( ^ω^)ブーンと川 ゚ -゚)クーは抗い護るようです

6: ◆BYUt189CYA :2007/07/21(土) 19:34:01.35 ID:7MWIIgEv0



活動グループ別現状一覧



    全員不明



9: ◆BYUt189CYA :2007/07/21(土) 19:35:37.14 ID:7MWIIgEv0
魔法世界編
第二十七話 『EMA』

「くそっ……」

これで何度目になろうか。
その男は忌々しげな空気を溜息として吐き出した。
同時に、白い息が口から漏れる。

もう少しだった。
やっとのことで追い詰め、そしてあと一歩踏み込むだけで良かった。
そうするだけで自分の抱える問題が全て無くなるはずだった。

しかし、それは為されなかった。

男は歯噛みし、またその時を脳裏に思い浮かべる。
人生の中で最も記憶の中に焼き付いた時間を。

突如として起きた周囲の異常に、何事かと驚いた一瞬。
その瞬間に周囲の景色が変わった。
太陽が発する燃えるような暑さが消え失せ、真逆の極寒地に放り出されたのだ。

無論、倒せるはずだった敵も同じように消えてしまうこととなった。



14: ◆BYUt189CYA :2007/07/21(土) 19:37:28.46 ID:7MWIIgEv0
「……くそっ」

その時に受けた圧倒的な後悔と自己嫌悪に対し、彼はまた忌々しげに溜息を吐く。

あれからどの程度の時間が経ったのか。
三日以上、一週間以内といったところだろうか。
その間に何も口にしていない身体は。既に限界を迎えている。

彼は機械に囲まれていた。
両腕は備え付けられたレバーを握り、目の前には光を発するコンソールがある。
その上には、外の景色を映し出しているウインドウだ。

映像はたった二色で構成されていた。
黒い空に、小さな白い粒が乱れ飛んでいる。

いわゆる『吹雪』という光景を映し出していた。

彼は機械に囲まれている。
そしてその機械の外観は『人』の姿をしていた。

赤色の鎧を着込んだかのようにも見えるそれは、人の形をした兵器である。

背部から青白い光を撒き散らし、全長十メートルを超える鉄の巨人は低空を飛んでいた。



17: ◆BYUt189CYA :2007/07/21(土) 19:40:09.06 ID:7MWIIgEv0
「……限界か」

そんな人型兵器のコックピット内。
不調を知らせる電子音を耳に入れつつ、男は静かに呟いた。
動力である魔法石の中にある魔力が枯渇したのだ。

ウインドウに映る景色の速度が、徐々に削られていく。

「反応はない……な」

横にあるサブウインドウには、レーダーのような画面が映し出されていた。
しかし相変わらずというか、その画面に反応はない。
ただ延々と記された線が明滅しているのみだ。

人が住んでいるような場所があれば、必ず魔力が存在するはず。
魔力を感知するレーダーに何も反応がないということは、今ここで外に出ても助からないということである。
そう思い飛び続けたのだが、結局何も見つけることなく時間が来てしまった。

諦めの息が出そうになり、しかし無理矢理に飲み込む。
彼の戦士としての誇りがさせなかった。



18: ◆BYUt189CYA :2007/07/21(土) 19:41:46.05 ID:7MWIIgEv0
その厳しい視線は僅かにウインドウを外れ、コンソールの端へ向けられる。

文字があった。
金属で構成された枠に文字が刻まれていた。
それは『こちらの世界』の言葉で、こういう意味を表している。

――EMA−02『ウルグルフ』、と。

それを視界に収めた瞬間、タイミングを合わせたかのように速度がゼロとなる。
機体全体が軽く揺れ、動いていた景色は完全にストップ。

墜落気味に着陸したのだ。
既に低空飛行を続けていたため衝撃は少ない。
どちらにせよ待つのは死なのだが、彼の身体は無意識に生を望んでいるらしかった。

とはいえ、そもそも戦闘用に作られた機体である。
この程度の衝撃に壊れたり、内部の人間に害を与えるようでは兵器として運用されないだろう。

長い間、己の剣となり鎧となってくれていた赤い鉄の巨人に対し、彼は少しばかりの笑みを浮かべた。

レバーから離した手でコンソールを弾く。
空気の抜ける音と共に、周囲の機械が割れるように開いた。
刺すような冷気がコックピット内に侵入してくる。

しかしそれを無視し、男は機体の外へ這うようにして脱出。
そのまま積もった雪の上に転がり落ちた。



19: ◆BYUt189CYA :2007/07/21(土) 19:44:05.57 ID:7MWIIgEv0
わざとでもなく、滑ったのでもない。
もはや自分の身体さえも支えられないほどに、彼は疲労していたのだ。

(メ _凵j「……寒いな」

極寒の吹雪の中、当然のことを呟く。

周囲に見えるのは雪に塗れた木々。
空は黒一色で、細かい雪が暴風を表すかのように荒れ狂っている。
もはや、ここからの生存は絶望的といえた。

助からぬことを悟った彼は、冷たくなっていく右腕を軽く掲げる。
震える唇を動かし、誰に語りかけるでもなく小さな言葉を吐いた。

(メ _凵j「隊長、申し訳ありません……私はここまでのようです……」

呟きの後、男の意識は闇へと落ちていった。



そんな一連の展開を見つめる影がある。
木々の陰で、まるで覗き見にするような姿勢だ。
分厚い防寒具を着込んだ彼は、ゆっくりとした動作で通信機を取り出しつつ

( ´,_ゝ`)「……露骨な生存フラグに遭遇した件」

と、苦笑(?)混じりに呟いた。



21: ◆BYUt189CYA :2007/07/21(土) 19:47:29.81 ID:7MWIIgEv0
午前六時。
都市ニューソクの小さな住宅街。
そこに、彼の暮らすアパートがある。

その建物の前で、朝日を浴びながら背伸びをする男が一人。

( ´∀`)「今日もいい天気だモナー」

歳は二十代後半といったところだろうか。
彼の名はモナーといい、高校時代のブーンやドクオの担任をしていた男だ。
担当教科は国語で、部活は空手部を顧問としている。

現在、彼は無期限休暇の真っ最中。
都市閉鎖命令は解除されたものの、まだ都市全ての機能は復活していないが故のラッキー休暇だ。

仕事が無いわけではないが、日常に比べても時間が随分と余っている。
普段からの日課である散歩を早朝に持ってきているようで、朝独特の清々しい空気を肺に取り入れていた。



25: ◆BYUt189CYA :2007/07/21(土) 19:49:46.26 ID:7MWIIgEv0
( ´∀`)「いやぁ、都市閉鎖なんて物騒なのが発令された時はどうなるかと思ってたけど
      何とか治まったようで良かったモナ」

FCという軍事会社がテロリスト養成所だと判明し
世界運営政府によって潰されてから、既に一ヶ月が経過していた。

同じ高校の先輩であるモララーが、その会社の社長であり
更には指名手配されているというニュースを聞いた時には、流石のモナーも驚いた。

しかし今では、あの先輩のことなので飄々とやっていることだろう、と納得している。

高校時代の彼は聡明で、いわゆる天才だった。
何処か抜けているモナーの良き先輩でもあった。
多少思考がぶっ飛んでいる感もあったが、常識面では完璧だったと記憶している。

(;´∀`)「そのモララー先輩が犯罪を犯すなんて……。
     そういうことはしない人だと思ってたんだけどモナ……」

そういえば、彼の性格が大きく変化した時期があった。

確か、モララーと同じクラスの女の子が事件に巻き込まれて死亡した、というニュースがあった翌日からだったはず。

物静かで表情をあまり見せなかった彼が
よく笑うようになり、そして毛嫌いしていたはずの煙草を始めた。

親友と言えたはずのプギャーと疎遠になったのも、同じ時期だったか。



26: ◆BYUt189CYA :2007/07/21(土) 19:51:37.02 ID:7MWIIgEv0
何かあったのだろうな、と思う。

今でもその内容は知らない。
しかし確実に何かがあったはずで、それを境目にモララーは変わった。

少し遠い過去を思い返しながら歩く。
朝の湿気た空気が心地よかった。
いつもの散歩コースである小さな公園へと入る。

( ´∀`)「モナ?」

と、そこで気付いた。
公園に入った瞬間、視界内に違和感を覚える。

――いつもと違う。

漠然とそう思うも、何が違うのかは解らない。
ただ『異なる』という事実だけを知覚出来る。

( ´∀`)「?」

よく解らないが、とりあえず公園内へ。
横断するように中央を歩き、もう一つの出入り口へと向かう。

その途中にあるベンチで一息するのが楽しみの一つであった。



28: ◆BYUt189CYA :2007/07/21(土) 19:52:55.76 ID:7MWIIgEv0
古びた木製ベンチへ腰掛ける。
ここから見える景色はモナーのお気に入りだ。

( ´∀`)「ふぃー」

一息吐き、周囲を見渡す。
特におかしいと思えるモノは見当たらない。

( ´∀`)「やっぱり違和感なんて錯覚だったんだモナ」

うんうん、と自分を納得させるように頷く。

と、その時。

まず聞こえたのは葉が擦れる音。
それは一度だけ微かに聞こえた後、まるで命を持ったかのように蠢き始めた。
何処からなのかと慌てて首を動かした瞬間

(;´∀`)「モギャ!?」

頭頂部に硬い何かが激突した。
それは重力に従って、モナーの背後へと落ちる。

(;´∀`)「な、な、何だモナ!? テロかモナ!?」



31: ◆BYUt189CYA :2007/07/21(土) 19:54:15.45 ID:7MWIIgEv0
落ちてきたそれは、爆弾などの類ではなかった。

(;´∀`)「……刀?」

落ちていたのは一振りの刀。
紺色の鞘に収まっており、普通の日本刀に比べて長めの印象を受ける。
しかし、刀に付くべきではない要素があった。

引き金だ。

唾の真下。
構えた時、丁度右手の人差し指が引っ掛かる部分にトリガーが存在した。
普通は在り得ない要素である。
よくよく全体を見てみると、刀にしては近未来チックな様相であることに気付いた。

(;´∀`)「というか、そもそも何処から落ちてk――」

見上げる。
そこには

w´‐ _‐ノv「こっち見んな」

少女が上下逆さにぶら下がっていた。



35: ◆BYUt189CYA :2007/07/21(土) 19:56:12.35 ID:7MWIIgEv0
その華奢な身体に、枝が上手い具合に絡み付いている。
降りたくても降りられない様子だ。

(;´∀`)「……あの、そこで何を?」

w´‐ _‐ノv「君には知る資格がない」

偉そうに言ってはいるが、ぶら下がっている。

( ´∀`)「……助けましょうか?」

w´‐ _‐ノv「何だと」

む、と不機嫌な声を出すが、ぶら下がっている。

それから問答を続けること数分。
説得の意味がないと判断したモナーは、半ば強制的に少女を救出することとなった。



39: ◆BYUt189CYA :2007/07/21(土) 19:57:45.61 ID:7MWIIgEv0
古びたアパート。
モナーが日々の寝食をこなす一室に、今日は客人が来ている。
久々の、そして初対面な客にとりあえず茶を出す。

( ´∀`)「えーっと……どうぞモナ」

lw´‐ _‐ノv「くるしゅうない」

と、初っ端から奇妙な発言をする少女。
小さなテーブルを挟み、モナーと睨み合うような形で茶に手を掛けた。
左手で持ち、右手を添えて一口飲み

lw´‐ _‐ノv「少し硬いな」

(;´∀`)「そ、そうですかモナ」

変わった子だな、と思う。
教師になって十年ほどになるが、このような少女と接するのは初めてだった。

歳は若過ぎることもなく、大人とまではいかない中途半端な幼さを持っている。
中学生と言っても納得出来るだろうし、高校卒業していると言っても頷けるだろう。

黙っていれば可愛いのに、しかし言うこと為すことに『?』が付いてしまう不思議な子だった。



43: ◆BYUt189CYA :2007/07/21(土) 19:59:59.56 ID:7MWIIgEv0
lw´‐ _‐ノv「……で、私を拉致して何をするつもり?」

(;´∀`)「君が僕の家に行きたいって言ったモナよ」

lw´‐ _‐ノv「ははぁん、成程」

何かに納得しつつ、彼女はキョロキョロと周囲を見渡す。
モナーは、とりあえず自己紹介から始めることにした。

( ´∀`)「僕の名前はモナーだモナ。 君は?」

lw´‐ _‐ノv「私はシュー。
       解り易く言うと、アベリメス=ミッゾシューベルノ=ダルシェイナのシューだ」

意味が解らない。
喉元まで出掛かったその言葉を無理矢理に飲み込む。
人間関係にしろ何にしろ、何事も否定から入っては続かないのだ。

( ´∀`)「へぇ……じゃあ僕は、エゾールト=エルモナーリのモナーだモナ、あはは」

lw´‐ _‐ノv「何それ気持ち悪い」

頭をハンマーで殴られたかのような衝撃が走った、ような気がした。

強烈なカウンター。
ちょっぴり涙が出てきたのは内緒。
モナー先生との約束だ。



47: ◆BYUt189CYA :2007/07/21(土) 20:01:53.69 ID:7MWIIgEv0
(;´∀`)「え、えっと……君の家は何処モナ?
      僕が送って行こうモナ?」

lw´‐ _‐ノv「…………」

返事はない。
両手で湯飲みを握ったまま、シューがこちらを睨む。
探るような目つきに対し、モナーは負けじと見つめ返す。

lw´‐ _‐ノv「……私は」

根負けしたのか、シューの固い口が開きかけたとき

くぅ。

文字にしてこのような間抜けな音が響いた。
それは人間が空腹を訴える時に鳴らすはずで、モナーは別に空腹感は感じていない。
ということは

( ´∀`)「……お腹、空いたモナ?」

lw´‐ _‐ノv「…………」



50: ◆BYUt189CYA :2007/07/21(土) 20:03:13.98 ID:7MWIIgEv0
lw´‐ _‐ノv「…………チッ」

無言で、こくん、と。
ここで頬を赤く染めれば可愛いものを、彼女はまったくの無表情で頷いた。

しかし逆にそれが愛らしく見えてしまい、モナーはついつい頬を緩める。
そこで自分の感情に気付いた。

(;´∀`)(――はっ! 年端もいかない少女に何て劣情を!)

lw´‐ _‐ノv「?」

(;´∀`)「ロリコン退散ロリコン退散……!!」

ぶつぶつと呟くモナーを見て、シューが訝しげに首を捻った。



53: ◆BYUt189CYA :2007/07/21(土) 20:06:36.34 ID:7MWIIgEv0
[゚д゚]「すっげぇなぁ……」

赤色の人型兵器を格納庫へ搬入した直後、ここの責任者を命じられていたデフラグは感心の色を籠めた息を吐いた。
巨人を見上げた目は爛々と輝き、しかし口は半開きという何とも情けない表情である。

(´<_` )「これがアンタの言ってたエマってやつか」

その隣で、同じように見上げていた弟者が問う。

[゚д゚]「あぁ、そうだろうよ。
    しかしたまんねぇなぁ……やっぱ人型機動兵器には男のロマンが溢れてるぜ」

(´<_` )「一応、FCにもあるんだがな」

[゚д゚]「あれは駄目だろう……バランスとか動力とか関節とか(中略)とか、問題がありすぎる。
     一から作り直した方が早いくらいだ。
     しかもカーナビとか付けてやがるし……ホント、お前ンとこの社長は馬鹿だよな」

(´<_`;)「モララーさんが聞いたら泣く……わけないか。 むしろ喜びそうだ」

本人がいないことを良いことに、二人は口々に言う。



55: ◆BYUt189CYA :2007/07/21(土) 20:08:04.69 ID:7MWIIgEv0
今、FC残党は目立った活動を停止していた。
各地に情報収集を役目とする兵を送っている他は、全員がこの建物の中にいる。

一ヶ月。
それほどの月日が経てば、様々な情報が入ってくるものだ。

まずFCの存在。
世界運営政府によって『テロリスト』と断定されてしまっている。
しかも御丁寧に世界指名手配までされるという始末だ。

都市ニューソクを閉鎖したのも、FC本社に攻撃を仕掛けたのも、テロリスト殲滅のためだというのが向こうの言い分である。
発言力に天地の差がある限りは、こちらが何を言っても無駄だろう。

つまり世界の認識は、『FC=悪の組織』となってしまっているのであった。

ブーン達は未だに行方が知れない。
ただ状況から考えるに、世界政府によって身柄を拘束されている可能性が高かった。
つまり現状、彼らを救い出すために動いていると言っても過言ではない。

しかし表立っては動けない。
今やFCは悪の組織と成り下がっているために、他からの援助がほとんど期待出来ないのだ。

それとは別に、FC主力部隊が世界運営政府に捕らわれているという要素もある。
戦闘を主とした起こせないというわけだ。



56: ◆BYUt189CYA :2007/07/21(土) 20:09:48.76 ID:7MWIIgEv0
そんな息苦しい状況下において、FC残党はのん気にこう思っている。

――ま、根気良く伏しておくかな、と。

モララーが忙しなく動いているので、近々何かがあるのだろうと予見しているのだ。
今出来ること――整備や鍛錬――を黙々とこなすのみである。

(´<_` )「……で、これをどうするんだ?」

[゚д゚]「すぐさまイジりてぇんだが搭乗者が生きてたんだろ?
    なら、そいつの意見を尊重しねぇとならん」

(´<_` )「アンタそういうトコは無駄に紳士なんだよなぁ。
      ってことは……まだ意識不明らしいから起きるまで保留ってわけか」

ところで、と弟者は話を切り替える。

(´<_` )「これがEMAだっていうんなら――」

[゚д゚]「あぁ、魔法世界とも繋がっちまった証拠だな」



58: ◆BYUt189CYA :2007/07/21(土) 20:11:35.29 ID:7MWIIgEv0
(´<_` )「……あの都市ニューソクでの一件だろうか」

一ヶ月前にもなる戦いを思い出す。
FCに残っていたメンバーは、こうして無事に逃げることが出来たのだが
都市ニューソクへ送られてしまったブーン達は行方不明のままだ。

確かなのは、その件を境にロマネスク達の活動がストップしたという点。
そして世界政府が発した『FC=テロリスト』という情報が、世界に浸透してしまったという点。

(´<_` )(やっぱりモララーさんは先見の明があるなぁ)

武力は権力に勝てない。
つまり武力を主とするFCは、権力を主とする世界政府に勝てない。

それを見越した上で、モララーは手遅れになる前に『逃亡』という判断を下したのだろう。



60: ◆BYUt189CYA :2007/07/21(土) 20:13:32.88 ID:7MWIIgEv0
今、弟者達はJAPANにはいない。

それよりも遥か北。
ロシア北部の、ある建物に潜伏しているのである。

外見は古城に近く、そして城と呼べるほどに巨大だ。
しかし内部は近代技術を盛り込んだ要塞である。
地下には巨大な格納庫も存在し、デフラグと弟者がいるのもそこだ。

[゚д゚]「しかしまぁ、一体どんな経緯でここに潜伏出来るようになったんだろうなぁ」

もう何度も思った疑問を、デフラグが漏らした。

(´<_` )「何度も言うけど、『さぁ?』」

この建物は誰のモノなのか、などといった情報は今でも解らない。
しかも全てを一手に受け持っていたはずのモララーは、しばらくその姿を見せていない。

疑問に思うのは当然である。

しかし全員分の飯はしっかり出るし、今のところ誰かが消えたなどという報告もない。

それだけではなく、建物内の設備は全て勝手に使用しても良いことになっている。
世界中の情報を集められるだけの機器は整っているし、何か注文すれば大抵のモノはすぐに手元に届いてしまう。

このようなまったく文句の出ようもない生活を一ヶ月も続けていたため
流石に当初の疑問など、すっかり脳の隅っこに追いやられてしまっていた。



61: ◆BYUt189CYA :2007/07/21(土) 20:15:23.35 ID:7MWIIgEv0
(´<_` )「とはいっても、未だに警戒心を持ち続ける猛者が何人かいるんだけど」

(`・ω・´)「それは俺のことか」

(´<_` )「わぉ」

いつの間にか、背後にシャキンがいた。
着ている作業服が汚れているところを見るに、戦闘機の整備でもしていたのだろう。

(`・ω・´)「これが発見された人型兵器……EMA、か」

機械で構成された同じような兵器に乗る彼は、やはりEMAに興味を持っているようだ。

(`・ω・´)「動力は?」

[゚д゚]「お前さん達のGIFと同じくルイルだろうよ。
     今は内在魔力が枯渇しているっぽいけどな。
     ……ただ、それだけで戦闘挙動を可能とするとは思えん」

(´<_` )「どういうこった?」



64: ◆BYUt189CYA :2007/07/21(土) 20:17:14.11 ID:7MWIIgEv0
[゚д゚]「戦闘機であるGIFの仕組みは意外と簡単だ。
    何せルイルの魔力は、『機体を浮かせる』と『機体を飛ばす』という動作にしか使われん」

浮力操作とブースターのことを言っているのだろう。
最悪、その二つさえ動けばGIFを飛ばすことは出来る。

[゚д゚]「だがEMAってのは見た通り人型だ。
    GIFに比べて、動かすべき部位が圧倒的に多いってのは解るだろ?」

(´<_` )「首、肩、肘、手首、指、腹部、股関節、膝、足首……あー、まだまだありそうだな」

(`・ω・´)「それをルイルだけでまかなうのは不可能、だということか」

[゚д゚]「よほどデカいルイルを積んでるのか……俺としては、アレが怪しいとは思うが」

デフラグが指差す先には、EMAの関節部があった。

[゚д゚]「例えば肘部の裏側を見てみろ。
    あそこに妙なモンが付いてんだろ」

長方形のボックスが接続されていた。
見た限り弾装のようにも見えるそれは、肘部だけでなく各関節にも装填されている。
それを見たシャキンは、神妙な顔つきで答えを出した。

(`・ω・´)「……まさか、マジックカートリッジか?」

[゚д゚]「しかも超巨大なタイプな」



66: ◆BYUt189CYA :2007/07/21(土) 20:19:09.56 ID:7MWIIgEv0
マジックカートリッジ――空中に霧散している極小の粒子である『魔粒子』を集めて封じた、拳銃でいう薬莢だ。
弟者の知るマジックカートリッジは、乾電池ほどの大きさの筒であったのだが

[゚д゚]「これだけデカいタイプは初めて見るな。
    一機動かすだけでどれほどの魔力が必要なのやら……想像がつかねぇ」

デフラグの言から判断して、それは規格外の大きさであるらしい。

(`・ω・´)「だが、この世界には魔力が存在しないぞ。
      これを修理整備して動かすとなると……どうやって魔力を調達するつもりだ?」

[゚д゚]「そこが一番の問題だ」

以前にも、魔力が足りないという問題に直面したことがあった。
その時には兄者の持つ4th−W内の魔力を用いて解決したのだが、代わりとして4th−Wは機能を失った。
ただ、指輪もかなりの戦力であることは事実なので、そう簡単に犠牲とすることは出来ない。

[゚д゚]「そして、当面の課題だろうよ」

言葉と共にデフラグはその場を去っていき、シャキンも同じように自らの作業へと移っていく。

(´<_` )「……EMA、か」

機械世界の戦闘機は形として見慣れていた。
英雄世界の英雄は理解の範疇を超えていた。
しかし今、この世界では決して見ることの出来ない物体が目の前にある。

(´<_`*)「こういうの見ると、異世界の存在を改めて実感するよなぁ」

妙に嬉しそうな口調で、弟者はしみじみとEMAを眺め続けていた。



67: ◆BYUt189CYA :2007/07/21(土) 20:21:12.10 ID:7MWIIgEv0
潜伏する古城は巨大だった。
隠れるにしては目立ち過ぎるほどに、だ。

しかし潜伏開始から一ヶ月経とうとしているのに、血眼になって探しているであろう世界政府には見つかっていない。

目立つ存在でありながら、この城は目立たないのだ。

その理由として、ここが極寒の地であることが挙げられる。
年中常に雪に閉ざされたこの地にとって、雪の降らない日の方が珍しい。
ここは、自然のバリケードを持っているが故に安全だといえた。

それだけでは説明の出来ない謎もあるのだが。


(,,゚Д゚)「……ふぅ」

肺に溜まった熱い息を吐き、ギコは休憩の意思を見せる。

ここは訓練室の一角だ。
ただ武器を振り回すのに適している、障害物も何もない空間である。

様々な疑問や雑念が押し寄せる今、ギコはそれらを振り払うかのように一日の大半をここで過ごしていた。



68: ◆BYUt189CYA :2007/07/21(土) 20:23:12.37 ID:7MWIIgEv0
(*゚ー゚)「お疲れ様、ギコ君」

打ち込みの気配が消えたのを敏感に感じ取り、休憩スペースにいたしぃがタオルを持ってくる。
その様子を嬉しさ半分、申し訳なさ半分で見るギコ。

(,,゚Д゚)「今更だが付き合う必要はないぞ、しぃ。
    何か動きがあるまで、俺はこの毎日の鬱憤晴らしを止めるつもりはない」

訓練ではなく、敢えて鬱憤晴らしと言ってみるが

(*゚ー゚)「私が好きでやってるから気にしないでいいよ」

しかし、彼女は純粋なまでの笑顔でそう答えてきた。
勝てないなと心の奥で感じつつ、ギコは溜息を吐く。

(,,゚Д゚)「……見ていてもつまらんだろうに」

確かに面白いものではない。
延々と己の武器を振り回すだけだ。
軍神や英雄といった武の境地にいる彼らの演舞ならば、見応え満点のはずだろうが。



71: ◆BYUt189CYA :2007/07/21(土) 20:24:53.27 ID:7MWIIgEv0
と、その時だ。
訓練室の更に一角の扉が開いた。

(*゚ー゚)「あ……フサギコさん?」

車椅子に腰掛けた姿で出てきたのは、フサギコだった。
その頬には幾筋かの汗が流れている。
扉のプレートには『射撃訓練室』と表記されていた。

ミ,,"Д゚彡「あぁ、こんにちは」

(,,゚Д゚)「また病室から抜け出してやっているのか」

ミ,,"Д゚彡「……黙って寝ているなんて、私には出来ませんから」

苦笑し、自力で車椅子を漕いで近付いてくる。

ミ,,"Д゚彡「とは言っても、まだ武器を振り回すことさえも出来ませんけどね。
      だから比較的簡単に出来る射撃の訓練だけでも、と思いまして。
      これでも昔から得意だったんですよ、銃器の扱い」

(,,゚Д゚)「比較的とはいえ、傷に響くだろう」

ミ,,"Д゚彡「えぇ、撃つ度に嫌な痺れが走ります」



73: ◆BYUt189CYA :2007/07/21(土) 20:26:31.53 ID:7MWIIgEv0
言葉とは裏腹に軽い調子で笑うフサギコを、二人は半目で睨むように見つめる。
その視線に気付き、彼は首を振った。

ミ,,"Д゚彡「心配には及びませんよ。
      身体を壊さない程度に休憩を入れてますから」

(,,゚Д゚)「無茶はするなと言いたいが、既にその行動自体が無茶だな。
    まぁ、医師には黙っておいてやる」

ミ,,"Д゚彡「ありがとうございます。
      ところでギコさんがここにいるってことは、いつもの……?」

(,,゚Д゚)「あぁ、訓練という名の鬱憤晴らしだ」

ミ,,"Д゚彡「成程。 何だかんだ言って私と似たような理由なんですよね」

居ても立ってもいられないのだ。
そのベクトルは異なるものの、ギコとフサギコは性質として同種の苛立ちを胸に抱えていた。



74: ◆BYUt189CYA :2007/07/21(土) 20:28:18.45 ID:7MWIIgEv0
ミ,,"Д゚彡「しかし、延々と一人で武器を振り回すのは苦痛でしょう?」

(,,゚Д゚)「お前に言われたくはないが、その通りだ。
    やらないよりはマシだがな」

ミ,,"Д゚彡「私が相手をしてあげたいのですが、流石に無理ですし……。
      他に誰か相手をしてくれる人はいないんですか?」

(,,゚Д゚)「いると思うか?」

ミ,,;"Д゚彡「……いないですねぇ」

戦闘を主としていないデフラグは論外。
流石兄弟は情報収集に掛かりっきり。
パイロットであるシャキンやエクストは、戦闘の種類が異なるので除外。
軍神は並の訓練では満足しないため、ギコなど相手にもしてくれない。
モララーは一週間ほど前から姿を見せない。
そして

(,,゚Д゚)「ミルナの奴も、今しばらくは戦えそうにないだろうしな……」

と、少し心配そうに呟いた。



75: ◆BYUt189CYA :2007/07/21(土) 20:29:59.94 ID:7MWIIgEv0
当の本人であるミルナは、白い部屋の中にいた。
ベッドと小さなテーブル以外は何もないという簡素な病室だ。

( ゚д゚ )「…………」

ノハ#- -)「――――」

FCの外で出会ったヒートは未だ意識を取り戻していない。
彼女を診たFC医療兵によれば、身体に過負荷が掛かりっ放しだったことによる神経疲労らしい。

思い当たる節はある。

彼女の特殊能力ともいえる『理性的バーサーカー』。
カウントダウンを聞くことにより発動し、一定時間だけ反応速度を飛躍的に上げる能力だ。
過去のトラウマを克服した証拠でもある。

おそらく、その能力を常時使用していたことで、肉や神経がボロボロになったのだろう。
それは彼女の戦士生命が削られていったという事実にも繋がる。

( ゚д゚ )「…………」

行方不明になってから一年もの間、ヒートに何があったのかを知ることは出来ない。
ただあるのは異獣によって干渉された彼女が、今このようになっているという事実のみだ。

そしてその証拠は、彼女が装着している仮面の下にある顔に表れている。



77: ◆BYUt189CYA :2007/07/21(土) 20:32:05.54 ID:7MWIIgEv0
今ベッドの上で眠っている彼女の顔には、それでも仮面が付けられていた。
とてもではないが直視する度胸などない。
以前の彼女の表情を知るが故に、だ。

( ゚д゚ )「何があったんだ……」

呟くが答えはない。
それを見つけるため、ミルナは過去を思い出す。

ヒートは、あの不気味な男女に怒りを向けていた。
そして聞いた言葉からして、その二人は

( ゚д゚ )「異獣、か」

その事実に辿り着くのに多少の時間を掛けてしまっていた。

人の形を持ち、しかも人と同じように行動する。
白狼の姿しか知らなかったミルナは、その新たな事実が信じられなかったのだ。

そして同時に戦慄する。

極論を言えば、この世界の誰が異獣なのか解らない。
いや、全ての生物が疑念の範疇に入ってしまう。

つまり、自分以外の全てに疑いが掛かるのだ。
今目の前で眠っているヒートも、もしかしたら――

(;゚д゚ )「……ッ」



79: ◆BYUt189CYA :2007/07/21(土) 20:33:31.19 ID:7MWIIgEv0
ありえない。
いや、ありえないと思いたい。
しかし確率的には決して低くはないだろう。

目の前にいる彼女がヒートである確証はないに等しいのだ。
異獣である二人の男女を追うようにして現れた彼女は、確かに怒りと敵意を見せていた。
だが、とそこで考える。

( ゚д゚ )(もし、それがフェイクだったとしたら……?)

充分にありえる話だ。
ヒートと再会したあの時、もはやFCの逃走は決まっていた。
つまり敵側からすれば、その逃走先を知っておきたい立場にいたとなる。

( ゚д゚ )「……まさか」

ヒートが現れたとなると、ミルナはそれを放っておくことは絶対にしない。
それを踏まえた上で彼女を送り込もうとしたのだとすれば。

――まんまと奴らの手に乗っていることになる。

( ゚д゚ )「だが……」

それでも。
そうだとしても。

( ゚д゚ )(俺に出来ることは、目の前のコイツがヒートだと信じるしか……)

嫌な予感を振り払うかのように、ミルナは強く首を振った。



80: ◆BYUt189CYA :2007/07/21(土) 20:35:52.09 ID:7MWIIgEv0
(;´∀`)「あ、あのー」

そろそろ日が落ちるかと思われる時間帯。
モナーは、前を歩くシューに追従する形で歩いていた。
周囲は見慣れた町並みから、段々と木々が生い茂る山の中へと変わっている。

(;´∀`)「一体何処へ行くんですかモナー?」

モナーの方が年上なはずなのだが、有無を言わさないシューの迫力に気圧され敬語を使う。
言葉に対し

lw´- _-ノv「……EMAがあるから」

と、意味不明なことを言うシュー。

簡単な夕飯を食べさせた後、彼女は突如として外へ飛び出した。
この時間帯に一人で出歩かせるためにもいかないため、慌ててモナーは彼女の後を追う。
それから一時間が経過している。

延々と歩き続けた結果、とうとう街の外へ出てしまったのだ。



83: ◆BYUt189CYA :2007/07/21(土) 20:37:03.58 ID:7MWIIgEv0
(;´∀`)「シュー? もうここからは危険モナよ?」

山の中は当然、明かりなどない。
唯一あるのは月の光だが、それも申し訳程度に照らすのみ。
故に夜の山を歩くほど危険な行為はないのだ。

それを知識として知っているモナーは、尚も歩き続けるシューが心配でならない。

(;´∀`)「そろそろ帰ろうモナー……って、まさか君の家って山の中に……!?」

lw´- _-ノv「まさか」

奇妙な切り返しは来なかった。
今まで見せていた雰囲気は一蹴され、妙にシリアスな空気を纏わせているシュー。
疲れなど見せない歩調で、どんどん山の中を進んでいく。

既に息を切らしかけているモナーは、その様子を見て

(;´∀`)(……もしかしなくても、かなり鍛えられてる?)

山道を歩くのは意外と重労働である。
安定しない地面を足場とするため、体力的にも精神的にも非常に疲れるのだ。

そんな道をすいすい歩いていくシューがいる。
相当な体力と足腰を持っていなければ出来ない芸当だろう。



84: ◆BYUt189CYA :2007/07/21(土) 20:38:40.79 ID:7MWIIgEv0
モナーの視線は自然と、彼女の腰に据えられた奇妙な刀へ移る。
彼女が武術を嗜んでいるのならば納得出来るからだ。
現役で空手をやっているモナーでさえもこの状況なのだから、彼女はもっと上のレベルにいることになるが。

と、彼女がふと足を止めた。
それに倣うようにモナーも身体を止める。

lw´‐ _‐ノv「……やっぱり」

そう呟くシューの視線の先には

(;´∀`)「な、何だモナ……!?」

鬱蒼と茂っているはずの木々が薙ぎ倒されていた。
真っ二つになっているものもあれば、根元から引き抜かれているものもある。
一つだけ同じなのは、全てが同一の方角に倒れているということだ。

まるで大きな物体が空から落ちてきたかのような光景。
そして、その予想は当たることとなる。

(;´∀`)「!」

薙ぎ倒された木々を視線で追い、その終点に辿り着いたと同時に目を見開いた。

(;´∀`)「あれは……!?」

まだ墜落して間もないのだろうか。
砂煙を撒き散らしている先に、巨大な青の色が存在しているのだ。



85: ◆BYUt189CYA :2007/07/21(土) 20:40:13.32 ID:7MWIIgEv0
lw´‐ _‐ノv「……!」

(;´∀`)「シュー!?」

同じタイミングで見つけたのか、シューは直後に身を飛ばした。
ほとんど見えない足場を、一度も躓くことなく走っていく。
慌てて追うが、すぐに引き離されてしまった。

(;´∀`)「何がどうなってるんだモナ……!」

彼女の行動からして、この巨大な青い物体の正体を知っている節がある。
むしろアレを目的として山の中に入ったのかもしれない。

(;´∀`)「そ、それにしても速いモナ!」

既にシューの身体は闇の中へと紛れてしまっている。
彼女が行ったと思われる方向へ、とにかく走っていった。

急に視界が開ける。
木々の狭間から飛び出した先は、例の青い物体が横たわる現場だ。
薙ぎ倒された大木らが無残にも転がるこの場所は、一種の広場にも見える。

そして、彼女もそこにいた。

(;´∀`)「シュー、走ったら危ないモナ」

青い物体――よくよく近くで見ると、それは金属で出来ているのだと解った――の傍に跪くシューの姿がある。



87: ◆BYUt189CYA :2007/07/21(土) 20:41:36.36 ID:7MWIIgEv0
(;´∀`)「これは一体何なんだモナ……!?」

荒れる息を落ち着かせて問い掛ける。
彼女はこちらを一瞥もせず

lw´‐ _‐ノv「EMA……」

と、名称のようなモノを呟いた。

( ´∀`)(えま?)

そういえば、この山に入る時にも同じ単語を言っていた気がする。
やはり彼女はこれを目当てにしていたのだろうか。

そこまで考えた時、空気が抜ける音と共に軋むような金属音が響く。
シューとモナーの視線の先、青い巨大な物体の一部が割れるようにして開いたのだ。

これに似た光景を、モナーは見たことがあった。

(;´∀`)「エ、エイリアンかモナ!!」

地球に落ちてきたUFO。
何も知らずに近付く地球人。

映画ではここで襲われてしまい、怪事件となるニュースが翌日に流れるはずだ。



91: ◆BYUt189CYA :2007/07/21(土) 20:43:06.85 ID:7MWIIgEv0
恐怖に震えるモナーは、しかし内部から聞こえてきた声に驚くこととなる。

「う……」

男の声。
しかも苦しそうな声色だ。

lw´‐ _‐ノv「ミツキ」

シューが声に反応し、青い物体の内部を覗き込む。
興味本位でモナーも覗き、そしてまた驚く。

(;´∀`)「に、人間……?」

男がいた。
内部の機械に囲まれるように、そして頭部から血を流してうな垂れている。

シューは、この満身創痍の男を助けようとしているらしい。
しかし一人の少女の腕力では難しいようで

(;´∀`)「……ぼ、僕も手伝うモナ」

事情は解らないが、目の前の女の子が困っているのを見過ごせるはずもなく。
二人の力を合わせて男の身体を引っ張り上げた。



93: ◆BYUt189CYA :2007/07/21(土) 20:44:43.05 ID:7MWIIgEv0
ハ(リメ -゚ノリ「……シュー、か?」

男は息絶え絶えに問い掛ける。
その顔や服は多量の血液で塗れていた。

lw´- _-ノv「私だ」

自分の存在を伝えるかのように、シューは男の手を握る。

ハ(リメー゚ノリ「良かっ、た……君は無事、なんだね」

lw´- _-ノv「うん」

ハ(リメ -゚ノリ「レイン、様は……?」

lw´- _-ノv「ごめん、ここにはいない」

ハ(リメ -゚ノリ「……そう、か」

意識さえも飛びそうなのか、男は苦しそうに言葉を区切りつつ言葉を吐いていく。



94: ◆BYUt189CYA :2007/07/21(土) 20:46:31.85 ID:7MWIIgEv0
ハ(リメ -゚ノリ「シュー……EMAを頼むよ」

lw´- _-ノv「うん」

ハ(リメ -゚ノリ「……僕は少し疲れた」

lw´- _-ノv「うん」

ハ(リメ -゚ノリ「もしもの時は……君がミカヅキを、止めるんだよ……」

lw´- _-ノv「うん」

ハ(リメー゚ノリ「……良い、子だ」

lw´- _-ノv「……うん」

その声は果たして届いたのか。
気付けば、その男の意識は既になかった。
死んだかとも思ったのだが、胸が浅く上下していることから気絶しているだけらしい。

(;´∀`)「シュー、この人……?」

lw´- _-ノv「かつての私の恩人」

目の前で人が血塗れで気絶しているのだというのに、シューに動じた様子はない。
ただ淡々と起きた現実を見つめているようだった。



95: ◆BYUt189CYA :2007/07/21(土) 20:47:41.49 ID:7MWIIgEv0
と、そこでシューが腰を上げた。
そのまま青い物体に足を掛け、血塗れになった内部へと滑るように飛び込んだ。

(;´∀`)「ちょ……!?」

止める暇も無い。
まさに一瞬で姿を消したシューは、すぐさま行動を開始した。

まず響いたのは鼓動。
鈍重な衝撃が、青い物体の周囲を走った。
そして甲高い音が幾つか鳴り、続いて被さるように駆動音が響く。

シューが、その青い巨大物体を動かそうとしているのだ。

(;´∀`)「シュ、シュー!? 危ないモナ!」

慌てて叫ぶが聞こえている様子はない。
鉄の軋む音が邪魔して、思うように声が通らないのだ。

モナーの目の前で、その青い物体が立ち上がっていく。

(;´∀`)「これは……」

全容を見て、ようやく気付いた。

その機械の外観は『人』の姿をしていた。
青色の鎧を着込んだかのようにも見えるそれは、人の形をした兵器にも見受けられる。

それは、漫画やアニメで見るような『人型機動兵器』そのものだった。



96: ◆BYUt189CYA :2007/07/21(土) 20:49:07.49 ID:7MWIIgEv0
『動かないで』

その迫力に気圧されて動けるものでもなかったが、シューはそう警告した。
青い巨体が動き、無骨な腕がこちらに伸びる。

(;´∀`)「うわわわ!?」

大きな指が器用に動き、男とモナーを拾い上げた。
それを手の平に乗せると

『ちょっと我慢してて』

声と共に機体が動く。
次の瞬間、身体に強烈な重圧が掛かった。

(;´∀`)「……ッ!?」

それも一瞬のこと。
思わず瞑った目を開くと、周囲の景色が大きく変化していた。

見えたのは一面の夜空だった。
あったはずの木々が消え失せ、代わりに強風が吹き荒れる。
と、そこまで肌で感じ取って気付いた。

(;´∀`)「と、飛んでるモナ!?」

シューの操る青い機体が、たった一足で大跳躍をしているのだ。
轟、という耳の中で暴れる冷えた空気が、その高さと速度を表している。



98: ◆BYUt189CYA :2007/07/21(土) 20:50:59.41 ID:7MWIIgEv0
そして上空へと跳んだということは、当然――

( ´∀`)「――モナ?」

放物線の頂点に辿り着いた次の瞬間、モナーの身を総毛立つような浮遊感が襲った。

(;´∀`)「うぉふぁ!? ふぉぉぉぉ!?」

それは段々と加速し、最終的には変な声が出るほどの不快感へと変化する。
間抜けな叫び声を残し、青い機体は再度、森の中へと落ちていった。

(;´∀`)「ッ!?」

激音。
巨大な物質が地面へと降り立つ音は、それよりも衝撃としてモナーの身を襲った。
身体全てが揺れに揺れ、天地の方向さえも解らなくなる。

『……大丈夫?』

無表情な声で心配してくるシュー。
堪えた様子がないところを見るに、どうやら機体の中に衝撃を吸収する機構が組み込まれているらしい。
世の中の理不尽さを感じつつ

(;´∀`)b「お、お、おkだモナ」

フラフラと上半身を揺らしながら返事をした。



101: ◆BYUt189CYA :2007/07/21(土) 20:52:26.62 ID:7MWIIgEv0
『良かった』

先ほどと同じように青い機体の上部が割れる。
ひょっこりとシューが顔を出したが、その髪や服に血が付着してしまっていた。
気絶した男の血液が散らされていたので仕方ないとはいえ、その様相は痛々しい。

しかし本人に気にする素振りはなく

lw´- _-ノv「じゃあ、これから隠す」

( ´∀`)「え? 何を?」

lw´- _-ノv「EMA」

( ´∀`)「えま……って、これのことモナ?」

先ほどまで手の平に乗せられていた青い機体を指差す。
シューは頷き

lw´- _-ノv「あれを狙う人がいるから。
       だから、時が来るまで見つからないようにする」

( ´∀`)「時……?」

時限式の何かがあるのだろうか。
それとも、何かを待たなければならないのだろうか。
ただ彼女の態度からして、普通の時間ではないだろう、と無意識的に思えた。



103: ◆BYUt189CYA :2007/07/21(土) 20:53:49.35 ID:7MWIIgEv0
思いつつ、周囲を見渡す。
やはり鬱蒼と茂った木々があり、しかし先ほどと異なるのは『道』がないという点である。
つまり、この場所には人がまったく来ないということだ。

lw´- _-ノv「魔力供給カット……マジックカートリッジ、セプテージロック。
       後は、こうやって木で隠すようにして……空から見つからないように」

( ´∀`)「あ、そこは危ないから僕がするモナ」

それからしばらく隠蔽作業を続けた。

一時間か二時間か。

時計がないので解らないが、割と長い間働いたような気がする。

lw´- _-ノv「……よし」

( ´∀`)「これで良いモナ?」

青い機体は多くの緑色によって隠されていった。

完璧、とまではいかないものの、これでかなり見難くなったはずだ。
空から探そうとしても、よほど低空飛行をしなければ見つからないだろう。



104: ◆BYUt189CYA :2007/07/21(土) 20:55:17.39 ID:7MWIIgEv0
lw´- _-ノv「ありがとう、モナー」

全ての作業が終わり、シューは礼を言う。
ストレートな言葉にモナーは頬を掻きつつ

(;´∀`)「いやぁ、何がどうなってるのか全然解んないけど頑張ったモナ。
     あと出来れば事情を教えてほしいなぁ、とか……」

lw´- _-ノv「ごめん、今は話せない」

( ´∀`)「……解ったモナ」

正直に言えば、物凄く気になる。
しかし彼女の口は相当に堅そうだ。
そもそも無理矢理に聞いて、自分の力でどうにかなるような事情には思えない。
そこまで判断したモナーはあっさりと身を引いた。

lw´- _-ノv「じゃあ、帰ろう」

( ´∀`)「シューはシューの家に帰るモナ?」

lw´- _-ノv「ううん」

小さく首を振り

lw´- _-ノv「安全が確認出来るまでは……モナーの家を借りたいと思っている所存」



105: ◆BYUt189CYA :2007/07/21(土) 20:56:29.34 ID:7MWIIgEv0
(;´∀`)「え?」

lw´- _-ノv「駄目?」

(;´∀`)「い、いや、何か事情があるんなら……うん、僕は大丈夫モナ。
     でも君は平気モナ?」

lw´- _-ノv「大丈夫、私は割と強いから」

と、腰に吊った刀を見せるように揺らした。

(;´∀`)(……なんか会話が噛み合っていないような)

ほのかな違和感を得つつ、モナーは歩き始めたシューの背中を追う。
すると彼女が口元に小さな笑みを浮かべて振り向いた。

lw´- _-ノv「それに、ここから一人で帰るのは無理だと思う。
       だから私がモナーを家まで送っていってあげる……という名目」

( ´∀`)「あ、ありがt……あれ? ここから歩いて帰るモナ?」

lw´- _-ノv「そう」

( ´∀`)「…………」

そういえば、ここまで来るのにエマとかいう青い機体を用いたのだった。
その機体を置いていくとなれば、帰りは必然的に徒歩となる。



107: ◆BYUt189CYA :2007/07/21(土) 20:58:26.16 ID:7MWIIgEv0
(;´∀`)「マジかモナ……」

今、自分がいる場所さえも解らない。
跳んだ時間を考えると、もしかしたら山の深い所にいるのかもしれない。
というか、頭の何処かで『そうなのだ』と警鐘が鳴り響いていた。

lw´- _-ノv「あとミツキはモナーが背負ってね。 男の子でしょ?」

(;´∀`)「……お強いんじゃないんですモナ?」

lw´- _-ノv「私、女の子だし」

女は時に物凄くズルい。
しかしだからと言って彼女に任せるわけにもいかず、モナーは渋々男を背に負った。
それを見つつ、シューは激励の言葉を投げかける。

lw´- _-ノv「頑張ろう。
       というか、頑張るしかないと思う」

(;´∀`)「……はいですモナ」

半ば諦め、半ば覚悟の色でモナーは返事をした。



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