( ^ω^)ブーンが戦い、川 ゚ -゚)クーが護るようです
- 12: ◆BYUt189CYA :2006/12/02(土) 21:19:52.63 ID:70z8ebax0
- 第二十四話 『夜空攻防戦 前編』
白い巨塔の屋上部。
そこでは一対九の激戦が繰り広げられている。
片方は、白いロングコートの人間だ。
白髪で長髪、そして真っ白な皮膚。
その目は爛々と赤く輝き、獲物を狩らんと鋭い視線を放っている。
対するは九人の戦士達。
各々の武器を構えて白い人間に向かっていくが、容易く弾かれていく。
白い人間――ハインリッヒの動きは異常だ。
関節を無視したかのような軌道で襲い掛かる腕。
その先から発せられる指という十本の細槍は、様々な空間を穿つ。
跳べば空まで舞い、走れば一瞬で距離を縮める強靭な脚力。
頑丈というレベルでは片付けられないほどの防御力。
そして人間の範疇を超えた反応速度と判断力。
戦況としては
素手である白い生物が、武器を持った九の人間を蹴散らすような状況。
当初のハインリッヒは、ただただ力に任せて攻撃してきていたのに対し
今現在はフェイントを織り交ぜたり、11th−W『ミシュガルド』の力を使ったりと
知能的な攻撃が見え隠れし始めている。
経験による進化だ。
- 16: ◆BYUt189CYA :2006/12/02(土) 21:23:45.00 ID:70z8ebax0
- 先頭で戦っていた二人の内の一人――ギコが忌々しそうに呟く。
( ,,゚Д゚)「ちっ……長引けば長引くほど強くなる、か」
( ・∀・)「厄介なことこの上ないね」
かつては敵同士だったこの二人。
しかし今は、互いが互いを支えあうように戦っている。
相手がどう動き、どこに走り、どうやって攻撃するか大体解っているのだ。
その即席コンビネーションは素人目に見ても完璧に近い。
彼らの傍らから援護をするのは
(´・ω・`)「腕二本に対して武器が九つ……これで隙がないってどういうこと?」
ミ,,"Д゚彡「正直言いますが、常識を当てはめたら負けかと」
ショボン、フサギコの二人だ。
ギコやモララーに比べて戦闘力が無い彼らは、二人の援護に集中していた。
リーチが長めな武器を持つので支障はない。
フサギコはウィレフェルの柄を状況によって伸縮させながら、ハインリッヒの動きを妨害する。
ショボンは――
(´・ω・`)「ほいっ」
声と共に、遠くにいるはずのハインリッヒの右足に衝撃。
何事も無かったかのように戦闘に戻る。
- 18: ◆BYUt189CYA :2006/12/02(土) 21:27:29.07 ID:70z8ebax0
- ミ,,"Д゚彡「あ、あの……ショボンさんのウェポンの能力って何なんですか?
さっきから手品じみた攻撃をなさってるようですが……」
(´・ω・`)「あれ、そういえば説明してなかったね」
悪びれた様子も無く淡々と攻撃しながら続ける。
(´・ω・`)「5th−W『ミストラン』の能力は『刺突の予約』。
指定した座標に向かって、先に刺突を仕掛けることが出来るんだ」
ミ,,"Д゚彡「それってメチャクチャ便利じゃないですか……?」
(´・ω・`)「その分ルールがあるんだけどね。
能力使った後、一定時間内に刺突した空間を突かなきゃいけないんだ。
当然と言えば当然だけど」
ミ,,"Д゚彡「つまり『攻撃』と『命中』を入れ替える、と」
(´・ω・`)「うん、そんな感じ。
一定時間内にルール守らなかったら返しが痛いけど、便利だよ」
言いつつ、攻撃を再開するショボン。
その行動をよく見てみれば、通常攻撃の中に絶妙なタイミングで
『刺突の予約』を繰り出しているのが解る。
そして、さり気なく予約回収も行っていた。
- 20: ◆BYUt189CYA :2006/12/02(土) 21:30:08.56 ID:70z8ebax0
- よくよく考えると、彼のような元一般人がギコ達と同等に戦える方がおかしい。
そういえば、あの黒い兵士を突破するときも同じようなことをしていたような気がする。
ミ,,"Д゚彡(だから彼は刺突しか使わないんですか……)
半分納得、半分出し抜かれた気分でフサギコは戦闘を再開した。
近接攻撃を仕掛ける四人の背後。
そこでは遠距離攻撃で援護するドクオと兄者――
( ゚∀゚)「喰らえやぁぁぁ!」
そして、鎖を振り回すジョルジュ。
(;'A`)「ってか、アンタの武器って完全に中距離向けじゃないのか?
ショボンやフサギコさんに混ざって攻撃してろよ……」
(;゚∀゚)「あの急降下攻撃くらってみろ……。
鎖で絡めとるとかもうヤダヤダ! って言いたくなるくらいトラウマになるぞ」
臆病者が二人と
(;´_ゝ`)「あ、もうページがない……さっき貫かれたんだった」
真面目なのか阿呆なのか解らぬ男が一人。
この三人で構成される後方援護は――
('A`)「……こちら後方戦線、もう駄目っぽい」
gdgdだった。
- 25: ◆BYUt189CYA :2006/12/02(土) 21:33:54.42 ID:70z8ebax0
- 从 ゚∀从「ヒャヒヒヒ! オモシロイ!」
ハインリッヒが心底嬉しそうに言葉を発した。
それは片言に近い稚拙な発音だが
(;,,゚Д゚)「おい、とうとう喋り始めたぞ……!」
( ・∀・)「ふむ、知能がだいぶ育ってきているようだね」
从 ゚∀从「アー……」
ふと、ハインリッヒが空を見上げた。
三日月が不気味に浮かぶ、満天の星空。
( ,,゚Д゚)「何を見ている……?」
その目線の先には夜空を飛翔する影。
橙色の翼を羽ばたかせるしぃだ。
从 ゚∀从「オソラ……ハネ……」
( ・∀・)「ははは、日本語の勉強をしている時間は無いよ?」
言いながら鉄槌を振りかぶって接近するモララー。
踏み込み、その鉄の塊を腹部目掛けて――
( ・∀・)「!?」
振り抜く。
それはつまり、対象に当たらなかったということで――
- 27: ◆BYUt189CYA :2006/12/02(土) 21:36:19.06 ID:70z8ebax0
- (;´・ω・`)「消えた? まさかミシュガルド……!?」
ミ,,"Д゚彡「上です!!」
フサギコの鋭い声に、全員が空を見る。
从 ゚∀从「オソラ! カゼ! キモチイイ!」
(;,,゚Д゚)「なっ――!?」
翼。
白い両翼がハインリッヒの背から生えている。
しかし羽は散らない。
翼だと思われたのは、翼の形をした肉の塊だ。
しかし飛翔したのは事実。
モララーの一撃をかわしたまま、その速度を保ちつつ上昇する。
その先にはしぃがいるはずだ。
(;,,゚Д゚)「しぃ!!」
彼女の名を叫びつつ、グラニードを構えるギコ。
それを押される動きがあった。
( ・∀・)「限界突破はやめたまえよ、ギコ君。
一時の感情に囚われチャンスを失うのは愚者がすることだ」
(;,,゚Д゚)「だが……だが、あの化け物が!」
- 29: ◆BYUt189CYA :2006/12/02(土) 21:39:44.63 ID:70z8ebax0
- 二人の元に、翼を羽ばたかせる音が近付いてくる。
光翼を背に生やしたしぃだ。
彼女は地上ギリギリへ降下すると、ギコの元へ近付いていく。
(*゚ー゚)「ギコ君」
( ,,゚Д゚)「しぃ、お前は地上にいろ!」
(*゚ー゚)「ううん、駄目だよ。 あのまま放っておけば、私達は上空からの攻撃にさらされちゃう。
だから誰かが、あの翼を奪わなきゃいけない。
『空はアナタのモノではない』と教えなきゃいけないの」
( ,,゚Д゚)「だが、お前がしなくても――」
(*゚ー゚)「ううん、それも駄目。
これは私にしか出来なくて、そして逃げるわけにもいかないから」
( ,,゚Д゚)「しぃ……」
(*゚ー゚)「……お願いがあるんだけど、いいかな?
それを叶えてくれたら、絶対に私は負けないよ」
( ,,゚Д゚)「願い……それは……?」
(*゚ー゚)「私の名前を呼んで」
(;,,゚Д゚)「ず、随分と変な願いだな……」
(*゚ー゚)「それは自分でも解ってるよ。 解ってはいるけど……お願いさせて、ギコ君」
- 33: ◆BYUt189CYA :2006/12/02(土) 21:42:53.48 ID:70z8ebax0
- 少しの沈黙。
顔を赤くして悩んだギコは、途切れ途切れにその名を口にした。
(*,,゚Д゚)「……し、ぃ」
(*゚ー゚)「うん」
( ,,゚Д゚)「……しぃ」
(*゚ー゚)「うん」
( ,,゚Д゚)「しぃ……!」
(*゚ー゚)「うん!」
( ,,゚Д゚)「……これで、いいか?」
(*゚ー゚)「大丈夫……二回も余計に呼んでもらったから」
羽ばたき。
身を再び上空へと送り始める。
(*゚ー゚)「――いってくるね」
飛翔。
しぃの姿がみるみるうちに夜空へと同化していく。
高速――その速度を以って、白い化け物と相対するために。
彼女の戦いが始まる。
- 37: ◆BYUt189CYA :2006/12/02(土) 21:44:49.40 ID:70z8ebax0
- 巨大床式エレベーター内。
( ^ω^)「おっ、あと少しで屋上だお」
川 ゚ -゚)「そうだな……」
二人で見上げる。
重々しい音と共に天井が左右に割れていくのが見えた。
あの先に果たして何があるのか――
川 ゚ -゚)「……行こう、内藤」
( ^ω^)「把握!」
自然と二人は手を繋ぐ。
まるで意思を連結させるかのように。
互いの指にはまった指輪を絡ませるかのように、その手は硬く握られていた。
- 42: ◆BYUt189CYA :2006/12/02(土) 21:46:51.42 ID:70z8ebax0
- 風。
闇。
そして、微かな光。
それが場を支配していた。
戦場の名は夜空。
風が舞い、重力が支配し、そして『一部の者』が自由を得られる場だ。
『一部の者』に入る条件は一つ。
翼を持つこと。
(*゚ー゚)「…………」
彼女は無言で飛翔していた。
風をその身に受け、背に生やした橙色の光翼を羽ばたかせながら。
その視線の先には白の色。
肉の翼――偽物の翼を得た、白き化け物。
アレは空を得て良い者ではない。
墜とせ。
奴に空を自由にさせるな。
背中と同化した翼の意思が彼女の頭に響く。
だから彼女は答えた。
(*゚ー゚)「解ってる……空は自由だけど、決して勝手にして良いわけがない」
- 49: ◆BYUt189CYA :2006/12/02(土) 21:49:02.12 ID:70z8ebax0
- 轟、という音が耳を刺激する。
風の中を切り裂くように飛翔。
速度は高速だ。
从 ゚∀从「――!」
ハインリッヒがこちらに気付いた。
だが、遅い。
意思と同時、鉄鋼の骨格が展開しつつ橙色に輝く光の翼が開いていく。
(*゚ー゚)「ッ!」
すれ違い様に、羽片を大量に叩き込んだ。
連続した打撃音に似た音が背後から響くが、すぐに遠のいて聞こえなくなる。
- 51: ◆BYUt189CYA :2006/12/02(土) 21:51:41.06 ID:70z8ebax0
- (*゚ー゚)「流石に今のでは――」
振り返る。
数百メートル先の空で濛濛と煙が満ちているが
从 ゚∀从「ヒャヒヒヒヒヒ!」
突き破りながら現われるのはほぼ無傷のハインリッヒ。
(*゚ー゚)「やっぱり無理よね……」
それを確認したしぃは、ハインリッヒから逃れるような軌道で飛翔を始めた。
追うハインリッヒ。
逃げるしぃ。
高速の攻防が始まった。
- 57: ◆BYUt189CYA :2006/12/02(土) 21:53:26.14 ID:70z8ebax0
- ( ^ω^)「皆、大丈夫かお!? 僕達が加勢するお!」
エレベーターが屋上へ着いた途端発した言葉はそれだ。
しかし彼の声は、隣にいるクー以外の耳に届くことはなかった。
(;^ω^)「あ、あれ? 妙に静かなのは何でだお?」
川 ゚ -゚)「何やらよく解らんが、あそこに集まっているぞ」
クーの細く綺麗な指が指す先には、八人の人影が集まっている。
それも巨塔の淵部分だ。
ブーン達に背を向けるように、つまり塔の外側を向いて座っていたり立っていたりしている。
( ^ω^)「何か、随分と余裕っぽいお」
川 ゚ -゚)「まさか倒したのか……?」
疑問を憶えつつ、その人影の方向へ歩いていく。
( ^ω^)「おいすー」
('A`)「おぉ、ブーン! もう歩いたりして平気なのか?」
( ^ω^)「元気百倍だお!」
(´・ω・`)「彼女が隣にいるから、かな?」
(*^ω^)「おっおっ」
川 ゚ -゚)「?」
- 62: ◆BYUt189CYA :2006/12/02(土) 21:55:07.53 ID:70z8ebax0
- ( ・∀・)「さて、再会の挨拶はそこまでにしよう。
内藤君、クー君……君達に現状を説明する」
やけに重々しく口を開いたモララー。
その雰囲気を読み取ったのかブーンは笑顔を止め、クーは真っ直ぐとモララーの目を見た。
先ほどまで戦って得た情報や事象を伝えていく。
( ・∀・)「結論から言えば、未だ『ハインリッヒ』は存命だ」
川 ゚ -゚)「それにしては姿が見えないようだが」
( ・∀・)「ここにはいないからね」
( ^ω^)「ここ、には? じゃあ何処にいるんだお?」
( ・∀・)「あの方角の空を見たまえ」
モララーが身体をその場から退けながら、夜空のある方向を指差した。
( ^ω^)「お?」
屋上の淵に近付きながら見る。
- 70: ◆BYUt189CYA :2006/12/02(土) 21:56:57.75 ID:70z8ebax0
- 月下。
見えるのは色の移動。
黒い背景の上を、橙色と白色が動いている。
一見すれば夜空の星が勝手に動き出したような光景。
川 ゚ -゚)「あれは――」
気付く。
(;^ω^)「しぃさん、かお……? しかも戦ってる!?」
ミ,,"Д゚彡「空を飛び始めた敵の飛行手段を奪うために、彼女一人で。
今さっき、モララーさんが地上にいる兵隊達に援護を要請してましたが……」
(;'A`)「こっちからも一応撃ってるけど、速すぎて当たらねぇ」
ドクオが、ガロンを伏せた状態で構えたまま言う。
(;^ω^)「ギ、ギコさん……」
見ればギコは一人、夜空で展開される戦闘を鋭い目つきで睨んでいた。
己の愛する人が危機だというのに、何も出来ない自分のことを許せないのだろうか。
(´・ω・`)「今、彼に話しかけたら殴られるよ。
それより何とかハインリッヒの翼を奪う手段を考えなきゃ……」
- 76: ◆BYUt189CYA :2006/12/02(土) 21:59:07.73 ID:70z8ebax0
- その言葉に、それまで黙っていたクーが口を開いた。
川 ゚ -゚)「私で良ければ行こうか」
ミ,,"Д゚彡「え?」
( ^ω^)「あ、そうだお!
クーの14th−W『ハンレ』は全てのウェポンの能力を保有してるんだお!
だからしぃさんの翼だって使えるはずだお!」
( ・∀・)「何だねそのハッピーな反則ウェポンは……。
まぁいい、行けると言うのならば行動で示してもらおうか」
川 ゚ -゚)「お前が内藤の言っていた変人か……見て驚け」
( ・∀・)「内藤君、後で話がある。 楽しみにしていたまえ」
(;^ω^)「……ナンテコッタイ」
クーが指輪を掲げる。
まず光と共に現われたのはクリアカラーの刀だ。
そして二度目の変化。
強烈な光の後に現われたのは――
( ^ω^)「おぉ……」
クリアカラーの翼を背負ったクーだ。
元々スリムな身体に、美人といえる顔を持つ彼女が翼を持った光景は
黒いロングコートと相成り墜天使を想像させる。
- 81: ◆BYUt189CYA :2006/12/02(土) 22:02:25.84 ID:70z8ebax0
- 川 ゚ -゚)「では、行ってくる」
鈴を打ち鳴らすような美しい音と共に、彼女の身が浮き始め
川 ゚ -゚)「ッ!」
飛翔。
羽ばたき一つで長距離を一瞬の内に無にする。
速度は、しぃとまではいかないが高速だ。
( ,,゚Д゚)「……頼むぞ」
ギコが小さく呟く。
それを耳に入れたのは、モララーだけだった。
( ・∀・)(やれやれ……素直に言えば良いものを)
(;^ω^)「おっ、そういえば僕もすることが無くなったお……」
(´・ω・`)「とりあえず、この時間は怪我の治療と体力、ウェポンの回復にあてよう。
きっと彼女達はハインリッヒをここまで連れ戻してくれるはずだよ」
( ゚∀゚)「あ〜腹減ったなぁ、誰か食い物持ってねぇか?」
ユストーンを指輪に戻しながらのん気に発言したジョルジュ。
その彼をぶん殴ろうとして暴れるギコを取り押さえるのは、その直後であった。
- 89: ◆BYUt189CYA :2006/12/02(土) 22:04:38.46 ID:70z8ebax0
- 下方の戦場。
いや、もはや戦場ではない。
敵がいない場所を、戦いが起こっていない場所を戦場とは呼ばない。
そんな場所で、モララーの通信を受けた兵士達がざわめいていた。
「おー、あれか……でも、どうやって援護しろってんだ?」
「とりあえず撃ちまくるとか?」
「しぃさんに当たったらどうすんだよ、ボケ」
「おい、馬鹿部下共! ヘリとか戦闘機とか考えは色々あんだろうよ!
さっさと準備しろ!」
「じゃ、とりあえず俺は応援係で」
「あー、じゃあ俺は祈る係」
「てめぇら死ね!」
「おわぁぁぁ、それ実弾! 実弾ッスよ! アッー!!」
- 93: ◆BYUt189CYA :2006/12/02(土) 22:06:41.03 ID:70z8ebax0
- 夜空。
冬特有の冷たい空気が身を裂くような感覚。
その中で二つの色が飛翔している。
橙色の翼と、白色の翼だ。
(*゚ー゚)「速い……」
チラリを背後を伺う。
从 ゚∀从「ヒヒヒヒヒ!!」
奇声を上げながら近付いてくるのはハインリッヒだ。
先ほどから追われるばかりで攻撃される気配は無い。
(*゚ー゚)(接近戦しか出来ないの……?)
飛翔しながら考える。
とりあえず、翼を奪うにはどうすればよいか。
単純に力で?ぎ取るのが一番早いだろう。
しかし、それだけでは駄目だ。
(*゚ー゚)(ハインリッヒに空の恐怖を与えないと――)
二度と空を舞いたくはないと思わせない限りは、翼を奪ってもまた飛翔手段を考えるだろう。
特に今のハインリッヒは思考が幼い。
ここで恐怖を叩き込めば、それは後の思考に多大な影響を与えるということだ。
逆を言えば叩き込まない限り、ハインリッヒは飛翔に固執し続けるだろう。
- 96: ◆BYUt189CYA :2006/12/02(土) 22:08:38.25 ID:70z8ebax0
- 自分がやらねば、地上で待っている彼らには戦うチャンスすらない。
速度を上げる。
自分以上の速度を持つと思わせるのも有効な手段の一つだろう。
そういった小さな一つ一つの手段を積み重ね、ハインリッヒの飛翔の意思を奪い取る。
从 ゚∀从「ヒィィィヒヒヒヒ!!」
背後から奇声。
見ればハインリッヒがその両腕をこちらに向ける瞬間だった。
(*゚ー゚)(腕か指が来る――!)
思考と動きは同時。
十本の白槍がしぃ目掛けて発射された。
それだけではない。
(;*゚ー゚)(翼!?)
ハインリッヒを身を空へ飛ばす役割を担っていた肉の翼から
幾重にも触手のような槍が発射される。
指との数を合わせれば、もはや数えることの出来ない数の白槍の群。
それらがたった一人の女性に向かって襲い掛かった。
- 100: ◆BYUt189CYA :2006/12/02(土) 22:10:18.27 ID:70z8ebax0
- クーはそれを少し遠目から確認する。
川 ゚ -゚)「性質が悪い……アレを喰らえば生きて逃げられる確率も――」
少ない、と言い掛けた時だ。
見る。
もはや夜空を埋め尽くさんという勢いで展開される白の線から逃れるように
橙色の光が高速で動いているのを。
川 ゚ -゚)「……何故、撃墜されない?」
疑問。
思考は幼いが、戦闘に関しては最強を誇るハインリッヒの攻撃が
蛇のように追尾しているというのに、しぃは飛行を止めず回避している。
追われつつも、攻撃を浴びながらも、墜ちない。
一撃でも身に受ければバランスを失い、串刺しにされるというのに。
- 104: ◆BYUt189CYA :2006/12/02(土) 22:12:32.79 ID:70z8ebax0
- 川 ゚ -゚)「どうやら度胸と判断力はあるようだな……私も行くか」
己の血を浴びせれば、ハインリッヒは死滅すると日記に書いてあった。
しかし空を飛んでいる相手では、どうしても回避されやすい。
そもそも近付くのが不可能な状況だ。
やはり、一度地上へ降ろす必要がある。
思い、速度を上げた。
今、ハインリッヒはしぃに意識が向いている。
背後からの一撃は有効なはずだ。
ハインリッヒの後から近付くように、クーは夜空を進んでいった。
- 109: ◆BYUt189CYA :2006/12/02(土) 22:15:12.90 ID:70z8ebax0
- しぃは避け続けていた。
無数の白槍に追われ、追尾され、執拗な攻撃をされながらも行動をやめない。
ハインリッヒの蛇のような攻撃に対し、しぃは数々の回避を選択する。
風音が耳を劈き視界が白に覆われかけるが、それに捉えられないように速度を上げ続ける。
今、しぃが持つ攻撃手段は三つ。
ウェポン能力である羽片。
モララーから貸してもらったマシンガン。
そして護身用に持ってきていた小型ナイフ。
どれもハインリッヒに対しての攻撃力はイマイチだ。
――ならば、限界突破を使うか?
翼から意思が届く。
しかし、しぃは首を振った。
限界突破は最後の手段。
ハインリッヒを倒すため時のために、力は残しておかねばならない。
今、やるべきことは翼を奪うこと。
- 114: ◆BYUt189CYA :2006/12/02(土) 22:17:32.64 ID:70z8ebax0
- (*゚ー゚)「!」
腰に吊ってあったマシンガンを手に取り、背後へ向けた。
トリガーを引く。
連続した射撃音と振動が腕に響く。
共に飛び出すのは高速の弾丸だ。
目視では捉えきれない速度の弾が、ハインリッヒに牙を剥いた
しかしそれは効果を生み出さない。
硬質化したハインリッヒの皮膚は弾丸を通さなかった。
ただただ火花が弾けるだけ。
(*゚ー゚)(でも、目くらましくらいには……)
思い、弾装を交換したマシンガンを腰に戻す。
羽片もマシンガンも効かない状況で、小型ナイフを試す気は起きない。
さて、どうするか。
そう思った時だ。
从 ゚∀从「ヒ!?」
驚きの声が背後から響いた。
振り向く。
川 ゚ -゚)「ッ……!」
クーがハインリッヒの背に乗り、刃を突き立てていた。
しかしその刃は思い通りの結果を生まず、クーはそのまま揺すられた背から落ちる。
- 119: ◆BYUt189CYA :2006/12/02(土) 22:20:31.87 ID:70z8ebax0
- (*゚ー゚)「クーさん!?」
川 ゚ -゚)「問題ない」
声と同時。
刀が消えたと思った瞬間には、彼女の背にクリアカラーの翼が生えていた。
(*゚ー゚)「それは……」
川 ゚ -゚)「詳しい話は後だ。
とりあえず奴の翼を奪い取る方法を考えるぞ」
共に並んで飛翔しながら言葉を交わす。
とは言え方法は皆無に等しい。
様々な攻撃は効かず、それでいて攻撃は激しい。
時間を掛ければ掛けるほど不利になっていく状況だ。
川 ゚ -゚)「ん?」
その時だ。
前方から幾つかの明かりが見える。
星光ではない。
あれは――
(*゚ー゚)「戦闘機と、ヘリ……?」
- 122: ◆BYUt189CYA :2006/12/02(土) 22:23:04.45 ID:70z8ebax0
- 声と同時に、しぃの持っている通信機から音が発せられる。
『こちらFC社が誇る対多空間飛行戦闘機「エレビス」を駆る航空戦闘部隊!
モララー社長からの御命令で援護に参りました!』
(;*゚ー゚)「は、はぁ……」
『オラ、行くぞ野郎共! あの化け物を破壊するんだ!』
『はは、隊長って女性相手だと口が軽くなるよなぁ』
『テメェから撃墜してもいいんだが?』
『はははははは、隊長ったら冗談が上手い――』
通信が突如として途切れる。
(;*゚ー゚)(まさか本当に味方を……)
川 ゚ -゚)「気を逸らすな」
(*゚ー゚)「は、はい」
風を切り裂く音が聞こえる。
前方から高速で迫るのは、通信を送ってきた戦闘機「エレビス」だ。
その数は四機。
内の一機の機体各部に何故か弾痕があるが、気にしては負けだ。
- 128: ◆BYUt189CYA :2006/12/02(土) 22:25:02.71 ID:70z8ebax0
- 『フォーメーションG展開! すれ違い様に叩き込め!!』
『ちょwwwフォーメーションGktkr!wwwwww』
『すっげぇや! フォーメーションGって聞いたことねぇよ!
今時ガキでもそんなこと言わねぇよ!』
『黙れ、ボケが!! 「すれ違い様に叩き込め」って言っただろ!!』
一瞬でしぃ達とすれ違う。
その先には白い翼を持ったハインリッヒだ。
『おうおう、のんびり飛びやがって! やっちまえ!!』
『OK、隊長! いつも通り撃墜した奴が奢りな!』
『いつも通りってwww初めて聞いたwwwしかも撃墜した奴が奢るのかよwwwwww』
緊張感の欠片も無い会話が展開される中、各機の翼から小型ミサイルが順次発射される。
合計十二のミサイルがハインリッヒの元へ高速で向かう。
爆発。
ハインリッヒに直撃したのと、戦闘機「エレビス」がすれ違ったのは同時だ。
- 136: ◆BYUt189CYA :2006/12/02(土) 22:28:26.39 ID:70z8ebax0
- 『イィィィヤッホォォォォ!! 次回もFCクオリティに期待しやがれぇぇぇ!!』
『なぁなぁ、俺の当たった? 見えなかったんだけどwwww』
『ってか、片方の翼が何か調子悪いのは何故?』
『テメェら口だけは一人前か! さっさと状況確認しろ!!』
四機の戦闘機が散り散りに展開する。
一旦夜空に昇っていき、しぃ達に向かって方向転換。
『――こちら後方支援を受け持った「支援野郎」だ! まだ化け物は墜ちてない!!』
戦場で少し離れた場所で情報を解析するヘリから通信が入る。
『あぁ? ミサイル喰らって生きてる奴とかいんのか!?』
『生きてるならウマー棒十万円分買って、ネットでうpしてやるよwwwww』
- 140: ◆BYUt189CYA :2006/12/02(土) 22:30:05.29 ID:70z8ebax0
- 一旦、沈黙が入る。
ザザ、というノイズが少し入った直後
『おい……お前、ウマー棒ちゃんとうpしろよ』
川 ゚ -゚)「やはりこれくらいでは駄目か……」
背後を見る。
火炎と煙の中で、ハインリッヒは未だ人の形を保っていた。
从 ゚∀从「ヒヒ……」
相変わらずの笑みだ。
『はン、化け物は化け物らしく頑丈ってわけかい……』
『ビビるな! モララー社長の言葉を忘れたか!?
効かないように見えて、実はしっかり効いてんだよ!』
『目に見えない結果、か……あまり精神衛生上よくないな』
『ってかwwww十万円とか持ってませんwww誰か貸してwwwww』
通信がうるさい。
クーがジェスチャーで『通信機破壊しろ』としぃに送るが
慌ててしぃは首を振る。
- 149: ◆BYUt189CYA :2006/12/02(土) 22:32:19.79 ID:70z8ebax0
- その時。
『おいおいおい! 化け物が動いた! っつか、何か触手っぽいの出したぞ!』
見れば、先ほどしぃに向けて発していた攻撃を再度ハインリッヒが仕掛けているところだった。
その白槍は、今度は四機の「エレビス」に向かっている。
『なんだありゃ? 当たったらやべぇのか!?』
『やべぇから攻撃してきてんだろうが! 回避しろ!』
『戦闘機に適うわけねぇだろうがぁぁぁぁぁぁ!!!』
轟音共に戦闘機の速度が爆発的に上がる。
四機はそれぞれの方向へ散っていき――
『このままウマー棒買ってくるってのはどうよwwwwwwww』
妙な言葉を残して言葉が切れる。
どうやら通信範囲からも逃れてしまったらしい。
『あの馬鹿共……逃げただけじゃないか!?』
今だ戦域に残るヘリから怒号が聞こえる。
川 ゚ -゚)「ミサイルも駄目か……これは骨が折れそうだ」
未だ白槍を伸ばし続けているハインリッヒを見ながら、クーが呟いた。
- 153: ◆BYUt189CYA :2006/12/02(土) 22:35:16.65 ID:70z8ebax0
- 『おい、しぃさんとやら……聞こえるか?』
(*゚ー゚)「あ、はい」
『今、ちょっと色んなトコに相談してみたんだがな……。
話を総合すると、あの野郎の身体をバラバラにするには
ちょっとした核並の威力が必要みたいなんだ』
(;*゚ー゚)「か、核ですか!?」
『でもまぁ、流石に使うわけにはいかな――あ、やべ、持ってるの言ってしまった。
これ社長には秘密な!
んで、代わりの物を用意するよう手配したんだが――』
(;*゚ー゚)「は、はぁ……」
『これが制限キツくてな。
だからそれまでの時間稼ぎと、座標範囲からの脱出を防いでほしい』
彼が言うには、その核並の攻撃力を持つ代物は
入力した座標へ向けて発射するモノで、自動追尾機能を持ってない。
- 158: ◆BYUt189CYA :2006/12/02(土) 22:36:52.16 ID:70z8ebax0
- というわけで
しぃとクー、そして地上に残った兵士と援護ヘリ、そして先ほど逃げた「エルビス」四機で
時間稼ぎと指定座標範囲からハインリッヒが出ないようにしなければならない。
10分前後。
それが、最速で準備と到着に掛かる時間。
川 ゚ -゚)「限界突破も使えない今、それに頼るのが正解か」
『殺せるまでには至らないかもしれんが、かなりのダメージは期待出来る』
とりあえずの信頼性はありそうだ。
小さな望みに賭け、
空飛ぶ女神達とそれを援護する兵士は戦闘態勢に入った。
- 164: ◆BYUt189CYA :2006/12/02(土) 22:38:37.98 ID:70z8ebax0
- ( ・∀・)「アレを使うのかね……」
通信機を耳に当て、モララーは少しの溜息を吐く。
『いや、ぶっちゃけミサイルとかじゃ無理ですよ。
相手の頑丈さは言葉じゃ説明出来ません』
( ・∀・)「まぁ、それはこちらも承知だが……ふむ……」
珍しく彼は決断しかねていた。
アレは現状、数は一つ。
そして作るのに莫大な費用が掛かる。
先月やっと材料が集まり、完成させたものだ。
( ・∀・)「まぁ、しかし……この時のために作っていたと自分を納得させるかね。
いいだろう、思う存分やりたまえよ。
だが、座標設定は私たちの真上にしたまえ」
『真上、ですか……?
そんなことしたら、社長達にも被害が――』
( ・∀・)「こちらはこちらで何とかする手段がある。
そちらはそちらの仕事をしたまえ」
- 168: ◆BYUt189CYA :2006/12/02(土) 22:40:45.99 ID:70z8ebax0
- 『は、はい、了解です』
通信が切れる。
( ・∀・)「やれやれ……」
ミ,,"Д゚彡「今のは?」
( ・∀・)「いや、ただの部下の催促だよ。
二人の空飛ぶ女神を助けるために『神の裁き』を使わせてほしい、と」
(´・ω・`)「?」
( ・∀・)「威力ゆえにやたら金が掛かったのだがね。
まぁ……これで彼女達が助かり、奴を地上へ叩き落すことが出来るのならば
諦めもつくだろう」
夜空を見上げた。
二対の天使と戦闘用ヘリが、白い化け物が戦いを繰り広げている。
- 177: ◆BYUt189CYA :2006/12/02(土) 22:42:30.30 ID:70z8ebax0
- 残り時間は、まだ9分を切っていない。
( ・∀・)「さて、あと10分前後でハインリッヒがここまで降りてくるはずだ。
諸君らもあまり気を抜き過ぎず、しっかりと待ち構えておくように」
(*゚∀゚)「うめぇ! モララーの会社の軍用食うめぇ!!」
(*^ω^)「ちょうどお腹空いてたから良かったお!」
(*´_ゝ`)「俺、FC社に入ろうかと思うんだがどうよ!?」
( ・∀・)「いや、兄者君は絶対に我が社に不利益になるようなことをしてくれるので却下」
そんな賑やかな場から少し離れた場所。
そこには二つの人影。
(;'A`)「あー、当たるわけねぇよ……距離遠すぎだよ」
と言いつつも律儀に射撃し続けるドクオと
( ,,゚Д゚)「…………」
相変わらず戦場を睨むギコ。
その右拳は固く握られている。
(;'A`)(っつか、今攻撃やめたらギコさんに殴られそうだしなぁ……)
何とも不純な動機で攻撃を続ける。
- 185: ◆BYUt189CYA :2006/12/02(土) 22:44:39.71 ID:70z8ebax0
- ( ,,゚Д゚)(しぃ……)
未だ敵は夜空を舞い、女神二人とその支援者達がそれを墜とそうと戦っている。
( ,,゚Д゚)(……情けない)
残り10分前後。
それだけの時間、己は待たなくてはならない。
ギリ、と音を立て拳が握られる。
その隙間からは少々の血が流れ出て――
( ・∀・)「そんなに力まなくても良いではないかね。
残り9分……君はその憤怒を敵に向けるよう、ベクトルを調整したまえよ」
いつの間にかモララーが背後にいた。
( ,,゚Д゚)「……お前は神出鬼没か」
( ・∀・)「ははは、営業内容が内容だけに気配を消して歩くのが癖になっていてね」
( ,,゚Д゚)「……殴られたくないのなら、離れていろ」
- 190: ◆BYUt189CYA :2006/12/02(土) 22:46:25.43 ID:70z8ebax0
- ( ・∀・)「そうもいかない。
仲間が怒りに狂い掛けているのを放っておいて良いわけがないよ。
少し私と話でもして気を紛らわすのはどうかね?」
( ,,゚Д゚)「お前とか……最悪だな」
( ・∀・)「褒め言葉と受け取っておこう」
二人並んで夜空の戦場を見上げる。
白色を中心に、橙色の光と透明色の光が高速で動き回る。
時たま、白色が白い線状の物体を放射線状に発射し、それをそれぞれの光が避けていった。
未だ戦場は固定されている。
その手の届かぬ戦場を見上げながら、ギコは歯噛みした。
( ,,゚Д゚)(しぃ……)
( ・∀・)(この男の惚れっぷり……とんでもないようだね、まったく)
片方は己の怒りを抑え――
片方は呆れの感情を籠め――
二人の、同じ音で違う内容の溜息が白い巨塔の屋上に流れていった。
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