( ^ω^)ブーンと川 ゚ -゚)クーは抗い護るようです

7: ◆BYUt189CYA :2008/01/30(水) 19:38:29.82 ID:6/Vur52L0
西の戦場に降り立った影は、銀の色を放っていた。

从ξ゚ -゚ノリ「…………」

それは疑いの声を受ける人物。
前髪の一房を金に染めた彼女は、無という感情を振りまいて立つ。

「あ、あれは――」

硬い唾を呑み込んだ一人の兵が、そう呟く。
西のメンバーにおいて銀髪の彼女に由縁を持っていると思われる人物は多い。
いや、それを差し引いても、人員の大半が彼女に様々な興味と恐怖を抱いていた。

未だ不明な正体は何なのか、と。
そして、もし最悪の結果だった場合、自分達は一体どうすれば良いのか、と。

从ξ゚ -゚ノリ「…………」

しかし、彼女からは何も語ろうとしない。

ミ,,"Д゚彡「……御嬢様」

('A`)「…………」

そして、相対するように視線を向ける二人も同様だった。


    第四十九話 『四方決戦 Ver/West 【Turning point of Moment】』



9: ◆BYUt189CYA :2008/01/30(水) 19:40:32.59 ID:6/Vur52L0
対応する二人と、現れた一人の関係は一言で片付けられる。

一方は、主従。
一方は、友人。

言葉こそありふれたものではあるが、
その内容の云々など、ここまで物語について来てくれた読者には言うまでもないかもしれない。

一人は親愛を示し、一人は真愛を示している。

前者は主人として、後者は女性として、彼女に想いを持っていた。
難儀な気概を持つ彼女は、その想いを真正面からは受け取ることをしなかった。
ただ、何度も向かい来る感情に対し『少しだけ応えてみようか』などと思っていた矢先に、

从ξ゚ -゚ノリ「――――」

まさか、こんなことになろうとは誰が予想しただろうか。

だがしかし、と思う声もある。
彼女が彼女であるという証拠は、まだないはずだ、と。
確かめるべきは、最も縁の深い――

ミ;,,"Д゚彡「……っ」

フサギコの役目だと、皆が思っていた。
その声無き声を背に感じたのか、代表するように彼は一歩踏み出す。

ミ,,"Д゚彡「――貴女は、私の知る御嬢様なのですか?」



11: ◆BYUt189CYA :2008/01/30(水) 19:42:26.72 ID:6/Vur52L0
放たれた言葉は一縷の望みを表していた。
仮に彼女がツンではないとすれば、それこそ全力を以って打ち倒すことが出来るからだ。

しかしそれは逆に、ツンという存在が既に無いという証明にも繋がってしまう。

要するに、どちらに転んでもフサギコからすれば複雑な状況が待っているのだが
ならばいっそ、という気持ちが決して無いわけではなかった。

だが、それを感情が許さないのも事実である。
故に目の前の彼女がツン本人である方を、フサギコは無意識に望んでいた。

从ξ゚ -゚ノリ「…………」

反応と呼べる動作はない。
虚ろな目で、警戒の姿勢をとる西軍の面々を見渡している。
少し離れた正面に立つフサギコなど、見えていないかのようだった。

( ´_ゝ`)「さて、どーっすっかねコレ」

(´<_` )「俺達はリーダーの意見に従うが」

ミ,,"Д゚彡「……結論を出すには情報が足りません。
      彼女が無事なのか否か、あの女性が御嬢様なのか。
      せめて、それだけでも知りたい」

( ´_ゝ`)「だなぁ。 もし仮に彼女がツンちゃんであったとして、それに気付けないでフルボッコじゃ色々とまずい。
     倫理的な意味でも感情的な意味でも」



12: ◆BYUt189CYA :2008/01/30(水) 19:43:51.86 ID:6/Vur52L0
軽く放たれた言葉に、フサギコは少し鋭い視線を向ける。
兄者は肩をすくめ、

( ´_ゝ`)「悪いな。 けど事実だろ」

ミ,,"Д゚彡「…………」

(´<_` )「別に『俺達は関係ない』なんて言うつもりはないさ。
     出来る限りサポートするし、助けたいとも思ってる」

任せろ、と言うように、双子の兄弟はそれぞれの武器を掲げて見せた。

ミ,,"Д゚彡「……感謝します。
      けれど、まずは助けられるか否かの確認が先です。
      それまで勝手な行動は控えて下さい」

( ´_ゝ`)「OK。 アンタの拳は痛そうだしな」

('、`*川「――そんな時間があれば良いんだけど」

声を割り込ませたのは、その間に一度たりとも銀髪の女から目を離していないペニサスだ。
既に軽い戦闘体勢に入っている彼女は、誰ともなく呟く。

('、`*川「向こうは俄然ヤる気みたいよ?」



14: ◆BYUt189CYA :2008/01/30(水) 19:45:13.00 ID:6/Vur52L0
从ξ゚ -゚ノリ「…………」

一歩、また一歩。
力無く不気味に近寄って来る姿はゾンビを連想させる。

しかし手に持つ黒い大鎌が、歩く死体などではなく死神だと如実に物語っていた。

('、`*川「答えを出したいなら勝手になさい。
     ただし、このままだと確実に全滅するから――」

ミ;,,"Д゚彡「ですが――!」

('、`*川「人の話は最後まで聞きなさい」

遮るように言い、

('、`*川「何もしないままだと全滅するから、とりあえず戦う。
     ただ、倒されないギリギリを見極めて時間を稼ぐ感じで。
     解らないのに答えを決めちゃうのは辛いのは、私も知ってるから」

思いがけない提案であった。
そして、ありがたい理解の言葉でもあった。

彼女は英雄である。
性格や所属から勘案して、問答無用で敵を屠ることを第一に考えるかと思っていたのだが
そこまでの制御出来ない闘争心を持っているわけではないらしい。



15: ◆BYUt189CYA :2008/01/30(水) 19:46:43.92 ID:6/Vur52L0
('、`*川「ただし同時に彼女を倒すための準備も進めるよう指示する。
     もし駄目だった場合、速攻でケリを着けたいからね」

つまり、一緒に戦っても良い、と。
少しの時間なら稼いでやるから、その間に呼び掛けてみて判断しろ、と。
彼女はそう言っているのだ。

ミ;,,"Д゚彡「あ、ありがとうございます!」

('、`*川「ま、私だってハッピーエンドが好きだもの。
     そのための努力なら、ちょっとくらいやっちゃってもいいかなってさ
     ただし足を引っ張るのは無しよ」

言い切ったペニサスが歩き出す。
背後からフサギコがついて来るのを感じながら、敵を見る。

从ξ゚ -゚ノリ「…………」

身体が向いた先には、正体不明の死神が一人。

ペニサスの闘気を感じ取ったのか足を止め、鎌を抱き締めるようにして構えた。



17: ◆BYUt189CYA :2008/01/30(水) 19:48:09.12 ID:6/Vur52L0
('、`*川(さて、とりあえずどうしましょーかね)

戦いとは読み合いの応酬でもある。
事前に気配を読み取り、敵の強さを推し量り、対応すべき行動を考える。
それを実行に移し、実際得た情報との差異を調整しつつ、相手に勝てる動きを目指すのだ。

そして、対峙してみて初めて解ることもある。

('、`*川(うっわー……)

まず感じ取れた事実は、絶望的なまでに隙がないという点。
というよりも気配そのものがない。
気配が無ければ、相手の動きの予兆を感じることが出来ない。

ペニサス程のレベルの強者になれば、相手の動きを先読みすることを前提として戦闘が展開される。
莫大な経験によってはじき出される直感により、数手先を考えつつ動くのが基本だ。
だが、そこに気配がない敵が出てくればどうなるか。

从ξ゚ -゚ノリ「――――」

('、`*川(やり難そうな相手だなぁ。
     こりゃ、もしかするともしかするかも解らんね)

ミ;,,"Д゚彡「御嬢様……!」

銀髪の女が身を揺らす。
沿うように大鎌が地面と水平に構えられる。

それを睨みつつ、ペニサスは遺書を書いてこなかったことを少し後悔した。



20: ◆BYUt189CYA :2008/01/30(水) 19:49:36.19 ID:6/Vur52L0
今までで最高潮の緊張が走る西の戦場。

中心はペニサスとフサギコ、そして銀髪の女で、緊張の根源もそこだ。
そこから少し離れた場所で皆が動向を見守っている。

更には、

( ´_ゝ`)「さて、俺らは……」

(´<_` )「うむ、不本意ではあるが準備を進めよう」

双子が顔を見合せ、それぞれの指輪を掲げた。

( ´_ゝ`)「もしあの女がツンちゃんじゃなかったり、ツンちゃんであっても助けられないと確定した時。
     フサギコさんの代わりに俺達が手を下さなきゃならん」

(´<_` )「だが、彼女ほどの存在を倒すには強力な攻撃が必要だ」

( ´_ゝ`)「だから俺がそれを作り上げる」

(´<_` )「そして俺がそれを守り通す」



23: ◆BYUt189CYA :2008/01/30(水) 19:50:55.73 ID:6/Vur52L0
頷いた二人は足を数歩後ろへ下げた。

適度な間合いを得た弟は銀髪の女へ、つまり兄と同じ方向を向く。
そのまま12th−W『ジゴミル』を解放する。

(´<_` )「さぁ、ここが正念場というモノだな。
     ジゴミル……頼むぞ」

対し、兄者も4th−W『アーウィン』を解放した。
右手に重さが現れ、そして光の線が四角の形を描き、本という存在を確定する。

( ´_ゝ`)「今日の俺は一味違うぞ。
     ようやく本領発揮といこうじゃないか、なぁ?」

同意を促す問い掛けにアーウィンが応えた。
その直後、一陣の風と共に兄者の周囲に異変が起こる。

足下だ。

兄者を中心とした半径三メートルほどの範囲に、
桃色の魔方陣のような光の模様が浮かんだのである。



26: ◆BYUt189CYA :2008/01/30(水) 19:52:39.83 ID:6/Vur52L0
「おぉ! すっげぇ」

(*´_ゝ`)「むふふ、そうだろうそうだろう」

「何か魔法使いっぽく見えるぞ!?」
「ってかアレは本当に兄者なのか……ま、まさか偽者?」
「確かにあんなかっこいい雰囲気を持つ兄者はこちらとしても断固受け付けないと言うか」

( ´_ゝ`)「おいちょっと待て、泣くぞ」

「泣くと宣言しつつ嘘泣きしながらのガチ泣き……! やっぱりアレは兄者だ!」

よく解らない激励を受けながら、兄者は魔方陣を植えつけていった。
光が徐々に増え、逆カーテンのような形を帯びていく。
次いで、ひ、という高い音が付属した。

( ´_ゝ`)「時が来るまで、限りなく魔力を練り上げていく。
     弟者、ガードは頼むぞ」

(´<_` )「任せておけ兄者。
     俺は戦いにおいてこれしか能がないが、だからこそ誰にも負けんつもりだ」

二人が不敵な笑みを浮かべた時。
その前方で、甲高い撃音が響いた。

(´<_` )「――始まったか」

( ´_ゝ`)「大丈夫だ、ペニサスさん達ならきっと」



31: ◆BYUt189CYA :2008/01/30(水) 19:54:18.16 ID:6/Vur52L0
(´<_` )「ところでカメラとか準備していなくて良いのか?」

( ´_ゝ`)「む? 何故だ?」

(´<_` )「いや、ほら。 ペニサスさんの服装的に考えて、
     激しく動いた時に見える下着的なものを――」

( ´_ゝ`)「……あのさ、弟者。 俺だって流石に空気読めるよ?
     それに今は手が離せないわけで」

(´<_` )「ふむ、それはすまなかった」

( ´_ゝ`)「だから他の奴に頼んどいた」

(´<_` )「……兄者に心から接するのが馬鹿らしくなるなぁ」

(;´_ゝ`)「う、嘘! ちょっと場を和ませるために言ってみた冗談だ!
     だからそんな遠い目は止めて、俺を見てくれ!」

あぁ空気読めてない辺りやっぱりアレは兄者だな、と皆が安息する中、

('A`)「…………」

一人、装甲車の屋根上にいるドクオは、開始された戦闘を凝視していた。
銀髪の女の挙動一つ一つを、そして微かな違和感も見逃さぬよう。

その瞳には、言い得ぬ意志が確かに宿っていた。



32: ◆BYUt189CYA :2008/01/30(水) 19:55:57.03 ID:6/Vur52L0
撃音が響く。
ペニサスと銀髪の女がぶつかり合う音だ。

一人は両脚を武器とし、一人は黒い大鎌を武器とする。

どちらも高速だ。
ただ、質が異なっている。

二人の動きは動と静。

('、`*川「……ふっ!!」

从ξ゚ -゚ノリ「――――」

激しく動き、跳び、激流のような攻撃を仕掛けるのがペニサスで
対し、その中心点で鎌を構えて静かに迎撃するのが銀髪の女だ。

何もかもが異なる両者ではあるが、その力は拮抗していた。

ミ,,"Д゚彡「……っ!」

その中を縫うように走るフサギコ。
手には、魔法世界の技術で作られたブレードタイプのEWが握られていた。
拳と斬撃の間を潜り抜け、出来るだけ近くで銀髪の女の様子を見ようとする。

だが、彼女はそう簡単に隙を見せてくれない。



34: ◆BYUt189CYA :2008/01/30(水) 19:57:42.61 ID:6/Vur52L0
ミ;,,"Д゚彡(せめて私の手に3rd−Wがあれば――)

持っているブレードでは、銀髪の女に対抗することは難しかった。
西軍の中でまともに対することの出来る戦力はペニサスのみ。
故に自分の役割は、銀髪の女の正体を見極めるために走るしかない。

何と歯痒いことか。

力がない自分を、ここまで恨めしく思ったことはない。
執事としての能力は決して低くないと自負してはいるが、この場面で役立つことはないのだ。

ミ,,"Д゚彡「……っ」

手を出せない悔しさに、フサギコは固く拳を握り締めた。

('、`*川(ふぅむ)

ちょっと休憩、と距離をとりながら足を止めるペニサス。
少し荒れた息を整えつつ、何度かぶつかってみての敵の強さを吟味する。

从ξ゚ -゚ノリ「…………」

力はこちらが勝っている。
速さもこちらが勝っている。
反応速度も戦闘経験だって負けているつもりはない――はず。

だが、何故か圧倒することが出来ないでいた。



35: ◆BYUt189CYA :2008/01/30(水) 19:59:19.97 ID:6/Vur52L0
('、`*川(どゆこと……?)

敵の動きは愚鈍そのもの。
足捌きはまったく見ていられないし、身体の動かし方からして何か間違っているとしか言いようがない。
ペニサスからすれば、銀髪の女の動きは素人以下のはずである。
だというのに、未だ一撃すら与えることが出来ない。

('、`*川(やっぱり異獣だからなのかなぁ)

異獣とは、世界を食う獣。
喰えば喰った分だけ力を蓄えることが出来る。
そして、各能力を最も高い値に更新し続ける際限のない敵。

それがあの女にも適用されているとすれば、彼女のデタラメな戦闘力の説明はつく。
だが、

('、`*川「それじゃあ、今度は変な動きの説明が出来なくなるんだよねぇ……」

相手は常に最適化しながら戦うようなもの。
その動きは常に、知り得る中での最強最速でなければならない。
しかし、銀髪の女の動きは――

('、`*川「!」

瞬間、し、という鋭い音が聞こえたと同時、

从ξ゚ -゚ノリ「――!」

銀髪の女の肩部に、光が直撃した。



38: ◆BYUt189CYA :2008/01/30(水) 20:00:45.89 ID:6/Vur52L0
誰もが突然のことに目を見開く中、銀髪の女の姿勢が僅かに揺らぐ。
しかしその隙をペニサスは突くことが出来なかった。
別のことに意識をとられていたである。

('、`*川「アンタ……」

ペニサスは、その超人的な動体視力で光弾の来た方角を把握していた。
その先にいる人物を呆然と見つめる。

('A`)「…………」

離れた場所に停まっている装甲車の屋根部分。
今しがた撃ったカートリッジを排莢しているのは、ドクオである。
落ちたカートリッジの金属部が、やけに大きな音を立てた。

誰もが、動けないでいた。

今までの彼ではない雰囲気を感じ取ったのか。
その空気は、味方はおろか敵である銀髪の女の動きさえも止まらせている。

ミ;,,"Д゚彡「な、何を――」

ようやく我に返ったフサギコが問うと同時

从ξ゚ -゚ノリ「っ!」

光弾が再度、銀髪の女に襲い掛かった。



40: ◆BYUt189CYA :2008/01/30(水) 20:02:13.32 ID:6/Vur52L0
('、`*川「何だ何だぁ?」

ミ;,,"Д゚彡「何をしているんですか、ドクオさん!?」

ようやく事態を呑み込むことが出来たフサギコは、慌ててドクオの元に駆け寄る。

ミ;,,"Д゚彡「まだ本格的な攻撃は控えて下さい!
       彼女を助けられるかどうか――」

('A`)「…………」

ドクオは、まるで聞こえていないかのようにリロード作業を続ける。
何かにとり憑かれているとも思える光景だ。

その様子を、更に遠巻きに見る目がある。

( ´_ゝ`)「何やってんだ、ありゃ」

(´<_` )「どうやらドクオが暴走しているらしい」

( ´_ゝ`)「ふーん……」



49: ◆BYUt189CYA :2008/01/30(水) 20:03:46.15 ID:6/Vur52L0
意識を集中させつつ、兄者はちらりとドクオの方を見る。
それによって魔法陣が少し歪んでしまったのを修正し

( ´_ゝ`)「ありゃあ暴走とはちーっと違う気もするがなぁ……」

(´<_` )「?」

兄者の意味深な言葉に、弟者が首を捻る。
どう見ても突っ走っているようにしか見えないのだが、この兄は別の側面を見ているのだろうか。

とはいえ、こんな兄である。
適当なことを言っている可能性は否めないだろう。
だが、たまに的を射るような鋭いことを言ったりもするのも事実なわけで。

(´<_` )(ややこしい兄だ)

( ´_ゝ`)「何か言った?」

(´<_` )「いいや、何も。 兄者は自分のことに専念しておいてくれ」

( ´_ゝ`)「把握」

(´<_` )「……大事にならなければ良いが」

盾を構えたまま弟者は誰にも聞こえないよう、そう呟いた。



56: ◆BYUt189CYA :2008/01/30(水) 20:05:55.04 ID:6/Vur52L0
戦いの場は軽度の混乱に包まれていた。
ペニサスと銀髪の女がぶつかり合う中、割って入るようにドクオの射撃が来るのだ。

テンポを崩されるペニサスは苛立ちげに舌打ちするが
それで好き勝手に撃ってくるドクオが止まるわけもない。

('、`*川「まったく……どいつもこいつもワケ解らんわー」

た、と軽いステップを刻みながら愚痴をこぼす。

別に自分が狙われているわけではない分マシだが、
フェイントのために後退した直後の射撃は勘弁してほしい。
それはフォローでも何でもなく、ただの邪魔である。

ミルナやヒートレベルの人間ならば、動きを読み取った上でのサポートが出来るかもしれない。

だが、ドクオはあくまで素人なのだ。
そんな知識も経験も何もかもが追い付いていない攻撃など、敵味方両者からすれば障害にしかならない。

('、`*川「ま、そんなの無視出来るけど――ねッ!!」

ダッシュ、跳躍、撃蹴。
高速の勢いと共に速度の跳ね上がった一撃を、銀髪の女に見舞った。
硬い音は、金属と骨が激突するものだ。

从ξ゚ -゚ノリ「――……」

横薙ぎに払われた脛を鎌の柄で受け止めた彼女は、その首を奇妙な方向にまげる。



64: ◆BYUt189CYA :2008/01/30(水) 20:07:43.31 ID:6/Vur52L0
('、`*川「む……!?」

首から腰、そして足に伝導した捻りから奇怪な攻撃が放たれた。

鎌という独特な刃から生み出される斬撃は、ただでさえ見極めが難しい。
だというのに、彼女が放つ攻撃は更に乱雑の軌道を描いていた。

それを、何と表現すれば良いのか。

糸のこんがらがったマリオネットが、それでも無理矢理に動いているような光景。
人間として最も適切な動きを全て無視したかのような動作だ。

('、`*川(――やっぱり変だ)

危険と判断したのか、ペニサスは再び後退する。
見届けた銀髪の女が、ぎぎ、と歪に姿勢を戻すのを見ながら

('、`*川(あれはわざとやってるんじゃない。
     あんな動きをしているから、まだ拮抗しているだけ……)

何となく解ってきた気がした。

あの動きは彼女特有のものではない、と。
こちらを威嚇するような意味は持っていないはずだ、と。



70: ◆BYUt189CYA :2008/01/30(水) 20:09:25.96 ID:6/Vur52L0
从ξ゚ -゚ノリ「…………」

('、`*川(だったら……何故)

歪な動きさえなければ、もしかしたらペニサスでさえも圧倒されていたかもしれない。
だというのに、彼女は本気の動きを見せることをしない。

何かがある。
自分達の知らぬ何かが――

('、`*川(でもま、どちらにせよ嘗められてることには変わりないわね)

ペニサスは鼻を鳴らす。
今までの認識を改める意味でも。

嘗めることはあっても、嘗められることはほとんど無かった戦いの人生。

久々だ、と彼女は笑みを浮かべる。
己を格下に見る敵など、実に久しい、と。

ならば、その余裕を突き崩さねば話になるまい。

心に燃え始めた炎を自覚しつつ、彼女は深い構えをとって敵を見据え、威風堂々と言い放つ。

('、`*川「改めて自己紹介。 私の名はペニサス。
     『二極』、そして『竜殺し』の業名を得る英雄――」



77: ◆BYUt189CYA :2008/01/30(水) 20:12:05.86 ID:6/Vur52L0
从ξ゚ -゚ノリ「…………」

('、`*川「我が身体は美。 我が足は破壊。 我が心は業火に踊る玉鋼――」

妙な語りと同時、彼女の身から得体の知れない気配が滲み出る。
それは殺気でも闘気でもない、何かを極めた者のみが出せる『覇気』だ。

('、`*川「嘗めるのならば嘗めるが良い。
     ただし舌を火傷しても恨まないでね?」

直後、今までとは比較にならない速度でペニサスが疾走を開始した。

('、`*川「私流体術――!!」

それは流星の如くの速度。
腰を低く落としたペニサスが地を這うように疾駆する。
荒れ地を蹴立て、砂埃を煙幕として生み出される攻撃とは

('、`*川「強気三娘連撃(キョウキサンコレンゲキ)! 第一技!!」

銀髪の女が反応するよりも早く懐へ潜り込み
そして、更に身を伸ばす勢いで高速の技を放つ。

('、`*川「椰子! 乙女!! 橘!!!」

ど、という音が三連で響く。
鍛え上げられた手足が、女の正中線上を正確に穿った。



85: ◆BYUt189CYA :2008/01/30(水) 20:13:35.62 ID:6/Vur52L0
从ξ゚ -゚ノリ「――!!」

急所を捉えたはずの攻撃は、だが思うように通用しない。
僅かに身体のバランスを崩す程度で終わる。

('、`*川「続いて第二技――蟹! 姫!! 近衛!!!」

関節を破壊するはずの三連撃が銀髪の女の身を襲うが、軽く後退するのみだ。

それでも、ペニサスは連撃を止めない。

ダメージとは損害を意味する。
理屈無き無敵ならば意味はないが、生物である以上は効かぬように見えても蓄積するもの。
だとすれば無駄なことはない。

動きを止めていられるだけでも充分である。

('、`*川「第三技――」

軽い跳躍。
跳ぶというよりも浮くと言った方が近い姿勢から、更に攻撃が放たれる。

('、`*川「鮫!!」

从ξ゚ -゚ノリ「っ!」

横薙ぎに振るわれる左足が一気にぶち込まれた。



91: ◆BYUt189CYA :2008/01/30(水) 20:14:49.44 ID:6/Vur52L0
直撃した銀髪の女の首が、九十度近くまで折れ曲がった光景は異常といえる。
だが、ここで容赦するペニサスではない。

('、`*川「昴!!」

振り抜いた足の勢いを殺さずに身を反転させる。
背中を見せた状態から、余った右足が打ち上げられた。

衝撃が走る。

折れ曲がっていた首の先――つまり顔の左頬を、ペニサスの踵が上方向へ捉えたのだ。

从ξ - ノリ「――!!」

('、`*川(これもあんまり効かない、か……!)

普通の人間相手ならば、この時点で首の骨が原型を留めない程に砕け散っているだろう。

そんな致命的を狙った容赦ない攻撃は、しかし異獣の頑丈さによって阻まれる。
この敵に加減は不必要――むしろ在ってはならぬ、と認識を改めなければならない。

('、`*川「んじゃ、駄目押しの一撃! 獅子ッ!!」

捻りの無い、真っ当な構えから放たれる足刀蹴り。
それは真正面から放たれ、銀髪の女の胸中に突き刺さった。



95: ◆BYUt189CYA :2008/01/30(水) 20:16:22.92 ID:6/Vur52L0
大衝撃。

そう言わざるを得ない攻撃力が炸裂した。

シンプルな技ほど威力の伝導は容易くなる。
相手の隙を見出した上で叩き込めば、下手に大技を撃つよりも効果が出るはずだ。
ただし非常に高いスキルが必要なわけだが、今更それをペニサスに問うのは無粋と言えよう。

完璧とさえ言える攻撃が銀髪の女を吹き飛ばした。
それをモロに受けた身体が、数十メートルの距離を一気に転がる。

('、`*川「……!」

だが、は、と少し荒れた息を整えつつも、ペニサスは気を緩めることをしなかった。
何故なら

从ξ゚ -゚ノリ「…………」

敵が、痛みに悶えることもなく起き上がったからである。



100: ◆BYUt189CYA :2008/01/30(水) 20:17:41.33 ID:6/Vur52L0
('、`*;川「おかしい……でしょ、それ」

得る違和感は大きい。
まるで、中身の無い人形をサンドバッグ代わりにしたような感触だった。

人間にしては軽過ぎる。
おそらく足を地に踏ん張らせていない。
いや、攻撃を受ける時は身体の力を抜いてすらいる。

('、`*;川(どういうこと……?
      衝撃を受け流すために、わざとやってるって言うの?)

言い、違う、と思う。

確かにそういった類の防御術は存在するが、あれは身体の軸を微かにズラして衝撃を逃すものだ。
もしくは衝撃が突き抜ける方向に敢えて飛ぶことによって、ダメージを減らす技術もある。

しかし銀髪の女がとった行動はどちらにも当てはまらない。
最初から攻撃を全て丸ごと受ける、と決めているとしか思えなかったが
それでは、受け切れるダメージの限界を超えた途端に破滅する未来しかないはず。
となれば――

('、`*;川「まさか本当に無敵ってわけ? それか、もしかして痛みを感じないの?」

从ξ゚ -゚ノリ「…………」

やはり、答える声はない。
軸の整っていない身体を揺らし、おぼつかない足取りでこちらに向かってくる。
あれだけの攻撃の中でウィレフェルを手放していない辺り、充分に殺る気なのだろう。



104: ◆BYUt189CYA :2008/01/30(水) 20:19:05.81 ID:6/Vur52L0
もし痛みを感じないようなら、捨て身のカウンターを放つ危険性がある。
多少の怪我を覚悟に心臓を狙うような輩は、これまで何度か見てきたことがあったが
あれほど嫌な予感を与えてくる敵は初めてであった。

('、`*川「ったく……やりにくいったらありゃしない。
     どうせ何か仕掛けがあるんだろうし、まずはそれを――」


――――――。


('、`*川「え?」

何かが聞こえた気がした。
それは風の音のように細く、虫の声のように小さい。
けれど何故か、確実に響いた、と確信出来た。


――――――。


聞こえる。

音か声か判断出来ないが、周囲のノイズに混じって何かが耳に入ってくる。



108: ◆BYUt189CYA :2008/01/30(水) 20:20:42.29 ID:6/Vur52L0
('、`*川「な、にこれ……」

思わず戸惑いの声が出る。
しかし、経験がないわけではなかった。

戦闘時、極限まで集中した者同士が互いの心中を読み合う、という現象が起きることがある。

攻撃の軌道、タイミング、力強さ、防御の方法、カウンターの有無――

そういった戦いの心境を、互いが完全に読み合いつつの戦いが為される時がある。
経験した者の少なさから伝説に近いレベルの話ではあるが、ペニサスは知っていた。
それこそが、『強者』のみが見ることの出来る特別な心象世界なのだということを。

('、`*川(……ってことは、これって)

ふと、一つの考えが浮かんだ。
これがもし先ほどの事象であるならば、聞こえてくる音の正体とは――

从ξ゚ -゚ノリ「――――」

――――――。

('、`*川「やっぱり……」

確信する。
聞こえてくるのは音ではなく声なのだ、と。
しかも発しているのは、目の前にいる銀髪の女だ。



112: ◆BYUt189CYA :2008/01/30(水) 20:21:48.72 ID:6/Vur52L0
敵の意志が聞こえるほど、自分は集中していたのか。

いや、それはいい。
相手が相手だけに集中して損はない。
体力や精神力は温存すべきだが、ここは消費しなければならない場面だ。

だが一つ気掛かりがあった。

こちらに聞こえてくる心象の声が訴えてくる感情。
それが何故、



――――――。



こんなに、気分が悪くなるほどの苦痛に満ちているのか、と。





117: ◆BYUt189CYA :2008/01/30(水) 20:23:10.40 ID:6/Vur52L0
ミ;,,"Д゚彡「ドクオさん!!」

一際大きな戦いの音が響いたのを聞くのと、フサギコがドクオの暴挙を止めるのは同時だった。
言葉で止められないと悟った彼の手が、7th−W『ガロン』の銃身を抑えつける。

ミ;,,"Д゚彡「下手に攻撃するのは止めてください……!
       まだ、倒すと決まったわけじゃないんですよ!」

('A`)「…………」

ミ;,,"Д゚彡「貴方はツン御嬢様を助けたくないのですか!?」

同じ気持ちだと思っていた。
ツンを助けたいという願いは、共通のモノだと思っていた。
だが、ドクオはフサギコの期待した表情を浮かべることはない。

('A`)「……どうやって助けるつもりッスか?」

ミ,,"Д゚彡「それは――」

('A`)「そんな技術、俺達が持っているとでも? 確実に助けられる確証はあるとでも?」

ミ;,,"Д゚彡「……もちろん解っています。
       だからこそ、それを見極める時間が――」

('A`)「フサギコさんには聞こえなかったんスか?」

ミ,,"Д゚彡「――え?」



135: ◆BYUt189CYA :2008/01/30(水) 20:27:54.77 ID:6/Vur52L0
ドクオの目が、遠くを――未だペニサスと戦う銀髪の女へ。

そこでフサギコは気付いた。
彼の唇が、目が、指が震えていることに。
まるで見えていないはずのものが見えているかのような。

その時だった。
ある突拍子もない考えが、フサギコの脳裏に浮かぶ。

ミ;,,"Д゚彡「ま、さか……!?」

('A`)「だから、俺は――」

合図としたかのように、ドクオが震える口を微かに開く。
声として出された言葉の意味は、フサギコが最も聞きたくない内容であった。

('A`)「ツンを殺してあげるんだ」

ミ;,,"Д゚彡「……!!」

咄嗟に、何も言えなかった。
今まで同じ気持ちだと思っていたドクオが、まったく逆方向の言葉を放ったから。
成程、確かにそれもあるかもしれない。

だが何よりも大きく響いたのは、フサギコ自身が一瞬でも同意を思ってしまったからに他ならない。



140: ◆BYUt189CYA :2008/01/30(水) 20:29:06.59 ID:6/Vur52L0
('A`)「その様子だと、フサギコさんも解ったんでしょう?
   ツンはまだ生きてるって」

ミ;,,"Д゚彡「……ッ」

('A`)「フサギコさんには聞こえていないのかもしれないけど、俺にはハッキリを聞こえた」

ミ,,"Д゚彡「……何が、ですか」

問い出したくない。
そう理性が叫ぶが、感情の方が口を割っていた。

('A`)「ツンが泣き叫んでるんだ。
   『痛い』『苦しい』って、泣いてるんだよ」

ミ;,,"Д゚彡「……そんな……馬鹿な、こと……」

動揺を隠せない。
フサギコ自身が少ない情報を頼りに導き出した最悪の未来に、一歩近付いてしまったからだ。
否定したい気持ちから『馬鹿な』と吐き出したが、強く言えずに声が震えてしまっている。

ミ;,,"Д゚彡「ひ、非常識です! 貴方は幻覚を見ている!」

('A`)「非常識? 今更何を言ってるんスか? そんなの最初からだったでしょう?」

ミ;,,"Д゚彡「……っ。 ですが、何の確証も無しに!」

「――悪いけどあるわよ」



148: ◆BYUt189CYA :2008/01/30(水) 20:30:39.61 ID:6/Vur52L0
口論になりかけた二人に、割り込むようなペニサスの声。
見れば、頬に一筋の血線を得た彼女がこちらに歩いてきていた。
彼女の後方では、銀髪の女がうつ伏せに倒れている。

('、`*川「あぁ、ちょっと神経にダメージ与えてマヒらせたから、ちょっとの時間は放っておいて大丈夫。
     言っておくけど、ずっとじゃないから捕獲は無理よ。
     それよりも一つ得たことがあるわ」

('A`)「ペニサスさんも聞いたんスね……あれを」

('、`*川「ドクオ君とはちょっと違ったルートだけどね。
     彼女は、間違いなく苦しみながら戦っている。 こっちの気分が悪くなるほどに」

ミ;,,"Д゚彡「ま、待って下さい! 何を根拠に――」

('、`*川「あら、貴方には聞こえてないなんておかしいわね。
     イの一番……せめて、ドクオ君と同じくらいのタイミングで聞いててもおかしくないのに」

本気で不思議がる様子を見せるペニサスに、ドクオも頷いた。

('、`*川「もしかしたらウェポンを持ってないから?
     私は闘気から読み取ったんだけど、そっちのがオリジナルっぽいよね?」

('A`)「……かもしれねぇッス」

('、`*川「ふむ、だったら説明するよりも直接聞かせた方が早いんじゃない?」

言うや否や、彼女はドクオから7th−W『ガロン』を奪い取って
狼狽するフサギコに押し付けた。



152: ◆BYUt189CYA :2008/01/30(水) 20:32:19.95 ID:6/Vur52L0
ミ;,,"Д゚彡「――ッ!?」

途端、電流のようなものが身体に走った。

いや、それはいい。
決して間違いではない。
ガロンの拒絶意思が皮膚を通り、神経を微かに焼いたのだろう。
正規の持ち主ではないために反発作用が起きたのだ。

しかしそれ以外の別の情報が、外側から通じて脳に直接飛び込んできたことに彼は驚く。

ミ;,,"Д゚彡(これは……これは――!?)

周囲の音が消え去ったと思った瞬間、ある音が聞こえたのだ。

それは遠くから響くようで、耳元で鳴っているような。
遠近感覚を無視した不可思議な音――いや、声のような音色が入ってきたのだ。

ミ;,,"Д゚彡(あ、あぁ……!? ぁ――!)

画面が切り変わる。
テレビのチャンネルを変えるかのように。



170: ◆BYUt189CYA :2008/01/30(水) 20:37:56.46 ID:6/Vur52L0
■■――い――め―。

悲痛な泣き声である。

―■■――■■――めて。

無垢な救いを求める声である。

■■―た■■――■■めて。

思考が麻痺する程の叫び声である。


いたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたい――痛痛痛痛痛痛痛痛――
やめ■■め■■めて■■てや■■■■てや■■やめ■■めて■■て!!!!

■■痛■■苦■■■――wwヘ√レvv――■■■死■生■イ■痛■■―― ブツッ


あああ あああああああ あああああ あああああああ あああああああ あああ!!!


ミ;,,"Д゚彡「うわあああああああぁぁぁぁぁぁ!!?」

それは、この世のものとは思えない、肺と喉から搾り出される女の『音』であった。



176: ◆BYUt189CYA :2008/01/30(水) 20:39:16.02 ID:6/Vur52L0
ミ;,, Д 彡「あああ、あああああああ――!!」

彼があまりの衝撃に叫んだ瞬間、思い出したかのように7th−W『ガロン』が指輪に戻った。
ペニサスが行なった突然のことに対処が遅れたのだろう。

それが、頑なに希望を持っていたフサギコの心を折り砕いた。

ミ;,, Д 彡「あ、あぁ……こ、れは……あ……」

('、`*川「おそらく、ツンって子はあの中に未だ生きている」

身を起こそうともがく銀髪の女。
敵である彼女を、ペニサスは悲しそうに見た。

('、`*川「けれど、自分の意思を発することが出来ない状態にあるみたいなのよ。
     それだけならまだ良いんだろうけど、
     多分、外側から受ける痛みは全てあの子が、あの銀髪の女の中で肩代わりしてる」

ミ;,,"Д゚彡「なっ……!?」

('、`*川「あくまで『おそらく』だけどね。
     こちらが見えているのか、音や声は聞こえているのか……今、何が起きているのか。
     それを彼女が知っているのかどうかは、解らない」



185: ◆BYUt189CYA :2008/01/30(水) 20:41:15.07 ID:6/Vur52L0
ふ、という暗い溜息を吐き

('、`*川「あの銀髪……変な動き、してたでしょ?
     最初は彼女独特の動きなんだと思ってたんだけど、アレに戦闘的有利は何一つない。
     常に最強を名乗る異獣が、あんな動きをするわけが無い」

('A`)「それってまさか……ツンが抵抗してるってことッスか?」

('、`*川「私はそう判断した。
     意図的に、なのか、それともただ痛みにもがく動きが阻害しているのかは知らない。
     その中で一つ確実に言えるのは――」

ある程度の事情を察知していたのか、表情をあまり変えないドクオから視線を切り、
次に顔面蒼白のフサギコを見て

('、`*川「――ツンって子は、今も異獣の中で苦しんでるってことよ。
     アレはもう『苦しい』ってレベルじゃないでしょうけどね。
     あの子、きっと何度も死んでるわ」

ミ;,,"Д゚彡「……そんな、そんな……っ」

('、`*川「聞いたでしょう? あの声は、ツンって子の声なんでしょう?
     現実は受け入れなさい。 逃避したって何もならないのは貴方がよく解っているはず」

ミ;,,"Д゚彡「……う、あ……」



191: ◆BYUt189CYA :2008/01/30(水) 20:42:46.06 ID:6/Vur52L0
('A`)「……フサギコさん、これで納得してくれたッスか?
   だから俺は、これ以上の苦しみを続かせないためにもツンを殺すって言ったんだ」

指輪化した7th−Wを拾い、再び銃の形を復活させる。

('A`)「俺だって最初は助けたいと思った。
    けど、無理だった。
    あんなに泣いてるツンは――いや、苦しんでいる人間は初めて見た」

('、`*川「……でしょうね」

('A`)「俺はツンが好きだ。 きっと大好きだ。
   アイツが不幸になってるのを見てなんかいられない」

銃身を水平に構えてスコープを覗いた。
丸くなった視界の中、『助けられる』と思っていた最愛の人を捉える。

('A`)「だから、早く死なせられるように頭を狙った。
    でもパワーが足りない。 次は限界突破を使ってでも――殺す」

下手に生かして苦しみを長引かせ、助かるかも解らない可能性に賭けるよりも
今、この場での救済を――『死』という無に帰す方法での解放を、ドクオは選んだのだ。



198: ◆BYUt189CYA :2008/01/30(水) 20:44:11.85 ID:6/Vur52L0
彼の瞳に希望は無く、既にツンの生存を諦めている色だけが在った。

そのことに対する憤りは出なかった。
あの悲痛な声を聞いて、フサギコ自身も『そうすべきだ』と僅かに揺らいだからだ。
あれだけ助けると誓ったはずの心には、既に希望などという都合の良い支えは存在していない。

ミ,, Д 彡「……ッ」

やはり自分は無力なのだろうか。
幼少の頃から世話をしてきて、家族同然だと思い、そして思われてきた彼女を
『確実に助けることが出来る』と声高に断ずることは不可能なのか。

残念ながら、答えは肯定である。

解決へ導くためのテクノロジーやファクターを持っていない自分達に
異獣の呪縛に捕らわれた彼女を助けることなど出来ない。

そもそも、彼女がどういう状態にあるのかすら解っていないのだ。
ツン自身の身体が別の場所に保管されているのならまだしも
もし、異獣の遺伝子や組織と混ぜ合わせて作られているのならば、助けようがない。

仮に身体は無事だったとしても、
銀髪の女に入っているツンの精神を、どうやって元の身体に移せば良いのか。
そんな技術が四世界に存在しているのか。

从ξ゚ -゚ノリ「…………」

美しいとすら思える銀髪の中、一房だけ残る金のロールした髪。
それが、全てを物語っているようにも見えた。



203: ◆BYUt189CYA :2008/01/30(水) 20:45:50.30 ID:6/Vur52L0
('、`*川「仕方ないこととして諦めるのは無理だと思う。
     でも、割り切らなきゃならない時もあるわ」

ミ,, Д 彡「……それが今だと言うのですか。
      何故、今なのですか」

('、`*川「今だから、としか言いようがないわね……残念だけど」

傍で聞いているはずのドクオは会話に参加しない。
意識を集中させ、銀髪の女へ殺意を向けているだけだ。
肝心の殺意は荒削りで、まだまだ鋭いとは言えない。

だが、フサギコには解っていた。
ドクオの放つ殺気は素人のそれだが、驚くほど質が硬くなっているということを。

それだけの覚悟なのだろう。
二年前までは殺し合いなどとは無縁だった青年が、逃げ出さずに精一杯の勇気を出した答え。
たとえ誰も納得出来ないモノだとしても、その行為自体を非難することなど出来るわけがなかった。

ミ,, Д 彡(だと言うのに、私は――)

まだ迷っている。
いや、違う。
現実から目を背けているのだ。

目の前に正しい現実がありながら、『それは違う』と押し退けようとしているだけだ。
その先に何もないことを知っているというのに。



214: ◆BYUt189CYA :2008/01/30(水) 20:47:55.33 ID:6/Vur52L0
ミ,, Д 彡「私は……私は、どうすれば……」

('、`*川「何もしなさんな」

ミ,, Д 彡「…………」

('、`*川「それとも、あの子を自分の手で殺す?」

ミ,, Д 彡「…………」

('、`*川「……私としては、それを貴方にさせたくない。 悲しいから。
     だったら覚悟した人間と、関係が薄い私達がせめて、ね」

もはや流れは変わらない。
銀髪の女を――その中にいるツンを殺さなければ、西軍は勝利することが出来ないのだ。

忘れてはならない。
この戦いは、ツンを救出するためのものとは違う。
異獣の脅威を振り祓うための戦争だ。

一番の目的を果たすためならば、その他の問題は全て無視、及び捨て去らなければならない。
そうしなければ勝てない相手だと全員が理解しているし
だからこそペニサス達も感情を出来るだけ殺して、己のやるべきことをやろうとしている。

だが、何故――何故、運命は死すべき人にツンを選んでしまったのだろう。

何も悪いことなどしていないはずなのに。
ただ不幸が重なっただけなのに。
罰せられるべきは他にもいるだろうに。



218: ◆BYUt189CYA :2008/01/30(水) 20:49:41.51 ID:6/Vur52L0
ミ,, Д 彡(…………)

何故。
どうして。
何の為に。

グルグルと回る思考。
出口を見出すことの出来ない疑問。
理不尽さを訴えようにも、訴える先がない焦燥感。

熱い。
心が、身体が熱を生んでいく。

その熱によってか、フサギコの覚悟が段々と溶かしていく。



噛み合わない歯車が、諦めたかのように、その動きを、止めていく――




227: ◆BYUt189CYA :2008/01/30(水) 20:51:54.07 ID:6/Vur52L0
('、`*川「ここからの現場指揮はフサギコに代わって私が執る!
     異論は全て却下! 文句は勝利してから言いなさい!
     捨てなきゃいけない人のためにも、ここは絶対に勝つ!!」

一際大きな声が、戦場に響いた。

('、`*川「本格的な異獣の殲滅を開始するわ!
     前線は私が出るから、後方支援はドクオ君を中心とした射撃隊に任せる!
     他の連中は邪魔にならないよう離れて、他の雑魚を!」

普段の彼女からは考えられない程の強い声に、全員が気を引き締めた。
しかし、疑念の表情を浮かべる者もいる。
彼らの言いたいことを理解しているペニサスは、更に続けた。

('、`*川「尚、異獣の相手は――流石兄弟!
     『もし銀髪の女を倒すことになった場合、自分達が手を下す』と言ったわね!?
     だったら結果を示しなさい!!」

(#´_ゝ`)「行くぞ、弟者……!
      怒りは解るが、ここは――」

(´<_`#)「あぁ……解っている……!」

(#´_ゝ`)「OVER ZENITH――!!」

限界突破の声と同時、兄者の足下に描いていた魔法陣が大きな光を発した。
直径三メートルほどだった陣が更に拡大されていく。

どこからか風が運ばれ、渦の軌道で兄者の周囲を包む。



234: ◆BYUt189CYA :2008/01/30(水) 20:53:43.09 ID:6/Vur52L0
从ξ゚ -゚ノリ「――!」

この光景に、流石の銀髪の女も無視は出来なかった。
すぐさま鎌を構え直して、兄者の企みを阻止するために動く。
だが

(´<_`#)「ここは通さん……!」

立ち塞がったのは金の色。
それが、こちらに向けた盾なのだ、と気付いた時には足が地面から離れていた。

从ξ゚ -゚ノリ「!?」

(´<_`#)「斥力操作――!!」

問答無用の力が作用したのだ。
盾から発せられる引き離しの力が、女の前進を阻む。

(´<_`#)「悪いが通行止めでな! 意地でも突破はさせない!
      アンタは、アンタ自身のためにもここで倒さなければならん!」

言っている間にも、兄者の魔方陣が高らかに吼えていた。
既に陣の範囲と光が最大にまで広がり、生み出される音と風も最高潮に達している。
何が出てきてもおかしくはない光景であるが

(#´_ゝ`)「くっ……うぅ……これでもまだ足りんのか、この大食いめ!!」

歯を噛み、全身で溢れ出す何かを抑えつけるような表情で
兄者は暴れ出しそうになる魔力の奔流を制御していく。



241: ◆BYUt189CYA :2008/01/30(水) 20:54:59.18 ID:6/Vur52L0
从ξ゚ -゚ノリ「…………」

(´<_`;)「むぅ!!」

その前方では、人間とは掛け離れた動きで鎌を振りまわす女を防ぐ弟者の姿がある。

危なっかしい光景だった。
一閃、二閃と黒色が縦横無尽に走るのを、金の盾がワンテンポ遅れて弾いている。
戦闘技術と経験の差は、一目瞭然である。
絶妙なタイミングで放たれている斥力が無ければ瞬殺されてしまっただろう。

いや、一瞬でも気を抜けば結果は死であることに変わりはない。

(#´_ゝ`)「ぬぬぬぬぬぬ!! お前は黙って――!」

時間を掛ければ掛けるほど弟者の危険が高まっていく。
その事実に気付いた時、己の中に湧き上がる力が更に激しく噴出した。
なかなか思うように動かない4th−Wに対して、怒りと焦燥の混合物を爆発させる。


(#´_ゝ`)「黙って俺の言うことを聞きやがりゃぁぁぁぁあああ!!」


咆哮、そして桃色の書物を地面に叩きつけた瞬間だった。

き、という高い音色が起動の合図を示す。
臨界点を突破した魔力の塊が、魔法陣の中で形を確定した。



248: ◆BYUt189CYA :2008/01/30(水) 20:56:52.54 ID:6/Vur52L0
(´<_` )「兄者!!」

(#´_ゝ`)「ぬおおおおおお!!」

地面が盛り上がる。
いや、地面に見えたそれはまったくの別モノだ。
桃色の鱗が在り、四肢が在り、皮で出来た翼が在り、鋭利な爪が在り、射殺しかねない両眼が在り――


その姿は、不滅世界にとって伝説上でしか在り得なかったはずの生物、ドラゴン――しかもピンク色――であった。


背を山のようにして盛り上げたそれは、大きな翼を仰いで現界する。
三本爪を地に突き、それだけで威圧感を与えてくる尾を軽く振り回した。
兄者はその頭の上に立っており、そして名付けるように

(#´_ゝ`)「全身竜召喚(レヴァイアサンダウンロード)――!!」

(´<_`;)「あ、兄者ァァァ! それは無茶があるし色々とまずい!!」

弟者の悲痛な叫びは届かなかった。
周囲に轟音を撒き散らす竜のせいもあるが、それよりも大きな問題は距離であった。

(#´_ゝ`)「行けぇぇぇええ!!」

頭の上に乗って叫ぶ兄者と地面との距離は、既に三十メートルを超えていた。
その分だけの巨大さをドラゴンは持っているのだ。



255: ◆BYUt189CYA :2008/01/30(水) 20:58:15.08 ID:6/Vur52L0
いきなり現れたあり得ぬ生物に、周囲の味方が慌てて退避し始めた。

「退避! 全力で退避だ! 踏まれるぞー!!」
「な、何てもん生みやがる……迷惑ってレベルじゃねーぞ!?」
「冗談は存在だけにしやがれってんだ兄者氏ね! ファッキュー!!」

(;´_ゝ`)「お前らどっちの味方!?」

下から来る怒涛の文句に少しだけ涙目になるも、すぐに戦うべき敵の方を見る。
先ほどまでの嫌な気配に圧倒されていた状況と異なり、今や逆転の立場にいることを確認。

(#´_ゝ`)「悪いが、ここで一気に決着をつけてやる――!!」

人対竜。
重量に大きな差がある時点で既に戦況は傾いている。
たとえ異獣であろうとも、その多大な重さが圧し掛かればダメージを受けるはず。

だが、呆けるように見上げてくる銀髪の女へ一歩踏み出した次の瞬間、誰もが信じられぬ言葉を聞く。

从ξ゚ -゚ノリ「OVER――」

(;´_ゝ`)「え」

从ξ゚ -゚ノリ「――ZENITH」

(´<_`;)「な……っ!?」



262: ◆BYUt189CYA :2008/01/30(水) 20:59:31.89 ID:6/Vur52L0
その口を止める暇などなかった。
限界突破の命令が放たれ、銀髪の女が黒光に包まれる。

ミ;,,"Д゚彡「――ウィレフェル……!!」

一番のショックを受けたのはフサギコである。
確かにウェポンが敵の手にある以上、限界突破も使ってくると予想しておくべきであり
事実、彼はそうなる可能性を考えていた。

しかし、その予想の質を上回る結果が現れてしまっては動揺を隠すことなど出来はしない。

分解拡散した3rd−W『ウィレフェル』。
銀髪の女の周囲に舞うそれは黒雪のようで、一つ一つが鋭利に尖っている。
広がるようにして展開された黒色は、すぐさま次の形を作り上げた。

響く硬音。
噛み合う黒刃。
組み上がっていく異常。

(´<_`;)「あ、あれはまさか――」

(;´_ゝ`)「嘘だろ、おい……!」

地上にいた弟者達はおろか、竜を操る兄者でさえも驚愕する。

《――――ギ……》

黒い刃というパーツが幾重にも積み重なり、一つの巨大人工生物を完成させてしまったのだ。



269: ◆BYUt189CYA :2008/01/30(水) 21:01:25.73 ID:6/Vur52L0
その大きさの差は、元の大鎌と比較して数百倍といったところだろうか。
もはや兄者の生み出したドラゴンと同じレベルの大きさである。
質量保存法則など何の其のというような勢いだ。

形状として最も近いのは『カマキリ』だろう。
虫のようなフォルムだが、その全身から刃をギチギチ音立てて蠢かしている光景は
見る者達の背筋に冷たいものを走らせた。

兄者のドラゴン召喚によって傾いていた戦況が一気に覆される。
彼の栄光は、まさに一時という儚さであった。

――敢えて希望を見出させ、後手に軽んじながらも更なる絶望で叩き伏せる。

これが異獣の戦い方でもあることに、この時点で理解を示すことが出来る者はいない。
そんなことよりも彼らは、落ちてきた更に大きな絶望に対し、どう抗えば良いのか焦るばかりであった。

ミ;,,"Д゚彡「そんな馬鹿な……!?
       変形能力の限度を超えているはずなのに!」

(´<_`;)「相手は異獣だぞ! もうこちらの常識なんて通用しないんだ!」

ミ;,,"Д゚彡「ウィレフェル、どうして……! 所詮は疑似精神だとでも言うのですか……!?」

(;'A`)「くっ!」

皆がありえぬ光景に狼狽する中、ドクオの射撃が走る。
しかし、完成した巨大機甲虫に対して7th−Wの放つ光弾は小さ過ぎた。
装甲を兼ねる刃に光の花火が散るだけで、ダメージを与えられない。



274: ◆BYUt189CYA :2008/01/30(水) 21:02:49.43 ID:6/Vur52L0
《――――ギギ》


ぎちぎち。


射撃を合図としたかのように、カマキリの目に当たる部分が光る。
刃同士の擦れる不気味な音が響き始めた。


ぎちぎちぎち ぎちぎちぎち。


首部分から発せられた音色は、徐々に全身へ広がっていく。


ぎちぎちぎちぎち ぎちぎちぎちぎち ぎちぎちぎちぎち。


それはつまり、黒色の巨大な虫が本格的な動きを生んだことに違いなく――


《――――ギギギャギギギギギャギャァァァァァァ!!!》


吼声。
き、という音に似た甲高い声が周囲に撒き散らされる。
その両腕としている一際大きな鎌が、小さき人間を叩き斬らんと振るわれ始めた。



281: ◆BYUt189CYA :2008/01/30(水) 21:04:07.64 ID:6/Vur52L0
「のわあぁあああぁぁぁあ!!」
「どこのB級映画だコレ!? カメラは!?」

(´<_`;)「こりゃあまずいことになったぞ……!
     このまま暴れられたらミラーどころか俺達も全滅だ!」

('、`*;川「退避を!!」

言われなくとも既に離脱を開始している西軍であったが、
巨体が一歩動くだけで、逃げた分の差が無くなってしまうことに絶望している者も出てしまっていた。

「ンの野郎っ! 逃げて勝利が掴めるかよォォォ!!」

逃げることを諦めた一部の兵が射撃武器を使って迎撃するが
放たれた魔力弾は小さな火花を生むだけに終わってしまう。

「全体が刃の装甲に覆われてンのか!? 実はウニだろテメェ!!」

「駄目だ! 生半可な攻撃じゃ通じない!」

《ギギギギギギ――》

「「人生\(^o^)/オワタ」」



289: ◆BYUt189CYA :2008/01/30(水) 21:07:13.05 ID:6/Vur52L0
(#´_ゝ`)「終わらせてたまるかぁぁぁあい!!」

次の瞬間、兵達の眼前が血潮の赤ではなく、桃色に染まった。
大鎌が振るわれる前に、兄者の駆る桃色ドラゴンが割り込んで来たのだ。

(#´_ゝ`)「俺のせっかくの見せ場を横取りしやがって――!」

竜の頭に乗る兄者は、本音をぶっちゃけながら
猛スピードで揺れる中で何とかバランスをとりつつ、命令を下す。

(#´_ゝ`)「パンチだ! ドラゴン!!」

獰猛に見えながらも言うことを律義に聞き受けた桃色ドラゴンは
割り込んで来た分の勢いを利用しての右フックを放つ。
鋭利な爪でカバーされた一撃が、見事にカマキリの脇腹らしき部分を捉えた。

金属が軋む大音。
だが、折れない。

《ギャギギギギギ!!》

声というよりも異音を撒き散らすカマキリの目が、こちらを見る。
どうやらドラゴンを己の敵だと目標と定めたようだ。

(#´_ゝ`)「だったら好都合!
      お前ら、このデカブツは兄者様に任せなさーい!!」



293: ◆BYUt189CYA :2008/01/30(水) 21:08:46.42 ID:6/Vur52L0
('、`*川「やれるの!?」

(#´_ゝ`)「クソ虫を叩き潰すくらい余裕! 丸めた新聞紙くらいでも充分なくらいだ!
      だが――」

兄者の目が、強い意志を従えて見る。

(#´_ゝ`)「それもこれも自慢の弟がいればの話だがな!
      というわけで弟者は借りていくぞ!!」

(´<_`;)「兄者!」

(#´_ゝ`)「奴を倒す! 手を貸せ!」

体当たりでカマキリの動きを止め、その間に弟者の方へ向かう。
巨体を持つドラゴンが地面スレスレを飛行する姿に一瞬だけ怯むも

(´<_` )「――あぁ、解った! 兄者が求めるなら俺はいくらでも手を貸すぞ!」

弟者が手を出す。
兄者も手を出す。

(#´_ゝ`)「「ファイトォォォォ! いっぱぁぁぁぁあああつ!!」」(´<_`#)

弟者と桃色竜が擦れ違う一瞬、これ以上ないタイミングで二人は互いの手をとった。



298: ◆BYUt189CYA :2008/01/30(水) 21:10:05.61 ID:6/Vur52L0
翼を思い切り広げて舞い上がる巨体。
桃の身体が、真っ赤に染まっている空に溶けていくようだ。

敵を追おうとカマキリが刃の羽を広げた。
それは、がきん、という金属音を以って確定し、今まさに空へ――

从ξ゚ -゚ノリ「…………」

直前、音もなく銀髪の女がカマキリの足下に立った。
腕を伸ばして、装甲の役割を担っている黒い刃群に触れ
その一部を引き千切るかのようにして、二枚ほどを手に握る。

主である彼女の動きを確認したカマキリは、今度こそ硬い羽音を撒き散らしながら飛翔した。

双子の駆る桃色竜が待つ戦場へ辿り着くのに、十秒も必要としない。
光を反射するブラックボディが、赤い空をバックによく浮いて見える。

《ギギギギギギギ――!!》

( ´_ゝ`)「何言ってンのかわかんねーよ馬ァー鹿!!」

(´<_` )「日本語でおk」



301: ◆BYUt189CYA :2008/01/30(水) 21:11:23.72 ID:6/Vur52L0
既に、空を支配していた異獣の姿はほとんどなかった。
シャキンやエクスト達が奮戦した結果だろう。

( ´_ゝ`)「最高の舞台だな! 怪獣大決戦ってか!!」

(´<_` )「何か手は!?」

( ´_ゝ`)「特に無い!」

だが、と言い

(#´_ゝ`)「それでも何とかしてみせるのが俺達、流石兄弟だ――!!」

呼応するようにドラゴンが吼えた。
対し、軋む音で以ってカマキリが異音を叫ぶ。


赤い景色の中、二つの巨大人工生物が激突を開始した。



308: ◆BYUt189CYA :2008/01/30(水) 21:12:41.35 ID:6/Vur52L0
('、`*川(まったく……苛立たせてくれる)

再び戦闘体勢に入りながら、ペニサスは心の中で一人ごちた。

从ξ゚ -゚ノリ「…………」

異獣の非道な手口に対する怒りだ。
正々堂々、力と力のぶつかり合いを好みとする彼女にとって
こういう人質以下の最低な手段は、ただの苛立ちの種でしかない。

流石兄弟という切り札は、異獣の切り札とぶつかることとなった。
ならば、本体である銀髪の女の相手は自分がしなければならない流れとなっている。

拳を握り、自分に問う。

('、`*川(出来るか、私に)

先ほどの話を統合すれば、銀髪の女の中には異なる女性の命が入っているらしい。
ドクオとフサギコにとって大切な存在であることは、彼らの表情や動きで充分に理解しているつもりだ。

それを、壊す。

比較した場合、実のところ殺すだけならば容易いと本人は思っていた。
確かに異獣は強敵ではあるが、あの銀髪の女に限って言えば倒せる自信があるのだ。
充分な支援と時間、そして体力が続けば、の限定条件が付属するが。



311: ◆BYUt189CYA :2008/01/30(水) 21:14:00.31 ID:6/Vur52L0
だが、アレは単なる敵ではない。
フサギコの主であり、ドクオの親しい友人である。
それを容赦なく、しかも彼らの目の前で殺そうとは気軽に思えなかった。

――どうしても、惨い殺し方になってしまうから。

打撃は一撃必倒を目的としている部分があるが、
その側面として『損傷累積』というものもある。
読んで字の如く、ダメージを積み重ねていき、結果的に倒すという戦術だ。

前者は自分の力量よりも下の存在へ。
後者は自分の力量よりも上の存在へ使われることが多い。

現状ならば、間違いなく後者の戦術を選択すべきだ。
特に身体自体が頑丈となっている異獣を倒すには、更に細かく損傷を与えなければなるまい。

関節破壊は当然として、骨肉神経断裂、内蔵破壊、視聴触嗅四感の無効化――

人間としての全てを奪うことを前提としての戦闘。
それらが駄目だとしても、充分に動きが鈍くなっている時を狙い、脳や心臓を確実に破壊する。

確かに『非道だ』と罵られる時もある。
事実、ペニサスは修行中に幾度かそんなことを言われてきた。
意見の大部分は嫉妬による醜い足掻きではあったが、彼女自身、その非道さを充分に熟知している。

それを出来れば使いたくない、と思っている自分がいることも。



317: ◆BYUt189CYA :2008/01/30(水) 21:16:17.81 ID:6/Vur52L0
('、`*川「らしくないわね……こんなんじゃ笑われちゃう」

今はもういない知人なら、迷うペニサスの背中を張り手して送り出すだろう。
過程など無視しろ、結果を見てから先を選べ、と。

('、`*川(私はアンタみたいに割り切れない)

銀髪の女が動き始めているのを見ながら、しかしペニサスは覚悟を決めようとしていた。

('、`*川「けど、やらなくちゃいけない時もある。
     そしてそれが今」

('A`)「…………」

前方、既に戦闘態勢に入った銀髪の女の両手には、黒色の刃が二枚握られている。
大鎌であるウィレフェルの大部分は上空で、だとすれば、あの刃に特殊な効果があるとは考え難い。

('、`*川「完全実力勝負ってわけね」

从ξ゚ -゚ノリ「――――」

('、`*川「いいわ。 もう、いい加減に終わらせてあげる。
     あと少しだけ我慢しててね、御嬢ちゃん――!」

背後でドクオが7th−Wを構える気配を感じつつ、ペニサスは今度こそ本気で疾駆した。



322: ◆BYUt189CYA :2008/01/30(水) 21:17:39.22 ID:6/Vur52L0
赤空の中、幾度となくぶつかる二種の色はただひたすらに巨大であった。
その翼を自慢げに大きく振り、自在に空を飛ぶ姿は、地上から見る者達に形容し難い感動を与えてくる。

風が叩かれ、弾ける。
その乱れた波を正すかのように、鋭い吼声が響き渡る。

『――――!!』

《ギギギギギギ!!》

一方は、滾った熱気をそのまま吐き出すかのように吼える竜。
一方は、身体中から異音を発しながら尚、大叫声を発する虫。

高純度、そして濃密な魔力で構成されている身体を、そのまま攻撃力として激突させる。

(#´_ゝ`)「パンチだキックだ体当たりだぁぁぁああ!!」

(´<_`;)「あ、兄者! もっと流石な攻撃はないのか!」

( ´_ゝ`)「例えば?」

(´<_` )「……炎を吐いたりとか」

(#´_ゝ`)「パンチだ! ドラゴン!!」

(´<_`;)「無いのか? まさかマジで何も無いのか!?」



330: ◆BYUt189CYA :2008/01/30(水) 21:19:03.92 ID:6/Vur52L0
(#´_ゝ`)「男と男の戦いは拳のぶつけ合いと相場が決まっているだろう!」

(´<_`;)「兄者! たぶんアンタ何かと混同してる!」

ぶつかり合う度に、舌を噛みそうなほどの振動が襲う。
このままでは竜よりも先に乗り手がダウンしてしまいそうだ。

(´<_`;)「このままぶつかっていても埒が明かないぞ!」

(;´_ゝ`)「あ、やっぱり?」

(´<_`;)「解ってたのかよ!」

(;´_ゝ`)「いやまぁ、そもそもこんなカマキリと戦うなんて予想してなかったしな」

兄者が言うには、
銀髪の女を相手にするからこそ、重量重視の格闘戦仕様として作り上げたらしい。
まさか同じような敵と戦うなど思ってもみなかった、と。

言い訳としてしか受け取りようがない言である。

(´<_` )「ってことは遠距離攻撃とか――」

( ´_ゝ`)「うん、用意して無い」



337: ◆BYUt189CYA :2008/01/30(水) 21:20:15.93 ID:6/Vur52L0
《ギギギギギギギギャギギギ!》

弟者が大きく肩を落とし、カマキリが叫んだ。
空中でホップして後方へ位置取り、その数多い脚を八方へ広げる。
千手観音のようにも見える光景は、しかしその色のせいで不吉なモノとしか思えない。
果たして、そのイメージはまったくの正解であった。

(´<_`;)「……! 何だ!?」

( ´_ゝ`)「馬ッ鹿、ああいう構えは昔から決まってんだろ!」

(´<_` )「それ即ち?」

( ´_ゝ`)「必殺技」

直後、カマキリの胴体中心部から一筋の光線が発せられた。
赤い空すらを染め上げる魔力の塊が、一筋の光となってドラゴンに襲い掛かったのだ。

大気に穴を開ける穿ちの力。
それは、如何に限界突破で編み込まれた魔力の鱗を持つドラゴンであっても
完全に防ぎ切れるものではなかった。

(;´_ゝ`)「のわあぁぁぁぁぁあああ!!」

(´<_`;)「あ、兄者の馬鹿ー!!」

バランスを一気に崩された竜は、痛みの声を挙げながら高度を落とす。



340: ◆BYUt189CYA :2008/01/30(水) 21:21:39.56 ID:6/Vur52L0
《ギャギギギギャギャギギギ――!!》

それを逃さぬと言わんばかりにカマキリが迫った。
大きく広げた鎌脚をそのままに向かってくる。
一際大きな振動に耐えてみれば、抱き締める形でドラゴンに食いついていた。

(´<_`;)「いきなりピンチだぞ! このままじゃ墜落だ!」

(;´_ゝ`)「パ、パンチだ! ドラゴン!」

(´<_`;)「それしかないのかぁぁぁぁ!!」

急激な落下による無重力感のむず痒さを感じながらも叫ぶ弟者。
対する兄は、とにかく落ちないようにしがみついたまま『パンチだ』を連呼する。

まったくどうしようもない状況であった。

《ギャギギギギギギ!!》

カマキリも同様に思っているのだろう、笑い声に近い高さの声を発する。
その身の全体を使ってドラゴンに組みついた姿勢のまま、あろうことか直下降を開始した。

(´<_`;)「地面に叩きつけるつもりか!」

(;´_ゝ`)「それだけで済めば良いがな……!
     最悪、組み伏せられて串刺しだぞ!」



344: ◆BYUt189CYA :2008/01/30(水) 21:22:55.37 ID:6/Vur52L0
敵はカマキリの形をとっているが、その全身は刃であることに違いはない。

もしこちらが身動きのとれない状態になってしまえば、
その身を構成する刃を最大限に利用しての惨殺が始まるだろう。

後に続く周囲への被害だって無視は出来ない。
先ほどの攻防を見るに、一般兵が太刀打ち出来る怪物ではないのは明白だ。
ドラゴンと流石兄弟の惨殺の次は、虐殺へ続くに違いない。

《ギギギギギギギギギギィィィィ!!》

勝った、と言わんばかりに叫ぶ虫。
既に目前にまで迫った地面へ叩きつけるため、更に――

( ´_ゝ`)「――思考が浅いようだな、昆虫」

(´<_`;)「え……うおおっ!?」

兄者の確信めいた自信の声の直後、視界が一気に反転した。

《ギ!?》

一瞬の出来事である。
今まさに地面に叩きつけ、そして叩きつけられようとしていた両者の位置が逆転したのだ。

突然の出来事に、何も知らない弟者とカマキリが狼狽するのも無理はなかった。



349: ◆BYUt189CYA :2008/01/30(水) 21:24:13.28 ID:6/Vur52L0
乱れた大気が発する叩音の中、やけに大きく兄者の声が通った。

( ´_ゝ`)「言い忘れたつもりはないが!?
     俺はこのドラゴンを『格闘戦仕様として作り上げた』とな!!」

(´<_`;)「ってことはまさか――」

(#´_ゝ`)「大回転ドラゴンプレスじゃーい!!」

大音と大震が重なった。
位置を入れ替えたドラゴンが、カマキリを下敷きするようにして墜落したのだ。
その想像を絶する重さが地面を砕き、地震に近い衝撃を周囲に撒き散らす。

《ギ――ギュギョォォォォォ!!》

今の今まで勝利を確信していた敵に、衝撃を受け流すための姿勢を作り出す暇などなかった。
背からの激震が身体中に響き、メキメキと音立てて折れ曲がっていく。

(#´_ゝ`)「ここにきて加減は無用!
      マウントポジションで殴れ殴れ殴れぇぇぇぇぇ!!」

竜も同じことを思っていたのだろう。
兄者の命令が発せられる前から、その逞しい両腕を振り上げていた。

硬い鱗に包まれた拳が、カマキリの胴体を直撃する。

だが一撃では済まされない。
右が終われば左、左が終わればまた右、という正真正銘の連打が開始された。



358: ◆BYUt189CYA :2008/01/30(水) 21:27:35.27 ID:6/Vur52L0
流石、格闘用に生み出されただけはある。
抵抗しようとするカマキリの足を巧みに押さえつけ、隙が生まれた部位をつるべ撃つ姿は
ドラゴンの皮を被ったK-1ファイターを彷彿とさせた。

( ´_ゝ`)「名付けてサスガフェロウ(流石の眷族)――!」

(´<_`;)「兄者! それ駄目! 駄目だから!!」

(;´_ゝ`)「何故だ? 流石な俺が生んだ可愛い我が子に眷族の名が駄目だと!?」

(´<_`;)「そういう意味じゃない! パクりが駄目なんだって!」

《ギ――ギァ――ギュオォォォ――!!》

雨のように降り注ぐ拳打。
まさかの逆転に、カマキリは為す術もなく殴られていく。
せっかくの多足も仰向け、しかも根元から押さえつけられていては上手く動かせない。

矢継ぎ早に繰り出される拳は止まることを知らず
叩く度に、身体と装甲を構成している黒刃が血潮のように撒かれていった。

(#´_ゝ`)「無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァァァァァははははははは!!」

(´<_` )「これならば……倒せるぞ!」



366: ◆BYUt189CYA :2008/01/30(水) 21:29:22.20 ID:6/Vur52L0
だが、双子は気付けなかった。
その破壊されていく身体の内に、もう一つの身体が見え始めていたことに。
勝利が目前となった今、持ち前の観察眼を自ら盲目化してしまっていたのだ。

《ギュオ……ギギ……》

段々と大人しくなっていくカマキリだったが、
後で思えば、まさしく隙を生み出すための演技だったのだろう。
化物じみた外見で麻痺していたが、アレは形が変わってもウェポンなのだ。
『経験』を積むことの出来る、特殊な魔法武装なのである。

(´<_` )「あと一息だ!」

(#´_ゝ`)「この虫けら風情が! 人間様を嘗め――」

《ギィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィ!!!》

突如、浮いた。
ほぼ自身と等しいはずの体重を持つドラゴンを腹に乗せたまま、
カマキリは隠し持っていた刃翼を用い、大出力を以って飛翔したのだ。

(´<_`;)「う、おぉぉ!?」

(;´_ゝ`)「コイツまだ力を……!?」



374: ◆BYUt189CYA :2008/01/30(水) 21:31:15.45 ID:6/Vur52L0
一気に持ち上げられたドラゴンは、地面を支えにしていただけあって必然とバランスを崩す。
その隙にカマキリは離脱。
剥がされた装甲を完全に捨て去り、更に鋭利となった身体を震わせて距離をとった。

(´<_`;)「離れた……? 逆転するチャンスだったのに――」

(;´_ゝ`)「違うぞ弟者……!
     奴はおそらく学習しやがったんだ!」

遠く離れて飛翔する黒い影。
刃を折り畳み、風を味方とするように細長くなったフォルムは飛翔竜のようだ。

《――――!》

ある一点が光る。
合図として、身体中に光を灯らせていく。

(;´_ゝ`)「ドラゴン、飛べ! ここじゃあ狙い撃ちされる!!」

咄嗟の判断は正しかった。
空中でバランスを正したばかりの姿勢から、更に一段上へ飛んだ直後
合計六筋もの光が、今までドラゴンのいた空間をブチ抜いたのだ。

(´<_`;)「砲撃!?」

(;´_ゝ`)「格闘じゃあ勝てんと踏んだんだろう!
     俺達の射程外から砲撃して潰すつもりだ!」



382: ◆BYUt189CYA :2008/01/30(水) 21:32:50.06 ID:6/Vur52L0
言う間にも射撃が来る。
黒、もしくは赤に見える光が、直線軌道で襲い掛かった。

しかし、図体の大きいはずのドラゴンには掠りもしない。

格闘仕様だけあって瞬発力は高いようだ。
不意の一撃を往なした後は、余裕を持っての回避に移る。

(#´_ゝ`)「まったく、面倒なことをしてくれる……!」

(´<_`;)「兄者、ここは俺が限界突破を使って防壁を作る!
     その間に接近して、また格闘に――」

( ´_ゝ`)「駄目だ」

(´<_`;)「し、しかし俺の力は防御だろう!
     ここで使わなくて、いつ使うんだ!」

( ´_ゝ`)「防御の力だと言って、そのまま防御に使ってたんじゃ勝てない。
     アイツは姿形、そして主が変わっていても3rd−W『ウィレフェル』だぞ。
     弟者の持つ12th−W『ジゴミル』の性能は熟知されているはず」

確かに、その通りだった。
弟者はフサギコの目の前で能力を使ってみせたことがある。
それは彼の感覚器官を通じて、ウィレフェル自身の『経験』として蓄えられているだろう。

だとすれば、この場面で弟者がジゴミルを使うことは充分に予測が可能。
対処としての手段を用意していないわけがない。



386: ◆BYUt189CYA :2008/01/30(水) 21:34:53.56 ID:6/Vur52L0
( ´_ゝ`)「しかも異獣に手を加えられてる可能性も高い。
     全てのウェポンの最大出力はほぼ同じレベルに設定されているが
     そこをイジられてリミッターでも解除されてりゃ、おそらくジゴミルと言えど防ぎきれない程の一撃だって放てるだろう。
     鎌のくせに砲撃してくるのが良い証拠だ」

(´<_`;)「……ッ」

まったくの正論、そして確かな予測に弟者は固い唾を呑んだ。
もし自分一人であったならば、確実に12th−W『ジゴミル』を用いた突撃を行なっていただろう。
今更ながら、本気となった兄の冷静さに畏怖と尊敬の念を抱いた。

( ´_ゝ`)「だから、まだジゴミルは使わん。 使えば敵の意のままになってしまう」

(´<_`;)「ならばどうするつもりだ……?
     このまま距離をとられ続ければ勝負はつかない」

( ´_ゝ`)「簡単だ」

きっぱりと断言した兄者は、ドラゴンに『ある動き』を命じた。
それを聞いた弟者の顔が一気に青ざめていく。

(´<_`;)「ほ、本気か兄者!?」

( ´_ゝ`)「うむ、俺は嘘を言わん男だったらいいなぁと常々思っていた」

息を吸い、

( ´_ゝ`)「――何の防護も無しに、砲撃の嵐を潜り抜ける」



393: ◆BYUt189CYA :2008/01/30(水) 21:36:39.24 ID:6/Vur52L0
《ギギ――》

限界突破を経て爆発的な強さを手にしたウィレフェルは
先ほどまであった油断を捨て、しかし今度こそ勝利が近付いていると確信していた。

今までの攻防で、敵が遠距離攻撃を放てないことは既に解っている。
ならばこちらが砲撃戦に切り替えれば、相手は何らかの対処を強いられることになる。

おそらく、12th−W『ジゴミル』による防護を得ての突撃。

向かい来る全ての砲撃の嵐を無傷で突破し
そのまま再度、得意の格闘戦に持ち込むつもりだろう。
またあのような劣勢になってしまえば、次の『脱皮』が無い自分は今度こそ敗北する。

だが、そうならないための対処は施してあった。

全身を組み替えて細長くしたのは、風を味方して速く飛ぶことだけが目的ではない。
真の狙いは『自身を巨大な砲とする』ことであった。

口部分の中には既に砲口を完成させている。
あとは防護と共にやって来る敵に砲撃をぶつけて隙を生ませ、最大出力で狙撃するだけだ。
計算結果に出た攻撃力であれば、いくらジゴミルのシールドと言えど貫ける。

過程から見れば、勝利は堅い。



399: ◆BYUt189CYA :2008/01/30(水) 21:38:00.66 ID:6/Vur52L0
その時、音が聞こえた。
翼を動かして揚力を得る、原始的な飛翔音だ。

見れば、愚かにも桃色の竜がこちら目掛けて高速で向かってきている。

《ギギ……ギギギギギギ――!》

全砲門開放。
刃で作った砲口が全てドラゴンを見る。
限界突破効果で強引に作り上げた砲撃システムは、
その全ての機能をドラゴン撃墜のために傾倒させてあった。

射程範囲に入る桃色は、どこまで行っても苛立たせてくれる。

次の瞬間、ウィレフェルはドラゴン目掛けての全砲撃を開始した。

弾幕としての機関砲。
墜とすためのビーム砲。
撹乱を狙う無軌道レーザー。

一斉に放たれた多重の光筋が、放射線状に広がりつつも赤い空に疾走する。

それは徐々に大きく湾曲し、ターゲットとして設定された桃色の竜へ殺到した。



404: ◆BYUt189CYA :2008/01/30(水) 21:39:33.27 ID:6/Vur52L0
思った以上の攻撃の圧に、弟者は背筋が震えるのを自覚した。

(´<_`;)「う、ぉぉ……!」

(#´_ゝ`)「怯むな!!」

兄者の一喝がドラゴンの覚悟を更に堅くする。
細く鋭くなった両眼は既に砲撃を見ていない。
目指す先である異形となったウィレフェルへ、一直線に翼を動かした。

阻むかのように、前方どころか周囲から砲撃が来る。

その光景に似たものを、弟者は映画で見たことがあった。
だが、比較にすらならないことを身を以って知りつつあった。

映画では、この頬を切り裂くような突風を感じることは出来ない。
映画では、耳を叩く轟音の感触と殺気を感じることは出来ない。

そして何より、映画では、この胸に湧き上がる異常な興奮を感じることは出来ない。

早鐘を打つように鳴る心臓。
手先の冷たい感覚が熱く塗り変わっていく感触。
目の前を貫いていく『死』そのものと言える砲撃の圧。

その全てが現実であり、映画で見るような虚構とは似ても似つかない別物である。



409: ◆BYUt189CYA :2008/01/30(水) 21:41:10.91 ID:6/Vur52L0
(´<_`;)「くっ……!」

震えてしまうのは仕方のないことだった。
目の前に濃密な『死』があり、それが目の前を掠っていく状況に恐怖しないわけがない。

( ´_ゝ`)「弟者!!」

その、恐怖に負けてしまいそうな手を握る動きがあった。

( ´_ゝ`)b「俺を信じろ! お前を信じる俺を信じろ!」

(´<_`;)「こういう場面ではオリジナルで頼む! 空気嫁!」

( ´_ゝ`)「えー?」

ひゅ、という風切音。
兄者の頭上ギリギリをビーム砲撃が掠めていった。

(´<_`;)「兄者、死ぬ! いい加減アンタ死ぬ!」

(#´_ゝ`)「何を言うか! 自分の力を自分が信じないで一体誰が信じる!
      堂々とした余裕を持て、流石弟者!!」

(´<_`;)「……っ!」

つまり、信じているから撃墜されることはない、と彼は言いたいらしい。
まったく理に適っているとは言えないが、気迫という面で見ればこれ以上の覚悟もない。



414: ◆BYUt189CYA :2008/01/30(水) 21:42:46.68 ID:6/Vur52L0
(´<_`#)「とんでもない兄を持ったものだ……!
      だが、その覚悟に乗らせてもらう!」

(#´_ゝ`)「ついて来いついて来い!
      安心しろ! 何せ俺は天才を超えた大天才だからな!!」

もはや突っ込む気は起きなかった。
ここまで言い切るのならば、こちらとしても信じるしかあるまい。

(#´_ゝ`)「突撃――!!」

砲撃の嵐の中、更に速度を上げて空を走る。
この速度で一撃でも喰らってしまえば、おそらく助かることはないだろう。

しかし、先ほどまであった恐怖はどこにも無くなっていた。


――兄とならば何だって出来る。


そう、本気で思うことが出来たからだ。



419: ◆BYUt189CYA :2008/01/30(水) 21:44:16.67 ID:6/Vur52L0
《ギュギギギギギギギギィ!!》

異変を察知したのだろう、カマキリの動きに変化があった。
横腹を見せ付けるようにしていた位置から、今度は顔がこちらを向くように移動したのだ。
必然、砲撃の質は落ち、それだけ流石兄弟の突撃力も上がるのだが――

(´<_` )「諦めたか!?」

( ´_ゝ`)「いや、おそらく奴の切り札が来る!
      ジゴミルのバリアすら破壊するほどの一撃が!」

断言する兄者の予想は当たっていた。
大きく開いた口の中に、これまでとは比較にならないほどの大きな魔力塊が見えたのだ。

(´<_`;)「何という濃度……確かに、ジゴミルではアレを防ぐことは出来ん……!」

(#´_ゝ`)「だったら避けるしかあるまい! ここで勝負が決まるぞ!」

当たるか避けるか、二つに一つ。
二種の未来が、一つしかない椅子を巡って激突する。

(´<_`;)(あの攻撃は初見のはず。 見切りはほぼ不可能。
     もはや運に任せるしかないのか……!?)



423: ◆BYUt189CYA :2008/01/30(水) 21:45:47.24 ID:6/Vur52L0
(#´_ゝ`)「ドラゴン、お前に任せた! 俺達を向こうへ運べ!」

(´<_`;)「え……!?」

( ´_ゝ`)「こいつは俺が生み出したんだ。
     だったら、きっと俺の望む結果を出すはず。
     俺はそれを信じる。 それだけだ」

そう言い切った兄者は、何と目を瞑って視界を遮断した。
まだ砲撃は終わっておらず、そして敵の主砲がこちらを狙っているというのに。

(´<_`;)(そこまで信じられるか、普通……!?)

こうなったらヤケだ。
既に自棄の覚悟を決めていた弟者だが、更に大きな覚悟を追加して
兄者と同じように硬く目を閉じる。



――瞬間、吸い込まれるような感覚の後、全ての音が消滅した。




430: ◆BYUt189CYA :2008/01/30(水) 21:47:23.54 ID:6/Vur52L0
再び感覚が戻った頃には、先ほどまであった騒がしい砲撃の音が止んでしまっていた。
身体がまだあることを、耳が聞こえることを確認し、弟者は恐る恐る目を開く。

(´<_` )「……お」

真っ赤な色が目に飛び込んできた。
それが空であると気付くのに、数秒の時間を必要とする。

何も無い。

弾幕も、ビーム砲も、レーザーも、そして敵の姿さえも。
さっきまであったはずの殺気も何もかもが、視界から消えてしまっていた。

ただ、自分の身を乗せているドラゴンの感触はあった。
置いてある手で撫でてみれば、鱗特有の硬くザラザラした感触を感じる。
つまり自分はまだ生きているということだ。

(´<_`;)「ど、どう――」

なって、と言おうとした時、その肩を叩く動きがある。

( ´_ゝ`)「いくぞ、弟者。 最後の仕上げだ」

隣。
兄者が強い笑みを浮かべ、そして背後を指差した。



435: ◆BYUt189CYA :2008/01/30(水) 21:49:05.37 ID:6/Vur52L0
見る。

そこには、こちらを目で追う敵の姿があった。
更に向こう側となる背景に、異獣の中枢を護るドーム状の結界があり
その一部から大きな煙を上げていることに気付いた。

どうやら高速で突撃した結果、敵の傍を通り過ぎてしまったらしい。
回避した主砲は、先ほどまでドラゴンの背後にあった結界に直撃したのだ。

( ´_ゝ`)「あの威力でも破壊出来んとはな。
      まぁいい、そっちの方が好都合だ」

(´<_`;)「あ、兄者? 何を――」

(#´_ゝ`)「ここがお前の力の発揮する時! 行くぞ!!」

視界が急激に動いた。
慌ててしがみ付き、兄者の狙いを推測する。

ドラゴンは斜め下降の姿勢だ。
大きな翼で大気を叩き、速度を上げていく。
その目指す先には、先ほどまで対峙していたウィレフェルの姿が――

(´<_` )「――そうか……そういうことか!」

(#´_ゝ`)「頼むぞ弟者!!」

(´<_`#)「あぁ、解った兄者!」



441: ◆BYUt189CYA :2008/01/30(水) 21:50:22.15 ID:6/Vur52L0
腕を掲げ、強風の中で立ち上がる。
今にも吹き飛ばされそうな衝撃が身を襲うが、足を踏ん張らせて耐え切り
そして、ありったけの声で吼えた。

(´<_`#)「12th−W『ジゴミル』――OVER ZENITH!!」

金の光が散る。
それはドラゴンの前面に展開され、弟者の思う通りに密度を増していき
結果、一つの巨大なシールドを完成させた。

だが、その目的は防衛のためではない。
むしろ敵を撃破するための第一工程である。

(´<_`#)「今度こそ、これで終わりにしてやる!!」

(#´_ゝ`)「迷うことなく猪突猛進――!!」

轟、と風を切り裂いてのチャージだ。
先ほどまでとは違う正真正銘の攻撃姿勢である。

《――ギ!!》

眼下にいるウィレフェルはドラゴンの勢いと兄弟の表情を受け、決定打を予知した。

バリアを張っての突撃は、特にこの場面となっては確かに有効だろう。
既に主砲を撃ってしまったために対抗手段は皆無と言えるからだ。
しかもあの速度ならば、こちらが完全に動く前に捉えられてしまう。



449: ◆BYUt189CYA :2008/01/30(水) 21:52:00.42 ID:6/Vur52L0
(#´_ゝ`)「いっけぇぇえええ!!」

撃震、そして撃音。

弟者が放つ黄金の壁を盾に真正面からぶち当たった。
下降速度も相俟って、その衝撃は今までの中でも最高の威力を刻むことになる。

《ギ――》

(´<_`#)「おおおぉぉぉぉぉぉッ!!」

《――ュオオオオオオオオオオオ!!》

為す術もなく体当たりの直撃を受けたウィレフェルは、悔やみか苦痛か、甲高い悲鳴を挙げた。
抵抗するためにもがくが、加速に加速したドラゴンの勢いを止めることは出来ない。

だが、どうするつもりなのか。

先ほどのように地面に叩きつけての優位に持ち込むのか。
それとも、別の――

その瞬間、確かにウィレフェルは見た。

( ´_ゝ`)σ「後ろ、見てみ」

兄者の、悪戯を企むような無邪気な笑みを。



456: ◆BYUt189CYA :2008/01/30(水) 21:53:17.26 ID:6/Vur52L0
《……!?》

兄者の楽しげな言葉に、向かう先が地面などではないのだと知る。
同じ降下とはいえ、真下ではなく斜め方向へ吹き飛ばされている時点で気付くべきだったのだ。


――異獣の中枢部を守る大型結界へ向かっている、と。


格闘戦へ持ち込む?
甘い、甘過ぎる。
この兄弟、この状況においてとんでもないことを――

《ギ――ギギギギギギギギギギギギギギ!!!》

慌てて形状を変化させて離脱しようとするが、勢いから逃れることは出来ない。
ドラゴン本体を攻撃しようにも、前面に張られているジゴミルのバリアに防がれる。

(#´_ゝ`)「名ぁぁぁぁ付けてぇぇぇぇええええ!!」

(´<_`#)「流石バリアァァァァ!!」


(#´_ゝ`)「「サンドウィィィィッチィィィィィイイイ!!!」」(´<_`#)


《ギュギャアアアアアアアアアアアアアアア!!?》

直後、ドラゴンとウィレフェルが縺れ合うようにして、中枢結界の表面に激突した。



463: ◆BYUt189CYA :2008/01/30(水) 21:54:42.58 ID:6/Vur52L0
耳を聾さんばかりの轟音が響く。

同時、大震動が空間を揺るがした。
衝撃の強さは、発生したプラズマのような魔力の奔流で推して知れるというもの。

そもそも中枢部を守る結界は、不滅世界の純正ルイルを使用する『神の裁き』で破れるか不明なほど
濃密な魔力によって編み込まれている――いわば存在するだけで危険なモノだ。

そして、そのような完全な『拒絶』という情報で構成されたバリア同士に挟まれれば
如何なる存在であろうとも、消し飛ぶという結果にならなくては道理として合わない。

無論、限界突破で高められた力を持つウィレフェルでさえも、例外ではなかった。


《――オォォオオオオオォォオオオォォオオオオォォォォ!!!》


断末魔の叫びとは、この事を言うのだろう。

先ほどまでの金切り声とはまた違った、怨念を励起させるような叫喚。
苦痛を通り越した何かを刻まれる時に吐かれる『音』が響いた。



469: ◆BYUt189CYA :2008/01/30(水) 21:56:23.21 ID:6/Vur52L0
朽ちていく。
異獣の介入を受け、更に限界を超えたはずの力が。

犀利を誇っていたはずの、堅固な身体を構成していたはずの黒刃は、もはや機能を失っていく。

脱出する暇も、力も持てなかったウィレフェルは、


《ュ――――オォ――――オォォォォ――――》


今際の際、諦念したような儚さの声を残し、



《………………――――――》




完全に、消滅した。



489: ◆BYUt189CYA :2008/01/30(水) 22:02:07.88 ID:6/Vur52L0
現実とは、常に瞬刻の積み重ねの最先端を指して言うわけだが
その内のたった一つにおいて、運命を分ける瞬間というものがある。

強運を持っているならば、例え修羅場の最中にいようとも偶然必然問わず、
その一瞬を見極めて生を得ることもある。
経験を積んだ者ならば、取捨選択して最適な行動をとることも可能だろう。




それは、本当に一瞬の出来事であった。

もはや取り戻せない、過去への憧れであった。

来るであろう未来に対する、後悔でもあった。



だが、残念ながら――非常に残念ながら、『彼』はそのどちらも持ち合わせることはなかった。



499: ◆BYUt189CYA :2008/01/30(水) 22:04:02.48 ID:6/Vur52L0
('、`*川「……っ!」

銀髪の女の歩調が乱れたのは、流石兄弟がウィレフェルを撃破したと同時であった。
おそらく魔力の経路が絶たれたことにより、何らかの物理的なショックが彼女を襲ったのだろう。

今はその原因を知ることのないドクオ達だが、
何にせよ、なかなか見出せなかったチャンスであることには変わりない。

从ξ゚ -゚ノリ「――――」

己の内側に在る『動きの阻害の元』を遂に押さえたのか
二枚刃を得てからの銀髪の女は、一対一でペニサスを追い詰めるほどの動きを見せていた。
英雄として強者であると自他共に認めていた彼女が押され始めた時は
流石に、ドクオも己のやるべきことを放棄してまで手助けしようかと悩んだ。

だが、ここに来て千載一遇の好機を得ることとなる。
押され気味であったペニサスが、それを逃がすわけがない。
よろけてバランスを崩した銀髪の女に肉薄しながら

('、`*川「――ドクオ君! 準備はいい!?」

(;'A`)「りょ、了解……ッス……!!」

ドクオは前線に立っていなかった。
後方で、ペニサスの支援をしているわけでもなかった。
予め決めた位置――装甲車の車体を背に預けた姿勢で、7th−W『ガロン』を構えている。

しかし、その形態は以前のモノとは明らかに違っていた。



504: ◆BYUt189CYA :2008/01/30(水) 22:05:42.73 ID:6/Vur52L0
【マジックサークラー展開――確定。
 六連波状ミラー展開開始――wwヘ√レvv――順次確定中。
 ロックbPからbRまでを解除、同時にリング軌道修正の並列処理を開始。
 ――wwヘ√レvv――第七工程完了。
 ロックbSからbWまでの解除を確認――エラー、強制解除。
 『ガントリガー』生成――コード:1433認証中――承認。
 第八工程完了――wwヘ√レvv――】

(;'A`)「……ッ」

ノイズ混じりの機械音声がドクオの脳に直接響く。
脳髄の余っている余剰処理能力を、接続したガロンが使用しているためだ。

とんでもない量の情報が出入りする感覚は形容し難いものがあるが
発射までのタイミングを正確に知れるという点において、この方法は有効だった。

戦いの素人であるドクオが、異獣と化したツンを捉えるのは難しい。
しかし、この準備している一撃が決定打になり得る可能性を秘めているのも事実。

半ば強引、そして運任せに近い部分もある作戦だが
現状において最も有効だろうと思われるのが、ガロンによる最大出力の一撃であった。



511: ◆BYUt189CYA :2008/01/30(水) 22:07:52.51 ID:6/Vur52L0
今、彼が抱えている銃の大きさは、ただ巨大である、としか言いようがない。

初めて限界突破を使用した時よりも
その後、何度か戦いの中で使った時よりも、遥かに巨大である。

銃身の太さからして既に人の身を超えそうだ。
その重さを支えるため、先端部にはいくつかの補助足が地面に刺さっている。

更に言えば、ドクオが握るトリガー部分は真下ではなく真横に突き出している形で
スコープを片目に装着した彼が、それを握り締めている。
ストックは意味を為さないため外されており、後方の支えは装甲車が請け負っていた。

魔力というエネルギーが銃身を循環していく音。
既に臨界点に達していることは、頭の中に流れ込んでくる情報で理解している。

あとは、必中という機会を得た瞬間にトリガーを引けばいい。

(;'A`)(ツン……あと少しだ。 もう少し我慢してくれ)

既に覚悟は決めている。
ツンを殺してしまうということ。
その罪の重さと、後の人生に差す影を生涯背負っていくという覚悟を。

それが、今のドクオに出来る精一杯の懺悔であった。



515: ◆BYUt189CYA :2008/01/30(水) 22:09:17.59 ID:6/Vur52L0
('、`*川「お――っ!」

从ξ゚ -゚ノリ「……!」

懐に飛び込んだペニサスが、その膝で腹部を貫いた。
前へ倒れ込むように身を折る敵の首を握り、連撃を浴びせる。

クロスレンジの中にいるペニサスは水を得た魚だ。
先ほどまで苦戦していた二枚刃を苦もなく往なし、ダメージを重ねていく。
刃が最も力を発揮するショートレンジに移行しないよう
常に離れずの足捌きで位置を維持する技術は、流石としか言いようが無い。

('、`*川「滅ッ!!」

遂に、混乱の極みに達そうとしている銀髪の女の脳天に、踵落としが直撃した。

('、`*;川「――今よッ!!」

鋭い声に促されるように、ドクオは引き金に掛けた指に力を入れた。
一瞬で離脱するペニサスが攻撃範囲内からも消えたことを確認しつつ――

从ξ゚ -゚ノリ「!!」

(;'A`)「!!?」

ここに来て異変が起きた。
うずくまるように倒れかけていた銀髪の女が、見違える速度で地を蹴ったのだ。



521: ◆BYUt189CYA :2008/01/30(水) 22:12:17.38 ID:6/Vur52L0
('、`*;川「なっ――嘘でしょ!?」

ペニサスの驚愕の声。
同時、極限まで集中していたドクオの感覚が引き伸ばされる。

いわゆるスローモーションとなった視界の中、
ガロンの攻撃範囲から逃れるように――つまり真横へ、銀髪の女が動いている。
このまま撃っても当たらないことは明白だった。

だとすれば、今から軌道を変更すべきか?
しかし、そのタイムラグが致命的になる場合も――

「――撃ってくださいッ!!」

思わぬ方角から声が来た。
今までドクオを何度も助けてくれた、希望の声が。

先ほどまで戦意喪失していたのではないのか、という疑問は浮かばなかった。

彼はここぞという時にやって来てくれて、導いてくれるのだから。
どこまでも頼りになり、どこまでも気高いのだから。


今回もそうだと信じ込んだドクオは――愚かにも――その声に押されるように引き金を引いた。



529: ◆BYUt189CYA :2008/01/30(水) 22:14:15.51 ID:6/Vur52L0
それは、本当に一瞬の出来事であった。

本来ならば当たらぬ軌道で魔力のレーザーが発射される。
超高密度を誇る一条の光は通った際、そこに在るモノを全て消し飛ばす。
だが、定められた道筋に消すべき存在はいない。

影が躍り、空気が騒いだ。

いや、違う。

从ξ゚ -゚ノリ「――――っ!?」

発射寸前の銃口の先、離脱しようとしていた銀髪の女が転がり出てきたのだ。
無論、彼女の意思によるものではなく、はっきりとした外因が在った。

(;'A`)(フサギコさん!?)

銀髪の女にしがみつくようにしているのは、なんとドクオに射撃を促したフサギコ本人であった。
逃れようと跳んだ先から、全力のタックルを仕掛けたのだろう。

何をしている。
このままでは呑み込まれ――

――ドクオは、見る。

フサギコの頬に涙が流れ、しかし口元に笑みが浮いているのを。
銀髪の女の耳元に寄せ、何か短い言葉を紡いだのを。


直後、二人はドクオの放ったレーザーに照らされ、存在を抹消された。



544: ◆BYUt189CYA :2008/01/30(水) 22:15:40.06 ID:6/Vur52L0
('A`)「あ――」

全ては一瞬であった。
時間にして秒にすら満たない、小さな小さな時の間。

(;A;)「あぁ――」

しかし、その中でドクオは、今後の人生に大き過ぎる影響を与える因子を見てしまった。
もう既に手遅れとなったことを示す光を見ながら、彼はようやく知る。


先ほどのフサギコの声は『希望』などではなかったのだ、と。
ツン諸共死ぬために放った、決して聞いてはならない言葉だったのだ、と。


結果的に言えば希望だったのだろう。

彼の働きの末、銀髪の女という西軍最大の脅威は取り除かれた。
もし一撃を外してしまった場合の、更なる被害拡大は止めることが出来た。
それは、何よりも褒められるべき結果である。



565: ◆BYUt189CYA :2008/01/30(水) 22:17:21.25 ID:6/Vur52L0
( A )「あぁぁぁぁ――」

しかし。
だが、しかし。

一人なら、耐え切れた。
ツンという存在を殺すだけならば、まだ耐えられた。
悲しみを分かち合えるフサギコがいれば、きっと、あるいは。



だが、彼は二人も殺してしまった。



「ああぁぁぁぁぁぁああああぁぁぁぁぁあぁああああああ――――!!!」



ドクオの拙い心が、その衝撃に耐えられるわけがなかった。



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