( ^ω^)ブーンと川 ゚ -゚)クーは抗い護るようです
- 6: ◆BYUt189CYA :2008/03/28(金) 17:21:52.84 ID:fmjQj92D0
- 一つの大きな残骸が在った。
元々は大きなトレーラーだったものだが、無残に破壊し尽くされている。
原因は目に見えて解っていた。
グシャグシャに歪ませた車体の至る場所に、『棒』が突き刺さっているのだ。
いや、ただの棒ではない。
よく見れば刀である。
光を反射する刀身の美しさもあり、遠くからすれば白色の棒に見えるだけであった。
蹂躙された鉄塊。
突き刺さる大量の刀。
それは一つの前衛的なオブジェにも見受けられる。
だが、見る者は一人としていない。
周囲にある数々の視線は別の方向へ集中していた。
己が先を決める重要な局面へ、である。
第五十一話 『四方決戦 Ver/South 【Dead Men Tell No Tales ... But ――】』
- 12: ◆BYUt189CYA :2008/03/28(金) 17:26:22.30 ID:fmjQj92D0
- ル(i|゚ ー゚ノリ「初めまして、と言える者もいれば……久方振りだ、と言える者もいるな」
ノハ#゚ ゚)「…………」
(;゚д゚ )「…………」
(#゚;;-゚)「…………」
動く気配は一人分だけだ。
青髪の女――ミリアが、腰に吊った白刀を揺らしながら悠々と語る。
対するように三人が強く睨むも、彼女には通じていないようだ。
最大限の警戒は当然だろう。
目の前にいる敵は、人を超えた人であるからだ。
ル(i|゚ ー゚ノリ「久方振りの良質な殺気だ。 誰もが私を殺したいと思っている。
今まで様々な殺し合いを経験してきたが、この姿になってからはあまりに空虚な戦いが多くてな。
嬉しさの余り、解っていても饒舌になってしまう」
(;゚д゚ )「やはり貴様は――」
ル(i|゚ ー゚ノリ「はて、それはどちらのことを言っている?
我々が数々の世界を食い荒らしてきたことか、それとも私自身が元人間であることか?」
(;゚д゚ )「……人間、だったのか」
ル(i|゚ ー゚ノリ「見れば解ると思うがね。
獣の中で人の形を保っている、ということは原型があったからに他ならない。
まぁ、獣よりも人の遺伝子が多いだけだが」
- 16: ◆BYUt189CYA :2008/03/28(金) 17:28:20.34 ID:fmjQj92D0
- (#゚;;-゚)「ふぅん……でも、だから言うて加減するほど御人好しやないよ?」
ル(i|゚ ー゚ノリ「むしろ困る。 つまらんからな」
真っ向からぶつかる挑発の応酬。
だが、どちらも大きく構えたまま動こうとはしなかった。
両戦力の中でも秀でた者同士が対峙しているのからには、その誇りのためにも動揺してはならない。
そして、いつ始まってもおかしくない死闘の緊張の中、その時を今か今かと待ち続ける猛犬がいる。
ノハ#゚ ゚)「…………」
ヒートだ。
仮面の中に憎悪を秘めていた彼女が、その感情を露わにしてミリアを睨んでいる。
既に腰は落とされており、その手は武器の柄に掛かろうとしていた。
隣にいるミルナですら漏れ出る殺気を感じられるほど、念が強い。
彼女がミリアを恨む気持ちは当然だった。
かつて異獣に拉致され、『顔』を剥がされた過去を持っている。
それを行なった相手が目の前にいる状況ならば、落ち着いていられる方が難しい。
- 23: ◆BYUt189CYA :2008/03/28(金) 17:32:57.44 ID:fmjQj92D0
- ル(i|゚ ー゚ノリ「ふふ、ふふふふ」
ノハ#゚ ゚)「…………」
ル(i|゚ ー゚ノリ「やはり私の目に狂いはなかったな。
死なすには惜しいという直感は見事に当たったわけだ。
そこにいる軍神共々、良き闘争を期待することが出来そうで嬉しいよ」
ノハ#゚ ゚)「……ねぇ」
ミリアの言葉など聞こえていないように、ヒートが口を開く。
ノハ#゚ ゚)「貴女にとって私達――いや、人間とは何?」
ル(i|゚ ー゚ノリ「餌だ」
(;゚д゚ )「……!」
ル(i|゚ ー゚ノリ「厳密に言えば、最終的に『餌』となる。
それまでは我々を楽しませてくれる『玩具』と呼ぼう。
その中で奇異な力を持つ者は『材料』と呼ぼう」
(#゚;;-゚)「…………」
かつて異獣に『材料』とされた軍神が、一際強い視線でミリアを睨む。
ヒートはそれよりも更に強く、相手が人間であれば容易く射殺せそうな殺意を送る。
- 28: ◆BYUt189CYA :2008/03/28(金) 17:35:59.62 ID:fmjQj92D0
- ル(i|゚ ー゚ノリ「さぁ、互いの意思は確認した。 始めようか」
両腕を水平に広げ、その五指を大きく開く。
次の瞬間、彼女の手には左右それぞれ三本ずつの白刀が握られていた。
ル(i|゚ ー゚ノリ「これより始まるのは一つの結末だ。
巡りに巡った機運幸運。 それを記念に踊り狂おう。
音として剣拳蹴走(ケンケンシュウソウ)の四重奏をバックに、この世界最高の武踏を!」
ミリアの手品じみた力を前にして尚、軍神達は闘争の意思を曲げない。
もはや言葉は要らないと理解した。
互いが互いを殺すと認め合った以上、あとは力をぶつけるのみだ。
どちらかが消滅するまで止まることはないだろう。
(#゚;;-゚)「準備はえぇな? こっからはフルパワーで行くよ」
( ゚д゚ )「解った。 サポートは任せろ」
ノハ#゚ ゚)「……殺す――!!」
刀を構えたミリア目掛け、二人の英雄と一人の軍神が疾駆を開始した。
- 31: ◆BYUt189CYA :2008/03/28(金) 17:37:20.17 ID:fmjQj92D0
- ル(i|゚ ー゚ノリ「ははは! さぁ来いよ人間共!
我が白刀にて串刺しのオブジェとなれ!!」
(#゚;;-゚)「あんま人間嘗めンときや……!!」
逸早く飛び出したのは軍神。
英雄すら凌駕する驚異的な運動性が、大地を削りながらの接近を可能とする。
その突進の勢いで放たれるは、巨岩すらブチ壊す一撃だ。
( ゚д゚ )「ヒート! 隙間は俺に任せろ!」
ノハ#゚ ゚)「――言われなくとも!!」
そのバックサイドを、ミルナとヒートがそれぞれ担当している。
左右、そして背後に避けようとも逃さない必中の陣形だ。
ル(i|゚ ー゚ノリ「即席にしては随分と動きが良いようだ」
( ゚д゚ )「人間とは解り合える生物だからな!」
(#゚;;-゚)「何ナチュラルに恥ずかしいこと言うてん――のっ!!」
約五十メートルの距離を三秒で走破した軍神が、そのままの勢いで拳を突き出した。
大気の壁を突き破る一撃は、白い衝撃波を散らしながら――
(#゚;;-゚)「む……!」
突如、合間に出現した三本の刀によって防がれることとなる。
- 33: ◆BYUt189CYA :2008/03/28(金) 17:39:41.32 ID:fmjQj92D0
- 多重の破砕音。
交差された刀が粉々に砕けたのだ。
当然、それによって軍神の攻撃がミリアに届くことはない。
ル(i|゚ ー゚ノリ「三本でも砕かれるか。 思った以上に強力だな」
(;゚д゚ )(何だ、今のは――!?)
驚くべきは軍神の攻撃を防いだ刀ではない。
その刀が、明らかに不自然なタイミングで出現したという事実だ。
ミリアの両腕には爪のように構えられた左右計六本の刀。
両腕が塞がっている以上、あの防御に使われた三本を出すことは出来ないはず。
更に言えば、ミリア自身はまったく身動きしていない。
まるで、最初からそこに刀が在ったかのような光景だった。
- 35: ◆BYUt189CYA :2008/03/28(金) 17:41:08.94 ID:fmjQj92D0
- ノハ#゚ ゚)「はぁぁぁぁあああ!!」
軍神の陰からヒートが飛び出す。
右手に包丁刀、左手に槍を携えての二装攻勢。
近接攻撃に特化した構えの赤い影が、ミリアから見て左手側から肉薄する。
だが、
ノハ#゚ ゚)「くっ!」
ル(i|゚ ー゚ノリ「これも、少々足らんな」
軍神の時と同じように、突如出現した刀によって防がれてしまう。
シールドのように据えられたからには、刀ではなく盾としての機能を発揮して攻撃を受け止める。
刀身が撓み、爆ぜる。
しかし、通らない。
軍神とヒートの連続攻撃が、たった六本の刀によって無効化される。
相手は一歩たりとも動いていないというのに。
(#゚д゚ )「このッ!!」
こうなったらダメ押しの三撃目だ。
未だヒートの方を見ているミリアを確認しつつ
彼女とは逆方向から飛び出したミルナが、震脚を以っての崩拳を叩き込もうとした。
- 40: ◆BYUt189CYA :2008/03/28(金) 17:44:14.49 ID:fmjQj92D0
- 軍神、ヒートときてミルナという連続攻撃は数秒にも満たない速度で放たれる。
いくらミリアと言えども、この三撃目は解っていても反応が追い付かないはず。
事実、未だミリアはヒートに視線を向けたままだ。
この一撃は――!
入る、と思った次の瞬間。
(;゚д゚ )「ッ!?」
彼女の身に当たるはずの拳は、その直前、やはり同じように出現した刀に阻まれる。
二度あることは三度あるとは言うが、まさか当然のように実現するとは。
ル(i|゚ ー゚ノリ「ほぅ? 我が刀に触れても拳が死なぬとは。
英雄神も面白い土産を置いていったものだ」
英雄神が行なった一つの変革とも言える『英雄の遺伝子』。
世界の質すら変更するそれは、英雄世界にあった純正ルイルの力を以って発動した。
その遺伝子、つまり英雄としての素質を持つ者達の体内に、魔力が宿るのは必然の話である。
己の身一つで異獣と対することが出来る唯一の人間種族。
それが英雄であり、その名で呼ばれる真の理由だった。
が、今はそれどころの話ではない。
この敵が持っている力の意味を、ミルナ達は計りかねていた。
(;゚д゚ )「オートプロテクションの類か……!?」
ル(i|゚ ー゚ノリ「そんな生易しいモノであれば、お前達にとってどれほど良かったか」
- 42: ◆BYUt189CYA :2008/03/28(金) 17:45:32.97 ID:fmjQj92D0
- ミリアが、動く。
両腕を翼のようにして広げ、口元に笑みを浮かべて。
左右三本ずつ刀を構えた姿は、獲物を前にした猛禽類そのままだ。
ル(i|゚ ー゚ノリ「さぁ、次は私の番だな」
(#゚;;-゚)「!」
ル(i|゚ ー゚ノリ「警戒しているな? しているのだな?
いいぞ。 警戒するということは未だ恐怖があるということだ。
その恐怖こそが私を昂らせる」
(;゚д゚ )(来る……!?)
ル(i|゚ ー゚ノリ「踊り狂えよ」
声を皮切りとしてミリアの腕が掻き消える。
いや、これは――
(;゚д゚ )「むぅ!?」
――咄嗟に防御した腕に大きな衝撃が走った。
- 45: ◆BYUt189CYA :2008/03/28(金) 17:47:15.09 ID:fmjQj92D0
- ル(i|゚ ー゚ノリ「ほぅ、受け止めたか」
(;゚д゚ )(何という速度か……!)
見えなかった。
追えなかった。
攻撃を受け止めた後で、それがミリアが投げ放った刀だと気付かされたのだ。
まさに瞬間移動という速さの攻撃を受け止められたのは、
ミルナの英雄としての直感が働いたおかげである。
だがそれは必然ではなく、まったくの偶然としか言えなかった。
もし数瞬でも反応が遅れていれば、おそらく胸を裂かれて戦闘不能になっていただろう。
(;゚д゚ )「ぐ、ぅぅ……!?」
異変に気付いたのは直後だ。
今、盾のようにして構えられた両腕に刃が一本、横薙ぎ気味にぶつかっている。
腕は強固な魔力装甲で覆われているが、それでも大きな痛みが骨の芯まで響いていた。
それはいい。
しかし、その刀が腕から離れない。
柄を持って押し付ける透明人間がいるのか、尚も装甲へ刃を食い込ませている。
それはまるで、刀自体に意識があるような光景だった。
(;゚д゚ )(何だ、これは……! 奴の能力か!?)
- 50: ◆BYUt189CYA :2008/03/28(金) 17:49:47.79 ID:fmjQj92D0
- ル(i|゚ ー゚ノリ「そらそらそら! その腕、いつ砕けてしまうかな!?」
たった一本の刃で苦戦しているというのに、無情にも追加の投擲が行われてしまう。
更に重ねられる攻撃。
吹き飛びそうになる腕を抑えつけつつ、ミルナは歯をくいしばって身を固め続ける。
それでも痺れる痛みに、両腕の感覚が無くなり始めた時、
ノハ#゚ ゚)「――ミルナ!!」
紅蓮の色を纏う、待ち望んだ救援が飛び込んできた。
ミルナの腕を斬り裂こうとしていた三本の刀が、横からの攻撃で砕け散る。
ノハ#゚ ゚)「よくも……!」
そのまま反転したヒートは、悠然と構えるミリアの元へ疾駆した。
ル(i|゚ ー゚ノリ「次はお前が私と踊ってくれるのか?」
ノハ#゚ ゚)「その口――いや、そのふざけた存在自体を潰してやる!
塵芥一つ残してなるものか……!!」
ル(i|゚ ー゚ノリ「それは楽しみだ」
- 56: ◆BYUt189CYA :2008/03/28(金) 17:52:11.22 ID:fmjQj92D0
- ヒートの猛攻は苛烈の一言では説明出来ないほど強烈だった。
しかし、包丁刀を槍を駆使した前方特化攻撃は、ミリアに届くことが無かった。
あの奇妙な防御方法が、またしても彼女の攻撃を防いでいるのだ。
多重の金属音ばかりが打ち鳴らされる。
一撃で身を破壊される刃が重なり、まるで雪のように散っていく。
勢いで言えばヒートが押しているようにも見えた。
堅牢を誇るミリアの周囲を跳ね、寸劇を見出す技術は流石だ。
だが、それでいてただの一度すら掠らせもしないミリアの実力も、相当なものだろう。
(#゚;;-゚)「んー、一対一やと勝ち目ないっぽいねぇ。
ってかあの能力がよぅ解らん」
(;゚д゚ )「のん気に言ってる場合か!」
(#゚;;-゚)「慌てても仕方ないやろーに。
今はどうすればマトモに戦えるか考えなあかん」
軍神の言う通り、現状はミリアとまともに戦えているとは言い難いものがあった。
数はこちらが勝っている。
技量だって、そこいらの兵には負けないと自負している。
今までの戦闘による経験も、しっかりと身についている。
しかし、それですらミリアには届かない。
力の押し通しが駄目だというのならば、策を以って隙を見出すしかないだろう。
情報が足りないのが現状であることを踏まえれば、これからは相手の出方を伺う必要が出てくる。
- 62: ◆BYUt189CYA :2008/03/28(金) 17:56:16.07 ID:fmjQj92D0
- ノハ#゚ ゚)「くっ……」
結局、隙を見出せなかったヒートが下がった。
『蜘蛛姫』の業名を持つ彼女でも一度として刃を浴びせられないとなると
いよいよこちらの危機が、具体的な形になってきたようだ。
ル(i|゚ ー゚ノリ「その程度か、人間。
我らに刃向かう覚悟は、生きようとする意志は。
それとも、ただのスロースターターというわけか?」
余裕綽々といった様子で口端を吊り上げる。
全てを見下し、その上で愉悦を求めるサディストの笑みだ。
それは、決して人間が浮かべて良い笑みではない。
ル(i|゚ ー゚ノリ「人間とは感情の撃鉄がそれぞれ違うと聞く。
だが、その中にも法則性というものがあってな。
例えば――」
ゆらり、と動く右腕。
ル(i|゚ ー゚ノリ「――大切なモノを傷付けられたり」
白色の肌の切っ先が向くは、仮面の女の方角。
ノハ#゚ ゚)「ッ!?」
- 68: ◆BYUt189CYA :2008/03/28(金) 17:58:19.72 ID:fmjQj92D0
- 次の瞬間、ミリアの周囲から出現した十数もの刀が一斉に『発射』された。
円状順列連射の形で放たれた刃は一つの直線として飛ぶ。
あれをまともに喰らってしまえば、ヒートと言えども致命傷は免れないだろう。
( ゚д゚ )「ヒートッ!!」
彼女が黒の脇差を握ったのを見たミルナは
先ほど彼女がしたように、横から刃を砕きにかかった。
超速で走る刃に、恵まれた動体視力を合わせて拳を放つ。
鳴り響く砕音。
一本一本は大したことのない強度だが、今や速度もあってか弾丸と化している白い刃。
そんな物体を横から殴れば摩擦によって皮膚が傷付くのは当然の帰結だ。
しかしミルナにとって拳よりもヒートの方が大切であるが故に
ダメージなどまったく気にすることなく、無心で拳の連打を叩き込む。
ノハ#゚ ゚)「ミルナ! 無茶はしないで!」
(#゚д゚ )「残念だがお前を護るのは、俺の役目でな。
それにさっきの借りもある……却下だ!」
(#゚;;-゚)「――!? ミルナ!」
軍神の鋭い声が聞こえたのと、ミルナが殺気を身に受けたのは同時だった。
- 76: ◆BYUt189CYA :2008/03/28(金) 18:00:31.49 ID:fmjQj92D0
- ル(i|゚ ー゚ノリ「そう……人は大切なモノを護ろうとして、自分を疎かにしてしまうのさ」
ミルナは見る。
ここにきて第二射が行なわれたのを。
先ほどよりも増した数の刃は、全てミルナの方へと切っ先を向けていた。
(;゚д゚ )(本来の狙いは――この俺!?)
まんまと騙された。
いや、誘き寄せられたのだ。
(;゚д゚ )「ぐっ……!?」
まともに防ぐ暇もない。
辛うじて掲げた右腕に純白の刃が直撃する。
その衝撃たるや、とても華奢な刀が生み出したとは到底思えないものだった。
足が浮く。
地に張っていた重心が、いとも容易く剥がされていく。
ノハ#;゚ ゚)「ミルナ!!」
(;゚д゚ )「っ!? おおおおぉぉ!?」
ヒートの手がミルナを掴もうとするが、惜しくも空を切る結果に終わった。
そのまま勢いを止め切れなかった彼は、半ば引き摺られるようにして吹っ飛んでいった。
- 79: ◆BYUt189CYA :2008/03/28(金) 18:03:47.18 ID:fmjQj92D0
- ノハ#;゚ ゚)「……!」
(#゚;;-゚)「止めとき。 あの程度で死ぬような男やない。 すぐ戻ってくる」
ノハ#;゚ ゚)「でも!」
(#゚;;-゚)「ってか、アンタさえもここからいなくなると非常にまずいんよ。
ウチ一人やと死ぬわ、普通に」
ノハ#;゚ ゚)「く……ぅぅ……!」
ル(i|゚ ー゚ノリ「はは、最愛の男が傍にいなければ本気を出せぬか?
それとも心配で心配で、実力が発揮出来ぬか?」
ノハ#゚ ゚)「き、さまは……どこまで私達を馬鹿にすれば気が済む!?」
ル(i|゚ ー゚ノリ「何を言う。 ただ戦術的に考えた結果、あの男にしばらく退場願っただけだ。
その程度のことでいちいち吠えられては耳が痛くなってしまう」
ノハ#゚ ゚)「くっ――!」
言い返したい気持ちが湧き上がるが、今回はミリアの言うことの方が正しい。
情を捨てるべき戦場に情を持ち込んでいるのは自分である。
そこを突かれたとしても、文句を言うのは御門違いだろう。
- 81: ◆BYUt189CYA :2008/03/28(金) 18:05:34.30 ID:fmjQj92D0
- ル(i|゚ ー゚ノリ「案ずるな。 あの男も、後でお前達と同じ所へ送ってやるさ。
月並みの言葉だがな」
ノハ#゚ ゚)「私達は死なない……!
死なず、そして貴様らを生かさず勝利する……!!」
ル(i|゚ ー゚ノリ「それは不可能だと先に言っておこうか」
(#゚;;-゚)「…………」
嘗められている。
英雄と軍神を前にして、ミリアの余裕は有り余るほどだ。
悔しく思う反面、軍神としては彼女の言に賛成するしかなかった。
予感がする。
誰かが死ぬ、と。
一人、あるいは、全員が。
圧倒的な死の予感が背後まで迫っているのを、軍神は一人感じていた。
このような大きさの死を内包するには、一人や二人の消滅では足りないかもしれない。
それほどミリアの力は、群を抜いて高いと判断せざるを得なかった。
- 87: ◆BYUt189CYA :2008/03/28(金) 18:08:17.79 ID:fmjQj92D0
- (#゚;;-゚)(今回ばかりは誰かを犠牲にせんと勝てんかもな……)
達観的な意見を思いつつも、
軍神はその不安に負けぬよう拳を握り締め、倒すべき敵を睨んだ。
相手の能力がイマイチ解らないが、僅かな情報を元にして戦う方法を選出する。
(#゚;;-゚)「離れるとさっきみたいに刀が飛んでくる。
やっぱ接近戦しかないみたいやね。 出来る?」
ノハ#゚ ゚)「接近戦はむしろ臨むところ……でしょう、軍神?」
(#゚;;-゚)「えぇ返事や」
二人の意志は決まっていた。
いよいよこちらも本気で立ち向かわなければならない。
だとするならば、互いにとって得意な間合いで戦うのは最低必要条件である。
ここで問題になってくるのはミリアの持つ能力だ。
近付いての攻撃は、正体不明の防御方法によって防がれてしまう。
まずはその正体を見極めなければ話にならないだろう。
二人は、それを知りながらも強かな笑みを浮かべた。
まるで大きな試練に挑むかのような、そんな挑戦的な表情で――
ル(i|゚ ー゚ノリ「――ならば、相応の曲で応じるしかあるまい」
しかし、それすら超える雄大な笑みを浮かべたミリアに迎えられることとなる。
- 90: ◆BYUt189CYA :2008/03/28(金) 18:09:55.08 ID:fmjQj92D0
- ル(i|゚ ー゚ノリ「土台は私が直々に整えてやろう。
どう踊るかはお前達次第だ」
しゃ、という鋭い音。
ミリアが右腕を掲げたのを合図として、その先にある空間に亀裂が入った。
そこから出現する物質は当然のように鋭い刃を持っている。
先ほどと異なるのは、その数が圧倒的に違うことだ。
蛇の動作に似た刃の連なりが、薄ら寒いものをヒート達に与える。
ノハ#゚ ゚)「何を――」
ル(i|゚ ー゚ノリ「言ったろう? どう踊るかはお前達次第だ、と」
(#゚;;-゚)「これ、は……!」
散らばっていく刀。
展開されていく殺意。
それは、どこか蜂の群れのような光景だった。
- 100: ◆BYUt189CYA :2008/03/28(金) 18:16:25.02 ID:fmjQj92D0
- (メ゚д゚ )「――っうぉ!?」
どれほど吹き飛ばされたのか。
しばらくの滞空時間を経て、ようやく着地することとなった。
勢いのままに背中から落ちる。
強かに腰を打ちつけ、ミルナは情けないうめき声を挙げた。
身体を押していた刀は既に無い。
いつの間にか消えたのか、それとも主の下へ戻ったのか。
ともあれ、戦場からかなり離されてしまったようだ。
(;゚д゚ )(……むぅ、まぁ死なずに済んだだけマシか)
何が目的なのかは解らなかったが
もしミリアが本気であったならば、もしかしたら腕の一本や二本を切り飛ばされていたかもしれない。
仰向けに転がったままダメージのチェックを行ない、重傷がないことを確認する。
(メ゚д゚ )(しかし何という狡猾さ……。
こちらの心理を深くまで読んでいる)
となれば、軍神はともかくヒートが危険だ。
感情の爆発を抑え込んでいる彼女は、ミリアにとって格好のオモチャであろう。
(;゚д゚ )(とにかく、早く戻らねば……!)
- 104: ◆BYUt189CYA :2008/03/28(金) 18:18:31.49 ID:fmjQj92D0
- しかし。
(メ゚д゚ )「……?」
立ち上がろうと、地面に添えた手に硬い感触があった。
それは岩や地などといった自然のものとは違い、しっかりとした存在を持つ人工物だ。
思わず見る。
(メ゚д゚ )「これは……?」
自分の手の下に、黒の色をした何かがあった。
明らかに赤褐の大地とは不釣合いな異色を放っている。
指先で何とか摘めるほどしか頭を出していないそれは、微かに丸みを帯びていた。
……何だ?
本来なら鉄屑だと捨て置くことが出来るはずなのだが、
何故か今、この黒い物体が気になって仕方なかった。
- 108: ◆BYUt189CYA :2008/03/28(金) 18:20:14.45 ID:fmjQj92D0
- 今、必要なモノだとは思えない。
それよりも急いでヒート達の援護に駆けつけなければ。
たとえミリアにとって雑魚同然であっても、囮くらいにはなれるのだから。
しかし、これがどうしても――
(メ゚д゚ )「……!」
とうとう己の内に生まれた衝動を抑え切れなくなった。
身体が痛むのも無視して、ミルナは地面を拳で掘り始める。
(メ゚д゚ )「っ! っ!」
第六感というべきか。
そこに何かが『在る』と、根拠も無しに確信しながら。
吹き飛ばされたミルナの様子を見に来た兵達が、訝しげに彼の奇行を見るのも気にせず。
まさか、と思った。
ありえない、と。
しかし直感が告げている。
探し出せ、とうるさいほど警告している。
- 112: ◆BYUt189CYA :2008/03/28(金) 18:23:26.13 ID:fmjQj92D0
- 要素はあった。
ここは元々世界政府の本部があった地だ。
それは異獣出現によって全て消滅させられてしまい、今の赤褐大地が生まれた。
だが、そこに在ったモノまで消されたとは限らないのではないのか。
その中で、今、自分のいる位置は何処だ。
南側。
世界政府本部がまだ健在だった頃、『彼女』と戦った方角は何処だ。
南側。
符合している。
当たり前だというのに異常に思えた。
こんな出来過ぎた話があるのか、と恐怖すらした。
- 117: ◆BYUt189CYA :2008/03/28(金) 18:25:01.24 ID:fmjQj92D0
- (;゚д゚ )「ッ……っ!」
無我夢中で地面を抉る。
そこに『何か』があると確信しながら。
段々と見えてくる黒色の正体に、止まらぬ汗を流す。
大きく掘られた地面から出てきたのは――
(;゚д゚ )「……やはり」
この黒い巨重量物質を忘れるはずがない。
それは、かつてダイオードが使っていた魔剣。
――ブロスティーク。
大の男の身長を軽く凌駕する長刀身に、底の見えない深い闇色。
多くの血を吸ってきた刃は、しかし一つの欠けすら存在しない。
地面に埋まっていたというのに傷一つない神秘の武具が、その姿を見せた。
(メ゚д゚ )「ダイオード……」
ここにきて直感は確信へと変わった。
彼女は、この地で死んだのだ。
あの銀髪の女によって殺されたのだ。
- 126: ◆BYUt189CYA :2008/03/28(金) 18:29:07.12 ID:fmjQj92D0
- (メ゚д゚ )「…………」
彼女の正体を知った今、仇を討ちたいとは思わなかった。
英雄ではなく、そして同じ世界の人間でもない。
しかしミルナにとって、この力はあまりに魅力的過ぎた。
(メ゚д゚ )「これを、使うのか……?」
思わず自分に問いかける。
誇りだとか、大義だとか、そういう次元の話ではない。
使っても許されるのか。
それ以前に使いこなせるのか。
そういった疑問が、ミルナの中で渦を巻いた。
あの力をフルパワーで使用出来るのならば、これ以上の力もない。
もしかしたらミリアに唯一対抗することが可能となるかもしれない。
だが、しかし。
自分に、そんな大層な力を持つ資格が――
ミルナが渋い表情で剣を見やり、散々苦悩していたその時だった。
『……辛気臭い男だねぇ』
- 129: ◆BYUt189CYA :2008/03/28(金) 18:31:30.84 ID:fmjQj92D0
- (メ゚д゚ )「は?」
どこからか、そんな溜息混じりの声が聞こえた。
思わぬ出来事に慌てて周囲を見るが、付近には誰もいない。
『……あら? 喋れてる? 本当に?』
(;゚д゚ )「剣が……!?」
脳に直接響くような声の出元は、ミルナが持つ魔剣からだった。
『成程……どうやら戒めが解けちゃったみたいだねぇ。
ということはアンタ、普通の人間かい?』
(;゚д゚ )「普通というのがよく解らんが……特殊ではないと思っている」
答えた後で、いやに自分が冷静だということに気付く。
あまりに予想外な出来事に対し、逆にフリーズしてしまったのだろうか。
そんな彼を放り、魔剣はペラペラと言葉を並べていく。
『回りくどいねぇ。 そんなに自分に自信がないのかえ?
まぁいいさ。 あたしが喋れてるってことは、つまりそういうことだろうからね』
(;゚д゚ )「お、お前は一体……」
もはや何が何なのか解らない。
混乱する頭で、そう問いかけるのが精いっぱいだった。
- 135: ◆BYUt189CYA :2008/03/28(金) 18:33:27.12 ID:fmjQj92D0
- 『ん? あぁ、そっか。 外から見てりゃ気付かんわねぇ。
あたしの名は、は――じゃなくて、今はブロスティーク=エザンカ=ミゾークか。
面倒だからブロスとかブロスティークとでも呼びな。 不本意だけどね』
(;゚д゚ )「剣の意志、だとでも言うのか……!?」
『んー、そんなもんかねぇ。 実はあたしもよく解ってないんだけどさ。
天才様の考えるこたぁ難しくて難しくて……あー、イチだったら説明出来たんだろうけど。
まぁいいさね。 面倒だ』
まさか剣が喋るとは。
しかも、ひどく軽い調子で。
あの禍々しい雰囲気からは微塵も想像も出来ない。
何やら高揚している様子で喋る声は、ミルナにとって理解の及ばぬ独り言を撒き散らす。
そもそも『いきなり剣が喋った』という事実にすら追いついていない彼にとって
魔剣――ブロスティークの言葉を理解しろ、と言うのは酷な話である。
そんな中でただ一つ解ったのは、この声の主は『御喋り好き』ということだった。
(;゚д゚ )(というか、ダイオードもよく我慢出来たものだな……)
元持ち主である彼女に同情を禁じ得ない。
それほど、小うるさい性格だと思えた。
- 140: ◆BYUt189CYA :2008/03/28(金) 18:35:22.03 ID:fmjQj92D0
- 『あー、そこンとこ微妙だねぇ。
使われてる間はずーっと口にチャックされてたし』
(;゚д゚ )「ど、読心術!?」
『馬鹿言ってんじゃないよ。 アンタとあたしは既に接続されてるからねぇ。
残念だけど意識の共有させてもらってるから諦めな』
はっはっはっ、と快活に笑うブロスティーク。
声と喋り方からして中年の女性という印象を受ける。
(;゚д゚ )「……何が何なのか解らん」
『見て解る通り、あたしゃーうるさいからねぇ。
秩序守護者に使われてる間は色々と封じられてたみたいでさぁ。
確かダイオードの御嬢ちゃんは死んだんだろ? じゃあ復活ってわけだね』
(メ゚д゚ )「やはり死んだのか」
というか今、あのダイオードのことを『御嬢ちゃん』と言わなかったか。
しかし年齢の上下について問うのも怖かったので黙っておいた。
そんな心情を知ってか知らずか、ブロスティークは軽快に言葉を放つ。
『アンタも見たろ? あたしは途中で腕ごと落とされちゃったけどさ。
しかもだーれも拾ってくれないわ、大きな衝撃があって地面に埋まるわで散々さね。
ま、こうしてアンタに発見されたから良しとするけど。 ははははは』
で、と続け
『――随分とアンタ傷だらけだけど、もしかして戦ったのかい?』
- 145: ◆BYUt189CYA :2008/03/28(金) 18:37:57.84 ID:fmjQj92D0
- (;゚д゚ )「そ、そうだ……! すぐに戻らねば!」
あまりに奇異な出来事に時間すら忘れてしまっていた。
今もまだ戦闘は継続中であり、その最先端ではヒートと軍神が戦っている。
簡単に吹き飛ばされた自分を情けなく思うが、だからこそ逸早く戻らなければならない。
少し遠くを見れば、先ほどまで無かったはずの竜巻のような光景が目に入る。
おそらく敵の新たな攻撃なのだろう。
『あー時間とらせちゃったみたいだ。 すまないねぇ。
こうなったらあたしも連れて行っておくれよ。 力になるからさ』
(;゚д゚ )「!?」
『まぁ、掘り出した時点であたしを使う気満々だったんだろ?
本当なら「勝手にやっとくれ」と思うところだったんだけどねぇ……。
どうも懐かしい匂いがするんだよ、これがさ』
(メ゚д゚ )「……懐かしい、とは?」
『とりあえず走ろうか。 話は移動しながらでも出来る』
(;゚д゚ )「う、うむ」
剣に急かされるという、なかなか経験出来ないことを体験しつつ
ミルナは右手に持っていたブロスティークを肩に担ぎ上げる。
(メ゚д゚ )(武器が言葉を話す、か……まるでアレだな)
その意外な軽さに驚きつつ、ミルナは内藤ホライゾンの持つ武器を連想した。
- 149: ◆BYUt189CYA :2008/03/28(金) 18:39:16.30 ID:fmjQj92D0
- 『さぁさ、久々の戦場だ。 楽しみだねぇ』
彼女の声はどこまでも御機嫌で、
あのダイオードが持っていた武器とは思えない空気を醸し出していた。
(;゚д゚ )(……どうにも調子が狂うな)
『ははは、だからダイオードもあたしの意識を封じたんだろうねぇ』
それは笑って良いところなのか。
判断のつかない冗談か本気かの言葉に、ミルナは眉をひそめて首を振る。
これは、あれだ。
モララーやペニサスなどといった人種と同じだ。
いわば『まともに取り合うと馬鹿を見る』タイプだ。
『アンタは随分とストレートみたいだけど?』
こうやって心を読んでくるあたり、更にタチが悪い。
(メ-д-)「……行くぞ」
『そうこなくっちゃ!』
あまりに想定外なブロスティークの正体に頭を痛めつつ、ミルナは戦場へと戻り始めた。
- 152: ◆BYUt189CYA :2008/03/28(金) 18:41:10.37 ID:fmjQj92D0
- ミルナの欠けた南側の戦場では
まさに刀の雨が容赦なく降り注いでいた。
ノハ#゚ ゚)「くっ……!」
(#゚;;-゚)「ったく、面倒な……!」
ル(i|゚ ー゚ノリ「ははははははは! そら、踊れ踊れ!」
中心部にいるのはミリアだ。
両腕を広げ、心底楽しそうに笑い
その周囲を飛び交う刀の中、必死に回避を続けている軍神達へ愉しげな視線を向けている。
まさに攻撃の嵐とはこのことか。
何十、何百もの白刀が縦横無尽に飛び回る。
流石の英雄と軍神も、この前代未聞な光景に手を焼いていた。
回避を基本として、それでも避けられない刀は拳や剣で砕くが
いくら壊しても一体どこに隠しているのか次々に補充されてしまう。
終わらない刀の雨の中、軍神とヒートは踊るようにして身を動かしていくことを強制された。
ル(i|゚ ー゚ノリ「ほぅら、速く動かねば串刺しになるぞ!」
今や南の戦場は風切音と、金属音と、粉砕音の大合唱の場と化していた。
- 156: ◆BYUt189CYA :2008/03/28(金) 18:42:33.28 ID:fmjQj92D0
- (#゚;;-゚)「ちィ、このままやといつまで経っても近付けん……ッ!」
たかが刀と見くびるなかれ。
一本一本が高密度の魔力を纏っているのだ。
まともに喰らってしまえば、いくら軍神でもダメージは免れない。
ノハ#゚ ゚)「肉を切らせて骨を断つ、しかない?」
(#゚;;-゚)「肉だけで済めばえぇんやけどな」
見たところ、あの刀全てにミリアの意志が宿っている。
今は自由気ままにランダムで飛ばしてはいるが
もし攻撃してくる姿勢を見せれば、その全ての刃が殺到してくるのは明白だ。
おそらく、手が届く前に串刺しにされて終わりだろう。
ル(i|゚ ー゚ノリ「我が攻撃の味は如何かな。
楽しんでもらえているようで何よりだが」
(#゚;;-゚)「死ね。 氏ねじゃなくて死ね」
ル(i|゚ ー゚ノリ「ははは、面白い冗談だ。 もっとやれ」
- 157: ◆BYUt189CYA :2008/03/28(金) 18:44:20.47 ID:fmjQj92D0
- 近付けないだけならまだしも、動き続けないといけない状況が軍神を焦らす。
敵を前にして、ただ体力を消耗し続けるだけなど我慢ならないからだ。
そして何より、彼女を苛立たせるのはミリアの存在である。
彼女は戦いが始まってから、一歩も動いていない。
たったそれだけではあるのだが
比較的プライドの高い軍神にとって許せない要素の一つだ。
強者とは強者であるからこそ強者、というように、彼らは自分以上の強者を嫌う傾向にある。
(#゚;;-゚)「…………」
――ヒートの言う通り、ダメージ覚悟で行くか?
危険な考えが脳裏を過ぎる。
仮に全力で突撃したとしても、刀の串刺しから抜けられる確率は低いだろう。
せいぜい敵の攻撃をこちらに向けさせることくらいしか効果はないはず。
(#゚;;-゚)(現状による攻撃は無意味……やけど、このまま逃げ続けるのにも無理がある。
やっぱり、どうにかせんと勝ちようがないっぽいなぁ)
- 164: ◆BYUt189CYA :2008/03/28(金) 18:46:07.84 ID:fmjQj92D0
- 真正面から来た刃を避けつつ、でぃは思考を進める。
(#゚;;-゚)(ウチらは基本能力高いけど『必殺』と呼べる技を持っとる奴がおらん。
『おーばーぜにす』みたいな能力も持っとらん。
つまり決定打が欠けとる……けど――)
一つだけ望みを見出せる要素があった。
ダイオードとの戦いで見せた、軍神に備わる機械皮膚の全機能活性化だ。
あの瞬発的かつ圧倒的な加速力を生み出せれば
刀の嵐を抜け、そして行われるであろう防御を貫けるかもしれない。
だが、それでは駄目だ、と思う。
ミリアを見れば、その余裕の程が手に取るように解る。
つまり彼女が、何か他の手を隠していないわけがないのだ。
たとえ防御を貫いたからと、そのまま拳がミリアに届く保証はどこにもない。
機械皮膚の機能は、まだ切り札の一つとして持っておくべきだ。
(#゚;;-゚)(しかし、このまま敵の攻撃が止むのを待つのも現実的やない。
もう一つ何か要素があればええんやけど……)
手の空いたEMAか何か呼んでみるか。
しかし、最強と名高い南軍が援護を要請するなど――
- 169: ◆BYUt189CYA :2008/03/28(金) 18:47:58.79 ID:fmjQj92D0
- ル(i|゚ ー゚ノリ「さて、そろそろこの踊りも飽きてきた頃だろう」
ノハ#゚ ゚)「何……?」
突然の提案は、しかし軍神らにとって僥倖に値した。
そして同時、ジリ貧で倒される可能性があったが故にミリアの意図が読めない。
ル(i|゚ ー゚ノリ「セカンドステージと行こうか。
そうだな、今度のメインテーマは……」
き、という音。
それも一つではなく、複数。
ノハ#゚ ゚)「!?」
(#゚;;-゚)「なっ……」
逸早く察した二人は見る。
細かく砕かれ、地面に落ちた刃が震え始めたのを。
それらは素早い動きで集結し、再度、刀という形を作り上げてしまった。
空中にある刀、復元された刀、補充される刀。
元から在ったモノと無くなったはずのモノが合わさり、想像を絶する数に膨れ上がっていた。
気付いた時には周囲三百六十度、刃に囲まれてしまい
そして切っ先は残らず二人の方を向いて――
ル(i|゚ ー゚ノリ「――うむ、『血』にしよう」
次の瞬間、戦場に在る全ての刀が軍神とヒートに殺到した。
- 174: ◆BYUt189CYA :2008/03/28(金) 18:49:46.42 ID:fmjQj92D0
- ノハ#;゚ ゚)「くっ……ッ!?」
これには流石のヒートも焦らずにいられなかった。
今まで見たことのない、常識外れの全方位攻撃に回避の構想が遅れる。
いや、そもそも逃げ道などなかった。
どこを見ても刃の切っ先が見える状況で、とてもではないが人一人が通れるような隙間があるわけがない。
この状況で『問題なし』と思えるヤツは、よほど力を持っているか、ただの自信過剰かのどちらかだ。
本能が警告する。
このままでは死ぬ、と。
研ぎ澄まされた戦闘勘も同様だった。
もはや一刻の猶予もない。
いくら優れた動体視力を以ってしても、これ以上の決断遅延は致命的となる。
ノハ#゚ ゚)「ッ!!」
直後、ヒートは真上へと跳んだ。
あのまま地面で迎撃してしまった場合、
全方位からの攻撃を受けなければならなくなってしまう。
そこで彼女のように上へ向けて跳べば、攻撃を受ける方向を限定させることが出来るのだ。
横ではなく上へ跳んだのは、背後からの追撃という憂慮を無くすためである。
- 176: ◆BYUt189CYA :2008/03/28(金) 18:51:45.88 ID:fmjQj92D0
- だが、それでも直上からの刀を防がなければならない。
ノハ#゚ ゚)(ここで――!!)
右手に持っていた包丁刀を盾とするように構えた。
完全とは言えないが、これで進行方向上の刀から身を守ることが出来る。
あとは左手の中脇差で防御すれば、動けなくなるほどの傷を負うことはないはずだ。
耳を塞ぎたくなるほどの金属音が、足下から響いた。
数えることが億劫になる数の刀がぶつかりあっているのだろう。
あの中に自分がいたとすれば、と考えたところで、ヒートはかぶりを振って否定する。
窮地は脱した。
死なず、生きている。
生きているのならば、生きる先を考えるべきだ。
今、ヒートは空中にいる。
蹴りを入れる地面がない以上、急激な姿勢変更は不可能な状況だ。
――そこを、見逃す敵がいるか?
ノハ#゚ ゚)「ッ!!」
直感に身を任せ、背を逸らした。
擦過の感触が首を撫でた。
スローになった視界の下部では、こちらを表情を映す刃が走っている。
まさに紙一重というタイミングだった。
- 180: ◆BYUt189CYA :2008/03/28(金) 18:52:53.02 ID:fmjQj92D0
- やはり、来たか。
確実に殺すのならば身動きのとれない状況へ追い詰めるのが一番だ。
今がまさにそれであり、だからこそ、この攻撃は必然であった。
ノハ#゚ ゚)(認識が甘かったな、異獣――!)
ル(i|゚ ー゚ノリ(流石に今のでやられてはくれんか)
交錯する視線。
言葉など無くとも、それだけで思惑は読み取れる。
だから、ヒートは応えた。
身を回転させる勢いで中脇差を収納し、代わりとして弓を取り出しながら
ノハ#゚ ゚)「これが私からの返答だ――!!」
放つ。
狙いも何もかも出鱈目だ。
だが、それでいい。
ここで『反撃した』という事実こそが重大なのだ。
- 184: ◆BYUt189CYA :2008/03/28(金) 18:54:10.15 ID:fmjQj92D0
- ル(i|゚ ー゚ノリ「ふむ」
飛んできた矢を造作もなく掴み取ったミリアは、
軽く握っただけで砕きながら、地面に降り立つヒートを見る。
ル(i|゚ ー゚ノリ「あの状況で尚、まだ反撃する余裕があったとは思わなんだ。
流石は英雄だと言っておこうか」
ノハ#゚ ゚)「言ったでしょう。 嘗めるなって」
(#゚;;-゚)「――ま、そゆこと」
軍神も無事だったようだ。
彼女の周囲には刃が軽い山を為して積まれている。
なんと、刀の集中地点から動かず全てを叩き折ってしまったらしい。
彼女らしいと言えばらしい行為だった。
(#゚;;-゚)「で? また、この刀をまた修復して操る?」
ル(i|゚ ー゚ノリ「さて、な」
ノハ#゚ ゚)(……効果はあったみたいだね)
(#゚;;-゚)(やな)
- 187: ◆BYUt189CYA :2008/03/28(金) 18:55:41.77 ID:fmjQj92D0
- 未だ敵の総力量を計りきれていないヒート達にとって、ミリアの余裕は侮蔑に等しい。
だがそれ以上に、『刀を操作する』という曖昧な攻撃手段しか把握出来ていないのが
現状の打破を妨げる一つの要素であることに疑いは無かった。
相手は、何が出来て何が出来ないのか。
何事においても、この問い掛けは重要項目に挙げられる。
いわば力量の把握というわけだが、戦いの場では事前に調べるのが通常だ。
しかし遭遇戦――つまり下準備なしでの戦闘になれば、
刻一刻と変わっていく戦況に対応しつつも、敵の行動把握を第一に考えなければならなくなる。
何故なら結果的に、個人の勝利を逃がすどころか団体の敗北すら呼びかねないからだ。
『戦いながらの観察』と言葉では簡単に言えるかもしれないが
これが熟練した腕を持っていないと難しい行為であることは、実はあまり知られていない。
――集中力を常に高レベルに保ち、それを更に二分化して保持し続ける。
こう言えば、どれほどの難度を誇るか想像しやすいかもしれない。
何かをしながら別の事をする、という行為はなかなかに難しい。
あれを常にアクティブに、更に命を賭けるとなれば、もはや常人の想像は及ぶべくもないだろう。
- 189: ◆BYUt189CYA :2008/03/28(金) 18:57:44.82 ID:fmjQj92D0
- つまりヒート達は、ミリアの能力の全容を知ろうとしているのだ。
仮に決めの一手を仕掛けたとしても、それを防ぐことの出来る力があれば意味が無いばかりか
何も知らずに飛び込んだ者の命すら危うくなってしまう。
さて、そういうケースで考えた場合、
ミリアの能力を知るにはどうすれば良いだろうか。
(#゚;;-゚)「やるこたぁ決まったね」
ノハ#゚ ゚)「……えぇ」
(#゚;;-゚)「ただ、相手にはムカつくくらい余裕がある。
そういう輩は大概の場合、挑発で遊ぼうとするから気ィつけよ」
敵は、高い位置からこちらを見下ろしている。
そんな状況で切り札を使用する阿呆はいない。
適当にあしらえる程度の力で、こちらを蹴散らそうとするだろう。
となれば――
ノハ#゚ ゚)「――ふっ!!」
迷うことなく疾駆する。
背後の軍神も走り始めたのを音に聞き、ヒートは更に姿勢を落とした。
対するミリアは相変わらず不動の姿勢だ。
絶対的優位を確信している表情で、肉薄せんと走るヒートを見据えている。
それを突き崩すためには、ただひたすら攻めるしかない。
- 195: ◆BYUt189CYA :2008/03/28(金) 18:59:27.27 ID:fmjQj92D0
- ル(i|゚ ー゚ノリ「今度は何をするつもりだ?」
ノハ#゚ ゚)「はぁぁぁあああ!!」
ノンストップの突進から放たれる斬撃。
一薙ぎで大岩すら切断する刃は、しかし先ほどと同じように防がれてしまった。
硬い金属音は、ミリアと包丁刀の間に出現した数本の刀によって引き起こされる。
ノハ#゚ ゚)(でも――!)
それでも、諦めない。
この防御を突き抜く方法を見つけるまで。
そして、この異獣を倒すまでは。
(#゚;;-゚)(敵をこちらに引き摺り落とす……そのためには、力を見せる必要がある。
『己の力で倒す必要がある』と思わせなあかん)
まだまだ見下されているのは軍神も承知している。
だが、このままでは敵の切り札――それどころか、能力の全容すら掴むことが出来ないだろう。
だからこそ、攻める。
不利だろうが何だろうが関係ない。
弱者が強者に抗うには、それしかないのだ。
- 199: ◆BYUt189CYA :2008/03/28(金) 19:01:27.73 ID:fmjQj92D0
- ル(i|゚ ー゚ノリ「くっ、くく……その程度の力では私に触れることすら難しいぞ?」
(#゚;;-゚)「アンタは黙って殴られとけばえぇんやけどな……!!」
右に跳んだヒートとは逆方向へ。
一対二のセオリー通り、敵を挟む形での攻撃だ。
だが、ミリアにそのような定石は通用しない。
ノハ#゚ ゚)「っ!?」
前後からの攻撃は同時のタイミングにも関わらず、
やはり奇怪な防御方法によって無効化されてしまった。
彼女の周囲に結界が張られているような錯覚すら得てしまうほど、
もはや完璧としか思えない防御力である。
ノハ#゚ ゚)(まさか、本当に……?)
(#゚;;-゚)(不可視で自動防御用の刀を生み出すタイプの?
そりゃあ、ちょいと無理があると思うんやけど――)
不可能だと断言出来ないところが痛い。
『異獣ならば』という確証もない仮定がヒート達の心を蝕んでいく。
もし完全無欠のバリアだとするならば――
ノハ#゚ ゚)(くっ……駄目だ……考えちゃ駄目だ。
必ずどこかに弱点が――いや、小さな穴くらいはあるはず!)
- 202: ◆BYUt189CYA :2008/03/28(金) 19:02:59.49 ID:fmjQj92D0
- 嫌な思いが湧き上がるのを、ヒートは心の底から否定した。
皆、頑張っている。
軍神だって諦める素振りは見せていない。
もうすぐミルナも合流するはずなのに、自分だけ弱音を吐くわけにはいかない。
一層の気を引き締めるヒートではあるが
実は、この気迫の高さは南軍随一であることに誰も気付いていなかった。
ヒートはかつて、異獣に捕らわれたことがある。
もう一年以上も前の話だ。
英雄となってミルナと一緒に戦い、その才能を認められ始めた頃だった。
何をされたのかは、何故か記憶に残っていないのだが
その結果は最も表れてほしくないところに表れてしまう。
――顔だ。
正確に言えば、顔全体の皮膚である。
軍神が全身の皮膚を奪われたケースと同じだった。
今、ヒートは仮面で顔を覆っている。
敵への威嚇や、表情を読ませない意味も兼ねてはいるが
最大の理由は、単純に『顔を見せたくない』という一点に尽きる。
- 205: ◆BYUt189CYA :2008/03/28(金) 19:04:30.35 ID:fmjQj92D0
- 醜い、と彼女は自分の顔について強く思っていた。
だから、頑なに隠している。
この世界に辿り着いた時も、ミルナを探すよりも先に異獣を追ったのはそのためだ。
こんな醜い顔では、文字通り『会わせる顔がない』という心境だったのだろう。
何が何でも異獣から顔を取り戻さなければ、ミルナと会えないと思ったのだ。
だが、その願いが叶うことはなかった。
まんまと異獣に誘き寄せられた結果、ヒートはミルナとの再会を果たしてしまう。
彼はヒートの顔に関して何も言わないでいるが、だからこそ彼女は確信している。
既に知られている、と。
この醜悪な顔を、彼は知っていながら何も言わないのだ、と。
それはヒートにとって何よりも辛いことだったのだが、ミルナは気付かずにいた。
ノハ#゚ ゚)「ぅ……おぉ……!!」
ル(i|゚ ー゚ノリ(さて……そろそろ頃合い、といったところか)
- 208: ◆BYUt189CYA :2008/03/28(金) 19:05:55.58 ID:fmjQj92D0
- かつてミルナは、彼女に言ったことがある。
――お前のコロコロ変わる表情が好きだ、と。
心の底から嬉しかった言葉。
しかし、もう見せることの出来ない表情。
そして何も言わないミルナ。
ヒートは心配でたまらなかった。
『その程度』としか見てもらえていなかったのか、と。
今でこそ手を組んで戦えるまでに回復してはいるが
信頼という点において、ヒートとミルナには微妙なズレがある。
きっと、大丈夫。
けれど、もしかしたら。
ノハ#゚ ゚)「――ッ――!!」
希望と邪推がせめぎ合う中、ヒートは戦っている。
信じられるだろうか。
迷いを持ちながらも、この気迫である。
戦闘力という点で、軍神に及ばずとも劣らない位置にいる彼女だが、
もし、仮に元々持っていた直線的感情を取り戻せたとすれば――
- 216: ◆BYUt189CYA :2008/03/28(金) 19:07:50.26 ID:fmjQj92D0
- だが、完全に信じることが出来ない。
彼はヒートの顔について如何なる思いを得たのだろうか。
好きだと言ってくれたモノを失くしてしまった自分に、価値などあるのだろうか。
今、共に戦っているのは同情から来る行為なのだろうか。
だとするならば――
ル(i|゚ ー゚ノリ「――揺れているな」
ノハ#゚ ゚)「っ!?」
ル(i|゚ ー゚ノリ「何を抱えているのか……疑心の姫君。
どうだ? 大切なモノを奪われた気持ちは? 失くした気持ちは?
そこから派生する様々な感情に、お前はどう答えを出す?」
ノハ#゚ ゚)「だ、まれ……! 見知ったようなことを!」
ル(i|゚ ー゚ノリ「そんなことを言わず見せてくれ。
猜疑の果てに出す答えを。 そして気付いた真実を」
ノハ#゚ ゚)「喋るな……言うな……!!」
ル(i|゚ ー゚ノリ「さぁ……答えてみせろ。
お前は、あの男を――?」
ノハ#゚ ゚)「これ以上、私の中に汚い手を突っ込むなァァァァァアアア!!!」
- 217: ◆BYUt189CYA :2008/03/28(金) 19:09:45.14 ID:fmjQj92D0
- ル(i|゚ ー゚ノリ「はははははははははは!
いいぞ、蜘蛛姫! お前は疑うが故に自ら――」
ノハ#゚ ゚)「ぁあぁぁぁあああ!!」
(#゚;;-゚)「な、っにやっとんのアンタ! そのままやと!」
具体的に何が引き金となったのかは解らないが、
ミリアの言葉がヒートの逆鱗に触れてしまったらしい。
この言い方ではミリアに危機が訪れたかのようにも思えるが、実のところはまったくの逆だ。
戦場では冷静さを欠いた者から消えていく。
有名な格言であると同時に、だからこその真実である。
怒りに燃えるのと、怒りに我を忘れるのでは天地の差があった。
今のヒートは確実に後者であり、戦術も技術も何もない乱雑な攻撃を仕掛けていくのみ。
直線的な軌道。
愚直な判断。
解り易い視線。
どれもがミリアにとって有利にしか働かない情報で
それらを撒き散らすヒートは、激しく動いているように見えて隙だらけとなってしまう。
- 220: ◆BYUt189CYA :2008/03/28(金) 19:11:30.27 ID:fmjQj92D0
- ル(i|゚ ー゚ノリ「それほど気になるか?
そんな也でも女だと自覚しているのだな?」
ノハ#゚ ゚)「黙れ黙れ黙れぇぇぇ!!」
(#゚;;-゚)「えぇい言わんこっちゃない!!」
これだから若輩者は。
暴走し始めたヒートを止めに、軍神が地を蹴った次の瞬間。
ル(i|゚ ー゚ノリ「悪いが、今回ばかりは邪魔は無しだ」
(#゚;;-゚)「なっ――っぐぁあ!?」
決して忘れていたわけではないのだが、
突如として、眼前に出現した刀に対する反応が遅れてしまうのは当然だった。
慌ててのガードは完璧となるはずもなく、踏ん張る暇もないまま攻撃を受けてしまう。
(#゚;;-゚)「――っちィ!」
斬り飛ばされてしまった軍神は、しかし身体を抑えつけるようにして着地した。
並の使い手ならば、おそらく先ほどのミルナのように吹っ飛んでいたはずだ。
反応速度に優れている彼女ならではの芸当だろう。
- 222: ◆BYUt189CYA :2008/03/28(金) 19:12:26.22 ID:fmjQj92D0
- 開いた距離は、およそ五メートルほど。
しかし現状において、この距離は致命的だった。
ル(i|゚ ー゚ノリ「お前は後でゆっくりと遊んでやる。 それまでそこにいろ」
(#゚;;-゚)「な――」
に、と続く言葉は、視界に収めた事実に打ち消されてしまった。
いつの間に仕掛けたのか、周囲に無数の刀が、全てこちらに切っ先を向けて浮いていたのだ。。
(#゚;;-゚)「……!!」
戦慄に息を呑む。
逃げる隙間も、防御する暇もまったくないことを悟った彼女は
一斉に射出された刃を睨みつけながら、殺到する刀の中に埋もれていった。
- 227: ◆BYUt189CYA :2008/03/28(金) 19:14:22.86 ID:fmjQj92D0
- ミルナを失い、そして軍神をも封じられた。
ミリアに対抗出来る戦力は、もはやヒートのみとなる。
三人で通じなかった。
軍神と二人でも貫けなかった。
一対一となった今、ヒートの勝ち目は皆無に等しい。
ル(i|゚ ー゚ノリ「――更に重ねて問おうか。
あの男が本当にお前を信頼しているのか、と」
ノハ#゚ ゚)「うぁあぁぁぁああああ!!」
しかも、依然としてヒートは錯乱している。
押さえつけていた不安が爆発したのか、
挑発として聞き流さなければならないミリアの言葉が
まるでスポンジに染み渡る水のように吸い込まれていく。
ル(i|゚ ー゚ノリ「怖いか? よほど怖いのだろうな!?
知っているぞ! お前達は他人を通じて自己を確立する習性がある!
だからこそ繋がりを重視する! 他人の心すら完全に読めぬ欠陥生物がな!」
怒りに身を任せるヒートがそれほど滑稽なのか
ミリアも興奮した調子で、更に更にと言葉を投げかけていく。
- 232: ◆BYUt189CYA :2008/03/28(金) 19:15:45.25 ID:fmjQj92D0
- ノハ#゚ ゚)「う……うぅぁ……!」
孤独を自覚することが、これほど恐ろしいとは。
必死だった。
顔を失って以来、心の中では常に壁を作っていた。
ただ一人、ミルナというパートナーを除いて。
もう二度と離れたくなかった。
事実、ブーン達に合流してからのヒートの行動は常にミルナと共にあった。
寝起きから食事、娯楽、訓練に至るまで、彼と離れることをしなかった。
だが、それでいてどこかに不安があった。
かつて確かに紡いだ絆が、離れてしまっていた一年でどうなってしまったのか。
彼が好きだと言ってくれた『顔』を失った今、自分は一体何に成り下がってしまったのか。
それを、ヒートは確かめることが出来ずにいた。
本人に聞けば早かったかもしれない。
あの男は必ず『問題ない』と答えてくれるだろう。
――たとえ嘘でも。
もはや疑心暗鬼の領域である。
ただ、この結果は仕方がなかった。
ミルナに対する一番のデバイスを失ってしまったのだから。
自分を好んでくれる理由が無い今、彼の中でどんな存在になっているのだろう。
そう心配でたまらなくなるのは至極当然の流れである。
- 238: ◆BYUt189CYA :2008/03/28(金) 19:18:13.55 ID:fmjQj92D0
- ただ先ほども言ったように、戦いの中でそれを思い出してしまったヒートに落ち度はある。
仕方のないこととはいえ事実だ。
そして、そこを的確に穿とうとするミリアは根っからのサディストと言える。
ノハ#゚ ゚)「ッ……あぁぁ――!!」
疾風は止まらない。
更なる攻撃を仕掛けるため、ヒートは怒りに身を任せていく。
ル(i|゚ ー゚ノリ「ククク……愉快愉快」
前提として、こちらの攻撃は問答無用に遮断される。
遠距離だろうが近接だろうが関係ない。
しかも軍神の一撃すら止めるのだから、防御力も高いのだろう。
となれば――
ノハ#゚ ゚)「っ!!」
選択は一瞬。
右手に包丁刀、左手に槍を構えての猛攻である。
- 241: ◆BYUt189CYA :2008/03/28(金) 19:20:14.55 ID:fmjQj92D0
- フェイントで気を逸らし、右方へ跳ぶ。
続いて地についた右足を止めることなく蹴立てた。
完成する動きは、ツーステップによる瞬間的な回り込みだ。
常人よりも強い身体を持つ英雄ならではの技能である。
まだミリアがこちらを捉え切れていないのを視線の端で確認しながら
ヒートは容赦なく包丁刀を薙ぎ払うようにしてブチ込んだ。
破砕音。
ル(i|゚ ー゚ノリ「残念だったな」
案の定と言うべきか、ミリアを切断しようとした刃は
突如として出現した刀によって阻まれる結果に終わる。
ノハ#゚ ゚)「おぉぉ……!!」
だが、ここからが本番だった。
元より防がれるのは承知。
ならば、害を利に変えるために意識は切り替えておくべきで。
事実、ヒートは既に別の思考へと移行していた。
- 246: ◆BYUt189CYA :2008/03/28(金) 19:21:41.55 ID:fmjQj92D0
- ノハ#゚ ゚)(そこ――!!)
飛び散る破片すら厭わず、ヒートは当初から狙っていた位置を見る。
一度防御に使った場所を連続で突けば、防御が間に合わないかもしれない、と。
いつでも打ち出せるように構えていた槍の切っ先を穴へ向け
包丁刀が弾かれた衝撃を前屈のために変換し、そのままの勢いで左腕を突き出した。
槍は空気を切り裂く細音を奏でながら、ミリアの脇腹を目掛けて一直線に――
ノハ#;゚ ゚)「――っな!?」
砕かれた。
包丁刀を防いだ刀の更に奥。
新たな刀が現れ、まるで断頭するように槍を叩き折ったのだ。
ル(i|゚ ー゚ノリ「センスは良い。 勘も。 度胸も。 判断力も。
だが、単純に遅かったようだな」
ノハ#;゚ ゚)(そんな――!!)
ヒートは気付いていなかった。
頭に血を昇らせ過ぎて、動きが読まれやすくなっているということに。
今のも、最初から二連続攻撃が来ると解っていての防御だったのだ。
- 250: ◆BYUt189CYA :2008/03/28(金) 19:23:10.54 ID:fmjQj92D0
- 最初から両手に武器を握っていては意味がない。
『連続で仕掛けますよ』と言ってしまっているようなものだ。
フェイクだったとしても、とりあえず警戒しておけば損はない。
上記の理由もあって防がれて当たり前だったわけだが
攻撃という面に多大な自信を持っていたヒートは
いけないと思っていながらもショックを隠し切れなかった。
そんな彼女を見たミリアもまた、愉悦の高揚を止めることは出来なかった。
ル(i|゚ ー゚ノリ「人間とは脆いな、英雄!
四肢を軽く引けば千切れ、少し言葉を投げかければ自壊していく!
まるでこの槍のように儚いじゃないか!」
ノハ#゚ ゚)「そうやって人間を弄んで……! 悪鬼が!!」
ル(i|゚ ー゚ノリ「極上なのだよ! 脆い癖に楽しませてくれる玩具さ!!」
ノハ#゚ ゚)「――!!」
言葉を聞いた瞬間。
折れた槍を捨てながら、ヒートは思わず咆哮していた。
ノハ#゚ ゚)「お前は……お前はどこの神様だぁぁぁぁああ!!」
- 255: ◆BYUt189CYA :2008/03/28(金) 19:24:41.73 ID:fmjQj92D0
- 叫びと共に打ち鳴らされるは金属音の多重合唱だ。
激怒の念を込めた刃が、まさに縦横無尽に空間を切り裂く。
その全てをミリアの刀が受け止め、撓み、そして爆ぜていく。
散る刃はどこまでも白く、
弾ける火花はどこまでも輝き、
ぶつかる意志はどこまでも深い。
赤褐の大地に雪が降る。
刃の欠片という白雪が散る。
赤い空の下、怨念と愉悦がぶつかり合う。
際限無く高速化していく戦いの中、ミリアの声の調子が徐々に上がっていくことに気付いた。
戦闘の展開に比例して興奮していくような、そんなイメージだ。
ル(i|゚ ー゚ノリ「神!? 神はどこかにいるだろう!
趣味の悪いことに、今もどこかで笑いながら覗いているさ!」
ノハ#゚ ゚)「何を――!?」
ル(i|゚ ー゚ノリ「――あれを神と呼ぶのならば!!」
ミリアの動きが変わった。
不敵に笑いながらヒートの攻撃を防ぐ形から、その右手が腰に伸びていく。
先には、今まで一度として使用されなかった白色の刀があった。
- 261: ◆BYUt189CYA :2008/03/28(金) 19:25:54.44 ID:fmjQj92D0
- ル(i|゚ ー゚ノリ「よほど世界は退屈だと言えような!
棚の一つに収められて埃を被りながら朽ちていく書物のように!」
来る。
ル(i|゚ ー゚ノリ「集められ! 管理され! 整頓され! 自己満足の一手段とされ――!」
くる。
ル(i|゚ ー゚ノリ「知らぬ方が幸いにもなろうさ!
知れば抗いたくもなる! 無謀だと知ろうとも!」
クル。
ル(i|゚ ー゚ノリ「だから死ねよ脆弱者……!
何も知らぬのならば、せめて糧として我々の力となれ!」
駄目だ。
避けなければ。
喰らえば、死ぬ。
おそらくアレが、ミリアの持つ切り札……!
- 264: ◆BYUt189CYA :2008/03/28(金) 19:27:40.75 ID:fmjQj92D0
全力で、 地を蹴り、 その場から、 退避を――――
ありえぬ力を持った、 刀が、 白色の鞘から、 抜き放たれ――――
- 273: ◆BYUt189CYA :2008/03/28(金) 19:28:57.92 ID:fmjQj92D0
- 直後、刃が奔った。
あり得ない程の高密度魔力を纏う純白の刃が。
全て切断せんと光る、まさに抜けば玉散る氷の刃が。
段々と後退していく身体に、真横から食いこむような軌道で。
あれを受けて生きていられる確率は低い。
よしんば命を保てたとしても戦闘不能は確実だ。
そんな未来しか見えないほど、疾走する刃の力はケタ外れだった。
一瞬が、ペースト状に引き伸ばされる。
正確に言えば脳のフル回転による錯覚なわけだが、その中でヒートは冷静に状況を吟味していた。
このままの速度を維持することが出来れば直撃は無い、と。
ル(i|゚ ー゚ノリ「――だが、逃げられんよ」
判断してから離脱まで秒も掛からない。
だというのに、ミリアの声が届いた気がした。
直後、視界が白色に染まる。
強烈な風が吹いた、と思った次の瞬間。
ノハ#;゚ ゚)「――あっ、うあああぁぁ!?」
身体を縛っていた重力が消失。
代わりとして、前方からの暴力的な力場がヒートの身に襲い掛かった。
- 278: ◆BYUt189CYA :2008/03/28(金) 19:30:46.29 ID:fmjQj92D0
- (#゚;;-゚)「……やれやれ」
どこを見ても刃、という気が狂いそうな景色に、軍神は溜息を吐いた。
上手く掻い潜ったつもりだったが、逆に閉じ込められてしまったようだ。
裂かれた機械皮膚から、少量の血が流れ出ている。
対魔力攻撃に優れるはずの装甲が切り裂かれている。
抵抗しようと微かに身を動かしただけで。
仮に、あと少し大きく動いていれば、果たしてどうなってしまっていたのか。
(#゚;;-゚)(くそっ、忘れとったわ……奴らの根本的な性質を……)
異獣は基本的に嘘を吐かない。
単純に吐く必要がないからだ。
その力のみで難なく蹂躙出来る以上、フェイクなどを使用するのはかえって時間の無駄である。
知っていたはずなのに、反応が遅れた。
結果、機械皮膚――ひいてはプライドが僅かながらも裂かれてしまう。
今も動いてしまえば、おそらくその分だけ傷が増えるだろう。
(#゚;;-゚)(完全に身動きを封じられた……一瞬のミスがこれほどまで)
あの場で感情的になったヒートも悪いが
止めようとして突発的な行動に出た自分も褒められたものではない。
受けなくても良いはずだったダメージを前に、軍神は歯噛みを止めることが出来なかった。
- 281: ◆BYUt189CYA :2008/03/28(金) 19:32:25.52 ID:fmjQj92D0
- 何より、ヒートを一人残してしまったのが気掛かりだ。
決して彼女の戦闘力を過小評価しているわけではなく、むしろ認めてすらいる。
しかし、今の状態でミリアと対するには荷が重いだろう。
他の者達もいるにはいるが、囮の役目すら危険過ぎる。
不覚にも、自責の念が押し寄せるのを感じた。
あのままヒートを見捨ててはおけない状況だったかもしれないが
だとしても自分の行動は軽率過ぎて、結果がこの様である。
(#゚;;-゚)「くっ、ウチとしたことが――」
せめて、ヒートと自分の立ち位置が入れ替わっていれば。
ミリアの狙いが自分一人に絞られていれば――
ありえたかも知れない、都合の良い未来を望んだ、その時だった。
(#゚;;-゚)「……ん?」
一つの気配を感じ取る。
それは見知ったものであり、しかし信じられぬ色を同時に内包してることに気付いた軍神は
思わず――身体が傷付くのさえ構わず――振り向いた。
(#゚;;-゚)「ア、アンタ……? ってか、それって……!?」
直後、一陣の黒風が軍神の周囲で、大きく弾けた。
- 353: ◆BYUt189CYA :2008/03/28(金) 20:14:39.70 ID:fmjQj92D0
- 何がどうなったのか解らない。
ただ、抗えない力に吹き飛ばされたとしか。
きりもみし過ぎて前後左右の感覚が麻痺したまま、大きな衝撃が走る。
ノハ#;゚ ゚)「っぁぁあ……!」
地面に叩きつけられたのだ。
突然のことに受け身などとれるわけもなく。
しかも勢いは止まることを知らず、そのまま数回転ほど無様に転がってしまう。
ノハ#;゚ ゚)「……う、ぅぅ」
ようやく止まったかと思えば、今度は様々な不快感がヒートを覆った。
まるでカクテルシェイカーの中に入っていたような気分だった。
無茶苦茶に揺さぶられた脳が、骨が、肉が、神経が不調を訴えている。
起き上がろうとしても腕に力は入らず、そもそもどう起き上がれば良いのかすら解らなかった。
ノハ#;゚ ゚)「げほっ、がはっ……ぁ……っ……」
呼吸が上手く出来ない。
少し耳鳴りもする。
それに思考が歪むようで気分が悪い。
全身を包み込むような激痛が、ギリギリのところでヒートの意識を繋いでいた。
- 358: ◆BYUt189CYA :2008/03/28(金) 20:16:23.93 ID:fmjQj92D0
- ル(i|゚ ー゚ノリ「成程」
ノハ#;゚ ゚)「っ……くぅ……!」
まさにノイズだらけの意識の中。
それでも、戦士としての嗅覚が敵の接近を察知する。
ル(i|゚ ー゚ノリ「攻撃範囲から逃れようとする反応速度と判断力は良かった。
だが運がなかったな。 直撃を受ければ苦しまずに死ねたものを」
ノハ#;゚ ゚)「そ、れは……っぁ……」
ル(i|゚ ー゚ノリ「これぞ我が真の武装。 名は……そうだな、『テセラ』だったか。
ただ高密度の魔力を圧縮しているだけだが、その余波でさえアレだ。
流石の英雄も一撃で伏せるか」
納得がいった。
ヒートを吹き飛ばしたのは余波――衝撃波だったのだ。
剣撃こそ受けなかったものの、その後に発生した『オマケ』にやられたのである。
ならば仮に、刀身部分をまともに受けていたらどうなったのか。
まず悔しさが浮かび、そして心の底に恐怖が滴り落ちた。
コンマ数秒でも反応が遅れていれば死んでいた、という過ぎ去った未来が
恐れとなってヒートの本能を蝕んでいく。
- 362: ◆BYUt189CYA :2008/03/28(金) 20:18:07.53 ID:fmjQj92D0
- ル(i|゚ ー゚ノリ「月並みの言葉だが光栄に思えよ、蜘蛛姫。
この刀を使って殺してやるのだからな」
ノハ#;゚ ゚)「……っふざ、けるな」
ル(i|゚ ー゚ノリ「せめて立って言ったらどうだ?」
ノハ#;゚ ゚)「く、ぅぅ……!」
立ちたくても立ち上がれない。
もがく間にもミリアがトドメを刺すために近付いてくる。
砂利を踏む足音は、、ヒートの命のカウントダウンと同義だ。
ル(i|゚ ー゚ノリ「無様だな。 英雄もこの程度か」
ノハ#;゚ ゚)「……!」
ル(i|゚ ー゚ノリ「これならば英雄神の方がよほど脅威だったよ。
何故、自身を犠牲にしてまでお前達を残したのか理解に苦しむ」
英雄とは英雄神――シャーミンが意図的に作り出した、対異獣用の戦闘人種だ。
生まれた時から体内に魔力を備えている彼らは、驚異的な運動能力を発揮することが出来る。
戦闘という方向性に限定されるが、だからこそ彼らの能力はナチュラルに高性能だと言えた。
だが、それでも彼らは人間なのだ。
体調もあれば感情もある。
生じる迷いも、普通の人と同じものだ。
- 363: ◆BYUt189CYA :2008/03/28(金) 20:19:39.86 ID:fmjQj92D0
- ル(i|゚ ー゚ノリ「奴らが作ったハインリッヒにしてもそうだ。
ただの戦闘用生物に仕立て上げれば良いのに、頑なに自己意識を宿したがる。
まるで自分の子供を作るかのようにな」
ヒートは、その言葉に軽く目を見開いた。
ハインリッヒのことを知っている、という事実と併せて
まるで開発者達の心情を、正確に知っているかのような口振りに違和感が湧いたのだ。
ノハ#;゚ ゚)「……ッ……それは――」
ル(i|゚ ー゚ノリ「知っている。 感情とは時に強さのトリガーとなる、だろう?
例えばお前などは、あのミルナとかいう男と共に戦えば
体力面に二割ほどの増強が見られるしな」
ノハ#;゚ ゚)「……それを、知っていて……何故……?」
FCに合流せず、異獣を追っていた時があった。
ミルナに会う前に『顔』を取り戻しておきたかったからだ。
修練によって自発的に発動することが出来るようになった
『理性的バーサーカー』モードを休み休み使用しつつ、連夜追い続けた。
飄々と逃げ続ける双子が次第にこちらを誘導しているのだと気付いたのは
不覚にも、こちらの世界に来てしばらく経ってからだった。
最終的に誘い出された場所は、フィーデルトコーポレーションの玄関口。
そこにいたのは、誰でもないミルナであった。
- 365: ◆BYUt189CYA :2008/03/28(金) 20:20:52.16 ID:fmjQj92D0
- だからこそ疑問が湧く。
様々な感情によって戦闘力が上がる、ということを知っているのならば
異獣にとってミルナとヒートの再会はマイナスにしかならないはず。
そんな訝しげな表情を仮面の奥に見出したのか。
ミリアの笑みが少し深くなる。
ル(i|゚ ー゚ノリ「考え無しに、あのようなことをしたわけじゃあない。
何か勘違いしているようだが、お前達が元の鞘に収まったからと我々に不利はないのだよ」
ノハ#;゚ ゚)「より……強者を、愉しむため……」
ル(i|゚ ー゚ノリ「それと実験的な意味合いもある――というか、それが本質だ。
お前が仲間と合流しない理由と、私達を執拗に追っている理由。
この二つを考えた場合……推測に過ぎんが、一つ心当たりがあってな」
心臓が一際大きく鳴った。
勢いよく流れた一部の血流が、胸を中心に鼓動を刻む。
その後、ワンテンポ遅れてじっとりした汗が背を撫でた。
ル(i|゚ ー゚ノリ「最初は、私達の足取りを確実に掴むための斥候の真似事かとも思ったが
それだと攻撃してくる意味がない。 むしろ逆効果だ。
あくまでお前の狙いは私達の撃破……だとすれば答えは自ずと出るのさ」
- 368: ◆BYUt189CYA :2008/03/28(金) 20:22:09.40 ID:fmjQj92D0
- ノハ#;゚ ゚)「…………」
ル(i|゚ ー゚ノリ「お前は仲間――いや、あのミルナという男と会うわけにはいかなかった。
個人を特定するための第一要素となる『顔』を奪われていれば、
そして女なら尚更、な」
だから、と言い
ル(i|゚ ー゚ノリ「それをこちらとしても利用させてもらっただけのこと。
大事なモノを失ったお前が、一体どういう答えを私に見せてくれるのか。
相乗効果で更なる強さを見出すのか、相殺効果で目も当てられぬ状態になってしまうのか」
そういうことか。
先ほどの挑発は、ヒートの感情の機微から察したのかと思っていたのだが、
まさかこの女は――
ノハ#;゚ ゚)「知っていて……いや、最初から仕組むつもりで……!!」
ル(i|゚ ー゚ノリ「本来ならば『顔』のデータ摂取で終わりだった。
そしてこれでも余興、もしくはオマケ程度に考えていてな。
正直に言えば、ここまで来るとは予想の範疇外だった」
ノハ#;゚ ゚)「ッ……お前は……!!」
ル(i|゚ ー゚ノリ「だが、もうそれも終わりだ。
結果は今あった通り……所詮は人間だったということだな。
修羅となって愉しませてくれるかと期待はしたが、無駄だったか」
明らかに落胆した表情を浮かべる。
位置の差から見下されたような影も加わり、憎たらしいほどに苛立つ顔となった。
- 370: ◆BYUt189CYA :2008/03/28(金) 20:23:47.81 ID:fmjQj92D0
- ル(i|゚ ー゚ノリ「何か言い残すことは? 無論、誰にも伝える気など無いが」
ノハ#;゚ ゚)「……っ、一つ言わせろ」
ル(i|゚ ー゚ノリ「ほぅ。 オーソドックスに命乞いか? それとも愛する男へのメッセージか?」
ノハ#゚ ゚)「地獄に落ちろ……薄汚い獣め……!」
ル(i|゚ ー゚ノリ「…………」
その時の異獣の表情は初めて見るものだった。
『きょとんとした顔』とは、ああいうものを言うのだろう。
一瞬、ヒートが何を言ったのか理解出来なかったのだ。
ル(i|゚ ー゚ノリ「――っく、くく。 くくくくくくくく」
ノハ#;゚ ゚)「…………」
ル(i|゚ ー゚ノリ「やはり私の目に狂いはなかったな。
蜘蛛姫、お前は最期の最期まで愉快な気分にさせてくれる玩具だ。
この世界に来てからの行動全てが、私の掌の上で踊っていたと知った直後に呪いの言葉。
英雄の誇りとやらも、ここまでくれば狂気と言わざるを得んぞ。
だがな――」
ヒートの言葉が相当に面白かったのか。
饒舌になりつつも、ミリアは白色の刀を振りかざす。
一振りで敵だけでなく戦場をも削る魔刀が、血を欲してか暗い光を発射した。
その薄気味悪い光を頬に浴びながら、ミリアが歯を剥いて笑う。
- 372: ◆BYUt189CYA :2008/03/28(金) 20:25:23.44 ID:fmjQj92D0
- ル(i|゚ ー゚ノリ「――残念ながら、我らは最初から地獄に生きていると自覚していてね。
それは褒め言葉として受け取っておくよ」
ノハ# )(あぁ――)
死を運ぶ音が傍まで来たのを鼓膜が感じ取った。
未だ立ち上がることすら出来ない自分は、きっと惨めに見えるだろう。
あの刀で切り裂かれれば、ヒートという存在はリタイアすることとなる。
まだ、何も為していないのに。
まだ、何も確かめていないのに。
心は一年前で止まったまま。
身体だけが未来を求めて動いていた。
故に離れた時から何も変わらず、ヒートは過去から一歩も進んでいない状態だった。
……取り戻すまでは、と願っていた。
顔を、誇りを、友を、信を、義を、自分を。
だから、ここまで、無心で、何もかもを、それが、どうして――
――音が、消え
- 374: ◆BYUt189CYA :2008/03/28(金) 20:27:39.86 ID:fmjQj92D0
- 「おぉぉォォォォ!!!」
――声が、聞こえた。
ル(i|゚ ー゚ノリ「――ぬ!?」
ノハ#゚ ゚)「え――」
瞬間、二人は見る。
互いの間が染まるのを。
真上から降ってきた『黒』という色によって。
莫大な力同士がぶつかった音は、爆弾が爆発したかのような大音だった。
続いて大きな衝撃が生まれ、波動となって円状拡散していく。
ル(i|゚ ー゚ノリ「これは……!」
ノハ#;゚ ゚)「っ……うぁぁ!」
死を半分受け入れようとしていたヒートにとって、その衝撃はあまりに予想外であった。
結果、受身も何も取れずに吹っ飛んでしまう。
- 376: ◆BYUt189CYA :2008/03/28(金) 20:29:56.85 ID:fmjQj92D0
- 大地に叩きつけられる、女性らしい華奢な矮躯。
どこか頭の中で、情けない、と自嘲気味に呟きながら。
ノハ#;゚ ゚)「……っ」
転がる身体が止まったのは勢いのままに数回転ほどした後だった。
全身に鈍い痛みが響くものの、行動には支障のない軽傷ばかりだと経験が言う。
そして上げた視線の先、あるものが見えたことによって原因を確信した。
見覚えのある背中。
見覚えのある鍛え上げられた肉体。
見覚えのある頑丈そうな装甲服。
そして、微かに覚えのある、巨大な黒剣。
吹っ飛んだ結果として十メートルほどの距離を置きながらも、
ヒートはそれが誰なのかを即座に理解した。
(メ゚д゚ )「…………」
ノハ#゚ ゚)「ミ……ルナ……」
- 378: ◆BYUt189CYA :2008/03/28(金) 20:31:13.42 ID:fmjQj92D0
- 彼がこの場からいなくなったのが、もう随分と昔のように思えた。
それほど彼が戻ってくるのが待ち遠しかったのだろうか。
この胸に湧き上がる明るい色の感情は、やはりそういうことなのだろうか。
だが、
(メ゚д゚ )「異獣。 ここからは俺が相手だ」
ノハ#゚ ゚)(え……)
彼は振り向いてくれなかった。
『大丈夫か』『貸しにしておく』等の言葉もない。
まるで最初からヒートのことが見えていないかのような――
(#゚;;-゚)「だいじょぶ?」
ノハ#゚ ゚)「あ……軍、神……」
(#゚;;-゚)「ギリギリやったね。 あの子がウチを助けた後で向かったから。
もしウチがヘマしとらんかったら、もっと余裕持って参上出来たんやろぅけど」
ノハ#;゚ ゚)「え、っと……それは違う。 私が最初に……」
(#゚;;-゚)「ええんよ。 誰だって感情のトリガーくらいは持っとるもんや」
そう言いながら軍神は俯くヒートの頭を撫でた。
感触こそ硬かったが、とても優しい撫で方であった。
- 381: ◆BYUt189CYA :2008/03/28(金) 20:32:39.55 ID:fmjQj92D0
- ノハ#゚ ゚)(…………)
しかしその内、ヒートの心に暗い影が差し始める。
自分の危機よりも軍神を優先したことが、どうしても気になってしまった。
単純に進路上の関係だったのかもしれない。
加えてミルナの性格を鑑みれば、この結果は当然という可能性のほうが高い。
決してヒートを蔑ろにしているだとか、そんな馬鹿げた背景はない。
そう、思いたい自分がいた。
ノハ#゚ ゚)(ミルナ……私は、私はどうすればいいの……?)
(メ゚д゚ )「…………」
ル(i|゚ ー゚ノリ「ふむ? 少し見ぬ間に奇妙なモノを手に入れたようだが……」
(メ゚д゚ )「これがお前を倒す鍵となるだろう。
覚悟しろ。 これより俺達の反撃が始まるぞ」
ル(i|゚ ー゚ノリ「くっ、くく……それはそれは。
確かに面白いモノを持ってきたようではあるが、な」
戻ってきたミルナの右手には大きな剣が一つ。
ブロスティークという魔剣だ。
経緯を詳しく知る軍神にとって、それはとても予想外のものであり
経緯を詳しく知らないヒートにとっては、それはとても懐かしいものである。
- 384: ◆BYUt189CYA :2008/03/28(金) 20:33:59.62 ID:fmjQj92D0
- (メ゚д゚ )「いくぞ」
『おうともさ』
独り言だと思えたミルナの声に答える音があった。
それは彼と同じ位置から発せられながらも、まったく――性別すら違う声だ。
軍神達に何も反応がないところを見るに、どうやらミリアにしか聞こえないらしい。
ル(i|゚ ー゚ノリ「その声、封印が解けたか……?」
『おかげ様でねぇ』
ル(i|゚ ー゚ノリ「ふ、ン……やはり奴をダイオードに当てたのは失敗だった。
実験データをとる意味では成功したが、やはり憂いが残ったか」
『いいのかい? そんな弱音を見せても。
この子らはもはや意志の塊だ。 隙を見せれば一気に喰らいつかれるよ』
ル(i|゚ ー゚ノリ「老いぼれが……それよりも自分の心配をしたらどうだ?
そちら側についたということが、どういうことか解っていないわけがあるまい?
せっかく自己を取り戻したというのに――」
『黙れ、小娘。
アンタこそ誰を敵に回したか解って――いや、知っていないわけじゃないだろう?』
(;゚д゚ )(相変わらず誰も彼もを年下扱いするな……)
- 386: ◆BYUt189CYA :2008/03/28(金) 20:35:42.14 ID:fmjQj92D0
- 自分はともかくミリアは外見以上の年齢のはずだ。
確かに二十代と見えるかもしれないが、それは単に肉体が老朽化していないだけである。
言うことが本当ならば何百年も生きていることになるのだが
ブロスティークは、それを『小娘』の一言で切って捨ててしまった。
一体、彼女はどれほどの過去から来たのだろうか。
(メ゚д゚ )「いや……今の俺達には関係ない、か」
『ま、損はさせないさ。 理由もあるしね』
黒剣を構える。
思っていた以上に軽いのは作為的なものなのだろうか。
何にせよ、手によく馴染むような感覚なのは幸いだ。
(メ゚д゚ )「その刀こそがお前の真の武器だな?」
確かめるような問いかけ。
その視線は、先ほどヒートを切り裂こうとした長刀に向けられている。
ル(i|゚ ー゚ノリ「……老いぼれに聞いたか。
確かにこの白刃こそが正真正銘、私の武器だ。
そして――」
見下すような表情へ変わり
ル(i|゚ ー゚ノリ「そこまで知っているのならば解っているのだろう?
私の能力を止めることは、もはや不可能なのだと」
- 388: ◆BYUt189CYA :2008/03/28(金) 20:37:16.91 ID:fmjQj92D0
- ノハ#゚ ゚)「……?」
どういうことだ。
完全無欠な能力だとでも言うつもりか。
(メ゚д゚ )「なんとかなるさ。 それに、見てみろ」
ル(i|゚ ー゚ノリ「?」
空いている方の手が、人差し指を突き出すような形をとる。
それをミリアの足下へ向け
(メ゚д゚ )「動いたな?」
ル(i|゚ ー゚ノリ「……ほぅ」
戦闘が始まってから一歩すら動いていなかった彼女が、
自分の意思以外の理由で移動してしまっていた。
理由は明白で簡潔だ。
先ほどのミルナの奇襲である。
そして、その根拠こそに真の意味があった。
(メ゚д゚ )「それだけ多大な力と奇怪な能力を持っているのならば、相当な自信があるだろう。
俺がお前とヒートの間に割って入った時も、お前は冷静さを失っていなかったはずだ。
やろうと思えば、飛び込もうとしている俺に刀を投げることは出来たんだ」
ル(i|゚ ー゚ノリ「…………」
- 391: ◆BYUt189CYA :2008/03/28(金) 20:38:37.12 ID:fmjQj92D0
- (メ゚д゚ )「だが、お前はそれをしなかった。 何故か?」
一息。
(メ゚д゚ )「通じないと知っていたからだろう?
お前はこの剣の脅威を知っているからこそ割り込みを許し、
そして防御出来ないと判断したからこそ退いた。 違うか」
構える。
柄を両手で握り込み、その切っ先をミリアへ向けた。
(メ゚д゚ )「言おう。 この剣こそがお前を倒し得る要素の一つなのだ、と」
ル(i|゚ ー゚ノリ「……成程」
宣言を真正面から受けたミリアの表情は、しかし微塵も崩れなかった。
変わらぬ不動の姿勢のままで、くつくつ、と笑う。
そして頷き、皮肉げに片方の口端を吊り上げた。
ル(i|゚ ー゚ノリ「認めよう。 確かにその剣は私に対抗することが出来る武器だ。
使い方次第では、確かに私の能力を打破することも可能かもしれん」
柔らかい言葉とは裏腹に空気が冷えていくのを、ミルナは肌で感じ取っていた。
現象の根源は、おそらくあの長白刀。
射出してきた刀とは明らかに異なる魔力量を備えている。
獲物を前にした獣のように、抜き身の刃が周囲空間を震わせているようにも見えた。
- 393: ◆BYUt189CYA :2008/03/28(金) 20:39:54.21 ID:fmjQj92D0
- ル(i|゚ ー゚ノリ「だが、返しとしてこちらも言わせてもらおうか」
構える。
柄を両手で握り込み、その切っ先を背後で向けた。
ル(i|゚ ー゚ノリ「――それはつまり、今その剣を破壊すれば為し得ぬ未来になるということだ!!」
ど、という音は地面を蹴り飛ばしたことによる破壊音だ。
そう感じ取ったミルナは、咄嗟にブロスティークで防御するように構え直した。
撃音。
(#゚д゚ )「ぬ、ぉぉ……!!」
とんでもない威力の一撃が刀身にぶつかる。
芯まで響く衝撃が襲い掛かるが、ミルナはそれでも歯を噛んで耐えた。
足が浮きそうになるのを堪え、破裂しそうになる筋肉を無理矢理抑えつける。
何より恐ろしいのは、ミリアの動きが察知出来ないほど速いことだ。
あの刀を射出する能力など必要ないように思えるほど、その剣捌きは神速の域に達していた。
ル(i|゚ ー゚ノリ「失策と言わざるを得ん!
それを持って私の前に現れた時点で間違いだったのだよ!」
(#゚д゚ )「だが!!」
がむしゃらに弾いた。
回転するように返す刃が迫るが、それもギリギリというタイミングで合わせて防いだ。
今のミルナに、ミリアの斬撃は見えていないはずなのだが――
- 397: ◆BYUt189CYA :2008/03/28(金) 20:41:05.08 ID:fmjQj92D0
- 『補助はあたしに任せな!』
しかし、ブロスティークが位置を教えてくれている。
比べれば明らかに鈍重な動きではあったが、それでも剣の軽さもあって防御が間に合っている。
ル(i|゚ ー゚ノリ「その魔剣の力が無ければ何も出来ずに死ぬだけの人間が!
私などと刃を交えられるなど至福の極みだと思えよ――!」
(#゚д゚ )「誰が、思うか……!
勝手な都合で命を奪った汚い刃に触れて、誰が喜ぶか!
英雄の誇りは、決して貴様らのように安くはない!」
ル(i|゚ ー゚ノリ「はッ! 同じだろう! 魔剣の所業を知らぬわけではあるまい!?
そのような剣を振りかざして何を得ようとする!」
(#゚д゚ )「違う! 断ち切るんだ!
お前達が何を知っていようとも、やっていることは絶対に間違っている!
だからここで止める! こんなふざけた蹂躙が許されるわけがない!」
毒を以って毒を制す。
血塗られた刃同士がぶつかりあう様は、まさに悪鬼のせめぎ合いと言えよう。
(#゚д゚ )「今、再び認識した……!
お前は、お前達はここで滅ぶべきだ!!」
ル(i|゚ ー゚ノリ「吠えるだけなら誰でも出来るさ――!」
- 402: ◆BYUt189CYA :2008/03/28(金) 20:42:50.33 ID:fmjQj92D0
- ミリアが一歩退いた。
追撃のチャンスとばかりに踏み込みかけたミルナだが、
『駄目だ!』
ブロスティークの警告に身を固める。
いや、それよりも早くに目で察していた。
(;゚д゚ )(あれ、は……)
視界の中、ミリアの構えを見てミルナは総毛立つ感覚に見舞われた。
刀を腰元に当てた形。
膝を折り、重心を思い切り低くした姿勢。
身体は前へ傾き、上目遣いとなった視線は深く鋭い。
その構えは、数ある剣技の中で最速と謳われる――抜刀術。
(;゚д゚ )「しまっ――」
ル(i|゚ ー゚ノリ「手に余る力を持った愚者は身の程を弁えることを忘れる――真理だよ」
言葉と共に刃が煌めくのを、ミルナははっきりと見た。
- 405: ◆BYUt189CYA :2008/03/28(金) 20:44:21.59 ID:fmjQj92D0
- まんまと誘い込まれたのだ。
伊達に長く生きていないということか。
人間の心理流動を知り尽くしている。
ル(i|゚ ー゚ノリ「――さらばだ」
(;゚д゚ )「くっ――!?」
……そう、人間の。
『やれやれ、どちらが忘れん坊なのかねぇ!?』
そんな呆れたような呟きが聞こえた直後だ。
ミルナの腕が意志に反して動き、その手が握っていた黒剣が翻る。
結果、間に合うはずのないタイミングの中へ刀身を割り込ませることに成功した。
大衝撃。
そして、強烈な光。
今までの剣撃など比較にならない程の震動が、ミルナの骨格の隅から隅まで響き渡る。
痺れる神経が指から力を奪ってしまうが、それでも全身で抑えつけるようにして耐えた。
- 409: ◆BYUt189CYA :2008/03/28(金) 20:45:39.49 ID:fmjQj92D0
- (;゚д゚ )「すまん……油断した!」
『言ったろ。 アンタのミスはこっちで補完するさ』
そんな言葉を聞き、ミルナはどこか直観的に確信した。
即興のコンビにしては相性が良い。
いや、向こうがこちらに合わせようとしているのか。
何にせよ、防御を得意とする自分の穴を埋めてくれるのであれば、これ以上望むこともない。
(#゚д゚ )(そうさ……! それに、俺の代わりに攻撃を司ってくれる奴がいる!
俺はそいつが来るの待つだけだ!)
ル(i|゚ ー゚ノリ(この男……)
この半端ない威力の攻撃は自分が受け止める。
どんな軌道であろうが、どんなタイミングであろうが関係ない。
ただ、自分は身体を張ってまで防ぐのみだ。
その先にある、――を期待するために。
- 411: ◆BYUt189CYA :2008/03/28(金) 20:46:55.69 ID:fmjQj92D0
- 勢いを増したミルナの気迫。
その後ろ姿を見ながら、軍神は目を軽く開いて笑みを作った。
(#゚;;-゚)「伊達に魔剣を名乗っとらんってことかい。
なら、今がチャンス……!」
あの厄介な刀を封じてもらえるならば、こんな僥倖はない。
かつてダイオードが使用していた武器ということもあって心配だったが
どうやら戦況はこちらに良い方向へ転んでくれたようだ。
あとは射出される刀群を警戒すれば良いだけだが、
現在もミルナと刃を交えるミリアが、他の武器までも操る余裕があるとは思い難い。
何せ相手は、あの魔剣だ。
いくら異獣といえども無視出来る存在ではあるまい。
(#゚;;-゚)「んじゃあ、一気に詰めようかね……ヒート、準備はええか?」
ノハ#゚ ゚)「…………」
(#゚;;-゚)「? どした?」
- 419: ◆BYUt189CYA :2008/03/28(金) 20:52:54.52 ID:fmjQj92D0
- 意気揚揚と立ち上がった軍神と違い、ヒートは腰を地面につけたまま動こうとしない。
俯き、右手を胸元に当てて握り締めている。
ノハ#゚ ゚)「私は……」
どうすれば良いのか。
共に戦えば良いのか。
――いや、彼と肩を並べて戦っても良いのだろうか。
終わりのない自問自答が己を締め付ける。
もし、他人の心が読めたならば。
せめてミルナの心だけでも。
そう願ったことは何度もあった。
しかし、こうも思う。
読めないからこそ、信じていられる。
本心が解らなければ解らないで良いのかもしれない。
偽りの、上辺だけの感情で、いつまでも『良好』な関係を保てるのかもしれない。
……それで良いのか。
首を振りたい気持ちに駆られるも、出来なかった。
そう願える資格がないと痛感する部分がある。
自分は異獣に汚された穢れの女なのだから、現状でも充分に満足すべきだ。
- 422: ◆BYUt189CYA :2008/03/28(金) 20:54:43.38 ID:fmjQj92D0
- (#゚;;-゚)「ふぅむ」
どんな悩みを抱えているのか、軍神にはまったく想像が出来なかったが
それでも何を迷っているくらいは空気を読んで理解していた。
優しくヒートの肩を叩き
(#゚;;-゚)「じゃ、ウチは先に行っとくよ」
ノハ#゚ ゚)「私は――」
(#゚;;-゚)「……ま、ミルナが一番待っとる人はウチやないやろうけどなぁ」
苦笑した軍神は身を翻し、戦場へ身体を向けた。
(#゚;;-゚)「待っとるよ。 誰も彼もが。 何もかもを。 もちろんアンタも。
だから、アンタが思う通りにすればええんや」
ノハ#゚ ゚)「…………」
(#゚;;-゚)「ただし早く結論しといた方がいい。
この広い世の中には、多くを伝えられずに死別してまう人もいる。
だから、な?」
そう言い残して駆け出した軍神の背中を目で追いつつ、ヒートは拳を震わせた。
解っている。
解っているんだ。
だけど、どうしても――!
ノハ#゚ ゚)「……ミルナ」
- 429: ◆BYUt189CYA :2008/03/28(金) 21:00:04.35 ID:fmjQj92D0
- ミリアが白刀を振りかざした時、猛スピードで乱入してきた影があった。
(#゚;;-゚)「へいお待ち!!」
(メ゚д゚ )「!!」
ル(i|゚ ー゚ノリ「我らの戦いに手を出すか、軍神!」
(#゚;;-゚)「いくらでも出したるわ……! 今回は勝ちに執着してんからね!」
ル(i|゚ ー゚ノリ「貴様――それでも軍の神か!? この高揚が解らぬこともなかろう!」
(#゚;;-゚)「勝手なイメージの押し付けは御断りしてます、っよ!!」
鍔迫り合いをするミリアへ容赦ない一撃が飛ぶ。
当たるかと思われた拳は、しかし既のところで急停止してしまう。
新たに出現した刀二本が攻撃を防いだのだ。
だが、
(メ゚д゚ )(防いだ位置が――)
(#゚;;-゚)(――近い!!)
反応が遅れたか、出力不足か。
軍神の拳は先ほどまでに比べて、よりミリアに近付いた位置で止められていた。
しかも盾として使用された刀の数は二に減っている。
確実に、そして間接的にブロスティークの効果は現れていた。
- 432: ◆BYUt189CYA :2008/03/28(金) 21:02:13.63 ID:fmjQj92D0
- ル(i|゚ ー゚ノリ「ッちぃ!」
流石に形勢不利だと悟ったのか、
ミリアは鍔迫り合いをしていたブロスティークを弾き飛ばし、そのままの勢いで後退して刀を構えた。
周囲空間が僅かに歪んでいることから、どうやらカウンターを狙う方針に変えたようだ。
――あのミリアが受け身に回った。
そんな事実に軍神は、思っている以上に状況が好転していることを知る。
あとは射出される刀さえ掻い潜れば、痛恨の一撃を狙えるかもしれない。
(#゚;;-゚)「これがホントの千載一遇のチャンスってわけかい」
(メ゚д゚ )「一気に畳みかけるぞ! ……ところでヒートはどこだ?」
(#゚;;-゚)「んー……あそこ」
少し言い淀んだ軍神の指先。
ヒートが俯いて座っているのを見たミルナは、逡巡するように表情を歪めた。
しかし、それも僅かな時間で元の引き締めた顔に戻ってしまう。
(#゚;;-゚)「いいのん?」
(メ゚д゚ )「俺は待つだけさ。 いつものことだが」
(#゚;;-゚)「思ってたよりもドライやねぇ」
(メ゚д゚ )「……まぁ、そう見えても仕方ないが――ッ!? 来るぞ!」
- 435: ◆BYUt189CYA :2008/03/28(金) 21:04:10.62 ID:fmjQj92D0
- 鋭い声に、二人は一瞬で身を翻した。
刀が四本ほど地面に突き刺さったのは直後だ。
ル(i|゚ ー゚ノリ「私を前にして雑談とは……愚弄するつもりか」
(#゚;;-゚)「アンタに許可もらわんと話しちゃあかんって決まりは聞いたことないけどなぁ」
ル(i|゚ ー゚ノリ「本能で知っておくべきだと思うがね。
獣ですら、己より強い者に対しては腹を見せるというのに」
(#゚;;-゚)「じゃあ、さっさと腹見せンかい」
ル(i|゚ ー゚ノリ「……活きが良くて結構だ」
歪む。
ミリアの周囲空間が歪曲する。
水面を割って出てくるような静けさと共に、数多くの刃が頭を出した。
見えるだけで三十や四十は軽く超えるだろうか。
ル(i|゚ ー゚ノリ「もう容赦はしない。 這いつくばって命乞いするなら今の内だ。
もっとも、生かすつもりはないが」
(#゚;;-゚)「そのナチュラル上から目線――叩き潰す!!」
戦闘再開は突然だった。
ミルナへの合図もなく地を蹴った軍神は、真っ直ぐにミリアの下へ走った。
- 440: ◆BYUt189CYA :2008/03/28(金) 21:05:21.03 ID:fmjQj92D0
- 応じる迎撃がある。
こちらを見据えたミリアが腕を振った瞬間、
彼女の周囲に浮いていた刀が一斉に迸った。
一瞬だけ広がるようにして展開し、そのまま獲物目掛けて殺到する光景は
どこかピラニアに似た容赦の無さを髣髴とさせる。
(#゚;;-゚)「そんな解り易い軌道でウチが食えるとでも思っとるンかぁぁl!?」
しかし軍神は一度たりとも立ち止まりはしなかった。
むしろ前屈姿勢を深めて速度を上げていく。
無謀にも思える突撃だったが、次々と襲い掛かる刀に対し、最小限の動きだけで切り抜けていくことに成功していた。
(#゚;;-゚)「もう何度目やろなぁ!?
どんな奇術でも手品でも、何回も見りゃ飽きるもんや!」
戦闘に対し、ある意味で達観している軍神は『攻撃の観察』に秀でている部分がある。
いくら理由が解らない攻撃だろうが、五感のいずれかで感知出来るのであれば
いずれ必ず捉えることが可能というのが彼女の持論だ。
確かに、刀の操作や防御は奇抜なものがある。
だが、性質的な面で言えば前者は『猛禽』であり、後者は『結界』である。
こちらに確実に向かってくる攻撃であれば見切りに易く、
防御が硬いのならば、それを貫く攻撃力をぶつければ良いだけ。
- 442: ◆BYUt189CYA :2008/03/28(金) 21:06:33.93 ID:fmjQj92D0
- (#゚;;-゚)「驚くのは最初だけってな!
初手で仕留められんかったことを、今からたっぷりと後悔させるよ!」
ル(i|゚ ー゚ノリ「威勢の良いことだ……! まだ力の差が解っていないと見える!」
ミリアが見せ付けるように白刀を構える。
いくら刀の群れを回避しても、最終的にはこれ一本で充分だ、と言わんばかりに。
切り裂きの突風から抜けだした軍神へ、その刃を――
(#゚д゚ )「ぬんッ!!」
しかし、直前に割り込んできたミルナによって妨げられる。
(#゚д゚ )「軍神! こいつの能力の源は、この刀だ! これさえ何とかすれば――!」
(#゚;;-゚)「へぇ〜。 じゃ、お任せするわ」
(#゚д゚ )「なんとも気が抜ける……ッ!!」
ル(i|゚ ー゚ノリ「あわよくば破壊するつもりか! やってみるがいい!
不可能だからこそ私はここにいるという事実を痛感しろ!」
更に加重されていく刃の交わり。
ちりちりと擦れ合う金属。
圧し合いする魔力の奔流。
それらの現象が稲妻のような音を奏で
白刀と黒剣から発せられる光は火花の如くバラ撒かれる。
チェーンソー同士がぶつかると、これに似た光景が繰り出されるのかもしれない。
- 446: ◆BYUt189CYA :2008/03/28(金) 21:07:52.23 ID:fmjQj92D0
- (#゚д゚ )「ブロスティーク! あの刀を砕いてみせろ……!!」
『うーん、出来ないことはないけど骨が折れるからパスの方向で』
(;゚д゚ )「は!?」
ル(i|゚ ー゚ノリ「ははは! 己の武器すら従えることが出来ぬか!」
『うるさいよ小娘。 あたしはこんな形だけど武器じゃあない。
望むは対等の関係で、いいように使われるなんてごめんだね。
だからさ――』
(;゚д゚ )「うぉ!?」
『――アンタの、その刀の扱い方が苛つくんだよ!!』
付き合いは極めて短いものの、彼女が怒りの感情を示すのはこれが初めてだった。
迸る魔力の量を増大させた衝撃が、ミリアだけでなく持ち主のミルナにすら襲い掛かる。
『どこで手に入れたかは知らないけど!
そいつは、アンタなんかに使われるような安い子じゃないのさ!!』
「ふン、よく知っているようだな」
『当然! その子と戦い、最期を看取ったのはあたしだからねぇ!』
- 449: ◆BYUt189CYA :2008/03/28(金) 21:09:27.47 ID:fmjQj92D0
- 理解不能な言葉の応酬を前にして
しかしミルナは敵の攻撃に神経を集中させる。
説明が必要な会話に気をとられ、防御を疎かにしては意味が無い。
話ならば後でいくらでも出来る。
今は、どうやって奴を倒すかを考えなければ。
『ミルナ。 さっきも言ったけど、この刀は破壊しないよ』
(;゚д゚ )「だが、だとするならばどうやって……!?」
『簡単さね。 あの小娘を直接倒せばいい。
使い手がいない刃は、もはや武器じゃないからねぇ』
ル(i|゚ ー゚ノリ「となると私は、ただ使われる刀以下の存在ということか……随分と無礼な発言だな?」
『異獣本体のデッドコピー――いや、それ以下のカス人形に無礼も何もないだろう?』
ル(i|゚ ー゚ノリ「ッ、老いぼれが……!」
(;゚д゚ )「ちょ、ちょっと待て! その方法が解らんからこうして戦っているというのに!」
『なぁに、駒は揃ってるんだ。 あとは歯車が噛み合うのを待てばいい』
(メ゚д゚ )「何を――」
『それまでの辛抱! さぁ、それまで存分に抗ってやろうじゃないのさ!』
- 452: ◆BYUt189CYA :2008/03/28(金) 21:10:52.04 ID:fmjQj92D0
- どうやらブロスティークは希望を持っているらしい。
それも、この戦況を覆すほどの希望を。
(メ゚д゚ )「……解った! 信じるぞ!」
自分の武器がポジティヴに戦おうとしているのだ。
持ち主として、それに倣うのも悪くない。
覚悟を決めたミルナは、今度こそ全身全霊を以って敵の攻撃に集中を始めた。
だが、一抹の不安が拭えずにいる。
戦力としてブロスティークが加わったことにより
確かに状況は好転したと言えるが、それでも何かが足りないように思えた。
あの強力な白刀は自分が受け止め、軍神が隙を突いて――
(メ゚д゚ )(あぁ……そういうことか)
程なくして、ミルナは納得した。
――決定的に一要素が足りない、と。
防御、初撃と来て、最後の決定打狙い担当の攻撃手が足りないのだ。
軍神とのコンビネーションで仕掛ければ、もっと隙を突き易くなるかもしれないのに。
- 455: ◆BYUt189CYA :2008/03/28(金) 21:11:59.14 ID:fmjQj92D0
- ミリアの最大の懸念はブロスティークを持つ自分である。
ならば、常に最大限の攻撃意思を表示しておくべきで
生まれる僅かな隙を軍神が広げ、そして最後の一人が決定打を叩き込めば良い。
今出来るであろう完璧な戦術は、おそらくこれ以外にありはしないだろう。
(メ゚д゚ )(何をしているんだ、アイツは――!)
攻撃と言えば、お前の出番だろう?
立ちはだかる障害は自分が全て取り除く。
だから、この戦いを終わらせるためにも、お前の力が必要なんだ。
……なのに、どうして。
未だ駆けつけて来ない戦友を思う。
合流した時から様子がおかしかったのは知っているが
果たして、そこまで深刻なダメージを心に負ってしまったのだろうか?
(メ゚д゚ )(ヒート、俺は……いや、俺が一番知っている。
お前は強いように見えて脆く、しかしやはり強靭だということを。
だから俺は、ずっと――!)
- 459: ◆BYUt189CYA :2008/03/28(金) 21:13:15.82 ID:fmjQj92D0
- 白熱し始めた戦いの場を、少し離れた位置にいるヒートはぼんやりと見ていた。
ノハ#゚ ゚)「…………」
ミリアが数多くの刀を飛ばす。
それを軍神は掻い潜り、ミルナは防御して叩き落とす。
反撃としてブロスティークを振るい、隙を見つけた軍神が一撃を入れるために疾駆する。
だが見越していたかのように、瞬間的に出現した刀が防壁を作る。
耐え切れなくなったミルナ、そして隙を見失った軍神が下がる。
多少の差異はあれど、この繰り返しだった。
先ほどから、ずっとだ。
この攻勢が最後のチャンスとばかりに、二人は休まず攻撃を仕掛ける。
しかし、効果は薄い。
確かにブロスティークは高性能だとは思えるが
ミリアの持つ切り札――テセラ、とかいう白刀の方が秀でている部分が僅かに多い。
ただ、当初に比べれば随分と余裕があるように見えた。
それを、何もせずに見ている自分は何なのだろうか。
駆けつけたい。
あのムカつく笑みに一撃入れてやりたい。
自分の大事なモノを奪った奴らへ、少しでもいいから復讐したい。
そんな願望が連鎖的に発生するも
ヒートは未だに立ち上がることすら出来ずにいた。
- 463: ◆BYUt189CYA :2008/03/28(金) 21:14:47.18 ID:fmjQj92D0
- ノハ#゚ ゚)「……ッ」
どうして彼は言葉を掛けてくれないのか。
一言、『一緒に戦おう』とだけでも言ってくれれば良いのに。
肩を並べて戦っても良いのだと教えてくれれば良いのに。
とにかく不安だった。
もう自分は彼の興味の範疇から外されているのではないのか、
という終わりの見えない自問が、何度潰しても湧き上がってくる。
今まで平気だった自分が信じられない。
一年も離れていて、顔を奪われてしまって、取り巻く環境も変わっていて、
それでどうして不変だと思い込むことが出来たのだろう。
変わらない方がおかしいのだというのに、
そして自分が一番変わってしまったのは解っていたのに、
どうして疑問にすら思わなかったのだろう。
- 471: ◆BYUt189CYA :2008/03/28(金) 21:17:01.04 ID:fmjQj92D0
- 悔しいのは、それに気付かせた奴がミリアだという点だった。
仕組まれていたらしい。
自分が顔を奪われ、異獣を一心不乱に追い、そしてミルナと鉢合わせたことが。
顔を失くしたまま彼と会うのは嫌だったが、それでも目が覚めた時にミルナの顔が見えた時
ヒートという女性は、悲しむよりも何よりも『嬉しい』と思ってしまっていた。
なんと無様だろう。
あれだけ顔を取り戻すことに執着していた自分が
予期せず愛する男と再開しただけで、すぐに心変わりしてしまった。
顔に対して何も言ってこない彼を見て、甘えが出たのだろう。
どんなことにもポーカーフェイスで応えるからミルナだからこそ
内心は強いショックを受け、それをひたすら隠し続けていたに違いない。
それに気付かず、彼の傍にいることが出来るのは幸せだ、とのん気に思っていた自分が憎い。
ノハ#゚ ゚)(……怖いよ、ミルナ)
どうすれば良いのか解らない。
駆けつけて、それで何か得られるのだろうか。
螺旋状の階段を転がり落ちていくような、もう二度と出られない迷宮に迷い込んだような。
考えれば考えるほど、答えが遠くなっていく。
- 480: ◆BYUt189CYA :2008/03/28(金) 21:20:27.12 ID:fmjQj92D0
- ぼぅ、と霞んだ視界で戦いを見る。
軍神が跳び、ミルナが防ぎ、ミリアが笑う。
ブロスティークが黒い衝撃波を生み、テセラが白い剣線を描く。
どうして、自分は向こうにいないのだろう。
ノハ#゚ ゚)「…………」
もう、駄目かもしれない。
心が折れそうだった。
……この戦いが終わっても、ミルナと共にいることが出来ない。
そう思ってしまう自分がいる。
共にいることが、どうしても情けなく思ってしまう自分がいる。
ならばいっそ、もう――
その時、ヒートは気付いた。
凍っていた思考の中、まだ活動を続ける戦闘本能が、ある光景を捉えたのだ。
- 484: ◆BYUt189CYA :2008/03/28(金) 21:22:25.65 ID:fmjQj92D0
- それはミルナの動きだった。
いつも傍で見ているばかりで、こんな遠くからじっくり見るのは初めてだった部分もある。
しかしそれ以上に、彼の効率の悪さが目にとまった。
(;゚д゚ )「っと! 今のは危なかった……!」
あのままじゃ駄目だ。
防御ばかりでは道を開くことなど出来ない。
反撃して初めて、活路というものが見出せるはず。
(メ゚д゚ )「ッ――!」
違う。
そこは右に避けるのが一番良いはずなのに。
わざわざ左に向かうのは、ミルナの回避センスが悪いからだろうか。
(メ゚д゚ )「そこだ――!!」
あぁ、そうじゃない。
今のは後方へ下がるべきだった。
前へ出ても、後ろに誰かいないと援護を受けられないのだから――
- 487: ◆BYUt189CYA :2008/03/28(金) 21:24:03.48 ID:fmjQj92D0
- ノハ#゚ ゚)「……え?」
そこで、ふと気付いた。
ミルナの動きが傍から見ていて歯痒い理由。
それは、決して彼の状況判断能力が劣っているからではない。
もっと別の、根本的な何かを求めているからだ。
――果たして、何を?
何故、特に戦術的な意味もないのに防御するのだろうか。
まるで他の誰かが攻撃を担当するのを知っているかのように。
何故、あの時に左ではなく右へ避けたのか。
まるで誰かのために囮となるかのように。
何故、危険を承知で前へ出たのか。
まるで背後を誰かが護っていると確信しているかのように。
問い掛けた時、どくん、と心臓が高鳴った。
- 491: ◆BYUt189CYA :2008/03/28(金) 21:25:57.83 ID:fmjQj92D0
- ノハ#゚ ゚)「あ……」
まさか、
ノハ#゚ ;)「ぁあ……」
全て、
ノハ#; ;)「あぁぁ……!」
自分のために――?
- 501: ◆BYUt189CYA :2008/03/28(金) 21:27:34.31 ID:fmjQj92D0
- ヒートは、震える声で確信した。
彼は待っている。
ずっと待っていた。
戦いが始まってから、ひたすら待っていたんだ。
敢えて不利な方向へ行くのは、有利な位置をヒートに譲るため。
もう既に身体の動きとして染み付いてしまっているのか、
ヒートが傍にいなくとも、自然とそういう行動を選択してしまうらしい。
見れば見るほど解ってしまった。
彼の戦いの一部は、ヒートと共にあることを前提に行なわれている。
それが一人の場合だと不利に追い込まれるというのに、ミルナはヒートと共に戦うことを望んでいたのだ。
言葉なんか要らない、と。
一緒に戦うのが当然なのだ、と。
近過ぎて見えなかった彼の一面が、見せてほしかった本心が
今、ヒートの目の前で展開されている。
確かめる必要など、最初から無かったのだ。
ノハ#; ;)「ミルナ……!」
伝う涙が止まらない。
仮面の中にまで流れてしまい、どうしようもなく居ても立ってもいられなくなった。
- 516: ◆BYUt189CYA :2008/03/28(金) 21:31:33.81 ID:fmjQj92D0
- 駆けつけなければ。
もう、何も迷う必要はないんだ。
そう確信したヒートは仮面を薄く顔から剥ぎ、中の涙を拭う。
手に持つ武器を確認し、そこでようやく立ち上がった。
ノハ#゚ ゚)「ごめん、ミルナ。 すぐに行くよ」
震える膝を叩き、軽く頭を振った。
馬鹿らしい。
自分は何を悩んでいたんだ。
信じていなかったのは、自分だったんだ。
でも、気付けた。
だから、信じよう。
向こうが信じてくれているなら、こちらも遠慮なく信じるよ。
ノハ#゚ ゚)「――ッ!!」
左手に飛燕、右手に夜鴉。
本気の構えを見せたヒートは、今までのどの疾駆よりも力強く、地を蹴り飛ばした。
- 531: ◆BYUt189CYA :2008/03/28(金) 21:34:16.77 ID:fmjQj92D0
- ノハ#゚ ゚)「――ミルナッ!」
(メ゚д゚ )「ようやく来たか! 遅いぞ!」
ノハ#゚ ゚)「ごめん……! でも、きっと大丈夫だから!
もう私は迷わない!」
(メ゚д゚ )「よく解らんが了解した……! 万軍よりも心強い援護を期待している!」
ノハ#゚ ゚)「――任せて!!」
一気にギアを上げる。
隙を心配する必要はない。
ミルナが護ってくれるのだから。
紅蓮色の姫は、黒と化した騎士と合流する。
混ざり合り、それは獄炎と成って敵を絶やす。
ノハ#゚ ゚)「おぉぉぉぉぉ!!」
ル(i|゚ ー゚ノリ「その目……! 開き直ったか!?」
ノハ#゚ ゚)「違う! ただ、本当のことに気付いただけだ!!」
右手の包丁刀を振りかぶり
ノハ#゚ ゚)「――もう、惑わされない!!」
渾身の力を以って叩きつけた。
- 542: ◆BYUt189CYA :2008/03/28(金) 21:35:58.97 ID:fmjQj92D0
- ル(i|゚ ー゚ノリ「口では何とでも言えるだろう! だが、心の底では未だ疑っているはずだ!
あの男は本当にお前のことを大切に見ていると言えるか!? 確信があるか!?
他人の中の自分が、どう確定しているのか――」
ノハ#゚ ゚)「違う! そんな考え方は違うんだ!」
力と力が弾け、押し負けたヒートが後方へ飛ぶ。
そのままステップを二歩刻み、背後から来るミルナの気配を感じとった彼女は
ノハ#゚ ゚)「ミルナァァァァ! 私はお前が大好きだぁぁぁぁぁあああ!!」
(;゚д゚ )「応っ――って、なんだと!?」
てっきり追撃の指示が来ると思っていたミルナは
あまりに場違いで予想外な告白に度肝を抜かれてしまう。
そんな彼の反応を嬉しそうに眺め、ヒートは更に言葉を続けた。
ノハ#゚ ゚)「だから! 一緒にいていいかなんていちいち聞かない!
一緒にいようと! そう決めた!!」
ル(i|゚ ー゚ノリ「なっ……!?」
(#゚;;-゚)「くっ、く……若いってえぇなぁ」
- 554: ◆BYUt189CYA :2008/03/28(金) 21:38:24.68 ID:fmjQj92D0
- ル(i|゚ ー゚ノリ「戦いの中で何をふざけたことを――」
(#゚д゚ )「おぉッ!!」
ル(i|゚ ー゚ノリ「ぬっ!?」
刃を交えていたミルナの力強さが変わった。
踏み込みはもちろん、防御時の反発力が段違いに。
ヒートと共に戦えることを認識し、限界以上の出力を得たのだ。
(#゚;;-゚)「んじゃ、本領発揮ってことで! 行くよぉ!!」
ノハ#゚ ゚)「「把握!!」」(メ゚д゚ )
テンションの上乗せを狙うかのように軍神が吼えた。
続いて、二人の英雄もそれに倣って攻撃の意思を見せる。
疾駆した。
一丸ではなく三方向に散るようにして。
今までのどの疾走よりも速く、力強い。
ミルナを中央に、それぞれの斜めに軍神とヒートが構える陣形だ。
(#゚;;-゚)「突撃! 突撃! そして突撃――!!」
狙いは三人同時連続攻撃。
ブロスティークの効果もあって弱体化したミリアを
ここで一気に崩してしまおう、との判断を元にした猪突猛進だ。
- 571: ◆BYUt189CYA :2008/03/28(金) 21:40:55.95 ID:fmjQj92D0
- ル(i|゚ ー゚ノリ(こいつら――!?)
正面にブロスティークがある以上、白刀『テセラ』を迂闊に使用するわけにはいかない。
ここは防御に徹するのが上策と直感したミリアは、意識を内側に集中する。
軍神の拳は三本。
ヒートの斬撃は四本。
ミルナの斬撃も四本。
一度の防御に必要なのは計十一本の刀で
それがテンポとして一秒に一・五回分ほど消費される計算だ。
即ち――
「「はあああああぁぁぁぁぁ!!」」
秒間平均十五本もの刀が一度に割れ、砕かれ、破壊されていく。
五秒もすれば五十近くもの刀が粉砕され
更にその刃が、吹雪のように散らされていく。
律義に太陽光を反射し、戦場を輝きの場へと変貌させた。
撃音。
砕音。
咆哮。
攻勢の意志が集束し、耳を聾さんばかりの大音を打ち鳴らしていく。
- 584: ◆BYUt189CYA :2008/03/28(金) 21:42:56.10 ID:fmjQj92D0
- ル(i|゚ ー゚ノリ「ようやく出たな……! 感情の力が!
それで私を喰い殺せるか試してみるがいい!」
(#゚д゚ )「それは俺の役目ではない!」
ル(i|゚ ー゚ノリ「何!?」
ノハ#゚ ゚)「おぉぉぉぉッ!!」
ミルナの背後からヒートが来る。
視線すら交わしていないにも関わらず、正確なタイミングで追撃が来る。
まるで背中に目があるようにミルナは進路を譲り、それを信頼しているヒートは迷わず走った。
ル(i|゚ ー゚ノリ「――だが、そのような貧弱な武器で何が出来る!?」
ヒートに残された武装は二つ。
壱ノ武『飛燕』と四ノ武『梟』だ。
包丁刀は、今の連続攻撃の最中に砕け散ってしまった。
そして残ったどちらも近接攻撃には向いておらず、前者は攻撃用ですらない。
だが、ヒートは迷わず走った。
(#゚;;-゚)「ちゃんとこっちも見といてなぁ!」
ミリアの背後に、軍神が忍び寄っていたのが見えていたから。
- 593: ◆BYUt189CYA :2008/03/28(金) 21:44:20.63 ID:fmjQj92D0
- ル(i|゚ ー゚ノリ「蜘蛛姫は囮か! 小賢しい真似を!」
察知さえ出来れば時間は要らない。
背を狙う軍神に意識を集中させ、三本の刀を出現させる。
その隙にミルナが右方へ移動しているのに気付き、更に意識を分散させる。
次の瞬間だった。
ノハ#゚ ゚)「そこだあああああああああああ!!」
ル(i|゚ ー゚ノリ「っ――!?」
攻撃手段に乏しいヒートが一気に突っ込んでくるのを、ミリアは見る。
予想外な行動に判断が一瞬だけ遅れ、それが致命傷となった。
ル(i|゛ -゚ノリ「がっ!?」
右の視界が黒に染まる。
いや、違う。
これは――
ル(i|゛ -゚ノリ「刺、された……のか……」
右目に深々と入り込んだ黒塗りの刃。
人間如きに傷付けられた、という事実を反芻するミリアを前にして
ヒートは握ったままの飛燕に力を込め
ノハ#゚ ゚)「もう、躊躇わない!!」
体重を掛けながら、その刃を思い切り下方へ切り払った。
- 604: ◆BYUt189CYA :2008/03/28(金) 21:46:01.11 ID:fmjQj92D0
- ル(i|" -゚ノリ「ぐ、ぁ……!」
飛び散る鮮血と、白色の何か。
流石に痛覚はあるようで、その刺激でようやくミリアは現状を理解したようだった。
しかし未だ半分ほど信じられぬようで、掌に落ちた真っ赤な血を凝視する。
ル(i|" -゚ノリ(これが……私の血……?)
(メ゚д゚ )「傷を入れた……! やはり完全無欠ではなかったか!」
ノハ#゚ ゚)「あの防御方法は自動なんかじゃない。 意識を引き金にしてる。
だから隙を――本当に小さな穴だけど、恐れず突けばダメージを与えられる」
(#゚;;-゚)「気ィつけぇよ。 まだ終わっとらん。
さぁ、鬼が出るか蛇が出るか……」
右目を失ったミリアは更に形勢不利となる。
こちらは軍神にヒートとミルナ、そしてブロスティークが揃っている。
ル(i|" -゚ノリ「…………」
だが、それでも勝ち目が見えてこないのは何故だろうか。
沈黙が訪れた。
どうにも嫌な沈黙だ。
この後で危険なことが起きるような、そんな予感がする。
- 613: ◆BYUt189CYA :2008/03/28(金) 21:47:30.04 ID:fmjQj92D0
- ル(i|" -゚ノリ「く――」
俯くミリアが、呻いた。
呼応するようにヒート達は武器を構える。
決して小さくないダメージを受けたミリアが、あのまま黙っているわけがない。
しかも見下していた人間に傷付けられたのだ。
プライドに大きな裂傷が入ったと見てもいい。
となれば、怒りによって更に攻撃が激化することも考えられる。
ル(i|"ー゚ノリ「く、は――」
再度、呻き声。
吐かれた息は蕩けるような粘着性を持っている。
恍惚とした吐息は、明らかに場違いなものだ。
ル(i| ーノリ「はは……は――」
ミリアは、大きな黒い何かが心を覆うのを自覚していた。
これまで圧倒的優位に立っていると知っていたが故に、この痛みが新鮮なものとして映ったのだ。
結果、感情が沸騰する。
証明するように、顔を覆う手の隙間から、吊り上がった口端が覗いた。
ル(i|"∀゚ノリ「くはははははははははははははははははははは!!!」
- 625: ◆BYUt189CYA :2008/03/28(金) 21:49:19.50 ID:fmjQj92D0
- 溢れ出す感情は『興奮』だ。
抑えられない衝動に欣喜雀躍の様相を見せるミリア。
残った左目を見開き、淑やかに閉じられていた口を獣のように大きく広げて狂い笑う。
(;゚д゚ )「わ、笑って……?」
(#゚;;-゚)「……鬼でも蛇でもない。 イヤーなのが出たかもわからんね」
高らかに響いたのは笑い声だった。
今までとはまったく別種の、狂気すら感じさせる笑いだ。
顔半分を血に濡らしたままの破顔は薄ら寒いものがあった。
ル(i|"∀゚ノリ「これだ! これだよ! 私はこれを待っていた!!
遂に貴様らは私の喉に牙を当てるまで肉薄した!
待っていた甲斐があったというもの! やはりお前達は――!!」
『負け犬の遠吠えにしか聞こえないねぇ』
ル(i|"∀゚ノリ「何とでも言え……! 今の私は歓喜に打ち震えている!」
すぅ、と深く息を吸い
ル(i|"∀゚ノリ「このような人間を殺し尽くすことが出来るのだとなぁッ!!」
瞬間、劇的な変化がミリアの周囲を蹂躙した。
上半身を前へ落とし、両腕を胸の前で勢いよくクロスさせると
いきなり無数の刃が彼女を覆い尽くすように、甲高い音を立てて出現したのだ。
- 633: ◆BYUt189CYA :2008/03/28(金) 21:50:39.93 ID:fmjQj92D0
- (;゚д゚ )「なっ――」
今までのものとは比べ物にならない規模。
しかも、
ノハ#;゚ ゚)「散った刀の破片が!?」
先ほどの大攻勢で何百、何千と叩き割った刀が再生しようと動き始めていた。
褐色の大地すら覆い尽くさんという量の刃が蠢き、元の形を成していく。
剣山だ、とミルナは思った。
ミリアを中心とした大地から再生した刀が、そして空中から生まれ出づる刃が。
四方八方へ好き勝手に伸び、互いの身を擦り合わせての金属音は一つの生物のようだ。
あれが一斉に放たれ、そして運悪く避け損なえば、おそらく千度八千度と串刺しになってしまうだろう。
ル(i|゛∀゚ノリ「ははははははははははははははははははぁぁぁ!!!」
(;゚д゚ )「ッ……!?」
(#゚;;-゚)「来るよ!!」
鼓膜を震わせる笑声に身を固めた直後。
タイミングを合わせてきたかのように、何千もの刀が一斉に発射された。
それは現代兵器に例えれば、爆発時に鉄球を撒き散らす『クレイモア地雷』である。
- 641: ◆BYUt189CYA :2008/03/28(金) 21:52:27.04 ID:fmjQj92D0
- 一斉に広がる死の線。
赤の景色が一瞬で白に染められ、刃は無差別に何もかもを切り裂こうと飛ぶ。
離れている味方軍に比べ、圧倒的に近いミルナ達は最大限の危険に晒されることとなった。
(;゚д゚ )「う、ぉぉ……!?」
咄嗟にブロスティークを盾とするように構える。
銃弾のようにして飛んできた刃が刀身に当たり、連続した高音を発していく。
(;゚д゚ )「俺はともかく他の奴らが! ブロスティーク、何か結界のような能力はないのか!?」
『ってか能力の使用が不可だねぇ。 残念だけど、そもそも条件が合ってない』
(;゚д゚ )「そんな――っくぉ!?」
圧倒的な数だが攻撃基準が無差別なのが幸いだった。
ミリアを中心として放射線状に刃が走ることから、正面にブロスティークを構えていれば問題ない。
盾を持たない軍神もヒートも心配ではあったが、このような単純な攻撃であれば――
その時、視線の端を違和感が過ぎった。
(;゚д゚ )「これは……!?」
幾重もの直線の中、微かに曲線軌道が混じっている。
一度は傍を通過していった刀の一部が、切っ先をこちらに向けた動きだ。
『無差別直線軌道の中にホーミングを混ぜて……! ミルナ!!』
(;゚д゚ )「解っている! 皆、無事でいろよ――!」
- 648: ◆BYUt189CYA :2008/03/28(金) 21:53:56.86 ID:fmjQj92D0
- ノハ#;゚ ゚)(くっ、考えてるな……!)
突如として別方向から襲い掛かってきた刃を回避したヒートは、敵の狡猾な戦法に舌を巻いていた。
同じ刀の中に二種類の動き、という事実は回避基準の乱れを誘発する。
もちろんこちらに向かってくる刀だけ防御すれば良いだろうとは思うが
そこで活きてくるのが、先ほどから乱射されている直線軌道の方の刃だ。
あの刀には明確な意思が宿っていない。
ただ真っ直ぐ飛ぶことしか命じられていない。
つまり、全ての刀が『偶然』当たるのを期待して放たれているのだ。
そこに殺気などあるわけがなく。
視界に捉えるか、風や音を読んで回避するしかない。
邪魔をするように追い掛けてくる方の刀を避けながら、だ。
――全て考えられている。
ノハ#゚ ゚)(ただ単に暴走したわけじゃあない……!)
左方からきた刃を飛燕で弾きつつ、思う。
とにかく今は回避だ。
果たして何十、何百、何千、何万もの刀を隠し持っているのか。
終わりの見えない全方位攻撃に、ヒートは再び集中し始める。
- 656: ◆BYUt189CYA :2008/03/28(金) 21:55:17.28 ID:fmjQj92D0
- ステップを刻み、出来るだけ後方へ。
下がれば下がるだけ判断の猶予が増えるからだ。
だが、それすらも奴は読んでいた。
ノハ#゚ ゚)「!?」
風向きが変わったのに気付く。
前から吹きつけるものではなく、背後へ吸い込んでいくような。
同じように見えて決定的に何かが違う、この違和感の正体とは――
き、という音が微かに響いた。
まずい。
何か解らないけど、駄目だ。
直感による焦燥に煽られ、本能が警告する。
このままだと危険だ――!
- 665: ◆BYUt189CYA :2008/03/28(金) 21:57:04.45 ID:fmjQj92D0
- ノハ#;゚ ゚)「くっ!?」
咄嗟に身を捻る。
視界の隅で、ミルナが全力で後方へ跳ぶのが見えた。
そして、それを追う白色の光も。
ミリアの切り札『テセラ』が再び使用されたのだろう。
だが先ほどヒートに襲い掛かった波動と比べ、圧倒的に規模が大きい。
それは津波のように地面を砕きながら、扇状範囲の全てを食い尽くしていく。
ノハ#;゚ ゚)(間に、合わない……!?)
二度目にして、またもや喰らってしまうのか。
だが、既に全てを呑む光が眼前に迫っている。
逃げ道がないことを悟ったヒートは身を丸め、自身の保護を優先する。
直後、轟、という音と同時に衝撃が身体を貫き、
ノハ#;゚ ゚)「ぐっ……うぅ……ぁ! ミルナ……!」
そのまま、意識が暗転した。
- 671: ◆BYUt189CYA :2008/03/28(金) 21:58:36.24 ID:fmjQj92D0
- 嵐が通過したような光景と音だった。
正体は風ではなく光だったわけだが、それでは尚性質が悪いと言える。
比較的平坦だった地面は大きく抉れてしまい、その威力の程を示している。
(;-д- )「ぐ、ぅ……」
ノハ# )「うっ、ぁ……」
荒れ果てた地面に、二人の男女が倒れていた。
光の波動に巻き込まれたミルナとヒートだ。
叩きつけられた衝撃もあってか、すぐに動けそうにない。
(#゚;;-゚)「……まったく、やってくれる」
その傍に軍神が立っていた。
流石に無事ではなく、身体にいくつかの裂傷が刻まれている。
どこか余裕があった瞳には、既にそのような楽観的な輝きが消え失せていた。
これでも軽傷に入る内だった。
並の使い手であれば、おそらく即死だったはずだ。
あの攻撃の中で生きて――しかも意識を保っていられたのは、
ひとえに彼女の卓越した技術と、機械皮膚を通した身体機能の恩威と言える。
- 683: ◆BYUt189CYA :2008/03/28(金) 22:00:12.87 ID:fmjQj92D0
- ル(i|"ー゚ノリ「理解したか、軍神?
どんなに状況が不利になろうとも、このテセラがあればいくらでも逆転することが出来る。
お前達は最初から負ける戦いに挑んでいたのだよ」
(#゚;;-゚)「逆を言えば、その武器を失くしてしまえば勝てるってことやろ?」
ル(i|"ー゚ノリ「だが、テセラを持っている限りは失くすこともあるまい。
この圧倒的な力があれば、どのような敵をも滅ぼすことが可能なのさ。
もはや『唯一の支配』はオマケと言えよう」
(#゚;;-゚)「……何やそれ?」
ル(i|"ー゚ノリ「テセラの固有能力。
これと決めた一つの物質を原子レベルまで操ることを可能としてな。
お前達のような低脳から生まれる技術では及びつかない、まさに神の力だ」
成程、と軍神は納得した。
もしミリアの言う固有能力とやらが真実ならば、今までの攻撃全てに説明がつくからだ。
おそらく彼女は『刀』という物質を『唯一の支配』とやらに設定しているのだろう。
刀を用いた射撃から防御、再生に至る全ての事象は、この固有能力からきているのだ。
(#゚;;-゚)「にしても、随分と親切なことで」
ル(i|"ー゚ノリ「ここまで愉しませてくれたのだ。 礼代わりとして聞き入れておけ。
まぁ、すぐに死ぬのは決定事項だが」
- 688: ◆BYUt189CYA :2008/03/28(金) 22:01:37.65 ID:fmjQj92D0
- (#゚;;-゚)「……ふぅん」
気のない返事を寄越した軍神は、ミリアを無視して歩を進めた。
未だ意識を取り戻していないミルナとヒートの傍まで行くと、
(#゚;;-゚)「ちょいと借りますよ、と」
未だ硬く握っているミルナの手から、黒色の巨剣を奪い取った。
ル(i|"ー゚ノリ「成程。 良い判断だ」
(#゚;;-゚)「身体一つで戦うよりも、まぁマシでしょ」
『――失礼だねぇ、アンタ。 あたしを誰だと思い?』
(#゚;;-゚)「剣」
『ストレートでよろしい。
で、驚かないのかい? その剣が喋ってるわけだけどさ』
(#゚;;-゚)「んー? おぉ剣が喋ったー」
『……まぁいいさ。 クソ度胸があると思っておくよ』
不満気な調子だったが軍神が持ち主になることに異論はないようだ。
かつての敵が持っていた武器にしては、やけに友好的である。
- 711: ◆BYUt189CYA :2008/03/28(金) 22:05:53.74 ID:fmjQj92D0
- 『そりゃあ、あの時はダイオードの小娘にいいように扱われてたからねぇ。
同じ扱われ方でも、意志を尊重してくれる方に傾倒するのは当然じゃないかえ?』
(#゚;;-゚)「なんやよう解らんけど、ダイオードを小娘呼ばわりする根性が気に入ったわ。
あと勝手に思ってること覗くな」
『フィーリングってやつかねぇ。 もっと早くに出会っておきたかったよ、アンタとは』
直感的に二人は思う。
相性がとても良い、と。
ミルナは保守的だったが、対する軍神は攻撃的だ。
どちらかと言えば後者の方がブロスティークの気性に合っている。
(#゚;;-゚)「……ええか? ミルナとヒートは気絶中。
今まともに戦えるのはウチしかおらん。 これがどういうことか解る?」
『絶体絶命』
(#゚;;-゚)「阿呆」
苦笑した軍神はしかし、にやり、と口元を歪め
(#゚;;-゚)「手柄を独り占めするチャーンス」
『……アンタ、いいねぇ。 うん、すごくいい。 正式にお付き合いを申し込みたいくらいだ』
(#゚;;-゚)「ウチはレズやないし熟女趣味もない――ってかそれ以前の問題やなぁ」
『釣れないねぇ』
- 721: ◆BYUt189CYA :2008/03/28(金) 22:08:26.55 ID:fmjQj92D0
- (#゚;;-゚)「さて、こんな漫才しとる場合やない。
準備も舞台も整ったところで、獣退治と洒落こみましょか?」
ル(i|"ー゚ノリ「ふむ、待ちくたびれたぞ」
(#゚;;-゚)「待っててくれるなんて優しいことで」
ル(i|"ー゚ノリ「そういう美学もあると、この世界のテレビとやらで学習したのだが。
奴ら、敵が目の前で強化装甲を装着していたりするのに攻撃しないのだよ。
おそらくだが、自分の力が圧倒的であることを示唆する行為なのだろう」
(#゚;;-゚)「はぁ……でもその場合、法則から考えれば負けるのアンタになるわけやけど」
ル(i|"ー゚ノリ「無いな」
(#゚;;-゚)「そか」
追加として、残念、と少し寂しげに呟く。
しかしその音もすぐに空に溶け、
(#゚;;-゚)「んじゃあ、さっさとケリ着けようかね!!」
いきなり軍神が地を蹴って跳んだ瞬間、
誰かの命のカウントダウンが始まったことに、誰も気付けるわけがなかった。
- 726: ◆BYUt189CYA :2008/03/28(金) 22:09:57.33 ID:fmjQj92D0
- 身体の大部分を覆う機械皮膚。
備えられた力を、機能を、全て起動させる。
特殊な処理を施された皮膚の中を魔力が循環し、周囲の物理法則を、軍神に有利となるよう歪める。
これにより彼女は英雄と同レベル、もしくは以上の運動性を得られるのだ。
身体が一気に軽くなる。
少しの力で、その何倍もの効果を得られる。
だから、疾駆した。
前から来る風が頬を撫でるのを感じ、更に前へ。
地を蹴立て、走る。
(#゚;;-゚)「お――!」
思考の先にある答えはシンプルなものだ。
――目の前にいる異獣を倒す。
ずっと昔から、それこそ軍神となった時から課せられた使命である。
恨みのため、軍のため、人のため、修羅となって獣を蹴散らすのだ。
彼女の半生は、そのために生かされることによって完成したと言っても、過言ではない。
- 732: ◆BYUt189CYA :2008/03/28(金) 22:11:30.15 ID:fmjQj92D0
- 軍神は過去、『軍神』となる前に異獣に捕らえられたことがあった。
その際にデータ収集の意味もあってか、全身の皮膚を剥がされている。
本来ならば、そのまま朽ち果てる運命。
しかし彼女が属していた軍はそれを許さなかった。
目が覚めた時には、剥がされた皮膚の代わりに極薄の装甲を張り付けられていたのだ。
……汝、死することなく軍神で在れ。
そんな声が未だに耳に残っている。
自分のこれからの命運を決定付けた、抗いようのない言葉として。
だが、それでも軍神は誰をも恨むことをしなかった。
ネガティヴに考えるよりも、与えられた力と時間をどのように使うか。
そんな風に考えてみろ、と何よりも大切な人に言われたからだ。
もういない彼の言葉、表情、状況、その全ては誰にも話すことなく心の中に閉まっている。
- 739: ◆BYUt189CYA :2008/03/28(金) 22:12:57.92 ID:fmjQj92D0
- (#゚;;-゚)「おぉ――!!」
彼は空が好きだった。
だから、自分は大地を愛した。
更に疾く。
更に熱く。
更に強く。
既に人を捨てた傷だらけの女は、今日も怨念を晴らすために吼える。
異獣を屠り、結果的に誰かを護りながら、そうして彼女は今日まで生きてきた。
(#゚;;-゚)「おおぉぉぉぉ……!!!」
この戦いが始まった時点で決めていた。
あの青髪の女は自分が倒す、と。
ミルナやヒートを仲間だとは思うが、やはり異獣を倒すのは自分でなければならない。
特に、似た境遇のヒートには申し訳ないと思う部分も少なからずあるが
死の危険性が常に付き纏う以上、待つ人がいる彼女には荷が重いと言える。
悪い言い方をすれば、今の状況は非常に都合がよかった。
何せ戦場に立っているのは自分と敵だけなのだ。
この広い大地の中、立っているのはたったの二人。
単純なロジックの結果は、倒すか倒されるかの二つに一つ。
ならば自分は軍の神として、全身全霊の力を以って勝利を得に行くのみだ。
- 743: ◆BYUt189CYA :2008/03/28(金) 22:14:20.08 ID:fmjQj92D0
- ル(i|"ー゚ノリ「――はっ!」
向かい来る敵――軍神の姿を視認して、
ミリアは歓喜のあまり、溜めこんでいた酸素を一部吐き出した。
真っ直ぐ向かって来ている。
フェイントなどという考えは毛頭ないようだ。
ただ自分という敵を粉砕するため、殺気立った目でこちらを睨んで走っている。
それでいい。
たまらない。
ゾクゾクする。
今にもぶつからんとする瞬間の興奮は、例えば性交による本能の沸騰すら上回る熱さである。
灼熱であり、極寒であり、蕩けるようであり、弾けるようである。
形容し難い刺激というパルスが、脳の快楽中枢を突き回すのである。
少なくともミリア自身はそう思って止まない。
この昂揚を超える感覚があるわけがない、と信じ切っている。
ル(i|"ー゚ノリ「さぁ来いよ軍神!! 私を、異獣を屠りたいのだろう!!?」
(#゚;;-゚)「余裕ぶるのも――」
軽い跳躍。
同時にロール。
(#゚;;-゚)「――えぇ加減にせぇよ!!」
横回転を加えられた薙ぎ払いが、ミリアの構えた白刀に激突した。
- 749: ◆BYUt189CYA :2008/03/28(金) 22:15:56.76 ID:fmjQj92D0
- ル(i|" -゚ノリ「ぬ、ぅ……!?」
(#゚;;-゚)「軍神として生まれ変わって幾星霜! 待ちに待った狩猟の時!!
遠慮なく食らわせて頂きますよ、と――!!」
その重量を武器に押した。
異なる魔力同士が互いを刻み合い、白黒の火花を散らす中、
一歩、また一歩と確実に歩を進めていく。
二人を中心として衝撃波が唸り、転がっている岩石を容易く吹き飛ばす。
ル(i|" -゚ノリ(こいつ、こんな身体のどこに――!)
(#゚;;-゚)「あああぁぁぁぁぁああ!!」
そこから攻撃が止まることはなかった。
不断の速攻に、ミリアは後退を余儀なくされる。
今までではまったく考えられない展開に直面し、ほんの少しだけ焦りが生まれた。
結果があるということは、理論もあることに繋がる。
体格は若干ミリアが勝っており
単純な力もミリアが勝っている。
武器の優劣から言えば、能力を発揮出来ていないブロスティークが劣っている。
だが、結果として軍神の方が押している。
ル(i|" -゚ノリ(何故だ……! テセラの出力は最大のはず! 何故、私が押し負ける!?)
- 754: ◆BYUt189CYA :2008/03/28(金) 22:17:14.49 ID:fmjQj92D0
- ミリアは知らなかった。
いや、気付いていなかった。
人間とは感情を引き金に爆発的な力を生む。
それは時に絶望を希望に変えることだってある。
だが、その根源が『意思』であることを、ミリアは気付けなかったのだ。
人間の身体を貪っておきながら、
人間の感情流動を知り尽くしておきながら、
彼女は、力の源泉たる人の意思を理解していなかったのだ。
(#゚;;-゚)「おぉぉぉぁぁぁああああああ――!!」
負けるか。
負けてたまるか。
勝つんだ。
勝たなければ。
絶対に勝ってやる。
もはや軍神の思考は、ただ『勝つ』という意思によって支配されていた。
目の前にいる敵が異獣であることすら忘れ始めている。
今まで異獣を倒すことだけを誓ってきた彼女が、仇敵という理由を放棄したのだ。
その代わりとして入ってきた意思は、たった一つの結果を求めている。
――ただ、ひたすらに勝利を。
自分のため、仲間のため、未来のため、そして誇りのために。
- 758: ◆BYUt189CYA :2008/03/28(金) 22:18:15.42 ID:fmjQj92D0
- 何が彼女をここまで本気にさせたのか。
それは、背後で未だ意識を失う二人の英雄へ向けられていた。
嫉妬、とは違うし、切望、とも異なる。
少しだけ重ねているのかもしれない。
かつて、自分にも愛する人がいたから。
(#゚;;-゚)「――ぁぁぁあああ!!」
ぶつかるのは、もう何度目だろうか。
三人で挑み、二人で挑み、ブロスティークで挑み、また三人で挑み、そして今は一人で挑んでいる。
まったく情けない。
自分の他に英雄二人を傍に置きながら、これほどまで手こずっている。
それだけミリアが強いのだろうが、だとしても情けない話であった。
だが、無駄ではなかった。
最初は力に圧倒され、次に力を理解し、そして切り札を得て、総攻撃を掛けた。
ル(i|" -゚ノリ「っ……ぉお……!!」
その結果がこれだ。
相手の切り札を引き摺り出し、その上で押している。
軍神は、確実に相手が消耗しているという事実を確信していた。
- 763: ◆BYUt189CYA :2008/03/28(金) 22:20:05.27 ID:fmjQj92D0
- 残る問題はあと一つ。
どれだけ圧倒しても、それを覆す要素がある限りは勝利など遠い幻想に過ぎない。
――テセラ。
それが一体何なのかすら判明していない謎だらけの武器。
ただ一つ解っているのは、ミリアがこれを切り札として拠り所にしている、という点だ。
逆を言ってしまえば、これさえ何とか無効化してしまえば勝ったも同然となる。
そして軍神は、数え切れない合撃の間に理解した。
ミリアは能力を頼りに戦っている。
だから力を取っ払ってしまえば、あとは簡単だ。
だが、迂闊な無茶は出来ない。
もし自分が倒れてしまえば、次はミルナとヒートが餌食となる。
それだけは絶対に許容出来ない。
求めるは、確実にミリアを殺し尽くす手段。
(#゚;;-゚)(ブロスティーク、って言ったっけ?)
『何だい?』
(#゚;;-゚)(アンタに一つ提案があるんやけど。 OK?)
『それが面白いことなら、OKさ』
(#゚;;-゚)(ん、りょーかい)
- 769: ◆BYUt189CYA :2008/03/28(金) 22:22:30.22 ID:fmjQj92D0
- 剣撃の合間、軍神は企み事をブロスティークへ告げた。
内側に声を受けた彼女は一瞬だけ絶句し、そして豪快に笑う。
それを肯定と受け取った軍神もまた、心の中で笑った。
『あぁ、最期の持ち主がアンタで良かった。
その洞察力、決断力、そして覚悟……正直言って敬服するよ。
散々な人生だったけど捨てたモンじゃないんだねぇ』
(#゚;;-゚)(ウチもこれほどまでに妙な武器と出会えて良かったわぁ。
本当はもっともっと戦いを共にしたかったけど……これで、終わらせなあかんしね)
表情を軽く緩めた軍神は、いきなりのバックステップでミリアから距離をとる。
どちらかが果てるまで続くかと思っていた彼女は、明らかに不満気な顔を見せた。
しかしまた、軍神の表情を挑発と受け取ったか、狂気に彩られた笑みに戻る。
ル(i|"ー゚ノリ「今度は何を企んだのか知らんが――距離をとる不利を理解しているか?」
(#゚;;-゚)「心配せんでもすぐに行ったるよ。
そしてこれが最後の一撃になる」
ル(i|"ー゚ノリ「最後、か……くく、貴様も大概に狂っているな。
ならばやってみるがいい。 少々名残惜しいが、もう充分に遊んだとしよう」
ミリアが、テセラを深く構えた。
カウンターを狙っているのだろう。
遠距離攻撃を使わないのは、己の美学か軍神への驕りか。
もしかしたら、軍神の力を認めての行為かもしれない。
- 774: ◆BYUt189CYA :2008/03/28(金) 22:24:02.65 ID:fmjQj92D0
- (#゚;;-゚)(ま、なんでもえぇわ。 これで何も出来ずに死ぬこたぁない)
『だね。 じゃあ、一時の御別れだ』
(#゚;;-゚)(さいなら)
『グッドラック!』
最後の最後までふざけた剣だ。
そう思いながら深く腰を落とした軍神は、一切の笑みと余裕を消してミリアと対峙する。
(#゚;;-゚)(大剣と刀。 速度ならば圧倒的にこちらが不利。
普通に突っ込んでいけば、まず間違いなくカウンターを喰らって死ぬ)
一息。
(#゚;;-゚)(しかも僅かに盛り上がった斜面の先に奴がいる。 上手く位置を獲られた。
微小とはいえ、坂は坂。 速度にコンマ数秒の遅れが出るのは当然の帰結。
見える全ての要素が、こちらの敗北を示唆しとる)
だが、それでいい。
奴には余裕を持っていてもらわねば困る。
こちらの狙いを知られるわけにはいかない。
ル(i|"ー゚ノリ「さぁ――」
(#゚;;-゚)「――勝負!!」
もはや僅かな時間すら与えることは出来なかった。
タイミングも何もない状態で飛び出し、敵の間合い目掛けて疾走した。
- 776: ◆BYUt189CYA :2008/03/28(金) 22:25:18.61 ID:fmjQj92D0
- ル(i|"ー゚ノリ「愚か者が――!」
それを初動の失敗と認めたミリアが吼える。
更に腰を深く落とし、向かい来る敵意を一刀両断するため力を込めた。
視線の先、敵があと一歩でこちらの間合いに入るのを視認したミリアは、
(#゚;;-゚)「ふン!!」
ル(i|" -゚ノリ「っ!?」
だがしかし、直前に行なわれた奇行に目を見開くこととなる。
ル(i|" -゚ノリ「ば――」
投げたのだ。
右手に持っていたブロスティークを。
前屈姿勢を溜めとして、上半身を思い切り振り上げる勢いで真上へ。
もはやお前は必要ない、と言うように。
激変は直後だ。
ル(i|;"Д゚ノリ「――っかなぁぁあ!?」
ひゅ、という音をたてながら縦回転する黒剣に目を奪われた隙に
猛然と飛び込んできた軍神のタックルをまともに喰らってしまう。
ただカウンターのためだけに構えていた身体が、その衝撃に耐えられるわけがなかった。
- 788: ◆BYUt189CYA :2008/03/28(金) 22:27:02.54 ID:fmjQj92D0
- そのまま背後へ、もつれ合うようにして転がる。
身体と同じく揺さぶられる思考の中、様々な疑問が過ぎっていく。
中でも最も大きな理解不能は、軍神がブロスティークを投げ捨てた行為についてだ。
ル(i|;"Д゚ノリ「ぐっ、あ……き、さまぁ! 一体何の――」
(#゚;;-゚)「マウ〜ントポジショ〜ン♪」
先に体勢を立て直した軍神は、ミリアの腹部に馬乗りとなった。
ミリアの両手首を握り、体重をかけて押さえつける形だ。
当然、手に握られているテセラを振るうことは出来なくなってしまう。
ル(i|;"Д゚ノリ「離せ! このような泥仕合のような中での決着など――っくぁあ!?」
歯を剥いて吼えた口に、硬い感触が痛みと共に落ちてくる。
それが振り下ろされた軍神の頭突きだと気付き、更なる屈辱に怒りを露にする。
ル(i|#"Д゚ノリ「っ貴様ァァァァ!! それでも軍の神か!?」
(#゚;;-゚)「ちゃんと言ったよなぁ!? 勝手なイメージの押し付けはいらんって!」
何とかして抜け出そうともがくミリアを、軍神は全力で押さえつける。
その行為に違和感を覚えたのは、ごく自然なことであった。
ル(i|;" -゚ノリ(何をそんな必死に……両腕が塞がっている以上、攻撃手段など……!?)
訝しげに思った時、俯く軍神の口元に笑みが浮かんでいるのを見る。
まるで自分の思惑が現在進行形で着実に進んでいるのを理解しているかのような。
- 793: ◆BYUt189CYA :2008/03/28(金) 22:28:35.90 ID:fmjQj92D0
- 何だ。
待て。
おかしい。
三連の疑念が脳に響いた時、ミリアは遂に察知した。
……音が、聞こえる。
この細い音は、今さっき聞いたばかりの――
ル(i|;" -゚ノリ「――っ!!?」
ぞくり、と悪寒のような震えが背筋を走った。
この戦いが始まってから初の経験に、ミリアは戦慄する。
軍神は何故、先ほどブロスティークを捨てるような真似をしたのか。
違う。
前提からして違う。
奴は武器を捨てたんじゃない。
ル(i|;" -゚ノリ(まさか、武器を投げることによって……!?)
- 798: ◆BYUt189CYA :2008/03/28(金) 22:29:34.87 ID:fmjQj92D0
- だが、という焦燥が来る。
もし今の予想が事実だとすれば、
ル(i|;"Д゚ノリ「まさか貴様!?」
現状、仰向けとなったミリアに軍神が馬乗りとなっている形だ。
先ほど投げたブロスティークが落ちてくるのならば、
その切っ先は、まず下方を向いていると思って間違いないだろう。
つまり、指し示す真の事実とは――
ル(i|;"Д゚ノリ「自分ごと私を貫くつもりで……!?」
(#゚;;ー゚)「さぁ、一緒に地獄へ逝こか?」
ル(i|;"Д゚ノリ「ふ、ふざけるな!! そんなふざけたことが!!」
離脱しようと身を捻るが、がっちりと腰を両足で挟み込まれて動くことすら出来ない。
両腕は既に封じられ、頼みの綱のテセラを振るうことも出来ない。
足は比較的自由となっているが、どう動かしたところで何の効果も得られない。
ル(i|;"Д゚ノリ「ならば……!」
振るうことの出来ないテセラだが、それでも念じれば能力は作動する。
周囲に散っていた刀が宙に浮かび、軍神目掛けて飛翔した。
- 806: ◆BYUt189CYA :2008/03/28(金) 22:31:45.53 ID:fmjQj92D0
- (# ;;- )「――っぐぅぅ!!」
散る鮮血。
右の太腿を抉るようにして刺さった刃が血に染まる。
(# ;;- )「っぁああ!!」
更にもう一撃が入った。
今度は左脇腹だ。
(# ;;- )「っ!! っぐぁ! かぁああ!」
集まってくる刃が連続して軍神の身体へ突き刺さっていく。
激痛に呻き声を上げる彼女だが、それでも両腕を封じる力を緩めない。
(# ;;- )「――はぁ! はぁ! っづぅ……あぁあぁああ!!」
ル(i|;"Д゚ノリ「何故だ、何故……!? 死ねよ! お前はもう死んでいるはずだろう!?」
致命傷のはずだ。
身体の節々を貫かれ、内蔵を串刺しにされ、神経はずたずたに引き裂かれているはず。
出血は半端な量ではなく、普通の人間ならば意識を失って当然の状態だ。
――だが、両手首を掴む力が、緩むことはない。
- 814: ◆BYUt189CYA :2008/03/28(金) 22:32:52.49 ID:fmjQj92D0
- (# ;;- )「――っづ、はぁああ……!」
薄く開いた口から粘る血が滴る。
それが頬に落ちた時、ミリアはどうしようもない恐怖を覚えた。
ル(i|;"Д゚ノリ「馬鹿な!? 馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿な!!!」
もがき、暴れるが逃げられない。
――音が来る。
ル(i|;"Д゚ノリ「こんな結果はあり得ない!! おかしい! 狂っている!!」
(# ;;- )(馬鹿、やなぁ……)
ほとんどの感覚が失せている中、軍神は微かに聞いたミリアの声に苦笑する。
まだ来ていない『結果』という言葉を口にする時点で間違っているのだ。
有能かつ優秀であるが故の判断の早さなのだろうが、だから正しいとは一概には言えない。
過程こそが大切だ、とは言わない。
ただ、過程を軽視する者は結果に泣くことがある。
誰かが言っていた。
負けを認めなければ負けじゃない、と。
例え死んだとしても、負けを認めなければ負けじゃないんだ、と。
身体は既にボロボロだ。
大半の機能を失ってしまっている。
けれど、この胸の奥に滾る熱は決して屈してなどいない。
- 819: ◆BYUt189CYA :2008/03/28(金) 22:34:31.28 ID:fmjQj92D0
- ル(i|;"Д゚ノリ「退け! 退くんだ! 私がこんなところで死ぬわけが!!
こんなふざけた決着のあり方など認めるものかぁあああああ!!!」
靄が掛かった視界、恐怖の色を浮かべたミリアの顔を見る。
あれだけ余裕を見せていた時とは逆の表情は、滑稽そのものであった。
(# ;;- )(ざまぁみろ。 人を嘗めとるからこんなことになるんや)
――音が近付いてくる。
段々と、目だけでなく耳の機能も失われていった。
身体は既に冷え切って、しかし胸の奥にある炎だけは最期まで絶やすものかと心に誓う。
ル(i|;"Д゚ノリ「――!! ――――!」
(# ;;- )(誰が退くかい……ウチを誰やと思うとる……?)
そう、私は
(#゚;;-゚)「軍神や――!!」
直後、一際大きな衝撃が二人を貫いた。
- 827: ◆BYUt189CYA :2008/03/28(金) 22:35:49.68 ID:fmjQj92D0
- ル(i|; Дノリ「が、ああぁぁあ――ああぁぁぁぁあああ……!」
天から落ちてきたブロスティークが
軍神の背中、そして組み伏せられているミリアの腹をブチ抜いたのだ。
強力な魔力の奔流が身体の中を駆け回り、二人を内部から蹂躙していく。
ル(i|; Дノリ「そん、な……わたしが……あぁ……!!」
(# ;;- )「――――」
ル(i|; Дノリ「このような、半分死んだ奴……など、に――」
(# ;;- )「――――」
ル(i|; Дノリ「あぁ、ああああああ……あぁぁあああああ――――!」
今際の際まで醜く諦めきれなかったミリア。
その妄執を抑えつけながら敵諸共果てた軍神。
誰の記憶にも残らない決着が確定され――
――そして南の戦場に、動く者が、いなくなった。
- 843: ◆BYUt189CYA :2008/03/28(金) 22:38:04.58 ID:fmjQj92D0
- だれもいないせかい。
なにもないくうかん。
そんなばしょにとじこめられてから、いったいどれだけのときがたったのだろうか。
ζ( *ζ「――――」
もう、うごくことすらおっくうだった。
しばりつけられたそんざいは、ただろうごくのなかでくちはてるのみか。
なにもきこえない。
なにもみえない。
だれもいない。
、_
@# )@「ったく、なーにやってんだい、アンタ」
ζ( *ζ「――――」
あれ?
きいたことのあるこえが、きこえたよ?
、_
@# )@「やれやれ。 昔の気丈さはどこにいったんだい、テセラ――いや、デレ」
- 863: ◆BYUt189CYA :2008/03/28(金) 22:41:51.60 ID:fmjQj92D0
- ζ( *ζ「――誰?」
わかっている。
このこえ、くちょう。
にくたらしいくらいキライなやつのこえだ。
、_
@# )@「あたしを忘れたっていうのかい?
あれほど一緒に戦った間柄だっていうのに」
しってるよ。
あんたはつよいんだ。
ぼうりょくてきで、ほこりたかくて、でもやさしくて。
、_
@# )@「……まぁいいや。 迎えに来た。
とりあえず、こんな辛気臭い部屋から出よう」
ζ( *ζ「?」
あれ?
いままでしばっていたなにかがきえてる。
、_
@# )@「安心しな。 アンタをコキ使ってた小娘は死んだよ」
そうなの。
- 869: ◆BYUt189CYA :2008/03/28(金) 22:44:43.19 ID:fmjQj92D0
- だったら、いわなくちゃ。
ζ( *ζ「……お礼」
、_
@# )@「そりゃあ無理な話さ。 もうそいつも、どこにもいないからねぇ」
なんか、かなしそう。
いいきみだ。
、_
@# )@「はいはい。 とにかく行くよ」
ζ( *ζ「どこへ?」
、_
@# )@「さぁねぇ……どこかねぇ。 天国だったらいいねぇ」
ζ( *ζ「お姉ちゃん、いるかな?」
、_
@# )@「いるんじゃないかい? 良い子だったらね」
ζ( *ζ「じゃあ、クレティウスは?」
、_
@# )@「うーん……それがねぇ、さっきアイツの匂いがしたんだけどさ。
まさか今も生きてるわけないし……」
ζ( *ζ「じゃあ、地獄かな?」
、_
@# )@「かもしれないねぇ」
- 879: ◆BYUt189CYA :2008/03/28(金) 22:46:24.15 ID:fmjQj92D0
- ζ( *ζ「行こう。 もう疲れた」
、_
@# )@「はいはい。 解った解った」
とびらがひらく。
ひかりがはいってくる。
かぜがここちいい。
そして、へやにはだれもいなくなった。
いつも、どこにも、だれも、いなく、なった。
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