( ^ω^)ブーンと川 ゚ -゚)クーは抗い護るようです

4: ◆BYUt189CYA :2007/11/25(日) 20:52:39.61 ID:e6qg+4CA0
【現在の戦況】
                      □=荒れ地(1マス約100m)
□□□□□□□□□□□▲▲▲□□□□□□□□□□□□
□□□□□□□□□□□▲▲▲□□□□□□□□□□□□
□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□
□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□
□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□
□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□
□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□
□□□□□□□□□□□□M□□□□□□□□□□□□□
□□□□□□□□□□●□●×●□□□□□□□□□□□
□□□□□□□□□□×●××□●M□□□□□□□□□
□□□□□□□□M●××■××●●□□□□□□□□□
□□□□□□□□●●×■  ■×××●□□□□□□□□
□□□□□□M●E ×■  ★  ■E ×××□□□□□□□
□□□□□□●□●××■  ■××××□□□□□□□□
□□□□□□□●●×××■××××□□□□□□□□□
□□□□□□□□□×××××××□□□□□□□□□□
□□□□□□□□□□×××××□□□□□□□□□□□
□□□□□□□□□□□×××□□□□□□□□□□□□
□□□□□□□□□□□□×□□□□□□□□□□□□□
□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□

×=異獣、■=結界、★=中枢、▲=本陣、●=四世界混合軍、E=EMA、M=ミラー

勝利条件: 東西南北にある四ヶ所のX地点の制圧
敗北条件: 本陣陥落
       一時間以内にX地点の制圧が出来なかった場合



7: ◆BYUt189CYA :2007/11/25(日) 20:54:44.77 ID:e6qg+4CA0
【各軍の状況】

本陣: 全体指揮と『龍砲』の準備中。
所属: ( ・∀・) 从・∀・ノ!リ ( ><) (*‘ω‘ *) [゚д゚] (-@ハ@) |;;;|:: (へ) ,(へ)|シ

北軍: 順調に進軍。 X地点まで最も接近している。
所属: 川 ゚ -゚) ( ^ω^) <ヽ`∀´> *(‘‘)*

東軍: X地点接近中。 押され気味。
所属: (,,゚Д゚) (*゚ー゚) (´・ω・`) ( ゚∀゚)

西軍: X地点接近中。 南軍を無傷で送り出すことに成功。
所属: ミ,,"Д゚彡 ('A`) ( ´_ゝ`) (´<_` ) ('、`*川

南軍: 進軍開始。
所属: (#゚;;-゚) ノハ#゚  ゚) ( ゚д゚ )

遊撃: シャキンとエクストが空を制圧中、EMA二機は巨大異獣と戦闘中。
所属: (`・ω・´) <_プー゚)フ |゚ノ ^∀^) lw´‐ _‐ノv

異獣: 結界を守るために行動開始。 ただし人型異獣は未だ姿を見せず。
所属: ル(i|゚ ー゚ノリ メ(リ゚ ー゚ノリ 从ξ゚ -゚ノリ 〈/i(iφ-゚ノii



10: ◆BYUt189CYA :2007/11/25(日) 20:56:19.51 ID:e6qg+4CA0
第四十七話 『画竜点睛欠如的戦場』

四の戦場が在る。
そして当然のように、四の戦闘が在る。
東、西、南、北の四軍が、それぞれの場所を目指すために発生する事象だ。

それはつまり、人が進もうとし、獣が阻もうとする結果から出る当たり前の現象なのである。

「「――おぉぉぉぉっ!!」」

《《――――ッ!!》》

飛び交うは声という大音、咆哮という重音。
断続的にぶつかるのは金属の音で、人側からは射撃の音も混じる。

人と獣が押し合い圧し合い、互いの領域を侵食するために武器を振るっているのだ。



12: ◆BYUt189CYA :2007/11/25(日) 20:57:55.62 ID:e6qg+4CA0
単純な力では獣に利がある。

これまで渡り歩いた世界の生物を片っ端から食い尽くし
その中で最も強い力を、全ての獣が持っているのだから当然である。

しかし、だというのに――

「あぁん!? テメェぎるきるみんぞクラァァァァ!!」

「おいやべぇぞ、隊長がキレた! 八つ裂きにされる! ……らしい」

押しているのは人間の方だった。

《……!!》

何故だ、と獣は思った。
何故、全てにおいて勝っている自分達が押されているのか、と。
力も、知も、数も――戦いの経験さえも凌駕しているはずなのに、と。

装甲を砕き、皮膚を裂き、骨や内臓にさえもダメージを与える爪と牙を持っているにも関わらず
そして致命的な傷を与えたにも関わらず、彼らは必ず――

「――へっ」

と、誰もが強かな笑みを浮かべるのだ。



16: ◆BYUt189CYA :2007/11/25(日) 20:59:51.70 ID:e6qg+4CA0
知らないわけではない。

あれは痩せ我慢にも似た、人間固有の感情からくる一つの能力。
異獣は知っている――人間とは、何かを条件にして異常な力を発するのだ、と。



さて、少し話は変わる。

まず前提として、異獣は人間から攻められたことがほとんどない。
何故なら常に侵略側であったからだ。

突如としてターゲットである世界に湧き、そのまま逃げ惑う生物を食いつつ蹂躙していく。
それが終われば次の世界へ、次の獲物へ。
単純ではあるが、これが異獣の生き様である。

故に獣は、常に襲う側であった。

その中で彼らのような存在を見たことがある。
家族、仲間、恋人などといった『大切な存在』を奪われた人間は、大概が涙して崩れ落ちた。

しかしそんな中、極稀に異常な戦闘力を発揮する者がいた。

「てぇぇぇりゃああぁぁぁ!!」

そう、丁度、目の前で吠える人間のような者が。



18: ◆BYUt189CYA :2007/11/25(日) 21:01:58.49 ID:e6qg+4CA0
強さに執着を持つ異獣が興味を持ち、捕食したことは何度もあった。
異常な戦闘力とはいえ、魔力を使用しなければ異獣に傷をつけることさえも出来ない。
捕らえるのは、暴れまくるという点を除けば簡単だった。

しかし不思議なことに、彼らを喰っても大した力は得られなかった。

そしてあの力は一時的なもので、どうやら特殊な条件を満たした場合に発現するらしい、としか解らなかったのだ。
吸収したからには発現しなければおかしいのだが、
今まであの一時的な力を使えた異獣は、一匹たりとも存在しない。

何故だ、とまた異獣は思う。

皮膚を裂かれ、骨を砕かれた人間が、何故こうも立ち向かってくるのか。
そもそも何故、彼らは倒れないのか。
他の世界とこの世界の人間は、一体何が異なるのか。

「教えてやろうか化物……!! それはなァ――!」

その高度な知能故に出た僅かな戸惑いを読み取ったのか、前で剣を構える男が歯を剥いた。
頭から流れる血に片目を潰されつつも、闘気の籠もった目で笑い

「――俺達が、テメェらをぶっ倒す気満々だからだよ!!」

《!?》

理解不能。
意味が解らない。
狂っている。

頭に浮かべた言葉と同時、その脳天に男の剣が突き刺さった。



22: ◆BYUt189CYA :2007/11/25(日) 21:03:55.16 ID:e6qg+4CA0
戦場の南西にて、一際大きな動きがあった。

それは破砕という現象によって確定される。
つまり簡単に言えば

(#゚;;-゚)「はああぁぁぁぁぁ!!」

ある一人の女が、異獣の壁を高速でぶち壊して進軍しているのだ。

敵陣へと一気に踏み込んだ彼女は、その手足を巧みに操り獣を散らす。

繰り出される打撃は高速かつ強力無比。
暗い経歴から得た類希なる体術を用い、機械の如く敵を破砕していく。

拳打の嵐が走った後には獣の亡骸が転がるのみだ。
顔面を砕かれている獣もいれば、腹から破裂している獣もいる。

後ろを追従するのは南軍本隊だ。
彼らに守られるように、その中心に当たる位置にミラーを積んだ大型車が走っている。
その屋根に、二人分の人影があった。

(;゚д゚ )「流石だな……今までの鷹揚な彼女とは思えん」

ノハ#゚  ゚)「おそらくあれが本当の軍神の姿。
     恨みの相手を前にして、その溜めこんでいたエネルギーを全開にしている」



24: ◆BYUt189CYA :2007/11/25(日) 21:05:49.74 ID:e6qg+4CA0
( ゚д゚ )「……だが、あのペースで最後までもつのか?」

ノハ#゚  ゚)「そう判断しているからこその突撃だよ」

言われてみれば確かにそうだ。
あの軍神が、体力も何も考えずに突っ込むわけがない。
何せ異獣に関しては、味方の中でもトップクラスの知識と経験を持っているのだから。

( ゚д゚ )「そうだな。 今の俺達に必要なのは軍神を信じる心だ」

ノハ#゚  ゚)「ミラーを守るのも忘れないで」

( ゚д゚ )「よし、気を引き締めて行くぞ! 軍神に後れを取るな!」

腕を勢いよく前方へ伸ばす。
同時、了解の声と共に兵達が武器を構えた。
隣にいたヒートも、腰の包丁刀を引き抜きながら

ノハ#゚  ゚)「……じゃあ、私も行ってくるね」

( ゚д゚ )「油断するなよ」

ノハ#゚  ゚)「そっちこそ」

軽い跳躍。
赤褐色の地面に降り立ったヒートは、鎖を鳴らしつつ駆ける。

その背中を、久々に見る彼女の戦いを、ミルナは何故か安堵しつつ送り出すことが出来た。



27: ◆BYUt189CYA :2007/11/25(日) 21:07:51.33 ID:e6qg+4CA0
「うぉ、ヒートさん!?」

「御久し振りっす! また一緒に戦えるのが嬉しいっす!」

ノハ#゚  ゚)「うん、私もだよ! さぁ行こう!」

ヒートの戦い方は、非常に複雑でありながら単純である。

黒塗りの中脇差――壱ノ武『飛燕』で、敵の攻撃を捌き
鎖付きの包丁刀――弐ノ武『夜鴉』で、近〜中距離を舞い
投擲用の鉄鋼槍――参ノ武『啄木鳥』で、遠くの敵を貫き
銀の色を放つ短弓――四ノ武『梟』で、静寂を以って狙い撃つ。

状況によって四の武具を、その両手で取っ替え引っ替えしながら戦うのが彼女のスタイルだ。

把握力。
判断力。
瞬発力。

単なる修行ではなかなか伸ばせない感覚を、彼女は生まれながらに持っている。
いわゆる『天賦の才』というものだ。
そして、その恵まれた才能をフル活用した結果が

ノハ#゚  ゚)「ふっ――!!」

あの、舞うような美しい攻撃の嵐なのである。



29: ◆BYUt189CYA :2007/11/25(日) 21:10:14.62 ID:e6qg+4CA0
鎖を振り回し、その先端にある包丁刀が敵を切り裂く。
かと思えば、今度は槍や矢が一瞬で標的を貫いていく。
周囲を踊るように鎖が走る光景は、その輝きと細さが相俟り蜘蛛の糸を連想させた。

そんなヒートに、爪を立てた異獣が次々と飛び掛かる。

ノハ#゚  ゚)「……!!」

対する彼女の反応速度は凄まじかった。
敵が跳躍の姿勢を生み出した時には、既に視界に捉えているのだ。
当然、その対処も高速で行われる。

一瞬だ。

哀れ、ヒートに襲い掛かった四匹の異獣は、たった一呼吸の間にその身体を砕かれる。

その光景に敵はおろか、味方さえも目を見開いていた。
格の違いを見せ付けられたからではない。
確かに、他を圧倒する程の戦闘力を示されたのもあるが、それよりも何よりも――


単に、美しいのだ。


古く貴重な品を前にした時のような。
壮大な美術を初めて目にした時のような。

言葉など不要な、問答無用のインパクトが彼女には存在していた。



33: ◆BYUt189CYA :2007/11/25(日) 21:13:05.30 ID:e6qg+4CA0
( ゚д゚ )(だが、まだまだ余裕を残しているようだな……)

ミルナとヒートの付き合いは長い。
一年ほどの空白はあったが、それでも彼女の癖の大半を知っている。
彼女が本気か否かを知る指標が存在するのを、彼はその共にいた時間の中で発見していた。

壱ノ武『飛燕』。

それを逆手に握った時こそ、ヒートが本気を出す合図と言えよう。

通常、彼女は防御という行為をほとんどしない。
何故ならば、その前に敵を倒してしまうからである。
特に集団戦ともなれば、相手の群れを近付かせぬように戦うのが肝要となるのは当然の話だ。

如何に囲まれず、如何に自分のペースを保って戦えるかが
対集団を相手にする時のコツであり、勝利し得る唯一の術だとヒートは知っている。

しかし一対一――特に相手が強敵であれば、自然と防御せざるを得ないケースが多くなるのは解るだろう。

防御とは身を護るのみではない。
時には、様々な動作の起点となる。

往なし、捌くことで相手の隙を曝け出すことが出来るだろうし
弾き、振るうことで、逆に攻撃の姿勢を生むことも出来る。

武道を嗜む者の間では常識であるが、『反撃』とは防御から生まれる起死回生の手段なのだ。
故に、防御をただの防御として見ている内は、なかなか試合や戦闘で勝つことは出来ないだろう。
それほど戦いにおける『防御』とは、非常に重要なものなのである。



35: ◆BYUt189CYA :2007/11/25(日) 21:16:51.46 ID:e6qg+4CA0
( ゚д゚ )(つまり逆を言えば――)

――『飛燕』を握らない限り、彼女を手助けする必要はまったくない。

しかし、自然と拳が握られるのをミルナは自覚していた。
出来ることならば、あの華奢な背中をすぐにでも護りに行きたい、と心のどこかが叫んでいる。
もう彼女を失いたくない、と本能が軋みを挙げている。

( ゚д゚ )(だが……!)

同時に『あの頃のように、共に戦いたい』と願う自分もいた。
それを満たすためには、ヒートを全力で信頼しなければならない。

助け合うような仲ではなく、支え合うような仲でもなく。

握った拳に鋭い痛みが走る。
見れば、食いこんだ爪が皮膚を浅く裂いてしまっていた。
ミルナは、自分の中のヒートが如何に大きいかを改めて知る。

(;゚д゚ )「……どうにも幼馴染離れが出来ないようだな、俺は」

そして、その情けなさに思わず苦笑した。



38: ◆BYUt189CYA :2007/11/25(日) 21:18:17.48 ID:e6qg+4CA0
東の戦場では、巨大質量同士のぶつかり合いが連続していた。
大気の圧さえも押し潰す衝撃は、周囲に尋常ではない大音を振り撒く。

青い巨人と三体の大型の獣だ。
次々と跳び掛かる獣に対し、青い巨人――EMA『リベリオン』は薙刀を振り回して対応。
戦況としては身のこなしの速い獣に、人が翻弄されているような状況である。

|゚ノ;^∀^)「くぅぅぅ!!」

シェイクされるように激しく揺れるコクピットの中。
レモナは歯を噛みつつ座席にしがみ付き、レバーとペダルの操作に集中していた。

一匹払い除ければ、また一匹。
下手をすれば一度に二匹を相手せねばならない。
一瞬たりとも気を抜けない状況に、レモナは額を流れる汗さえも拭えずにいる。

目の前で威嚇の唸りを発する大型の異獣。
何度かの激突を経て、レモナは敵の力量を把握する。

奴らは獣ではない、と。

攻撃の中にフェイントを織り交ぜる獣などいない。
的確かつ計算された連携をとる獣などいない。
そして、

《――――》

明確な笑みを発する獣など、絶対にいない。



41: ◆BYUt189CYA :2007/11/25(日) 21:20:43.90 ID:e6qg+4CA0
|゚ノ;^∀^)(コイツ……!!)

レモナは決して頭の悪い女ではなかった。
国ではミカヅキの上司の娘として、エリートの扱いと教育を受けてきている。
戦い方はもちろん、相手の思考を読み取る訓練も積んできた。

故に、瞬時に悟ることとなる。

異獣とは単なる動物に非ず。
単なる、欲に忠実な汚らしい獣ではなく、

|゚ノ;^∀^)(人間に近い――いや、同等の知能を持っている……!!)

判明した事実を脳で噛み締めた途端、ある感情がレモナの中に浮かぶこととなったのは当然のことだった。
一度生まれた熱く黒い感情は、瞬時に彼女の思考を染め上げてしまう。

|゚ノ#^∀^)「その笑みが……!」

それは、異獣よりもよほど獣らしい咆哮で

|゚ノ#^∀^)「その笑みであの二人を殺したのかァァァ!!」

愚鈍な突撃を敢行してしまう結果となってしまった。



44: ◆BYUt189CYA :2007/11/25(日) 21:22:18.99 ID:e6qg+4CA0
《――!》

対し、『待っていた』とばかりに身を伏せる異獣。
感情を発するということは明確な思考も存在する、という結論まで達するのに時間は必要ないだろう。
次いで、心を表現することが出来るということは、相手の感情を誘発させることも出来るという予測も可能だったはず。

しかし今の彼女に、そのような余地などないことは明白だった。

|゚ノ#^∀^)「これは――囮のつもり!? 馬鹿にしないでッ!」

飛び掛かって来た異獣を、右腕にセットしている薙刀の石突きで薙ぎ払う。

続いて左から迫っている敵を止めるため、姿勢を動かそうとして
しかし次の瞬間、その背後に控えていたもう一匹の獣が大口を開けて飛び掛かってきていることに気付く。

全ては『怒り』という感情が、彼女の思考の遅延を招いてしまっていたのだ。

|゚ノ#^∀^)「ッ!?」

激しい衝撃。

小さなアラートが三回ほど連続でがなり立て、組み付かれたのだと知る。
加重による鉄の鈍い軋みがコクピットに反響し、両肩部にダメージを示す赤い表示が掛かった。

メインウインドウには、今にも噛みつかんと牙を見せつける異獣の顔。



48: ◆BYUt189CYA :2007/11/25(日) 21:23:58.48 ID:e6qg+4CA0
|゚ノ#^∀^)「離れ、なさいよッ!!」

判断は速い。
両腕を押さえられている以上、左右腕に装備した武器で対処するのは愚かな選択であり
だからこそ選ぶのは、本来は威嚇くらいにしか使用されない貧弱な武装で

《――!?》

連続した爆音と同時、外部マイクを通して異獣の悲鳴を聞く。

理由は簡単だ。
頭部に備え付けられたチェーンガンを起動させ、その大口の中に魔力弾を放り込んだのだ。

口の中を滅茶苦茶に蹂躙され、多量の血を吐き出す異獣は、そのまま仰け反るように後退する。
しかし、それを見逃す理由もなければ、生かしておく道理もなく。

|゚ノ#^∀^)「私を……いや、私達を――!」

赤黒い血にメインカメラの半分以上を汚された状態にも関わらず、レモナは一歩前進。

|゚ノ#^∀^)「嘗めるなぁぁぁぁぁ!!」

苦悶に呻く異獣の首を、その鋭長な得物で刎ね飛ばした。



49: ◆BYUt189CYA :2007/11/25(日) 21:25:46.51 ID:e6qg+4CA0
|゚ノ#^∀^)「ハァ、ハァ……!」

『こちらシャキンだ。
 レモナ、苦戦しているようだが――』

|゚ノ#^∀^)「要らない!」

『だが、シューか誰かを呼び戻した方が――』

|゚ノ#^∀^)「要らないって言ってるでしょう!?」

怒りに任せて通信を強制的に切ってしまう。
彼女らしくない行動に、今頃シャキンは怪訝な表情を浮かべていることだろう。

この怒りの理由として、異獣の笑みが癪に障った、という要因もあるが
決戦開始から既に三十分が経過しようとしている状況に、焦りを感じられずにはいられなかったのも一つだった。

深青の肌に生々しい赤を混じらせたEMAは、次なる敵へとメインカメラを向ける。

既に一体は倒しているため、残るは二体となっていた。
後方で奮戦しているギコ達がここに辿り着くまでに、敵の掃討を終わらせなければならないのだが――

|゚ノ;^∀^)(早く終わらせなくちゃ……早く、早く……!!)

北軍と西軍がX地点を制圧しつつあるという連絡が来たのは、ほんの数分前。
最短距離を駆けた北はともかくとして、南軍を率いて戦っていたという西に遅れをとるのは不本意の極み。

ライバルのシューがいる側に負けるとなれば、プライドの高いレモナが焦るのも仕方のない話であった。



51: ◆BYUt189CYA :2007/11/25(日) 21:27:46.04 ID:e6qg+4CA0
《――――》

その微細な感情を、機体の挙動から読み取ったのか。
残る二体の異獣がある行動をとる。

|゚ノ;^∀^)「なっ……」

作り出されるは攻めの姿勢ではなく、守りの姿勢。
EMAを中心に一定距離を保ち、ただ円状に、隙を窺うかのようにゆっくりと。
戦いのセオリーとして正しくはないが、レモナの神経を逆撫でするには充分な行動だった。

|゚ノ#^∀^)「この……ッ! 嘗めるなって――」

無論、その挑発に乗らないわけがなく、しかし

|゚ノ;^∀^)「ッうぁ!?」

背後で起きる爆発に、出鼻を挫かれる結果に終わってしまう。
何事かと振り向こうとした瞬間、視界の傍を黒い何かが駆け抜けていった。



54: ◆BYUt189CYA :2007/11/25(日) 21:29:42.94 ID:e6qg+4CA0
『……熱くなるのは結構だが、ベクトルと状況を考えろ』

よろけたEMAの隣に位置を固定したのはキオル。
備え付けられた機銃の先端から煙が出ていることから、今の攻撃はシャキンのものらしい。
その内蔵している魔力を用い、中空に浮かんだまま、彼はレモナに近距離用の簡易通信を飛ばしてくる。

|゚ノ;^∀^)「な、何よ……邪魔しないで!」

『何処でどう死ぬのはお前の勝手だ。
 だが、今だけは許されないことを忘れるなと言っている』

|゚ノ;^∀^)「ッ……!」

『間違ったことを言ったつもりはない。
 これはお前だけの戦いではなく、俺達の戦いだからな』

|゚ノ#^∀^)「でも、ここは私が任されてるんだから!」

『その状態で戦いを継続出来るのか?』

冷静な言葉を聞き、そこでレモナはようやく気付く。
サブウインドウに示されたダメージの深刻さを。

EMA用ライフルの、姿勢制御に使われる予備の大型マジックカートリッジを積んでいたバックパックが
接続部を打ち抜かれて外されている、という事実を。



56: ◆BYUt189CYA :2007/11/25(日) 21:32:13.34 ID:e6qg+4CA0
『スラスター部は破壊していない。
 一人で本陣に戻り、補給するついでに頭を冷やせ。
 その間、ここは俺が役目を引き継いでやる』

|゚ノ;^∀^)「ば、馬鹿言わないで! 空はどうするのよ!」

『お前がさっさと帰ってくれば済む話だ。
 それに――』

ブースターに光を灯しながら、機体が前へと出る。

『俺とキオルならば、空と陸の戦線を同時に維持することも可能。 だろう?』

【ですね。 何ら問題はありません】

|゚ノ;^∀^)「でも!」

どちらが正論を言っているのかなど、考えるまでなかった。
バックパックを失ったまま戦っても、すぐに戦闘継続不能になるのは解っている。

だが、だが――

『いい加減にしろ……我を忘れて全体に影響を及ぼす気か』

そう、これは個人の戦いではない。
四世界という莫大な賭け金を賭けた、一世一代の大勝負なのである。



57: ◆BYUt189CYA :2007/11/25(日) 21:33:51.97 ID:e6qg+4CA0
|゚ノ;^∀^)「くっ……解ったわよ」

何とか理性で感情を抑え込んだレモナは、機体を本陣へと向けた。
そして自身の代わりとなろうとしている男へ

|゚ノ#^∀^)「……私が帰ってくるまでにやられてたりしたら、承知しないわよ」

『随分とわがままなことだ。
 誰のせいでこうなったと思っている?』

|゚ノ;^∀^)「うるさいわねっ、私のせいで死なれたら寝覚めが悪くなるじゃない。
      それにアンタ、根に持ちそうなタイプだし」

恩人とも言える相手にそんな台詞を吐いたレモナは、
シャキンの返事さえ待たず、青色の光を噴出しながら発進してしまう。

コクピットの中、それを後ろ目に見送った彼は溜息を一つ。

(`・ω・´)「やれやれ、気丈な娘だな。
      さて――」

シャキンの鋭い視線の先。
二体の大型異獣が、獲物を逃がされた苛立ちからか、牙を立ててこちらを睨んでいた。



59: ◆BYUt189CYA :2007/11/25(日) 21:35:24.79 ID:e6qg+4CA0
(`・ω・´)「キオル、武装は?」

【ミサイル類は全て打ち尽くしています。
 機関銃のストックも僅か。 飛行可能時間はまだ余裕があります】

(`・ω・´)「つまり――」

【レモナ様が戻られるまで防御に徹し、その後に本陣に補給へ向かうのが常策かと】

(`・ω・´)「流石と言うべきか。 確かにそうだな」

しかしシャキンは首を振る。

(`・ω・´)「だが、この戦い……常套で勝てる相手ではないのも事実だ」

【では】

(`・ω・´)「あぁ。 アレを使うぞ」

その時だった。
懐へ手を入れかけたシャキンの手が止まり、すぐさまスロットレバーを掴み直す。
視線の先に異常を見つけたからだ。

(`・ω・´)「あれは……!?」

獣が身を震わせている。
逆立てた毛を天へと向け、身を丸めて呻いている。

それは、羽化する蛹を見ているかのような光景だった。



64: ◆BYUt189CYA :2007/11/25(日) 21:37:21.70 ID:e6qg+4CA0
破砕――丸めていた背が、爆発するように裂けた。
続けて出現したモノが何なのかを理解したシャキンは、大きく舌打ちし

(;`・ω・´)「化物だとは思っていたが、ここまでとは――!」

【来ます。 回避運動を】

(`・ω・´)「言われなくとも解っているさ!」

言葉よりも早くペダルを踏み込んでいたシャキンは、機体が垂直に上昇するのを身体で感じる。
直後、その真下をギリギリのタイミングで、巨大な何かが高速で通過していった。

正体は、あの大型異獣の一頭。

しかし先ほどまでの姿ではない。
その背に、歪で生々しい翼を生やしているのだ。
空に舞う数々の異獣を、そのままサイズアップさせたような光景である。

(`・ω・´)「わざと飛行能力を隠していたようだな。
      ふン、こういうところはズル賢い人間を真似ているらしい」

【あの巨体が空を飛ぶとなると脅威ですね】

(`・ω・´)「空と陸を行き来する手間が省ける。 問題ない」

スロットルレバーを握り直したシャキンは唇を舐める。
眼下、こちらを見上げて飛翔しようとする二頭の大型異獣を睥睨し

(`・ω・´)「それに、賢い異獣に教えてやらなくてはな。
      空で俺を敵に回すとどうなるかということを――!!」



67: ◆BYUt189CYA :2007/11/25(日) 21:39:30.07 ID:e6qg+4CA0
西の戦場でも似たような光景が繰り広げられている。

ただ違うのは、赤い巨人が青い巨人に比べて善戦している、という点くらいだろうか。

既に二体の大型異獣を葬った赤のEMA『ウルグルフ』は、
更なる獲物を斬り殺すため、その流麗な動きを止めることはしない。

lw´‐ _‐ノv「ふっ……!」

短い息を吐き、姿勢を前へ。
画面に揺れるターゲットを見据えて突撃する。

二本の刀剣が風を切って唸り

《――!》

その振りかぶられた前足二本を切断する。
噴水のように溢れ出る血は、赤黒い色だ。

lw´‐ _‐ノv「そんな形でも血は一緒なんだね」

でも、と呟き

lw´‐ _‐ノv「相成れないよ。 どちらかがどちらかの敗北を望む限りは」



71: ◆BYUt189CYA :2007/11/25(日) 21:41:01.45 ID:e6qg+4CA0
構える。

甲高い、鈴を擦り合せるような音が響いた。
魔力を帯びた二本の刀剣が反応し合っているのだ。

重厚な疾駆。

残る二体を前に、シューは躊躇なく機体を走らせた。

機体を構成する金属が軋み、音を立てるのをコクピットで聞く。
だが、それは悲鳴などではない。

噛み斬れ。
決して生かすな。
生かさず殺せ。

lw´‐ _‐ノv(…………)

それは、赤きEMA『ウルグルフ』の雄叫びなのかもしれない。
今はもういない搭乗者の仇を討てと言っているように、少なくともシューには思えた。



74: ◆BYUt189CYA :2007/11/25(日) 21:42:46.95 ID:e6qg+4CA0
しかし、彼女は首を振る。

lw´‐ _‐ノv「復讐なんて下らない」

左上まで振りかぶった刀剣を、袈裟の軌道で薙ぎ払った。
一瞬の抵抗の後、赤黒い血が舞い、切断された獣の前足が地面に激突。

動きは終わらない。

苦痛の悲鳴を挙げる獣を放り、余ったもう一本の刀剣を振り向き様に叩き込んだ。

《――っ!?》

それは、背後から襲い掛かろうとしていた異獣の脇腹に深々と食い込む。
尚も勢いを止めない刀剣が、そのまま暴れようとする身体を真っ二つに切断した。

これで四体。

西に現れた大型の異獣は全て撃破したことになる。
X地点を守るようにして配置されていた四体を倒したことにより、ようやくミラーを置くことが出来るだろう。

lw´‐ _‐ノv「……ふぅ」

手強かった。
敵が、ではない。

――自分の心が、だ。



76: ◆BYUt189CYA :2007/11/25(日) 21:44:30.07 ID:e6qg+4CA0
lw´‐ _‐ノv「これは仇討ちじゃない……これは私の戦い」

言い聞かせるような呟き。
低い駆動音を奏でるコクピットの中、シューは僅かに視線を俯かせる。
軽く目を瞑り、自嘲の笑みを浮かべた。

lw´‐ _‐ノv「まだまだ私も修行が足りない。
       戦いに公私を考える時点で間違っているというのに」

怒りはある。
ミカヅキはともかく、ミツキを殺した異獣を許すことなど出来ない。

ただ間違えてはならないのは、
この戦いは弔い合戦などではなく、生きる権利を賭けた戦争だということ。
決して、私怨に身を投じて臨んではならない――いわば聖戦なのだ。

lw´‐ _‐ノv「……情けないね」

葛藤している自分がいることに対し、落胆を覚えた。
頭では解っているのだが、感情が納得していないのだろう。

lw´‐ _‐ノv(でも、こんなことじゃレモナに笑われてしまう……)

単純な対抗心を燃やしたシューは、改めて心を引き締めた。

サブウインドウへと素早く視線を這わせ、機体のコンディションをチェック。
各部のマジックカートリッジ残量や、主動力の調子などを調べる。
まだどのくらい戦えるのかを、表示されたデータを基に勘と経験で判断した。



78: ◆BYUt189CYA :2007/11/25(日) 21:46:00.27 ID:e6qg+4CA0
と、その時だ。

か細い飛翔音が聞こえたかと思った瞬間、EMAの真横を灰色の戦闘機が通過していく。

『おぉっ、そっちはもう片付いたみたいだな!』

lw´‐ _‐ノv「……エクトマン?」

『何その岩男に出そうで出ない名前!?
 仲間の名前くらい覚えとけよ!』

lw´‐ _‐ノv(騒がしい男に捕まってしまった)

『で……ふむふむ、見た感じ苦戦したってわけじゃねぇみたいだな。 流石だ』

lw´‐ _‐ノv「ナンパは御断り」

『そこまで飢えちゃいねぇっ。
 ほら、何つーの? いきなり四匹に囲まれてたから、大丈夫かなーって』

話の文脈から、どうやら彼なりに心配して来てみたらしい。
装甲と同じ色の血に塗れたEMAの周囲を、エクストのGDFが周回する。



80: ◆BYUt189CYA :2007/11/25(日) 21:47:43.92 ID:e6qg+4CA0
lw´‐ _‐ノv「……で、それだけ?」

『いいや、まさか。 ちょっと頼みがあるんだ』

何、と聞き返せば

『調子乗って最初から全力出してたら、もう弾薬と魔力が尽きたんだわ。
 すぐ帰ってくるから、空の方を少し頼んでいいか?』

言葉に、シューは空を見上げた。
当初よりは減っているが、それでもまだ厄介な数が残っている

lw´‐ _‐ノv「……解った。 ミラーの援護ついでにやっておく」

『おぉ、意外と話せる奴じゃねーか!
 米ばっか食ってる変な女かと思ってたけど、見直したぜ!』

lw´‐ _‐ノv「ずっきゅーん」

『え? 何か言った?』

lw´‐ _‐ノv「……いや、何も」

『何かよく解んねぇが、とりあえず頼んだぜ! すぐ戻ってくるからよ!』



84: ◆BYUt189CYA :2007/11/25(日) 21:49:14.46 ID:e6qg+4CA0
意気揚揚と、半分一方的に役を押し付けたエクストは
残り少ない魔力を飛翔力に変え、高速で本陣へと飛んで行ってしまった。
それをシューは、小さい溜息で見送る。

lw´‐ _‐ノv「……ふふ、罪な男」

意味不明なことを呟いた彼女は、そのままペダルとレバーを操作して機体を浮かす。
空中戦ともなれば、残量から考えて二十分ほどしか戦えないだろう。

lw´‐ _‐ノv「けど、頼まれたからには果たさねば」

うむうむ、と頷いたシューは何やら幸福感を携えた笑みを浮かべた。
そのまま空へと舞い上がり、周囲を取り囲む異獣を見据える。

lw´‐ _‐ノv「ん……いや、待てよ?
      モミアゲ……手……襟……? んん?」

最高度の緊張に包まれつつも、シューの目は敵を見ていない。
ただ、やはり意味不明なことをブツブツと呟いた彼女は

lw´‐ _‐ノv「……うん、やっぱ無いわ」

と、謎の結論を生み出すのだった。



86: ◆BYUt189CYA :2007/11/25(日) 21:51:03.80 ID:e6qg+4CA0
戦闘開始から四十分が経過しようとしている。

四つの軍は、それぞれの目的地を目指して進軍しているわけだが、
その中で最も遅れをとっているのが東軍だった。

(;゚∀゚)「うぉー! コイツらうっぜぇ!!」

(´・ω・`)「どうやら他場所に比べて、敵の壁が随分と厚いみたい。
      西軍はもうすぐX地点を制圧出来るらしいよ」

(,,゚Д゚)「……ふン、確かに歓迎はされていないようだな」

気力は充実している。
ギコ達も頑張っている。
他の皆も頑張っている。

だが、根性だけではどうにもならないこともあった。

とにかく壁が厚い。
倒しても倒しても、なかなか進むことが出来ない。

戦線に加わったジョルジュ達も、最初こそは『無駄無駄ァ』などと勢いよく敵を葬ってきたが
段々と、その敵の多さに辟易してきているのが現状だった。



91: ◆BYUt189CYA :2007/11/25(日) 21:52:33.17 ID:e6qg+4CA0
(#゚∀゚)「ああもう面倒くせぇ! OVER――」

(´・ω・`)「こら」

(#)∀゚)「ぐはぁ!?」

ショボンの声と同時、見えない攻撃がジョルジュの頬を捉えた。
軽めの一撃は、しかしジョルジュが仰け反るほどの威力を生み出している。

(#゚∀゚)「痛ってぇな! 何すんだよ!」

(´・ω・`)「今ここでパワーを使い果たしてどうするつもり?
      まだまだ序盤なんだよ? 馬鹿なの? そうか馬鹿か」

と、ショボンは5th−Wの能力『刺突の予約』の回収を行ないつつ言う。

( ゚∀゚)「……ところでよ」

(´・ω・`)「ん?」

( ゚∀゚)「その予約の回収をしなかったらどうなるんだ?
     お前がミスったトコ見たことがねぇからよ、ペナルティ知らねぇんだ」

(´・ω・`)「そりゃあ、ミスしたことないしね」

当然のことのように言うショボン。
彼の慎重さが見え隠れする発言だ。



93: ◆BYUt189CYA :2007/11/25(日) 21:54:03.20 ID:e6qg+4CA0
(´・ω・`)「僕はミストランから聞いてるから知ってるけど、別に君も知る必要はないよ。
      それよりもほら、目の前の敵に集中集中」

何故か有耶無耶にしようとする彼に、ジョルジュは違和感を感じないわけがない。
しかし、そこまで深く聞けるほどの仲でもないことを知っているが故に

(;゚∀゚)「……んだよぉ」

と、小さく文句を言うしかなかった。

そんな時、ギコの通信機から声が鳴り響く。

『――こちら北軍のクーだ! X地点の確保に成功!
 これからミラー防衛に入る! 後は任せた!』

(,,゚Д゚)「ちっ、やはり北が早かったか……せめて南よりは先に制圧出来ねば、皆に顔向け出来んぞ」

(´・ω・`)「急ぎましょう、ギコさん」

(,,゚Д゚)「解っているさ……!
    しぃ、援護を頼む! ここからは一気に行くぞ!!」



94: ◆BYUt189CYA :2007/11/25(日) 21:55:35.12 ID:e6qg+4CA0
ギコがグラニードを構えて突撃を開始した頃。
西南を突き進む南軍に一つの動きがあった。

「南のX地点目視! この調子では五分ほどで到着可能かと!」

( ゚д゚ )「よし、順調だな」

戦闘開始から四十分。
ミラー設置などに時間が少々掛かるとして、五十分には準備が整うだろう。
最も離れた場所の制圧が任務だった故、一時間で間に合うかどうか、という判断だったのだが――

( ゚д゚ )(西軍がよくやってくれたということか。
     そして軍神の突撃が、一度たりとも止まらなかったというのもある)

自分がやったわけではないのだが、ミルナは誇らしい気持ちを抑えることが出来なかった。
これが俺の仲間だ、と誰かに自慢したいくらいだ。

「! 上空から敵襲!」

( ゚д゚ )「む……」

どうやら西の空にいた獣が、こちらを追いかけて来たのだろう。
ここで上からの攻撃を受ければ、進軍に支障が出てしまうかもしれない。



96: ◆BYUt189CYA :2007/11/25(日) 21:57:21.15 ID:e6qg+4CA0
(;゚д゚ )「くっ、面倒なことを! 射撃が出来る者はすぐ迎撃に――」

ノハ#゚  ゚)「ミルナッ!!」

声を遮ったのはヒートだ。
前線の敵を駆逐し終わったのか、武器を収めてこちらに向かってきている。
何か案があるのか、仮面から見える目には鋭い輝きが見て取れた。

ノハ#゚  ゚)「私に任せて!」

(;゚д゚ )「だが、一体どうやって――」

ノハ#゚  ゚)「アレやるよ!」

アレ?
アレとは何だ?

聞き覚えのない合図に、ミルナは記憶の糸を片っ端から引っ張ってみる。
が、心当たりなど一つとしてない。

(;゚д゚ )(む? 聞き覚えのない合図ということは――)

単純に考えて、そんなもの最初からないわけで。
つまり彼女が要求しているのは、それほど難しいことではないはず。



99: ◆BYUt189CYA :2007/11/25(日) 21:59:32.68 ID:e6qg+4CA0
前方、ヒートがこちらに向かって跳躍する。
どう見てもミルナ直撃コース。
そこまで来て、彼はようやくヒートの求めていることに気付いた。

( ゚д゚ )「成程……! ぶっつけ本番で無茶を言う――!!」

ノハ#゚  ゚)「でもミルナならやってくれる! そう信じた!」

( ゚д゚ )「ならば意地でも応えるしかないだろう!!」

吼えたミルナは、ミラーを積んだ車両の上で拳を構えた。
視線は真上を目指し、腰を落として彼女を待つ。

タイミングなど図る必要はない。

ただ彼女がここへ来ると言うのであれば、呼吸を合わせて構えていればいい。

ノハ#゚  ゚)「ミルナッ!」

( ゚д゚ )「ヒートッ!」

瞬間、二つの影が合致する。
構えられた拳にヒートの片足が乗った形だ。

それは、かつても行なった二人の信頼の証――人力射出カタパルト。



101: ◆BYUt189CYA :2007/11/25(日) 22:01:19.95 ID:e6qg+4CA0
(#゚д゚ )「行けッ!!」

臍下丹田に溜め込んだ力を、腰、肺、肩、肘、手首の順で流動させる。
生まれたのは身を天へ伸ばす勢いで、それはヒートの身体へと伝達された。

射出。

過去に行なったものとは角度が異なるが、結果はまさに二人の合体技に等しい。

ノハ#゚  ゚)「おおおぉぉぉぉっ!!」

真上へと打ち上げられたヒートは、数十メートルという距離を一瞬で飛破。
放物線の頂点へと辿り着いた時には、既にその武具を開放していた。

《――!?》

異獣が驚くのも無理はなかった。
機械ならばともかく、生身でこの高度まで到達出来る人間がいるとは思うまい。
そしてその驚愕の寸隙こそ、ヒートにとっては充分過ぎる程の幅を持ってしまっていた。

じゃらり、という死の音が響いた時には既に遅い。

未だ空中で身を揺らすヒートの右腕には鎖が握られており、
その振られる勢いの先端――包丁刀が、その身を龍の如くうねらせ始める。



104: ◆BYUt189CYA :2007/11/25(日) 22:02:50.65 ID:e6qg+4CA0
うねりが奔流に変わったのは直後。

命を持ったかのように疾走し、もはや空に浮くだけとなった獣に食らいつく。
それを何とか身を捻って避けることが出来た異獣は、その身を槍や矢に貫かれた。

圧倒的な光景だと言わざるを得ない。

ヒートが安定姿勢で空中に存在したのは、僅か二秒。
たったその間に包丁刀を投げ、その空いた両手に槍と弓を握っていた。
後は落下しつつ、周囲の異獣を片っ端から攻撃するだけとなる。

( ゚д゚ )(蜘蛛の巣に絡め捕られた虫だな……)

言い得て妙な感想を抱きつつ、ミルナはヒートの活躍を見守る。
見えない糸に捕まったかのように、異獣の群れは易々と身を食われていった。

ノハ#゚  ゚)「――っと」

そんな中、攻撃のセンスを南軍全体に見せつけたヒートが降り立つ。
武器を腰に戻し、酷使した手首をほぐすために手を振った直後。

まるで雨のように、血と臓物、そして獣の死体が周囲に降り注いた。



109: ◆BYUt189CYA :2007/11/25(日) 22:04:28.24 ID:e6qg+4CA0
( ゚д゚ )「……本領発揮といったところか?」

ノハ#゚  ゚)「まぁね」

自身にも降る血を拭い

ノハ#゚  ゚)「ようやく勘を取り戻したって感じかな。
      これで奴らともトップギアで戦える」

( ゚д゚ )「奴ら、とは……あの二人だな?」

ノハ#゚  ゚)「そろそろ来ると思うよ。
      ここまでされて、黙って見ているほど我慢強くないだろうし」

( ゚д゚ )「警戒しておくべきだな――む?」

「軍神がX地点まで到着! 周囲の敵を掃討完了しました!」

( ゚д゚ )「解った! ではミラーをX地点に設置!!」

部下の了解の声を聞くと同時、ミラーを乗せた車両が方向転換する。

少し走ると、死体の山の上に立つ軍神が見えた。
どうやらX地点周囲の敵は、全て彼女が排除してくれたようだ。



114: ◆BYUt189CYA :2007/11/25(日) 22:05:44.83 ID:e6qg+4CA0
車両が止まる。
後は荷台部のミラーを展開し、時が来るまで防衛に集中すれば良い。

(#゚;;-゚)「防衛準備もばっちしやね。 本陣に連絡よろしく」

( ゚д゚ )「解った――こちら南軍、X地点に到達。 ミラー防衛を開始する」

『了解した。 もうじき他も揃うはずだ。
 まぁ、ぶっちゃけ南の報告は最後に聞くものだと思っていたが』

( ゚д゚ )「皆がよくやってくれた結果だ」

『そう言える君もよく頑張ってくれたようだね。
 ならば、後は……ん、ちょっと待ちたまえ』

( ゚д゚ )「? あぁ」

『何? 巨大な魔力反応――と? でh――にれ――なけれ――!』

ざ、と深いノイズが入った。
怪訝な表情で通信機を振るミルナに、鋭い声が届く。

『――ろ! ミラ――を――やく!』

(#゚;;-゚)「? どないしたん?」

(;゚д゚ )「いや、ノイズが酷くて何を言っているのか――」

次の瞬間、絶望の序曲とも言える轟音が響いた。



117: ◆BYUt189CYA :2007/11/25(日) 22:07:31.18 ID:e6qg+4CA0
しかも一発だけではなく、連続という勢いで、だ。
大地さえも揺るがす勢いの大きな音に、周囲の人間も何事かと目を見開く。

ノハ#;゚  ゚)「あ――」

「ミ、ミラーが……!?」

悲痛な声に、ミルナは背後を見る。

(;゚д゚ )「なっ――馬鹿な!?」

それは、何と例えれば良いのか解らない光景だった。
ほんの数秒前までは、その荷台部を垂直に近い角度まで立てようとしていた車両。
しかし、

(#゚;;-゚)「何や、あれ……」

(;゚д゚ )「まさかここまで奴らの――!?」



120: ◆BYUt189CYA :2007/11/25(日) 22:08:51.93 ID:e6qg+4CA0
無残な様相だった。
展開し掛けたミラー表面に刺さっているのは、大量の白い何か。
いや、よく見れば、細長く光る正体は刃だと解る。

――白色の刀。


それが、無限と言える数を以ってミラーを蹂躙していた。


皆の努力が実を結び、新品同様の姿でここまで辿り着いたミラーは
しかし、ただの一瞬でスクラップにされてしまったのだ。

ノハ#;゚  ゚)「あ、の刀は――」

ヒートの身が震える。
源は恐怖ではなく、憤怒だ。
一瞬にして殺気に包まれ彼女は、赤い結界の方角を睨み


ノハ#゚  ゚)「――貴様かァァァァァァ!!」

ル(i|゚ ー゚ノリ「…………」


鬼神の咆哮を放った。



123: ◆BYUt189CYA :2007/11/25(日) 22:10:39.05 ID:e6qg+4CA0
「超強大な魔力反応が四! 東西南北に一つずつ出現!!」

「南軍のミラー破壊されました!!」

「に、西戦力の一部が――強大魔力反応によって壊滅!?」

「東北両方の戦力の一部にも、壊滅的な被害の報告が――!」

( ・∀・)「何が……起きたと言うのだ……?」

一瞬であった。
結界の内側から巨大魔力が検出された、と報告があった僅かな間。
次の瞬間には、全戦力の約二十%が刈り取られていた。

从・∀・ノ!リ「……おそらく人型の異獣じゃな」

( ・∀・)「通信は?」

「な、何らかの干渉により遮られています!」

从・∀・ノ!リ「してやられたと考えるべきか、想定の範囲内だと言い張るべきか」

( ・∀・)「後者と言うべきだろう……そのくらいの覚悟はしていた。
     だが一番の問題は、こちらからの通信が届かないという点だね」



124: ◆BYUt189CYA :2007/11/25(日) 22:12:16.59 ID:e6qg+4CA0
从・∀・ノ!リ「異獣の大群が外部から来るまで二十分を切っておる。
      それまでに結界破壊を成功させる予定じゃったが、むしろこのままではミラー自体が危ういのぅ」

( ・∀・)「……こちらから援軍と残存戦力を送る。 後は彼らを信じるしかあるまい」

当初の予定では一時間で全て終えられるはずだった。
ミラーの設置に五十分、余裕を持ってプラス十分。
それだけの余裕を残していた。

だが、ここに人型の異獣が介入してしまった。
最も介入されたくない段階で、だ。

たった一手により、四世界混合軍の築き上げた現状は壊滅してしまった。

残る二十分で現状を立て直し、残るミラーを全て防衛。
三枚となったミラーに全てを賭けて、『神の裁き』を起動させる。
運良く結界を破壊出来たとして、異獣の中枢――心臓部と判断出来る『何か』を『龍砲』で撃ち抜く。

決死の綱渡りの連続である。
状況的に余裕など、まったくない。
しかも時間が過ぎれば、周囲を異獣に取り囲まれて全てが終わるだろう。

最初から解っていたはずだ。
これが異獣と戦うことなのだ、と。
解っていたのだが――

( ・∀・)「――祈らずにはいられないね」

从・∀・ノ!リ「これが奴らの及ぼす絶望か……やってくれる」



127: ◆BYUt189CYA :2007/11/25(日) 22:14:13.84 ID:e6qg+4CA0
彼らは、出現した強大な魔力に注目し過ぎていて気付いていなかった。

そしてその強大な魔力の持ち主――人型異獣もまた、自身の魔力と目の前の獲物を見ており気付いていなかった。



決戦の地から少し離れた地点の、遥か上空。



そこから、世界レベルの魔力を隠蔽所持した『何か』が高速で接近しているのを。





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