( ^ω^)ブーンと川 ゚ -゚)クーは抗い護るようです
- 118: ◆BYUt189CYA :2007/11/03(土) 22:10:42.93 ID:xg28za3k0
Case7: 主たる者として
一人、談話室のソファに寝転がっている人影があった。
( ^ω^)「んあー……」
右手には指輪状態の8th−W『クレティウス』が握られ
傍にあるテーブルの上の菓子を取りつつ、ブーンは間抜けな声を挙げる。
( ^ω^)「クレティウスー、君の好きな食べ物は何だお?」
『悪いが、そういう概念はないな』
( ^ω^)「好きなタイプは?」
『残念ながら答えは同じだ。
私には君達人間の、そういう部分を理解することは出来ない』
( ^ω^)「んじゃあ、君の正体は何なんだお?」
『…………』
(;^ω^)「むぅ、しっかり沈黙するあたり肝が据わってるというか……」
- 121: ◆BYUt189CYA :2007/11/03(土) 22:13:13.99 ID:xg28za3k0
- 『正直――』
( ^ω^)「お?」
『正直に言えば迷っている。
話すのは簡単だが、話さなくても済む話だからな』
( ^ω^)「……それはどういうことだお?」
『簡単だ。
勝てば君達は私の正体を知らずに済むし、負ければ死んでしまって終焉。
どちらにしろ、無理に知る必要はない』
しかしブーンは訝しげな表情を作った。
菓子を片手に、納得いかないような視線を指輪に送ってくる。
『気持は解るが心配はしなくていい……私の目的もまた、異獣を倒すことだ』
( ^ω^)「……そういうわけじゃないお」
『では、どういうことだ?』
( ^ω^)「僕は、君を信頼出来ないのが怖いお。
今までは何も知らなかったからこそ信じられたけど――」
『…………』
( ^ω^)「君には僕の知らない何かがある、と知ってしまったお。
僕と君が遠慮なく全力を出すためにも、出来れば教えてほしいお」
- 123: ◆BYUt189CYA :2007/11/03(土) 22:15:12.69 ID:xg28za3k0
- 沈黙。
答えを出す気はないのか、やはり迷っているのか。
そんな様子を見せるクレティウスに、ブーンも沈黙を以って返答を待つ。
――何か重大な事実を隠しているように思えてならないのだ。
もしかしたら本当にクレティウスの言う通り、知らなくても良い事実なのかもしれない。
しかし一度知ってしまえば最後まで知りたくなるのも道理。
何より、秘密を抱えた相棒を心の底から信頼出来るのか、ブーンは自信が持てなかった。
どちらも折れぬ睨み合いは一分ほど続く。
その沈黙を破ったのは、第三者の存在であった。
川 ゚ -゚)「……内藤、ここにいたか」
( ^ω^)「お? クーかお?」
川 ゚ -゚)「隣、いいか?」
頷いたのを確認し、クーはブーンの左位置に腰を下ろした。
- 127: ◆BYUt189CYA :2007/11/03(土) 22:16:53.04 ID:xg28za3k0
- ( ^ω^)「…………」
川 ゚ -゚)「…………」
クーは菓子を手に取ろうとし、しかし引っ込めた。
続いて挙動不審な動きで自分の髪をイジり、ちらちらとブーンへ視線を送っている。
気配を敏感に感じ取ったブーンは、彼女の行動にいちいち冷や汗を流していた。
(;^ω^)(な、何だお? この雰囲気……何か狙われてるのかお……?)
川 ゚ -゚)「……その、なんだ、あれだ」
( ^ω^)「?」
川 ゚ -゚)「久しぶり、だな。
こうやって君とゆっくり話すのも随分と久々な気がするよ」
( ^ω^)「えっと、うん。 色々あったから仕方ないお」
川 ゚ -゚)「……それもあるが、私は君と話すのを少し躊躇していたかもしれない」
( ^ω^)「躊躇?」
川 ゚ -゚)「いや、君が憶えていないのならいい。
思えば随分と前の話だし、今更持ち込むつもりはないよ」
( ^ω^)「あ」
言い難そうなクーの言葉に、以前起きた過去を思い出す。
- 129: ◆BYUt189CYA :2007/11/03(土) 22:18:53.68 ID:xg28za3k0
- ――ロマネスクが初めてブーン達の前に姿を見せた時のことだ。
あの日を境に、ブーンとクーの間に僅かな亀裂が走ったような気がしていた。
そしてそのまま様々なことに巻き込まれ、いつの間にか忘却の彼方に押しやっていたわけだが
ブーンの方はすっかり忘れていたにも関わらず、クーがしっかり憶えていたことに僅かな申し訳なさを覚える。
(;^ω^)「あ、あの時は、ちょっと煮詰まってたお。 僕が悪かったお」
川 ゚ -゚)「……うん、憶えていたんだね。 嬉しいよ」
( ^ω^)(わだかまりの種を憶えていたら喜んだ、のかお……?
女の人はよく解らんお……)
ともあれ、時間が解決してくれたらしい。
今や二人の間に亀裂などなく、代わりとして別の何かが存在しているようにも思える。
それはいわゆる『気恥ずかしさ』、『初々しさ』といったモノであるような、そんな感じだ。
川 ゚ -゚)「ふぅ」
しかし、それも束の間。
今度は小さな溜息を吐いたクー。
そのまま身を椅子の背に預け、少し寂しげな目が天井へと向く。
( ^ω^)「クー?」
川 ゚ -゚)「いや、すまない。 別に君といるのが退屈なわけじゃないんだ。
やはり気を抜くと色々なことを考えてしまうのでな」
それっきり口を閉ざしてしまう。
- 132: ◆BYUt189CYA :2007/11/03(土) 22:20:24.79 ID:xg28za3k0
- ( ^ω^)「…………」
思い当たる節はある。
しかも複数で、きっと自分と同じ類の考えも浮いているはずだ。
そしてその中で最も彼女が気にしているだろう、と思えるものといえば
( ^ω^)「ハインリッヒのことかお?」
川 ゚ -゚)「……ん」
短い返答は正解を意味している。
クーにとってハインリッヒの存在は非常に大きい。
妹のようであり、娘のようであり、同一な存在のようである。
『失敗策』の件から勘案しても、責任などといった感情があったのだろう。
人間ではないクーは、こう見えても一般常識が欠けている部分がある。
思ったことを素直に口にするのもそうだし、嘘や冗談といったものが言えないのも該当するだろう。
だがハインリッヒという存在を通じて、様々な人間的感情を芽生えさせている節も多々見受けられていた。
あの戦いから一年以上経ち、随分と人間らしくなったと、
クーとずっと一緒に過ごしてきたブーンは思っている。
- 134: ◆BYUt189CYA :2007/11/03(土) 22:22:53.30 ID:xg28za3k0
- ただ、懸念があった。
確かに彼女は人間に近付いていると言えるだろう。
しかしそれは、『ハインリッヒ』という存在がクーの支柱にあるからだ。
だからもし、そんなクーが彼女を突然に失ってしまえば――
浮かんできた答えを、ブーンは軽く頭を振って払う。
それは無い、と、ありえない、と。
( ^ω^)「ヘリカルが言ってたお。 ハインリッヒは無事だろうって」
川 ゚ -゚)「……そうだな」
( ^ω^)「それでも、やっぱり寂しいかお」
川 ゚ -゚)「私がいつも見てやっていたから。 護ってきたから。
それが突然いなくなられると、私としてもどうしたらいいのか解らなくなってしまう。
特に今、時間が余ったりすれば様々な事を考える暇が出来てしまうしな」
( ^ω^)「むー」
心配そうにしているクーに対し、ブーンは割と楽観的な視点を持っていたりする。
その理由として最も大きいのがヘリカルの説明だ。
――ハインリッヒを救助した後、何処かへ飛び去った謎の黒い人型兵器。
ヘリカルとニダーの説明によれば、漆黒の機体は機械世界で作られた機動兵器だと言う。
クルト博士とも関係が深いらしく、その主な機能とは
川 ゚ -゚)「……ハインリッヒの剣となり盾となる、か」
- 136: ◆BYUt189CYA :2007/11/03(土) 22:24:49.56 ID:xg28za3k0
- 詳しいことはヘリカル達にも知らされていないらしい。
解っているのは自律稼働型で、ハインリッヒのために動く忠実な機械であること。
その存在は、アギルト連合軍の護国院で秘密裏に計画されたプランの産物であること。
軍の中でかなり高い位に就いていたはずの軍神でさえも、簡単な概要しか知らないほどの秘匿レベルだ。
ただ、レインが、その正体を多少解っている素振りを見せている。
しかし推測の域を出ないことと、今解っても対応のし様がない、という理由で口を開こうとはしなかった。
ともあれ、その機体に護られたからにはハインリッヒの無事は確実らしい。
こちらから捜索せずとも、時が来れば向こうからやってくる、と意味深なことも言っていたが
今のブーン達にそれを疑う材料も無く、ただ信じるのみであった。
しかし逆を言えば、それを信じる材料も無いに等しい。
クーが心配するのも無理はなかった。
( ^ω^)「……きっと大丈夫だお。
この戦いが終われば、また前みたいに過ごせるお」
川 ゚ -゚)「私はそれを願うのが怖い」
( ^ω^)「え?」
川 ゚ -゚)「今まであまり考えてこなかったが……人は、簡単に死んでしまうんだ。
私はこの前の戦いで身近にいた人間が死んだのを知り、理解した」
- 138: ◆BYUt189CYA :2007/11/03(土) 22:26:44.36 ID:xg28za3k0
- おそらく渡辺のことを言っているのだろう。
あれだけ暗躍し、世界交差に、異獣殲滅に貢献した人物が、しかしあっさりと死亡したのだ。
他にもEMAの搭乗者が二人、そして秩序守護者や英雄神も死亡している。
そういう観点、そして前回の戦いから見れば、ブーン達は異常なほどの生存率を誇っていた。
その最大の理由は『秩序の恩威』なのだ、とワカッテマスが言っていたのをブーンは思い出す。
あんな無茶な戦いを生き残ることが出来たのは、秩序のおかげだったのだ、と。
しかし
川 ゚ -゚)「もう世界は交わってしまっている。
秩序は全て砕け散り、私達の行く末はまったく制限を受けなくなった。
これからは何が起きてもおかしくはない……誰が死んでも、どんな死に方をしてもおかしくなんかないんだ」
( ^ω^)「……クー」
川 ゚ -゚)「私は嫌だ。 誰かが死ぬなんて嫌だ。 考えられない。
君が、しぃが、フサギコが、ショボンが……他の皆が死ぬなんて考えたくもない。
あの二機のEMAがやられたように、呆気なく、助けも間に合わないで――」
背もたれから身を剥がし、俯く。
川 ゚ -゚)「正直言って、私は次の戦いに恐怖を感じている。
私の知らぬところで人が死に、それがまったくおかしくないという戦場だ。
それこそ地獄に等しい」
組まれた両手が震えている。
彼女はハインリッヒを通じて成長したが故に、今度は失うことを恐れているのだ。
満たされていると自覚しているため、失うのが何よりも怖いのだろう。
- 140: ◆BYUt189CYA :2007/11/03(土) 22:29:13.51 ID:xg28za3k0
- 川 ゚ -゚)「…………」
( ^ω^)「……――」
そんな弱々しいクーの姿を見たブーンは、しかし心の中で納得していた。
( ^ω^)「……それが普通だと思うお」
それこそが、人間らしいのだ、と。
( ^ω^)「僕だって失うのは怖いし……当然、自分が死ぬのだって怖いお。
きっとギコさんやモララーさんも同じことを思ってるだろうし
ミルナさんや軍神さんだって、少なからず怖いと思ってるはずだお」
クーがこちらへ顔を向ける。
川 ゚ -゚)「だったら、何故――」
( ^ω^)「理由はクーも解ってるはずだお?
戦わなくちゃ生き残れない。 戦って勝たない限りは死ぬだけなんだお。
だからみんな怖くても戦おうとするし、恐怖を必死に抑え込んでるんだお」
皆が同じ思いを抱えているからこそ、弱音は吐けない。
全てが終わるまで、鉄の心で戦い抜く覚悟を決めている。
- 146: ◆BYUt189CYA :2007/11/03(土) 22:31:33.73 ID:xg28za3k0
- 川 ゚ -゚)「そうか……皆も怖いのだな。
考えてみれば当然か……はは、私が弱かっただけの話か」
( ^ω^)「うーん、それはどうかお?」
川 ゚ -゚)「え……?」
( ^ω^)「だって今も言った通り、皆も怖いと思ってるはずだお。
それを口にするかしないかの差だけで、強い弱いが決まるとは思えないお。
クーがそれを言葉にして覚悟が決まるなら、むしろプラスだと思うお」
川;゚ -゚)「そ、そういうものなのか?」
( ^ω^)「それに――」
笑みを浮かべ
( ^ω^)「クーが僕に弱音を吐いてくれた。
この事実は非常に嬉しいものだと、僕は思ってるお」
言葉に、クーの表情が固まった。
しかしそれも一瞬のことで、
川;゚ -゚)「え? あ、いや、す、すまないっ。 気を遣わせてしまった」
(;^ω^)「お?」
- 148: ◆BYUt189CYA :2007/11/03(土) 22:33:28.93 ID:xg28za3k0
- 川;゚ -゚)「そ、その……実を言えば、君といると心が緩んでしまうというか、油断してしまうというか……。
つい言わなくても良いことを言ってしまうというか、話を聞いてほしくなるというか……。
これでは、なんだか君を利用しているようで悪いと思ったんだが――」
( ^ω^)「滅相も無いお。 そんなこと全然感じないお」
川 ゚ -゚)「……迷惑じゃなかったか? 嫌いにならなかったのか?」
( ^ω^)「むしろどんどん来るお」
大袈裟に胸を叩き、頼れる男をアピール。
するとその姿を見たクーの目が、みるみる内に輝いていった。
川 ゚ -゚)「君は凄い奴だな……何と器が広い……」
( ^ω^)「お? そこまで言われるとくすぐったいお」
川 ゚ -゚)「いや、少なくとも私は敬服したぞ内藤。
君だって色々悩んでるだろうに、更に人の弱音を背負えてしまえるなんて……」
( ^ω^)「クーも大人になれば解るお」
川;゚ -゚)「なっ……し、失礼な! 君より私の方が年上なんだぞ!」
( ^ω^)「身体は大人! 頭脳は子供!」
- 151: ◆BYUt189CYA :2007/11/03(土) 22:35:27.46 ID:xg28za3k0
- 川 ゚ -゚)「むむ、君は私を怒らせたいようだな……覚悟しろ!」
(;^ω^)「うわー、やられ――って、いたたたたたたたた!!? ギブギブギブギブ!!!」
川 ゚ -゚)「これでもかっ、これでもかっ!」
(; ゚ω゚)「折れる折れる折れる!! 何か今ポキッって言ったお!! おうふっ!」
アッー!という断末魔を残して、ブーンは力無くソファに倒れ込む。
それを降参と見たクーは満足気な笑みを浮かべ、その身体を解放した。
(; ´ω`)「……クーは怒らせると怖いお」
川 ゚ -゚)「安易に怒らせる君が悪いと知れ。 あと、年上は敬うように」
(;^ω^)「うぅ……上下関係に厳しい運動部の先輩みたいだお。
で、でも、『嬉し恥ずかしドキドキ密着トレーニング』なんかしてくれるんだったら何も問題ないお……!
むしろオールオッケーの勢いですお、クー先輩……!!」
勢いに乗るブーンを完全無視したクーは、テーブルの菓子を手に取った。
一つブーンに手渡し、自分の分の包み紙を解きつつ
川 ゚ -゚)「そういえば内藤、君はこんな所で何をしていたんだ?
しかも一人で」
(;^ω^)「え? あぁ……ちょっとクレティウスと話してたんだお。
気になることがあって、それを知ろうと思って」
- 158: ◆BYUt189CYA :2007/11/03(土) 22:37:13.01 ID:xg28za3k0
- ふむ、と返事をしたクーは、チョコレートを口に入れた。
咀嚼し、しっかりと飲み込んでから言葉を放つ。
川 ゚ -゚)「……それはもしかして、『クレティウスがウェポンらしくない』ということと関係あるのか?」
(;^ω^)「!? な、何でそれを……?」
川 ゚ -゚)「世界政府での戦闘時、ヒートと戦った時に少しな。
彼女も交えて話をした方が良いかもしれんので、今から呼んでみよう」
懐から小型の通信機を取り出すクー。
ブーンは一瞬、それを止めようとして、しかしすぐに動きを止めた。
少し赤くなっていた顔に手を当て、軽く首を振る。
(;^ω^)(せっかく二人きりになれたけど……いやいや、今はクレティウスの方が大事だお)
呼び出しに応じたヒートは、ミルナを連れてすぐに現れた。
訓練の最中だったのか、二人とも火照った顔で汗を拭きながらの登場である。
ノハ#゚ ゚)「貴女が私を呼んだということは――」
川 ゚ -゚)「……あぁ、話を彼に聞かせてやりたい」
- 160: ◆BYUt189CYA :2007/11/03(土) 22:38:42.39 ID:xg28za3k0
- 仮面に覆われた彼女の顔が、ブーンを見る。
唯一見える両目は暗く鋭い。
何か薄ら寒いモノを背筋に感じたブーンは、ぎこちない笑みを返した。
ノハ#゚ ゚)「ミルナはどうする? 少し時間が掛かりそうだけど」
( ゚д゚ )「いくらでも待つさ。
それに俺にも何か解るかもしれない」
と、二人はブーン達と対するように、対岸のソファに腰掛ける。
テーブルを挟んで座る四名は、異なる世界に所属しながらも鏡合わせのような構図となった。
ノハ#゚ ゚)「まずは何から?」
川 ゚ -゚)「ふむ……やはり、ヒートが違和感を持ったところから始めてほしい。
いきなり結論を出すにしても、土台が無ければ説得力は出まい」
いいな、と許可を促すクーの視線に、ブーンは神妙な顔つきで頷いた。
( ^ω^)「ヒートさん、御願いしますお」
ノハ#゚ ゚)「解った」
- 163: ◆BYUt189CYA :2007/11/03(土) 22:40:33.68 ID:xg28za3k0
- 時は数日前に遡る。
世界政府に喧嘩を売ったモララー達は、その進撃中にかつての仲間達と対峙することとなった。
人質をとられたブーン達は、彼らの足止めを不本意ながらの任務としていたのだ。
ノハ#゚ ゚)「それで私は、ミルナの代わりにクーと戦うことになった。
ちょうど目覚めたばかりだったし、ウォーミングアップのつもりでね」
川 ゚ -゚)「……それは初耳だぞ」
ノハ#゚ ゚)「まぁ、言ってないし」
何やら視線をぶつけて火花を散らす女性二名。
対して残された男性二名は、その迫力に気圧され身を縮める。
ノハ#゚ ゚)「14th−W『ハンレ』。
全てのウェポンの能力を有する、クー専用のウェポン。
もし私の相手がこれじゃなければ、きっと違和感に気付かなかったと思う」
( ゚д゚ )「成程、戦闘中の集中力は半端じゃないからな」
川 ゚ -゚)「そうだな。 所持者である私でさえ気付けなかった小さな点だ。
彼女の戦闘に対する考え方は、きっと私では及ばぬ領域にあるのだろう」
( ^ω^)(おー……)
珍しい、とブーンは思った。
クーが手放しで相手を褒めるなど、滅多にないからだ。
- 166: ◆BYUt189CYA :2007/11/03(土) 22:42:12.95 ID:xg28za3k0
- 冷静沈着な思考の持ち主である彼女は、しかし素直な面も持っていた。
思ったことは口に出し、疑問は納得するまで追及する。
嫌なものは嫌だと、良いものは良いと、しっかり言える強情な性格だ。
そんな彼女が人を褒めるとなれば、本当に心の底から感服した時に他ならない。
( ^ω^)(やっぱりヒートさんもすごく強いってことかお……)
英雄であるミルナもペニサスも段違いの強さを持っている。
それは訓練時に嫌というほど思い知らされた。
異獣に拉致されたと言われていたヒートも、しかし例外無く強者なのだろう。
( ^ω^)「……で、その違和感って何なんですかお?」
ノハ#゚ ゚)「私はクーの攻撃全てに対応するため、ウェポン能力の分析を行なった。
如何に摩訶不思議な武具だとしても、根本的な部分に魔力を使用している限りは
どうしても七属性に当てはめることが出来るから」
( ゚д゚ )「魔力の七属性は聞いたことがあるだろう?
震・貫・砕・引・斥・勢・衰だ。
魔力は必ずこのどれかに分類され、そして目的のために使い分けられる」
例えば、1st−W『グラニード』に使用されている魔力は『引』となる。
2nd−W『ロステック』は『砕』となり、3rd−W『ウィレフェル』は『勢』となるわけだ。
- 167: ◆BYUt189CYA :2007/11/03(土) 22:44:11.04 ID:xg28za3k0
- ノハ#゚ ゚)「知ってる通り、ウェポンは形状通りの能力を有している。
剣だったら『斬る』、槍だったら『突く』、盾だったら『弾く』といった感じにね。
あとは感じ取れる魔力の波長から属性を知り、その形状から能力を推測することが出来る」
簡単に言ってはいるが、これを出来る人間は少ないだろう。
英雄レベルの戦闘思考速度と、魔力嗅覚が無ければ出来ない荒技である。
ノハ#゚ ゚)「でも、その中で唯一私の予測から大幅に外れたウェポンがあった」
視線はブーンを、いや、その右手を見ていた。
言うまでもなく、握られているのは8th−W『クレティウス』だ。
ノハ#゚ ゚)「私は8th−Wの能力を『打撃・衝撃力の強化』と予測した。
拳は『殴る』ことが仕事だからね。 この答えに行く着くのに時間は必要なかった」
しかし、その予想は外れた。
クレティウスの能力は『術者の身体強化』である。
(;^ω^)「じゃあ、クレティウスの違和感って――」
ノハ#゚ ゚)「今も言ったけど拳の仕事は『殴る』こと。
でも拳型の8th−Wは『身体強化』を能力としている。
つまり他のウェポンのように『外側へ作用する力』じゃなく、身体の中――『内側に作用する力』なんだ」
確かにおかしい話である。
ヒートが感じ取った違和感を、ブーンはようやく理解することが出来た。
ミルナとクーも、同じように納得した表情で頷いている。
- 172: ◆BYUt189CYA :2007/11/03(土) 22:47:59.61 ID:xg28za3k0
- ( ^ω^)(って、あれ?
身体の内部に作用するウェポンって、もう一つあるような――)
ノハ#゚ ゚)「他のウェポンに比べておかしいと思えるのは、きっとその製作過程が逆だからじゃないかと私は思う。
拳だから、じゃなくて……『身体強化』に相応しい形が拳だった、と。
本来なら鎧とかにするべきだったんだろうけど、何故か武器に拘ってたみたいだし」
(;^ω^)「むぅ」
頷ける理論だ。
細かいところで見れば、クレティウスは違和感に包まれている。
ノハ#゚ ゚)「最後のは私の勘だからハズレの可能性もある。
けど、クレティウスの違和感についての論は間違ってないと思うよ」
川 ゚ -゚)「内藤、クレティウスは何と言っている?」
( ^ω^)「…………」
『…………』
今までの会話は全て聞いていたようだ。
黙ってはいるが、すぐ傍に意識を感じる。
( ^ω^)(クレティウス?)
- 177: ◆BYUt189CYA :2007/11/03(土) 22:49:45.96 ID:xg28za3k0
- 『……ここまで問い詰められ、無言を返すのも失礼か』
(;^ω^)(お、おぉ。 だったら――)
『だが、全てを話すわけではない。
あくまで君達に関する事実のみ教えようと思うが、それでも良いか?』
( ^ω^)(もちろんだお!)
『解った。 しかしこの話は他の者も聞いた方が良いかもしれない。
後日また会議があるのだろう? その時になら話す約束をしよう』
川 ゚ -゚)「……どうだ?」
( ^ω^)「僕達に関することだけって条件だけど、了承をくれたお。
作戦前の会議の時に、皆の前で話してくれるみたいだお」
それを聞いたヒートが満足気な溜息を吐いた。
ノハ#゚ ゚)「ということは、やっぱり私の推測は正しかったみたいだね」
川 ゚ -゚)「あぁ、礼を言うぞヒート」
ノハ#゚ ゚)「言葉だけ?」
川;゚ -゚)「む……何が望みだ」
- 182: ◆BYUt189CYA :2007/11/03(土) 22:51:41.78 ID:xg28za3k0
- 渋々言うクーを見据え、ヒートは仮面から見える目を弓にした。
ノハ#゚ ゚)「じゃあ、これから私の訓練に付き合ってよ。
ミルナの相手もそろそろ飽きてきちゃってさ」
(;゚д゚ )「!?」
川 ゚ -゚)「そんなので良いのか?」
ノハ#゚ ゚)「自覚してないだけかもしれないけど、貴女は身体能力だけで言えば英雄にも引けを取らないよ?
ミルナはどっちかと言うと我慢する方だから、クーみたいに回避重視の人とも手合わせしたいんだ」
川 ゚ -゚)「成程……そこまで言われれば、付き合わんわけにもいかないか」
笑みを浮かべて立ち上がるクー。
ヒートも勢いよく席を立ち、呆けているミルナをその場に置いて歩き出す。
結局二人は、止める暇もなく楽しそうに睨み合いながら談話室を出ていった。
(;^ω^)「……あれれー?」
(;゚д゚ )「……むぅ」
取り残された男二人は、気まずそうに汗を浮かべる。
( ^ω^)「お互い大変ですお」
( ゚д゚ )「大変かどうかは解らないが、置いていかれるのは悲しいところがあるな」
果たして、何か通じるものがあったのか。
ブーンとミルナは固い握手を交わし、それだけでは飽き足らず肩まで組んで頷き合った。
- 185: ◆BYUt189CYA :2007/11/03(土) 22:53:09.71 ID:xg28za3k0
- と、そんな時に限ってタイミング良く現れる影がある。
('、`*川「ペ・ペ・ペニスは不思議な味ぃ〜♪」
奇怪な歌を口にしながらのペニサスだ。
スナック菓子の袋を片手に、談話室の扉を開いた彼女は
('、`*川「……あらまぁ」
などと、空いている手を可愛らしく口に当てた。
(;^ω^)「え?」
(;゚д゚ )「む?」
('、`*川「えむ? えすえむ? がちほも?」
(;^ω^)「何がどうなったらそういう発想に行き着くんですかお……」
('、`*川「いやぁ、そうやって部屋で二人きりで肩組んでるの見たら、そりゃあイケナイ考えに走っちゃうでしょ」
(;゚д゚ )「イケナイのはアンタの頭だと思うんだが」
『そう?』、と興味無さげに部屋を横断するペニサスは、
菓子をテーブルに置いてソファに腰掛け、傍にあったリモコンを操作してテレビのスイッチを入れた。
流れ始める音楽や賑やかな声が、静かな空間を一転させて明るいものとする。
- 191: ◆BYUt189CYA :2007/11/03(土) 22:54:43.86 ID:xg28za3k0
- (;^ω^)「ってか、何してるんですかお?」
('、`*川「見て解んない?
テレビ見ながらゴロゴロ〜っと、太らない程度にお菓子むしゃむしゃ。
いわゆる暇を持て余している状態なわけで」
(;^ω^)「え、えと……訓練は?」
('、`*川「んー、あんまりやる意味ないかなぁ、と」
テレビから笑い声が響き、ペニサスも釣られるように小さく笑う。
スナック菓子の袋を片手で開けて食べ始める姿は、とてもではないが英雄に見えなかった。
珍妙な生物を見るような目を向ける二人に気付かないのか、ペニサスはテレビへ顔を向けたまま
('、`*川「ねー、ミルナくーん、英雄世界に帰ったらどうするー?」
( ゚д゚ )「……は?」
('、`*川「いや、だから。 異獣をぶっ倒した後は元の世界に帰るつもりなんでしょ?
しばらく向こうに帰ってないから、やること溜まってるんじゃないかなーと思ってさ」
軽い調子の言葉に、ブーンとミルナは口を開いたまま呆然とする。
(;^ω^)「ええっと……僕らはこれから異獣と戦うんですお」
('、`*川「だねぇ」
(;^ω^)「だから、先のことよりも目の前に集中してもらいたいというか――」
('、`*川「あーなーるほど」
- 194: ◆BYUt189CYA :2007/11/03(土) 22:56:12.54 ID:xg28za3k0
- だらしい格好で寝そべっていたペニサスは、その身を跳ねるようにして起こす。
菓子を一つ口に放り込み
('、`*川「でもさ、私達が生きて辿り着く末なんて一つなんだからいいんじゃない?」
( ゚д゚ )「どういうことだ?」
('、`*川「そのまんまの意味よ。
異獣に負けて死ぬか、勝って生き残るしかないでしょう?
だったら勝った後のことを考えるしかないじゃない?」
( ^ω^)「お……確かにそんな気がするようなしないような」
('、`*川「人間死んだら終わりなんだし、そう考えたら私達が進む先は一つだけ。
何てことないわ。 初めから私達の未来は決まってるようなもんなのよ」
無茶苦茶な理屈であるが、一応筋は通っている。
自分達が見ることの出来る未来など、ペニサスの言う通り一つしかないのだ。
――異獣に勝利し、生き残る。
それは『大変』だとかいう言葉で片付けられることではない。
退路など無い、まさに背水の陣で挑む決死の大勝負である。
- 198: ◆BYUt189CYA :2007/11/03(土) 22:57:51.61 ID:xg28za3k0
- ('、`*川「ま、そう気負いなさんな。 精一杯やればそれなりの結果がついてくる。
その結果ってヤツが異獣を上回っていれば勝てるだろうし、逆なら負けるってだけよ」
( ゚д゚ )「……どうにも俺には解らん理論だな」
('、`*川「人それぞれ、って言葉知らない? 私はそう思ってて、ミルナ君はそう思ってない。
別に私はこの考え方をアンタ達に押し付ける気は無いし、理解出来ないならそれでいいんじゃない?」
( ゚д゚ )「まぁ、確かにそうだが。
……で、その考えと、そのぐぅたらな態度は何か関係が?」
('、`*川「今更訓練したって、たった一週間程度で何か変わるとは思ってないだけよ。
最終日にちょっと動いて勘を起こすくらいで、後は全て休憩に当てるつもり。
英雄世界に帰ったら忙しくなるだろうし、今の内に堕落しておきたいってわけ」
そう言いながら伸びをするペニサスは、心の底から休んでいるように見える。
( ゚д゚ )「忙しくなる……?
そうか……英雄神は、もう」
世界交差が発動したということは、英雄世界の純正ルイルが使用されたということだ。
その純正ルイルに魂――つまり本体を封じていた英雄神が、この世界に存在出来る理はない。
この目で最期を見たわけではないが、現状から見れば『消滅』した線が濃厚だろう。
- 202: ◆BYUt189CYA :2007/11/03(土) 22:59:23.18 ID:xg28za3k0
- ('、`*川「他の英雄達も色々と考えてるみたいねぇ。
英雄神が敵に回ったっていう事実から一転、今度は知らないところで死んだってんだから。
FCにはモララー、機械世界には軍神、魔法世界にはレインがいるけど
英雄世界は英雄神を無くしたことから、統率力というか協調性を徐々に失ってるみたいよ」
( ゚д゚ )「……だが、彼らをまとめられる強者などいるのか。
俺が知る限りではアンタが――」
('、`*川「あー私はパスね。 確かに認められてるとは思うけど、そういう柄じゃないし。
逆にミルナ君やってみれば?」
(;゚д゚ )「お、俺が? 待て、俺には無理だ」
('、`*川「何でよ? ヒートちゃんは戦いに専念したいって言ってたし、だったら後はミルナ君でしょー」
(;゚д゚ )(い、いつの間にヒートと話を……)
('、`*川「内藤君もそう思わないー?」
(;^ω^)「え?」
('、`*川「指揮官ってーのはピンチの時でも動揺を見せちゃいけないわけで、だとしたら寡黙なミルナ君は打ってつけじゃない?
ほら、むしろドMだから燃えて強くなっちゃったり。 これが本当の『打たれ強い』」
(;^ω^)「えーっと……よく解らないけど、同意ですお」
(;゚д゚ )「よく解らんのに安易な賛成をするな……そして頼むから後半だけでも否定してくれ……!」
- 207: ◆BYUt189CYA :2007/11/03(土) 23:00:58.95 ID:xg28za3k0
- ( ^ω^)「いや、でも僕はミルナさんでも大丈夫だと思いますお。
僕より少し年上なだけなのに、物凄く頼り甲斐があるというか」
( ゚д゚ )「……よく考えたら、全て外面の話ではないか。
俺はモララーやレインのように頭が柔らかいわけでもないし、軍神のような問答無用のカリスマ性を持っているわけでもない。
上に立つ者としての能力が、俺には決定的に欠けていると思う」
('、`*川「そう、それ」
ペニサスはテレビから目を離し、ミルナを見据えた。
('、`*川「自分の事さえも冷静に判定出来る人って、なかなかいないわよ。
それにミルナ君は状況分析に秀でてるし……うん、指導者ってよりも参謀役かな。
だったら尚更、ある程度の地位に立った方が、充分に能力を発揮出来ると思わない?」
(;゚д゚ )「……正論に聞こえるから困る」
('、`*川「何で困るのよ。 まだちょっと時間も残ってるし、暇なら考えてみれば?」
彼女の言葉は軽い。
が、その意味はミルナにとって酷く重いものだ。
- 212: ◆BYUt189CYA :2007/11/03(土) 23:04:22.72 ID:xg28za3k0
- ( ゚д゚ )(俺が人の上に立つ……出来るのか……?)
( ^ω^)「ミルナさんミルナさん」
( ゚д゚ )「ん? どうした?」
( ^ω^)「これからちょっと僕の訓練に付き合ってほしいですお」
(;゚д゚ )「む……いや、悪いがそんな気分では――」
( ^ω^)「まぁまぁ、一度身体を思い切り動かした方が考えもまとまり易くなるですお」
ブーンの押しが強い言葉に、ミルナは少しだけ考える素振りを見せた。
確かにこのまま悩んでいても答えは出そうにもない。
そしてミルナは、そもそも自分は肉体派だということを思い出し
( ゚д゚ )「ふむ……一理ある。
しかし今の俺に付き合うと、余計に痛い目を見るかもしれんが」
( ^ω^)「構わないですお。 それに僕ももっと強くなりたいんですお」
( ゚д゚ )「強く、か。 ひた向きに頑張れた頃が懐かしい気もするな」
('、`*川「なーに言ってんの。 まだ全然若手のくせして」
ペニサスの意地悪い笑みに、ミルナも苦笑を返した。
- 214: ◆BYUt189CYA :2007/11/03(土) 23:05:47.67 ID:xg28za3k0
- そうだ、自分は若い。
まだまだ経験を積まなければならない時期である。
そう考えれば、それなりの地位に立つのも悪くはないかもしれない。
( ゚д゚ )「……そうだな。 やってみなければ解らんか」
('、`*川(やれやれ。 慎重過ぎるってーのも大変ねぇ)
( ゚д゚ )「よし、内藤。 まずは身体を動かすぞ」
( ^ω^)「あいあいさー!」
そうと決まれば即行動だ。
どこか似ている二人は談話室を飛び出していく。
('、`*川「いってらっしゃーい」
遠退く足音に、ペニサスののんきな声が響いた。
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