( ^ω^)ブーンと川 ゚ -゚)クーは抗い護るようです

4: 映画館経営(大分県) ::2007/04/03(火) 15:54:18.26 ID:QfbXw9x+0
  
第十二話 『擦れ違いの始まり』

GDFを巡った戦闘から数日後。
まだ陽が高い位置にある時間。
バーボンハウスでは、幾人かの青年達がダラダラと過ごしていた。

(´・ω・`)「へぇ、なかなか貴重な体験だったみたいだね」

コーヒーを注ぎながらショボンが言う。
カウンターテーブルに突っ伏しているのはブーン。

(;^ω^)「ぶっちゃけ疲れたお……状況報告とかでFCに拘束されることになったんだお。
      帰してもらえたのは翌日だし……」

川 ゚ -゚)「まぁ、仕方ないと言えば仕方ない。
     幸いだったのは内藤の母の器が大きかったことだな」

从;゚∀从「普通にモララーさんと話して納得してましたよね……」



6: 映画館経営(大分県) ::2007/04/03(火) 15:55:59.30 ID:QfbXw9x+0
  
( ゚∀゚)「で、テメェは何でそんなことなってんだ?」

ジョルジュの好奇の視線の先。
そこには背中に『KOB』と書かれた紙を張られたドクオの姿。
彼はテーブルに突っ伏しながら耳を塞ぎ

('A`)「あーあー、何も聞こえなーい」

( ゚∀゚)「KOB? 『去年の俺はバリバリ最強bP』の略か?
     ちょっと待てよ、今年はどうなんだよ」

('A`)「断トツでワーストbPだよ黙ってろよ」

( ^ω^)「まぁ、落ち込むなお。
      ドクオだっていつかは役に立つはずだお」

('A`)「今残酷な言葉を聞いたような。
    しかもこの紙張ったのお前だよな」

( ^ω^)「これをバネに頑張るんだお!」

(;'A`)「お前何でそんな目がキラキラしてんの?
    何か俺が悪いみてぇじゃん……理不尽じゃん」

川 ゚ -゚)「何やらよく解らんが、あの日からずっとこんな調子でな。
     まぁ、落ち込まれるよりはマシだが」

(´・ω・`)(…………)



8: 映画館経営(大分県) ::2007/04/03(火) 15:57:33.47 ID:QfbXw9x+0
  
と、そこでバーボンハウスの扉が開かれる。
『いらっしゃい』と言おうとしたショボンの表情が固まった。
異変に思ったブーン達も同じように視線を向け、同じように固まる。

( ´_ゝ`)「よっ!」

現われたのは兄者だった。
しかし、その頭と腕には未だに包帯が巻かれている。

(;´・ω・`)「……退院出来たの?
       怪我が治ったようには見えないけど」

( ´_ゝ`)「半分くらい治ったから退院出来た。
      看護士さんにセクハラばっかしてたら追い出されたってのもあるが」

(;'A`)(どう考えてもそっちじゃねぇか……)

荷物を片手に持って店内に入ってくる。
カウンターに座り

( ´_ゝ`)「久々にショボンのコーヒーが飲みたいなぁー」

(´・ω・`)「久々って……一週間くらいじゃない?
      まぁ、喜んでもらえるなら良いけど」



10: 映画館経営(大分県) ::2007/04/03(火) 15:58:55.61 ID:QfbXw9x+0
  
準備を始めたショボンを満足そうに見ていた兄者。
今度は、同じようにカウンター席に座っているブーン達へ視線を向ける。

( ´_ゝ`)「で、俺がいない間に何か色々とあったんだってな。
      俺もすぐに復帰するだろうから教えてくれよ」

(;^ω^)「兄者さん、無理しない方が良いですお」

从;゚∀从「そ、そうですよ!
      怪我人は安静にしてて下さい!」

( ´_ゝ`)「……これはアレだな?
      俺がいない間に、俺の株が急上昇としていたというイベントだな?」

川 ゚ -゚)「よく解らないが、話題には一度も出なかったぞ」

( ´_ゝ`)「これが世に言うツンデレか……やるねぇ」

(;゚∀゚)「馬鹿は病院行っても治らねぇみてぇだな」



12: 映画館経営(大分県) ::2007/04/03(火) 16:00:18.71 ID:QfbXw9x+0
  
それから兄者の異常とも言える粘着により、ブーン達はここ数日の出来事を報告した。
ふむふむと言いながら兄者は聞き入り、そして言う。

( ´_ゝ`)「つまり……どういうことだ?」

('A`)「頼むから、もう一回病院逝ってこい……頭の方の」

川 ゚ -゚)「つまり、まとめるとだな――」

コーヒーを片手にクーが説明を始める。

・渡辺の仕業によって、ある一つの異世界との壁が取り除かれた。
・その異世界から住人と物がこちらの世界に現われ始めた。

川 ゚ -゚)「ここまでは解るな?」

( ´_ゝ`)「あぁ……ところで住人や物とやらは、どういった基準で跳躍してきたのだ?」

( ^ω^)「お?」

( ´_ゝ`)「それは何者かに選ばれて現われたのか。
      それとも完全にランダムなのか……そこら辺はどうなのよ?」



13: 映画館経営(大分県) ::2007/04/03(火) 16:01:44.75 ID:QfbXw9x+0
  
確かに思ってみれば不自然だった。
この世界に現われたのは

GDFやGIF。
それを操るパイロット。
そして、渡辺側にいる軍神や魔砲少女。

ランダムで選ばれたと言うのならば、これほど妙なことは無い。
確実に選別されている。

川 ゚ -゚)「だが、おかしくないか?
     確かに軍神やGDFを選別して跳躍させたなら解るが
     シャキンやエクストは、どう見ても要らない要素のはずだろう?」

( ´_ゝ`)「ただのイレギュラーなのか、それとも……。
      まぁいい、続きを頼む」

その言葉に頷いたクーは、更なる説明を再開した。

・ラミュタス、エクストと名乗る男を、それぞれドクオ、ジェイルが拾う。
・彼らの依頼によって、GDFという戦闘機を奪還することに。
・GDFを持って隣都市を目指していた武器商人を追いつつ、渡辺達と戦うことに。



17: 映画館経営(大分県) ::2007/04/03(火) 16:03:12.03 ID:QfbXw9x+0
  
( ´_ゝ`)「で、結果は?」

・ラミュタスはシャキンとの戦闘で死亡。
・もう一機のGDFは渡辺達の手に落ちる。
・シャキンとエクストは一時的にFCへ身柄を保護されることに。

説明を聞いた兄者は、考え込むように唸り始めた。
しばらく思考した後

( ´_ゝ`)「そういや、誰か渡辺達に接触したんだろ?
      その時に何か情報を得られなかったのか?」

(;^ω^)「……えーっと」

ブーンは少しだけ迷った。
あの夜、渡辺の口から発せられた台詞。

――仲良くすることだって出来る。
――貴方達は好きだけど、貴方達の周囲に見え隠れする連中が大嫌いなの。

この言葉がどうしても引っかかる。
しかし、容易に口にしても良いものなのか。
特に渡辺を敵視しているクーは、どのような反応を示すのか。

悩むブーンを横目に、クーが軍神とのやり取りを説明する。

『リフレクション』の外側世界。
『異獣』と呼ばれる、軍神がいた世界を滅ぼした存在。
そして渡辺達の目的は『異獣』の滅びだということ。



18: 映画館経営(大分県) ::2007/04/03(火) 16:04:49.67 ID:QfbXw9x+0
  
( ´_ゝ`)「ちょっと待て。
      異獣ってのは渡辺達の世界にいるんだよな?
      じゃあ、何で奴らはこっちの世界にいるんだ?」

(´・ω・`)「解らないけど、一つだけ気になるワードならある」

( ゚∀゚)「んだよ?」

(´・ω・`)「以前、ギコさんが襲撃された話を思い出して御覧よ。
      モララーさんも言ってたはずだ。
      僕らを『戦力』として見ている可能性があるって」

川 ゚ -゚)「まさか……」

(´・ω・`)「この世界で戦力を集めて、その異獣とやらに備えている。
      そういう解釈の仕方もあるってことさ」

( ´_ゝ`)「だが、この世界で活動する理由に繋がらない。
      世界を繋げられると言うのならば、向こうの世界で勝手にやれと」

(´・ω・`)「今の情報だけでは、そこら辺を理解するのは難しそうだけどね。
      とりあえず渡辺達に対して、僕らはどうすべきなのかってことで――」



19: 映画館経営(大分県) ::2007/04/03(火) 16:06:23.64 ID:QfbXw9x+0
  
そこでショボンの声が止まる。
未だに悩んでいるブーンへと視線を向けて

(´・ω・`)「ブーン、何か言うことがあるんじゃない?」

(;^ω^)「お……」

( ´_ゝ`)「隠し事をしてもタメにならんぞ。
      お前にとっても、俺達にとっても」

川 ゚ -゚)「何か知っているのなら、話してくれ」

クーがこちらを見つめる。
兄者の顔が邪魔であるが、ブーンの心を動かすには充分だった。
しかし、敢えて自分の意見として口に出す。

( ^ω^)「……僕には、渡辺達が敵には見えないんだお」

(´・ω・`)「さっきの仮説が正しければ、敵に見えなくてもおかしくはないよ」

( ^ω^)「でも、敵じゃないにしてもおかしい点があるお。
      何で彼女は僕達を生かすんだお?」



22: 映画館経営(大分県) ::2007/04/03(火) 16:07:49.00 ID:QfbXw9x+0
  
一度口を開くと、止め処無く言葉が溢れる。

( ^ω^)「敵じゃないにしろ、僕達の存在は渡辺にとって少なからず邪魔なはずだお。
      それなら実力で排除するとか、何らかの実害を受けても仕方ない気がするんだお」

( ´_ゝ`)「俺、怪我したんだけど」

( ^ω^)「命まではとられてないお?
      渡辺が異世界の住人で、異獣というのを倒そうとしているのなら
      この世界の人々なんてどうでも良いはずだお」

川 ゚ -゚)「確かに……言動が少し噛み合っていない気がするな」

残虐性を覗かせておきながら、しかしその行動は生易しい。

軍神と相対したクーは特に思う。
あれほどの実力があれば、自分の命など一瞬で刈り取られるはず。
しかし動きを封じるのみの攻撃に終わっている。

何故か。
敢えて生かす理由は何だ。

从 ゚∀从「あの」

ジュースを飲んでいたハインリッヒが軽く手を上げた。



25: 映画館経営(大分県) ::2007/04/03(火) 16:09:07.78 ID:QfbXw9x+0
  
从 ゚∀从「これは僕個人が勝手に感じたことなんですけど
      何というか、渡辺さん達はこちらを攻撃するのを躊躇っている気がするんです」

川 ゚ -゚)「躊躇う?」

从 ゚∀从「細かいとこを言えば、躊躇っている人と躊躇っていない人がいるみたいな感じです。
      例えば、ジープからミサイル撃った人は殺す気でいたんでしょうが
      僕と戦ったヘリカルさんは『死ね』じゃなくて『負けろ』と言ってたんです。
      だからというのもアレですが
      彼女達は僕らを殺すことを良しとしていない……という感じなんですが」

( ^ω^)「…………」

頷けるような頷けないような。
何かが足りないと思えるような違和感。
心に引っかかるものがあるのだが、それが何か解らない。

川 ゚ -゚)「確かに不自然ではあるが……やはり理由が不明だとな」

ただの気まぐれという可能性もある。
ただ遊んでいるという可能性もある。



27: 映画館経営(大分県) ::2007/04/03(火) 16:10:44.65 ID:QfbXw9x+0
  
( ^ω^)「あ」

もう一つの情報を思い出した。

('A`)「どした?」

( ^ω^)「そういえば渡辺が言ってたお。
      次に繋げる世界にはヒーローがいるって」

川 ゚ -゚)「ヒーロー?」

( ´_ゝ`)「何? 戦隊モノや何とか仮面がナチュラルに在る世界?
      今からwktkが止まりません」

(´・ω・`)「ヒーロー……つまり英雄ってことだね」

( ゚∀゚)「何か神話じみてきやがったなぁ、おい」

('A`)「お前、神話が何か知ってんのか?」

( ゚∀゚)「んー、『ネーメの盾』とか『地翼ボイカス』とか?
     俺的にはJAPANよりも、ロシアとかそこら辺の『アルタニフス・オーレン』とか好きだな」

(;'A`)(意外だ……)



30: 映画館経営(大分県) ::2007/04/03(火) 16:12:20.29 ID:QfbXw9x+0
  
川 ゚ -゚)「まさかそのヒーローとやらは、神話のような力を持っていたりするのだろうか」

( ´_ゝ`)「そうだとすれば間違いなく勝ち目ないな。
      相手は竜を殺したり、世界焼き尽くしたり出来るってことだし」

兄者の言ったことを全員が想像する。
どの視点から見ても、最悪な方向へ行ってしまった。

(;^ω^)「……これはねぇお」

从;゚∀从「いや、まさか……でもハムスターは好きです」

('A`)「何を想像したんだ、お前は」

( ´_ゝ`)「しかしまぁ、神話通りの奴らが来るとは限らん。
      そもそもこっちが大人しくしておけば平和だろう、結局のところは」

兄者の言葉に、少しだけクーが俯く。

( ^ω^)「…………」

そうなのだ。
結局のところ、こちらが面倒事に首を突っ込んでいるだけなのである。



32: 映画館経営(大分県) ::2007/04/03(火) 16:13:42.71 ID:QfbXw9x+0
  
何もしなければ何も起こることはない。

モララーも似たような理由で手を引いたのだろう。
今回の件は、どう見ても自分達の手には負えない。
更に言えば今の自分達に、身を削ってまで戦う理由など無い。

前回の出来事は、結局のところクーに振り回された結果であると思っている。

言い方は悪いが、クーのせいで関わった。
クーのせいで指輪に認められ、クーのせいで戦いに赴いた。
クーのことは確かに好きだが、彼女が原因になっているのは否定出来ない。

今回はどうだろうか。
クーはともかく、これこそ自分はまったく関係ないのではないか。

まったくその通りである。

( ^ω^)(……少し、考えた方が良いかもしれないお)

どうすれば良いのか解らない自分がいる。
大きな理由も無いのに関わっても結局、堅い芯を持っている渡辺達に適うことはない。
シャキン達の件で、ブーンは何処か確信していた。

――自分には向いていないのだと。

面倒事に首を突っ込み、ワケの解らないまま走り回り、怪我をして敗北。
今回の件を要約すればこんなものだ。
知っている渡辺達から見れば、迷惑この上ない。



34: 映画館経営(大分県) ::2007/04/03(火) 16:15:16.85 ID:QfbXw9x+0
  
しかしクーは関わり合いを持とうとする。

親であるクルト博士のことを知りたいのか。
きっとそうなのだろう。

しかし、それがどうしたと言うのだ。
真実を知ってどうなると言うのだ。

先に待っているのは過酷な事実だろう。
夢や希望もない、この現実への醜い道筋だろう。

――知ったとしてどうなのだろうか。

自分は渡辺に『決めるために知る』と言った。
確かにその言に偽りは無い。
クーやハインリッヒも同じようなことを思っているはずだ。

だが、心のどこかで『もう嫌だ』と言っているのも事実だった。
痛い思いまでして知るメリットが無いからである。



35: 映画館経営(大分県) ::2007/04/03(火) 16:16:35.40 ID:QfbXw9x+0
  
( ^ω^)「…………」

(´・ω・`)「ブーン? どうしたの?」

(;^ω^)「え? あ、いや……何でもないお」

いつの間にか周囲が見えないまでに黙考していたらしい。
まったく、自分らしくない。

( ´_ゝ`)「さて、これからどうするかだな……」

川 ゚ -゚)「おそらく異変があるはずだ。
     それを追えば、きっと何かにぶつかるはず――」

クーが真剣な目で語っている。

彼女が解らない。
むしろ怖い。
更に言えば『気味が悪い』とさえ思えた。

(;^ω^)(……何を思ってるんだお、僕は)

下らない。
何が?
クーやハインリッヒが?
真実が? 渡辺が?

( ^ω^)(……ワケ解んないお)



39: 映画館経営(大分県) ::2007/04/03(火) 16:17:38.46 ID:QfbXw9x+0
  
結局、自身への問いかけの答えが出ることはなかった。

そのことに苛立ちが募る。


結局この日、ブーンはほとんど話し合いに参加せずに終わってしまう。
ショボンが違和感に気付いているようだったが、何も言われることはなかった。

しかし、ブーンの心境に微かな変化がある。
それは俗に言うネガティヴで、非常に現実的な、いわゆる『普通の人間』としての訴え。
『特殊な状況』を知った者としての、悲痛な訴え。


――ただ平穏を望む、極々普通の心理だった。



41: 映画館経営(大分県) ::2007/04/03(火) 16:19:20.88 ID:QfbXw9x+0
  
フィーデルト・コーポレーション。
軍事的支援を行う会社の最上階、つまり社長室。
薄暗い空間にて、モララーは一枚の紙を見つめていた。

それは先ほど届いた彼宛の手紙。

( ・∀・)「…………」

その目は微動さえすることなく文字を見つめる。
一枚の紙に、大きく黒字でこう書かれてあった。

『貴様の仮面は剥がれたか?
 俺の笑みは、まだ何も忘れてはいない』

たった、それだけであった。

( ・∀・)「……君は未だに笑い続けているのだね。
     私が生きているのだから、当然と言えば当然だな」

少し俯き

( ・∀・)「君は憶えているのだね、私の憶えぬ彼女の顔を。
     だからこそ君は姿を消し……私を殺しに来るのか」

無駄なことを。
例え自分を殺したとしても事実は変わらない。
事実が変わらなければ、感情が消えることもない。

( ・∀・)「しかし面白くはある。
     是非とも来たまえよ、私を殺しに……その笑みを消しにね」



43: 映画館経営(大分県) ::2007/04/03(火) 16:21:15.61 ID:QfbXw9x+0
  
オーストラリア。
その国は、オーストラリア大陸とタスマニア島、その他の小さな島で構成されていた。
平均高度が340メートルと、全大陸中最も低いことで知られ
低い大地が一面に広がっており、起伏が小さな大陸である。

その首都であるキャンベラの郊外一帯に、『世界運営政府』の本陣といえる建物が在った。

教会をイメージさせる巨大施設。
神秘的でありながら、その周囲の警備は厳重そのもの。
世界最高の権力を持つ男がいるのだから、それも当然であった。

その施設内。
やはり神々しさを感じさせる作りであるが、色々と秘密を抱えていた。

表舞台には出てこない『ラウンジ』という特殊部隊がある。
世界政府が表立って出来ないような汚い仕事を請け負う、いわば裏の人間達。
各地に散っている彼らであるが、帰るべき場所はこの施設だ。

彼らが事務活動をするのは地下。
設計図には記されることのない、完全な機密領域。

その広い室内に、部隊を統率するリーダーがいた。

「隊長、これが今日の報告書です」

(,,^Д^)「あぁ、そこら辺に置いておいてくれ」

適当に自分のデスクを指差す。
今、彼はPCと向き合っての作業中であった。



45: 映画館経営(大分県) ::2007/04/03(火) 16:22:56.87 ID:QfbXw9x+0
  
ディスプレイに映っているのは、3Dで表現された一本の剣。
【ID Braid】と表記されたそれは、銀の色を放っている。

「進んでいますか?」

作業に没頭している男の背後から声が掛かった。

(,,^Д^)「……イクヨリ様」

( ̄ー ̄)「君は頑張り屋ですね」

(,,^Д^)「ここは貴方のような方が来る場所ではないですよ。
     我々と貴方は、表ではまったく関係ないことになっているんですから」

( ̄ー ̄)「良いんですよ。
      それの理論完成までの情報を渡した関係があるんですから」

それ、とはディスプレイに映る剣のことである。
わざわざPCを介して作成することから、何らかの特殊な機能を付属しているのは明白だった。



47: 映画館経営(大分県) ::2007/04/03(火) 16:24:19.23 ID:QfbXw9x+0
  
未完成の剣を睨んでいる男を見つめ

( ̄ー ̄)「まだ、忘れることが出来ませんか?」

(,,^Д^)「……自分の表情が、その証拠です。
     あの男を自分の手で殺すまでは、この笑みが消えることはないでしょう」

( ̄ー ̄)「私怨ですね」

(,,^Д^)「すみません。
     その私怨のために、勝手に部隊を運用したりして」

( ̄ー ̄)「別に良いのですよ」

イクヨリは笑みを深くする。

( ̄ー ̄)「平和のために、世界のために、などと言ったのであれば
      君に協力することはなかったでしょう。
      私は、ただ憎い人を殺すため、という感情に正直な姿勢が――」

男の肩に手を置き

( ̄ー ̄)「個人的に好ましいのです」

(,,^Д^)「……ありがとうございます」



50: 映画館経営(大分県) ::2007/04/03(火) 16:25:51.67 ID:QfbXw9x+0
  
よくよく見てみれば、PCを睨む男の笑みには大きな違和感があった。

『笑み』でありながら『笑み』でない。
人形に付けられた表情といえるような、まさに『塗りこまれた表情』。
狂気さえも感じ取れる、人工的な笑みであった。

( ̄ー ̄)「ところで私がここへ来たのは、君の様子を見に来ただけではないんです。
      個人的な頼み事をしようかと思いまして」

(,,^Д^)「?」

( ̄ー ̄)「『ラウンジ』を率いて都市ニューソクへ向かいなさい。
      あの都市にて、妙な情報を得ましてね……私の杞憂であれば良いのですが」

(,,^Д^)「貴方が気になさるほどの事が?
     まぁ、自分としては復讐相手が付近にいるので問題ないですが」

( ̄ー ̄)「杞憂で終われば良いんです」

男とはまた異なる笑みを出し

( ̄ー ̄)「詳細情報は後で渡しておきますね。
      では、お願いします」



52: 映画館経営(大分県) ::2007/04/03(火) 16:27:13.80 ID:QfbXw9x+0
  
渡辺のアジト。
魔法陣が敷かれてある広い空間。
そこに人影が三つ。

从'ー'从「さて、そろそろ活動再開と行きましょうか」

『戦跡荒野』での戦闘から三日ほどが経っていた。
その間にGDFの整備と休憩、情報操作、次なる世界へ繋ぐための準備などに当てていた。

川 -川「では『英雄世界』への接続を開始します」

从'ー'从「あ、ちょっと待って」

動き出そうとした貞子を、渡辺が制す。
立会人として来ていた軍神が首をかしげた。

(#゚;;-゚)「何かあるん?」

从'ー'从「先に『機械世界』への再接続を行って欲しいの」

川 -川「何故ですか」

从'ー'从「連合軍メンバーが、どれほどこっちに来たか確認したいなと思って。
      ほら、まだ全員揃ってないでしょう?」



53: 映画館経営(大分県) ::2007/04/03(火) 16:28:35.11 ID:QfbXw9x+0
  
現在、アジト内にいるのは幹部クラスである渡辺達六名と、約百名の一般兵のみ。

駒となる兵達がいない現状で世界を接続し続ければ
人手が足りなくなるのは目に見えていた。
このタイミングで仲間を増やす必要があるのだ。

魔法陣が光を発し、機械世界へとの接続を開始する。

川 -川「リクレオールオープン、アクセスリスタート。
     セージ70……80……90……100到達、リクレオール解除。
     同時にメセタリング固定……完了」

中央の魔法陣から、空間ウインドウのようなモノが生まれる。
それはアクセス状況を示すものであった。
記載されている情報を読み取り

从'ー'从「ふんふん、成程。
      大体は私の思った通りに進んでるみたいだね。
      ただ――」

集合していない幹部は残り二名。
一般兵にいたっては三百名ほどだ。

おそらくは、残りの幹部が三百名を統率しているのだろう。
そういう段取りであったし、世界交差から一週間以上経つというのに
彼らの存在が表に出ないのはおかしいからだ。



55: 映画館経営(大分県) ::2007/04/03(火) 16:30:03.79 ID:QfbXw9x+0
  
そう、おかしいのだ。

从' - '从「……ふむ」

笑みを消し、思考する。
一週間が経過しているにも関わらず、こちらに接触してこない理由は何か。
考えられる可能性を逐一上げていく。

まず異獣の妨害が浮かぶが、ありえない。
未だにこの世界は解放されきってはいないのだ。
世界を移動するには『歪』の魔力を使用した、今行っている世界交差以外にあり得ない。

次に浮かぶは秩序守護者の妨害。
ありえない話ではないが、三百人以上の兵達を数人で行動不能にするのは難しいだろう。
そもそもあの勢力は、自分から表に出ることを良しとしないはず。

では、何だ?

从' - '从(単純なトラブルか何かだと良いんだけど……)

川 -川「マスター?」

从'ー'从「ん、何でもないよ。
      じゃあ、次は英雄世界への接続を御願いね」

川 -川「イェス、マスター」



56: 映画館経営(大分県) ::2007/04/03(火) 16:31:28.67 ID:QfbXw9x+0
  
貞子が作業を開始。
その後姿を見ながらも、渡辺は別の思考を始める。

次に繋げる世界は『英雄世界』と呼ばれていた。

回収すべき武器や兵器は無いが
『英雄』と呼ばれる、特に戦闘能力に秀でている者達の力は目を見張るものがある。

特に『英雄神』と呼ばれる男は、かなりの力を持つと聞く。
同じ神である軍神レベルと思っても良さそうだ。

その下にいる他の英雄達も魅力的である。

『弓帝』『剣帝』『槍王』の三兄弟。
格闘女王にして竜殺しの『二極』。
防御の天才とまで謳われる『騎士王』。
その姿を未だ誰も見たことが無いという『隠者』。

どれもこれも、その世界では有名な英雄だった。
個人戦力で不安が残る現状、是非とも彼らの協力は得たい。

从'ー'从「…………」

しかし、先ほどの違和感が纏わりつく。
軽く頭を振って、疲労による一時的な疑心暗鬼だと思い込むことにした。
軍神は、その姿を横目に見ながら

(#゚;;-゚)(どうにもキナ臭くなってきたなぁ。
     ウチの想像が現実にならんことを祈るが……)



58: 映画館経営(大分県) ::2007/04/03(火) 16:33:23.17 ID:QfbXw9x+0
  
都市ニューソクから、少しの距離を置いた山中。
人の手が入っていない中に、ポツリと人工の建物が在る。

木々に隠れるようにして建てられているそれは
『世界運営政府』の機密軍事施設だった。

主な任務として、JAPANの中でも有数の大きさを誇る『都市ニューソク』周辺の監視を行っている。

世界運営政府は、このような施設を世界各地に持っていた。
各国の動きを迅速、確実に知るために。

世界政府の情報室で働く情報部だけでは捉えきれない『生の情報』を
監視という原始的な方法で得るのが目的だ。

もちろん存在は明るみに出てはいけない。
バレてしまえば、七大国の信用がガタ落ちするからである。

故に外部から情報を漏らさないため、高度な戦闘訓練を受けた警備兵が守護していた。

が、その施設に血の匂いが充満している。

外部の警備をしていた兵は、残らずその命を刈り取られていた。
内部にいた情報部の人間も同じく。



61: 映画館経営(大分県) ::2007/04/03(火) 16:34:51.15 ID:QfbXw9x+0
  
施設の情報が集中する管理室。
そこに、この施設を襲撃した者達のリーダーが居座っていた。

( ФωФ)「はン、聞いた話だと強いって評判だったんだがな」

椅子に座り、足元の死体を蹴り飛ばす。
額に穴を開けている死体の服には、『ラウンジ』を表す紋章を胸に張っていた。

(´・_ゝ・`)「所詮は、鉛弾に頼るような原始人ですからねぇ。
      我々の戦力から考えて、このような結果は当然かと。
      これでは、きっと渡辺さん達も苦戦していないでしょうなぁ」

( ・ω・)=つ「…………」

白衣を着た細身の男と、シャドーボクシングをしている小柄な男。
彼らの周りには、白い銃器を構えた装甲服姿の兵士達。

(´・_ゝ・`)「まぁ、これで世界運営政府とやらが気付けば良いのですが。
      とはいえ、少々やり過ぎ感が否めませんが。
      約束の前に個人的報復されたらどうするつもりですか?」

( ФωФ)「別に構わねぇさ。
       どちらにしろ、その組織も叩き伏せるか従わせるかだからな。
       そのくらい解ってんだろ、デミタス」

その男の両目には、縦の刀傷のような痛々しい傷跡。
しかし視力は失っていないらしく、僅かに見える鋭い視線はデミタスを見ている。



64: 映画館経営(大分県) ::2007/04/03(火) 16:36:37.71 ID:QfbXw9x+0
  
(´・_ゝ・`)「随分と自信満々ですなぁ、ロマネスクさんは」

( ФωФ)「こっちには大層な大義名分があるんだぜ?」

男は貪欲に笑いながら

( ФωФ)「世界を救うという、最高の大義名分がよぉ……!」

(´・_ゝ・`)「これを有効利用しない渡辺さん達の心境が理解出来ませんなぁ」

( ФωФ)「奴らは甘ちゃんだ。 クソったれのな。
        だが、そろそろ向こうの情報が欲しいところだな」

(´・_ゝ・`)「ですが、向こうのアジトの位置は不明です。
      流石に外部から情報を得られませんでしたよ」

( ФωФ)「まぁ、適当に歩き回れば渡辺側から見つけるだろうよ。
        その際には手土産を持っていっても良いかもしれねぇなぁ」

(´・_ゝ・`)「手土産ですか?」

( ФωФ)「あぁ、渡辺が欲しがってるのを持っていけば
        それだけで不問としてくれるだろうよ……この不在の期間とかな」



67: 映画館経営(大分県) ::2007/04/03(火) 16:37:51.95 ID:QfbXw9x+0
  
(´・_ゝ・`)「ですが、何を手土産にしますか?
      英雄世界との接続を確認しておりますので、英雄でも?」

( ФωФ)「馬鹿だろテメェ、もしくは大馬鹿か?
        英雄相手に喧嘩売って無事に済むわけねぇだろ。
        それに奴らは仲間意識が異常に高ぇからな……今、恨みを買うと動き難くなる」

英雄の強みは、個人戦闘能力だけではない。
英雄制度という仲間意識を強めさせる儀式により
性格のぶつかり合いはあれど、基本的に全員が何処かで繋がっている。

一人を潰しても誰かが代わりをするだろうし、報復にも動くだろう。

そういった意味では、最も攻め難い相手とも言える。
逆を言えば、仲間に引き込めば心強いと言えるのだが――

( ФωФ)「俺達には大義名分はあるが、引き込める理由と材料がねぇ。
        それはしばらく渡辺達に任せるとして
        さて、何を手土産に持っていくかだが……」

(´・_ゝ・`)「そもそも情報が少ないですからなぁ。
      とりあえず『最強』が都市ニューソクにいるのは解っていますよ」

( ФωФ)「ふぅむ、『最強』か……ハインリッヒって名前だっけか?」



70: 映画館経営(大分県) ::2007/04/03(火) 16:39:10.01 ID:QfbXw9x+0
  
(´・_ゝ・`)「先日の戦闘にて、ウェポンを使用したとの報告が入っています。
      どうやら成長されているようで……別の意味で」

( ФωФ)「放っておけばおくほど厄介になるわけか。
        よし、今の内に拉致っとくのも良いかもしれねぇな」

(´・_ゝ・`)「では」

( ФωФ)「この施設は捨てろ。
        『最強』捕らえて、渡辺んトコ行くぞ」

立ち上がる。
ジャラリ、と腰に下がった鎖が音を立てた。

( ФωФ)「後継者ってのも見てみてぇし、そろそろ本格的に動くとするか!
        クハハハハ!!」



71: 映画館経営(大分県) ::2007/04/03(火) 16:40:11.74 ID:QfbXw9x+0
  
何処か解らぬ崖。
下を見れば、荒れ狂う波が岩肌を撫でている。

その崖のギリギリの位置に、一人の女性が立っていた。

ノハ#゚  ゚)「…………」

赤茶色の長髪を揺らし、何処を見るでもなく突っ立っている。

その顔には仮面。
表情を隠すように顔全体を覆っている。
白色のシンプルなモノであるが、だからこそ不気味さを醸し出していた。

その腰には四種の武具。
脇差、大刀、長槍、銀弓。
それぞれの武器が、バランスよく配置されている。

シルエットだけを見れば、それは人型の蜘蛛に似ていた。



73: 映画館経営(大分県) ::2007/04/03(火) 16:41:35.81 ID:QfbXw9x+0
  
ノハ#゚  ゚)「……ここは」

己の立っている場所が解らないといった色の声。
返事は背後から来る。

┗(^o^ )┓「……ヒートさん」

身長一メートルにも満たない男が、いつの間にか立っていた。

┗(^o^ )┓「御久しぶりですね」

ノハ#゚  ゚)「…………」

┗(^o^ )┓「あの件から一年経ちましたが……皆、貴女のことを心配していました。
       特にミルナ君は、今でもきっと貴女のことを捜していますよ」

ノハ#゚  ゚)「……ッ」

ミルナ、という名前を聞いた時、彼女に微かな異変があった。
一瞬だけ肩を震わせたのだ。



75: 映画館経営(大分県) ::2007/04/03(火) 16:42:56.45 ID:QfbXw9x+0
  
┗(^o^ )┓「正直、生きているとは思いませんでしたよ」

ノハ#゚  ゚)「……生きられるとは思わなかった」

┗(^o^ )┓「しかし貴女は現に生きている」

ノハ#゚  ゚)「でも、私は……もう皆と会うことなんか出来ない」

┗(^o^ )┓「意思一つだと思いますがね」

ノハ#゚  ゚)「でも私はあの時に死んだ。
      存在していない人間が、存在している人間に干渉しちゃ駄目」

その言葉に男は、彼女に残る一欠片の人間性を見出す。

┗(^o^ )┓「……安心しました。
       貴女は、やはりヒートさんですよ」

ノハ#゚  ゚)「……さようなら」

高く跳躍する。
男を飛び越え、そのまま背後の森の中へと身を飛ばしていった。
敢えて追わなかった小柄な男は、その後姿を見つめ

┗(^o^ )┓「……貴女ならきっと、己の歩む道の選択をすることが出来ますよ」

と、少し寂しげに呟いた。



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