ノパ听)ヒートと( ゚д゚ )ミルナは英雄になるようです

3: ◆BYUt189CYA :2007/01/16(火) 20:58:19.94 ID:my1OhqX50
  
第二話 『彼の試練、彼女の試練』

暗い空間に声が響く。
それは女のか細い声。

(;゚д゚ )「ぐぉぉぉ……!!」

膝を折り、地面に手をつきながら苦しむミルナ。
耳から強制的に入ってくる情報に、ミルナの心は折れかけていた。

その声の内容とは

「こっちみんなこっちみんなこっちみんな――」

(;゚д゚ )「くぅぅぅぁぁぁぁ!!」

それはミルナの最も嫌う内容。
何やら過去のトラウマが引き出され――というか何だこれ。

(;゚д゚ )(流石は英雄の試練……弱点を抉ってくるとは!!)

これに打ち勝てねば英雄になることなど出来ないだろう。
逆を言えば、自分の最大の弱点がこれなのだ。

英雄になれるなれない関わらず
彼の今後の人生において、これは克服しておいた方が良い気がするのは気のせいだろうか。



4: ◆BYUt189CYA :2007/01/16(火) 21:00:18.60 ID:my1OhqX50
  
(;゚д゚ )(物理攻撃に対する防御力なら自信はあるが
     精神的なモノになると――こうも脆いのか、俺は!)

汗が噴き出し、膝がガクガクと震える。
尚も女性の声が耳に響き、背筋が震え、頭が痛む。

「こっちみんなこっちみんなこっちみんな――」

(;゚д゚ )「ぬぐぉぉぉ……!!」

遂に耳のすぐ傍らで言われているような錯覚に陥ってしまう。
耳に生暖かい息が掛けられ、悪寒が身体を蝕み――

(#゚д゚ )「おぉぉぉぉ!!」

まるで振り払うかのように、その強靭な腕を振るった。
空気を切る音。
そして

「いぁっ!?」

まるで殴られたような声。
というか殴ってしまったようだ。



5: ◆BYUt189CYA :2007/01/16(火) 21:01:33.28 ID:my1OhqX50
  
( ゚д゚ )「お……?」

声が止まったことにより、ミルナの精神力は回復の兆しを見せ始める。
フラつきながらも立ち上がり、周囲を見渡した。
よく見えないが誰か倒れているらしい。

(;゚д゚ )「その……大丈夫か、悪かった」

頭をポリポリと掻きながら、敵の安否を気遣う。
というか敵として認識しているのかどうかが怪しい。

「い……」

( ゚д゚ )「い?」

「いったぁぁぁい!!」

(;゚д゚ )「む、むぅ……それは悪かった」

目が段々と慣れてきたのか、相手の顔が見えるようになってくる。

('、`*川「もう! 『こっちみんな』って言ってればいいって聞いてたのに!
     何で殴られなきゃならないのよ!」

喚くように文句を言う女性。
その声は洞窟内に反響して、更に五月蝿さを増幅させる。



6: ◆BYUt189CYA :2007/01/16(火) 21:02:49.46 ID:my1OhqX50
  
(;゚д゚ )「す、すまん……」

こういう五月蝿いタイプは大の苦手だ。
どう接すれば良いのかまったく解らない。

ミルナはあたふたと慌てるばかりで、まったく男らしさの欠片もない。

と、その瞬間。

('、`*川「隙ありっ!!」

突如として屈していた身を伸ばし、拳を顔面目掛けて突き出す。
それを驚異的な動体視力、そして判断力で回避するミルナ。

('、`*川「あーもう! おっしぃ!」

(;゚д゚ )「不意打ちか……英雄の試練もなかなかに卑怯な手を使う」

やっと相手が敵だと解ったのか。
ミルナの身から冷たい空気が放たれ始める。



8: ◆BYUt189CYA :2007/01/16(火) 21:04:20.72 ID:my1OhqX50
  
('、`*川「私の業名は『二極』……英雄神様から手伝えって言われてるから、相手をするわ」

( ゚д゚ )「ほぅ、英雄が試験官をしてくれるわけか」

('、`*川「いいえ、私はあくまでただの障害……試験官はあくまでも英雄神様」

彼女の目つきは鋭い。
そして瞳は爛々と輝いている。

('、`*川「見れば解ると思うけど、ちょーっと目をイジってる。
     今、私はこの洞窟内全てを把握することが出来るけど、貴方はほとんど見えない。
     そして私の役目は貴方の力を見ること……OK?」

( ゚д゚ )「つまりは戦えと言いたいのだろう?
     それならば、嫌々だがやってやるさ」

右足を踏み出し、地を踏みしめるようにつける。
腰を少し落としながら息を吐いた。

( ゚д゚ )「悪いが――アンタが英雄ならば手加減する余裕は無い」



9: ◆BYUt189CYA :2007/01/16(火) 21:05:38.16 ID:my1OhqX50
  
('、`*川「あれ? 攻撃が嫌いって聞いてるけど?」

( ゚д゚ )「身勝手だが場合による……俺はこの場を切り抜けねばならぬ理由があるのでな」

言いながら、ミルナは心の中で思考する。
こちらの情報を持っている、ということは――

( ゚д゚ )(ただの勝利が、合否の条件ではないな……)

彼女は、力を見ると言った。
すなわち『勝敗』は関係ないということに繋がる。
己の何の力を見るのか。
それが解らねば――

('、`*川「んじゃ、行くよー!」

『二極』が身を軽く捻り、拳を構えた。
と思った途端。

('、`*川「ッ!!」

激音と共に地を蹴る。
それは一瞬の時を以って、ミルナとの距離を縮めに掛かってきた。



10: ◆BYUt189CYA :2007/01/16(火) 21:07:04.15 ID:my1OhqX50
  
すぐさま二人は互いの一足の間合内に入る。
直後、後退しようとしたミルナの足に何かが引っかかった。

(;゚д゚ )「!?」

それは地から突き出た小さな出っ張り。
本来なら無意識にでも無視出来るような地形。

しかし、地面の様子さえまともに判断出来ない彼には予想し得ない要素。

引いた踵が引っかかり、身体のバランスが崩れて背後へ転びそうになる。
そこに『二極』の拳が降ってきたのはほぼ同時。

('、`*川「ほいさっ!」

( ゚д゚ )「――!」

鈍い音が、洞窟内に木霊した。



12: ◆BYUt189CYA :2007/01/16(火) 21:08:20.03 ID:my1OhqX50
  
空間に音が響く。
それは高速で鳴る連鎖の音。

┗(^o^ )┓「この程度ですか?」

低い身長からは想像出来ないほどの速度、力強さ。
それらが合わさった剣撃を、ヒートはただ回避することしか出来なかった。

ノハ#;゚听)「っていうか、これ反則じゃない!?
       刃の無い短い刀でどうやって戦えって言うの!?
       knz(これなんて斬)!?」

叫びの文句は風に乗って消える。
対するジュカイは、何も聞こえなかったかのように無言で攻め続けた。

己の背丈よりも長い剣を振り回す。
それは風を切り、しかし高速を以って襲い掛かってくる。



13: ◆BYUt189CYA :2007/01/16(火) 21:09:44.25 ID:my1OhqX50
  
ノハ#;゚听)「くっ……!」

ヒートが後退する理由は三つあった。

相手の力量。
己の得物。
そして身長が低いことにより『間境』を広く感じてしまう錯覚。

先ほどからヒートは
相手の『間境』――つまり最大攻撃範囲――を読む技術『間積もり』を行っている。
しかし、相対したことも無い低身故に長剣に見えてしまうジュカイの剣。
それらの要素が絡み合い、ヒートの頭を混乱させてしまうのだ。

何処まで踏み込んで良いのか。
何処まで下がれば安全なのか。

ジュカイの斬撃が高速、そして攻撃回転も速いために
なかなかその間隔を掴めずにいる。

ノハ#;゚听)(こういう相手は、先生との練習でも想定してないよ……)

当然と言えば当然である。



15: ◆BYUt189CYA :2007/01/16(火) 21:11:10.40 ID:my1OhqX50
  
┗(^o^ )┓「――――」

ジュカイが何かを呟きながら攻撃してくるが、よく聞き取れない。
何をすれば、何から対処すれば、何が何だか解らない。

焦りは不安を呼び、不安は焦りを増幅させる。
そんな悪循環の中でヒートは戦っていた。

ノハ#;゚听)(くぅ……!)

駄目だ。
とりあえず安全圏まで退避して、頭をクールダウンしなければ。
思うや否や地を蹴る。
身を背後へ飛ばし、ジュカイから数十メートルの距離を稼いだ。

┗(^o^ )┓「さて、どうしますか?」

余裕の笑み。
片手で剣を持ち、しかし構えない。
ジュカイは無形の構えでヒートを待ち受けていた。

対するヒートは汗を拭きながら、冷静に考えようと必死になる。



16: ◆BYUt189CYA :2007/01/16(火) 21:12:37.53 ID:my1OhqX50
  
これは試練であり試験だ。
つまり普通の戦闘とは異なる。
このまま戦っていても、決して良い方向へは転ばないだろう。

試練というからには、認めてもらえる条件があるはずだ。

考えろ。
彼女は慎重に、解っているポイントを整理する。

現在行っている戦いは生死を賭けた戦いではない。
ジュカイは『屈服させることが出来れば』と言った。
そして、ヒートが握っている刀がキーアイテムであることは疑い無い。

そこから導き出される答えは何か。

ノハ#;゚听)(……解んない)

何しろ彼女には条件戦闘の経験がない。
相手の戦闘思考の読み方などは訓練してきたが
何を望んでいるのか、などという戦闘とはあまり関連性の無い情報を読み取るのは難しい。



17: ◆BYUt189CYA :2007/01/16(火) 21:14:41.75 ID:my1OhqX50
  
┗(^o^ )┓「…………」

そしてあの笑顔。
ただただ笑顔を崩さずに戦ってはいるが、それが非常に邪魔なのである。
感情が読み取れず、目を細めているがために視線を捉えにくい。
ただでさえ読み取りが難しいというのに、更に彼自身が困難にしてくるのだ。

相当の手練……というか、彼は――

ノハ#゚听)「……もしかしてジュカイさんって英雄なの?」

思ったことはすぐに口にしてしまう。
それがヒートの悪いところであり、良いところでもあった。

┗(^o^ )┓「はい、私は英雄です。 英雄神様より『剣帝』の業名を授かっております」

素直に答える。
どうやら情報規制は掛かっていないらしい。
それなら聞けるだけの情報を聞き出していった方が得策だ。

ノハ#゚听)「んじゃあ、認めてくれる条件は?」

単刀直入にも程がある。

┗(^o^ )┓「教えて差し上げたいのは山々なのですが、それは言えません」

ですが、と彼は付け加えた。

┗(^o^ )┓「『認めてくれる条件』を満たす試練だと解っていれば、自ずと答えは出るでしょう」



18: ◆BYUt189CYA :2007/01/16(火) 21:16:12.01 ID:my1OhqX50
  
ノハ#゚听)(認めてくれる条件を満たす……)

行動にて示せと言いたいのだろうか。
言葉ではなく、行動。
今行っているのは戦闘行為。
つまり――

ノハ#゚听)(この刀には、やっぱり意味がある……?)

手元を見る。
短く、そして刃が無い刀。
これに何か意味があるのだろうか。

まず、その短さ。
嫌がらせとも言えるが、その考えは今は放っておく。
どうやら重さと遠心力を必要としない使い方をするらしい。
そして刃が無いところから見ると、攻撃に使用するものでもない。

ノハ#゚听)(何か段々解ってきたかも……)

その情報から総合して、相手が何を望んでいるかを推測する。
答えは意外とすぐに出た。



19: ◆BYUt189CYA :2007/01/16(火) 21:17:30.89 ID:my1OhqX50
  
ノハ#゚听)(この刀の使い方の理解を示せってことね!)

これは試練であり試験であり、そしてジュカイの言葉から察するに修練だ。
階下に降りる度に強くなっていけということか。
随分勝手な試練ではあるが、ヒートは心の中で感謝をする。
鍛えてくれるのならば素直に強くなってやる、と。

┗(^o^ )┓「では、再開といきましょう」

ノハ#゚听)「言われなくても!」

ジュカイが構える前に走り始める。

試練内容は把握した。
しかし、相手の自由にさせてはその成功率も下がる。
故にヒートは地を蹴った。

┗(^o^ )┓「その度胸は評価に値しますね」

冷静に事を判断し、ジュカイも走り出す。

二人が互いに走れば、その分の思考時間は相対的に削られていく。
その限られた時間内に、二人は互いの手の内を読み漁る。



20: ◆BYUt189CYA :2007/01/16(火) 21:18:58.50 ID:my1OhqX50
  
┗(^o^ )┓「いきます」

わざわざ攻撃開始の合図を放って剣を振るう。

高速斬撃。
それが袈裟切りのようにヒートの左肩を狙った。

ノハ#゚听)「ッ!」

対してヒートは左手に持った刃の無い刀を振り上げ――

硬い金属音。

二人はその音を合図にしたかのように動きを止めた。

┗(^o^ )┓「――成程」

ジュカイはその光景を見て納得したかのように吐息する。
視線の先にはヒート。
左手の刀を逆手に構え、ジュカイの剣を受け止めている。

ノハ#゚听)「この刀は、言わば『防御用』……。
      だから刃は無い方が良いし、短い方が素早く振ることが出来る」

┗(^o^ )┓「正解です。
       その刀は『防御』や『回避』、『往なし』、そして『弾き』をするために作られた刀。
       それを理解した貴女には、御褒美としてその刀の名を教えましょう」



21: ◆BYUt189CYA :2007/01/16(火) 21:20:17.37 ID:my1OhqX50
  
ノハ#゚听)「名があるの?」

┗(^o^ )┓「総合しての名は、貴女なら後々に教えてもらえるはずです。
       今はその刀自体の名を――壱ノ武『飛燕』と申します」

飛燕。
燕が飛んでいる様。
武道などで、燕のように素早く身を翻すこと――などを示す言葉だ。

┗(^o^ )┓「飛燕のような素早い回避と防御……それがその刀の役割です」

ノハ#゚听)「だから刃が無いのね? 頑丈にしなきゃならないから」

┗(^o^ )┓「攻撃に用いるモノでもありませんからね。
       本来、攻撃という目的のために作られた刀から『攻撃』を抜いた形です」

ノハ#゚听)「ふぅん……で、これで終わり?」

┗(^o^ )┓「まさか。
       これは準備運動に過ぎません。
       本当の試練はこれからです」

言いながら背後へ飛ぶ。
再度、飛燕を構えたヒートを見ながら

┗(^o^ )┓「今から私は本気で貴女を殺しに掛かります。
       ですから、その飛燕で止めて下さい。
       それが私の提示する条件です」



22: ◆BYUt189CYA :2007/01/16(火) 21:22:09.66 ID:my1OhqX50
  
途端、ジュカイ周囲から冷たい気が放たれ始める。
それは殺気。
ピリピリと刺されるような空気を身に受けながら、ヒートは思考する。

止めて下さい。

それが、少し引っかかった。

┗(^o^ )┓「では――」

声を残してジュカイが消える。
それが高速の移動だと気付いた時には――

ノハ#゚听)「ッ!」

地を蹴る。
身を前に投げ出すような格好。
直後、鋭利な刃がヒートのいた位置を掠めた。

彼女はそのまま前転。
回転しながら背後を見るような姿勢で、飛燕を構え直す。

ノハ#;゚听)(びっくり……)

まさか、あんな速度を持つ人間がいるとは。
流石は英雄といったところか。



23: ◆BYUt189CYA :2007/01/16(火) 21:23:31.37 ID:my1OhqX50
  
┗(^o^ )┓「逃げるだけでは終わりませんよ」

息を整える間も無く追撃が迫る。
まるで瞬間移動とも言える速度で迫るジュカイ。

右へ跳んだかと思えば、すぐさま左へと位置を変えるフェイントを織り交ぜた移動。
動きに翻弄され、ヒートの立ち位置は固定されたままだ。

殺気と共に刃が走る。
軌道は逆風。
身を捻りながら放たれた一撃は、高速でヒートの足元から迫った。

ノハ#;゚听)「う、うわっ!?」

驚きで間抜けな声を上げながら、ヒートは飛燕を下段に構えた。
頭ではついていかなくても、訓練を積んだ身体が自然と反応してくれたのだ。

金属音。

ジュカイの剣はヒートの身体を切り裂く前に止められる。



24: ◆BYUt189CYA :2007/01/16(火) 21:24:52.42 ID:my1OhqX50
  
ノハ#゚听)「と、止めた!」

┗(^o^ )┓「……で?」

ノハ#;゚听)「え?」

┗(^o^ )┓「確かに剣は止められましたが、私自身はまだ止まってはいませんよ。」

踏み込み。
そのまま肩をヒートの腹部に押し付けるような動作。

ノハ#;゚听)「!?」

まずい。
飛燕が構えられない。
焦りからか、思わず後方へ跳ぶ。

┗(^o^ )┓「確かに戦闘において思考を読むのは必須です。
       しかし、それ以上に相手を思い通りに動かす動作も重要なのです」

それがジュカイの狙いだった。
後方へ跳んだヒートの足は地についていない。
即ち、下半身に力が入らないという事だ。

そこへジュカイの高速追撃が迫る。



25: ◆BYUt189CYA :2007/01/16(火) 21:26:34.79 ID:my1OhqX50
  
まずは右薙。
構えられた飛燕を弾く。
返しからの袈裟切り。
それは一直線にヒートの左肩を狙うも、体勢を立て直した飛燕によって阻まれた。

衝撃によって威力を殺される剣。
しかしジュカイはその反動を抑えることなく、剣を持つ右腕を背後へと『投げた』。
その動作から起こる事象は回転だ。
右回りに一回転したジュカイは、そのまま右切上をヒートに放つ。

ノハ#;゚听)「くっ!!」

そのトリッキーな動きに反応しきれない。
咄嗟に腰に差していた飛燕の鞘で防御する。

甲高い音と共に、ヒートの右手から鞘が弾き飛ばされた。

しかし、衝撃は逃がせない。
右手に痺れるような痛みを覚えながら必死に後退。
ジュカイは余裕を残していたが、それを追うことをしなかった。



26: ◆BYUt189CYA :2007/01/16(火) 21:28:18.69 ID:my1OhqX50
  
ノハ#;゚听)「ハァ……ハァ……!」

鞘が無ければ死んでいた。
胴体は、真っ二つとまではいかないだろうが切り裂かれていた。
内臓をぶち撒け、苦しみに悶えて死ぬはずだった。

絶望的な未来を回避出来たことに安堵しつつ、しかし恐怖に襲われる。
次こそは死ぬかもしれない。
その恐怖が鎖となって、彼女の心に巻きつき始める。

ノハ#;゚听)(これが……殺すための戦い)

訓練と実戦は天と地ほどの差がある。
言葉としては聞いていたものの、ここまで精神的にくるとは。
自然と手が震え、汗が止まらない。
心臓がドクドクと早打ち、息をすることさえ忘れそうだ。

相手は英雄。
おそらく、ジュカイはいつでもヒートを殺すことが出来るのだろう。
息をするように殺せるはずだ。

それをしないということは、やはり何かを待っているのか。



27: ◆BYUt189CYA :2007/01/16(火) 21:31:06.19 ID:my1OhqX50
  
ノハ#;゚听)「…………」

付け入る隙が無いといえば嘘になる。
かつて先生が言っていたが
手加減というものは、中途半端に強ければ強いほど難しいのだ。

何故なら、攻撃や防御のチャンスを敢えて無視しなければならないのだから。
身体が勝手に動き出そうとするのを意識的に抑えなければならない。

しかし、その法則がジュカイにも適用されるのかと言えば――答えはNOなのかもしれない。

ジュカイの業名は『剣帝』。
剣を扱う英雄の中でも最上位クラスの業名だ。
言葉が示すとおり、剣の扱いに関しての帝王なのである。

そんな化け物を超越した相手に、自分が太刀打ち出来るのか?

どう転んでも不可能である。
空想世界では、根性や運などといった要素が手助けしてくれるのかもしれない。
しかし現実はそう簡単にいかない。

二人の実力の間には、絶望的なまでの差がある。
それはすぐに越えようとしても不可能な差だ。



28: ◆BYUt189CYA :2007/01/16(火) 21:32:17.35 ID:my1OhqX50
  
ではどうするのか。
諦めか、それとも死を覚悟した抗いか。

ノハ#;゚听)(……本気で殺しに来てないだけ、マシかな)

本気で殺すと言っていたジュカイだが、それは為されていない。
もし本気ならばヒートは一秒たりとも存在を許されていないはず。

まだ生きている。
まだチャンスはある。

考えろ。
このような構図になることは、英雄神も予想済みのはずだ。
つまり突破口が用意されている。
何処がそれになりえるのか――

――止めて下さい。

先ほどジュカイが発した、何故か引っかかっていた言葉がヒートの脳裏に蘇る。

ノハ#゚听)「!?」

そこで、ヒートは気付いた。
剣帝を相手に、条件を満たす方法を。



29: ◆BYUt189CYA :2007/01/16(火) 21:33:29.85 ID:my1OhqX50
  
┗(^o^ )┓「……?」

ノハ#--)「すぅー……はぁー……」

汗を拭って深呼吸。

落ち着け、落ち着け、落ち着け――

心に念じるは安静の言葉。
勝負は一瞬、結果は生死。

死ぬことはないとは言っていたが、それは形式上の話だろう。
架空世界の死は精神的な死を意味する。
つまり『死んだ』という事実は心に残ってしまう。

そこから生まれるのは圧倒的な死に対する恐怖。
二度と剣を持つことは出来なくなるだろう。

命の保証はされているが、戦士としての命は危険に晒されている。

ヒートにとっては、それが何よりも許せないことだった。
戦えなくなりながらも生きるなんてありえない。
そもそも英雄になれないなんて、それこそありえない。



31: ◆BYUt189CYA :2007/01/16(火) 21:34:54.97 ID:my1OhqX50
  
ノハ#゚听)(約束したんだ、絶対に二人で英雄になるんだって――!)

親友と交わした約束。
それがヒートにとっての『背水の陣』の代わりとなった。

ノハ#゚听)「――いきます!」

己を鍛えてくれるジュカイに対して、自然と敬語を発した。
直後、地を蹴り疾駆。
一直線にジュカイの元へと向かう。

┗(^o^ )┓「やはり度胸は認めざるを得ません」

尚も余裕の笑みを残しながら剣を構える。
完全な迎撃態勢だ。

戦いにおいて有利なのは先手。
しかし、力量があればその理念は逆転する。
先手必勝という言葉があり、後手必勝という言葉もある。
それは一件矛盾するように見えるが、間違いだ。

全ては力量がモノをいう。

結局のところ、ジュカイが先手だろうが後手だろうが負ける道理は無いのだ。
そもそもヒートの飛燕は防御専用。
それを踏まえてジュカイを止める方法とは――



32: ◆BYUt189CYA :2007/01/16(火) 21:36:10.47 ID:my1OhqX50
  
ノハ#゚听)「あぁぁぁぁぁ!!」

ヒートが腕を振りかぶった。
未だ、距離は十メートル程残っている。

振る。

発せられたのは黒い物体。
それは縦に回転しながらジュカイの元へ向かった。

┗(^o^ )┓「っ!」

弾き飛ばす。
縦回転を加えられたそれは、ジュカイの真上へと飛んだ。
しかしその行方を見ている暇は無い。
弾いた動作の間に、ヒートが目の前までに接近していたのだ。

┗(^o^ )┓「――しかし!」

弾き上げた剣の柄を両腕で握り、叩き落とす。
それは唐竹と呼ばれる太刀筋。
彼女の脳天から最短距離で最速の一撃は瞬間とい――

金属音。



33: ◆BYUt189CYA :2007/01/16(火) 21:37:37.18 ID:my1OhqX50
  
それは防がれた。
原因はヒートが振り上げていた左手。
逆手に構えられたそれは、ジュカイの剣を受け止めている。

ノハ#;゚听)「くっ……」

しかし威力までは殺せない。
受け止めたはずの剣は更に押し、左手は彼女の額に付く。

┗(^o^ )┓「それは――」

そこで気付いた。
彼女が持っている黒い物体は飛燕ではないことに。
それは飛燕の鞘。
おそらくこちらに向かってくる途中で回収していたのだろう。

ということは――

┗(^o^ )┓「先ほど弾き飛ばした飛燕が本命ですか」

ノハ#;゚听)「!」

図星か。
ヒートの目が見開かれる。

直後、風切音。
真上へ飛ばされた飛燕が落ちてくる音だ。



35: ◆BYUt189CYA :2007/01/16(火) 21:40:46.32 ID:my1OhqX50
  
┗(^o^ )┓「成程……私の一撃を鞘で往なした後にトドメを刺す作戦でしたか」

ですが、と言い

┗(^o^ )┓「それでは私を止めることなど出来ない」

言葉と共に鞘から剣を離す。
そのまま落下してきた飛燕を――弾き飛ばした。
飛燕はジュカイの右方向へと飛び、そのまま地を滑走する。
それを見届けたジュカイは少しの吐息。

┗(^o^ )┓(少し、失望しま――)

動き。
それはヒート。
自由になった左手の鞘を、逆手から順手へ持ち変える。
ジュカイがその気配に気付き、構えようとした瞬間。

┗(^o^;)┓「!?」

右の視界が黒に染まった。
眼球数センチ前に鞘の先が在ることに気付いたのは数瞬後。

それは、ヒートが全力で突き出した攻撃。
突然のことに驚いたジュカイの動きが止まる。



36: ◆BYUt189CYA :2007/01/16(火) 21:42:03.27 ID:my1OhqX50
  
ノハ#*゚听)「――止めたッ!」

少し笑みを乗せた表情で宣言。
その言葉の意味を理解するまで、ジュカイは数秒の時を必要とした。

┗(^o^;)┓「……成程、確かに……止められましたね」

まさか攻撃に転じるとは。
ジュカイは、ヒートの奇策に対して素直に驚く。

本当ならば、己の攻撃をある程度防いだ時点で認めるつもりであった。
己の攻撃は通じない、という精神的な意味での『止めて下さい』だったのだ。

しかし彼女は、小さな策を用いて物理的に止めに掛かる。
防御用の刀で攻撃をするわけが無い、という心理を突き
更には攻撃したとしても飛燕を用いるだろう、という深層心理さえも突いた攻撃。

その策は、戦いに身を置き慣れていたジュカイの穴を的確に突き刺していた。
結果がそれを如実に表している。

┗(^o^;)┓(これはまさに予想GUYです……)



37: ◆BYUt189CYA :2007/01/16(火) 21:43:42.03 ID:my1OhqX50
  
感心するジュカイを目の前に、ヒートは安堵の息を吐いた。

ノハ#;゚听)(まさか『剣帝』相手に通用するとは……)

駄目元でやってみて正解だった。
本来ならば落下した飛燕を、どうにかキャッチしてトドメを試みるつもりだったのだが
気付かれた時は流石に全身の血が凍るような錯覚に陥った。

しかし諦めないという決意と、長年重ねてきた経験が身体を動かしてくれた。
その結果が今、目の前にある。

ノハ#;゚听)「え、えと……」

┗(^o^ )┓「えぇ、良い意味で裏切られました」

彼は今までの笑みとは異なる、優しい笑み。

┗(^o^ )┓「認めましょう……第一関門クリアです」



38: ◆BYUt189CYA :2007/01/16(火) 21:45:10.46 ID:my1OhqX50
  
ジュカイの声を聞いた途端、ヒートの心に何か熱いものが込み上げてくる。
それは歓喜の声として表現された。

ノハ#゚听)「――やったッ!!」

ガッツポーズをとりながら、嬉しそうに声を上げる。
その子供のような仕草を見ながら

┗(^o^ )┓「ですが、まだ第一関門だということは忘れないで下さいね」

ノハ#*゚听)「わ、解ってる! でも嬉しいものは嬉しいの!」

┗(^o^ )┓「まぁ、勝利の喜びは噛み締めるに限りますからね」

と言いながら、歩き始める。
ヒートの怪訝そうな表情を受け止めながら、彼は奥の鉄扉の前に到着した。

┗(^o^ )┓「これが階下への扉です。
       第二関門では私の兄が相手をします故、御注意を――」

ノハ#゚听)「注意?」

┗(^o^ )┓「申し上げにくいのですが……彼は私と違って、容赦というモノがないのです」

返答と共に扉を開く。
その奥から、何か表現し難い『圧』が流れ込んでくるのが解った。

ノハ#;゚听)「…………」

┗(^o^ )┓「では、次も頑張って下さい。 応援してますよ」



39: ◆BYUt189CYA :2007/01/16(火) 21:46:30.80 ID:my1OhqX50
  
暗闇の洞窟。
内部は沈黙だ。

('、`*川「…………」

半ば馬乗りになった女性の硬く握った拳が

( д )「…………」

倒れている男性の顔面に突き立っている状態。

一瞬の隙の結果だ。
地面が見えないという状況は、思ったよりも隙を生み出しやすい。
この地面のような突起が多い場所ならば尚更だ。

抵抗が無いことを確認した『二極』は、拳を離して距離をとる。

('、`*川「……なぁんだ、案外呆気ないね」



40: ◆BYUt189CYA :2007/01/16(火) 21:47:56.98 ID:my1OhqX50
  
握った手を開放しながら振る。
汗一つ浮かんでいない頬をポリポリと掻きながら

('、`*川「卑怯って言われても仕方ないかもしれないけどさぁ。
     人生っていうのは、時に理不尽な不幸が舞い降りるわけで」

つまりは事故だ。
彼は偶然に足を引っ掛けバランスを崩した。
『二極』は、その偶然を見逃さずに一撃を放った。
その偶然によって彼は英雄になれるチャンスを失った。

たった、それだけ。

('、`*川「まぁ、運が悪かったと――」

「いや」

男の声。
それは地面の方から聞こえてきた。

('、`*川「……へぇ」

( ゚д゚ )「運が良かった……その結果がこれだな」

朽ちたと思われたミルナが、ゆっくりとした動作で立ち上がった。



41: ◆BYUt189CYA :2007/01/16(火) 21:49:09.40 ID:my1OhqX50
  
('、`*川「おっかしいなぁ……人中をちゃんと突いたはずなんだけど?
     頚椎まで衝撃が伝われば致命傷にもなり得る場所なんだよ?」

( ゚д゚ )「悪いな、俺はワケあって打たれ強いんだ」

背中や尻についた砂埃を叩きながら、余裕の声でミルナは言う。

( ゚д゚ )「さて、アンタの手口は大体解った……もう油断はしない」

左足を出す。
地に着いた脚部は、しかし勢いを止めない。
ズン、という重い音が響く。
それは踏み出した足が発生させた衝撃だった。

('、`*川「へぇ……震脚、か」

( ゚д゚ )「む、何かよく解らんが名前があったのか」

('、`*川「いや、でも構えに使用したってことは南派……。
     それでいて形状は三体式に近い……形意拳っぽいから北派も混ぜてるんだ」

( ゚д゚ )「?」

('、`*川「ふぅん、言うなれば形意拳を基本とした剄使いってわけか。 面白そうじゃない。
     っていうか、何でこの世界の住人のアンタが中国拳法なんてやってるの?」

(;゚д゚ )「いや、そんなことを言われても解らん。
     その名称だって初めて聞いたぞ」



42: ◆BYUt189CYA :2007/01/16(火) 21:51:01.40 ID:my1OhqX50
  
('、`*川「まぁいいや。 貴方の名前は?」

コロコロと話題を変える『二極』。
そんなヒートにも似た調子に、彼は少しの懐かしさを覚える。

( ゚д゚ )「ミルナだ」

('、`*川「ミルナ君、ね……私はペニサスって言うの。 よろしくね」

( ゚д゚ )「業名の意味は? 二極とは?」

('、`*川「二極とは、二つを極めし者への称号を示すわ。
     ちなみにその二つってのは『拳』と『体』――つまり私は格闘系英雄ってわけ」

ほぅ、と感心を示すミルナ。

( ゚д゚ )「成程……これは俺の相手として望ましいな」

('、`*川「どゆこと?」

その言葉を引き金に、彼は再度足を鳴らした。
振動が洞窟内に響き渡る。

拳を握り締め、おそらくペニサスのいるであろう位置を睨みながら言い放った。

( ゚д゚ )「鍛えてくれよ、俺を――!」



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