( ^ω^)ブーンと川 ゚ -゚)クーは抗い護るようです

7: ◆BYUt189CYA :2007/11/17(土) 20:34:24.53 ID:B/Xg8yzC0
【現在の戦況】
□□□□□□□□□□□▲▲▲□□□□□□□□□□□□
□□□□□□□□□□□▲▲▲□□□□□□□□□□□□
□□□□□□□□□●●●●●●●□□□□□□□□□□
□□□□□□□□●●●●●●●●●□□□□□□□□□
□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□
□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□
□□□□□□□□□□□□×□□□□□□□□□□□□□
□□□□□□□□□□□×××□□□□□□□□□□□□
□□□□□□□□□□×××××□□□□□□□□□□□
□□□□□□□□□×××××××□□□□□□□□□□
□□□□□□□□××××■××××□□□□□□□□□
□□□□□□□××××■  ■××××□□□□□□□□
□□□□□□××××■  ★  ■××××□□□□□□□
□□□□□□□××××■  ■××××□□□□□□□□
□□□□□□□□××××■××××□□□□□□□□□
□□□□□□□□□×××××××□□□□□□□□□□
□□□□□□□□□□×××××□□□□□□□□□□□
□□□□□□□□□□□×××□□□□□□□□□□□□
□□□□□□□□□□□□×□□□□□□□□□□□□□
□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□

□=荒れ地(1マス約100m)、×=異獣、■=結界、★=中枢、▲=本陣、●=四世界混合軍

本陣:( ・∀・) 从・∀・ノ!リ ( ><) (*‘ω‘ *) [゚д゚] (-@ハ@) |;;;|:: (へ) ,(へ)|シ
北軍:川 ゚ -゚) ( ^ω^) <ヽ`∀´> *(‘‘)*
東軍:(,,゚Д゚) (*゚ー゚) (´・ω・`) ( ゚∀゚)
西軍:ミ,,"Д゚彡 ('A`) ( ´_ゝ`) (´<_` ) ('、`*川
南軍:(#゚;;-゚) ノハ#゚  ゚) ( ゚д゚ )
遊撃:(`・ω・´) <_プー゚)フ |゚ノ ^∀^) lw´‐ _‐ノv



10: ◆BYUt189CYA :2007/11/17(土) 20:36:20.43 ID:B/Xg8yzC0
第四十六話 『The Last ―― Start』

力の激突は、最前線よりも異獣側から生じた。

「先手はもらった! 撃てぇぇ!!」

隊長格の男の声と同時、銃型のEWを抱えた兵士が飛び出し、向かい来る異獣へ向けて一斉射撃を放ったのだ。

横一直線から放たれる魔力弾は、流星の如く僅かな弧を描いて飛翔。
秒にも満たぬ速度で、こちらに牙を立て大群でやって来る異獣へと殺到した。

地平線を染めていた白色が、一瞬にして魔力光に包まれる。

「お次は近接! ブチかませ!!」

撃ち終えた射撃隊の背を飛び越え、剣や槍を構えた兵士達が疾駆を開始。
横一列に並ぶ彼らは殺気の籠もった目で吼え、出鼻を挫かれた異獣の群れを目指す。

手元の引き金を絞り、その刃に魔力の光を携え、力の限りを尽くして

「――――!!」

崩れかけた異獣の壁へと激突。
多量の鐘を打ち鳴らすような大音が響き、

「「おぉぉぉ……ッ!!」」

押した。



13: ◆BYUt189CYA :2007/11/17(土) 20:38:24.00 ID:B/Xg8yzC0
彼らが純然たる意志で目指している先は一つ。
背後にあるミラー四機を、四ヶ所の定められた位置――『X地点』まで送り届けることだ。

だから、止まらない。

「うおおおっ!!」

尚も抵抗しようとする獣の頭に刃を突き刺し、そのままの勢いで次の獲物へ。
前の者が退けば次の者が飛び掛かり、攻撃の連鎖は止むことを知らない。

横列突撃の後方からは支援砲射撃が光を噴き、異獣と同時に荒れ地をも削っていく。

対する異獣は牙を剥き、進撃してくる人間の行く手を阻もうと吠えた。
力と数のみで充分だと証明するように、ただ前へと敵意を向ける。

「はッ! コイツら大したことねぇじゃねぇか!」

思った以上に善戦していることに気付いたFC兵が、その口元に笑みを浮かべた。
しかし、隣でリロード作業を行っている魔法世界の女は首を振る。

「……油断は禁物よ」

「とは言っても、これほど脆ければラッキーと言わざるを得ないわけだが。
 もしくは拍子抜け、と言った方が正しいか」



16: ◆BYUt189CYA :2007/11/17(土) 20:39:42.12 ID:B/Xg8yzC0
理由は攻撃手段にあった。
魔力で強化した銃や砲を持つ四世界側に対し、異獣は牙と爪のみ。
遠距離攻撃を持たぬ敵の群れは、後方から放たれる砲撃によって打ち崩されていく。

「だが――」

押しているのは良い。
士気の向上に直結するし、押せている間は押すべきだ。

だが、そこに納得出来る理由がないことに、漠然とした不安を覚える者は少なくない。

相手は異獣である。
数々の世界を渡り、その全てを食い尽くしてきた化物以上の何か。
全戦全勝であることなど、この世界にいる時点で解りきっている。

そんな『生物としての最強種』と言っても差し支えない連中が、果たして今の状況を許すのだろうか。



21: ◆BYUt189CYA :2007/11/17(土) 20:41:02.75 ID:B/Xg8yzC0
「おい、アンタ機械世界所属だったよな?
 この状況をどう思う?」

英雄世界の兵に問われ、射撃を一旦止めた男は異獣へと視線を向ける。

「いつも通りだな。
 機械世界で行なっていた異獣との戦闘でも、このような状況はよくあった。
 奴らの強みはその数、そして動物特有の身のこなし。 正面衝突では俺達に分がある。
 しかし――」

「しかし?」

「だからこそ思う。
 これが奴らの本気なのか、と」

男の呟きには、はっきりとした警戒の色が混ざっていた。
雰囲気を感じ取った周囲の兵士らが、その表情を更に険しくする。



24: ◆BYUt189CYA :2007/11/17(土) 20:42:24.46 ID:B/Xg8yzC0
彼らの目前には敵の本陣。
血のように赤い空の下に在る、血のように赤い半透明のドームがそれだ。

本来ならば、異獣の抵抗は今まで以上のものでなければならない。
しかし、人が獣を力で押している現状を見れば――

「……気持ち悪ィな」

誰かが言い、誰かが頷いた。

「でも今は力の限り進むしかないわ。
 後で巻き返されるにしろ、今の内に有利な状況を作っておかないと」

「難しいことは頭の良い奴に任せるとしますか」

補給隊から渡されたマジックカートリッジホルダーを腰に掛け、兵士達は走り出す。
少しでも敵の数を減らし、結界を破壊するためだ。

「行こう。 眼前の敵を砕いて道を作るのは俺達の役目だ」



27: ◆BYUt189CYA :2007/11/17(土) 20:43:53.43 ID:B/Xg8yzC0
「世界中に散っている異獣……動き始めました」

緊張した声が響くのは、四世界の戦いを統括する後方の本陣だ。
通信用機械を前に座っているオペレーターの一人が、微かに震えた声を発する。

「動いたのは一部ですが、それでもこの戦場にいる異獣の数よりも多いようです」

( ・∀・)「到着はいつだね?」

「この速度なら一時間程で」

( ・∀・)「……それまでに決着をつけねばなるまいか。
     間に合うと良いのだが」

「間に合わなかった場合は――」

( ・∀・)「今はまだ何とかなっているが、その圧倒的な数に押し潰されるだろうね」

「「……っ」」

その場にいた人間の、息を呑む音。
彼らの不安を感じ取ったモララーは、敢えて笑みを浮かべた。

( ・∀・)「だが、信じよう。 最前線で戦う彼らのことを。
     きっとやってくれるはずだ。 私達はそのサポートを全力でこなす。 いいね?」

諭すような声が、一瞬だけ恐怖に包まれた空間を中和した。
そうとしか思えないほど、本陣の空気が変わったのだ。



31: ◆BYUt189CYA :2007/11/17(土) 20:45:28.55 ID:B/Xg8yzC0
从・∀・ノ!リ「流石じゃな、モララー」

( ・∀・)「世辞はいい。 そちらの首尾はどうだね?」

从・∀・ノ!リ「余裕がないのぅ。
      これから『龍砲』のチャージに入る。
      正確な時間を予測することは出来ぬが、一時間には間に合うはずじゃ」

( ・∀・)「解った。 タイミングの調整はこちらに任せたまえ。
     結界が破れ、破壊すべきターゲットが判明次第撃つぞ」

从・∀・ノ!リ「うむ」

その時だ。


「――!? 敵群の中に巨大な魔力反応が!」


( ・∀・)「巨大? それは異獣か?」

「種別は……はい、間違いなくタイプ:フェンリル! で、ですがこのサイズは――!」



36: ◆BYUt189CYA :2007/11/17(土) 20:47:17.93 ID:B/Xg8yzC0
東の戦場。
その変化に対応出来た兵は少なかった。

「うぉぉぉぉ!? 何だありゃ!?」

前方の白い獣の群れの中、いきなり巨大な何かがそびえ立ったのだから無理もない。

「で、でけぇ……!」

戦慄する兵達の視線の先にいるのは、異獣だった。
姿形は白狼そのものであるが、ただ一つ違う点は身体のサイズ。

全高約七〜八メートル。
その巨体が、突如として敵群の中から出現したのだ。
一心不乱に前進していた兵達の表情が、一瞬にして強張り引き攣る。

(;゚∀゚)「うぉー! でっけぇのが来たぞ!!」

(´・ω・`)「ギコさん!」

(,,゚Д゚)「あぁ、ここは俺達の出番らしい――!」



40: ◆BYUt189CYA :2007/11/17(土) 20:49:02.61 ID:B/Xg8yzC0
装甲車の上で指揮を執っていたギコが、巨大異獣を相手にするため地面に降り立った。
他の兵達に比べ、攻撃力の高いウェポンを扱う自分達が適任だという判断からである。
それに

(,,゚Д゚)「ウォーミングアップくらい済ませておかねばな!
    行くぞ、グラニード!!」

応じるように青い巨剣が姿を生み、跳躍の姿勢を生み出し

(;*゚ー゚)「ギコ君、待って!!」

という、上空からのしぃの声によって、前へとつんのめる結果に終わった。

彼女は背に生やした機械翼で空を飛び、戦況を高度から分析・援護していたはず。
何かを見つけたのか、と視線を上げた時。

(;,,゚Д゚)「!?」

その視界を、青い色が高速で通過していった。

《――!!?》

轟音が響いたのは直後。
見れば、その青い色が巨大異獣に激突している。

一瞬だけ動きが止まった光景に見た、色の正体とは――

(,,゚Д゚)「EMAか!!」



44: ◆BYUt189CYA :2007/11/17(土) 20:50:46.12 ID:B/Xg8yzC0
――時間は数分前に遡る。


『レモナ、シュー。 出番じゃ』

|゚ノ ^∀^)「OK……待ちくたびれるところだったわよ」

薄暗いコックピットの中で、レインの声がノイズ混じりに聞こえた。
軽い返事を返したレモナは気を引き締めるようにレバーを握る。
続いてペダルの重さを確認するように浅く踏み込み、サブウインドウに浮かぶ機体のステータスを確認。

万全だ。
問題はない。
あとは合図と共に本陣を飛び出し、前線へと駆けつけるだけでいい。

|゚ノ ^∀^)「シュー、聞こえてたわね?」

『うぃうぃ』

|゚ノ ^∀^)「……米は?」

『ん、持った』

|゚ノ ^∀^)「あ、持ってるんだ……んじゃあ、ちゃんとついて来なさいよ。
      って言っても途中までだけど」

『レモナは東軍、私は西軍。
 仕事は遊撃及び一般兵じゃ荷が勝ち過ぎる敵の相手……だね』

|゚ノ ^∀^)「そゆこと。 西は任せたからシッカリね」



49: ◆BYUt189CYA :2007/11/17(土) 20:52:28.46 ID:B/Xg8yzC0
『こちらの発進用意は完了した。
 聞くまでもないじゃろうが、二人とも準備は良いな?』

|゚ノ ^∀^)「えぇ」

『うぃ』

『武運を祈っておるぞ。 世界の平和が確認出来た頃、また会おう』

通信が途切れ、機体の正面から整備兵達が離れていく。
もはや目の前に邪魔なものは存在しない。

|゚ノ ^∀^)「EMA−01『リベリオン』、出るわよ!!」

『同じくEMA−02『ウルグルフ』、行ってきます』

宣言に等しい言葉と同時、青と赤の巨体が急加速する。
同時、背部スラスターに備えられた鉄片が展開し、翼のように広げられた。

景色が後方へと吹き飛ぶ。

本陣待機の技術者や警護する兵達に見送られ、二機のEMAは低空高速滑空の姿勢へ。
そして、そのまま戦場となった荒れ地へと突入した。



53: ◆BYUt189CYA :2007/11/17(土) 20:54:25.70 ID:B/Xg8yzC0
まず見えたのはこちらに背を向ける人の軍で、その後に白獣が群れを為している光景。
その先には元世界政府本部の無残な姿があり、半透明・赤色の巨大ドームがそれを包んでいる。

|゚ノ ^∀^)(あれが、私達の目指すべき――!)

『レモナ』

|゚ノ ^∀^)「えぇ、解ってるわ。 そっちは御願いね」

『ん』

短い、しかし確かな返答を最後にシューからの通信が途切れる。
あとは救援要請などの『ネガティヴな状況』が来ない限り、彼女の声を聞くことはないだろう。
もしくは、全て終わって互いが生きていた時――

|゚ノ ^∀^)「……シュー、また会いましょう」

右のサブウインドウの中、赤いEMAが二本の剣を展開しながら離れていくのを視界の隅で追う。
しかし振り払うかのように軽く首を振り、正面ウインドウを見据えた。

目指す先には、その巨躯を持ち上げていく獣。
小さき人を踏み潰し、引き裂くために動き出そうとする敵に対し

|゚ノ#^∀^)「さぁ、行くわよッ!!」

ウェポンパネルを叩き、薙刀状の近接武器を展開――右のアームに確定。

そのままの勢いで、巨大異獣へと身体ごとぶち当たった。



57: ◆BYUt189CYA :2007/11/17(土) 20:57:06.55 ID:B/Xg8yzC0
《――!!?》

(,,゚Д゚)「EMAか!」

『コイツは私に任せて!』

肩からぶつかった姿勢で、そのまま身をロールさせる。
回転によって自動的に放たれた薙刀の石突きが、巨大異獣の横顔を直撃した。

《!?》

ゴ、と悲鳴のような音を立てる巨大な獣に対し、EMAは更に容赦なく攻撃を仕掛ける。

(;゚∀゚)「ってか、ここじゃ踏まれそうで怖ぇっての! どっか行け!!」

『あぁもう解ってるわよ! 先に行ってる!!』

背部スラスターに高密度の光が灯った途端、爆発的な推力を得たEMAは
尚も抵抗しようとする巨大異獣を全力で押した。



63: ◆BYUt189CYA :2007/11/17(土) 20:58:44.35 ID:B/Xg8yzC0
足元にいる異獣を何体も踏み潰しつつ、レモナは単機で敵のど真ん中へと突撃していく。
表示されるマップを確認し、ちょうどX地点のすぐ傍へと自機を置き

|゚ノ ^∀^)「ようやく思い切り暴れられるわね!」

ここで周囲の敵を掃討しておけば、ギコ達の負担がかなり軽くなるだろう。
後は彼らが来るまでに、せめて目の前の異獣を倒しておかねば――

|゚ノ;^∀^)「っ!」

牙を立てる巨大異獣に攻撃しようとした瞬間、レモナはウインドウの隅の変化を見る。

|゚ノ;^∀^)「これは……まだいるってわけね……!」

小さな山が三つ、巨大異獣の背後で増えたのだ。
まるで地面から生えたかのような白色は、その形を獣へと変容させていく。

たった一体だった大型の獣は、たった数秒で四にも数を増やした。

対応は早い。

レモナはすぐさまウェポンパネルを叩き、ライフル型EWを左アームに確定する。
そのまま両の手に備えられた武器を構え

|゚ノ#^∀^)「さぁ、全力でかかってきなさい!
      その程度の大きさと数で、私を易々と倒せると思わないことね!!」

お前達の相手は自分だ、と、高らかに吼えた。



70: ◆BYUt189CYA :2007/11/17(土) 21:01:07.35 ID:B/Xg8yzC0
「EMA−01、EMA−02――接敵! 大型異獣との戦闘を開始!」

川 ゚ -゚)「よし、東西は大丈夫だ!
     本陣から最も近い北を担当する我々は、彼らよりも早くX地点を獲る!!
     獲らねば終わった後で笑われるだろうさ! それが嫌ならさっさと攻めるぞ!」

「了解!!」

大型の異獣が出現しなかった北側では、クーやブーン達を中心とした戦力が奮闘していた。
X地点までの数百メートルを逸早く無にするため、全員が一丸となって進軍する。

川 ゚ -゚)「斬り込むぞ、内藤!」

( ^ω^)「おk!」

細かい言葉は要らない。
クーの頷き一つで意思を汲み取ったブーンは、彼女に並ぶようにして駆けた。

低い、這うような姿勢で助走する。
人と獣を隔てるライン――最前線へと飛び出した二人は、襲われる前に跳躍。
そのまま異獣の群れへと突っ込んでいく。

川 ゚ -゚)「君の背中は任せろ!」

( ^ω^)「クーの背中も任せるお!」

だから、と呼吸を合わせ

川#゚ -゚)「「私(僕)の背中は君に預けた!!」」(^ω^#)



77: ◆BYUt189CYA :2007/11/17(土) 21:03:30.65 ID:B/Xg8yzC0
文字通り背中合わせになった二人は、周囲から襲い来る異獣を薙ぎ払い始めた。

ブーンは拳で、クーは多種多様な武装で。
異獣の壁を隔てた先からは援護砲射撃が、そして味方の剣撃が。

外側と内側の両方からの猛攻に、異獣達は翻弄され始める。

川 ゚ -゚)「よし……!」

これこそがクー達の狙い。
元より敵陣に突っ込むだけで殲滅出来るとは思っていない。
あくまで自分達は囮であり、本命は別にあるのだ。

そしてその本命とは――

*(#‘‘)*「充填完了! 死にたくなきゃさっさと退くですよ!!」

乱暴な合図が上空から飛んでくる。
充分に敵を引きつけていたブーン達は、クーの生やした機械翼で早々に離脱した。

光が、その場にいた異獣を呑み込んだのは直後。

大小様々な桃色光が、まさに降雨のように降り注いだのだ。
問答無用の攻撃意志と共に粉砕の力が地上へと牙を剥き、異獣達を片っ端から打ち抜いていく。

威力の雨に曝された異獣は、為す術もなく砲撃の嵐に朽ちていった。



85: ◆BYUt189CYA :2007/11/17(土) 21:05:21.34 ID:B/Xg8yzC0
「おおっしゃ! 流石は自称魔砲少女!!」

「大出力砲撃ばんざーい!! 大艦巨砲主義ばんざーい!!」

川 ゚ -゚)「今の内に進軍だ! X地点を確保しろ!!」

<ヽ`∀´>「任せるニダ!」

クーの言葉に、ニダーを先頭として戦闘に自信を持つ一隊が突撃。
砲撃の嵐によって開いた空間を詰めるように走り込み、自軍の道を確定しようとする。

しかし、

「――!? 本陣から連絡! タイプ:フェンリルとは異なる魔力反応が敵群から!!」

(;^ω^)「フェンリルとは違うのかお?」

川 ゚ -゚)「各自警戒! 敵は何処から来るか解らんぞ!」

厳しい言葉に全員の表情が引き締まる。
先ほどの巨大異獣のように、突然現れる可能性だってあるのだ。



92: ◆BYUt189CYA :2007/11/17(土) 21:06:47.23 ID:B/Xg8yzC0
その時である。

<;ヽ`∀´>「っ!?」

周囲を見渡していたニダーが、真っ先に気付いた。
その足下に見える影が増えていることに。
影が増えるということは、つまり、簡潔に考えて

<;ヽ`∀´>「上ニダ!!」

警戒と報告の意を込めて放たれた声は、その場にいた兵達の首を真上へと向けた。
途端、『それ』を見た者の目が次々と見開かれる。

「なっ――」

在ったのは、翼だった。

(;^ω^)「コイツら、空も飛べるのかお……!?」

言葉で形容するならば簡単である。

『翼の生えた白い狼』。

一体何処から湧いて出てきたのか、空を覆わんとばかりの数で白色が羽ばたいていた。



96: ◆BYUt189CYA :2007/11/17(土) 21:08:04.55 ID:B/Xg8yzC0
*(;‘‘)*「んな馬鹿な……さっきの大きい奴といい、こんなの一度も見たことがないですよ!?」

(;^ω^)「いよいよ異獣も本気だというわけかお……!」

川;゚ -゚)「射撃の出来る者は撃ち落とせ! 近接攻撃隊は意地でも戦線を維持しろ!!
     ここで押されたら相手の思う壺だぞ!!」

とはいえ、士気が僅かに落ちていくのをクーは感じ取っていた。
正面からではなく、今度は真上からの攻撃も加わったという事実は、一直線に駆けていた彼らの重荷となるのだ。
今はまだ気迫が保たれているものの、状況は時間が経過すればするほど悪くなる一方である。

川 ゚ -゚)「内藤、下は任せた!
     私はヘリカルと一緒に空の敵を迎撃する!」

( ^ω^)「把握!」

10th−W『レードラーク』を背に出現させたクーは、上空で迎撃を開始するヘリカルの下へと飛ぶために姿勢を落とした。
しかし、その動きを止める声が通信機から響く。

『――おぉっとぉ! その必要はねぇぜ!!』

川;゚ -゚)「!? この声は……!」


直後、一陣の風が空を駆け抜けた。



101: ◆BYUt189CYA :2007/11/17(土) 21:09:38.33 ID:B/Xg8yzC0
瞬刻に見た色は『灰』。
風を切り裂くというよりも、背後に従えて飛ぶ姿は威風堂々。

『さぁて、パーティの始まりってなぁ!!』

エクストの駆るGDF『ミョゾリアル』が、空を埋め尽くそうとしている異獣の間を疾走した。

<_プー゚)フ「いやっほおぉぉぉぉ!!」

景色の吹き飛ぶ光景を映し出すコクピットの中。
エクストは、溜めに溜めた気合を声として発した。

《――!?》

敵のど真ん中を駆け抜けるという高速のGDFに無謀さに、空を飛んでいた異獣の反応が一瞬だけ遅れる。

<_プー゚)フ「はっは! ノロマが!!」

言葉通り、時既に遅し。
異獣達が振り向いた頃には、GDFの機首がこちらを見据えている。

それは、愚鈍な獲物を視界に捉えた猛禽の睥睨に等しかった。

<_プー゚)フ「獣は獣らしく地面に這い付くばってりゃいいんだよッ!!」

スロットルレバーを前方へ突き出すと同時、両翼の兵装を展開。
二門のブースターが光を噴き、翼前面がミサイルを吐き出すための殻を開いた。



110: ◆BYUt189CYA :2007/11/17(土) 21:11:51.36 ID:B/Xg8yzC0
加速。

加速、加速。

加速、加速、加速、加速――


<_#プー゚)フ「おらおらおらおらおるぁぁぁぁぁぁ!!!」

爆発的な速度を盾に、今度は逆方向から突撃。
同時に機銃が弾丸をバラ撒き、翼からはマイクロミサイルが白い尾を引いて発射される。
それは数あるマニューバの中で、最も攻撃力の高い戦闘のためだけの機体挙動。


名を、『アサルト・パレード』と言った。


持ち得る速度と武装を最大限に利用する強襲法だ。
その攻撃力の高さは半端ではなく、しかしリスクも充分に高いクレイジーなものである。

しかし異獣の群れを前にしたこの局面では、効果てき面だった。


GDFが高速で通過した直後、爆発が後から追う形で連鎖。
ミサイルが螺旋を描き、機銃は問答無用の直射線に乗って敵を砕いていく。

まだ薄暗かった戦場を、空から多量の魔力光が照らした。



118: ◆BYUt189CYA :2007/11/17(土) 21:13:18.64 ID:B/Xg8yzC0
<_プー゚)フ「絶・好・調である! なんてなぁ!!」

『――おい、エクスト! 勝手に出るな馬鹿!』

見れば、本陣の方角から黒色の戦闘機がこちらに向かってきている。
声はシャキンのもので、軽い怒りに満ちていた。

<_プー゚)フ「いいじゃねぇか、結果オーライだろ!」

爆発を生み出した魔力の残滓。
それを少し離れた上空から見つつ、シャキンはエクストの憎たらしい声を聞く。

『ってか、お前もさっさと来いよ! 全部俺が食っちまうぜ!』

(;`・ω・´)「コイツ……久々の空でテンションが上がってるのか……?」

ひゃほー、などと言いながら通信が途切れる辺り、相当なものらしい。
途端、前方に見える空域に魔力の爆発がいくつも起きる。



128: ◆BYUt189CYA :2007/11/17(土) 21:15:05.30 ID:B/Xg8yzC0
と、そこで軽い電子音が鳴った。
ステータスや情報を示すサブウインドウの隅、小さな文字が走り、機械的な女性の声が響く。

【――早死にするタイプですね】

(`・ω・´)「あぁ。 だからこそ俺がサポートしてやらねばならん。
      まったく面倒だ」

【その割には楽しそうです】

(`・ω・´)「キオル、お前は何を馬鹿なことを――」

【本当にそう御思いですか?】

(;`・ω・´)「……今更だが、お前は俺の苦手なタイプかもしれん」

少し似ている、とも思った。
機械世界に残ってるはずの、GIFの製作を手掛けた研究者に。
ガナーという名を持つ彼女もまた、自分の何かを見透かしたような言動をしていたと思い出す。

(`・ω・´)「あぁ……サポートが面倒なのは本当だが、楽しいのもまた事実だ。
      俺と一緒に飛べる腕を持っているのは、兄さんとアイツくらいだからな」

だから、と続け

(`・ω・´)「こんなことをしても――」

軽い音と共に放たれるは、機体底部に装備していたマイクロミサイルの群。
放射状に広がり、エクストの飛び回る空域へと殺到し――大きな爆発を引き起こした。



134: ◆BYUt189CYA :2007/11/17(土) 21:16:35.95 ID:B/Xg8yzC0
『うぉぉぉぉぉ!!?』

数十にも上る魔力爆光が生まれ、空を制そうとしていた異獣らが次々に巻き込まれていく。
その隙間を縫うように、小さな灰色の点がちょこまかと飛び回るのが見えた。

『――て、てててててててめぇぇぇ!! 殺す気かぁぁぁ!!?』

(`・ω・´)「そう、エクストなら避けてくれるのさ」

【随分と信頼なされているようで】

(`・ω・´)「これくらいで死なれてはたまらん」

『半分博打だったろテメェ!!』

(`・ω・´)「……さて、次は俺の番だ」

『あ、おい!』

エクストの声は無視。
スロットルレバーを操作。
間一髪で爆撃を回避し、ふらふらの状態でこちらに帰ってくるGDFを一瞬で追い抜き去る。

しかしエクストと言えど意地はあるようで、すぐさまシャキンが駆るキオルの追跡に入った。



142: ◆BYUt189CYA :2007/11/17(土) 21:18:46.72 ID:B/Xg8yzC0
『待ちやがれってんだ! お前は俺の後ろを飛べ!!』

(`・ω・´)「文句があるなら自力で前に出るんだな」

『……上等じゃねぇか!』

両者、更に加速。
既に周囲は異獣だらけだというのに、この二人は個人の勝負に熱中し始めていた。

<_#プー゚)フ「あんにゃろう……いつも俺の尻ばっか追いかけてきてたくせに!!」

高速で景色が吹き飛ぶ中、エクストは嘘を平気で吐きながら小さな金属を取り出した。
緑色の指輪――13th−W『ラクハーツ』だ。

<_#プー゚)フ「見せてやるぜ、俺の新しい力をな! ウェポンセーットアーップ!!」

センスの欠片もない台詞と共に、その指輪をソケットにはめ込む。

そう、これこそがアサヒの施した指輪の新たな使い道。
指輪を強化するのではなく、

<_#プー゚)フ「指輪で機体を強化すんだぜオラァ!」

まばゆい緑光と共に変化が起きる。
それはコクピットではなく、鋭く伸びる灰色の翼に、だ。

発光。

光を纏って完成した形は、やはり翼だった。
だが、淡い魔力を纏っている観点から見ても、ただの翼であるわけがなく――



151: ◆BYUt189CYA :2007/11/17(土) 21:20:24.36 ID:B/Xg8yzC0
( ´_ゝ`)「弟者! あっちの防御を! ここは俺が任された!」

(´<_` )「把握!」

その直下では、西軍が南軍を背後に引き連れて進軍していた。
赤い色の半透明なドームを左に見つつ、彼らは一心不乱に駆ける。
結界の真西へと到着すれば、後はほぼ無傷の南軍を送り出せば良いという算段だ。

('、`*川「これこそまさに千切っては投げ、千切っては投げって感じよねー」

ワンステップで踏み込んだ彼女は、そんなことを呟きながら軽く右足を跳ね上げる。
その強靭な顎に引っ掛かったと見るや否や、音速さえ超えそうな勢いで足首を振った。

《――!?》

ごゅ、という生々しい音が響く。
しかし感知する頃には、その異獣の脳は停止していた。
それを繰り返すだけのペニサスは、ただ異獣を用いてリフティングをしているようにも見受けられる。

「直上! 敵が来ます!」

ミ;,,"Д゚彡「くっ……上から来られるとなると、温存している戦力までが!」

翼を大きく広げた異獣が飛来。
空を飛ぶ相手に剣や槍が届くわけもなく、自然と迎撃は銃器持ちの兵に絞られる。

その分、陸で敵を相手している者達への援護が少なくなるという結果は当然のことであった。



155: ◆BYUt189CYA :2007/11/17(土) 21:22:03.96 ID:B/Xg8yzC0
ミ,,"Д゚彡「ここが踏ん張りどころですね……!」

『手伝いましょか?』

ミ,,"Д゚彡「軍神さん? いえ、私達に任せて下さい!」

(;´_ゝ`)「あ、おい! フサギコさん上! 上!!」

兄者の声に空を見上げれば、すぐ傍まで迫りくる異獣の姿があった。
その牙からは涎が垂れ、鋭利な爪がフサギコの身体を引き裂こうと――

ミ,,"Д゚彡「っ!?」

腰に差した剣型EWを抜こうとした時。
今にも襲い掛かろうとしていた異獣が、一瞬の光と共に弾き飛ばされる。

ミ,,"Д゚彡「なっ――!?」

動体視力が良い彼は、何処から攻撃が来たのかを見ていた。

それは己の背後。
補給の役割も兼ねる装甲車の、その屋根にあたる部分から。

('A`)「…………」

こちらを見ているのは、鈍く暗い視線だった。



164: ◆BYUt189CYA :2007/11/17(土) 21:23:33.93 ID:B/Xg8yzC0
ミ;,,"Д゚彡「あ、ありがとうございます……というより、大丈夫なのですか?」

('A`)「……俺も、まだ戦えるから」

リロード。
空になったマジックカートリッジを排莢し、新たなカートリッジをソケットへ差し込む。
そのまま背中を見せたドクオは、味方を援護するために銃身を地面と平行になるように傾け

('A`)「やれるだけやってみるよ。 こんな俺でも何か出来るかもしれないし。
   出来ることさえ見逃して、もう後悔したくないから」

射撃する。
一際大きな光の破裂が、遠くにいた異獣の頭を撃ち貫いた。

ミ,,"Д゚彡(以前よりも攻撃力が上がっている……?)

(´<_`;)「フサギコさん、やっぱり空からの攻撃が邪魔だ! あれをどうにかせねばまずい!」

ミ,,"Д゚彡「わ、解りました! ならシューさんを呼び戻して一掃してもらい――」

声は、更に大きな音によって遮られることとなる。

真上だ。
上空からの爆音が、フサギコの高らかに放たれた命令さえも打ち消す。
直後、空気の激震とも呼べる震えが覆うように、陸で戦う者達の身体を激しく揺すった。

(;´_ゝ`)「な、何だ!?」

驚きに目を見開く兄者達は見る。
上空を何かが高速で飛び、その風を受けた異獣達が次々と爆ぜていくのを。



170: ◆BYUt189CYA :2007/11/17(土) 21:25:02.77 ID:B/Xg8yzC0
『はっはぁ! ヒーロー参上!!』

ミ;,,"Д゚彡「エ、エクストさんですか?」

『おうおう! 西軍の空は俺に任せとけよ!
 東はシャキンが行ってっから、ここの獲物は全部俺のモンだぜ!!』

('、`*川「だいぶ頭dでるわねぇ」

(´<_`;)「っていうか、あの爆発は何なんだ?」

よくよく見れば、高速で飛んでいるのはエクストの操縦するGDFだ。
灰色のボディに対し、その両翼は緑色の光に包まれており、その鉄翼が異獣の身体に少しでも触れた途端

《!?》

爆発を引き起こす。
しかしエクストは意に介す様子すら見せずに飛翔。
まるで数珠繋ぎのように連鎖する光は、ただただ圧倒的な光景だった。

( ´_ゝ`)「あれは13th−W『ラクハーツ』だな」

(´<_` )「ラクハーツって……あの爆発する斧?」

( ´_ゝ`)「アサヒ博士が言ってたのはこのことだったのか。
     GDFは魔力を使用していることから、カテゴリーで言えば魔法兵器に入る。
     だったら、外部から魔力を用いて強化も可能ってわけさ」



175: ◆BYUt189CYA :2007/11/17(土) 21:27:02.95 ID:B/Xg8yzC0
ミ,,"Д゚彡「つまりあれは、ラクハーツの力を持つ戦闘機というわけですか?」

( ´_ゝ`)b「そゆこと」

「「ってか、のんびり話してねぇで手伝え!!」」

周囲で必死に武器を振りまわしている兵達が、痺れを切らしたのか一斉に言葉を放った。

ミ;,,"Д゚彡「す、すみませんすみません!!」

('、`*川「んじゃ、私はもっと前に出てくるから。 守りは任せたわよ」

( ´_ゝ`)b「Wii (うぃー)」

d(´<_` )「把握」

ミ,,"Д゚彡「ミラーを最優先で御願いします。
      私もペニサスさんと一緒に前線の様子を見てきますね」

力強く頷く双子を背に、フサギコもペニサスと同様に前線へと走る。
走りながら、ふと左に見える巨大な結界へと視線を向けた。

ミ,,"Д゚彡(このまま済むわけがない……何か手を打っておくべきですか……)



183: ◆BYUt189CYA :2007/11/17(土) 21:28:29.38 ID:B/Xg8yzC0
最初から嫌な予感はしていた。

この戦いが始まって以来、ずっと足下を闇が這っているような妙な浮遊感。
いつ足下を掬われるか解らない状況に、不安が起きるのは当然だ。
自分がそう思うのならば、他の皆も同じような心中だろう。

ミ,,"Д゚彡(だからこそ、指揮を執る私が何とかすべきですね――)

空を見上げる。
真っ赤に広がる大空の中、翼を生やした異獣と戦闘機が激しい戦闘を繰り広げていた。

彼――エクストは強い。

戦闘力もそうだが、前提として心が強い。
何せあんな数の敵に、たった一機で挑んでいるのだ。
相棒であるシャキンも別場所にて同じように戦っているだろう。

解っているのだ。

離れていても――いや、離れているからこそ『互いが存在する』、と。

だから戦える。
怖くても、弱音など微塵も吐かない。
パートナーに笑われないよう、呆れられないよう。

敵に撃墜されるよりも、それが何より恐ろしいことだから。



189: ◆BYUt189CYA :2007/11/17(土) 21:29:59.31 ID:B/Xg8yzC0
ミ,,"Д゚彡「ミラーの道を最優先で作ってください!
      後ろや横に逃した敵は、南や北が対処してくれます!」

('、`*川「うーん……?」

過程よりも結果を優先した命令に対し、前線にて踏ん張っていた兵達は首を振る。
その顔に小さな笑みを浮かべ

「俺達の任務は二つ。 ミラーの防衛設置と、南軍を無事に送り出すこと」

「だから、西の敵は全て食い止め仕留める。
 ここで南軍に仕事を与えちゃいけねぇ。
 アイツらの仕事は俺達よりも過酷で、まだこれからなんだ」

('、`*川「そゆこと。 後で『西軍は情けなかった』なんて言われたくないしね」

ミ,,"Д゚彡「皆さん……」

「別に俺達、無茶なことを言ってるわけじゃないよな、リーダー?」

ミ,,"Д゚彡「――解りました。
      それをやれると見たからこそ、モララーさんも私達をここに組み込んだのでしょうからね。
      ならば、やってやれないことはない」

「じゃあ、命令してくれ。 俺達はそれを命賭けて遵守するからよ」

「士気を上げる意味でも御願いするわ」



196: ◆BYUt189CYA :2007/11/17(土) 21:31:32.86 ID:B/Xg8yzC0
言葉に、フサギコは強い頷きを返した。
通信機を取り出し、自分に従ってくれる全員に届くように

ミ,,"Д゚彡「皆さん! 先ほどの命令を変更します!
      ミラーの道を最優先で作り、そして敵の撃破も最優先で行なってください!
      難しいことだとは承知していますが――」

『了解!』

張り上げた声を塗りつぶすかのように、ノイズ混じりの声が来る。
それは少し離れた場所にいる双子からのもので

『ようやく気合の入った命令が来たぞ、兄者』

『うむ、こちらでも気合を確認した。
 おまいら聞こえたな? 我らがリーダーが無茶言ってきたぞぉー!』

通信の向こうで、『うぉー』と雄叫びが響くのを聞く。
何やら予想していたものと真逆な反応に、フサギコは戸惑うばかりだ。

ミ;,,"Д゚彡「え……っと……?」

('、`*川「やっぱり上に立つ人の気合って伝染するのよね。
     理知なのも結構だけど、たまには勢い重視で良いんじゃない?」



204: ◆BYUt189CYA :2007/11/17(土) 21:32:51.77 ID:B/Xg8yzC0
ミ;,,"Д゚彡「そ、そういう見方もありますね、確かに。
       というか……私よりも貴女の方が指揮官向きじゃないですか?」

('、`*川「私は面倒だからパス。 人を動かすよりも身体を動かしてた方が気持ちいいから。
     あ、別に性的な意味で受け取ってもらっても結構よ?」

ミ;,,"Д゚彡「……さいですか」

この広い世の中には、『合わない人間』が必ず存在するのを御存知だろうか。

それは性格であったり趣向であったり、面白いところで言えば『顔が気に入らない』という例もあったりする。
発見の仕方にも何種類かあり、見ただけで感じ取れるケースもあれば、相手を知って感じるケースもあるわけで

ミ;,,"Д゚彡(ううむ……後者ですね)

あまり思いたくはないのだが、明らかにペニサスは自分の苦手なタイプなのを自覚してしまう。

堅実で規範を重んじる彼は応用力というものが少し欠けており、対するペニサスは応用力の塊。
『規範が何じゃい』と言わんばかりの自由奔放さを持つペニサスと合わないのも、仕方のない話なのかもしれない。

ミ,,"Д゚彡(まぁ、戦場で性格云々言うのもナンセンス――)

('、`*川「もうすぐ西のX地点っぽいから、南軍に連絡しとかないと。
     後は前線の維持に集中ね。 ほらほら、ちゃっちゃと済ませる」

ミ;,,"Д゚彡(うぅ……自信が無くなっていく……)



213: ◆BYUt189CYA :2007/11/17(土) 21:34:30.56 ID:B/Xg8yzC0
西軍の後方では、軍神を始めとした南軍の面々が待機していた。
今か今かと身を震わせる最中、軍神はミルナとヒートを両脇に置き、最後のチェックを行なっている。

(#゚;;-゚)「――というわけでウチは勝手に突っ走るから、アンタらは適当について来て」

ノハ#;゚  ゚)「「…………」」(゚д゚;)

かつてここまで身勝手なリーダーがいただろうか。

(;゚д゚ )「勝手に突っ走るとは、どういうことだ?」

(#゚;;-゚)「? そのままの意味やけど。
    ウチが先頭切って敵陣突っ込むから、アンタらはフォローよろしくなって感じで」

(;゚д゚ )「……リーダーがそれで良いのだろうか」

(#゚;;-゚)「形式上の話やろうし、そもそも社長さんはウチに指揮なんか期待しとらんわ。
    だったらせめて士気上げるために奮闘しましょか、みたいな」

理屈は解る。
彼女が上手く軍を動かせるとは思えないし、そんなことをするなら先に敵を倒すタイプだ。
それはミルナも重々承知している。

(;゚д゚ )「しかしだな――」

(#゚;;-゚)「だったらミルナがやる?」

(;゚д゚ )「は?」



220: ◆BYUt189CYA :2007/11/17(土) 21:36:12.17 ID:B/Xg8yzC0
(#゚;;-゚)「だから、南軍の統制。
    アンタ守りのが上手いんやし、ミラーの傍で皆をまとめたらええんちゃうかな」

(;゚д゚ )「むぅ……だが……」

(#゚;;-゚)「そっちの彼女さんはどう思う?」

『いや、別に彼女というわけでは』などと言い訳するミルナを余所に、ヒートは小首をかしげた。
少し考える素振りを見せ

ノハ#゚  ゚)「その場合、私は前線に出ればいいの?」

(#゚;;-゚)「うーん……道を開くのはウチ一人で充分やし、ミラーの防衛を最優先でって言われとるしなぁ。
    もしミルナがミラーの傍におる言うんなら、アンタも一緒におってええよ」

ノハ#゚  ゚)「解った。 だったら私も軍神に賛成する」

(;゚д゚ )「お、おい、俺に任せても良いのか?」

ノハ#゚  ゚)「うん。 だって私は知ってるから」

ミルナの目を覗き込むような視線は、それだけで多大な説得力を持っていた。
そして彼女は、記憶を掘り起こすかのようにゆっくりと言葉を放つ。

ノハ#゚  ゚)「私は知ってるよ。
     護ることに関してミルナの右に出る人なんかいないんだって。
     ミルナが護れば、絶対の無事が保証されるんだって」

(;゚д゚ )「なっ……え――」



229: ◆BYUt189CYA :2007/11/17(土) 21:37:56.13 ID:B/Xg8yzC0
ノハ#゚  ゚)「でもミルナは自分を疎かにする部分があるからね。
     まだ治ってないんなら、私がサポートするよ」

(;゚д゚ )「む、いや、その……確かに一年前、お前がいなくなってから頻繁に注意されるようになったが――」

ううむ、と呻いたミルナは首を軽く振る。
額に流れる汗を拭い、深呼吸。

彼もまた、遠くなったように感じられる記憶を思い出しながら

( ゚д゚ )「……あぁ、そうだ。 そうだった。
    今思えば、お前が俺の背中を護ってくれていたんだよな。
    俺が皆を護る代わりに、お前が俺を守ってくれたんだ。 一年前にお前がいなくなって、やっと解ったんだ。
    だから――」

ノハ#゚  ゚)「うん、大丈夫。 もう勝手に消えたりしないよ」

(#゚;;-゚)「ひゅーひゅー」

「いいないいな、相思相愛いいなぁ」
「羨ましいから氏ね! 彼女と最高な人生を歩んでから笑顔で氏ね!!」
「やったらぁチクショー! 異獣が何だ! 奴らを倒すよりも女作る方が難しいっっつーの!!」

突如として激しい闘志を燃やし始める南軍所属の兵達。
ただの嫉妬で終わらない辺り、良い根性をしているようだ。



235: ◆BYUt189CYA :2007/11/17(土) 21:39:38.92 ID:B/Xg8yzC0
と、その時である。

『フサギコです! 軍神さん聞こえますか!?』

(#゚;;-゚)「はいはい、どうぞどうぞ」

『西のX地点に接近しました! 出番です!』

銃撃や獣の咆哮をバックに、フサギコの怒鳴りに近い声が南軍中に響く。
直後、兵達の表情に強い笑みが生まれたのは、彼らが何よりも出撃を望んでいたからに他ならない。

そしてその時が、今まさに来たのだ。

(#゚;;-゚)「気張っていくよー」

何とも力の抜けた声。
一瞬だけ肩を落としかけたミルナだが、軍神の姿を見て思い改める。

( ゚д゚ )(これは――)

闘気、と呼ぶべきか。
彼女の身体に陽炎が揺らめいているのは、決して見間違えではないだろう。
よくよく考えてみれば、恨みの相手を前にして何も思わないわけがない。

むしろ今までよく我慢してきた、と思わせる光景だった。



242: ◆BYUt189CYA :2007/11/17(土) 21:41:09.33 ID:B/Xg8yzC0
ノハ#゚  ゚)「…………」

ヒートにも同じことが言えるだろう。
そういう意味では、この軍は大きな爆弾を二つ抱えていることになる。
多大な戦闘力との引き換えだと考えれば、仕方のない話ではあるが――

( ゚д゚ )(……その分、俺が頑張らなければな)

前方、西軍の面子が方向転換を開始する。
この後は結界に近付き、ミラーを設置して防衛に徹する予定だ。

自分達南軍はこのまま更に直進し、敵陣の只中をたった一軍のみで駆け抜けなければならない。

先ほどまでのように他軍の援護は受けられない。
シャキンやエクストは、予想外に増え続ける敵の対処のため、空から降りられなくなりつつあり
レモナとシューも、突如として出現した大型異獣を相手で精一杯らしい。

( ゚д゚ )「……――」

開かれた視界の向こうには、ただただ白色の群れがあった。
上を見れば赤く染まった空があり、赤褐の大地が暗い炎のように足下を照らす。

地獄とは、このような光景を言うのだろう。



246: ◆BYUt189CYA :2007/11/17(土) 21:42:50.33 ID:B/Xg8yzC0
( ゚д゚ )「だが、足を止める理由にはならんな」

ノハ#゚  ゚)「だから行くよ。 勝って生を打ち立てるために」

戦闘開始から十八分。
四世界混合軍で最も強力な部隊が、最も過酷な戦場へと進み始める。


まだ彼らは、
いや、四世界は知らない。


自分達が戦おうとしている敵の本質を。

自分達が何に抗おうとしているかを。



――自分達が、何処へ向かおうとしているのかを。



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