ノパ听)ヒートと( ゚д゚ )ミルナは英雄になるようです

3: ◆BYUt189CYA :2007/01/14(日) 20:40:46.42 ID:9yHgdOaB0
  
第一話 『ヒートとミルナ』

そこは港町だった。

海に面して山へと登る家屋と石畳の道の群れ。
家々の煙突からは白い煙が穏やかに流れ
白い鳥達が鳴き声を上げながら飛翔し、乱された風は潮の香りを運んでくる。
日本というより、ヨーロッパのような場所を彷彿させる景色。



――ここは『英雄世界』と呼ばれる世界。




5: ◆BYUt189CYA :2007/01/14(日) 20:42:19.09 ID:9yHgdOaB0
  
人々は潮の香りを日常的に嗅ぎながら、平和に過ごしていた。
機械などの無機質な物体は見当たらない。
露店に商品が並べられ、客は買い物籠を腕に下げて物色している。

その喧騒の中を縫って走る人影があった。

ノハ#゚听)「ハァ、ハァ……!」

年齢は十代後半だろうか。
背後へ流れる長いストレートの赤茶色の髪を揺らしながら
まだ少し幼さが残る顔に汗を浮かべつつ、彼女は全力疾走で石畳の坂を下っていた。

ノハ#゚听)「おっとっと!」

急ブレーキ。
石畳との摩擦で煙が上がるような錯覚を与える、見事な足の踏ん張りだ。
そのまま方向転換した彼女は、家屋の隙間――つまり裏道へと入っていった。

直進した後に突き当りを右折、更に右折して左折。

太陽の光があまり届かない暗い裏道を
まるで全ての家屋や障害物の配置を理解しているかのように走っていく。



7: ◆BYUt189CYA :2007/01/14(日) 20:43:54.12 ID:9yHgdOaB0
  
すると、突き当たりに木造の古いドアが見えた。
それは高さ二メートルを超える大きめな扉。
彼女は、それに体当たりをするような勢いで開け放った。

ノハ#゚听)「到着っ!」

声を発した後に、深く息を吸う。
先ほどの潮の香りと違って、コーヒーの濃厚な匂いが彼女の鼻を刺激した。

|(●),  、(●)、.:|「おぉ、ヒートちゃん……いつも元気だねぇ」

バーテンダー姿の顔だけ大きな男が、カウンター越しに彼女を出迎える。
その穏やかな表情は見る者を安らかにさせるが、如何せん巨大である。

ノハ#゚听)「ダディさんこそ、いつも大きいわね!」

ダディと呼ばれた顔だけ大男といつもの挨拶を済ませ、ヒートは内部へと足を進めた。
あまり太陽の光が届かぬ空間は薄暗く、天井にある小さなライトが申し訳程度に店内を照らしていた。
いつものカウンター席へと腰掛ける。

|(●),  、(●)、.:|「ご注文は?」

ノハ#゚听)「うーん、今日のオススメは?」

「ダディ=クールの濃厚コーヒーミルク入り、なんです」

その声に釣られるようにヒートは横へ顔を向ける。



8: ◆BYUt189CYA :2007/01/14(日) 20:45:40.73 ID:9yHgdOaB0
  
ノハ#゚听)「あ、ワカッテマスさんもこんにちは!」

( <●><●>)「こんにちは、なんです」

少々特徴的な喋り方をする彼は、この暑い中で黒いローブを頭から被っていた。
非常に暑苦しそうな格好だが、ヒートにとっては見慣れたものである。

特に二人は会話をすることはない。
ヒートはダディの方に懐いていたし、ワカッテマスは一人で黙ってコーヒーを飲むのが日課である。

ノハ#゚听)「あれ? ダイオードさんは?」

|(●),  、(●)、.:|「残念ながら、今日は仕事でいないんだ」

淹れたコーヒーをカップへ注いでいるダディを見ながら
ヒートはサービスで出されたクッキーをかじる。

ノハ#゚听)「ふぅん……『時渡り』も大変ね」

|(●),  、(●)、.:|「彼は『英雄』の中でも特別だから、かな?」



11: ◆BYUt189CYA :2007/01/14(日) 20:47:16.39 ID:9yHgdOaB0
  
そして彼はふと思い出したように

|(●),  、(●)、.:|「あれ? そういえばヒートちゃん、今日って業名(ワザナ)の儀式の日じゃなかった?」

ノハ#゚听)「そうだよ。
      だからミルナと一緒に祭壇へ行こうって
      昨日、ここで待ち合わせの約束をしたんだけど……」

|(●),  、(●)、.:|「おかしいなぁ……さっきミルナ君が来て
            ヒートちゃんがいないと確認するや否や、飛び出していったよ?」

その言葉にヒートは固まる。
直後、慌てて周囲を見渡しながら

ノハ#゚听)「え? 今って何時くらい?」

|(●),  、(●)、.:|「もうすぐ四時だけど」

ノハ#;゚听)「……う、うわぁぁぁ!? 遅刻だぁぁぁぁ!?」

蹴り飛ばすように椅子を派手に倒しながら、彼女は出口へ一目散に駆け出した。
そして何かに気付いたように急ブレーキ。
振り向いた視線はワカッテマスの方へ向けられていた。

ノハ#;゚听)「ワカッテマスさん! ミルナの現在位置って解りますか!?」

( <●><●>)「……もうすぐ中央橋を渡る頃、なんです」

何処を見るでもなく、まるで当然と言わんばかりの表情で言う。



12: ◆BYUt189CYA :2007/01/14(日) 20:48:46.63 ID:9yHgdOaB0
  
その情報を耳に入れた彼女は

ノハ#゚听)「ありがとっ!!」

と、礼の言葉を残して駆け出した。
扉を乱暴に開け、乱暴に閉める。
疾走の音が遠くへと響き、やがて聞こえなくなった。

|(●),  、(●)、.:|「やれやれ、元気ですねぇ」

静かになった空間で、ダディは呆れるように呟いた。
ヒートに出す予定であった淹れたばかりのコーヒーを口にする。
その様子を見ながら、ワカッテマスが口元に笑みを作った。

( <●><●>)「子供はアレくらいの方が良いんです」

|(●),  、(●)、.:|「まるで貴方が年寄りみたいな言い方ですね?」

( <●><●>)「無視します。
        それよりも私達が連続で会話をすると、ある意味とんでもないことになるんです」

その言葉の意味に気付いたダディは、わざとらしく咳をする。

|(●),  、(●)、.:|「んん、そうですな。 気をつけましょう。
            さて……おかわりは如何ですか?」



15: ◆BYUt189CYA :2007/01/14(日) 20:50:03.27 ID:9yHgdOaB0
  
ダディの穏やかな声に、ワカッテマスは己の持っているカップを見つめた。

( <●><●>)「…………」

いつの間にやら空になっている。

( <●><●>)「頂こう、と思うんです」

|(●),  、(●)、.:|「えぇ、幾らでもどうぞ」

その大きな手を差し出しながら、その大きな顔は穏やかな笑顔を作った。



16: ◆BYUt189CYA :2007/01/14(日) 20:51:46.43 ID:9yHgdOaB0
  
港町の中央にある大きな橋。
その隅を、男が歩いていた。

( ゚д゚ )「…………」

彼は両手をポケットに突っ込み
その視線は決して上下左右に揺れることなく、ただただ真っ直ぐを向いている。
短く切った黒髪が似合う男だ。
潮風を、その強靭な肉体に受けながらも黙って歩き続ける。

「おーい!!」

背後から声。
やれやれ、といった様子で肩を竦めた彼は

( ゚д゚ )「……変わらんな、お前の遅刻癖は」

と呆れ気味に声を発する。

ノハ#;゚听)「はぁ、はぁ……それはともかくどうして置いてくの!?」

( ゚д゚ )「お前に合わせていたら、今頃俺はここにはいない」

表情を崩さず、ひたすら真っ直ぐに視線を向けながら言う。
彼を知らない人が一目見れば、おそらくは機械か何かと間違えてしまうかもしれない。



17: ◆BYUt189CYA :2007/01/14(日) 20:53:29.52 ID:9yHgdOaB0
  
( ゚д゚ )「現在時刻、四時十一分……歩けば余裕で間に合うな。
     やはり時間に関しては自分を信じて行動した方が良いらしい」

ノハ#;゚听)「だったら、ついでに私も引っ張ってくれても良いじゃない!」

( ゚д゚ )「何故に俺がお前の全ての面倒を見なければならん」

きっぱりと言い放つミルナ。
そんな厳格で真面目な完璧超人っぽい彼だが、一つの弱点を持っていた。

ノハ#;゚听)「ケチ! バカ! アホ! こっちみんなぁぁぁ!」

(;゚д゚ )「ぐはぁ……!」

身を折り膝をつく。
見て解る通り、極端に悪口に弱いのだ。
特に『こっちみんな』という視線の類に対する言葉は効果抜群である。
どうやら幼少時代のトラウマが引き出されるらしいのだが、詳細は不明だ。

ノハ#゚听)「ほらほら! そんなことしてたら遅れるよ!」

(;゚д゚ )「ならば悪口など言うな……俺が大嫌いなの解っているだろう?」

ノハ#゚听)「まぁ、それ以外に弱点があるならやめるけど?」

( ゚д゚ )「理解を求めた俺が馬鹿だったよ」



18: ◆BYUt189CYA :2007/01/14(日) 20:55:23.46 ID:9yHgdOaB0
  
すぐさま立ち上がり、きびきびと歩き出す。
その歩速は速い。
ヒートは軽い小走りで彼の横へ並んだ。
いつも走らされるので、いつの間にか走る速度が上がっていることに関しては、密かに感謝していたりする。

この二人は、これまでずっとこの調子でやってきている。
学生時代に出会い、ぶつかりながらも認め合った仲だ。

友人は、互い以外にいない。
ヒートはその沸点の低さと声の大きさ。
ミルナはその機械のような動作と視線、そして性格。

それらが災いして二人は出会うまで、更には出会った後にも他の友人は出来ていない。

それでも二人は気にしなかった。
大勢の薄っぺらな友人よりも、絶対的な信頼を置ける一人の友人。
互いにそれがいるだけで、表には出さないものの大満足であった。



19: ◆BYUt189CYA :2007/01/14(日) 20:57:17.80 ID:9yHgdOaB0
  
ノハ#゚听)「ねぇねぇ、業名の儀式のことなんだけど!」

( ゚д゚ )「ん?」

ノハ#゚听)「一体、どんな試練があるのかな!?」

( ゚д゚ )「人それぞれらしいからな。
     一概に『こういうのだ』とは言えないだろう」

ノハ#゚听)「そっか!」

ヒートの声が大きい。
どうやら緊張しているようだ。
彼女は、感情が高まると比例して声が大きくなる。
それは友人が出来ても離れていってしまう要因の一つに数えられた。

しかし、ミルナはさほど気にしない。
確かに出会った当時はその奇妙な性質に驚いたものだが
よくよく観察してみれば、これ以上彼女の気持ちを知れる良い指標はない。

法則・格式などの決まった形式・枠組みを好むミルナ(ちなみに数学が得意)にとって
彼女はまさに理想の女性だったというわけだ。

コロコロと表情を変え、見るだけで感情が読み取れる。
そんな彼女のことをミルナは大変気に入っていた。
ただし、人としてなのか女性としてなのかは彼自身の中でも不明である。



20: ◆BYUt189CYA :2007/01/14(日) 20:59:21.76 ID:9yHgdOaB0
  
潮風を浴びながら二人は会話を弾ませる。

( ゚д゚ )「ところで、何で今日は遅れたんだ?」

ノハ#゚听)「ちょっと先生と最後の調整してたの! やっぱり一生に一度だから後悔したくないし!」

ここで言う先生とは教師のことではない。
武術――彼女の場合は剣術の師のことである。

( ゚д゚ )「なるほどな、お前らしくて納得だ」

ノハ#゚听)「むぅ〜……じゃあ、ミルナは自信あるの?」

( ゚д゚ )「俺は昔から負けたことなんでない」

筋肉質な右腕を掲げながら言う。
その言葉は偽りではなかった。

嫌われ者、疎まれる者は自然と目を付けられる。
学生時代のミルナはその無機質な視線と行動もあってか、よく素行の悪い者達から暴力を振るわれていた。



22: ◆BYUt189CYA :2007/01/14(日) 21:01:47.65 ID:9yHgdOaB0
  
ミルナは一度たりとも負けたことはなかった。
ただし、一度たりとも勝ったこともなかった。

反撃をしないのだ。
ただただ攻撃を受け、耐えるだけ。
その異常ともいえるタフさを見た者達は、自然と暴力をやめていく。
それがミルナには解っていたのだ。

たまにいる気概がある者は、ミルナをサンドバッグと称して暴力を振るい続けた。

その度にミルナは思う。
この者達は自分を鍛えてくれているのだ、と。
彼は憎悪や憤怒どころか、感謝の念を覚えたのだ。

それからミルナは自主的に身体を鍛えていった。
戦うため、反撃するためではなく――耐えるために。

そんな毎日を過ごしていた彼に喝を入れたのがヒートだった。

ノハ#゚听)「アンタね! サンドバッグって言われて悔しくないのッ!?」

いきなり肩を掴まれ、廊下で叫ばれた時は流石のミルナも目を丸くした。
それから小一時間ほど彼女の説教は続く。
悔しかったら反撃しろ、毎日のように殴られて嫌じゃないのか、などなど。
しかしミルナは、それに対して一言で返した。

( ゚д゚ )「人を傷つけるのは苦手なんだ」



23: ◆BYUt189CYA :2007/01/14(日) 21:03:15.41 ID:9yHgdOaB0
  
結局のところ、それが彼の根本にある理念だった。
人を傷つけることは出来るが、苦手意識がある。
ただ、それだけ。

彼の素直な言葉を聞いたヒートはキレた。

ノハ#゚听)「男がそんな弱虫でいいのかぁぁぁぁぁぁ!!」

両肩を掴まれガクガクを揺すられる。
視界が上下左右メチャクチャに揺れ――彼は暴力を受けるよりも恐怖した。
以来、ミルナの心にトラウマが刻まれる。
彼が視線を真っ直ぐにしか向けない理由に、それが少なからず関係していた。

それから彼女はミルナの傍らを離れない。
暴力を振るう者がいれば返り討ちにするためだ。
それは事実となる。

彼女は強かった。
硬く長い棒を片手に、向かってくる敵を片っ端から倒していく。
いつだったか、ミルナは彼女の強さの源を聞いてみた。

( ゚д゚ )「カタナ?」

ノハ#゚听)「そう、聞いた話だと異世界の戦闘技術らしいんだけど……。
      私にはよく解んないし、強ければそれで良いの」

何とも単純である。
しかし、その単純さもミルナの興味の範疇に入った。



26: ◆BYUt189CYA :2007/01/14(日) 21:05:22.46 ID:9yHgdOaB0
  
それから数年。
学校を卒業した彼らは、二十歳となる年に一つの儀式を受けるため、今歩いている。
『業名の儀式』と呼ばれるそれは、この世界に生きる人間全てが受ける通過儀礼だ。

『英雄』になるための、一生に一度だけの儀式。

英雄……才知・武勇にすぐれ、常人にできないことを成し遂げた人。

この世界での英雄は上記の意味とは少々異なる。
言うなればエリートの証だ。

英雄認定されれば『業名』という称号を得る事が出来る。
これは資格という意味で認知されており、業名を持っているだけで仕事には困らない。
何処へ応募しても即採用、軍隊へ入れば昇進コース一直線、などなど。

ただしそれは実力ではなく、肩書きによる付加効果。
英雄の名を持つ人間がいるだけで、そのグループの評価は格段に上がるのだ。
なので、人々は必死に英雄を取り入れようと画策しているのが実状である。

だからなのか、英雄になっても何もしない人間は多い。
それどころか辞退するケースも多くなっている。
ただし業名の儀式は絶対に受けねばならないので、嫌々に受ける人も年々多くなっているらしい。



27: ◆BYUt189CYA :2007/01/14(日) 21:07:05.83 ID:9yHgdOaB0
  
しかしヒートとミルナは違った。
心に燃やすは英雄への憧れ。
裏道にある喫茶店(?)を知らねば芽生えなかっただろう。

あの喫茶店には三人の英雄がいた。

ダディ=クール、ワカッテマス、そしてダイオード。

二人は長年、一番近い場所で英雄達を見続けていた。
それ故か、いつの間にやら英雄への強い憧れを抱いていた。

そして二人は今日、業名の儀式を受ける。

英雄となるために。
英雄という憧れを現実のものとするために。



28: ◆BYUt189CYA :2007/01/14(日) 21:09:54.53 ID:9yHgdOaB0
  
午後五時前。
夕日が傾き始めたその時刻に、ヒートとミルナは祭壇へと辿り着いた。
街外れの森の中にある神秘的な建造物を、二人は目を輝かせて見入った。

祭壇の内部。
蝋燭が火を灯し、内部を少々だが明るく照らしている。
石造りの重厚さを感じさせる通路を歩いた先には、一際広い空間。

「来たか」

神官のような格好をした数人の人間。
それぞれが杖を持ち、恐る恐る入ってきた二人を出迎えた。

空間は広く明るい。
その光源は、中央の巨大な石だ。
高さは三メートル以上ありそうで、宝石のように光を発している。
『ルイル』と呼ばれているらしいが、誰が名付けたかは不明だ。

「レウル高等教育学校の卒業生であるヒート、ミルナ。
 今期『業名の儀式』を受けるために、自らの足でここに来た……間違いないな?」

ノハ#゚听)「は、はい!」

( ゚д゚ )「間違いありません」



29: ◆BYUt189CYA :2007/01/14(日) 21:11:41.89 ID:9yHgdOaB0
  
「では、これから『業名の儀式』を開始する」

神官の男はゆっくりとした足取りで中央の『ルイル』へ向かって歩く。
そしてヒートとミルナの方へ振り向きながら

「今から君達には、ある試練を受けてもらう。
 その試練をクリア出来たならば、英雄神から業名を授かることが出来る」

男は淡々と語る。

「もし失敗しても死ぬことは無い。
 ただし、試練内で受けた傷は治らないので気をつけるように。
 そして内部で拾った物は、全て持ち帰ることが出来ることも忘れずにな」

過去の英雄――例えばダイオードなどは、試練内で手に入れた巨剣をそのまま今も使用している。
どうやら内部で得る物は、その者の今後にとって重要なアイテムとなりえるらしい。

ノハ#゚听)(何が落ちてるのかな……)

期待と不安、そして好奇心を高鳴らせながらヒートは時を待つ。

( ゚д゚ )(出来れば合理的なモノであってほしいが……)

隣では打算的な考えを膨らませるミルナ。



30: ◆BYUt189CYA :2007/01/14(日) 21:13:36.09 ID:9yHgdOaB0
  
そして時は来た。

「始まったか」

神官の声と共に発光。
空間の中心に置かれた『ルイル』が一際大きな光を発したのだ。
キィン、と甲高い音が周囲に響く。
それは試練開始の合図とも言える現象。

「では、頑張ってきたまえ」

背後にいた神官が二人の背中を軽く押した。
それに抵抗することなく、彼と彼女はゆっくりとルイルへ近付いていく。

( ゚д゚ )「ヒート」

ノハ#;゚听)「え? 何?」

緊張した面持ち歩くヒートに、ミルナは話しかける。
果たしてそれは緊張をほぐす為に言ったのか、それともただ本心だったのか。
解らぬが、彼ははっきりと言う。

( ゚д゚ )「二人で、英雄になろうな」

ノハ#゚听)「……うん!」

二人は誓った。
試練のクリアは、どちらかが欠けてもきっと喜べない。
自分のために、そして更には互いのために。
二人は新たな責任を胸に試練を開始した。



31: ◆BYUt189CYA :2007/01/14(日) 21:15:01.21 ID:9yHgdOaB0
  
裏道の喫茶店。
場所が場所だけに、滅多に客は来ない。
しかしその方がダディやワカッテマス、更にはヒート達にとっても都合が良かった。

|(●),  、(●)、.:|「しかし、あの子達は英雄になれますかね?」

( <●><●>)「貴方がなれたんですから大丈夫なんです」

|(●),  、(●)、.:|「ははは、何も言い返せませんな。
            ところでさっきのミルナ君の位置情報ですが……」

彼は二人以外に誰もいない店内で、ワカッテマスだけに聞こえるように言った。

|(●),  、(●)、.:|「『先見』を使ったのですか?」

( <●><●>)「……何の話なんですか」

彼の言葉にダディは厳しい表情を作った。
そしてすぐさま周囲の気配を探り始める。

( <●><●>)「警戒しなくても問題ないのです。
        何故なら――」

「私が帰ってきたから、か?」

声と共に木造の扉が開け放たれる。



32: ◆BYUt189CYA :2007/01/14(日) 21:16:27.87 ID:9yHgdOaB0
  
薄い夕日を背に浴びながら入ってきたのは

|(●),  、(●)、.:|「おや、お帰りですかダイオードさん」

/ ゚、。 /「外をうろついていた怪しい男がいた。
      適当に片付けておいたが、放っておいて良いか?」

|(●),  、(●)、.:|「えぇ、構いませんよ。 私が後で掃除しておきます」

ダイオードは『そうか』と短く言い残し、黙ってカウンター席に座る。

その姿は巨大だ。

背丈は軽く二メートルを越え、その背には更に大きな漆黒の巨剣。
身はやはり漆黒の甲冑で包まれている。
そして更に、背まで伸びた長い黒髪が美しく揺れていた。



33: ◆BYUt189CYA :2007/01/14(日) 21:17:46.97 ID:9yHgdOaB0
  
( <●><●>)「さて、仕事の方はどうなったか……解っていますが聞きます」

/ ゚、。 /「特に苦労は無い。 『修正』は問題なく完了した」

|(●),  、(●)、.:|「流石は『時渡り』ですね」

/ ゚、。 /「その名は嫌いだが、それ以外に名乗れないから困るな」

|(●),  、(●)、.:|「では『美しき女騎士』などどうです?」

/ ゚、。 /「あまり私をからかうと怪我では済まなくなる」

鋭い眼光がダディを貫く。
槍とも言える視線を身に浴びた彼は、肩を竦めてコーヒーを淹れる作業に戻った。

/ ゚、。 /「さて……ここともそろそろ御別れじゃないか?」

( <●><●>)「えぇ、私が残った仕事を終わらせれば……なんです」

/ ゚、。 /「次は何処へ?」

( <●><●>)「まだ決まってはいません。
        一つ言えるのは、ある世界にて秩序に仇名す者が動いているということなんです。
        それを潰すための位置取りで、少々手間取っているんです」



34: ◆BYUt189CYA :2007/01/14(日) 21:19:07.59 ID:9yHgdOaB0
  
/ ゚、。 /「何とも命知らずな者だな。
      ところで――」

傍らにあったクッキーに手を伸ばしながら

/ ゚、。 /「この店はどうするんだ、ダディ?
      必要ならば私が運ぼうとも思っているのだが」

|(●),  、(●)、.:|「そうですね、その件なんですが……」

淹れたコーヒーをカップに注ぎながら、彼は考える素振りを見せる。
波々と注がれたカップをダイオードに出しながら

|(●),  、(●)、.:|「私は、もう少しここにいようと思うんですよ」

( <●><●>)「……ヒートとミルナのことですか?」

/ ゚、。 /「情が移ったか」

|(●),  、(●)、.:|「まぁ、そんな感じです」

ダディはその巨大な顔に笑みを浮かばせる。



35: ◆BYUt189CYA :2007/01/14(日) 21:20:39.08 ID:9yHgdOaB0
  
|(●),  、(●)、.:|「彼女達は前々から見てきましたからね。
           もう自分の子供のような感覚で接していますよ」

/ ゚、。 /「気持ちは解らんでもないが、お前は――」

|(●),  、(●)、.:|「解っていますとも。
           ただ、彼女達が英雄になった後で何を為そうとするか。
           それくらい見届けてからでも構わないでしょう?」

( <●><●>)「えぇ、行動の大部分はダイオードと私がやっていますので。
        それに少しくらい帰る場所が無くても、問題はありません」

/ ゚、。 /「お前が淹れたコーヒーが飲めなくなるのは痛いがな」

仲間達が自分の意見を素直に聞き入れたことに、ダディは更に笑みを深くする。

自分は良い仲間を持った。

それに満足した彼は、今頃英雄になろうとしている男女を思い浮かべた。

|(●),  、(●)、.:|「さてさて、彼女達も良き仲間同士でいられますかな……?」



36: ◆BYUt189CYA :2007/01/14(日) 21:22:43.18 ID:9yHgdOaB0
  
そこは何処かの城のようであった。
上を見上げれば大空、視線を下げれば雲が続く。

ノハ#;゚听)「うわぁ……メチャクチャ高そう」

この位置から下の地面が見えないところから判断すると
どうやらこの建物は相当の高さを誇るらしい。

気がつけば、その屋上と思われる場所の中心点に立ち竦んでいた。

ルイルに触れる直前までは記憶に残っているものの
ここへ連れて来られるような感覚や記憶は一切無い。

いつの間にか姿を消しているミルナのことも考えれば、おそらくここは現実世界ではなく――

ノハ#゚听)「ルイルの魔力によって見せられている幻影。
      もしくは仮想世界ってところかな……」



37: ◆BYUt189CYA :2007/01/14(日) 21:23:53.08 ID:9yHgdOaB0
  
これは試練だ。
同時に試験でもある。
つまり自分がどういった行動をとったかも評価されるはずだ。

常に見られていると思え。

ノハ#゚听)「とりあえず行動するしかないわね」

試練というからには、己を試す障害が現われるはずだ。
例えここでボーッと待っていても。

それならば己から進んで試練にぶつかっていこう。

ノハ#゚听)「よしっ!!」

両頬を思い切り叩き、歩き出す。
視線の先にある屋上から城内部へと入る扉に向かって――



38: ◆BYUt189CYA :2007/01/14(日) 21:25:30.04 ID:9yHgdOaB0
  
( ゚д゚ )「……何だ、ここは」

周囲は暗闇だ。
先ほどのルイルの輝きによってか、まったく周囲の様子が見えない。
水が滴る音が聞こえる。
それが響いていることから、ここは閉鎖空間のようだ。

( ゚д゚ )(音と空気からして洞窟か……?)

冷えた空気と灰色な匂いを鼻から吸いながら考える。

とりあえず、これからの行動を考える。
暗闇に目が慣れるまで待つか、それとも手探りで進んでいくか。

これは試練だ。
同時に試験でもある。
つまり自分がどういった行動をとったかも評価されるはずだ。

常に見られていると思え。

( ゚д゚ )(俺が考える一番良い方法をとる、か……)

どうせ目が見えないまま進んでも、一寸先は闇状態である。
このまま進むことによって、闇を恐れない勇猛な心を持っているかどうかを見るのかもしれないが
ミルナはどうしても準備を怠ることを良しとしなかった。



39: ◆BYUt189CYA :2007/01/14(日) 21:27:29.77 ID:9yHgdOaB0
  
戦術において重要なのは完璧な下準備である。
それを怠れば必ず何処かツケを払うことになり、最悪の場合はそのまま潰える。
勇猛なのは構わないが、その下積みを怠っては戦果も思うように挙がりはしないだろう。

( ゚д゚ )「…………」

腕を組んで仁王立ち。
そのまま目を瞑って暗闇に慣れさせる。

と、その時だ。

( ゚д゚ )(?)

声。
か細い女性のような声。
それはホラー映画などで聞くような声だった。

遠くから響いてくる。



40: ◆BYUt189CYA :2007/01/14(日) 21:28:42.73 ID:9yHgdOaB0
  
「――――」

何か言葉を発している。

( ゚д゚ )(何者だ……?)

ミルナは幽霊の類を信じない。
以前、ヒートが怖がらせてやろうと色々な怪談話を聞かせたが
全てに対して彼は『どうせ見間違えだろう? それとも妄想癖でもあるのかその女は』と返す。

その後に悔しがったヒートにポカポカと胸を叩かれたが
ミルナの強靭な肉体はそれを無効化し、更には『腰が入っていない』というコメントを残してしまう。
それから数日間口を聞いてもらえない状況に陥ったのは、ここではまったく関係ない話である。

「――――――」

段々と聞こえるようになってきた。

( ゚д゚ )(これは――)

何かが近付いてきている気配を感じて身構えるミルナ。
『それ』が聞こえてきたのは、その直後であった。



42: ◆BYUt189CYA :2007/01/14(日) 21:30:08.43 ID:9yHgdOaB0
  
鉄製の扉を開き、城の内部へと足を進める。

ノハ#;゚听)「うわ……」

直後、目に入ったのは豪華な廊下だ。
天井には巨大なシャンデリアが輝き、壁際には高そうな壷や絵画が飾ってある。
そして床にはフカフカの真っ赤な絨毯。

慣れない空気に戸惑いながらも進んでいく。
長い廊下の先に、一つの小さな台座が見えた。
そしてその上には

ノハ#゚听)「……刀?」

一本の刀。
黒い鞘に収まったそれは、周囲にある洋風な景色と比較して異質なものだった。

とりあえず手に取る。

ノハ#゚听)「短い」

ポツリ、とコメント。
おそらくは一尺五寸程度。
遠目で見て刀と思っていたが、それは中脇差だった。



43: ◆BYUt189CYA :2007/01/14(日) 21:31:38.85 ID:9yHgdOaB0
  
「それが貴女の武器です」

突如、背後から男の声。
慌てて振り向けば、いつの間にか廊下の中央に人影。

┗(^o^ )┓「私はクン三兄弟の末弟……『ジュカイ=クン』と申します」

丁寧にお辞儀をする。

ノハ#;゚听)「あ、えと……どうも」

何故かヒートもそれに倣って頭を下げた。

一メートルもないのでは、と思わせる背の低さ。
そしてその背には斜めに剣を背負っている。
刃先は地面に突き刺さっており、歩けるのかどうか不明だ。

┗(^o^ )┓「これから私と戦ってもらいます。
       もし私を屈服させることが出来れば階下へ進むことが可能となります」

ノハ#゚听)「ふぅん……で、その先にも敵がいるわけね?」

┗(^o^ )┓「物分りが良い子は好ましいですね。
       つまり私達三兄弟を屈服させるのが試練の内容と言えるわけです」



45: ◆BYUt189CYA :2007/01/14(日) 21:33:14.02 ID:9yHgdOaB0
  
ノハ#゚听)「ルールは解ったけど、それだけじゃないよね?」

┗(^o^ )┓「そこまで解っているとは……いやはや、嬉しいものであります」

笑顔を崩さず、その身を動かさず。
まるで石像と会話をしている感覚だ。

ノハ#゚听)「ここに短い刀が一振りあった。
      で、貴方が出てきて勝負を申し込んだ。
      それが勝てれば次へ……その繰り返しが試練だと言った」

つまり

ノハ#゚听)「――階下にも新たな武器がある」

┗(^o^ )┓「正解です。
       貴女には試練と同時に強くなってもらいます」

ノハ#゚听)「理由は?」

┗(^o^ )┓「英雄神のみが知る、と答えておきましょうか」



46: ◆BYUt189CYA :2007/01/14(日) 21:34:55.99 ID:9yHgdOaB0
  
英雄神とは、ルイルの中の人だ。
否、ルイルそのものである。

理由は解らないが、ルイルに精神を流し込んだ仙人とされていた。
それによって彼(彼女?)は、数千年、数万年の時を生きているとか。

儀式の試練内容も、業名も全て英雄神が決める。
言うなれば各地に散っている英雄の元締めである。
姿を見たことがある者は滅多にいないらしいが、声が頻繁に聞こえるので存在はしているらしい。

ノハ#゚听)「まぁ、これが試練だって言うなら私も本気でいっちゃうよ」

┗(^o^ )┓「構いません。 本気で来なければ貴女は負けます」

ノハ#゚听)「――言ってくれる!」

挑発の言葉に、ヒートの心が一気に燃え上がる。
手に取った脇差の柄を握り――

練習はいつも木刀だ。
たまに先生に頼んで触らせてもらう程度ではあるが、真剣は握ったこともあった。

しかし、今から使う武器は脇差。
軽さも重心位置も遠心力感覚も全て異なる。

だがしかし、やらねばならない。

鞘を押さえたまま、一気にそれを引き抜いた。
金属が擦れる音――ヒートにとっては心地よい音が空間に響く。



48: ◆BYUt189CYA :2007/01/14(日) 21:36:30.19 ID:9yHgdOaB0
  
ノハ#゚听)「いざ……!?」

参る、と言いかけて止める。
その目線は相手のジュカイではなく、手元の脇差。

ノハ#;゚听)「えぇ!?」

驚きに目を見開いた。
洋風で豪華な空間に驚き、刀ではなく脇差だということにも驚いた。
しかし彼女は今、それらを越える驚きを得ている。

ノハ#;゚听)「刃が――」

無いのだ。
刃に当たる部分がまったく見受けられない。
それは黒塗りの刀身にも見える。
しかしよくよく見てみれば、その刀身に鋭い部分は皆無であった。

┗(^o^ )┓「では、行きますよ」

背負った剣の柄を掴み、ジュカイが身構える。

ノハ#;゚听)「え? ちょ、これって――」

混乱する頭。
戦闘が開始されたと気付いたのは数瞬後。
風が来たと感じたのと、ジュカイが地を蹴り飛び出したのは同時だった。



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