( ^ω^)ブーンと川 ゚ -゚)クーは抗い護るようです

85: ◆BYUt189CYA :2007/07/22(日) 18:18:37.61 ID:qL8ulUZH0
第二十九話 『終わる仇討ち (裏)』

南アメリカの熱帯雨林。
湿った雰囲気が支配し、しかし澄んだ空気が流れる場所だ。
そんな、本来は静かなはずの森の中が、騒々しい音に包まれていた。

走る音。
草木を掻き分ける音。
そして金属音や爆音。

その先端にいる人物は、少女のような様相をしていた。

从・∀・ノ!リ「しかしまぁ、しつこいのぅ」

額にいくつかの汗を浮かばせ、深い森の中を疾走する。
そのすぐ背後を二人の人間が追従していた。

(;><)「よっぽど僕らが珍しいんです! きっと捕まったら食べられちゃうんです!」

(*‘ω‘ *)「ぽっぽ!」

从・∀・ノ!リ「小型化されたEWを扱う野蛮人など聞いたこともない」

はぁ、と露骨な溜息を吐き

从・∀・ノ!リ「変なこと考えておる暇があるのなら、さっさと攻撃せんか。
       あの男、きっと痛い目見らんと手を引かんぞ」

( ><)「了解なんです!」



86: ◆BYUt189CYA :2007/07/22(日) 18:20:47.99 ID:qL8ulUZH0
肩に引っ掛けているバッグに手を突っ込む。
取り出したのは試験管のような物体で、内部には青色の丸い玉が詰められている。
栓を外し、五粒ほどを背後へ放り投げた。

「――!」

爆発する。
いや、爆音と共に放たれたのは物理法則を捻じ曲げる力だ。
破裂した玉を中心として、周囲の地面や石、草木が砕け散った。

しかし追跡の疾走音は潰えない。
爆発前と変わらず、猛獣のような迫力で追ってくる。
少女は、走りながら背後へと問い掛けた。

从・∀・ノ!リ「何で我らを狙ってくれるんじゃー?」

( ^Д^)「お前達が異世界の人間だと知っているからな。
      我々世界政府の戦力増強のため、一緒に来てもらう……!」

木々の狭間から見える表情は、能面のような笑顔。
右手に剣を持ち、左手に鞘を構え、草木を切り裂きながら迫るプギャーがいた。



88: ◆BYUt189CYA :2007/07/22(日) 18:23:21.58 ID:qL8ulUZH0
(:><)「ひぃ! あの人、追いかけながら笑ってるんです!
      きっとこの追走劇が楽しくて仕方ないんです! 捕まったらバラバラにされるんです!」

从・∀・ノ!リ「……あれは本当に笑み、なのかの?」

(*‘ω‘ *)「ぽ?」

从・∀・ノ!リ「いや、何でもない。 それよりもどうするか。
       やはり言葉で御すことの出来る相手ではないぞ、あれは」

うーん、と唸るように考え

从・∀・ノ!リ「痛い目を見せるしかないのかのぅ……。
       しかしその手段は限られるし、そもそも勿体無い」

( ><)「そんなこと言ってる場合じゃないんです!
     明日は今日があるからやってくるんです!」

从・∀・ノ!リ「お前良いことを言うなぁ。
      今日を確立させねば明日など到底望めん、か……仕方あるまい」

懐に手を入れる。
取り出されたのはナイフのような金属片。

从・∀・ノ!リ「ビロード、チン。
      時間を稼いでやるから、我のEWを組み立てておけ……一撃で決めるぞ」

(;><)「は、はいなんです!」



89: ◆BYUt189CYA :2007/07/22(日) 18:25:29.18 ID:qL8ulUZH0
両脇の二人が速度を上げる。
少女を追い抜き、背負ったバッグを胸の前へと持ってきた。

( ><)「ちんぽっぽちゃん!」

(*‘ω‘ *)「ぽぽっぽ!」

同じように胸の前に持ってきたバッグから、パーツのような金属を取り出す。

从・∀・ノ!リ「さぁて――」

その様子を途中まで眺め、少女は身体ごと背後へと振り向いた。
接近してくる笑顔の男に

从・∀・ノ!リ「少しの間、我と遊んでもらうぞ」

五指の間に挟んだ金属片を投擲。
合計六枚のそれは、三枚ずつ左右に広がるようにして飛んでいき

( ^Д^)「!」

プギャーに追い抜かれた瞬間、宙でその動きを止めた。
この世界ではありえない超常現象を、男は微かに少女から視線を逸らして確認する。

从・∀・ノ!リ「そこ!」

その動きが仇となった。
空いた手で投擲された小さな物体。
それは男の胸部に当たった瞬間に割れ爆ぜ、少量の液体で服を塗らした。



91: ◆BYUt189CYA :2007/07/22(日) 18:27:00.66 ID:qL8ulUZH0
( ^Д^)「これは……?」

毒の類か、と思い、そしてすぐに否定する。
先ほどの金属片の説明がつかないからだ。

そして次の瞬間、直感という悪寒が背筋を這い登った。

(;^Д^)「ッ!?」

身を飛ばす。
それも思い切り前方に、だ。
着地姿勢さえも考えずに飛び出し、湿った地面の上で一回転する。

カ、という堅い音が背後で響いた。
一瞬だけ視線を向けて見れば、先ほど投げられた金属片が地面に突き刺さっている光景。
今の音は、地面に落ちている石を砕いた音なのだろう。

从・∀・ノ!リ「チッ」

( ^Д^)「自動遊撃の武器……か?」

厄介だ、と直感的に思う。
しかし思うだけで対策はまったく思い浮かばない。



94: ◆BYUt189CYA :2007/07/22(日) 18:29:02.09 ID:qL8ulUZH0
心の内で舌打ちし、剣の握りを確かめる。

次の瞬間、風を切る気配を感じた。
地面に刺さった六枚の金属片が、再び男を貫くために飛翔したのだ。

( ^Д^)「ッ!」

初撃でタイミングは理解している。
後は、それに合わせて剣と鞘を振れば

从・∀・ノ!リ「お?」

少女の驚きの声。
声が出た理由を証明するように、六枚の金属片が弾かれた。
それぞれが四方八方に散り、そして木々の狭間で見えなくなる。

( ^Д^)「……まだまだだな」

男は自分に言う。
あの程度の攻撃の質を見極められず、勘と経験による迎撃だけで対処したことに苛立ったのだ。
これくらいの力では、あのモララーに地獄を突き付けることなど出来ない、と。

从#・∀・ノ!リ「我が、まだまだだと……?」

( ^Д^)「む?」

しかしその呟きは、勘違いとして受け止められてしまった。



95: ◆BYUt189CYA :2007/07/22(日) 18:31:04.42 ID:qL8ulUZH0
从#・∀・ノ!リ「こ、この無礼者!
        ビロード! チン! さっさと組み上げぃ!
        あの馬鹿に一泡吹かせてやるわ!」

(;><)「りょ、了解なんです!」

(*‘ω‘ *)「ぽぽぽっぽ!」

金属同士が接続されていく音。
段々と重みを帯びていくそれに、男は眉をひそめた。

( ^Д^)「何を――」

( ><)b「完成なんです!」

从#・∀・ノ!リ「寄越せ!」

二人掛かりで持っていたそれを、少女はいとも容易く肩に担いだ。

ブレーキ。
走り続けていた慣性を受け、足が地面を削っていく。
身体が完全に止まる前に、少女は肩に担った巨大な金属の塊を振り回した。

それは『砲』だ。

決して銃ではない。
大型バズーカを更に大きくしたような、大口径の鉄筒だった。



96: ◆BYUt189CYA :2007/07/22(日) 18:33:08.28 ID:qL8ulUZH0
彼女の身体が遂に止まる。
その砲口は、既に男の方を睨んでいた。

从#・∀・ノ!リ「これでも喰らえぃッ!」

(;^Д^)「ッ――!?」

全身が総毛立つ。
アレは駄目だと、受けては駄目だと本能が叫んだ。
タイミングだとか、着地位置の優位性だとかを考慮している暇は無かった。

ただ全力を用いて、その場から飛び退く。

直後。
雷のような光が直線状に走り、一瞬遅れて轟音が追う。
まるで隕石が墜落したかのような衝撃が、退避した男の身体をぶん殴った。

(;^Д^)「がぁっ!?」

不可視の拳に吹き飛ばされる。
背中から大木に激突し、沈みかけていた意識が驚いて目を覚ました。

(;メ^Д^)「うっ……ぉ?」

全身に波打つかのような痛みがあるが、骨などは折れてはいないようだ。
未だ衝撃に震える右手を見て、男は安堵の息を漏らさずにはいられなかった。



100: ◆BYUt189CYA :2007/07/22(日) 18:35:06.91 ID:qL8ulUZH0
(;メ^Д^)(死んだかと、思った……)

正確に言えば『死んだか』ではなく、『死ななければおかしい』だろう。
死を覚悟などではなく、死が自然なのだと納得出来るほどの悪寒だった。

そして視線を上げ、更に戦慄することとなる。

(;メ^Д^)「な、んだ、これは……!?」

穴が開いていた。
木々にではなく、岩にでもなく、地面にでもなく。

まるで背景を直接に穿ったかのような巨大穴が在った。
景色が円状に切り取られている、という言い方も出来るだろう。

もしあれに当たってしまえば、その部分が掠め取られていたに違いない。
自分が受けた衝撃は、おそらく余波のようなモノなのだろう。

从・∀・ノ!リ「ちィ、かわされた」

大きな舌打ちが聞こえる。
見れば、煙を吐く砲を持った少女がこちらを見て笑っていた。

从・∀・ノ!リ「あれを回避したか。
       ははは、なかなか筋が良い」



103: ◆BYUt189CYA :2007/07/22(日) 18:37:23.12 ID:qL8ulUZH0
(;メ^Д^)「……今の、は?」

从・∀・ノ!リ「魔力というエネルギーじゃが……この世界にはないらしいのぅ。
       特にこれは、特別中の特別な仕様でな。
       ま、懲りたら追跡を止めることだ」

言われなくとも、その気は失せていた。
あんな化け物じみた攻撃力を持つ者を追いたがる馬鹿はいないだろう。

諦めたような吐息をする男を、少女は神妙な目つきで見つめる。

从・∀・ノ!リ「しかしおぬし……いや、まさかな」

(メ^Д^)「何だ……? 言いたいことがあるなら言ってくれ」

从・∀・ノ!リ「そうか、ならば言おう。
       おぬし……何か為さねばならぬことを心の内に抱えておるのか?」

問われた瞬間、二つの顔が脳裏を過ぎる。
モララーと、少女の顔だ。

(メ^Д^)「……何故、そうだと?」

从・∀・ノ!リ「たまにおるんだ、おぬしみたいな『異常者』が。
      『為さねばならぬ』という怨念じみた狂気で、その者の運命さえも変えてしまう、とな」

(メ^Д^)「運命を……?」



104: ◆BYUt189CYA :2007/07/22(日) 18:39:15.68 ID:qL8ulUZH0
从・∀・ノ!リ「もしかしたら、おぬしは今ここで死ぬはずだったのかもしれん。
       しかし、お前が望む『為さねばならぬ』という心が、未来を塗り替えた可能性がある」

それはある意味での不死ではないか、と言いかけるが

从・∀・ノ!リ「しかしそれは諸刃の剣だと心得よ。
       為すべきことが叶った瞬間、今まで塗り替えてきた分の死が襲い掛かってくるだろう。
       それはつまり、この世の地獄を体験することに等しい」

(メ^Д^)「…………」

从・∀・ノ!リ「では。
       おぬしのような男の顛末を見れぬのは残念だが、我にもすることがあるのでな」

言葉を残し、少女は走り去っていった。
足音が段々と遠ざかり、そして聞こえなくなる。



(メ^Д^)「……俺は」

誰もいなくなった森の中で、男は小さく呟いた。

死を塗り替えられるほどの狂気。

それを抱えている自覚はある。
今この顔に張り付いている不動の笑顔も、確かにその表れの一つだ。



106: ◆BYUt189CYA :2007/07/22(日) 18:40:30.47 ID:qL8ulUZH0
(メ^Д^)「はは」

自然と声が出た。

(メ^Д^)「ははは、ははははははははは――!」

――為すべきことを叶えた瞬間、今までの分の死が襲い掛かってくる?

(メ^Д^)「だからどうした……!」

それを叶えるために自分は生きている。
モララーという男を殺す、という為すべきことがある。

むしろ感謝の念を抱いた。
あの男を殺すまで自分は死ぬことがないのだ、と。
だとすれば――

(メ^Д^)「はは……これはまた面白い事実が解った。
      魔法世界の住人の捕縛は失敗したが、それに勝る収穫があったようだ」


男は笑う。

顔で笑い、心で泣き、情で憤る。

三様の色を持つ複雑な男は、為すべきことを果たす確信を得たがために笑い続けた。

全ては、殺すべきかつての親友のために。



108: ◆BYUt189CYA :2007/07/22(日) 18:42:16.75 ID:qL8ulUZH0
薄暗い廊下を歩く。
二メートルほどの幅があり、豪華絢爛な様相を呈した床を歩く。
同じように豪華な蝋燭で灯された廊下を、ただひたすらに歩く。

( ・∀・)「…………」

モララーだ。
藍色のスーツを着込み、両手には何も持たずに一人で歩き続けている。

ここはFC残党が潜伏する古城。
その最上階に位置する廊下だ。

そして最上階というからには、それ相応の人物が居を構えているのだと想像に難しくない。

事実だ。

この城の持ち主は『アルバート』と言った。
今は名乗っていないが、元々モララーの姓も同じく『アルバート』である。
そしてその彼が、この城の持ち主に会いにいくということは――

( ・∀・)「……おや」

最奥に辿り着く。

そこには巨大な両開きの扉が存在し、その脇に一人の執事が立っていた。



110: ◆BYUt189CYA :2007/07/22(日) 18:44:01.39 ID:qL8ulUZH0
「モララー様、ですね?」

( ・∀・)「あぁ」

「中で御待ちです。 どうぞ」

初老の執事が扉を開く。
冷たい空気が漏れ、モララーの頬を撫でた。

( ・∀・)「ありがとう」

まるでこの世に別れを告げるかのような細い声を残し、モララーは部屋の中へと足を踏み入れた。



112: ◆BYUt189CYA :2007/07/22(日) 18:45:53.68 ID:qL8ulUZH0
内部は広く、そして暗い。
数えるほどしかない明かりが、申し訳程度に室内を照らしている。

豪華な部屋だ。
これ以上に豪華などないのでは、といえるほどに豪華絢爛だ。

巨大なシャンデリアが揺れ、装飾品が並び、絵画が飾られている。
物一つとっても、どれだけの価値があるのか想像出来ないほどに輝いている。

その中をモララーは歩く。
部屋の中を進み、また最奥に到着した。

前にあるのは壁ではない。
巨大な窓だ。
窓から見える風景は、少しの灰色に荒れる白色――吹雪の景色だ。

その窓の手前に一つの椅子があり、一人の男が座っていた。
姿があることを確認し、モララーは静かに口を開く。


( ・∀・)「御久しぶりです……我が父よ」



114: ◆BYUt189CYA :2007/07/22(日) 18:48:09.69 ID:qL8ulUZH0
言葉通り。
目の前の椅子に座る男こそ、モララーの父であった。
こちらに背を向けているために表情を伺うことが出来ないが、それでも雰囲気で感じ取れるものはある。

(   )「私の知る息子は、親に敬語など使わなかったが」

低い声が響いた。
それは昔から知る声に、多少の老いを付け加えた声。
ほんの少しの懐かしさを感じつつ

( ・∀・)「ふむ、ならばかつての通りにいこうかね」

と、微かな笑みを浮かべて言った。

( ・∀・)「まずは礼を言わせてもらおう。
      拠点を無くした我々に、こんな素晴らしい古城を貸してくれたことに」

(   )「息子の危機を救いたいと思うのが親心だろう。
    それにこういった施設の一つや二つ、お前にくれてやっても別に構わん」

( ・∀・)「また心にもないことを……しかし貰えるならば、貰っておこうかね」

くく、と喉を震わせて笑う。
父もまた同じように、声には出さずとも小さく肩を震わせていた。



116: ◆BYUt189CYA :2007/07/22(日) 18:49:54.68 ID:qL8ulUZH0
( ・∀・)「ところで何故この一ヶ月の間、全く顔を見せなかった?
      この城への案内も書状一つで済ませていたが」

(   )「これでも色々と忙しい身だ」

( ・∀・)「成程、息子に会うのに一ヶ月掛かるほどに忙しいのか。
      付き従う母も心労が絶えまいよ」

少し沈黙し、父の声が響く。

(   )「……彼女は死んだよ」

モララーの表情が止まった。
しかしそれも一瞬のことで、疑問を投げかける。

( ・∀・)「いつだ?」

(   )「二年ほど前にな、お前の言った心労が祟ったようだ」

( ・∀・)「……そうか」

知らなかった。
両親ともに高校卒業後に決別していたため、連絡さえ一度もとらなかったのだ。

早死にするだろう、とは思っていたが……。



119: ◆BYUt189CYA :2007/07/22(日) 18:53:36.77 ID:qL8ulUZH0
( ・∀・)「しかしそれでも仕事に支障は出ない、か」

(   )「いや、私も少しは反省し、自重しようと思ってな」

( ・∀・)「何?」

(   )「今日から長い間、休暇をとることにした。
     だからこの一ヶ月もの間、世界中を駆け回っていたのだよ」

『アルバート』に関する企業は、世界中に数多く存在する。
傘下にある組織も合わせれば、おそらくとんでもない規模になるだろう。
そのトップである父が多忙なのは理解出来ていたし、欠けてはならない存在なのだと知っている。

子供の頃から、一度たりとも遊んでもらったことなどなかった。
父はそういう人間なのだ、と半ば諦めの念を持っていたほどだ。

それが、休暇をとる、と。

( ・∀・)「どういう風の吹き回しか知らないが――」

(   )「この話はお前に関係ない。
     それに、いちいち息子の皮肉に耳を傾けるほど暇でもない。
     それよりも本題があるのだろう?」

無理矢理に話題を変えてきた。
何かあるな、と思いつつも、モララーはそれに従う。

( ・∀・)「あぁ、今日はその本題を片付けに来た」



120: ◆BYUt189CYA :2007/07/22(日) 18:55:37.26 ID:qL8ulUZH0
モララーは目を伏せ、そして決意したかのように言う。

( ・∀・)「……私が貴方を見限ったきっかけは知っているか?」

(   )「色々とあり過ぎて判断出来んな。
     しかし――」

一息。

(   )「――その中でも最も大きなものは、確信を持って言える」

それは、不幸といえる事件だった。
悪意と偶然が重なり、そこに圧倒的な不運が追加されたかのような。

あの事件をきっかけとして、モララーの性格に変化が生じ、プギャーの笑みが消えなくなり、一人の女が死んだ。

逆を言えば、たったそれだけの事件。
世間で言う大事件から見れば、それは小さな事件だった。
しかし

( ・∀・)「私にとっては人生の中で最も重い出来事なのだがね。
      何せ、比較的うまく行っていた人生の価値を丸ごと引っ繰り返されたようなものなのだから」

(   )「…………」



122: ◆BYUt189CYA :2007/07/22(日) 18:57:34.23 ID:qL8ulUZH0
饒舌になるのを止められない。

( ・∀・)「私はたった二人しかいなかった親友を二人とも失った。
      一人は死に、そして一人は私を恨むようになった」

(   )「恨み、か」

( ・∀・)「人は耐えられない事象に出会った時、必ず元凶を見出そうとする。
      そしてそれに全てをなすり付け……そしてそれに多大な怨念を抱く」

プギャーから元凶として見出されたのが、モララーだったという話だ。
しかしあの事件の残滓は、そんな簡単に片付くものではない。

( ・∀・)「彼は私を恨んでいる。
      ならば、私は誰を恨んでいると思う?」

(   )「…………」

( ・∀・)「答えないのなら私が言おう」

懐に手を入れ、それを取り出し、宣言するかのように強く言った。



( ・∀・)「――貴方だよ」



124: ◆BYUt189CYA :2007/07/22(日) 18:59:32.60 ID:qL8ulUZH0
同時、右腕を向ける。
その先端には鉛玉を射出する殺人器――拳銃が握られていた。

カチリ、と撃鉄を上げる音をわざと響かせる。

( ・∀・)「あの時、発砲許可を出したのは貴方だった」

(   )「……その通りだ」

( ・∀・)「解っているとも。
     馬鹿だった私が彼女を理解出来なかったのが、結局のところ不運のスタートだったのだと。
     貴方が許可を出さなければ、別の誰かが死んでしまったかもしれないと。
     しかし、それでも私は貴方を恨む。
     それは何故か?」

(   )「…………」

( ・∀・)「怨恨の連鎖を止めるためさ」



125: ◆BYUt189CYA :2007/07/22(日) 19:01:24.25 ID:qL8ulUZH0
人は恨みを晴らしたがる。
新たな恨みがあれば、今度はそれを目指すだろう。
つまり

( ・∀・)「彼が万が一、私を殺した場合……その憎しみはおそらく更なる先を目指す。
      憎み過ぎて憎み過ぎて、憎む相手を殺しても収まらないほどの怨念を持っているが故に」

そうなれば、もはや復讐劇などではない。
ただの殺人鬼だ。

( ・∀・)「単純に親友を止めたいのだよ。
      全ての業を背負った私が、何らかの手段を用いて」

現在のところ、怨恨の鎖は目の前にいる父親の一つのみとなっていた。
事件を起こした人間、発砲した人間……恨みの対象となり得る業は、既に全てモララーが背負っている。

( ・∀・)「実のところ、これがFCという物騒な組織を作った理由の一つでね。
     人を安全に殺すなどという行為は一人では難しい、ならば……というわけだよ。
     まぁ、それだけが理由ではないが」

(   )「私に対するためではなかった、と?」

( ・∀・)「もちろんそれもあるが、言った通りそれだけではない。
      わざわざ言葉にして言う気はないがね」

そして、と言い

( ・∀・)「……後は貴方という業を背負えば、私は彼と相対することが出来る」



127: ◆BYUt189CYA :2007/07/22(日) 19:03:47.81 ID:qL8ulUZH0
(   )「そのために死ねと言うか」

( ・∀・)「そのために死ねと言おう」

対しての返事はない。
気味の悪い粘着質な沈黙が流れる。
そんな中、声は突然に来た。

(   )「モララー、一つ私からの願いを聞いてくれるか。
     父親らしいことをしてやれなかったとはいえ、やはり己の子供の行く先は気になるのでな」

( ・∀・)「……何かな?」

(   )「『止めたい』では駄目だ。
    『止める』と、今ここで私と……お前とあの男の勝手で死んでいった者達に、誓え」

( ・∀・)「…………」

今度はモララーが目を瞑って黙り込む。
十秒ほど間を空け、目を開き

( ・∀・)「誓ったよ」


強く言い、そして、右腕に力を入れ、妙に固く感じるトリガーを、



129: ◆BYUt189CYA :2007/07/22(日) 19:05:23.24 ID:qL8ulUZH0
「モララー様」

どうにも慣れない部屋から退出した直後、扉の傍で控えていた執事から呼び止められた。

( ・∀・)「何か?」

「これにサインを」

取り出されたのは一枚の紙。
その文面を斜め読みし

( ・∀・)「……ふ」

と、漏れ出るような笑い声を発した。
文面には色々とややこしいことが書かれているが、それを要約するならば

( ・∀・)「父の持つ全権を私に移譲する、か。
      『委譲』ではなく『移譲』と書いているところから見るに、なかなか評価されていたようだ。
      もはや確かめる術はないが」

「あの方の願いです。
 アルバートの名を継ぐことが出来るのは、息子である貴方でしょう」

( ・∀・)「だが断る」

鋭い言葉と同時、その紙を一気に引き裂いた。



130: ◆BYUt189CYA :2007/07/22(日) 19:07:19.12 ID:qL8ulUZH0
「……!」

( ・∀・)「私にはすべきことがある。
      私には受けるべき罰がある。
      私には……私の手は、もう支えたいモノで一杯なんだ」

心の中で苦笑する。
甘いな、と。
しかし表情には出さずに

( ・∀・)「私は既に組織も絆も仲間も持っている。
     アルバート如きに、あの場所で得られたモノを超えられるとは思えん」

「……はい」

激昂するかとも思っていたが、執事はあっさり引き下がった。
その沈静さに、モララーは『既に予測されていた』ことを理解する。
だから、言った。

( ・∀・)「父の死はまだ隠せ。 混乱は避けたい。
      これから、世界的に大きな出来事が起こるだろう。
      全世界がそれに注目した瞬間に、その情報をこっそりと流したまえ」

「畏まりました」



131: ◆BYUt189CYA :2007/07/22(日) 19:08:27.76 ID:qL8ulUZH0
( ・∀・)「言っておくが、私はアルバートの名を捨てている。
      古城は貰っておくとして、しかしだからと言って私に頼るのは止めたまえよ。
      私は弱小ライバル社のフィーデルト・コーポレーション社長なのだから」

「了解しました」

返事を全て聞き終わる前に歩き始める。
いつの間にか握り締めていた紙を見て、苦笑し、その場に投げ捨てた。


無言だ。


もはや何も言い残すことなく、モララーは仲間の下へと戻っていった。



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