( ^ω^)ブーンと川 ゚ -゚)クーは抗い護るようです

7: ◆BYUt189CYA :2007/10/13(土) 20:40:43.49 ID:P3TmrJ1n0
活動グループ別現状一覧

( ^ω^) 川 ゚ -゚) ( ・∀・) (,,゚Д゚) (*゚ー゚) ミ,,"Д゚彡 ( ´_ゝ`) (´<_` )
(`・ω・´) <_プー゚)フ (#゚;;-゚) [゚д゚] ( ゚д゚ ) ノハ#゚  ゚) 
从・∀・ノ!リ ( ><) (*‘ω‘ *) |゚ノ ^∀^) lw´‐ _‐ノv ( ´∀`)
('A`) (´・ω・`) ( ゚∀゚) ('、`*川 从'ー'从 川 -川 <ヽ`∀´>
所属:四世界
位置:オーストラリア・世界政府本部
状況:戦闘中

( ^Д^) (゜3゜)
,(・)(・), ┗(^o^ )┓ \(^o^)/ |  ^o^ |
所属:世界運営政府
位置:オーストラリア・世界政府本部
状況:崩壊

( <●><●>) |(●),  、(●)、|
所属:秩序守護者
位置:???
状況:???

ル(i|゚ ー゚ノリ メ(リ゚ ー゚ノリ 从ξ゚ -゚ノリ 〈/i(iφ-゚ノii
所属:異獣
位置:オーストラリア・世界政府本部
状況:世界交差



12: ◆BYUt189CYA :2007/10/13(土) 20:43:26.78 ID:P3TmrJ1n0
第四十一話 『朽ちる魂、志半ばで』

室内に明かりは無かった。

既に戦いが終わり、敗者が身を倒しているだけの元戦場である。
勝者は既に先へと進み、残るは血と動かない身体のみ。


そこに、新たな影が入ってくる。

重く巨大な扉を押し開き、倒れる音と一緒に何者かが入り込んだのだ。

,(・)(・),「あイテテテ……」

タマネギ。
いや、英雄神――本来の名をbR『シャーミン』といった。
ある平凡な世界を、英雄世界へと作り変えた張本人かつ立役者である。

英雄の神を名乗り、そして自身も英雄以上の強さを身に付けていた。

その彼が、身体中に傷を負って現れる。



15: ◆BYUt189CYA :2007/10/13(土) 20:45:08.72 ID:P3TmrJ1n0
,(・)(・),「いやぁ、やられちゃったナリだす……」

声には余裕が満ち溢れているが、微かに震えていた。

,(・)(・),「で、誰かいる……じゃなくて、生きてるナリだすかー?」

「その御声は……英雄神様ですか?」

応じるように声が来る。
しかし、ここからでは暗闇のため姿を確認することは出来ない。

「生きている、と言えば生きてますね……身体は既に死んでますが」

「ジュカイはまだマシです。
 私など、右足がコマ切りにされたのですよ」

「それは大変ですね」

,(・)(・),「……君らには焦燥感ってのがないナリだすか?」

ともかく、恐ろしいほどの生存執念である。
ミリアからの攻撃を受けた英雄神は、それがどれだけ凄まじいことかを理解していた。

命あることが既に奇跡で、未だそれを保てること自体がありえないことだ、と。



20: ◆BYUt189CYA :2007/10/13(土) 20:47:37.07 ID:P3TmrJ1n0
,(・)(・),「思えば、最初から君らは別格ナリでしたなぁ」

過去のことだ。
まだ英雄の数が、それほど多くなかった時代。

当時、英雄という存在は仙人に等しいとされてきた。
一般の人間から生まれた子供がなれるべくもなく、まさに選ばれた存在だと。

実際はそうではない。
既に世界には、英雄の遺伝子が浸透していたのだ。

が、英雄=仙人という認識が、英雄としての才能の開花を邪魔していたのだ。

そこで英雄神は、英雄という存在を一般に近付けるために弟子をとった。
普通の人間でも努力次第で英雄となれるのだ、と民衆に証明して見せるためである。
そうしてある村から、大変珍しいと話題になったばかりの三つ子が選ばれることとなった。

ただ、それを英雄神は軽く見ていた。

どうせ一般に証明して見せるだけの、簡単な儀式のようなものだ、と。
もし英雄としての才能が無くとも適度に育て上げ、英雄らしく見せられればそれで良い、と。

が、幸か不幸か、英雄神の目論見は容易く打ち破られることとなる。

まだ幼かった三兄弟は英雄神を一目見て、そして口を揃え

――貴方は何なのですか?

と、未だ誰も疑ったことのなかった英雄神の存在を疑ったのだ。



23: ◆BYUt189CYA :2007/10/13(土) 20:50:21.35 ID:P3TmrJ1n0
,(・)(・),「……あん時はホントぶったまげたナリだす、いやマジで」

「いえいえ……ただの偶然ですよ」

,(・)(・),「はは、偶然ならここまで強くなれんナリだすよ。
     君ら本来なら、普通に『神』の称号を与えても良かったんナリだすから」

ジュカイは『剣帝』、オワタは『槍王』、ブームは『狙帝』の業名を授かっていた。
士<師<王<帝<神というランクから見れば、相当の実力者であることが解る。

しかし英雄神は、クン三兄弟ならば更に上の『神』でも構わないと言ったことがあった。
ならば何故、この三兄弟が帝や王のランクにされているのかといえば

,(・)(・),「……そう、君らはキッパリと断ったんナリだすな。
     『上を目指せねば何を目標にして良いか解らなくなる、だから階位を下げてくれ』って。
     いやぁ、あれはあれで可愛かったナリだすなぁ……ははは」

「それを笑い事にしますか貴方は。
 しかし……今でも同じ思いですよ」

「私もオワタに同意します……が、悔しいですね」



27: ◆BYUt189CYA :2007/10/13(土) 20:52:22.81 ID:P3TmrJ1n0
,(・)(・),「何がナリだすか?」

「せっかく、あの異獣という我々を凌駕する強敵と出会えたのですが
 ……このように、情けなく骸を晒す運命のようでして」

「奇跡的に生き残れたとしても……もう、二度と満足には戦えないでしょうね」

「ジュカイ……まだ両腕が辛うじて残っている貴方が言うべきではないかと」

とまぁ、とりあえず彼らの闘争心は失われていなかったようだ。
一番危惧していたことが起きていない事実に、英雄神は内心で安堵する。

,(・)(・),「んじゃあ、五体満足で無事に生き残れたら嬉しいナリだすか……?」

「無論――ですが」

,(・)(・),「解ったナリだす」

「「?」」

,(・)(・),「おいどんが、何とかしてあげるナリだす」

それは意外な言葉だった。
しかし、すぐに彼のやろうとしていることを察した三兄弟は

「お止め下さい。
 私達を助けるということは、貴方が――」

,(・)(・),「……おいどんはもうすぐ消えちゃうナリだす。
    最上階の扉が突破された今、世界交差が行われるのは時間の問題ナリだす」



31: ◆BYUt189CYA :2007/10/13(土) 20:54:20.63 ID:P3TmrJ1n0
「「…………」」

沈黙。
絶対的な自信を持っていた三兄弟は、己の不甲斐無さを噛み締めているのだろう。
あれだけ問題ないと言い張ったくせに今の様は何だ、と。

,(・)(・),「あの時は言えなかったけど、今こそ言うナリだす」

それは消えぬ内に伝えておかなければならない言葉。

,(・)(・),「――異獣を、倒してほしいナリだす」

「それは……貴方が果たすべきでは、ないのでしょうか?」

,(・)(・),「所詮おいどんは立役者ナリだす。
     倒す役は、此度の戦いで生き残った者達ナリだす。
     そしてそれは君らも例外じゃないナリだす」

「……ですが、私達が忠誠を誓うのは貴方だけです」

,(・)(・),「もう大義だとか使命だとか、そういう仰々しいもんで戦う必要はないナリだすよ」

「どういう――」

,(・)(・),「異獣が出てきた今……戦わなければ生き残ることが出来ないナリだす。
     生きたければ、異獣に勝つしかないナリだす」



32: ◆BYUt189CYA :2007/10/13(土) 20:56:07.02 ID:P3TmrJ1n0
,(・)(・),「確かに大層な理由――大義や使命、忠誠などの力は凄まじいナリだすよ。
    でも、最終的に勝負を決するのは『生存本能』だとおいどんは思うナリだす。
    『生きていたい』という願望こそが、何よりも強い力を生むナリだす」

「つまり貴方は、私達に生き恥を晒してまで生を望め、と?」

,(・)(・),「どういう受け取り方をされても構わんナリだす。
    おいどんは最初から異獣の滅びを目的としていたナリ――だす――」

ノイズが入る。
何かが弾けるような音と同時、英雄神の身体が僅かに霞んだ。

,(・)(・),「っと、もう時間がないナリだす。
    強行的に事を運ぶけど、文句言うなら生き残ってからにしてほしいナリだす」

「……それが」

,(・)(・),「うぉー、おいどんの秘められし力よぉー……お?」

「それが貴方の願いなのですね」

問われ、英雄神は少しだけ黙り込む。
何度目かの呼吸を経て

,(・)(・),「君らがおいどんの願いを叶えてくれるのならば、それ以上の喜びはないナリだすよ」



38: ◆BYUt189CYA :2007/10/13(土) 20:57:44.36 ID:P3TmrJ1n0
強烈な発光。

英雄神を中心として、眩い光が部屋を照らす。
壁や天井に反射した光は粒子となり、優しく降り注いだ。

,(・)(・),「んじゃ――さよ――なら――」

英雄の神が消える。
小さな身体に詰め込まれた膨大な力が、雨のように降り注ぐ。

,(・) 「――ナリ――だ――す――」

一陣の風。

「「――!!」」

後には、何も残ることはなかった。

神とまで呼ばれ、崇められた英雄――シャーミン。
その最期を見届けた者の数は、たったの三。

しかし、悪くはない。

その三人こそが、彼が最も信頼していた者達なのだから。



44: ◆BYUt189CYA :2007/10/13(土) 20:59:46.85 ID:P3TmrJ1n0
衝撃と声は同時で、そして何よりも突然であった。

从'ー'从「ハインちゃん!」

从;゚∀从「ほぇあ? うひゃああああ!?」

頑丈な扉を何とか破壊し、牢の中へと一目散に駆け込んだ渡辺は
暗い室内にて呆けていたハインリッヒにタックルで飛び付く。

从;゚∀从「え、えと? 渡辺さん? あれ? 何でここに?」

从'ー'从「今度こそハインちゃんだ!
     良かった、無事だったんだねー」

頭に『?』をたくさん浮かべるハインを余所に、渡辺はもう離さないと抱き締める。

从;゚∀从(あっれー、僕、この人には嫌われてると思ってたのになぁ……)

何せ仲間になった後でも避けられていたのだ。
そう感じていたのはハインだけだったかもしれないのだが、今の彼女にそれを判断する材料はない。
豹変したように見える渡辺に慌てるばかりである。

从;゚∀从「……っていうか、『今度こそ』って?」

从'ー'从「ううん、気にしないでいいよ」



47: ◆BYUt189CYA :2007/10/13(土) 21:01:24.79 ID:P3TmrJ1n0
――ここから回想――

ハインリッヒが捕らえられている場所とは、少し離れた牢。
鍵を無理矢理にこじ開け、渡辺が牢の中に突入する。

从'ー'从「ハインちゃん!」

「う、うおお! 何じゃあ!?」
「ウヒャホーイ! 助けキター!!」
「こんな男くせぇ場所からはすたこらさっさだぜぃ!」

从'ー'从「…………」

中にいたのはハインリッヒではなく、FCの主力部隊の面々であった。
FC襲撃時、あっさりとクン三兄弟に倒された彼らは世界政府に捕らわれていたわけだが
それを覚えてる者は少なかったりする(色々な意味で)。

「っていうか、渡辺さんじゃないっすか!」
「救世主! 救世主! 女神! 女神!」

从・∀・ノ!リ「何じゃこの騒ぎは……」

「うぉ!? よ、幼女だ!!」

从#・∀・ノ!リ「幼女!? 幼女と言ったか!? よし、ちょっと殺す!!」

キャーオタスケーウタナイデーヤメテーイタイヨーキモチイイヨーア、シンダー

――ここまで回想――



52: ◆BYUt189CYA :2007/10/13(土) 21:03:29.01 ID:P3TmrJ1n0
从'ー'从「……色々あったんだよ」

从;゚∀从「そ、それで返り血とか浴びてるんですか……ナムナム」

从;'ー'从「あ、いや、これは関係ないんだけどね、うん」

何やら初々しい空気を醸し出す二人。
両者の関係上、仕方のない話のかもしれない。

从・∀・ノ!リ「ふむ、おぬしがハインリッヒか」

从;゚∀从「え? ど、とちら様ですか?」

从・∀・ノ!リ「そういえばおぬしは我らを知らんかったな。
      一方的に知られるのも気持ち悪かろう。 どれ、軽く自己紹介でもしておくか」

( ><)「この御方はレイン様なんです!
     そして僕はビロードなんです! こっちがチン=ポッポちゃんなんです!
     魔法世界からやって来たんです!」

(*‘ω‘ *)「ぽっぽー」

割り込んできたビロードが先に紹介を済ませてしまう。
邪魔をされたレインは、もちろん頬を膨らませて抗議するが

(;><)「レイン様とハインさんと渡辺さんが並ぶと見難いんです!」

と、ワケの解らない言い訳をするビロードを、レインは脳天直撃チョップで沈める。



56: ◆BYUt189CYA :2007/10/13(土) 21:05:24.17 ID:P3TmrJ1n0
泣きながらチンに慰められるのを傍目に、

从;゚∀从「えと、名前はおkですけど……事情がよく解りませんね。
      何がどうなってるんですか?」

从・∀・ノ!リ「と言っておるが?」

从'ー'从「貞子、産業で」

川 -川「FC襲撃。
     ハインリッヒ様救出。
     不穏な空気」

从;゚∀从「お、おぉ……何やらよく解りませんが、救出の部分は何となく理解しました。
      つまり皆さんが助けに来てくれたんですね?」

从'ー'从「そういうこと。
     で、ハインちゃんは変なことされなかった? すぐに動ける?」

从 ゚∀从「あ、はい! 大丈夫ですこの通り!
      何かちょっと力が抜けてる感じがしますが、問題ないですよ!」

声の調子からして無理はしていないらしい。
すぐにでも走れそうなほど、体力も余っているようだ。

現に今、恐ろしい速度で仲良くなったビロード達と飛び跳ねている。



58: ◆BYUt189CYA :2007/10/13(土) 21:07:34.20 ID:P3TmrJ1n0
从・∀・ノ!リ「しかし何もされなかった、というのも微妙に引っ掛かるのぅ。
      世界政府はハインリッヒを人質としか見ておらんかったのか?」

从'ー'从「……それ以上の価値を見極められなかったみたいだね」

从 ゚∀从「え?」

从'ー'从「ハインちゃん」

从;゚∀从「は、はい」

从'ー'从「貴女は、まだ完全じゃない」

渡辺から放たれたのは意外な言葉だった。
頭に『?』を浮かべるハインリッヒは、恐る恐ると言った様子で

从;゚∀从「完全、ですか?
      それってまさか僕が僕になる前の……?」

一年以上前にもなる戦いの最終局面にて、ハインリッヒは産声を上げた。

『最強』の名を刻まれた、在るはずのなかったウェポンを扱う人造人間。

当事者でありながら話でしか聞いていないという不思議な感覚の中、ハインリッヒはそれを思い浮かべた。



63: ◆BYUt189CYA :2007/10/13(土) 21:09:20.62 ID:P3TmrJ1n0
しかし、渡辺は首を振る。

从'ー'从「ううん、違うよ。
     15th−Wは貴女自身に刻まれた力だから」

从;゚∀从「え? ってことは……どゆことですか?
      僕はあの時の騒動で――」

从'ー'从「うん、でも対異獣用として設定された能力は、まだ発現していないの。
     一年半前の騒動での力は、いわゆる単独戦闘用として設定された非常時の能力だよ」

単独戦闘用。
非常時。
それはつまり――

从'ー'从「そう、貴女には『常時使用すべき力』が存在するの。
     15th−Wでもなく、他のウェポンでもなく、貴女専用の貴女が使うべき力が」

从;゚∀从「ど、どういう……それに何故、貴女が知ってるんですか……?」

从'ー'从「だって、私も貴女を開発した者の一人だもの。
     不滅世界側の研究者として、そして裏では機械世界側の科学者として。
     まぁ、こっち側ではデータを読み取るので精一杯だったけど」

从;゚∀从「僕のデータを……?」

从'ー'从「もちろん機械世界の護国院へと送るために、ね」



66: ◆BYUt189CYA :2007/10/13(土) 21:10:54.36 ID:P3TmrJ1n0
从;゚∀从「ごこくいん?」

从・∀・ノ!リ「護国院といえば、機械世界のアギルト連合軍の中枢か。
      呼んで字の如く『国を護る機関』。
      かつて軍神や風鷲、ロマネスクやニダー、ヘリカル……そしておぬしも所属していた組織じゃな」

(;><)(あ、あぁ! だから貴女達が並ぶと大変なことになるんです! 特に左側が! 左!!)

ビロードの悲痛な声が届くことはない。
彼を放る三人は、ハインリッヒの真実へと踏み入れようとしていた。
しかし

从;゚∀从「う、うわぁ!?」

爆弾が落ちたかと錯覚するほどの大震動が、彼女らを襲った。
ぱらぱら、と天井から埃が落ち、壁が軋みを挙げるのを聞く。

从'ー'从「これ、は――」

从・∀・ノ!リ「む……!!」

思わず膝を折る。
姿勢を低くしても尚、身体を安定出来ない程の強い振動だ。



68: ◆BYUt189CYA :2007/10/13(土) 21:12:52.95 ID:P3TmrJ1n0
从'ー'从「まさかとは思うけど、やっぱり間に合わなかった――?」

あの場所にロマネスクがいたということは、
やはり、少なくとも奴らは更に上に進んでいるということだった。

川 -川「マスター、早急に離脱を。
     建物の強度から考えて、このまま続けば崩壊の恐れがあります」

(;><)「潰れるのは嫌なんです!」

从・∀・ノ!リ「ならば、さっさと逃げるとするか。
       命あっての物種じゃよ」

身を翻し、レインはビロードとチンを連れて牢を出る。
続いて立ち上がった渡辺とハインも、貞子に手を取られて走った。

震動が更に激しくなる。

从・∀・ノ!リ「むぅ……これは全力で降りねばならんか。
       間に合うかのぅ」

と、のん気な声と共に通信機を取り出すレイン。

从・∀・ノ!リ「フサギコ殿、状況は?」

答えとしてノイズが走る。
どうやら電波が、酷く交錯しているらしい。



71: ◆BYUt189CYA :2007/10/13(土) 21:14:37.97 ID:P3TmrJ1n0
ざ、という砂音がしばらく続き

『――インさん――すか!?』

从・∀・ノ!リ「フサギコ殿、外はどうなっておる?」

『こっちも震動が凄くて……っとと! 早く離脱した方がよろしいかと!』

从・∀・ノ!リ「他の者達は?」

『先ほどモララーさんからも連絡があって、全員撤収命令が出ました!
 既に森の中にいた人達は撤収を始めています!
 ただ、モララーさん達は少しの間ですが貴女方を待つと!』

从・∀・ノ!リ「解った。 もしもの時は頼むぞ」

从'ー'从「……間に合わなかったみたいだね。
     おそらくっていうか、確実に最上階は異獣に制圧された」

从・∀・ノ!リ「おぬしはこれを予見していたのか?
       予見していた上で、先にハインリッヒの救出を?」

从'ー'从「あのキリバっていう赤髪の男の正体を知ってから、だけどね。
      よく考えたら、奴らが介入してくるタイミングとしては上出来だから」

从・∀・ノ!リ「ううむ、見事に漁夫の利を獲られたか……そもそも存在が反則じゃろう……ブツブツ」

そう言っている間にも走る。
壁や天井から、崩壊を告げる軋みが響いてきた。



74: ◆BYUt189CYA :2007/10/13(土) 21:16:41.54 ID:P3TmrJ1n0
从;゚∀从「あ、あああの、こう、ふわぁーっと空を飛んで脱出なんて出来ませんかね!?」

从・∀・ノ!リ「出来るのならば走りはせん。
       GIFやEMAが使えん現状、空からの救助も絶望的じゃよ」

一言で切り捨て、更に前へと走った。
嫌な予感がジリジリと迫る。

从;゚∀从「エ、エレベーター的なものは……!?」

从・∀・ノ!リ「死にたければ乗れ。 我は絶対に勘弁じゃ」

突き当りを左へ曲がる。
この先に階段があり、後は一気に最下まで駆けるのみだ。

从・∀・ノ!リ「ふむ、あまり上に上がれなかったことが幸いしたか」

(;><)「!! 危ないんです!」

ビロードの叫びに、全員が上を見上げた。
ヒビ割れた天井が砕け散り、その大小様々な破片の雨を降らす瞬間だった。

从・∀・;ノ!リ「まず――」

从'ー'从「貞子!!」

从;゚∀从「う、うわぁぁぁぁ!?」

その甲高い叫び声さえも、降り注ぐ轟音によって掻き消されることとなった。



76: ◆BYUt189CYA :2007/10/13(土) 21:18:29.73 ID:P3TmrJ1n0
走る音が響く。
靴が白い床を叩き、それが反響しているのだ。

<;ヽ`∀´>「ハァ、ハァ……」

右手にショットガンのような白い銃を構えて走るのはニダー。
まるで逃げるように、息を弾ませて移動していた。

<;ヽ`∀´>「やっぱり、……一筋縄では、いかんニダね……」

呟き、そのまま十字路へと出る。
流れ出る汗を拭って周囲を素早く見渡すが、敵の姿はまだ見えない。

その姿は痛々しいものだった。

右肩と左太腿に真っ赤な染みが出来ている。
顔には痣がいくつか、そして額からは二筋の出血だ。
そして手元に握るゲシュタルトブラスト本体にも、いくつかのヒビが見て取れた。

<;ヽ`∀´>(……まったく、デタラメにも程があるニダ)

場を引き受けたはいいが、反撃すら出来ない状況はどうかと思えた。

しかも先ほどから何度かの震動が床を揺らし、嫌な予感を更に増幅させていく。
何かが起きているのは確実だった。



80: ◆BYUt189CYA :2007/10/13(土) 21:20:34.54 ID:P3TmrJ1n0
<;ヽ`∀´>(考えたくないが、奴がここにいるということは、やはり――)

そこまで言い、ニダーは突如として身を弾いた。
前方へ身体を投げ出し、直後

<;ヽ`∀´>「――!!」

ニダーの背後にあった壁が粉砕した。
大小の破片が、それこそ弾丸のようにニダーを襲う。
顔を守るようにして両腕を上げ、そのまま背中から着地して横転。

素早く視線を巡らせ、破壊された壁から出てくる敵を視界に収める。

〈/i(iφ-゚ノii「…………」

<;ヽ`∀´>「くっ……あの御喋りだったアンタがここまで無口になるとは」

何か理由があるのか、敵はまったく喋ろうとしなかった。
呼吸をしているのかも解らないほど、口をまったく動かさないのは異常な光景である。

<;ヽ`∀´>「都市ニューソクでの戦闘後、死体が消えたという話は聞いてたニダ。
       だが、まさかそんな風になってるとは思わなかったニダよ……」

その男は、もはやロマネスクとは呼べない。
頭の天辺から足の先まで、まったく別人となっているのだ。

ただ数少ない共通点として、右目にかつてあった傷痕が確認出来る。
そしてその両腕は黒色の光を纏っていた。



82: ◆BYUt189CYA :2007/10/13(土) 21:22:35.57 ID:P3TmrJ1n0
〈/i(iφ-゚ノii「…………」

それでも、ロマネスクだと解る。
状況が、空気が、雰囲気がそうだと言っているのだ。
何より存在としての匂いが、ニダーや渡辺がロマネスクを思い出すきっかけとなっている。

<;ヽ`∀´>「何が……いや、どうなってるニカ?」

もう何度目になろうかという問いは、やはり無視される結果となる。

<;ヽ`∀´>(ということは、もはや奴にロマネスクとしての人格が残っていないニカ……?
       だとすれば話は簡単になるが……)

完全な敵であれば容赦も何も必要ない。
が、情報が足りない現状、目の前のロマネスクは数少ない情報源である。

安易に撃破は出来ない。
元より、撃破出来るような相手ではないのだが。

<;ヽ`∀´>「――くっ」

拳が来る。
いや、拳から放たれた黒い塊が来るのだ。

飛んできた黒塊を回避すれば、背後にあった白い壁が黒色に粉砕されることとなる。



85: ◆BYUt189CYA :2007/10/13(土) 21:24:13.48 ID:P3TmrJ1n0
接近戦主体かと思いきや、遠距離にも対応出来るようになっている。

しかし防御に徹すれば、ニダーであれば充分に生き残ることは出来ていた。
何故かは解らないが、動きが酷く鈍重なのである。

<ヽ`∀´>(あまり考えたくないが、身体が馴染んでないようにも見えるニダ。
      生まれて間もないような違和感……というか、そのままニダ)

目の前にいる敵はロマネスクであるものの、ロマネスクとして定着していないような感覚。
上手く言葉にすることは出来ないが、アレは人としてまだ未熟なのだろう。

<ヽ`∀´>「なら、生き残ることくらいは出来るかもしれんニダ……!」

五体満足で、という条件付きならば不可能であろうが
それこそ死ぬ気で離脱すれば、命くらいは助かるだろう――と、思い込んだ。
思い込まねばやっていられない。

サイドステップしつつ、ゲシュタルトブラストを放つ。
白い魔弾がロマネスクに食らいつくが、軽く仰け反るのみで耐えている。

<ヽ`∀´>「対魔力性能は高いニダね。
      でも、これなら前のアンタの方が幾分か脅威だったニダ」

〈/i(iφ-゚ノii「…………」

挑発の言葉にも乗ってこない。
彼はロマネスクでありながら、やはり彼でないのかもしれない。

ロマネスクであるという確信を持ちながらも、違和を感じる状況は不可思議としか言い様がないだろう。



86: ◆BYUt189CYA :2007/10/13(土) 21:26:13.01 ID:P3TmrJ1n0
と、そんな時だ。

『うぉーい、まだやってんのかテメェ』

〈/i(iφ-゚ノii「…………」

<ヽ`∀´>(? 動きが止まった?)

首を傾げるニダー。
当然だ。
この響く声は、ロマネスクにしか聞こえない思念波のようなものである。

『もうこっちは準備完了なんだぜ。
 まだ遊びてぇ気持ちは解るが仕切り直しだ。 戻ってこい』

〈/i(iφ-゚ノii「…………」

『おいおい、言っとくが命令違反した場合は姉貴の制裁だぜ?
 テメェは俺らと同類だが、上下関係っつーのがあるのを忘れちゃ困るねぇ』

〈/i(iφ-゚ノii「……了解」

<ヽ`∀´>「!」

初めて聞いた声の色は、やはりロマネスクのままだった。
しかし内容は、了承の意を伝えるための一言。
かつての彼では考えられない言葉だった。

<;ヽ`∀´>(やっぱり、アンタは――)



91: ◆BYUt189CYA :2007/10/13(土) 21:27:53.42 ID:P3TmrJ1n0
〈/i(iφ-゚ノii「…………」

『んあ? ……あー、まぁそれくらいならいいか。
 ただしすぐに済ませて戻ってこいよー』

脳裏に繋がっていた不可視の接続が途切れる。
それを確認したロマネスクは、冷気さえ発しそうな青い目でニダーを見た。

<;ヽ`∀´>「っ!?」

思わず飛び退いた。
強烈な危険を感じる。
そしてその判断は、次の瞬間に正しかったことを証明する。

衝撃の圧が爆発した。

それは熱の壁となり、ニダーの下へと真っ直ぐに迫る。

色は黒。
炎と見間違う衝撃は、容赦なく彼の身を舐めた。

<;ヽ`∀´>「ぐぁ!?」

壁に叩きつけられる。
衝撃が骨肉を貫き、胃液が脈動する不快感が身体を巡る。

それを鉄の心で自制し、ニダーは唇から流れ出る血を乱暴に拭った。



94: ◆BYUt189CYA :2007/10/13(土) 21:29:29.16 ID:P3TmrJ1n0
〈/i(iφ-゚ノii「…………」

<;ヽ`∀´>「げほっ……!」

腹部に熱がある。
破片か何かが刺さったのだろう。
今はまだ出血だけで済むだろうが、無理に動けば後に響く。
他の怪我を考慮しても、もう満足に動ける身体ではないことは容易に理解出来た。

万事休す。

ロマネスクの攻撃が激しくなった以上、もはや生きて助かる道はない。

<;ヽ`∀´>「はン……早死にするとは思っていたが、まさかアンタに殺されるとは思わんかったニダ」

〈/i(iφ-゚ノii「…………」

<;ヽ`∀´>「死ぬなら一匹でも道連れにしたかったが……相手が悪かったニダか」

観念したのか、ニダーは力なく肩を落とした。
見届けたロマネスクはトドメ刺すため、口を開くことなくニダーへと近付いていく。
おそらく魔力を節約するため、素手でニダーの命を奪うつもりなのだろう。

<;ヽ`∀´>「くっ……!」


しかし、それが幸いした。



97: ◆BYUt189CYA :2007/10/13(土) 21:30:57.90 ID:P3TmrJ1n0
まず周囲を照らしたのは光だった。
色の名は桃。

〈/i(iφ-゚ノii「!?」

続いて風が走る。
殺意を持ったそれが、まるで薙ぎ払うかのようにロマネスクを襲った。
一瞬だけ耐えるような姿勢を見せるが、たった数秒の後に吹き飛ばされる。

轟音。

震動する建物の音を掻き消す程の音だ。
威力など、喰らってみるまでもなく量れる。

<;ヽ`∀´>「な、何が……」

どうなって、と言おうとした時だった。


た、という軽いステップ音が右方から聞こえた。
視線を向ければ灰煙の壁があり、それを割くようにして現れたのは



*(‘‘)*「ニダーともあろう人が……不様ですね」



かつて魔砲少女を自称した、ヘリカルだった。



100: ◆BYUt189CYA :2007/10/13(土) 21:32:27.95 ID:P3TmrJ1n0
以前着ていたはずの、ヒラヒラの衣装は既に無い。
身を包んでいるのは動きを重視した軽装甲で、しかしそれには見えない服装だった。

無理に言葉にするならば、ゴスロリ装甲服、と言ったところだろうか。

<;ヽ`∀´>「ヘ、ヘリカル……?」

*(‘‘)*「ようやく準備が整って来てみれば何ですか、その情けない格好は」

<;ヽ`∀´>「うっ……いや、返す言葉もないニダ。
      でも何故、アンタがウリを助けたニカ?」

*(‘‘)*「別に特別な理由なんてないです。
    ただ――」

バツの悪そうな表情で

*(‘‘)*「――何がどうあれ、目の前で人が死ぬのは嫌なんですよ」

<;ヽ`∀´>「……は?」

対し、呆けた顔を向けるニダー。
その言葉を吐いたのが、目の前にいるヘリカルだとは一瞬だけ思えなかったからだ。



107: ◆BYUt189CYA :2007/10/13(土) 21:34:05.37 ID:P3TmrJ1n0
*(;‘‘)*「べ、別に他意はないですよ! 仲間が死ぬのは寝覚めが悪くなるです!
     それだけです!」

<;ヽ`∀´>「…………」

*(#‘‘)*「テ、テテテメェ! 何勝手に見てやがりますか!!」

<;ヽ`∀´>「……いや、そんな真っ赤な顔で言われても。
       それに今の言葉は誰の受け売りニカ?」

*(#‘‘)*「うるさいうるさい! 助けてやったんだから礼くらいしやがれですよ!」

ふン、と鼻を鳴らしながら手を差し伸べてくる。
あまりに不器用な言動に、ニダーは苦笑しながら立ち上がった。

<;ヽ`∀´>「別にアンタが何を考えようとも知らんが……決め台詞くらいは言い慣れておかないとニダ。
       せっかくウリを颯爽と助けたのに格好がつかんニダよ」

*(;‘‘)*「んな……っ!?」

<ヽ`∀´>「まぁ、助かったのは事実でアンタはウリの命の恩人ニダ。 礼を言うニダ」

*(#‘‘)*「……はン、気まぐれで助けてやっただけです!
     あーあ! こんな恥ずかしい思いするなら助けなきゃ良かったですよ!」



112: ◆BYUt189CYA :2007/10/13(土) 21:35:34.93 ID:P3TmrJ1n0
赤くなっている顔を隠すように背けるヘリカル。
やれやれ、と肩をすくめたニダーは、ロマネスクが吹っ飛んだ先を見据えた。

〈/i(iφ-゚ノii「…………」

*(‘‘)*「あれは――」

<ヽ`∀´>「ヘリカル、アイツはロマネスクニダ。
      でも、もう――」

*(‘‘)*「……見りゃ解るですよ」

吐き捨てるように言う。
嫌悪感丸出しで、ロマネスクにステッキの先を向けた。
深く息を吸い

*(‘‘)*「アンタはあんまり好きじゃなかったですが、それでも目指す目的は一緒だと思ってました」

〈/i(iφ-゚ノii「…………」

*(‘‘)*「裏切るんですね。 私達を、そして自分の志を」

返事は無い。
それがロマネスクの今を如実に示唆していた。

ただ黒い拳を構える姿は、朽ち果てたマリオネットのようにも見受けられる。



116: ◆BYUt189CYA :2007/10/13(土) 21:37:29.60 ID:P3TmrJ1n0
<ヽ`∀´>「ヘリカル、もうアイツに意思は残ってないニダ」

*(‘‘)*「みたいですね。
     なら、もうこんな所には用なんてないです。
     撤退しますよ」

<ヽ`∀´>「どうやってニカ?」

*(‘‘)*「私がどうやってここまで来たか、それくらいは自分で考えて欲しいものです。
    それともまさか、アイツとの戦闘で頭を打って馬鹿にでもなりましたか?」

と、ステッキを見せてくるヘリカル。

<ヽ`∀´>「……成程」

*(‘‘)*「しっかり付いて来るんですよ。
     いくら私とアンタといえど、あのロマネスクを相手にするには分が悪いです――!」

床を蹴り、後方へと跳ぶ。
同時にニダーも、痛みを堪えつつ全力で追った。
しかし違和感を得たのは、しばらく走ってからである。

<;ヽ`∀´>「……追ってこない?」

ヘリカルが侵入するために破壊した壁まで辿り着き、ニダーは不思議そうに呟いた。
追ってくるかと思っていたロマネスクの気配が消えているのだ。



121: ◆BYUt189CYA :2007/10/13(土) 21:39:17.05 ID:P3TmrJ1n0
ステッキに取り付けられたマジックーカートリッジを換装しつつ、ヘリカルがぶっきらぼうに

*(‘‘)*「アイツ、調子悪そうでしたけど」

<ヽ`∀´>「というか、身体が馴染んでいない、という印象は受けたニダ。
      もしかしたらそれが関係しているかもしれんニダ」

*(‘‘)*「このまま楽に逃げられるなら幸運ですよ」

大きな穴が開いた壁――その向こう側にあるのは、外の景色だった。
先ほどの言葉通り、ヘリカルは空から強行的に侵入を果たしたようだ。

*(‘‘)*「さ、乗るといいです」

床と水平に浮かべられたステッキに腰掛け、後方部をたたきながら搭乗を促される。
素直に頷いたニダーは、ヘリカルの肩とステッキ後部を掴んで跨った。

*(‘‘)*「よっと――!」

床を蹴り、そのまま外へと飛び出す。
風に乗り、ニダーとヘリカルを乗せたステッキが空を飛んだ。

<ヽ`∀´>「……これが御伽話でいう魔法使いの気持ちニダか」

*(;‘‘)*「どこでそんなん知るんですか」

<ヽ`∀´>「いや、この世界の昔話はなかなか面白いニダよ。 今度教えて――」

眼下を見ていたニダーが顔を上げ、そして言葉が途切れた。
見上げた空が、あまりにも異常であったからだ。



123: ◆BYUt189CYA :2007/10/13(土) 21:41:00.38 ID:P3TmrJ1n0
<;ヽ`∀´>「なっ……これは!?」

空は、既に空の色をしていなかった。


快晴を示す青でもなく
雨天を示す灰でもなく
早暁を示す暁でもなく
月夜を示す藍でもなく


――それは、血のように赤い空だった。


赤く染められた頭上は、どの季節、どの時間帯にも当てはまらない色をしている。
太陽や雲、星や月さえも見えない不気味な光景であった。

*(‘‘)*「先ほどからこうなってるですよ」

<;ヽ`∀´>「やはり世界交差が……しかし、予想された現象とは違うような気がするニダ」

*(‘‘)*「ま、実行犯が実行犯だし」

<;ヽ`∀´>「ヘリカル、そういえば『準備が整った』と言っていたニカ?」

*(‘‘)*「言いましたですよ。 ほら、アレです」



124: ◆BYUt189CYA :2007/10/13(土) 21:43:09.62 ID:P3TmrJ1n0
直後、二人の傍を巨大な何かが掠めた。
それは地上から上空へと、一直線に飛翔する黒い塊だ。

いや、塊という表現には多少の語弊がある。

塊と思えた黒色には、鋼鉄の手足が付属していた。
背部にはスラスター補助の鉄片が四本、まるでブレードのように突き出されている。

正体は、人型の機械だった。

銀と黒の色を基調とした鋭角的なフォルム。
メインカメラとしての『眼』が、頭部で不気味に赤光を発している。
それはかつて、軍神をも襲ったことがある恐れを知らない無人戦闘用機兵――

<ヽ`∀´>「――まさか『鉄機人』ニカ?」

*(‘‘)*「都市ニューソクでの一件後、私は逃げ延びた連合軍兵を集めて移動したです。
     あのいけ好かないアイツのパートナーである、あの機体を正常に起動させるために。
     ロマネスクや秩序守護者が入り乱れていた状況は、異獣にとって付け入る隙になりましたから」

<ヽ`∀´>「それは渡辺の……?」

*(‘‘)*「頼まれてはいましたが……今回は私の独断ですよ。 ま、正しかったみたいですけどね」

話している間にも、鉄の巨人は空を舞う。
世界政府本部の周囲を、まるで誰かを探すかのように。

*(‘‘)*「後は間に合うか否か、です。
     流石にそこまでは責任持てませんですがね」



127: ◆BYUt189CYA :2007/10/13(土) 21:44:45.94 ID:P3TmrJ1n0
崩落からどれほど経ったか。

白かった通路は赤と橙色に染められ、熱と衝撃によって形を失っていく。
周囲を包む煙と炎が、じわじわと逃げ場を奪っていこうとしていた。

そんな地獄の中、二人の人間が倒れている。

从 -∀从「――ぅ」

一人はハインリッヒ。

从;゚∀从「ッ……」

もう一人は渡辺だ。

从;゚∀从「だ、大丈夫ですか……?」

先に身体を上げたのはハインリッヒの方だった。
伊達に戦闘用として作られてはいないのか、頭を軽く振ることで思考をクリアにする。
そうして周囲を見渡し、現状を素早く理解した。

从;゚∀从「う、うわわ……こりゃあまずいですよ」

周りにあるのは瓦礫の山と壁、そして徐々に迫り来る炎だ。

階段まで少しというところで崩落に巻き込まれてしまったらしい。
未だ天井は軋みを挙げ、もはや一刻の猶予も無いことを示していた。



129: ◆BYUt189CYA :2007/10/13(土) 21:46:39.98 ID:P3TmrJ1n0
从;゚∀从「渡辺さん! 大丈夫ですか!?」

うつ伏せで倒れている渡辺を発見し、すぐさま駆け寄る。

从メ'ー'从「……ハイン、ちゃん?」

痛々しい様相だった。
額と頬には血が流れ、整っていた顔も擦り傷だらけになってしまっている。
口から多少の吐血が見られる辺り、どうやら身体の内部にもダメージを受けていることが解った。

从メ'ー'从「だい、じょうぶ?」

从;゚∀从「僕は平気です! すぐにここから逃げ――ッ!?」

言い掛けたハインリッヒは、彼女を取り巻く状況に目を見開く。
原因は彼女の下半身にあり、大きな瓦礫が押し潰さんと圧し掛かっているのだ。

从;゚∀从「す、すぐに除けますね!」

从メ'ー'从「……ううん、無駄だからいい」

从;゚∀从「無駄って、そんな……」

从メ'ー'从「自分の、身体だから解る……けほっ、もう私の足は、無いみたい……だよ」

从;゚∀从「え――」



134: ◆BYUt189CYA :2007/10/13(土) 21:48:26.23 ID:P3TmrJ1n0
重く圧し掛かっている瓦礫の隙間から、おびただしい量の血が流れていた。
よくよく見てみれば、元は彼女の足を構成していたであろう肉片や何かが、周囲の壁や瓦礫に付着している。
まるで内部から破裂したかのような光景に、ハインは嘔吐を抑えながら絶句した。

从;゚∀从「そ、そんな……!?」

从メ'ー'从「私はいいから、ハインちゃんは逃げて」

从;゚∀从「貴女を置いて逃げるなんて出来ませんよ……!
      出来るわけがないじゃないですか!」

それは声というよりも叫びだった。
涙を堪え、脆弱ながらも必死に現状に抗う者の悲痛な叫び。

そんなハインリッヒに、渡辺は心底不思議そうに首をかしげた。

从メ'ー'从「何で……? 私は、貴女を利用しようと――」

从;゚∀从「そんなこと関係ありません!」

だって、と言い

从;゚∀从「貴女は僕を作ってくれた一人……僕の親なんでしょう!?」



140: ◆BYUt189CYA :2007/10/13(土) 21:50:06.86 ID:P3TmrJ1n0
从メ'ー'从「……え? 今、何て――」

从;゚∀从「渡辺さんも僕の親だと……そう言いました!」

从メ'ー'从「ちょっと、待ってよ……私は、卑怯なんだよ……?
      何も事情を知らない人々に、異獣との戦いを強制しようとしたんだよ……?
      戦わなければ生き残れない状況に、しようとしたのは私なんだよ……?」

それに

从メ'ー'从「私は貴女を利用しようとしてた……異獣に対する切り札として、そう見ていた……!」

从;゚∀从「でも、そうだとしても僕は貴女を恨んでなんかいない……!
      確かに勝手に作られて、勝手に利用されるのは嫌だと思います!
      だけど僕が僕としてここにいられるのは、貴女が――いや、貴女達が僕を作ってくれたからだ!」



ハインリッヒは、今の今まで我慢をしていた。
いや、恐れていた、と言った方が正しいか。

言いたいことがあった。
伝えたいことがあった。
言葉にしたいことがあった。

己を作ってくれた人に、自分が今どう思っているかを。



145: ◆BYUt189CYA :2007/10/13(土) 21:52:00.64 ID:P3TmrJ1n0
一人目は、自分が覚醒する前に死んでしまった。
二人目は、自分が覚醒すると同時に死んでしまった。

そして三人の内の最後の一人である渡辺。
彼女に、どうしても自分の思いをぶつけたかった。


――自分は憎んでなんかいない。
   だから、これからもきっと大丈夫だ、と。


本当ならば、渡辺が味方になった時、すぐにでも己の胸の内を伝えたかった。

しかし、僅かな疑心と恐怖がハインリッヒを締め付ける。
今となってもその理由は解らない。

もはや残っていないはずの記憶が、渡辺に対して警告を発したのか。
それとも、まだどこかで無意識に憎んでいる自分がいたのか。

ともかく、ハインリッヒは我慢をした。
伝えたいが伝えることが怖い、という葛藤を胸に秘めていた。
おそらく、ブーンやクーさえも気付いていない軋みなのだろう。

それが今、ダムの決壊のように崩壊し、涙と共に溢れ出す。



150: ◆BYUt189CYA :2007/10/13(土) 21:54:18.81 ID:P3TmrJ1n0
从 ;∀从「クルト博士は僕に命をくれた! クーさんや内藤さんに会えるキッカケを作ってくれた!
      リトガーさんは僕を利用しようとしたけど、それも大切な世界を護るためだった!
      貴女は僕の力で異獣を倒そうとしている! そしてそれを成し得る力を知っている!
      そのどれもが僕だけの役割だった! 形はどうあれ、僕は『最強』になるべくしてなった!」

从メ'ー'从「それは――」

从 ;∀从「こじ付けです! 偽善です! 無理矢理で支離滅裂で自分勝手な解釈です!
      でも、だとしても、確実にこれだけは言える!
      貴女達がいたから僕はここにいるんですよ……!?」

溢れる涙を拭い、渡辺の腕を掴んで、瓦礫から救い出そうと引っ張る。
しかしまだ挟まっている部分があるのか、全力を以ってしても救い出せない。

从 ;∀从「まだ言いたいことがあるんだ! 言い足りるわけがない!
      僕が今、どれだけ幸せなのかを伝えなきゃならない!
      クルト博士にもリトガーさんにも報告出来なかったことを、せめて貴女には伝えるんです!」

从メ'ー'从「だ、めだよ……ここにいちゃ、貴女まで――」

从#;∀从「こんな瓦礫、僕が全部壊してやる!
      僕は貴女達の願いを背負った『最強』だ! 異獣を倒す前に死んでたまるか!」

その拳で、渡辺に圧し掛かっている瓦礫を殴る。

よほど力が込められていたのか、ただの一撃でハインリッヒの拳が砕けた。



154: ◆BYUt189CYA :2007/10/13(土) 21:56:14.12 ID:P3TmrJ1n0
从 ;∀从「――つッ! でも、まだ!!」

从メ'ー'从「やめ、て……逃げて……」

从 ;∀从「安心してください! すぐに助けますからね!」

殴る。
殴る。
殴る。

血染めの拳が瓦礫に赤色を刻んでいく。
しかし、砕けない。

从 ;∀从「何で……! この程度、僕の力なら!」

从メ'ー'从「違う、の……今の貴女は、魔力を全て奪われている……。
      同化している15th−Wは力を使えない……今の貴女は、普通の女の子と変わらないんだよ……」

从#;∀从「――だから、だから何だ!!」

拳が駄目なら脚がある。
フォームもタイミングもデタラメのまま、ハインリッヒは怒りに任せて足を出す。
しかし硬い音だけが響くのみで、彼女の蹴りは瓦礫を砕けない。

从 ;∀从「何で……何でなんですか!
      最強の僕が、何でこんなモノさえも壊せない……!?」

くそ、と悪態を吐きながら喘息する。
心のタガが外れたのか、涙が溢れて止まらなかった。



159: ◆BYUt189CYA :2007/10/13(土) 21:57:36.82 ID:P3TmrJ1n0
从 ;∀从「やっと、やっと言えたのに……もっと話したいのに!!」

从メ'ー'从「ハイン、ちゃん……もう解ったから、もう、いいから……」

从 ;∀从「良いわけがない!
      それに僕は、僕の本当の力ってヤツを知らないんだ!
      貴女に教えてもらう必要が――!?」

撃音が響いた。
外から、無理矢理に壁を破壊する音。
それが徐々に大きくなるということは、段々とこちらに近付いているということだ。

そして音が最高潮へと達した時。

从;゚∀从「――うわぁッ!?」

すぐ傍にあった瓦礫の山が、何か大きな力で殴り飛ばされる。
大小様々な破片が大きな音を立てて暴れ回った。

从;゚∀从「な、何が……」

渡辺を庇うようにして伏せたハインリッヒは、正体不明の力に戦慄する。
何か良くないモノが迫っていると、そう直感した。
しかし

从メ'ー'从「……間に合って、くれたんだね」

从 ゚∀从「え……」



164: ◆BYUt189CYA :2007/10/13(土) 21:58:45.65 ID:P3TmrJ1n0
破壊された壁。
向こう側には外の景色が見える。
そしてそこにいたのは

从;゚∀从「きょ、巨人!?」

黒鉄の巨大機械兵。
真紅に光る目をこちらに向けている。

从メ'ー'从「あれ、が……あれこそが、貴女の力……」

从;゚∀从「ど、どういうことですか!?」

答えが来る前に鉄機人が動いた。
右腕を突き出して、ハインリッヒを包み込むように捕まえたのだ。

从;゚∀从「う、うわぁ!? 何するんですか!?」

鉄機人は黙ってハインリッヒを確保する
ジタバタともがく彼女を無視し、その目を渡辺へと向ける。

从メ'ー'从「……ハインちゃんを、御願いね」

『――――』

重い駆動音と赤い光が返答として送られ、機体が動いた。
決別するかのように背を向け、そのスラスターに光を灯す。



167: ◆BYUt189CYA :2007/10/13(土) 22:00:13.49 ID:P3TmrJ1n0
从 ;∀从「待って! 待ってください!
      いやだ!! 渡辺さんを助けなきゃならないんですよ!!」

从メ'ー'从「ハインちゃん……後は任せたよ」

从 ;∀从「いやだぁぁぁぁぁ――!!!」

声が遠ざかる。

鉄機人の使命はハインリッヒの力となること。
その持ち得る機能を全て使って、力の主を全力で護るだろう。

もう、安心だ。

後は彼女が覚悟を決め、戦いに臨んでくれることを祈るのみだろう。

从メ'ー'从「――……」

崩壊の音が周囲を包む。
あと数分も待たずに、この建物は完全に崩れ落ちるはずだ。
周囲を炎に包まれ、足を砕かれ、意識が朦朧としている自分に助かる理屈はない。


しかし渡辺は最後に一つ、あることを為そうとする。



173: ◆BYUt189CYA :2007/10/13(土) 22:01:24.19 ID:P3TmrJ1n0
从メ'ー'从「……貞子、いる?」

沈黙。
もう一度呼ぼうとした時、

「――ここに」

炎と崩壊の音に紛れ、微かに聞こえる貞子の声。
渡辺は安堵の息を吐く。

从メ'ー'从「私の事はもういいから……最後の命令、聞いてくれるかな?」

「はい」

姿は見えない。
瓦礫の向こうにいるのだろう。
いつものように、主の命令を待っているのだろう。

从メ'ー'从「――ッヒを――って――」

しかし声は声として出ない。

代わりとして吐き出されたのは、黒色に近い血の塊だった。

熱で喉を焼かれ、徐々に身体が機能を失っていく状況で
今の今まで声を出せたこと自体が奇跡に等しかったと言える。



181: ◆BYUt189CYA :2007/10/13(土) 22:03:41.04 ID:P3TmrJ1n0
从メー 从(本当、最後の最後まで駄目だなぁ、私――)

身体中の熱が冷めていく感覚の中、渡辺は呆然と思う。
思えば自分がやれたことなど、とても小さいことだった、と。

誇れることでもなかった。

自分を偽り、他人を偽り、仲間をも偽り続けた人生だった。

それでも、それでもやれることをやった、無理を通した生き様だった。

彼女の死を知った者は、『中途半端だ』と罵倒するかもしれない。
しかし、彼女はしっかりと役目を果たしたのだ。

从メー从(頑張ってね、ハインちゃん――)

地響きが更に大きくなり、崩壊が始まる限界点まで達した。
その中で、渡辺はひたすらに祈り続ける。


結局それは、最後の最後まで誰の心にも響くことはなかった。



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