID:AzjoSFQM0
  
ふと隣で、ドクオが起き上がったのが解った。

(;'A`)「な、何だよ……これ、何があったんだよ?」

(;^ω^)「これが……『OVER ZENITH』?」

ジョルジュのモノとは次元が違った。
これはもはや攻撃などいう生易しいものではない。

一方的な破壊だ。

ふと、視線の先――刃の山にギコが降り立つのが見えた。
彼は真下を見つめる。
が、しばらくすると山から飛び降りた。

( ,,゚Д゚)「はぁ、はぁ……」

全身が気だるい。
ほぼ全ての体力を使い果たしてしまったようだ。
だが、最後の始末が残っている。

ギコは刃の山に背を向け、五指を広げた右手を掲げ――力強く握った。
瞬間、刃の山から光が発せられる。
キィンという甲高い音が、段々と音階を上げながら響き続ける。



27: ◆BYUt189CYA :2006/11/14(火) 22:12:08.80 ID:AzjoSFQM0
  
( ,,゚Д゚)「終わりだ、クソ野郎」

呟いた瞬間。
青の閃光が山の根元から発せられる。
ド、とも、ゴ、とも聞こえる轟音と共に、刃の山は光の柱に飲まれて消えていった。

後に残るは砂煙のみ。

刀身を無くした巨剣が、青い光を発しながら指輪に戻った。
途端、ギコの身体がフラつく。

(;^ω^)「ギ、ギコさん!」

慌ててブーン達が駈け寄る。
だが、それよりも前にギコを支える者がいた。

(*゚ー゚)「ギコ君……」

( ,,゚Д゚)「……勝ったぞ」

(*;ー;)「うん、うん……!」

涙を流しながらも身体を支えるしぃ。
その仲睦まじい光景に、流石のブーン達も立ち入ることは出来なかった。



31: ◆BYUt189CYA :2006/11/14(火) 22:14:57.18 ID:AzjoSFQM0
  
その時だ。

「やれやれ、せっかくのスーツが台無しではないかね」

声。

(;,,゚Д゚)「!?」

四人が一斉に振り返る。
見えるは砂塵。
が、その中に一つの影。

( ・∀・)「やぁ、諸君」

片手を上げながら挨拶したのは、スーツの男だった。
いや、もはやスーツの男ではない。
藍色に染め上げられたスーツはもはやボロボロに裂け、破れている。

しかし、未だに四肢はその形状を保っている。
あれほどの刃を受けておきながらも、血液が左手と左足を真っ赤に染めているだけだ。



33: ◆BYUt189CYA :2006/11/14(火) 22:17:41.56 ID:AzjoSFQM0
  
(;'A`)「ど、どういうこった!?」

ドクオが驚きの声を発す。

( ・∀・)「ひ・み・つ」

チッチッ、と指を振りながらウインク。
何という奇抜なセンス。

(;,,゚Д゚)「貴様……」

( ・∀・)「いや、見事な限界突破だったが……少し力を暴れさせすぎだね。
     派手さには驚いたが、まだ甘く荒削りだ」

(;^ω^)「!?」

あれでまだ甘い?
あれでまだ荒削り?

なんだ、この次元の違う人間は。
ブーンは目の前で睨み合う二人の男を、畏怖の対象として感じる。

(;^ω^)(ギコさんも凄かったけど、この男の人もとんでもないお……!)



36: ◆BYUt189CYA :2006/11/14(火) 22:20:17.49 ID:AzjoSFQM0
  
( ,,゚Д゚)「モララー……!!」

ギコが、初めて男の名を呟いた。
対するモララーと呼ばれた元スーツの男は、軽く目を見開き

( ・∀・)「おや、久々に君の口から私の名を聞いたよ」

と、少し喜ぶような表情で告げる。

( ・∀・)「いや、なかなかイイものだね……こういうのも
     痛みは生を自覚させ、そして無痛は死を自覚させる……」

血だらけの左手を振る。
血滴が舞い、地に降る。

その散らばる赤い液体を見ながら、ギコが憎々しげに



( ,,゚Д゚)「……まだやるか」

( ・∀・)「さて、ね……」

絡まる視線。
ギコは広く重く、モララーは狭く鋭く。



37: ◆BYUt189CYA :2006/11/14(火) 22:23:07.13 ID:AzjoSFQM0
  
と、動きがあった。

二人の視線の間に、しぃが割って入ったのだ。

(;,,゚Д゚)「しぃ!?」

(*゚ー゚)「…………」

彼女はモララーを見上げるように睨む。
その視線を平然と受けながら


( ・∀・)「おや……何かね?」

(*゚ー゚)「もうやめて……!」

( ・∀・)「何故かね?
     そして問おうか。
     何故、私達の戦いの邪魔をするのか、と」

(*゚ー゚)「私の知っているギコ君は、貴方の知っているギコ君じゃないからよ!」

( ・∀・)「そう、それだ」

モララーが、しぃの背後にいるギコに視線を送る。



40: ◆BYUt189CYA :2006/11/14(火) 22:26:18.47 ID:AzjoSFQM0
  
( ・∀・)「あの脱走劇の後、彼が何をしていたのか……それがとても気になっていた」

聞かせてくれたまえ、とモララーは付け足す。
対峙する彼女は声を震わせながら

(*゚ー゚)「彼は私を救ってくれた……!」

( ・∀・)「どういう意味で、かね?」

(*゚ー゚)「命も身も心も、全てよ!」

( ・∀・)「それは大層なことだ」

(*゚ー゚)「私は『VIP』のせいで両親を失ったわ。
    そしてその時、絶望していた私を救ってくれたのがギコ君よ」

( ・∀・)「毎日正午から始まる
     お涙頂戴ハートフルストーリー『哀れん坊大将軍』の何話かね、その話は」

(*゚ー゚)「ふざけないで!!」

( ・∀・)「はは、冗談、冗談だ」



42: ◆BYUt189CYA :2006/11/14(火) 22:28:46.54 ID:AzjoSFQM0
  
だがね、とモララーは声色を変えて

( ・∀・)「私には信じることは出来んよ。
     あのギコ君が君を救うなど……不可能だ」

(*゚ー゚)「何で……何でそういうことを言えるの!?」

( ・∀・)「私は彼を知っているから」

(*゚ー゚)「私は貴方の知らない彼を知ってるわ!」

( ・∀・)「人は変わらぬよ。
     特にギコ君のように、他人に、そして能力に依存している者は」

(*゚ー゚)「なら、私は何故生きているの?
    なら、私は何故ギコ君を愛してるの?
    なら、私は何故ここに今立っているの!?」

( ・∀・)「妄信だよ、それは」

瞬間、パンという音が場に響く。
しぃのビンタがモララーの右頬を打ったのだ。



43: ◆BYUt189CYA :2006/11/14(火) 22:31:20.30 ID:AzjoSFQM0
  
(*゚ー゚)「貴方に何が解るのよ!
    全てが貴方の定義に当てはまると思わないで!」

( ・∀・)「やれやれ、気丈なお嬢さんだ」

殴られた頬を押さえたモララーが、ふと拳を振りかぶった。
それはごく自然な動き。
ブーンやドクオ、そしてしぃまでもが、それを殴打と判断出来なかった。
しかし――

( ・∀・)「!?」

今度は左頬が拳によって打たれる。
身を少し仰け反らせたモララーは、しかし己を殴った相手に視線を向けた。

ギコだ。

( ,,゚Д゚)「しぃに手を出すな。
     俺なら、貴様の気の済むまで相手をしてやる」



45: ◆BYUt189CYA :2006/11/14(火) 22:34:45.13 ID:AzjoSFQM0
  
伸ばした腕を引きながら、宣言する。

( ,,゚Д゚)「もう一度言う。
     しぃに、俺の大切な人に手を出すな」

( ・∀・)「…………」

打たれた頬を押さえながら、モララーは一瞬呆けたような顔をした。
しかしそれはすぐに変化する。

( ・∀・)「ハ、ハハ、ハハハハ――」

笑いだ。
ネジが飛んだ機械のように、モララーは断続的にハの音を喉から出していく。

( ・∀・)「ハハハハハハハハ!
     面白い、面白いね、君達は……!
     相思相愛とは素晴らしいことだと思うよ、これは!」

パチパチ、と拍手を送り始めた。
からかうような態度に、ギコが激昂する。

( ,,゚Д゚)「貴様は……!」

( ・∀・)「はは、そう怒らないでくれたまえよ……いや、悪かった悪かった」

言葉と共に、指を鳴らす。
途端、辺りに音が響き始めた。



48: ◆BYUt189CYA :2006/11/14(火) 22:37:00.22 ID:AzjoSFQM0
  
(;^ω^)「!」

空を見上げる。
ヘリだ。
先ほどのヘリが、再度この場所へと飛んできているのが見える。

( ・∀・)「ギコ君」

こちらを向いたまま背後に下がりながら、モララーが口を開いた。

( ・∀・)「訂正しておこう。 君は随分と成長したようだ」

( ,,゚Д゚)「何……?」

上空から迫る爆音に負けることなく、声は響く。

( ・∀・)「君が他人に自ら干渉するなど……私には想像出来なかったよ」

( ,,゚Д゚)「だが、事実は貴様の目の前にある」

( ・∀・)「そう、その通り。 私は少し反省した。」

( ,,゚Д゚)「どうだか」

( ・∀・)「互いが信じるものは、それは偽りではなく真実だ。
     そして私はその真実を愛そう」

( ,,゚Д゚)「……何が言いたい?」



52: ◆BYUt189CYA :2006/11/14(火) 22:39:55.83 ID:AzjoSFQM0
  
( ・∀・)「祝福するよ、君達を」

両手を広げ、天を仰ぎながらモララーは告げた。
その奇抜ともいえるセンスに、ブーンとドクオは口を開け固まるが誰も見ない。

( ,,゚Д゚)「貴様に祝福されても……何の歓喜も湧かない」

と、モララーの頭上から縄はしごが降ってくる。
それを無事な方の腕で掴みながら

( ・∀・)「祝福とはされるものではなく、するものだ
     憶えておくといい」

妙な言葉を残しながら、モララーの身が浮く。
ハハハ、とそれまた奇妙な高笑いを残したまま、彼は闇の空へと消えていった。



55: ◆BYUt189CYA :2006/11/14(火) 22:42:18.93 ID:AzjoSFQM0
  
(;^ω^)「な、何だったんだお……」

(;'A`)「俺、完全に戦意喪失した……」

完全に蚊帳の外だったブーンとドクオが呟く。
そんな情けない二人に向かって

( ,,゚Д゚)「……強くなりたいんなら、あれくらい当然だ」

(;^ω^)「で、でもでも……僕達は『OVER ZENITH』が使えないし――」

( ,,゚Д゚)「そんなモノが無くても強くなれる。
     それは先ほど奴が証明した。」

モララーのことだ。
一応ウェポンを解放はしたものの、それは防御にしか使っていないだろう。
初戦においては素手でギコを圧倒したことも考えると、その言葉は信用に足るが――

(;'A`)「いや、俺らにあんなもん求められても……」

ドクオが自信無さげに呟く。

当然と言えば当然だ。
つい先日まで普通の高校生をしていた彼らにとって、ギコやモララーという人間は別次元の住人。
それらにすぐなれと言われても、無理なものは無理だった。



59: ◆BYUt189CYA :2006/11/14(火) 22:45:14.53 ID:AzjoSFQM0
  
( ,,゚Д゚)「まぁ、今の戦いで少しは得られたものがあっただろう」

(;^ω^)「た、確かにありましたけど……」

モララーの格闘術などは、ブーンの目から見れば技の宝庫だった。
盗めるものは盗む。
それが武道、武術、格闘技に共通する究極の技。

( ,,゚Д゚)「なら、お前らを呼んだ甲斐があったな」

(;'A`)「え、モララーって奴が来るのが解ってたんスか?」

( ,,゚Д゚)「ある情報屋からの報告でな……。
     そいつはモララーとも繋がっているから、動きをこちらにリークしてもらった。
     奴はその情報屋から俺の動きの情報を買っているから、どっちもどっちだな」

(;^ω^)「で、わざわざ戦闘の様子を僕らに見せようと――」

( ,,゚Д゚)「あぁ」

ギコが背を向ける。
寄り添うしぃにその身体を少し預けながら

( ,,゚Д゚)「これでも俺はお前達に期待している……努力は怠るな」



62: ◆BYUt189CYA :2006/11/14(火) 22:48:14.68 ID:AzjoSFQM0
  
(;^ω^)「……!」

これ程の男に期待を掛けられるとは。
ドクオはともかく、ブーンはこの言葉に心を動かされた。
ゾクリ、と背筋に冷たく、しかし心地よい何かが通っていく。
拳を密かに、そして自然に握り締め――その目に何かの意思が宿った。

やってやろう。
僕でも、やれるはず。

少年は思う。

いつか、この人達に追いつこう、と。
いつか、この世界に辿り着こう、と。
いつか、この雰囲気を感じよう、と。

握った拳に未だ力は無いが――しかし、少年は思う。

護ろう、と。
戦おう、と。
信じよう、と。

己を。
友を。
そして、彼女を。

夜空に思うは戦いの決心。
この日、少年の心は戦士へと成長した。



65 名前: ◆BYUt189CYA [>>64・・・しまった('A`)] 投稿日: 2006/11/14(火) 22:51:06.35 ID:AzjoSFQM0
  
深い闇の階段を抜けた先は、白だった。

川 ゚ -゚)「これは――」

空間全てが一面白色。
床も壁も天井も、そして空気さえも白く感じるほどだ。

( ´_ゝ`)「なんと奇怪な……これが隠し研究所?」

川 ゚ -゚)「解らん」

とりあえず歩を進める。

川 ゚ -゚)「…………」

( ´_ゝ`)「…………」

川 ゚ -゚)「…………」

( ´_ゝ`)「…………」

川 ゚ -゚)「……見えんな」

( ´_ゝ`)「……あぁ」

歩けど歩けど、白、白、白。
上も下も右も左も白一色だ。



66: ◆BYUt189CYA :2006/11/14(火) 22:55:30.35 ID:AzjoSFQM0
  
ふと、背後を見る。
入り口であった階段が黒い点として見えることから、一応は進んでいるようだ。

( ´_ゝ`)「こういう部屋に入れられた人間は、発狂するって話があるな」

川 ゚ -゚)「そうなのか」

( ´_ゝ`)「うむ」

川 ゚ -゚)「…………」

( ´_ゝ`)「…………」

川 ゚ -゚)「…………」

( ´_ゝ`)(しかし――)

隣で歩くクーに、ふと視線を向ける。

( ´_ゝ`)(まるで人形だな)



69: ◆BYUt189CYA :2006/11/14(火) 22:57:58.40 ID:AzjoSFQM0
  
その視界から読み取れる表情は『無』だ。
遠くを見るような目線――
口は固く閉ざされていて――
揺れる漆黒の髪は、サラリと絹のような美しさを見せる反面、深い闇を感じさせる。
兄者は、隣歩く彼女に少しばかりの恐怖を覚えた。

(;´_ゝ`)(これが、クルト博士の作りし人造人間――)

心で反芻するが、未だに信じられない。
人間のクローンは作れたとしても、人工的に一から作るという話は聞いたことも無かった。
しかし、実際に目の前にそれがいる。

川 ゚ -゚)「……どうした?」

気付けば、彼女がこちらを見ていた。
その黒い瞳が兄者の顔を捉えている。

(;´_ゝ`)「あ、いや……何でもない」

慌てて目を逸らす。
その暗く輝く瞳に吸い込まれそうな錯覚。
人間にも見えるし、人外にも見える。



75: ◆BYUt189CYA :2006/11/14(火) 23:00:40.15 ID:AzjoSFQM0
  
( ´_ゝ`)(いかんな……俺らしくない)

昔から続いてきたクールな自分はどこへ行った?

その心に思うは弟者と共に歩んだ、研究と開発の日々。
懐かしい話だ。
お互い協力し、研磨し、伸び合った。
その弟者の知り合いが彼女――クーだ。

正直、弟者の元へ行きたい。

しかしやるべきことがある。
しかし見るべきことがある。
しかし聞くべきことがある。

クルト博士の意思を確かめたい。
彼が、こんな悪魔のような研究をどんな心境で実行したのか。
何を目的とし、何を目標とし、何を得ようとしたのか。
知る必要がある。
否。
知りたい。

兄者はもう一度決心する。

この件が全て終わったら、改めて弟者と会おう。



77: ◆BYUt189CYA :2006/11/14(火) 23:03:25.27 ID:AzjoSFQM0
  
( ´_ゝ`)「む、扉があるぞ」

前方に見えるは、やはり白い扉。
扉と判断出来たのは、ノブが作り出す影のおかげだった。

二人で扉の前に並ぶ。

川 ゚ -゚)「用意はいいな?」

( ´_ゝ`)「覚悟、じゃないのか?」

川 ゚ -゚)「私は勝つ、もしくは生き残るつもりでここに来ている。
     そのために必要なのは、覚悟ではなく生き残るための用意だ」

( ´_ゝ`)「ふむ……確かにそうかもしれないな」

川 ゚ -゚)「行くぞ」

( ´_ゝ`)「うむ」

ノブに手を掛け、開く。
二人は、内部の空間に消え入るように入っていった。



78: ◆BYUt189CYA :2006/11/14(火) 23:06:06.11 ID:AzjoSFQM0
  
そこは、体育館のような広さを持った空間だった。
先ほどとは間逆の、一面黒一色。
しかし明かりはあるようで、視界は開けている。

物は無かった。
ただ中央に巨大な、培養液を満たした巨大なカプセルが鎮座している。
それを中心とし、様々なチューブやコードが放射線状に伸びていた。

それだけの部屋。
その入り口に、クーと兄者が並ぶようにして立つ。

川 ゚ -゚)「…………」

( ´_ゝ`)「設備が少ないな……完全に完成品用の部屋、か」

兄者がカプセルに向かって歩いていく。
遅れること数瞬、クーも刀に手を添えたまま続く。

川 ゚ -゚)「……アレが、そうなのだろうな」

( ´_ゝ`)「うむ」

アレとは無論、中央に鎮座するカプセルだ。
その中身はよくは見えないが、何かが在る。
おそらくは――



81: ◆BYUt189CYA :2006/11/14(火) 23:08:46.60 ID:AzjoSFQM0
  
「――やっと来たか」

川 ゚ -゚)「!?」

比較的若い男の声が響いた。

(;´_ゝ`)「ど、どこだ?」

前方の兄者が下がりながらも左右を見渡しながら、警戒する。
カプセルの背後から人影が歩み出てくる。

(-_-)「……随分と遅かった。
    もしや、上で色々時間掛けていたかね?」

見たことの無い男だった。
中肉中背……いや、少し痩せ型で白衣を着ている。

兄者を見るが、彼は首を振った。
『VIP』関係者ではないようだ。

川 ゚ -゚)「貴様は……誰だ?」

(-_-)「知らぬ、と言うか?」

( ´_ゝ`)「悪いが俺もアンタを知らないな」

兄者が懐から拳銃を取り出しながら、言葉を紡ぐ。
同時にクーも抜刀。



83: ◆BYUt189CYA :2006/11/14(火) 23:11:48.67 ID:AzjoSFQM0
  
(-_-)「おやおや……殺気立っているね」

川 ゚ -゚)「誰なのだ、貴様は」

(-_-)「誰か、だと? 寂しい……寂しいねぇ」

(;´_ゝ`)「さび、しい……?」

(-_-)「あれだけ片方は私に恨みを持ち
    そしてもう片方は私に追随しておきながら、それか」

川 ゚ -゚)「何が言いたい?」

(-_-)「解らぬか?」

( ´_ゝ`)「生憎だが、解らんね」

(-_-)「では名乗ろう」

男は両手を軽く広げる。

(-_-)「私の名は『リトガー』。
    かつて、クルト博士の元にいた助手だよ」

川 ゚ -゚)「リトガー……助手……?」



84: ◆BYUt189CYA :2006/11/14(火) 23:14:05.02 ID:AzjoSFQM0
  
( ´_ゝ`)「それにしては、随分と若いようだが」

(-_-)「まぁね……これは、かつての私の姿なのだから」

川 ゚ -゚)「かつての?」

(-_-)「今現在の私の姿を見せてあげよう」

途端、キィンという甲高い音。
そしてガラスが割れるような音が耳に響く。
光。
視界を一瞬奪われた二人は、しかし前方――リトガーと名乗る男を見た。
そして同時に驚愕する。

(;´_ゝ`)「なっ……!?」

川;゚ -゚)「貴様は……!?」



85: ◆BYUt189CYA :2006/11/14(火) 23:17:11.41 ID:AzjoSFQM0
  
/ ,' 3「久しぶりじゃの、兄者……そして失敗作」

かつて死んだ男――荒巻。
その老体が、彼らの目の前に現われた。

(;´_ゝ`)「な、何故アンタが生きている……!?
      アンタはジョルジュによって殺されたはずじゃ!?」

兄者が驚愕に眼を見開く。

/ ,' 3「何故か? その答えはこれじゃよ」

右手を前方に突き出す。
その手には銀に光る杖が握られていた。

川;゚ -゚)「11th−Wか!?」

/ ,' 3「そう、『ミシュガルド』がこれの名じゃ。
    能力は――」

発光。
銀の光が、またしても老人を包む。

(-_-)「幻術、だ……ジョルジュが殺したのも幻術の私だよ」

光が消えた中からは、若い男が一人。



90: ◆BYUt189CYA :2006/11/14(火) 23:21:03.07 ID:AzjoSFQM0
  
川 ゚ -゚)「その姿が幻術というわけか……」

(;´_ゝ`)「だが、幻術は所詮幻術だぞ?
      死体は確かに存在したし、それの処理は俺がした。
      そして更に言うなら、アンタの老体は変わらぬはず――」

(-_-)「『OVER ZENITH』――」

川 ゚ -゚)「何?」

(-_-)「11th−W・ミシュガルドの限界突破は、幻術の具現化。
     それによって私は永遠の若さを手に入れている」

(;´_ゝ`)「幻術を具現化、だと?
      ……流石は『限界突破』といったところか。
      一応死体は隅々まで確認したが、それは意味の無いことだったか」

対しリトガーは、飽き飽きしたように首を振った。

(-_-)「そんな話はもう良い。
     それよりも聞きたいことがあるだろう?」

それは意外な言葉。

川 ゚ -゚)「口を割ると言うのか」

(-_-)「あぁ、そうだ」

( ´_ゝ`)「随分と気前がいい……何が目的だ?」



91: ◆BYUt189CYA :2006/11/14(火) 23:23:32.05 ID:AzjoSFQM0
  
(-_-)「目的などありはせん……言うなれば、真実を舌に乗せるは極上の味、だ」

川 ゚ -゚)「つまりはただ喋りたいだけか」

リトガーはクーの言葉を無視し、続ける。

(-_-)「何が聞きたい?」

( ´_ゝ`)「とりあえずは……そのカプセルの中身から聞こうか」

兄者が、中央に鎮座しているカプセルを指差す。
その中身は未だに見えぬが、しかし予想はついている。

(-_-)「君達も予想しているとは思うが……『完成品』だよ」

川 ゚ -゚)「貴様が、クルト博士の研究を引き継いだ、と?」

(-_-)「引き継ぎ、そして改変した」

( ´_ゝ`)「改変……?」

(-_-)「クルト博士の作りし『完成品』は、確かに完成とも呼べる性能を持っている。
     しかし、足りないものがあったのだ」

川 ゚ -゚)「攻撃力があり、そして体力もある……それのどこが不満だった、と?」

(-_-)「一つ問うが、生まれたばかりの獣が狩りを可能とすることが出来ると思うかね?」



93: ◆BYUt189CYA :2006/11/14(火) 23:25:58.15 ID:AzjoSFQM0
  
その台詞に、クーは一つの結論を見出した。

川;゚ -゚)「――『経験』か!」

(-_-)「そう、経験だ。
     たとえ最強の牙を持ち、最大の体力を持っていても、戦う方法を知らねば最強は名乗れまい」

( ´_ゝ`)「しかしクルト博士もその事に気付いていたはずでは?」

(-_-)「彼の目的は『最強の生物を作る』ことだ。
     経験など無くとも、ただ強さを理論的に説明出来ればよかった」

川 ゚ -゚)「つまり、貴様はこの完成品を実用化したい、と?」

(-_-)「まぁ、それもあるが……目的はもっと別だ」

( ´_ゝ`)「何だ」

(-_-)「さてね……そこら辺は語る舌を持ち合わせていない」



95: ◆BYUt189CYA :2006/11/14(火) 23:28:48.71 ID:AzjoSFQM0
  
どうやら語る気は無いらしい。
それを察してか、兄者が異なる質問を投げかける。

( ´_ゝ`)「で、その『経験』とやらを積ませる方法は考えているのか?」

(-_-)「おあつらえ向きのモノをクルト博士は作っていたよ」

川 ゚ -゚)「それは?」

先ほどからこちらが質問ばかりだとは思うが、それを恥じている暇と必要は無きに等しい。
リトガーもそれを咎めることもなく、スラスラと語っていく。

(-_-)「14の指輪」

それは、クルト博士が作り上げた攻撃力強化用の装備。
14の属性・能力・形状をもった指輪で、擬似精神がそれを支配している。
ブーンやジョルジュ、ギコなどが持っているそれを――

川 ゚ -゚)「どうする、つもりなんだ?」

(-_-)「擬似精神は、意外と高度でね。
     己を使役する術者と精神的にリンクしている」

それはつまり

(-_-)「あの14の指輪には、14人の戦闘経験値がたっぷりと入っているわけだよ」



96: ◆BYUt189CYA :2006/11/14(火) 23:31:20.75 ID:AzjoSFQM0
  
指輪に選ばれる根拠は
その者が持つ『心』でもあるが、それとは別に『素質』もある。

( ´_ゝ`)「なるほど……14の指輪を持つ者は必然と強くなる。
      それを利用しようというわけか」

川 ゚ -゚)「だが、どうやって経験を得る?」

(-_-)「喰えば良い」

(;´_ゝ`)「喰う、だと……?」

(-_-)「そのための能力と設定は完了している。
     あとは14の指輪がここへ集うのを待つのみ」

しかし

(-_-)「集ったのは君達だ。
     正直、指輪を持たぬ君達はまったく必要ないのだがね」

川 ゚ -゚)「ならば、何故ここまで通した?」

(-_-)「聞きたいことがあるから、というのはどうかね?」

( ´_ゝ`)「今度はそっちの質問タイムか。
      まぁ、教えてもらった礼として答えられることは答えるが」

(-_-)「紳士的意見をありがとう……私の聞きたいことは一つ」



100: ◆BYUt189CYA :2006/11/14(火) 23:33:52.81 ID:AzjoSFQM0
  
(-_-)「失敗作クーよ……君は何故、生きているのかね?」

川;゚ -゚)「!?」

それは、先刻兄者にも問われた言葉だった。
それを求めにここまで来たのだが、リトガーさえ知らぬということは

(;´_ゝ`)「その真実を知るは、クルト博士本人のみということか……」

もはや知りようの無い情報。

(-_-)「どうしても解らぬのだよ……。
     君には詳しい記憶が無いのかもしれないが、クルト博士は君を異常に可愛がった」

川 ゚ -゚)「博士が……?」

(-_-)「ジョルジュも確かに優秀作ゆえによく見ていたようだが
     失敗作の君を、それ以上に面倒を見ていたのだ」

( ´_ゝ`)「解せないな……本当の娘だと感じていたのか?」

(-_-)「いや、彼が自分の作ったものを愛でることは無かった。
     例外は失敗作のクー、君だけなのだよ」

川 ゚ -゚)「…………」



101: ◆BYUt189CYA :2006/11/14(火) 23:36:18.24 ID:AzjoSFQM0
  
クーは己の右手を見る。
この手を、誰かが握っていた記憶は微かにある。
研究所内を歩いていて、感じていた感覚。
閉じられていた記憶が蘇っていくような感覚。
この右手に残る温かい感触が、それがクルト博士なのだろうか。

川 ゚ -゚)「…………」

ある感情が湧いてくる。
懐かしさであり、寂しさであり、悲しみであり――そして嬉しさ。

彼女の心にある危険な意思が宿ろうとしていたが、知らずに兄者とリトガーは話を続ける。

( ´_ゝ`)「つまり、俺達の疑問もアンタの疑問も解けなかったようだな」

(-_-)「君もクーも知らぬということは……そういうことだろうね」

( ´_ゝ`)「で、どうする? 秘密を知った俺達を始末するか?」

拳銃を握りながら、兄者が油断なく問う。

(-_-)「何のためにここへ通したのかよく考えたまえ。
     私は完成品の餌が欲しいだけなのだよ」

だから

(-_-)「帰りたまえ」



103: ◆BYUt189CYA :2006/11/14(火) 23:38:51.03 ID:AzjoSFQM0
  
(;´_ゝ`)「……何?」

(-_-)「そして14の戦士……いや、私を抜いて13か。
     13の戦士に伝えろ。
     君達が倒すべき、超えるべき敵はここにいるぞ、と」

(;´_ゝ`)「何と……とんでもない奴だな、アンタは」

(-_-)「知的探究心が豊富なだけだよ。
     そして結果をすぐ知りたがる、忍耐力の無さも特徴の一つだ」

( ´_ゝ`)「だが……俺達がここでアンタを殺し、そして完成品を壊すことも可能だが」

(-_-)「やってみるかね?
     私の想像する未来では、君達は一瞬にて肉塊になる様が見えるが」

(;´_ゝ`)(『完成品』……。
      経験無し+自己防衛のために暴れるだけでも、そこまでの強さを誇ると言いたいわけか……)

ここにいても仕方なく、そして攻撃すれば死。
ならば――

( ´_ゝ`)「……解った、指輪の持ち主に伝えよう」

(-_-)「助かるよ」



104: ◆BYUt189CYA :2006/11/14(火) 23:41:17.75 ID:AzjoSFQM0
  
( ´_ゝ`)「だが、一つ言っておこう。
      勝つのはアンタじゃなく……おそらくは指輪の戦士達だ」

(-_-)「そうなるといいね……」

リトガーはそう言うと、背を向け歩く。
どうやら、こちらに興味が無くなったようだ。
そんな彼の背中に声が掛かる。

川 ゚ -゚)「リトガー」

(-_-)「……まだ何かあるのかね」

気だるそうに振り向くリトガー。
その彼に、クーは淡々と告げていく。

川 ゚ -゚)「一つ、頼みがあるんだ」

(-_-)「何だ?」

クーは静かな口調で『それ』を告げた。
耳に入れた兄者が、驚きに目を見開きながら

(;´_ゝ`)「ク、クー!? お前何を言ってるのか解ってるのか!?」

川 ゚ -゚)「あぁ、悪いが……私は――」



106: ◆BYUt189CYA :2006/11/14(火) 23:44:15.94 ID:AzjoSFQM0
  
一息。

そして、彼女は『それ』を再度口にした。



川 ゚ -゚)「ここに――残りたい」





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