('A`)ハッピーバースデイ川 ゚ -゚)マイベイビーのようです

1: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/04/17(金) 22:22:30.27 ID:AwlTAfNMO
川 ゚ -゚) 「赤ちゃんができたんだ」


彼女のその言葉を聞いたのはもう何度目かもわからないほど通った居酒屋での座敷だった。
僕は食べようと箸で挟んでいたホッケをポロリ、と服の上にこぼした。
なんとか箸で挟み直そうとしたがうまくいかなかったので手で掴んでしまった。
僕は心の中で僕を生かすために体を開かれたホッケにいただきます、と呟いた。


('A`) 「それは」


かろうじて出てきた言葉だ。
居酒屋特有の騒がしさの中で伝わるかどうか不安だったのだが。
目の前の彼女はコクン、と相槌を打ったので聞こえてはいるらしい。


('A`) 「僕の子?」


その刹那、僕の頭は彼女のデコピンの衝撃でのけぞらされた。



3: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/04/17(金) 22:27:32.94 ID:AwlTAfNMO
川 ゚ -゚)「今のは些か傷付く」

('A`)「待て待て。僕はちゃんと避妊をしたぞ」


それは事実だった。
心配性な父親は僕が中学生の時から避妊の大切さを説いていたのだ。
実際にその話が役に立ったのは10年ばかり後だったが。


川 ゚ -゚)「いくらコンドームが優秀な避妊具とはいえ100%ではない」

('A`)「100%でなければ避妊具をつける意味が無いじゃないか」



5: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/04/17(金) 22:32:57.20 ID:AwlTAfNMO
避妊具とは、という禅問答が頭を駆け巡る。
いくら思いを巡らせようと得られる答えは「所詮避妊具は避妊具」ということだけだが。


川 ゚ -゚)「妊娠3ヶ月だそうだ」

('A`)「3ヶ月……前」


僕はその報告を受け、背筋がピンと張った。
自分は慎重に慎重を期すタイプだ。目の前の女性に「石橋を叩いて壊す」と評されたこともある。
そんな自分がもしかしたら一生に一回かもしれない程のはっちゃけぶりを見せた時があった。



7: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/04/17(金) 22:37:28.81 ID:AwlTAfNMO
川 ゚ -゚)「思い出したか」

('A`)「ああ、ああ」


なんとなく居心地が悪くなる。
目の前の生中を飲み干す。なんだか砂の味がした。
とりあえず店主を呼び、さほど呑みたくもない冷酒をオーダーする。
きっと運ばれてくる冷酒も砂の味がするだろう。


川 ゚ -゚)「3ヶ月前、君は私と居酒屋へ出かけた」

('A`)「おい、実況する気か」

川 ゚ -゚)「もちろんだ」


できることなら思い出したくない記憶ではあるのだが。



11: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/04/17(金) 22:43:27.07 ID:AwlTAfNMO
川 ゚ -゚)「あの日君は生中2杯、チューハイ3杯、カルアミルクを4杯飲んだ」

('A`)「……」


運ばれてきた冷酒をちびりとなめる。
砂の味どころか何の味もなかった。
居酒屋の喧騒もやたら遠くに聞こえる。


川 ゚ -゚)「案の定君は酔いに酔った。ベロベロベロシティーだ」

('A`)「そのネタはイマイチだ」


やっとクーに口を挟める時が来た。
自分も人のことを言えるほどユーモアセンスがあるわけではないが。


川 ゚ -゚)「君は自分で立てない程だったな」

('A`)「無視か」

川 ゚ -゚)「うるさい」



15: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/04/17(金) 22:47:30.44 ID:AwlTAfNMO
川 ゚ -゚)「私は君に肩を貸した。君は鼻息が荒かった」

('A`)「いい匂いがすれば嗅ぐのは当たり前だ」


自分は特に匂いフェチというわけではないが、クーの匂いは正に舐め回したい匂いだった。
シャンプーは同じ物を使っているはずなのだがなにか圧倒的な差がそこにはあった。


川 ゚ -゚)「私は君を引きずり引きずり家まで到達した」

('A`)「引きずったのか」

川 ゚ -゚)「言葉のあやだ」



19: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/04/17(金) 22:53:31.94 ID:AwlTAfNMO
川 ゚ -゚)「私は鍵を開け中に入りまた鍵を閉めた」

('A`)「僕も入れてくれたんだ」

川 ゚ -゚)「どれだけ途中で捨てようとしたか」


口ではそんなことを言いつつも決して酷いことはしない。
僕はそんなクーを愛おしく思っていた。
思っていたのだが。もちろん今も思っているのだが。


川 ゚ -゚)「そして部屋に入って電気をつけたとき」

('A`)「……」

川 ゚ -゚)「君は私を押し倒した。息が酒臭かった」

('A`)「悪かったよ」



24: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/04/17(金) 23:00:21.97 ID:AwlTAfNMO
川 ゚ -゚)「勘違いするな。嫌だった訳ではない。嫌なら同棲などしないさ」

('A`)「でも僕たちの行為はいつだって合意の上だった」

川 ゚ -゚)「私は君が望むとあらばな」

('A`)「恥ずかしいことを言うな」


こんな会話をしていると段々思い出してきた。
そういえば行為の時はいつも電気が消えていた。
電気がついた上でクーの裸を見たのは初めてだった。もっと目に焼き付けておくべきだった。



26: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/04/17(金) 23:05:14.08 ID:AwlTAfNMO
川 ゚ -゚)「で、まあ鼻息が荒かった君は世界一優秀な避妊具を着けないまま行為に及んだ」

('A`)「その結果が」

川 ゚ -゚)「どう見てもご懐妊です」

('A`)「本当にありがとうございます……はあ」


思わずため息をつく。
その行為をクーは目ざとく突っついてきた。


川 ゚ -゚)「なにをため息をついている」

('A`)「だってさ、どうするんだよ」


居酒屋の喧騒が騒がしい。
しかし喧騒は店の外からも聞こえる。
どうせいつものことだ。
今更気にかけるまでもない。



31: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/04/17(金) 23:10:52.70 ID:AwlTAfNMO
('A`)「世界はもう終わるのに」







――たとえ明日世界が終わるとしても、私はリンゴの樹を植える

(コンスタンチン・ゲオルギー 作家)






('A`)ハッピーバースデー 川 ゚ -゚)マイベイビー のようです



37: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/04/17(金) 23:16:22.04 ID:AwlTAfNMO
世界が終わる。
経済が破綻するとか、そういう比喩的なものではない。

四年後、この星に小惑星が激突する。
この星がようやっと平和に向かった時にこの知らせが舞い込んできた。
本当に世界はよくできている。


川 ゚ -゚)「終わらないかもしれない」

('A`)「終わるさ。悲観的になってるんじゃない。小惑星の観測に何台のPCが使われていると思う?」

川 ゚ -゚)「そんなのはわからない。コンドームと一緒だ。100%ではない」

('A`)「星を賭けた観測とコンドームを同列にするか」


ぼくはくつくつと笑った。


川 ゚ -゚)「似たような物さ」


彼女も、クスリと笑った。



42: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/04/17(金) 23:20:58.74 ID:AwlTAfNMO
その日は、結局結論が出なかった。
居酒屋の暖簾から外に出ると少し肌寒い風が肌をなぞる。
もう9月も半ばである。
世界は終わっても季節は巡る。


('A`)「どうしたいんだ」


帰る道すがら、これだけを聞いた。
これだけははっきりさせたかったからである。


川 ゚ -゚)「産みたいさ」


即答だった。



49: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/04/17(金) 23:27:03.24 ID:AwlTAfNMO
('A`)「……というわけなんだ」


クーの報告を受けてから2日後、僕は他の女性と会っていた。
彼女は僕の所属していた会社の上司だった女性である。
上司とはいえ年も近い彼女とは公私ともに仲がいい関係だった。
そんな彼女にクーのことで相談を持ちかけた。


('、`*川「バカじゃないの」

('A`)「どっちが?」

('、`*川「どっちもよ」


そういって彼女は煙草をふかした。
河川敷に座り込んでいるため煙はこないが煙草を吸う女性はどうにも居心地が悪い。



52: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/04/17(金) 23:32:36.82 ID:AwlTAfNMO
('A`)「煙草は体に悪いよ」

('、`*川「隕石が衝突するのとどっちが体に悪いかしらね」

('A`)「隕石じゃなくて小惑星だ」


特に意味のない訂正を入れる。


('、`*川「同じでしょ。梯子と脚立の違いぐらい矮小でどうでもいいことよ」


彼女の論理は至って正常だった。
空から落ちてくる物が隕石だろうが小惑星だろうがETだろうが世界が終わるのは間違いない。


('A`)「話を戻そう」

('、`*川「責任、10:10」

('A`)「まだ何も言ってない」



57: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/04/17(金) 23:37:54.62 ID:AwlTAfNMO
('、`*川「あんたの言うことはわかってんのよ。すぐに物事を数字にしたがる」


むう、と僕は思った。


('A`)「むう」


('、`*川「ゴムなしでヤルあんたも生もうとする彼女も」

('A`)「女性はヤルなんて言わない方が」


僕がそう言うと彼女はふん、と鼻を鳴らしてまた煙草を吸った。
呼び出しておいてなかなか本題に入ろうとしない僕にイラついているのかもしれない。



59: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/04/17(金) 23:43:58.58 ID:AwlTAfNMO
('A`)「やっぱり、おかしいかな」

('、`*川「おかしいよ」


彼女は煙草の煙をぽわぽわと口から出しながら何の気なしに言い放った。


('、`*川「今から生んだとしても子供は四年も生きられない。あんた、3歳の時のこと、覚えてるの?」

('A`)「いや、保母さんのおっぱいを触ったことぐらいしか覚えてないな」

('、`*川「でしょ? どうせ生んだってしょうがないわよ。そんなの、自己満足よ」

('A`)「……」


彼女の言うことはいつだって正論だ。
向き合いたくない真実に人を向き合わせる力がある。



69: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/04/17(金) 23:59:47.49 ID:AwlTAfNMO
上司と別れ河川敷を歩く。
会社はさっきの上司とともに辞めてしまった。
遺伝子の研究をする会社はやりがいのある環境ではあったが、さすがに世界の終わりまで続けようとは思わなかった。


('A`)「あー……何しよう」


しかしやることが無いというのも退屈なものだ。
河川敷を歩いてはいるが人とはすれ違わない。
まだ日が高く昇っている時間にも関わらず、である。



74: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/04/18(土) 00:05:44.60 ID:skfTn6s9O
今でこそ少し落ち着いたが、小惑星の件が発表された直後は酷い物だった。
まず人々は誤報の可能性を考えた。
あらゆる証拠でその可能性が抹消されたとき、人々が起こした行動はそれぞれだった。

自殺するもの。
やけになり命を奪い始めるもの。
悲観に暮れるもの。
「自分は死なない」と根拠なく信じるもの。
いつもと変わらぬ生活を送るもの。
精神錯乱に陥ったもの。



81: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/04/18(土) 00:17:35.80 ID:skfTn6s9O
多くの会社が潰れた。
多くの店舗が閉店した。
そんな中まだ営業を続ける店がある。


( ・∀・)「よう、お前か」

('A`)「ああ、今日の夕飯の材料でもな」

( ・∀・)「それなら秋刀魚でもどうだ。旬間近だぞ」


僕はいいな、と言うとスーパーの中に入っていく。
ここはこの辺り一帯で唯一営業しているスーパーマーケットだ。
暴徒の襲撃を受けた際も、この店長はどこから取り出したのか改造釘打ち機で追い払った。死者も出たらしい。


( ・∀・)「正当防衛」

警察に呼び出されたとき放った言葉はこれだけだったらしい。



85: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/04/18(土) 00:25:42.98 ID:skfTn6s9O
('A`)「いつも思うんだが」


僕は秋刀魚が2尾入ったパックを手にしながら話しかけた。


( ・∀・)「あん?」

('A`)「この肉やら魚やら野菜やらはどこから仕入れてるんだ」


このスーパーには小惑星が発表される前と大して変わらない品揃えがあった。
なくなったものと言えば輸入出が止まった外国産ぐらいのものだ。


( ・∀・)「いるんだよ。こんな状況でも色々と作って食卓に届けたい奴は」

('A`)「ふうん。奇特な人もいるんだな」



88: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/04/18(土) 00:34:08.95 ID:skfTn6s9O
( ・∀・)「そんな店で買い物する奴も大概奇特だぜ?」

('A`)「死ぬのがわかってるのにわざわざ生きてる奴は全員奇特さ」


僕の言葉に男は違いない、と笑った。
ひとしきり笑ったあと、男は あ、と呟いた。


( ・∀・)「でも、結局人間って死ぬんだろ? だったら隕石が降る前から人間はみんな奇特だな」

('A`)「ふむう」


僕はふむう、と唸った。
この男はキチガイだ。人をパイルバンカーで打ち殺すキチガイだ。
しかしこの発言はなかなかに説得力があった。
僕は試しに僕が今直面している問題をかいつまんで話してみた。


('A`)「なあ。赤ちゃんってのはなんでできるんだ?」

( ・∀・)「やればできるんじゃねえの」

('A`)「聞いた僕がバカだった」


僕は代金を払って外に出た。



94: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/04/18(土) 00:40:42.77 ID:skfTn6s9O
('A`)「やればできる、ねえ」


スーパーから家であるアパートに帰るまでに今までは見えなかった色々な物を見た。
犬の散歩をしている人、仲むつまじく歩く老夫婦、この状況でも開業している医者、僅かに赤みが差してきた時の空。
それらを見たとき、なぜか心から赤ちゃんが欲しい、と思った。


('A`)「クーに頼もう」


家に帰る足取りは、軽かった。



101: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/04/18(土) 00:58:42.09 ID:skfTn6s9O
川 ゚ -゚)「おかえり」


家のドアを開けると、クーが出迎えてくれた。
クーの顔を見ると顔がほころぶ。


('A`)「ああ、ただいま。秋刀魚を買ってきたよ」

川 ゚ -゚)「そうか。すぐ作るからな」

('A`)「いや、いいよ。休んどけよ」

川 ゚ -゚)「……ああ」


袋から秋刀魚を取り出す。
包丁を使って内臓を取り出す。
僕はこの内臓を取り出すときのぬめぬめとした感触が好きだ。
この感触こそが命をもらっている感触に他ならない。


川 ゚ -゚)「堕胎しようと思うんだ」


一瞬何を言っているのか、わからなかった。



104: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/04/18(土) 01:04:02.43 ID:skfTn6s9O
('A`)「…………え?」


秋刀魚の腑に指を突っ込み、クーに背を向けたまますっとんきょんな声を出した。
はたから見ればおかしい光景だろう。
しかし突然のクーの発言にそんなことを気にする余裕は無かった。


川 ゚ -゚)「堕胎、する」

('A`)「なぜ」


僕の声は、震えていた。



107: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/04/18(土) 01:10:52.74 ID:skfTn6s9O
川 ゚ -゚)「エゴだよ。子供なんて」

('A`)「エゴじゃない」

川 ゚ -゚)「生んではいけないんだ。死ぬんだから」

('A`)「死なない」

川 ゚ -゚)「君が言ったことだ。観測に何台のPCが使われていると思う?」

('A`)「でも、100%じゃない」

川 ゚ -゚)「100%ではなくても限りなく100%に近いさ」

('A`)「なんで!」


柄にもなく大声を出す。
納得できなかった。できるはずもなかった。



110: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/04/18(土) 01:18:14.76 ID:skfTn6s9O
川 ゚ -゚)「……」

('A`)「なんで、黙ってるんだよ……」

川 ゚ -゚)「君との子供は、もっと違うときに欲しかった」

('A`)「欲しかった、じゃない。これからこの部屋は3人で使うんだ」



113: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/04/18(土) 01:24:20.33 ID:skfTn6s9O
川 ゚ -゚)「……ラチがあかんな」

('A`)「当たり前だよ……」


そんなことを軽々と決められるほど自分は面の皮は厚くなかった。
クーは子どもが欲しい、でも堕ろす。
自分は子どもが欲しい、だから生んで欲しい。
どうしてこういうスレ違いが起きるのかわからなかった。


川 ゚ -゚)「コイントスで決めようか」


そして、そんな大事なことをコイントスで決めようとするクーがわからなかった。



115: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/04/18(土) 01:31:21.04 ID:skfTn6s9O
川 ゚ -゚)「表なら生む、裏なら堕ろす」


どういうことなのだろう。
少なくとも彼女はこんなくだらないことをするタイプではなかったハズだ。
やはりいつ死ぬかもわからない状況下と腹に新しい命がある二律背反が彼女を混乱させているのだろうか。


('A`)「ごめんなさい」


だとすればそれは自分の責任だ。
酒の勢いで押し倒した自分の責任だ。


川 ゚ -゚)「……」


クーのくりっとして、しかし輝きのある目が俺の顔をじっと捉える。
数秒見つめあったが、先に目を離したのはクーだった。
そして、クーの右手からコインが放たれた。
くるくる、くるくるとコインが弧を描く。



118: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/04/18(土) 01:36:38.33 ID:skfTn6s9O
くるくる、くるくるとコインが舞う。
しかしそのコインは気にせずにクーを抱きしめた。


川 ゚ -゚)「……」

('A`)「ごめんなさい、ごめんなさい」


ひたすら謝る。
ここまでクーを追い込んだのは自分だから。
なのに自分はクーに子どもを生んで欲しいと思っていたのだ。



121: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/04/18(土) 01:43:29.13 ID:skfTn6s9O
川 - )「……」

('A`)「ごめん……ごめん。だけど……コインなんて、やめてくれ」

川 - )「う……」

('A`)「2人で、決めよう。金属の塊なんかに、委ねちゃダメだ」


本心からの言葉だった。
いくら自分のせいとはいえ、愛した人が自棄になる姿は見たくなかった。
それこそがエゴかもしれない、とふと考えたその時、クーの顔を見た。


川 ; -;)


彼女は、泣いていた。



125: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/04/18(土) 01:51:01.35 ID:skfTn6s9O
川 ; -;)


彼女は泣いていた。
よく考えれば、クーの泣き顔を見るのは初めてかもしれない。
クーの涙を拭う。秋刀魚の内臓とはもちろん違う、命の息吹きが感じられた。


('A`)「クー……!」


更に力を入れて、ぎゅっとクーの体を抱きしめる。
この中にもう1人入っているとは思えないほど細い体だった。


('A`)「生んでくれ」


クーの耳元で囁く。
泣きながらクーは、ちょっとだけ、しかし確実に頷いてくれた。



131: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/04/18(土) 02:00:11.65 ID:skfTn6s9O
「「お誕生日おめでとー!」」

「えへへ、ありがとー」

「ほら、早く吹き消しなさい」

「いくよー! せーの、ふー!」

「それにしてもツンも3歳かー早いな! なあクー」

「そうだな。ドクオも加齢臭が出てきたしな」

「パパくさーい!」

「く、臭くねーよ!」

「本気で枕が臭いからどうにかしてくれ。ダブルベッドをツインにするぞ」

「せ、殺生な!」

「パパとママ仲いーなー」


以前はどこにでもあった和やかで幸せな家庭。
しかし、その家庭の頭上には一際輝きすぎている星が迫っていて、綺麗に、本当に綺麗に輝いていた。



戻るあとがき