( ^ω^)ブーンと川 ゚ -゚)クーは抗い護るようです
- 5: ◆BYUt189CYA :2007/06/27(水) 21:25:51.00 ID:yeAPhPGE0
- 活動グループ別現状一覧
( ^ω^) 川 ゚ -゚) 从 ゚∀从 ('A`) (´・ω・`) 从'ー'从
爪゚ -゚) ('、`*川 ( ゚∀゚)
所属:不滅世界
位置:都市ニューソク各地
状況:奇襲
( ФωФ) (´・_ゝ・`) ( ・ω・)=つ <ヽ`∀´> *(‘‘)*
川 -川 ξ゚听)ξ (゜3゜) ,(・)(・),
所属:機械世界・アギルト連合軍
位置:都市ニューソク・連合軍アジト
状況:防戦
- 7: ◆BYUt189CYA :2007/06/27(水) 21:27:37.03 ID:yeAPhPGE0
- 第二十五話 『強く正しい偽善』
薄暗い部屋に音が響く。
大きく反響していることから、その空間は相当に広いものだと判断出来た。
二人が戦っている。
ぶつかり、弾き、そしてまた激突する。
渡辺と共に中枢を攻めるブーンと、その入り口を守る貞子だ。
川 -川「――!」
貞子の握った拳が迫る。
(;^ω^)「くっ……!」
白のグローブで往なすと同時、大気の壁を穿つ鈍い音が耳の真横で鳴り響いた。
避けられたと見るや否や、貞子の身体を回転させての回し蹴りが走る。
(;^ω^)「ほぁたぁ!?」
それをマトリックス姿勢で何とか回避。
ブーンの鼻先を、機械で構成された足が掠めていった。
思わずバックステップで一歩二歩と大きく地を蹴り、貞子から距離をとる。
- 10: ◆BYUt189CYA :2007/06/27(水) 21:29:52.86 ID:yeAPhPGE0
- 川 -川「…………」
(;^ω^)「何という速さ……これは間違いなく僕よりも格上」
攻撃速度もだが、何より反応が速い。
防御時も攻撃時も完璧な判断を一瞬で下す。
人間というよりも、獣を相手にしているような感覚だ。
荒れる息を整え、次なる攻防へ思考を巡らせる。
幸い貞子は一定範囲に近付かなければ仕掛けてこないようで
ブーンが休み休み戦えるのは、このおかげだった。
どうやら『敵の排除』よりも『侵入阻止』の方が優先度が高いらしい。
(;^ω^)「渡辺さん」
从'ー'从「うん、まだだね。 もっと攻め続けて」
ブーンの背後では、渡辺が携帯ゲーム機のような小さな機械を操作していた。
(;^ω^)「正直言って、あまり持ちそうじゃないですお」
从'ー'从「だったらその前に御願い」
少しだけ苛立ちの篭った声に対し
( ;ω;)「もういっちょ頑張ってきますおぉぉぉ!」
半泣きで、拳を握り込みつつ駆けた。
- 11: ◆BYUt189CYA :2007/06/27(水) 21:31:34.37 ID:yeAPhPGE0
- 8th−W『クレティウス』の身体強化を受けたブーンは、ステップ刻みの四歩で貞子に接近。
(#^ω^)「でりゃ!」
渾身の右拳を放った。
それは身を僅かに傾ける程度の動きに避けられるが
(#^ω^)(想定の範囲内だお!)
そのまま動きを止めずに連撃を繰り出す。
布の弾ける音が響き、しかし打撃音は響かない。
川 -川「無駄です」
(;^ω^)「っ!?」
風を切る音が耳に入った瞬間、反射的に身を落とした。
直後に頭の直上を手刀が通過していったことから、ブーンの判断は正しかったと言える。
少しでも遅ければ、首の骨――いや、首ごと持っていかれたかもしれない。
- 13: ◆BYUt189CYA :2007/06/27(水) 21:33:10.45 ID:yeAPhPGE0
- (;^ω^)(やっべぇお……!)
内心、ブーンは冷や汗ばかりを流していた。
そのトリッキーな動作に追いつけない。
ペニサスとの訓練の成果が上手く出ないのだ。
たった一週間ほどの訓練で貞子レベルの相手に勝てるとは思わない。
しかし、あれほどの打撃の嵐を掻い潜ってきたのは事実。
少しはまともに戦えるのではと多少の希望的観測をしていたのだが、それは叶わないのだと悟らされた。
推測がいくつか挙げられる。
まず一つとして、そもそもブーンの実力+αでは貞子に遠く及ばないということ。
そして二つ目は、貞子が人間ではないということ。
人間の身体は元々から完璧なバランスを誇っているのは御存知のことだろう。
貞子という人形はそれを真似し、更に人間が持つ弱点を克服している。
まず皮膚表面の頑丈さ。
続いて関節無視の機動。
そして無痛の感覚。
それらが全て淀みなく連結した結果が――
(;^ω^)「ぐぅ!?」
強烈な右フックがブーンの左肩を穿った。
肩の骨がそのまま吹き飛んだかのような錯覚を得、そして痛みが『存在する』ことを実感させる。
- 15: ◆BYUt189CYA :2007/06/27(水) 21:35:15.10 ID:yeAPhPGE0
- 衝撃に身体が浮く。
一瞬だけ不快な浮遊感がブーンを包み込んだ。
咄嗟に身を縮め、叩き付けるように自身を床に着地させる。
しかしそのままストップ、というわけにはいかない。
ザ、と床に薄く張られた砂埃を蹴散らしつつ低い姿勢で滑走する。
(;^ω^)「……いたた」
川 -川「流石に頑丈、そして良い反応です。
身体強化の名は伊達ではないようですね」
言葉を放つ間にも貞子が迫る。
(#^ω^)「このっ!」
怯える暇はないと心を引き締め、屈んだ姿勢のまま身を捻った。
そこから生まれる動作は、立ち上がりと同時に撃たれる裏拳だ。
川 -川「――!」
貞子は大きくバックステップすることで回避。
(#^ω^)「おぉ!!」
すぐさま後を追う。
対して地面に着地した貞子は、一つのアクションを選択した。
- 20: ◆BYUt189CYA :2007/06/27(水) 21:36:49.15 ID:yeAPhPGE0
- (;^ω^)「お!?」
轟音が響く。
貞子が、すぐ横にあった巨大なコンテナを片腕で持ち上げたのだ。
メキ、と、ギ、が混じった不快な音が連鎖し、否が応にもブーンの背筋を震わせる。
慌てて射線上から退避しようと身構えた時には投擲が開始されていた。
(;^ω^)(避けるのは無理だお――!)
直感的に判断したブーンは、逆に前へと出る。
向かい来る巨大コンテナへ渾身の右ストレートを放った。
鈍い衝撃と共にコンテナ表面が歪む。
しかしそれでも勢いは止まらず
(#^ω^)「くぬっ!!」
咄嗟に出した右足で真上へと叩き飛ばす。
オーバーヘッドキックのような格好は、クレティウスを装備したブーンならではの姿勢だ。
グシャグシャになったコンテナは高い天井にぶつかり激音を奏でる。
もちろんそれで終わるわけがない。
地面に着地すると同時、更なるコンテナが飛んでくるのが視界に入る。
(;^ω^)「うわぉ!」
床を蹴り、右方向へと転がるように回避。
真横を鉄の箱が掠め、少し離れた壁に激突した。
- 25: ◆BYUt189CYA :2007/06/27(水) 21:38:29.11 ID:yeAPhPGE0
- 次々と放られるコンテナ。
流石に元倉庫だけあってか、その数は予想以上に多い。
襲い来る猛攻に対してブーンは防戦を強いられることとなる。
しかしそれも長くは続かない。
回避や防御に体力を削られ、ブーンの動きに段々と鈍味が帯び始めたのだ。
そして遂に
从'ー'从「内藤君!」
(;^ω^)「!?」
出てしまった深い呼吸の隙を突かれ、一際大きなコンテナが猛スピードで投げられた。
身体の節々が『もう限界だ』と悲鳴を上げるが、それを無視して身を飛ばす。
そこで気付いた。
そのコンテナの背後に、貞子がくっついて来ていることに。
(;^ω^)「しまっ――」
川 -川「終わりです」
構えられた右腕に何か光るモノが見える。
おそらくはギコの言っていた『パイルバンカー』とかいう武装だろう。
いくら身体強化を受けているブーンでも、あの直撃を受ければ大怪我は免れない。
最悪の場合、そのまま死に至るかもしれない。
- 29: ◆BYUt189CYA :2007/06/27(水) 21:40:19.05 ID:yeAPhPGE0
- 未だ、身は宙に浮いている。
このままでは避けることなど出来るわけがなく、しかし
(#^ω^)「クレティウス!!」
ブーンは相棒の名を叫んだ。
貞子の目が少しだけ見開かれたのは次の瞬間である。
突如真上から不可視の圧が降り注ぎ、彼女の突き出した右腕を弾いたのだ。
川 -川「――!?」
不測の事態に、貞子はブーンと距離をとるようにバックステップ。
衝撃を受けた右腕を確認し、そして今の現象について思考を巡らせた。
観測出来た反応は一つ。
ブーンが声を発した瞬間、真上に魔力の塊が出現したのだ。
それは意思を持っているかのような的確さで貞子の右腕を打ち抜いた。
魔法の類か、それとも別の何かか。
様々な戦いを経験してきた貞子でさえ、ブーンの放った何かの正体を見極めることは出来なかった。
- 33: ◆BYUt189CYA :2007/06/27(水) 21:41:44.43 ID:yeAPhPGE0
- 警戒心を見せた貞子を見て、ブーンは安堵の息を吐く。
(;^ω^)「ありがとうだお、クレティウス」
返事は何処からともなく聞こえた。
『危なかったな、内藤ホライゾン……しかし勝手に動いて悪かった』
( ^ω^)「いえいえ、頼りになるお」
『あまり頼りにしてくれるなよ。 私はあくまで補助なのだから』
( ^ω^)「おkだお」
まるで幽霊と会話しているかのような光景だった。
从'ー'从(あれが内藤君の新しい……?)
おそらくはそうなのだろう。
しかしどんなモノなのかを想像するには、情報が少なすぎた。
- 39: ◆BYUt189CYA :2007/06/27(水) 21:43:16.11 ID:yeAPhPGE0
- 川 -川「その正体、興味があります」
キリ、と関節から音を出しながら貞子が言った。
身体の各部に隠した武装を用いるつもりらしい。
ようやく本気を出し始めた、といったところか。
( ^ω^)(……あと一踏ん張りかお)
渡辺の言った策が成るまで、だ。
気合を入れなおしたブーンに向けて、クレティウスが言葉を投げかける。
『だが油断はするなよ、内藤ホライゾン。
死なれると困るので最低限のサポートはするが……あくまで動くのは君だ』
答える代わりに拳を握る。
視線の先には、いつの間にかナイフを構える貞子の姿。
研究所での戦いでも用いていたことから、どうやら得意武器の一つらしい。
(#^ω^)「行くお!!」
初歩から全力で駆け、愚直にも貞子に向かって直進した。
作戦など元から一つ。
それを果たすためにも、ここからはノンストップだ。
- 45: ◆BYUt189CYA :2007/06/27(水) 21:45:07.23 ID:yeAPhPGE0
- 対する貞子は素早く腕を振る。
放たれたのはナイフ。
小さな音を奏でながら飛ぶ金属は、注視していなければ見えないほどに速い。
(#^ω^)「ッ!」
前へと傾けていた身体を右へ寄せる。
直後、自分の首があった空間を鉄刃が突き抜けていった。
『来るぞ!』
クレティウスの声に、慌ててブーンは視線を上げた。
(;^ω^)「なっ!?」
既に貞子は次の武器を構えていた。
それは長い柄を持ち、先端に巨大な刃の塊が付属した、
(;^ω^)「長斧!? どこからそんなモン出したんだお!?」
叫んでいる間にも回避運動を起こす。
振り下ろされた致死の一撃から、身を捻って逃れようとした。
川 -川「!」
激音が空間を振るわせる。
ブーンを砕くことなく落ちた斧刃は、コンクリートで構成された床を軽々と砕いた。
破片が四方に散らばり、それもまたブーンに牙を剥く。
- 51: ◆BYUt189CYA :2007/06/27(水) 21:47:08.94 ID:yeAPhPGE0
- 大袈裟に転がるように避けたブーンは、すぐさま立ち上がって走り出す。
(#^ω^)「止まってる暇はないんだお!」
そう、ここからはノンストップなのだ。
貞子に不動の時間は与えない。
故にブーン自身も不動とならない。
拳を握り、歯を噛み締め、ブーンは恐れを打ち消しながら走った。
(#^ω^)「おぉっ!!」
全身を投げ出すような右拳を放つ。
防御されようが回避されようが関係ない。
とにかく攻めて攻めて攻めまくる必要があり、そしてそれだけで充分なのだ。
往なされた反動で体勢が崩れるが、ブーンはそれを利用して更に前へと出る。
あまりに不恰好な戦い方に対し、貞子は冷静に対応していく。
川 -川「そう来ますか。 ならば」
短い声が聞こえ、貞子の身体が動いた。
- 53: ◆BYUt189CYA :2007/06/27(水) 21:49:00.45 ID:yeAPhPGE0
- 右手に出現したのはハンドガン。
左手に出現したのは片刃の鉄剣。
まず剣が振るわれ
(;^ω^)「くっ! このくらい!」
身を低くして回避したブーンの額に、ハンドガンの先端が向けられる。
容赦なく引き金が引かれた。
破裂音と共に音速超過で発射される弾丸。
しかしそれは、ブーンの頭部の肉を貫くことは出来なかった。
止まっている。
放たれた弾丸は、ブーンと貞子の中間点で静止したのだ。
物理法則的に考えてありえない現象が目の前で展開される。
川 -川「これは……」
(#^ω^)「――アタックチャーンス!」
何が起こったのかを分析しようとした貞子の隙を逃さない。
立ち上がる力を利用しての突進は、低い姿勢から派生した。
川 -川「ッ!?」
拳が胸元を捉える。
穿たれた力は彼女の上半身を蹂躙し、背中から弾けるように広がった。
『衝撃波』と呼ばれる現象である。
- 59: ◆BYUt189CYA :2007/06/27(水) 21:50:41.75 ID:yeAPhPGE0
- ド、とも、パ、ともとれる破裂音を響かせ、貞子の身体が宙に浮いた。
しかしそんな状況下においても、彼女は瞬時に現状を把握しようとする。
その思考は反撃手順までも巡らせるに至った。
驚異的な反応処理速度に対し
(#^ω^)「ガンガン行こうぜ! だお!」
反撃の隙など与えるつもりはない。
防御や回避を捨て、ひたすらに攻め続ける。
攻撃は最大の防御とはよく言ったもので、現に貞子の反撃の手がみるみる少なくなっていく。
从'ー'从(そう、それでいい……)
生みの親である渡辺は、誰よりも貞子という存在について詳しかった。
彼女が作り出した貞子の戦闘プログラムは『交戦』に特化している。
敵の動きを見極め、最も効果的な反撃の手を瞬時に叩き出す、といった単純かつ複雑なものだ。
そういった意味で人間を超える性能を備えたのが貞子という戦闘人形である。
ただ一つ問題があるとすれば、その強さが『交戦』に集約されるということだ。
今、貞子が強いられているのは『防戦』である。
ブーンの繰り出す無茶苦茶な攻め手が、貞子の反撃の手を沈黙させているのだ。
- 65: ◆BYUt189CYA :2007/06/27(水) 21:52:19.40 ID:yeAPhPGE0
- 交戦と防戦。
一見して同じようなものにも見えるが、その内容はまったく異なる。
交戦とは『攻防の激突』である。
1と1のせめぎ合いによって生じ、より速度・力・体格・経験を持つ者が打ち勝つ。
対して防戦とは『攻撃の一方通行』である。
勢いを増した攻め手は2で迫り、守り手は−2で退がるだろう。
この時、二人の差は単純計算で4あることになる。
マイナス側の人間が状況を打開するには当然、交戦時よりも大きな力を求められる。
つまり現状、ブーンは知らず知らずの内に、貞子との間にある実力差を埋めつつあるのだ。
(これを戦術などと呼ぶのだが、ブーンに理解出来ているのかと問われれば難しい)
その純粋な勢いと気迫を利用し、交戦特化の貞子に防戦を強制する。
当然、貞子はいつも以上に思考回路をフル回転させることになるだろう。
そのことから引き出される現象とは、
川 -川「!」
変化が起きた。
ガクン、と一瞬だけバランスを崩したのだ。
- 76: ◆BYUt189CYA :2007/06/27(水) 21:54:21.48 ID:yeAPhPGE0
- ( ^ω^)「おぉ! これは!」
『だから油断するなと――』
クレティウスの言葉は真実となる。
好機を見て隙を生み出してしまったブーンに、貞子は反撃の手を向けた。
突き出された右腕が展開し、砲口を作り出したのだ。
(;^ω^)「ちょ!?」
ブーンの悲鳴と同時に激音が響く。
発射された魔力弾は、大砲の一撃に等しかった。
いや、物理法則を乱すという時点で比べ物にはならないだろう。
吹き飛んだブーンは、背中から床に落ちることとなる。
(;^ω^)「へぷしっ!?」
そんな光景を傍目に貞子は後退を選ぶ。
ブーンが起き上がらないことを確認し、その動きを止めた。
川 -川「廃熱開始」
言葉と共に貞子の身体が音を立てる。
肩や膝の装甲が展開し、白い蒸気のような湯気を吐き出した。
オーバーヒートを防ぐための一時的な廃熱行為である。
もちろん常に排熱する機構はついている。
故に動きを止めて装甲を展開してまで排熱する機会など滅多にない。
しかしブーンの過剰なまでの攻めが、常時廃熱以上の熱を生み出させたのだ。
- 79: ◆BYUt189CYA :2007/06/27(水) 21:56:04.08 ID:yeAPhPGE0
- 『……やったか』
何かを確信したかのように、クレティウスが呟いた。
動きは次の瞬間だ。
それまで傍観していた渡辺が、持っている小さな機械を貞子へ向けたのだ。
从'ー'从「御苦労様、内藤君」
電子音。
ソナー音にも似た甲高い音が、その広い倉庫内に高々と響いた。
機械から発せられたそれは貞子の内部へと作用する。
川 -川「――――」
動きが止まった。
それを確認した渡辺は、彼女に近付きつつ機械を操作する。
廃熱は既に終わっているはずなのだが、貞子は動くことをしなかった。
(;^ω^)「お……」
渡辺の作戦通りに事が運び、ブーンは驚きを隠せない。
- 84: ◆BYUt189CYA :2007/06/27(水) 21:57:27.31 ID:yeAPhPGE0
- ――貞子をオーバーヒート寸前まで攻め続けて。
それが彼女から伝えられた作戦だった。
貞子が篭った熱の処理に動けば、それだけで何とかしてみせる、と。
正直言って半信半疑であったが、まさか本当に貞子の動きを封じてしまうとは。
从'ー'从「さて、と」
『待機』という命令を出し終えた渡辺は、貞子のマスタープログラムの書き換えに移る。
この書き換え作業を行うためにブーンに動いてもらったのだ。
貞子のメインプログラムは二種存在する。
感情や動作を司る『マスタープログラム』。
ロマネスクが書き換えた通り、ここには主人を識別する『主認識』も備えている。
そして隠されていた『サブマスタープログラム』。
これは完全に渡辺のためのプログラムだ。
現状のように、『もし貞子が敵の手に渡ってしまったら』という状況を想定して組み込まれている。
これは今、渡辺が持っている小さな機械から発せられる信号しか受け付けない。
ただし受信する部分が限られていた。
それは普段、貞子の頑強な装甲に覆われている。
つまりはそういうことだ。
貞子の命令権を取り戻すには、分解するか廃熱させなければならなかったのである。
- 89: ◆BYUt189CYA :2007/06/27(水) 21:58:55.11 ID:yeAPhPGE0
- あとは渡辺の持つ機械で命令を送って動きを止める。
その間に、メインプログラムの書き換えを行うのだ。
从'ー'从「…………」
無言でコンソールを叩く。
その指の動きは、もはや人間のものではない。
まるで機械のように正確、そして高速に動き続ける。
(;^ω^)(おー)
息を呑み、上半身を起こしたブーンはその行く末を見守る。
と、そこでクレティウスが彼の安否を気遣うように
『ところで大丈夫か、内藤ホライゾン』
(;^ω^)「咄嗟に左手でガードしたけど、って、あああああああ!!!」
『む』
二人はそれぞれ驚愕の声を発する。
左手を包んでいた白色グローブに亀裂が入っていた。
しかもバチバチと音を立てつつ、電気のようなモノを纏い始めている始末だ。
- 96: ◆BYUt189CYA :2007/06/27(水) 22:00:30.64 ID:yeAPhPGE0
- (;^ω^)「ど、どういうことだお!」
覚えはあった。
一年半前、巨塔の中でクーと戦った時にも同じような現象は起きている。
擬似的な2nd−W『ロステック』の一撃を受けた時も、クレティウスに傷が入ったのだ。
『魔力攻撃を受けたからか』
(;^ω^)「お?」
『いくら体力と精神力でコーティングを為されているからといっても、所詮は魔力兵器だ。
魔力を用いた攻撃を受ければ、その分だけの威力を殺すことが出来るが、その分だけを消費する』
(;^ω^)「あうあう、よく解らないけど僕の不注意だお……ごめんだお」
『今まで魔力を用いた交戦を、ほとんど経験していなかったから仕方ない話だ。
だがこれからは充分に気をつけてくれ。
この世界では、魔力を補給する手段が限られているからな』
魔力がない世界での魔力補給は難しい。
他のEWや指輪から供給してもらう、くらいしか手段はないだろう。
(;^ω^)「今までは無限に使えると思ってたけど……これからは気をつけないと駄目なんだお」
両手を見つめ、ブーンは呟いた。
- 98: ◆BYUt189CYA :2007/06/27(水) 22:02:25.63 ID:yeAPhPGE0
- 从'ー'从「内藤くーん」
渡辺ののん気な声が聞こえる。
慌てて左手を背後へ隠し
(;^ω^)「えと、何か手伝うことがありますかおー?」
从'ー'从「ううん、こっちは大丈夫。
内藤君は中枢の制圧に向かっていいよー」
(;^ω^)「え? 僕一人なんですかお?」
从'ー'从「私はこのまま貞子のプログラム書き換えを続けるつもりだしね。
それが終われば私も中枢に向かうけど、それまで時間が必要なの。
だから先に内藤君、行ってていいよ」
(;^ω^)「え、いや、その……貞子さんがいれば心強いかなぁ、なんて――」
从'ー'从「行ってていいよ?」
(;^ω^)「……ワカリマシタデスオ」
- 102: ◆BYUt189CYA :2007/06/27(水) 22:03:55.83 ID:yeAPhPGE0
- ほんの少しだけ肩を落とし、ブーンは奥の扉へと顔を向けた。
その背後から
『……君は彼女に何か弱みでも握られているのか?』
(;^ω^)「いや、何ていうか……問答無用の波動が僕を襲うんだお」
『よく解らないな。
日頃から君を観察してはいるが、女性に対しての権力が低いようにも思えるぞ』
要は『尻に敷かれている』と言いたいのだろう。
ブーンは、周りにいる女性という女性を頭に浮かべた。
クー、しぃ、ジェイル、ツン、渡辺、軍神。
意外と少ないことに気付く。
しかし、どれもこれも我という芯を持った強い女性ばかりだ。
( ^ω^)(あ、ハインなら心労が少ないお!)
彼女であれば、それほど気を遣うことはない。
ブーンにとっては娘のようなものだ。
娘? つまり子供? 誰との?
……クー?
( ^ω^)「…………」
( ////)ボッ
- 108: ◆BYUt189CYA :2007/06/27(水) 22:05:17.97 ID:yeAPhPGE0
- 『……どうした内藤ホライゾン、気持ち悪いぞ。
コロッケかそれは』
(; ゚ω゚)「い、いや僕としては清らかな御付き合いを前提にって突き合うって意味じゃなくて清らかなそのあのえと――」
『心拍数が凄いことになっているな。
これから大事な戦いに望むのだというのに、大丈夫なのか』
(;^ω^)「――はっ! そうだったお!」
『頼むぞ』
(;^ω^)「おk、おkだお」
うんうん、頷いて冷静さを取り戻そうとする。
と、そこでふと思う。
( ^ω^)(僕らがここにいるってことは、他の皆も……)
ドクオやショボンも心配だが、ハインも同じように心配だ。
出来れば誰か……最悪ジョルジュの傍でもいいから、護ってくれる人と一緒にいれば良いのだが。
( ^ω^)「心配だけど、とにかく中枢を制圧出来れば――」
『あぁ、この戦いも終わらせることが可能だろう』
( ^ω^)「……よし、行くお!」
倉庫の奥にある鉄扉。
ブーンは新たに意気込み、その重い扉を開いた。
- 110: ◆BYUt189CYA :2007/06/27(水) 22:07:02.12 ID:yeAPhPGE0
- 包んでいた包帯が舞った。
それは風に乗り、そのまま周囲の闇の中へと消えていく。
現われたのは
*(#‘‘)*「!?」
奇妙な色だった。
黒を基調とし、そして様々な色を無闇に混ぜたような不気味な配色。
それは
从メ゚∀从「僕の身体に残る15th−Wの残滓ですよ……!」
人ではない色をした、しかし人の腕だった。
- 113: ◆BYUt189CYA :2007/06/27(水) 22:08:31.80 ID:yeAPhPGE0
- *(#‘‘)*「馬鹿な!? 既にその細胞は消滅しているはずじゃないんですか!?」
从メ゚∀从「クーさんがくれた血のおかげで、今も徐々に消えていっています」
*(#‘‘)*「まさか、切断されたはずのお前の両足が存在する理由って――」
从メ゚∀从「えぇ、この15th−Wの再生能力の恩威です。
逆を言えば、僕の両足と右手はまだ15h−Wそのものですけどね。
それも段々と消滅していって、僕の体内で作られた新しい細胞が隙間を埋めていってます」
*(#‘‘)*「……それを見せてどうするつもりですか?」
从メ゚∀从「戦うんですよ、この力を使って」
立ち上がる。
右手を振るい、その先をヘリカルへ向けた。
*(#‘‘)*「ッ……力を使えばどうなるか解って言ってるんですか」
从メ゚∀从「活性化を受けた15th−W細胞は息を吹き返すでしょうね。
そして僕の身体を再度、侵食し始めるはずです」
三十分だ、と判断する。
身体全てが15th−Wに支配されるまでの限界時間だ。
- 118: ◆BYUt189CYA :2007/06/27(水) 22:09:47.47 ID:yeAPhPGE0
- 無論、侵食された部分は戦闘が終わっても残る。
つまりこの戦闘以外の戦闘使用を含めても、三十分が限度だということだ。
その想定時間を越えれば――
从メ゚∀从「その前に貴女を倒します!」
*(#‘‘)*「自身の身を削ってまで戦う理由はなんですか!?」
从メ゚∀从「僕が僕である理由を打ち立てるためですよ!!」
ヘリカルへと突進する。
両足を構成する膨大な力に任せ、たった一足で目の前に迫り
*(#‘‘)*「ッ!?」
慌てて構えたステッキに強烈な衝撃が走る。
目を瞑ってしまう瞬間と、そしてまた開いた瞬間とでは光景が異なっていた。
握った柄の中間点に、大きなヒビが入っている。
*(#‘‘)*「そ、そんな……!?」
ステッキ自身にも魔力防護は施してあるはずだ。
つまりハインリッヒの放った右腕の一撃は、容易くその防護を貫いたことになる。
- 122: ◆BYUt189CYA :2007/06/27(水) 22:11:04.40 ID:yeAPhPGE0
- 流石は15h−Wというべきなのだろうか。
本来の力を失ったはずのそれは、しかし内在する魔力だけで十二分に戦える代物だった。
魔力という火薬を詰めた炸裂拳といった方が早いだろう。
从メ゚∀从「てりゃぁぁ!」
二撃目が来た。
発声と気配で察知したヘリカルは、魔力の勢いに任せて後退する。
距離を稼ぎ、そしてそのまま砲撃戦に入るつもりだ。
たとえハインリッヒの右腕が強力だろうが、接近されなければ問題はない。
兵法の基本中の基本をヘリカルは忠実に守った。
相手が強敵だからこそ、だ。
*(#‘‘)*「この距離なら!」
折れ掛けたステッキを振り回し、その先端を視線の先へと向ける。
人差し指に引っ掛けられたトリガーを三度引けば
ガシュ、という音と共にマジックカートリッジが三つ吐き出された。
次の瞬間、マジックカートリッジから供給された莫大な魔力がステッキ先端に集約される。
高音が響き、桃色の衝撃波がヘリカルを中心に広がっていく。
- 127: ◆BYUt189CYA :2007/06/27(水) 22:12:57.87 ID:yeAPhPGE0
- その先をハインリッヒへと向け、しかし一瞬だけ動きを止めた。
相手は人の形をしている。
ヘリカルは軍人ではあるが、あくまで対異獣のために編成された部隊の一員だ。
決して人を殺すために戦っているのではない。
だからといって、人を殺したことがないわけではない。
裏切り者を始末したこともあるし、異獣に降伏しようなんて言った馬鹿を殺したこともある。
しかしそれでも人を殺すことには慣れていなかった。
いや、慣れようとしなかった。
痛めつけるのは好きだが、殺すのは駄目だと思っているのだ。
そんなことに悩むヘリカルに対し、かつてロマネスクはこう言った。
――敵対した存在を、人だとは思うな。
当時の、今ほど強くなかったヘリカルは納得した。
人を殺すのが嫌ならば、相手を人だと思わなければ良い。
それを悟ってから、ヘリカルは目に見えて強くなっていった。
何か心に引っ掛かるモノはあったが、それも全て無視を決め込んだ。
結果、八連MCホルダーという高級装備を付属した汎用型ステッキを手に持つこととなる。
- 129: ◆BYUt189CYA :2007/06/27(水) 22:14:21.03 ID:yeAPhPGE0
- *(#‘‘)*(敵を――)
二〜三倍に膨れ上がった魔力を操作し
*(#‘‘)*「――人だと思うなぁぁぁぁ!!」
直射砲を発射する。
その反動で身体が背後に引っ張られるが、足を地面に踏ん張らせて耐えた。
桃色に染められたレーザービームが、一直線に道路を削りながら走る。
その先にはハインリッヒ。
从メ゚∀从「あぁぁぁ!!」
吠える。
避けるどころか前へと身を飛ばし、真っ向勝負でも仕掛けるような軌道で走った。
*(#‘‘)*「ば――」
馬鹿か、と思う。
たとえ右腕と両足が15th−Wそのものだとしても他の部位は生身の人間だ。
その状態で魔力直射砲の中へ飛び込んでしまえば、生身部分が消し飛ぶだろう。
魔力とは、単純な力ではない。
物理法則を書き換える『奇跡』なのだ。
魔力以外の如何なる防御を用いても、自身を気力で充実させようとも結果は変わらない。
その中へ、ほとんど生身のハインリッヒは飛び込んでいった。
- 136: ◆BYUt189CYA :2007/06/27(水) 22:17:40.48 ID:yeAPhPGE0
- 光が道路を粉砕蹂躙する。
桃色光線という一条の光は、都市ニューソクの中を駆け抜けていった。
*(#‘‘)*「…………」
後には何も残らず、そして残るわけがない。
パラパラ、と音を立てる瓦礫と煙以外は動くものさえもない。
*(‘‘)*「馬鹿です」
呆気ないほどに簡単に終わってしまった。
魔力を用いた戦いは、大体このようにあっさりと終わってしまう。
今では慣れたこととはいえ、ヘリカルはその空虚さを受け入れるようなことはしない。
人が死ぬということに対して順応してはならないのだ、と強く思う。
そしてまた、人を殺しておいて、とも思う。
*(‘‘)*「……やっぱり、殺すのは異獣が一番楽しいですね」
アレは単なる害悪だ。
人間、悪という存在を倒すことに多大な快感を覚える。
どの時代にも正義のヒーローが求められるのは、そういう部分もあるからだ。
そしてヘリカルもその一人で、ただ異獣を殺すという目的のために動いている人物であった。
- 138: ◆BYUt189CYA :2007/06/27(水) 22:19:20.25 ID:yeAPhPGE0
- 後味の悪い戦闘を終えた彼女は、苦い顔でその場を去ろうとする。
背後を振り返り、そして表情が大きく変わった。
从メ゚∀从「やっと気付いてもらえました」
*(;‘‘)*「!?」
消えたはずのハインリッヒが、そこにいた。
服などボロボロで半裸に近い。
しかし身体に欠けた部分など見当たらなかった。
あのレーザーの中を、無傷で突破したとでも言うのだろうか。
*(;‘‘)*「何で……」
思わず、疑問の声が出てしまう。
それによって動揺を悟られてしまう、と考えるよりも
真実を知りたい、という思いが大きかった。
从メ゚∀从「僕は15th−W以外のウェポンを、一つだけ使うことが出来るんです」
それは前回の最終戦で備えられた能力。
リトガーが最後まで装着していたウェポン。
从メ゚∀从「――11th−W『ミシュガルド』。
幻影を生み出すことの出来る能力を持つウェポンですよ」
*(;‘‘)*「……そんな」
- 141: ◆BYUt189CYA :2007/06/27(水) 22:20:45.31 ID:yeAPhPGE0
- 从メ゚∀从「といっても流石に無傷は無理でしたけどね」
苦笑し、右腕を掲げる。
盾に代わりにしたのだろうか、その腕は少し歪み、灰煙を上げていた。
ボロボロに裂けている服もそれが原因だろう。
*(;‘‘)*「じゃあ、何で私を殺さないんですか?」
ヘリカルの口から当然の疑問が出た。
相手の背後を取ることが出来たのならば、躊躇する道理はない。
今、ヘリカルは自分の状況が不思議でならなかった。
背後をとり、しかも気付かれないないという状況がどれだけ幸運か知っているからだ。
状況的に考えて、彼女は死んでいないとおかしいのである。
それが何故か生きている。
目の前で眉尻を下げた『最強』を前に、自分の意思があるのが不思議だった。
从メ゚∀从「だって――」
何故という問いに対して、ハインリッヒは力無く笑い
从メ゚∀从「何がどうあれ、僕は人を殺すのは嫌なんです」
- 144: ◆BYUt189CYA :2007/06/27(水) 22:22:09.90 ID:yeAPhPGE0
- *(‘‘)*「……私は敵ですよ」
从メ゚∀从「その前に人間です。
異世界の人でも、僕と同じ人間です」
その言葉に、ヘリカルは軽く目を見開いた。
彼女はこう言ったのだ。
自分も人間なのだ、と。
『最強』と呼ばれ、『完成品』と呼ばれ、人間を超えた能力を持ち、そして正規の人間でもなく
しかしなお、彼女は自身を人間だと言った。
そして、ヘリカルも同じ人間だと言った。
人を殺し、異獣を狩り、ロマネスクに協力する自分にそう言ったのである。
敵を人だと思うなと思い続けたヘリカルにとって、その言葉は衝撃の一言だった。
*(;‘‘)*「な、何を馬鹿なことを。
敵は倒す……それが絶対に正しいんですよ」
从メ゚∀从「敵味方関係ありません。 僕は人を殺すのが、傷付けるのが嫌なんです」
- 147: ◆BYUt189CYA :2007/06/27(水) 22:23:32.18 ID:yeAPhPGE0
- それは正直な心中である。
かつてのハインリッヒは破壊の象徴だった。
近付くもの全てを敵だと認識し、全てに牙を剥き、そして傷付けた。
その時の記憶は曖昧ではあるが、その事実を事実だと知っている。
だからこそ『もう傷付けるのは嫌だ』と強く願った。
自分はそんな存在ではないと。
そんな存在だったのかもしれないが、それでは嫌だと。
*(;‘‘)*「偽善です……テメェの言ってることは全て偽善ですよ……!」
从メ゚∀从「偽善でいいです。 本当の善なんて僕は知りませんから。
だからせめて僕の思う善を信じ抜きます」
*(;‘‘)*「自分を打ち立てるのが偽善で良いんですか?」
从メ゚∀从「偽善だとか……そういうのは他人が決めることです。
でも僕がそれを信じたら、それは僕の支えになってくれるんですよ」
- 150: ◆BYUt189CYA :2007/06/27(水) 22:24:58.66 ID:yeAPhPGE0
- 秩序だとか、未来への道筋だとか、そういう大規模な話は関係ない。
ハインリッヒは言は、ただ周囲の人間を見て出した答えだった。
クーやブーン、モララーやギコ。
彼らは不器用ながらも自分の道を見出そうとし、そしてその上を走っている。
いや、正確に言うならば走っていた。
ハインリッヒは知っている。
彼らの芯はとても脆い存在ではあるが、とても綺麗なものなのだと。
だから彼女は強く思い、そして願った。
从メ゚∀从「僕は他人に言われた善よりも、自分の信じる偽善の上に立ちたいんです」
*(;‘‘)*「……!」
逆だ、と思ってしまった。
ロマネスクの教えを心に染めた自分と逆なのだ。
他人の考えに依存したヘリカルと、自分の考えを支えにするハインリッヒ。
まったく逆の考えを持っていると自覚し、そして眩しいとも思った。
その眩しさが何なのかは解らないが
*(‘‘)*「……ズルいです」
と、そんな嫉妬の言葉が出てきた。
- 154: ◆BYUt189CYA :2007/06/27(水) 22:26:43.81 ID:yeAPhPGE0
- 从メ゚∀从「何と言われようとも構いません。
ですが僕は僕を曲げるつもりはありませんし、貴女を曲げるつもりもありません」
*(#‘‘)*「……それがズルいんですよ!」
激昂の言葉をスイッチとして、抜けていた力が全身を駆け巡った。
呼応するように魔力が風を巻き起こす。
从メ;゚∀从「わぷっ!?」
*(#‘‘)*「興が削がれました! 今回は見逃してあげます!」
从メ;゚∀从「へ? 僕が見逃される側なんですか?」
*(#‘‘)*「うるさいうるさい!」
『引』の魔力で己の身を浮かし、持っていたステッキの腰を乗せる。
*(#‘‘)*「次に会ったらテメェを論破してやるです!」
妙な捨て台詞を残し、ヘリカルの身体は上空へと昇っていく。
*(#‘‘)*「憶えてやがれです!」
魔力が噴射される。
一筋の桃線が、桃色の雫を撒き散らしながら夜空を走った。
从メ;゚∀从「……論破?」
ハインリッヒはそれを、首を傾げて呆然と見送った。
- 157: ◆BYUt189CYA :2007/06/27(水) 22:28:00.83 ID:yeAPhPGE0
- その部屋は、貞子と戦った空間に負けないほど広かった。
しかしその天井や壁は機械に覆われ、せっかくの広さを殺してしまっている。
正面には巨大なメインウインドウ。
周囲にはメインを補佐する数々のサブモニター。
見慣れぬ機械が並び、赤や黄の光を明滅させている。
( ^ω^)「…………」
重い震動が鼓膜を震わせた。
ゴ、という音の連鎖が原因である。
それは稼動している機械群から発せられているようだ。
心臓が、いつも以上に激しく鳴っていた。
悪寒が背筋を断続的に撫で続け、強い吐き気が込み上げてくる。
それほどの緊張感を与える空間だった。
そして
( ФωФ)「よぉ」
メインコンソールの前に立っていた男が、振り向いた。
- 162: ◆BYUt189CYA :2007/06/27(水) 22:29:18.56 ID:yeAPhPGE0
- (;^ω^)「……!」
思わず息を呑む。
ロマネスクは変わっていなかった。
あの時と変わらない黒コート、変わらない表情、変わらない雰囲気だ。
そしてあの時と同じ、狂気とも殺気ともいえる不気味な気配を纏っている。
( ФωФ)「勝手に侵入しといて挨拶も無しかよ?」
(;^ω^)「こ、こんにちはだお……」
( ФωФ)「いいねぇいいねぇ、馬鹿は好きだよ俺」
クク、と喉を震わせて笑う。
( ФωФ)「しかしまぁ面白いことになってんじゃねぇか、あぁ?」
(;^ω^)「?」
( ФωФ)「何だ、知らねぇのかよ」
- 166: ◆BYUt189CYA :2007/06/27(水) 22:30:39.64 ID:yeAPhPGE0
- 背後のコンソールを叩いた。
軽い電子音と共に、メインモニターがいくつもの画面を作り出す。
それは各所に仕掛けられた監視機から送られてくる映像だった。
(;^ω^)「おっ!?」
まず右上の画面では、ジェイルが派手に暴れていた。
そして横の画面では、クーとジョルジュが小人と戦っている。
さらに横の画面では、ドクオとショボンが建物の影で各々の武器を構えている。
その真下の画面では、ペニサスとタマネギが睨み合っている。
飛ばされた皆の現状が解り、ブーンは安堵した。
そして同時に焦燥の念に駆られる。
(;^ω^)「皆、戦ってるお……!」
( ФωФ)「奇襲作戦としちゃあ悪くねぇ。
各地に戦力をバランス良く配置し、出来るだけ敵を引き付ける。
で、少数精鋭がこうやって中枢まで突っ込んでくる、か」
(;^ω^)「でも、それは――」
( ФωФ)「もちろん解ってるぜ。 秩序守護者の仕業だってんだろ?」
(;^ω^)「そ、そうだお」
( ФωФ)「空間転移なんざを軽々とやってのけるのは秩序守護者くらいだろうしな」
- 171: ◆BYUt189CYA :2007/06/27(水) 22:32:35.71 ID:yeAPhPGE0
- しかし、と言い
( ФωФ)「何故に奴らがここへ飛ばしたのか……それは知らねぇ、と」
(;^ω^)「……お前は知ってるのかお」
( ФωФ)「わざわざ言う義理はねぇから教えねぇけどな。
それよりもすることがあるんじゃねぇかぁ?」
ロマネスクの腕が掲げられた。
その腕には黒色のブレスレッド。
光沢などない、ただただ真っ黒な物体が装着されていた。
( ФωФ)「リベンジだろ? 相手してやるから掛かってきな」
おかしい、とブーンは思う。
目の前の男がロマネスクらしくないのだ。
諦めの念さえも感じ取れそうなほど、その存在が薄いようにも思える。
(;^ω^)「待つお」
( ФωФ)「俺の好きなことの一つは、『待って』と言う奴に――」
黒光。
次の瞬間には、ロマネスクの両腕に黒色のグローブが姿を現した。
( ФωФ)「――『待たねぇ』って言ってやることなんだぜ!」
それまでゆったりとしていた彼の身が、突如として鋭くなる。
黒色を撒き散らしながらの突進が始まったのは直後だった。
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