( ^ω^)ブーンと川 ゚ -゚)クーは抗い護るようです

6: ◆BYUt189CYA :2007/12/29(土) 17:50:44.65 ID:8H9+v4j70
【現在の戦況】
                      □=荒れ地(1マス約100m)
□□□□□□□□□□□▲▲▲□□□□□□□□□□□□
□□□□□□□□□□□▲▲▲E □□□□□□□□□□□
□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□
□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□
□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□
□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□
□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□
□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□
□□□□□□□□□□□□M□□□□□□□□□□□□□
□□□□□□□□□□□●●●□□□□□□□□□□□□
□□□□□□□□□□●×■××□●□□□□□□□□□
□□□□□□□□M●×■  ■×●●M□□□□□□□□
□□□□□□□●E ×■  ★  ■×●□□□□□□□□□
□□□□□□□□●●×■  ■××□□□□□□□□□□
□□□□□□□□□□××■××□□□□□□□□□□□
□□□□□□□□□□●●×××□□□□□□□□□□□
□□□□□□□□□□□●●×□□□□□□□□□□□□
□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□
□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□
□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□

×=異獣、■=結界、★=中枢、▲=本陣、●=四世界混合軍、E=EMA、M=ミラー

勝利条件: 東西南北にある四ヶ所のX地点の制圧(内一枚破壊済)



9: ◆BYUt189CYA :2007/12/29(土) 17:52:11.98 ID:8H9+v4j70
【各軍の状況】

本陣: 『龍砲』の準備中。
所属: ( ・∀・) 从・∀・ノ!リ ( ><) (*‘ω‘ *) [゚д゚] (-@ハ@) |;;;|:: (へ) ,(へ)|シ

北軍: 順調に進軍していたが、人型異獣の襲撃を受ける。
所属: 川 ゚ -゚) ( ^ω^) <ヽ`∀´> *(‘‘)*

東軍: X地点接近していたが、人型異獣の襲撃を受ける。
所属: (,,゚Д゚) (*゚ー゚) (´・ω・`) ( ゚∀゚)

西軍: X地点接近していたが、人型異獣の襲撃を受ける。
所属: ミ,,"Д゚彡 ('A`) ( ´_ゝ`) (´<_` ) ('、`*川

南軍: 早々に南を制圧するも人型異獣の襲撃を受け、ミラーを破壊される。
所属: (#゚;;-゚) ノハ#゚  ゚) ( ゚д゚ )

遊撃: エクストとレモナは補給のために本陣へ。シャキンとシューは戦闘続行。
所属: (`・ω・´) <_プー゚)フ |゚ノ ^∀^) lw´‐ _‐ノv

異獣: 結界を守るために行動。 人型異獣も介入を開始する。
所属: ル(i|゚ ー゚ノリ メ(リ゚ ー゚ノリ 从ξ゚ -゚ノリ 〈/i(iφ-゚ノii

??:上空から接近中。
所属:???



16: ◆BYUt189CYA :2007/12/29(土) 17:54:05.34 ID:8H9+v4j70


本陣からの連絡が途絶え、嫌な予感を背に受けた時だった。


目指していた方角から、強烈な衝撃波が発生したのは直後。
それは津波のような勢いと迫力で襲い掛かる。

(;,,゚Д゚)「ぐっ……皆、伏せろ!!」

(;゚∀゚)「おわぁぁぁ!?」

「「な、何だぁ!?」」

味方はおろか敵さえも巻き込む衝撃波は、一瞬で東全域を包みこんだ。

圧倒する衝撃。

強烈な風が肌を薙ぎ、飛んできた砂利は装甲を連打する。
多量の音は、しかし嵐のような轟音によって掻き消された。




    第四十八話 『四方決戦 Ver/East 【Unlimited Three Kinds】』





21: ◆BYUt189CYA :2007/12/29(土) 17:55:51.84 ID:8H9+v4j70
果たしてどれほどの間、地面に伏せていたのか。
ほんの一瞬かもしれないし、数分だったかもしれない。
衝撃と音が後方へ消え去った後、周囲から次々と安堵の声が漏れた。

(;゚∀゚)「ぷはぁ!」

(;´・ω・`)「くっ……何だったんだ……?」

(,,゚Д゚)「しぃ、無事か?」

(;*゚ー゚)「私は大丈夫だけど――」

いつの間にかギコの傍にいたしぃが、不安げに周りを見た。
防御が間に合わなかった者は遠くへ吹き飛び、衝撃起点の近くにいた者は顔を押さえてうずくまっている。
飛んできた破片や、吹き飛ばされた異獣の激突による副次的な被害が主のようだ。

(;,,゚Д゚)「まずいな……だが、今の内に攻めるか立て直すかしなければ――」

その声は、東の戦場にて突然に降り注ぐ。

「イィィィィィ――――!!」

(;゚∀゚)「な、何だぁ!?」

(;´・ω・`)「ギコさん! 上だ!!」

「ヤッッッホォォォォォォ!!!」

叫びに似た咆哮に対し、ギコの研ぎ澄まされた反応が一瞬だけ速く動いた。
半ば強引に振り上げたグラニードに、金属がぶつかるような音が激音として鳴り響く。



29: ◆BYUt189CYA :2007/12/29(土) 17:57:31.66 ID:8H9+v4j70
(;,,゚Д゚)「貴様は――!?」

メ(リ゚ ー゚ノリ「はっはぁ! 俺参上!!」

グラニードの切っ先。
右足を突き出しての剣に乗る姿勢で、赤髪の男――キリバは獰猛な笑みを見せた。
しかし、それも束の間、

メ(リ゚ ー゚ノリ「へへぇ、なかなかやるじゃねーか……よっと!!」

膝のバネのみの力で宙へと跳ねた。

降り立ったのは赤。
羽織っている黒の布に、その色はよく映えていた。
た、という軽い音を立てて着地する様は、余裕を体現しているようにも思える。

メ(リ゚ ー゚ノリ「ってことで、ヨロシク」

声にも微塵の恐れはない。
黒いコートのような服のポケットに手を突っ込んだまま、不敵な笑みでこちらを見据える。

ショボンの隣にいたジョルジュの、硬い唾を呑み込む音がやけに大きく響いた。



31: ◆BYUt189CYA :2007/12/29(土) 17:59:06.46 ID:8H9+v4j70
(;゚∀゚)「……テメェが人型の異獣ってヤツかよ」

メ(リ゚ ー゚ノリ「そういうこったね。 キリバって呼んでくれ。
      んでさ、最初のインパクトって大事だと思ったから叫んでみたんだけど、どうよ?
      『俺を誰だと思ってやがる!』とかの方が良かった?」

ヘラヘラと笑うその姿は、以前のものとは異なっていた。
その身体を包んでいるのは分厚く見える黒いコート。
機械化されているはずの腕は、外側のポケットの中へと突っ込まれている。

メ(リ゚ ー゚ノリ「ようやくこの時が来た。
      期待通りやってくれるとは思ってたが、こっちの予想以上だ」

(,,゚Д゚)「何を――」

メ(リ゚ ー゚ノリ「流石に四世界の力が揃い踏むと贅沢出来ンのな。
      この戦力や使用魔力量から見て、テメェらの生きる意志ってもんが見えたよ。
      ちなみに胸張っていいぜ? なんせ、ここまで攻め込まれたのはお前らで二度目だ」

(;*゚ー゚)「二度目……?」

(;゚∀゚)「ちょっと待てよ。 今まで異獣ってのは色んな世界に行って来たんだろ?
     ってことは――」

メ(リ゚ ー゚ノリ「そ。 今テメェらが想像した通りさ。
      潤沢な魔力を求めて無数の世界と戦ったが、そのほとんどはここまで来る前に壊滅してんだよね」



34: ◆BYUt189CYA :2007/12/29(土) 18:01:21.05 ID:8H9+v4j70
ぞくり、と悪寒が背を撫でたのを、その場にいた全員が自覚した。

ここまで踏み込めたことによる歓喜や勇みなどではない。
ここからが地獄なのだ、と宣言されたようなものだからだ。

(;,,゚Д゚)「馬鹿な……結界の外を守っていた異獣は、それほど強くなかったぞ」

メ(リ゚ ー゚ノリ「まぁ、末端の雑魚だしな。
      他の世界の連中も、コイツら相手なら奮戦出来るケースだってあるさ」

(;゚∀゚)「じゃあ、何で結界を破る前にやられてんだよ!」

メ(リ゚ ー゚ノリ「んなもん簡単だ。
      数が圧倒的に違い過ぎたんだよ」

どういうことだ、とギコは表情で問う。

メ(リ゚ ー゚ノリ「つまり本来なら、世界中に散ってる異獣は全てここに集ってたってことだわな。
      お前、もしそうだったらテメェらがここまで来れるわけがねぇって解ってる?」

(´・ω・`)「本来なら――ということは、今回のケースは特殊ということだね」

(,,゚Д゚)「……俺達と戦いたがっている、というモララーの勘は当たったようだ」



37: ◆BYUt189CYA :2007/12/29(土) 18:02:31.21 ID:8H9+v4j70
メ(リ゚ ー゚ノリ「解ってんなら話は早ぇ」

赤髪の男――キリバが右腕を掲げた。
その拳を握り締め

メ(リ゚ ー゚ノリ「さぁ、戦ろうぜ!!」

言葉と同時、地を蹴った。
既に闘争心に火が点いているのか、その表情には貪欲な笑みが見てとれる。

(#,,゚Д゚)「ちィ――!!」

対し、グラニードを構えて飛び出すはギコ。
それを見たキリバの笑みが、更に深く濃くなった。

メ(リ゚ ー゚ノリ「いいねいいねぇ! やっぱ戦いってのはこうやって始まらなきゃな!!」

(#,,゚Д゚)「その笑み、すぐに消してやる!」

メ(リ゚ ー゚ノリ「やってみろ――よッ!!」

二人の距離が零となった瞬間、魔力を帯びた拳と剣が激突した。
物理法則を書き換える力同士の衝突により、周囲空間が歪曲を起こす。
そのうねりが限界点まで達した瞬間、

(;´・ω・`)「うわっ……!」

二人を中心として、大気が破裂した。



42: ◆BYUt189CYA :2007/12/29(土) 18:03:53.35 ID:8H9+v4j70
メ(リ゚ ー゚ノリ「やるじゃねーか!
      なら、これはどうだァ!?」

(#,,゚Д゚)「おぉぉぉッ!!」

互いの武器がぶつかり合う度に、強烈な音と魔力光が周囲に飛び散る。

本来ならば、押し負けるのはギコだった。
グラニードに備わっている魔力だけでは、キリバのパワーに太刀打ち出来ないからである。
しかし今のギコは、圧倒的な力を持っているはずの異獣と互角に打ち合っていた。

(,,゚Д゚)(ふン……FCもたまには良い仕事をする)

ここにきて活きたのがウェポンの強力化。
アジトにて、今作戦の対策として行われた魔力での武装強化だ。
纏っている魔力が濃ければ、その分だけ攻防力が上がる。

(,,゚Д゚)(いや、ここで意固地になる必要はないか……感謝するぞ、FC!!)

そこにギコの持つ戦闘勘が合わされば――

(#,,゚Д゚)「――互角にさえ戦えるッ!」

メ(リ゚ ー゚ノリ「お? おぉ!?」

ぶつけたグラニードが、キリバの腕を弾き飛ばす。
決して当たり負けはしないという事実に、ギコの顔に強かな笑みが浮かんだ。



46: ◆BYUt189CYA :2007/12/29(土) 18:05:25.16 ID:8H9+v4j70
(#,,゚Д゚)「しぃ、ジョルジュ、ショボン! 援護を任せた!
     コイツはここで仕留めるぞ!!」

(;*゚ー゚)「わ、解ったよギコ君!」

( ゚∀゚)「っしゃぁ! ぶっ殺ッ!!」

(´・ω・`)「ここでミラーをやらせるわけにはいかないからね」

メ(リ゚ ー゚ノリ「安心しろ。 テメェらとの戦いが終わるまでデッケェ鏡にゃあ手を出さねぇ。
      だからよ――」

向かってくるギコ達に対し、歯を剥いた笑みを浮かべ


メ(リ゚ ー゚ノリ「せいぜい俺を満足させるよう、全力で掛かってきやがれッ!!」


世界で最も危険な獣が、ついに狩りを開始した。



52: ◆BYUt189CYA :2007/12/29(土) 18:08:50.92 ID:8H9+v4j70
戦いが始まった東の空では、高速の空中戦が行なわれていた。

戦場を支配している存在は三つ。

小さな黒い鉄鳥と、それを追う巨大な獣が二体。
一見して、それは鳥の狩猟を思わせる光景だ。

しかし逆である。

追いすがる大型異獣の方が、実のところ狩られる側だった。
狩られないために黒く小さな戦闘機を追い、狩られてしまう前に狩ろうとしているだけ。

(`・ω・´)「そろそろ良いか」

【起動速度には達しております。 後のタイミングはそちらに――】

(`・ω・´)「図る必要はない。 今すぐにやる」

自然な動作で取り出したのは一つの指輪。
エクストが使ったものと形状は同じだが、その色は違う。

血のような深紅。

不気味に光るそれは、否が応にも寒気を感じさせる。



53: ◆BYUt189CYA :2007/12/29(土) 18:09:55.83 ID:8H9+v4j70
(`・ω・´)「いくぞ、ギルミルキル。 俺の狂気を糧に暴れて見せろ……!」

コンソール脇にあるソケットにセット。
途端、機体ステータスを示していたウインドウの背景色が、白から赤へと染まる。
重く圧し掛かるような闇が周囲を包むという錯覚を、シャキンは頭で得た。

【パターン:スーパーソニック……オーバーエクスチェンジ】

機体の各部から何かが蠢く駆動音が響き、明らかに空気を変えてしまう。
もはやこの機体はキオルであって、キオルではない。
ただ戦うためだけの殺戮兵器と化す。

【チェンジ完了。 続いて高機動モードへの変形を行ないます】

まず動いたのは翼。
左右へ突き出していた鉄片が、僅かに後方へと向けられる。

続いて背後からせり出した装甲板が風防を包みこみ、
コクピットと外界を完全に遮断してしまった。

暗闇になったのは一瞬で、すぐに内部電燈がシャキンを照らす。
正面下部のメインと、左右のサブウインドウが視線の高さへ移動し、周囲の景色を映し出した。

【高機動モード変形完了。 6th−Wとの接続を確認――完了】



56: ◆BYUt189CYA :2007/12/29(土) 18:12:02.42 ID:8H9+v4j70
ここに至るまで約十秒。

悪くはない速度だ、と思いつつ、シャキンはスロットルレバーを握り直た。
キオルの機械的な声が続く。

【これより超高速戦闘に移行します。
 戦闘機動――特にギルミルキル使用時、強大なGに襲われる危険性がありますので御注意を。
 機体強度的に能力使用には問題ありませんが、貴方の身体には――】

(`・ω・´)「言うな。 それよりもこの戦いを終わらせることに集中するぞ」

【了解。 細かい補正は私が。 貴方は操縦に集中してください。
 この機体、貴方が思う以上に暴れん坊なので御注意を】

(`・ω・´)「あぁ、解っているさ」

狩猟開始。
ペダルを踏み込み、機体の速度を更に上げると、Gキャンセラーでも処理しきれないGが身体を襲う。
この時点で血液の循環が異常をきたし始めていた。

ブラックアウトという現象だ。

ブラックアウトとは、プラス方向の巨大なGがパイロットにかかった際、
脳から血液が下半身に集中することで、視野が暗くなり呼吸が困難になる症状を言う。

高機動モードでの加速だけでこれだ。
ギルミルキルを使用した際、どれだけの重圧が襲うのか想像も出来ない。



60: ◆BYUt189CYA :2007/12/29(土) 18:13:56.19 ID:8H9+v4j70
だが、

(`・ω・´)「ここで躊躇している暇など、ない……!」

確定する。
右のスロットルレバーを押し出し、機体を百八十度反転。

背後から追ってきている大型異獣へ機首を向け、突撃を敢行した。

《――!!》

気付いた異獣が牙を剥く。
小さな機体を引き裂こうと、爪を振り立てた時。

(`・ω・´)「ギルミルキル起動! 音速を超えろ――!!」

声と共に、黒色の戦闘機の姿が消えた。

そのあり得ぬ事象に異獣の目が見開く。
振りかぶった前足はストップを掛けられ、標的の行方を探す。

左右――いない。
上下――いない。
背後――いない。

何処へ消えたのだ、と追従してきていたもう一体の異獣へ視線を向けようとした時。

――その顔が、首ごと掻き消えた。



65: ◆BYUt189CYA :2007/12/29(土) 18:15:30.59 ID:8H9+v4j70
断面に見えるは肉と骨。
一瞬遅れて、溢れ出すように血液が噴出する。
身体を統率する頭を失った異獣は、そのまま力無く地上へと落ちていった。

そして残った一体も、何が起こったのか知る前に腹を貫かれる。

銃撃ではない。
砲撃でも、魔力攻撃でもない。

《……!?》

たった一撃で内臓の大半を潰された異獣は、痙攣し始めた目玉で攻撃の正体を知る。

高機動モードとなり、更に黒色が増した鋭角的な機体。
それが、血を滴らせながら背を見せて飛んでいた。

敵は速い。
いや、速いという言葉では説明が出来ない。
神速、電光石火――それでも何かが足りない。

言うなれば『刹那』。

一回指を弾く間に六十、或いは六十五のそれがあるとされる時間の最小単位。
その中に生きていると思わせるような速度を持った敵は、姿さえ視認させずに狩りを行なったのだ。
ただの異常に住む獣ごときに、見切れるわけがない。

やはり四世界を繋げたのは正解だった。

獣は最期に小さく口の端を吊り上げ、そのまま命から手を放した。



70: ◆BYUt189CYA :2007/12/29(土) 18:17:16.76 ID:8H9+v4j70
(;`・ω・´)「――がはっ」

一瞬で異獣二体を葬った機体のコクピット。
仕留めたと見るや否や、シャキンの口から少量の血が吐き出された。

【やはり異を超えた速度――到底、人が耐えられるものではないようです】

(;`・ω・´)「いや、良い……あの速度であれば敵を凌駕することが出来ると解ったしな」

【ですが、今の攻撃で機動用魔力の大半を失いました。
 補給へ戻りましょう】

(`・ω・´)「……そうだな。
      しかし大型二体を一瞬で倒せたが、すぐに補給が必要になるとは……」

【万全の状態で行なえば、今よりマシかと】

(`・ω・´)「そう願うしかあるまい。 すぐに戻るぞ。
      東の奴らが奮闘している内に、援護へ向かう」

【了解――ですが】

機械音声が、珍しく言い澱み

【あまり多用すれば貴方の身体に異常が……いえ、もう既に出ているのでしょう。
 もしかすれば、この戦いが終われば貴方はもう二度と――】

(`・ω・´)「気にするな。 本望さ」



73: ◆BYUt189CYA :2007/12/29(土) 18:18:46.22 ID:8H9+v4j70
それからしばらく沈黙が流れるが、シャキンは特に気にしなかった。

この戦いに全てを賭けるつもりで来ているのだ。
全て終わった後がどうなっていようとも、後悔など一切ない。

と、そんな時。

(`・ω・´)「ん……?」

前方、つまり本陣の方角から何かが来る。

【EMA−01『リベリオン』確認】

キオルの声と同時、機体のすぐ傍を青い巨人が通過していった。
何の挨拶もないところを見るに、あまり頭は冷えていないらしい。

(`・ω・´)「……どうにも嫌な予感がするな」

【予感、というものがあまりよく解りませんが、確かに余裕はないようですね】

(`・ω・´)「急ごう。 未来を決める戦に遅れるのは悔しい」

【了解】

若干速度を上げつつ、シャキンは本陣を目指した。

その胸中に、一抹の不安を抱えたまま。



77: ◆BYUt189CYA :2007/12/29(土) 18:19:59.11 ID:8H9+v4j70
「あ、ありえねぇ……」

「やっぱ化物かあの野郎……!」

人型異獣との戦闘光景に、嘆息する声が挙がり始めていた。

視線の先には四人の指輪使い。
そして対する赤髪の人型異獣。

戦っている。
四対一の構図。

しかも高速で、だ。

主にグラニードが戦の先端を走っていた。
続いて他の者の武装が、攻撃の切れ目を補うかのように援護を行なう。

対するは機械化された二腕と、そして機械化された二脚。
前者は蒸気を吐き、後者は地を抉ることにより、向かい来る四つの力を打ち消している。

ぶつかり合いは無数で、しかし状況が動くことはない。

メ(リ゚ ー゚ノリ「はははははははははははっ!!」

四人掛かりの攻撃を捌きつつ、高らかに笑うはキリバ。
後ろで結んだ赤髪が、回避によって振り回される。



78: ◆BYUt189CYA :2007/12/29(土) 18:21:26.64 ID:8H9+v4j70
(;´・ω・`)「くっ……!」

(;゚∀゚)「くそっ、コイツの頭ン中はどうなってやがんだ!?」

メ(リ゚ ー゚ノリ「遠慮は要らねぇ! こちとら伊達に最強名乗ってねぇぞォ!?」

決して四人が弱いわけではない。
ギコは言うまでもなく、ジョルジュも戦闘用として作られている。
しぃやショボンも充分訓練は積んでいるし、そこらの下手な兵よりも強いはずだ。

特にギコとしぃ、ジョルジュのショボンのコンビネーションは、ベクトル自体は違うが完成された連携を生み出せる。

しかし、キリバは折れない。
四点攻撃を全て見切り、全て捌き、全て防ぐ。
単一思考しか出来ない普通の人間では不可能な芸当だ。

(#,,゚Д゚)(これが異獣たる所以というわけか――!!)

グラニードで切り込みつつ、ギコは敵を見極めつつあった。

人だと思ってはいけない。

あれは人の形をした別の存在だ。
四肢が在るからと、言葉を話すからと過小評価してはならない。



81: ◆BYUt189CYA :2007/12/29(土) 18:22:31.96 ID:8H9+v4j70
(;*゚ー゚)「えいっ!」

(#゚∀゚)「その手に乗ったぁぁっしゃァァァ!!」

しぃの羽片が天から降り注ぐ。
上へと気を逸らされたキリバの足に、今度はユストーンが巻き付いた。

(#,,゚Д゚)「もらったッ!」

メ(リ゚ ー゚ノリ「おおっしゃ、これならどうだぁ!?」

ギコの剣撃を回避したキリバは、その逞しい機械腕を振りかぶる。
しかしそれだけに終わらず、更に硬い音が響くのを聞いた。

メ(リ゚ ー゚ノリ「ひぃぃぃっ殺技その一ィィィ!!」

キリバの握られた拳が、折り畳まれるように腕の中に格納される。
代わりとして出現したのは鋭利な鉄であり、その正体とはいわゆる、

メ(リ゚ ー゚ノリ「リボルビング――!!」

(;,,゚Д゚)「ちィィ!!」

メ(リ゚ ー゚ノリ「バンカーってなぁぁッ!!!」

間一髪、わざわざ叫んでくれたおかげで反応は間に合った。
盾のように構えられたグラニードの刀身に、繰り出された鉄片が激突する。

しかし次の瞬間、稼働の合図と言わんばかりの轟音を以ってパイルバンクされた。



85: ◆BYUt189CYA :2007/12/29(土) 18:24:28.16 ID:8H9+v4j70
(;,,゚Д゚)「ぐっ……おぉぉ!?」

あまりの衝撃に、踏ん張っていたはずの足は軽々と地面に別れを告げ
抵抗空しく背後へと吹っ飛ばされる。
それは、地平線の向こうまで運ばれそうな勢いだった。

(;゚∀゚)「何やってんだ馬鹿が!」

それを止めたのはジョルジュ。
灰色の鎖――9th−W『ユストーン』を使う彼は誰よりも早く対応し、その先端をギコの方へと投げる。
生命を持ったかのような動きでグラニードを絡め取り、吹っ飛ぶ身体を何とか抑えた。

(;,,゚Д゚)「くっ……すまん」

( ゚∀゚)「貸し一! 後で返せよ!」

メ(リ゚ ー゚ノリ「おぉっと、次はテメェが相手してくれんのか?」

(;゚∀゚)「げぇ!? マジですかよ!」

今度は、四人の中で一番近くなったジョルジュがターゲットとなったようだ。
まだユストーンをギコの方へと放っているため、迂闊な防御は出来ない。

このままでは一撃で終わってしまう可能性すらあった。



88: ◆BYUt189CYA :2007/12/29(土) 18:26:03.61 ID:8H9+v4j70
(´・ω・`)「ジョルジュ、そこから退くんだ!」

サポートに入ったのはショボン。
遠巻きに見ている兵から借りたのか、その両手にはマシンガンのような銃器が握られている。

狙いも付けずに発砲。

魔力光を携えた弾丸がキリバの行く手を阻んだ。
それに続くように、上空援護を担当するしぃの羽片が降り注ぐ。

( ゚∀゚)「っしゃぁ! そのまま足止めとけよ!」

ユストーンを回収したジョルジュが駆けた。
どうやら攻撃するつもりらしいが、サポート系に属するユストーンで何をするつもりなのか。
絡め取るか、鞭のように振るうかくらいしか用途がないはずだが――

(#゚∀゚)「一晩かけて考えた必殺技を食らいやがれッ!」

先端を振り回し、ワンステップで足を地面に打ち付け、全力投球と言わんばかりのフォームで投擲する。
浅く弧を描いた鎖は何度もキリバの周りを走り、囲うように展開され
それを確認したジョルジュは必殺技とやらの名前を叫んだ。

(#゚∀゚)「チェーン・クロス・スクラブッ!!」

メ(リ゚ ー゚ノリ「おぉっ?」

仰々しい言葉と同時、取り囲んでいた鎖が一気に範囲を狭めた。
一本の鎖が、しかし何重にもなってキリバの身体を締め上げる。



91: ◆BYUt189CYA :2007/12/29(土) 18:27:55.56 ID:8H9+v4j70
しかし、それだけではない。

尚も走る鎖が、その身を使ってキリバの身体を強烈に擦ったのだ。

メ(リ;゚ ー゚ノリ「おぉ!? 熱っ、擦過して熱いっ!」

(;゚∀゚)「うぇぇ!? 熱いだけかよ!?」

普通ならばユストーンが纏った魔力によって皮膚が断裂、上手くいけば四肢の切断さえも行なえたはず。
しかし、やはりと言うべきか、キリバの持つ魔力に打ち消されてしまったようだ。

(#,,゚Д゚)「だが隙は出来た――喰らえッ!」

そこに復活したギコが飛び込む。
再度、キリバとの激突が開始された。

(´・ω・`)「今はまだ何とかなってるけど、どうやって倒せば良いんだろう……」

(;゚∀゚)「っつかテメェはウェポン使わねぇで何やってんだ?」

(´・ω・`)「ギコさんならともかく僕程度の技量じゃ、あんな敵を接近戦なんて不可能だよ。
      刺突の予約だって確実に回収出来るか解らないし」

5th−W『ミストラン』の能力『刺突の予約』は、一見すれば利便性の高いようにも思える。
だが、実を言えば極端に使い所が限定される能力なのだ。

例えば、確かに予備動作無しでの刺突は強力ではあるが、同時に殺気を乗せてしまうという弱点も抱えている。
戦いに身を置く者ならば察知、そして回避は容易いだろう。



94: ◆BYUt189CYA :2007/12/29(土) 18:29:19.46 ID:8H9+v4j70
その後のルールである『刺突の回収』を考えれば、無闇に撃てる代物ではない。
前提として、ミストランの能力は『攻撃と命中の入れ替え』とも言える。
先に命中させた後で攻撃をする――つまり攻撃した位置を、ミストランで再び攻撃して因果を回収するというシステムだ。
これが、どれだけの危険を孕んでいるか解るだろうか。

もし、敵が刺突を回避したら。
もし、敵が刺突を受けても動かなかったら。

そうなれば、わざわざ回収のため敵の下へ行かなければならないのだ。
回収位置は予め決まっているため、よほどの手を使わない限りは無傷での回収は困難。
しかもあまり時間を掛けてしまえばペナルティまで受けてしまう。

故にキリバのような強敵に対し、決して安易に使って良い能力ではないのだ。

(´・ω・`)「悪いね。 だから僕は援護に徹するよ」

( ゚∀゚)「ならしっかりと頼むぜ……仲間のミスで死にたくねぇからよ!」

(´・ω・`)「大丈夫。 君のような馬鹿はそんな簡単に死なないから」

(;゚∀゚)「お前トコトン俺のこと嫌いみたいだな」

(´・ω・`)「……どうでもいいから早く行きなよ」

何か言いたそうにしつつも、ギコのサポートへ向かうジョルジュ。
その背中を見送ったショボンは、小さく溜息を吐く。

(´・ω・`)「やれやれ……嫌いな奴をいつまでも雇うわけがないじゃないか」

そんな愚痴は、当の本人の耳に入ることなく大気に溶けていった。



102: ◆BYUt189CYA :2007/12/29(土) 18:31:06.97 ID:8H9+v4j70
(メ,,゚Д゚)「はっ、はっ――!!」

メ(リ゚ ー゚ノリ「ひゅ〜……よくもまぁ、ここまで一人でやれたな」

二人は動きを止めて対峙していた。
いくら強者といえど、生物の範疇内にあるからには酸素を求めるのが自然。
だが、これではキリバがギコの酸素補給を待ってやっているかのような光景だった。

いや、実際その通りである。

そしてだからこそ、ギコは違和を感じられずにはいられない。

(メ,,゚Д゚)「……解せんぞ異獣」

メ(リ゚ ー゚ノリ「お?」

戦いを開始してから、常に感じていた妙な感覚の正体とは――

(メ,,゚Д゚)「何故、貴様は俺ばかりを相手する?」

そう、目の前で好戦的な笑みを浮かべるキリバは、
まるでギコにしか眼中にないかのような戦い方をしている。

しぃやジョルジュ、ショボン達の攻撃は回避か防御だけで済まし、残る攻撃の意志は全てギコに注いでいるとしか思えないのだ。



106: ◆BYUt189CYA :2007/12/29(土) 18:32:47.73 ID:8H9+v4j70
メ(リ゚ ー゚ノリ「…………」

(メ,,゚Д゚)「隠しても無駄だ。 既に確信を持っているからこそ聞いたのだから」

メ(リ゚ ー゚ノリ「へぇ、どうやらテメェはタイプが異なるみてぇだな」

(メ,,゚Д゚)「…………」

メ(リ゚ ー゚ノリ「短絡的じゃねぇし、愚直でも猪突猛進でもねぇ。
      他の奴らとはちょっと違う。 成程な」

キリバの言葉を、ギコは理解することが出来なかった。

――『他の奴ら』とは誰のことか、と。

背後にいるのは仲間達だ。
だが、短絡的で愚直で猪突猛進なのはジョルジュだけである。
しぃやショボンは、彼の言う人間性のカテゴリーには当てはまらない。

(メ,,゚Д゚)「何を、言っている……?」

メ(リ゚ ー゚ノリ「何も知らずに死ぬのは嫌か。
      だったら教えてやるよ」

嫌な予感、と言うべきか。
薄ら寒いものがギコの心臓を撫でる錯覚。

メ(リ゚ ー゚ノリ「――全てテメェのことさ」



111: ◆BYUt189CYA :2007/12/29(土) 18:34:25.45 ID:8H9+v4j70
静かに、ギコだけにしか聞こえない呟きのような声は、しかし耳に大きく残響した。


メ(リ゚ ー゚ノリ「俺はな、ギコに殺されたんだよ」


(;,,゚Д゚)「…………っ」

メ(リ゚ ー゚ノリ「嘘言うんじゃないって? ハハ、そりゃあ見当違いな疑問だわなぁ。
      さっきテメェが言ったはずだぜ。 『既に確信を持っているからこそ』ってよ」

確かにキリバがギコを執拗に狙うのも、それなりの理由があるとは思っていた。

しかし、返ってきた言葉は『殺された』。

探れる記憶の範囲内には、まったく心当たりがない。
キリバ自身はギコに殺された、と言ってはいるが彼にそのような経験はないのだ。

(メ,,゚Д゚)(だが、意味のない嘘を吐くような奴ではなかろう。
     何か意味があるはず……)

見れば、不敵な笑みを浮かべるキリバがいる。
どうやら考える時間を与えているつもりらしい。



114: ◆BYUt189CYA :2007/12/29(土) 18:35:35.57 ID:8H9+v4j70
(メ,,゚Д゚)(奴は異獣……最強を名乗る生物……世界を渡り、力を……)

思った時、思考の端に引っかかるものが一つ。

異獣は世界を渡り歩き、更なる力を求める強欲な獣だ。

以上の旨、そしてこれまでの発言を勘案すると、ギコは一つの事実に辿り着くこととなる。
それは、キリバが彼に執着する理由として充分に納得出来るものだった。

(メ,,゚Д゚)「まさか貴様……」

平行世界が在るならば、平行存在もあり得るという答えに行き着くまで時間は必要ない。
相手はその平行世界を渡るのならば、様々な平行存在も見てきたことだろう。



当然、ギコの名を持つ存在をも延々と、何度となく。




121: ◆BYUt189CYA :2007/12/29(土) 18:37:05.44 ID:8H9+v4j70
おぼろげながら解ってきた事実に、自然とグラニードを掴んでいる手に力が込められた。
視線は冷たくなり、目の前でヘラヘラと笑う赤髪の男を睨む。

メ(リ゚ ー゚ノリ「気付いたか。 そう、俺は――」

(メ,,゚Д゚)「――おい」

何故か自慢げに放たれ掛けた言葉を、しかし拒むように、

(メ,,゚Д゚)「たったそれだけのため、この俺に挑んできたというのか」

メ(リ゚ ー゚ノリ「は? ……それだけ? 今、それだけって言ったか?」

(メ,,゚Д゚)「いつまでも何かに固執している人生が、とても誇れるとは思えんのでな。
     そんな貴様に一つ言っておいてやろう」

単にギコは許せなかったのだ。
この男は、そのような下らない意味を以って戦おうとしていたのを。

だから、言った。


(メ,,゚Д゚)「――依存はただの停滞だ」



124: ◆BYUt189CYA :2007/12/29(土) 18:38:05.64 ID:8H9+v4j70
かつては己に向かって投げかけられた言葉。
その意味を理解したからこそ、今、目の前にいる敵が許せなかった。

故に、『忠告』の声は当然の帰結である。

ギコが気に入らないのは動機ではない。
敵が己を見て戦っていない、という一点が酷く苛立たせたのだ。

メ(リ ー ノリ「――――」

対するキリバは笑みを止めてしまっていた。
身体こそ震えを起こしているが、しかし表情だけ時が止まったかのように。
それは見る者に仮面を連想させた。

彼は、そうか、と深く息を吸い

メ(リ#゚ ー゚ノリ「――だったら殺してやるよォォォォ!!」

途端、キリバの身から不可視の波動が放たれた。

(メ,,゚Д゚)「ッ!!」

(;゚∀゚)「おぉ!? なんだぁ!?」

正体は殺気。
キリバの目的を考えれば、ヤツ自身が持つ全ての憤怒だ。

『ギコ』という存在に対する抑え切れぬ憎悪が、戦場の空気を焦がす。



126: ◆BYUt189CYA :2007/12/29(土) 18:39:31.55 ID:8H9+v4j70
メ(リ#゚ ー゚ノリ「今までのどんなギコよりテメェはムカつきやがる!!
       そうさ! 俺は単に復讐してるだけだよ!!」

(メ,,゚Д゚)「だったらソイツに言ってやれば良いだろう――!」

メ(リ#゚ ー゚ノリ「死んでたんだよ!! 俺がこうして生き返った頃には既になぁ!」

(メ,,゚Д゚)「だから他の世界の俺まで殺して回ると言うのか!?
     どれだけの数の世界があると思っている!? だとすれば、お前の復讐は――」

メ(リ#゚ ー゚ノリ「終わらねぇことくらい解ってるさ……!」

金属の擦れる音が響いた。
それは不規則に単一で鳴っていたかと思えば、次第に音を重ねて巨大になっていく。

音源は足下。

キリバの足を構成するマシンが、唸りを上げて動き始めたのだ。
高速回転するナットのような部品が空気を巻き込み、引き裂きの重音を周囲に撒き散らす。

メ(リ#゚ ー゚ノリ「だが、俺はそんなに物分かりが良い奴じゃねぇんだ!
       こうするしか自分の感情を抑え切れないんだよ――!!」

羽織っていた布を剥ぎ取れば、無骨な腕が姿を見せた。

機械で占められた巨腕は分厚く重い。
低い駆動音を響かせ始めた二本のそれは、獲物を前にした獅子のような迫力を持っている。



131: ◆BYUt189CYA :2007/12/29(土) 18:41:02.27 ID:8H9+v4j70
メ(リ#゚ ー゚ノリ「だからテメェ『も』殺すのさ!!」

(メ,,゚Д゚)「勝手な理屈で殺される身にもなれ!」

メ(リ#゚ ー゚ノリ「戦いってのはそういうもんだろう!?」

(メ,,゚Д゚)「お前達の低俗な戦いと一緒にしてもらっては困る!」

メ(リ#゚ ー゚ノリ「あああああああああムカつくムカつくムカつくムカつくムカつくムカつく!!!
      楽には殺さねぇぞテメェ! 俺の怨念を全て受け、絶望して死ね!!」

本格的な戦闘が始まった。
今までのぶつかり合いは、いわばウォーミングアップ。
人知を超える獣が、ついに本気で人へ牙を剥く。

メ(リ#゚ ー゚ノリ「まずは教えてやる!」

地が爆ぜた。

(メ,,゚Д゚)「!」

迎撃にグラニードを構えるギコ。
関わらず、その駆動音唸る巨腕を振りかぶるキリバ。
両者、一歩も退かずに激突する。

メ(リ#゚ ー゚ノリ「俺はテメェのせいで死んだ! テメェという存在がいなければ、今頃俺は、俺は――!!」

(メ,,゚Д゚)「言いたいことが理解出来んな!」

メ(リ#゚ ー゚ノリ「だったら身を以って知れよ……殺される恐怖ってヤツをなぁぁぁ!!」



135: ◆BYUt189CYA :2007/12/29(土) 18:42:30.69 ID:8H9+v4j70
足首の金属が更に回転速度を上げる。
生み出される大気の渦が、周囲の荒れ地を削った。

ど、という大音。

示す事実として、キリバの足下が破砕する。

(メ,,゚Д゚)(……何という魔力量だ)

見る限り、グラニードが纏うそれの二倍はありそうだ。
あの状態での攻撃を受け続ければ、武器破壊という事態さえ引き起こされかねない。

ならば、とギコは人差し指をトリガーに引っかけた。

これを引けば、セットされているマジックカートリッジから魔力の供給を受けられる。
纏う量が多くなるということは、単純に攻防力の上昇に繋がる。
いちいちリロードしなければならないが、受けられる恩威の効果は絶大だろう。

メ(リ#゚ ー゚ノリ「おおおらぁぁぁあ!!」

怒りに瞳を燃やすキリバが、咆哮と共に向かい来る。

(メ,,゚Д゚)(回避はむしろ危険――迎撃するしかない!!)

覚悟と同時、拳と剣がぶつかった。



137: ◆BYUt189CYA :2007/12/29(土) 18:43:56.66 ID:8H9+v4j70
メ(リ#゚ ー゚ノリ「だぁぁぁぁぁぁりゃあああああ!!」

(メ,,゚Д゚)「うおおおおぉぉぉぉぉッ!!」

ここからは完全に力と力のせめぎ合いとなる。
一歩でも退けば、そして一瞬でも気を抜けば雪崩のように勝負が決まるだろう。
両者共に理解しているからこそ、肌を魔力に灼かれながらも勢いを止めない。

弾ける。

(メ,,゚Д゚)「お前の恨みはこの程度か……ならば俺には届かんぞ!」

言う間にカートリッジリロードを行なう。
少しでも時間を稼がねばならない。
リロードの暇すらない連続攻撃に踏み込まれてしまえば、敗北は確実だ。

メ(リ#゚ ー゚ノリ「まさか俺を殴る蹴るしか出来ねぇ単細胞、とか思ってんじゃねぇだろうな?」

(メ,,゚Д゚)「…………」

メ(リ#゚ ー゚ノリ「だったら見せてやろうじゃねぇか!」

応じるように変化があった。
キリバの右腕、その先端である手が内部へ格納されたのだ。
先ほどのパイルバンカーと同じ光景だが、続きが違っている。

(メ,,゚Д゚)(何も出てこない――!?)

てっきり同じ攻撃が来ると思っていたギコは、前進か後退かの判断を迷ってしまった。



139: ◆BYUt189CYA :2007/12/29(土) 18:45:08.84 ID:8H9+v4j70
メ(リ#゚ ー゚ノリ「不死女からヒントを得て作った多目的戦闘用機械腕――『エリュカレイド』!
       さぁ、何が飛び出すかお楽しみってなぁ!!」

無くなった腕の先をギコへ向ける。
空いた穴は、吸い込まれそうな錯覚を受ける程の漆黒だ。

だが、次の瞬間、

(;,,゚Д゚)「ちィィッ!!」

危険を察したギコが飛び退くと同じく、足場が砕かれる。

飛び道具――しかも高速。
突然のことに視認出来なかったが、『何かが来る』と事前に解っただけマシだった。

メ(リ#゚ ー゚ノリ「おらおらおらおらおらおらァァァァ!!」

追うように、銃口と化した腕から光が生まれた。

射撃音一つにつき、一つの破砕。
奏でられる破壊の旋律が、ギコの周囲で踊り狂う。

(;*゚ー゚)「ギコ君!」

( ゚∀゚)「ったく、仕方ねぇ奴だ!!」

流石に見かねたか、空からしぃが、陸からはジョルジュが援護に入った。
羽片がギコを護るように降り注ぎ、灰色の鎖がキリバの動きを阻害するために地を這い
続いてキリバの頑丈な身体にショボンの放つ魔力弾が多段ヒット、攻撃の邪魔をする。



143: ◆BYUt189CYA :2007/12/29(土) 18:46:42.28 ID:8H9+v4j70
(;,,゚Д゚)「駄目だ……! 危険だから下がっていろ!」

(#゚∀゚)「何言ってんだよ馬鹿が! 危険なのは最初からだろーが!
     だったら敢えて飛び込むのも一つってもんだ!」

(´・ω・`)「今回ばかりはジョルジュに同意するよ」

メ(リ#゚ ー゚ノリ「んだ、テメェら……!?」

(メ,,゚Д゚)「お前達――」

(*゚ー゚)「ギコ君は倒すことだけに集中して!
    他の障害は、必ず私達が何とかするから!」

最愛の人の言葉が、仲間達の言葉がギコの耳に染み渡った。
意味を理解した彼は自然とこう思う。

――あぁ、だったら大丈夫だ。

(メ,,゚Д゚)「……!」

周囲、羽片と光弾がぶつかり合う最中。
ギコはグラニードを構え、敵のみに視線を集中した。



148: ◆BYUt189CYA :2007/12/29(土) 18:47:48.01 ID:8H9+v4j70
メ(リ#゚ ー゚ノリ「!?」

殺気とも闘気ともいえる気配を読み取ったか。
結果、キリバの攻撃に小さな間が生まれる。

それは、本当に小さな穴。
針さえも通らぬ、紙一重以下の寸隙。

その絶望的なまでに小さな間は――

(#゚∀゚)「――もらいッ!!」

しかし、身体が戦闘特化したジョルジュが抉じ開けることとなった。
地を叩き、空気を切り裂き唸る鎖が、キリバの右足に絡みついたのだ。

メ(リ#゚ ー゚ノリ「この……っ程度!」

ばつん、という限界超えの音。
右足を作り上げる機械足の機構が、巻き付いたユストーンを捻じ切った。
分解させられた鎖の欠片は、勢い余って周囲の地面に突き刺さる。


まったくを以って無意味な行為。


そう思えたのはこの場にいる者の中で、キリバただ一人だった。



154: ◆BYUt189CYA :2007/12/29(土) 18:49:55.70 ID:8H9+v4j70
(#,,゚Д゚)「――おぉぉッ!」

メ(リ#゚ ー゚ノリ「なっ、テメェ――!?」

仲間が作ってくれた、攻撃の好機。
その小さ過ぎる利をほんの少しも無駄に出来ぬと、ギコは迷いも無く走った。

柄を握る手の指を引き、カートリッジを起動。
充填された魔力が、グラニードに纏わりついて濃密な青色を成す。
それは異獣に傷を負わせるに充分過ぎる程の魔力量だった。

吼え、同時に身を前へと投げ出した。
一瞬遅れ、振りかぶったグラニードが身先を天へ向ける。

メ(リ#゚ ー゚ノリ「クソったれがぁぁ!!」

(#,,゚Д゚)「喰らえぇぇぇッ!!」

そうしてギコは、敵の脳天目掛けて刃を振り下ろした。

この速度ならば。
この機会ならば。
この威力ならば。

(*゚ー゚)(いける――!)

( ゚∀゚)(勝った!!)


――全ての『人』の期待を背負った一撃が、キリバの身を直撃した。



160: ◆BYUt189CYA :2007/12/29(土) 18:51:34.70 ID:8H9+v4j70
響くは轟音。

多量の魔力が役目を果たそうと、標的の防御を食い破った証明だ。
続いて衝撃、そして掻き乱された大気が音を立てて散らされる。

「どう、なった……?」

誰もが結果を知ることを望む。
だが、

「――くそっ、見えねぇ」

攻撃の祭に巻き上げられた砂煙が、彼らの視線を拒んでしまっていた。

(´・ω・`)「…………」

( ゚∀゚)「完ッ璧なタイミングだったぜ、おい」

それは、砂煙の中にいるジョルジュ達も同様だった。
荒れる砂粒から目を守るように腕を上げ、警戒するように視線を巡らせる。


五秒、十秒――


破壊の音が止んでから秒を刻む度、彼らの中での不安が大きくなっていく。

(*゚ー゚)「…………」

それは、ギコに絶対の信頼を置くしぃでさえも――いや、だからこそ例外でなかった。



164: ◆BYUt189CYA :2007/12/29(土) 18:53:08.97 ID:8H9+v4j70
(;*゚ー゚)「ギコ君……」

消え入りそうな呟きが響いた時。

「「!?」」

ぼ、という音を立てて砂煙が弾けた。
内側からの力によって散り、薄くなっていくブラウンのカーテン。

その先に在ったのは、

(メ,,゚Д゚)「……っ」

メ(リ゚ ー゚ノリ「…………へっへっへっ」


誰もが望んでいなかった、『死闘続行』という結果だった。


(;゚∀゚)「んな馬鹿な――!?」

思わぬ光景に呆けていたジョルジュが、慌てて自身の疑念を口にする。
だが、残念ながら明白だった。
見える光景は一つの事実を示している。

グラニードの刃を、キリバの左腕が防いでいるのだ。



167: ◆BYUt189CYA :2007/12/29(土) 18:54:25.15 ID:8H9+v4j70
盾のようにして構えられたそれは、当然のように盾としての役割を果たしていたのだ。
流石に無傷というわけにはいかなかったようで、その腕に深々と刃が食い込んでいる。
しかし、

メ(リ゚ ー゚ノリ「やるじゃねぇか……これで左腕の機能は大幅低下だぜ」

(;,,゚Д゚)「貴様は……!!」

何という怪物か。
四人掛かりでようやく生み出した攻撃が、左腕一本の中破と等価値だとは。
これまで相対したことのない敵の姿に、ギコの背中を冷たい汗が這っていく。

頭では解っていた。
異獣という存在は人の常識を超えている、と。

――だが、それに何の意味があったのだろう。

そう思えるほどの何かを、ギコは全身で感じ取ってしまった。

メ(リ゚ ー゚ノリ「あー……おかげで頭ァ冷えたぜ。サンキュー。
      次は俺の番ってところか?」

動き出す怪物の目は既に獲物を捉えている。
そのあまりの死気に、咄嗟の判断が鈍ってしまうのは当然だった。



171: ◆BYUt189CYA :2007/12/29(土) 18:55:49.11 ID:8H9+v4j70
(;,,゚Д゚)「ッッ……!!」

思わず後退してしまう。
震え掛けた足を動かせたのは僥倖か、ギコ自身の気概のおかげと言えよう。
しかし、通常ならば反撃すら考えるはずの彼が、ここまで恐怖するのは極めて稀有であった。

ここにいてはいけない。
ここにいれば殺される。

本能が鳴らす警鐘に従い、逃亡すら考えてしまう。
逃げる場所など、この戦いを決意した時から無くなっているというのに。
いや――

メ(リ゚ ー゚ノリ「さぁ、絶望の御時間だぜ……!?」

その気後れを逃すキリバではなかった。
蹴立てた地面を破砕し、逃げるギコを追う。

(;,,゚Д゚)「くそっ、何故、何故――!」

メ(リ゚ ー゚ノリ「はははははははははははっ!
      滑稽だなギコ! その顔が見たかった!!」

無事な方の右腕が変形する。
生み出された形は、いわゆる『ドリル』という武装。
闘気は完全に失っていないのか、身体をこちらに向け、グラニードを盾にするギコ目掛け

メ(リ#゚ ー゚ノリ「エリュカドリルブレイカァァァァァ!!!」

まさに、必殺の技名を叫んだ。



177: ◆BYUt189CYA :2007/12/29(土) 18:57:23.54 ID:8H9+v4j70
(;,,゚Д゚)「ッ……うぁぁ!!?」

無限に螺旋を描く円錐形金属が、青色の刀身に激突する。

甲高い削撃音を響かせるドリル。
ただ『削る』ためのそれは、多大な魔力と共に役目を果たし始めた。

即ち、ウェポンの破壊。

本来、キリバの持つ魔力とグラニードの持つ魔力には大きな差がある。
それに対しギコは、マジックカートリッジを併用することで戦っていた。

だが、今のグラニードにはマジックカートリッジが使用されていない。
久しく忘れていた恐怖心からか、使用する隙すら与えられなかったか、
どちらにせよ、ギコはグラニードをまったく強化せずに盾とした。

もはや結果など語るまでもない。

(;,,゚Д゚)「グラ、ニード……!!」

裏から見ていても解ってしまう。
傷一つ無かったはずの刀身に、歪なヒビが入っていくのを。
ドリルが一回転する毎に増えていくそれは、やがてグラニードの全てを覆っていく。

最後にギコは、1st−Wの声を心に聞いた。

――すまない、と。

その意味を悟った時。
今まで彼の剣、そして盾となっていた青色の刀身が、無惨にも砕けることとなった。



183: ◆BYUt189CYA :2007/12/29(土) 18:59:08.99 ID:8H9+v4j70
(;,,゚Д゚)「あ、……――」

言った時には何もかもが遅かった。
バラバラになった刃の欠片が、引力に逆らうことなく散っていく。
もう抗えない、と言っているかのように。

軽率すぎたのだ。
勝てると思ってしまった自分が、状況が。

(;,,゚Д゚)「グ――」

名を呼ぼうとして、しかし声を収める。
既にそこまでの気力、そして意味を見失っていた。

メ(リ゚ ー゚ノリ「無様だなギコォ……さっきまでの威勢はどうした? あぁ?」

武器を砕かれた衝撃に、尻餅をつくギコを見下ろし

メ(リ゚ ー゚ノリ「だが、これで終わりと思うな。
      むしろこれからが地獄の始まりだ――ぜッ!!」

語尾が強められた証拠として、キリバの巨腕が落ちる。


堅いモノが折れる音。
同時、ひゅ、という細い声を喉から出しつつ、ギコは見る。

己の両足――その膝が、キリバの拳によって逆方向に折れ曲がったのを。



188: ◆BYUt189CYA :2007/12/29(土) 19:00:22.84 ID:8H9+v4j70
(;,,゚Д゚)「ぐ――ッッ」

メ(リ゚ ー゚ノリ「俺の死に様はよぉ、ギコ」


(;,, Д )「あああああああああああああああああああああああああああっ!!!??」


メ(リ゚ ー゚ノリ「テメェの『技』による両足切断だったんだわ――って、聞こえねぇか」

まぁいい、とキリバは笑った。
復讐の時間はまだまだ残されている、と。


そして


(*;ー:)「いやぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


しぃの悲痛な叫び声が聞こえたのは、直後だった。



191: ◆BYUt189CYA :2007/12/29(土) 19:01:27.31 ID:8H9+v4j70
(;´・ω・`)「そんな――!?」

ありえない。
この中で最大戦力ともいえるギコが呆気なく、文字通り潰された。

現状を生み出したのはキリバ自身の力だろう。
敢えて力を絶妙に隠しておくことで、調子に乗った敵を誘き寄せる。
容易に逃げられぬ範囲に入った時、ようやくその牙を剥くのだ。

まさに必中滅敵。

言動から、それほど知能は高くないと思われていたのだが
実のところまったくの逆であった。

しかし異獣にしてみれば、あれで低い方なのかもしれない。
連中は生物の中での最強を目指し、そして常に最強を名乗る怪物。

この世界の、いや、人の知で計れる存在ではない可能性の方が高い。

とにかく、ただ一つだけ言えるのは、
こちらがキリバを倒せる確率が極端に低くなった、という冷徹な事実だけだった。



194: ◆BYUt189CYA :2007/12/29(土) 19:02:41.14 ID:8H9+v4j70
戦慄するショボンの隣で、ジョルジュが歯を噛む。
彼もまた、ギコが倒されたことに少なからず恐怖しているのだろう。

全滅。

そんな言葉が脳裏に浮かぶ。
やはり、人は異獣に勝てないのか。
戦う前よりも濃厚な絶望が、東軍全体を覆い始めていた。

(;´・ω・`)(でも――!)

それでは駄目だ、とショボンは強く思う。

元より敗北する確率の方が高い戦闘。
例えそうであっても皆、震える身体を抑え付けて戦い始めた。
故にここで諦めるくらいならば、もっと遠い過去に諦めているはず。

まだ抗わなくてはならない。

手段は無いが、意思が有る。
力は無いが、心が有る。

だから、きっと、

( ゚∀゚)「――ショボン」



202: ◆BYUt189CYA :2007/12/29(土) 19:04:24.88 ID:8H9+v4j70
(´・ω・`)「……ジョルジュ?」

( ゚∀゚)「俺がアイツを何とかして止める……だから、お前が何とかしてくれ」

(´・ω・`)「今までの光景を忘れたとでも言うのかい?
      君がやろうとしていることは自殺行為だ」

冷静だからこその意見。
このまま無為に抗えば、無駄に戦力を削られるだけだ。
何か決定的な手段が用意出来るまで防戦に徹するべき――

(#゚∀゚)「死ぬのを恐れちゃ倒せねぇだろ……!
     俺達は、そういう敵と戦おうとしてんだろう!?」

(´・ω・`)「……それは」

(#゚∀゚)「だったらやるしかねぇ。
     モタモタしてたら、あのデケー鏡までやられちまう」

(´・ω・`)「……正論だね」

確かにジョルジュの言う通りである。
しかしそれでも彼を止めたいショボンに、残念ながら有効な理屈は存在していなかった。

( ゚∀゚)「いいか? 俺が奴の足を何が何でも止める。
     お前は、奴が俺だけに集中した瞬間を狙って――」

言いながら、ショボンの左手指にはめられた指輪を見る。

(´・ω・`)「――奴の頭をミストランの刺突で打ち抜く、だね?」



207: ◆BYUt189CYA :2007/12/29(土) 19:06:10.71 ID:8H9+v4j70
異獣とて生物。
心臓や脳髄も持っているはずだ。
ならばそこを破壊すれば、致命的なダメージを与えられるかもしれない。

幸いにも、ミストランは接近する手間を省くことが出来る武装。
『不意打ち』であるならばヒットする確率も普段より高くなる。

半ば希望的観測ではあるが、現状で出来ることを考えれば――

(´・ω・`)「…………」

( ゚∀゚)「いいな?」

(´・ω・`)「……理性では『それが上策』と言ってる。 でも感情は真逆だ。
      僕は君を死なせるような策に手を貸したくない」

(;゚∀゚)「うぇ!?」

本当に驚いたのか、軽く目を見開くジョルジュだが、

(;゚∀゚)「まぁ、冗談だろうけど嬉しいこと言ってくれるじゃねぇか。
     でもだったら――だからこそ、ここで死ぬわけにはいかねぇだろ?」



208: ◆BYUt189CYA :2007/12/29(土) 19:07:32.39 ID:8H9+v4j70
正論だ。
正論過ぎて悲しくなってくる。

いつも変なことしか言わないくせして。
いつも楽しそうな顔で嫌味を言うくせして。

(´・ω・`)(なのに、どうして――)

どうして、こういう時だけ正しいことを言う。
反論したくても出来ないではないか。

( ゚∀゚)「なぁに、気にすンなよ! 俺様の強さはお前も解ってるはずだ!」

充分過ぎるほど解っている。
あのキリバ相手に、太刀打ちすら出来ないということくらい。
そしてジョルジュ自身も同じように思っているはず。

しかし、ショボンは言うしかなかった。

(´・ω・`)「……解った」

と。



211: ◆BYUt189CYA :2007/12/29(土) 19:08:40.52 ID:8H9+v4j70
( ゚∀゚)「頼むぜ。 もし倒せたらお前がヒーローだ」

ふざけるな、という言葉を無理矢理に呑み込む。

ヒーローという称号なんか要らない。
柄ではないし、既にバーボンハウスの店長という肩書を背負っているのだから。

代わりにミストランを開放し、手にとって掲げて見せる。
満足げに頷いたジョルジュは、まだ修復途中のユストーンを握り

( ゚∀゚)「行ってくンぜ」

一度も振り向くことなく、駆けて行った。

(´・ω・`)「…………」



214: ◆BYUt189CYA :2007/12/29(土) 19:09:46.37 ID:8H9+v4j70
(;,, Д )「――ぐぁぁぁああ!! あ、あああぁぁぁ!!!」

メ(リ゚ ー゚ノリ「うぇっへっへ」

さてどうしてくれようか。

痛みにもがくギコを前に、キリバは貪欲な――もはや変質者レベルの――笑みを浮かべる。

これだ。
世界を渡り、数々の生物を食らうだけの生の中。
キリバにとって、この瞬間こそが唯一の楽しみであった。

自分を殺したギコの同一存在を殺す。

無限に繰り返される復讐は、いつしか多大な快感を生み出すようになっていた。
輪廻転生など絵空事であるこの世の中、己の仇を好きなだけ討てる自分は幸いだろう。

メ(リ゚ ー゚ノリ「へへ、へへへへへへへ」

次は何をしてやろうか。
もはやギコには右腕しか残っていない。
軽く千切ってやるもの容易だが、それでは『抵抗』という手段を奪い取ることに等しい。

それでは勿体なさすぎる。



218: ◆BYUt189CYA :2007/12/29(土) 19:11:30.18 ID:8H9+v4j70
無抵抗にするのは殺す直前。
それも遊び飽きた時にすることだと決めているキリバは、

メ(リ゚ ー゚ノリ「んん〜成程、たまらんね」

(*;ー;)「ギコ君! ギコ君!?」

こちらに向かってくるしぃを、ターゲットと見定めようとしていた。

バレないように右腕を操作する。
別に攻撃されると解っていても彼女は向かって来そうなものだが、念には念を入れて損はない。
ここでしぃの頭でも胴でもブチ抜けば、ギコは更に絶望へ堕ちていくことだろう。

メ(リ゚ ー゚ノリ(それって最高じゃねぇか……!)

楽しみで仕方がない。
思う心は偽りなく興奮している。

ならばやることは一つのみ――

(;,, Д゚)「――っあああぁぁぁ!!!」

メ(リ゚ ー゚ノリ「!?」

身の毛も弥立つ獣のような叫びと同時、ギコが動いた。
跳ねるように上半身を起こした彼は、そのままキリバに殴りかかろうとするが

(;,, Д )「っがぁぁ!? ううおおおぁあああ……!!」

メ(リ;゚ ー゚ノリ「お前、馬ッ鹿じゃねーの?」



221: ◆BYUt189CYA :2007/12/29(土) 19:12:40.45 ID:8H9+v4j70
何せ両足が折られているのだ。

ほんの少しの振動でも激痛が走るというのに、
あんな勢いで起き上がったりすれば、発狂するほどの痛みが走って当然である。

(;,, Д゚)「しぃには、しぃには……ぐぅぅうう!!」

絞り出されるような声を聞き、成程、とキリバは手を打つ。
どうやらこの男、最愛の人を護るためならば自身さえも省みるつもりはないらしい。
そこまでする価値があるのかは理解出来ないが、だとすれば利用しない手はない。

メ(リ゚ ー゚ノリ「よーし、だったらあの女からヤってやるよ」

(;,, Д゚)「き、さまぁぁああああ!!!」

最初からそのつもりだったけど、と心の中で付け加える。

それにしても面白い。
そして愉快だ。

激痛に狂っているかと思えば、しぃを殺す旨を伝えると怒り狂う。

どちらにしろ狂っているわけだが、どちらかと言えば後者の方が見る分に飽きない。



226: ◆BYUt189CYA :2007/12/29(土) 19:13:51.40 ID:8H9+v4j70
メ(リ゚ ー゚ノリ(でもやっぱ思い切り絶望させてぇよなぁ)

ただ殺すだけなら簡単だが、これは復讐である。

既に、このギコが何番目なのかなど憶えていない。
半ば自己強迫に近い理由で、キリバはギコを殺し続けていた。

今回も例外に漏れず殺すつもりなのだが、
このギコは今までのギコよりも数段強く、そしてキリバを苛立たせている。
普通の方法では満足出来ないのは明白だった。

故にしぃを殺す。
しかも思いつく限り、惨たらしいやり方で。

それを見せつけられるギコを想像し、キリバは危うく――

メ(リ゚ ー゚ノリ「んあ?」

自身の太腿に違和を感じたのは直後。
見れば鎖が巻きついており、それを確認した瞬間、

メ(リ゚ ー゚ノリ「お、おぉ?」

何か強力な力により、後方へと引っ張り飛ばされた。



231: ◆BYUt189CYA :2007/12/29(土) 19:15:16.47 ID:8H9+v4j70
メ(リ゚ ー゚ノリ「おぉ〜――っと? 何だぁ?」

メチャクチャな姿勢で落とされたが、何とか着地する。
見れば、ギコとは数十メートルほど離されてしまったようだ。
それと時を同じくして、しぃがギコの下へと辿り着いてしまう。

( ゚∀゚)「悪ィな。 今度は俺を相手してくンねーか」

代わりとして近くにいるのはジョルジュ。
キリバを引っ張りこんだ鎖の末端を握り、挑戦的な表情で鋭い視線を向けてくる。

メ(リ゚ ー゚ノリ「おいおいおーい、勘弁してくれよ。
      これからメインディッシュだってのにさー」

心底残念そうに言うキリバ。
まるでジョルジュなど眼中にないかのように、ギコの方を向いたままだった。

(#゚∀゚)「そうやって余裕ぶってられンのも今の内だぞ!」

雑な扱いに苛立ったのか、吼える。
それでも見向きさえしないキリバに、ユストーンを振り回し

(#゚∀゚)「一気に片を付けさせてもらうぜ!
     OVER ZENITH!!」

駆け引きも何もない。
愚直なまでに最初から全力だった。



239: ◆BYUt189CYA :2007/12/29(土) 19:16:48.22 ID:8H9+v4j70
(#゚∀゚)「チェーンドラゴンッ! ギガモード!!」

灰色の発光が大気を照らすと同時、握っていたユストーンが光粒となって消える。
ジョルジュの周囲に巨大な質量が出現したのは次の瞬間だ。
金属を擦り合せる重厚な音。
それは無機物ながらに、生物の息吹を感じさせる。

『――――』

正体は、やはり鎖だった。
だが、そのサイズは通常のものよりも遥かに長く、重く、大きい。
存在するだけで大地を削る重厚さは、見る者を圧倒させる。

彼の限界突破は、二年前に見せた結果よりも確実に力強くなっていた。

メ(リ゚ ー゚ノリ「へぇ?」

いきなり最大の力を見せつけられ、ようやくキリバの気がジョルジュへと向く。

メ(リ゚ ー゚ノリ「俺相手にやろうってのか? 身の程知らず?」

(#゚∀゚)「言ってろよ……これからテメェは死ぬぜ!」

質量だけで言うならば圧倒的な差だ。
押し潰すだけでも、何らかのダメージは与えられるはず。

(#゚∀゚)「行け、ユストーン!!」

主の鋭い声と共に、鎖の龍と化したユストーンが身をうねらせる。
そして超重量を誇る身体を押し出すように『発進』した。



242: ◆BYUt189CYA :2007/12/29(土) 19:18:28.92 ID:8H9+v4j70
メ(リ゚ ー゚ノリ「――でっけぇなおい!」

轟、と風を切り、大地を割りながら突っ込んでくる様は脅威の一言だろう。
だがキリバはむしろ大きな笑みを浮かべ、それを迎撃する。

力の差は歴然だ。
いくらキリバが強かろうと、この質量差を覆すことは出来ないはず。

溜めを生むために縮めていた身を一気に伸ばし、

『――――!!』

行く。

それは、高速で走る砂上列車のような光景だ。
灰色の鎖を連結させた一列縦隊。
槍にも似た一撃が、キリバに襲いかかる。

メ(リ゚ ー゚ノリ「っは!! 頭悪ィ奴の考えそうなこった!!
      だが――」

構え、機械の四肢を鳴らす。
溜め込まれた魔力が展開し、ユストーンの壁となった。

メ(リ#゚ ー゚ノリ「そういう力押しってのは嫌いじゃねぇ!!」

大跳躍と言えるほどの直上ジャンプ。
その真下を当然のように、巨大化したユストーンが通過する。



249: ◆BYUt189CYA :2007/12/29(土) 19:20:36.90 ID:8H9+v4j70
浮遊する時間は短い。
何故ならば、

メ(リ゚ ー゚ノリ「お――?」

背後へ突っ込んだはずの鎖龍が、その頭部とも言える先端を持ち上げたのだ。
跳ねるように身を仰け反らせたユストーンの狙う先。
つまり中空に浮かぶキリバ目掛けて、再度の突撃を敢行した。

激突する。

( ゚∀゚)「っしゃぁぁ!!」

高速で走る巨大質量に文字通り撥ねられたキリバは、
身をメチャクチャにきりもみさせながら吹き飛んだ。

しかし、全てがこちらの思い通りにいくならば、それこそ最初の攻防で勝負は決まっていたのだ。

メ(リ゚ ー゚ノリ「……成程なぁ、意外と痛ってぇ〜の。 油断した」

(;゚∀゚)「って、うぉぉ!? 何でだ!?」

何という不幸か、その墜落地点はジョルジュの眼前。
いや、これは不幸などではなく――

メ(リ゚ ー゚ノリ「見栄は張るもんじゃねぇな、うん。
       だが、これでチェックメイトってやつだ」



255: ◆BYUt189CYA :2007/12/29(土) 19:21:44.19 ID:8H9+v4j70
キリバは、最初からこのつもりだった。
わざとユストーンを真上に回避し、次の攻撃を敢えて受ける。
そうすることにより、ユストーンよりも早くジョルジュの下へと向かったのだ。

己の実力に絶対の自信を持っているが故に出来た、悪魔のような策。

(;゚∀゚)「がぁっ!?」

反応する間もなく、ジョルジュの首が機械腕によって握り込まれる。
発想が悪魔ならば行動も悪魔そのものか。
言葉さえも残さぬと、キリバは容赦なく首の骨を折りに掛かった。

(; ∀ )「――ッッ!!」

掛かったはずなのだが、

メ(リ゚ ー゚ノリ「――ん?」

(;゚∀゚)「へ、へへ……やるなら、さっさと……げほっ、やれっつーの」

笑み。

殺される間際として、明らかに不似合いな表情を浮かべるジョルジュ。

決して珍しいわけではないが、こういう場合、
何か手を隠していることがほとんどだとキリバは知っていた。



259: ◆BYUt189CYA :2007/12/29(土) 19:22:57.22 ID:8H9+v4j70
メ(リ゚ ー゚ノリ「……テメェ何を企んでやがる?」

(;゚∀゚)「それ、教えたら……意味ねーっつの……ばーかっ」

ジョルジュは知っている。
ここから少し離れた場所にショボンが身を隠しているのを。
少し盛り上がった地面の陰、ミストランを構えてキリバの頭を狙っているのだ。

だが、そのまま撃っても当たりはしないだろう。

だからジョルジュが自ら囮となった。
己が殺される瞬間こそ、キリバにとって最大の隙となる。

そこをショボンが穿つのだ。

攻撃と命中を逆転させる槍ならば、最速の一撃を見舞うことが出来るだろう。

(;゚∀゚)(頼むぜ、ショボン……!!)

これは賭けである。
ジョルジュを殺すために気を背けるキリバと、ショボンが行なう攻撃。

速かった方が勝ち、遅かった方が沈む。

そして、それが東軍の勝敗に繋がっていた。
もはや相対出来る戦力がない故に
ここで倒さねば、周囲で事を見守る一般兵の虐殺が始まるからだ。



265: ◆BYUt189CYA :2007/12/29(土) 19:25:18.31 ID:8H9+v4j70
メ(リ゚ ー゚ノリ「まぁ、雑魚なお前らが何をしようとも関係ねぇ。 だったらすぐに殺してやるよ」

(; ∀ )「ぐっあっ、ああぁっ……」

急激に圧迫される首。
血管が次々と閉じられていき、支柱である骨と筋が悲鳴を挙げる。

おそらく自分は数秒後に死ぬ。
死ぬ時こそ、キリバはこちらに集中する。
だからショボンが攻撃することが出来る。

何ら問題ない。

どうせ自分は戦闘用に作られた身だ。
戦闘に特化しているが故に、日常生活を為すための能力が大幅に削られている。
どうせ、この戦いが終われば御役目御免の運命が待っているだろう。

だったら、ここで勝利の礎になるのが一番幸いだ。

(; ∀ )「ぁ――っ、――……ッ」

限界だ。折れる。もう駄目だ。
さようなら世界。こんにちは地獄。

そう脳裏に浮かべ、最期に強かな笑みを見せてやろうと視線を上げた時。

メ(リ;゚ ー゚ノリ「――ッ!?」

ジョルジュの首を掴んでいる、キリバの右腕が弾けた。



269: ◆BYUt189CYA :2007/12/29(土) 19:26:56.15 ID:8H9+v4j70
(;゚∀゚)「……ッ、がはっ!? げほっ、げほっ!!」

衝撃によって地面に落とされる。
何がどうなっているのかを理解する直前、制御出来ない強い咳がジョルジュの喉を襲った。
突如として入ってきた酸素が肺にショックを与えてしまったのだろう。

つまり、自分は生きているわけで。

メ(リ゚ ー゚ノリ「何の――」

(;゚∀゚)「――何のつもりだショボン!?」

キリバよりも強い問いが、味方であるはずのショボンへ投げかけられた。

(;´・ω・`)「…………」

隠していた身を露わにしたショボンの表情は青ざめている。
自分でも何をやったのかが解っていないかのような。

ミストランを手に提げ、微かに震える口を開いた。

(;´・ω・`)「で、出来、出来るわけないじゃないか……っ。
      見殺しにするなんて……!」

(;゚∀゚)「ッ!? 馬鹿! 俺のことなんか――」



276: ◆BYUt189CYA :2007/12/29(土) 19:28:05.08 ID:8H9+v4j70
メ(リ゚ ー゚ノリ「もしもーし」

怒りに任せて吼えかけたジョルジュを、キリバが止めた。
彼は半目で肩をすくめ、

メ(リ゚ ー゚ノリ「このまま時間を浪費して良いのかねぇ?
      見たところ、あの槍は特別な制約があるっぽいけどさ」

(;゚∀゚)「!!」

そうだ、ミストランにはルールが存在したのだ。
命中を先行させる代償として、後で必ず同じ箇所を攻撃をしないといけない、というルールだ。
しかも時間制限があるタイプだとショボンが言っていた。

メ(リ゚ ー゚ノリ「普通に考えて『命中を攻撃で埋め合わせなきゃならない』って感じだろうな。
      ほら、だったら来いよ。 俺はここだぜ?」

挑発するように手首を振る。
ショボンが放つ渾身の一撃ですら一歩も動かなかったキリバが、だ。

そんな敵に向かっていける者など、果たしているのだろうか。



285: ◆BYUt189CYA :2007/12/29(土) 19:29:23.78 ID:8H9+v4j70
(;゚∀゚)「くそっ!!」

思わず走るジョルジュ。
自分に何か出来るとは思えないが、それでも駆けた。

(;゚∀゚)「ショボン! 俺がサポートするから、早く回収を――!!」

(;´・ω・`)「……ッ」

(;゚∀゚)「ショボン!!」

(;´・ω・`)「あんな化物に近付くなんて、無理に決まってるじゃないか――!」

超綿密な魔法で編まれたが故に『ペナルティ』すら抱えるウェポン。
その内容をジョルジュは次の瞬間、目に焼き付けることとなった。

(´;ω;`)「――っあ!!」

ばん、というくぐもった破裂音。

それと同時、ショボンの右鎖骨に位置する皮膚と肉が弾けとんだ。



289: ◆BYUt189CYA :2007/12/29(土) 19:30:45.76 ID:8H9+v4j70
東の戦場を、遥か上空から見つめる視線があった。

赤い空に相反する青色。
人よりも大きな、しかし人の形をした機械。

青いEMA『リベリオン』だ。

補給完了した機体を、ホバー状態にしたスラスターで浮かせている。
右手には、延長バレルを装着させたEMA用のライフル型EWが握られ、
その先端を東の大地へと向けていた。

コクピット内は薄暗い光に照らされている。

|゚ノ ∀ )「…………」

レモナが、シートに身を預けて正面ウインドウを睨んでいた。
足のペダルで機体の動きを微調整し、右のレバーを通じて砲身をターゲットへ。

機体は既に狙撃モードへ移行している。

白や赤の線が縦横無尽に走り回って狙撃のための補助線と化し、
一際大きなサークルの中央にターゲットが表示されていた。

見える景色、遠く下方の地面の上には小さな赤が一つ。



294: ◆BYUt189CYA :2007/12/29(土) 19:31:49.52 ID:8H9+v4j70
|゚ノ#^∀^)(アイツが、アイツがあの二人を殺した……!)

未だ憶えている。
二機のEMAを相手に器用にもパイロットだけを殺した張本人。

今見える揺れる赤髪が、あの時、空で笑っていた男のものとまったく同じだ。

何故、EMAを破壊しなかったのか。
何故、あのタイミングで現れたのか。

そういった疑問は、既に考え尽され頭の隅に追いやられていた。
答えなど出ない問答に意味はなく、故にこの身は復讐鬼と成り下がっている。
故に問い掛けなど、キリバを殺せるか否かだけで充分だった。

レバーを握る手に力を入れる。

魔力を満タンまで充填したマジックカートリッジ。
それを装填しているEWで穿てば、多少なりともダメージは与えられるはず。

この戦いに臨んだ誰もが思う希望を無意識に抱え、レモナはトリガーを引き絞った。



300: ◆BYUt189CYA :2007/12/29(土) 19:33:42.02 ID:8H9+v4j70
ジョルジュは思わず、敵に背を向けてまで走っていた。

(;゚∀゚)「何やってんだよこの馬鹿が!?」

叫ぶような声に、周りで見ていた一般兵が慌てて医療器具を用意し始める。
それを横目に見つつ、仰向けで倒れたショボンの下に駆け込んだ。

(;´・ω・`)「痛っ……ごめんね、ジョル――」

げ、と血の塊を吐く。
言うまでもなく、右鎖骨周辺に刻まれた傷が原因だ。
手の平ほどの大きさの傷からは、新鮮な血液がこれでもかと溢れ出ていた。

(;゚∀゚)「何で、何で俺なんかを助けたんだよ!?
     あそこで一撃見舞ってりゃ勝てたかもしれないのに!」

(;´・ω・`)「……うん、確かに、僕もそう思った。
      でも、……っ、友達だろう……?」

(;゚∀゚)「と、とも……? な、何考えて……お前は、俺のこと嫌いって……」

喋るだけで激痛が走るのだろう。
額に多量の汗を浮かべたショボンは、耐えるように歯を噛み

(;´・ω・`)「君が死ぬのを考えたら……っいつの間にか、助けてたよ。
       だったら、僕は君を友達だと……げほっ、思ってるんだ……きっと」



308: ◆BYUt189CYA :2007/12/29(土) 19:35:15.14 ID:8H9+v4j70
力無い笑みは、すぐさま苦痛に歪んでしまった。

(;゚∀゚)「止めろ、もう喋るんじゃねぇ……!
     お前は生きてバーボンハウスに帰えらなきゃならねぇンだ!
     俺なんかに構っちゃいけねぇだろうよ――!!」

(;´・ω・`)「……あぁ、っそうだね……僕は帰らなくちゃ」

己に言い聞かせるように頷いたショボンは、しかし予想外の言葉を吐く。

(;´・ω・`)「君と一緒に……ッ、僕らのバーボンハウスへ――」

(;゚∀゚)「なっ――」

「見た目以上に傷が深い! おい、装甲車まで運ぶぞ!!」

(;´・ω・`)「っジョルジュ……」

抱え上げられたショボンは、痛むことが解っていながら強く手を振った。
先から放られた紫色の光がジョルジュの手に落ちる。

(;´・ω・`)「……無責任だけど、あとは頼んだ。
      アイツを倒して、さ……帰ろうよ、一緒に――っ」



314: ◆BYUt189CYA :2007/12/29(土) 19:36:57.50 ID:8H9+v4j70
(  ∀ )「…………」

少しだけショボンを追い掛けた足を、踏みつけるようにして留まらせた。
代わりの動作として視線を落とし、握られた手を軽く開く。

紫色の指輪が、淡い光を発していた。


(  ∀ )「……なんで」


再度、握り込む。


(  ∀ )「なんでだよ……」


更に、更に、強く。


(  ∀ )「何でこんなに嬉しいんだ……?」


眉尻を下げ、小さな涙を零し、しかし不思議なことに笑みが浮かんだ。
指の間から漏れる紫光を胸に寄せ


( ;∀;)「俺なんかが、何処かに居ていいのか……?
      俺なんかが、誰かと一緒にいてもいいのか……!?」



322: ◆BYUt189CYA :2007/12/29(土) 19:38:21.46 ID:8H9+v4j70
汚らしい自分が存在しても良い場所。
受け入れてくれる空間を、かつてジョルジュは強く望んでいた。

バーボンハウス。

彼にとって、今までの人生の中でも特別な場所。
アルバイトという辛うじて認めてもらえるような存在だが、それでも充分に満足だった。
たとえ店主に嫌われていようとも、置いておく仕方ない理由があろうとも
『ジョルジュはここに居て良い』のならば構わなかった。

だが、ショボンは言ってくれたのだ。
友達だから、と――『居ても良い』ではなく『居て欲しい』と。

もし、それが叶うのならば

( う∀;)「だったら俺は……俺は……ッ」

涙と鼻水を拭い、顔を上げる。
もはやその目は『友達』を見ていない。

生きて帰るため。
彼と一緒に帰るため。
自分の居場所に帰るために、最大級の殺意を敵へ送る。

(#゚∀゚)「行くぜ、ショボン――絶対に帰るんだ……!!」

その時。

ジョルジュの中で錆び朽ち果てていたはずのスイッチが、音を立てて稼働した。



372: ◆BYUt189CYA :2007/12/29(土) 19:57:27.74 ID:8H9+v4j70
声が聞こえる。

小さく、それでいて惹かれるような声だ。

震えていた。

何か怖いことでもあるのだろう。
その正体は解らないが、きっと彼女は悲しんでいる。

「――ん……――」

聞いたことのある声。

それはかつて、一人ぼっちだった頃に聞いた。
一人ぼっちであった最後の時間に聞いたものだ。

懐かしい、と思う。

あの時、あの雨の日を境に、彼と彼女は一人ぼっちでなくなった。


彼は自棄を捨てた。
彼女は涙を捨てた。


いや、待て。
だったらおかしいのではないか。

――何故、彼女は捨てたはずの涙を流している?



375: ◆BYUt189CYA :2007/12/29(土) 19:58:43.27 ID:8H9+v4j70
「――く――! ――ん!」


顔に小さく冷たい感触が落ちる。
それは重力に引かれ、そのまま頬を伝って流れていった。


やはり、彼女――しぃが泣いている。

だから、彼――ギコは伝えようした。


大丈夫。
俺はここにいる。

泣くことなんてない。

お前は俺がいつだって護るんだから。
怖いものがあったら切り伏せるし、恐ろしいものがあれば叩き切ってやる。
もう一人にはさせないし、一人にはならないんだ。

だから、だから――



384: ◆BYUt189CYA :2007/12/29(土) 20:01:18.78 ID:8H9+v4j70
(メ,,゚Д゚)「……っ」

まどろみにも似た暗闇の沈殿から、己の意思を引き上げた。
示すように瞼が開き、霞んだ光景が目に入ってくる。


――ずきずきと痛む頭。


どうやら仰向けに倒れているらしい。
忌々しい赤い空が見え、しかし地平も見えることから、
どうやら誰かが頭を支えてくれているようだった。


――ふつふつと煮滾る血液。


その視界で見る。
あり得ぬ方向に捻じ曲がってしまっている両足を。


――ちりちりと焼けつく神経。


認識した瞬間、燃えるような熱と激痛が上半身へ這い登ってきた。
己の身に何が起きたのかを思い出し、

(メ,,゚Д゚)「くそっ……何だ、この有様は……」

と、強く呟いた。



389: ◆BYUt189CYA :2007/12/29(土) 20:02:52.88 ID:8H9+v4j70
(*;ー;)「ギ、ギコ君!? 大丈夫!?」

意識の覚醒に気付いたか、ギコの頭を膝に乗せていたしぃが安否を問う。

(メ,,゚Д゚)「……すまない、しぃ。 やられてしまった」

(*;ー;)「そんな……! ギコ君が無事だっただけでも!」


――あぁ、だから俺はお前が好きなんだ。


声には出さず、ギコは小さく笑みを浮かべた。

周囲には音と人の気配がある。
あまりの激痛に意識を失い、そのまま退避させられたらしい。
てっきり殺されるとばかり思っていたが、
おそらくジョルジュ辺りが何とかしてくれたのだろう。

だが、長くは保つまい。

キリバと直接切り結んだギコは、敵の実力を嫌というほど感じ取った。
アレにまともに対抗出来る者など軍神くらいではなかろうか。
そんな結論を嫌々ながらも認め、現状を確認するために身体を動かそうとして、

(;,,゚Д゚)「――っぐあぁ!」

しかし、脳髄へ直撃した激痛に身を強張らせた。



400: ◆BYUt189CYA :2007/12/29(土) 20:05:40.53 ID:8H9+v4j70
その無謀な行為に、少し離れていた医療兵の女性が慌てた。

「動かないで下さい! 誰か痛み止めと鎮静剤を早く持ってきて!」

どうやら、気を失ってから未だそれほどの時間は経っていないらしい。
まだ騒がしいことから、担ぎ込まれた直後のようだ。

(メ,,゚Д゚)「だったら僥倖だ……」

(*;ー;)「え――」

(メ,,゚Д゚)「この痛みがある内にヤツを倒す……!」

心が壊れそうだった。

いや、既にかなり削られている。
破片と化した何かが、音を立てて跳ね回っているのが解る。
その度、意識にノイズのような亀裂が入っていた。

もう自分は自由に歩けない身体になってしまった。
もうしぃを護ることすら出来ない身体になってしまった。

ならばせめて、この灼熱の激痛が存在する内にキリバを倒す。
そうでもしなければ、心が発する痛みに耐えられそうになかった。

(;,,゚Д゚)「ぐっ……おぉ……!」

矛盾しているのがギコ自身、果たして解っているかどうか。
頭が熱と痛みに侵され、正常な判断を下せなくなってしまっているのだ。



407: ◆BYUt189CYA :2007/12/29(土) 20:07:30.83 ID:8H9+v4j70
(;*゚ー゚)「駄目だよギコ君! 絶対に駄目……!!」

(;,,゚Д゚)「大丈夫、だ……!! すぐに、すぐに終わらせて――!」

鬼の形相とはこのことを言うのだろう。
何かにとり憑かれたかのように、動かせる部分と動かせない部分を確認しながら

(;,, Д )「――っあぁあぁあぁぁぁ!!!」

「そ、そんな……!?」

上半身を、自力で起こした。

それだけの動作でも気が狂うほどの激痛が走るはず。
脳内麻薬などで軽減されるだろうが、だとしても強烈だ。
そもそも己の両足が砕かれている光景を見て、衝撃を受けない人間はいない。

しかしギコは動こうとする。

それがどうした、と言わんばかりに右腕に力を籠める。

(;,,゚Д゚)「……グラニード?」

そこでようやく、今まで在ったはずの感触がないことに気付いた。
震える首を動かし、右手指に何もはめられていないのを確認する。

いつもは見える青の色が、そこには無かった。



413: ◆BYUt189CYA :2007/12/29(土) 20:09:26.75 ID:8H9+v4j70
不思議そうに視線が泳いだと思った次の瞬間、その目が軽く見開かれた。

(,, Д )「あぁ――そうか。
     俺は、もう何も……」

深く息を吐き

(#,,゚Д゚)「だが、それでも――!!」

諦めでも悲しみでもない、闘気の篭もった溜息が吐き出された。

キリバの標的はギコである。
ジョルジュ達がどれだけ奮闘出来るか解らないが
その後、確実にギコの命を狙いに来るだろう。

だとすれば――

(;*゚ー゚)「ギ、ギコ君……?」

そう、しぃが一人ぼっちになってしまう。
ギコが殺されてしまえば、彼女は一人残される。
家族を失くし、雨の中で泣いていたしぃに戻ってしまう。



416: ◆BYUt189CYA :2007/12/29(土) 20:10:39.92 ID:8H9+v4j70
(#,,゚Д゚)「――ッぐおおぉぉぉ!!」

それだけは許容出来なかった。

もう二度と離れるわけにはいかない。
離別だろうが死別だろうが、しぃと離れることが許せない。

(メ,, Д )(だが、だが……俺には……)

左腕がない。
両足がない。
武器がない。

残るは右腕のみだが、それを司る身体は熱と激痛によって動くことをしてくれない。


何も、出来ない。


ぎり、と音を立てて歯を噛んだ。
口の端から血が流れ出ようとも、ギコは怒りに身を震わせる。

何も出来なかった己が許せないのか、何も出来なくなった己が許せないのか。



420: ◆BYUt189CYA :2007/12/29(土) 20:12:24.36 ID:8H9+v4j70
(*゚ー゚)「…………」

誰もが悲痛とも思える姿に、しぃは一つの考えを生んでいた。
それは昔に思った誓いで、今までロクに表現出来ていなかった言葉。

(*゚ー゚)「――ギコ君」

(メ,,゚Д゚)「…………」

(*゚ー゚)「ギコ君は、どうしたいの?」

「あ、貴女何を――」

嫌な予感を受けたのか、医療兵が間に割って入ろうとする。
だが、しぃはそれを右手で制した。

(*゚ー゚)「…………」

(メ,,゚Д゚)「俺は……」

呟かれるように、しかし力強く

(メ,,゚Д゚)「――俺は、戦いたい。
     出来るならばアイツを倒して、勝ちたい」



430: ◆BYUt189CYA :2007/12/29(土) 20:14:16.90 ID:8H9+v4j70
そっか、としぃは頷き

(*゚ー゚)「だったら私がギコ君を助けるよ。
     助けるから――」

立ち上がる。
その手をギコに差し出して、言った。

(*゚ー゚)「行こう? ギコ君が求める結果を得に――」

(メ,,゚Д゚)「しぃ……それは」

聖母と言える優しい笑みに、ギコは複雑な表情を返した。

それは、ギコが待ち望んでいたかもしれない言葉だったから。
しかし逆に、最も聞きたくなかったかもしれない言葉だったから。

――戦いたい。

だが、それはしぃの手を借りるということ。
危険だらけの戦場に、むざむざ連れて行くことになる。
大切だからこそ安全でいてほしい気持ちは万人共通だろう。

そんな意図を表情から読み取ったのか、しぃは俯いて首を振った。

(*゚ー゚)「今度は私が助ける番だから。
     ううん、それを抜きにしても私はギコ君の力になりたい。
     だって……だって私は――」

その言葉を聞いた時、心に再度、真っ赤な炎が宿るをのギコは自覚した。



433: ◆BYUt189CYA :2007/12/29(土) 20:15:18.23 ID:8H9+v4j70
メ(リ゚ ー゚ノリ「やれやれ……どーっすっかなぁ」

軽く欠伸をしつつ、キリバは身を伸ばす。
が、その表情は未だに晴れない。

先ほどまでの攻防で、ほとんどの障害を片付け終わってしまったわけだが、
胸にこびり付く物足りなさを拭い切れないでいるのだ。

殺すべき敵を殺していないのだから当然である。

メ(リ゚ ー゚ノリ「さて、愛しのギコに会いに行くとすっか」

これが本当に最後の仕事となるだろう。
とはいえ、もっといたぶって、もっと苦しませてから殺すつもりだ。
時間はあればあるほど良い。

周囲を見渡す。

ジョルジュ達に邪魔をされてしまい、有耶無耶の内にギコを見失ってしまった。

おそらく味方陣へと救出されたのだろう、と思い
ならば片っ端から蹂躙すれば行き当たるだろう、と結論付ける。

メ(リ゚ ー゚ノリ「ははっ、いわゆる宝探しってわけだ。
       この場合、砕くのは地面やモンスターじゃなくて人の壁だろうがね」

もはや自分を邪魔が出来る者は存在しない。
故に一歩を踏み出したキリバの気配は、余裕と油断に満ちていた。

それを砕かんとする復讐者――リヴェンジャーが狙っているとも知らずに。



438: ◆BYUt189CYA :2007/12/29(土) 20:16:29.76 ID:8H9+v4j70
異変は次の瞬間だ。

キリバの足元にある塵が、何処からか吹いてくる風によって散らされる。
その軌道は単純で、キリバを中心に外へ向かって螺旋を描くように。

メ(リ゚ ー゚ノリ「んだ、こりゃあ――」

声を阻む風切音。
直後、光が場を包んだ。

爆発。

天から光柱が伸びたと思えば、その先が地に落ちた途端に大衝撃を引き起こしたのだ。

『砕く』という力を刻まれた光。
それが、範囲内の全てを砕き尽くすため身を躍らせる。
反応するように次々と石が砂と化し、砂が塵と還っていく。

揺さぶる衝撃は十秒も続かない。

にも関わらず、キリバのいた地点には小型のクレーターが出来上がってしまっていた。



445: ◆BYUt189CYA :2007/12/29(土) 20:17:46.40 ID:8H9+v4j70
その結果を、レモナはコクピットの中で見る。

|゚ノ#^∀^)「…………」

狙いは完璧だった。
相手が油断したところを容赦なく撃った。
最大のチャンスを、最大限に活かせた自信がある。

だが、彼女の硬い表情は解けることがない。

本能が警告している。
まだ油断してはならない、と。

|゚ノ#^∀^)「……っ」

メインウインドウに取得した情報が流れた。
そのどれもが、『命中』という結果を示している。

しかしそれらを見ても、レモナは緊張を解くことはしない。

|゚ノ#^∀^)「何処に……」

代わりに命中地点をズームアップし、食い入るように睨む。
死体を確認しなければ決して安心など出来ない相手だからだ。



453: ◆BYUt189CYA :2007/12/29(土) 20:19:16.49 ID:8H9+v4j70
魔力の残滓はある。

砲撃した分。
キリバが発していた分。

だが肝心の、キリバ自身がそこにはいなかった。

ちり、と何かがレモナの神経を焼いた。
生まれた焦燥に心が駆られ、反応した身体が汗を吹く。
嫌な予感が止まらず、そして嫌な空気が機体を包ん赤だと直感した。

|゚ノ;^∀^)「ッ!?」

瞬刻に見た。
右サブウインドウ、つまり機体の右方を映し出す画面に


――赤色が見えた!?


まるで蛇が岩陰に逃げ込むような一瞬だ。

気のせいではない。
あの尻尾のような赤に近いものを、キリバは後頭部から髪として垂らしていた。

直感が言っている。
すぐさま警戒しろ、と。



457: ◆BYUt189CYA :2007/12/29(土) 20:21:15.37 ID:8H9+v4j70
|゚ノ;^∀^)「いる……奴は既にこの機体に――!?」

直後、激震。
背中に砲撃を受けたかのような衝撃に、レモナの身体が揺さぶられる。

危険を示すアラート。

見れば、機体を浮かせているスラスターの一部が破壊されていた。

|゚ノ;^∀^)「くっ! 姿を見せなさい!!」

慌てて背後へ振り向くも、既に敵の姿はない。
実は長距離からの砲撃だったのか、と頭が都合の良い解釈を生むのを
レモナは首を振って阻止した。
だが、

|゚ノ;^∀^)「うぁっ!?」

今度は真上からの一撃。
おそらくリベリオンの首に入ったと思われる攻撃は
警戒音を誘発させ、シートに座るレモナの身体と脳をシェイクする。

メ(リ゚ ー゚ノリ『はっは! 空からの狙撃なんぞ卑怯じゃねぇかぁ!?』

メインウインドウに顔が映った。
それはキリバの笑みで、メインカメラの鼻の先にいることを示している。



463: ◆BYUt189CYA :2007/12/29(土) 20:23:21.55 ID:8H9+v4j70
|゚ノ;^∀^)「このっ!」

メ(リ゚ ー゚ノリ『そんな奴には御仕置きをしてやらねぇとならんね!』

左腕の薙刀を振るう前に機体が、がくん、と固く揺れる。
何をするつもりかと問いかける暇さえなく視界がブレた。

|゚ノ;^∀^)「ゃ……っ」

気持ち悪い浮遊感が身を包んだかと思えば

メ(リ゚ ー゚ノリ『まずは引き摺り落としてからだけどなぁ――!!』

一気に、機体ごと真下へ『投げ』られた。

|゚ノ;^∀^)「――ッきゃあああああああぁぁぁぁ!!?」

速度にして時速三百キロメートル超過。
キリバに悟られぬための高度が逆に仇となった。
通常よりも遥かに速く鋭い落下は、纏う魔力の恩威さえも無効化してしまう。

巨大な振動。

抵抗する暇もなく、リベリオンは東の大地へと叩き付けられた。

|゚ノ; ∀ )「ううぁッッ!!?」

金属の拉げる音が轟くと同時
骨の芯まで響く衝撃に、レモナは易々と意識を手放してしまった。



466: ◆BYUt189CYA :2007/12/29(土) 20:24:54.28 ID:8H9+v4j70


――何も、出来なかった。


あの時。

ミカヅキとミツキが殺された瞬間、彼女はただ泣き叫ぶことしか出来なかった。
赤い髪の男がこれ見よがしに笑っているのを、ただ下から睨むことしか出来なかったのだ。


だからなのか、彼女は力を求めた。


元々から剣術に秀でてはいたが、その程度で異獣を倒せるとは思っていない。
故にリベリオンを復讐するための材料に選んだ。
つまりあの決戦準備の時から、彼女は既に復讐鬼と化していたのだ。

しかし、それを見逃してしまったレインやシューに罪はない。
極力悟られぬよう振舞っていたのだから。


唯一、気付いていたのはモナー。


以前からの彼女をさほど知らぬが故に、
そして教師としての天性の資質が、彼女の本心の糸端を掴んでいた。

結果、モナーはその糸を手繰り寄せることが出来なかったものの
レモナ自身は心の中で彼に感謝していた。



473: ◆BYUt189CYA :2007/12/29(土) 20:26:36.52 ID:8H9+v4j70
だが、どういう感謝しているのか、という問い掛けには答えられない。

何かが嬉しかった。
確固たる根拠なんかなかった。
ただ何かが満たされた気がしただけ。

それでも、微かな救いとなったのだ。

復讐というドス黒い絵画に一点だけ染み渡る白色のような。
塗り潰すにはまったく足りぬ量ではあるが、『在る』という事実こそが大切だった。


復讐は止めない。


けれど、為すために自分を捨てようなどと思うのは止めよう。

復讐が終わり、黒色が全て除かれた時。
隅に残った白色を手に、先を得たいと思えたから。

過去は捨てない。
けれど未来も捨てない。

だから、生きる今に全力を尽くす。


彼女を置いて逝った彼らだって、それを望んでいるはずだから。



477: ◆BYUt189CYA :2007/12/29(土) 20:28:23.52 ID:8H9+v4j70
ぎぎ、という不快な音が鼓膜を叩く。
がが、という不吉な音が意識を叩く。

|゚ノ -∀-)「……ん」

朦朧とする視界が、段々と現実味を帯びてきた。
未だ覚醒直後特有の生温さが精神を包んでいる。
だが、元いた世界での訓練の賜物なのか、レモナは意識的にその靄を払った。

ぎぎ、という不快な音が鼓膜を叩く。
がが、という不吉な音が意識を叩く。

|゚ノ;^∀^)「何の音……?」

ふと動いた手はコンソールを叩き、システムチェックを起動させる。

ぎぎ、という不快な音が鼓膜を叩く。
がが、という不吉な音が意識を叩く。

各関節部に少し異常が見られた。
だが、内蔵魔力で充分に補えるレベル。
中枢機器類も大きなエラーは起こしていないようだ。

ぎぎ、という不快な音が鼓膜を叩く。
がが、という不吉な音が意識を叩く。

では、先ほどから響くこの音は何なのだろうか。



480: ◆BYUt189CYA :2007/12/29(土) 20:29:30.06 ID:8H9+v4j70
では、先ほどから響く音は何なのだろうか。

|゚ノ;^∀^)「――!!」

見る。
機体ステータスを映すサブウインドウ。
胸部装甲板に深刻なダメージが発生している、と示されているのを。

冷たい悪寒。

機体を覆う装甲板の損傷など日常茶飯事であるはず。
まずこれが壊れてから、各部に異常が見られることがほとんどだ。
本来ならば『いつものこと』だとして、あまり気にしない項目である。

だが、覚えがあったのだ。
ミカヅキとミツキが殺された時、アイツは何をしていたか。

目を見開き考えるレモナの頭上から、一際大きな金属が拉げる音が響く。

……やはりか!

徐々に大きくなる異音に、レモナは確信を得た。
すぐさま機体を動かすためレバーを――

|゚ノ;^∀^)(――でも)



484: ◆BYUt189CYA :2007/12/29(土) 20:31:17.15 ID:8H9+v4j70
過去を思い出す。
同じように取り付かれた彼らも、機体を動かして対処しようとした。

|゚ノ ^∀^)(でもそれは通じなかった……!)

抵抗虚しく中身を露出させられた彼らは、
そのまま身動きをとれずに砲撃を受けて死んでいる。
ならば、ここで機体を動かすという選択を選ぶのは間違いではないか。

|゚ノ#^∀^)(――だったら!!)

身体をシートに固定するためのベルトを外し、腰元に備えていた剣を手に取る。
空いた手はコンソールを叩き、ある動作を行なうよう命令した。

空気が抜けるような音。
同時、正面の四隅から光が漏れ入り、それが徐々に拡大されていく。
自分からコクピットハッチを開いたのだ。
しかも

メ(リ゚ ー゚ノリ「うぉ!?」

勢いよく放たれるハッチは緊急離脱指定のためだ。
外部から引き剥がそうとしていたキリバの腕がすっぽ抜け、素っ頓狂な声を上げる。

|゚ノ#^∀^)「そこぉぉぉぉ!!」

既にシートから身を剥がしていたレモナは、剣の切っ先をキリバ目掛けて放った。
受け身で好き勝手やられるのならば、己から向かっていく方がマシだという判断からだ。



488: ◆BYUt189CYA :2007/12/29(土) 20:32:40.76 ID:8H9+v4j70
果たして、その目論見は

メ(リ゚ ー゚ノリ「っとぉ!」

容易い回避によって潰れることになる。

|゚ノ;^∀^)「くっ……!!」

メ(リ゚ ー゚ノリ「俺がわざわざ装甲を剥がす理由の一つがこれだ。
      内部の人間はこうやって攻撃するくらいしか残されてねぇからな。
      奇襲を受けずに簡単に殺せるって寸法さ」

突き出された剣の刀身を掴んで引く。
当然、それを握っていたレモナの身体も持ち上げられることとなる。

|゚ノ;^∀^)「離しなさい!!」

メ(リ゚ ー゚ノリ「やなこった。
      しっかしまぁ、割と期待してたんだが……とんだ外れを引いたもんだぜ」

|゚ノ;^∀^)「何ですって……!?」



493: ◆BYUt189CYA :2007/12/29(土) 20:34:21.05 ID:8H9+v4j70
メ(リ゚ ー゚ノリ「俺があの時EMAを破壊しなかったのは、今この瞬間のためだったんだよ。
      テメェらが本腰入れて攻撃してくるのは予想済みだったから
      その戦力を削っちゃあ悪いってことでな」

つまり

メ(リ゚ ー゚ノリ「EMAという戦力は強力だ。 乗り手のセンス次第では大化けする。
      あのミカヅキとかミツキって野郎達も悪くはなかったんだが……仲間割れしてたみたいだしな。
      次のパイロット――つまりテメェに期待してたんだ」

|゚ノ;^∀^)「っ……弱くて悪かったわね……!
      でも私はアンタを殺す!」

メ(リ゚ ー゚ノリ「復讐という動機は時に狂気的な力を生み出すもんだ。
      悪いが、テメェじゃ圧倒的に足りねぇよ」

心底つまらなそうに言うキリバの目に、もはやレモナへの興味は失われていた。

わざわざEMAを残したのは更なる復讐者に期待するため。

より強者と喰いたい異獣としての本能は、しかしレモナという存在によって否定されたのだ。



498: ◆BYUt189CYA :2007/12/29(土) 20:35:44.99 ID:8H9+v4j70
己の実力不足が招いた屈辱的な現状。
レモナは歯を噛み、

|゚ノ#^∀^)「だったら足りるようにしてやるわよ!!」

メ(リ゚ ー゚ノリ「っと!」

トリガーを連続で五度引き、装填しているマジックカートリッジ内の魔力を全て刀身へ送る。
濃密な魔力は存在するだけで異変を起こし、キリバの手に襲い掛かった。
思わず手を離した隙に、レモナはバックステップで距離を取る。

メ(リ゚ ー゚ノリ「EMA無しでやる気かよ? そりゃあ無謀以前に論外だ」

|゚ノ#^∀^)「やってみなくちゃ解らないことだってある……! それに――」

カートリッジリロードを行ない、剣を構える。
その切っ先は、僅かにキリバを外れて後方へと向いていた。

|゚ノ#^∀^)「それに私は一人じゃない!
      ここに在るアンタへの敵意を数えてみなさい!!」

メ(リ゚ ー゚ノリ「なにぃ……?」

意識範囲を拡大し、走査。

メ(リ゚ ー゚ノリ「――!」

確かに在った。
レモナの他に、鋭く冷たい殺気が三つ。
それが、いつの間にかキリバを囲うようにして存在していた。



503: ◆BYUt189CYA :2007/12/29(土) 20:37:05.05 ID:8H9+v4j70


(メ,,゚Д゚)*゚ー゚)「「――――」」


左方に見えるはギコとしぃ、そして一般兵が数人。

彼らはギコの両足に負担を与えないためにか両肩を支えて立っている。

その足は太腿部分まで包帯に包まれており、何かで固定されているようにも見える。

疲労による弱体感はあるが、それを尚も叩き伏せる意志が感じられた。




( ゚∀゚)「――――」


右方に見えるはジョルジュ。

両腕からは、それぞれ紫と灰の淡い光を立ち昇らせていた。

表情は空虚に見え、しかし空っぽには到底見えないほど充実している。



510: ◆BYUt189CYA :2007/12/29(土) 20:38:45.86 ID:8H9+v4j70
見た瞬間、全てを察した。

メ(リ゚ ー゚ノリ(なぁるほど……ようやくってところか?)

数々の世界を巡ってきた彼は、この空気を知っていた。
いわゆる火事場の馬鹿力に似た、しかし根本的に異なる力の湧出。
生み出される爆発的な戦闘力は異獣が望むものだった。

キリバ達は、この現象を『覚醒』と呼んでいる。

何か重要なものを失った時。
何か尊いものに気付いた時。
何か大切なものを確認した時。

人間は更なる力を求め、全てのリミッターを解除する。

メ(リ゚ ー゚ノリ(ここからは本腰入れてやらねぇとな……!)

『覚醒』した人間の力は異獣に肉薄し、時に接触すらする。
キリバにとっては遊び甲斐のある敵と化すわけだが、その分だけ本気で掛からねばならない。

だが尚もこのような状況において笑みを浮かべられるのは
彼自身、例え死しても代わりなど掃いて捨てるほど『在る』からだった。



519: ◆BYUt189CYA :2007/12/29(土) 20:40:16.25 ID:8H9+v4j70
だからこその余裕。
キリバなどの別格存在や異獣が何匹殺されようとも本体――つまり『王』からすれば損傷とすら呼べない。
『同属』の中で最も愚鈍で扱い難い存在だが、条件さえ合えば最強に近い力と数を生み出せる能力だからだ。

無論、通常であればこのような軍勢を持つことは不可能である。
気の遠くなるような量の魔力と、神さえ殺しかねない程の奇跡が『異獣』と呼ばれるまでの戦力に仕立て上げたのだ。

それは遠い過去の物語。
現状においてはまったく関係なく、しかし根本に存在する神話レベルの根拠。

(メ,,゚Д゚)*゚ー゚)「「――――」」

(#゚∀゚)「――――」

|゚ノ#^∀^)「――――」

メ(リ゚ ー゚ノリ「…………へぇ」

経緯はどうあれ、もはや言葉は要らないらしい。
キリバを囲うようにして立つ、ギコ、しぃ、ジョルジュ、レモナの殺気は尋常ではない。

おそらくここで勝負が決するだろう、という予感に、キリバは軽く身を震わせた。



524: ◆BYUt189CYA :2007/12/29(土) 20:41:41.31 ID:8H9+v4j70
沈黙に乗って風の音が来る。
冷たい緊張が場を包む。

迂闊には動けない状況に、焦れったい快感を得た。

メ(リ゚ ー゚ノリ「おいおい――」

吐かれる息は生暖かく

メ(リ゚ ー゚ノリ「おいおいおいおいおいおいおい……!」

たまんねぇじゃねぇか、と呟き


メ(リ゚ ー゚ノリ「なぁ!? だったら加減なんかぶっ飛ばしていくぜぇ!?」


獣の咆哮に似た声が、決戦の開始を告げた。



528: ◆BYUt189CYA :2007/12/29(土) 20:42:56.20 ID:8H9+v4j70







ジョルジュは人造人間である。                          ギコとしぃは既に一心同体と化していた。







そして、クルト博士によって生み出された三体の内の一体でもあった。


                                             互いが考えていることなど手に取るように解る。
                                             一種の覚醒状態と言うべきか、
                                             絶対の信頼愛情から生まれる関係の名を『同調』といった。


『完成品』であるハインリッヒ。
『失敗策』であるクー。
『優秀作』であるジョルジュ。


                                             そして、心と直接繋がっているウェポンも
                                             また同じように密接なリンクを行なおうとしていた。



533: ◆BYUt189CYA :2007/12/29(土) 20:43:54.19 ID:8H9+v4j70
これらは三者三様の意味を持っている。


                                             剣と翼。


ハインリッヒは、クルト博士の目的の集大成だ。
すぐそこまで迫っていた異獣を倒すために作られた、対異獣用決戦兵器。


                                             それは、用途も歴史も意味も違う異質なモノ同士。


クーは、その強大な力を持つハインリッヒが悪用された時のための策だ。
彼女の血液はハインリッヒの活動を停止させ、変化した身体を元に戻す作用を持っている。


                                             本来は相成れぬはずの存在は
                                             しかし、ギコとしぃという絶対関係から生まれる力に影響され、
                                             ある一つの形を生み出そうとしていた。



そしてジョルジュ。


                                             剣とは、武器である。
                                             憎むべき相手を切り裂き、殺すための。
                                             護るべき存在の盾となり、生かすための。



536: ◆BYUt189CYA :2007/12/29(土) 20:45:08.01 ID:8H9+v4j70
                                             翼とは、器官である。
                                             持ち主を大空へ舞い上がらせるための。
                                             地を這うことしか出来ない者を空へ送るための。


だが、違うのだ。


                                             生まれた経緯も、用途も異なる二つの武装は
                                             だからこそ互いを支えるために形を成す。


忘れられがちだが、ジョルジュもまた特別な存在。
ハインリッヒやクーと同じ――いや、ある一点をおいてはそれらすら凌駕するスペックを持っているのだ。


                                             それは、二人が互いを求めるかのように。


『彼には複数のウェポンが作られた』とクルト博士の日記にあった通り、彼もまたクルトに愛されていた。
そして、その中の一つである鎖のウェポン『ユストーン』を与えられたと記述されてはいるが、
実は細かいニュアンスが我々と異なっている。


                                             それは、二人が互いを愛するかのように。


ユストーンを与えられた、のではない。
ユストーンしか与えられなかったのだ。



546: ◆BYUt189CYA :2007/12/29(土) 20:46:33.40 ID:8H9+v4j70
                                             ここにきてウェポンは新たな可能性を示す。
                                             擬似精神は術者、そしてパートナーとリンクする、
                                             という三次元接続による合一だ。


こうなると理由など考えるまでもないだろう。
ジョルジュもまた、ハインリッヒと同じように悪用される危険性と能力があったのだ。
その可能性があったからこそユストーンしか与えられず、そして記憶を消されて外界へ放たれた。


                                             二つのウェポンは魔力を通す回路を繋げ、二人の全てを共有する。


つまりジョルジュは――                              つまり二人は――





(#゚∀゚)「おおおおおおぉぉぉぉぉぉぉ……!!」                (#,,゚Д゚)*゚ー゚)「「ああああああぁぁぁぁぁ……!!」」



552: ◆BYUt189CYA :2007/12/29(土) 20:47:56.31 ID:8H9+v4j70
メ(リ゚ ー゚ノリ「これは――コイツらは――」

雄叫びは三つで一つとなる。
それは新たな可能性を示す必殺の言葉。




(#,, Д )* ー )「TWIN――!!」

(# ∀ )「DOUBLE――!!」





(#,,゚Д゚)#゚ー゚)「「「OVER ZENITH!!!」」」(゚∀゚#)






565: ◆BYUt189CYA :2007/12/29(土) 20:49:17.63 ID:8H9+v4j70
魔力の奔流が二本、中心のキリバを境に荒れ狂った。


一方は二人一組の限界突破。
一方は一人二組の限界突破。


名こそ違うが、本質においては同等の力が解放される。

メ(リ゚ ー゚ノリ「……!」

まず青と橙の色が渦を巻いて天へと昇った。
うねり、吼える力は、螺旋を描いて一つとなる。

そして変色。

混ざった色は暗い紫に近い。
しかし決して不吉なものではなかった。
それは、赤い空に抗うかのような清涼さを以って確定される。

(メ,, Д )「…………」

(* ー )「…………」

展開された色が濃縮され、それぞれの武器に宿っていく。

ブラックパープルに染まった巨剣へ。
ブラックパープルに染まった鉄翼へ。



573: ◆BYUt189CYA :2007/12/29(土) 20:50:45.42 ID:8H9+v4j70
メ(リ゚ ー゚ノリ「っ――!?」

光の中から現れた二人の姿は奇異なものであった。

ギコが立っている。
だが、両足を骨折した彼が一人で立てるわけがない。
それを支えるように――姿勢としては羽交い絞めにするようにして、しぃが背後から支えている格好。

(メ,,゚Д゚)「…………」

鉄翼がはためき、その浮力によってギコは地面に立っているように見えるが
実のところ、操り人形のように『浮いて』いるだけであった。

メ(リ゚ ー゚ノリ「ぷっ……はは、ははははははは!!」

そんな、見る人が見れば情けない光景に、キリバは笑い声を止めることをしなかった。

メ(リ゚ ー゚ノリ「ダッセェ! ダセェぞ、おい!!
      男が女に支えられて何やってんだァ!? タマぁ付いてんだろぉ!?」

無論、足を失くして立てる人間などいない。
それを承知しておきながらも、キリバは挑発するように派手に笑った。



585: ◆BYUt189CYA :2007/12/29(土) 20:52:36.18 ID:8H9+v4j70
(メ,, Д )「……しぃ」

軽く俯いたギコは、愛する者の名を呼ぶ。
背を支えてくれる彼女が頷いたのを悟り

(メ,, Д )「俺は、ダサいか?」

(* ー )「……うん」

(メ,, Д )「俺は、かっこ悪いか?」

(* ー )「……うん」

(メ,, Д )「俺は、情けないか?」

(* ー )「……うん」

素直に返事を寄越すしぃに、ギコは俯いたまま、こう言った。


(メ,, Д )「――それでも、良いか?」

(* ー )「……うん!」


力強い返答。
それを聞いて頷いたギコは顔を上げ

(メ,,゚Д゚)「だったら何も気にすることはない……!」



591: ◆BYUt189CYA :2007/12/29(土) 20:54:11.06 ID:8H9+v4j70
しぃの魔力供給で復活したグラニードを構え


(#,,゚Д゚)「たとえダサかろうが、かっこ悪かろうが、そんなもの強さには何の関係ないのだから!
     愛する人が、愛して欲しい人が『良い』と言ってくれるのならば
     俺はどんな格好でも戦い抜いて抗い抜いて――勝ってみせる!
     それが俺達の望む形だッ!!」


応じるように鉄翼が動いた。
以前よりも更に巨大化した骨格は、身を伸ばすようにして面積を広げていく。
ブラックパープルの羽片が、しゃん、という鈴の音に似た音を多量に振り撒いた。


(*゚ー゚)「私はギコ君の全てを認める! 認めて、それを支えてみせる!
     私の身体は、心は―ーいいえ、何もかもがギコ君のために在るから!
     それが私達の望む形よッ!!」


だから、と吼え


(#,,゚Д゚)「依存とは停滞! だが、退化ではない!
     ならば俺はその停滞を足場に昇華し、新しい理屈を証明してみせる!
     準備はいいかキリバ!?
     ここからは不断の猛攻が、止まることを知らずに喰らいつくぞ――!!」



598: ◆BYUt189CYA :2007/12/29(土) 20:55:19.35 ID:8H9+v4j70
ギコはグラニードの切っ先を真上に向け、身を前へ倒す。
地面と平行になった瞬間、しぃの翼がはためき、ギコの身を倒れぬよう浮かす。
がくん、という衝撃に両足が悲鳴を上げるも、ギコは己の歯を砕くほど噛んで耐え切った。

準備完了。
あとは行くだけ。

己の身を剣に見立て、突撃を開始した。

メ(リ゚ ー゚ノリ「なぁる! こりゃあ言うだけあるらしいな!!」

それはキリバが感嘆する程、まさに巨剣というに相応しい合体攻撃だった。

グラニードが『刃』を担当し、ギコの身はそれを支える『樋』。
『鍔』はしぃの翼で、彼女の身は『握り』の役目を果たしている。

二者二具で一つの剣と化し、その巨大な刀身をぶつけんと高速飛翔したのだ。

メ(リ゚ ー゚ノリ「あとは俺を倒すだけってかぁ!?
      だが、それこそが最も困難であると知れよ――!!」

(メ,,゚Д゚)「おおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉッ!!!」

迫る刃の威圧は凄まじい。
流石に受け切れないと判断したか、キリバは回避を試みる。

直上跳躍。

その足下を、剣身と化したギコとしぃが突き抜けていく。



607: ◆BYUt189CYA :2007/12/29(土) 20:56:34.90 ID:8H9+v4j70
メ(リ゚ ー゚ノリ「――ッ!!」

背後で弾ける魔力の波動に、キリバは己の判断の正しさを知った。
あれは容易に防御して良いものではない、と。

メ(リ゚ ー゚ノリ(やっべぇな、ありゃあ……一体どういう仕組みだぁ?
      まぁ、よく解らねぇ方が張り合いがあるっつーもんだが)

確かに攻撃力は信じられない程に高いだろう。
いくらキリバでも、正面から受けてしまえば四肢が断裂させられる。

だが、それ故の弱点を発見した。

圧倒的な突撃力を保有するため、その攻撃は直線のみに絞られる点だ。
しかも一度回避してしまえば、隙だらけな背後を追撃出来るようになっていた。

メ(リ゚ ー゚ノリ「世の中、上手く回るように出来てンねぇ!
      根拠のある無敵なんか存在しないってか!?」

ならば話は早い。
身を空中で回転させ、飛び去っていくギコ達を見据える。
ここからならば右腕から出す光弾で狙える距離だ。

だから、撃――

メ(リ;゚ ー゚ノリ「うおっ!!?」

鋭い音がキリバの周囲で響いたのは、右腕を構え終える直前。
警戒する彼の四肢に、いきなり鎖が絡みついた。



614: ◆BYUt189CYA :2007/12/29(土) 20:57:50.82 ID:8H9+v4j70
メ(リ;゚ ー゚ノリ「なんだぁ? どっから出てきやがった!?」

見れば奇怪なことに、合計四本の鎖の出元はバラバラであった。
というのも、四方の空間を割るように、まるで四次元から出現したかのように伸びているのだ。

メ(リ;゚ ー゚ノリ(こりゃあ空間跳躍を利用した攻撃!? んなアホな!
       一体誰が……まさか秩序守護者か!?)

空間を操作することなど普通の魔力では不可能である。
魔力とはあくまで物理法則を書き換えるだけの力で、超常現象を起こすものではない。
ここで言う超常現象とは、時間や空間、存在等の形を持たぬ『概念』に干渉する術を言う。

そんなことが出来るのは『同属』か、『秩序守護者』だけであるはずなのだが――

メ(リ;゚ ー゚ノリ(だが事実……! だったら原因解明よりも対処が先!!)

締め上げる鎖を、纏う魔力に任せて引き千切ろうと踏ん張る。
ばきり、という音を立てて粉砕されたそれは、逃げるようにして空間の割れ目に消えていった。

メ(リ゚ ー゚ノリ「誰だぁ! こんな妙なことをしやがるのはよぉ!!」

既にギコとしぃは遠くへ行ってしまっていた。
身体を地上へ落としながら見る。

両腕を広げ、蛇使いのようにして鎖を操る男を。



619: ◆BYUt189CYA :2007/12/29(土) 20:59:34.78 ID:8H9+v4j70
(#゚∀゚)「残念だが自業自得だぜッ!
     俺達を怒らせたテメェが悪いんだからな!!」

メ(リ゚ ー゚ノリ「ハっ! テメェか!
      不怒不奮の戦いなんぞ何も楽しくねぇよ!」

言いつつ、キリバはジョルジュを最初のターゲットに見定めた。
ギコとしぃのコンビは確かに脅威ではあるが、見切りに徹すれば問題は少ない。
それよりも、動きを一瞬でも阻害するジョルジュの方が危険と見たのだ。

落下する中、身体を巧みに操作して標的へ向かい始める。

(#゚∀゚)「だったら欲に塗れて死にやがれ!!」

ジョルジュが両腕を勢い良く振った。
右方に浮かぶ二本の鎖が反応する。
一瞬だけ溜めの動きを為し、撃ち出すようにして走った次の瞬間、

メ(リ゚ ー゚ノリ「やっぱ消えたか……!」

命を持ったかのような動きを見せた鎖は、しかしキリバの下へ向かう途中で姿を消す。

単純な透明化ではない。
空間の一部に穴を開け、その中に飛び込んでいったのだ。

(#゚∀゚)「さぁ、どこから来るか御楽しみってヤツだ!」

メ(リ゚ ー゚ノリ「攻撃命中の逆転と、自律する鎖の合わせ技……それを限界突破で更に高めやがったか!」



626: ◆BYUt189CYA :2007/12/29(土) 21:00:56.52 ID:8H9+v4j70
成程、これならば空間跳躍にも似た効果に納得だ。

限界突破とは、文字通り限界を超える意味を持つ。

そこに立ちはだかる壁があるならば、本人の意思次第でいくらでもぶち抜くことが出来るだろう。
特に指輪を二つ――しかも同時に限界突破するならば、超えられる壁の種類は乗算して通常の何倍にも膨れ上がる。

メ(リ゚ ー゚ノリ(だが真の脅威は、それを為したアイツ自身……!!)

普通の人間ならば、流れ込んでくる情報量・魔力の循環に身体と精神が耐え切れず、
発狂するか身体自体が破裂するかの二択となるだろう。

ジョルジュは、それに耐え切った。

怒りによるものか、それとも最初から持っていた力なのかは解らないが
今のジョルジュのキャパシティは、キリバや秩序守護者に匹敵するレベルかもしれない。

メ(リ#゚ ー゚ノリ「だったら――だったら正面から迎えてやるしかねぇだろうよっ!!」

放たれた言葉はキリバ流の礼儀を表していた。
如何なる敵であろうとも、真正面からぶつかって打ち破る。

それが、生前から続く唯一無二の戦い方だった。



635: ◆BYUt189CYA :2007/12/29(土) 21:02:25.91 ID:8H9+v4j70
音を立てて鎖が来る。

一本目はキリバの真後ろから。
気配のみで察した彼は、胴体を絡みとろうとする鎖を右腕で弾き飛ばした。

二本目は、その隙を突くように右方から。
無防備な脇腹にユストーンが迫った。

メ(リ#゚ ー゚ノリ「ッ、この、ヤロウ!!」

回避不可能だったはずの軌道は、しかし振り上げられた膝によって阻まれる。
不安定な姿勢のまま、空中で身を縦に回したのだ。
それを為したのは、彼の両足を構成する機械脚部で

メ(リ#゚ ー゚ノリ「名付けて『四肢機装』……!
       俺には人間みてぇな脆弱性なんかこれっぽっちもねぇぞ!」

蹴り上げた勢いを利用し、更に加速してジョルジュへと迫った。

(#゚∀゚)「こンのデタラメ野郎が!!」

今度は左に待機していた二本の鎖が動き始める。



641: ◆BYUt189CYA :2007/12/29(土) 21:04:01.89 ID:8H9+v4j70
メ(リ゚ ー゚ノリ「だがっ――」

致命的に遅い。
ルールを課しているのか解らないが、あの鎖は必ず空間跳躍を行なわないとならないらしい。
現に今、むしろ遠回りになる距離のはずなのに、放たれたユストーンは空間に消えていく。

メ(リ#゚ ー゚ノリ「この距離なら間に合うんだよォォォ!!」

次に現れる頃には、既にキリバの攻撃がジョルジュを貫いているだろう。

(;゚∀゚)「しまっ――」

まだ操り慣れていなかったのか、キリバよりも若干遅く事実に気付くジョルジュ。
慌てて鎖を追加しようとするが、全てが遅い。

メ(リ#゚ ー゚ノリ「もらったぜ! 脳髄をぶちm――」

『――やってみなくちゃ解らないことだってあるんだからァァァァ!!』

だが、キリバも目論見はレモナの声に外されることとなる。
あと一秒もあれば、というタイミングで青色が割り込んできたのだ。

メ(リ;゚ ー゚ノリ「テメェ、いつの間に……くそったれが!!」

当然、繰り出していたキリバの拳は止まることなく、リベリオンの腹部装甲へ直撃する。

『っきゃああああっ!!?』

あまりの衝撃に、白い波動が花火のように咲く。
真横から飛び込んできた勢いと、正面からの攻撃の勢いで、EMAという巨大質量は斜め方向へと吹っ飛んでいった。



650: ◆BYUt189CYA :2007/12/29(土) 21:06:38.01 ID:8H9+v4j70
(;゚∀゚)「た、助かったぜレモナ!」

お陰で、真後ろにいたジョルジュは何とか事無きを得る。

メ(リ#゚ ー゚ノリ「ちィィ……良い感じで苛立たせてくれる!
       だが、もう一撃を繰り出せりゃそれで終わりなんだよ!!」

リベリオンを打ち抜いた反動からか、未だキリバの身は空中にある。
姿勢を正した彼はジョルジュへ再撃するために構え

(#゚∀゚)「後ろ見てみろよマヌケが……!」

しかしジョルジュの憎たらしい声が、判断の過ちを知らせた。

(#,,゚Д゚)「そこだああああぁぁぁぁ!!!」

メ(リ;゚ ー゚ノリ「ぐっ――おおおおおおぉぉぉぉぉ!!?」

背後から強烈な震動。
背骨どころか全身が粉砕しそうな程の衝撃だ。
一気に身を仰け反らせたキリバは、尚も押し行く敵の名を叫んだ。

メ(リ;゚ ー゚ノリ「テメェェェェギコオオオオオオオオ!!」

大きくターンして返ってきたギコの剣が、最大戦速の突撃を以ってキリバを襲ったのだ。



656: ◆BYUt189CYA :2007/12/29(土) 21:08:14.24 ID:8H9+v4j70
(#,,゚Д゚)「その名で俺を呼ぶな……!
     貴様が言って良いほど安くはない!!」

メ(リ; ーノリ「ッッっぐぅぅぁあああ!?」

更なる衝撃と共に断ち切られた。
背中から脇腹へ貫通した刃が、筋肉や骨を容易く削いていく。

ぶちぶち、と音立てて肉片が散り、キリバはきりもみしながら大地へと墜落した。






|゚ノ;^∀^)「やっ、た……?」

その様子を、レモナは少し離れた場所で見ていた。
キリバに吹き飛ばされた衝撃で頭を打った彼女の額には、一筋の血が流れている。
だが、それでもレモナはメインカメラ越しに現状を凝視した。

――絶好のチャンスだ。

|゚ノ;^∀^)「私が……その好機を呼び寄せた……」

無我夢中だった。
ただ、自分にも何かが出来るのだ、と証明したかっただけ。
結果的にジョルジュを護れたことに、レモナは小さな笑みを浮かべる。



662: ◆BYUt189CYA :2007/12/29(土) 21:09:23.35 ID:8H9+v4j70
と、その時。

|゚ノ;^∀^)「え……?」

聞いたこともない電子音がレモナの耳に届いた。
吐きそうになるほどの気持ち悪さを訴える頭を軽く振り、サブウインドウへ目を向ける。
どうやらウェポンパネルの一部が点灯しているらしい。

|゚ノ;^∀^)「え、で、でもこれって――」

それを見たレモナの目が大きく開かれる。
同時、ギコとしぃが決戦を制するための一撃を繰り出す様子がウインドウに映し出された。


――それがとても儚いものに見えたのは、果たして錯覚なのか。


嫌な予感という信憑性の薄い直感は、

|゚ノ;^∀^)「駄目……それじゃあ足りない……!」

しかし何故か、絶対に信じるべきだと思えてしまった。



669: ◆BYUt189CYA :2007/12/29(土) 21:10:35.94 ID:8H9+v4j70
(#゚∀゚)「おおっしゃ! やっちまえ!!」

(#,,゚Д゚)「言われなくとも……しぃ! トドメを刺すぞ!」

(*゚ー゚)「うん!」

空を走る巨剣は、緩い半円を描いて上昇する。
そのままキリバが落ちた地点の真上へと位置取り、切っ先を下方へ向け

(*゚ー゚)「細かい調整は任せて! ギコ君は力を込めるだけに集中を!」

(#,,゚Д゚)「これで終わりだキリバ――!!」

紫色の翼で空を打ち、高速の急降下を敢行した。

直滑降する光。
切り裂かれる風。
そして響く大音。

まさに雷撃のような速度を以って、巨大な剣が大地へと突き刺さる。



676: ◆BYUt189CYA :2007/12/29(土) 21:11:43.22 ID:8H9+v4j70
(#,,゚Д゚)「ッ!?」

だが、

メ(リ#゚∀゚ノリ「ふは……ふひゃはははははは!!!」

その切っ先ですら貫けない存在がいた。
仰向けになっているキリバが、その四肢でグラニードを受け止めているのだ。

強大な魔力同士がぶつかり合う。
火花に似た光が連続で散っている。
ギコもしぃも、手加減無しの全力だ。

しかし、それでもキリバは折れなかった。

メ(リ#゚∀゚ノリ「惜しいッ! 惜しかったぜ御二人さんよぉおおお!!」

既に左右の機械腕は半壊状態で、それらを統括するキリバ自身も多量に軋んでいた。
内臓にもダメージがあるのか、口端から血筋を描いていている。

(;,,゚Д゚)「だが、貫けないとでも言うのか……!?」



683: ◆BYUt189CYA :2007/12/29(土) 21:13:05.73 ID:8H9+v4j70
メ(リ#゚∀゚ノリ「異獣を嘗めてもらっちゃ困るんだよ!!」

(;,,゚Д゚)「うあああっ!?」

(;*゚ー゚)「きゃあああ!?」

下へ押さえつける力が上へ抵抗する力に弾かれる。
ここまできておきながら、尚もキリバの方が強かったのだ。
フォームを乱したギコとしぃは、溜まりに溜まった魔力の奔流に吹き飛ばされてしまう。



(;゚∀゚)「ア、アイツら――やっべぇ!!」

あのままでは地面に激突してしまう。
そう思い、二人を助けるためユストーンを使おうとした時、

『待って! 貴方も一緒に行くのよ!
 決着の空に! 勝利を得るために――!!』

(;゚∀゚)「え……って、うぉおぉぉおお!?」

青い大きな影が、ジョルジュの身体を掬い取った。



688: ◆BYUt189CYA :2007/12/29(土) 21:14:07.19 ID:8H9+v4j70
(;,,゚Д゚)「しぃ!!」

上空へ打ち上げられたギコは、己の身体よりもまず彼女を心配した。

無造作に振り回される両足の痛みに気が触れそうだった。
しかし、それよりも彼女を見失う方がきっと、派手に狂ってしまうだろう。

(;*゚ー゚)「ギコ君!」

いた。
ギコよりも高い位置で、どうにかして姿勢を戻そうとしている。
その度に翼がはためき、キラキラと光る羽片を散らす。

(;,,゚Д゚)「くっ……」

身体はまだ上昇してはいるが、じきに頂点へと達し、そのまま重力に従って落ちていくだろう。
翼を持つしぃならば充分に離脱は可能だろうが、対する自分は何も出来ずに落下するだけだ。
この高さならば、まず苦しまずに死ねると思える。

(メ,,゚Д゚)(だが――)

それでは、しぃが悲しんでしまう。
いくら何でもこれだけは許容することが出来ない。
会えなくなるのも嫌だろうし、彼女が泣くのも絶対に嫌だった。


どうにしかして生きる。


絶対に、もう二度としぃを悲しませないために。



697: ◆BYUt189CYA :2007/12/29(土) 21:15:18.23 ID:8H9+v4j70
(メ,,゚Д゚)「グラニード……これが最後でいい、俺の我が儘を聞いてくれ!」

しぃとの接触を失ってしまったためか、武器としての姿を失った指輪に呼び掛ける。
反応を示すように青い光を明滅させるが、望む力は得られない。
無理な行使が続いたせいで自己修復さえも追いついていないのだろう。

(メ,,゚Д゚)「頼む――!!」

それでも無理を承知で言う。
こんなところで死ぬわけにはいかないのだ。

【――!】

無論、グラニードから応えようとする意志は感じられるが、しかし結果が現れることはない。


浮力を失っていく身体。
湧き上がる焦りと絶望。
無力感が脳と心を侵す。


右手に見えるは、小さな青色。
長年苦楽を共にした相棒が、ギコを生かすために力を生み出そうとしている。

ここで応えねば、いつ応えるのだ、と。

憤慨にも似た剣の意思が頭の中を駆け巡る。



700: ◆BYUt189CYA :2007/12/29(土) 21:16:37.19 ID:8H9+v4j70
だが、現状は変わらない。
もはや武器としての形状すら保てない1st−Wに
ギコの望みを叶えてやれるほどの力など残っていないのだ。

それでも、しかし、それでも。

(メ,,゚Д゚)(ほんの少しでもいい……グラニードに力を……)

無いものをねだる姿など滑稽の一言ではあるが、今の彼に形振り構う余裕はない。
故に心から求めた。



――無様な相棒である俺の代わりに、誰かグラニードへ手を貸してやってくれ。



その瞬間だった。

(メ,,゚Д゚)「!?」

応じるように音が来る。
ほぼ真下から、突き上げてくるような気配。

見れば、己の右手に宿る青とは比較にならないほどの大きな青が迫ってきていた。



711: ◆BYUt189CYA :2007/12/29(土) 21:18:03.65 ID:8H9+v4j70
(;,,゚Д゚)「あれはEMA!? リベリオンか!?」

ギコの声の色に確定はなく、代わりに疑問が濃く入っている。

それもそのはず。
見開かれたギコの目が示す先には、こちらに向かって上昇する青色の機械。
せめて人型であれば疑問符は付かなかったのだが、その形はどう見ても人には見えない。
ぱっと見、サーフボードのような形として認識出来るような奇怪な形状である。

( ;∀;)「のわあああぁぁぁぁ! あ、あああ安全運転希望――!!」

そしてその上部に、半泣きのジョルジュがしがみ付いていた。
どうすれば良いのか迷うギコの耳に、導きの声が飛んでくる。

『何とか乗って! これで本当に終わらせるから!!』

(;,,゚Д゚)「レモナか!? それは一体何のつもりだ!?」

『いいから! 私の出した「応え」を信じて!!』

鬼気迫るレモナの声に何かを感じ取ったのか、ギコは覚悟を決めた。
藁にもすがる思いで手を伸ばし

(メ,,゚Д゚)「それでどうにかなるというのならば……!」

ロケットのような勢いで上昇するリベリオンの装甲板の端を、しっかりと掴んだ。



719: ◆BYUt189CYA :2007/12/29(土) 21:19:21.30 ID:8H9+v4j70
リベリオンが纏っている魔力の御陰か思った以上の衝撃は無い。
それでも震動によって痛む両足があるが、今はどうでも良かった。

( ;∀;)「ギコかぁ!? おい、これどうなってんだよ!!」

(;,,゚Д゚)「お、俺が知るか!
     だがレモナに何か考えが――」

言いかけた次の瞬間、上を目指していたリベリオンが急停止を掛ける。

(メ,,゚Д゚)「「え」」(゚∀゚ )

当然、しがみ付いていたギコとジョルジュに抵抗する術はなく

「「――――ッ!!?」」

そのまま、射出されるようにして飛び出してしまう。

( ;∀;)「GYAAAAAAA!!」

(;,,゚Д゚)「くっ……! 何がどうなって――!?」

レモナのしたいことがまったく解らないまま、打ち上げられる二人。
更に高度が上がったことにより、墜落時の死亡確率はほぼ100%となってしまう。
しかし、回転する視界の中、

(;*゚ー゚)「ギコ君!!」

こちらに向かってくるしぃの姿を捉えた時、ギコは全てを理解した。



730: ◆BYUt189CYA :2007/12/29(土) 21:21:01.55 ID:8H9+v4j70
(;,,゚Д゚)「随分と無茶をする娘だな……死んだらどうするつもりだ……!」

(;*゚ー゚)「キャ、キャッチ!」

背後から抱き上げられるような形でホールド。
再び一つとなった二人は、すぐさまウェポン同士を接続させる。
しぃの羽の色が変わったのを確認し、ギコも黒紫に染まるグラニードを開放した。

眼下を見る。

ギコとしぃの作り出したクレーターから這い出したキリバが
獣特有の獰猛な笑みを浮かべ、こちらを見上げていた。

(メ,,゚Д゚)「また、あの一撃を見舞うか?」

(;*゚ー゚)「で、でも、また防がれたら……」

(メ,,゚Д゚)「どうやらこちらの出力不足らしいな。 まったく化物め……。
     二人分の限界突破でさえ足りないとなれば――」

『――私がいる!!』

轟、という風を巻く音。
二人の傍を、巨大な青が走る。



737: ◆BYUt189CYA :2007/12/29(土) 21:22:26.16 ID:8H9+v4j70
『リベリオンに隠されていた第四武装!
 これと貴方達の技を組み合わせれば、きっとアイツだって倒せるはず!』

言われ、ようやく合点がいった。

(;,,゚Д゚)「まさかお前、その形は――!」

それはサーフボードなどではない。
ギコにとって、もっと身近にある存在。

(;*゚ー゚)「大きな、剣……!」

全長十メートルクラスの、それこそ巨大な刀身だったのだ。

『元々はコンビネーションシステムらしいんだけどね!
 リベリオンが剣となり、ウルグルフがそれを振り回すっていう!
 でも、使い方は一つじゃないってことよ!!』

(メ,,゚Д゚)「いいのか、俺が扱っても!?」

『扱いに理由や過去なんか顧みない! 私は結果に意味と未来を求めるわ!
 彼らだってきっとそう言うはず! だから――』

(メ,,゚Д゚)「ふン、ならば遠慮なく使わせてもらおう……!」

(*゚ー゚)「位置調整とタイミングは私に任せて!」



744: ◆BYUt189CYA :2007/12/29(土) 21:23:46.91 ID:8H9+v4j70
羽ばたき一つでリベリオンの後方に向かう。
その間にギコは己の相棒を掲げ、

(メ,,゚Д゚)「グラニード! 最後の大仕事だ!!」

その切っ先を、青色の巨大な刀身の根元に突き刺した。

荒れ狂う不可視の奔流。
合致を確定するため、双方に多量の魔力が流れ込んだのだ。

(;*゚ー゚)「くぅぅ……!!」

グラニードだけでは処理し切れない力を、レードラークが補っていく。
元々、為されるとは考えられもしなかった行為だ。
限界突破の効果で無理矢理に合わせようとはするが、その処理に時間が掛かるのは仕方ない。

だが、それを悠々と待つ敵などいなかった。

『!? 反応……! 下から来るわ!』

メ(リ#゚∀゚ノリ「さぁさぁさぁさぁああ!! 今度は何をしてくれようってんだぁぁぁああ!!?」

四肢から火花を散らしつつも脚部の動力を使って飛翔してくるキリバ。
既に正気を失っているらしく、見開いた目を真っ赤に充血させ、
限界まで開いた口を笑みとして迫ってくる。

メ(リ#゚∀゚ノリ「今度は本気で抵抗させてもらうぜ!
       そうそう好き勝手やられるほどマゾじゃねぇんでなぁああ!!」



756: ◆BYUt189CYA :2007/12/29(土) 21:25:17.47 ID:8H9+v4j70
(メ,,゚Д゚)「ちィ……レモナ! 間に合わんか!?」

『あとちょっとなのに……!!』

メ(リ#゚∀゚ノリ「まずはテメェから殺してやるよギコォォォォ!!」

(;,,゚Д゚)「ここまで来て――!!」

もはや目前まで迫る異獣に、思わず目を瞑りそうになった時、

メ(リ;゚∀゚ノリ「――っがぁ!?」

その全身に、合計十本もの鎖が絡みついたのを見る。
四肢はおろか腰や首に至るまで縛り付けられたキリバは、完全に身動きを封じられた。
それぞれの鎖の出所は、やはり空間を割いているようだった。

(#゚∀゚)「諦めンのがちょっと早くねぇかぁ!?」

(;,,゚Д゚)「ジョルジュか!!」

(#゚∀゚)「最後の最後まで役に立ちませんでした、じゃアイツに顔向け出来ねぇしな!
     だったら意地ってもんを見せてやろうじゃねぇかぁぁああ!!」

刀身と化したリベリオンの切っ先に、いつの間にか立っていたジョルジュ。
五指を広げ、束縛する鎖に魔力を注ぎ込み続ける。

先ほどまでのものとは比較にならないほどの力強さだ。



770: ◆BYUt189CYA :2007/12/29(土) 21:27:11.80 ID:8H9+v4j70
メ(リ#゚∀゚ノリ「テメェ、まだこんな力を隠し持っていたってのか!?」

(#゚∀゚)「自分でも知らなかったんだがな!
     んでもって、わざわざ引っ張り出してくれたのはテメェだ!!」

メ(リ#゚∀゚ノリ「余計なモンまで目覚めさせちまったかよ……!
       だが、こんなものぉぉぉお!!」

己の身体すら省みずに脱出を図ろうとするキリバ。
彼の持つ狂気じみた力と、限界を超えたユストーンが、全力を以ってぶつかり合った。
しかし、

(;゚∀゚)「ってぇぇぇ!?」

信じられぬことに、この状況下においても尚、上回っていたのはキリバだった。

ばき、と一本一本千切れていく鎖。
その度に同じ音を立て、力を込めている指が折れ砕ける。

(# ∀ )「……ッ、けど、けどよぉ――」

しかし、ジョルジュは諦めない。
むしろ追い詰められていくと同時に、歯を剥いて唸り声を上げる。
それは心の底からの抗いを表現していた。

(#゚∀゚)「帰るって決めたんだ……やっと居場所が掴めそうなんだ……!
      だから俺は絶対に勝つんだよ!!」



783: ◆BYUt189CYA :2007/12/29(土) 21:28:39.06 ID:8H9+v4j70
メ(リ#゚∀゚ノリ「望みだけで勝てると思えるんならテメェは欠陥品だぜ――!!」

(#゚∀゚)「ッ……」

メ(リ#゚∀゚ノリ「今もこうして、テメェの望みとやらは一本ずつ引き千切られてらぁ!
       全ては力の前に平伏すだけの夢想だ! クソの役にも立ちはしねぇ!」

思うだけなら誰にだって出来る。
願うだけなら誰にだって出来る。
望むだけなら誰にだって出来る。

容易く出来るからこそ、それは脆く、儚いもの。
しかも現実とは残酷なもので、実際に叶えられる者など稀有に等しい。
叶わぬ理想なんか無駄だと、初めから希望を持たない者すらいる。

(#゚∀゚)「けど――!」

だからと言って諦めるのが正しいとは思えない。
それを追い掛け求めた過程が、無駄だとは言われたくない。
望む結果が来ないのならば――

(#゚∀゚)「思うだけじゃねぇ……!
      望んだ結果なんか、ちゃんと自力で引き寄せてやる!
      それが、それが人間として生きるってことなんだよ……!!」

メ(リ#゚∀゚ノリ「っは――つまらねぇな!!」

悲痛とも言える叫びに、キリバは更に笑みを歪めた。
敵の能力を封じるのならば心を折る方が早い。
このまま反論していけば、全ての鎖を千切るまでもなく――



790: ◆BYUt189CYA :2007/12/29(土) 21:30:11.62 ID:8H9+v4j70
(メ,,゚Д゚)「――よく言った、ジョルジュ」

(#゚∀゚)「え……」

メ(リ#゚∀゚ノリ「なっ……」

しかしその前に、キリバは己の背筋が冷えるのを自覚してしまった。

(メ,,゚Д゚)「これで終わりにするぞ……!」


そこにそびえているのは巨大な剣。
青色の機械刀身が魔力の渦を掻き集め、切っ先を天へ向けて立っている。


メ(リ ゚∀゚ノリ「こりゃあ――」

駄目だ、と本能的に思う。

受け止められるレベルではないし、逃げられる余地も残されていない。
全力でガードすることにより即死か苦死かだけを選べそうな、そんな威圧感を得てしまった。

この時点で状況は敗北。
精神の方などは完敗を喫している。

恐ろしくて恐ろしくて、逆に笑い転げてしまいそうだった。



799: ◆BYUt189CYA :2007/12/29(土) 21:31:44.80 ID:8H9+v4j70
(メ,,゚Д゚)「貴様は確かに強い」

圧倒的な力を持つ剣を右手で支えていたギコは、静かに言い放ち

(メ,,゚Д゚)「だが、それだけだったんだ」

無情にも、その巨大な刃を振り下ろした。


メ(リ ゚∀゚ノリ「は、はは、ははははははは」

迫る。
切断するためだけの武装が、もはや逃げられぬタイミングで。

メ(リ;゚∀゚ノリ「ははははははははははははははははははははははははは――」

全てが終わると悟ったキリバは、今までの中で一番嬉しそうな笑みを浮かべ




メ(リ゚ ー゚ノリ「――最ッ高だわ、テメェら」




その顔面ごと、真っ二つに断ち切られた。



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