( ^ω^)ブーンと川 ゚ -゚)クーは抗い護るようです

2: ◆BYUt189CYA :2007/10/02(火) 20:08:30.63 ID:8X8P7LJL0
活動グループ別現状一覧

( ・∀・) (,,゚Д゚) (*゚ー゚) ミ,,"Д゚彡 ( ´_ゝ`) (´<_` )
(`・ω・´) <_プー゚)フ (#゚;;-゚) [゚д゚] ( ゚д゚ ) ノハ#゚  ゚) 
从・∀・ノ!リ ( ><) (*‘ω‘ *) |゚ノ ^∀^) lw´‐ _‐ノv
所属:四世界
位置:オーストラリア・世界政府本部
状況:強襲中

( <●><●>) |(●),  、(●)、| / ゚、。 /
( ̄ー ̄) ( ^Д^) (゜3゜) ,(・)(・), ┗(^o^ )┓ \(^o^)/ |  ^o^ |
( ^ω^) 川 ゚ -゚) ('A`) (´・ω・`) ( ゚∀゚) ('、`*川 从'ー'从 川д川 ( ´∀`)
所属:世界運営政府
位置:オーストラリア・世界政府本部
状況:迎撃中

(メ _) ハ(リメ -゚ノリ
所属:魔法世界
位置:オーストラリア・世界政府本部
状況:戦闘開始

メ(リ゚ ー゚ノリ ル(i|゚ ー゚ノリ
所属:???
位置:???
状況:???



7: ◆BYUt189CYA :2007/10/02(火) 20:10:47.56 ID:8X8P7LJL0

この部屋の中へ押し込められてから、どれほどの月日が流れただろうか。

求められるのは『彼女』という個ではなく、詰め込まれた『知識』のみ。
それだけのために部屋から出され、用が済めば逆戻りだ。
人としての扱いなどされていない。

闇の中に浮かぶ人の形をした何か。

これは、もはや物である。


从 ー 从「…………」


それでも彼女は何かを待ち続けていた。
口元に、微かな笑みを浮かべて。

もはや狂っているのかもしれない。

声は出さないものの、彼女はこの部屋で過ごす時間は常に笑っているのだから。



13: ◆BYUt189CYA :2007/10/02(火) 20:13:20.72 ID:8X8P7LJL0
その様相は酷い有様であった。

元々着ていた白衣は、既に白衣と呼べる色ではない。
美しかったセミロングの髪も、肌も、何もかもがみすぼらしく朽ちかけている。

それでも彼女の目から生気が失われることはなかった。
如何なる非道な扱いを受けようとも、彼女は生を諦めるようなことはしなかった。

在るのは確固たる意志。
生まれた時から教えられ、そして夢見ていた野望。

執念とさえいえる心が、彼女を支えている。

正体は何か。
問いに対する答えは簡単だ。

彼女の目的――いや、人生の目途は異獣を滅ぼすことである。

それが叶うのであれば、彼女は平気で命を投げ出すだろう。
それを叶えるためであれば、彼女は本気で命を護ろうとするだろう。

何故そうまでして抗うのかなど、もはや彼女の記憶では答えられなかった。

しかし考える必要はない。
ただ、そうすべきだと本能が悟っている。

――この身と心は既に、『奴ら』を滅ぼすためだけに特化していた。



17: ◆BYUt189CYA :2007/10/02(火) 20:16:13.11 ID:8X8P7LJL0
从 ー 从「そう……あの獣を、消さなくちゃ……」

もう何度目になるか解らない呟きは、変わりなく部屋の中に霧散していく。

永遠とも思われる長い時間の無変。
通常の人間ならば発狂してもおかしくはない。
しかし、渡辺は冷静に耐え続ける。



从 ー 从「……?」

変化の無い時間は、しかし意外とあっさり最後を迎えた。
それは、そろそろ次の『知識抽出』が始まるかと予想した時である。

音が響いた。

聞き慣れない音だった。
反射的に、空耳だとさえ思った。
しかし今までそんなものを聞いた例がなかったため、勘違いという可能性は頭の中から消去する。

音が大きくなる。

よくよく耳を澄まして聞いてみれば、どうやら音の主は相当に無茶をしているようだった。
それは、金属のような硬い物質を殴る音だったのである。



21: ◆BYUt189CYA :2007/10/02(火) 20:18:46.43 ID:8X8P7LJL0
从;ぅー'从「――!!」

撃音と共に、突如として光が部屋の中へと入ってくる。
同時、唯一の出入り口である頑丈な扉が開かれたのだと理解した。

从'ー'从「誰……?」

状況から判断して、味方である可能性は高い。
モララー達の性格や性質、目的から、この世界政府本部へと攻めてくるのは解っていた。

しかし、世界が異なれば価値観も異なる。
立場によっては、渡辺を利用する人間もいるだろう。

果たして部屋の中に入ってきた人物は、どういう意図を持って渡辺を助けに来たのか。

メ(リ゚ ー゚ノリ「よぉ」

その声は聞き慣れないものだった、聞いた憶えがあった。
段々と明瞭になっていく視界のど真ん中に、仁王立ちしている男の姿が見える。

赤い長髪を首の後ろに束ねた、黒ずくめの男。

从;'ー'从「貴方は――」

記憶を掘り出し、そして己が知っている人物だと知る。
彼は、世界交差計画の初期から渡辺に接触してきた男だった。

名前も所属も知らないが、渡辺にとって有益な情報を運んでくる謎の人物。

メ(リ゚ ー゚ノリ「王子様が助けに来てやったぜ」



25: ◆BYUt189CYA :2007/10/02(火) 20:21:26.61 ID:8X8P7LJL0
从;'ー'从「…………」

メ(リ゚ ー゚ノリ「おぉっと、別にそんな警戒する必要はねぇよ。
      ほれ、コイツも連れて来てやったぞ」

男がその場から一歩だけ退く。
背後から顔を見せたのは

川д川「御久しぶりですね、マスター」

从'ー'从「貞子……」

メ(リ゚ ー゚ノリ「アンタにはコイツが必要なんだろ?
      ジェイルっつー人形の方は手遅れだったが、コイツは何もされてねぇみてぇだ」

当然だ。
ジェイルはともかく、貞子に使われている技術はこの世界では扱われていない。
そのため渡辺は知識の抽出を強制されていたのだが、手遅れになる前に間に合ったようだ。

メ(リ゚ ー゚ノリ「それと、これも」

眼前に差し出されたのは、白いショットガンのような銃器。
渡辺が愛用している『ゲシュタルトブラスト』だ。



32: ◆BYUt189CYA :2007/10/02(火) 20:24:23.32 ID:8X8P7LJL0
从'ー'从「どうして……それに、どうやってここへ?」

メ(リ゚ ー゚ノリ「んー、説明してやってもいいんだが、それよりもアンタは行動しなきゃならねぇ。
      今、この建物は襲撃を受けてんだ。
      けど、まだ施設内への侵入はほとんどされてなくてね」

从'ー'从「モララー達だね。 私が内部からそれを手伝えってこと?」

メ(リ゚ ー゚ノリ「そういうこと。
      俺は別の用事があるからここでさよならだけどな」

从'ー'从「……そう、解ったわ。 助けてくれてありがとう」

メ(リ゚ ー゚ノリ「はっは、礼を言うのはちょっと違うんじゃねぇかなぁ」

从;'ー'从「?」

メ(リ゚ ー゚ノリ「ま、いいや。 んじゃ、俺は行くぜ」

片手を軽く振り、男は階下への通路を歩き始める。
そのままのんびりとした歩調で進みつつ

メ(リ゚ ー゚ノリ「この階の一帯は牢獄が占めてるらしい。 他の仲間も助けてやってやれよ」

从'ー'从「貴方……名前は? 何者なの?」



36: ◆BYUt189CYA :2007/10/02(火) 20:26:49.16 ID:8X8P7LJL0
言葉に、男の足が通路の突き当たりで止まった。
顔を半分だけ振り向かせ

メ(リ゚ ー゚ノリ「俺の名前?
      えっと、確か……キ……キリ……リー? レ……ター、ド……?
      んん? 随分昔のことだから憶えてねぇなぁ……」

何だっけ、と呟き

メ(リ゚ ー゚ノリ「うん、『キリバ』でいいや。
      え? 所属? えーっと、所属は――」

こちらに向いている口端が吊り上がったのを、渡辺は確かに見た。



メ(リ゚ ー゚ノリ「――異獣、と言ったらどうする?」



从;'ー'从「ッ!?」

目を見開いた時には、既に男――キリバの姿はない。
貞子が一歩前へと出て、警戒を促すが

川д川「反応、ロストしました」

从;'ー'从「そんな……何で……」



39: ◆BYUt189CYA :2007/10/02(火) 20:28:54.62 ID:8X8P7LJL0
渡辺の声は震えていた。
キリバという男の一言で、全てを理解したからだ。

从;'ー'从「私は最初から『監視』されていた……?
      異獣を倒すための準備に、異獣が関与していた……?」

思えば、奴は準備初期段階から姿を見せている。
しかし接触する時間が短かった上、全ての行動は渡辺にとって有益だったために勘違いをしていた。

おかしいと思わなければならなかった。

異獣の目的は、この世界の純正ルイルの捕食にある。
しかし世界の壁ともいえる秩序は、異獣にとっては真の壁だろう。
つまり異獣の目的を言い返るならば、それは『秩序の破壊』なのだ。

対し、渡辺には計画があった。

異獣を倒すには、出来るだけ多くの力――他世界の戦力をも結集して対抗しなければならない。
世界を繋げるためには『秩序の破壊』は必要不可欠。

つまり最初から、異獣は渡辺に協力する意味があったのだ。
途中までは泳がせておいて、その結果のみを掠め獲ることが目的だったのだ。

何故、そこに気付かなかったのか。

从;'ー'从(異獣は、秩序を超えることが出来ないと――!)

そういう前提があった。
如何なる存在であろうが、準備や対策無しに世界を越えることなど不可能だ、と。



43: ◆BYUt189CYA :2007/10/02(火) 20:33:02.01 ID:8X8P7LJL0
川д川「落ち着いてください、マスター」

从;'ー'从「落ち着けるわけ――!」

言い、渡辺は右手で顔を押さえて首を振った。
今やるべきことは、無暗に怒りを発することではない。

从'ー'从「……そうだね、冷静に対処しなきゃ」

川д川「追いますか?」

从'ー'从「ううん、私達に危害を加える気はないみたいだからいい。
     私達だけで勝てる相手じゃないだろうし。
     それよりも、今の内に助けられる人は助けておかなきゃ」

川д川「解りました」

周囲を見渡す。
キリバが言っていた通り、この階域は牢獄だらけらしい。
渡辺が入っていた部屋と同じような部屋が、各所に設けられていた。

一つの扉に近付く。

見ればドアのノブ付近に青いマークがあり、鍵は掛かっていない。
隣の扉には赤いマークがあり、扉は開くことがなかった。
どうやら青いマークは空室、赤いマークは鍵がかかっている、という意味らしい。

貞子に頷いてみせ、赤いマークの入った部屋を探すように命じる。



45: ◆BYUt189CYA :2007/10/02(火) 20:34:40.36 ID:8X8P7LJL0
川д川「マスター、こちらです」

しばらくすると、すぐに貞子が使用中の牢を見つけてきた。

从'ー'从「貞子、御願い」

川д川「イェス、マスター」

激音。
貞子の腕から放たれた弾丸が、扉の隅を穿つ。
相当に頑丈なのか、それでも完全に壊すことは出来なかった。

从'ー'从「えいっ!」

機能を失いかけたそれを、渡辺が蹴り飛ばす。
扉は勢いよく部屋の中へと吹っ飛び、そのまま床を転がって沈黙。
暗闇の中にいたのは

<ヽ`∀´>「……渡辺ニダか」

酷くやつれたニダーだった。
そして同時に、鼻をつく悪臭が漂ってくるのに気付く。



49: ◆BYUt189CYA :2007/10/02(火) 20:37:07.31 ID:8X8P7LJL0
从'ー'从「うわ……これでよく無事でいられたね?」

<ヽ`∀´>「命は在る、という意味では無事ニダ」

从'ー'从「あはは、お互い苦労をしたようで」

<ヽ`∀´>「ふン」

手枷を外してもらったニダーは、身体の調子を確かめるかのように肩を回す。

从'ー'从「あちらさんは?」

視線の先、ニダーとは少し離れた場所に何かが蹲っていた。
それは俗に言う『腐りかけた死体』というもので、しかし渡辺の位置からは誰なのか解らない。

<ヽ`∀´>「デミタス。 ロマネスクについてた技術者ニダよ。
      何かブツブツ言ってたけど、すぐ動かなくなったニダ」

从'ー'从「で、しばらく一緒に死体と過ごしていたと……」

<ヽ`∀´>「死体は慣れてるから問題ないニダ」

本当に平気そうな顔で言うニダーは、やはり並大抵な経験をしていないらしい。
あまり彼の本性と過去を知らない渡辺としては、それを知れただけでも収穫であった。



52: ◆BYUt189CYA :2007/10/02(火) 20:39:28.98 ID:8X8P7LJL0
と、そこで音が聞こえる。
機械の音で、渡辺にとっては近しく感じる類のものである。

( ・ω・)=つ「シュシュシュ!」

死体の陰から出て来たのはボッコスだった。
デミタスが貞子を真似て作り上げた、と、そう聞いている。

从'ー'从「よいっしょ!」

( ・ω・)=つ「しゅしゅsy――」

それを一踏みで破壊する渡辺。
飛び散った破片と火花が、暗い室内を一瞬だけ照らした。

从'ー'从「んじゃ、使えそうなパーツがあれば貞子、勝手に回収していいよ」

川 -川「特に見当たりません」

从'ー'从「よしよし」

<ヽ`∀´>「…………」

ニダーは渡辺の行動を見ても、特に口を挿むことはしない。
『そういう女』だということを、既に本能的に悟っている。



56: ◆BYUt189CYA :2007/10/02(火) 20:40:56.22 ID:8X8P7LJL0
从'ー'从「それで、ちょっとまずいことになってるかもなんだよね。
      異獣も絡んでるっぽいし、手を貸してくれれば嬉しいんだけど」

<ヽ`∀´>「……良いニカ?」

从'ー'从「ん?」

<ヽ`∀´>「ウリは一度アンタを裏切ったニダ」

ロマネスクが離反した時だ。
権利を奪われた渡辺について行くか、ロマネスクと共に異獣と戦うか。

ニダーと一部の兵は、異獣と確実に戦える方を選んだ。

元々はそれが目的で軍に入ったのだから
指揮権利を失った渡辺について行く義理などなかったのだ。

<ヽ`∀´>「言っておくが、あの選択が間違っていたとは思っとらんニダ。
      結果的にアンタの方が正しかったかもしれない……が、ウリは自分の選択を否定しないニダ」

从'ー'从「うん、それでもいいよ」

あっさりと頷く渡辺。
言葉に、ニダーの表情が止まった。



58: ◆BYUt189CYA :2007/10/02(火) 20:42:26.77 ID:8X8P7LJL0
从'ー'从「私が貴方に求めているのはたった一つの要素。
      ……異獣を倒す気は、ある?」

<ヽ`∀´>「あるニダ」

即答するニダーに、渡辺は笑みを浮かべる。

从'ー'从「流石ニダー君。
      だったら私達は同志――それで問題ないでしょ?」

<;ヽ`∀´>「今思ったけど……アンタ、実はかなりお人好しニカ?」

从'ー'从「あはは、まさかぁ」



60: ◆BYUt189CYA :2007/10/02(火) 20:44:19.13 ID:8X8P7LJL0
眼下は緑で、眼上は突き抜けるような空色。
大気が高速で流れ、それは風となっている。

自然の美しさを描いた透明の幕。

そんな中で、赤と青の色が激突していた。

「――!!」

が、という音に、ひゅ、という音が続いて一つの音色となる。
空を高速で走る機械特有の音だ。

青白い光を散らしながら飛翔するのは、二機のEMA。
魔法機動兵器の名を冠する、魔法世界の技術の粋を集めた人型兵器。

青色を発する騎士を思わせる機体を『リベリオン』、
赤色を発する武者を思わせる機体を『ウルグルフ』といった。

背部に備えられたスラスターが、普通ならば自重で沈むはずの機体を無理矢理に押す。

青い方には薙刀のような槍、赤い方には二本の剣が握られていた。
それらを自在に操る姿は、まるで中の人でも入っているような光景に等しい。

動きが機械とは思えぬほどスムーズさで、だからこその戦いが繰り広げられている。



64: ◆BYUt189CYA :2007/10/02(火) 20:46:52.85 ID:8X8P7LJL0
ハ(リ;メ -゚ノリ「くっ……!」

コックピット内は熱気に満ちている。
一瞬の気落ちが生死を左右する現状、瞬きの時間さえも惜しい。

『少し会わない間に、腕が落ちたか?』

メインウインドウの中で、二本の刀剣を振り回す赤いEMA。
あれだけ距離が離れていながらも、ミカヅキの声はすぐ傍から聞こえた。

ハ(リメ -゚ノリ「君が強くなっただけじゃないかな?」

『は、確かにそうだろうよ。
 貴様を殺すために――!!』

ハ(リ;メ -゚ノリ「ッ!」

ぶつかってきた刀剣を、ランスの柄で受け止めると同時、身体全体に衝撃が走った。
腰と胸に装着されたベルトが皮膚を締め付ける。

魔力の火花が大量に散り、メインカメラの隅を焦がした。
続いて、ギシ、とフレームが軋む不気味な音。

『強くなろうとしたさ!
 この胸の内に渦巻く黒い何かを払拭するため、私は何でもやった!』

ハ(リメ -゚ノリ「……!」

『故に私が勝てないわけがないだろう――!!』



66: ◆BYUt189CYA :2007/10/02(火) 20:49:01.93 ID:8X8P7LJL0
完全な力押しだ。
軋みの音が更に大きくなり、段々と後下方へと押されているのが解る。

ミツキは耐えるように歯を噛み、そして苦笑した。

ハ(リ;メ -゚ノリ(僕は何をやってるんだろうな……)

焦燥感がある。
望んでいるはずなのに、否定したい自分がいる。

死ぬために戦場へと出たというのに。
目の前の男に殺されるため、今一度EMAに乗ったというのに。

どうして

ハ(リ;メ -゚ノリ「どうして、生きたいんだよ……!!」

反射的に左手が動いた。
コンソールを叩き、ブーストの出力を変更。
まるで本能に従うかのようにペダルを一気に踏み込んだ。

『――!?』

高出力に設定された魔力が光を噴く。
各部からバーニア光が生まれ、機体のバランスを力任せに整えていった。

そのまま、押す。

ハ(リ#メ -゚ノリ「くぅぅぅあぁぁ!!」



70: ◆BYUt189CYA :2007/10/02(火) 20:51:23.95 ID:8X8P7LJL0
無理な動作をしたためか、機体の関節が悲鳴を挙げ始めた。
しかし尚もペダルを踏み続ける。

培ってきた勘が、先の不安よりも今の危機からの離脱を優先したのだ。

ハ(リメ -゚ノリ(よし、これで体勢を崩して――!)

『――忘れたか』

ハ(リ;メ -゚ノリ「!?」

『我がEMAは、瞬発力を増幅するためのカスタムを為されている、と』

ハ(リ;メ -゚ノリ「しまっ――」

思い出した時には既に遅かった。
目の前にある赤いEMAの瞳が、獲物を見定めたかのように真っ赤に光る。
ミツキの背筋を圧倒的な悪寒が這った。

『接……!』

見切る暇は無い。
機体を動かす暇も無い。

それまでとは比べ物にならない速度で両腕が稼動。

クロスされた二対の剣が、ミツキのEMAに襲い掛かった。



73: ◆BYUt189CYA :2007/10/02(火) 20:54:15.75 ID:8X8P7LJL0
ハ(リ;メ -゚ノリ「ぐっ……あ……!!?」

脳まで揺さぶられる激しい衝撃。
同時、ダメージを知らせるアラートが連続で響いたのを聞く。
早々に損傷チェックに入らねば、と思うが、予期していなかった震動が脳の動きを阻害した。

霞む視界の中、どうにかコンソールへと手を伸ばす。
サブウインドウに表示された機体コンディションをチェックし

ハ(リ;メ -゚ノリ「くそ……っ!」

『無様だな、ミツキ』

左腕が根元から切り落とされていた。
武器は右腕に握っていたため、まだ戦えるがバランスが非常に悪くなる。

ハ(リ;メ -゚ノリ(たった一太刀でここまでとは――!!)

しかし最悪なのは、残る一太刀が切り込まれた場所だった。

損傷部は胴体。
人間で言う、右脇腹が逆袈裟気味に裂かれている。
裂傷はかなり深く、こちらの反応が僅かでも遅れていればコックピットまで達していたのかもしれない程の一撃だった。

致命傷は避けている。
ただ、生き永らえた命も徐々に削られ始めたのをミツキは知った。

動力部と、主な接続線にも刃が達していたのだ。
今はまだフルパワーで動けるだろう。
しかし、あと数分も経てば挙動が鈍くなるのは目に見えていた。



77: ◆BYUt189CYA :2007/10/02(火) 20:56:16.44 ID:8X8P7LJL0
『失念していたのは情けない話だが、その反応は見事としか言いようがない』

ハ(リ;メ -゚ノリ「……君に褒められるなんてね。 嬉しいよ」

『ふン。 次は無いと思え』

再度、構えをとる赤いEMA。

ハ(リ;メ -゚ノリ(どうする……)

冷や汗か脂汗か、頬を流れる感覚にミツキは焦った。

数秒後に生きている自分が見えない。
ある程度は見えていた未来が、まったく闇に閉ざされてしまっている。

異常な緊張感。
そして包み込むような殺気。
もはや逃げられないのは解っている。

ハ(リ;メ -゚ノリ(どうする……!)


そこまで思い、ミツキはふと我に返った。

何をしているのだろう、と。
この結果は己が望んでいたはずではないか、と。



81: ◆BYUt189CYA :2007/10/02(火) 20:58:38.24 ID:8X8P7LJL0
ハ(リ;メ -゚ノリ(そうだ。 僕はアイツに殺されるために――)

これでいい。
あとはミカヅキが、ありったけの恨みを以って切り刻んでくれればいい。
それで全ての怨恨は終わりを告げ、ミカヅキとレモナは未来に生きることが出来る。

確かにレモナは真実を知ってしまった。
しかし彼女はきっとそれを信じて無いだろう、とミツキは思っていた。
仇を討つべき相手から、『本当は違う』などと聞かされて信じる馬鹿はいないだろう。

そして、それでいい。
時に真実こそが要らないモノとなりえるのだから。

全て問題ない。

そう、これでいいはずなんだ。

『終わりだ――!!』

赤色が迫るのを、ミツキは自失しながら呆然と見ていた。
あれと自分の距離がゼロとなった時、死ぬ。

ハ(リ;メ -゚ノリ「…………」

せめて痛み無く逝きたい。
そう願い、目を瞑る。


――思っていた衝撃は、いつまで経っても来ることはなかった。



84: ◆BYUt189CYA :2007/10/02(火) 21:00:23.99 ID:8X8P7LJL0
時は数分前に遡る。

まだ、赤と青が高速で激突していた頃。

二機のEMAが戦うのを、モナーは地上から見上げていた。
隣には、既に目を覚ましているレモナがいる。

(;´∀`)「ミツキさん……!」

二人はあの後、世界政府本部からの離脱を成功させていたのだ。
本陣に控えているフサギコへの連絡も済ませ、今は迎えを待っている状況である。

|゚ノ;^∀^)「何で……何でよ」

(;´∀`)「レモナ?」

|゚ノ;^∀^)「何であの二人が戦わなくちゃならないのよ!」

(;´∀`)「…………」

|゚ノ;^∀^)「御父様を殺したのはダイオードって奴でしょう!?
      ミツキが殺される理由なんてなくなったのに!」

その声を届かせたいが、手段がない。
通信しようにも手持ちの機器ではどうしようもなく、空へ行こうにも手段がない。
本来ならばシャキンの出番であるはずなのだが、彼は撃墜されて救助を受けている最中らしい。

レモナの悲痛な叫びは、彼らに届くことはない。



88: ◆BYUt189CYA :2007/10/02(火) 21:02:03.85 ID:8X8P7LJL0
|゚ノ;^∀^)「謝らなくちゃいけないのに! ミツキに謝らなくちゃ……!」

(;´∀`)「お、落ち着くモナ!」

|゚ノ#^∀^)「落ち着けるわけないじゃない!」

(#)∀`)「もげっふぁ!?」

|゚ノ;^∀^)「ああもう! どうしたらいいの!?」

(#)∀`)「何か君には殴られてばかりのような……って、モナ!?」

吹っ飛び、仰向けに寝転がっていたモナーが驚愕の声を発する。
言葉に見上げれば、赤色のEMAが青色のEMAの左腕を切り飛ばした瞬間だった。

|゚ノ;^∀^)「あ……あぁ……!」

仰け反った青いEMAは、そのまま高度を少し下げる。
その間にも左腕は落下を続け、森の中へと落ちていった。



91: ◆BYUt189CYA :2007/10/02(火) 21:03:40.01 ID:8X8P7LJL0
見るからに劣勢だ。
薙刀のような武器はまだ右腕に握られているものの、腕がないだけでバランスは致命的に悪くなる。
更に胴体部から火花を散らしているところを見るに、かなりのダメージを受けているようだ。

赤いEMAが距離をとり、再度構える。

ミツキの腕と意識の有無次第だが、おそらく次の攻防で勝負が決するだろう。

|゚ノ;^∀^)「何とかしなきゃ、何とか……!」

しかし、手段がない。
ここから叫ぶか見上げることしか出来ないのだ。

現実とは非情なもので、こんな時に限って救世主は現れない。

|゚ノ;^∀^)「御願い……ミツキを――!!」

願ったその時、赤いEMAが動いた。
二本の白刃を煌めかせ、背部からブースター光を散らして突撃する。
対し、青いEMAは右腕で武器を構えるので精一杯だった。

当然のように激突。

一際大きな光と音が響き――

|゚ノ;^∀^)「……え?」

(;´∀`)「なっ……」

その光景に、レモナとモナーは文字通り目を見開いた。



93: ◆BYUt189CYA :2007/10/02(火) 21:05:29.49 ID:8X8P7LJL0
『なっ――』

衝撃も何もないことを不思議に思い、薄く目を開けた時。
ミカヅキの震えた声が聞こえたのは直後だった。

ハ(リ;メ -゚ノリ「何が、起きた……?」

生きている。
腕も足も身体もある。
感覚も心臓の鼓動もある。

そこまで確認し、ようやくメインウインドウへと目を向けた。

ハ(リ;メ -゚ノリ「ッ!?」

映る光景にミツキは絶句する。

構えられた槍の柄の上に、黒布を羽織った男が立っているのだ。

メ(リ゚ ー゚ノリ「おーっ、意外と痛ってぇー……」

それだけではない。
EMAに比べると人形のように小さい人間は、その腕で――

『何なのだ、貴様は!?』

赤いEMAの刀剣を受け止めていた。
人の身の数倍の長さを誇り、人の身の数十倍の質量を持つ剣を受け止めているのだ。



95: ◆BYUt189CYA :2007/10/02(火) 21:07:18.81 ID:8X8P7LJL0
ならば、今のミカヅキの言葉も頷けるだろう。

問いは、何者か、ではない。
何なのか、である。

もはや人ではないことは明白。
いくら魔力を使ったとしても、あの突撃と斬撃は防げはしないはずなのだ。
刀剣にもまた、多量の魔力が塗りこまれているのだから。

メ(リ゚ ー゚ノリ「何なのか、ねぇ。
      そりゃあちょっとひでぇんじゃね?」

『…………』

ハ(リメ -゚ノリ「…………」

二人は警戒の沈黙で答える。

メ(リ゚ ー゚ノリ「まぁいいや、それよりも割り込んだ非礼を詫びようかね。
      正直すまんかった」

『貴様は何なのかと聞いている』

ミカヅキが怒気を含めた声を発した。
生真面目な彼は、そのふざけた調子が気に入らないらしい。
赤髪の男は、『怖い怖い』と肩をすくめ

メ(リ゚ ー゚ノリ「種別的に言えば異獣? って感じ?」

ハ(リ;メ -゚ノリ「!?」



98: ◆BYUt189CYA :2007/10/02(火) 21:08:48.21 ID:8X8P7LJL0
場に更なる緊張が走った。
赤いEMAが距離をとり、刀剣を構える。

『ミツキ、勝負は後だ。 本命がきたぞ……!』

ハ(リ;メ -゚ノリ「あぁ」

EMAは人を殺すための兵器ではない。
人を殺す程度ならば、ここまで技術をつぎ込む必要はないのだ。
一の力で人を殺せるならば、EMAの力は十や二十を軽く超えている。

では何故、そのような兵器が作られたのか。

メ(リ゚ ー゚ノリ「しっかし面白いもんだねぇ。
      それが噂の、『俺達』を殺すためのエマって兵器かよ」

持ち得る技術を総動員してまで、絶対に倒さねばならない存在がいるからだ。

存在の名を『異獣』という。

既存生物の性能とは大幅に『異』なり、しかしその形状は『獣』であることから名付けられた通称。

正体は不明。
規模も不明。
目的は世界の核である『純正ルイル』の捕食と言われているが、あくまで推測なため不明だ。

しかし、これだけは確定してる。

ハ(リ;メ -゚ノリ(彼……いや、奴らは――)



100: ◆BYUt189CYA :2007/10/02(火) 21:10:34.28 ID:8X8P7LJL0







               第三十七話 『世界の天敵』





103: ◆BYUt189CYA :2007/10/02(火) 21:12:03.24 ID:8X8P7LJL0
メ(リ゚ ー゚ノリ「さぁて」

未だ薙刀のような武器の柄に乗りつつ、赤髪の男は手に腰を当てる。

そこにあるのは完全な余裕だ。
この状況下において、ありえない雰囲気である。

だからこそ、その違和にミツキは嫌な汗を止められない。

メ(リ゚ ー゚ノリ「何で俺がアンタらの戦いに水を差したか、なんてのはどうでもいいんだわ。 説明も面倒だし。
      そんな俺からの注文はたった一つでね」

ハ(リ;メ -゚ノリ「…………」

メ(リ゚ ー゚ノリ「この戦いを、今すぐ止めてくれねぇか?」

放たれた言葉は、こちらが考えていたこととは全く異なる種類の内容だった。
一瞬、その場にいる全員の動きが止まる。

『……何だと?』

メ(リ゚ ー゚ノリ「だから、お前らがやってる戦いを止めてくれって」

ハ(リ;メ -゚ノリ「それは何故だい?」

メ(リ゚ ー゚ノリ「簡単さ。 俺達にとって都合が悪いからなんだぜ?」



107: ◆BYUt189CYA :2007/10/02(火) 21:13:31.81 ID:8X8P7LJL0
簡単?
どこがだ。

ミツキは言いかけ、その言葉を慌てて呑み込む。
今は迂闊な発言は避けるべき状況であることを思い出したからだ。

相手は人の身をしているが、異獣を名乗っている。
仮にもし異獣でなくとも関係者ならば、その力は強大なものだろう。
実際、赤髪の男はミカヅキの駆るウルグルフの一撃を片腕で受け止めている。

迂闊には手を出せないし、反論も出来ない。

メ(リ゚ ー゚ノリ「まぁ、事情は知る必要がないってね。
      とにかく戦闘行為を止めてくれると嬉しいんだよなぁ」

ハ(リ;メ -゚ノリ「…………」

どう答えるべきか、と逡巡した時。

『断る』

と、ミカヅキの声が空に響いた。
対して赤髪の男は、その薄ら笑いを崩さずに

メ(リ゚ ー゚ノリ「……何だって? わんもあぷりーず」

『断る、と言った。
 貴様が何であろうと、私とミツキの戦いに割って入る権利などない』



112: ◆BYUt189CYA :2007/10/02(火) 21:15:34.79 ID:8X8P7LJL0
メ(リ゚ ー゚ノリ「へぇ、ここで断っちゃうかね。 邪魔しちゃうよ?」

『ならば貴様を斬ってから、ゆっくりと決着をつけてやるさ』

ハ(リメ -゚ノリ「……そうだね」

あぁ、とミツキは小さな溜息を吐いた。

そうだった。
ミカヅキと自分の戦いは、絶対にここで終わらせなければならないのだ。
彼もそれを望んでいるし、きっと自分も望んでいる。

なら、迷う必要は無い。

阻害する者は全て排除するだけでいい。
理由が何であれ、自分達の戦いを邪魔するならば、それを敵と見ても良いのだ。

『行くぞ、ミツキ。
 最後になるだろうが……共闘だ』

ハ(リメ -゚ノリ「……解った」

懐かしさを感じる。
かつては、この男と肩を並べて戦っていたのだ。
EMAが完成する前から、レモナの父が自分達の隊長になる前から。

ミカヅキの言う通り、これが最後の共闘だろう。
あの赤髪の男を倒せば、次は自分達との決着をつけなければならないのだから。
正真正銘、彼と肩を並べて戦える最後の機会。



115: ◆BYUt189CYA :2007/10/02(火) 21:17:23.35 ID:8X8P7LJL0
ならば、愉しもう。

戦いを愉しむという戦士としては模範的であり禁忌的な――しかし誰もが一度は思う感情。
ミツキにとっては、ミカヅキと共に戦えるからこそ感じられる特別な愉悦。
どうせこの後で死ぬのだから、今この時くらいは無礼な感情を持っても構うまい。

『貴様は私をサポートしろ……あんな男、一瞬で斬り捨ててくれる……!』

ハ(リメ -゚ノリ「解ってるよ」

しかし

メ(リ゚ ー゚ノリ「――なら、仕方ねぇなぁ」

その愉悦は、いつまで経っても感じることが出来なかった。

メ(リ゚ ー゚ノリ「ま、最悪、機体だけ残存してりゃあいいって姉貴も言ってたし――」

薄ら笑いが獰猛な笑みに変わった時、ミツキの全てが終わりを告げ始める。

メ(リ゚ ー゚ノリ「恨みっこ無しな」


                消失。

                                擦過。

          破壊。



117: ◆BYUt189CYA :2007/10/02(火) 21:19:20.85 ID:8X8P7LJL0
『なっ――!』

ハ(リ;メ -゚ノリ「に……!?」

何が起こったのか、解らなかった。

全ては一瞬の出来事。
赤髪の男の姿が消えたと思った瞬間、少し離れた赤いEMAの装甲が砕け散ったのだ。

メ(リ゚ ー゚ノリ「思ったより脆いな」

いつの間にか、赤髪の男がウルグルフの肩上に立っている。
その足下にある肩部装甲は、既に正常な形を保っていなかった。

ハ(リ;メ -゚ノリ「何だ、あれは……!?」

注目すべきは四肢。
まず目に付くのは、赤髪の男の足首が高速で回転しているという点。
いや、正確に言うならば、回転しているのは足首に巻かれたナットのような金属だ。

そして腕。

今まで羽織った黒布で隠されていたので解らなかったが、肩から先が無骨な機械によって包まれている。
肘に当たる部分から、蒸気のような白い煙が勢いよく吐き出されていた。



122: ◆BYUt189CYA :2007/10/02(火) 21:21:29.04 ID:8X8P7LJL0
メ(リ゚ ー゚ノリ「ハハ、おもしれぇだろ?
      この世界に来る前に戦った、ある女の武器からヒントを得て作ったんだけどな。
      これがなかなか使いやすくて気に入ってんだわ」

ハ(リメ -゚ノリ「女……?」

メ(リ゚ ー゚ノリ「おぅ、不死――」

『おぉぉぉ!』

言葉を遮り、赤いEMAが身を回して赤髪の男を振り落とす。
空中へと放り出された男は、しかし姿勢を整え

メ(リ゚ ー゚ノリ「っとぉ、あっぶねぇな。
      これだから人間は野蛮なんて呼ばれんだよ」

宙に浮かんだ。

ハ(リ;メ -゚ノリ「…………」

おそらく足首の回転運動が生み出す浮力を利用しているのだろう。
事実、男の両足先には高速で風が渦巻いているのが目視出来る。

問題は、その機構にどれほどの技術が詰め込まれているのか、だ。



124: ◆BYUt189CYA :2007/10/02(火) 21:23:32.72 ID:8X8P7LJL0
『ミツキ、考えている暇はないぞ』

ハ(リメ -゚ノリ「解ってる。 けど、嫌な予感がするんだ」

『相変わらず臆病――いや、慎重な奴だな。
 やってみなければ解らんこともあるのさ……!』

ハ(リ;メ -゚ノリ「ミカヅキ、待つんだ!」

制止の言葉を振り切るように、赤いEMAが動き始める。

稼働は一瞬。
駆動音と同時にブースターに光が灯った。
同時、蓄えられた魔力が、EMAという機体の持つ重量を一気に押し出す。

爆発的な推力と共に放たれるのは、『先の先』を獲るための神速二刀剣。


単純な理屈だ。
如何なる力を持った相手だとしても、反応出来ない速度で斬りつければ勝負は決する。
力とは結局のところ力であり、しかし表に出なければ無力に等しい。

故にミカヅキは速度を選んだ。

何者さえも追いつけぬ速度さえあれば、それこそ最強なのだ、と。
事実、速度重視にカスタマイズされたEMAに乗ってからは無敗を誇っていた。



127: ◆BYUt189CYA :2007/10/02(火) 21:24:46.88 ID:8X8P7LJL0
しかし、だからこそミカヅキは失念している。

速度的な意味での最強となった彼は、多大な自信と引き換えに――

『――はぁぁ!!』

高々に響く剣音。

赤髪の男との間にあった、数十メートルという空間を一息で無にする。
無論、その先にいた不敵に笑う男など障害にさえならない。

ハ(リメ -゚ノリ「やった、か……?」

結果を見たミツキは、しかし疑問を放った。
先ほどまで確かにいたはずの赤髪の男が消えているのだ。

おそらくは弾き飛ばされたのだろう。
あの突撃を正面から喰らい、平然としていられるとは思えない。



129: ◆BYUt189CYA :2007/10/02(火) 21:26:30.75 ID:8X8P7LJL0
ハ(リメ -゚ノリ(でも奴は『異獣』を名乗った……死体を確認するまで安心は出来ない)

すぐさまEMAのコンソールを操作――与えた衝撃を計算する。
吹っ飛んだと思われる先を予測し、その周囲を重点的に走査した。

『――ッ!?』

ノイズと異音が聞こえたのは直後。
しかも、まったく想像していなかった方角からだ。

何事かと視線を向けた先では

ハ(リ;メ -゚ノリ「っ!?」

斬撃を見舞ったはずの赤いEMAが、その巨体を震わせている光景。

それだけではない。
機体の胸部には

メ(リ゚ ー゚ノリ「よいしょーっと! あらよっと!」


笑いながら、素手で装甲を『剥がしている』赤髪の男の姿があった。



133: ◆BYUt189CYA :2007/10/02(火) 21:28:31.59 ID:8X8P7LJL0
『き、貴様……!?』

メ(リ゚ ー゚ノリ「いやぁ残念だったねぇ、あれくらいじゃ俺は殺せないのさ」

その間にも、めき、という金属がひしゃげる音が響き続ける。
左手をEMAの首元に引っ掛け、右手で次々と装甲を剥がしている姿はまるで――

いや、比喩など不可能。

あの男が行っている所業は、それこそ類を見ない未曾有の暴挙である。

『どけ!』

ミカヅキが赤髪の男を引き剥がそうとするが、それも敵わず。
しかも身軽に回避していくついでに、その反動で更に装甲を『分解』していく始末だ。

ハ(リ;メ -゚ノリ「ミカヅキ、すぐ助けに――」

『近付くな!』

ハ(リ;メ -゚ノリ「!」

『もう間n――』

全ての言葉を聞く前に通信が途切れた。
いや、通信するための機材が破壊されたのだろう。

遂に赤髪の男が、胸部装甲を引き剥がしてコックピットを露出させたのだ。



135: ◆BYUt189CYA :2007/10/02(火) 21:30:22.62 ID:8X8P7LJL0
メ(リ゚ ー゚ノリ「はぁい、初めまして」

(;メ _)「EMAの装甲を……化物め!」

もはや電子上の会話ではない。
一方は獲物を前にした笑みを浮かべ、一方は最大限の警戒の色を見せる。

ミカヅキの腕は、既にレバーを離していた。
腰に吊ってあった銃器に手を伸ばすが

メ(リ゚ ー゚ノリ「おおっと、動いちゃ駄目だぜぇ? 動かなくても撃っちゃうけど」

言いつつ、慌てた様子さえ見せずに機械に包まれた腕を突き出す男。
同時、手首から先が腕の中へと引っ込む。
完成した空洞は、どう見ても銃口だ。

メ(リ゚ ー゚ノリ「素直にこっちの言うことを聞いていれば、もう少し長く生きられたのにな?」

(;メ _)「何が目的なのだ、貴様は……!?」

不可解の一言がミカヅキの頭を巡る。



139: ◆BYUt189CYA :2007/10/02(火) 21:31:50.26 ID:8X8P7LJL0
異獣は世界の敵だ。
ならば、そこに住む人間も敵である。

しかし赤髪の男は『戦いを止めろ』と言った。
まるでここで死なれるのを嫌がっているような、そんな意味をこめて。

メ(リ゚ ー゚ノリ「はっ、アンタが今知ったところでどうしようもねぇさ」

(メ _)「ならばここで刺し違えても――!」

メ(リ゚ ー゚ノリ「あばよ」

閃光。

轟炎。

爆音。

コックピット内に突っ込んでいた腕の先から、何かが飛び出して爆発した。

ハ(リ;メ -゚ノリ「ミカヅキっ!?」

反動で赤髪の男は空中へと投げ出され
主と機能を失った赤いEMAは、そのまま重力に引かれるようにして落下を始める。

ドス黒い煙の尾を引きつつ、森の中へと落下していく様は堕天と言えた。



145: ◆BYUt189CYA :2007/10/02(火) 21:33:23.92 ID:8X8P7LJL0
ハ(リ;メ -゚ノリ「ミカヅキ……!? おい、返事をしろ!!」

返ってくるのは沈黙。
直後、何か重い物体が墜落した音が響いた。

ハ(リ;メ -゚ノリ「ミ、ミカヅキ……!?」

メ(リ゚ ー゚ノリ「おっと、ちょっと火力が強すぎたかぁ?
      ま、コックピットを換装すりゃあ使えるでしょ」

ハ(リ#メ -゚ノリ「貴様ぁぁぁぁ!!」

メ(リ゚ ー゚ノリ「おいおい、感謝くらいはしてくれよ。
      アンタを殺そうとした男を殺してやったんだぜ?」

ハ(リ#メ -゚ノリ「そこを動くなッ!!」

薙刀を構え、一気に押し出す。
フレームや機構が軋みを挙げるが、それを無視して赤髪の男へと向かう。

どうせあと数分で動けなくなるのだ。
ならば、それまでにあの男を落とすことに全身全霊を――

メ(リ゚ ー゚ノリ「いいねぇ、熱血だねぇ、俺そういうの嫌いじゃないよ?」

ハ(リ#メ -゚ノリ「その笑みがぁぁぁ!!」

ブーストの出力を最大にすると同時、全力を以って武器を振るう。
EMAの耐えられる限界を軽く超えた速度は、薙刀の先端から水蒸気の尾を引かせた。



149: ◆BYUt189CYA :2007/10/02(火) 21:34:50.62 ID:8X8P7LJL0
メ(リ゚ ー゚ノリ「はン」

言葉を残し、男が消え、刃が通過していく。

耳障りな音が響いたのは直後。
続いて、真上から太陽の光が降り注いだ。

メ(リ゚ ー゚ノリ「おっす、初めまして! オラ、ごk――って、お?」

ハ(リ;メ -゚ノリ「……!!」

ミツキは先を読んでいた。
赤髪の男が、このEMAの装甲をも剥がしにかかるだろう、と。

機体の損傷を最小限に抑えたいのならば、搭乗者を直接殺すのが手っ取り早い。
ミカヅキの時の『火力が強すぎた』という発言から、もっと小規模な砲撃のはずだったのだろうが。

ともかく、あの男が動きを止めるのは今。
装甲を剥がし、腕に作った銃口を向ける瞬間だ。

故に、ミツキはレバーを離していた。
腰にある魔法武器であるブレードを抜き放ち、覗かせた男の顔面へと突き出していたのだ。



153: ◆BYUt189CYA :2007/10/02(火) 21:36:11.80 ID:8X8P7LJL0
メ(リ゚ ー゚ノリ「わぉ!?」

それは首を掠るのみに終わる。
偶然か、それとも男の持ち得る超反応故か。

果たしてどちらなのかという答えを、ミツキは永遠に知ることはなかった。

メ(リ゚ ー゚ノリ「あらら、惜しかったねぇ……いや、悪くはないと思うよ?
      単純に相手が悪かっただけさ」

ハ(リ;メ -゚ノリ「くそっ……くそっ!!」

メ(リ゚ ー゚ノリ「んじゃ、さよなら」

ハ(リ;メ -゚ノリ(レモナ――!!)

腕の先が光る。
それが最大限まで高められ、熱を感じた時。


ミツキの意識は、テレビを消すかのような儚さを以って黒色に染められることとなった。



156: ◆BYUt189CYA :2007/10/02(火) 21:37:41.37 ID:8X8P7LJL0
爆発する。
今度は、青いEMAが墜落していく。
先ほど赤いEMAが落ちた地点とは、少し離れた場所へと。

その光景を、森の中にいた全員が見届けることとなった。


魔法世界の技術の粋を集めて作り上げたはずの。
見るからに強力そうな人型兵器の、しかしあっさりと撃墜される様を。


無論、レモナもそれを目撃していた。

|゚ノ;^∀^)「あ……あぁ――!?」

(;´∀`)「そんな、ミツキさん!?」

|゚ノ;^∀^)「う、嘘よ……ミカヅキ様が、ミツキがやられるなんて……嘘に決まって……」

現実だ。
目で見た光景こそが、事実以外に他ならない。

魔法世界で名を馳せた二人の男は、取り合えるはずの手を取らぬまま散っていくこととなったのだ。

|゚ノ ;∀;)「死ぬわけないじゃない……あんなに強い二人が、死ぬなんて――」



161: ◆BYUt189CYA :2007/10/02(火) 21:38:59.67 ID:8X8P7LJL0
ざわめく風の中、音が聞こえてくる。

男の笑い声だ。
見上げれば、赤髪の男が両腕を仰ぐように広げて身を震わせている。

事実だと言わんばかりに。
ミカヅキとミツキは、自分が殺したのだと言わんばかりに。

音は歓喜の声に等しい。
そして、それは二人の死を証明しているようなものだった。

(;´∀`)「……レモナ」

|゚ノ ;∀;)「いや、いやよ……」

肘で耳を塞ぐようにして頭を抱え



|゚ノ ;∀;)「いやああああぁぁぁぁぁぁぁ!!」



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