( ^ω^)ブーンが戦い、川 ゚ -゚)クーが護るようです

5: ◆BYUt189CYA :佐賀暦2006年,2006/11/07(佐賀県警察) 21:52:35.01 ID:ojnZUBWN0
  
第六話 『折れた心』

ニューソク高校。
今日は月曜日だ。
学校は普段の喧騒に溢れている。
そんな中、2−Aの教室では二人の男子が熱い議論を展開していた。

( ^ω^)「いや、だから掛け声は『○○―W・××、発動!!』がいいお!
      もちろん、両手で構えてブワーって!」

('A`)「それなんてヒーロー?
    それよりも『発動……○○―W・××!』の方がよくね?
    片手を掲げてさ、クールに決める感じで」

(;^ω^)「むむむ……!」

(;'A`)「ぬぬぬ……!」

睨み合う両者。
言うまでもないが、ウェポン発動時の掛け声議論だ。
クーが言うには『掛け声などいらん』そうなのだが。

ξ゚听)ξ「アンタら……何の話してんの?」

完全に話についていけないツンが口を挟む。



6: ◆BYUt189CYA :佐賀暦2006年,2006/11/07(佐賀県警察) 21:54:51.36 ID:ojnZUBWN0
  
( ^ω^)「これは男のプライドをかけた戦いだお!
      略してプラ戦!」

('A`)「なんかプラモで戦うみてぇだな。
    昔そんな漫画あってさぁ――」

( ^ω^)「あ、それ好きだったお!」

('A`)「お、気が合うな、俺もだ」

話が方向転換を始める。

ξ゚听)ξ「意味解んないわ……」

彼女は呆れ果て、隣のクラスへ行ってしまった。
気付かず、二人の議論は続く。

( ^ω^)「いや、だから僕はWの方が――」

('A`)「評価低いけどX好きだぜ、俺。
    あと色物だけどGガンも――」

(#^ω^)「弱い奴がうろうろするなぁ!」

(;'A`)「あのさ、なんで殴りかかってくるの?
    そもそも自分の好きなの語るのって自由だろ、常識的に考えて――」



8: ◆BYUt189CYA :佐賀暦2006年,2006/11/07(佐賀県警察) 21:57:41.05 ID:ojnZUBWN0
  
クーは公園にいた。
ブーン達が学校へ行っている間、ぶっちゃけると暇だからだ。
警戒するために学校へ一緒に付いて行くとも言ったのだが、黒コートでは目立ちすぎるとブーンに断られたのだ。

川 ゚ -゚)「ふむ……」

ふと、腹を撫でる。
昨日の傷はようやく塞がった。
ブーン達は今朝の今朝まで心配していたが
服をたくし上げて塞がった傷跡を見せたら納得をしたようだった。

(*'A`)「いい腹してんじゃねぇかよぉ、クーさんよぉ」

などと言っていたドクオの顔面を蹴り飛ばしたのは、正解だったのだろうか。
何故かいきなり蹴る気が湧いてきたのだが、これはかりそめの女としての佐賀か。

ブーンは素直に塞がった傷を感心してみていた。
治癒時間が異常に速い理由については、いつか必ず話そうと思う。
腹をマジマジと見ていたブーンが、ふとすぐに気付いて顔が赤くなっていたのは可愛かった。
が、それ以上に、自分を女性として見てくれた二人には感謝している。

川 ゚ -゚)(私は所詮、失敗作……だが……)

なんだろう、この気持ちは。
人間が、普通の人間がひどく羨ましい。
今までそんなこと考えもしなかったのに。



9: ◆BYUt189CYA :佐賀暦2006年,2006/11/07(佐賀県警察) 22:00:34.52 ID:ojnZUBWN0
  
その時だ。

川 ゚ -゚)「む」

辺りに『Information High』が響き出す。
ごめんね、作者の趣味でごめんね。

彼女は黒いコートの内ポケットから、黒い携帯電話を取り出す。
通話ボタンを押し、耳に当てる。

川 ゚ -゚)「……もしもし?」

( ,,゚Д゚)『お、この番号でやっぱ合ってたか。
     俺だ、俺。 牙猫と言ったら解るか?』

川 ゚ -゚)「……何故、貴様が私の携帯の番号を?」

( ,,゚Д゚)『なに、腕の良い情報屋がいてな。
     まぁ、そんなことはどうでもいい』

川 ゚ -゚)「……いいのか」

( ,,゚Д゚)『お前達に、一つ頼みごとがあるんだ』

川 ゚ -゚)「ほぅ、出鱈目に強い貴様が弱い私達に頼み、か。
     それは面白いな、ハハハ」



10: ◆BYUt189CYA :佐賀暦2006年,2006/11/07(佐賀県警察) 22:02:39.70 ID:ojnZUBWN0
  
( ,,゚Д゚)『……何かトゲを感じるんだが、気のせいか?』

川 ゚ -゚)「気にするな。
     で、その頼みごととは?」

( ,,゚Д゚)『13th−Wの所在が判明した。
     至急、お前達に回収に向かって欲しい』

川 ゚ -゚)「貴様が行けば良かろうに」

( ,,゚Д゚)『行けたら行っている。
     行けないから、こうしてお前達に頼んでいる』

川 ゚ -゚)「……それは本当に確実な情報か?」

( ,,゚Д゚)『嘘は嫌いだ』

川 ゚ -゚)「……仕方ない、不甲斐ない貴様の代わりに私が行ってやろう。
     別に貴様のためではないから、勘違いするな」

(;,,゚Д゚)『それ、違う奴の言う台詞じゃないか?
     確かツンデ――』

通話終了。
携帯電話を折りたたみ、懐へしまう。



12: ◆BYUt189CYA :佐賀暦2006年,2006/11/07(佐賀県警察) 22:05:14.61 ID:ojnZUBWN0
  
数秒後に、また着信音が鳴り出す。

川 ゚ -゚)「しつこい男だ」

(;,,゚Д゚)『場所も聞かずに何処へ行くつもりだ』

川 ゚ -゚)「早く言わない貴様が悪い」

( ,,゚Д゚)『……理不尽さを感じるが、まぁいい。
     場所は『ニューソク総合病院』だ』

川 ゚ -゚)「病院……?」

( ,,゚Д゚)『そこに反応があったのは確かだ。
     悪いが、真相を確かめ、存在していれば回収を頼む』

川 ゚ -゚)「……解った」



15: ◆BYUt189CYA :佐賀暦2006年,2006/11/07(佐賀県警察) 22:08:13.11 ID:ojnZUBWN0
  
携帯電話をしまい、クーは少しの間黙考した。
病院。
彼女が、頑なに行くのを拒む場所。

川 ゚ -゚)(……ブーン達と一緒に行くべきか)

いや、彼らが帰ってくるまで、まだだいぶ時間がある。
その間に『VIP』の刺客が13th−Wを狙うとも限らない。

しかし黙って行くのも悪いので、ブーンの携帯にメールをしておく。

川 ゚ -゚)「行くか……」

彼女は公園を出、ニューソク総合病院へ向かった。



16: ◆BYUt189CYA :佐賀暦2006年,2006/11/07(佐賀県警察) 22:10:34.68 ID:ojnZUBWN0
  
学校。
昼休み。
弁当を食べているブーンの携帯が震えた。

( ^ω^)「お?」

取り出し、画面を見る。
クーからのメールだ。

('A`)「おー、彼女からメールかよ、おめでてーな」

ξ;゚听)ξ「彼女!? 彼女って何!?」

(;'A`)「あっ! おま! 机揺らすから俺のオニギリ落ちたぞ!?」

(;^ω^)
「か、彼女じゃないお!
      ただの大切な人なんだお!」

ξ;゚听)ξ「大切な人ぉぉぉぉぉ!?」

('A`)「3秒ルール、3秒ルール……」



18: ◆BYUt189CYA :佐賀暦2006年,2006/11/07(佐賀県警察) 22:13:28.72 ID:ojnZUBWN0
  
ξ゚听)ξ「ちょっと、そのメール見せて!」

(;^ω^)「あ、あう!」

送信者:クー
件名:無し
本文:大事な用件で、病院へ行くことになった。
    あとで来れれば来てほしい。
    君にとっても、大切なことだ。

ξ゚听)ξ「びょ、病院……」

( ^ω^)「お?」

ξ;゚听)ξ「いつの間にそんな関係にぃぃぃぃ!?」

(;'A`)「あ、やっぱコレ駄目だったわ、腹痛ぇ。
     ちょっとトイレ逝ってくる」



20: ◆BYUt189CYA :佐賀暦2006年,2006/11/07(佐賀県警察) 22:15:47.71 ID:ojnZUBWN0
  
ニューソク総合病院。
都市ニューソクにある、大きな病院だ。
設備も人員も充実しており、ニューソクで怪我や病気をしたらまずはここ、といった感じだ。
その入り口に、怪しい黒い影。
クーだ。
ロータリーに立つ柱の影に隠れ、何やら思考している。

川 ゚ -゚)「……やはりこういう施設は嫌いだ」

人間の身体をイジるような、そんな施設。
クーにとっては研究所も病院も似たようなイメージだった。
失敗作と罵られ、捨てられた過去。
今では白い床や天井、薬品の匂いだけでも、気分が悪くなるほどだった。

川;゚ -゚)「……行くぞ」

人知れず覚悟を決め、自動ドアをくぐる。
まず目に入るのはロビーだ。
診察待ちの病人や怪我人が、椅子に座って順番を待っている。
が、クーはそれには見向きもしない。



23: ◆BYUt189CYA :佐賀暦2006年,2006/11/07(佐賀県警察) 22:17:51.99 ID:ojnZUBWN0
  
ギコは『病院に13th−Wがある』と言った。
つまり、今日昨日来たような病人が指輪を持っているわけがない。
持っているとすれば、医師関係者か――

川 ゚ -゚)「入院患者、か」

確率的には後者の方が高いだろう。
常時病院にいるのだから。

歩く。
目指すは3階以上。
入院患者の病室は3階から6階。
クーの捜索が始まった。



24: ◆BYUt189CYA :佐賀暦2006年,2006/11/07(佐賀県警察) 22:20:06.70 ID:ojnZUBWN0
  
その病院の屋上。
誰もいないはずのそこに、人影が二つ。
ローブを羽織った老人と、巨躯の男。

/ ,' 3「ふむ……」

(゜∈゜)「…………」

/ ,' 3「さてさて、失敗作が入ったようだが……どう思うかね?」

(゜∈゜)「…………」

/ ,' 3「クックル、これを見るといい」

一枚の資料を、クックルと呼ばれた男に見せる。

内容は『13th−W』の詳細だった。
指輪の色、発動後の形態、能力――
それらが詳細に記された、クルト博士の遺す資料だった。



26: ◆BYUt189CYA :佐賀暦2006年,2006/11/07(佐賀県警察) 22:22:15.54 ID:ojnZUBWN0
  
/ ,' 3「どう思う?」

(゜∈゜)「…………」

しばらく資料を見ていたクックルは、ふと荒巻に背を向ける。
行く先は屋上からの出口である階下への扉だ。

/ ,' 3「どうやら気に入ったようじゃの」

ふ、と口を歪める。

/ ,' 3「死者はいくつ出るか……。
    賭けをしたいところじゃが、相手がおらんのが寂しいのぉ」

老人の独り言は、屋上に吹く風に流され消えていった。



27: ◆BYUt189CYA :佐賀暦2006年,2006/11/07(佐賀県警察) 22:24:43.66 ID:ojnZUBWN0
  
白い廊下をクーは歩いていた。

13th−Wを探す方法は至極簡単。
一人一人の腕を取り、指輪がはめられていないか見て、指輪を持っていないか問いだす。
実に地道で原始的な作業だ。
しかも完全に不審者。

だが、仕方の無いことだった。
クーはウェポンを持っていないので、共鳴反応で探すことは出来ない。

川 ゚ -゚)「ふぅ……次は5階か」

階段へ向かう。
エレベータを使うのは嫌だった。
昔の記憶が蘇ってしまうから。

5階へ辿り着く。

川 ゚ -゚)「ん……?」

階段の出口に、少年がいた。
まだ小学生くらいだろうか。
だが、少年にしては不似合いな寂しげな表情で、壁に背を付け立っている。



28: ◆BYUt189CYA :佐賀暦2006年,2006/11/07(佐賀県警察) 22:27:24.48 ID:ojnZUBWN0
  
(=゚ω゚)「…………」

川 ゚ -゚)「…………」

お互い、目が合うが言葉は無い。
ふと、少年の手に目がいった。
指輪。
緑色に輝くそれは、ブーンやドクオのものと同じ形状だ。

川;゚ -゚)「少年、それは……」

慌てて近付く。
子供とはあまり接したことが無いので不安だったが、とりあえず話しかける。

(=゚ω゚)「?」

純粋な目をしている。
クーは思う。

自分とは違う。
濁ってなんかいない、綺麗な目だ。



29: ◆BYUt189CYA :佐賀暦2006年,2006/11/07(佐賀県警察) 22:30:43.00 ID:ojnZUBWN0
  
つい目を奪われかけたクーだが、気を取り直して会話を開始する。

川 ゚ -゚)「君は、ここの病院で?」

(=゚ω゚)「うん、入院してるよぅ」

川 ゚ -゚)「そうか……ところで、その指輪は?」

(=゚ω゚)「父ちゃんがくれた、大切なモノなんだよぅ。
     これを指にはめてれば、どんな手術だって怖くなくなるんだよぅ」

嬉しそうに語りだす少年。
どうやら話し相手が欲しかったらしい。

川 ゚ -゚)「少年、君の手は――」

気付く。
指輪をしている手とは逆の手。
その手首から先が、全て包帯で覆われている。

(=゚ω゚)「車に轢かれたんだよぅ。
     それで、指が全部取れちゃったんだよぅ」

痛々しく包帯を巻かれた腕を、クーに見せる少年。



34: ◆BYUt189CYA :佐賀暦2006年,2006/11/07(佐賀県警察) 22:33:02.61 ID:ojnZUBWN0
  
川 ゚ -゚)「そうか……大変だったろう」

クーは自然と少年の頭を撫でた。
少年はくすぐったそうに、しかし嬉しそうに目を細める。

(=゚ω゚)「お姉ちゃん、いい人なんだよぅ」

川 ゚ -゚)「私が……?」

(=゚ω゚)「皆、僕のこと呪われてるって言うんだよぅ。
     僕の身の周りには、悪魔がいるんだよぅ」

少し悲しげに言う。
もう諦めてしまっているような、そんな声色だ。

川 ゚ -゚)「悪魔……」

(=゚ω゚)「母ちゃんは、僕が生まれた時に死んじゃったんだよぅ。
     友達のタケちゃんも、シホちゃんも、僕と遊んでたら事故に遭っちゃったんだよぅ」

川 ゚ -゚)「それが、悪魔の仕業……だと?」

(=゚ω゚)「皆そう言ってるよぅ」



35: ◆BYUt189CYA :佐賀暦2006年,2006/11/07(佐賀県警察) 22:35:41.46 ID:ojnZUBWN0
  
でも、と少年は付け加えた。

(=゚ω゚)「父ちゃんは、そんなこと言わないんだよぅ。
     この指輪を渡して、『頑張ってくれ』って言ってくれたんだよぅ」

川 ゚ -゚)「そうか……良い父親なのだな」

(=゚ω゚)「仕事が忙しいって言ってて、もう一ヶ月くらい会ってないけど
     僕、寂しいなんて言わないよぅ。
     この指輪があれば、全然平気なんだよぅ」

川 ゚ -゚)「え……」

父親が、一ヶ月も子供を放置している……?
いくら仕事が忙しくても、それは――

川 ゚ -゚)「…………」

(=゚ω゚)「どうしたんだよぅ?」

川 ゚ -゚)「……いや、何でもないさ」

嫌な想像が頭を駆け巡る。
おそらく、当たっているのだろう。



37: ◆BYUt189CYA :佐賀暦2006年,2006/11/07(佐賀県警察) 22:39:28.71 ID:ojnZUBWN0
  
クーは、そんな嫌な結論を吹き飛ばすように話を続けた。

川 ゚ -゚)「ここでは何だ、君の病室へ行こう。
     もっと話を聞かせてくれないか」

(=゚ω゚)「いいよぅ!」

嬉しそうにクーの手を握る少年。
その温かい感触に、つい彼女は目を細める。
これは――

懐かしい?

川 ゚ -゚)「……?」

ふと記憶が蘇りそうになる。
何か、大切な記憶が……。
しかし、それはすぐに頭の奥へ失せてしまった。

川 ゚ -゚)(なんだ、今の感情は……?)

疑問に思うが答えは無い。
彼女は諦め、少年と共に歩いていった。



38: ◆BYUt189CYA :佐賀暦2006年,2006/11/07(佐賀県警察) 22:41:51.77 ID:ojnZUBWN0
  
ニューソク総合病院6階。
そこにクックルはいた。
ドスドスと音を立て歩く姿は、もはや人間とは言いがたい。
彼の無表情な目は、何かを探すようにキョロキョロと動き回る。
その様子を妙だと受け取ったのか、白衣を着た中年の医師が話しかけてきた。

「君、どうしたのかね?
 どこか具合でも悪いのかね?」

(゜∈゜)「…………」

クックル
は何も語らない。
相変わらず、その目はギョロギョロと忙しなく動いている。

「……?
 君、聞いているのかね?」

医師が男に触れようとした。
その時だ。

ゴキリ

何か硬い物を無理にへし折った音が響く。
見れば、医師の差し出した右手がありえない方向を向いていた。



40: ◆BYUt189CYA :佐賀暦2006年,2006/11/07(佐賀県警察) 22:44:29.42 ID:ojnZUBWN0
  
「う、う、うあぁぁぁぁぁぁ!?」

続いて襲い掛かってくる激痛に、医師は廊下に伏せ、悶え苦しんだ。

その頭部に、足。
グシャリという水音と破砕の音が重なり、またもやありえない音が響いた。
頭部を失った医師がビクビクと身体を痙攣させ、そして動かなくなる。

(゜∈゜)「…………」

「き、きゃあぁぁぁぁぁぁ!?」

見ていた看護士の女性が叫んだ。
それを契機に、クックルが走り出す。

ニューソク総合病院6階。
阿鼻叫喚の地獄が始まった。



43: ◆BYUt189CYA :佐賀暦2006年,2006/11/07(佐賀県警察) 22:46:45.90 ID:ojnZUBWN0
  
その叫び声を、クーは5階の病室で聞いた。

川 ゚ -゚)「今のは……?」

(=゚ω゚)「な、何だよぅ、今の声は……」

心配そうにつぶやく少年――名はイヨウというらしい――をベッドに残し
クーは廊下の様子を見に行く。
廊下では、他の病室の人達も心配そうな顔で様子を伺っていた。
クーがその内の一人を捕まえ、話を聞こうとしたときだ。

川 ゚ -゚)「!?」

廊下の最奥。
その影から何かが飛び出してきた。
人の形をしていたそれは、糸の切れた操り人形のように転がり地に伏せる。
その後から、巨躯の男が出てきた。
両腕を血で真っ赤に染めた男。

ゾクリ、とクーの背中に悪寒が走った。

川;゚ -゚)「まさか――」



44: ◆BYUt189CYA :佐賀暦2006年,2006/11/07(佐賀県警察) 22:49:14.75 ID:ojnZUBWN0
  
この時期。
このタイミング。
この状況。

川;゚ -゚)「くそっ!」

大男目掛けて走り出す。

ここで止めねば、少年の命が危ない。

コートに隠し持っていた刀を取り出し、疾駆する。
巨躯の男が気付いた。
ギョロリと両目をこちらに向けてくる。
腕を上げた。
来る。

川 ゚ -゚)「ッ!」

男の直前でブレーキ。
その停止エネルギーを逸らし、巨躯の男の真横へ飛ぶ。



45: ◆BYUt189CYA :佐賀暦2006年,2006/11/07(佐賀県警察) 22:51:43.67 ID:ojnZUBWN0
  
川 ゚ -゚)「はっ!」

己の元へ上げられた太い腕を切断――

川;゚ -゚)「!?」

出来ない。
刃は皮膚を切れはしたが、筋肉と骨はそれを通さなかった。

川;゚ -゚)「な、何だと……!?」

刀を引き、距離をとる。

(゜∈゜)「…………」

男は傷口を見つめていた。
浅く裂かれたその皮膚からは、少しばかりの血が流れ出ている。
しばらくそれを眺めていたと思えば、彼はその傷口に顔を近づけた。
舐める。
ベロリ、と。
実に美味しそうに。

川;゚ -゚)「……こいつ」



47: ◆BYUt189CYA :佐賀暦2006年,2006/11/07(佐賀県警察) 22:54:02.62 ID:ojnZUBWN0
  
先日の戦いが思い出される。
高速移動を用いる、ナイフ使いの女。
彼女も血を欲していた。
ジョルジュといい彼女といい、どうやら『VIP』にはそんな狂人が集まっているらしい。

(=゚ω゚)「お姉ちゃん……?」

少し離れた場所から少年の声。
見れば、イヨウが病室から心配そうに顔を覗かせていた。

川;゚ -゚)「来るな――ッ!?」

気付く。
病室の扉に、イヨウの手が掛けられている。
指輪がはめられている手を。

(゜∈゜)「…………」

まずい。
気付かれた。
そう思った瞬間には、巨躯の男は走り出していた。
目指すは少年。
いや、少年の指に光る緑色の指輪だ。



48: ◆BYUt189CYA :佐賀暦2006年,2006/11/07(佐賀県警察) 22:56:28.13 ID:ojnZUBWN0
  
数瞬遅れてクーも走り出す。

(=゚ω゚)「う、うわぁ……!」

向かってくる巨躯の男を見て怯えるイヨウ。
だが、先に辿り着いたのはクーだった。
幸運にも、クックルの足はそれほど速くは無い。
走りながらイヨウを脇に抱え、更に駆け出す。

(=゚ω゚)「お、お姉ちゃん……!」

川 ゚ -゚)「少し揺れるぞ、我慢しろ!」

階下へ向かう階段を駆け下りる。
目指すは一階だ。
外へ逃げれば、何とか逃げ切れるかもしれない。

瞬間、轟音。
頭上から、大量の破片が降り注ぐ。

川;゚ -゚)「っ!?」

(=゚ω゚)「うわぁぁ!?」

慌てて退避。
クーが先ほどまでいた場所に、クックルの巨体が降り立った。



49: ◆BYUt189CYA :佐賀暦2006年,2006/11/07(佐賀県警察) 22:58:46.06 ID:ojnZUBWN0
  
川;゚ -゚)「階段を無視か……非常識な」

だが、このままではまずい。
イヨウを抱えたまま戦うなど、愚の骨頂だ。
結果は二人の死。
それだけは絶対に避けねばならない。

イヨウの指輪が目に入る。
これが奴の狙っているもの。
これを私が持っていれば、イヨウが狙われることは無くなる。
そうだ、私がこれを――

――父ちゃんがくれた、大切なモノなんだよぅ。

川;゚ -゚)「ッ……」

指輪に伸ばした手が止まる。

駄目だ。

何が?

取るんだ。
私が囮になれば、この少年は助かる。
取れ。
取るんだ。



51: ◆BYUt189CYA :佐賀暦2006年,2006/11/07(佐賀県警察) 23:02:33.95 ID:ojnZUBWN0
  
川;゚ -゚)「……う」

動かない。
理性では解っていても、腕が動かない。
この少年から、指輪を奪うなんて――

出来ない。
したくない。

(=゚ω゚)「お姉ちゃん……?」

甘い、甘すぎる。
最低だ。
最低で最悪だ。
この状況で何を考えている?
何を甘ったれたことを考えている?
私は、どうすれば――

(=゚ω゚)「お姉ちゃん!」

イヨウの言葉で我に返る。
目の前の巨躯の男が、腕を振りかぶっていた。

川;゚ -゚)「チッ!」

跳躍――破壊された階段を飛び、更に駆け下りる。



53: ◆BYUt189CYA :佐賀暦2006年,2006/11/07(佐賀県警察) 23:05:21.69 ID:ojnZUBWN0
  
背後からは力の塊が迫ってくる。

(=゚ω゚)「怖いよぅ……」

脇に抱えられたイヨウが、泣きながらつぶやく。

川;゚ -゚)(くそっ……!!)

最悪だ。
この少年に、こんな怖い思いまでさせて。

私は何を――何を躊躇う!
指輪を取るだけだ!
取って少年を安全な場所に隠し、私が囮になればいい!
この少年だけは死なせたくない!

だが

駄目、だ。
奪えない。
偽りとはいえ、唯一の父親との接点。
私が勝手に奪っていい物じゃない。
ならば聞くか?
説明するか?
それだけの時間と余裕はあるのか?



55: ◆BYUt189CYA :佐賀暦2006年,2006/11/07(佐賀県警察) 23:07:40.48 ID:ojnZUBWN0
  
――否。

背後からは、あの男が迫ってきている。
止まっている暇などない。

どうする?
どうする!?

一階に辿り着いた。

息を弾ませ、走る。
周りの看護士や病人達が怪訝な顔でこちらを見るが、知ったことではない。
早く出口から外へ――



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