( ^ω^)ブーンと川 ゚ -゚)クーは抗い護るようです

12: ◆BYUt189CYA :2007/06/16(土) 17:00:51.34 ID:CXrAVO2E0
活動グループ別現状一覧

( ・∀・) (,,^Д^)
所属:不滅世界
位置:FC十四階・社長室
状況:過去の因縁

(#゚;;-゚) / ゚、。 /
所属:機械世界&秩序守護者
位置:FC三階
状況:戦闘中

( ^ω^) 川 ゚ -゚) 从 ゚∀从 ('A`) (´・ω・`) 从'ー'从 ('、`*川 爪゚ -゚)
所属:不滅世界
位置:不明
状況:不明

( ФωФ) (´・_ゝ・`) ( ・ω・)=つ  <ヽ`∀´> *(‘‘)*
川 -川 ξ゚听)ξ (゜3゜) ,(・)(・),
所属:機械世界・アギルト連合軍
位置:連合軍アジト
状況:不明

メ(リ゚ ー゚ノリ ル(i|゚ ー゚ノリ
所属:不明
位置:不明
状況:FCへ接近中



14: ◆BYUt189CYA :2007/06/16(土) 17:02:27.65 ID:CXrAVO2E0
第二十三話 『因縁指し示す仮面』

彼女は勝者だった。

あの日、人間をやめた瞬間から無敗。

幾多の戦場を蹂躙し、幾度の困難を砕いてきた。

全ては軍のため。
決して人のためではない。

戦場の象徴となり、いつしか彼女は『神』と呼ばれるまでになった。

もはや本来の色を失った黒色の機械肌。
身を守る存在は、羽織った茶色の布一枚。

武器など不要。
兵器など不要。
仲間など不要。

目の前に敵が在れば、それだけで良かった。

眼前の敵を殺す。
阻む障害を砕く。

それらが彼女の仕事であり、存在の意味だった。



15: ◆BYUt189CYA :2007/06/16(土) 17:04:35.67 ID:CXrAVO2E0
(#゚;;-゚)「死ねッ!」

轟、と風を撒き散らしながら走る。
右腕を振りかぶり、前方にいるダイオード目掛けて拳を放った。
技術などない、ただ相手を砕くための単純高速な一撃だ。

/ ゚、。 /「そんなもので――」

呟き、体重を右へと傾ける。
白い衝撃波に片目を瞑りつつ回避し

/ ゚、。 /「貴様は死ねるか、軍神?」

振った黒剣の刃が軍神の腹を捉えた。
ガ、という硬い音が響き

/ ゚、。 /「ふッ!」

そのまま力任せに叩き飛ばした。
軍神の身体が、まるで中身の無いマネキンのように軽々と飛ぶ。
しかし数十メートル先で、軍神は難なく姿勢を整えて着地した。

周囲に障害物はない。
二人が暴れた結果、この四階部で原形を保っている物体はほとんど無かった。
デスクも壁もロッカーも全て、巨剣と拳が破壊してしまったのだ。

戦い始めて数分でこの有様だ。
どのような戦闘が行われたかを想像するのは、常人では難しいだろう。



18: ◆BYUt189CYA :2007/06/16(土) 17:06:24.74 ID:CXrAVO2E0
(#゚;;-゚)「ようやく戦い易くなったねぇ」

/ ゚、。 /「ふン」

既にぶつかること二十七回。
最初の五回でタイミングを見極め、次の十回で速度を見極め、更なる十回でパターンを見極め
残る二回では、遂に互いの身体に触れるまでになっていた。

あとはダメージの大きさの問題だ。
防御技能を超える一撃を相手よりも多く与え、戦意を削ぎ折る。

どちらが先に相手を折るか。
駆け引きなどない。
ただ、敵を力で打ち倒すためだけに全神経を注ぐのみ。

そして二十八回目の直前、ダイオードが声を発した。

/ ゚、。 /「……面白いな、軍神。
      流石はこの私の見込んだ強者だと言えよう」

(#゚;;-゚)「はぁ?」

/ ゚、。 /「軍神よ、私はお前が好きだ」

(#゚;;-゚)「アンタ女……うわ、勘弁して欲しいわぁ」

/ ゚、。 /「そう言ってくれるな、構いたくなるではないか。
      まぁ、そのために因縁付けに来たわけだが……」

(#゚;;-゚)「?」



20: ◆BYUt189CYA :2007/06/16(土) 17:08:07.34 ID:CXrAVO2E0
/ ゚、。 /「見ろ」

ギコのグラニードよりも長く黒い剣を掲げる。

/ ゚、。 /「これが私の剣だ」

(#゚;;-゚)「……もう知っとるわ」

ハ、と吐き捨てるように答える。
しかしその心中は穏やかではなかった。

あの巨剣は危険だと、軍神の本能が警鐘を鳴らしている。

内在する魔力量が半端ではないのだ。
単純計算するに、おそらくは指輪五つ分以上の容量を持つだろう。

あんな量の魔力を持つなどありえない。
そもそもそれほどの力を内包し、尚も形を保っているのは異常だ。

本来ならば、その圧倒的な力によって周囲空間が歪められていてもおかしくはない。



22: ◆BYUt189CYA :2007/06/16(土) 17:10:12.38 ID:CXrAVO2E0
/ ゚、。 /「名は『ブロスティーク=E=ミゾーク』……ブロスティークで充分だな。
      で、この剣は特殊な能力を搭載している」

微かな笑み。
それに呼応するように、黒剣の腹に赤い何かが走った。

文字だ。
黒を背景として、その赤色は鮮烈な不気味さを醸し出している。
描かれた意味は

【氷柱串刺】

展開される。
異常な魔力量を誇る巨剣から、物理法則を歪める不可視の力が発生した。

まず発生したのは冷気。
軍神の周囲の温度が急激に下がり

(#゚;;-゚)「何……?」

圧倒的な悪寒が背筋を這い登った。
何かが起こる、起こらなければおかしいと確信出来る違和感を得る。
思わず本能に従って飛び退いた。

(#゚;;-゚)「ッ!」

その直感を証明するように、軍神の足元から氷の柱が出現する。
一瞬でも遅れていれば串刺しだったかもしれない。



25: ◆BYUt189CYA :2007/06/16(土) 17:11:47.76 ID:CXrAVO2E0
しかし軍神の晴れない表情は、そんな過去など考えてはいない色だった。

(#゚;;-゚)「んなアホな……」

ありえない。
魔力とは、そもそも七種しか存在しないのだ。
そのどれもが物理法則に干渉するもので、それを操る術を魔粒子制御法――『魔法』という。

つまり、決して氷の柱を瞬時に作ったりは出来ないはずである。

(#゚;;-゚)(いや……)

出来るのかもしれない。
物理法則や、そういった自然分野の知識に乏しい自分には解らないが
もしかしたら七種の魔力の運用次第では、今のような現象を起こすことも不可能ではないのかもしれない。

ただ出来たとしても、莫大な魔力を必要とするはずだが。



28: ◆BYUt189CYA :2007/06/16(土) 17:13:23.35 ID:CXrAVO2E0
(#゚;;-゚)「はン、なるほど……。
    そういう手品をするために、そないな妙な剣を持っとる言うわけやな?」

/ ゚、。 /「違う、まだ解らないのか」

言葉と同時、更なる赤文字を走らせる。

『GU−EX/Lo 【砕】』

(#゚;;-゚)「なっ……!」

/ ゚、。 /「砕きの究極を食らうがいい」

剣先が展開する。
意思を持ったかのように自動的に形を作り出した。
それは大口径の銃口に等しい。

射撃。

白色の光が拳大の弾となって発射された。
高速で飛んだ後、構えられた軍神の右腕によって阻まれる。
衝撃音を残し、白の残滓を撒き散らしながら魔力の弾は空中に霧散した。

(#゚;;-゚)「これは……」

だが無為に消えたわけではない。
あっさり消えた魔力は、しかし自身に命じられた効果を残していた。



30: ◆BYUt189CYA :2007/06/16(土) 17:14:57.10 ID:CXrAVO2E0
唖然と自分の右腕を見つめる。
弾が当たった部分の機械肌が粉砕されていた。
幸い、機械肌は二重構造になっているので肉や神経に損害はない。

しかし、馬鹿な、と思う。

この機械肌には魔力が塗りこまれている。
魔力攻撃に対して、かなりの防御力を誇っているはずなのだ。
この防御を打ち崩すには、塗り込んだ以上の量の魔力をぶつけなければならない。

つまりそういうことだ。
ダイオードの持つ巨剣は、やはり普通の武器ではない。

/ ゚、。 /「悪いな、こと攻撃に関しては負けるつもりは無いんだ」

(#゚;;-゚)「しかも今のは……」

/ ゚、。 /「これがどういうことか解るか?」

(#゚;;-゚)「今のは魔法世界にあるEW(Enchant Weapon)の原型……?
    いや、でもEXってことは……」



32: ◆BYUt189CYA :2007/06/16(土) 17:17:12.02 ID:CXrAVO2E0
覚えがある。

確か、魔法世界のEWは型番によって威力や装弾数が変わっていた。
例えば銃器タイプのシリーズならば、『GU−○○/××』という風に表記されたはず。

この『○○』には数字が、『××』には銃身の長さを示すLoかShが入る。
数字が若ければ若いほど古い型となり、軍神が知っている限りで12番まで開発されていた。

ダイオードの剣が示した『EX』とは例外を意味する。
試作品などに付けられる一時的な名称だ。

しかし、そのEXシリーズを使って戦っていた男が一人いた。


一度だけ手合わせした記憶がある。
あれは魔法世界に初めてアクセスし、互いの戦闘力を示すために模擬戦を行った時だ。

機構的・技術的な問題なのか、魔法世界の銃器はどれも巨大である。
魔法世界の住人は、7th−W『ガロン』のような巨銃を脇に抱えたり、肩に担いだりして戦っていた。

その中でも一際大きなEWを持っていた男。
彼は魔法世界の『オークス』とかいう軍隊の隊長を任されていた。
なかなかの戦闘力と大胆さを持ち合わせており、二度ほど追い詰められたこともあった。

ダイオードが発した魔力弾。
その感触や威力は、どう勘案しても彼のものだった。



35: ◆BYUt189CYA :2007/06/16(土) 17:19:54.32 ID:CXrAVO2E0
(#゚;;-゚)「何でそれを……!?」

/ ゚、。 /「この剣は呪われていてな。
      英雄世界の古代から残る本物の魔剣だ」

(#゚;;-゚)「そんなこと聞いとらん! 何であのEWを使えるんや!」

/ ゚、。 /「呪われている、と言っただろう。
      この剣は霊的な意思を持っていてな」

不敵に笑い

/ ゚、。 /「殺した人間の力を強奪する、という能力を有している」

(#゚;;-゚)「……それ何て厨仕様?」

/ ゚、。 /「そう言ってくれるな。
      この剣に取り付く存在は別世界の霊体でな……まぁ、今は関係ない話か」

殺した相手の力を奪いとる。
つまり勝てば勝つほど、剣に蓄積される魔力が高まっていく仕掛けというわけだ。



37: ◆BYUt189CYA :2007/06/16(土) 17:21:41.77 ID:CXrAVO2E0
ただしここにルールが存在する。
強奪した魔力はあくまで強奪された人間のモノ、という制限だ。

例えばこの剣に80の魔力があり、20の魔力と10消費の技を強奪したとする。
総合すれば100の魔力で、手に入れた10消費の技を10回撃てるように見えるだろう。

しかし、あくまで20の魔力と10消費の技は強奪された人間のモノだ。
結果、10消費の技は2回しか撃てないことになる。
つまり相手の力を吸い取るのではなく、そのまま移植するような感覚に近い。

(#゚;;-゚)「ちょい待ち……ってことは」

/ ゚、。 /「あぁ、お前の言う男は私の手で殺めた」

事も無げに、平然と言った。
軍神の目が少しだけ見開かれるが、見ていないのかダイオードは続ける。

/ ゚、。 /「そういえば彼には一人娘がいたな。 今頃どうなっているのやら。
      確か名はレモ――」

音が途切れる。
瞬間的な沈黙が訪れ、続いて激音が響いた。



39: ◆BYUt189CYA :2007/06/16(土) 17:23:14.80 ID:CXrAVO2E0
見れば、放たれた軍神の右拳が巨剣によって遮られている。

/ ゚、。 /「突然どうした、お前らしくもない」

(#゚;;-゚)「知人を殺されたんや……そら怒りも湧いてくるわ」

/ ゚、。 /「知人とはいえ、他人のために怒るというのか軍神。
      やはり人間の残滓が残っているのだな」

クク、と喉を振るわせて笑う。
見下されているような感覚に、軍神は眉を吊り上げ

(#゚;;-゚)「一つ聞く。 彼を殺したんはアンタやって、その娘は知っとるんか?」

/ ゚、。 /「いいや、言っていないし証拠も残してはいない。
      おそらくは部下が誰かに殺された……ということになっているだろうな」

(#゚;;-゚)「なら、あの子は――」

/ ゚、。 /「面白いことになっていてもおかしくはない」

(#゚;;-゚)「……!」

明らかに殺気を膨らませる軍神。
それを笑いながら見つめるダイオード。
軍神らしくない軍神を、心底楽しんでいる様子だ。



43: ◆BYUt189CYA :2007/06/16(土) 17:24:53.48 ID:CXrAVO2E0
/ ゚、。 /「そう睨むな……それに一人くらいの死、私達には何の関係もあるまい。
      お前は勝者の代表者であり、私は敗者の代表者なのだから」

(#゚;;-゚)「何を……」

/ ゚、。 /「そうだろう?
      お前は軍神となり、勝利せねばならなくなった存在だ。
      対して私は敗者の要素を汲み取って生きている、敗北の集合体のような存在」

弾かれる。
その重量から繰り出される一撃は重い。
一歩、二歩と後退し

(#゚;;-゚)「下らん、何が代表者や
    ウチらは、少なくともウチはそんな大層なモンやない……ただの殺戮者や」

/ ゚、。 /「傲慢だな軍神。
      人々のために、世界のためにと戦いに身を染めつつ、その台詞か」

まぁいい、と呟き

/ ゚、。 /「だがこれでお前との因縁が出来上がった。
      お前と私、どちらかが死ぬまで続くことだろう……これからが楽しみになってきたぞ」



44: ◆BYUt189CYA :2007/06/16(土) 17:26:20.21 ID:CXrAVO2E0
ダイオードが構える。
今までの隙だらけだった棒立ちとは違い、両手で巨剣を握り込む形。

/ ゚、。 /「私にとってこの世界は退屈でな。
      お前以外に手応えがあったのは、貞子とかいう人形くらいだった」

そのまま両腕を上げ、顔の真横まで持ってくる。
剣の切っ先が、まるで今にも飛び掛ってきそうな格好だ。

(#゚;;-゚)「……アンタ、秩序なんかどうでもええ、みたいな顔しとるな」

/ ゚、。 /「さぁ、どうだか。
      しかし一つ言えるのは、秩序守護者に協力しておけば各世界の強者と戦えるのは事実。
      それが私の目的だとは明言出来んがな」

悪寒がする。
ただの寒気ではない。
死の臭いから来る、圧倒的な殺気。

/ ゚、。 /「さて、お前のセンスは悪くはない……これまで会ってきた敵の中でも光るモノがある。
      しかし一対一で私と戦うには――」

前屈姿勢。
来る。

/ ゚、。 /「微かに足りん」

足元の床を蹴り飛ばす。
轟音と共に砕かれたコンクリートが、まるで地雷爆破を受けたかのように撒き散らされた。
それを背景とし、高速で迫る。



48: ◆BYUt189CYA :2007/06/16(土) 17:28:27.19 ID:CXrAVO2E0
そして消える。
いや、消えた。

鈴の音のような甲高い音を残し、ダイオードが左右に割れ消えたのだ。

(#゚;;-゚)「……っ」

嫌な予感が頭を過ぎる。

ここから退け、逃げろ、と本能が警鐘をかき鳴らす。

だが、退いてはならない。
止まっていてもならない。
軍神にあるのは、ただ『前進』の一言。

たった一つの宿命を忠実に守り、敢えて身を前に投げ出した。
何処から来るのかと両拳を握り込む。

――愚問だ、何処からでも来い。

/ ゚、。 /「ふっ!」

五時方向、下から薙ぎ上げるような右切上の軌道。
高速、回避不可能。



50: ◆BYUt189CYA :2007/06/16(土) 17:30:13.89 ID:CXrAVO2E0
判断は一瞬だ。
背後から迫る刃に対して、右足を上げることで対処する。

鼓膜を震わせる金属音が響いた。
軍神の足首に巨剣がぶつかった音だ。

引っ掛けたまま右回転し、ダイオードの姿勢を瓦解させる。
低姿勢からの一撃なので、横方向へ引っ張ってやれば容易くバランスを崩す。

空いている両腕で仕掛けた。
まず右、そして顔面狙い。

/ ゚、。 /「!」

身を逸らされ、狙いがズレた拳は右肩にヒット。
しかし甲冑が思った以上に硬く、叩き飛ばすくらいしか出来ない。

対して、ダイオードの行動は意外なものだった。
殴られた右肩を放置し、その勢いを利用しての反撃に転じたのだ。
右腕を振り上げ、その手に持った巨大な刃を振るう。

(#゚;;-゚)「っ」

上半身狙いのそれを回避し、軍神はバックステップで距離を稼ぐ。

しかし攻撃は終わらない。
最初から避けられることが予想済みだったのか、ダイオードが地を蹴り飛ばして追従してきたのだ。



52: ◆BYUt189CYA :2007/06/16(土) 17:32:02.16 ID:CXrAVO2E0
/ ゚、。 /「詰めが甘い」

(#゚;;-゚)「ちィっ!」

苦し紛れの足蹴は、しかし軽く弾かれ足首を掴まれる。
そのまま一気に振り回し始めた。

/ ゚、。 /「やはりというか重いな」

(#゚;;-゚)「ぉ……!」

/ ゚、。 /「はは、このまま投げ飛ばしてしまうのも面白そうd――」

その時だった。

/ ゚、。 /「ん?」

まず聞こえたのは地響きのような轟音。
そして呼応するように、FCビル全体が激震する。

(#゚;;-゚)「っと!」

生じた隙を好機と見たか、軍神は身を折り曲げて脱出した。
対するダイオードは追うことさえしない。

/ ゚、。 /「ふむ、外要素に助けられるとは……まだ秩序が残っている証拠だな」

何やら納得したかのような口調だ。
そして逆に、『秩序など無くなってしまえ』といった感情が籠められているような色でもあった。
そんな得体の知れないダイオードから距離をとった軍神は、そのままの姿勢で彼女を睨む。



53: ◆BYUt189CYA :2007/06/16(土) 17:33:34.04 ID:CXrAVO2E0
(#゚;;-゚)「…………」

/ ゚、。 /「警戒しているな?
      私の真意が解らないからか、それとも私の力が思った以上に高かったからか」

(#゚;;-゚)「異質や」

静かに呟く。

(#゚;;-゚)「今、この世界には他世界の人間も混じってる。
    でも彼らは……己が目的のために突っ走っとる」

しかし

(#゚;;-゚)「アンタは違う……まるでこの一連の戦いを、心の底から楽しもうとしとる」

/ ゚、。 /「ふむ」

(#゚;;-゚)「異質なんや。
    皆が頑張っとる中で一人別のことをしとる……いや、別のことを楽しんどる」

/ ゚、。 /「私が何をしようが関係あるまい?」

(#゚;;-゚)「それが単なる遊びで済むなら目瞑ったるわ。
    しかしなぁ、その遊びが誰かに多大な影響を与えるのなら――」

/ ゚、。 /「面白いことを言う」



57: ◆BYUt189CYA :2007/06/16(土) 17:34:40.23 ID:CXrAVO2E0
言いながら背を向ける。
巨剣を肩に担い

/ ゚、。 /「その『多大な影響』も歴史の一つなのだよ」

(#゚;;-゚)「ここに来て結果論――」

/ ゚、。 /「飽きたな」

(#゚;;-゚)「は?」

/ ゚、。 /「興が削がれた。 次こそは本気で殺し合おう。
      何も疑問を持たず、何も考えず……そのままの心身でぶつかり合おう」

歩き出す。
もはや軍神への興味が失せたのか、一度も振り返ることなく歩き出し

/ ゚、。 /「軍神、お前は生き残れ。 生き残る価値がある。
      そして次までに死んでくれるなよ。 その次こそがお前の終わりなのだから」

自分が引導を渡す、と言いたいのだろうか。

戦闘の証拠としての黒煙が舞う。
それはダイオードの巨躯さえも軽く包み込み、そして彼女の姿を消した。
一人取り残された軍神はそのまま動くことなく

(#゚;;-゚)「……ワケが解らんわ」

と、悪態を吐いた。



61: ◆BYUt189CYA :2007/06/16(土) 17:36:14.84 ID:CXrAVO2E0
FCの外の空気は異常だった。

( ゚д゚ )「人が、いない」

周囲を見渡しつつ、ミルナは誰に言うでもなく呟く。

時刻的に、まだ夜中という時間ではないはず。
しかし都市の中央部に位置するこの場所で、風と自分以外の音が響かないのは異常といえた。

人はおろか車やビルの明かりさえも見受けられない。
まるで、世界に一人だけ取り残されたかのような光景だった。

( ゚д゚ )「ふむ……やはりFCで起こっている情報は外に漏れているようだな」

普段から騒がしいFCの周囲の人間達は、おそらくいくらか『耐性』のようなものを得ているはずだ。
爆発騒ぎや銃撃騒ぎがあろうとも、彼らはきっと逃げ出すことはしない。
『いつものことだ』と思い、それぞれが抱える仕事を優先するだろう。

そんな彼らでさえも逃げ出すということは、それほど大きな存在が影響しているのだと思われた



65: ◆BYUt189CYA :2007/06/16(土) 17:37:49.32 ID:CXrAVO2E0
前方二十メートルほど先に、明かりのない道路が見える。
そこまではFCの敷地内だ。
白を基調とした床に細々と立つ木が、静寂さを更に醸し出していた。

( ゚д゚ )「さて」

自分を誘った存在がいるはずだ。
『遊ぼう』などという言葉や調子から、相手はふざけた人物なのだろう。

問題はそれが『余裕』か『自信』か、だ。
解らないが、英雄である自分を知っていて呼び出したとなれば、警戒を怠ることは出来ないだろう。
迎撃や守護に自信を持つミルナは、拳を軽く握って周囲へ視線を走らせる。

その時。
すぐ目の前に、いきなり人影が現われる。

メ(リ゚ ー゚ノリ「嬉しいねぇ、わざわざ誘いに乗ってくれるたぁ」

( ゚д゚ )「お前らは……!」

ル(i|゚ ー゚ノリ「別に危害を加えるつもりはない。 安心しろ」

( ゚д゚ )「……俺に気配を感づかれないレベルの人間が言っても説得力はないぞ」



66: ◆BYUt189CYA :2007/06/16(土) 17:39:19.99 ID:CXrAVO2E0
平常心を保っているように見える内心は、動揺を悟られぬようにするのが精一杯だった。

英雄になってから一年以上。
その間に、様々な戦場を潜り抜けてきた。
死にかけたことだってあるし、戦士として再起不能に陥りかけたこともあった。

故にミルナは、『死』に対しての嗅覚が常人よりも発達している。

しかしその感覚は、今目の前で異常な量の死臭を振りまく二人に気付かなかった。
ミルナにとって、それは非常事態である。

( ゚д゚ )「……俺を呼んだのはお前達か」

メ(リ゚ ー゚ノリ「ま、御膳立てっていうか、邪魔払いっていうか?」

( ゚д゚ )「何が言いたい」

ル(i|゚ ー゚ノリ「遠回しに言うのは良いが相手に伝わらねば意味が無いぞ、兄上」

メ(リ゚ ー゚ノリ「言葉のコミュニケーションってのは難しいねぇ、姉貴」

おかしな二人だ。
互いを『兄』『姉』と呼び、その顔は髪型と色以外はほとんど同一。
男と女のはずなのだが、中性的な顔パーツの配置のせいか同じ人物にも見える。



68: ◆BYUt189CYA :2007/06/16(土) 17:41:03.51 ID:CXrAVO2E0
その片方である赤髪の男が、指を立てて言った。

メ(リ゚ ー゚ノリ「ヒート、という英雄を知っているな?」

( ゚д゚ )「!?」

ル(i|゚ ー゚ノリ「知らないはずはあるまい。
      お前は彼女によって人生を変えられたのだから」

突如として放たれた親友の名。
それを聞いた瞬間、ミルナは全てを理解した。

(#゚д゚ )「貴様らは……!!」

メ(リ゚ ー゚ノリ「その理解の早さは嬉しい誤算だねぇ。 説明の手間が省けるってーもんだ」

(#゚д゚ )「ヒートを何処へやった!?」

ル(i|゚ ー゚ノリ「心配しなくても良い。 そのために今日はここへ来た」

(;゚д゚ )「!?」

ル(i|゚ ー゚ノリ「ほぅら、来るぞ」

青髪の女が北東の夜空を見上げた。
釣られてミルナも視線を向け、そして目を見開く。
まるで闇に紛れるように飛ぶ影は、真っ直ぐにこちらに向かって――



72: ◆BYUt189CYA :2007/06/16(土) 17:42:48.92 ID:CXrAVO2E0
(;ぅд゚ )「ぬぉ!」

それは高速でミルナと兄姉の間に着地した。
舞い上がった砂埃から目を覆いつつ、ミルナは降り立った人物を気配で感じ取る。

その気配。
その匂い。
その雰囲気。

どれもが歪で、どれもが狂っているが、それは確かにミルナの知る彼女のものだ。

ノハ#゚  ゚)「…………」

そしてその姿も、ミルナの知る彼女のものだった。

突然出現したヒートに対し、ミルナは呆けることをしない。
すぐさま彼女の下へ足を踏み出し

(;゚д゚ )「ヒーt――」

ぴたり、と。
その無防備な首筋に刃を当てられた。



74: ◆BYUt189CYA :2007/06/16(土) 17:44:12.90 ID:CXrAVO2E0
(;゚д゚ )「何を……!?」

ノハ#゚  ゚)「黙って」

(;゚д゚ )「忘れたというのか!? 俺はミルナだ!」

ノハ#゚  ゚)「――黙れッ!!」

鳩尾に衝撃が走った。
直後、反応する暇もなく身体が背後へと吹っ飛ばされる。
痛みを感じた時にようやく、腹に槍の石突がぶち当たったのだと気付いた。

(;゚д゚ )「がっ……げほっ、がはっ……っ!?」

無様に背中から落ちた様を見やり、赤髪の男はわざとらしく溜息を吐く。

メ(リ゚ ー゚ノリ「おいおい、かつての親友にする仕打ちじゃねぇだろ」

ノハ#゚  ゚)「…………」

言葉で答えずに態度で示す。
『お前達を殺す』と、その身から異常な量の殺気が溢れ出ていた。



77: ◆BYUt189CYA :2007/06/16(土) 17:46:53.91 ID:CXrAVO2E0
ル(i|゚ ー゚ノリ「残念ながら、お前と遊んでやる期間は過ぎてしまった。
      これから忙しくなるのでな。
      暇潰しの遊び道具として扱ってやったが、これよりお前は邪魔となる」

メ(リ゚ ー゚ノリ「かつての親友と楽しく、空白の一年間の内容でも語らってろよ」

ノハ#゚  ゚)「貴様らはァ……!!」

殺気は止まらない。
右手に槍、左手に巨剣を握り、今にも飛びかかろうと――

ル(i|゚ ー゚ノリ「調子に乗るなよ、下衆」

強烈な衝撃波が走った。
瞬間的な動作はあまりに速く、その内容をほとんど素っ飛ばして結果を生み出す。
気付けば、青髪女の握った刀の柄がヒートの喉へ突き刺さっていた。

ノハ#;゚  ゚)「え゙ぁッ!?」

強制的に断たれた酸素供給路。
吸っても吸えぬ空気を求め、肺が異常な運動を起こす。
胸の内からの激痛にヒートは力無く膝をつくが、しかし目に映る意思は消えていない。

ル(i|゚ ー゚ノリ「そうだ、歯向かえ歯向かえ……もっと意思を尖らせろ。
      今はまだ敵わぬとも、狂気に身を任せれば我らに届くかもしれんぞ?」

ノハ#;゚  ゚)「ッ」

青髪の女が楽しそうに笑い、ヒートの額を蹴り飛ばした。



79: ◆BYUt189CYA :2007/06/16(土) 17:48:32.80 ID:CXrAVO2E0
脳髄へ直接響く一撃は、殺意に絡め取られた彼女の意思をも潰してしまった。
蹴られた頭部が弧を描き、そのまま背中から仰向けに倒れる。

(;゚д゚ )「ヒ、ヒート……!」

未だ痛む腹を押さえ、ミルナは何とか立ち上がろうとしていた。
しかし思わぬ攻撃が足を震わせている。
その様子を見て興味をなくしたのか、青髪の女は黙って背を向けた。

メ(リ゚ ー゚ノリ「おう、一つだけアドバイスしとこうか」

女を追いつつ、赤髪の男が思い出したかのよう言う。

メ(リ゚ ー゚ノリ「今の内に彼女の仮面を取ってみることをオススメする。
      きっとテメェは幸せになれるぜ?」

(;゚д゚ )「な、何を――」

疑問の言葉を発した時には、既に二人の姿はなかった。



80: ◆BYUt189CYA :2007/06/16(土) 17:49:50.53 ID:CXrAVO2E0
夜闇が照らす下。
取り残されたのは、かつて離れ離れになった二人の英雄。

( ゚д゚ )「…………」

一歩、また一歩と。
ミルナは、地に伏したヒートの下へと歩いていく。
仮面のせいで表情は読み取れないが、呼吸の動作から見て気絶しているのは明らかだ。

ノハ#  )「――――」

( ゚д゚ )「……仮面」

かつての彼女の顔を思い出す。
コロコロと変わっていく表情は、見ているだけで幸せな気分になれたのを憶えている。
時に笑い、時に怒り、時に泣き、稀に真顔になったりもしていた。

一瞬の躊躇の後、ミルナはヒートの仮面に手を掛ける。
悪いと思いつつも、駄目だと思いつつも、その腕に力が流れ込むのを防げなかった。



82: ◆BYUt189CYA :2007/06/16(土) 17:51:24.73 ID:CXrAVO2E0
軽い音と共に仮面が外れる。
その中は


(;゚д゚ )「――ッッッ!?!?!?」


あまりに想像と異なった光景に、ミルナはその場に座り込んでしまう。
喉下まで這い上がってきた叫び声を必死に飲み込んだ。
息が詰まり、目が震え、体が石になったかのように不動となるほど、その精神的衝撃は強かった。


詳しい描写は敢えてしないでおく。

ただ、あのミルナが叫び声を挙げそうになるほどの光景だ。
想像するのはきっと難しいことだろう。
だからここに、概要的な一文だけ残しておく。



――ヒートの顔は、もはや人間のそれでは無くなっていた、と。



85: ◆BYUt189CYA :2007/06/16(土) 17:53:06.38 ID:CXrAVO2E0
沈黙が満ちている。
銃声が響いた社長室には、一つとして物音が無かった。

血を噴き出す音も。
脳髄を撒き散らす音も。
意識が消えて床に伏す音も。

つまり

(,,^Д^)「……何故、外した」

( ・∀・)「……何故、外れた」

撃たれたはずのプギャーは生きていた。
モララーの持つ拳銃から発射された弾は、僅かに軌道を逸らして壁にめり込んでいる。

(,,^Д^)「貴様になら、殺されても良いと思ってたんだが」

( ・∀・)「…………」

(,,^Д^)「俺が貴様を殺すか、貴様が俺を殺すか。
      そのどちらかになれば良いと思っていた」

( ・∀・)「……何だね、そのロマン溢れる決着のつけ方は」



86: ◆BYUt189CYA :2007/06/16(土) 17:54:42.30 ID:CXrAVO2E0
(,,^Д^)「そうでもしないと俺の気が治まらんというわけさ。
     そして訊ねよう」

ぶら下げるように握っていた剣の切っ先を、モララーの方へ向ける。

(,,^Д^)「俺は貴様を殺したいわけだが、貴様は俺をどうしたいのだ?」

( ・∀・)「…………」

(,,^Д^)「!」

プギャーの目が見開かれた。
目の前の男が、問い掛けを無視するように疾駆したのだ。
瞬間的に解放した2nd−W『ロステック』を叩き込まれる。

しかし対象を砕かない。
プギャーの自然な動きで掲げられた刀剣が、ロステックを止めているのだ。
キシ、と剣が音を立てているのを聞きつつ

(,,^Д^)「そうか、殺したいわけか」

( ・∀・)「違う」

(,,^Д^)「では、何だと?」

( ・∀・)「起こった過去を全てそのままに納得させ、その上で君と仲直りをしたいと思っている」



87: ◆BYUt189CYA :2007/06/16(土) 17:56:08.49 ID:CXrAVO2E0
(,,^Д^)「っ……馬鹿か」

( ・∀・)「言うまでもないほど馬鹿だが、しかし私の正直な思いだよ」

眉尻を少しだけ下げた表情を浮かべる。
それは『笑み』というよりも、『悲しい』といった表情に近かった。

( ・∀・)「何せ私と君は、友達じゃないか」

(,,^Д^)「ッ!!」

甲高い音を響かせ、プギャーはロステックを弾いた。
足を数歩ほど下げ

(#,,^Д^)「ふざけるな……ふざけるなよ……貴様が、貴様が――!」

剣を思い切り振る。
まるで身体全体で感情を表すような動作で、彼は怒りに任せて叫んだ。

(#,,^Д^)「――貴様が『彼女』を殺したんだろがァァァ!!」

その気迫はもはや人ではなく獣に等しい。
理性を失った獣は、ただ目の前の仇を殺すために牙を剥いた。
対し、未だ理性にしがみ付く男が口を開く。

( ・∀・)「勘違いするな」

冷たい目で、冷たい言葉を吐いた。

( ・∀・)「――『彼女』は、死んだんだよ」



90: ◆BYUt189CYA :2007/06/16(土) 17:57:44.78 ID:CXrAVO2E0
(#,,^Д^)「人の女を奪っておいて、よくもそんなことが言える……!」

( ・∀・)「人に罪を擦りつけて何が楽しい」

(#,,^Д^)「……ハ、ハハ、ハハハハハハハ! そうか、よく解った!
      まだ貴様は過去を認めてはいないのだな!」

( ・∀・)「認めていないのは君だろう?」

(#,,^Д^)「もういい黙れ! やはり貴様は殺さないと気が済まん……!」

( ・∀・)「そう言っている間にも掛かってきたまえよ。
     君は昔からそうだ。
     大事なところで足踏みをしてしまい、結果的に大切なモノを手に入れるのが遅れてしまう」

やれやれと肩をすくませ

( ・∀・)「もしかしたらあの時、君の行動が少し早ければ『彼女』は助かっていたかもしれないね?」

(#,,^Д^)「貴様ァァァァァァァァ!!!」

もはや問答無用と悟ったか。
プギャーは剣を握り締め、モララーの命を断つため足を出した。
低い姿勢で這うように走る。

( ・∀・)「……この調子だと仲直りは無理かもしれないな」

呟き、ロステックを構える。



91: ◆BYUt189CYA :2007/06/16(土) 17:59:16.62 ID:CXrAVO2E0
(#,,^Д^)「だらぁっ!!」

身を伸ばす勢いから派生する切り上げ。
大振りな動作なため、その軌道は単純明快だ。

( ・∀・)「変わってないな、君も」

身を護るようにロステックの柄を掲げる。
次の瞬間、不自然な感触と共にプギャーの剣が弾かれた。

( ・∀・)「ん?」

防御に成功した。
こちらはダメージを負っていない。
むしろプギャーの振るった刃の方に、多少のダメージがあるはずだが

――何だ、この違和感は。

ロステックには何も異変はない。
手応えにも問題は見当たらない。
特別何かに対して危惧すべき状況ではないのだが、微かな違和感がある。

確かめるように、再度の激突を望んだ。
柄を巧みに回転させ、上下左右ランダムにロステックを叩き込んでいく。
全てが粉砕力を持つはずなのだが、プギャーの剣は意に反して砕かれない。



94: ◆BYUt189CYA :2007/06/16(土) 18:00:41.62 ID:CXrAVO2E0
おそらくは魔力が塗りこまれているのだろう。
ロマネスク率いる連合軍と接触しているのならば、その程度の技術供与が行われていても不思議ではない。

( ・∀・)「まったく」

まるで子供のように拗ねた口調で言う。

( ・∀・)「最近、ウェポンの存在意義が薄くなってはいないかね?」

(#,,^Д^)「うぉぉぁあああぁ!!」

( ・∀・)「しかも目の前にはキレた能面男……優雅さの欠片もない。
     だが――」

負けている、と思い、劣っている、とも思う。

目の前で剣を振り回すプギャーを、モララーは笑うことが出来なかった。
笑えるほど、彼と対等だとは思えないからだ。



95: ◆BYUt189CYA :2007/06/16(土) 18:02:04.92 ID:CXrAVO2E0
今の自分達は、どの勢力に対しても歯向かうことすら出来ない。

その勢力は敵であり、そして敵になるかもしれない。
いずれにせよ、正義の敵などではなく、個人的な理由による対立的な敵だ。
しかしモララーは彼らのことを『愚か』や『馬鹿』だとは思わない。

真っ直ぐなのだ。
ただひたすらに、彼らは目的を遂行するために走っている。

邪魔があれば叩き潰すだろう。
足を引っ張れば切り捨てるだろう。
倒されれば誰も助け起こしてくれないだろう。

しかし皆、同じ方向を見て走っている。
誰も文句を言わず、そして誰もが誰もを信頼している。

だから劣っているのだ、と思えた。
真実を知らず、足並みが揃わず、何処を見ても良いのか解らず――故に、心の底から既に負けているのだ。

( ・∀・)「だからと言って、何も知らない、何も解らないと泣けば良いわけじゃない」

(#,,^Д^)「!?」

( ・∀・)「せめて上に立つ私が指し示さなければな……!
     指差す先も解らないのならば、とりあえず見上げるようにと高々に示せばいい!」

発光。
構えたロステックの槌頭が黄光を生み出した。
社長室に満ちていた殺気という大気が掻き乱され、一種の不気味な空間を作り上げる。



96: ◆BYUt189CYA :2007/06/16(土) 18:04:00.52 ID:CXrAVO2E0
(#,,^Д^)「それが噂の限界突破というヤツか……!」

その迫力は本物だ。
秘めている魔力の全解放を示す圧が、プギャーの頭に昇っていた血を冷ます。
冷静になる機会を与えてしまった結果になるが、モララーは『これで良い』と思った。

( ・∀・)「君はまだ死んではならない。
     何も解決していないのだからね。
     しかしだからと言って、このまま暴れさせるわけにもいかない」

(#,,^Д^)「…………」

( ・∀・)「さて、選びたまえ。
     このまま殴り飛ばされて逃げ帰るか、痛みを恐れて逃げ帰るか」

挑発ともとれる発言に対し

(#,,^Д^)「そのどちらも選ばん! 今ここで貴様を殺す!」

( ・∀・)「せっかちな人は嫌われるよ」

既にロステックの槌頭は三倍以上に大きくなっていた。
視認出来るほどの濃密な雷を纏わせ、プギャーを喰らうために牙を剥いているようにも見える。



100: ◆BYUt189CYA :2007/06/16(土) 18:05:22.02 ID:CXrAVO2E0
( ・∀・)「室内で使うものではないが――」

(#,,^Д^)「あぁぁぁぁ!!」

剣を振りかぶって突進してくる相手に対し、モララーは一歩踏み込んで

( ・∀・)「暴走する旧友を止めるのに、そして自分を戒めるのには充分だな……!」

全身のバネを用い、叩き上げるような動作でロステックを振るった。

閃光が視界を奪う。
続いて金属音が響き、それに被さるかのように激音が轟いた。

それは落雷の音に等しい。

全てを叩き壊し、焼き払う稲妻の一撃が室内を蹂躙する。
視界は白に染められ、聴力は轟音に封じられ、肌は走る雷撃によって神経を撫でられた。



101: ◆BYUt189CYA :2007/06/16(土) 18:06:42.73 ID:CXrAVO2E0
( ・∀・)「……ッ」

どのくらいの時間が経ったのだろう。
一度に様々な刺激を受けた頭が、時間を感じる暇を忘れてしまっているらしい。

数瞬のことか、それとも数分のことか。
解らないが、先ほどまでの騒がしさが嘘のように静まり返ってる周囲がある。
ぼやけるような感覚に浸りつつ、モララーは周囲へ目を這わせた。

そして煙の先で見つける。

(;,,^Д^)「くっ……」

流石に、あの大雷撃は防げなかったようだ。
小奇麗だった野戦服が焼け焦げ、所々が裂け、痛々しい黒煙を上げている。
彼は忌々しく舌打ちをし

(;,,^Д^)「これが限界突破か……憶えたぞ」

( ・∀・)「その身を用いて味を覚えたか。 意外と根性があるようだね」



104: ◆BYUt189CYA :2007/06/16(土) 18:08:09.55 ID:CXrAVO2E0
プギャーの身体が揺れている。
もはや戦闘続行は不可能なまでにダメージを受けたらしい。

(#,,^Д^)「チッ……次に会った時が貴様の終わりだ。 覚えておけ」

言い残し、返事も聞かずにプギャーは姿を消した。
どこか急いでいるような節も見受けられたが、一体どういう――

( ・∀・)「っと……」

貧血のような感覚が身を襲った。
全身の肉から力が抜け、未だ形を保つ机に手をついた。

( ・∀・)「ふふ、もう歳だということか……。
     たった一回の行使で、ここまで身体にダメージを受けるとは」

渡辺が言った通り、指輪の行使には体力と精神力を用いる。
それら二つの合成物によってコーティングを施し、魔力の漏洩を防ぐためだ。
これにより指輪は、半永久的に能力を使用し続けることが出来る。

無論、使用された体力や精神力は戻ってこない。
魔力の代わりに消費されるものなのだから、当然と言えば当然だ。
そしてそれは、三十代に近いモララーの身体を蝕んでいく。

恵まれていない体躯。
過去にあった事件による心の古傷。

周囲が思っている以上に、モララーの心身は既にボロボロだった。



107: ◆BYUt189CYA :2007/06/16(土) 18:09:58.85 ID:CXrAVO2E0
「――社長」

突如として掛けられた声。
誰であろうが、今の状況を知られるのはまずい。
モララーは一瞬で平静を取り戻し、唯一の出入り口へ視線を向けた。

|;;;;;;;|:::: (へ) ,(へ) |シ「大丈夫ですか?」

( ・∀・)「ポリフェノール君……非戦闘員は既に離脱命令を下しているはずだが」

|;;;;;;;|:::: (へ) ,(へ) |シ「他の者達は既に脱出しております。
              私はモララー社長への報告を持って参りました」

( ・∀・)「あぁ、他の者達のことか。 失念していた」

|;;;;;;;|:::: (へ) ,(へ) |シ「皆さん無事ですよ。 これをどうぞ」

手渡されたのは通信機だ。
ギコやシャキン達に通じているものだろう。
それを確認したモララーは、彼らに向けて言葉を放つ。



109: ◆BYUt189CYA :2007/06/16(土) 18:11:08.24 ID:CXrAVO2E0
( ・∀・)「全員、無事か?」

『あぁ』

『こちらも無事だ』

『……問題ない』

ギコ、シャキン、ミルナの順に返事が来る。
最後の声だけ覇気がないようだったが、とりあえず生きてはいるので問題視しなかった。

( ・∀・)「こちらも問題は片付いたので、これからどうするかということについて話をしよう。
     気付いているとは思うが、FC社員達は既にここを脱出している」

『俺達もそうするわけか』

( ・∀・)「そういうことだよ、ギコ君」

『何でさ? ここに篭城は出来ないのか?』

エクストの間抜けな声が聞こえた。
横でシャキンが、『話がこじれるから黙っとけ』と言っているのが聞こえる。

( ・∀・)「襲撃してきた連中の真意が解ったからね。
     ここに長居するのは正直言って自殺行為だ……この点については後で説明する」

モララーは咳払いし

( ・∀・)「君達には今から地下へ向かってもらおうと思う。
     そこに脱出手段を用意させてあるので、すぐさまここから脱出するよ」



110: ◆BYUt189CYA :2007/06/16(土) 18:12:38.47 ID:CXrAVO2E0
『やはり権力には勝てんみたいだな』

はは、と自嘲の空気を纏わせた兄者の声。
ある程度の理解は出来ているらしく、モララーの言葉に文句をつけることなく了承した。
続いて全員の納得したかのような吐息が聞こえ、しかし唯一異なる色を発したエクストが

『ちょっと待てよ。 この一階に転がってるFC主力部隊はどうすんだ?』

( ・∀・)「置いていく」

『お、おいおい……主力置いていってどうするんだよ?』

( ・∀・)「彼らまでを連れて離脱するのには時間が足りないので置いていく」

『だから――』

( ・∀・)「置いていく」

『……チッ、解ったよ。 社長さんの命令なら仕方ねぇ』

( ・∀・)「では、行動を開始してくれ。 早めに頼むよ」

その言葉を合図に各通信が切られた。



113: ◆BYUt189CYA :2007/06/16(土) 18:13:57.17 ID:CXrAVO2E0
通信機をポリフェノールへ手渡し

( ・∀・)「軍神君はどうしたのかね?」

|;;;;;;;|:::: (へ) ,(へ) |シ「既に地下へ降りてますよ。 何やら不機嫌でしたが」

( ・∀・)「命があるのならば、それでいい」

さて、と肩を回し

( ・∀・)「これより我々は世界に対して潜伏する。
     色々と厳しい生活を強いられるとは思うが……」

|;;;;;;;|:::: (へ) ,(へ) |シ「大丈夫ですよ。 皆さん、見た目通りにたくましい方々ですし」

( ・∀・)「だと良いがね」

二人して社長室を出る。
扉が音を立てて閉まり、室内に静寂が戻る。


その部屋には、もう二度と誰も戻ってくることはなかった。



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