( ^ω^)ブーンと川 ゚ -゚)クーは抗い護るようです
- 2: 短大生(大分県) :2007/04/02(月) 15:10:56.04 ID:dSvlIMCK0
- 第十一話 『兄弟喧嘩』
列車の速度が落ちる。
シナーの手が、アクセルレバーから離れたからだ。
彼のこめかみに拳を突きつけているのは
(#゚;;-゚)「ええ子や。
強者に従うんが、弱者に出来る唯一のことやからな」
( ;`ハ´)「ひぃぃ、殺さないでほしいアル!」
(#゚;;-゚)「抵抗せんのやったら殺さん。
とりあえず止めてくれれば、後は何もせんことは約束したる」
速度が揺るみ、ついには止まる。
キ、という甲高いブレーキ音を耳に入れながら、軍神は窓から見える上空を見上げた。
灰と黒の色が高速で動いているのが見える。
青緑光を後部から吐き出しながら、赤光を前部からバラ撒きながら。
- 3: 短大生(大分県) :2007/04/02(月) 15:12:20.76 ID:dSvlIMCK0
- (#゚;;-゚)「……結局、ウチには一度も言ってくれんかったなぁ」
軍神は目を細め
(#゚;;-゚)「アンタは先に行くつもりで……そしてそこで止まることを望んだ。
他人の中で生き続けることによって。
記憶という止まった時間の中に、その中で氷漬けになることによって」
眉尻を下げる。
その表情は、悲しみを押さえつけた笑み。
(#゚;;-゚)「忘れんよ、絶対に」
- 5: 短大生(大分県) :2007/04/02(月) 15:14:16.07 ID:dSvlIMCK0
- *(#‘‘)*「チッ! もう始まりやがりましたか!」
舌打ちしながら空を見上げる。
その視線の先には、戦闘機を用いた兄弟喧嘩が展開されている。
从メ゚∀从「まだ僕達は終わってませんよ!」
グラニードを構え、しかしボロボロの様相でハインリッヒが言う。
*(#‘‘)*「今回の目的はGDFの回収!
それも終わり掛けている今、テメェを相手にするメリットなんかねーんですよ!」
从メ゚∀从「負けるのが怖いんですか!?」
*(#‘‘)*「!?」
从メ゚∀从「僕に負けるのが怖いんですか!?」
*(#‘‘)*「このガキ……!
ちょっと戦えるようになったからって、世の中ナメてんじゃねぇですよ!」
「やめなよ、ヘリカルちゃん」
突如、声が響いた。
それは女性の声であり、そして二人にとって聞き覚えのある声。
从'ー'从「ここで本気喧嘩しても良いことないから」
- 6: 短大生(大分県) :2007/04/02(月) 15:15:40.68 ID:dSvlIMCK0
- *(‘‘)*「……渡辺ちゃん、いつの間に?」
从'ー'从「列車が止まったからね。
夜空の演舞会を見るには、やっぱり少しでも高い場所じゃなきゃ」
と、その目は空ではなくハインリッヒへ向けられた。
視線を受けた彼女は反射的にグラニードを構える。
从メ゚∀从「……!」
从'ー'从「大丈夫、貴女を襲ったりするつもりはないよ」
从メ゚∀从「……信じられるわけがないです」
从'ー'从「やっぱりそうなるよねぇ。
でも私は貴女が小さい頃から見ている、いわば親みたいなものなんだよ?」
从メ゚∀从「貴女は親なんかじゃない……クーさんと内藤さんが僕の親だ!」
从'ー'从「つれないね」
少しだけ眉尻を下げる。
悲しいというよりも寂しいというような表情。
- 7: 短大生(大分県) :2007/04/02(月) 15:16:51.61 ID:dSvlIMCK0
- 从'ー'从「まぁいいや。
私達と過ごすのが嫌なら、クーちゃんのトコに行った方が良いよ」
その言葉に、ハインリッヒは背後へ目を向ける。
少し遠くでクーが倒れているのが見えた。
从メ゚∀从「クーさん!!」
慌てて駆け出したハインリッヒを、少しの笑みを浮かばせて見つめる渡辺。
*(‘‘)*「残念でしたね、渡辺ちゃん」
从'ー'从「ううん、いいんだよ。
私は親を名乗る資格なんか、本当はないんだから」
夜空を見上げ、彼女は少しだけ眉尻を下げて言う。
得体の知れない感情が捉えた視界では、兄弟喧嘩の決着がつこうとしていた。
- 10: 短大生(大分県) :2007/04/02(月) 15:18:33.35 ID:dSvlIMCK0
- (`・ω・´)(おかしい……!)
戦い始めて数分。
合計五回の攻防を経て、いよいよシャキンは疑問を確証とする。
妙だ、と。
高速で展開される視界の中、下方を飛ぶのは兄が駆るGDF。
GIFよりも高性能であり、更には自分よりも技量を持つはずの男が乗る機体。
しかし
(`・ω・´)(弱い……いや、ぎこちない……?)
よくは解らないが、予想よりも手応えを感じない。
言うなれば、肩透かし。
表すなれば、手加減を受けているような感覚。
思わず通信機のスイッチを入れて怒鳴る。
(`・ω・´)「加減か、ラミュタス!
俺にはその程度の力で充分だと言いたいのか!」
- 12: 短大生(大分県) :2007/04/02(月) 15:20:03.39 ID:dSvlIMCK0
- 『……兄とは呼んでくれないのだな。
昔のお前は「兄さん」と言っていたものだが』
(`・ω・´)「御託はいい……本気を出せ!」
『既に出している』
(`・ω・´)「嘘を吐くな!」
『気づけよ愚弟。
お前が俺を超えている証拠だということに』
(;`・ω・´)「……嘘だ!!」
スロットルレバーを操作し、機首をGDFへ向ける。
突撃、加速。
先端から白い衝撃波が舞い散り、大気の壁を貫くように飛翔する。
対して、ラミュタスの対応は遅かった。
まるでわざと攻撃を受けるような軌道で飛ぶ。
- 13: 短大生(大分県) :2007/04/02(月) 15:21:41.37 ID:dSvlIMCK0
- (`・ω・´)「アンタは――アンタは!!」
――強いはずなんだ。
信じられなかった。
自分が兄を超えているなど、信じられるわけがなかった。
目標としてきたのだ。
目標とし、超えるとまで誓ったのだ。
こんな呆気ない戦いで、超えたと言える訳がない。
(`・ω・´)「本気を出せ! 死にたいのか!!」
吠えながら機銃を吐く。
無秩序に連続で飛んだそれは、ラミュタスの機体を掠めた。
『……そうだな』
激情といえるシャキンの吠えに対し、ラミュタスは冷静に言葉を返す。
『俺は、もう終わりたいんだろう』
(;`・ω・´)「――!?」
『もう疲れたんだ。
逃げ続けるのも、追い続けるのも……知り続けるのも』
- 15: 短大生(大分県) :2007/04/02(月) 15:23:21.73 ID:dSvlIMCK0
- (;`・ω・´)「何を――」
そこでシャキンは思い出す。
過去、この世界に来る前に聞いた情報。
――『風鷲』はもう飛ぶことはない。
(`・ω・´)「まさかアンタ……」
『あぁ、もう一年以上も飛んでいない』
(`・ω・´)「何故だ!?」
『惚れた女がな……地に這いつくばってまで戦っていたんだ。
そんな姿を見て悠々と空を飛べるような男じゃなかったってことだよ、俺は……!』
突如、ラミュタス機が加速した。
低空飛行で地面を吹き飛ばし、シャキンから離れるように。
追いつつ
(`・ω・´)「その女とは……軍神か!?」
『会っていたか』
- 18: 短大生(大分県) :2007/04/02(月) 15:24:49.19 ID:dSvlIMCK0
- 距離は離れるばかりだ。
しかし追う。
ここで追わねば、一生追いつけはしない。
ラミュタス機が上昇を始めたのを視認。
右ペダルを踏み込み、軌道をなぞるようにして追撃。
急激がGが身体を襲った。
(`・ω・´)「強い――ッ女だった! アンタには勿体、無い――!」
『あぁ……ッそれは自分でも解っている!
何せ力関係で言えば……ッ、俺が護られる立場だからな!』
小さな笑い声が聞こえる。
しかし、その色は薄い。
(`・ω・´)「どうした!? 死にそうな声じゃないか!」
『死にそう、じゃなくて死にたいんだよ――!』
瞬間的に増大したGが牙を剥く。
全身の血液が下半身へ集まったかのような感覚。
目の前が黒に染まり、冷たい何かがシャキンの背筋を走った。
しかし
(`・ω・´)「冗談に――してはつまらん――ッ!!」
- 20: 短大生(大分県) :2007/04/02(月) 15:26:28.62 ID:dSvlIMCK0
- 意識さえ飛びそうな状況においてシャキンは遂に耐え切った。
Gキャンセラーが発動し、ブラックアウトしていた視界が元に戻り始める。
血を失っていた上半身にそれが戻り、何処かむず痒い感覚に襲われる。
いつ経験しても慣れない感覚だ。
『はは……お前は昔から真面目だったよな!』
突如、ラミュタス機が百八十度反転。
機首をこちらに向けて機銃を吐き出した。
咄嗟にかわし
(`・ω・´)「アンタも! 飄々としていて――随分とイライラさせられた!」
『それは悪かったな!』
口調が昔に戻っているように感じられた。
今のような厳格な口調ではなく、のれんに腕を通すような柔軟性のある口調。
過去に浸り始めたことを感じながら二人の戦闘は続く。
対空対ホーミングミサイル。
数は十五。
螺旋軌道を描きながらも、それらはシャキンに向かって襲い掛かる。
(;`・ω・´)「チィッ!!」
体重を左へ。
スロットルレバーの右を突き出す。
視界が左へ向かって倒れて回転を始めた。
際どいタイミングでミサイル群が掠める。
- 22: 短大生(大分県) :2007/04/02(月) 15:27:50.84 ID:dSvlIMCK0
- 『機械壁が――見たいと思って出掛けた俺に――!
必死こいてついて来たのを、覚えてるか!?』
(`・ω・´)「――あれは死ぬかと思った!」
抜けた。
前方。
方向転換して、更に加速するGDFの姿を視認。
『それはそうだ!
Gチャンの助けが――無ければ吸収されていただろうな!』
Gチャンとは、ラミュタスとシャキンの祖父のような男だ。
元オーベウス軍兵だと豪語していたが、今は何をしているのやら。
ちなみに渾名などではなく本名である。
『Gチャンはまだ生きているのか!?』
(`・ω・´)「あの老兵が生きていなければ――今の俺はいないだろうよ!」
エリゴリズムを切り替える。
セミランダムの回避インジェーターを、フルマニュアルに変更。
機体が更に自由となり、そして更に兄を追う。
- 24: 短大生(大分県) :2007/04/02(月) 15:29:27.23 ID:dSvlIMCK0
- 『……そうか、老兵だと知ったか!』
(`・ω・´)「『解った』もしくは『感じた』が正しい!
本当のことは――知らず仕舞いだ!」
GDFの腹部が展開。
更に背撃用の空爆雷がバラ撒かれた。
『彼はオーベウス軍兵だった!
そして! 「機械天井壁」に挑んだ初めての男――それだけだ!』
(`・ω・´)(だから小型ルイルを持っていたのか!?
そしてその技術に精通しているのも……なるほどな……!)
『あれはあれで――再度のチャンスを狙っていたらしいぞ!
あの老体で! まだ諦めずにッ虎視眈々と――再び挑もうとしていたんだ!』
はは、と軽い笑いが聞こえる。
『笑えるな! だが俺も、ああいう男になりたかった!』
(`・ω・´)「まだ遅くはない!
人生、やり直そうと思えばいくらでも――」
- 27: 短大生(大分県) :2007/04/02(月) 15:30:58.19 ID:dSvlIMCK0
- 来る。
ラミュタス機が突如、右方向へ軌道を変更した。
追うように体重を右へ。
しかし向こうが速い。
すぐさま機首先をこちらに向け
『だがな……記憶というものは、どうしてもやり直しが利かないだろう?
記憶喪失になるか死なない限り、記憶というのはどうやってもリセットされない』
撃たない。
撃たずに、そのまま前方加速。
シャキンから見て左方向へ飛翔した。
(`・ω・´)「記憶……?」
『シャキン』
突如、彼の声が静かに、しかし力強くなる。
問答無用の響きに、シャキンは開きかけていた口を閉じた。
『シャキン。
お前は、俺との戦いが終わればどうするつもりだ?』
(`・ω・´)「どういうことだ?」
- 29: 短大生(大分県) :2007/04/02(月) 15:32:24.07 ID:dSvlIMCK0
- 『渡辺側へ行くのか、それとも後継者側に行くのか……そういうことだ』
(`・ω・´)「俺は……」
少し考え
(`・ω・´)「俺はエクストがいる側に行こうと思っている。
世情に疎い俺とは違うアイツについて行けば、きっと何とかなるだろうからな」
『そうか』
そして兄は更に言葉を紡ぐ。
『だが、一つだけ言っておく。
全ては同じなのだと』
(`・ω・´)「同じ……?」
- 30: 短大生(大分県) :2007/04/02(月) 15:34:03.63 ID:dSvlIMCK0
- ラミュタスは背後を飛ぶシャキンの機体へ目を向ける。
黒と青の翼を持つそれは、夜空の中にも関わらずハッキリと浮いて見えた。
既に、互いの攻撃の手は止んでいる。
右肩から来る痛みに耐えながら
(`・д・')「……いいか、同じなんだ。
渡辺側につこうが、後継者側につこうが同じなんだ」
『どういう――?』
(`・д・')「知らないだろうし、今言っても解らないだろう
だが、知らぬことを良しとするな……望めば得られる立場にいることを忘れるな」
時間が経っているために出血が激しい。
右腕は冷たくなり、感覚も薄くなっていく。
霞みつつある視界を必死に開こうとするも、しかし失血の効果は容赦を知らない。
- 32: 短大生(大分県) :2007/04/02(月) 15:35:25.21 ID:dSvlIMCK0
- 自分はおそらく、死ぬ。
伝えねばならないことがある。
しかし、全てをそのまま教えることに意味はない。
だから
(`・д・')「俺は知った」
『何を』
(`・д・')「全て、とは言わないが……知るべきところまで」
『…………』
(`・д・')「だから疲れたんだ。
知ったことによる重圧……しかし、逃げを知らぬ性格故に」
『アンタは……』
(`・д・')「俺のようにはなるなよ、シャキン。
そして俺を殺して上に行け」
機体を傾ける。
シャキン機から離れるように身を動かし、上昇していく。
- 34: 短大生(大分県) :2007/04/02(月) 15:36:56.47 ID:dSvlIMCK0
- 『……兄を殺したいなどと思う弟はいない』
(`・д・')「だがケジメというやつだな。
俺にとっても、お前にとっても。
そして最後に一つだけ伝えておこう……これを誰かに言うかはお前に任せる」
『何だ?』
(`・д・')「本当に警戒すべきは渡辺達じゃない。
その陰と……そして、剣先にいる奴らこそが滅びの担い手だ」
『……一つ聞かせてくれ。
渡辺側と後継者側が争っているらしいが、何故それを言わない?
事情次第だが、協力し合うことだって出来るんじゃないか?』
(`・д・')「お前が思っている以上に、この件は複雑だ。
渡辺が後継者を敵視する理由として、後継者の背後に厄介な勢力が見え隠れしている。
後は理解出来んだろうから言わないぞ」
『知りたければ己の目と耳で、か。
確かに『教えられた真実』に意味は無いな』
(`・д・')「わざわざお前に話した意味を考えろ……期待している」
『…………』
- 37: 短大生(大分県) :2007/04/02(月) 15:38:45.37 ID:dSvlIMCK0
- ノイズに混じって弟の呼吸音が聞こえる。
迷っているのか、悩んでいるのか。
『……ありがとう、兄さん』
(`・д・')「礼を言われるなど何年振りか」
少し笑みを浮かべ
(`・д・')「さよならだ。
いいか……俺を超えたければ全力で俺を殺せ。
そしてそれでも尚、先を見るというのなら俺の想いも持っていけ」
- 39: 短大生(大分県) :2007/04/02(月) 15:40:05.25 ID:dSvlIMCK0
- 殺せ。
兄の口から聞いた殺害命令。
シャキンは少しだけ顔を伏せる。
見える視界では、兄の駆るGDFが離れていっていた。
顔を上げる。
だが、シャキンの表情には哀しみなど映っていなかった。
(`・ω・´)「殺したくなんか、ない」
『超えたいんだろう?』
スロットルレバーを前方へ。
右ペダルを踏み込んで、機体を上昇させる。
(`・ω・´)「アンタは過去と決別すべきだ」
『だから死にたいと言っている』
(`・ω・´)「生きろよ……だからこそ生きるんだ……!」
急上昇のGに耐えつつ、更に上を目指す。
やみ世の中で、灰色の鉄翼が前方を飛ぶのが見えた。
- 40: 短大生(大分県) :2007/04/02(月) 15:41:31.56 ID:dSvlIMCK0
- (`・ω・´)「アンタの心は、あの外の世界と一緒だ!」
更にペダルを踏み込む。
(`・ω・´)「何も無く! 何も響かず! 何も出来ず!
だから動かないアンタを――!!」
エミリングゲージを『5000』にまで引き上げる。
この状態で飛べるのは十分程度だが
(`・ω・´)「俺の手で、諦めの閉鎖世界から引きずり出してやるよ!」
『……死にたいと言う相手に、死ぬなという残酷さが解っているのか?』
(`・ω・´)「アンタの事情なんて知ったことじゃない!
俺はアンタを生かす! その上で超える!」
吠えつつ、連装マイクロミサイルのスイッチを押した。
- 42: 短大生(大分県) :2007/04/02(月) 15:42:53.45 ID:dSvlIMCK0
- ラミュタスは風と雰囲気で察する。
背後のシャキン機から、大量のマイクロミサイルがバラ撒かれたことを。
今の自分は、一年ものブランクが重石として乗っかっている状況。
相手は現役のパイロットだ。
出来ることとして時間稼ぎが関の山だろう。
だが、その時間こそが今の彼にとっては最高の褒美であった。
(`・д・')「生かすと言った割には、殺す気満々だな……!」
『ただアンタを信じているだけだ!』
幾重にも重なった兵器が来る。
人に用いるべきではなく、しかし戦闘には用いるべき兵器が。
それは螺旋の軌道で襲い掛かってきた。
右腕を動かそうとするも、失血によって思うように動かない。
似たような状況であるが、右よりはマシな状態である左手をメインに操作。
ペダルを踏み込む。
加速。
左のスロットルレバーを突き出す。
右方へ旋回し、更に加速。
- 44: 短大生(大分県) :2007/04/02(月) 15:44:26.25 ID:dSvlIMCK0
- しかしミサイルは目標を見失わない。
幾つかをまくことには成功したが、未だ半数以上がこちらを目指して空を走っている。
(`・д・')「だが俺は、もう誰の意思にも動かされはしない――!」
足元に刺してあるブレードを掴む。
思い切り前方へ押し出し、カチンという硬質な音が響いたのは直後。
変化。
それは翼からだ。
灰色を示していたそれは、まるで上下に開くように展開。
完成したのは四枚の翼。
背後から見て『X』の形を成している。
共に来るのは速さ。
先ほどとは比べ物にならぬほどの速度だ。
『速い!? 何処にそんな速度を隠していた!?』
(`・д・')「悪いが――!」
一瞬にして水蒸気爆発を引き起こし、翼から白い尾を引きながら空を滑走。
ミサイル群が目標を見失って堕ちる様が、遥か遠くで見受けられた。
- 46: 短大生(大分県) :2007/04/02(月) 15:45:54.96 ID:dSvlIMCK0
- (`・д・')「お前が殺さぬと言うのなら、俺がお前を殺してやろう!」
旋回し、シャキン機へと機首を向ける。
『どういう理屈だ!?』
(`・д・')「逆意の理に従え愚弟!」
叫ぶ。
(`・д・')「いいか、今から俺はお前を殺しに掛かる!
それも正面衝突での、自分の命をも落とすであろう攻撃だ!」
『……!?』
(`・д・')「生きたければ相応の方法で生き残れ!」
『なっ――卑怯者が!!』
(`・д・')「何とでも呼べよ愚弟!
俺はもう背負ったモノを下ろした!
それを拾って先へ行くか、俺と一緒に地獄へ墜ちるか――この瞬間に選べ!」
- 47: 短大生(大分県) :2007/04/02(月) 15:47:36.42 ID:dSvlIMCK0
- 正面を見据える。
ここからでは視認出来ぬほどの距離であるが、GDFならば数秒で無とするだろう。
だからラミュタスは加速した。
先ほどまで吐いていた青緑の光とは違い、赤に近い紅蓮の発光。
爆発的な推進力を以ってGDFは飛翔する。
いや、もはや『飛翔』というレベルではなかった。
この状態において目を開くのは意味を為さない。
何故なら視認出来る速度ではないからだ。
しかし、ラミュタスは目を開いて言った。
(`・д・')「さぁ、俺を超えろ――!!」
それは決死の咆哮。
シャキンの機体が『フォースアタック』を可能とするのは、ESS解析で解っていた。
彼がそれを用いて相対した場合、機体ごと砕かれるのは自分だ。
もし回避されたとしても自機は止まることなく飛び続け、いずれは耐え切れずに空中分解する。
どちらにせよ、死が待っていた。
身体に異常な重圧がかかり、出血さえも止まる。
全身の骨肉が悲鳴を上げるのが手に取るように解った。
- 49: 短大生(大分県) :2007/04/02(月) 15:48:47.09 ID:dSvlIMCK0
- 死の間際には走馬灯が流れると聞くが、それはない。
振り返られるほどの過去を持ち合わせていないだけか。
「――!」
そこまで考えた時、一筋の光が見えた。
それは紫色の膜。
レイドールが放つ『フォースアタック』。
魔力は物理法則を捻じ曲げる。
如何なる速度でぶつかろうが、その奇抜な法則によって全ては叩き伏せられる。
つまり、あの弟は生き残ることを選んで――
それで良いと思う。
衝突の間際、ラミュタスは願いを籠めて声にならない声を発した。
――頼むぞ、と。
- 52: 短大生(大分県) :2007/04/02(月) 15:50:18.15 ID:dSvlIMCK0
- それはまさに『目にも止まらぬ』決着だった。
音も無く空中で光がぶつかり、そして爆音と同時に遅れてきた飛翔音が重なる。
ゴ、と、キ、の音。
その重なった音は、聞いたこともない音色だった。
赤と黄の光が地表を照らす。
(#゚;;-゚)「……終わった、か」
列車の陰で、決着の音を耳に入れるのは軍神。
(#゚;;-゚)「随分と思い悩んどったなぁ、ラミュタス――いや、風鷲」
目を伏せ
(#゚;;-゚)「少しくらい頼ってくれても良かったんやけど……。
まぁ、今更何言うたって変わらんか」
涙はない。
枯れ果てたモノを流すことなど出来ない。
しかし軍神は吐息と共に、もはや届かぬ声を送る。
(#゚;;-゚)「さよなら、ウチが愛した最初で最後の人。
アンタは間違いなくウチの『翼』やったよ。
鳥らしく空で死ねて幸いやと思う……ウチも地で果てるから、待っといてな」
列車から身を剥がして歩き出す。
もう一機のGDFの下へと。
- 53: 短大生(大分県) :2007/04/02(月) 15:51:51.09 ID:dSvlIMCK0
- 激突した二機は砕け、しかし勝敗が決した。
紫色の膜が音速超過で突っ込んできた機体をぶち抜いたのだ。
四枚の鉄翼を持ったGDFは、そのまま機体を引き裂かれる。
空中で爆発したのは次の瞬間で、四散したのは直後。
紫色の膜を張った機体は、GDFが墜ちたのを確認するように旋回し
そのまま地面へ着陸した。
しかし、内部の人間はしばらく出てくることは無かった。
从'ー'从「さて、と」
列車の上で決着を見届けた渡辺が、貞子の手を取って腰を上げた。
それに倣うようにヘリカルも立ち上がる。
デフラグが待つジープへと歩き出した時、三人を呼び止める声が響く。
( ^ω^)「……待つお」
ブーンだ。
クレティウスを指輪に戻していることから、攻撃の意思はないらしい。
从'ー'从「何かな?」
( ^ω^)「一体、何なんだお」
それは問いかけ。
- 54: 短大生(大分県) :2007/04/02(月) 15:53:17.95 ID:dSvlIMCK0
- (;^ω^)「何がどうなってるんだお?
何で異世界の人達が、この世界にいるんだお?
それは『世界交差』のせいなのかお?」
*(‘‘)*「何も知らないガキが……です」
ブーンには聞こえぬ声で、ヘリカルが吐き捨てるように呟く。
それを背中で聞きつつ
从'ー'从「無知は自覚してるみたいだね。
でもまだ足りない……観察力と洞察力辺りかな?」
(;^ω^)「お前達は……」
从'ー'从「ん?」
(;^ω^)「おかしいんだお。
敵には見えないんだお」
从'ー'从「…………」
(;^ω^)「敵としての行動っていうか言動っていうか……。
よく解らないけど、不自然さを感じるんだお」
- 57: 短大生(大分県) :2007/04/02(月) 15:54:34.14 ID:dSvlIMCK0
- それは本当に『感じる』程度なのだろう。
本人の顔を見れば、その言を確固たる形にしていないまま口にしていることが解る。
言っていることは間違いではなかった。
しかし、正しいと言えるものでもなかった。
( ^ω^)「お前達が本当に敵なら、今回の戦闘で僕らを殺しても良かったはずだお。
それだけの力と武器と意思を持っているはずだお」
从'ー'从「でも被害は最小限に止めた。
それはGDF回収という最優先目的があったから。
貴方達の目的は何?」
( ^ω^)「……知ることだお」
从'ー'从「知ってどうするの?」
( ^ω^)「それを決めるために知るんだお」
- 58: 短大生(大分県) :2007/04/02(月) 15:55:53.01 ID:dSvlIMCK0
- 彼の、その言だけはしっかりとしていた。
――彼の言葉に答えねば。
少しだけ考え、それを口にしようとした時。
[゚д゚]「おぉーい、俺はもう待ちくたびれたぞ。
さっさと帰ろうぜ」
催促の声が聞こえる。
応えるようにヘリカルが列車を降り、貞子も同じように降り始めた。
それを横目に
从'ー'从「じゃ、そろそろ私達は行くね」
( ^ω^)「…………」
从'ー'从「一つだけ言うとすれば――」
列車から降りる寸前、渡辺は小さな笑みで
从'ー'从「貴方達のことは嫌いじゃないよ。
状況次第では仲良くすることだって出来ると思う。
でもね、それは現状じゃ絶対に出来ないんだ」
(;^ω^)「どういうことだお?」
- 60: 短大生(大分県) :2007/04/02(月) 15:57:04.76 ID:dSvlIMCK0
- 从'ー'从「貴方達は好きだけど、貴方達の周囲に見え隠れする連中が大嫌いなの。
彼らは私達の邪魔をするから……だから、ごめんね」
――何故、謝る?
从'ー'从「あまり多くを語ることは出来ない。
貴方達を通じて、嫌いな連中に届くかもしれないから。
でも、これだけは言ってあげられる」
彼女は口にした。
从'ー'从「次に繋がる世界はヒーローがいる世界。
多分、立ち回り次第では君達も深く関わることになるんじゃないかな。
関わることを望むなら、の話だけど」
(;^ω^)「……ヒーロー?」
从'ー'从「じゃあ、ハインリッヒちゃん達をよろしく」
軽く手を振り、渡辺は列車から飛び降りた。
姿が見えなくなった数秒後にジープの起動音が聞こえ、そのまま走り出す音。
その車両背部に、いつの間にかGDFが接続されていた。
一人残されたブーンは
(;^ω^)「僕達の周囲に……見え隠れする連中……?」
- 61: 短大生(大分県) :2007/04/02(月) 15:58:32.21 ID:dSvlIMCK0
- シャキンは俯いていた。
GIF『レイドール』のコックピット内で、スロットルレバーを握ったまま。
(`・ω・´)「くそっ、馬鹿兄が……」
馬鹿だ。
本当に馬鹿だ。
弟に自分を殺させる状況を作るなど、何を考えているのか。
解っていた。
彼にもう未練などなく、背負っていたモノを下ろそうとしていたことを。
自分に『要素』を引き継がせたのだと。
(`・ω・´)「超えたと同時に失ったのか……」
達成感よりも先に来る喪失感。
まるで心に穴を開けられたような感覚。
しばらく、彼はそのままの姿勢で俯く。
- 64: 短大生(大分県) :2007/04/02(月) 15:59:46.06 ID:dSvlIMCK0
- コンコン、と風防を叩く音。
視線を向ければ、エクストが外からこちらを見ていた。
開閉スイッチを操作して風防を立ち上げる。
<_プー゚)フ「よぉ」
(`・ω・´)「エクストか……久しぶりだな」
<_プー゚)フ「とは言っても、ほんの数日振りだろ」
エクストは、未だ爆炎を上げるGDFの残骸群へ視線を向ける。
<_プー゚)フ「超えちまったな」
(`・ω・´)「超えた……んだろうな」
<_プー゚)フ「もっと胸を張れよ」
(`・ω・´)「あまりそういう気分になれないな」
<_プー゚)フ「そっか」
沈黙。
二人は炎が小さくなっていくのを見ながら、呆然としていた。
未だに信じられないのか、それとも現実を受け入れようとしているのか。
- 65: 短大生(大分県) :2007/04/02(月) 16:01:10.74 ID:dSvlIMCK0
- (`・ω・´)「兄さんは、最後……俺の選択次第では俺と一緒に死ぬつもりだった」
<_プー゚)フ「過激だな。 あの人らしい」
(`・ω・´)「しかし、GDFの詳細機動データを送ってきている」
<_プー゚)フ「お前が生を選ぶのを期待してたんだろうな。
弟想いの良い兄じゃねぇか」
(`・ω・´)「その兄の命を奪った俺は最悪ということになるな」
<_プー゚)フ「何だ、今気付いたのか」
半目で睨むシャキンを無視し
<_プー゚)フ「超えるっつーのはそういうことだろ。
ラミュタス隊長が亡くなったのは、その結果に過ぎねぇさ」
シャキンは、彼の眉がハの字になっていることに今更ながらに気付いた。
尊敬していた男が死んだのだ。
やはり相応の悲しさがあるのだろう。
- 69: 短大生(大分県) :2007/04/02(月) 16:02:44.48 ID:dSvlIMCK0
- (`・ω・´)「エクスト……」
<_プー゚)フ「胸を張れ。 頼むから張ってくれ。
じゃねぇと、隊長が化けて出るかもしれねぇぞ。
っつーか張らねぇと俺がぶん殴る」
(`・ω・´)「……考えておく」
<_プー゚)フ「相変わらずだな。
その思慮深さが良いところであり、ムカつくとこでもあるんだが」
溜息をと共に目を瞑る。
少しの間、黙祷するように口を閉ざし
<_プー゚)フ「……で、これからどうするよ?」
(`・ω・´)「元の世界に帰りたいと言いたいが、それも難しいだろうな」
<_プー゚)フ「あぁ、この件は妙な連中が絡んでやがる。
しかも俺達のいた世界の住人が」
(`・ω・´)「責任をとるとは言わん……が、見届けることくらいしても良いだろう。
兄さんも、俺に対してそれを望んでいた。
それにこの世界に引きずり込まれたことに意味があるはずだ」
<_プー゚)フ「隊長とお前の決着も、意図されたものってか?」
(`・ω・´)「解らんがな……そんな気がするだけだ」
- 70: 短大生(大分県) :2007/04/02(月) 16:03:55.36 ID:dSvlIMCK0
- <_プー゚)フ「たまんねぇな、誰かの手の上で踊るってーのは。
足元をドリルで貫いてやりてぇ」
(`・ω・´)「で、どうする?」
エクストは少し考え
<_プー゚)フ「俺は渡辺って奴のトコに行く気はねぇなぁ。
隊長も嫌がってたみたいだし、FCには借りが出来ちまったしな。
とりあえずFCに頼ってみて、駄目だったら何処か別の所へ行くさ」
(`・ω・´)「俺も一緒に行って良いか?」
<_プー゚)フ「聞くまでもねぇよ馬鹿。
んじゃ、とりあえずジェイルさんのトコ行こうぜ」
(`・ω・´)「ジェイル?」
<_プー゚)フ「あぁ、お前は知らないんだったな。
何かナチュラルに怖いから逆らわない方がいいぞ」
(;`・ω・´)「そ、そうか……」
- 71: 短大生(大分県) :2007/04/02(月) 16:05:09.69 ID:dSvlIMCK0
- それからの事後処理は迅速だった。
追いついたFCの兵達が、ジェイルの指揮の下で済ませていったのだ。
全壊したGDFも使えるモノを出来る限り回収し、研究材料とするらしい。
どこまでも貪欲な会社だな、とブーンは思う。
そもそも、この件には関わらないのではなかったのだろうか。
その事について聞いてみれば
爪゚ -゚)「探究心や好奇心といった人間の善本能というものは、なかなかに止めようがないものです」
とのことだ。
結局のところ、異世界の技術が気になるのだろう。
『KOB(今回お役に立たなかった馬鹿野郎様)』の王者にはドクオが満場一致で選ばれることとなった。
帰りの車の中での嘘泣きが五月蝿かったのを憶えている。
異世界からやって来たというシャキンとエクストは
ジェイルの紹介により戦闘機を駆る空戦隊の特殊員として、一時的にFCに組み込まれるらしい。
衣食住の保証も兼ねているそうだ。
とはいえ、異世界の情報を知っている限り吐いてもらうまでは
任務を当てることはないのだろうが。
ちなみに数日後に社長と顔を合わせるらしい。
今から同情してしまうのは何故だろう。
- 73: 短大生(大分県) :2007/04/02(月) 16:06:39.26 ID:dSvlIMCK0
- 撤収する際に言ったシャキンの独り言が、ブーンの頭にいつまでも残っていた。
「さようなら」と。
もう会えないと理解した言葉。
もう振り返らないと宣言する言葉。
その色は別れを経験した者でないと、絶対に吐けない意思の色だった。
聞いた話によれば、シャキンとエクストも世界交差などについて何も知らないのだという。
関係者であった兄からも、何も聞かされてはいないらしい。
自分達と同じく、彼らもまた無知。
しかしブーンは見た。
何も知らず、しかし何かを確実に受け渡され
そして見えぬ先へと足を進める意思が、シャキンの瞳にハッキリと刻まれているのを。
――この日、彼は本当の意味で飛翔を始めたのだ。
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