( ^ω^)ブーンと川 ゚ -゚)クーは抗い護るようです

167: ◆BYUt189CYA :2007/10/29(月) 22:23:25.20 ID:zqCws+gV0


Case4: 欠けていた心


訓練室にて音が響いている。
音源は、模擬戦用として作られた一つのフィールドからだ。
硬い床と壁で構成されたそこは、室内での戦いを想定した擬似的な戦場である。

(,,゚Д゚)「っつぁぁ!!」

(#゚;;-゚)「ほいさ」

刃が風を切り裂く音、そして受け流される音。
最後に、鉄剣が白色の床を叩く音が場を覆う。

訓練を行っているのはギコと軍神だ。

とはいえ、一方的にギコが攻めている光景は『訓練』とは言い難いものがあるのだが――

(#゚;;-゚)「力任せに振り回すのは結構やけど、時と場合を考えた方がええなぁ」

(;,,゚Д゚)「なまじ一撃も当たらんから説得力があるな……!」

(#゚;;-゚)「確かにアンタの突撃力は脅威。
    けど、時には護ることも考えなすぐくたばるよ」



172: ◆BYUt189CYA :2007/10/29(月) 22:25:45.13 ID:zqCws+gV0
軍神の忠告はギコを想っての言葉だが、しかし彼の表情に変化が起きた。
それは納得よりも反発が強い色で

(,,゚Д゚)「悪いが、護ることは疾うに捨てた……!」

と、眉を逆ハの字に立て突っ込み

(#゚;;-゚)「そういうの嫌いやないよ。 実力が伴っていれば、の話やけどな」

あっさりと片手で吹き飛ばされる結果に終わる。
呆気なく身を浮かせたギコは、そのまま壁に激突。
一際大きな音が訓練室に響いた。

そんな情けない様を見ている人影があった。

(;><)「い、痛そうなんです!」

(*‘ω‘ *)「ぽっぽ」

(;*゚ー゚)「だ、大丈夫かなぁ……」

チンを膝の上に乗せ、休憩用のベンチに座っているのはしぃだ。
その隣では、ジュースを持ったビロードがハラハラした様子を見せながら訓練を眺めている。



175: ◆BYUt189CYA :2007/10/29(月) 22:27:44.57 ID:zqCws+gV0
(;*゚ー゚)「ギコ君、やっぱりウェポン無しじゃ勝てないと思うよ」

(メ,,゚Д゚)「……ウェポン有り無しは関係ない。
     単純に、俺の体術が軍神に劣っているだけだ」

しぃの言う通り、彼女とギコの手に指輪は存在していなかった。
シャキンとエクストという例外を除けば、他の皆も同様である。
今頃はモララーが持ち帰った純正ルイルの魔力で、大幅な強化が行われているだろう。

ギコの手に握られているのは訓練用の鉄剣。
対する軍神は素手だが、その身体を機械皮膚が包んでいる。

つまりこれは、グラニードとは重さもリーチも何もかもが異なる武器で軍神に挑んでいる
という無謀以前の話であった。

(メ,,゚Д゚)「……この際、勝ち負けはどうでもいい。
     とにかく貴様の動きについていくことに集中する」

(#゚;;-゚)「まぁ、何にせよ負けは確実やしなぁ」

(メ,,゚Д゚)「いちいち揚げ足を――とるなッ!!」

低い姿勢での疾駆。
剣を懐に隠し、軌道の予測を封じる手だ。



179: ◆BYUt189CYA :2007/10/29(月) 22:29:43.63 ID:zqCws+gV0
(#゚;;-゚)「ふむ」

少し考えるように腕を組む軍神。
嘗められた、と感じたギコは一層眉を立て、獣のように突っ込んだ。
しかし

(;,,゚Д゚)「ッ!!?」

突如、大気を割る音が左耳を強く叩いた。
何事かと彷徨う視界の中、軍神の右足が高く上がっているのを見る。

(#゚;;-゚)「確かに低い姿勢からの一撃は避け難い。
    やけど、それは顔を前に出すいう自殺行為でもあるんよ?」

先ほどの音は、おそらく軍神の右足が顔の横を通過した音なのだろう。
相当な速度だったのか、捉えることすら出来なかった。
そのまま少しでも内側にズラしていれば、ギコの顔は跡形もなく吹き飛んでいたかもしれない。

冷や汗が吹き出る不快感。

(メ,,゚Д゚)「――だが!」

まだ倒されていない。
訓練とはいえ手を抜いたのは軍神だ。

頼んでもいないことをされた上、負けを認めるわけにはいかない。



186: ◆BYUt189CYA :2007/10/29(月) 22:32:16.29 ID:zqCws+gV0
畳んでいた膝を伸ばし、下から上へと伸びる力を腕に込める。

斬り上げる軌道の剣筋は『逆風』と呼ばれるものだ。
後はこのまま身を伸ばす勢いで――

(;,,゚Д゚)「がっ……!?」

しかしそれよりも早く、左肩に重い衝撃が走った。

(#゚;;-゚)「か・か・と・お・と・し」

一言一言を丁寧に言われ、ようやく自分が何をされたのか理解する。
つまりギコは、踵落としの姿勢で待ち構える軍神に突っ込んでいったのだ。

完全な自殺行為であることは言うまでもない。

(;,,゚Д゚)「ぐっ――お!?」

肩に食い込んだ踵は下へ下へと落下し
もちろんギコの身体も、地面に吸い込まれるようにして落ちていく。

撃音。

床に叩きつけられたギコは、勢い余って更に前方回転させられる結果に終わり
そのまま背中から、仰向けの姿勢で倒れることとなる。



190: ◆BYUt189CYA :2007/10/29(月) 22:34:11.35 ID:zqCws+gV0
(;*゚ー゚)「ギ、ギコ君!?」

今のは遠目で見ても危険だった。
下手をすれば、どこか骨折した可能性も――

(#゚;;-゚)「ちゃんと手ェ抜いたから安心してええよ。 怪我はしとらん。
    その代わり、しばらく息出来んくらいの激痛に苛まされるけども」

(;,,゚Д゚)「っ……ぁ……」

(#゚;;-゚)「実戦やったら死んでたよ」

睥睨しつつ軍神が忠告した。
しかし聞く暇もないのか、ギコは反論することなく痛みに悶えている。

(#゚;;-゚)「そろそろ休憩やな。
    ウチはもう飽きたから、他の人に相手してもらい」

背を向け、歩き出そうとする。
倒れた者に掛ける情けを持ち合わせていないのか、単に本当に飽きたのか。
もはや軍神は、ギコに対する興味を失いつつあった。

しかし、それを止める動きがある。

(;,,゚Д゚)「待、て……!」

倒れているギコだ。
その右手が、叩きつけられた衝撃で放した剣の代わりに軍神の右足を掴んでいる。



195: ◆BYUt189CYA :2007/10/29(月) 22:36:01.14 ID:zqCws+gV0
(#゚;;-゚)「まだ何か用?」

少し力を入れれば振り放せるほどの小さな力。
それでも踏ん張っているつもりなのか、僅かな震えを足首に感じる。

(メ,,゚Д゚)「まだだ、まだ俺は負けを認めたわけじゃないぞ……」

(#゚;;-゚)「そんな姿勢で良く言うなぁ」

(メ,,゚Д゚)「嘗めるなよ軍神……!」

立ち上がる。
が、足腰にまったく力が入っていない。
よほど先ほどの一撃が効いているのか、未だ痛みに顔をしかめている始末だ。
しかし

(メ,,゚Д゚)「ひとつ良いことを教えてやる。
     負けは与えられるものじゃなく、認めるものだ……!」

(#゚;;-゚)「ッ!」

放たれる拳は、しかしあっさりと回避される。
そのまま前のめりにつんのめるギコを、横目に見ながら

(#゚;;-゚)「認めなければ負けじゃない、と? 致命傷をもらって死んだとしても?」

(メ,,゚Д゚)「あぁ、そうさ……!」



199: ◆BYUt189CYA :2007/10/29(月) 22:37:45.01 ID:zqCws+gV0
(#゚;;-゚)「絶対に勝てないと解っていても?」

(メ,,゚Д゚)「絶対に勝てないとしても、だ!
     俺が負けを認めなければ負けじゃない!
     例え死んだとしても、俺が負けを認めなければお前は絶対に勝てない……!」

(#゚;;-゚)「……成程、いくら肉体を痛めつけても意味がないんやな。
    今までの相手が相手やったから、すっかり失念しとったわ」

(メ,,゚Д゚)「だから、まだ――!」

(#゚;;-゚)「ふーむ」

尚も向かってくるギコに、軍神は納得の息を吐く。

(#゚;;-゚)「でも」

(;,,゚Д゚)「おわっ……!?」

突き出された拳が受け流され、そのまま流水の動きで上腕部を掴まれる。
反転した軍神の背中が見えた時には、既に足から床の感触が消えていた。

踏ん張る暇も与えられないまま、身体が軍神の腰に乗せられる。

(#゚;;-゚)「ま、その根性は実戦で出すのが一番やね――!」

投げ飛ばされる。
ギコの身体が中空で奇麗な半円を描いた。

それは、完璧なまでの姿勢から放たれる背負い投げであった。



205: ◆BYUt189CYA :2007/10/29(月) 22:40:11.61 ID:zqCws+gV0
(;,,゚Д゚)「ぐはぁ!?」

大きな音が、訓練室という空間を震わせた。
叩きつけられた衝撃が肺を揺さぶる。

(#゚;;-゚)「んー……ま、それでも教えられたんは事実ということで。
    授業料代わりに軽く本気で投げさしてもらいましたよ、と」

(;,,゚Д゚)「はづっ……こ、これは流石に、効いた……っ」

呼吸困難による胸中の痛みに、ギコは身をよじって悶える。
この苦しみは体験した者でしか解らないだろう。
そんな彼に見下すような視線を向けつつも、軍神は深い溜息を吐いた。

(#゚;;-゚)「やれやれ、まさかこの歳にもなって学ばされるとは……ウチも修行が足らん言うわけかなぁ」

(;*゚ー゚)「ギ、ギコ君! 今度こそ大丈夫!?」

(;><)「救急箱なんです!」

(*‘ω‘ *)「ぽぽ!」

(;><)「それは御弁当箱なんです!」

どやどやと慌てた様子で向かってくる三人。

(#゚;;-゚)「ふぅむ……」

流石に戦闘不能と判断した軍神は、彼女達とすれ違うように出口へと足を向けた。



209: ◆BYUt189CYA :2007/10/29(月) 22:43:59.00 ID:zqCws+gV0
(;*゚ー゚)「あ、あの……!」

扉に手を掛けた時。
介抱をビロードとチンに任せたしぃが、軍神の背中に声を放つ。

(;*゚ー゚)「さ、さっき、『時には護ることも考えなければ』って言ってましたよね?」

(#゚;;-゚)「言ったけど……何か?
    そこの彼に決定的に欠けてる要素やね」

軍神の見立ては的を射ていた。
ギコは攻撃に執着する余り、身を守ることを完全に放棄している。

斬られる前に斬る。
護りに入る前に斬る。

そんな先手必勝を更に突き詰めた戦法は、確かに強力だろう。
1st−W『グラニード』との相性も良いし、ギコ自身の技量もかなりのものだ。

しかし、軍神レベルの強さを持つ人間から見れば『隙だらけ』の一言である。

これから赴こうとしている戦いでは、確実に人型の異獣が壁として立ちはだかるだろう。
その時、ギコの戦い方が通用するかと問われれば、微妙な表情を浮かべるしかない。



215: ◆BYUt189CYA :2007/10/29(月) 22:45:41.18 ID:zqCws+gV0
(*゚ー゚)「……確かにでぃさんが言う通り、ギコ君の戦い方は乱暴だと思います」

(#゚;;-゚)「『乱暴』、か……一番しっくりくる表現や。 よく見とるなぁ」

(;*゚ー゚)「そ、そんなこと……ありますけど。
      ――じゃなくて!」

首を振ったしぃは、胸の前で両拳を握り

(*゚ー゚)「ギコ君は私が護ります。 それじゃあ、いけませんか?」

(#゚;;-゚)「……へぇ?」

(*゚ー゚)「ギコ君には前を向いて、自分の思う通りに戦ってほしいんです」

(#゚;;-゚)「だからアンタが護る、と」

(*゚ー゚)「それだけじゃありません。
    必要があれば、私がギコ君の手足になります。 耳や目にもなります。 翼にだってなれます」

(#゚;;-゚)「ふむふむ、それでそれで?」

(;*゚ー゚)「だ、だから……軍神さんから見て、こういうやり方はおかしいですか?
     えと、おかしいって聞き方もおかしいというか……よく解らないんですけど――」

少しだけ俯く。
しかしすぐに顔を上げ、

(*゚ー゚)「――どうですか?」



218: ◆BYUt189CYA :2007/10/29(月) 22:47:56.29 ID:zqCws+gV0
どう、と来たかと軍神は思わず頬を掻いた。
彼女の顔を見れば解る通り、今の言葉は真剣そのものだろう。
無下には出来ないし、ふざけて返すところでもない。

難しいな、と思い、こういう風に考えるのも久々だ、と自覚する。

とりあえず解ったのは、あの二人は自分には無いものを持っている、ということだ。
それを持っていない、もしくは知らない自分が、まともな回答を出せるはずもない。
そう結論した軍神は

(#゚;;-゚)「うん、ウチはえぇと思うよ?」

と、素直な感想で答えた。

(*゚ー゚)「あ……」

離れていても解るほど、しぃの表情が見る見る内に輝いていった。
床に伏しているギコの顔には安堵が生まれている。
互いが互いを想い合っているが故に、否定されるのが少し怖かったのだろう。

(#゚;;-゚)「やれやれ……ほら、ビロード、チン、行くよ」

介抱していた二人が、軍神の言葉の意味を悟って立ち上がる。
チンが持っていた弁当箱を置き、軍神の待つ出口へと走っていった。

(#゚;;-゚)「んじゃ、後はごゆっくり」

( ><)「なんです!」

(*‘ω‘ *)「ぽっぽぃ!」



220: ◆BYUt189CYA :2007/10/29(月) 22:49:35.64 ID:zqCws+gV0
鉄扉を閉める。

後は二人の問題だろう。
もはやほとんど解決しているようなものだが。

(#゚;;-゚)「ふぅ」

少し火照った身体を冷まそうと、羽織っていた布を外す。
肺に溜まっていた熱い空気を絞り出すように深く吐息し、呟くように

(#゚;;-゚)「……えぇなぁ、ああいうの」

( ><)「軍神さんには好きな人いないんですか?」

(#゚;;-゚)「これまたえらいストレートやね、君。
    好きな人、好きな人……いたことにはいたんやけどなぁ」

(*‘ω‘ *)「ぽぽ?」

(#゚;;-゚)「うん? まぁ、アレや。 もうこの世にはおらんのよ」

(;><)「あ……す、すいません」

(#゚;;-゚)「あーいやいや、ええんよ。 もうそこらの踏ん切りはついとるから」



223: ◆BYUt189CYA :2007/10/29(月) 22:51:27.58 ID:zqCws+gV0
とはいえ、今になっても思う。
何故惹かれたのだろうか、と。

『風鷲』という異名まで付けられたパイロットがいた。

彼は特別、容姿が優れていたわけではないし、性格もそれほど良いわけではなかった。
容姿については人それぞれなので言うこともないが、性格はむしろ人嫌いにさえ思えたほどだ。

寡黙で、理想を大事にする男だった。

悪い言い方をすれば、背伸びした子供のような性格。
常に現実よりも理想を想い、時折目を瞑りたくなるほど無茶をしたこともある。
良い意味でも悪い意味でも噂される男で、一方的ではあるが、軍神も男のことを知っていた。

彼は強かった。

限定的ではあるが、空という空間さえ与えれば男は無敵だった。
リフレクションから自力で脱出した、という話を裏付ける実力の持ち主。
最初は余所者扱いされていたが、認められるのに時間は掛からなかった。

似ている、と思ったことがある。

自分は空を飛べないが、地での戦いならば負けないと思っていた。
それもこれも異獣に捕まってしまったせいだが、軍神はそれを恨むことはあれど後悔はしていない。

初めて顔を合わせたのはいつだったか。
あれは確か、自分のいる戦線が押されてしまうという不覚をとった時で――



227: ◆BYUt189CYA :2007/10/29(月) 22:53:04.85 ID:zqCws+gV0
(#゚;;-゚)「……ふぅ」

そこまで、といった様子で軍神は首を振る。
もういない人間のことを思い出しても意味は無い。

ただ、軍神は己の強さを自負していたが故に、自分に無いものを持っていた男に惹かれたのだ。

(#゚;;-゚)「ビロード」

( ><)「何ですか?」

(#゚;;-゚)「チンのこと、好きなん?」

(*><)「もちろんなんです!」

(#゚;;-゚)「気持ちええ返事やなぁ……なら、ビロードがしっかり護るんよ。
    一度失くしたモノは絶対に返ってこんからな」

( ><)「はいなんです!」

律儀に、そして元気良く返事をするビロード。
先を行くチンを追いかけ、仲良く手を繋いで通路を楽しそうに歩く。
まだ早い話か、と思い直し、軍神は小さな笑みを浮かべた。

(#゚;;-゚)「やっぱりえぇなぁ。 久々に人間らしい感情を思い出してもうたわ」

と、そこで一人の男の影が脳裏を過ぎった。
風鷲を倒し、生き残った男――シャキンだ。

(#゚;;-゚)「さて、あの子はどうなるか……代わりにウチが見守ってやりましょか、と」



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