( ^ω^)ブーンと川 ゚ -゚)クーは抗い護るようです

5: ◆BYUt189CYA :2007/07/20(金) 18:06:46.72 ID:7i2QT9Uk0
活動グループ別現状一覧

( ^ω^) 川 ゚ -゚) 从 ゚∀从 ('A`) (´・ω・`) 从'ー'从
爪゚ -゚) ('、`*川 ( ゚∀゚)
所属:不滅世界
位置:都市ニューソク
状況:奇襲

( ФωФ) (´・_ゝ・`) ( ・ω・)=つ  <ヽ`∀´> *(‘‘)*
川 -川 ξ゚听)ξ (゜3゜) ,(・)(・),
所属:機械世界・アギルト連合軍
位置:都市ニューソク・連合軍アジト
状況:防戦



7: ◆BYUt189CYA :2007/07/20(金) 18:08:33.75 ID:7i2QT9Uk0
第二十六話 『「本」当の「気」持ち』

黒線が走った。
それは全ての事象を呑み込みかねないほどに深い闇を持っていた。

白線が走った。
それは戸惑いつつも己の正解を見出そうとする清い光を持っていた。

激突する。
飛沫が舞う。
空間が激震する。

(#^ω^)「うああぁぁぁ!!」

( ФωФ)「おぉぉぉ!!」

拳と拳がぶつかり合う。
魔力同士が衝突し、互いを喰わんと牙を剥く。

( ФωФ)「クハハハハ!」

(;^ω^)「!?」

( ФωФ)「前に言ったな!? テメェには技術知識経験が足りねぇと!」

(#^ω^)「それが――」

( ФωФ)「どうだ!? テメェの技術知識経験は俺に追いついたか!?」



9: ◆BYUt189CYA :2007/07/20(金) 18:10:20.18 ID:7i2QT9Uk0
そんなもの、と思い

(#^ω^)「アンタが勝手に判断すればいいお!」

( ФωФ)「ならよぉ!」

姿勢が変わった。
背後へ伸ばすような格好に、ブーンは思わず吸い込まれそうになる。

( ФωФ)「――まだだ、と言うぜ?」

まるで試すような口調。
そして試すような攻撃が来た。
速度を落とし、タイミングをわざと狂わせての一撃。

(;^ω^)「くっ!」

( ФωФ)「クハハ! なかなか反応いいじゃねぇか!」

ブーンの必死の回避行動に、ロマネスクは楽しそうに吠えた。
ほんの数週間前まではフルボッコにされていたはずの連撃を、ギリギリではあるが捌けているのだ。

(;^ω^)(ありがとうございますお、ペニサスさん……!)

ブーンは心の中で感謝する。
彼女との訓練は無駄ではなかった、と。

貞子の時は人外ということで効果を発揮することがなかったのだが、今度の相手は本物の人間である。
しかもロマネスクの実力はペニサスよりも少し下だと思えるほど、今のブーンには余裕があった。



15: ◆BYUt189CYA :2007/07/20(金) 18:14:59.64 ID:7i2QT9Uk0
( ФωФ)「ハ! 随分と反射が良くなってやがる!」

(#^ω^)「お前を倒すためだお!」

攻撃がブーンに向かう。
彼はそれら全てを視界に収め、どれが危険か否かを見極める。
完璧に、とまではいかないものの、ダメージを最小限に抑える努力は確実に効果を発揮していた。

( ФωФ)(コイツ――)

以前に比べて格段に堅牢となったブーンの防御を見て、ロマネスクは感心の息を隠すのに少し苦労する。
攻撃が見切られたわけではない。
ただ、どの攻撃を回避すれば一番被害が少なくなるかを稚拙な目で判断しているのだ。

( ФωФ)(面白ぇ……!)

おそらくは英雄仕込みの技だろう。
付け焼刃にしては効果的なところを見て、ブーン自身の素質もなかなかのものである。

(#^ω^)「おっ!」

( ФωФ)「っとぉ!」

思考に巡らせた隙を突かれる。
その空白は僅かだったはずなのだが、それを見事に捉えたブーンを見てロマネスクは笑みを更に深めた。



17: ◆BYUt189CYA :2007/07/20(金) 18:16:58.38 ID:7i2QT9Uk0
(;^ω^)「な、何だお……キメェ」

( ФωФ)「いや、別に――」

あまりに今の空気に似合わない表情を見て、露骨に表情を引きつらせるブーン。

( ФωФ)「ただ、嬉しいだけだ」

(;^ω^)「何を……」

( ФωФ)「この世に神がいるってんなら、なかなかオツなことをしてくれる。
        今日一日だけに限って感謝してやろうって気にもなるぜ」

(;^ω^)「…………」

( ФωФ)(俺の最後の相手に……こんな面白い奴をぶつけてくれるなんて、な)

ロマネスクには解っている。

突如として現れたブーン達と戦闘を開始し、その疑問を持ったのはすぐだった。
兵の配置を見て疑問は確信へと変わる。
もはや戻れないところまで進ませてしまっていた、と。



19: ◆BYUt189CYA :2007/07/20(金) 18:18:57.10 ID:7i2QT9Uk0
ロマネスクには、この戦いの決着が既に見えていた。
そして、自分はこれからどう足掻いても無事に済まないことも解っていた。
死ぬにせよ拘束されるにせよ、彼にとって今の戦いこそが自意識下での最後の戦闘だと――

( ФωФ)「――だからこそ、だ!」

(;^ω^)「!?」

( ФωФ)「だから、俺はテメェに再度問う!」

拳を振り

( ФωФ)「テメェは何なんだ!?」

突き出す。
最短距離で放たれた黒拳は、反応すらさせずにブーンの腹に直撃した。

(;^ω^)「あぐっ!?」

不本意な悲鳴を漏らし、ブーンは背中から壁に激突した。

『内藤ホライゾン……!』

(;^ω^)「だ、大丈夫だお」

生身の人間であれば、おそらく肋骨の何本かを持っていかれたことだろう。
『大丈夫』と言えるのは身体強化の恩威だった。
痛みを訴える腹部を無視し、すぐさまロマネスクの方へと意識を集中させる。



21: ◆BYUt189CYA :2007/07/20(金) 18:20:33.73 ID:7i2QT9Uk0
――テメェは何なんだ。

その妙な問い掛けに一つの心当たりがある。
ロマネスクと初めて拳を交えた時に、それに似た答えを突きつけられた記憶があった。

(;^ω^)(お前は一般人じゃない、って……)

指輪という魔法兵器を用い、異世界を交えた戦いに身を染めつつあるブーン。
彼という人間のカテゴリーは、もはや一般人という範疇を軽々と超えている。

まだ戻れると――いや、戻りたいと願っていた。

全てを無かったことに、などとは言わない。
クーやハイン、ギコ、モララーなどといった、戦いを通じて絆を得た存在がある。
それらを無くしてまで逃げ出したい過去ではない。

( ^ω^)(でも、それは――)

わがままだと強く思い、それでも、と撤回の弱音が生まれる。
しかしそれで構わないと思える自分がいる。
中途半端で何が悪いと思ってしまう自分がいる。

何故なら内藤ホライゾンという存在は、ただ――

( ^ω^)(ただ……?)

何なのだろうか。
何を求めているのだろうか。
一般人ではないと言われて、何がそんなに嫌だったのだろうか。



23: ◆BYUt189CYA :2007/07/20(金) 18:22:46.68 ID:7i2QT9Uk0
( ФωФ)「…………」

視線の先にはロマネスクが立っている。
異獣に蹂躙された世界の、しかし未だに抵抗する組織の一員。

ブーンの知るのはそれだけだ。
そしてそれ以外の過去など知らず、知ろうとも思わない。

両目の縦傷がどんな理由で刻まれたのか。
黒色のブレスレッドをどういう経緯で手に入れたのか。
どんな思いを持って機械世界で戦い、この世界へと渡ってきたのか。

それらを知らないのに、彼という人間を既存の枠に当てはめることなど出来ない。
しかしその過去があったからこそ、今のロマネスクという人間が自分の前に立ちはだかっているのは事実だ。

逆も言えるだろう。
ロマネスクは、内藤ホライゾンの何を知っているのだと言うのだろうか。
何を以って『一般人ではない』などと言えたのだろうか。

( ^ω^)(……もしかして)

そこで、気付いた。

おそらくではあるが許せなかったのだろう。
戦えるはずの力を持ち、しかしその力を自分のモノとして認めようとしなかったブーンのことを。
戦える力を切望したが、己の守りたいものを守れずにここまでやってきたロマネスクからすれば。

しかし引っかかる部分がある。
彼は何故、ブーンに対して執拗に責めるのか。
そして何故、ロマネスクはここまでブーンのことを許せないのだろうか。



25: ◆BYUt189CYA :2007/07/20(金) 18:24:38.89 ID:7i2QT9Uk0
( ФωФ)「俺とテメェは別モンだ」

まるで心を見透かしたかのように、ロマネスクは言葉を放つ。

( ФωФ)「テメェがどんな選択をしようが、どんな死に方をしようが知ったこっちゃねぇ」

( ^ω^)「だったら――」

( ФωФ)「だがな」

言葉は続かず。
ロマネスクは何故か黙り込む。

( ^ω^)(……まさか)

平行世界という言葉があるように、平行存在という言葉もある。

出発点を同じくして、しかし異なる歴史を歩んだ世界が無数にあるということは
この世界に自分がいるのならば、あの世界にも自分がいることになるはずだ。

本来ならば出会うはずのない自分同士。
しかしどうにかして出会ってしまえば、果たしてどうなってしまうのだろうか。
ロマネスクとブーンのように、理由無く引かれてしまうのかもしれない。


それは例えば、たった一度の敗北を許さずリベンジを誓うブーンのように。
それは例えば、この状況下においてリベンジを受けるロマネスクのように。



29: ◆BYUt189CYA :2007/07/20(金) 18:26:31.13 ID:7i2QT9Uk0
だとすれば――

(;^ω^)「お前は、僕の……」

( ФωФ)「かもしれねぇし、そうじゃねぇかもしれねぇ」

確かめようはない。
証拠もない。
ただ理由無く引かれる、という理由があるだけだ。

( ФωФ)「だが決着を付けようぜ。
        異獣や連合軍など関係ない……俺とお前の決着だ」

違和感がある。
まだ二回しか顔をつき合わせていないはずなのに、あの男の言動に違和感を得る。
まるで昔から知っているかのような既知感があった。

( ФωФ)「同じ人間が同じ世界に存在するのには限界がある。
        故に世界は、どちらかの存在を否定しようとする」

( ^ω^)「それが、この戦いだと言うのかお?」

( ФωФ)「秩序守護者が設定した戦い、と考えれば納得がいくだろう?」

(;^ω^)「……何となく」



30: ◆BYUt189CYA :2007/07/20(金) 18:28:24.92 ID:7i2QT9Uk0
( ФωФ)「さぁ、答えてみろ。
        テメェは何なんだ?」

(;^ω^)「僕は――」

何にせよ、ロマネスクは本気だ。
その問いはふざけているのではなく、本当の答えを知りたがっているために出たものだ。
根拠などないが、自然とそう思えた。

ならば本気の問いに対し、こちらも本気で答えなければならない。

言葉だけではなく対応として。
猜疑によって制動を掛けられていた、心の引き金を。

『使うか、内藤ホライゾン』

( ^ω^)「……使うお。
      アイツが……ロマネスクが本気だって解ったから、僕も本気で答えなきゃならないお」

『ならば言え、限界突破の鍵語を』

相棒の言葉に頷く。
ロマネスクを正面から見据え、右拳を掲げて口を開き、吐き出された言葉は



(#^ω^)「OVER ZENITH――!!」



33: ◆BYUt189CYA :2007/07/20(金) 18:30:28.87 ID:7i2QT9Uk0
限界を超えるキーワード。
本気の相手に対して隠してはならない本気の形だ。

白い光が溢れるように生み出され、数秒の間だけブーンの身体全体を包み込んだ。

( ФωФ)「…………」

その様子を見つめるロマネスクは微動だにしない。
口元を微かに吊り上げた表情は、まるで期待していた事が実現したのを喜ぶかのような色だ。

それが白色光に照らされたのは数秒間だけ。
次の瞬間、光が収まったと同時に口を開いた。

( ФωФ)「それがテメェの本気か?」

呟いた先、そこには本気になった相手がいた。

( ^ω^)「…………」

白の手甲を両腕に装着しているのは内藤ホライゾン。

しかし、以前のような威圧感が削られている。
その形は、以前に比べて貧相といえるほどに細くなっていた。



36: ◆BYUt189CYA :2007/07/20(金) 18:32:19.71 ID:7i2QT9Uk0
( ФωФ)(いや……)

変化はそれだけではない。

『行くぞ、内藤ホライゾン』

( ^ω^)「おkだお」

ブーンとは異なる男の声が、強く響いた。
まるでブーンの隣にいるかのような、そんな存在感を持つ声である。
そしてそれは事実だった。

ブーンの右横、顔よりも少し高い位置にクレティウスが存在していた。

ただし人間の姿ではなく『グローブ』である。
手首から先を模った白色の手甲が、手品のように浮いているのだ。

それを見て、ロマネスクはすぐに狙いを理解する。

( ФωФ)「はン、成程な。
        技術で勝てねぇんなら、単純に手数を増やそうってわけか」

( ^ω^)「本当にそうなのか見てみるがいいお」

身体を動かす。
左足を前へ出し、右足を軽く曲げた構え。
その両拳は固く握られ、それぞれの定位置に備えられる。
残ったクレティウスがサポートするように、ブーンの肩辺りで浮遊する。



38: ◆BYUt189CYA :2007/07/20(金) 18:34:10.91 ID:7i2QT9Uk0
ブーンの本気を受け、ロマネスクは満足げな笑みを浮かべる。
しかしすぐに歪みを訂正。
身体を動かし、今まで見せたことのない構えをとった。

( ФωФ)「時間がねぇ。 答えは殴り合いの中で聞かせてもらうぜ」

( ^ω^)「時間……?
      いや、もうそんなことは良いお。 解ったお」

言葉が終わると同時、ブーンとロマネスクは同じタイミングで身を飛ばした。
両者とも右足を蹴立て、利き手である右腕を胸の前に持ってくる。

「「おぉ――!」」

同じ咆哮で威嚇し、そして激突。
白と黒の残滓が衝撃波に乗って撒き散らされた。

切り裂かれるような不可視の波動が二人に襲い掛かる。
しかし一歩も引かず、更なる攻撃を重ねるために四肢を出した。

ブーンの右腕が風に乗る。
愚直なまでの真っ直ぐな拳に対し、ロマネスクは左腕を切るようにして防御。
その瞬間だ。

( ФωФ)「ぬ!?」

軽い衝撃と共に鈍痛が走った。



39: ◆BYUt189CYA :2007/07/20(金) 18:35:56.59 ID:7i2QT9Uk0
無防備だった頬に当たったそれは、宙を飛んで元の位置へと戻る。

グローブ姿のクレティウスだ。
イメージ的には、『空飛ぶ補助腕』といったところだろうか。

人間の腕は、機能という面で考えると究極の汎用型器具と言えよう。
その使い方次第ではどんなことでも表すことが出来る。

例えば力であったり、形であったり、訓練すれば意思や感情の伝達さえも――

人間は、それが二本という仕様だ。
それ以上でもそれ以下でもない。
だからこそ二本で充分だというのに、今のブーンは更にもう一本追加されている状態だ。

自由に、そして自在に飛ぶ拳は厄介の一言である。
しかもブーンの命令を必要としない意思を持っているが故に、二人の人間を相手にしているかのような錯覚を受ける。
いや、実際に二人を相手にしているのだろう。

( ФωФ)「小賢しいんだよ!」

湧き上がる苛立ちを肯定し、力として足を出すが

(#^ω^)「クレティウス!」

( ФωФ)「ッ!?」

その軌道中に止められてしまう。
クレティウスが、完璧なタイミングと位置に飛来したのだ。



41: ◆BYUt189CYA :2007/07/20(金) 18:37:19.06 ID:7i2QT9Uk0
( ФωФ)「……自動攻撃に自動防御か」

血唾を吐き、呟く。

厄介な代物だが、所詮はそれだけだ。
対応の仕方と優先順位を間違えなければ、問題など無くなる。

( ФωФ)(まずは慣らす必要があるな……!)

目を僅かに細め、その焦点をブーンではなくクレティウスに合わせる。
自在に飛ぶグローブの動きに、目と感覚を慣らすためだ。

結果、攻撃と攻撃との合間が開く。

それを好機と見たブーンが、一気に間合いを詰め始めた。



42: ◆BYUt189CYA :2007/07/20(金) 18:38:48.83 ID:7i2QT9Uk0
都市内に駆ける音が響く。
その数は二つ。
ハ、と短い息を断続的に吐きつつ、二つの人影は建物の狭間を走っていた。

(;´・ω・`)「くっ……」

(;'A`)「ショボン!」

青い顔をしたショボンが膝をつく。
先行していたドクオは、慌てて彼の下へと駆け寄った。

(;'A`)「くそっ、血がまた……」

ショボンは負傷していた。
右肩が抉られるように欠け、そこから多量の血が流れ出ている。
ドクオが着ていた服を破って包帯代わりにしたものの、やはりこのような処置では追いつかないらしい。

(;´・ω・`)「ごめんね、ドクオ」

(;'A`)「ちくしょう……!」

布が足りない。
ドクオは着ていたボロボロの服を脱ぎ、ショボンの服をも破って肩に押し当てた。
止血をしているはずなのだが、血は一向に止まる気配を見せない。



44: ◆BYUt189CYA :2007/07/20(金) 18:41:12.73 ID:7i2QT9Uk0
(;'A`)「何なんだよ、アイツは……あの力は!」

(;´・ω・`)「あれが魔力の力なんだね……目の当たりにすると迫力の違いがよく解る」

先ほどまで二人は隠れていた。
突如として襲ってきた何者かから、ビルの建物の壁を盾にして。

しかし敵の撃った弾丸はそんな壁を容易に貫いた。
結果、向こう側にいたショボンの肩も同時に穿たれることとなったのだ。
そして逃げ始め、今に至る。

魔力の効果にも驚愕したが、二人が一番驚いたのは敵の狙撃の正確さだった。

物陰に隠れた自分達を狙えるほどの技量を持っているのだ。
素人に近い二人が太刀打ち出来るわけもない。

遠距離攻撃が可能なウェポンを所持してはいるが、現状では意味を持たぬモノだった。



47: ◆BYUt189CYA :2007/07/20(金) 18:42:21.84 ID:7i2QT9Uk0
再度、逃げ始めた二人を見つめる目があった。
それはあるビルの屋上に存在している。

<ヽ`∀´>「…………」

ニダーだ。
白色の巨銃を構え、そのスコープを覗く目は鋭い。

見下すかのように、逃げるドクオとショボンを見つめていた。
背後のエリアで鳴り響く銃声や悲鳴など、まるで聞こえていないかのように動きを見せない。

殺すことは簡単だった。
いつものように、狙いを定めてトリガーを引けば良い。

ただ、ニダーはすぐにそれをしなかった。
一度だけ撃ち、その後はただ逃げ惑う二人を見つめるのみ。
それは品定めでもしているかのような雰囲気だった。

幸薄そうな少年が、人の良さそうな少年の腕を肩に乗せて走る。
時々足を止めて不安そうに周囲を見渡し、そしてまた走る。

そんな様子を延々と見つめ続ける。
それが趣味なのか戦術なのか解らないが、彼は真剣にその様子を観察し続けた。



48: ◆BYUt189CYA :2007/07/20(金) 18:43:31.37 ID:7i2QT9Uk0
<ヽ`∀´>「…………」

しばらくした後、ようやくニダーは銃器を本格的に構える。
どうやら二人が狙い易い場所まで出てきてくれたらしい。

元から細い双眸を更に細め、引き金に指を引っ掛け――

その時だ。

突如、何かに気付いたかのようにニダーが顔を上げる。
忙しなく周囲に視線を巡らせ

<ヽ`∀´>「これは……」

そして異変を悟った。
しかし気付くのが遅かった。
ニダーは諦めたかのように肩を落とす。

『本当の敵』が現われたのは、直後だった。



51: ◆BYUt189CYA :2007/07/20(金) 18:45:02.06 ID:7i2QT9Uk0
地下施設の中枢。
そこにあるのは、白と黒の世界。

白が舞い、黒が跳ね、白が弾け、黒が砕き、白が飛び、黒が這い――

それだけだ。
他の色など要らない。
灰色を示す壁や天井は、白と黒の光が織り成す光影によって染められる。

そこは、ただ白と黒がぶつかり、己の意思を貫くために吠える空間だ。

( ФωФ)「超えられると思えるのか、この俺を!」

(#^ω^)「超えられないと思うのかお、お前は!」

もう何度目だろうか。
数え切れぬほどの回数と速度でぶつかり合う。

力は拮抗していた。
技術と経験で戦うロマネスクに対し、ブーンは意地と勢いで戦う。
そこにクレティウスのカバーが入れば、二人は互角の域で激突することになる。

均衡している。
が、しかし危うい状態だ。
どちらかが身体精神問わずに崩れてしまえば、おそらく雪崩のように勝負が決まるだろう。

それが両者共に解っている。

本気で――意識的な前傾姿勢でぶつかれば、しかし崩れ果てるリスクがあるということを。



53: ◆BYUt189CYA :2007/07/20(金) 18:46:22.40 ID:7i2QT9Uk0
本気とはそういうものだ。
自分の全てを前面に出すということは、もはや後が無いことに繋がる。

だからこそ――

勝ちたいと思える。


(#^ω^)(いや)


勝とうと思う。


(#^ω^)(違うお)


勝つと、己に誓える。


技術は必要だろう。
経験も必要だろう。
しかし、それ以上に本気の勝負で必須なのは

(#^ω^)(――『倒れない』という堅牢な意思!)



56: ◆BYUt189CYA :2007/07/20(金) 18:47:49.98 ID:7i2QT9Uk0
言うなれば『気合』。
しかし、精神的な不確定要素だ。

確かに心だけでは勝てないだろう。
ただ、心が無ければ勝つことなど出来ない。
心という芯があるからこそ、最後まで立っていられるのだ。

本気の勝負では、それが大きいか小さいかが勝敗を決める。

たったそれだけの話。

それだけで、それだからこそ――

(#^ω^)「ッ!!」

黒の拳が額を掠る。
痛みと同時、切られた皮膚を補完するかのように血液があふれ出てきた。

まずい、と思うが間に合わない。
視界が赤に染まる。
血が目の中に入ったのだ。

(;^ω^)「くぅ……!」

拭う。
が、それは隙となる。



61: ◆BYUt189CYA :2007/07/20(金) 18:49:36.14 ID:7i2QT9Uk0
空いた右脇に、すかさずロマネスクの膝蹴りが潜り込んできた。

( ФωФ)「おらよ!」

(; ゚ω゚)「げぁ!?」

臓物が悲鳴を上げる。
内部のものを吐き出そうと脈動し、しかしブーンは根性で耐える。
そして今の被弾の理由を思考した。

(;^ω^)(慣れてきてるんだお……)

クレティウスが反対側に浮遊しているのを見ていたのだろう。
いくら彼が自動防御をこなすといえど、その位置へ瞬間移動しているわけではない。
ロマネスクは、それを幾度と重なった攻防で知ったのだ。

おそらく、その慣れを支えているのは経験。

経験とは過去の積み重ねを意味する。

が、それだけではない。
緊急時に対する『慣れ』の早さも、経験が深く関係してくる。

痛みを知らねば、痛みに対することが出来ないのと同じだ。



62: ◆BYUt189CYA :2007/07/20(金) 18:51:29.96 ID:7i2QT9Uk0
一連の流れを見てブーンは思う。

本気だ、と。
目の前で吠えるロマネスクは本気で戦っているのだ、と。
本気で自分を倒すために、その持ち得る技術を総動員しているのだ、と。

ならば、

(#^ω^)(僕は――)

本気、

(;^ω^)(なのかお……?)

未だ視界には薄い赤が掛かっている。
そして右目も、完全に赤色に染まりつつあった。

言わずとも不利な状況だ。

動揺は自然と動作に出る。
そこを、ロマネスクは逃さない。

少しずつ漏れ出る甘い蜜を掠め取られているかのような感覚が、ブーンの背筋を妖しく撫でる。



66: ◆BYUt189CYA :2007/07/20(金) 18:52:50.51 ID:7i2QT9Uk0
痛みが来る。
痺れも来る。
吐気も来る。

しかし、それでもブーンは倒れなかった。
いや、倒れるとさえ思わなかった。

それは――

( ^ω^)(本気、だから?)

果たして、自分は本気なのだろうか?

クーのように何事に対しても真っ直ぐ見つめているのか?
ギコのように愛する人を護れているのか?
しぃのように愛する人に応えられているのか?
ドクオのように人に対して『好き』だと言えているのか?
モララーのように人を動かし、状況さえも動かそうとしているのか?
ミルナのように人を護りたいと本心で願えているのか?
渡辺のように世界を渡り、世界のために戦おうとしているのか?

他様々な顔が浮かび、彼らの本気を一つ一つ確かめていく。
それらを踏まえ、心の浮かんだ一つの結論。


――僕は、本気を出しては、いなかったのだろう。



70: ◆BYUt189CYA :2007/07/20(金) 18:54:10.29 ID:7i2QT9Uk0
特に今起こっている戦いにおいて、と考えると頷けた。

一年半前には小さくとも、確かにあったはずの意思。
それがいつの間にか、何処かへ消えてしまっていた。

それでもここまで来れたのは、力があったからだ。
力が無ければ死んでいたか、或いは戦線離脱していたのだろうと思う。
そこで、ある言葉が胸に浮かんだ。

――心無き力は暴力、力無き心は無力。

ブーンが嗜んでいる少林寺拳法の心得の一つ。
心と力のどちらが欠けてもいけない、という教えだ。

久しく離れてたような懐かしさを覚え、ブーンは心の中で笑みを放つ。
そして思う。

自分はどれなのだろう、と。

しかし考えるまでもなく『暴力』だった。

力があるにも関わらず、それを適当に放っている自分がいる。
大義も正義も無く、決して自分の意思で動かしているとは言い難い。



72: ◆BYUt189CYA :2007/07/20(金) 18:55:46.91 ID:7i2QT9Uk0
( ^ω^)「でも――」

今は違う。
今だけは違う。
自分の意思で拳を放っている。
ロマネスクを倒す、という目的の下で。

それは、誰が何と言おうとも

(#^ω^)「僕の本気なんだお……!」

言葉を吐いた瞬間、ブーンの中で何かが音を立てて繋がった。


意思が身体を巡り、骨と骨が合致し、筋肉が一つの生き物となる。

血が沸騰するような熱さを発し、神経が鋭敏化し、心臓が勢い良く跳ねる。

それらがクレティウスに伝わり、彼が小さな笑みを見せたのを感じた。



75: ◆BYUt189CYA :2007/07/20(金) 18:57:29.37 ID:7i2QT9Uk0
動く。
いつも以上に、身体が動く。

( ^ω^)(いや、これは――)

懐かしい感覚だ。
これは『いつも以上』なんかではなく

( ^ω^)(かつて感じていた『いつもの』感覚……!)

『これならイケるぞ、内藤ホライゾン!』

( ФωФ)「それだけで俺に勝てると――」

『勝つさ……私と内藤ホライゾンの「二人」ならば、絶対に為してみせる……!』

それが例え

(#^ω^)「今だけ……いや、一瞬だけでもいい……!!」

願う意思は一つ。
そして、それは『二人』の総意。
ブーンとクレティウスは、その願望を叫びとして発した。

「『超えろ……! 奴の強さを――!!』」



78: ◆BYUt189CYA :2007/07/20(金) 18:59:00.92 ID:7i2QT9Uk0
言葉に反応するようにブーンが身を回す。

放たれたのは高速の裏拳。
クレティウスの件もあってか、ロマネスクは警戒してバックステップでの回避に移った。

(#^ω^)「ここで!」

ターゲットを打ち抜くことなく空振りした拳を放り、ブーンはもう片方の腕を突き出す。
足腰の入った直線弾だ。

しかし届く様子はない。
連撃を警戒し、彼我距離を多めにとっておいたのだ。

ロマネスクは既にバックステップを完了させ、届かぬ拳を見送り、その後にカウンターを――

( ФωФ)「――!?」

視界が激震した。
続いて右肩に衝撃が生み出され、遅れて激痛が走る。
その痛みの中心にクレティウスが突き刺さっているのが見えた。

( ФωФ)「まさ、か……!」

右拳を思い切り振り抜いたブーンを見る。
初めから『そのつもり』だったのだと思わせる格好だった。



82: ◆BYUt189CYA :2007/07/20(金) 19:00:42.08 ID:7i2QT9Uk0
拳の上にクレティウスを重ね、そのまま『打撃』のフリをして大振りする。
相手は警戒して距離をとるだろう。
そこから、重ねておいたクレティウスごと振り抜いて『発射』するのだ。

簡単に言えば砲丸投げの要領である。

( ФωФ)(このガキが――!!)

痛みの中でブーンの本当の狙いを理解し、ロマネスクは歯噛みした。

確かにロマネスクの戦闘経験はブーンよりも圧倒的に上だろう。
ただしそれは『対人間』による経験である。

肩の上に首と頭があり、手足は合計四本で、大地に根付いて動くのが人間だ。

しかし今のブーンは手が三つある特殊な人間だと言える。
つまりロマネスクの経験上、このような敵を相手にするのは初めてなのだ。

格闘戦において勝敗を決める要素は、『速度』『体格』『経験』。

『速度』は、ロマネスクが僅かに速い程度。
『体格』は、同じ人間なのでほとんど差異はない。
となれば、ロマネスクを優位にしていたのは『経験』であった。

そこでブーンは人間としての戦闘スタイルを変更する。
結果的にロマネスクは、『対人間』という経験を半分以上も削り取られてしまったのだ。



84: ◆BYUt189CYA :2007/07/20(金) 19:02:20.19 ID:7i2QT9Uk0
( ФωФ)「だが……だが、その程度で!」

うろたえるな、と心に怒鳴り込む。

相手は人間だ。
たとえ拳が三つあろうとも、ベースとして人間の範疇を超えられはしない。

動揺するな、と再び心の中で言った。
幾多の戦場で積み重ねてきた、

( ФωФ)「俺には経験がある……!」

(#^ω^)「その経験があるからこそ!」

叩き上げるかのような右蹴り上げ。
それを防御すると同時、左右の拳が二連続で打ち下ろされた。

( ФωФ)「っ!」

ロマネスクの経験が対抗する。
ほとんど無意識に身体が動き、ブーンの両拳を両腕で受け止めた。

(#^ω^)「チェックメイト、だお!」

目の前で叫ばれ、そしてようやく気付く。

必ず大地に根を張らなければならない片足を除き、攻防に使えるのは両手と片足の三種。
しかし、今のブーンには『+α』が存在している。

防御に三種を使い終わったロマネスクに対し、ブーンは最後の一撃を放つことが――



88: ◆BYUt189CYA :2007/07/20(金) 19:04:08.22 ID:7i2QT9Uk0
(;ФωФ)「がっ?!」

肋骨の砕ける音が、腹の中に響いた。

突如として走った鈍痛に、脳が悲鳴を挙げる。

(;ФωФ)「あ、ぁぁ……!」

見なくても理解出来た。
クレティウスの拳が、隙だらけだった脇腹に突撃をかましてきたのだ、と。

(#^ω^)「お――!」

頭では、その『+α』の存在が解っていた。
しかし『対人間』として慣れきっていた身体が解っていなかった。



93: ◆BYUt189CYA :2007/07/20(金) 19:05:23.87 ID:7i2QT9Uk0
(#^ω^)「おぉっ!!」

見開いた視界の先で、ブーンが更に構えるのを見る。

(;ФωФ)「く、そっ……」

動かない。

身体も、意思も、何もかもが。

動かない。

もはや駄目だと、無駄だと。

動かない。

これほどまでに、動くことを望んでいるのに――!

(#^ω^)「あああぁぁぁぁ!!」

来る。

動ける者が、動く拳で、動き始めた意思を乗せて。

初撃を頬に穿たれた瞬間、ロマネスクの意識は闇へと落ちることとなった。



97: ◆BYUt189CYA :2007/07/20(金) 19:06:51.25 ID:7i2QT9Uk0
( ФωФ)「……ッ」

どれほどの時間が経ったか。
五感を感じるよりも早く、まず痛みが襲い掛かってきた。

頭が割れるほどに痛い。
腹が裂けるほどに痛い。
胸が砕けるほどに痛い。

そしてようやく、自分が床に仰向けとなっていることに気付いた。

( ФωФ)「お、れは……」

負けたのか。
そして敗因を思い出し

(;ФωФ)「ば、かな……」

重ねてきた経験が仇となる。
そんな信じられない現象を信じ切れず、ロマネスクは悪態を吐く。

(;ФωФ)「こんなガキに……俺、が……」



100: ◆BYUt189CYA :2007/07/20(金) 19:08:23.73 ID:7i2QT9Uk0
( ^ω^)「相性の問題だお」

仰向けのロマネスクを見下ろし、ブーンは冷静に言う。

( ^ω^)「もし僕がかつてのままの限界突破で挑めば、きっと今の立場は逆転してたお」

(;ФωФ)「だから、あの……形にした……?」

( ^ω^)「武器としての性能を変えられるのが、指輪の強みだと思うお。
      そして本気を求めれば、指輪は絶対に応えてくれる」

(;ФωФ)「厄介なモンを……クルトの野郎め……」

再度、意識が闇へ落ちる。
が、ロマネスクの超人的な精神力が踏みとどまることに成功させた。
片膝をつき、苦痛の中で荒れる呼吸を整えようとする。

(;ФωФ)「ハァ……武器に意思なんざ仕込んでたのは……ハァ、そういう意味が、あったのかよ……」

( ^ω^)「それは……きっと、武器じゃなくて……」

言いかけたブーンは、しかし首を振って押し黙った。
そんな彼を無視し、ロマネスクは拳を包んだ黒のグローブを見つめる。

ひたすらに『強さ』を求め、自分の中にある力という力を引き出すため指輪を真似て作られた武器。
しかし『余計なモノ』と思っていた擬似精神こそが、指輪の『核』といえるものだったのだ。



103: ◆BYUt189CYA :2007/07/20(金) 19:10:05.52 ID:7i2QT9Uk0
( ФωФ)「……だったら、それすらも知らずに真似たこれじゃあ、勝てるわけねぇか……」

それは諦めの色が、そして微かな満足が混じった声。

目の前に立っている少年は、自分よりも遥か格下である。
本来ならば怒り狂うはずなのだが、そういった思いは湧き上がってこなかった。
これもやはり、平行存在という『自分』に負けたからと――

( ^ω^)「今回は、だお」

( ФωФ)「……は?」

何を言うかと思えば、ブーンは妙なことを口にした。

( ^ω^)「次はどうなるか解らないお。
     もしかしたら、お前がまた勝つかもしれないお」

( ФωФ)「はン、馬鹿かテメェは……」

また戦おうとでも思っているのだろうか。
しかしそんな甘い意思を、ロマネスクは受け入れることなど出来ない。
心の底から、ブーンとは異なる思考を持っているが故に。



106: ◆BYUt189CYA :2007/07/20(金) 19:11:25.71 ID:7i2QT9Uk0
深かった喘息が、段々と整えられていく。

( ФωФ)「……んなモンどうでもいいから、さっさと答えを聞かせろ」

(;^ω^)「どうでもいいって……まぁいいお」

軽い深呼吸。
戦闘で淀んだ空気を完全に吐き出し、新鮮なそれを吸い込む。
意識を意図的に切り替え、ブーンは改めて思考を巡らせた。

――テメェは一体何なんだ。

概念的な問い掛けである。
存在自体を問うているようで、しかし異なるような多面性を持っている。

難しいな、と素直に思った。

しかし答えは持っている。
ロマネスクと自分の関係に、薄々ではあるが気付いた時に閃いたのだ。

その答えは一番近く、そして最も遠いところにあった。

( ^ω^)「――僕は、『内藤ホライゾン』だお」

( ФωФ)「…………」



107: ◆BYUt189CYA :2007/07/20(金) 19:12:43.59 ID:7i2QT9Uk0
( ^ω^)「お前が言うような、一般人でも非日常者でも何でもないお」

( ФωФ)「……それは、どんな内藤ホライゾンなんだ?」

( ^ω^)「この先で『内藤ホライゾン』がどんな愚かな選択をしたとしても、どんなに無様な逃げ方をしたとしても。
     決して見捨てず、その先から目を逸らさない存在……それが『内藤ホライゾン』という本気の僕だお」

答えを聞いたロマネスクは沈黙を発する。
受けた言葉を吟味するかのように目を瞑り、そしてしばらくして言った。

( ФωФ)「そうかよ」

納得したのか、それとも落胆したのか。
先ほどとは打って変わったひどく落ち着いた声を出す。

( ФωФ)「……なら、」

( ^ω^)「お?」

( ФωФ)「気にすんな」



110: ◆BYUt189CYA :2007/07/20(金) 19:14:41.84 ID:7i2QT9Uk0
軽く手を振り、そして目つきが鋭くなる。

( ФωФ)「――さて、御喋りの時間もお仕舞いか」

その言葉はブーンへ投げかけられたものではない。
背後、この空間への出入り口である鉄扉だ。
その扉が、音を立てて開いた。

( ^ω^)「お? 渡辺さ――」

入ってきたと予想した人物の名を言いかけ、その音は途切れる。

「動くな!」

ブーツがコンクリートの床を叩く音。
それが多数。
雪崩れ込むように入ってきたのは、戦闘服に身を包んだ兵士達だった。
横一列に並び、隙なくこちらに銃器を向けてくる。

(;^ω^)「え? え?」

一体何事か。
自分を嵌めるためのロマネスクの罠か。

( ФωФ)「…………」

彼も黙って兵士達を睨んでいる辺り、そうではないらしい。



112: ◆BYUt189CYA :2007/07/20(金) 19:16:25.57 ID:7i2QT9Uk0
(;^ω^)「あの戦闘服は……」

黒を基調とし、機能を重視した重厚な服装。
その胸と肩には特徴的なエンブレムが貼り付けられていた。
地球を剣が串刺しにしているような絵柄は

(;^ω^)「世界運営政府、なのかお?」

テレビで何度か見たことがある。
あれは世界政府軍の戦闘服だ。
現状、ロマネスク達と手を組んでいたと思われていたのだが――

『だが、それにしては様子がおかしいぞ』

クレティウスも不穏な空気に気付いたらしい。
彼らはブーンだけでなく、ロマネスクにも警戒の念を向けているのだ。

(;^ω^)「どういうことだお?
     話によれば、お前達は手を組んでたはずだお……」

( ФωФ)「……ああいうことさ」

疑問を放つブーンに、ロマネスクは顎で出入り口の方を指した。
現われたのは

( ̄ー ̄)「初めまして、そして御久しぶりですね」

(;^ω^)「!」



116: ◆BYUt189CYA :2007/07/20(金) 19:18:04.18 ID:7i2QT9Uk0
イクヨリが現れた。
世界運営政府の最高権力者。
第三次世界大戦でバラバラになった大国をまとめあげた、カリスマ的存在だ。

『別に驚くことじゃない。
 都市ニューソクを根城にしていた連合軍を「都市閉鎖」で手助けしたのは世界政府だ。
 ここに奴が現れることは不思議ではない……が』

何故、今というタイミングで。

( ФωФ)「ハメられたんだよ、俺ら――いや、俺は」

背後でロマネスクが吐き捨てるように言った。

(;^ω^)「それってどういう――」

( ̄ー ̄)「ハメた、とは失礼な言い方ですね」

笑みを崩さず、イクヨリは丁寧な言葉で

( ̄ー ̄)「私は元々からこのつもりでしたよ」

言葉と同時、彼の背後から人影が現れた。
周囲の人間に対して身長の低い、黒衣を羽織った、

( <●><●>)「…………」

(;^ω^)「お、お前は!?」



119: ◆BYUt189CYA :2007/07/20(金) 19:19:23.85 ID:7i2QT9Uk0
秩序守護者の一人だ。
ブーン達を都市ニューソクへ送り込んだ張本人。
この世界の秩序を守るために動く『超越者』。

『そうか……そういうことか』

クレティウスの納得した吐息が聞こえる。

『どうにもおかしいと思っていたが、お前達……いつから組んでいた?』

( ̄ー ̄)「最初からですよ」

隠す様子もなく、きっぱりと言い放つ。

( ̄ー ̄)「『この世界を守る』というのが私の目的であり、『この世界の秩序を守る』が彼らの目的でしたから
      元々から利害が一致していたんですよ」

(;^ω^)「じゃあ、ロマネスク達に協力をしたのは――」

( ̄ー ̄)「この状況を作り出すためです。
      秩序を壊し、この世界へ異獣を誘おうとしていた連合軍を瓦解させるには
      この方法が手っ取り早いんですよ」

『FCと連合軍を潰し合わせ、トドメを秩序守護者と世界政府が刺す……漁夫の利というものか』

( ̄ー ̄)「まぁ、このようにFC側が優勢になるとは思いませんでしたけどね」



122: ◆BYUt189CYA :2007/07/20(金) 19:20:44.98 ID:7i2QT9Uk0
( ФωФ)「…………」

悠々と語るイクヨリを、ロマネスクは冷たい目で睨んだ。

( ̄ー ̄)「貴方は途中から解っていたようですね?」

( ФωФ)「あぁ……コイツらが出現して迎撃出した時におかしいと思った。
       外周部を警備していたはずのテメェら世界政府軍が、何も反応しなかったんでな」

( ̄ー ̄)「しかしそれが解っていても逃げることが出来なかった……外周部を我々が固めていたのですからね」

(;^ω^)(だからなのかお……)

ロマネスクが発していた違和感。
諦めていたような空気を感じていたが、その通りだった。
自分達がハメられ、そして逃げることが出来ないのも解っていたのだ。

( ̄ー ̄)「これでFCと連合軍というテロリストは潰え――」

( ФωФ)「――だがなぁ」

冷たい声が聞こえた。
弱々しさを見せていた色が、一気に氷点下まで落ち込む。

( ̄ー ̄)「!」

イクヨリが軽く目を見開いた。
その視線を追うように、ブーンは背後へと振り返る。



124: ◆BYUt189CYA :2007/07/20(金) 19:22:44.13 ID:7i2QT9Uk0
( ФωФ)「悪いが、ただ何もせずに終わるのは俺の性分に合わねぇんだ……!」

ロマネスクが、いつの間にかコンソールの前にいた。
言葉を吐く間にも腕が動き回り、機械を素早く操作する。
イクヨリが命令を出す前にメインモニターに異変が起きた。

『Magic World』、と。

( ̄ー ̄)「今ここで接続させる気ですか!」

(#ФωФ)「テメェらの望んだ結果で終わらせるかってんだよ!」

状況を理解した何人かの兵士が、ロマネスクを止めるために身を飛ばす。
しかしそれが届く前に甲高い音が響いた。
同時、メインモニターに映る画面の色が変わる。

それは、接続完了の証だった。

( ̄ー ̄)「……やってくれますね。
      しかしこの世界の秩序を破壊するには、最終段階の――」

(#ФωФ)「クハハ……!
       この程度で終わったと思えるから、テメェらは平和ボケなんて言われるんだぜ……!」

コンソールを叩く腕が止まらない。
魔法世界との接続をこなしつつ、同時進行でもう一つの命令を実行させようとしていた。
画面の隅の方に、小さな表示が生まれる。

『最終接続開始』、と。



125: ◆BYUt189CYA :2007/07/20(金) 19:24:14.54 ID:7i2QT9Uk0
(; ̄ー ̄)「既に純正ルイルの接続を終えている……!?
       いけない!」

ここにきて、イクヨリが初めて焦りの声を発した。
既に兵士達がロマネスクを止めるために走っているが、果たして間に合うか。

(;^ω^)「お……」

その兵士に追い抜かれ、ブーンはその結果を視界に収めようとする。

連合軍と世界運営政府。
元よりどちらも味方とは言えない。
そのどちらにも加担することなく、事の行方を見据える。

(#ФωФ)「はン、これで俺の勝t――」

言葉は途切れる。
それに被さり、バケツの中身をぶちまけるかのような水音が響いた。

同時、その場にいた全員が表情を固めてロマネスクの方を見る。

正確にはロマネスクの背後にいる人物を、だ。



127: ◆BYUt189CYA :2007/07/20(金) 19:25:55.78 ID:7i2QT9Uk0
从' - '从「…………」

渡辺が、そこにいた。
いつの間にこの部屋へと侵入していたのだろうか。
その両手に持った白い刃をロマネスクの背中に突き刺している。
体内を通って血に染まった先端が、腹の中央から突き出されていた。

(;ФωФ)「な、んで……テメェ、が……ッ!?」

口と鼻から塊のような血反吐を垂れ流しつつ、途切れ途切れに掠れた声を出す。

その疑問の意味は理解出来た。
所属が異なれど、ロマネスクと渡辺の最終目的は『異獣殲滅』である。

この世界の秩序を完全破壊して異獣を呼び込む、という手段はそもそも渡辺の考えのはずだ。
しかし、彼女は目を瞑って首を振る。

从'ー'从「まだ、早いよ」

(;ФωФ)「ま、だ、だと……」

从'ー'从「異獣に挑むには力を一つに束ねないといけない。
      まだ混乱の渦の中にあるこの世界に異獣を呼んでしまえば――」

(;ФωФ)「だ、からテメェは、甘ぇ、んだよ……ッ。
       世、界の、意思が一つに、なる……なんぞ、ありえねぇ……!」

从'ー'从「うん、そうだね。
     私達の世界でさえも、今のように一つになり切れなかったから蹂躙されたんだよね。
     ……でもだからこそ、この世界でのチャンスを無駄になんか出来ない」



128: ◆BYUt189CYA :2007/07/20(金) 19:27:33.31 ID:7i2QT9Uk0
言いたいことを言い終わったのか、渡辺は返事を待たなかった。

突き刺した刃を上下に動かし始める。
身体の中を掻き回される激痛に声を出せないのか、ロマネスクは無言で表情を歪ませた。

从'ー'从「貴方は充分に頑張ったけど、立場と状況が悪かった。
      でも貴方の想いと土台は私が受け継ぐから、ね?」

慈悲とも残酷ともとれる言葉を残し、渡辺は白い刃を躊躇無く引き抜いた。

粒となった鮮血が舞う。

支えを失ったロマネスクは床へと身を倒した。
そのまま、もう動くことはなかった。

(;^ω^)「……ッ」

確かにロマネスクは非道だった。
彼が自分やフサギコにした仕打ちは、決して忘れることなど出来ない。
しかし

(#^ω^)「……何か胸の中がムカムカするお」

『どうにも、な』



131: ◆BYUt189CYA :2007/07/20(金) 19:29:11.89 ID:7i2QT9Uk0
探るような視線を向けるブーンを無視し、渡辺はイクヨリ達へと目を向ける。
それと時を同じくして、彼女の背後に貞子が姿を現した。
足を止めていた兵士らが一斉に銃器を構える。
しかし、渡辺はアッサリと

从'ー'从「降参だよ。 出来れば命だけでも保証して欲しいなぁ」

両腕を軽く掲げつつ、意外な言葉を口にした。

( ̄ー ̄)「……何を考えているのかは知りませんが、随分と勝手な言い方ですね」

从'ー'从「今の戦力で切り抜けられるとは思わないしね。
      内藤君もそうでしょ?」

(;^ω^)「え、あ、た、多分……」

从'ー'从「そうだよね?」

(;^ω^)「……は、はいですお」

無意識に返事を飛ばし、ブーンは慌てて目をこすった。

渡辺の顔には、いつもの表情が張り付いている。
眉尻を微かに下げ、口元には小さな笑みが浮かんでいる。

だからこそ解らない。
今この身を一瞬で包み込んだ、圧倒的な威圧感の正体が。



132: ◆BYUt189CYA :2007/07/20(金) 19:30:22.88 ID:7i2QT9Uk0
と、そこで思う。

(;^ω^)(ロマネスク……)

世界政府の兵に両脇を固められつつ、後ろ髪を引かれるような思いで背後を見た。
そして目を見開く。

見えたのは血溜まり。
本来あるべき死体が無くなっている。
まだ誰も気付いていないのか、ざわめきは今のところ聞こえない。

(;^ω^)(何で……!?)

兵士に背中を小突かれ、その部屋から退出させられる。

結局、何処かの施設へ送られるまで、ロマネスクの死体がどうなったのかは解らず仕舞いだった。



133: ◆BYUt189CYA :2007/07/20(金) 19:31:43.76 ID:7i2QT9Uk0
暗闇がある。
壁や天井はおろか、床さえも見えない闇の空間がある。
しかしそこに立つ二つの存在は、まるで光を当てられているかのように浮かび上がっていた。

メ(リ゚ ー゚ノリ「良い素材を得れたな、姉貴」

ル(i|゚ ー゚ノリ「これが本当の漁夫の利だよ、兄上」

男女がいる。
青髪の女と、赤髪の男。
二人は足元へ視線を落としつつ、満足そうな笑みを浮かべている。

そこにあるのは二つの物体。
四肢があり、頭があり――それは『人間』と呼ばれるモノだった。

その一つは、ガッシリとした肉体を持っていた。
黒コートを羽織ってはいるが、その中心部からは赤黒い液体が溢れ出ている。
その両目には縦傷が刻まれており、しかし呼吸の微動さえしない。

もう一つは、華奢な肉体を持っていた。
薄い布のような服を纏い、その細長く透き通った四肢を投げ出している。
その綺麗な手足に対して、頭部には当然のように綺麗な金色の髪が存在していた。

二つの人間を見下ろし、二人は笑った。

「「ふふ――ははははは――」」

微笑ではなく、声を発しての笑い。
無音といえる暗闇の中に、その歓喜の声は高らかに響き続けた。



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