( ^ω^)ブーンが戦い、川 ゚ -゚)クーが護るようです

409: ◆BYUt189CYA :2006/11/21(火) 20:54:31.98 ID:9/BxHOlA0
  
第十六話 『限られた界を突き破る意思』

玄関前。
限界突破したジョルジュから発せられる光が、ようやく止んだ。
現われたのは――

(;^ω^)「……!!」

( ゚∀゚)「ヒャハハハハハハハハハハハハハハハハ!!」

――龍。

いや、ただの龍ではない。
鎖の龍だ。
ジョルジュの頭上――つまり宙――を巨大な鎖が這い回っている。
太さは通常の鎖の数十倍、全長五十メートルを越えるかもしれない。
もはや動くだけで、轟音ともとれる鎖が擦れる音が木霊する。

(;´・ω・`)「これは……」

隣のショボンも、あまりの巨大さに絶句していた。

( ゚∀゚)「ヒャハハハ! いつかの時とは違うんだよ、ボケが!」

狂気の笑い。
どうやらユストーンは完全にジョルジュを認めているようだ。
気圧されるように、ショボンが一歩下がる。



413: ◆BYUt189CYA :2006/11/21(火) 20:57:05.43 ID:9/BxHOlA0
  
(´・ω・`)「少しまずいかもしれないね……」

(;^ω^)「ど、どうするお」

あまりの巨大さに、腰を抜かしかけたブーンが問う。
返答は簡単な結論だった。

(´・ω・`)「限界突破に対抗するには……限界突破だと思わないかい?」

( ^ω^)「なるほど! ってことはショボンは使えるのかお?」

その言葉に、ショボンは暗い表情で

(´・ω・`)「いや、悪いけど……」

(;^ω^)「えー!?」

(´・ω・`)「ちょっと自分で制約をかけていてね。
      僕自身の罪が許されるまで、5th−W『ミストラン』は力を貸すことはない」

( ^ω^)「罪って――」

(´・ω・`)「互いが生き残った後で話すこと、だよ」

(;^ω^)「そ、そうなのかお……」



414: ◆BYUt189CYA :2006/11/21(火) 21:00:01.16 ID:9/BxHOlA0
  
(´・ω・`)「だから、君が限界突破するんだ。 そのための時間稼ぎと囮は僕が務めるから」

(;^ω^)「いきなりかお!?」

(´・ω・`)「ブーン、やるしかないんだ。
      ここで生き残らなきゃ、お互い言いたいことも言えなくなる」

( ^ω^)「ショボン……」

(´・ω・`)「君が僕に期待してくれたように、僕も君に対して期待を送る。
      だから……だから応えて欲しい」

(;^ω^)「で、でも……僕は限界突破の方法なんて――」

(´・ω・`)「君は知っているはずだよ」

(;^ω^)「え?」

(´・ω・`)「じゃあ、行ってくる。
      とりあえず、すぐにはやられないようにするからブーンも頑張って」

そう言い、返事を待たずに走り出すショボン。

(;^ω^)「ショボン……」

呟き、己の両手を見る。
白いグローブ、8th−W、クレティウス、己の力の象徴。
答えは――



418: ◆BYUt189CYA :2006/11/21(火) 21:04:48.78 ID:9/BxHOlA0
  
( ゚∀゚)「行けや、ユストーン!!」

声と共に力の塊が動き出す。
走ってくるショボン目掛けて、己の巨大な鉄の身体を突進させてきた。

(´・ω・`)「悪いけど……!」

跳躍。
その足元を巨大な鉄の連鎖が、地面を削りながら高速で滑り這った。
着地。
繋がる鉄鎖の上を、ショボンは走る。

狙うとすれば、術者。
己の武器――5th−W『ミストラン』――は、ショボンが制約をかけているせいで力を貸すことはない。
つまり能力が一切使えず、それはただの強固な槍だ。
対しジョルジュは、もはや9th−Wの全ての力を解放している。
まともに戦って勝てるわけが無い。

いや、勝つ必要はない。
要は時間を稼げればよいのだ。

更に言えばジョルジュに一矢報いれば、その限界突破を崩せる可能性もある。
限界突破――特にジョルジュのような巨大なタイプは、その力ゆえに常識外れの集中力と体力を必要とする。
その限りなく揺れているバランスを崩せれば、それはユストーンにも多大な影響を与えるはずだ。



426: ◆BYUt189CYA :2006/11/21(火) 21:07:45.89 ID:9/BxHOlA0
  
(´・ω・`)「僕は――」

轟、と巨大な鎖の龍の頭部が向かってくる。
回避。
身の側を、ギリギリというタイミングで突き抜けていった。
身を起こし、更に走る。

(´・ω・`)「僕は――!」

喰らえば死に直結するといわんばかりの強力な一撃がショボンを狙う。
対し彼は、そのユストーンに対する身の小ささを利用し、潜り抜けるように回避。

攻撃はしない。
する余裕は無い。
しかし避ける余裕はある。

鎖龍は巨大な身体を持つゆえに、行動が読みやすいのだ。
そして攻撃方法も、頭部突撃、尾薙ぎ、身体で押し潰す、くらいしか出来ない。
確かに強力ではあるが、弱点も多く露呈している。

ショボンは思う。
これは一対一で用いる技ではない、と。
一体多数で初めて効果を発揮するタイプだ、と。

ならば、己が負ける要素は少ない。



427: ◆BYUt189CYA :2006/11/21(火) 21:11:17.18 ID:9/BxHOlA0
  
いける。

ショボンは走り、飛び、転がり、そして疾駆する。

体力の続く限りは走る。
精神が続く限りは飛ぶ。
意思が続く限りは抗う。

(´・ω・`)「おぉぉぉぉぉ!!」

若きバーの主が吠えた。
いや、もはやバーの主ではない。
友を――大切なものを護らんとする騎士。

守護の騎士が巨大な鎖龍に立ち向かう。
その姿は、さながら神話の一場面のようであった。



430: ◆BYUt189CYA :2006/11/21(火) 21:14:27.52 ID:9/BxHOlA0
  
(;^ω^)「ショボン……!」

友が舞い、そして飛び、更に走り、しかし転がっている。
巨大な鎖龍の攻撃を間一髪で回避しているところを見ると、あまり長くは持たないだろう。

(;^ω^)「早く、早く限界突破を……!」

両手を見る。
しかしクレティウスに反応は無い。

(;^ω^)「どうすれば……どうすればいいんだお!?」

焦り。
早くしなければ、大切な友が死んでしまう。
しかしクレティウスは何も語らず、何も反応を寄越さない。

何故?

ふと、思う。
指輪には意思があるとクーが言っていた。
つまり現状を少なからず把握しているはずだ。

しかし何故、力を貸してくれないのだろうか。
こんなに主人が焦り、力を欲しているというのに。



431: ◆BYUt189CYA :2006/11/21(火) 21:18:24.49 ID:9/BxHOlA0
  
(;^ω^)「――!」

ブーンは己の失言に気付いた。

『主人』

いつの間に、人間が指輪の主人になったのだろう。
クーは『指輪は力を託す』とも言っていた。

つまり使役されるわけではない。
つまり術者に良いように扱われるわけではない。
つまり指輪は人間の奴隷ではない。

まさか――

――対等な関係。

それが、指輪の望む――

(;^ω^)「!?」

途端、視界が白に包まれた。
時間が止まったような感覚。
周りは白一色だ。
己の姿さえ見えないという、奇妙な状況にブーンは叩き込まれる。



433: ◆BYUt189CYA :2006/11/21(火) 21:21:10.95 ID:9/BxHOlA0
  
(;^ω^)「これは――」

(  )「内藤ホライゾン」

(;^ω^)「き、君は……さっきの……?」

疑問に答えず、声は続く。

(  )「お前は力を欲すか?」

( ^ω^)「力……」

(  )「破壊――相手を、全てを傷つける力を欲すか?」

(#^ω^)「そ、そんな力なんていらないお!」

(  )「何故?」

(;^ω^)「ど、どういうことだお?」

(  )「力、とは本来そういうものだ。
    壊し、砕き、破り、殺め、斬り、穿ち、貫き――そして傷つけるものだろう」

(;^ω^)「……それは」

(  )「お前がやっている武道なども、そうだとは思わないか?
    自衛や他人のためと言いながら人を傷つける術を習い、実践している」

(;^ω^)「…………」



437: ◆BYUt189CYA :2006/11/21(火) 21:23:24.31 ID:9/BxHOlA0
  
(  )「力とは破壊の象徴だ。
    それを欲さずして、どう戦おうというのだ」

確かに声の言う通りだ。
力とは破壊。

しかし、と思う。
しかしと思い、そしてしかしと思った。
ブーンは自然と口を開く。

( ^ω^)「……違うお」

(  )「何がだ?」

( ^ω^)「確かに力は破壊を呼ぶかもしれないんだお」

(  )「その通りだ」

( ^ω^)「でも……でも、本当に力ってそれだけなのかお?」

そして

( ^ω^)「力って……戦い、傷つけるモノだけなのかお?」

(  )「……聞こうか」



441 名前: ◆BYUt189CYA [オーバーペニスワロタヨ] 投稿日: 2006/11/21(火) 21:26:09.21 ID:9/BxHOlA0
  
( ^ω^)「クーという女性がいるお。
      彼女はたまに悲しそうな目をしていたんだお。
      僕にはそれが何でか理解出来なかったし、今も理解してないんだお」

(  )「…………」

( ^ω^)「でも……彼女はきっと戦ってたんだと思うんだお。
      何が理由なのか解らないけど、きっと自分の中の何かと戦ってたんだお」

( ^ω^)「それに……力なんているのかお?」

(  )「心の強さという力は必要だ」

( ^ω^)「それに破壊は付加されないお」

(  )「…………」

( ^ω^)「力に定義なんて無いんだお。
      あるとすれば、それは自分で決めた覚悟なんだお。
      そしてクーはそれを見つけていないだけなんだお」

(  )「力を、か?」

( ^ω^)「それはクーにしか解らないお……理解し合える人間なんていないんだお」

(  )「力ではなく……お前は、彼女が何を望んでいると思う?」

( ^ω^)「……負けない、諦めない……そういう抗いの意思だと思うんだお」



444: ◆BYUt189CYA :2006/11/21(火) 21:29:01.29 ID:9/BxHOlA0
  
(  )「それは破壊の力ではないのか?」

( ^ω^)「負けなければ勝ちしか無いのかお?
      諦めなければ殺すしか無いのかお?
      そうじゃなくて……それは絶対じゃないんだお」

(  )「つまり……お前は何を叫び、訴え、そして謳うのだ?」

( ^ω^)「僕は――戦いたいんだお」

(  )「やはり力を欲すか」

( ^ω^)「違うお」

(  )「何がだ?」

( ^ω^)「戦いを終わらせるため――
      抗いの、そしてそのために戦う力が欲しいんだお……!」

(  )「…………」

声が途切れた。
一見すれば矛盾だらけのブーンの言葉。
この一連の意思を、この声はどう受け取ったのか。
しばらくの沈黙が流れる。



445: ◆BYUt189CYA :2006/11/21(火) 21:31:50.61 ID:9/BxHOlA0
  
( ^ω^)「…………」

(  )「内藤ホライゾン」

( ^ω^)「……何だお?」

(  )「君は……抗いたいのか?」

( ^ω^)「戦いたくて、護りたくて、抗いたいんだお」

(  )「随分と欲張りなことだな」

( ^ω^)「それを可能としてくれるのが……君なんだお?」

(  )「……気付いていたか」

( ^ω^)「力に関してあんなに詳しい問いかけ、そしてあんな質問が出来る人なんて限られてるお。
      君はずっと僕を見ていてくれたんだおね?」

ブーンはその名を口にした。

( ^ω^)「――8th−W『クレティウス』」



452: ◆BYUt189CYA :2006/11/21(火) 21:35:56.35 ID:9/BxHOlA0
  
(´・ω・`)「くっ!」

( ゚∀゚)「おいおいおい! 避けてばっかで大丈夫かよぉ!?」

回避。
回避回避回避。
横転、跳躍、そして疾走、更に回避。
そろそろ自分の体力も厳しいレベルまで達したと感じ始める。

(´・ω・`)(ブーンは――)

見る。
彼は目を瞑り、微動だにしていない。

(´・ω・`)(どうやら……指輪の真意に気付いたようだね)

しかしまだ安心は出来ない。
彼が指輪とどう言葉を交わすかによって、結果は大きく異なるだろう。

(´・ω・`)「頼むよ、ブーン……!」

呟く。
余所見をしている場合ではない。
目の前の巨鎖龍が、その身をうねらせながらも迫ってくる。
もはやそれは暴力的なまでの存在感だ。
一撃でも喰らえば即死、もしくは致命傷。
その生と死の狭間で、ショボンは走り続けている。



454: ◆BYUt189CYA :2006/11/21(火) 21:38:56.85 ID:9/BxHOlA0
  
( ゚∀゚)「いい加減ウゼェな!
     そろそろ使わせてもらうぜ!」

(´・ω・`)「奥の手、ってやつかい?
      さっさと使えば良いのに……出し惜しみする敵はやられる運命だよ?」

( ゚∀゚)「余裕ぶっこいてられんのも今の内だ!」

ジョルジュが勢いよく右手を上げた瞬間。

(´・ω・`)「!?」

割れた。
いや、分離した。
鎖龍の身体が、構成する鎖の一つ一つが、一瞬にして分離したのだ。
共に訪れるは金属の鳴り響く音。
ショボンは突然の出来事に驚く。

( ゚∀゚)「降れよ、鎖の豪雨! 全てを破砕する暴力の嵐!」

右手を一気に下げる。
途端、それを合図にしたかのように、宙に浮いていた鎖が落下を始めた。

(´・ω・`)「これは――!」

回避運動を始めるが、これは厳しい。
何しろ広範囲に渡って、メートル級の鎖が合計50近くもの群れを成して落ちてくるのだ。
一瞬の沈黙の後に響くは破壊の音。
ド、という音を重ねた衝撃の嵐が地を襲った。



457: ◆BYUt189CYA :2006/11/21(火) 21:41:53.65 ID:9/BxHOlA0
  
( ゚∀゚)「ヒャハハハハハハハハ! 死ね死ね死ねぇぇぇぇぇ!!」

狂気の笑いが響くが、それさえも鎖の落下の音にかき消される。
次々と地に墜落する鎖の群。
もはや範囲は円状数十メートルにも及ぶだろう。
それは数十秒間続いた。

後に残るは大量の砂煙。
カラカラ、と小石が崩れる音が響く。
しかし他に音も動きも無い。
ただ響くはジョルジュの狂気を表した笑い声だ。

( ゚∀゚)「ヒャハハハハ!」

限界突破を使用したというのに、未だ体力は残っているようにも見える。
ジョルジュは、クーと同じく人造人間だ。
その戦闘に対する体力と精神力は、並の人間を軽く凌駕するのであろう。

声が止み、音も止んだ。
砂煙も晴れていく。
現われたのは鎖の山。
そして――

(;´・ω・`)「う、うぅ……」

ショボンだ。
鎖の山のすぐ側、うつ伏せで倒れている。
何とか直撃は避けたものの、その衝撃によって脳と身体が麻痺を起こしているようだ。
意識はあるのか、呻き声が聞こえる。



461: ◆BYUt189CYA :2006/11/21(火) 21:44:57.17 ID:9/BxHOlA0
  
その声の元にジョルジュがゆっくりと近付いていく。

( ゚∀゚)「やーっと動き止めたか……ったく、チョロチョロすんなウゼェ」

ジョルジュが右手を上げ、握った。
瞬間、鎖の山が消滅し指輪に戻る。

( ゚∀゚)「さて、と……どう料理してくれようかねぇ?」

(;´・ω・`)「うっ!」

腹を蹴り飛ばす。
抵抗出来ないショボンは、ただただ呻くのみだ。

( ゚∀゚)「オラオラ!」

蹴り、そして蹴り、更に蹴る。

(;´・ω・`)「……うぁ」

口の端から血を流しながらショボンは身を震わせ呻く。
その姿を見て更に昂ぶったのか、蹴りは多く強くなっていく。

(;´・ω・`)「ブ、ブーン……」

( ゚∀゚)「あぁ!? 遂にお仲間に助けを求めるか!?
     情けねぇんだよ、このクソミソヤロウが!」



468: ◆BYUt189CYA :2006/11/21(火) 21:47:58.56 ID:9/BxHOlA0
  
(;´・ω・`)「違う……僕は……」

( ゚∀゚)「はぁ!?」

(;´・ω・`)「僕は……信じてるんだ――!」

( ゚∀゚)「誰を――」

瞬間、身の毛が弥立つ。
殺気――いや、これは闘気か。
ジョルジュは全身でそれを感じとった。
思わず背後を振り返る。

( ^ω^)「…………」

いる。
奴が、立っている。
ジョルジュは頬を冷や汗が一つ流れるを感じた。

(;゚∀゚)(なんだ……この気配は……?)

( ^ω^)「……ショボン」

(;´・ω・`)「やぁ……ブー、ン……」

( ^ω^)「少し待ってるお。 すぐに、すぐに終わらせるから……」

まるで朝飯前だといわんばかりの口調。
二人はジョルジュを無視して会話を続ける



472: ◆BYUt189CYA :2006/11/21(火) 21:50:41.01 ID:9/BxHOlA0
  
( ゚∀゚)「テメェ……何気に馬鹿にしてんじゃねぇよ!」

( ^ω^)「…………」

声と共に、ブーンがジョルジュの方を向く。

( ゚∀゚)「テメェとはこれで三度目だな……今度こそグシャグシャにして殺してやんぜ」

( ^ω^)「……ジョルジュ」

( ゚∀゚)「あん? 命乞いなら聞いてやんねぇぞ?」

( ^ω^)「降伏して欲しいお」

(;゚∀゚)「はぁ!? お前、馬鹿か!?
     どんだけ脳みそ腐ってんだよ!」

ジョルジュは指輪をはめた拳を向けながら

( ゚∀゚)「この指輪がある限り!
     テメェと俺様は、テメェと俺様と他の奴らは!
     絶対に避けることの出来ない戦いを強要されるんだよ!」

( ^ω^)「解ってるお……だからお願いしたんだお」

静かにブーンは言葉を紡ぐ。

( ^ω^)「出来れば戦いたくないんだお……だって――」



478: ◆BYUt189CYA :2006/11/21(火) 21:53:36.67 ID:9/BxHOlA0
  
目の色が変わる。

( ^ω^)「手加減出来そうにないから」

瞬間、発光。
ブーンの両手、白いグローブ、8th−W『クレティウス』から光が発せられる。

(;゚∀゚)「なっ――!?」

( ^ω^)「『OVER ZENITH』――!!」

更に光が増加。
キィィン、という甲高い音が辺りに響く。

『拳』を象徴するウェポンが、遂に吠えた。

まるで自分の出番を待っていたかのように。
まるで己の力をようやく発揮出来ると言いたげに。
まるで対等者と共に戦おうという意思を発しているかのように。

発光、発光、そして更に発光。

光は限界を超え、更に己の存在を示すかのように輝く。
もはやブーンの周囲は無に等しい。
白という色と、そして甲高い音がその全てを支配して――



485: ◆BYUt189CYA :2006/11/21(火) 21:55:58.55 ID:9/BxHOlA0
  
(  )「そう……私が君達が呼ぶ、『8th−W・クレティウス』だ」

( ^ω^)「本当の名前は無いのかお?」

(  )「私は私だが、しかし私ではない。
    製作者はクルト=リルロンド……そして私は彼によって作られた存在」

( ^ω^)「…………」

(  )「彼は私にこう命じた。
    『己の心が信じられる者に力を貸し、その未来を見据えろ』と。
    『その者が本当に信じられるに値するならば、言葉を交わし意思を通じ合わせろ』と」

( ^ω^)「だから……だから安易には力を貸してくれなかったんだおね?」

(  )「そうだ……そして今、私は君を信頼出来ると判断した」

( ^ω^)「嬉しいお」

(  )「その感情についてはよく解らないが、しかし……良いことではあるな?」

( ^ω^)「言う通りだお。
      だって、君と僕が信頼し合える仲になったってことだから」

(  )「君も私を信頼し、そして私も君を信頼する。
    それはとても素晴らしいことであると判断する」

( ^ω^)「僕もそう思うお!」



489: ◆BYUt189CYA :2006/11/21(火) 21:58:13.51 ID:9/BxHOlA0
  
(  )「ならば超えよう……互いの、己の限界を」

( ^ω^)「お?」

(  )「『限られた界を突き破れ』。
    それがクルト=リルロンドが組み込んだ、私への最後の命令だ。
    己と、己が決めた人間と共に、己の限界を越えろ、と。」

( ^ω^)「それは、つまり――」

(  )「さぁ、内藤ホライゾン……しばし再び語り合おう。
    そして君は――」

声は、ブーンに問いかけた。

(  )「何を、どう超えたい?」



493: ◆BYUt189CYA :2006/11/21(火) 22:02:32.52 ID:9/BxHOlA0
  
光が、止んだ。
徐々に消えていく、そして元に戻っていく景色の中……ブーンは立っていた。

( ^ω^)「…………」

もはや今までの彼は、そこにいない。

その両手に装着されたものは、グローブではなく手甲。
手の先から肘までを包んだ、長く白い、そして太い手甲だ。
見るからに頑丈そうなそれは、ブーンの両手を保護するかのように纏われている。

もはや今までの彼は、そこにいなかった。

( ^ω^)「…………」

その静かに立つブーンを、ジョルジュが嬉しそうに眺めながら

( ゚∀゚)「はっ、やっと来やがったかクソガキ。
     で……それがお前の限界突破ってヤツか?」

( ^ω^)「クレティウスは僕を理解してくれたんだお。
      そして僕もクレティウスを理解したんだお」

( ゚∀゚)「へぇ、おめでてぇな……事も頭も精神も」



497: ◆BYUt189CYA :2006/11/21(火) 22:04:52.27 ID:9/BxHOlA0
  
( ^ω^)「行くお」

瞬間、地を蹴る。
疾走。
しかしその速度は、通常の身体強化の速度と変わりはない。

――能力は何だ?

( ゚∀゚)(おそらくは打撃力強化ってところだろうな……ならば――)

鎖を振るう。

( ゚∀゚)「近付かせなけりゃいいんだよ、ボケがぁ!!」

もはやジョルジュの一部と化したともいえる鎖を、ブーンの頭部目掛けて投げる。
速度は高速。
それは一直線にブーンの元へと這った。

対しブーンは――



499: ◆BYUt189CYA :2006/11/21(火) 22:08:02.21 ID:9/BxHOlA0
  
( ^ω^)「……『強化符・脚部』展開」

走りながら呟く。
変化は直後。
ブーンの手甲の手首から肘にかけての部分から、空気の抜けるような音がしつつ、更に各部が展開していく。
内部からは、文字が書かれた紙状の何かが吹き出した。

( ゚∀゚)「なんだ……?」

紙が舞い、しかしブーンの足元へ集う。
瞬間。
発光、そして撃音と共に、一瞬でブーンの姿が消える。

(;゚∀゚)「な――」

しかし次の瞬間には目の前に――

(;゚∀゚)「――んだとぉ!?」

まるでコマ送りを見せ付けられたような光景。

慌てて鎖を引き戻すが、間に合わない。

ブーンがいた場所に残るは紙。
疾駆の衝撃を受け止めたかのように紙状の何かは広がり、遂には破れ千切れた。



508: ◆BYUt189CYA :2006/11/21(火) 22:11:08.54 ID:9/BxHOlA0
  
( ^ω^)「『強化符・腕部』展開」

言葉と共に、先ほどと同じように手甲から紙が舞う。
しかし今度は腕に集中。
途端、ブーンの腕があまりの速度に掻き消え――

( ^ω^)「ッ!!」

神速打撃。
それがジョルジュの鳩尾に直撃する。

(;゚∀゚)「ゴハァ!?」

内臓、骨、身体全てを砕かれたかのような衝撃。
ジョルジュは我慢出来ずに、その場で嘔吐した。

(;゚∀゚)「ゲハッ、ゲホッ……な、何が……!?」

( ^ω^)「これが僕なりの限界突破だお」

(;゚∀゚)「何……!?」

( ^ω^)「巨大な力はいらないから、破壊の力はいらないから
      その代わり、一瞬だけ全ての限界を超えられるようにしたんだお。
      そしてそれを……この符がやってくれるんだお」

(;゚∀゚)「符!? 全ての限界、だと!?」



511: ◆BYUt189CYA :2006/11/21(火) 22:14:28.92 ID:9/BxHOlA0
  
――限界の限界を、一瞬だけ超える。

それがブーンとクレティウスが導き出した『限界突破』だった。

限界の限界――つまり人の手が本来届かないはずの限界を進み、そしてその限界を更に超える。
それはもはや物理法則や人の意思を介さず行われる、ある意味での『未領域への一瞬』。

ブーンとクレティウスは、その一瞬を得ることを望んだ。
そこから引き出されるは人知を超えた力。

( ^ω^)「まだまだいくお!」

両手を地面と水平に上げる。
手甲から符が出現し、そして定められた位置へと舞う。
それは未領域へ干渉するための片道切符。

( ^ω^)「うぁぁぁぁぁぁぁ!!」

それらは両手に纏われるように舞った。
瞬間、発光。
そして神速の打撃。
目視すら出来ぬ一撃が、ジョルジュを襲った。

(;゚∀゚)「ぐぉぉぉ!?」

打撃は右肩を穿ち、左腕を貫いた。
あまりの衝撃に吹き飛ぶ。
砂煙を上げながら、ジョルジュが地を滑った。



517: ◆BYUt189CYA :2006/11/21(火) 22:17:23.14 ID:9/BxHOlA0
  
(;´・ω・`)「ブ、ブーン……その力は……!」

( ^ω^)「これで――これで僕は戦うんだお」

(;´・ω・`)「そんなこと言ってる場合じゃないよ!
       何て危険な方法を選んだんだ、君は……! 完全に予想GUYだよ!」

( ^ω^)「いいんだお……僕が望んだんだから」

ショボンは見た。
ブーンの右肩から一筋の血が流れているのを。

『未領域への一瞬』は、もはや人が触れて良いものではない。
一度その領域へ手を入れれば、その手が無事で帰ってくる保証はないのだから。
その証拠がブーンの右腕に現われたのだ。

(;´・ω・`)「いくら身体強化されてるからって……!」

( ^ω^)「でも、一番被害が少なくなるのは僕だお。
      これはドクオでもギコさんでも君でも無理な方法なんだお」

(´・ω・`)「何故だい……?
      君は、何故そんなにまでして、そんな力を……!」

( ^ω^)「別に力を手にした憶えは無いんだお」

(´・ω・`)「え……?」



523: ◆BYUt189CYA :2006/11/21(火) 22:20:24.87 ID:9/BxHOlA0
  
( ^ω^)「僕が手にしたのは『可能性』だお。
      クレティウスが僕に託した……大事な力なんだお」

矛盾――力を得ていないと言いながら、力を託されていると言うブーン。
ショボンは思う。

これはきっと、他人に理解出来ないのだろう、と。
これはきっと、ブーンと8th−Wの望みだろう、と。
これはきっと、彼にとって必要な力なのだろう、と。

ならば、自分はどうするべきか。
決まっている。

(´・ω・`)(己の道を進む友を支えるのが、僕の役目……)

痛む身体を無理矢理起こす。

(;^ω^)「ショボン、まだ無理は――」

(´・ω・`)「いや、いいんだ……大丈夫」

そう言うショボンの足取りは危なっかしい。
槍――5th−W『ミストラン』――で己の身体を支えながら、ゆっくりと身を上げる。

(;´・ω・`)「あの鎖の男は……?」

(;^ω^)「解らないお……でも、かなり本気でやっちゃったから……」

死には至らないが、おそらく重傷レベルまではいっているだろう、とブーンは思う。
まだ使い始めたばかりの慣れない攻撃方法なので、加減が解らないのだ。



528: ◆BYUt189CYA :2006/11/21(火) 22:22:50.84 ID:9/BxHOlA0
  
濛濛と立ち込める砂煙を見据える。

(#゚∀゚)「痛ぇ……痛ぇんだよ……!」

中から現われたのは、フラフラとこちらに向かって歩いてくるジョルジュ。
その右肩と左腕からは血が流れている。

(´・ω・`)「どうやら、まだ続きそうだね……」

(;^ω^)「何て精神力だお……普通なら激痛で――」

(#゚∀゚)「俺様を嘗めるのも大概にしとけよ、クソガキ……!
     俺様は優秀作……俺様は絶対に負けることはねぇ!」

右手を高々と上げる。
その動作のたびに出血が酷くなるが、しかしジョルジュは気にしない。

(#゚∀゚)「9th−W『ユストーン』……『OVER ZENITH』!!」

(;^ω^)「ま、まだやる気かお!?」

(#゚∀゚)「俺様が勝つまで終わりなんざねぇんだよ!!」

再びジョルジュの頭上に巨大な鎖龍が出現する。



532: ◆BYUt189CYA :2006/11/21(火) 22:25:12.03 ID:9/BxHOlA0
  
(;^ω^)「くっ……」

(´・ω・`)「慌てないで、ブーン。 狙うとすればジョルジュ本体だ」

(;^ω^)「……でも、殺したくはないんだお」

(´・ω・`)「そこまでの一撃はいらない。
      ジョルジュの精神が揺れるくらいの攻撃で充分だよ。
      そうすれば、あの鎖の龍は指輪に戻るはずだから」

(;^ω^)「わ、解ったお」

(´・ω・`)「悪いけど、僕はもう動けそうにない……一人で大丈夫かい?」

( ^ω^)「……任せるお!」

言い残し、地を蹴る。
一直線にジョルジュの立つ場所へ走る。
が、その前に鎖龍が立ち塞がった。

(#゚∀゚)「死ねッ!」

轟、と音を立てて突撃してくる鎖の塊。
対するブーンは左腕を地面と水平に上げた。

( ^ω^)「『強化符・脚部』展開――」

声と共に符が舞う。
足に集い、そして光の爆発。
次の瞬間には彼は消えており、ボロボロになった符が散らばる。



534: ◆BYUt189CYA :2006/11/21(火) 22:28:19.21 ID:9/BxHOlA0
  
(#゚∀゚)「!」

見る。
上空だ。
空高く飛んだブーンは、両手を左右に上げた格好で風を身に受けている。

(;^ω^)「ッ……」

足がジンジンと、そしてジクジクと痛む。
符で限界突破した反動だ。
しかし、そんなことを気にしている場合ではない。
狙うはジョルジュ。

( ^ω^)「『強化符・腕部』展開!」

バシュという空気の抜ける音と共に符が舞う。
それらはブーンの右手に集中した。
落下。
下方からは鎖龍がブーンを吹き飛ばそうと突撃してくるのが見える。
しかしブーンは躊躇わない。

(#^ω^)「おぉぉぉぉぉ!!」

振りかぶり、そして右手を突き出す。
鎖龍の頭部に直撃するのは同時。
強烈な発光と共に、甲高い金属音が鳴り響く。

(#゚∀゚)「!」

(;´・ω・`)「ブ、ブーン!? 僕の忠告聞いてた!?」



535: ◆BYUt189CYA :2006/11/21(火) 22:31:10.10 ID:9/BxHOlA0
  
動きが止まったと思われたその時。

ガコン、と金属が割れる音が響いた。
そしてガコン、とまたもや割れる音。
更にガコン、ガコン、と音が連鎖していく。

(;゚∀゚)「まさか――」

見る。
鎖龍の頭部から、鎖が次々と割れていく光景を。

(#^ω^)「おぉぉぉぉ!!」

右腕を突き出しながら、鎖龍の連鎖を叩き割っていくブーン。
もはやその腕は血だらけだ。
しかし彼は退くことをしない。

(#^ω^)「お――――!!」

割れる金属と共に少年の声が響く。
それはもはや獣の咆哮に近い。

(;゚∀゚)「なっ……なっ……!?」

ジョルジュが焦った声を漏らす。
それも当然だ。
己の最高の攻撃力を誇る限界突破状態のユストーンの身体が、次々と割られていくのだから。



540: ◆BYUt189CYA :2006/11/21(火) 22:33:49.09 ID:9/BxHOlA0
  
(;゚∀゚)「馬鹿な……!」

言葉と同時。
耳をつんざく破壊音と共に、鎖龍ユストーンの全ての鎖が叩き割られた。
後に残るは撒くように飛び散る銀色の破片。
そして――

(;^ω^)「ハァ……ハァ……!」

破片の山に降り立つブーンの姿。

(;゚∀゚)「じょ、冗談だろ……ありえねぇ……!」

力と力のぶつかり合いにおいて、もはや速度も巨大さも頑丈さも何もかも関係無い。
強い方が勝つ。
それが真実であり、事実だ。

(;^ω^)「ジョルジュ……!!」

(;゚∀゚)「……!」

声と共にブーンが駆け出す。
その先には、もはや戦意喪失したジョルジュが突っ立っている。



547: ◆BYUt189CYA :2006/11/21(火) 22:39:11.42 ID:9/BxHOlA0
  
(#^ω^)「うぁぁぁぁぁぁ!!」

未だ動く左手を振りかぶり――

(;゚∀゚)「う、うわぁぁぁ!?」

腰を捻り――

(#^ω^)「ッ!!」

拳を突き出した。
それは一直線にジョルジュの下顎を捉え――

(;゚∀゚)「ッッ!?」

更に吹き飛ばす。
地面を削りながら仰向けの姿勢で滑るジョルジュ。

滑走が止まる。
しかし、彼が動くことは無かった。



554: ◆BYUt189CYA :2006/11/21(火) 22:42:18.19 ID:9/BxHOlA0
  
(;^ω^)「ハァ、ハァ……!」

(´・ω・`)「ブーン……よくやったよ」

(;^ω^)「あ、ありがとうだお……」

言葉と共にブーンの身体がフラつく。

(;´・ω・`)「あ――」

ショボンが慌てて手を差し伸べるが、しかしそれは届かない。
ブーンは半ば意識を失ったまま、地にその身体を預けるように倒れた。
慌てて駈け寄る。

(;´・ω・`)「ブーン……」

意識を途絶えさせたブーンのその顔には、『満足』という表情が張り付いていた。

(´・ω・`)「良かった……本当に良かった……」

そう呟くショボン。

この瞬間、アストクルフ家で展開されていた戦闘は全てを幕を閉じる。

夜空には満天の星。
勝利者を祝福するように輝いていた。



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