ノパ听)ヒートと( ゚д゚ )ミルナは英雄になるようです

2: ◆BYUt189CYA :2007/01/18(木) 21:05:50.78 ID:3ZChHhLM0
  
第三話 『ミルナの戦い』

洞窟内に音が響く。
暗闇を基本として空間内に、痛みを耐える声が聞こえる。

( ゚д゚ )「……!」

('、`*川「ほいさ! ほいほい!」

ミルナの周囲を俊敏な動きで飛び跳ねながら、打撃を加えていく。
足は使わず、それは移動にしか使われない。
攻撃の中心は拳打だ。
ボクシングのジャブのように、高速で撃ち出される弾丸のような連打。

時折隙を見つけては急所目掛けて、腰を捻った強烈な一撃が発射される。

しかしミルナは間一髪で回避する。
回避と言っても当たらぬわけではない。
急所以外の部位で受け、極力ダメージを軽減しているのだ。

それは、長年殴られ続けた経験から来る直感。
身体が防御に特化しただけでなく、精神も防御に特化しているのだ。



3: ◆BYUt189CYA :2007/01/18(木) 21:07:03.19 ID:3ZChHhLM0
  
('、`*川(へぇ……防御技術だけなら英雄名乗れるわね)

だが、それだけでは駄目だ。
英雄になるためには、ただ強ければ良いというわけではない。

言うなれば秀でた能力。
一般人では到底及ばない力。
更には、先を読む思考。

そして、一番大事なのは――

( ゚д゚ )「おぉぉぉ!!」

思考中のペニサス目掛けて巨大な拳が放たれる。

一瞬遅れての激音。

震脚から発生する剄を用いた一撃だ。
それは発剄と呼ばれる。

動作や意識の集中、呼吸法によって体全体の力の重みを調整し、爆発的な衝撃を発する技術。



4: ◆BYUt189CYA :2007/01/18(木) 21:08:24.56 ID:3ZChHhLM0
  
('、`*川「っと……」

回避し、距離をとる。
ここまで下がればミルナの目では見えないだろう。

('、`*川(しかしまぁ……)

剄の流れが自然だ。
何処の誰に教わったのか解らないが、相当に教え方が上手かったのだろう。
それとも彼自身の飲み込みが良かったのか。

どちらにせよ、あんな攻撃を腕で防御すれば衝撃が内部で爆発……最悪の場合はそのまま骨折だ。

だが、欠点があった。

それは彼の扱う剄は『明剄』がほとんどだということ。
更には『短剄』『剛剄』と、力任せで察知し易い攻撃が多いのである。

('、`*川(んで、一番最悪なのが『連環剄』が出来てないこと)

剄による一撃は、上手くいけば確かに強力だ。
しかし単発ではどうしても見切られやすくなる。



5: ◆BYUt189CYA :2007/01/18(木) 21:09:58.78 ID:3ZChHhLM0
  
その対抗策が『連環剄』だ。
一勁一勁を途切れずに繋げ、攻撃に隙間を無くす技術。
これが出来て初めて剄の使い手といえるほど重要な技である。

見た限り、ミルナはこれが出来ない。

これは剄使いだけでなく、格闘家としては致命的だ。
格闘家は格闘という性質上、どうしても接近戦を余儀なくされる。
逆を言えば、相手の攻撃を受ける可能性も高くなるということ。

それをさせぬための連撃である。
格闘を嗜む者ならば会得していて当然の技術。

ミルナにはそれが備わっていなかった。

('、`*川(やれやれ……何か見せ付けるようで嫌なんだけど)

音を立てずに走り出す。
暗闇の中に浮かぶミルナは、こちらを見ていない。

――初撃はもらった。

彼の直前で気合の声。

( ゚д゚ )「!?」

突如として現われた敵の気配に、ミルナは慌てて腕を上げて構える。
だからこそ、下半身が開いた。



7: ◆BYUt189CYA :2007/01/18(木) 21:11:19.62 ID:3ZChHhLM0
  
('、`*川「連撃っていうのは――」

身を屈しながら、鎌を振るうかのような足払い。
それはミルナの片足を吹き飛ばすには至らないものの、バランスを崩すには充分な威力。
ミルナの上半身が降りてくる。

('、`*川「こうやって――!」

身を跳ねさせながらのアッパー。
相対速度を用いて直撃したそれは、ミルナの上半身を逆に折る結果となった。
再度、地に伏せかけるミルナ。

跳んだペニサスは直滑降するように飛び掛る。

そのまま喉元目掛けて手刀。
高速の突きは

(;゚д゚ )「くっ!」

防がれる。
強靭な腕がそれをガードしたのだ。

('、`*川「へぇ、普通なら昏倒してワケも解らずにやられるはずなんだけどなぁ」

腕を振るう。
弾き飛ばされるように、ペニサスは距離をとった。



8: ◆BYUt189CYA :2007/01/18(木) 21:12:41.26 ID:3ZChHhLM0
  
( ゚д゚ )「ちっ……」

見えない。
これがミルナの心を惑わせる。
元々、彼は気配を察知するというような器用な真似は出来ない。
故にこの暗闇状態では、本当に何も見えないのだ。

攻撃直前にペニサスが声を出すのは、おそらく遊びだろう。
完全に嘗められている。

( ゚д゚ )(どうするか……)

少し引っかかる点ならあった。
それは彼女の台詞。

『――はずなんだけど』

彼女はそれを攻撃後に必ず言う。
つまり、自分の防御力に少なからず戸惑っているのだ。

ならば、そこを突けば良いのだが――



9: ◆BYUt189CYA :2007/01/18(木) 21:14:11.15 ID:3ZChHhLM0
  
( ゚д゚ )(……突けば、ってどうすれば良いのだ?)

防御に関しては天才的な勘を持っていながら、いざ攻撃に転じると何も思いつかない。
それがミルナの明確な弱点であった。

('、`*川(さて、どうしてくれるのかな?)

ペニサスが見る部分はそれである。
戦いとは撃破してからこそ終わりがあるのだ。
防御に回っていては、援護が無い限りは永遠に勝てない。

ミルナに足りないものは、その心。
勝ち取るという貪欲な精神。
相手を引き裂いてでも、自分の目的を達成せんとする冷酷な心。

――優しさだけでは、勝てないのだ。



11: ◆BYUt189CYA :2007/01/18(木) 21:15:31.97 ID:3ZChHhLM0
  
( ゚д゚ )「…………」

圧倒的に不利な状況。
ただでさえ暗闇で相手が見えないというのに、更には攻撃手段を見出すことが出来ない。

殴るか?
蹴るか?
投げ飛ばすか?

ペニサスに通用する技術を、自分が持っているか?

答えは『否』。
攻撃に関しては向こうが上だ。
攻撃に詳しいという事は、回避防御方法も心得ているという証拠でもある。

防御以外は素人同然の自分が攻撃しても意味が無いことは明白。

ならばどうする。



12: ◆BYUt189CYA :2007/01/18(木) 21:16:50.58 ID:3ZChHhLM0
  
('、`*川「んじゃ、次いくよ」

高速で来る。
地面が安定していないことから、あまり足を使っての移動は出来ない。
腕を上げ、顔周囲の急所を護るように構える。

( ゚д゚ )「ッ!?」

しかし、ペニサスの攻撃は腕二本で護れるほど甘くは無い。
腕を上げれば下が無防備となる。
攻撃軌道が見えないミルナにとっては、もはや勘で防御するしか残されていない。

その隙間を縫うようにして拳が迫る。
的確に急所を狙っていた。
流石のミルナも、何度も急所に当てられてはたまったものではない。

だが――

( ゚д゚ )(拳が届くということは、付近にいるということだ!)

ペニサスの拳が腹部に直撃する。
しかし痛みを無視したミルナは、その先に向かって殴打を繰り出した。

('、`*川「へぇ」

言葉と共に拳の先に感触。
それはペニサスの空いた手が正面から触れたことを示していた。



13: ◆BYUt189CYA :2007/01/18(木) 21:18:18.08 ID:3ZChHhLM0
  
( ゚д゚ )(手の平程度で止められると――)

思った瞬間。

( ゚д゚ )「!?」

衝撃。
それは拳の先から伝わり、肘を通過し、肩へ到達し――

行き場を失った故に爆発した。

(;゚д゚ )「ぐぅぅぅ……!?」

突如として訪れた左肩の激痛に、顔をしかめるミルナ。
そしてそれを笑みで見つめるペニサス。

('、`*川「『化剄』っていってね。
     本来は相手の剄を無効化したりする技術なんだけど
     ちょっとした応用で、相手の勁をそのまま相手に返すことが出来るんだわ」

要は衝撃の反射だ。
攻撃部位が触れた瞬間、衝撃が来る直前に反対側から衝撃を与える。
すると、一直線に来ていた衝撃がぶつかり合い跳ね返るのだ。

衝撃は行き止まりまで止まることはない。
結果、ミルナの左肩頂点にて爆発を起こしたのだ。
(爆発といっても、破裂などを指すのではないので御注意)



14: ◆BYUt189CYA :2007/01/18(木) 21:20:36.80 ID:3ZChHhLM0
  
(;゚д゚ )「チッ……」

更に状況は悪くなった。
無意識といえど、剄を使う限りは衝撃反射がある。
これで攻撃は封じられたも同然。

肩に残る痛みに耐えながら、ミルナは歯噛みする。

どうすれば勝てるか。

( ゚д゚ )(いや――)

違う。
勝てるか、ではない。
どうすれば認められるか、だ。

( ゚д゚ )(待てよ……)

先ほどからの攻防を思い出す。
ペニサスの行動、挙動、動き、気配の流動。
そしてあの厄介な化剄。
無意識に、機械的に溜め込んでいた情報を分析する。



15: ◆BYUt189CYA :2007/01/18(木) 21:22:38.51 ID:3ZChHhLM0
  
ミルナの脳内にPCのウインドウのようなモノが展開する。
今まで溜めていた情報を形にし、関連付け、そして理解するために。

擬似的に表現された過去のペニサスの動きをトレース。
点を穿ち、線で結び、形を作り上げる。
高速で展開されるそれは、確実に過去の記憶を表現していった。

ペニサスの攻撃、速度、タイミング、順、方向、風の流れ、威力――
敵の全てを記憶していた、と言っても差し支えないほどの情報量。
それら全てをミルナは瞬間的に分析した。

気付く。

『穴』があることに。
無意識か否か解らぬが、ペニサスの挙動に穴がある。
普通ならば気付けない程の、小さな隙間。

しかし、ミルナの分析力はそれを発見した。

それが意味することとは――

( ゚д゚ )「!」

思考の切り替え。
それが、ミルナに光明をもたらした。



16: ◆BYUt189CYA :2007/01/18(木) 21:24:17.71 ID:3ZChHhLM0
  
('、`*川「ん?」

( ゚д゚ )「そうか……!」

彼は閃いた。
己の力を相手に認めさせる方法を。

思った直後に地を蹴る。
迷いを生み出さないために。
迷いがあれば、おそらくはペニサスに立ち向かうことは出来ない。

('、`*川「この暗闇を走るか……やるぅ」

しかし

('、`*川(私と君の間には、一つの地面の出っ張りがあるんだよね)

( ゚д゚ )「百も承知!」

('、`*川「!?」

出っ張り。
予想ならば、そこで足を引っ掛けて転んでしまうはずのトラップ。
しかし、それをミルナは強靭な足で踏みつけた。

轟音。
地が叫び、空間が響く。



17: ◆BYUt189CYA :2007/01/18(木) 21:25:53.86 ID:3ZChHhLM0
  
('、`*川(――!)

彼は出っ張りの位置を把握していた。
その事実と不可解さに翻弄されることなく、ペニサスは拳を構える。

慌てることはない。
ミルナはこちらを視認出来ないのだから。
がむしゃらに撃ってきた攻撃を避け、その顔にカウンターを叩き込めば良い。

風。
そして、ミルナの拳。

( ゚д゚ )「ッ!」

轟、という風を切る音と共に力の塊が迫る。
それは一直線に、ペニサスの顔面を目指して直進し――

('、`*川「ふっ!」

突き抜ける。
ペニサスは、それを左方向へ重心を落としてかわした。



19: ◆BYUt189CYA :2007/01/18(木) 21:27:13.34 ID:3ZChHhLM0
  
加工された瞳で見る。
左腕を突き出したミルナが、ペニサスの背後へ視線を向けていることに。

やはり見えていない。
後は、その隙だらけの顔面に拳を叩き込んで

そこで、気付く。

('、`*川(左、腕……?)

思い出す。
確か事前に伝えられた情報では、彼は右利きのはずだ。
今、彼は決死の覚悟で攻撃を仕掛けてきた。
それなのに何故、利き腕とは逆の――

集中した意識に映るスローモーションで動く状況。
その視界内のミルナの視線が

( ゚д゚ )

こちらを向いた。
途端、ゾクリと背筋を這い登る悪寒。
更なる風。
それはペニサスの正面から、圧を以って迫っていた。



21: ◆BYUt189CYA :2007/01/18(木) 21:29:01.05 ID:3ZChHhLM0
  
ミルナの硬く握られた右拳。
その速度とタイミングから判断して、最初から狙っていた動き。

('、`*川(でも――!)

二度目の不可解だが、それでもペニサスの精神は揺るがない。
それは『二極』という極めし者のプライドからか。

突如として出現した拳をしっかりと睨み、軌道と速度を一瞬で把握。

充分に対処出来る。
それどころか化剄も行えそうだ。

上げていた腕の照準を合わせる。
衝撃の跳ね返しとは、真正面からの衝突でなければ発動しない。
拳の軌道、速度、剄の流れ、その他諸々を全て把握しなければ不可能な技術。

ペニサスの技量はそれを可能とする。
格闘家として修練してきたその目は、あらゆる速度のものを捉えるのだ。

当然、攻撃の素人であるミルナの拳の分析も一瞬で為される。



22: ◆BYUt189CYA :2007/01/18(木) 21:30:23.53 ID:3ZChHhLM0
  
('、`*川(ここ!)

( ゚д゚ )(ここだ!)

タイミングは完璧。
直後、ペニサスの手にミルナの拳が触れた。
ここで少量の剄を流し込んで反発させれば――

('、`*川「え……?」

無い。
抵抗が無い。
更に言えば剄が無い。
ミルナから流れ込んでくるはずの剄が、無いのだ。

('、`*;川(まさかこれも最初から――!?)

慌ててミルナの足元を見る。
踏み込んだ左足。
その膝がほとんど折れていなかった。

('、`*;川(つまり震脚を行っていない……剄はまだ彼の身体の中!?)

右腕を振っていることによって、右半身が前へと出ている。
つまり、下半身の溜めが出来上がっているのだ。



23: ◆BYUt189CYA :2007/01/18(木) 21:31:48.03 ID:3ZChHhLM0
  
そこから撃ち出されるのは

( ゚д゚ )(ここで――!!)

左足に力を籠めての震脚。
地が震え、衝撃と力がミルナの右足に集う。
力の流動バランス・タイミング――全ての要素が噛み合った。

発射されるは右足。
力が集中した、全てを吹き飛ばす大砲。

高速かつ強力。
その力の塊がペニサスの腹部を捉えた。

('、`*川「――ッ!?」

触れた直後。
ペニサスは、無防備にミルナの剄を受けた。
そこから発生する事象は圧倒的な爆発力。

まるで糸の切れたマリオネットのように、まるで中身が詰まっていない人形のように。

ペニサスの身体が吹き飛んだ。
弧を描き、錐揉みし、放物線を描きながら。
しばらく宙を飛んでいたが、そのまま地へと落ちる。

重々しい音が響いた。
それは人間が無抵抗に地と激突する音。



24: ◆BYUt189CYA :2007/01/18(木) 21:33:27.46 ID:3ZChHhLM0
  
( ゚д゚ )「…………」

沈黙。
落ちた先は見えない。
ペニサスがどうなっているのか見えない。

しかし、その続く沈黙が『少なくともダメージを与えた』という事実の確率を上げていく。

それが数十秒続いた頃。

( ゚д゚ )「……やった、か?」

構えを解かずに息を吐く。
まだ安心は出来ない。
いくら剄の直撃が強力とはいえ、英雄のペニサスがこのまま沈むとは思えない。

英雄の名は伊達ではないのだ。
格闘系ならば尚更である。

そしてそれは真実となった。

「イテテテテ……」

おそらくは仰向けに倒れていたのか。
暗闇の向こうから、よく通るペニサスの声が響いてきた。



25: ◆BYUt189CYA :2007/01/18(木) 21:35:18.26 ID:3ZChHhLM0
  
( ゚д゚ )「チッ」

やはり難しいか。
他の英雄に比べ、格闘系英雄は総じて反射神経が並ではない。
あの蹴りの瞬間、彼女は確かにこちらの足を見ていた。
つまり察知していたのだ。

もし、気付かれずに直撃していたならば気絶していたのだろうが――

「あー……やられたやられた」

歩き出す音。
音がはっきりと単調に続くことから、どうやら大したダメージにはなっていないらしい。

('、`*川「なかなか良い攻撃だね。
     っていうか、何で出っ張りの位置や連撃タイミングがバッチリだったの?」

疑問の内容は的確。
それら全てがミルナの咄嗟の策だった。
内容がしっかりしているだけに、ミルナは正直に答える。

( ゚д゚ )「アンタの攻撃してくる方向を全て記憶していた。
     すると、ある幾つかの方角を避けていることに気付いたんだ」

('、`*川「うげっ、人間技じゃないよそれ」



26: ◆BYUt189CYA :2007/01/18(木) 21:36:37.49 ID:3ZChHhLM0
  
( ゚д゚ )「避けたということは理由がある。
     そしてお前が離れた方角が、その避けていた方角と一致していた。
     つまり何かが在ると考えられる。
     この洞窟内において何かがあるとすれば地だろう……勘だが、そういうことだ」

('、`*川「じゃあ、あの連撃タイミングは?」

( ゚д゚ )「俺がたまに放つカウンター。
     アンタのそれに対する75%以上が左方向回避。
     だから咄嗟の回避に関しては、ほぼ100%左方回避だと思っただけだ」

そこまで計算しての連撃だったのだ。

('、`*川「こりゃ驚いた。
     私はある意味、君の思惑通りに動かされてたってことか」

( ゚д゚ )「いや、アンタは普通通りに動いただけで……俺がアンタに合わせたんだ」

('、`*川「ははぁ……どうにも軟質なスタイルだね、君は」

( ゚д゚ )「人生が受け身なんでな」

('、`*川「うんうん、ウザったらしく攻め気でいるよりもマシだと思うよ私は」

( ゚д゚ )「さっきから攻めまくっているくせによく言う」



27: ◆BYUt189CYA :2007/01/18(木) 21:38:26.75 ID:3ZChHhLM0
  
ザリ、という足で地を削る音。
どうやらその場で構えたらしい。
攻撃の気配を察知し、ミルナも双眸を細めて警戒する。

('、`*川「分析力とか記憶力は認めるよ……学者になった方がいいくらいだ。
     でもこれは英雄試練、まだ本質的な部分では私は認めない」

( ゚д゚ )「あぁ、その方が俺も嬉しい。
     あの程度で認めるならば、俺は英雄を蹴るところだった」

('、`*川「なかなか男らしい精神の持ち主だこと……じゃあ、いくよ」

地を蹴る音。
見えぬが、こちらに走ってくる音が聞こえる。

まさか倒れていた方向から来るとは思い難い。
ミルナは声の方向から視線を逸らし―ー

('、`*川「ほいっ!」

( ゚д゚ )「!?」

真正面からの一撃。
ある種、予想から除外していた方向からの攻撃だ。



29: ◆BYUt189CYA :2007/01/18(木) 21:39:59.13 ID:3ZChHhLM0
  
( ゚д゚ )「むっ!」

しかしミルナの反射神経はそれに対応する。
拳が頬に触れた瞬間、彼は上半身を背後へ動かしたのだ。

('、`*川「!」

攻撃の衝撃は受け流される。
しかも背後へ重心を動かしたミルナに、溜めが出来上がっていた。
その動きは

('、`*川「粘剄のつもり?」

粘剄。
読んで字の如く、粘着した動き。
密着して付かず離れず相手の動作を封じる。
相手が引いたら押し、押したら引いてとすることで衝撃の受け流しを狙う技法。

ペニサスがカウンターを恐れて退く。
しかしミルナはそれを追った。



30: ◆BYUt189CYA :2007/01/18(木) 21:41:42.54 ID:3ZChHhLM0
  
( ゚д゚ )「おぉぉ!!」

粘剄の動きで押す。
密着姿勢ということは、彼我間の距離がほぼ零だということだ。
そこで活かされる攻撃とは何か。

『短剄』、『剛剄』
つまりミルナの最も得意とする攻撃。

('、`*;川(しまっ――)

咄嗟に退いてしまった。
まさかこれさえもミルナの思惑――

( ゚д゚ )「ふっ!!」

気合の声。
共に撃ち出されるは右フックのような一撃。
それが彼女の脇腹に向かうも

('、`*川「密着状態でも防御は出来る! 甘い!」

右方から迫る拳を、腰を引きながら左腕で受け流す。
腹部の前を、鋭く通過していく強靭なミルナの腕。



31: ◆BYUt189CYA :2007/01/18(木) 21:43:18.40 ID:3ZChHhLM0
  
回避した。
これでミルナの身体は隙だらけだ。
右腕を左方へと突き出している形故に、左拳が突き出せない。
しかもそれによって顔面を守れない状態。

そこへ叩き込めば終わりだ。
いくらミルナが頑丈だからとはいえ、この状況では受け流しも防御も不可能。
無防備は無防備。
抵抗が無ければ、どんなモノでも崩れ落ちる。

('、`*川(これで終わり!)

硬く握り締めた拳を突――

トン、と軽い衝撃。
それは胸元から。
見る。
ミルナの出した右肩が、ペニサスの胸元に当たっている。

――何だ?



32: ◆BYUt189CYA :2007/01/18(木) 21:44:45.66 ID:3ZChHhLM0
  
疑問と同時に答えが来る。

('、`*;川(ま、まさか――)

( ゚д゚ )「――おぉぉぉ!!」

彼の攻撃は終わってはいなかった。
左足で行った震脚を、今度は踏み出した右足によって行う。
爆発的に発生した剄を右半身へと集中。

要は八極拳の要領だ。
その敵と接近した間合いで戦うことを最も得意とする拳は、体当たりでさえも攻撃方法のひとつとする。
剄を利用したそれは、想像以上の攻撃力を生む。

そして、その剄を用いた八極拳風体当たりがペニサスの胸元を中心として

( ゚д゚ )「ッ!!」

発動した。



33: ◆BYUt189CYA :2007/01/18(木) 21:45:58.32 ID:3ZChHhLM0
  
('、`*川「ぉ――」

衝撃によって、肺から漏れた空気が声として出る。
しかしそれは一瞬で消え失せる。
何故ならペニサスの身体が高速で吹き飛んだからだ。

放物線を描くことなく、一直線に暗闇へ。
それを細めた双眸で見つめるミルナ。

少しの沈黙後、硬質な音が響いた。

('、`*川「ぐっ……!」

という、ペニサスの苦痛の声と共に。

おそらくは洞窟の壁に激突したことによる音と声だろう。
カラカラ、と石の破片が転がる音も聞こえる。

( ゚д゚ )「…………」



42: ◆BYUt189CYA :2007/01/18(木) 22:17:28.12 ID:3ZChHhLM0
  
沈黙。

今度こそ、どうだろうか。
おそらく大したダメージではないが、己の力は出し切った。
これで駄目ならば――

( ゚д゚ )「!」

光。
突如として、洞窟内が照らされる。

何の前触れも無く入ってきた光に、ミルナは目を細めて対応。

( ゚д゚ )「むぅ……」

慣れてきた目で周囲を見渡した。

意外と広いようだ。
音の残響から判断していた広さ、よりも少々大きい程度か。



43: ◆BYUt189CYA :2007/01/18(木) 22:19:01.16 ID:3ZChHhLM0
  
そして一点で視点が止まる。

('、`*川「あうー」

仰向けに倒れているペニサス。
間抜けな声をあげている所を見ると、随分と余裕らしい。

( ゚д゚ )「突然明かりがついたが、どうなったのだ?」

('、`*川「簡単だよ」

のっそりと上半身だけを起こしながら、彼女は言う。

('、`*川「私が認めた……たったそれだけの話」

( ゚д゚ )「む、そうなのか」

('、`*川「色々と言いたいことはあるけど、とりあえず合格かな。
     ちなみに助言しておくけど、最後の体当たりは防御を活かしながらすると効果あるよー」

( ゚д゚ )「ふむ」



44: ◆BYUt189CYA :2007/01/18(木) 22:20:43.70 ID:3ZChHhLM0
  
('、`*川「私から言えるのはこれだけかなー。
     んじゃ、さっさと次にレッツゴーしてちょうだい」

声と共に轟音。
ミルナの背後の壁が、突如として崩れたのだ。

('、`*川「第一関門突破ってことで。
     次はもっと辛いけど、頑張りなよー」

ヒラヒラと手を振りながら見送るペニサス。

( ゚д゚ )「?」

('、`*川「どうしたの? さっさと行きなよー」

(;゚д゚ )「あ、あぁ……世話になった」

どうにも急かされているような気がする。
しかし聞いても答えてくれそうにも無いので、ミルナは素直に洞窟を出て行った。

出て行く直前で、しっかりと礼をする。
そこらへんは彼らしい行為だった。



45: ◆BYUt189CYA :2007/01/18(木) 22:21:58.92 ID:3ZChHhLM0
  
しばらくの沈黙。

ミルナの気配が完全になくなったと判断したペニサスは

('、`*川「あー、疲れ――げほっ、ごほっ!」

声と共に何かを吐き出す。

血の塊だった。
粘質なそれは、ペニサスの手の平からポタポタと落ちていく。

('、`*川「うわー……こりゃ痛いわ」

口元を拭う。
血液がこびり付いた服を見もせず、彼女はそのまま仰向けに横たわった。

('、`*川「いや、まさか私があんな少年にやられるとはね。
     私もまだまだってことかな……反省反省」



46: ◆BYUt189CYA :2007/01/18(木) 22:23:39.11 ID:3ZChHhLM0
  
と、新たな気配。
それはペニサスの足元の先から。

「……手応えはどうですか?」

('、`*川「見ての通り。
     ちょっと油断したらこうなった。
     攻撃は素人同然だけど、爆発力は凄いよ」

「そうですか。
 特にミルナ君は貴女の内臓にまでダメージを与えてるようですね。
 ジュカイの報告も聞きましたが、彼らは将来有望なようです」

('、`*川「さぁ、それはどうかな? 英雄になった何をするかはあの子達次第だよ」

「まぁ、それはそうですね……では、私はこれで」

言葉を残して気配が消える。
それを見届けたペニサスは

('、`*川「あー、ちくしょー! 修行のし直しだメンドクサイー!!」

と、悲痛な声をあげるのだった。



47: ◆BYUt189CYA :2007/01/18(木) 22:25:46.11 ID:3ZChHhLM0
  
鉄扉を抜けた先は、巨大な螺旋階段だった。

見上げれば天井が見えず、見下ろせば床が見えない。
突風とはいかずも、強めの風がヒートに襲い掛かる。

ノハ#;゚听)「うわぁ……」

恐る恐るといった様子で階段を降り始めるヒート。
ジュカイが言うには途中で扉があり、その先で第二試練が待っているらしい。

たまにある蝋燭くらいしか光源が無いため、足元は不安定だ。
硬質な音を立てながら慎重に進む。

第二試練がまだとはいえ、何が来るか解ったものではない。

ノハ#゚听)「いきなり突き落とされてお終い、なんて嫌だもんね……」

数分後。
彼女の予想は外れ、何事もなく扉の前に辿り着いた。

開く。
ギ、という錆の音を立てながら動く鉄扉。



48: ◆BYUt189CYA :2007/01/18(木) 22:27:26.63 ID:3ZChHhLM0
  
ノハ#゚听)「おぉ」

内部の景色を見ながら感嘆の声をあげる。
そこは、とても城の内部とは思えない光景だった。

轟音を立てながら落ちる滝。
周囲は木々が生え、鳥のさえずりが木霊する。

まるで自然をそのまま切り取って持ってきたような光景。

ノハ#゚听)「流石は仮想世界……もはや何でもありね」

足を進める。
踏みしめる土や草、匂い、空気……まさに自然そのものだ。

ノハ#゚听)「ここが試練の場所だっていうんなら、多分ここらへんに――」

あった。
滝の傍らに巨大な岩石。
その天辺に、あの時と同じように武器が置かれてあった。



49: ◆BYUt189CYA :2007/01/18(木) 22:28:41.93 ID:3ZChHhLM0
  
ノハ#゚听)「よっと」

高さ数メートルはある岩石を、軽々と登っていく。
まるで動物のような身の軽さである。

ノハ#゚听)「ん? これって……」

岩石の頂上。
置かれていた武器を見て、ヒートが軽く目を見開いた。

それを一言で言うならば、巨大な包丁。
柄などは刀だが、その先の刃が包丁そのままだ。
片刃のそれは、上空から降り注ぐ太陽の光を反射して綺麗に光っていた。

ノハ#゚听)(見た感じ、明らかに攻撃用だよね……)

手に取る。
思ったよりも重い。
片手ではどうにも扱いにくそうで、両腕で抱えることにした。



50: ◆BYUt189CYA :2007/01/18(木) 22:30:34.20 ID:3ZChHhLM0
  
この時、ヒートは未だ気付いていなかった。
真上から、鋭い視線を向けてくる人影の存在を。

「…………」

人影が動く。
背後に背負った槍のようなモノを取り出し、両腕でしっかりと構えた。

飛び降りる。

ノハ#゚听)「うーん……料理には使用出来そうにもないなぁ」

巨大包丁を見ながら、のん気にコメントをしているヒート。

その頭上から鋭利な槍が突撃してきたのは、直後だった。



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