( ^ω^)ブーンと川 ゚ -゚)クーは抗い護るようです

6: ◆BYUt189CYA :2008/04/21(月) 20:25:31.98 ID:pd2Of4e00
(#^ω^)「ッ!!」

『敵』が地面に降り立つと同時、ブーンは地面を蹴って走り出していた。

――初撃はもらうお!

相手が相手だ。
ダメージは与えられる時に与えておかねば、後で必ず差が出る。
そしてあの着地直後の隙こそ、最初で最大の好機であろう。

〈/i(iφ-゚ノii「…………」

敵はこちらを見ておらず、未だ地面を見ている。
高所から着地したせいで膝を深く折り曲げてしまっているのだ。

拳を握り込む。
グローブの甲の一部が開き、単一弾装からマジックカートリッジが吐き出された。
途端、カートリッジ内部にあった魔力が拳に纏わり、力の濃度が爆発的に高められる。

視界の中、『敵』が腰を上げたのを確認した。

しかし遅い。
既にこちらは一足の間合いに入っているのだ。


今更顔を上げてこちらを見ても、挙動に入る前に拳をぶちこめる――!


     第五十二話 『四方決戦 Ver/North 【In the Battlefield Where the Enemy Doesn't Exist】』



11: ◆BYUt189CYA :2008/04/21(月) 20:27:40.91 ID:pd2Of4e00
実のところ、『敵』の正体はロマネスクだと知らされていた。
だがそんなことは関係ない。

アレはロマネスクの皮を借りた、敵だ。

(#^ω^)「おぉぉっ!!」

振りかぶっていた右拳が放たれた。
腰をバネ、肩を主軸、腕を杭に見立てての直線射出だ。
白い拳がロマネスクの顔面に吸い込まれ――


――重い音を響かせた。


川;゚ -゚)「え……?」

<ヽ`∀´>「……!」

(;^ω^)「なっ!?」

〈/i(iφ-゚ノii「――――」

果たして、拳は阻まれていた。
ロマネスクの眼前にある黒色の拳によって、だ。
その事実に、ブーンは目を見開いていく。

阻まれたことに対してではない。

この男は、こちらを一度たりとも見ずに攻撃を防いだのだ。



13: ◆BYUt189CYA :2008/04/21(月) 20:29:39.51 ID:pd2Of4e00
〈/i(iφ-゚ノii「――――」

(;^ω^)「こ、こいつ……!?」

ブーンの拳を包む白色のグローブ。
それを軽々と抑えつけた黒色のガントレット。

かつても対象となっていた二つの武装だが、これは一体どういうことだろうか。

川 ゚ -゚)「内藤! 離れろ!!」

背後から声と攻撃の気配が来る。
反応というよりも反射の勢いで、ブーンはその場を離れようと、

(;^ω^)「うぉわ!?」

背後へと跳ぶ力は、しかし前方から来た力で相殺されてしまう。

〈/i(iφ-゚ノii「――――」

跳躍をする場合、どうしても足が最後に残ってしまうのが人間の機構だ。
その残った片足を、ロマネスクが逆の手で掴み取ったのだ。

そのまま、逃げようとするブーンの身体を引き寄せて持ち上げ――いや、それを更に越え、真上へと投げ飛ばす。



16: ◆BYUt189CYA :2008/04/21(月) 20:31:28.94 ID:pd2Of4e00
川;゚ -゚)「内藤!?」

(;^ω^)「ぬぉわぁぁぁぁぁ!?」

*(‘‘)*「今なら当たることはないです!」

ヘリカルのステッキと、ニダーのライフルが光を噴いた。
幾筋もの光条が、一直線最短距離をなぞってロマネスクへと殺到する。

〈/i(iφ-゚ノii「――――」

しかし彼は、秒以下の速度で飛来した光を一瞥さえもしなかった。

こちらの身を食わんとする力を無視。
その視線の先は、頭上でもがいているブーンから離れることはなかった。

構える。

タイミングを計り、今も身体にぶつかる光を無視し、その黒い拳を握り締める。

川;゚ -゚)「まさか――!?」

思うが同時、クーの足下に光が集い、透明色のブーツが作り上げられた。

姿が消えたのは直後。
音速に近い速度で、クーは無謀にもニダー達の射線上に飛び出した。



21: ◆BYUt189CYA :2008/04/21(月) 20:33:18.99 ID:pd2Of4e00
その時だった。
ロマネスクの目が生々しく動き、姿さえ見えぬほどの速度で走るクーを捉えたのは。
続いての変化は口元で、

〈/i(iφー゚ノii

冷たい何かが背筋を撫でる。
近付いてはいけない、と頭の中で警鐘がけたたましく鳴り響いた。

川;゚ -゚)(だが――!!)

それよりも護りたいものがある。
恐怖を払い除けてまで、危険を冒してまで駆けつけたい存在がある。
クーは、もはや己の身さえ顧みずに疾駆した。

ブーンの身体が落ちていく。
中空では何も出来ない彼は、手足をバタつかせながら何とかしようともがいている。

その直下にはロマネスク。
未だニダー達の攻撃を食らいながらも、一歩たりとも動いていない。
拳は既に握られ、後は落ちてくる獲物を待つだけとなっていた。

川;゚ -゚)「間に合え……!」

しかし、現実とは残酷なもので。

(;^ω^)「ぐぁ!?」

落ちてきた無防備な背中に、ロマネスクの拳が突き刺さる結果に終わってしまった。



23: ◆BYUt189CYA :2008/04/21(月) 20:34:33.69 ID:pd2Of4e00
時間が停止したかのような光景は一瞬。
直後、まるで矢のようにブーンの身が吹き飛ばされる。

川;゚ -゚)「くっ!」

それを見たクーの判断は、高速かつ的確であった。
まず6th−W『ギルミルキル』を消滅させ、次の瞬間には背中に10th−W『レードラーク』の機械翼を出現させる。
超高速疾走によって発生した慣性を殺す間もなく、正面から飛んでくるブーンを身体ごとキャッチ。

(;^ω^)「ク、クー!?」

川;゚ -゚)「少し我慢してろ……ッ!」

(;^ω^)「ぐぇぇぇ」

ブーンごと背後へと吹っ飛ぶ身体を、背中の翼を全開にすることで抑えつけた。
風圧が翼を叩き、光の羽が次々と削られるように舞うが、その速度は確実に殺されていく。
地面につけた踵が荒れ地を抉り、ロマネスクから実に五十メートルほどの距離でようやく止まることとなった。

川;゚ -゚)「……ふぅ、大丈夫か?」

(;^ω^)「あ、ありがとうだお。 油断しちゃったお」

川 ゚ -゚)「いや、君の初撃の判断は正しかった。 戦いのセオリーだ。
     ……だが奴はその常識すら超える化物らしい」



28: ◆BYUt189CYA :2008/04/21(月) 20:37:56.43 ID:pd2Of4e00
最初から解っていたはずなのだ。
しかし、だからと言って、みすみす隙を逃せば勝てるものも勝てない。

攻撃とは、『当たる』というイメージを以って放たれる。
もちろん同時に、『当たらないかもしれない』という結果も想定しなければならない。
そうでなければカウンターの餌食になるかもしれないし、無駄な動きも多くなってしまうだろう。

ただ、相手が異獣の場合は違う。

川 ゚ -゚)「話の通りだな……随分と戦い難い敵だ」

〈/i(iφ-゚ノii「…………」

突き出した右拳を収める。
黒い霧のような何かを纏っているそれは、かつてのロマネスクを彷彿とさせる。
両手を下げ、仁王立つような姿勢は、こちらを完全に嘗めた格好だ。

やはりあの男は――

*(‘‘)*「ふン、随分と余裕ですね……ムカつくんですよ、アンタのそういうところが」

( ^ω^)「?」

*(;‘‘)*「アンタ会議の時、何を聞いてたんですか……。
     ニダーが言ってたでしょ? アイツはロマネスクの成れの果てですよ」

(;^ω^)「あ」

*(;‘‘)*(コイツ、健忘症なんじゃ……?)



30: ◆BYUt189CYA :2008/04/21(月) 20:39:26.63 ID:pd2Of4e00
<ヽ`∀´>「勝算はあるニカ?」

*(‘‘)*「あるならこんな減らず口叩かずに、速攻で仕掛けてます。
     魔力の塊を受けて微動だにしない奴に通用する手なんかあるのか知りませんが」

( ^ω^)「じゃあ、まずはあの防御力を何とかしないといけないのかお」

川 ゚ -゚)「もしくはそれを超える攻撃を与える、だな……」

装甲服を着ているブーン達と同じく、ロマネスクもその身に魔力を纏っている。
その濃度以下の攻撃は全て打ち消される仕組みだ。

威力を削る防御力ではなく、無効化する防御力。
ならば、敵の纏っている魔力濃度を超える攻撃ならば通用する、ということである。

もちろん攻撃が無効化されても消費されるのは確かなので
長期戦覚悟で魔力を削っていってもいいが、それでは時間が足りなくなるだろう。
やはり、ここは一撃一撃に比重を置いた作戦の方が良い。

川 ゚ -゚)「それ程の威力を持つ攻撃と言えば――」

クーがブーンを見る。
おそらく限界突破のことを言っているのだろう。
更にマジックカートリッジと併せて使えば、その力は飛躍的に上昇する。

今のブーン達が持ち得る最高の攻撃は、まさしくそれであった。



31: ◆BYUt189CYA :2008/04/21(月) 20:41:04.35 ID:pd2Of4e00
*(‘‘)*「なら、やるこたぁ決まりですね」

ステッキを構え、ヘリカルが言った。

<ヽ`∀´>「ウリ達が隙を作るニダ。 内藤はその間に接近して、確実な一撃を当てるニダ」

ライフルを構え、ニダーも言った。

( ^ω^)「ヘリカルさん、ニダーさん……」

川 ゚ -゚)「幸運なことに、二人は対魔力戦闘のプロフェッショナルだったな。
     正面から奴を相手するわけだが……出来るか?」

*(‘‘)*「出来ないなら言わねぇですよ」

<ヽ`∀´>「こっちにはこっちの戦い方があるニダ。 だから、後は任せるニダ」

( ^ω^)「……解りましたお。
     でも、無茶はしないでほしいですお」

<ヽ`∀´>「元より死ぬ気はこれっぽっちもないニダ」

そう言って、ニダーとヘリカルが背を向ける。
かつては敵だった二人だが、今のブーンには何よりも頼れるものに思えた。



32: ◆BYUt189CYA :2008/04/21(月) 20:42:35.03 ID:pd2Of4e00
*(‘‘)*「んじゃあ、化物退治といきますか」

<ヽ`∀´>「ヘリカルは空から重点的に、出来るだけダメージ狙いで頼むニダ。
      ウリは地上から奴の気を引くニダ」

*(‘‘)*「まーたそうやって自分から危険なポジションを……」

<ヽ`∀´>「じゃあ、ウリがヘリカルのステッキで空から攻撃するニカ?」

問われ、ヘリカルはニダーがステッキに跨って戦う姿を想像した。
それは思った以上に心を抉るもので、彼女は不満そうに眉をひそめる。

*(;‘‘)*「……戦う前に気持ち悪い想像させないでください」

<;ヽ`∀´>「……ちょっと傷ついたニダ」

一瞬だけ暗い顔をするも、二人はすぐに笑みを浮かべた。

*(‘‘)*「ラミュタスや渡辺ちゃんが死んで、ロマネスクの馬鹿があんなになって。
     ここらでそろそろ機械世界の名誉挽回を目指さなきゃ、ですね」

<ヽ`∀´>「ウリ達が培ってきた異獣との戦い方を見せてやるニダ」

ヘリカルが水平に構えたステッキに腰を乗せ、
ニダーが長年戦いを共にした相棒とも言えるライフルを構える。



34: ◆BYUt189CYA :2008/04/21(月) 20:43:57.96 ID:pd2Of4e00
合図は無かった。

にもかかわらず、二人は同時というタイミングで動いた。
それぞれが最も得意とし、そして互いがサポートし合える最高の位置を目指す。

〈/i(iφ-゚ノii「――――」

向かう先はかつての仲間であり、同郷だ。
しかし、その変わり果てた姿に目を逸らすことなく、ヘリカルとニダーは銃口を向け

*(#‘‘)*「死にさらせ――!!」

<#ヽ`∀´>「覚悟……!」

迷うことなく、引き金を引いた。



37: ◆BYUt189CYA :2008/04/21(月) 20:45:37.37 ID:pd2Of4e00
川 ゚ -゚)「――ところで内藤」

ヘリカルとニダーが戦闘を開始したのを見届けたクーは、傍にいるブーンへ伺うような視線を向ける。
変わり果てたロマネスクと戦う上で問わねばならないことがあった。

川 ゚ -゚)「君の限界突破で、奴を倒せると思うか?」

その質問は適切である。
だから、ブーンは素直に答えた。

( ^ω^)「……はっきり言って難しいお。
     僕の今の限界突破は、バランス重視の安定型だから」

それは過去、ロマネスクを倒すためにブーンが出した答えだった。

クレティウスが操作する二つの拳を出現させ
自由自在に飛び回れるそれが、ブーンの攻撃と防御の穴を埋めてくれる、というものだ。
その恩威か解らないが、通常状態においてもクレティウスは一瞬だけその機能を発揮することが出来る。

つまり、以前までの強化符による瞬間最大風速を叩き出す形態に比べ
今の設定している形態は攻防力の安定化――つまり平均風速の高次元維持を目指しているのだ。

もちろん欠点はある。
何かを求めれば、代償として何かを失うのは道理だ。

ブーンは安定性を求めたが故に、最大攻撃力を減少させてしまったのだ。



39: ◆BYUt189CYA :2008/04/21(月) 20:47:35.80 ID:pd2Of4e00
( ^ω^)「でもだからと言って強化符に戻すのは駄目だお。
     最初に会った時、ロマネスクは強化符を使う僕を完全に見切ってたお。
     今いるアイツがロマネスクだって言うんなら、また返り討ちにあってしまうお」

川 ゚ -゚)「……だろうな」

強化符の方にも弱点はあった。
手や足に強化用の符を纏わせ、その速度と力を爆発的に高めるわけだが
そのあまりの速さのため、攻撃の線が直線的なものに限定されてしまうのだ。
おそらく過去のロマネスクは、そんな『見切り易さ』に着眼してブーンを叩きのめしたのだろう。

故に、ここで強化符という選択肢はありえない。

川 ゚ -゚)「また新たな形を生み出す、というのはどうだろうか」

(;^ω^)「直線的な攻撃にならないような速度で、しかもロマネスクを倒せる攻撃力を持った形かお?
     ちょっといきなり考え出すのは難しいと思うお」

川 ゚ -゚)「む……そうか。 時間もあまり掛けられないしな」

そう、時間的余裕はないのだ。
ブーン達の目的はロマネスクを倒すことではなく、異獣をこの世界から排除すること。
眼前の敵を倒し終えれば、次は異獣の発生地点を破壊しなければならない。
そのための準備が先ほどから本陣で続いており、予定時刻まで残すところ三十分ほどしかない。

( ^ω^)「僕に出来ることは、今やれること、
     そして今まで得てきた経験を総動員して……アイツを倒すことだお」



40: ◆BYUt189CYA :2008/04/21(月) 20:49:03.44 ID:pd2Of4e00
川 ゚ -゚)「…………」

ぐ、と拳を握るブーンを、クーは無表情に見つめる。
その意図を察したブーンは敢えて強気な笑みを浮かべた。

( ^ω^)「大丈夫。 何も考えてないわけじゃないお。
      だから、クーは僕のサポートを任せたいお」

川 ゚ -゚)「……解った。 ただし私が君の傍にいる以上、絶対に死なせはしない。
     もしもの時は自分の身よりも君を優先するつもりだということを憶えておいてくれ」

( ^ω^)「じゃあ、その時になったら僕は自分の身よりもクーを優先するお。
      それでおあいこだお」

川 ゚ -゚)「それでは意味がない。 困る」

(;^ω^)「いや、困るって……僕だってクーが何より大事なんだお」

ふと飛び出た言葉に、クーは傍から見ていても解るほど大きく肩を竦ませた。
続いて軽く俯き、更に左右を確認し、ブーンを見つめたかと思えば、また俯く。
そんなことを数度繰り返した後、

川 ゚ -゚)b「把握した」

(;^ω^)(一体どんな思考が展開されたんだお……ってか、今のは考え中の行動だったのかお)



43: ◆BYUt189CYA :2008/04/21(月) 20:50:39.87 ID:pd2Of4e00
あまり表情を表に出さないが故に、クーは普通の人と比べて少々異なる表現をすることがある。
特にブーンを前にした時の頻度は高い。

それでありながら、未だブーンはクーの行動に驚き、発見し、納得することが多々あった。

( ^ω^)(そうだお。 まだ僕はクーのことを完璧には知らないんだお)

だから、知りたい。

人間の知的好奇心とは、歴史が示す通り旺盛である。
特に自分にとって大切な存在であれば、飽きずに延々と探求することも可能だ。
そして関係の向上を求めるにしても、彼女を深く知るにしても、とにかく必要なのは時間だった。

それを自覚した時、ブーンはこの戦いに対する考え方に一つの視点を加えた。

これからもクーと、そして仲間達と共に歩むために
今、ここで異獣を倒して未来を確定させる。

気付けば、目の前にいるクーの表情が鋭くなっていた。
ブーンの湧き上がる気合に感化されたのだろうか、既に戦闘モードへ入っている。
だからブーンは何も確認することなく、自然にこう言った。

( ^ω^)「――行くお、クー」

川 ゚ -゚)「――あぁ、行こう」

片方は純白のグローブを。
片方は透明色をした刀を。

二人は同時に一歩踏み出し、己の戦うべき場へ飛び込んでいった。



45: ◆BYUt189CYA :2008/04/21(月) 20:52:25.35 ID:pd2Of4e00
ニダー達が培ってきた対異獣の知識は多く、そして深い。
その中で大前提とも言える項目が一つあった。

――異獣と戦う場合、絶対に近付かせてはならない。

接近戦は避けるべきである、という意味である。
悪戯に兵を失うだけでなく、肉体や装備といった情報すら奪われてしまうからだった。

そもそも戦闘本能に特化している獣に挑める人間は少ない。
かの軍神は、その数少ない人間の内の、更に突出した存在だった。

だから機械世界は、銃や砲などといった遠距離攻撃用の武器技術に長けている。

ニダーが持つ大型のライフルは当然として
汎用型ステッキというヘリカルの持つ特殊な武装も、その産物だ。

どちらも遠距離攻撃を前提とした武器で、一撃一撃の威力は高めに設定されている。
その代わりとして連射性能などといった他の機能はイマイチだが、あまり気にすることはない。
何故なら『殺される前に殺せ』という意志の中、多人数で対抗するのが当然であったからだ。

だから、ニダーは前提を忠実に守って行動した。

<#ヽ`∀´>「ッ! ッ! ッ!!」

トリガーを引く度、強い振動が身体を貫く。
しかしそんな衝撃の何十、何百倍もの威力を持った魔力弾が、
一発一発に込められたまま敵へ殺到した。



46: ◆BYUt189CYA :2008/04/21(月) 20:54:35.36 ID:pd2Of4e00
〈/i(iφ-゚ノii「――――」

肩に当たる。
腰に当たる。
顔に当たる。

だが、異獣と化したロマネスクにダメージがあるようには見えなかった。

*(#‘‘)*「これならどうですか!!」

空中。
敵のほぼ真上に位置をとったヘリカルが、そのステッキの切っ先を真下へ向け

*(#‘‘)*「これがいわゆるビームシャワー!!」

桃色の光線が振り注いだ。
『砕く』という力を持つ光が一斉に、ロマネスクを中心とした大地に落ちる。
多段の激音が響き、一つ一つの光弾が硬い地面を砕いていく。

〈/i(iφ-゚ノii「――――」

発生した多量の煙の中、しかし無傷で現れるロマネスク。
茶色に濁った空気を掻き分けながら、ゆっくりとニダー達に近付いていく。



48: ◆BYUt189CYA :2008/04/21(月) 20:56:11.67 ID:pd2Of4e00
<;ヽ`∀´>(おかしいニダ……)

そういう結論に至るのは、
異獣と何度も交戦したことのあるニダーにとって当然の帰結であった。
知識や経験が豊富であるが故に、ロマネスクの異常を早くに察知することが出来た。

明らかに硬過ぎる。

いくら魔力とはいえ、その力は無限大ではないし絶対でもない。
多くを蓄え、それを防御力としたとしても、やはり限界はある。

それが、未だまったく見えないのが異常だった。

これまでも防御力の高い敵はいた。
しかし執拗に何度も攻撃を当て続ければ、最終的に瓦解するのが道理だ。

<;ヽ`∀´>(無敵などというふざけた存在は、断じて認めることは出来んニダ――!!)

ライフル側部についたスイッチを捻り、一発に使用されるカートリッジ量を三倍へ引き上げる。
当然、発射までのタイムラグも大きくなるが、単純計算で威力は三倍以上に膨れ上がるはずだ。

構え、狙いを――

〈/i(iφ-゚ノii「――――」

だが、その照準と発砲の合い間、ロマネスクが動いた。
それは漆黒に染まった右腕を背後へ送り、反動を以って打ち出す形だった。



51: ◆BYUt189CYA :2008/04/21(月) 20:57:48.30 ID:pd2Of4e00
<;ヽ`∀´>(あの距離から何を……!?)

思うと同時、身体が反射的に動いた。
積み重ねてきた勘が、ここからの即時退避を促したのだ。

<;ヽ`∀´>「ッ!?」

飛び退く。
擦れる視界の中、黒の粒子の塊が波打つのが見えた。
地面に伏せたと思った次の瞬間、踊るように跳ね上がって向かってくる。

一瞬前までニダーがいた位置を、黒の奔流が抉るようにして破壊した。

<;ヽ`∀´>「なっ……今のは……!」

*(;‘‘)*「黒い……!?」

それを何と表現すれば良いのか。
ロマネスクの右腕を包むガントレット、その手の甲から噴出した粒子の群が
まるで蛇のような形を作ってニダーに襲い掛かったのだ。

<;ヽ`∀´>「ヘリカル!!」

*(;‘‘)*「私に聞いても解るわけねーでしょ!」



53: ◆BYUt189CYA :2008/04/21(月) 21:00:02.83 ID:pd2Of4e00
しかし二人は、黒い光だけに覚えがあった。
ロマネスクが好んで使用していた、ウェポンの贋作だ。
だが、その武装に今の攻撃を生む機能はついていなかったはず。

<;ヽ`∀´>(おそらく異獣化した際に付加された力……!)

*(;‘‘)*(そして、決して無視出来ない危険な能力……!)

照らし合わさずとも意見は一致している。
地面を砕く一撃を軽視するほど、自信過剰ではなかった。

<ヽ`∀´>「ここは慎重に行動し、出来る限り敵能力の把握を――」

(#^ω^)「――おぉっ!!」

これからの戦闘プランを考えたところで、彼の眼前にブーンが飛び出してきた。
その傍にはクーもおり、一歩下がった位置で刀を構えている。

<;ヽ`∀´>「お、お前ら……さっきの見たはずニダ! 近付くと危険ニダ!」

(#^ω^)「大丈夫ですお!!」

警告の言葉を一蹴したブーンは、両拳を握り締めて疾駆を開始する。

川 ゚ -゚)「すまない。 だが、これが私達の戦い方だ。
     遠距離からの援護を頼む」

そう言い残したクーも、ブーンの後を追うように走り出した。
あまりの無謀な行為に何かを言おうとしたニダーだったが、もはや止められぬと悟ったように首を振った。



56: ◆BYUt189CYA :2008/04/21(月) 21:01:34.60 ID:pd2Of4e00
*(;‘‘)*「まったく……本当にアレが、ロマネスクを単独で打ち倒した男なんですかね?」

<;ヽ`∀´>「さぁ。 何か要素があったかもしれんニダ。
       ウリは、あのロマネスクが内藤に倒されたと未だ信じることが出来んニダ」

だが、と続け

<ヽ`∀´>「……今ので、信じてみてもいい、という気にはなったニダ」

ニダー達が慎重になるべきだと考えた場面で、ブーンとクーは反対に突っ込んでいった。
ブレーキをかけるどころか、迷いなくアクセルを踏み込んだのだ。

本来のニダーならば、その馬鹿さ加減に憤慨するところだっただろうが
予想に反し、顔に表れたのは怒りではなく笑みであった。

ならば一緒に馬鹿をやってみよう、という考えは自然と浮かんだ。

未知の敵に対して躊躇なく向かい合えるブーン達を羨ましく感じ
そして、出来るならば自分も、と思えたのだ。



58: ◆BYUt189CYA :2008/04/21(月) 21:03:42.08 ID:pd2Of4e00
<ヽ`∀´>「……これが噂のFC病ニカ?」

*(‘‘)*「空気感染するとは思いませんでしたけどね。
    おかげで私の今後の人生プランが狂いまくりです。
    まったく、あんな変な奴らと一緒に戦うなんざ……もう遅いですけどね」

<ヽ`∀´>「ということは――」

*(‘‘)*「――アンタは右。 私は左。
    真ん中を突っ走る馬鹿がいるなら、これがベストです」

つまり同じ意思なのだな、と感じたニダーは強く頷いた。
この胸に湧き上がる高揚感は、きっと偽りではないだろう。

<ヽ`∀´>「求められているのなら、応えるしかないニダ」

*(‘‘)*「あのバカップルは周りが見えてない時がありますからね。
     ま、せいぜい死なない程度に援護してあげますよ」

そんな愚痴をこぼすヘリカルの口元には、やはりニダーと同じような笑みが浮いていた。



63 名前: ◆BYUt189CYA [>>60たくさん] 投稿日: 2008/04/21(月) 21:06:17.33 ID:pd2Of4e00
川 ゚ -゚)「内藤! 私が隙を作る!」

( ^ω^)「解ったお!」

立ちすくむロマネスクを前にして、クーの提案はブーンの思ったものと同一であった。

彼女が強くステップを踏む。
その僅かな滞空時間の間に刀が消え、ブーツが出現した。
手品のような光景だったが、ブーンはそれをいつも近くで見ていたため
特に驚きも目を奪われもせずに与えられた役目に集中する。

クーが隙を作ると言ったのだ。
だから、それはきっと為される。

川#゚ -゚)「見せてやるぞ、異獣! 私とハンレの戦い方をな……!」

地を蹴れば、周囲の景色が吹き飛ぶ。
音速に近い速度を生み出す原因は、彼女の足を纏う透明色のブーツだ。

川#゚ -゚)「シュード(似非)・ギルミルキル――!!」

ワンステップを刻んでロマネスクの横へ。
更に重ねて刻み、たった二歩で背後を取ることに成功する。

〈/i(iφ-゚ノii「――――」

一瞬遅れてロマネスクが反応し、その濁りきった双眸がクーを捉える。
だが、その時点で既にクーは次の行動へ移っていた。



64: ◆BYUt189CYA :2008/04/21(月) 21:08:47.35 ID:pd2Of4e00
川#゚ -゚)「シュード・ガロン!」

腰溜めに構えた長銃が光を吹く。
三度の発砲音を証明するように三つの光弾が飛び、
ロマネスク本体ではなく、その足下の大地を削った。

煙が舞い上がる。
簡易的な煙幕に包まれたロマネスクは、クーの姿を見失う。

川#゚ -゚)「シュード――!」

〈/i(iφ-゚ノii「!」

次に聞こえた攻撃の声は真横からで

川#゚ -゚)「――アーウィン!!」

手に持つは魔道の書物。
ページが開かれ、風が舞い、クーの描く幻想が実体化する。
それは彼女の心を表わすかのように、『氷』として力を示した。

が、という剛の音が響き、瞬間的に氷の柱が発生した。

生まれ方は単純で、下から上へ叩き上げるように、だ。
その真上に位置していたロマネスクは当然、腹部に直撃を受ける。



67: ◆BYUt189CYA :2008/04/21(月) 21:10:36.87 ID:pd2Of4e00
川#゚ -゚)「まだ終わらんぞ! シュード・グラニード!!」

叩き上げの反動を利用し、振りかぶった両腕の先に巨剣を生み出す。
自身に対する引力をを最大限に発揮しながら、それは断頭台のような勢いで刃を落とした。

川#゚ -゚)「――っはぁぁ!!」

激音。

斬撃の音ではなく、何か硬い物体を殴ったような重い音だった。
あまりの防御力に舌を巻くクーであったが、それでも充分に体勢を崩せたのを見る。
だから信じる男の位置すら確かめず、しかし確信しながら吼えた。

川#゚ -゚)「内藤! 今だ!!」

(#^ω^)「OVER ZENITH――!!」

タイミングは、この上なく完璧であった。
晴れかけた砂煙を吹き飛ばしながら、ブーンは両拳を発光させる。

次の瞬間には、彼の周囲に二つの白い拳が浮遊していた。



71: ◆BYUt189CYA :2008/04/21(月) 21:12:54.40 ID:pd2Of4e00
(#^ω^)「クレティウス! 右だお!!」

『了解した』

予め決めておいたのだろうか。
ただ『右』という命令に対し、クレティウスはブーンの望む結果を提示する。

それは、彼の右腕へ二つの拳が集う、という現象だった。
纏わりつくように接近した拳は、そのまま回転運動を開始する。
高速で、ブーンの腕の周囲を回り始めたのだ。

速度を上げていく過程で二つの拳は視認不可となり、ただ白色が腕を纏うような光景に変貌した。

(#^ω^)「名付けて『Fist Duet +』――!!」

『その名はどうかと思うが、回転数安定域に達したぞ! いけ!!』


踏み出し、固定し、振りかぶり、捻り、伝導させ、繋ぎ、一気に――


(#^ω^)「おぉぉぉぉぉおおおおお!!!」


――打ち出す!



74: ◆BYUt189CYA :2008/04/21(月) 21:15:17.96 ID:pd2Of4e00
格闘の基本を忠実に押さえた一撃は、ただ真っ直ぐに飛んだ。
体勢を崩しているロマネスクの胸部に突き刺さるような軌道だ。
その速度に、誰もが直撃を予感する。

だが――

〈/i(iφ-゚ノii「――――」

(;^ω^)「おっ!?」

拳が『それ』に当たった瞬間、黒に染まった。
いや、そこを中心点として黒色の粒子が散ったのだ。

それは一瞬だけ広がりを見せ、そして逆再生のように集約を始める。

『内藤ホライゾン!』

(;^ω^)「わ、解ってるお!」

もはや是非もない。
圧倒的な危機感を得たブーンは、当てた拳を引きながら後退した。
その判断がまったく正しかったことを証明したのは、直後だった。

(;^ω^)「うわっ!?」

集中した黒霧が臨界点に達し、爆発を引き起こしたのだ。



77: ◆BYUt189CYA :2008/04/21(月) 21:17:19.76 ID:pd2Of4e00
生まれたのは炎ではなく、衝撃波だ。
咄嗟にガードした両腕に、金属棒で殴られたような痛みが襲いかかった。

川;゚ -゚)「内藤!!」

(;^ω^)「くっ……今のは何なんだお!?
     だって、さっきは――」

最も接近していたブーンとクレティウスは、はっきりと原因を見ていた。
数倍に膨れ上がった打撃を突き出した瞬間、ロマネスクは

……右腕を、ガードするように胸元へ持ってきた。

だが、それだけなら突き抜けたはずだ。
如何に黒のガントレットが頑丈とはいえ、あんな不安定な体勢でブーンの一撃を防御出来るわけがない。
それを為したのは、手の甲から噴出する黒の粒子だ。

川;゚ -゚)「しかし、さっきと形状が違う……」

(;^ω^)「…………」

これは一体、どういうことだろうか。



79: ◆BYUt189CYA :2008/04/21(月) 21:19:08.13 ID:pd2Of4e00
先ほどニダーを襲ったのは、同じ黒の粒子だが
その群れとなって為していた形に明確な違いがあった。
最初は蛇のように細長く、次は盾のような役割を果たし、そして爆発まで引き起こした。

このことから考えられるロマネスクの能力とは――

川;゚ -゚)「私の14th−W『ハンレ』同じタイプ――複数の形を持つ何か、か」

(;^ω^)「僕もそう思うお。
     多分、あの黒い粉みたいなのを操って……」

〈/i(iφ-゚ノii「――――」

どうやら長々と相談する暇は与えてくれないらしい。
ロマネスクが近付いてきたのを見て、ブーンとクーは警戒しながら構える。

川;゚ -゚)「何を出してくるか解らない。 気をつけろ。
     こういう相手は先手を譲ると厄介だぞ」

(;^ω^)「うん。 でも、もう一つ解ったことがあるお」

川 ゚ -゚)「何?」

( ^ω^)「僕がアイツの腹を攻撃しようとした時、アイツは右腕で防御したんだお。
     ニダーさん達の射撃やクーの攻撃は無視してたのに」



81: ◆BYUt189CYA :2008/04/21(月) 21:21:11.30 ID:pd2Of4e00
川 ゚ -゚)「……君の攻撃力が脅威だったんじゃないか?」

( ^ω^)「それも考えられるけど……もしかしたら――」

ある一つの仮定が思考に浮かびかけた時、
射程範囲と判断したのか、ロマネスクが速度を変えた。
悠々と歩いてくる格好から、身を前に倒した軽い疾駆の姿勢だ。
もはや確信を得るまでの猶予はない。

(;^ω^)「クー、もう一回だけ試してみたいお! だから――」

川 ゚ -゚)「解った。 何とか隙を作ってみる」

ブーンの思いを察したクーは、全てを聞くまでもなく即答する。

彼の願いは自分の願いだ。
本気で応えなければならない。

〈/i(iφ-゚ノii「――――」

だが、先ほどと同じ戦術では防がれてしまうだろう。
だから、クーは頭の中で次の行動を吟味する。

パターンを読まれる可能性は低い。
何せ、こちらには十四種類もの武器があるのだ。
単純な組み合わせだけでも膨大な数なだけに、数度の攻防では見切ることは不可能だと言える。



84: ◆BYUt189CYA :2008/04/21(月) 21:22:43.11 ID:pd2Of4e00
川 ゚ -゚)(今度はユストーンを使うか……)

向かってくるロマネスクを見据えながら、クーは右腕に透明色の鎖を生み出した。
この補助的な意味合いの強いウェポンを起点にして、先ほどのような連続攻撃を叩き込む算段だ。

来る。
攻撃の意思を見せた時こそが、最大の隙だ。

川#゚ -゚)(絡め取るべきは右腕――もらった!!)

行動の起源である肩に視線を集中していたクーは
僅かに躍動したのを見逃さず、右手に巻いておいたユストーンを振るった。
自律機能を持つ鎖は一瞬だけ遠心力に身を持っていかれながらも、その頭をロマネスク目掛けて飛ばす。

〈/i(iφ-゚ノii「――――」

対するロマネスクの動きは単純なものだ。
ユストーンを防ぐため、振りかぶった右腕のベクトルを変える。

川#゚ -゚)(だがッ!!)

それを見越していたクーは、完璧と言えるタイミングで強く念じた。
結果、ロマネスクと触れ合う寸前まで迫っていたユストーンが、その身を突然に消滅させる。
防御しようとしていた右腕が空振ることで、小さな隙が生まれた。

〈/i(iφ-゚ノii「!」

川#゚ -゚)「最初から手の内を見せる馬鹿がいるものか――!!」

一瞬で手元に戻ったハンレを、今度は別の形に変化させた。



85: ◆BYUt189CYA :2008/04/21(月) 21:24:12.20 ID:pd2Of4e00
生み出されたのは透明色の斧だ。
短い柄に大きな両刃を持つそれは、トマホークと呼ばれる投擲目的の武具である。
かつてはVIPにいた大男が使い、そして今はエクストが用いる破壊の戦斧――13th−W『ラクハーツ』だ。

川#゚ -゚)「はぁぁぁっ……!」

構える姿はトマホーク。
投げる姿はサイドスロー。
飛ぶ光景はブーメラン。

果たして、その結果は――

〈/i(iφ-゚ノii「!?」

爆発する。
無防備となったロマネスクに触れた刃が爆ぜたのだ。
広がるような炎と光に混じり、大音が周囲に撒き散らされていく。

(;^ω^)「うわっぷ……!?」

川#゚ -゚)「内藤、準備しておけ! タイミングは察しろ!」

爆風に煽られながらも、クーは追撃を目指した。
手元に戻ってきたラクハーツを指輪に戻し、次なる形へと変貌させる。

その場に、しゃん、という涼しい音が響いた。

川#゚ -゚)「シュード・レードラーク!!」



86: ◆BYUt189CYA :2008/04/21(月) 21:26:14.77 ID:pd2Of4e00
僅か数歩の助走で跳ぶ。
背に生えたクリアカラーの機械翼がクーの身を空へ舞い上がらせた。
滴り落ちる光は幻想的で、見る者を魅了する美しさを持っている。

かつて、ハインリッヒと空中戦を繰り広げた堕天使の再来だ。

*(‘‘)*「っつーか便利過ぎじゃねーですか、おい」

空飛ぶステッキに腰掛けるのはヘリカルだ。
高所へ位置取ったクーの傍へ、身軽な調子で寄ってくる。

川 ゚ -゚)「便利? だとするならば次は『卑怯』か?」

む、と渋い顔をするヘリカルを横目に、クーは自信を持って告げる。

川 ゚ -゚)「ありえない、と言おう。 これが私が親と言える人からもらった力。
     それを否定することは出来ない。 何故なら、私はここにいるからだ」

*(‘‘)*「反則的だからこそ生き残れたとは言えないんですかね?」

川 ゚ -゚)「違うな。 これは、ハンレは卑怯で反則的な武器などではない。
     クルト博士が私に遺してくれた――いわば『加護』さ」

一際大きく嘶く機械仕掛けの翼。
骨格を最大限にまで広げ、己の威厳を示すように魔力光が散る。

本来ならば力無く落ちるはずの羽が、勢いよく発射された。
しかも少数ではなく、確認するのが面倒になるほどの数だ。

それらはマシンガンのような勢いを以って、地上へ雨霰と降り注ぐ。



89: ◆BYUt189CYA :2008/04/21(月) 21:30:03.91 ID:pd2Of4e00
「「援護――!!」」

追うように光が訪れた。
ニダー、ヘリカルからの支援砲撃だ。
手の空いている、近くの兵からも助力が来ていた。

川 ゚ -゚)「仲間とは……良い。 とても良いものだな、ヘリカル。
     私は嬉しい。 この心に湧き上がる歓喜の感情が心地良い」

*(‘‘)*「馴れ合うの、嫌いですけどね。
    でもま、こういうシンプルでディープな関係もたまには良いです」

川 ゚ー゚)「君は素直じゃないな」

苦笑し、クーは身を落とした。
背中の翼を消失させたのだ。
光はクーの左手に集まり、指輪の形へ再生される。

川 ゚ -゚)「接近戦を仕掛ける。 手伝え」

*(‘‘)*「へーへー。 人遣いが荒いことで」

文句を言いつつも一緒に降下を始めたヘリカルは、クーの意図を読み取っているようだった。

*(#‘‘)*「変形機構を持つ汎用ステッキ型EW――全開使用は久々ですよ」

ステッキを振り回す。
回転する毎に、機械音を上げて変形していくのは頭部分だ。
コアの役目も果たしている部位が下がり、より手に近い位置へと移動する。
成した形は『刃のない剣』に近く、実際、その通りであった。



92: ◆BYUt189CYA :2008/04/21(月) 21:32:35.96 ID:pd2Of4e00
*(#‘‘)*「ヘリカルブレード……!!」

鍔から大量の光が吹き、その飛沫が刀身へ変貌した。
魔力そのままをブチ当てるという高威力武装形態だ。
かつて使用したハンマーのように、その大きさや長さは優に人の身三人分を越える。

川#゚ -゚)「こちらも負けてられんな! シュード・ウィレフェル!」

対し、クーの武器は鎌である。
浅く弧を描いた刃と柄は、両手に添えるように確定される。

得物を構える彼女達のターゲットは、未だ爆炎と煙に取り囲まれているロマネスクだ。

川#゚ -゚)「喰らえ!」

*(#‘‘)*「不本意ダブルアタック――!!」

なんだそれは、と文句を言う暇はなかった。
言葉が終わると同時に、刃がロマネスクを捉えたからだ。

*(#‘‘)*「だらっしゃ!!」

川#゚ -゚)「っ!」

まずはヘリカルの全体重、それに重力加速を加えた下方への一撃。
物質化せず、ただ魔力の塊である刀身がロマネスクの身体を袈裟に払った。

それでも勢いが止まらない刃は地面を粉砕し、轟音と共に赤土を激しく舞い上がらせる。



94: ◆BYUt189CYA :2008/04/21(月) 21:34:32.29 ID:pd2Of4e00
川#゚ -゚)「はぁぁっ!!」

その中で落ちてきたのはクーだ。
大鎌を目一杯振りかぶり、着地のインパクトと同じくして振るう。
走る刃は斜めの軌道で、ロマネスクの首を引っ掛けるようにヒット。

川#゚ -゚)「これで――どうだ!!」

速度はゼロにならなかった。
引っ掛けた刃を中心に、落下の勢いを利用して半回転。
つまりロマネスクの背後へ着地したクーは、握った柄を思い切り引き込んだ。

〈/i(iφ-゚ノii「……ッ!?」

当然、ロマネスクは後ろへ引っ張られるようにバランスを崩す。
そしてまたもや当然、倒れないように足を引こうとするが

*(‘‘)*「残念無念。 また来週〜」

既に剣先で足を引っ掛けていたヘリカルが、笑っていた。

川#゚ -゚)「ヘリカル! 一気にいくぞ!」

*(#‘‘)*「へいへい!!」

クーは更に鎌を引き、ヘリカルは引っ掛けていた剣を思い切り叩き上げる。



96: ◆BYUt189CYA :2008/04/21(月) 21:36:13.38 ID:pd2Of4e00
完成した結果は単純なものだ。
身体の端々を別方向へ引っ張られたロマネスクは、力任せの勢いにその場で半回転することとなる。
それはまさしく足は天に、頭は地に向く形だった。

〈/i(iφ-゚ノii「――――」

いきなり天地を逆さにされたにも関わらず、ロマネスクの表情に驚きは見られない。
その目は、己へと向かってくる敵意だけに向けられていた。

(#^ω^)「既視感あるけど気にせず元気良く!
      OVER ZENITH――!!」

本日二度目の限界突破を発動させるブーンだ。

一層強い白光を両手に携え、先ほどと同じように突進してくる。
今のブーンの狙いはロマネスクの撃破ではなく、その胸部だった。

この行動の真意は、一度目の攻撃が防がれたことで生まれた疑問を解消するためである。

一度目の激突の時、ロマネスクはブーンの攻撃を右腕で防いだ。
ニダー達の射撃を物ともしない防御力を誇っていながら、何故かブーンの攻撃だけを防いだのだ。



98: ◆BYUt189CYA :2008/04/21(月) 21:38:00.81 ID:pd2Of4e00
ブーンの限界突破の攻撃力を脅威を見ているのか。
それとも大技に対して、カウンターを狙ってきたのか。
もしくはブーン達には及びつかない思考が、その結果を生んだのか。

違う。
もっと単純だ。

防御するということは、敵の攻撃力を削減する、ということ。
つまりロマネスクはあの時、咄嗟にガントレットで何かを守ったのだ。

――ブーンが狙っていた胸部を。

(#^ω^)(まだ100%とは言えないけど……そこが奴の急所かもしれないお!
      だから、この攻撃で見極める!!)

もし、またロマネスクが同じように防げば確定だ。
もしくは回避でもいいし、何でもいい。
とにかく胸部への被弾を嫌がるのならば、高確率で弱点発覚である。

(#^ω^)(だから、打ち抜く――!!)

止められるものなら止めてみろ。
思い、ブーンは限界突破を作動させる。

(#^ω^)「おぉ……!!」

出現した拳の数は以前と同じで二つだ。
それらを右腕に纏わせ、一撃必殺のエネルギーを編み上げる。
限界突破の負担が身体を軋ませるが、そんなことは知ったことではなかった。



100: ◆BYUt189CYA :2008/04/21(月) 21:39:48.07 ID:pd2Of4e00
(#^ω^)「喰らええぇぇぇえ!!」

完全に回避運動を封じられたロマネスク目掛け、拳を突き出す。
踏み込み、腰の捻り、そして打突。
三段階のプロセスを経て放たれる拳は、他のものとは異なる点があった。

少林寺拳法は親指が上になるような突き方――つまり縦拳を主流としている。
これは『肘が外側に出ないように』という理屈もあるのだが、実はもう一つ意味があった。

速度である。

構えにもよるが、横拳に比べて縦拳の発生の方が早いのだ。
説明するより実際にやってみた方が理解しやすいかもしれない。

空手等の横拳は確かに威力、貫通力などに利がある。
だが少林寺拳法が選んでいる縦拳は、攻撃から命中までが段違いに速い。
『急所を狙い打つ』という前提が生み出した効率重視の技術なのである。

本来ならば威力を求めるべき場面だ。
しかし、そこはクレティウスが補助してくれている。
故にブーンは、何も考えることなく最速の拳を放つことだけを目指した。

〈/i(iφ-゚ノii「――ッ!!」

(#^ω^)「おぉぉぉぉ!!」

拳と腕、グローブとガントレットが激突する。
硬い音を立て、一瞬だけ両者の動きが止まった。
風船のように広がった衝撃波が、周囲の小石や砂を吹き飛ばす。



103: ◆BYUt189CYA :2008/04/21(月) 21:42:03.82 ID:pd2Of4e00
(#^ω^)「だりゃぁぁっ!!」

だが、それで終わりではなかった。
ブーンの腰が捻じ切れておらず、腕がまだ完全に伸びていないことからも明らかだ。
まだブーンは打撃の途中なのである。

だから、押す。

更に腰をひねり、右半身を捻り込み、腕を伸ばした。
クレティウスの攻撃補助が加わり、その打撃力が格段に上がる。
それは、初撃を受け止めたロマネスクにとって予想外の力場と化し、

〈/i(iφ-゚ノii「――――」

耐える間もなく、吹っ飛んだ。

川 ゚ -゚)「よし……!!」

<ヽ`∀´>「これが限界突破……いや、クレティウスの――」

*(;‘‘)*「べ、べべ別に驚いたわけじゃないんだからね!!」

ニダーとヘリカルの驚きと戸惑いは当然だ。
あれだけ堅牢を誇っていたロマネスクが、まだ若いブーンによって殴り飛ばされたのだ。
彼の何倍もの時間を戦いに当てている彼女達からすれば、驚嘆の感情はごく自然と言える。

(;^ω^)「げほっ、げほっ! なんか喉に入ったお……!」

当の本人はのん気なものだった。
しかし、流石に限界突破の連続使用が堪えたのか、全身で息をするように喘いでいる。



108: ◆BYUt189CYA :2008/04/21(月) 21:43:54.84 ID:pd2Of4e00
川 ゚ -゚)「大丈夫か?」

(;^ω^)「何とか……ちょっと身体の節々が痛むけど、大丈夫だお。
     それよりもロマネスクはどうなったお?」

ブーンの一撃を受け止めきれなかったロマネスクは
初期位置から数十メートルも先に倒れている。
何度か地面で跳ねたのか、道標のように、断続的に煙が上がっていた。

川 ゚ -゚)「かなり飛んだな。 先ほどと同じ攻撃に見えたが」

( ^ω^)「クー達が浮かせてくれたからだお。
     人間って足が地面についてないと、どうやっても踏ん張れないから」

そうか、と呟きながら、だが、とクーは思う。
それを差し引いても、ブーンの攻撃力は目を見張るものがあったからだ。

川 ゚ -゚)(あれが本来のクレティウスの力ということか……?)

( ^ω^)「……でも、変だったお」

川 ゚ -゚)「変?」

(;^ω^)「よく解らないんだけど、殴った時の感触がおかしかったお。
     皮膚とか筋肉じゃなくて……もっと石みたいな硬さだったお」



109: ◆BYUt189CYA :2008/04/21(月) 21:45:21.31 ID:pd2Of4e00
川 ゚ -゚)「鎧か、それとも何か仕込んでいたのではないか?」

( ^ω^)「それだと右腕で頑なに防御しようとする意味が解らないお。
      もしかしたら、あの感触は――」

ブーンが何かを言いかけた時、動きがあった。
味方であり、その色は強い警戒と驚きである。

〈/i(iφ-゚ノii「…………」

視線の集中した先にはロマネスクが立っていた。
あれだけの衝撃を受け、既に体勢を立て直している。
かなり容赦のない一撃を見舞ったつもりだったが、あまりダメージを受けている様子はなかった。

(;^ω^)「やっぱりあれくらいじゃ駄目かお……!」

川;゚ -゚)「いや、待て。 見ろ」

クーが何かに気付いたようだ。
その視線を追ったブーンも、先ほどまでとは異なる点を見つける。

(;^ω^)「……?」

薄く砂埃を被ったロマネスクの身体を凝視する。
殴った部分、つまり胸部の服や装甲が破れ、その中身が見えてしまっていた。

ブーンが驚きの声を挙げたのは、直後だった。



110: ◆BYUt189CYA :2008/04/21(月) 21:46:52.36 ID:pd2Of4e00
(;^ω^)「あ、あれって!?」

川;゚ -゚)「あぁ……信じ難いことだが、もしかして――」

見れば、ニダーやヘリカルも絶句していた。
歴戦の戦士である彼らですら、ロマネスクの胸部にある物体から目を逸らせないでいる。


……ロマネスクの胸部に、黒い宝石のような物体が埋め込まれている。


ただの宝石ではない。
胸部の大部分を占める大きな石は、ただの物質にしては異常だ。
鼓動に対応しているのか一定のリズムで薄い光を発しており、むしろ内臓の一部にも見える。

それは、ブーン達の知るモノによく似ていた。

*(;‘‘)*「ルイル……ですか……!?」

(;^ω^)「!!」



114: ◆BYUt189CYA :2008/04/21(月) 21:47:53.34 ID:pd2Of4e00
ルイルとは、魔力の結晶体とも言える魔法石である。
魔粒子を生み出す根源であり、文化の種とすら言われる影響力の強い物質のことだ。
ブーン達も持つ武器にも使用されており、その威力の程は今までの通りだ。

それが、ロマネスクの胸部に埋め込まれていたのだ。

(;^ω^)「ど、どうやって……!
     いや、それよりもあんなことして大丈夫なのかお!?」

川;゚ -゚)「あまりポジティブなイメージは湧かんな」

*(;‘‘)*「馬鹿言ってんじゃねーですよ……!
     遺伝子レベルから組み込まれてる英雄ならいざ知らず、
     あんなもんをいきなり人体に埋め込んで、何もないわけがないです!」

あの虚ろな表情は。
光の見えない目は。
死人のような覇気の無さは。

〈/i(iφ-゚ノii「――――」

全てそういうことなのだろうか。

いや、あんなものを見せられては、そうとしか思えなかった。



120: ◆BYUt189CYA :2008/04/21(月) 21:49:36.33 ID:pd2Of4e00
<;ヽ`∀´>「異獣はどこまで……どこまで人間を……!!」

ニダーが歯噛みする気持ちは全員が同じだった。
かつての彼らにとっては味方で、ブーン達にとっては敵だった男だが
それでもあんな姿にさせられたとなれば、同じ人間として憤懣がこみ上げて当然である。

( ^ω^)「――許せないお」

川 ゚ -゚)「あぁ」

(#^ω^)「あんなことを平気でするなんて……人は、玩具じゃないお!!」

川 ゚ -゚)「……そうだな」

怒りに燃えるブーンだったが、対するクーの表情は暗かった。
人の手によって作り出された彼女にとって、
ブーンの『許せない』という言葉が、クルト博士にも向けられているように思えたからだ。

彼の性格を鑑みれば、それはない、と信じることが出来る。
だが、この心に生まれる痛みは否定しようがない。
たとえ被害妄想だと言われようとも、仕方ないものは仕方ないのだ。

川 ゚ -゚)(――いや、今はそんな馬鹿なことを考えている場合ではない、か。
     私はもう生まれ落ち、ここまで来た。 今考えるべきは未来だ)

クルト博士だって、いつまでも自分の出自について気にしてほしくないはずだ。
もしかしたらリトガーや渡辺も、そう思ってくれているかもしれない。
今、後ろを見るのは絶対に間違っている。

だから、クーは未来を望むために前へと意識を向けた。



123: ◆BYUt189CYA :2008/04/21(月) 21:50:56.09 ID:pd2Of4e00
川 ゚ -゚)「確認するが、あれを元に戻す方法は本当にないのか?」

*(‘‘)*「…………」

<ヽ`∀´>「……不可能ニダ。
      あるかもしれないが、ウリ達はそんな技術を持ってないニダ。
      そういう意味で不可能ニダ」

(;^ω^)「……!」

川 ゚ -゚)「異獣と長年戦い続けてきたお前達でも無理なのか?」

<ヽ`∀´>「今まで異獣と戦えば、生きて帰るか死んで食われるかのどちらかだったニダ。
      あんな風に、死体を傀儡として操る術を見たのは初めてニダ」

渡辺達の言が正しければ、ニダー達は異獣と数百年も戦いを続けていたはず。
だというのに、ロマネスクを操っているような事象が一度も起きなかったのだろうか。
敵兵を吸収することの出来る技術があるのならば、使わない手はないはずなのだが。

川 ゚ -゚)(ここ最近で異獣が編み出した技術なのか……?
     確か軍神やヒートは身体の一部を異獣に奪われた、と言っていた。
     もしその目的が、今のロマネスクのための布石だとすれば……)

一応、頷ける。
だが確信は出来ない。

奴らがどれほどの時間を生きたのかは知らないが、
その中で敵兵を戦力として操る術を会得していないとは言い難いからだ。



125: ◆BYUt189CYA :2008/04/21(月) 21:52:45.23 ID:pd2Of4e00
他に考え得る要素と言えば、何があるだろうか。

川 ゚ -゚)(今日、この時のため……か?)

もし仮に操る術を持っていたとしても、
それを見せなければ、敵は対抗技術を得るのは不可能だ。
誰もかかったことのない病気に対する薬を作ることが出来ないのと同じである。

川 ゚ -゚)(あるいは、両方……)

技術として育んでいたが、それを機械世界相手には使わなかった。
もしくは敵兵を捕らえて実験していたが、それを戦力として使うことはしなかった。

川 ゚ -゚)「…………」

どれも頷ける考えだった。
だが何にせよ、異獣の残虐さは今に始まったことではない。
ロマネスクを解放することが出来ないと解った今、すべきことは――

<ヽ`∀´>「――アイツを殺してやることしか、ウリ達には出来んニダ」

(;^ω^)「それしか、本当にそれしかないのかお……?」

*(‘‘)*「あんまり面識ないくせに、助けたいんですか?」

(;^ω^)「だ、だって……ロマネスクとは一度戦ったことがあるんだお。
      あの時、彼が負けてなければ……」

川 ゚ -゚)「馬鹿なことを言うな、内藤。
     もしそうなっていたら、今の君は向こう側にいたのかもしれないんだ」



128: ◆BYUt189CYA :2008/04/21(月) 21:54:36.49 ID:pd2Of4e00
視線の先には空ろな表情で立つロマネスク。
かつての面影はほとんどないが、右目に残された縦傷が彼のことを証明している。
今の彼はゾンビのような雰囲気を持っているが、しかしまさにそれなのだろう。

川 ゚ -゚)「私は君を殺すなんて絶対にイヤだ。
     だから、冗談でもそういうことは言わないでくれ」

(;^ω^)「……クー」

川 ゚ -゚)「君は勝ち、生きている。 ロマネスクは負け、ああなった。
     これは絶対に変えられない現実だ。
     だから、今は後悔するんじゃなくて、前だけを見ていてくれ」

(;^ω^)「…………」

それでもブーンは俯いたままだった。
若いからだろうか、全てを救いたい、という気持ちが表情に表れている。

解らないでもないが、どうにもならないこともあるのが現実だ。
それをおぼろげながら知っているクーは、更にブーンへ言葉を投げかけようとして、


「――迷うなよ、ガキ。 躊躇は――度し難い隙を生むぜ」


新たに割って入った声に、驚いて目を見開いた。



131: ◆BYUt189CYA :2008/04/21(月) 21:56:30.35 ID:pd2Of4e00
川;゚ -゚)「ッ!?」

ここに来て新たな敵か。
それとも味方か。

周囲を見渡し、次にニダー達を見て、彼らの視線を辿り、
ようやくクーは、正体不明の声の出所を見つけることが出来た。


〈/i(iφ-゚ノii「よぉ――久々だな」


その予想すらしていなかった光景に、背筋が凍るのを感じながら。

川;゚ -゚)「貴様……ッ!?」

*(;‘‘)*「喋った!? どうして……!?」

更に薄ら寒いものが神経を撫でる。
確かに声を出しているのはロマネスクだが、その口も、目も、表情すらも動いていないのだ。
腹話術を連想する光景は、どこか出来の悪い冗談のようであった。

〈/i(iφ-゚ノii「驚くこたぁ――ねぇだろ。
       この身体は元々――俺のモンだぜ?
       ただまぁ――今使えるのは――発声器官くらい――だけだがな」

はぁ、と溜息のようなものを吐き

〈/i(iφ-゚ノii「ま、呼吸すら――制御出来ねぇから――変な喋り方になるけど――許せや」



134: ◆BYUt189CYA :2008/04/21(月) 21:58:24.00 ID:pd2Of4e00
川;゚ -゚)「一体何のつもりだ……! まさか異獣についたと言うのか!?」

〈/i(iφ-゚ノii「馬鹿言う――んじゃねぇ。
       俺ァ機械――世界側の人間だぜ?」

<;ヽ`∀´>「……説明が欲しいニダ」

〈/i(iφ-゚ノii「だろうな。 じゃあ――よーく聞けよ?」

途端、動きが起きた。
こちらに歩んでいたロマネスクの身体が弾けるように稼働し
先ほどとは段違いの速度で向かってきたのだ。

*(;‘‘)*「ッ!?」

川;゚ -゚)「危ない!!」

すっかり油断していたヘリカルの身体が強張り
それを見てとったクーが、間髪入れずに割って入った。

川;゚ -゚)「貴様……何を!?」

〈/i(iφ-゚ノii「気ィつけろ。 
       この身体は――もはや俺の意思では――どうにもならねぇ」

川;゚ -゚)「っぐぅぅぅ!!」

咄嗟に出現させたジゴミルに、ロマネスクの拳が当たる。
黒い霧のようなものを噴出させながらの打撃は、
防御姿勢のクーを軽々と仰け反らせるほどのパワーを持っていた。



137: ◆BYUt189CYA :2008/04/21(月) 22:00:15.44 ID:pd2Of4e00
(;^ω^)「クー!?」

川;゚ -゚)「ッ……! 私は大丈夫だ!」

<;ヽ`∀´>「ロマネスク! どういうことニカ!?」

〈/i(iφ-゚ノii「言った通りだが。 今の俺に出来ることは――声を出すことだけ――でな。
       なんだか――他人という着ぐるみを――被ってる気分だぜ」

川;゚ -゚)「それが本当だという証拠は……!?
     だとするなら、そもそも何故最初から声を出さなかった!?」

〈/i(iφ-゚ノii「出さなかった――じゃねぇ――出せなかった、だ。
       少しの自由を得たのは――あのガキが俺を――ブン殴ったからだだろう」

(;^ω^)「僕が……?」

〈/i(iφ-゚ノii「俺の胸を――見ろ」

そこには先ほど発見した通り、黒色の魔法石が埋め込まれている。
先ほどは遠目で解らなかったが、その表面が少しだけ欠けているのが見えた。

〈/i(iφ-゚ノii「これが――俺の身体を――変容させた仕掛けだ。
       奴らが俺に――行なったのはおそらく――魔法的な人体改造だろう」

(;^ω^)「人体改造……!? っく!」

言っている間にも追撃が来る。
一瞬でも気を抜けばやられてしまいそうな攻撃の中、
ブーン達は連携を崩さぬよう尽力しながら、ロマネスクの言葉に耳を傾ける。



140: ◆BYUt189CYA :2008/04/21(月) 22:01:40.16 ID:pd2Of4e00
〈/i(iφ-゚ノii「これにガキが――少し衝撃を与えたおかげで――
       システムに不調が――出たらしいな」

*(;‘‘)*「つまり、その胸にあるルイルがアンタを縛ってるわけですか……?」

〈/i(iφ-゚ノii「少し違う――な。
       縛るンじゃねぇ――これは――合成剤だ。
       俺の身体と――異獣の要素を混ぜ――魔法で――強引に――!」

(;^ω^)「うわっと!?
     じゃ、じゃあ……それを破壊すれば!」

〈/i(iφ-゚ノii「言っただろうが――合成だ、と。
       混ぜられた二つの――要素は、もう――二度と元には戻らねぇ。
       今の俺を――生かしているのは――このクソ憎たらしい――石だ」

もし破壊すれば、という仮定に答えは一つだけだった。

破壊すれば、ロマネスクは今度こそ本当に死ぬ。
壊さなければ、ロマネスクは傀儡として操られ続ける。

どちらにしても人として生きていくのは不可能であった。

〈/i(iφ-゚ノii「だから――殺せ。
       お前らの邪魔に――なるくらいなら――死んだ方がマシだ」



143: ◆BYUt189CYA :2008/04/21(月) 22:03:46.00 ID:pd2Of4e00
(;^ω^)「ロマネスク……!」

川 ゚ -゚)「……それしかないな」

(;^ω^)「っ! でも! あのロマネスクの言葉が本当だとは――」

<ヽ`∀´>「確かにウリ達には真実は解らんニダ。
      しかしもう戻すことが出来ないと解っていて、更に敵対している以上……。
      もう、倒すしかないニダ」

*(‘‘)*「……理不尽なもんですよ、世の中って」

クー達は覚悟を決めたようだ。
特にニダーとヘリカルにとって、ロマネスクとは同じ組織に所属していた者同士だ。
詳しい実情は解らないが、相応の仲間意識があってもおかしくないはず。
だが彼らは、その感情を殺してまでロマネスクを消しさるつもりのようだ。

(;^ω^)「くっ……! こんなの酷いお! おかしいお!」

<ヽ`∀´>「戦いの前から解っていたはずニダ。
      これが異獣と戦うことだ、と」

*(‘‘)*「そもそも何もかもを、誰も彼もを助けるなんて無理なんですよ。
     こんな現実における当たり前の経験を、私とニダーは機械世界で学びました」

(;^ω^)「だからって! 確かめてもいないのにロマネスクの命を諦めるのかお!?
     もしかしたら合成だとか何とかは、異獣に言わされてるだけかもしれないお!
     助けられるかもしれないのに最初から諦めるなんて……!
     それに貴方達は、アイツの仲間だったんじゃないのかお!?」



144: ◆BYUt189CYA :2008/04/21(月) 22:05:53.24 ID:pd2Of4e00
*(#‘‘)*「仲間だったから、ですよ……!!」

平静を保っていたヘリカルが、厳しい視線をブーンに向けた。
今にも掴みかかろうとするような表情は、怒りに染まっている。

*(#‘‘)「仲間だから! あんな姿になったアイツを、これ以上生かしておくがツラいんです!
     それにアイツだって、異獣を倒すのを邪魔してまで生きていたいとは思ってねぇですよ!
     あんな言動で、あんな事をやった奴ですけど……意思は私達と同じなんだから……!!」

(;^ω^)「ッ……!!」

<ヽ`∀´>「……内藤。 その『救いたい』という気持ちだけでいいニダ。
     そしてアイツにとっての『救い』は、今の内に殺してやることニダ。
     なら、あとは何をすべきか解るニカ?」

解るとも。
そのくらい言われれば解る。

自分は所詮、彼らを深く知らない蚊帳の外の人間だ。
しかもロマネスクに対して友好的な感情は持っていないし、元は敵同士の関係だ。
フサギコに重傷を負わせ、ツンを拉致し、戦いを望まない人達まで巻き込もうとした男だ。

(;^ω^)(でも……!!)

ヘリカルが言ったではないか。
『彼の意思は自分達と同じなのだ』と。
しかし、だとするならば――


……果たしてこの戦場の何処に、自分達の敵がいるのだろうか?



147: ◆BYUt189CYA :2008/04/21(月) 22:07:32.31 ID:pd2Of4e00
〈/i(iφ-゚ノii「おい――動くぜ」

状況はどこまでも勝手に動こうとしていた。
己の異変をキャッチしたのか、ロマネスクが自身の攻撃を予知し、警告してきたのだ。
そしてそれは、憎たらしいほど忠実に実行へと移される。

川 ゚ -゚)「私が前へ出る! ニダーとヘリカルは隙を作ってくれ!」

(;^ω^)「ク、クー……!」

川#゚ -゚)「邪魔だ!! 下がっていろ!」

がん、と頭を硬い物で殴られた気がした。
自分がわがままを言っているのが解っていても、その言葉は大きく突き刺さる。

一瞬で思考を真っ白に染められたブーンは、よろけるように数歩後ろへ下がってしまった。

それをクーが見ることはない。
ただ足音で確認した彼女は、振り返ることなく前へ走った。

川 ゚ -゚)「…………」

*(‘‘)*「あの夢見がちなワンダーボーイには、ちょいとキツいんじゃねーですか」

いつの間にか横に飛んできたヘリカルが言う。
先ほどから話しかけてくるのは、クーに少なからず興味を持っているからだろうか。



151: ◆BYUt189CYA :2008/04/21(月) 22:09:34.49 ID:pd2Of4e00
だが、問い掛けにクーはかぶりを振った。

川 ゚ -゚)「事実だ。 戦う意思のない者が戦場に立っていても役に立たない。
     それがたとえ自分にとっての支柱になる男だとしても、な。
     逆を言えば戦う意思さえあれば、私は――」

*(‘‘)*「はいはいワロスワロス。
     つまり信じてるわけですかい……御熱いことで」

川 ゚ -゚)「それよりも、人の心配をするほど余裕があるとは思えんが」

*(‘‘)*「はン。 弱音を見せれば慰めてくれるタチですか、アンタ?」

川 ゚ -゚)「……成程な」

若いくせに随分と強いな、とクーは思った。
おそらく機械世界で数々の地獄を見てきたのだろう。
言葉遣いはともかく、言動が多少大人びているのは、そういうことかもしれない。

川 ゚ -゚)「! 来るぞ!」

風が不規則に揺らいだ。
前方から、強い力を纏う敵が来たのだ。

〈/i(iφ-゚ノii「右腕に注意――しろ! この黒い――粒子は――変幻自在だ!」

川#゚ -゚)「身を以って知っているさ!」



153: ◆BYUt189CYA :2008/04/21(月) 22:11:08.06 ID:pd2Of4e00
14th−W『ハンレ』と黒色のガントレットが正面から激突した。
一度弾かれ、体勢を立て直した両者が再び武器を振るい、ぶつける。

奇妙な感覚だった。
敵と戦いながら、まさか敵の口からアドバイスを受けるとは。
だが、その情報に偽りは混ざっていなかった。

川#゚ -゚)「はぁぁッ!!」

〈/i(iφ-゚ノii「そうだ――それでいい!」

体格や力関係で言えば、ロマネスクが圧倒的に勝っている。
当然、ぶつかる毎に押されるのはクーであり、しかし互いの位置はほとんど変わっていなかった。

川#゚ -゚)(もう昔の私じゃない……!
     多くの戦闘を通じて、戦い方に種類があるのだと知った!)

重い攻撃を正面から受けるのは馬鹿がすることだ。
特にこれほどまでパワーの差があると、防御するだけで体力を大きく消耗する。
衝撃は筋肉を傷つけ、震動が骨を蝕み、感覚を削っていく。

だから、クーは戦い方を考えた。

下半身に力を入れ、腰を深く落として構えるのではなく
重心を出来るだけ上へ引き上げ、フットワーク重視の体勢で挑んだのだ。
つまり攻撃を防ぐのではなく、捌いていく構えである。



155: ◆BYUt189CYA :2008/04/21(月) 22:12:25.40 ID:pd2Of4e00
川#゚ -゚)「ッ! っ! はぁっ!」

刀身を上手く使い、鋭く穿たれる拳の軌道を逸らす。
決して身体の前面を相手に晒さず、常に左半身を前にする格好だ。
回避は主に左方向へ、ロマネスクを中心に旋回するように心がける。

絶対に押されてはならない。
相手の勢いをまともに受けてしまえば、体勢を立て直すまでに潰されてしまう。

川#゚ -゚)「そこだッ!!」

そして大振りの攻撃を見定めては、それを捌いてカウンターを仕掛けていった。
もちろん狙いはロマネスクの胸部にある黒色の石だ。

〈/i(iφ-゚ノii「遅ぇ――!」

だが、それが当たることはない。
これでも出来る限りの全力反撃なのだが、それを上回る反応速度でロマネスクが対応した。
今まで使用してこなかった左腕――ガントレットは装着されていない――を巧みに操り
クーと同じように、その剣線を絶妙に逸らしていく。

〈/i(iφ-゚ノii「もっと――更に早く!
       俺を倒すなら――速度を求めろ!
       それが出来ない――のであれば――!」

解っている、とクーは呟いた。
そして、言う。

川#゚ -゚)「速度が足りないのならば! 単純に手数を増やすだけだ!」



157: ◆BYUt189CYA :2008/04/21(月) 22:14:38.03 ID:pd2Of4e00
同時、求める要素が来た。
斜め後ろ方向からニダーの射撃が。
そして真上からはヘリカルの対地砲撃が。

ロマネスクを中心として、交差するように威力のラインが突っ切っていく。

〈/i(iφ-゚ノii「――!」

動きが微かに止まった。
瞬間的に判断したクーは一抹の迷いすら呑み、踏み込んだ。

川#゚ -゚)「シュード・ロステック!!」

隙が生まれた胸部に、クリアカラーの槌頭が叩き込まれた。

アッパー気味の軌道だ。
肋骨の隙間を縫うどころか、粉砕してまで肺にダメージを与えるための一撃。
不意を突かれたロマネスクに防御の猶予は少なく、深い衝撃が彼を襲う。

〈/i(iφ-゚ノii「ぐごっ……!!」

嫌な音が聞こえ、嫌な声が続いた。

川;゚ -゚)(なっ……! 痛みが伝わるというのか!?)

僅かに本能的な逡巡が生まれる。
いくら非情に徹する心で構えていても、
無いと思っていた他人の痛みを眼前にして、不動でいられるほどクーは強くなかった。



158: ◆BYUt189CYA :2008/04/21(月) 22:15:51.48 ID:pd2Of4e00
川;゚ -゚)「しまっ――」

状況が逆転した。
今度はクーが隙を見せ、ロマネスクが腐った目でそれを捉えたのだ。
死を予感させる不可視の針が、身を貫いてしまったような感覚が走る。

〈/i(iφ-゚ノii「馬鹿野郎――!!」

川; - )「ッ!?」

警告の声が来た時には、既にロマネスクの拳がクーの腹部を突いていた。

インパクトの瞬間、全ての音が消える。
続いて肉を抉られる感触が続き、衝撃に身が浮いた。

川; - )「か」

痛みが来るよりもまず、奇妙な吐息が吐き出される。
続いて我慢出来ない不快感が脳を侵し、ようやく激痛が腹を中心に爆発した。
下半身が消えてなくなったかのような感覚に、クーは思わず顔を歪める。

川; - )「ぁ――がっ!?」

涙が出るよりも早く、次の攻撃が襲い掛かる。

今度は右肩だ。
骨の芯まで響くような、むしろ砕かれたような、そんな的確な打突だ。

短い間に、そんな多量の外的情報を叩き込まれたクーの脳は混乱を極め
各部位に適切な命令を出すことが出来なくなっていた。



159: ◆BYUt189CYA :2008/04/21(月) 22:17:35.53 ID:pd2Of4e00
*(#‘‘)*「こんにゃろ!!」

クーが三撃目を覚悟した時、ヘリカルが真上から落ちてきた。
両手で抱えるエネルギーブレードがロマネスクを上から切り裂く。

一刀轟音。

それは落雷に等しい威力を持っていた。
ロマネスクごと大地を断つブレードは、その刀身を砕くように爆発させた。

〈/i(iφ-゚ノii「――!」

稲妻とも呼べる光の粒子が四方八方へ撒き散らされる。
無差別攻撃と同時に、目晦ましの意味を持つ二重の追加効果だ。
その間に逃げろ、というクーに宛てたメッセージも込められており、それは確かに届いたはずなのだが

*(;‘‘)*「やっば……!」

川 - )

肝心のクーが動けていない。
いや、動くことが出来ずにいるのだ。

意識すらハッキリしているか疑わしい状態だった。



161: ◆BYUt189CYA :2008/04/21(月) 22:18:59.26 ID:pd2Of4e00
しかし他人の心配ばかりしている場合でも無い。
今、ロマネスクに一番近い位置にいるのはヘリカルだ。
離脱するために体重を後ろへ傾けてはいるが、安心出来ないのが怖いところだ。

一瞬の迷いが生じる。
無理にでもクーを助けるか、自分の命を優先するか。

クーではなくニダーならば迷わず助けようとしたかもしれない。
各々仲間と謳ってはいるが、付き合ってきた期間の差を埋めることは不可能だった。
微妙な心境が、ヘリカルの判断を僅かに遅らせる。

そして最悪なことに、ロマネスクがヘリカルを見た。

クーは後で好きに出来るだろう、という判断からか
彼から見てヘリカルはまさに『飛んで火に入る夏の虫』状態であった。

*(;‘‘)*「ちィっ」

もはやこうなってはクーを助けることなど出来ない。
自分の命を保持するだけで精一杯だ。

ステッキを構え直す動作と、視線がロマネスクの右腕に集中するのは同時。
謎のガントレットに包まれた右腕の攻撃力は計り知れない。
兎にも角にも、あの一撃をかわせるかどうかが勝負の分かれ目――

*(;‘‘)*「……え?」

ロマネスクの半身が翻った。
追従するように走る右腕が、気付けば溜め動作無しにヘリカルの顔面へ向かっていた。



163: ◆BYUt189CYA :2008/04/21(月) 22:20:50.42 ID:pd2Of4e00
*(;‘‘)*(裏拳!?)

攻撃の正体を見破った時には遅い。
不意打ちに似たタイミングで放たれた拳が、ヘリカルの眼前まで迫る。

その時だった。

(#゚ω゚)「このやろぉぉぉぉぉッ!!!」

〈/i(iφ-゚ノii「――!?」

*(;‘‘)*「ひっ!?」

華奢な顔面を跡形もなく砕くかと思われた一撃は、しかし直前、僅かに軌道を変えた。

いきなり飛び込んできたブーンが、ロマネスクを殴り飛ばしたのだ。

結果、高速で走る黒い拳がヘリカルの頬を掠めていき
殺人的な不意打ちは、彼女の頬を切り裂くのみに終わった。

*(;‘‘)*「ってててていうか何その豹変っぷり!?」

(#^ω^)「大切な人を傷つけられて、黙っていられるほど御人好しじゃないお!!」

*(;‘‘)*「何つーご都合幸せ思考回路……!」

あまりに稚拙過ぎる行動理由だが、助けられたのは事実だ。
礼の言葉を口にするのも悔しいので心の中で済ませたヘリカルは、すぐさま思考を切り替える。



164: ◆BYUt189CYA :2008/04/21(月) 22:22:26.29 ID:pd2Of4e00
<#ヽ`∀´>「逃げるニダ!!」

ニダーがこちらに走ってきながら叫んだ。
適度な距離を詰めると、脇に抱えたライフルの銃口をロマネスクに向ける。

同時、ライフルが形を変えた。
バレル部分が花のように展開し、アンテナに似た形を作り上げたのだ。
ドクオの7th−W『ガロン』の限界突破をコンパクトにしたような変形だった。

ばち、と電流の火花が散り、何かを充填するような音が響き、

<#ヽ`∀´>「……ッ!!」

そのまま引き金を引けば、銃口から突風が吹き荒れた。
砂と埃を掻き分けながら走った風はロマネスクに直撃する。
突風程度の力で揺らぐ敵ではないと解っているはずなのだが、これは一体――

*(;‘‘)*「――まさか」

この攻撃方法は初見だったが、感じる空気に覚えがあった。
そして何故か、眼前にいるロマネスクの目はヘリカルを見ていないことに気付く。
見えていない、というよりも、見失った、という印象だった。

〈/i(iφ-゚ノii「――成程、考えたな。
        それは――渡辺の――」

<#ヽ`∀´>「ゲシュタルトブラスト……!」



170: ◆BYUt189CYA :2008/04/21(月) 22:24:15.04 ID:pd2Of4e00
答えを導き出す前に身体が動いていた。

クーを抱き上げて退避しようとしているブーンと同じように、その場から離れる。
認識力低下を引き起こす波動をまともに受けたロマネスクに、逃げる敵を追う余力は残されていなかった。

<;ヽ`∀´>「流石兄弟の兄が、(勝手に)ウリのライフルに組み込んだみたいだが
       ……後で不本意ながらも感謝せねばならんらしいニダ」

*(;‘‘)*「なんか普通に感謝するのもムカつくから、拳の一発でいいんじゃねーですか?」

(;^ω^)「クー! 大丈夫かお!?」

川;゚ -゚)「っ……あ、あぁ。 すまない、油断した……」

ブーンの肩を借り、ゆっくりとクーが立ち上がる。

本来ならば内臓破裂に複雑骨折となっていてもおかしくなかったが
人に似て異なる彼女は、何とかギリギリのところで重傷を免れていた。

苦しそうに眉を歪める程度のダメージは残っていたが、行動には支障ないようだった。



174: ◆BYUt189CYA :2008/04/21(月) 22:25:32.57 ID:pd2Of4e00
川 ゚ -゚)「……ともあれありがとう、内藤。 惚れ直したぞ」

(*^ω^)「え? あ、いや……えへへ」

川 ゚ -゚)「しかし、いきなり激昂して割り込んでくるとは驚いた。
     もう覚悟は決まったのか……?」

(;^ω^)「ん……ごめん。 まだ解らないお。
     でもクーが殴られたのを見た時、どうしても黙ってることが出来なかったお」

川 ゚ -゚)「そうか……だがそれは、少し嬉しいかもしr――」

*(#‘‘)*「おいテメェら氏ねよバカップル!!」

<#ヽ`∀´>「回復したなら、今の内に攻撃するニダ!」

ニダーとヘリカルの焦りは当然だった。
魔力耐性の高い異獣に、いつまでもゲシュタルトブラストが効き続けるとは思えない。

まだまともに認識することが出来ずにいる今が、数少ないチャンスなのである。



177: ◆BYUt189CYA :2008/04/21(月) 22:27:44.48 ID:pd2Of4e00
川 ゚ -゚)「やれるか、内藤?」

( ^ω^)「……僕は――」

ブーンが何かを言おうとした時だった。
それに被さるように、鋭い声が来る。

〈/i(iφ-゚ノii「離れろ――!!」

どう足掻いても状況は止まってくれない。
警告の声は的確であったが、残念ながら一瞬だけ遅かった。
弾かれるように身を背後へ飛ばそうとした時には、
既にガントレットから噴出された黒い粒子が、クー達を霧のように包み込んでしまっていた。

<;ヽ`∀´>「何……!?」

(;^ω^)「さっきのことを考えると……ば、爆発するのかお!?」

もし本当に爆発が起きるとするならば、かなり危険だ。
広範囲にばら撒かれた粒子の規模からして死は免れないだろう。

出来るだけ、遠くへ。

無駄かもしれないが、だからと言って諦めるわけにはいかない。
そう判断したクーは、

川;゚ -゚)「ッ……っぐ!?」

しかし、いきなり揺らいだ視界に面食らった。



178: ◆BYUt189CYA :2008/04/21(月) 22:29:05.45 ID:pd2Of4e00
異常は視界だけに留まらない。
音が歪み、四肢の感覚が失せ、代わりとして痛みが来る。

外側ではなく内側から――湧き出るように、貪られるように、滲み出るように。

川; - )「がっぁ……ッ!?」

<;ヽ`∀´>「ぐっ、これは――!!」

(; ω )「げほっ、おぇっ……!? な、なんだ……お……?」

クーが膝を折り、ヘリカルが力無く倒れた。
あの屈強な精神を持つニダーですら、身体の内から出てきた痛みに顔をしかめている。
突然のことに頭が混乱しながら、ブーンは視界が歪んでいくのを感じていた。

『内藤ホライゾンの体内に有害物質……!?
 これは、まさか――』

〈/i(iφ-゚ノii「馬鹿――野郎! なにまともに――受けてンだよ――!」

<;ヽ ∀ >「毒、ニカ……!?」

〈/i(iφ-゚ノii「変幻自在だと――言っただろうが――!!」

しかし、今のは未来予知くらいのことをしていなければ回避出来なかっただろう。
そういう言い訳が頭に浮かぶも、霞む意識と痛みが先行して口から出ない。
代わりに出たのは、粘着性を持った血液だった。



181: ◆BYUt189CYA :2008/04/21(月) 22:30:52.86 ID:pd2Of4e00
(; ω )(力が……あ、あれ……声も……?)

『ただの毒では……これはウイルスの一種か……!?』

クレティウスの声に、危険だ、と思うことすら既に出来ずにいた。

気付けば視点が随分と下がっている。
いや、いつの間にか身体が倒れてしまっていたのだ。
微かに動く目で見てみれば、既に他の三人も地に伏せてしまっている。

そうして意識も感覚も消えていく中、ブーンはある色を見る。


血のような赤色だ。
赤い空の中、それすら超える強い赤が、微かに見えた。


〈/i(iφ-゚ノii「――?」

こちらを睥睨していたロマネスクが、何かに気付いたかのように視線を上げる。
同時、その赤色が大きくなる。

いや、違う。
あれは大きくなるのではない。
落ちてきているから、そう見えるのだ。

直後、轟音が響いた。
衝撃は地を貫通し、その上に乗るブーン達を大きく揺さぶる。

空からいきなり落ちてきたそれは、全身を鋼鉄の装甲で包んでいる巨人だった。



188: ◆BYUt189CYA :2008/04/21(月) 22:32:39.22 ID:pd2Of4e00
『――ただいま参上にございまする』

淡々とした声に覚えがあった。
魔法世界に所属している不思議な雰囲気を持つ少女、シューだ。
西の戦場で雑魚を片付けていたはずの少女が、何故ここにいるのだろう。

〈/i(iφ-゚ノii「EMA――目の前で見るのは――初めてだな」

ロマネスクが右腕を振るう。
すると周囲に散っていた黒の霧が集束し、ガントレットへ吸い込まれていった。
それはブーン達の体内にあるものも例外ではなく、それぞれの身体から微かに黒色が抜けていく。

川;゚ -゚)「くっ、うぅ……身体の中を引っ掻き回された気分だ……」

(;^ω^)「ど、毒が抜けたのかお……?」

<;ヽ`∀´>「どうやらあのEMAを警戒して、能力を中断したみたいニダ……」

赤き騎士にも見える全長七メートルの巨人は、こちらに背を向けて構えている。

形状が多少異なる二本の刀を軽く下げ、背部ブースターは低い唸り声をあげていた。
リラックスしているような格好だが、おそらくすぐに飛び出せるような構えなのだろう。

『む? よく解らないけれどピンチ脱出?』

*(;‘‘)*「……みたいですね。 感謝しときます」

身体の調子を確かめるように肩を回すヘリカルが言い、ニダーが頷いた。



197: ◆BYUt189CYA :2008/04/21(月) 22:34:39.24 ID:pd2Of4e00
『良かった。 けど気にしないでいい。
 補給に戻る途中で寄ってみただけだから。 でも――』

川;゚ -゚)「あぁ……悔しいが、このまま放っておかれるのは厳しい」

毒が抜けたからといって、すぐに動けるわけではなかった。
まだ身体の感覚が戻ってきていない。
このままでは、本格的な戦闘は不可能だ。

『解った。 じゃあ、少し時間を稼ぐ』

(;^ω^)「で、でも、補給が必要だって――」

『大丈夫。 まだ十分くらい持つから』

赤きEMA――ウルグルフが機動の音を奏でながら、右足を踏み出した。
右手の刃を真正面、縦に構え、左手の刃を半身で隠すように軽く背後へ向ける。
威嚇するように深く腰を落とした構えは、ロマネスクの興味を煽るのに充分な効果を持っていた。

lw´‐ _‐ノv(さて……お?)

コクピット内のシューがモニターを見る。
いくつかあるものの一つ、機体のステータスを表示する画面を見る。

損傷部、システム、動力等の様々な情報が並べられている中、
この機体に残されている魔力残量を再びチェックした。



199: ◆BYUt189CYA :2008/04/21(月) 22:36:36.88 ID:pd2Of4e00
今さっき『十分くらい』と言ったわけだが、残量から計算すれば事実である。
だが、それは戦闘しなければ、という条件がつくことをスッカリ忘れてしまっていた。

激しい戦闘挙動を連続させることを考えれば、予測時間は半分にまで減るだろう。

lw´‐ _‐ノv「……まぁいいか」

彼女にとっては、さほど問題ではないらしい。
いざとなれば機体を捨てて戦うことも出来る、という考えがあった。

EMAパイロットの前に、シューは剣士であった。
魔法世界では主を護るための護衛を務めるほどだ。
その主が今の今まで生きていることから、シューの実力が高いことが伺える。

lw´‐ _‐ノv「ここからは私が相手をしよう。
       そこで転がってる人達よりは楽しませる自信、あるよ?」

思い直したシューは、正面モニターに映る敵の姿を見た。
棒立ちしている格好で隙だらけだが、迂闊に踏み込めない何かがあった。

lw´‐ _‐ノv(でも)

駄目だ。
このまま敵の出方を待つのでは駄目だ。
勝利とは来るモノではなく、得に行った先にあるモノなのだから。

過去、それを教えてくれた人がいた。



202: ◆BYUt189CYA :2008/04/21(月) 22:37:57.25 ID:pd2Of4e00
lw´‐ _‐ノv「師匠……アナタには感謝をしている。
       戦う術を教えてくれて、生死のやり取りという空気を吸わせてくれて。
       そして、幼い私をつまらない世界から助けてくれた」

恩を返したいが、ほとんど不可能だった。
師匠と呼んだ『誰か』は既にどこにもいないのだろう。
これは後で知ったことだが、師匠は世界を渡る渡り鳥のような人だったのだ。

今思えば本当に存在していたのかすら怪しい人だったが――

lw´‐ _‐ノv(あの人から学んだことは、全てこの身に染みている……!)

だから何も心配はいらない。
学んだことを活かし続けるのが、自分の使命だ。

ロマネスクが跳躍し、それに逸早く反応しながらシューは思う。


――だから、いつか、貴女のように――



204: ◆BYUt189CYA :2008/04/21(月) 22:39:18.11 ID:pd2Of4e00
二つの武器がぶつかり合った。

片方は巨大な刀で、もう片方はガントレットだ。
高威力を誇る両者は互いを破壊するため、衝突という名の咆哮を放つ。

lw´‐ _‐ノv「ふぅっ……!」

たとえロマネスクの力が強大であろうとも、この質量差だ。
全力で押せば弾き返すことなど容易い。
生まれた隙を突くために左手の刀を振るのも、また容易い。

だから、行く。

後方へ軽く突き飛ばされたロマネスク目掛け、もう一本の刀をブチ込んだ。
唐竹の軌道で落ちる刃は、もはや刃ではなく一つの巨大質量物質だ。
斬るというよりも押し潰す勢いで、それは叩き落される。

大地が砕けた。
抵抗出来なかった土や砂が飛び上がり、一瞬遅れて土煙が舞う。

lw´‐ _‐ノv「む……」

手応えはなかった。
地面を叩き割った感触しかない。
ロマネスクごと斬ったのか、それとも避けられたのか。

考えるまでもない。
シューの嗅覚が何かを捉える。

漠然とした予感を頼りに、右手に構えた刀剣を横薙ぎに振るった。



205: ◆BYUt189CYA :2008/04/21(月) 22:40:22.50 ID:pd2Of4e00
何かに当たる感触がある。
見れば、振るった先にロマネスクがいた。
ガントレットを胸の前に構え、激突した刃を受け止めている。
だが、受けた場所が悪かった。

空中。

おそらくこちらを攻撃しようとして跳躍していたのだろう。
それが、EMAにとって好ましい動きであることを知らずに。

全長七メートルの巨人と、普通の人間が戦えばこうなるのは当然だ。
重要な機器が集中しているであろうEMAの胴体を狙うには、跳んで攻撃するしかない。
そしてシューの行なった薙ぎ払いは、高さの関係から地面付近を狙うことが難しい。

だから、この構図はある意味で必然だった。

地面がない空中は足腰の踏ん張りがまともに利かない。
シューは当然のように、一切の迷いなく刀を振り抜いた。

〈/i(iφ-゚ノii「――っ!」

抵抗の術がないロマネスクは地面に叩きつけられる。
その折、ぱっ、と砂煙が舞い、その周囲を隠してしまった。



207: ◆BYUt189CYA :2008/04/21(月) 22:42:01.41 ID:pd2Of4e00
lw´‐ _‐ノv「追撃ボーナス……更に倍率×3!」

だが、敵に容赦するなかれ。
そんな言葉を体現するかのように、シューはすぐさま動いた。
ここで踏ん反り返って動きを待つのは三流以下のすることだ。

ロマネスクがいるであろう位置に、左手の刀を突き出す。

硬い震動が僅かにコクピットを揺らした。
刃先が地面に刺さった感触だろう。
当然、その上にいたロマネスクに接触しているはずなのだが、

……逸らされた?

何度もEMAに乗って戦わなければ、気付くことの出来ない微細な違和感。
加えて剣の扱いに長ける彼女ならではの感覚が、それを感知した。

lw´‐ _‐ノv「ッ!!」

即座に反応する。
考えるよりも先に、身体が動いた。
左右のレバーを引き、ペダルを軽く踏み込む。
体重を背中の方へ傾ければ、流れるように機体が後ろへ動く。

だが、それを追う動作があった。

〈/i(iφ-゚ノii「良い判断だ……!」



210: ◆BYUt189CYA :2008/04/21(月) 22:43:52.82 ID:pd2Of4e00
煙を突き破り、黒い蛇のような何かが飛び出してくる。
EMAにしてみれば一本の紐のような儚さだが、それは力強い躍動を経て右脚部に取りつく。
踝から脛、膝と巻き上がり、遂には右足の太腿部分を掌握されたシューは、その状況を一言で表現した。

lw´‐ _‐ノv「いやんえっち」

〈/i(iφ-゚ノii「……随分と――余裕だな」

振り払おうと右足を振るが離れない。
ロマネスク本体を引っ張ろうとしても、伸縮する黒線はそれを許さなかった。

lw´‐ _‐ノv「妖怪触手痴漢(粘着Ver)……!」

ただの黒いロープではないことを悟ったシューは、刀を切り裂くように突き立てるが
流石に粒子で構成されている物質を断つことは出来なかった。
一瞬だけバラバラになるものの、すぐさま配列を為して元に戻ってしまう。

逃げられない。

空へ飛ぶことも考えたが、機体の魔力残量が心許無い領域まできてしまっている。
フルパワーでの稼働は良くて一分ほどが限界で、その間に何とかすることが出来るとは思えなかった。

lw´‐ _‐ノv「むぅ……このままでは動けなくなる上、(ピー)で(ピー)されて(ピー)まで……!」

機体動作の限界が近い事を知らせる警告音の中、シューは判断する。
逃げることは出来ず、待っていてはやられるだけ。

lw´‐ _‐ノv「なら、前へ出て敵を倒す」



212: ◆BYUt189CYA :2008/04/21(月) 22:45:31.24 ID:pd2Of4e00
それしかない、というか、それが一番堅実だった。

敵がいるから守らねばならない。
逆を言えば、敵さえ倒してしまえば守る必要はなくなる。

決断すれば行動は早かった。
元より迷いが薄いシューは、余計な雑念は考えずに身体を動かす。

理屈は同じだ。
黒い粒子があるから危険だというのならば、それを操るロマネスクを何とかすればいい。
少なくともここで諦めたり、無駄にもがくよりもマシなはずだ。

〈/i(iφ-゚ノii「はッ――こいつ――何つークソ度胸だ――!」

赤い巨人がこちらに向かってくるのを見ながら、ロマネスクは思わず呟いた。
驚きの感情は、シューの行動に起因している。

……普通なら無様にもがくところを、速攻で切り替えやがった。

行動の一つ一つに迷いも後悔も感じられない。
自分のやっていることに対し、微塵の不安も持っていないのだろう。
これをクソ度胸と呼ばず何と呼べば良いのか。

だが、このままタダでやられるほど、自分の身体は御人好しではないらしい。
自分の意志では制御出来ない右腕が動き、黒の粒子を操り始める。



215: ◆BYUt189CYA :2008/04/21(月) 22:46:34.52 ID:pd2Of4e00
lw´‐ _‐ノv「無駄。 私の方が速いよ」

あぁ、そうだな。
だがくれぐれも侮るなよ。

声も出せぬ一瞬の合間にロマネスクは思う。


――お前が思っている以上に、『俺』は手強いようだ。


瞬間、激突した。
元から持つ重量に、疾走の勢いが加わった衝撃は凄絶の一言だ。
たとえ大地に根を張る巨木でも、この衝突を受けては根こそぎ果てるというもの。

しかし。

lw´‐ _‐ノv「ッ!?」

シューの、息を詰める声。
そして一際大きな高音と、快音。
合計三つの音が場に響き渡った。

一つ目の音は、予想外の感触に対するシューの戸惑いの声だ。
二つ目の音は、ぶつけた刀が真ん中から折れた音だ。
三つ目の音は、折れた刀が地面に落ちた音だ。

つんのめって姿勢を崩したEMAが、すべてを物語っている。
ぶつかり合った際、ロマネスクの右腕に出現した黒刃が、EMAの刀身を真っ二つに切り裂いたのだ。



218: ◆BYUt189CYA :2008/04/21(月) 22:47:55.61 ID:pd2Of4e00
lw´‐ _‐ノv「そ、んな……」

これには流石のシューも困惑の色を隠せなかった。
剣技に自信があったが故に、その衝撃は人一倍である。
しかもEMAとただの人間の戦いで、だ。

いや、ただの人間という表現には誤りがあったか。

あれは人間に似て非なる獣の最果て。
人と比べるに易く、しかし比べれば絶望的な差がある生物だ。
自分達が勝手に定めた常識の範疇を超えているのならば、自分達が勝手に思う結果を覆すのは当然で。

つまりこの結果も、ある意味で必然だったのかもしれない。

そう思うことが出来たのは、シューならではの思考回路故だった。
だからなのか、モニターに映った光景に反応することが出来た。

lw´‐ _‐ノv「!」

黒い刃を右腕から生やしたロマネスクが来る。
思考を妨げる咄嗟の出来事にも関わらず、シューは即座に対応した。
体重を思いきり後ろへ預け、機体を下がらせたのだ。

防御する、という選択肢は捨てている。

ウルグルフの刀さえ両断するというのならば、その切断力は圧倒的なものだろう。
万が一懐に入られ、アレでコクピットでも突き刺されたらアウトだ。
コクピット周りの装甲は厚く作られているが、とても楽観的になることなど出来ない。



220: ◆BYUt189CYA :2008/04/21(月) 22:49:02.12 ID:pd2Of4e00
一瞬の油断が死を呼ぶ局面の中、一層大きな警告音が耳に飛び込んできた。
EMAを動かす魔力残量が底を尽いたことを示すものだ。
少しでも長く行動するため、モニターが明度などのレベルを落としていく。

lw´‐ _‐ノv(残すところ多く見積もっても十秒……一撃を繰り出すには充分……!)

やはり逃げるのは駄目だ。
自分には不退転が性に合う。

完全に追い詰められたことによって、シューの感覚は最大限に研ぎ澄まされた。

レバーを操作し、体重を前へ。
下がっていた景色が急停止。
直後、逆再生するように前進を開始した。

ロマネスクが来る。
跳躍の姿勢や高度から見て、やはりコクピットを串刺しにするつもりらしい。

ならば、良し。

自分目掛けて来る死の刃を睨みながらも、シューは突進を止めなかった。

lw´‐ _‐ノv「――おぉっ!!」

緊張と興奮からか、自然と強い声が発せられた。
次の瞬間、シューは最後の賭けに出る。



223: ◆BYUt189CYA :2008/04/21(月) 22:50:21.13 ID:pd2Of4e00
〈/i(iφ-゚ノii「!?」

跳躍した視界の中、ロマネスクはハッキリと見た。
目指している胸部――コクピットがある――部分が

……開いた?

咄嗟のことにロマネスクの思考が凍った。
それは傀儡と化している彼の身体も同様で、僅かな間だけ動作が止まる。

lw´‐ _‐ノv「――!」

彼我相対距離は残すところ十メートルも無い。
だというのに、開いたコクピットの中からシューが飛び出してきた。

ロックするための突起部分を蹴り飛ばした格好は、ロマネスクを目指している。

腰には一振りの刀――彼女が有するEWがあった。
そのことから解る事実は、たった一つだ。

〈/i(iφ-゚ノii(コイツ、機体を捨てやがった!?)



224: ◆BYUt189CYA :2008/04/21(月) 22:51:24.54 ID:pd2Of4e00
馬鹿か、と思う。

人間一人とEMA一機。
どちらが戦力として優秀かなど比べるまでもない。
整備の手間はあるが、EMAの方があらゆる意味で強力なのは当然である。

だが、シューは機体を捨てた。
何か理由があるのか、それとも考えがあるのか。

どちらにせよ、一人の人間として今のロマネスクに挑むなど愚行でしかない。

〈/i(iφ-゚ノii(自暴自棄ってヤツかよ……! これだからガキは!
       簡単に命を捨てるような真似をしてどうすんだ!)

悪態を心の中で吐いた時。

lw´‐ _‐ノv「おぉっ……!」

〈/i(iφ-゚ノii(! あの目――)

ロマネスクは気付く。
シューの目が、まったく死んでいないことに。
むしろ活き活きとした瞳に、彼はどうしようもなく懐かしい感覚を抱いた。

そう、あれは確か――



226: ◆BYUt189CYA :2008/04/21(月) 22:53:00.68 ID:pd2Of4e00
『――はぁ? コイツを拘束するだぁ? ふざけンのも大概にしろよロマネスク』

『当然の話だろう。 この男――ラミュタスとか言ったか。
 コイツは勝手に、俺達の先祖が作ってやった楽園から出てきやがったんだ。
 しかも戦闘機なんぞを独自に……こりゃあ、調べ尽くして口封じが妥当だろ』

『おい、馬鹿言ってンじゃねーよ』

『じゃあ、何だ?』

『コイツは外の世界へ出ることを望んで空を飛んだんだ。
 自分の意思で飛び、テメェらの作った楽園とやらから脱出したんだよ。
 それを認めるこたぁあっても、処理に困るから蓋をするっつーのが納得出来ねぇ』

『お前の納得など要らんだろうが』

『まぁ……確かにな。 所詮、私はこの世界の人間じゃねぇ。
 だが、ラミュタス本人の意思は尊重すべきじゃねーの?
 何度も言うが、コイツは望んでここまで来たんだぜ?』

『……俺は』

『気にすンな。 言えよ、ラミュタス。 己の意志を。
 お前は何もかもを捨てて自分の世界から飛び出したんだ。
 それを止める権利を持つヤツなんていねぇ。 もしいたら私が黙らせてやる』

『俺は……知りたい。 この荒れ果てた世界に何があったのか。
 そして何故、俺達をあんな箱庭に閉じ込めてしまったのか。
 だから、俺は――』



227: ◆BYUt189CYA :2008/04/21(月) 22:54:47.01 ID:pd2Of4e00
同じように、シューも過去を思い出していた。
走馬灯のように脳裏を過ぎる過去の中、基本を学んだ時軸を。

『ところでシュー。 お前は戦う時、敵のどこを見てる?』

『足下。 なんだか安心するから』

『……他人の足下見て安心するっつーのもすげぇな。
 でも、そりゃあ駄目だ。 色々と危ねぇ。
 見るなら目だ。 相手の目を睨みつけるように見るんだ』

『目……し、視線と視線が絡み合う……?』

『なに息を荒げてンだ、お前は。
 いいか? 人間っつーのは、どうしても目を誤魔化すことは出来ねぇんだ』

『?』

『嬉しい時は目を細めるし、怒った時は鋭くなるだろ?
 いちいち考える暇もない戦いの中だと、特に解りやすくなるだろうよ』

『ふむ……だから師匠は、いつも私の目を見て話すのか』

『いいか? 今度からは相手の目をよく見て戦え。 目は情報の塊だ。
 ついでに自分の意思をぶつけることで、敵を怯ませたりすることも出来る。
 まぁ、これは私だけが可能とする必殺技だがな! どうだすごいだろ!』

『うわーすごーいかっこいーそんけーするー』

『…………』



232: ◆BYUt189CYA :2008/04/21(月) 22:56:28.03 ID:pd2Of4e00
lw´‐ _‐ノv(相手の目を見ろ……そこに全てがある……!!)

〈/i(iφ-゚ノii(あのガキの目付き――まさか――!)

互いに一瞬の回想を経て、遂に両者の距離がメートルを切る。



ロマネスクは振りかぶった黒刃を。

シューは腰に構えた刀を。



lw´‐ _‐ノv「あぁぁぁ――ッ!!」


〈/i(iφ-゚ノii「――!!」




直後、二つの影が交錯した。



234: ◆BYUt189CYA :2008/04/21(月) 22:57:52.74 ID:pd2Of4e00
場に、き、という甲高い音が響いた。

勝負を決する一撃は一瞬で放たれ、二人は少し離れた位置に着地する。
少し遅れ、全ての動作要因を失ったEMAが、勢い余って大地に倒れ込んだ。

轟音と、大きな揺れ。

lw´‐ _‐ノv「…………」

〈/i(iφ-゚ノii「…………」

一番近い位置にいながら、二人は微動だにしなかった。

だが、その停滞も長くは続かない。
互いの渾身の一撃が出た以上、結果は必ず表れる。


lw´‐ _‐ノv「――うっ」


苦痛の呻き声を上げたのはシューだった。
着地した姿勢のまま、力無く地面に倒れてしまう。
少し鈍い音を立てたのは、頭をぶつけたためだろうか。

川;゚ -゚)「シュー……!」

身体を動かせるまで回復したクーが慌てて駆け寄った。



237: ◆BYUt189CYA :2008/04/21(月) 22:59:35.41 ID:pd2Of4e00
lw´‐ _‐ノv「――――」

川;゚ -゚)「おい! しっかりしろ!」

lw´‐ _‐ノv「……あ、ぁ」

川;゚ -゚)「無事か!? 待ってろ、今すぐ――」

lw´‐ _‐ノv「アイム、ウイナー……!」

川 ゚ -゚)「…………」

lw´‐ _‐ノv「いてっ」

川;゚ -゚)「あ」

しまった。
思わず流れで頭を叩いてしまった。
こんなフザけたことをほざいても、怪我人だろうに。

げふぅ、とわざとらしい声を挙げたシューは、右拳を掲げて親指を上げ

lw´‐ _‐ノv「出来れば丁重な扱いを望む。
       肋骨が二十本くらい持っていかれてると思うから」

川;゚ -゚)「……それはもはや人間ではない」



241: ◆BYUt189CYA :2008/04/21(月) 23:01:06.38 ID:pd2Of4e00
言う割には随分と余裕があるようにも思えた。

だが、肋骨が折れているのは事実だろう。
シューの左手は脇腹に添えられており、時折、苦痛の吐息が漏れている。

川;゚ -゚)「まったく、無茶をして……君が死んでしまったら悲しむ人がいるだろうに」

lw´‐ _‐ノv「急に時間を稼げと言われたので」

川 ゚ -゚)「自分の命を危険に晒す理由にはならん」

lw´‐ _‐ノv「……なるよ」

川 ゚ -゚)「何?」

lw´‐ _‐ノv「理由には、なる。
      私が踏ん張らなかったらクー達が死んでいたかもしれない。
      見てきた世界も人も何もかもが違うけど、クー達は私の仲間なんだ。
      だから、本気で頑張る理由になる。 っていうかなった」

川 ゚ -゚)「…………」

一瞬、クーの言動が凍った。
軽く目を見開いた表情は驚きに近い。
だがそれもすぐに溶け、申し訳なさそうに眉をハの字に傾けた。

川 ゚ -゚)「……すまない。 ここは叱るところではなかったな。
     ありがとう、シュー。 君のおかげで態勢を立て直すことが出来た」

lw´‐ _‐ノv「ゆーあーうぇるかむ」



243: ◆BYUt189CYA :2008/04/21(月) 23:02:39.82 ID:pd2Of4e00
川 ゚ -゚)「その調子だと死にはしないだろうな。
     それよりも、ロマネスクはどうなった……?」

背後を見る。
シューと一騎打ちしたロマネスクは、着地した位置から動いていなかった。
つまりそれは、無事で済んではいない、という事実に繋がっていた。

〈/i(iφ-゚ノii「――――」

体勢は変わっていた。
こちらに背を向けて膝を折った着地姿勢から、立ち上がってこちらを見る姿勢へ、だ。
だがその左手は胸部に添えられ、ガントレットに包まれた右腕はだらりと下げられている。

<ヽ`∀´>「ダメージを受けている……?」

表情こそは無だが、その動作は壊れかけの機械のようだ。

〈/i(iφ-゚ノii「くはは――こりゃあ、効いた――ぜ」

川;゚ -゚)「一体どうなった?」

(;^ω^)「クー、見るお。 アイツの胸の石から黒い煙が……」

〈/i(iφ-゚ノii「あの小娘――最初から俺の胸――狙いで来やがった」

<ヽ`∀´>「つまりその煙は……」

いわば、燃料漏れとでも言えるだろうか。
詰まっている魔力が霧状になり、胸元の宝石から噴出している状態だ。
シューの放った一撃が、先ほどブーンが傷つけた箇所を更に抉ったのだ。



246: ◆BYUt189CYA :2008/04/21(月) 23:04:03.35 ID:pd2Of4e00
あの速度を考えれば、かなりの集中力が必要だったはず。

まさに針の穴に糸を通すような芸当だ。
しかも加えて、ロマネスクの一撃を骨折で済ませている辺り、抜け目もない。

不思議な言動が目立っていたシューだったが
やはり伊達に護衛役を名乗っているわけではなかったようだ。

*(‘‘)*「……要するに、今のアイツは弱り始めたってことですか?」

<ヽ`∀´>「そう判断しても良いかもしれんニダ。
      力の源から力が抜けていっているなら――」

好機、という言葉が四人の脳裏を過ぎる。
傾いていた戦況が平行に戻り、そして逆側に傾いていっているようなイメージだ。
そんな思惑を代表するように、クーが言った。

川 ゚ -゚)「穿つべき個所も解った。 そして敵は崩れ始めている。
     ならばここで攻めないわけにはいかない」

だがそれは、ロマネスクを殺すということだ。

( ^ω^)「…………」

川 ゚ -゚)「内藤」

( ^ω^)「……解ってるお」



249: ◆BYUt189CYA :2008/04/21(月) 23:05:04.41 ID:pd2Of4e00
ブーンは改めてロマネスクを見た。
その目に浮かぶ迷いが、先ほどと比べて小さくなっているようにも思える。
クーを傷つけられたことが、彼の中で何か変化を起こしたのだろうか。

( ^ω^)「解りたくないけど解ったお。
      アイツを殺すんじゃなくて、せめて救うために……僕は戦うお」

<ヽ`∀´>「それでいいニダ。
      誰もロマネスクを殺したくて殺すわけじゃないニダ」

*(‘‘)*「真に恨んで殺し尽くすべきは元凶である異獣です。
     この胸にかかるイライラは、発散すべき敵にぶつけましょう」

結局のところ、皆、同じ思いだった。
助けることが出来るのならば、と心の底から願っている。

しかし現実は、無情にも『不可能』という結果を提示した。

だからニダーは、本来の彼が持つ冷静さで現実を見据えた。
だからヘリカルは、強い心で湧き上がる怒りを抑えつけた。
だからクーは、ロマネスクを異獣として認識することで感情を殺した。

そうしなければならないから。

ロマネスクを殺さなければ、道が開けないから。



252: ◆BYUt189CYA :2008/04/21(月) 23:06:32.13 ID:pd2Of4e00
一方を得るために、一方を失う。

それだけのことだ。
どちらかを選ばなければならないケースなのだ。
今回は世界そのものと、ロマネスク一人の命だったというだけ。

いや、ロマネスクを選んだとしても救いは何一つないのだろう。
世界と、そこで暮らしている人々が死に、ロマネスクは異獣となって半永久に生き続ける。

抗いの意思を持って戦う一人の人間として
誰も救われない結果を選ぶわけにはいかない。

目の前の不幸に惑わされて、大事なモノを失うわけにはいかないのだ。

(  ω )「クー」

歪な動きをするロマネスクを見据えながら、ブーンは言う。

(  ω )「アイツを見てると心が痛いお……すごく痛いお。
     こんなに苦しいなら、すぐにでも逃げてしまいたいお」

川 ゚ -゚)「……そうだな」

(  ω )「でも異獣を放置したら、こんな思いをする人達が――
     いや、もっと苦しい思いをする人だって出てしまうんだお」

川 ゚ -゚)「…………」



255: ◆BYUt189CYA :2008/04/21(月) 23:08:16.76 ID:pd2Of4e00
(  ω )「傲慢な考えかもしれないけど……そんな人達を、これ以上増やしたくないって本気で思ったお。
     だからクー。 苦しいかもしれないけど、一緒にアイツを――」

川 ゚ -゚)「解っている。 私も君と同じ思いだ」

( ^ω^)「ありがとうだお。
     もちろん、クレティウスにも協力してほしいお」

『私は最初からそのつもりだ。
 全ては力を担う内藤ホライゾン、君次第だということを忘れるな』

( ^ω^)「うん。 もう迷わないお」

白のグローブが包む両拳を、握り締める。


……殺す覚悟は出来たか?


答えはNO。
否定だ。
断じて認めない。

だからブーンは、こう思う。


……救う覚悟は出来た。



256: ◆BYUt189CYA :2008/04/21(月) 23:09:35.49 ID:pd2Of4e00
( ^ω^)「――――」

右足を引き、構える。
隣ではクーが、背後ではニダーとヘリカルが武器を鳴らす。
図らずも最初の構図と同じになったわけだが、各々の思惑は比べて洗練されていた。

川#゚ -゚)「行くぞ……!」

<ヽ`∀´>「…………」

*(‘‘)*「…………」

もはや確認など要らない。
必要なのは無情の刃だけだ。
ここから四人は、人の感情を捨てた修羅となる。

(#^ω^)「こんなふざけた戦い……すぐに終わらせるお……!!」

ブーンの言葉を皮切りに、敵のいない戦いは終局へ向かい始めた。



259: ◆BYUt189CYA :2008/04/21(月) 23:10:43.21 ID:pd2Of4e00
数々の威力が交わり、連続し、音を鳴らし、血潮を撒き、止まらない。

黒の波動が鼓動する。
白の打撃力が吼える。
透明の多武装が奔る。
光の線が周囲を踊る。
堅実射撃が実を穿つ。

「おぉ……ッ!!」

もはや誰が放ったのか解らない気合の発声。

スウェーバックで攻撃を回避したブーンの声か、身を回して斬撃を放つクーの声か。
空から雨のように光線を落とすヘリカルの声か、全体を見据えて指示を飛ばすニダーの声か。

誰でも良かった。
ただ、誰のものでもなくならなければ良かった。

だから、速く。
だから、繋げる。
だから、戦う。
だから、走る。

総じてまとめ上げられた高速連動戦闘運動は、止まることを知らない。



262: ◆BYUt189CYA :2008/04/21(月) 23:13:48.22 ID:pd2Of4e00
声が聞こえる。
剣撃と射撃の音の中に、会話が混じっている。

合計して四種の言葉の群れは、当事者にしか聞こえない呟きに等しかった。



〈/i(iφ-゚ノii「ニダー」

<ヽ`∀´>「……ロマネスク」

〈/i(iφ-゚ノii「何だよ――暗い顔して。
       いや――最初から――そうだったっけな」

<ヽ`∀´>「ロマネスク。 ウリはアンタを殺すことに躊躇いはないニダ」

〈/i(iφ-゚ノii「そうだ――それでいい。
        俺は――人間だからな」

そう言うロマネスクの瞳に、もはや生を望む光はない

〈/i(iφ-゚ノii「あぁ――ひとつ、お前に――問いたいことがあった。
       これは――お前しか――信用出来ねぇ――からな」

<ヽ`∀´>「……言うニダ」


〈/i(iφ-゚ノii「――この世界は、どうだ?」



269: ◆BYUt189CYA :2008/04/21(月) 23:17:53.29 ID:pd2Of4e00
<ヽ`∀´>「…………」

〈/i(iφ-゚ノii「聞かせて――っくれよ。
       もしかしたら俺は――そこで生きたかも――しれねぇんだ。
       もう叶わねぇ――けど、よ――頼むわ」

<ヽ`∀´>「……良い世界とは言えんニダ」

〈/i(iφ-゚ノii「ほぅ――?」

<ヽ`∀´>「統一されておらず、国同士は未だに牽制し合ってるニダ。
      トップに立つべき人間は己の利ばかりを求め、今も争ってるかもしれんニダ」

〈/i(iφ-゚ノii「そうかい――そりゃあ――」

<ヽ`∀´>「しかし」

〈/i(iφ-゚ノii「?」

<ヽ`∀´>「ここには、良い書物がたくさんあるニダ。
      物語や論説が多いということは、この世界の人間の心が豊かである証拠ニダ。
      そういう意味では――」

一息。

<ヽ`∀´>「最高ニダ」

〈/i(iφ-゚ノii「はン――この幸せモンが。
       俺の分まで――楽しんできやがれ――!」



273: ◆BYUt189CYA :2008/04/21(月) 23:22:06.80 ID:pd2Of4e00
〈/i(iφ-゚ノii「おい――」

*(  )*「…………」

〈/i(iφ-゚ノii「素直じゃねぇ――な。 クソガキが」

*(  )*「死人と話すと地獄に引き摺り下ろされますからね」

〈/i(iφ-゚ノii「なんだ――泣いてンじゃ――ねぇよ」

*(  )*「……ッ!!」

〈/i(iφ-゚ノii「――俺ァ、敵だ。
       躊躇なく――やれよ――いつものように」

*(  )*「だ、だって……」

鼻水をすする声が、ロマネスクには心地よく聞こえた。

*(;;)*「アンタが! 私にとっての何なのか知らないから!!
     教えてくれて、守ってくれて……それでこの結果ですか!?
     こんな現実クソ喰らえですよ!! アンタにはまだ――」

〈/i(iφ-゚ノii「聞け――ヘリカル」

*(;;)*「うっ……ひんっ……」

〈/i(iφ-゚ノii「いつか言ったな――? 敵を人だと思うな、と――」



283: ◆BYUt189CYA :2008/04/21(月) 23:26:41.19 ID:pd2Of4e00
〈/i(iφ-゚ノii「だからよ――それの延長線上――だ。
        俺を――人だと思うな」

*(;;)*「ッ!? それは!」

〈/i(iφ-゚ノii「いいんだよ――本当のことだしな。
       この身体は――既に獣――同然。
       それよりも――お前は――俺を乗り越えて――生きろ」

*(;;)*「生きることが、アンタを殺してまでの価値があると……!」

〈/i(iφ-゚ノii「――馬鹿野郎。
        お前まだガキ――だろ」

*(;;)*「でも!!」

〈/i(iφ-゚ノii「ここまで――きて、迷って――ンじゃねぇ。
       他の奴に――示しがつかねぇ――だろ」

だから、と言い

〈/i(iφ-゚ノii「俺を殺して――未来に生きろ――お前には――先がある。
       俺の見ることが――出来なかった――異獣のいない――世界を――
       たっぷりと見て――楽しんで――こいや」

*(;;)*「アンタは……いつも勝手に……っ、私のことなんか……!
     でも、だから――私は――!」



288: ◆BYUt189CYA :2008/04/21(月) 23:28:14.55 ID:pd2Of4e00
〈/i(iφ-゚ノii「よぉ――人造人間」

川 ゚ -゚)「そんな呼ばれ方をするのは久々だな」

〈/i(iφ-゚ノii「不思議なもんだ――ハインリッヒにしても――何にしても。
       この世界の――人間を存続させるための――切り札が――人外だなんてな」

川 ゚ -゚)「確かに……この身は人ではない。
     だが、生まれてから今までの記憶は作られたものじゃない。
     そういう意味で私達は人間だよ。 人間でいたいんだ」

〈/i(iφ-゚ノii「――そうかい」

川 ゚ -゚)「だから再び死んでくれ。 私達のために」

〈/i(iφ-゚ノii「正面切って――言われると何て――返せばいいか――解んねぇな。
       まぁいい――んで? やっぱ――黙ってた方がいいか?」

川 ゚ -゚)「ふン……好きなことをほざいておけばいい。
     私が許す」



291: ◆BYUt189CYA :2008/04/21(月) 23:30:38.61 ID:pd2Of4e00
〈/i(iφ-゚ノii「その――心は?」

川 ゚ -゚)「私が憶えておいてやる。 そのためだ。
     他の誰もが貴様を忘れようとも、私だけはロマネスクの存在を憶えておこう。
     彼もまた、方法は違えど世界を救った戦友だ、とな」

〈/i(iφ-゚ノii「――はン――馬鹿じゃねーの――反吐が出らぁ」

だが、否定はしなかった。
ロマネスクはバツの悪そうに少し黙り、そしてしばらくして口を開く。

〈/i(iφ-゚ノii「――じゃあ――俺も――憶えておいてやるよ。
       もしテメェらが――異獣に敗北し――全て――食い尽くされたとしても、
       異獣の中で――半永久的に――生きるだろう俺が――全員――憶えておいてやるさ」

意外と律義な面を見たクーは、苦笑。
しかしすぐに真っ直ぐな視線を向け、強く言う。

川 ゚ -゚)「絶対にそんなことはあり得ないから心配しなくていい。
     ここには、クルト博士や渡辺、お前の意志を継いだ私達がいるからな」

ロマネスクも、声だけで苦笑を返した。

〈/i(iφ-゚ノii「は――っ、そりゃあ――安泰だわ」



293: ◆BYUt189CYA :2008/04/21(月) 23:31:55.50 ID:pd2Of4e00
〈/i(iφ-゚ノii「おい――クソガキ」

( ^ω^)「……僕には内藤ホライゾンって名前があるお」

〈/i(iφ-゚ノii「間抜けな――響きだ。
       こんな奴に――俺は一度負けちまったのか」

( ^ω^)「…………」

〈/i(iφ-゚ノii「――さ、殺せよ」

(;^ω^)「でも……いや、どうして……? 死ぬのが怖くないのかお?
      どうしてそんなに簡単に生を諦め切れるんだお?」

〈/i(iφ-゚ノii「おいおい、一回――死んだ身だぞ?
       今更、死ぬのを――怖がっても仕方ねぇだろ」

それにな、と付け足し

〈/i(iφ-゚ノii「俺は――どうしようもなく――世界を救いたいんだ」

(;^ω^)「……!」



296: ◆BYUt189CYA :2008/04/21(月) 23:33:12.99 ID:pd2Of4e00
〈/i(iφ-゚ノii「ニダー達に――聞いたかもしれねぇが――俺はアイツらとは同郷だ。
       つまり――解るだろう? 俺も異獣を――滅ぼしてぇんだ。
       その手段が――焦りのせいか――乱暴になっちまった――けどな」

確かに、そうだ。
ブーン達は、この男にも随分と手を焼かされた。
ツンは攫われ、ウェポンは奪われ、フサギコは重傷を負わされ――

だが、この男も『世界を救う』という信念の下に動いていたのだ。

違いは、手段だけだった。
和平的に進めようとした渡辺とは違い、急進を求めたのがロマネスクだ。
やり方が違うだけで、両者は同じ目的を心に刻んでいたはずなのだ。

〈/i(iφ-゚ノii「だが――何ともアホらしい――話さ。
       焦っていた俺と――着実な歩みを――目指した渡辺――どっちも死んじまった。
       結局、俺達の願いは――テメェらに預けられることに――なったわけだ」

だからと言って、彼がやってきたことを許すことは出来ない。

特に感情の方が妥協しないはずだ。
それだけのことをされてきたわけで、ブーンの思いは当然と言える。
他の者達も同様だろう。



298: ◆BYUt189CYA :2008/04/21(月) 23:34:38.30 ID:pd2Of4e00
( ^ω^)「ロマネスク……でも、僕はお前を……」

〈/i(iφ-゚ノii「謝っても――何をしても――償えるとは――思わねぇ。
       もしかしたらこの状況は――俺のやってきたことに――対する罰かも――しれないとさえ思った。
       けど、けどよ――」

( ^ω^)「…………」

〈/i(iφ-゚ノii「もし俺が死んで――それが役に立つと――いうのならば。
       もし俺が――死ぬことで――お前達の救いとなるの――ならば。
       俺は――喜んでこの命を――差し出す覚悟が――ある」

元よりそのために生きてきた。
異獣を倒すことだけが、手段ではない。

このボロボロになった命でも、出来ることがあるのなら。

〈/i(iφ-゚ノii「恥を承知で――頼む、内藤――ホライゾン」


一息。


〈/i(iφ-゚ノii「俺に――世界を救わせてくれ――!!」



301: ◆BYUt189CYA :2008/04/21(月) 23:36:55.84 ID:pd2Of4e00
〈/i(iφ-゚ノii「――!?」

それは突然の揺らぎだった。

胸の魔法石を傷つけられたロマネスクが身体に不調を覚えたのは、
ブーン達の全力の攻防がしばらく続いた頃である。

ガントレットの連続使用と、休みなく続いた攻撃、そして漏れていく黒い魔力が
遂に行動に支障が出るほどまでのレベルに落ちたのだ。

<#ヽ`∀´>「ロマネスク!!」

〈/i(iφ-゚ノii「あぁ――やっちまえ――!」

川#゚ -゚)「あと一息……! トドメは――」

( ^ω^)「――僕がやるお」

迷いなく言ったブーンは、ステップを刻んで後方へ位置をとる。
回避を捨てる腰の深い構えを為し、両拳に意識を集中し始めた。

今戦闘で、限界突破を用いてロマネスクに挑むのは三度目だ。

まさに三度目の正直ということだろう。
何か考えがあるのか、その表情に不安は見られない。



306: ◆BYUt189CYA :2008/04/21(月) 23:40:01.83 ID:pd2Of4e00
川#゚ -゚)「ならば私達のすることは決まっている!
     全力で奴の動きを止め……これを最後に繋ぐぞ!!」

<#ヽ`∀´>「最後の足掻きがあるかもしれんニダ! 油断するなニダ!」

*(#  )*「誰にモノ言ってンですか!?」

鋭い声を飛ばしたヘリカルは上空にいた。
ステッキの主に下方部分を掴む両手は、間違っても杖としての使い方を考えていない。
それを思い切り振りかぶった彼女は、重力に身を任せて落下を開始した。

*(‘‘)*(ロマネスク! これが、アンタに教えられた私の結果です!!
     だから、その身に刻んで――!)

ステッキに付いているトリガーを五度、連続で引く。
応じるように、ソケットからカートリッジが五つ弾き飛ばされていった。
一撃に使用する魔力を追加されたステッキは、光の奔流を生みながら姿を変える。

鎚頭部がパージした。
広がるようにパーツが分かたれ、飛び散るギリギリのところで位置を定める。
空いた空間を中心として、黄金色をした魔力が凝縮されていく。

完成した形とは、かつてハインリッヒとの戦いで使用した――

*(#‘‘)*「ヘリカルハンマァァァ……!」

その巨大化した鎚頭を、ロマネスクの脳天目掛けて振り下ろした。

*(#‘‘)*「ゴールデンクラァァァァアァァッシュッ!!」



309: ◆BYUt189CYA :2008/04/21(月) 23:41:36.20 ID:pd2Of4e00
それは打撃という言葉では足りなさ過ぎる攻撃力であった。
インパクトの瞬間、圧縮されていた魔力が一気に展開したのだ。

轟音。

もはや打撃というよりも爆撃である。
金の色が激しく散り、一瞬遅れて衝撃波が半円状破壊を生み出した。
四肢――いや、分子結合すら容易く引き千切る爆発エネルギーが周囲空間を侵す。
その中心地にいたロマネスクは、それをまともに喰らうこととなった。

〈/i(iφ- ノii「……――っぐぉぉ」

爆音の中、激痛に耐える声が聞こえた。
しかし、誰もが聞こえないフリをした。

<#ヽ`∀´>「ロマネスク……あとのことはウリ達に任せるニダ!!
       いつかお前に報告出来るよう、何もかもを見てきてやるニダ!」

未だ爆炎と爆煙が舞う中、その中枢をターゲットとしたニダーがライフルを向ける。
既にマジックカートリッジ同時使用数は最大の九に定められていた。
マガジン丸ごと一つ消費する、威力だけを追求した設定だ。

欠点は発射までに時間が少々かかってしまうところなのだが
ヘリカルの攻撃によって時間は稼げており、既に九発ものカートリッジは排莢済みである。

<#ヽ`∀´>「だから――ッ!」

言い、引き金を引いた。



314: ◆BYUt189CYA :2008/04/21(月) 23:42:56.11 ID:pd2Of4e00
光と反動が同時に来る。
前者は銃口から真っ直ぐに走り、後者はライフルどころかニダーの身体すら大きく震わせた。

光はバレーボール大の弾となって飛ぶ。
数十メートルもの距離を一瞬で無にし、状況を掴めていないロマネスクの胸元に直撃した。
大きな鈍い音と、サ行がヤ行と混じったような音が同時に響いた。

威力の飛沫が、赤い空を彩る。

川#゚ -゚)「あとは私が抑え――」

〈/i(iφ- ノii「――待、て」

血反吐に混じるロマネスクの声が聞こえた。
既に覚悟を決めているクーは、それを無視しようとした。
だが、あれだけ自分を殺せと言っていた彼にしては、おかしい言葉だと気付く。

そして見る。
ロマネスクの右腕――ガントレットの手甲部分から、黒色の線が垂れ下がっているのを。

足下まで落ちた線は、地面の中へと消えてしまっている。



317: ◆BYUt189CYA :2008/04/21(月) 23:43:51.01 ID:pd2Of4e00
川;゚ -゚)(いつの間に……いや、それよりも先端は何処だ!?)

嫌な予感がした。
本能的に身体が強張り、意識が周囲を走査する。
爆薬や毒などの性質変化を能力とする黒い粒子のことを考えれば
いつ、どこで何が起きてもまったく不思議ではない。

異変に勘付いたニダー達も、周囲の警戒を始めた。

動きがあったのは直後だった。
その余波は、クー達が予想していたものよりも遥かに大きかった。
それもそのはずである。

動き始めたのは、燃料切れで倒れ込んでいた赤いEMAだったのだから。

*(;‘‘)*「なっ……!?」

川;゚ -゚)「まさか!?」

全長七メートルクラスの巨人が、いきなり起き上がった。
震動は軽度の地震を起こし、フレームの音を軋ませながら大地に立つ。

<;ヽ`∀´>「あ、あそこを見るニダ!」

視線が集まったのは、ウルグルフの開いたコクピットだ。
先ほどシューが奇襲のために開放してそのままだった部位に、ロマネスクの放った黒い粒子が入り込んでいたのだ。
このことから導き出される答えは単純なもので、

川;゚ -゚)「操っているのか!? あの巨体を……!?」



324: ◆BYUt189CYA :2008/04/21(月) 23:45:33.34 ID:pd2Of4e00
つまり、今度はEMAが相手らしい。

異獣と戦うにおいて、出来る限りのチューンナップを行なわれたウルグルフは
しかし本来の敵ではなく味方へ牙を剥くこととなった。
刀剣は一本しか残されていないが、それでも充分に脅威である。

そもそも、存在するだけである程度の攻撃力を発揮することが出来る巨人を
疲労困憊のクー達で相手するのは、明らかに分が悪過ぎた。

川#゚ -゚)「だが、まだ負けたわけじゃない……!
     EMAを相手せずともロマネスク本体を叩けば!」

簡単には言うが、難しいことだった。
既にロマネスクはEMAの背後に隠れてしまっている。
現状の要素から考えれば、EMAを無視してロマネスクを撃破するのは厳しい。

川;゚ -゚)「くそっ……!!」

その場にいる全員が、希望を見失いかけたその時――


「――行くお」


ただ一人、それでも闘志を絶やさなかった青年が、飛び出そうと構えていた。



331: ◆BYUt189CYA :2008/04/21(月) 23:46:52.68 ID:pd2Of4e00
(# ω )「おぉ……っ!」

その姿勢は奇異なものだった。

右足を前に出し、膝を軽く曲げての前屈したポーズだ。
加えてその両腕は後方へと投げ出し、しっかりと伸ばされている。


まるで、戦闘機が発進を待っているような光景だ。


川;゚ -゚)「あれは――」

真っ先にクーが気付いた。
ブーンの四肢に、それぞれ莫大な魔力が宿っている。
外側に発せられるものではなく、内側に集中するタイプの波動だ。

だが、おかしい点がある。

その四肢に宿る魔力の総量が、既にブーンの用いることの出来る限界だったのだ。
おそらく最大の初速と加速を得るための限界突破なのだろうが
これでは、発射した後の攻撃がまったく普通の打撃となってしまう。

川;゚ -゚)(君は……何を考えている……!?)



337: ◆BYUt189CYA :2008/04/21(月) 23:48:05.35 ID:pd2Of4e00
しかし彼は言った。

自分がやる、と。
EMAを前にして尚、行く、とも。

それを踏まえた上で、自分のとるべき行動は一体何か。

川 ゚ -゚)「……そうだ」

疑うことではない。
疑問を持つことでもない。
今の自分に唯一出来ることは、

……彼を信じることだ。

信じて、信じて、信じ抜くことだ。
限界まで信じて、それでもくじけそうになった時、さりげなく手を差し伸べることだ。
間違っても、行動すらしていない彼の邪魔をすることではない。

川#゚ -゚)(ならば、私はこんなことをしている場合では!)

心の中を一陣の風が吹いた気がした。
それは突風という勢いを以って、今の今まで陰りを与えてきた雲を取り払う。

清涼な空気が、脳を満たしていくのを自覚した。



342: ◆BYUt189CYA :2008/04/21(月) 23:49:11.27 ID:pd2Of4e00



……あぁ、こんなに簡単なことだったんだ。



状況だとか、関係ない。
敵がどのような歴を持っていようとも、関係ない。
元より自分は戦闘のために――


違う。


強く否定する。
それは以前の自分だ。
今の自分は、違うと言い切れる。

何故ならば、


川 ゚ -゚)(私は……彼と共に歩むために全力を尽くす、ただの女だ――!!)



345: ◆BYUt189CYA :2008/04/21(月) 23:50:21.87 ID:pd2Of4e00
ブーンは思う。

一度決めた以上、あとは前進しか残されていない、と。
今出来る最大のことを、力の限りこなすだけだ、と。

『いいか、内藤ホライゾン。
 奴とまともにぶつかって打ち勝つには、攻撃力が足りない』

(  ω )(…………)

『攻撃力を生む要素は二つ。 「力」と「速度」だ。
 今の内藤ホライゾンには、そのどちらもが足りていない』

だから、と続け

『力を望め、内藤ホライゾン!
 私は力の門番だ。 求められればその分だけ応じよう!
 内藤ホライゾンが望む分だけ、望む限りの力を示そう――!』



356: ◆BYUt189CYA :2008/04/21(月) 23:52:02.93 ID:pd2Of4e00
(#^ω^)「解ったお……!!」

同じように、だから、続け

(#^ω^)「僕は君に望むお!
     僕が望む力の限界を超えた先、限界を突破した果てにある結果を望むお!
     それが例え人殺しの向こう側にあろうとも、僕は『救い』の言い訳で乗り越えるお!!」

それが

(#^ω^)「どんなに醜いことだとしても……今ここにある思いは本物だお!!」


『ならば吼えてみせろ! 契約の鍵語を!!』


応、と答える代わりに、最大の力を引き摺り出すための起動言詞を、心の底から放った。



(#^ω^)「――O V E R Z E N I T H !!」



358: ◆BYUt189CYA :2008/04/21(月) 23:53:22.34 ID:pd2Of4e00
ど、という音が聞こえ、それが一瞬で後方へと吹き飛ばされた。
同時に景色も、前方の一点を中心として放射線状に溶けていく。

それが、超高速での疾駆を開始した自分の視界だと気付いたのは、すぐ後だった。

(;^ω^)「う、ぉぉ――っ!?」

予想以上の初速に驚く。
身体がバラバラになりそうな感覚は、少なからず恐怖を与えてくる。

この速度を生み出したのは、間違いなく限界突破の力である。
しかも過去の限界突破のアレンジバージョンだ。

ただ根本的に異なる点が一つ。
強化符という表現を用いて、外部影響からの加速を得る過去のモノに対し
今のブーンが放ったのは四肢の内部で力を直接発動させるモノだ。

大気や空間に触れて少なからず効果が減衰する符と違い、
四肢内部での発動は、全ての付加効果を余すことなく受けることが出来る。
もちろん神経や筋肉に掛かる負担も相当なものだが、強化符を撒くのに比べて七割増しの力を得ることが出来るのだ。


いわば、これは『強化符・四肢全開発動』である。


だから、この加速は当然だった。
今まで体験した中で最も速度を感じるのも、当然だった。

逆を言えば、最も強い力を発現することが出来たということに等しい。



368: ◆BYUt189CYA :2008/04/21(月) 23:55:58.48 ID:pd2Of4e00
(#^ω^)「お――!!」

だから、躊躇うことをしなかった。
流星の如くの爆発的加速の中、ブーンは倒すべきターゲットを見据えて疾駆する。

相手は自分の五倍ほどもある機械仕掛けの巨人だ。
そしてその奥にいる、ロマネスクという存在を打ち倒さなければならない。

だが、足りないものがある。
限界突破の力を速度につぎ込んだ故に、今度は攻撃力が抜けている。
この速度で鉄の塊にぶつかれば、自分など一瞬で潰れて死んでしまうだろう。

『覚悟があるのならば示せ! 更なる契約鍵語を!』

(#^ω^)「ッ〜〜〜!!」

風が強い。
もはや大気の壁だ。
連続でブチ当たるに等しい衝撃は、突き出した首の骨を折ってしまいそうだった。
しかも、そうしてる間にも距離は高速で縮まっていく。

でも、と強く思う。

世界を救いたい、と言った男がいる。
自分なんかよりも、強く、気高く、願っている。
そんな男が、自分に頼り、結果を待っているのだ。

それを、叶えてやらなくてどうする――!



383: ◆BYUt189CYA :2008/04/22(火) 00:00:32.06 ID:YYm99VFG0
(#゚ω゚)「ううおおおおおああああああああ!!」

今しかない。

ここでやらねば後悔する。
絶対に、だ。
確信出来る。

だから、やるんだ。
あの男を救うために。


(#゚ω゚)「OVER――!!」


更に溜めて


(#゚ω゚)「OVER ZENITH――!!!」


直後、身体の内部に激痛と、大きな軋みを感じた。



392: ◆BYUt189CYA :2008/04/22(火) 00:02:36.76 ID:YYm99VFG0
もうこの身体も、かなりのガタがきているようだ。
限界突破の連続使用は、流石に堪える。

しかし、力の望みは成功した。
初速を得て、加速を追加した上で、更に攻撃力を高められた。
これがブーンの出せる最大の力だ。

(#゚ω゚)「でも――!!」

まだだ、と思った。

(#゚ω゚)(まだだお! まだ足りないお!!)

たとえ防御されたとしてもブチ抜けるパワーが必要だ。
ならば、追加される拳は二つでは足りない。

もっとだ。
もっと、更に、力がいる。

集中しろ。
意識を集めろ。
あらん限りで力を望め。

相棒である8th−W『クレティウス』。
ウェポンでありながらウェポンではない彼ならば、必ずや応えるはず。

元より力を引き出すデバイスだ。
望めば望む分、クレティウスは相応の力を提示する。

それが限界突破であり、『OVER ZENITH』である。



398: ◆BYUt189CYA :2008/04/22(火) 00:04:09.05 ID:YYm99VFG0
(#゚ω゚)「――ッ!!」

脳髄が沸騰しそうなほど熱く、痛い。
心臓は高速で打ち鳴らされ、今にも破裂しそうだ。
血液も、神経も、筋肉も、今まで以上に躍動しようとしている。

鼻に強い痛みが走った。
途端、右の鼻穴から勢いよく血が流れ出る。
それは垂れ、口の中に入り、粘った鉄の味を舌に伝えてきた。

(#゚ω゚)「……おぉおおおぉぉぉ!!」

気持ち悪い、と感じる暇すらなかった。
あと一歩で届くという予感がブーンの意識を支配する。


――だから、壊れそうなほど軋む身体で、ブーンは残る一歩を、躊躇なく踏み込んだ。


(#゚ω゚)「っはぁ……ぁあぁぁぁああ!」

スローだった視界が、突如として現実の速度へ戻る。

EMAとの距離は残すところ十メートル。
力を望んでから、ほとんど時間は経っていない。
あれだけ力み、苦しみ、身体に鞭打った時間は、秒にすら届いていなかったのだ。

だが、それでも良かった。
周囲を泳ぐ複数の気配で解る。
ブーンは、速度を緩めることをしない。



405: ◆BYUt189CYA :2008/04/22(火) 00:05:15.65 ID:YYm99VFG0
*(;‘‘)*「なっ……!」

ヘリカルの声が聞こえた。
煙を突き抜けてきたブーンの姿を見て、驚いている。

川;゚ -゚)「まさか、君は――」

クーも同様だった。
情けなく鼻血を出しているブーンに驚いているのか。
もしくは――

川;゚ -゚)「――いつの間に、そこまでの力を……!?」

ブーンの周囲に浮く、クレティウスの拳。


その数、八。


やっと二つ出せるようになっていたはずのブーンは、
一瞬の間に四倍もの数の拳を従わせ、ロマネスクに肉薄していた。

クーが驚くのも無理はない話だった。
ブーンは限界突破としての成長プロセスを、爆発的な速度で踏破している。
『拳二つ分』だと定められた限界を大きく突き破っているのだ。

本来ならば時間を掛け、ゆっくり高めていく限界の上限を完全に無視している。
こんな短期間――それも秒の間に高めた力が、ブーンという存在を破壊しないのが不思議でならなかった。



413: ◆BYUt189CYA :2008/04/22(火) 00:07:53.91 ID:YYm99VFG0
(#゚ω゚)「喰らうおッ!!」

吼える。

(#゚ω゚)「『Fist Octet +』……!!」

合計八つの拳が両手に――それぞれの手に四つずつ――集い、回転し始める。

火花を散らして鳴らすはギアの悲鳴に近い。
甲高く、しかし分厚い機動音は、これから与える一撃の強さを物語っていた。

『――――』

対し、操られたEMAは防御の姿勢を見せた。
両腕を腹部分に持ち上げ、腰を低く構える。
だが


(#゚ω゚)「そんなもので……っ!!」


踏み込み、捻り、溜め、振り絞り、その両拳を、同時に、


(#゚ω゚)「僕とクレティウスと止められると思うなァァァ!!!」



432: ◆BYUt189CYA :2008/04/22(火) 00:11:23.23 ID:YYm99VFG0
ぼ、という大気を割る音。

白光に染まった両拳が、EMAの防御を突き破る。

撃音。

そして、大きな光。

〈/i(iφ-゚ノii「!!」

ロマネスクの身体が構えた時には、既にブーンは目の前へ肉薄していた。

その表情は

〈/i(iφ-゚ノii(泣いて――)

(# ω )「――ッ!!」

一瞬だけ見えた光は、白色ではなく透明だった。

だから、ロマネスクは精一杯の笑みを浮かべ


〈/i(iφー゚ノii「――ありがとよ」


自分の身体に突き刺さる両拳を、安らかな表情で受け入れた。



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