( ^ω^)ブーンと川 ゚ -゚)クーは抗い護るようです

6: ◆BYUt189CYA :2007/10/09(火) 20:03:06.33 ID:BvYZC0rc0
活動グループ別現状一覧

( ・∀・) (,,゚Д゚) (*゚ー゚) ミ,,"Д゚彡 ( ´_ゝ`) (´<_` )
(`・ω・´) <_プー゚)フ (#゚;;-゚) [゚д゚] ( ゚д゚ ) ノハ#゚  ゚) 
从・∀・ノ!リ ( ><) (*‘ω‘ *) |゚ノ ^∀^) lw´‐ _‐ノv
所属:四世界
位置:オーストラリア・世界政府本部
状況:強襲中

( <●><●>) |(●),  、(●)、| / ゚、。 /
( ̄ー ̄) ( ^Д^) (゜3゜) ,(・)(・), ┗(^o^ )┓ \(^o^)/ |  ^o^ |  ( ´∀`)
( ^ω^) 川 ゚ -゚) ('A`) (´・ω・`) ( ゚∀゚) ('、`*川 从'ー'从 川 -川 <ヽ`∀´>
所属:世界運営政府
位置:オーストラリア・世界政府本部
状況:迎撃中

メ(リ゚ ー゚ノリ 〈/i(iφ-゚ノii
所属:異獣
位置:オーストラリア・世界政府本部
状況:???



9: ◆BYUt189CYA :2007/10/09(火) 20:05:47.77 ID:BvYZC0rc0
第三十九話 『道の果てに見たものは』

/ ゚、。 /「――がっ、ふ」

こみ上げて来る不快感。
そして同時に、血の塊が口から吐き出された。

/ ゚、。 /「お、前は……」

意識は当然のようにある。
胸を貫かれた程度で、すぐに絶命するような身体ではなかった。

傷を負ったことに関しては特に何も思わない。
気付かれずに背後に立たれた、という事実こそが最大の問題である。


从ξ゚ -゚ノリ「…………」


背後に寄り添っていたのは一人の少女だった。

そして抱き締めるようにして握っている『黒い大鎌』で、ダイオードの背中を突き刺している。
雰囲気としては矮小であるが、だからこその異常にダイオードは笑みを浮かべた。



10: ◆BYUt189CYA :2007/10/09(火) 20:08:00.90 ID:BvYZC0rc0
/ ゚、。 /「お前、異獣か……?
      ふン……だとすれば、我らが思っていたよりも早かったよう、だな」

从ξ゚ -゚ノリ「…………」

答えはない。
しかし応じる動きとして、大鎌がゆっくりと引き抜かれる。
それはダイオードの胸中を蹂躙するような動きで、細胞や血管を削ぎ取るような。

(#゚;;-゚)「ダイオードっ!?」

やっと異常を認識したのだろう。
前方から、軍神の驚愕した声が耳に飛んできた。

/ ゚、。 /「手を出すなよ、軍神……!」

(#゚;;-゚)「何を――」

/ ゚、。 /「コレは――私の待ち望んだ、獲物さ……っ」

苦しげな声とは裏腹に、素早く身を翻すダイオード。
しかし大怪我は大怪我だ。
如何に彼女が超人だとしても、地面に散る鮮血はどうしようもない。

/ ゚、。 /「ふン、この程度のハンデなど……掛かってこい、異獣……!」

从ξ゚ -゚ノリ「…………」

構えられた黒い巨剣と、黒い大鎌。
対比のようであり、しかし同属のような雰囲気だ。



13: ◆BYUt189CYA :2007/10/09(火) 20:09:58.88 ID:BvYZC0rc0
(;゚д゚ )「何だ、あの女は? ダイオードにあんな容易く一撃を入れるなど……」

(´<_`;)(あの外見、まさかとは思うが――)

( ・∀・)「…………」

(#゚;;-゚)「……ッ」

静観を決め込んだモララーとは裏腹に、軍神は吐き捨てるような吐息を残して顔を背けた。
もはや結果が見えている、と言わんばかりに。

それもそのはず。

この時点で勝負は決しているのだ。

胸部を刺し抜かれたダイオードと、無傷の少女。
構えられた得物、そして両者の身体から滲み出る気配。
いくらダイオードが超人であろうとも、対する少女もまた超人であれば結果は明白。

武装的に、身体的に、精神的に――

そのどれかが劣っている方が、負ける。



16: ◆BYUt189CYA :2007/10/09(火) 20:12:00.89 ID:BvYZC0rc0
/ ゚、。 /「ッ!」

まず攻めたのはダイオードだ。
リズムよく胸から血を噴き出しつつも、彼女は低い姿勢で走る。

薙ぐ黒閃。

しかし当たらない。
少女は、ふわり、という音が聞こえてくるような軽いステップで後退した。

/ ゚、。 /「だが、そこが……!」

黒剣の切っ先を向け

【GU−EX/Lo 『砕』】

かつて軍神の知人――つまりレモナの父が用いていた武装を発動させる。
一瞬の震動後に放たれたのは高密度の魔力弾。
未だ着地姿勢の少女目掛けて、周囲物質を『砕き』ながら走り

着弾、続いて轟音。

効果範囲内の全ての物質を粉砕しつつ、光は少し大きな半円を描いた。

文字通り粉々となりつつある様々な物質が砂塵と化す。
砂塵は衝撃波に乗り、周囲に撒き散らされることとなった。



19: ◆BYUt189CYA :2007/10/09(火) 20:13:54.94 ID:BvYZC0rc0
(;´_ゝ`)「うぉ……!?」

その迫力たるや、先ほどまでの比ではない。
速度も威力も容赦も何もかもが段違いだ。

(;゚д゚ )(これが、ダイオードの……!)

そこにかつて見た面影は無く。
ヒートと自分の面倒を見てくれた騎士は何処にもいなかった。
在るのは歯を剥き、加減無き攻撃を続ける悪鬼。

もう戻れないのか、思うと同時、最初から違ったのだ、と悟らされる光景だった。

/ ゚、。 /「これで片足か片腕はもらった、か」

手応えはあった。
いや、あるように攻撃した、が正しい。

初撃から本気であった。
異獣相手に加減は無用。
『奴ら』は人間ではなく、そして生物として見てもいけない存在だ。

/ ゚、。 /(……いや、それは私も同じか)

巨剣を、そして血を流す胸元を見て思う。
既に身は朽ちてもおかしくないはずなのに、未だ活動していること自体が人間ではない証拠だろう。
今も刻一刻と命が削られているのだが、それに対する焦燥はまったくない。



22: ◆BYUt189CYA :2007/10/09(火) 20:15:40.27 ID:BvYZC0rc0
駆ける。
向かう先は灰色の煙だ。
未だ内部にいるはずの少女に、更なる攻撃を加えるため走る。

相手が軍神や他の者ならば、その姿が見えるまで待機もありえただろう。

しかし今回は別格のケースだ。
加減などすれば、逆にこちらが狩られてしまう。

奴を人だと思うな。
人の形をしていても、中身は別物。

こちらも人を捨てた身なれば、同情も容赦も在ってはならない。

/ ゚、。 /「――!」

その時だった。
進む視界がスローとなり、ふとした感情が頭に浮かぶ。
それは今まで一度も考えた事のない思いであり

/ ゚、。 /(いつからだろう……人としての何かを失ったのは)

異獣と接触したが故に出た疑問だった。


だからこそ、ダイオードは触れてはならない記憶に手を出してしまう。



28: ◆BYUt189CYA :2007/10/09(火) 20:17:47.20 ID:BvYZC0rc0
/ ゚、。 /(……? いつだ?
      私はいつ生まれた? 何をして育った? 誰と会った……?)

無い。
憶えているはずの記憶が無い。
在るのは、ただただ人を斬り殺した記憶だけ。

しかし確信がある。

何か、大切なモノを忘れてしまっているような――

その時、砂塵が動いた。
深い思考に入ろうとしていたダイオードは、対する反応が一瞬だけ遅れてしまう。


――致命的だった。


灰色の煙を突き破って伸びるは黒色の線。
先端には鋭利な刃を持つ鎌頭。

端的に言えば、少女の持つ大鎌の柄が伸びているのだ。



31: ◆BYUt189CYA :2007/10/09(火) 20:20:10.00 ID:BvYZC0rc0
自然と重心が遠くなり、その分だけ扱い難くなるものの、遠心力の力を充分に受けられる形状。

その刃が走る。
ようやくそこでダイオードが状況を理解し、防御するために剣を構えるが――

轟。

鎌は言うまでもなく切断するための武器である。
刃は敵の防御を掻い潜り、引っ掛けるようにして斬り裂くための形状だ。

ただ、剣の腹を向けるだけの防御で防げる代物ではなく

/ ゚、。 /「ぐっ――あ!?」

結果として次の瞬間、ダイオードの右腕が地面へと落ちることとなる。

(;´_ゝ`)「うぉ!?」

(;゚д゚ )「ダイオード!!」

どちゃ、という粘着質な音に、がしゃ、と重い金属が落ちる音が被さった。



37: ◆BYUt189CYA :2007/10/09(火) 20:22:25.72 ID:BvYZC0rc0
从ξ゚ -゚ノリ「…………」

晴れかけた煙から少女が飛び出す。
伸ばした柄を元の長さに縮めつつ、ダイオードにトドメを刺すため鎌を振りかぶった。

/ ゚、。 /「くっ!」

腕を拾う暇はなかった。
全力を以って退避する。
ただし、心の内に出現した違和感をも引き連れて。

/ ゚、。 /(何、だ……これは――)

鎌を持った少女ではない。
頭の中に浮かんでくる、覚えのない景色のことだ。


背の丈ほどあるランスを背負った女――

こちらを見上げる三人の制服を着た男女――

暗い何処かの台座に刺さる黒色の巨剣――


/ ゚、。 /「あ……!? うぁ!?」

ヒビが入ったような激痛が脳に走る。
何か思い出すべき、しかし思い出してはならない記憶が引き摺り出されようとしていた。



43: ◆BYUt189CYA :2007/10/09(火) 20:25:13.94 ID:BvYZC0rc0
/ ゚、。 /「何なんだこれは!? 私は何を知って――」

言葉は続かない。

鈍い音と共に衝撃が走った。
上半身を蹂躙したそれは、肋骨と内部の臓器を容易く断ち切る。
視線を下げれば脇腹に、深々と刃が抉り込まれている光景が目に入った。

/ ゚、。 /「がふっ」

从ξ゚ -゚ノリ「…………」

痛いというよりも、熱かった。
切断面に触れる刃は氷のように冷たいはずなのに、感じる熱は酷く高い。

喉元を上がってきた血塊を拒もうとして、しかし吐き出す。

/ ゚、。 /「げはっ……! がふっごぁ……!?」

声が思うように出ない。

逆流した血液が、食道どころか気道にさえも侵食している。
何より脇腹から上向きに刺さった刃が、肺の片方を破壊していた。



47: ◆BYUt189CYA :2007/10/09(火) 20:27:03.66 ID:BvYZC0rc0
傷は言うまでもなく深い。
下手に動けば上半身が斜めに剥離してしまいそうだった。

普通なら激痛でショック死するはずなのだが、ダイオードの場合はそうもいかない。

身が刺激によって痙攣し、目玉が飛び出そうになる。
しかし意識を失えない。
バチバチと火花が脳裏で散り、その度に気の狂いそうな不快感が身を襲った。

/ ゚、 /(――――っ――?)

神経が焼き切れそうな高熱の中で、ダイオードは一つの記憶の扉を開く。
死に瀕したが故に開いたのか、それとも今まで開こうとしなかっただけなのか。

どちらにせよ、ダイオードは自らが封印していた真実――過去を知ることとなった。

/ ゚、 /(これ……は――っ?)

それは素晴らしい記憶だった。
今までの記憶など、比較することすら恥と思えるほどの。

ライバルがいて、己を慕ってくれる人がいて、己もまた慕う人がいて。
見るも美しい都市に住み、毎日のように皆と顔を合わせて切磋琢磨した日々。

何故、このような素晴らしきものを忘れていたのか、と思った。
忘れていた自分を呪いたい、とさえ思った。



53: ◆BYUt189CYA :2007/10/09(火) 20:28:37.15 ID:BvYZC0rc0
/ 、 /「あ”――あ”ぁ”」

機能を失った目の奥に熱を感じつつ、しかし出た声は不気味な呻き。
もはや感動の声さえも表わすことが出来ない。

それがとても悲しくて、しかし思い出せたことが嬉しくて。

身体の内から際限無く溢れる血に混ざり、一筋の透明な液体が流れたのは誰も見ることが出来ず。
結果、その意味を知るのはダイオード本人だけとなる。

あぁ、と溜息を吐きたかったが、出てきたのは血の塊だけだった。
クリアとなった頭で、やっと思い出せた記憶と現状を吟味する。

/ 、 /(あぁ、私は約束を、果たせなかったのだな……。
      酷く、歪に寄り道ばかりして――まったく、情けない……)

身を動かそうとし、バランスを崩して仰向けに倒れる。
もはや彼女は起き上がることさえも諦め、最後の一回とばかりに深く息を吸った。

/ 、 /「ツー……ハ、イン……ジョr、ジュ……」

それは誰かの名前で

/ 、 /「そし……t、……クー、ルヴァ、ロn……また、いt――――」

一息で吐かれた言葉は血にまみれ、幸か不幸か周囲の人間に伝わることはなかった。



55: ◆BYUt189CYA :2007/10/09(火) 20:30:25.28 ID:BvYZC0rc0
力が抜けたかのようにダイオードの身体が沈む。
心臓から発せられるはずの鼓動が止まり、彼女の死を如実に表現しようとしていた。

(;゚д゚ )「ダ、ダイ、オード……?」

(#゚;;-゚)「…………」

問いかけに答えなどあるわけもなく。
軍神は、その呆気ない死に様を目に焼き付けるように睨み続けた。


ここに一人の騎士が死ぬ。


過去を捨て、しかし過去の何かのために戦っていたはずの彼女は、いつしか酷く歪んでしまう。
敗者の代表という名の勝者になり続け、強き者をひたすらに求め続ける生き様は血に汚れてしまっていた。

その人生は決して誇って良いものではなく、そして過去にも誇れないもので。
何故かと問われれば、対する答えは一つであろう。

――約束を、守れなかったから。

かつて果たそうとしたそれは、彼女にとって何よりも最優先すべきものだったのだ。
しかし徐々に歪んでいく未来に絶望し、叶うことはないのだと悟ってしまう。



59: ◆BYUt189CYA :2007/10/09(火) 20:31:52.89 ID:BvYZC0rc0
だから彼女は、いつしか記憶を自身の根底に封印した。

約束などという記憶が無ければ、彼女に残る目的は『強くなること』だけだったのだから。
後は黒い巨剣――ブロスティークに身を委ね、ただ秩序のためにと戦うだけでいい。
やるべきことを忘れ、戦いに明け暮れた人生は確かに虚しいものである。
だが――

/ ー /「――――」

だが、約束を果たそうとして走った記憶は、決して間違いではないのだ。


ここに一人の騎士が死んだ。


顔は生き様を示すかのように血に塗れ。
しかし安堵したかのように、その表情には安らかな色が満ちている。


今際の際に思い出した大切な記憶と共に、彼女――ダイオードは静かに散っていった。



62: ◆BYUt189CYA :2007/10/09(火) 20:33:29.77 ID:BvYZC0rc0
いつの間にか音は止んでいた。
世界政府本部入口、白い庭園のような場所は沈黙に包まれている。

そこにいる人間を一人減らしたまま。

( ゚д゚ )「ダイオード……」

彼女に何があったのかを知ることは出来ない。

ただ、確かに何かがあったのだ。
ミルナに会う前――それこそ英雄になる前から何かがあったのだ。

( ゚д゚ )(アンタは一体誰だったんだ……?)

もはや届かない問いかけは心の内に虚しく響くのみ。
その答えを、ミルナは最期まで知ることはなかった。



67: ◆BYUt189CYA :2007/10/09(火) 20:34:49.66 ID:BvYZC0rc0
( ・∀・)「――さて」

ダイオードの死を遠目に確認し、モララーは緊張を解かずに吐息する。
その視線は、一人の少女へと向いていた。

从ξ゚ -゚ノリ「…………」

美しい銀髪。
そして前髪に垂れる一房の金の色。
背丈は少女といえる低さで、しかし手に持つ漆黒の鎌は大きい。

変わったようで何も変わっていない現状に、全員が再度緊張を纏う。
確かに彼女はダイオードを葬ってくれはしたが、味方と楽観することは出来ないのだ。

最悪、強大な敵が更に強大な敵に替わっただけ、という状況になる。

( ・∀・)(そして何より――)

初めて見るはずなのだが、どこか覚えがあるような既視感があった。
まだ確信はもてないが、『きっとそうなのだろう』と思わせる何か。
その確認と牽制の意味を含めてモララーが問う。

( ・∀・)「……君は誰かね?
     と言っても、ダイオードが言っていたわけだが」

異獣。
ダイオードは、確かにそう言っていた。



75: ◆BYUt189CYA :2007/10/09(火) 20:36:29.30 ID:BvYZC0rc0
从ξ゚ -゚ノリ「…………」

しかし答えはない。
手に握る大鎌を手持無沙汰に揺らし、虚ろな目でこちらを見ている。
興味があるのかないのか、もしくは興味を見出そうとしているのか。

対し、軍神達は睨むまま動けない。
手負いとはいえ、あのダイオードを葬った張本人だ。

数十病ほど睨み合いが続き

从ξ゚ -゚ノリ「…………」

突如として銀髪の女が身を翻すことで、緊張が最大まで高められた。

(;゚д゚ )「!」

(;´_ゝ`)「……って、え?」

しかし攻防は始まらない。
銀髪の女は、背を向けて世界政府本部へと入っていったのだ。

残ったのは風の音。

『眼中にない』と言わんばかりに、彼女はただの一度も振り返ることはなかった。



81: ◆BYUt189CYA :2007/10/09(火) 20:37:56.47 ID:BvYZC0rc0
張り詰めた空気がある。
常人には出し得ないそれは、一流の戦士のみに許される雰囲気だ。
経験と技術に裏付けされた空気は、更に更にと限りを知らずに重圧を増していく。

ここは世界政府本部最上階――の、一階下に存在する広い部屋。
普段は会議室として使われる室内には、未だ巨大なテーブルが一つ残っていた。

そこに三つの人影がある。

大中小と段々に背が変化している、しかしまったく同じ表情を持つ三人の男。

┗(^o^ )┓「…………」

\(^o^)/「…………」

|  ^o^ |「…………」

姓に同じ言葉を冠した三つ子――クン三兄弟だ。

弓、槍、剣の三武具をそれぞれ持ち
単体だけでも歴史に名を残せるような、それほどまでの強さを持つ英雄である。

持つ信念は、他の者に比べても異常に堅く冷たい。
ある時はヒートとミルナを鍛え、ある時は容赦なく彼らの敵となれる。

その理由を『真の意味』で知る者は極少数であった。



86: ◆BYUt189CYA :2007/10/09(火) 20:39:28.49 ID:BvYZC0rc0
┗(^o^ )┓「……そろそろ、ですか」

末っ子であるジュカイが呟いた。
既に背の剣は抜き放たれている。
それが、彼の警戒心の強さを如実に表していた。

\(^o^)/「…………」

黙って応答するのは次男オワタ。
細目を更に細め、室内全てに全神経を行き渡らせている。
弟と同じように、その手には槍が握られていた。

|  ^o^ |「油断は禁物ですよ」

諭すような口調で言うのは長男ブーム。
二人を前衛に置いた彼は、その背後で弓を構えていた。
どこから現れても対処出来るように、視線が室内を這い回る。

非常に珍しい光景であることは言うまでもない。
クン三兄弟を詳しく知る者ならば、おそらく驚きを隠せないだろう。

あの三人が、余裕というものを完全に捨てているのだ。

彼らは果たして何を待っているのか、などという問い掛けに意味はない。
クン三兄弟は戦士であり英雄なのだ。

待つべき者など、敵意外に他ならない。



89: ◆BYUt189CYA :2007/10/09(火) 20:40:49.23 ID:BvYZC0rc0
そして、来る。
三兄弟が緊張して待ち受ける程の敵が、来る。

「「――!」」

張り詰める緊張。
続いて響いたのは扉の音で、敵が堂々と正面から乗り込んできたことを証明する。
『敵ながら天晴』とジュカイが呟き、オワタの口元に笑みが浮かんだ。

ヒールの床を叩く高い音が、秒を刻むかのように規則的に響き、こちらに近付いてくる。
遠い闇から浮き出るようにして現れたのは


ル(i|゚ ー゚ノリ「ふむ……お前達が最後の関門かな?」


青髪の女である。
腰に一本の白い刀を吊った彼女は、赤髪の男と共に行動する『何か』。

二機のEMAを墜とした彼と同じく、人ではない能力を持つのは明白であった。



94: ◆BYUt189CYA :2007/10/09(火) 20:42:09.25 ID:BvYZC0rc0
┗(^o^ )┓「貴女も異獣の一人ですね?
       最上階にある、世界交差を実行するための装置を奪いに来た、と」

ル(i|゚ ー゚ノリ「相違無い」

\(^o^)/「それは世界を食らうため」

ル(i|゚ ー゚ノリ「時が来たということさ」

|  ^o^ |「しかし正面から乗り込むとは……意外とフェアなのですね」

ル(i|゚ ー゚ノリ「む? 勘違いしてもらっては困る」

首を振る女。
笑みを浮かべ

ル(i|゚ ー゚ノリ「フェアだとかそういう問題ではない。
      こちらからすれば、コソコソ隠れて侵入する意味などまったくないのでね」

言葉に、クン三兄弟の表情が硬くなる。
『真正面からぶつかっても負けることはない』と言っているようなものだ。
彼らのプライドを逆撫でするには充分なコメントである。



100: ◆BYUt189CYA :2007/10/09(火) 20:43:27.26 ID:BvYZC0rc0
ル(i|゚ ー゚ノリ「さて、通してもらおうか?」

┗(^o^ )┓「黙って通すとでも?」

ル(i|゚ ー゚ノリ「あぁ、すまん。 そういう意味で問うたのではないのだ」

すら、と涼しい音が響いた。
女の手が腰の白い刀を抜き放つ。

ル(i|゚ ー゚ノリ「お前達をさっさと斬り伏せて押し通る、という意味でね。
      時間が勿体ないから始めようか」

\(^o^)/「随分と嘗められたものですね」

|  ^o^ |「後悔させてあげましょうか――!」

高速で三人が散る。
まったくの同じタイミングで、しかし別方向へ。
ジュカイは右方、オワタは左方、ブームは正面から光矢を構える。

三方同時攻撃だ。

一振りの刀しか持たない女にとって、それは防ぎ難い一撃であることは日を見るより明らかである。
通常ならば回避の場面であるのだが

ル(i|゚ ー゚ノリ「ほぅ」

納得の声を出したかと思った瞬間。



104: ◆BYUt189CYA :2007/10/09(火) 20:45:04.64 ID:BvYZC0rc0
┗(^o^ )┓「!?」

\(^o^)/「!!」

弾けるように、両サイドから攻め込もうとしていた二人が引いた。
溜めていた姿勢を崩し、前へと出ていた身体を無理矢理に後退させる。
果たして、その判断は正しかった。

ル(i|゚ ー゚ノリ「流石、といったところか」

言う女の両腕には、今まで存在していなかったはずの物体が握られている。

それは刀。

一振りだけしか持っていなかったはずなのだが、今やそれは六倍に増えていた。
右手左手の指間に三振りずつの合計六振り。
まるで異常に長い爪のように構えられたそれは到底、一見してだけでは刀に見えない。

|  ^o^ |「……どこから」

疑問が出る。
見た限り、彼女の腰には一振り分だけの鞘が吊ってあるのみ。
残りの五振りは何処から出したのか。

ル(i|゚ ー゚ノリ「別に手品ではないぞ?」

右腕を軽く払う。
その一瞬で、握っていた刀は全て消失してしまった。



108: ◆BYUt189CYA :2007/10/09(火) 20:46:27.32 ID:BvYZC0rc0
\(^o^)/「……面白いですが、それだけですね」

ル(i|゚ ー゚ノリ「良い判断だ、英雄。
      注目すべきところをよく解っている」

┗(^o^ )┓「強いか否か。 私達の興味はそこに尽きます」

ル(i|゚ ー゚ノリ「ならば来い。 この私を――いや、異獣を止めてみろ」

女が軽く両手を広げると同時、鋼の音が連鎖した。
それは女を中心にして、段々と波紋のように広がっていく。

冷気にも似た雰囲気。

殺気をそのまま冷やして流したのかと錯覚するほどで、しかし根本的な部分が異なる何か。

┗(^o^ )┓「これは――」

\(^o^)/「…………」

ル(i|゚ ー゚ノリ「流石の英雄とて、これは感じたことのない種類の気配だろう?」

言う間にも気は充満していく。
広い会議室を包みこむようにして、だ。

それは同時に、死刑宣告に等しい響きを持ち合わせていた。



114: ◆BYUt189CYA :2007/10/09(火) 20:47:55.22 ID:BvYZC0rc0
(;゜3゜)「う、うわぁ!?」

田中は、現れた人物に対して思わず叫んでしまった。

ル(i|゚ ー゚ノリ「ほぅ、面白い歓迎の言葉だ」

来るはずがないだろう、と思っていた敵が来てしまったのだ。
思わぬ状況に怯える田中を背後へ退かせ、守備隊長を務めるプギャーが前へ出る。

( ^Д^)「英雄を……突破したというのか」

彼女が出てきた扉が通じるのは階下への階段である。
その先には会議室があり、そこを通らねばこの場に辿り着くことは出来ない。

会議室には守備としてクン三兄弟を置いていたはず。
実力は詳しく知らないが、あの英雄神が一目置く存在である。
生半可な戦力では太刀打ちすら不可能だろう、と思われていたのだが

ル(i|゚ ー゚ノリ「見ての通りだ……あぁ、別に裏技やチートを使ったわけではないぞ?
      正々堂々と戦ったさ。
      で、だ」

笑みを深くし

ル(i|゚ ー゚ノリ「単刀直入に問うが、その先に在るのだな?」



123: ◆BYUt189CYA :2007/10/09(火) 20:49:58.66 ID:BvYZC0rc0
鋭い、しかし余裕に満ちた視線の先には大きく頑丈な鉄扉。
奥にイクヨリがおり、そして世界交差装置が鎮座されているはずだ。

( ^Д^)「あぁ」

ここを守ると誓った以上、嘘を吐く意味はない。
どちらにせよ、あの女を通さないのが仕事だ。

(;゜3゜)「た、隊長……」

( ^Д^)「お前達は下がっていろ。 俺がやる。
     もし俺がやられた時は全力で逃げろ」

両刃の剣を引き抜きつつ、背筋を這う悪寒を自覚する。

予想はしていたが、しかし予想外だった。

クン三兄弟ならば止められると思っていた。
だが、あの女はこちらの予想を遥かに上回る存在らしい。

( ^Д^)(やはり百聞は一見に如かず、というわけだな)

ダイオード達に異獣の手強さは聞いていたが、これほどまでとは思わなかった。

プギャーは己の認識の甘さを悔いる。
悔いたが、すぐに気を取り直して青髪の女を睨んだ。



131: ◆BYUt189CYA :2007/10/09(火) 20:51:29.80 ID:BvYZC0rc0
ル(i|゚ ー゚ノリ「ほぅ」

( ^Д^)「…………」

ル(i|゚ ー゚ノリ「貴様、人間にしては面白いモノを背負っているな。
      ふむ……いや、人だからこそ出せる歪み、と言うべきか?」

( ^Д^)「何の話だ」

ル(i|゚ ー゚ノリ「自覚はあるはずだが。
      貴様は今、この場で死ぬことが出来ないだろう?」

( ^Д^)「……!」

ぎり、と歯を噛む音。
しかし能面のような顔には変化など見られない。
それでも青髪の女は、笑みを更に深めた。

ル(i|゚ ー゚ノリ「その様子では解っているようだな。
       死にたくないではなく、絶対に死ねないということに」

( ^Д^)「……確かに、俺はここで死ぬわけにはいかない。
      だが今は仕事が優先だ」

ル(i|゚ ー゚ノリ「熱心なのは良いことだ。
      しかしよく今まで自制することが出来たな?
      その笑みが証明しているわけだが……成程、人間にしておくには勿体ない」



136: ◆BYUt189CYA :2007/10/09(火) 20:53:20.69 ID:BvYZC0rc0
見透かされている。
いつかの森で出会った魔法世界の少女も、似たようなことを言っていた。
プギャーは異常であるが故に、その目的を果たすまでは死ぬことが出来ないのだ、と。
しかしだからこそ

( ^Д^)「……今ならお前でも倒せるさ」

ル(i|゚ ー゚ノリ「さて、それはどうだろうか?
      秩序も消えつつある現状、未来が貴様を必ず生かすと言い切れるか?
      言い切れるならばそれも良いが、目の前にいる相手を見て考えてみるといい」

異獣。
世界の核――『ルイル』を捕食しつつ世界を巡る病原菌。
果たしてそんな相手に、壊れかけた秩序などが通用するものか。

( ^Д^)「…………」

ル(i|゚ ー゚ノリ「貴様は賢しいな。
      その内に度し難い歪みを抱えつつも、冷静でいられる。
      将来が楽しみ――っと、その将来は既に無いようなものだったな」

おそらく彼女は知っているのだろう。
目的を果たせば、それまで回避してきた分の死が一斉に襲い掛かってくることを。

その点で言えば、プギャーは生きつつも死んでいると言えた。
目的を果たして死ぬことしか出来ないが、果たすまでは死ぬことが出来ない存在。
一方通行の生は、決してまともとは言えないだろう。



141: ◆BYUt189CYA :2007/10/09(火) 20:55:13.76 ID:BvYZC0rc0
しかし

ル(i|゚ ー゚ノリ「ふむ、面白い人間だ」

と、目の前の異獣はプギャーを気に入ったようだった。

( ^Д^)「どう思われようが構わんが……どちらにせよ、ここは通さん」

ル(i|゚ ー゚ノリ「それは困ったな」

本当に迷う様子を見せる女。
困るということは、押し切る選択も選べるということだ。
殺そうと思えば殺せるし、生かせるのなら生かしてやっても良いというレベルなのだろう。

そんな無礼ともいえる気を感じ、プギャーは認識を更に改める。

( ^Д^)(奴らにとって、俺など玩具に等しいのか)

通さないだとかいう話ではないらしい。
青髪の女が押し通るか、通らないか、という二択なのだ。
通るとなれば、行く手を阻む障害は全て消えるだろう。

ル(i|゚ ー゚ノリ「本当に退いてはくれないのか?
      秩序守護者や世界政府につくメリットなど、貴様にはないように思えるが」

( ^Д^)「仕事だ、と言った」

ル(i|゚ ー゚ノリ「成程、我を容易く潰せる男が簡単に鞍替えするわけがないか。
      これは失礼した」



146: ◆BYUt189CYA :2007/10/09(火) 20:57:18.98 ID:BvYZC0rc0
白刀から奏でられる涼音が、プギャーの死を予見させる。

ル(i|゚ ー゚ノリ「非常に惜しいが、道の邪魔になるものは全て除ける主義なのでね」

言っている間に、プギャーは七回ほど『殺された』と確信していた。
青髪の女から発せられる殺気が、こちらの受けられるキャパシティを軽く凌駕しているのだ。
もし彼女が本気で殺す気になれば、それだけでショック死するかもしれないと思えるほどである。

ル(i|゚ ー゚ノリ「出来ることといえば、せめて一瞬で――」


「――ちょいちょい」


死刑を待つような空気の中、間抜けな声が響いた。
その場にいた全員が声の主を探し、しかし見つからずに戸惑う。

「……そこまでされるとイジメかと思うナリだすよ」

語尾で正体に気付いた者が、一斉に足下を見た。

,(・)(・),「ややっ」

そこにいたのはタマネギ、ではなく英雄神である。
いつの間にか、プギャーの足下で寝転がっていた。



156: ◆BYUt189CYA :2007/10/09(火) 20:59:07.91 ID:BvYZC0rc0
ル(i|゚ ー゚ノリ「貴様」

,(・)(・),「待つナリだす」

一歩踏み込んだ女を、小さな手で制す。
そのままプギャーの方へと振り返り

,(・)(・),「というわけで、ここはおいどんに任せて逃げるナリだす」

( ^Д^)「は?」

,(・)(・),「だから逃げろって言ってるナリだす」

つまり、それは

( ^Д^)「……アンタがここを守る、と?」

,(・)(・),「まぁ、守らんとおいどんが死ぬナリだすからね。
    死に物狂いで頑張るナリだすよ、フヒヒ」

矛盾している。
ここを死ぬ気で守りたいのならば、それこそプギャー達も戦力に加えるべきだ。
確かに太刀打ち出来ないまでの絶望的な差があるとしても、囮くらいには使えるのだから。

プギャーの表情から、そんな考えを読み取ったのか

,(・)(・),「生き残れるならば生き残るべきナリだす。
     君はまだ死ぬべきでなく、死にたくもないはずナリだす」



159: ◆BYUt189CYA :2007/10/09(火) 21:00:29.85 ID:BvYZC0rc0
( ^Д^)「だが、ここを死守せねば――」

,(・)(・),「世界政府が落ちても戦いは続くナリだす。
     目の前にいるあの女の正体、君でも何となく解るナリだすね?
     アレの目的を考えれば……ここで生き残るのは価値あることナリだす」

( ^Д^)「――!」

英雄神が何を言わんとしているのか、やっと理解することが出来た。
つまり彼はこう言っているのだ。
世界政府は諦め、次のチャンスを待てと。

( ^Д^)「……解った。 後は任せる」

短く呟き、プギャーは背後の部下へ撤退命令を出した。
青髪の女の気にやられたのか、顔面蒼白の兵達は速やかに退避していく。

(;゜3゜)「隊長……?」

( ^Д^)「英雄神は生き残れと、生き残る価値があると言った。
     俺にはすべきことがある現状、遠慮なく生き残らせてもらう」

信用しているわけではないが、あれほどの男(?)が言うのだ。

何かが無いわけがない。
自分にはきっと、生き残る意味がある。



168: ◆BYUt189CYA :2007/10/09(火) 21:02:13.03 ID:BvYZC0rc0
(;゜3゜)「しかしイクヨリ様が――」

( ^Д^)「世界と個人など天秤に掛けるまでもない。
      確かに恩はあるが、生きていくための地が無ければ意味が無いだろう。
      イクヨリは運が無かった。 それだけだ」

それと、と付け足し

( ^Д^)「別に俺の命令に従う必要はないぞ。
     イクヨリを助けたければ、残っても構わん」

(;゜3゜)「い、いえ……私も自分の命が大事です」

( ^Д^)「それが正常だ」

正常、という言葉がすんなり出たことにプギャーは内心驚いていた。
己は異常であるくせに、正常の何たるかが解っているらしい。
それもまた異常が為せることか、と思い直し

( ^Д^)(だったら遠慮なく生き残らせてもらうさ……モララーを殺すまではな)

胸に決意を秘めたプギャーは、ただの一度も振り返ることなく走っていった。



174: ◆BYUt189CYA :2007/10/09(火) 21:03:44.23 ID:BvYZC0rc0
ル(i|゚ ー゚ノリ「さて」

足音が完全に聞こえなくなった頃。
面倒そうに立ち上がった英雄神を前に、青髪の女は腰に手を当てた。

ル(i|゚ ー゚ノリ「戦う前に一つ話をしよう」

,(・)(・),「話すことなんてないナリだす」

ル(i|゚ ー゚ノリ「そう言うな。
       こちらとしては、貴様の大罪についてハッキリさせておかねばならんのでね」

,(・)(・),「……何もかも御見通し、というわけナリだすな?」

ル(i|゚ ー゚ノリ「そういうわけだよ、英雄神――いや、bR『シャーミン』と言った方が早いかな?」

言葉に、英雄神は沈黙を返した。
青髪の女が言った言葉が真実であるが故に、だ。
何かを吟味するような表情を見せ、露骨な溜息を吐く。

,(・)(・),「一体何を知りたいナリだす?」

ル(i|゚ ー゚ノリ「簡単なことさ。 私が問いたいのはたった一つの出来事についての真偽のみ」

笑みを浮かべ

ル(i|゚ ー゚ノリ「英雄世界を作り上げたのは貴様で間違いないな?」



179: ◆BYUt189CYA :2007/10/09(火) 21:05:59.70 ID:BvYZC0rc0
,(・)(・),「……そうナリだす」

ル(i|゚ ー゚ノリ「英雄世界とは、元々は特に取り柄を持たぬ普遍的な世界だった。
      何千年に一度ほどの割合で仙人が生まれる程度の、な。
      理由は知らぬが、そんな世界に目をつけた貴様は一人の仙人と交渉して身を得た……これはどうだ?」

,(・)(・),「…………」

肯定と受け取った女は更に続ける。

ル(i|゚ ー゚ノリ「そして貴様は、固有能力である『英雄の遺伝子』を使用した。
      自身は純正ルイルの中へと入って永久不滅の存在となり、時を待った」

何百という年月を必要としたはずだ。

英雄の遺伝子が浸透するのに三百年。
英雄という存在が認知され始めるのに二百年。
強大な力を持つが故に統率を求められるのに百年。

ル(i|゚ ー゚ノリ「タイミングを見計らい、貴様は英雄達の統率を買って出た。
      民衆からすれば、滅多に姿を見せない仙人が名乗り出たのだ。
      まぁ、信用しないわけがない」

こうしてシャーミンは英雄神となった。

生まれてくる英雄を審査し、その手元へと加え、戦力を蓄えていく。
まるでカードの山札を引いていき、自身の手札へと加えていくような感覚で。



188: ◆BYUt189CYA :2007/10/09(火) 21:08:08.43 ID:BvYZC0rc0
こうなりさえすれば、後は順次生まれてくる英雄達を溜め込んでいくだけだった。
そして、そこで根本的な問いかけが生まれる。

ル(i|゚ ー゚ノリ「何故、そんなことをする必要があったのか」

,(・)(・),「言うまでもないナリだす。
    アンタらに対抗するためナリだす」

ル(i|゚ ー゚ノリ「大罪はそこだよ。
      貴様は、個人の事情で世界丸ごと一つを歪ませた。
      これについて何か言いたいことはあるか?」

,(・)(・),「……特に何も。 こうでもしなければアンタらは止まらんナリだすからな」

ル(i|゚ ー゚ノリ「まぁ、そうされても私達は止まる気など欠片も湧かないのだが」

,(・)(・),「で、そんな遠い過去のことを今更何ナリだすか?
    出来れば、世界改変の罪で処刑、なんてフザけたこと言わんでほしいナリだすが」

ル(i|゚ ー゚ノリ「はは、まさか。 むしろ褒め称えたいくらいだよ。
      己の罪の意識を殺し、世界一つ分の未来を壊滅させ、自分の都合の良い歴史を作ってきた。
      生み出されたのは英雄という、強靭な身体と精神を人為的に植えつけられた戦士達。
      しかもそれが我々に対抗するためとは……嬉しくて涙が出そうだよ」

「…………」

意味を悟ったのか、英雄神の双眸が鋭くなる。



197: ◆BYUt189CYA :2007/10/09(火) 21:10:12.35 ID:BvYZC0rc0
ル(i|゚ ー゚ノリ「礼を言おう、bR。
       我々のために高級な餌をわざわざ用意してくれ――」

金属音が響いた。

ル(i|゚ ー゚ノリ「おやおや」

余裕の笑みに反し、その身体は戦闘体勢を作り上げていた。
腰を落とし、右手に握った白刀を自身の前に据えている。
その刀身にぶつかっているのは英雄神の足だった。

,(・)(・),「確かにおいどんはアンタらのために英雄を作ったナリだす。
    それは否定出来ないし、その罪の深さは死んでも償えないことは解ってるナリだす。
    でも――」

残った片足で刀身を弾き飛ばす。
そのまま縦に回転するように身を回した英雄神は

,(・)(・),「アンタらに食べさせるために英雄を作ったんではないナリだす!!」

身軽さを利用して、身体ごと青髪の女へと突っ込む。

ル(i|゚ ー゚ノリ「過程と結果は異なるものさ……!
      貴様がそういうつもりで英雄を作ったとしても、
      我々にしてみれば、高級な食事を用意してくれていることと同義!」

回避する。
二つのステップを刻んで距離をとった。
しかしさせまいと、英雄神が地を蹴って追う。



203: ◆BYUt189CYA :2007/10/09(火) 21:12:18.81 ID:BvYZC0rc0
,(・)(・),「おいどんの英雄はそんなヤワじゃないナリだす!」

ル(i|゚ ー゚ノリ「確かに、それは認めざるを得ないな。
      あの超保守的な秩序守護者が、わざわざ視察に行ったくらいなのだから」

英雄神の攻撃が一瞬だけ止まった。
その隙に青髪の女は身を翻し、更に距離をとる。

ル(i|゚ ー゚ノリ「私は何でも知っているぞ。
      あのダイオードにbP8『ブロスティーク=E=ミゾーク』を与えたのは、実は貴様ではないと。
      そしてその貴様も、あの剣の出所は知らないのだ、と」

,(・)(・),「……アンタは知ってるナリだすか?」

ル(i|゚ ー゚ノリ「アレは、ダイオードが元いた世界にあったモノだよ。
       私にとってもあそこは馴染みの深い場所でね……よく憶えているのさ。
       まぁ、今回の戦いと貴様にはまったく関係のない話ではあるが」

両者の足が止まった。
英雄神は最上階へと扉の前へと立ち、青髪の女は階下へと扉の前に立つ。
あれだけ立ち回っておきながら、結局両者の位置が変わることはなかった。

ル(i|゚ ー゚ノリ「さて、確認は済んだ。 そろそろ終わりにしよう」

,(・)(・),「アンタにとって、おいどんとはその程度の存在ナリだすか。
     嘗めないでほしいものナリだすね」



206: ◆BYUt189CYA :2007/10/09(火) 21:14:11.31 ID:BvYZC0rc0
ル(i|゚ ー゚ノリ「既に役目を終えようとしている老獪が、何を下らんことを――」

,(・)(・),「でもまだ終わってないナリだす。
    アンタくらいは、ここで消してみせるナリだすよ」

ル(i|゚ ー゚ノリ「はは、成程。 言い得て妙だな。
      ならば同族の好だ――我が能力を用いて消し去ってくれようか」

右手が振られた。
途端、冷たい空気が周囲を急速に満たしていく。
クン三兄弟を襲った、あの気配だ。

,(・)(・),「……!」

ル(i|゚ ー゚ノリ「あぁ、言い忘れていた。
      私自身はbQ0であるが、能力そのものはbP9のものを使用している。
      すまないが、貴様が今想像した事象は起きんよ」

,(・)(・),「bP9――まさか、これは!?」

ル(i|゚ ー゚ノリ「ふふ……この能力の利点は、例え知られていても内容さえ初見であれば必殺足り得るという点だ。
      知識が不足している貴様には、予想は出来ても避けることなど出来まい」

本来、風など吹かない場所に風が舞った。
生き物のように身をうねらせ、まるで意思があるかのように周囲を駆ける。
青髪の女の整った唇から、声という音の美麗な旋律が流れた。

ル(i|゚ ー゚ノリ「さらばだ――我が刃に抱かれて死ぬと良い」

容赦無く、能力を発動させた。



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