ノパ听)ヒートと( ゚д゚ )ミルナは英雄になるようです

2: ◆BYUt189CYA :2007/02/02(金) 19:48:21.14 ID:Z8h/BzT20
  
第五話 『姫と騎士』

暗い空間がある。
それは通路と呼ぶには少々狭い、しかし通路だった。
壁も天井も床も無骨な石造りである。

( ゚д゚ )「…………」

男が歩いていた。
筋肉質な身体を動かし、堂々と。
通路内に詰まった陰湿な空気を切り裂く。

ペニサスとの戦闘が終了してから、数十分経過していた。
あの後現われた通路を、未だ彼は歩いている。

延々と続くように思われる狭い石造りの通路。
ようやく、その終わりが見えた。

扉だ。

片開きのそれは、少しでも叩けば壊れてしまいそうなほどボロボロである。



3: ◆BYUt189CYA :2007/02/02(金) 19:49:32.94 ID:Z8h/BzT20
  
( ゚д゚ )「この先、か」

歩きながら覚悟を決める。
扉を開いた途端に襲撃されることも考えておかねばならない。
英雄の試練とは、そういうことだ。
いつどんな理由で失格となっても文句は言えない。

全ては己の怠惰のせいである。

英雄になるということは、その怠惰を完全排除しなければ到底なれない。
ミルナはそれを理解していた。

( ゚д゚ )「――よし」

両頬を軽く叩き、気合を入れる。
そしてノブに手を掛け

一気に押した。



4: ◆BYUt189CYA :2007/02/02(金) 19:50:49.07 ID:Z8h/BzT20
  
滝の音が響く。
そこは森の中。

いや、元・森の中。

木々が鋭利な刃物のよって切断され、大半が打ち倒された空間。
中央部に、二つの人影が倒れていた。

ヒートとオワタだ。

二人は荒い息を吐きながら、仰向けで倒れている。
その表情は満足気だ。
ヒートが額に光る汗を流しながら

ノハ#゚听)「……ありがとうございました」

\(^o^)/「いえ、私はただ戦いたかっただけですよ」

二人は戦闘後の疲労で倒れている。
オワタは戦いたかっただけ、と言っているものの
その実は、ヒートをカウントダウン状態に慣れさせるためだ。



5: ◆BYUt189CYA :2007/02/02(金) 19:51:39.26 ID:Z8h/BzT20
  
トラウマを認め、狂気を抑えたヒートは一つの力を得る。
今、彼女はそれを完全にモノにしたのだ。

\(^o^)/「自分で言うカウントダウンは意味がありません。
       あくまで他人が放つカウントダウンが引き金になるということを忘れずに」

ノハ#゚听)「はい!」

声と共に勢い良く立ち上がる。

ノハ#゚听)「体力は取り戻したので、もう行きますね」

数分の休憩で体力が戻るわけがない。
しかし、彼女はここで時間を消費するのを良しとしなかったようだ。

\(^o^)/「えぇ、頑張って下さい……私はもう少しここで休んでおきます」

ノハ#゚听)「解りました。
      えと、御指導ありがとうございました!」

深々と頭を下げるヒート。
対して、オワタは軽く手を振るだけで終わった。



7: ◆BYUt189CYA :2007/02/02(金) 19:52:54.77 ID:Z8h/BzT20
  
それを合図としたかのように、ヒートは背を向けて歩き出す。
右腰には黒い脇差。
後腰には巨大な包丁刀と柄尻に接続された鎖。
最大十メートル以上にもなるそれは、余った部分を刀身に絡めていた。

ノハ#゚听)(弐ノ武『夜鴉(ヨガラス)』、ね……)

オワタから聞いた包丁刀の正式名称だ。
その特化した切断力と、鎖を用いたトリッキーな攻撃方法。
まるで夜闇に溶け込んだ鴉が、その身を躍らせて狩りをするかのような。

そして、彼女の背中にも新たな武器。

ノハ#゚听)(参ノ武『啄木鳥(キツツキ)』……)

差さっているのは鋭利な片刃の槍だ。
それはオワタが使用していた得物。

使用方法は普通の槍と大差ない。
長さも標準的だ。
特筆すべき部分は無いが
特化してるばかりの武器が二つある状態で、こういう武器も必要なのは確かである。



8: ◆BYUt189CYA :2007/02/02(金) 19:53:48.88 ID:Z8h/BzT20
  
槍は使ったことはあまり無いヒートではあったが
オワタとの最後の訓練時に色々と技術を盗ませてもらってあった。
使いこなせるかは解らぬが、それを達するのは自分だ。

新たな武器と志、そして妙なトラウマを得て。

ノハ#゚听)「――よしっ!」

ヒートは元気良く歩き始めた。



9: ◆BYUt189CYA :2007/02/02(金) 19:54:42.96 ID:Z8h/BzT20
  
広い空間。
冷えた風が少しだけ吹いている。

そこは闘技場にも似た空間。
円状の大地。
周囲には簡易な作りの観客席。

空、と言える空間は黒一色だ。
夜というわけではなく、ただの虚無空間。

( ゚д゚ )「……ほぅ」

扉を勢い良く開けたミルナの目に入ってきた景色は、大体そんな感じだ。
見るからに仮想空間だと解るそれは、逆に妙なリアルを感じさせる。

視線を下げれば一つの人影が目に入った。
その彼は、闘技場中央にて立っている。

( ゚д゚ )「あれが……」



10: ◆BYUt189CYA :2007/02/02(金) 19:56:03.20 ID:Z8h/BzT20
  
とりあえず足を進める。
ザッ、という大地を踏みしめる音が連鎖。
それが数十回続いた後に、ようやくそれは音を潜めた。

( ゚д゚ )「……アンタが試験官だな?」

ミルナの目の前にいる男は、こちらを向いていなかった。

その後姿は『巨大』の一言。
身長は二メートルを軽く越え、もしかすれば三メートルに近いかもしれない。
比較的巨躯であるミルナが子供に見えるほどの身長差である。

そんな彼が、こちらを振り返った。

|  ^o^ |「はい、そうです。 よく来ましたね」

と、丁寧な言葉を放ちながら。



11: ◆BYUt189CYA :2007/02/02(金) 19:57:02.23 ID:Z8h/BzT20
  
螺旋階段をひたすらに降り続ける。
拷問とも言えるその行為を、ヒートは数十分に渡って体験していた。

ノハ#;゚听)「長い……長過ぎる……」

いつまで経っても最下部が見えない。
確か、オワタと戦う前もこんな感じだった。

ノハ#゚听)「もう! さっさと終わりなさいよ、この階段め!」

地団太を踏みながら声をあげる。
変化は直後だった。

ノハ#;゚听)「わぷっ!?」

轟、と突風が吹き、ヒートの赤茶色の髪の毛を乱す。
慌てて腕で顔面をガード。
吹き荒れる風を懸命に耐える。

そういえば、ここは英雄神が常に見ている空間であった。
文句を言えば通じるのは当然である。



12: ◆BYUt189CYA :2007/02/02(金) 19:57:53.02 ID:Z8h/BzT20
  
ノハ#;゚听)(あちゃあ……やっちゃった)

心の中で反省。
すると、突風が突如として消滅した。
不思議に思い腕を下げる。

ノハ#゚听)「?」

いつの間にか目の前に鉄扉。
背後を振り向けば、長かった螺旋階段が消滅している。

ノハ#゚听)「むぅ……最初からそうしてくれればいいのに」

言ってから『しまった』という顔をするヒート。
しかし英雄神からの干渉は、それ以降一度も無かった。
そのことに安堵の息を漏らしつつ、彼女は鉄扉のノブに手を掛ける。

もはや躊躇は無い。

一気に押し開く。
重々しい音を立てながら、それは開いていき――



14: ◆BYUt189CYA :2007/02/02(金) 19:59:03.97 ID:Z8h/BzT20
  
重々しい音が響いた。
それはミルナが入ってきた扉とは逆方向の奥にある扉からだ。
ゆっくりと開いていく。
その様子を見ながら

|  ^o^ |「来ましたか」

と、巨大な男がポツリを呟いた。
同時に扉の奥から出てきたのは

ノハ#゚听)「こ、こんちには〜……」

少々オドオドとしながらのヒートだった。

( ゚д゚ )「ヒートか」

ノハ#゚听)「あれ、何でミルナがここに……?」

唯一の友人と久々に会えたことが嬉しいのか、彼女は小走りで駆け寄ってくる。
ガチャガチャ、と腰や背に差した三つの武器を音立てながら。

(;゚д゚ )「少し見ない内にだいぶ変わったな……特に腰周辺が」

ノハ#゚听)「うん、まぁね。 ミルナの方は変わってないみたいだけど」



15: ◆BYUt189CYA :2007/02/02(金) 20:00:14.91 ID:Z8h/BzT20
  
( ゚д゚ )「俺は内面が変わったんだ」

ノハ#;゚听)「……自分で言っちゃ意味ないよね」

( ゚д゚ )「む、それもそうか」

和気藹々と話す二人。
その傍らで、黙って立ち続ける巨大な男。

|  ^o^ |「…………」

ようやく気付いた。

ノハ#;゚听)「あ、えと……試験官の方ですか?」

|  ^o^ |「そうです」

ノハ#゚听)「すいません、御邪魔したみたいで……」

ペコリ、と頭を下げながら離れようとする。
どうやらミルナの試験官だと思ったらしい。



16: ◆BYUt189CYA :2007/02/02(金) 20:01:07.05 ID:Z8h/BzT20
  
|  ^o^ |「お待ちなさい」

ノハ#゚听)「?」

|  ^o^ |「確かに私は試験官ですよ、貴方達二人のね」

( ゚д゚ )「む? つまりアンタが俺達二人の相手をすると?」

|  ^o^ |「話は最後までよく聞きなさい」

彼は一つ咳払い。
その巨体故に低音がよく響く。

|  ^o^ |「今から行うのが、貴方達二人の最終試練です。
      内容はとても簡潔」

彼は大きな人差し指を立てた。

|  ^o^ |「最終試練内容は『貴方達二人が戦い、勝った方が英雄になる』です」



17: ◆BYUt189CYA :2007/02/02(金) 20:02:07.33 ID:Z8h/BzT20
  
広くはない闘技場の観客席。
千人ほどの人数が座れそうな場所には、たった二つの人影。

('、`*川「おー、驚いてる驚いてる」

┗(^o^ )┓「当然でしょうね……ここへ来て『戦いなさい』ですから」

彼らは少し離れた場所から闘技場中心部にいる三つの人影を眺めていた。
距離が離れていても、不思議と声がはっきりと聞こえるのは仮想空間ならでは、だ。

と、そこで新たな人影が追加される。

┗(^o^ )┓「おや、オワタ兄さんですか」

\(^o^)/「どうやら間に合ったようですね」

('、`*川「うわ、アンタボロボロじゃない」

\(^o^)/「包帯だらけの貴女に言われたくないです」

ジュカイの横に座る。
そのまま頬杖をつきながら

\(^o^)/「さてさて、どうなることやら」

┗(^o^ )┓「えぇ、楽しみです」

('、`*川(言葉遣いと顔が同じだから見分け辛い……まぁ、背と性格は違うんだけど)

同じ格好でwktkしている兄弟を見ながら、ペニサスは静かに吐息した。



18: ◆BYUt189CYA :2007/02/02(金) 20:03:10.50 ID:Z8h/BzT20
  
まず発生したのは沈黙。
ヒートは目を見開いて固まり、ミルナは相変わらず無表情。

それが十秒ほど。

ノハ#゚听)「戦うって……私とミルナが、ですか?」

|  ^o^ |「えぇ、そうです」

ノハ#゚听)「……何で?」

|  ^o^ |「それが試練だからです」

ノハ#゚听)「ちょ、どういう――」

突っ掛かろうとしたヒートの肩をミルナが掴む。

( ゚д゚ )「やめておけ……これが英雄神の提示する試練なら、俺達が従わない理由はないはずだ」

ノハ#゚听)「……それは、そうだけど」



19: ◆BYUt189CYA :2007/02/02(金) 20:04:24.14 ID:Z8h/BzT20
  
|  ^o^ |「ルールは簡単、どちらかがギブアップしたら終了です。
      もしくは気絶した方が敗北と見なします」

言いながら、彼は下がっていく。

|  ^o^ |「審判は私、クン三兄弟長男であるブーム=クンが厳正に下します。
      では、開始」

何とも簡潔な内容と開始合図。
残されたヒートとミルナは顔を見合わせた。

ノハ#゚听)「……どうする?」

( ゚д゚ )「やるしかないだろう?」

ミルナもヒートから距離をとり始める。
ある程度離れた場所で、彼は構えをとった。



20: ◆BYUt189CYA :2007/02/02(金) 20:05:33.50 ID:Z8h/BzT20
  
( ゚д゚ )「勝った方が英雄……文句は無しだ」

ノハ#゚听)「あー、えー、んー……」

( ゚д゚ )「亜鉛?」

ノハ#゚听)「違う、悩んでるの」

( ゚д゚ )「今更何を悩む? 戦うだけだろう?」

ノハ#゚听)「それはそうなんだけど……うん、まぁ、仕方ないか」

ヒートの左手が飛燕の柄、右手が夜鴉の柄に伸びる。
続いて金属が擦れる音。

( ゚д゚ )「ほぅ……」

感嘆の息を漏らすミルナの視線の先。
そこには、黒塗りの脇差と巨大包丁を構えた親友の姿。
鎖を振り回しながら、まるで舞うように戦闘準備を整えていく。

ノハ#゚听)「悪いけど手加減無しでいくよ」

( ゚д゚ )「こちらの台詞で、更には手加減は無い方が嬉しい」

ノハ#゚听)「OK、把握!」



21: ◆BYUt189CYA :2007/02/02(金) 20:06:36.10 ID:Z8h/BzT20
  
駆け出す。
左手に飛燕、右手に夜鴉を構えて。
直線上にはミルナだ。
強靭な肉体を綺麗に構えた彼は動じることなく、向かってくる彼女の目を睨む。

( ゚д゚ )「ふっ!!」

気合の声と共に発射されるは右拳。
軌道はヒートの顔面を狙っている。

直後。

ノハ#゚听)「ッ!」

飛燕を添えるように突き出す。
同時に、身体の重心を傾けて体重移動。
まるでミルナの拳が自然とヒートを避けていくような光景だ。

二人が判断したのは同時。

ミルナは溜めていた蹴りを。
ヒートは構えていた夜鴉を。

同時に繰り出し、同時に激音が響く。



23: ◆BYUt189CYA :2007/02/02(金) 20:07:54.29 ID:Z8h/BzT20
  
二人が戦闘開始したのを、観客席で見つめる三人の英雄。

('、`*川「ねぇねぇ、どっちが勝つか賭けない?」

\(^o^)/「何を賭けますか?」

('、`*川「じゃあ、私の今日のおやつなんてどう?」

┗(^o^ )┓「「却下です」」\(^o^)/

('、`*;川「何というコンビネーション……これは間違いなく兄弟」

気を取り直して

('、`*川「んじゃあ、単純に負けた人が勝った人に食事を奢るってのは?」

\(^o^)/「構いませんよ」

('、`*川「おっしゃー、やる気出てきたぞー。
     えーっと、私はミルナ君に賭けちゃう!」

\(^o^)/「では、私はヒートさんにしますか」

二人はそれぞれ彼と彼女の実力を見ている。
やはり思い入れがあるのか、己の弟子とも言える人間を選んだ。



24: ◆BYUt189CYA :2007/02/02(金) 20:09:15.30 ID:Z8h/BzT20
  
('、`*川「ジュカイはどうするの?
     出来ればヒートちゃんにしてくれると嬉しいなぁ。
     二人分奢ってもらえるから」

┗(^o^;)┓「貴女は負けた時のことを考えてないんですね……」

('、`*川「ギャンブルってのは、負けた時のことを考えた時点で負けなのよ」

\(^o^)/「人生の敗者の意見はどうでもいいです。
       ジュカイはどちらに賭けますか?」

半目でオワタを睨むペニサス。
その横で、ジュカイは一つの結論を出した。

┗(^o^ )┓「では、私は――『二人が勝つ』に賭けましょう」

\(^o^)/「「は?」」('、`*川



25: ◆BYUt189CYA :2007/02/02(金) 20:10:25.35 ID:Z8h/BzT20
  
ノハ#゚听)「やるじゃん」

( ゚д゚ )「お前こそ」

二人は至近距離で睨み合っていた。
その足元でぶつかり合いながら。

ヒートの放った夜鴉の腹をミルナの足が蹴り飛ばしている状態。
まさか刃を蹴るわけにもいかず、咄嗟に弾き飛ばしたのだ。
結果、攻撃を受けずに終わったのは僥倖。

( ゚д゚ )「今度はこちらの番だ」

気配と共に動作。
更に夜鴉を弾き飛ばした足を地面に叩き落として震脚。
溜まった力を左拳に集中させる。

ノハ#゚听)「っ!」

対して彼女のとった行動は特殊なものだった。
夜鴉はその重さ故に制動を掛け難い。
だからこそ、彼女は弾かれた夜鴉の勢いを止めようとはしなかった。
代わりに飛燕を真上に投げ飛ばし、夜鴉の柄に接続されていた鎖を握る。

拳が高速で接近。

しかしヒートの方が速かった。
ピンと張った鎖の腹でミルナの拳を受け止めたのだ。



26: ◆BYUt189CYA :2007/02/02(金) 20:11:24.43 ID:Z8h/BzT20
  
( ゚д゚ )「だがしかしッ!!」

それでも勢いは止まらない。
拳から放たれた衝撃は、鎖を通じてヒートの身体へとぶつかる。

ノハ#;゚听)「うわっ!?」

弾き飛ばされるように後退。
両足が地を滑走し、砂煙を生み出しながら散らす。
直後、ミルナの目の前に飛燕が落下し、音を立てて跳ねた。

( ゚д゚ )「…………」

それを拾い上げ、ヒートの方へと投げる。

ノハ#゚听)「フェアというか……馬鹿?」

( ゚д゚ )「それはお互い様だろう」

ノハ#゚听)「ええと、じゃあ……馬鹿ついで三つほどいいかな?」

( ゚д゚ )「構わん」



27: ◆BYUt189CYA :2007/02/02(金) 20:12:39.45 ID:Z8h/BzT20
  
ノハ#゚听)「今の手合わせで解った。
      正直言ってミルナは強い……勝負がつくまで長くなりそう」

( ゚д゚ )「それで?」

ノハ#゚听)「まぁ、私も体力に限界があるし、多分ミルナもあると思う」

事実だった。
二人とも試練によって、かなり体力が削られている。
長時間戦っても、おそらくは体力切れで決着がつくことだろう。

ノハ#゚听)「私はそれを良しとしない。 OK?」

( ゚д゚ )「まぁ、俺も相手を自分の力で屈服させたいというのは本音だ」

ノハ#゚听)「じゃあ、もう二つ。
      今までの試練は何が条件だった?
      試験官以外に、誰がこの試練を見ている?」

( ゚д゚ )「……条件は認めさせること、だったな。
     そしてこの仮想空間は全て英雄神が把握しているはずだ」

ノハ#゚听)「はい、私からは以上」

ニヤリ、と笑みを浮かべるヒート。
ミルナがその表情の真意に気付いたのは、数秒後だった。



28: ◆BYUt189CYA :2007/02/02(金) 20:13:55.67 ID:Z8h/BzT20
  
(;゚д゚ )「お前……」

ノハ#゚听)「いいじゃない。
      どうせこのままやったって、どちらかしか英雄になれないんだから。
      それなら博打一発打って両方失格か両方合格か、に賭けた方が面白そうじゃない?」

(;゚д゚ )「一理あるが……お前、変わったな」

ノハ#゚听)「うん、ちょーっと度胸がついたかな?」

と、彼女は観客席の方へと視線を向けた。
釣られてミルナも同じ方向を見る。
遠くて見辛いが、確かにそこには三つの人影があった。

( ゚д゚ )「お互い、良い相手だったようだな」

ノハ#゚听)「うん、とびっきりのね」

言葉と同時に二人はある方向を向く。
その先には

|  ^o^ |「こっち見んな」

(;゚д゚ )「ッ……」



29: ◆BYUt189CYA :2007/02/02(金) 20:14:45.03 ID:Z8h/BzT20
  
ノハ#;゚听)「あらら、いきなり弱点突かれちゃった。
      大丈夫?」

脱力した膝を震わせるも、ミルナは耐える。

(;゚д゚ )「このくらい平気だ……」

ノハ#゚听)「おぉ、成長してるしてる」

|  ^o^ |「何のつもりですか? いきなり殺気を向けるのは失礼かと」

腰に手を当て、やれやれと吐息するブーム。
いや、その手は後腰の何かを掴んでいる。

ノハ#゚听)「解って言ってるんならそっちも失礼だよ」

( ゚д゚ )「ふン、賭けに乗ってやる……ブームとやら、俺達と勝負だ」

|  ^o^ |「……成程」



30: ◆BYUt189CYA :2007/02/02(金) 20:15:25.69 ID:Z8h/BzT20
  
観客席。
遠目にその様子を見ていた彼らは、驚愕に軽く目を開いた。

('、`*川「うっわ……大胆なこと考えたなぁ」

\(^o^)/「ジュカイ、これを読んでいたのですか?」

┗(^o^ )┓「さぁ?」

('、`*川「まぁ、確かにありっちゃーありだね。
      三兄弟+私を二人で倒したってなれば……うん、可能性が無いわけじゃない」

\(^o^)/「ただ――」

('、`*;川「うん、その肝心の相手がねぇ……」

┗(^o^ )┓「…………」



31: ◆BYUt189CYA :2007/02/02(金) 20:16:56.20 ID:Z8h/BzT20
  
ブームは考えていた。
それはヒートとミルナの提案した、予想外の事態故に。

――まさか己と戦おうとするとは。

想定外ではあった。
しかし、まだ慌てるような時間じゃない。

そう、まだ――

ノハ#゚听)「ミルナ、十秒カウントダウン御願い!」

|; ^o^ |「!?」

(;゚д゚ )「は?」

ノハ#゚听)「体力を考えて、短時間で決着をつけるよ!」

( ゚д゚ )「……よく解らんが了解した」

流石に親友同士。
理由など問い出すことなく、互いが互いを信頼する。



32: ◆BYUt189CYA :2007/02/02(金) 20:18:05.09 ID:Z8h/BzT20
  
任せたよ、と小さく呟いてヒートが駆け出す。
一瞬遅れて後を追いながら

( ゚д゚ )「十……九……八……」

ノハ#゚听)「遅い! もっと速く!」

( ゚д゚ )「把握。 七、六、五、四、三――」

|  ^o^ |「先手必勝です」

ブームが後腰から、掴んでいた何かを取り出す。
それは銀の弧を描き、頂点同士が弦で繋がれた――

ノハ#゚听)「弓矢――」

その銀弓は彼専用に作られているのか巨大だ。

|  ^o^ |「私の業名は『狙帝』……意味は言わずとも解りますか?」

言葉と同時に、巨体が背後へと飛ぶ。
バックステップをすることでヒートとの距離を稼ぐつもりらしい。
右腕に弓を持ち、構えた。



33: ◆BYUt189CYA :2007/02/02(金) 20:19:05.08 ID:Z8h/BzT20
  
( ゚д゚ )「二……来るぞ!」

ブームの構えた弓に光矢と言える鋭い光源が発生する。
引き絞りから狙い、そして放つまで一瞬。

( ゚д゚ )「一、零!」

ノハ#゚听)「ッ!!」

声が響いた途端。
ヒートの身体がビクリ、と震え、直後に光矢が飛来する。
空気の壁をぶち破り、白い尾を引きながらヒートに迫った。

爆発。

それは光が力を持っている証でもあった。
大きな爆風が衝撃波となってミルナにも襲い掛かる。

(;゚д゚ )「ヒート!」

今のはまずかった。
カウントダウン終了と直撃タイミングが、ほぼ同時であったからだ。
おそらく狙ってやったのだろう。
あの巨体からは想像出来ない繊細さである。



34: ◆BYUt189CYA :2007/02/02(金) 20:20:00.19 ID:Z8h/BzT20
  
( ゚д゚ )「『狙帝』という名だけはあるということか……!」

ミルナは認識を改めた。
奴はパワーファイターではなく、一点集中の狙撃タイプだと。

|  ^o^ |「いえ、それは違いますよ」

轟、という音が響く。
音源はブームの右腕だ。
その巨大な弓に幾重にも重なる光矢がセットされている。

|  ^o^ |「『狙帝』の狙は狙撃の意ではありません。
      己の狙い全て叶える、という策士としての実力を示しています」

( ゚д゚ )「ベラベラとよく喋る……自信があるのか、馬鹿なのか」

|  ^o^ |「どちらでしょう?」

言葉と同時に多段攻撃が撃たれる。
数にして数十。
高速だが、先ほどの音速超過まではいっていない。

( ゚д゚ )「これならば!」

前へと駆け出す。
着弾地点から離れれば離れるほど、いくら攻撃が多かろうが必然的に数は減る。
後は、余った攻撃を叩き落とせば――



35: ◆BYUt189CYA :2007/02/02(金) 20:21:03.19 ID:Z8h/BzT20
  
|  ^o^ |「甘い」

(;゚д゚ )「!?」

見上げる。
光矢の群れが、まとめてこちらに飛来しているのを。

|  ^o^ |「速度と威力は落ちますが、誘導性を高めて発射させてもらいました」

( ゚д゚ )「ちぃ!」

咄嗟にブレーキ。
誘導性があるのならば動いていては逆効果だ。
着弾の直前に回避しなければ、ヒートのように爆発の餌食になってしまう。

来る。

タイミングを計り、ミルナは前方へ身を投げた。
直後に連続した爆音。
背後から来る力の塊を、ミルナはギリギリのタイミングへ回避した。

そのまま前転するように転がる。
右足で踏ん張りながらブレーキ。
慣性を地面に逃がす衝撃に顔をしかめながらも、ミルナの目はブームを追った。
爆発によって発生した砂煙、その隙間から見えた光景は

|  ^o^ |「次」

( ゚д゚ )「!」



37: ◆BYUt189CYA :2007/02/02(金) 20:22:09.25 ID:Z8h/BzT20
  
既に発射体勢が整っている。
こちらが回避に成功するのを予測していたかのようだ。
いや、おそらくは完全に予測していたのだろう。
そうでなければ、彼があの距離・タイミングで弓を構えているはずがない。

指が離れた。
そこから発射されるのは音速超過の光矢一本。
誘導性を完全に捨てた高速高威力の攻撃だ。

ミルナの元へ走る時間は一瞬。
見えた光景は、水蒸気爆発を起こして白い衝撃波を生み出す矢の先端。
防御のために腕を上げることさえ間に合わない。

(;゚д゚ )「く――」

そ、と続く言葉は遮られる。
その瞬間の時間に割り込んだ影があったのだ。

金属音が響き、光矢が真っ二つに折れ砕ける。



38: ◆BYUt189CYA :2007/02/02(金) 20:23:12.54 ID:Z8h/BzT20
  
|  ^o^ |「!」

直後、地に降り立つ影。
矢が砕け、光の粒が散る場の中心。
それは赤茶色の美しい長髪を持った

ノハ#゚听)「ふぅ」

( ゚д゚ )「ヒート……無事だったか」

問われた彼女は、少し焼け焦げた服の右腕部分を見せながら

ノハ#゚听)「一張羅だったんだけどね」

|  ^o^ |「成程、音速を捉える動体視力……それがバーサーカーですか。
      先ほどの光矢も防御していたんですね。
      そして爆風に紛れて隙を伺っていた、と」

( ゚д゚ )「バーサーカー? どういうことだ?」

ノハ#゚听)「理由とかは後で話す。
      ただ知っておいて欲しいのは、今の私はちょっと違うってこと」

あんなに重そうに持っていた包丁刀を、ヒートは片腕で持ち上げて肩に担った。
その様子を見て

( ゚д゚ )「よくは解らんが……俺は何をすれば良い?」



40: ◆BYUt189CYA :2007/02/02(金) 20:24:01.14 ID:Z8h/BzT20
  
ノハ#゚听)「私の盾になってほしい」

彼女は続ける。

ノハ#゚听)「ミルナには、私の代わりとして痛みに耐えてほしい」

率直な願いだった。
もはや彼女は目前の勝利を見据えており、他の障害をパートナーに任せたのだ。

( ゚д゚ )「ふむ、解った」

軽く拳を振りながら答える。
もはや理由など聞く必要は無い。

彼女が剣になれ、と言うのならば迷わず剣になろう。
彼女が弾になれ、と言うのならば迷わず弾になろう。
彼女が盾になれ、と言うのならば迷わず盾になろう。

ただ、それだけだ。
信頼を超えた圧倒的な『心捧』とも言える感情。
それを親愛というのか、それを愛情というのか。
解らぬが、ミルナは絶対的にヒートを信じていた。



41: ◆BYUt189CYA :2007/02/02(金) 20:25:17.52 ID:Z8h/BzT20
  
ノハ#゚听)「んじゃ、行くよ!」

( ゚д゚ )「把握!」

二人同時に駆け出す。
ミルナを先頭にした並びだ。

彼は両拳を握り締め、前方から来るであろう攻撃に身構える。
彼女は両腕に武器を持ち、前方にいる敵を撃破するために身構える。

|  ^o^ |「こっち見んな――!」

放たれたのは矢ではなく、呪いの言葉(ただしミルナ限定)だ。

(;゚д゚ )「ッ!?」

一瞬、膝の力が抜ける。
そのまま倒れこみそうになるが

ノハ#゚听)「ミルナ!」

彼女の声が背後から掛かった。



42: ◆BYUt189CYA :2007/02/02(金) 20:26:21.54 ID:Z8h/BzT20
  
( ゚д゚ )(俺は――!!)

今になって思う。
自分は、今までどれだけあの声に助けられてきたのだろうか、と。
生まれてから約二十年間。
半分近くは彼女によって支えられているようなものだった。

――もし、あの時に彼女と出会わなかったら。

思うだけで恐怖が胸を締め付ける。
それは確信だ。
出会わなければ、絶対に今の自分はいない。

己の役目を知り、己の大切な人を知り、己の将来を見るという
こんなにも幸福な状況にはならなかっただろう。

感謝せねば。
少しでも恩を返さねば。

( ゚д゚ )「う――うぉぉおぉぉおお!!」

緩みかけていた膝に喝を入れる。
突然流れ込んだ力に痛みさえ感じるが、ミルナは無視をした。



43: ◆BYUt189CYA :2007/02/02(金) 20:27:42.35 ID:Z8h/BzT20
  
全ては彼女のため。

自分は、おそらく彼女の事が好きなのだろう。
彼女のためならば幾らでも痛みに耐え、踏み台になることが出来る。

こっち見んな?
それがどうした。

( ゚д゚ )(俺には勝利の女神の声が届いてるんだ――!)

それは背後から。
まるでミルナの背中を押すような、はっきりとした声だ。

ノハ#゚听)「行っけぇええぇぇえ!!」

律儀で、素直で、熱い部分を隠し持っている彼女。
全て自分には無い要素。

それが羨ましくて、それが彼女の良い部分だと解っていて。

( ゚д゚ )「おおおぉぉぉぉ!!」

距離二十メートル。
あとはヒートのために攻撃射程範囲まで護り通すことが出来れば――



44: ◆BYUt189CYA :2007/02/02(金) 20:28:48.07 ID:Z8h/BzT20
  
|  ^o^ |「これなら!」

瞬間的な動作でブームが弓を構える。
そこから見えるのは、今まで以上の多さを誇る光矢の群。
確認したと同時に発射。
それは放射状に広がりながら、そして急速的にミルナ達の方へと向かってくる。

太く、輝かしい矢だ。
誘導性が低いところを見れば、おそらくは一撃一撃が高威力のはず。

( ゚д゚ )「だがしかし――!!」

一足飛び。
前へと出した左足を地面に擦りつけながら滑走。
振りかぶった右手を背後へと差し出した。

その手に重みが来る。

|; ^o^ |「なっ――」



45: ◆BYUt189CYA :2007/02/02(金) 20:29:51.06 ID:Z8h/BzT20
  
重みの正体はヒートだ。
彼女が軽く跳躍し、ミルナの右手に足を乗せている。

それは力任せの人力射出カタパルト。

ノハ#゚听)「「行けぇぇぇぇええ!!」」( ゚д゚ )

声と共に、ミルナはヒートを『投擲』した。
右腕からの力に任せた大振りだ。

轟、という風を切り裂く音。

彼女が右手から離れ、ブーム目掛けて飛ぶのを確認したミルナは
その口に少しの笑みを浮かばせる。

直後、多段の爆音・衝撃・光が彼の身体に直撃した。



46: ◆BYUt189CYA :2007/02/02(金) 20:30:55.26 ID:Z8h/BzT20
  
|; ^o^ |「くっ」

ブームの焦る声が耳に入った。
その直前に背後から爆音が聞こえたが、ヒートは敢えて無視をする。
ここで気に掛けていては、盾になってくれた彼に対する裏切りであるからだ。

ノハ#゚听)(これで決める!)

左手には啄木鳥を、右手には夜鴉を。
啄木鳥は胸の前に、己を槍身とするように構え、
夜鴉は逆に足元へと持っていき、いつでも叩き切れるように構えていた。

高速で距離が縮まる。

しかしそれが零になる前にブームが動いた。
銀の弓を改めて構え、その矢の先はヒートを狙っている。

すかさず発射。

音速超過の矢は相対速度を以って更に速度を増す。
それが確認出来た時には既に当たっているはずだ。

だから、ヒートは相手が構えた瞬間に一つの動作を行っていた。



47: ◆BYUt189CYA :2007/02/02(金) 20:32:07.14 ID:Z8h/BzT20
  
それは回転。
まるでスクリューのように身を回したのだ。

己が回り、続いて赤茶色の髪が円を描いて追従し、最後に鎖が回る。
身が半分ほど回転した直後に、光矢との距離が零となった。

それは一瞬の出来事。
矢は鋭く直進し、彼女の身を抉った。

ノハ#゚听)「ッ!」

それは彼女の左肩を穿つ。
しかし、当初の狙いは完全に外れているはずだ。
痛みと衝撃に惑わされることなく、ヒートは身の回転を収めてバランスを調整。

そこで投擲の推力が無くなった。
地に足を着き、勢いに身を倒しそうになるが、地を這うように直進する。

先には、打つ手が無くなったブームの姿。

ノハ#゚听)「あああぁぁぁぁあ!」

振りかぶった夜鴉を、身体全体を用いて振るう。



48: ◆BYUt189CYA :2007/02/02(金) 20:33:31.34 ID:Z8h/BzT20
  
|; ^o^ |「がっ――」

ブームの横っ腹に直撃。
銀弓でガードしていたものの
走りこんでいた速度と振るった速度が合わさった威力には耐えられない。

身を折りながら吹き飛ぶブーム。
その巨体が回転するように空を飛び、やがて放物線を描いて落下。

ノハ#゚听)「――ッ!」

ブレーキをかけ、肺に溜め込んでいた空気を吐く音。

巨体が地面に落ちる音が響いたのは、ほぼ同時であった。



49: ◆BYUt189CYA :2007/02/02(金) 20:34:30.01 ID:Z8h/BzT20
  
観客席の一角。

('、`*川「うわっちゃー、やっぱりねぇ」

目も当てられない、といった様子でペニサスは手で目を覆った。

\(^o^)/「確かにブーム兄さんは、遠距離や策においては強いと言えるのですが――」

┗(^o^ )┓「接近戦に対する防御力が皆無ですからねぇ」

そのために二人がいるのだ。
接近戦を仕掛けるオワタと、接近戦で迎撃するジュカイ。
そして指揮・遠距離攻撃役のブーム。

三人が揃った時の攻撃力はとんでもないが、バラけてしまうと一番弱いのはブームである。
せめて前準備がしっかりしていれば良かったのだが――

┗(^o^ )┓「まぁ、今更何を言っても仕方ありませんね」

\(^o^)/「とりあえずブーム兄さんを介抱しましょう。
       あのまま気絶させたままなのも可哀想ですし」

('、`*川「あいあいさー」



50: ◆BYUt189CYA :2007/02/02(金) 20:36:23.16 ID:Z8h/BzT20
  
観客席から降りてくる三人を横目に、ヒートはミルナの元へと走った。
未だ砂煙でどうなっているのか把握出来ない。

ノハ#;゚听)「ミルナ!」

茶の色を掻き分けるように、慎重に確認していく。
と、少し探したところで足に何かが当たった。

(;゚д゚ )「むぅ……」

それは仰向けに倒れたミルナだった。
爆風を前方から浴びたせいなのか、その顔は少し黒ずんでいる。
少し咳をした後、彼は上半身を起こした。

(;゚д゚ )「……えらい目にあった」

と言いつつも、その声に苦痛などは感じられない。
向こうが手加減していたのか、それとも彼自身が我慢強いだけなのか。

ノハ#;゚听)「あー、よかった……このまま死なれちゃ寝覚め悪いもんね」

(;゚д゚ )「俺はお前にとってその程度の存在なのか」

心なしか寂しそうな表情を見せるミルナに、ヒートは笑顔で

ノハ#゚听)「ウソウソ、冗談。
      無事で良かったって、ちゃんと神様に御礼を言ったよ」



51: ◆BYUt189CYA :2007/02/02(金) 20:37:13.66 ID:Z8h/BzT20
  
( ゚д゚ )「ふむ」

差し出された彼女の華奢な腕を掴み、起き上がる。

( ゚д゚ )「奴はどうなった?」

ノハ#゚听)「私がぶっ飛ばしたら、そのまま起き上がらなくなっちゃった。
      今、ジュカイさん達が介抱してるみた――」

言葉は遮られる。
原因はヒートの背後だった。

,(・)(・),「うっひゃっほい! この柔らかさが溜まらんナリだすよ!」

背は小さく、まるで玉葱にちょんまげが付いたような形。
それに手足が生えたような妙な生物が、その小さな手を使って

ノハ#;゚听)「ひゃ!?」

ヒートの尻をこね回していた。

ノハ#;゚听)「なっ、なっ、なっ――!?」

,(・)(・),「こう、こうやって、この柔らかさを、手の平で、こう、包むように――げふぁ!?」

言い終わる前にミルナの拳が直撃していた。
玉葱はそのままバウンドしながら転がり、少し離れたところで地に伏せる。



52: ◆BYUt189CYA :2007/02/02(金) 20:38:36.14 ID:Z8h/BzT20
  
ノハ#;凵G)「ミ、ミルナァ〜……」

半泣きで震えるヒート。
その頭をポンポンと叩きながら

( ゚д゚ )「悪魔は去った……というか、何だアレ」

アレとはもちろん玉葱である。
その野菜の元へと駆け寄る英雄達。

\(;^o^)/「な、何てことを!」

('、`*川「あーあ、やっちゃったー」

┗(^o^ )┓「貴方達、何気に笑顔なのは何故ですか」

( ゚д゚ )「おい、そこの玉葱は何なんだ? ペットならちゃんと首輪を付けて――」

('、`*川「いや、首無いから」

┗(^o^;)┓「えー……非常に言い難いのですが……」

額に汗を浮かべたジュカイが、本当に言い難そうに声を放つ。



53: ◆BYUt189CYA :2007/02/02(金) 20:39:26.66 ID:Z8h/BzT20
  
┗(^o^;)┓「彼が、英雄神様です」

(;゚д゚ )「……は?」

ノハ#;゚听)「……へ?」

呆然とする二人と、慌てる(?)英雄三人。
そんな空間に割り込むように

,(・)(・),「そう! おいどんこそが英雄の中の英雄! 英雄神ナリだすよ!」

ピョコン、と跳ね跳んだかと思えば着地。
小さな足を忙しなく動かしながら、そこら周囲を走り回る。

,(・)(・),「いやぁ、試練終了と思って出てきてみれば
     目の前に神秘ささえ感じさせるキュートなお尻があったナリだすよ!
     こりゃあ、触っておかないときっと後悔すると思って――」

方向転換。
そのまま、まだ涙目のヒート目掛けてその身を投げた。



54: ◆BYUt189CYA :2007/02/02(金) 20:40:22.03 ID:Z8h/BzT20
  
ノハ#;凵G)「いやあぁぁあぁぁぁ!!」

放たれる拳。
打ち下ろし気味のそれは、飛んできた玉葱を見事叩き落した。

,(・)(・),「へぶしゃっ!」

一旦平らに潰れ、まるでゴムボールのように跳ねる玉葱。

('、`*川「お?」

そのまま『ぽふっ』とペニサスの胸元へダイブした。

,(・)(・),「ふひゃー、こりゃあたまらんナリだすなぁ!」



55: ◆BYUt189CYA :2007/02/02(金) 20:41:17.63 ID:Z8h/BzT20
  
連続した打撃音。
たまに漏れる悲鳴。

それらの音をバックに話を進める。

┗(^o^ )┓「いやしかし、英雄神様が出てくるとは珍しいですね。
       貴方達は非常に運が良いです」

(;゚д゚ )「いや、圧倒的に悪いと思うのだが……」

\(^o^)/「ペニサス、気持ちは解りますがそろそろ止めましょう。
       話が進みませんから」

('、`*川「うーい」

ちょんまげ部分を握られ、空中へと持ち上げられる。

,(・)(・),「いやぁ、女性は多少乱暴な方が良いナリだす。
     こう、おいどんのドキがムネムネナリだすよ〜」

┗(^o^ )┓「話を進めてください」

,(・)(・),「ひぃ、ジュカイ君は怖いからなぁ!
     よしよし、おいどんがちょっくら解説しよう」



56: ◆BYUt189CYA :2007/02/02(金) 20:42:35.09 ID:Z8h/BzT20
  
ぶらぶらと揺れながら

,(・)(・),「結果から言うと、二人とも合格ナリだす。
     試練内容が共通して『認めさせること』に気付いてからの行動は予想外だっただすが
     見事クン三兄弟+ペニサスを倒したことは評価に値するナリだす。
     何気に、ちゃんと勝利条件の『気絶させること』もクリアしてるし」

('、`*川「良かったねぇー」

(;゚д゚ )「素直に喜んで良いのか解らんがな……」

,(・)(・),「んじゃー、とりあえず仮想空間から出るナリだすよー。
     業名はその後に与えるナリだすー」

軽々と地面に着地した彼は、懐(?)からあるモノを取り出した。

( ゚д゚ )「……マッチ?」



57: ◆BYUt189CYA :2007/02/02(金) 20:43:31.52 ID:Z8h/BzT20
  
疑問と共に火をつける。
英雄神はそれを頭のちょんまげに持っていき

,(・)(・),「点火ー」

ジュ、という着火音と共にちょんまげが燃え始めた。
火はみるみると玉葱の頭まで迫っていく。

ノハ#;゚听)「ね、ねぇ……私、何かコレに似たモノを見たことがあるんだけど……」

(;゚д゚ )「あ、あぁ……」

ノハ#;゚听)「……爆弾?」

('、`*川「正解」

ノハ#;゚听)「ええぇぇぇぇ!?」

驚きの声を上げる間に、ちょんまげが燃え尽き

,(・)(・),「では、帰還ナリだす」

と、間抜けな声と共に爆発した。



58: ◆BYUt189CYA :2007/02/02(金) 20:44:37.12 ID:Z8h/BzT20
  
ノハ#;゚听)「ふひゃ!?」

目が開く。
まず視界に入ってきたのは岩の天井だった。

ノハ#;゚听)「え……と?」

状況が解らない。
とりあえず身を動かしてみる。
感覚から判断するに、仰向けで寝転がっているらしい。

ノハ#;゚听)「こ、ここは?」

上半身を起こせば、見覚えのある景色が広がっていた。

ノハ#゚听)「確か、祭壇の……?」

「お帰りなさい、ヒートさん」

声の方向を向けば、試練前に見た神官達が立っている。
そしてその傍らには

( ゚д゚ )「起きたか」

ノハ#゚听)「ミルナ!」

( ゚д゚ )「俺も今さっき起きたんだが……どうもあの玉葱は爆弾じゃなかったみたいだな」



59: ◆BYUt189CYA :2007/02/02(金) 20:45:39.78 ID:Z8h/BzT20
  
「アレは仮想空間を破壊して現実世界へ帰還するための手段ですよ」

聞き覚えのある声。

ノハ#゚听)「あれ? ジュカイさん?」

┗(^o^ )┓「試練は終わりましたからね。
       私達も仮想空間から脱出させてもらいました」

「話は後にしよう。
 今から英雄神様から御言葉がある」

言われて、背後を振り向いた。
そこには巨大な光る石……試練を受ける前と同じ状態でルイルが鎮座されてある。
途端、それが輝きを増していき――

「おぉ……英雄神様直々の御声を聞くのは久方ぶりだ……」

神官の一人が感激したような声を上げた。

ノハ#;゚听)(いや、あの玉葱だと……ねぇ?)

(;゚д゚ )(姿を現すことは滅多に無い、と言っていた……彼はきっと知らないのだろう)

ボソボソと話し合う二人。
ルイルの輝きの中から声が聞こえてきたのはその直後だった。



60: ◆BYUt189CYA :2007/02/02(金) 20:46:47.07 ID:Z8h/BzT20
  
『――幾多の試練を越え、ここに二人の英雄が誕生した』

それは老人の声。
エコーが掛かっており、かなり偉そうな雰囲気ビンビンである。

ノハ#;゚听)「っていうか誰!?」

\(^o^)/「英雄神様ですよ」

ノハ#;゚听)「声とか口調違うよ!?」

('、`*川「あー、ぶっちゃけどっちが本物かは私達も解んないだよねー」

(;゚д゚ )「そうなのか……」

声は続く。

『試練を越えた二人に業名を授ける。
 心して聞くが良い』

少々の沈黙。
途中で『えーっと』と小さく聞こえたのは空耳だろうか。



61: ◆BYUt189CYA :2007/02/02(金) 20:48:08.46 ID:Z8h/BzT20
  
『ヒート』

ノハ#;゚听)「は、はい」

『お前の業名は――【蜘蛛姫】とする』

ノハ#゚听)「……虫?」

『四つの武器を扱うウェポンマスターの名だ。
 腰や背に差した武器のシルエットが蜘蛛の足のように見えるだろう?』

ノハ#゚听)「確かにそうかもしれませんけど……って四つ?」

( ゚д゚ )「ヒート、背中に――」

言われたとおり、背中に手をやる。
啄木鳥があるはずなのだが、それ以外にも硬い感触があった。
手に持つ。

ノハ#゚听)「これは……弓?」



62: ◆BYUt189CYA :2007/02/02(金) 20:49:05.56 ID:Z8h/BzT20
  
|  ^o^ |「まぁ、私からの餞別ということで」

いつの間にか目覚めていたブームが言う。

ノハ#゚听)「えと……いいんですか?」

|  ^o^ |「私には私専用の弓がありますしね。
      貴女には遠距離用の武器がありませんでしたから、特別に」

ノハ#゚听)「あ、ありがとうございます!」

『ミルナ』

( ゚д゚ )「む」

『お前の業名は――【騎士王】とする』

( ゚д゚ )「騎士? 俺はそんな柄じゃないし……てっきり格闘系かと思っていたのだが?」

『友を問答無用で護り、支えるその度胸と志。
 その堂々と歩む道はまさに騎士というに相応しいだろう』

( ゚д゚ )「ふむ……まぁ、アンタがそう言うなら従おう」

腕を組んで頷く。
あまり納得していないようだが、英雄神の言うことは絶対である。
これから、この名に恥じぬ行動をするかどうかは彼に掛かっていた。



64: ◆BYUt189CYA :2007/02/02(金) 20:50:13.74 ID:Z8h/BzT20
  
『最後に一つ言っておこう』

声は続く。

『君達は英雄となったが……ただ、『それだけ』だ』

ノハ#゚听)「…………」

『英雄という肩書き通りに動くか、英雄という肩書きに押し潰されるか。
 はたまた英雄という肩書きを無視するか。
 それらは、君達次第だ』

( ゚д゚ )「…………」

『ここで言う英雄とは、本当に肩書きのみであることを憶えておいてほしい。
 言うなれば中身の無い歴史書。
 英雄というタイトルが付いた、白紙の書物だ』

だから

『君達が、その書物に何を書き込むかは自由。
 英雄という名を利用して暮らすか、本物の英雄となり世界の歴史に名を刻むか。
 解らぬが……試練をクリア出来るということは、それだけ君達の選択肢は多いということだ』

ノハ#゚听)「……はい」

( ゚д゚ )「……把握した」



65: ◆BYUt189CYA :2007/02/02(金) 20:52:01.87 ID:Z8h/BzT20
  
『では行くが良い、新たな英雄y――』

ノハ#;゚听)「…………」

途中でスイッチを切ったかのように声が途切れる。
それを合図としたかのように、ルイルの輝きが消えていった。

┗(^o^ )┓「終わりましたね……では、これから頑張って下さい」

ノハ#゚听)「あ、はい……本当にありがとうございました」

\(^o^)/「私こそ御礼を言います。
       貴重な体験をさせてもらいました」

('、`*川「んじゃー、これからも精進を怠らずにね」

( ゚д゚ )「あぁ、そっちもな」

('、`*川「むー」



66: ◆BYUt189CYA :2007/02/02(金) 20:52:53.24 ID:Z8h/BzT20
  
祭壇を出る。
暗い石造りの通路から外へ出れば、そこは朝日が射す森の中。

ノハ#゚听)「うわ、もう朝になっちゃってるよ。
      結構長い時間だったんだね」

( ゚д゚ )「丁度良い、帰る前にダディさん達に報告しに行かないか?」

ノハ#゚听)「うん、それが良いね。
      じゃあ、バーまで競争!」

ヒートが駆け出す。
朝日を受け、更に美しく輝く赤茶色の髪が揺れる。
その後姿を見ながら、ミルナは肩を竦めて追い始めた。



67: ◆BYUt189CYA :2007/02/02(金) 20:53:47.87 ID:Z8h/BzT20
  
暗闇の中。
微かな光が中心部に放たれている、祭壇最奥の空間。
そこには一つの人影。

|  ^o^ |「……英雄神様」

『何か?』

ルイルの前に巨体。
クン三兄弟の長男であるブームが立っていた。
その手には幾枚かの紙。

|  ^o^ |「ヴァラシャ島に確認されている異形生物についてなのですが」

『話せ』

ブームは手に持った紙を見る。
その内容は

|  ^o^ |「『あちら側』から提供された資料と照合してみたところ
       十中八九……アレかと」

『……そうか』



68: ◆BYUt189CYA :2007/02/02(金) 20:55:00.89 ID:Z8h/BzT20
  
|  ^o^ |「報告通りですね……とうとう、この世界にも来ましたか」

『ということは、『あちら側』は全て喰われたということか?』

|  ^o^ |「いえ、未だ連合軍が一進一退の攻防を繰り広げている、と」

『流石だな。
 数百年もの間、戦い続けているだけはある』

|  ^o^ |「おそらく向こうも飽きたか、諦めかけているのでしょうね。
      だからこそ、こちら側にも姿を現し始めた」

『原因はこの際、どうでも良い。
 至急に『帝』以上の英雄を集め、対策を練る必要がある』

|  ^o^ |「了解しました。
      ヴァラシャ島には、イリミリル軍隊を差し向けておきます。
      おそらくは時間稼ぎになると」

『あぁ、任せる』

|  ^o^ |「了解しました」



70: ◆BYUt189CYA :2007/02/02(金) 20:56:28.95 ID:Z8h/BzT20
  
足音が響く。
石畳を駆ける音。
硬質かつ、軽快な音だ。

表道から、裏道へと入っていく。
太陽の光があまり届かない暗い道を
直進した後に突き当りを右折、更に右折して左折。

しばらく音が続いた後、それは声によって掻き消された。

ノハ#゚听)「よし! 一番乗り!」

(;゚д゚ )「試練が終わった直後だというのに……まだ体力が余っているのか」

ノハ#゚听)「まぁ、嬉しさ余って体力百倍って感じかな?
      テンションが高まってるせいだと思う」

( ゚д゚ )「明日は筋肉痛だな」

軽く笑い合いながら、扉を開いた。



71: ◆BYUt189CYA :2007/02/02(金) 20:57:11.37 ID:Z8h/BzT20
  
内部は薄暗い。
明かりが点々と点いているだけの空間だった。

ノハ#゚听)「……あれ?」

違和感に気付いたのは直後。

原因は内部の様子だった。
いつもより、広々と感じる室内。

( ゚д゚ )「これは……」

ミルナも様子に気付いた。

無いのだ。
店内にあった円形テーブルや椅子。
棚にあるはずの酒類やコーヒーの豆。
壁に掛けていた絵画も、カウンターテーブルにある菓子も。



72: ◆BYUt189CYA :2007/02/02(金) 20:58:01.95 ID:Z8h/BzT20
  
呆然とする二人に声が掛かる。

|(●),  、(●)、.:|「おや、ヒートちゃんにミルナ君。
            どうやら儀式は終わったみたいですな」

ダディだ。
カウンターの奥から巨大な顔を覗かせている。

ノハ#;゚听)「ダ、ダディさん……これは?」

|(●),  、(●)、.:|「えぇ、今日で店を閉めようと思いましてね」

( ゚д゚ )「突然だな」

ノハ#゚听)「そんなぁ……」

|(●),  、(●)、.:|「ダイオードとワカッテマスは、既にこの町を出ています。
            私も、この作業が終われば明日にでも……」

( ゚д゚ )「それは残念だ」

|(●),  、(●)、.:|「とりあえず丁度良かった。
            さぁさぁ、そこのカウンター席に座って下さい。
            色々と報告を聞きたいですからね」



73: ◆BYUt189CYA :2007/02/02(金) 21:00:05.15 ID:Z8h/BzT20
  
それから、ヒートとミルナは儀式を受けて思ったことを正直に話した。
ヒートが白熱して話せば、ミルナが冷静に抜けたところを補う。
先日までに比べ、かなりコンビネーションというモノが上がっている二人の話を
ダディは笑顔で聞き入った。

|(●),  、(●)、.:|「では、これから二人は何をするつもりなのですか?」

新しいコーヒーを淹れながら、ダディは問いかける。
一番彼が気になっていた話だ。

ノハ#゚听)「うん、それなんだけど……」

( ゚д゚ )「イリミリル軍隊へ行こうかと思っている」

イリミリル軍隊。
何処にも属さない、流浪の傭兵部隊だ。
今までの歴史を紐解いても、イリミリルは何処の国にも属さず、どんな戦争にも参加していない。
その実力が良い意味でも悪い意味でも有名だ。
一説によれば、英雄神自らが作った英雄軍隊であるらしい。

|(●),  、(●)、.:|「軍、ですか……つまり得た力で戦い、と?
           任務によっては人を殺さなければならないとは思いますが……」



74: ◆BYUt189CYA :2007/02/02(金) 21:01:34.06 ID:Z8h/BzT20
  
ノハ#゚听)「ううん、私達は人を殺すつもりなんてない」

( ゚д゚ )「今、ヴァラシャ島で人を襲っている獣の話を聞いたことがあるか?」

それは最近になっての出来事。
この港町から南東にある、比較的小さな島。

事件が起きたのは数ヶ月前。
ヴァラシャ島にある小さな村が、まるで獣に襲われたかのような傷跡を残して無くなった。

鋭利な爪跡、鉄さえ貫く牙、跳躍すれば数十メートルの高さを跳ぶ。

色々な報告が入ってる異形の生物。
それが人間を襲っているのだ。

ノハ#゚听)「今、あの島に一番近くにいて、武力を持ってるのがイリミリル軍隊。
      ミルナの聞いた話だと、少し経ったら獣対策に兵を出すらしいの」

( ゚д゚ )「俺達は人を殺したくはないが、この力を有効に使うならば戦わなければならない。
     だったら、人を襲う獣の退治が一番良いかと思ってな」



75: ◆BYUt189CYA :2007/02/02(金) 21:02:40.62 ID:Z8h/BzT20
  
|(●),  、(●)、.:|「……しかし、もし獣にイリミリル軍隊が関与しなかったら?
            もし、違う任務にて人を殺せと言われたら?」

ノハ#゚听)「うーん……その時はその時かな」

( ゚д゚ )「今までもそんな感じだったからな、何とかなるだろう」

|(●),  、(●)、.:|「ふむ……貴方達らしくて良いかもしれませんね」

それからは他愛の無い話が続く。
店はどうするのか、これからダディ達は何処へ行くのか。

ヒートとミルナの前には、ダディの巨大な笑顔。
今まで随分と世話になってきた顔である。

この日を境に、ヒートとミルナはその笑顔を見ることは無かった。



――あの時まで。




76: ◆BYUt189CYA :2007/02/02(金) 21:03:59.99 ID:Z8h/BzT20
  
数日後。
ヒート達が暮らす港町から、北東へ数千km離れた場所。

年中雪が降る地域だ。
人はほとんど住んでおらず、たまに使われていない基地があるだけの広域な地域。

その極寒地帯に二つの人影があった。
そして、そこへ加わる巨大な顔を持った人影。
どれも黒衣を着込んでいる。

|(●),  、(●)、.:|「いやいや、遅くなりました」

/ ゚、。 /「言えば迎えに行ってやったのだが」

|(●),  、(●)、.:|「いえ、あまり頼りっきりでは悪いですしね」

( <●><●>)「ヒートとミルナは?」

|(●),  、(●)、.:|「色々と考えていたようですが、とりあえずイリミリルへ」

/ ゚、。 /「イリミリル……そうか、アレと戦うつもりか」

|(●),  、(●)、.:|「何とも奇妙な運命ですな」

冷たい風が吹く。
風に乗って白い雪が舞い狂い、視界を一時的に奪った。



77: ◆BYUt189CYA :2007/02/02(金) 21:05:09.23 ID:Z8h/BzT20
  
( <●><●>)「彼女達がその道を選んだとしたならば、また会う日が来るかもしれません」

/ ゚、。 /「だが、それをさせないために私達が動いている。
      もし会う時が来るならば、それはある意味最悪のシナリオに向かっている証拠だ」

|(●),  、(●)、.:|「そうですね……何しろ、彼女達に全てが掛かってしまうのでしょうから」

( <●><●>)「議論しても仕方ないです。 そろそろ行きましょう。
        あまりモタモタしていると間に合わなくなるでしょうから」

/ ゚、。 /「あぁ、任せた」

( <●><●>)「では」

言葉と共に発光。
ワカッテマスの両手に光が宿る。
それはみるみる大きくなっていき――

|(●),  、(●)、.:|(ヒートちゃん、ミルナ君……もう二度と会わないことを願いますよ)

光はドーム状に広がった。
それは三人を飲み込み、一瞬で消える。

場には何も残らず。
ただただ、冷たい風が吹くのみだった。



79: ◆BYUt189CYA :2007/02/02(金) 21:06:37.95 ID:Z8h/BzT20
  
半年の月日が経つ。

英雄達の間で『蜘蛛姫』と『騎士王』の名が有名になるまで時間は掛からなかった。

イリミリルの新人実力者。
攻撃の要と防御の要。
豪華絢爛な突撃姫と、堅実寡黙な鉄壁騎士。

有名になる引き金として
『KSK突撃作戦』『801防衛戦』などが挙げられるが


――それはまた別のお話である。




ノハ#゚听)ヒートと( ゚д゚ )ミルナは英雄になるようです

            〜終〜



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