( ^ω^)ブーンが戦い、川 ゚ -゚)クーが護るようです

383: ◆BYUt189CYA :2006/11/30(木) 21:18:03.77 ID:DZackYoe0
  
第二十二話 『シッパイサク』

重い瞼を開く。
入ってきた色は白だった。

川 ゚ -゚)「……う、うぅ」

身体中が痛い。
特に腹部が鈍く痛むが――

川 ゚ -゚)(そうか……)

先ほどまでの戦いを思い出す。

負けたんだ。

腹の鈍痛がそれを証明するかのように響いている。

川 ゚ -゚)「負けた、か……」

不思議と悔しみは無い。
ここに残ってから感じていた、ある種の後悔のようなモノが晴れたような気分だ。



388: ◆BYUt189CYA :2006/11/30(木) 21:22:11.89 ID:DZackYoe0
  
ふと、隣に気配を感じる。

( -ω-)「…………」

こちらに寄りかかるような姿勢でブーンが眠っていた。
というか、自分も彼に寄りかかるような姿勢だと今更ながらに気付く。

川 ゚ー゚)「…………」

ふと、苦笑が漏れた。
こんな可愛い寝顔をしている彼と、先ほどまで命のやり取りをしていたなど
まったく信じられない気分だ。

敢えて姿勢を変えず、座ったまま吐息。

沈黙。
心地良い沈黙だ。

彼の体温を側に感じることが出来、とても温かい気持ちになれる。



390: ◆BYUt189CYA :2006/11/30(木) 21:25:02.97 ID:DZackYoe0
  
川 ゚ -゚)「ん……?」

視線が下を向く。
そこには一冊の書物が置かれていた。

川 ゚ -゚)「これが……内藤の言っていたクルト博士の日記帳……」

ブーンを起こさないように慎重に体を動かして、日記を手に取る。
ズシリと重い感覚が右腕に乗った。

赤いハードカバーで、金と銀の美しい装飾が施されている。
見た感じでは日記帳には見えないのだが――



393: ◆BYUt189CYA :2006/11/30(木) 21:28:51.00 ID:DZackYoe0
  
めくる。

最初のページには、何も書かれていない。

更にめくる。

何も書いていない。

川 ゚ -゚)「?」

次々とめくっていくが、ただ真っ白なページが続くのみだ。
不思議に思うが手は止まらず――

川 ゚ -゚)「ん」

丁度、書物の中間と思われる部分でようやく文字を見つけた。

そこには――



399: ◆BYUt189CYA :2006/11/30(木) 21:31:53.88 ID:DZackYoe0
  
XXXX年 十二月三日

自分で言うのも難だが、今日の私は非常に機嫌が良い。
何しろ待ちわびていた『ルイル』が届き……そして、遂に地下研究室が完成したのだから。

これを期に私は日記を綴っていこうかと思う。
とはいえ、あまりここに詳しい事を書いていくつもりはない。
何故ならば、情報は私の頭に全て入ってるのだから。

……誰も読むわけがないのに私は何を書いているのだろうか。
まずは日記というものに慣れる必要がある。

そうだ。

どうせ誰も読まないのならばいっそのこと、この書物をキーにしても問題あるまい。



403: ◆BYUt189CYA :2006/11/30(木) 21:34:37.23 ID:DZackYoe0
  
XXXX年 十二月六日

先日の案は上手くいった。
何しろ私がキーを常に持ち歩いているのだから
私の許可どころか、同行無しでは地下研究室には入れないのだ。
これであの兄者の邪魔も入らずに研究に没頭出来るだろう。

さて、かねてから研究を続けていた
『最強生物』サンプルの完成の目途が立ってきた。
あとはリトガー辺りに任せていれば、自然と完成するはずだ。

これで体力の面は問題ない。

残るは攻撃力の面だが……向こう側から仕入れてきた『ルイル』を使おうと考えている。



406: ◆BYUt189CYA :2006/11/30(木) 21:38:46.30 ID:DZackYoe0
  
XXXX年 十二月十日

流石は『ルイル』だ。
私の開発した擬似精神とのリンクが不安だったが、すぐに適合してくれた。
あとはこれで作り出したいモノを想像して作れば良い。

何にすべきか……まだ時間はあるので焦らず考えよう。

サンプルの形が出来上がったようだ。
『女性型』『男性型』……そして『無性別型』の三種。

どれがどういった性能を発揮するのか、今から楽しみで仕方が無い。
早く結果が出ないか待ち遠しいものだ。

……こういうところに、『子供っぽい』と言われる所以があるのだろうな
少し自重せねば。



407: ◆BYUt189CYA :2006/11/30(木) 21:42:39.13 ID:DZackYoe0
  
XXXX年 十二月十四日

三種のサンプルの結果が明らかになった。

『ハインリッヒ(=向こう側の言葉で『完全』を意味するらしい)』
の名を『無性別型』につけることに決定する。

男性型もなかなかの能力値を出したので、少しは使い道があるだろう。

しかし女性型は数値的に完全な失敗だ。
まぁ、全て成功する方がおかしいので仕方ないと言えば仕方ない。
だが、このまま廃棄するのもどうだろうか……。

さて、ウェポンの方も形になってきた。

拳、剣、槍、盾、銃、翼、靴の七つを作ることにする。

『拳』で身体能力を底上げし、『剣』『槍』で近・中距離対応、『銃』で遠距離対応
そして『翼』で空をも制し、『靴』は目に見えぬ速度を生み出す……。

素晴らしいモノが出来上がりそうだ。



411: ◆BYUt189CYA :2006/11/30(木) 21:45:13.04 ID:DZackYoe0
  
XXXX年 十二月十七日

怪しい動きを感じる。

ここでは敢えて名前を出さないが……彼女はきっと『ハインリッヒ』を何かに利用しようとしている。

今は私がいるので手を出せないだろう。
しかし、その私がこの世からいなくなったり、身動きが取れなくなれば――

嫌な予感が離れない。
どうにかして対策を練らねば。



413: ◆BYUt189CYA :2006/11/30(木) 21:48:30.58 ID:DZackYoe0
  
XXXX年 十二月十四日

男性型――『ジョルジュ』と名付けた――の能力値が、やはり理想と比べて足りない。
こちらで少し手を加えて……しかし、そんなことをすれば知能の方が下がりそうだが――

……いや、やってしまおう。

どうせ完成品は『ハインリッヒ』に決定しているのだ。
しかしそうなれば、彼用のウェポンも考えねばなるまいな。

いよいよ彼女の動きが怪しさを増してきた。

だが、こちらも対策を用意し始めたことは流石に知られていないだろう。
何しろ私だけしか関与していないのだから。

む、またリトガーが私を呼んでいる。
どうせ兄者が何かやらかしたのだろうが……仕方ない、少し咎めてくるか。
続きはまた次の機会に記したい。



418: ◆BYUt189CYA :2006/11/30(木) 21:53:38.02 ID:DZackYoe0
  
XXXX年 十二月十八日

対策案は上々だ。
失敗作である女性型――『クー』と名付けた――の血液に
『ハインリッヒ』の『ある細胞』を死滅させる特殊なワクチンを混入することにしたのだ。
これで『ハインリッヒ』が彼女の手によって何らかの行動、及び暴走をさせられたとしても
クーがいれば止められるはずだ。

だから私はここに記そう。

クーは『失敗作』ではなく――『失敗策』なのだ、と。

私が何らかの理由で動きが取れない、または死亡した時。
そして『最強生物(=VIP)計画』があらゆる意味で失敗した時の後始末を
私はクーに託そうと思う。

しかし、元々廃棄予定だった彼女を生かすには理由が必要だ。
私は皆にこう説明した。

『人造人間に感情というモノが、果たして自然に付加されるのか』と。
『私が全責任を負い、彼女に人工ではない感情を生み出させてやろう』と。

まだ幼い彼女に偽りの精神を持って接するのは、少々心が痛いが――
所詮は人工生物……そう思い込むことにした。

――彼女の純粋な瞳が、とてもとても眩しかったから。



420: ◆BYUt189CYA :2006/11/30(木) 21:57:48.16 ID:DZackYoe0
  
XXXX年 十二月二十一日

ジョルジュのウェポンの件。
試作品として『斧』『書』『杖』『鎌』『鎖』『槌』の六つを作ってみた。

さて、この中からジョルジュに与えるモノは……。
最近読んだ小説からとって『鎖』のウェポンを与えよう。
こういうのは直感が大事なのだ。

クーにも専用のウェポンを作ることにした。
いつかは『ハインリッヒ』を相手にせねばならぬかもしれない運命なのだ。
それ相応のウェポンを持たせたいのだが――

そうだ。

少し生成が難しいかもしれないが『全てのウェポン能力を持つ』などはどうだろうか。
子供っぽいと思われるかもしれないが、今更研究員に何を思われても構わない。

……うむ、そうしよう。



422: ◆BYUt189CYA :2006/11/30(木) 21:59:51.24 ID:DZackYoe0
  





ここで日記が途切れている。

更にめくっていくと、走り書きで文章が書かれているページにぶつかった。






425: ◆BYUt189CYA :2006/11/30(木) 22:02:29.99 ID:DZackYoe0
  
    年  月  日

これが私の最後の日記になるだろう。
あまり続かなかったが、自分の思いを綴るというのもなかなか楽しかった。

さて。

彼女が遂に行動を開始した。
もはや私の研究は世間にバラされ、今おそらくは警察がここへ向かって来ているだろう。
研究資金を出してくれた我が友人であるミーディには申し訳ないが
ここにある全ての物を廃棄することにした。

しかし、まさか彼女が『ハインリッヒ』を狙っていた理由が対『世界交差』のためだったとは。
確実な証拠を独自で手に入れたのだろうか。

いや、『ルイル』を手に入れた経緯を考えるならば……。
もしかしたら、『世界交差』の日も近いのかもしれない。



430: ◆BYUt189CYA :2006/11/30(木) 22:05:01.43 ID:DZackYoe0
  
ウェポンは様々な場所――特に都市ニューソクを中心に――バラ撒いた。
一見すればただの指輪なので流すのに苦労は無かった。

どうせここに残していても警察に回収されるか、火事場泥棒に盗まれるだけ。
それならば地獄からで良いから、自分が作ったモノの成果・未来を見てみたい。

勝手なエゴだが、これから死を迎える私には何も恐怖を感じないのは僥倖だ。

さて……未だ時間だけはあるので、ここに今までの研究成果を記しておこう。
これを書き終われば己の命が尽きるというのは、不思議な気分がする。

……少し筆を遅めて書いてしまう自分に『恥』を感じるが。



438: ◆BYUt189CYA :2006/11/30(木) 22:07:59.64 ID:DZackYoe0
  
まず『ハインリッヒ』。
結論から言うと完成はしている。

しかし彼女の手に触れぬよう、アレは地下研究室に封印することにした。
故にこの日記も信用できる者に託すことにする。

そうだな……リトガー辺りが妥当だろう。
兄者もこの日記の意味をを知っているはずだが、彼はまだ幼い。
管理や利用、発表もリトガーに全て任せることにする。


『ジョルジュ』。
もはやサンプルとしての役割を果たしている。
研究所での記憶は一部消しておき、彼は自由にしてあげた。

クーのことを考えると……もしかしたら彼が本当の『失敗作』なのかもしれない。

しかしもはやどうでも良いだろう。
彼は知ること無く、きっとどこかで生きていくのだから。



443: ◆BYUt189CYA :2006/11/30(木) 22:11:11.63 ID:DZackYoe0
  
『クー』。
あれから五年。
彼女には、確かに感情というモノが芽生えた。
偽りの感情で接したとはいえ、少々の感動があるのは否めない。

いつか『ハインリッヒ』やウェポンを悪用する者達と相対するかもしれない彼女には
強力な対ウェポン処理を施した特殊な刀を持たせた。

きっと彼女は、『失敗策』としての役目を果たしてくれるはずだ。

今、クーは私の隣にいる。
私の左手を握り、不安そうな表情で私を見ている。
頭を撫でてやりたいが、これを書かねばならぬのでそれが叶わないのが口惜しい。

残った作業は
彼女の記憶の一部――特に私と研究所に関すること――を消し、外界に放つこと。
そして私が今懐に持っている拳銃で自分の頭を撃ち抜くこと、の二つだ。

『ハインリッヒ』が暴走しない限りは、彼女の役目もただ生きることだけとなる。
感情を得た彼女ならば、きっと幸せに生きてくれるに違いないだろう。

……私は何を書いているのやら。
あれほど人工生物だと言い聞かせていたのだがな。
まぁ、情が移った、と言い訳させてもらおうか。



449: ◆BYUt189CYA :2006/11/30(木) 22:17:00.10 ID:DZackYoe0
  
さて、これを読むこととなる人がいるのかもしれないので、最後に私の願いを記しておこう。

諸君が読んでいる時点で、『ハインリッヒ』が何者かに持ち去られ
しかもクーが誤った道を歩んでしまっているのなら……その道を正してほしい。

彼女に本来の役目を果たさせてほしい。

勝手に作り出した私が言うのはおかしいと思うかもしれない。

しかし……しかし、だ。
私のことはどんなに恨んでも、軽蔑してくれても構わないから



彼女だけはたとえ戦いの中でも、己の役目を全う出来るような『幸福の中』に生きてほしいのだ。




452: ◆BYUt189CYA :2006/11/30(木) 22:19:15.77 ID:DZackYoe0
  
川 ; -;)「…………」

白い空間。
音さえ無い空間。
そんな空間で、彼女は音を立てず涙を流す。

知ってしまった。

自分にそんな重大な役目があったことを。
自分は失敗作では無かったことを。
自分は幸せを望んでも良かったことを。

今まで自分がしていたことは、全てクルト博士に対しての裏切りであったことを。

ブーンが彼の最期の望みを叶えんとして、自分と戦ったことを。

結局、一番間違っていたのは自分だった。
自責ともいえる後悔の念が彼女の心を刺し貫く。

川 ; -;)(私が思い出した記憶は……自分にとって都合の良い部分だけだったんだ)

そんな自分勝手な理論を振りかざして戦った自分を恥じた。
そしてそれを必死で止めようとしてくれたブーンに感謝の念を憶える。



458: ◆BYUt189CYA :2006/11/30(木) 22:24:21.53 ID:DZackYoe0
  
( つω-)「うーん……カオスは駄目……合体はやめてほしいお……」

寝言を言いながらモソモソと起き上がるブーン。

川 ; -;)「内藤……」

( ^ω^)「お? クー、起きたのかお!
      ってか、何で泣いてるんだお?」

川 ; -;)「ごめんな……本当にごめんなぁ……」

(;^ω^)「ちょ! いきなり抱きつくのは反則だお!?」

と言いながらも抵抗はしない。
そんなブーンに甘えるように、クーは彼の胸に顔を埋めて泣きじゃくった。



しばらく、その場に暖かい時間が流れる――




464: ◆BYUt189CYA :2006/11/30(木) 22:27:31.53 ID:DZackYoe0
  
川 ゚ -゚)「……内藤」

( ^ω^)「おっおっ、もう大丈夫かお?」

川 ゚ -゚)「あぁ、もう平気だ……悪かったな」

( ^ω^)「いえいえ、クーが落ち着くなら何でもやったるって感じだお」

そんな彼の調子に、つい笑みがこぼれる。

川 ゚ー゚)「……君は、変わらないな」

( ^ω^)「そっちも変わったと思ってたら、全然変わってなくて安心したお」

川 ゚ -゚)「そうか? ということは全然成長していない、と?」

(;^ω^)「ちょ、そんなつもりじゃないお!」

川 ゚ー゚)「……冗談だよ」

(;^ω^)「ぐっ……やられたお」



466: ◆BYUt189CYA :2006/11/30(木) 22:30:55.88 ID:DZackYoe0
  
さて、と言いながら、クーは彼の胸から顔を剥がして腰を上げる。

川 ゚ -゚)「今、状況はどうなっているんだ?」

対し、ブーンも立ち上がりながら

( ^ω^)「多分、皆はもう先に行ったと思うお。
      僕達も急いで追いかけるお」

川 ゚ -゚)「あぁ、そうだな……『ハインリッヒ』を止めなければ」

ふと、リトガーの目的が謎のままだという事実が頭を過ぎるが
しかしクーはそれ無視した。

本人にもうすぐ会うのだから、何を想像しても無駄なのだから。

体力は、完全とはいえないが回復した。
傷は一応の手当てがしてあり、行動に支障はないようだ。

川 ゚ -゚)「君のウェポンはどうだ?」

(;^ω^)「力が半分のままみたいだお……。
      多分、これからは右腕だけに装着して戦うことになりそうだお」



467: ◆BYUt189CYA :2006/11/30(木) 22:34:50.62 ID:DZackYoe0
  
川 ゚ -゚)「すまないな……」

( ^ω^)「謝る必要はないお! この犠牲があったからこそ、君は真実を知れたんだお!」

何かをアピールするかのように、腕をブンブンと振るブーン。

川 ゚ -゚)「そう言ってもらえると助かるよ。
     私が失われた力の代わりになるから、頑張ろう」

( ^ω^)「OKだお! んじゃあ、早速行くお!」

川 ゚ -゚)「あぁ……!」

二人は駆け出す。
全ての決着の場へ。

仲間達が待つ、矛盾が存在する戦場へ。

二人はもう、離れることは――



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