( ^ω^)ブーンと川 ゚ -゚)クーは抗い護るようです

4: ◆BYUt189CYA :2008/05/20(火) 21:57:03.57 ID:S4eItPZ50
第五十四話 『決意の言詞』


少女が落ちる。


機械仕掛けの巨人を隣に従え、躊躇なく落ちていく。
格好は、着地のことをまったく考えていないかのように真っ直ぐだった。
そしてその一組の参戦者は、遠目から解るほどの鮮やかな単一色を纏っていた。

少女は白。
巨人は黒。

天から落ちるは純白の天使か、それとも漆黒の堕天か。
どちらにせよ、人と獣の争いに介入する時点で只者ではない。
事実、落下というネガティヴな状況にいながら、見る者に微塵の絶望をも与えることはなかった。

从#゚∀从「ぁぁぁ――!」

それもそのはず。
突如として舞い降りた白き少女は、今戦闘中最高の力を携えていたのだから。


この少女の名を『ハインリッヒ』といった。



7: ◆BYUt189CYA :2008/05/20(火) 21:58:18.70 ID:S4eItPZ50
人ではない。
しかし人外と呼ぶには、あまりに人に近過ぎる存在。

ある男が発案し、ある女達の知識を用い、また別のある男が完成を目指した『最強』。
滅びかけた世界の大願――異獣を倒すための願いを具現化した『兵器』。
過去一度散ってしまった要素が再び合致し、約十年の空白を経て起動した『希望』。

それがハインリッヒだ。

機械ではなく人間という形をとることによって
無限に成長する可能性を持つ、まさに人の手に余る存在だった。

从#゚∀从「――ぁぁぁぁぁあああああっ!!」

壊れかけた結界へ一直線に落ちながら、ハインは咆哮と共に発動させる。


――対異獣用決戦兵器としての能力を。


その力を表現するのは、隣を落ちる黒色の人型兵器。
魔法世界のEMAに似て、しかし鋭角的かつ機能的に洗練されたフォルムは
人が乗ることを完全に放棄した設計の究極形だった。

そう、これは人が乗って操るタイプの兵器ではない。

ハインリッヒという、人でありながら人を超えるスペックを最大限に発揮させるのに必要なのは
その身体能力の延長といえる人型兵器ではなく、武装による攻撃力なのだ。



10: ◆BYUt189CYA :2008/05/20(火) 21:59:15.31 ID:S4eItPZ50
だから、ハインリッヒは呼ぶ。

己の力を解放するキーの名を。
傍にいる、コードネーム『鉄機人』の名を。
かつて彼女の身に与えられたものとは異なる、本当の15th−Wの名を。


从#゚∀从「『アゲンストガード』――!!」


それは、『抗い』と『護り』の二つ名を刻まれた彼女専用の武装。

持ち得る力は人知を超えている。
ひとたび動き始めれば破壊を撒き散らし、しかし担い手によって表情を変える兵器だ。

从#゚∀从「今この時、目の前に立ち塞がる何もかもを壊すために……!!」

放たれるは決意の言詞。
人知れず全てを知った少女の、懸命な宣言だ。

从#゚∀从「僕は君に、僕の存在理由を掲げて命ず! 『刃となれ』!!」



13: ◆BYUt189CYA :2008/05/20(火) 22:01:44.14 ID:S4eItPZ50
応じる動きがあった。
隣を降下する鉄機人――15th−W『アゲンストガード』だ。
ハインの声を聞き届けた鉄の巨人が、その身を動かす。

まず装甲がスライドした。
同時に循環するエネルギーが一時固定される。
そうすることでフレームが露出され、可変型のそれは変形していった。

一旦離れた接続が再度、音を立てて合致。

既に人型ではない。
パーツと装甲、フレームを正中線上にまとめ上げた姿は、元の身長を数メートルも伸ばしている。
形を大きく変えた鉄機人は、そのまま浮遊してハインの右腕の先に固定される。

物理法則を裏切る現象の末に完成したのは、巨大なブレードだった。
黒色を基調として、銀の色が微かに彩る全長十メートルクラスの巨剣だ。
ハインの右手先に――しかし接触はしない程度の距離を開けて――浮遊している。

从#゚∀从「重ねて命ず! 『光となれ』!!」

同時、ブレードが光を噴く。
根元から煌く光の粒子は刀身の全てを覆い
遠くからでもはっきり解るほどの存在感を生み出した。

一条の光が天から落ちる。

从#゚∀从「おぉぉぉぉ――!!」

彼女らしくない咆哮の直後、重力加速を得た大斬撃が炸裂した。



16: ◆BYUt189CYA :2008/05/20(火) 22:02:28.10 ID:S4eItPZ50
ブーン達は見ていた。
空から降下してきたハインリッヒが、巨大過ぎる剣を手に結界内へ落ちていくのを。

まるで流星だ。
流れる星の如く一直線に落下する。
速度と力強さは、天からの落雷に近いものがあった。

轟音一つ。

叩かれた地面が震えを起こし、震動の津波となって周囲に散る。
少し離れた位置にある北軍勢にまで地響きが届いた。

川;゚ -゚)「ハイン!?」

(;^ω^)「ど、どうなったお……?」

ハインを子のように思うクー達が慌てるのも無理はない。
しかし、それらを抑える声がある。

*(‘‘)*「大丈夫ですよ。 慌てる必要はこれっぽっちもありません」

(;^ω^)「え?」

<ヽ`∀´>「あれは、あの程度でどうこうなるような代物じゃないニダ」



22: ◆BYUt189CYA :2008/05/20(火) 22:06:00.73 ID:S4eItPZ50
川;゚ -゚)「お前達は……やはり、アレが何なのか知っているのだな?」

*(‘‘)*「当然。
    ハインリッヒという『本体』を作ったのはアンタ達の世界ですが
    彼女の武器という『外装』を作り上げたのは私達の世界ですよ?」

ヘリカルは自慢げに言ったその時、一際大きな音が結界の方角から響いた。

見れば、結界の中腹辺りから光の刃が頭を覗かせていた。
突入したハインリッヒが、内部から結界を突き破ったのだ。

刃が動く。
徐々に、そして勢いを増しながら。
響くのは、ガラスを無理矢理に切り裂くような高音だ。

耐えるように撓む結界だが、一瞬の抵抗の末に表面から崩れていく。
刻まれた傷跡から、みるみる内にヒビが増えていく。

「す、っげぇ! アグレッシブだ!」
「何つー無茶苦茶な……」

lw´‐ _‐ノv「震動が折れた肋骨に響く……!」

川;゚ -゚)「内側から切り裂いているのか、あの結界を……!?
     だが、そんな力がどこに――」

*(‘‘)*「――純正ルイル」

川 ゚ -゚)「何……?」



24: ◆BYUt189CYA :2008/05/20(火) 22:07:24.04 ID:S4eItPZ50
*(‘‘)*「世界の核とすら言える高純度魔力の結晶。
    それはどんな世界にも必ず一つ存在し、その世界の文化すら変えてしまう力を持つ」

(;^ω^)「まさか、それがあの黒いロボットに……?」

川 ゚ -゚)「待て。 理屈に合わない。
     機械世界の純正ルイルは、とうの昔に消失していたのではないのか?」

少なくとも、クーはそう認識していた。
FC本社で渡辺から詳しい話を聞いた時だ。
確か彼女は、『機械世界の純正ルイルは既に無い』と言ったはずだった。

*(‘‘)*「フェイクですよ。 『在る』と解れば利用したくなるのが生物の常。
    だから鉄機人を作る技術者達と、一部の人間だけにしか真実が伝えられていないんです。
    おそらく機械世界から来たほとんどの兵は驚きに口を開いてるはず」

lw´‐ _‐ノv「なん……だと……」

<ヽ`∀´>「全ては、今この時のため。
      ウリ達が本気で攻め込み、喉元に肉薄したその瞬間。
      確実に噛みついて食い千切るための、切り札中の切り札。
      それが、ウリ達が教わった『ハインリッヒ』ニダ」

だから、この二人はハインリッヒが行方不明となっても動じなかったのだ。
鉄機人の正体を理解し、そして後の戦いで何が起こるか知っていたから。



27: ◆BYUt189CYA :2008/05/20(火) 22:09:37.16 ID:S4eItPZ50
川 ゚ -゚)「だが、何故教えてくれなかった?
     お前達が教えてくれていたのなら、私達もこれほど心配することは――」

*(‘‘)*「――本気で戦えましたか?」

(;^ω^)「お?」

*(‘‘)*「戦いの途中で最強の援軍が来ると解っていて、それまで本気で戦えましたか?」

川 ゚ -゚)「それは……私達の意志を馬鹿にするつもりか?」

*(‘‘)*「そんなつもりは毛頭ありませんよ。
     ただ、知ればきっと無意識に頼ったでしょうから」

理屈は解る。
ハインリッヒが来ることと、それによって帳尻を合わせられると知っていたのなら
もしかしたら、今のような状況まで走り切ることは出来なかったかもしれない。

<ヽ`∀´>「騙すことになったのは悪いと思うニダ。
      しかし、その結果が今ニダ」

川 ゚ -゚)「結果オーライというわけか……ふン、まぁいい。 酷く気に入らんが」

理屈と結果が繋がっているだけに、
クーは納得のいかない表情を見せながらも、それ以上噛みつくことはなかった。
それよりもハインの方が気になるのか、戦場の中央へ視線を戻す。



29: ◆BYUt189CYA :2008/05/20(火) 22:11:28.77 ID:S4eItPZ50
「「――!!」」

同時、結界が粉砕した。
突入したハインがブレードを走らせ、内部から蹂躙したのだ。

大きな音が連鎖した。
破片が大きく弾け、赤い雪のように周囲へ散っていく。
散々苦労した結界が破壊されていく光景に、おぉ、と兵達が声を漏らした。

完全に砕け散った赤色の中、二つの影が飛び出す。

大きな方は、人型に戻った15th−W『アゲンストガード』。
小さな方は、その肩に乗るような姿勢のハインリッヒだ。

(;^ω^)「す、すごいお……! 圧倒的だお!」

*(‘‘)*「そりゃあ切り札ですからね。
     ……まぁ、まさか単独で結界をぶっ壊す程だとは思いませんでしたが。
     いくら『神の裁き』で半壊していたとはいえ、予想以上です」

呆れるように放たれた言葉を受けながら、クー達の眼前にハインが降り立つ。

砂煙を舞い上げながら
巨人と共に着地する様子は、さながら御伽話のような光景だった。



30: ◆BYUt189CYA :2008/05/20(火) 22:13:15.11 ID:S4eItPZ50
从 ゚∀从「…………」

川 ゚ -゚)「ハイン……」

生まれたのは微かな沈黙。
ハインは目を軽く伏せており、対面するクーとブーンは咄嗟に言葉を見失う。
これまで必死に戦いから守ろうとしていただけあって、彼女の突然の変化に戸惑ったのだ。

特にクーにとってのハインはか弱い存在だっただけに尚更で
突然に大きくなった我が子に複雑な感情を抱くのもまた、当然だった。
更に周囲の緊張感もあってか、沈黙は長くぎこちなく続くと思われたが、

从 ゚∀从「……御久しぶりです、内藤さん、クーさん。 そして皆さんも」

という、ハインの凛とした声に途切れることとなる。

( ^ω^)「おっおっ、無事で良かったお」

第一に応えたのはブーンだ。
ハインの変わり様と鉄機人――いや、『アゲンストガード』に気圧されていたものの
彼女の本質に変わりはないと判断するや否や、普段の笑みを浮かべて迎えた。

それを嬉しそうな明るい表情で受けたハインは、しかし目を伏せ

从 -∀从「あと、ごめんなさい」

深く頭を下げた。



34: ◆BYUt189CYA :2008/05/20(火) 22:14:42.09 ID:S4eItPZ50
川 ゚ -゚)「む……?」

从 -∀从「勝手にいなくなってごめんなさい。 心配をかけてごめんなさい。
      そして――」

一息。
下げていた頭を上げれば、そこには確かな意思が宿った瞳がある。
それは反省や謝罪というよりも宣言の色に等しい。

从 ゚∀从「――そして、僕のことを大切に思っている気持ちを知っていながら、
      これから戦うことを決意して……ごめんなさい」

川 ゚ -゚)「ハイン、それは――」

从 ゚∀从「僕は普通の人間として生きていきたい。
      けれどそれは、与えられた使命を果たしてからじゃないと駄目だと思うんです」

何かを願うのであれば、相応の行動で示すのが人間だ。
与えられた義務を為さずして権利を求めるなど愚者がすること。

ハインリッヒの使命は『異獣の滅び』。
生まれた時から――いや、それ以前から定められていた運命だ。
始めこそは嫌っていたその存在理由を、しかし今のハインは必死に受け入れようとしていた。

从 ゚∀从「だから僕は果たします。 そして全てが終わってから望みます。
      兵器としての過去を捨てて、人間としての未来を手に入れるために」



36: ◆BYUt189CYA :2008/05/20(火) 22:17:13.98 ID:S4eItPZ50
拳を握っての言葉は強い。
周囲にいる誰もが口を挿まずハインの言葉に耳を傾けていた。
この地獄のような戦場に遅れて参じた、最後の仲間の言葉に。

川 ゚ -゚)「…………」

( ^ω^)「…………」

「「…………」」

誰もが口を閉ざした。
こんな年端もいかない少女の言葉に、一体何と応えれば良いのか。
ただ単に賛成すれば良いのか、逆に否定すれば良いのか。
ハインが必死になって示す覚悟と決意に、安易な言葉を投げかけることは出来ない。

今までの彼女を見てきた者なら尚更だ。
一番ハインが戻ってくるのを望んでいたクーでさえ、言葉にならない言葉に悪戦苦闘していた。
しかし、

( ^ω^)「……把握したお」

从 ゚∀从「内藤さん……」

沈黙を裂いたのはブーンだった。
彼は満足そうに、そして腕を組んでうんうんと頷く。



39: ◆BYUt189CYA :2008/05/20(火) 22:19:28.14 ID:S4eItPZ50
( ^ω^)「ハインが自分で決めたことなら良いお。
     君には願いを求める権利があって、それを支えるのが僕の役目だお。
     だから君が決めたことなら何であろうと、僕は応援するお」

理由など、どうでもいい。
正しいか、間違っているかなど、更にどうでもいい。
ハインの正体が何であろうかなど、かなりどうでもいい。

ただ彼女が望むのであれば、それを応援するのが親というもの。
それが、ブーンの応じた答えだった。

川 ゚ -゚)(内藤……君は……)

賛成ではなく否定でもなく、応援。
ブーンはハインを、兵器や戦力、生い立ちなどという観点で見ていなかった。
ただ、『自分の知るハイン』という枠組みの中で見てきた彼女に対しての、本心からの答えだった。

この何でもない言葉に、どれだけ救われたか。
まったく予想外で、しかし無意識に期待していた答え。
振り返ってからこそ理解出来る言葉に、ハインは嬉しそうな笑みを浮かべた。

从 ゚∀从「内藤さ――」

しかし何かを言う前に、新たな言葉と気配が来る。

「――何にせよ、異獣を何とかせねば未来はない。 だろう?」



41: ◆BYUt189CYA :2008/05/20(火) 22:21:35.17 ID:S4eItPZ50
(,,゚Д゚)「しぃと一緒に未来に生きるためだ。 俺も出来る限り手を貸そう」

从;゚∀从「っ!?」

(*゚ー゚)「私もギコ君と一緒に……未来に生きるために」

|゚ノ ^∀^)「生きるって誓っちゃったもんね。
      最後までやり通さなきゃ、彼らに笑われちゃうわ」

こちらを見る兵を掻き分けながらやって来たのはギコとしぃ、レモナだ。
更に少し遅れて、

( ゚∀゚)「おい、ハインがいンのか!?」

从;゚∀从「え? あ、はい!?」

(#゚∀゚)「テメェ今までどこ行ってた!? 遅刻なんてしてんじゃねーよ!
     解ったらさっさと異獣ぶっ殺しに行くぞ!」

何やらハイテンションな様子のジョルジュに気圧されるハイン。
その半泣きの目は『これは一体どういうことですか?』と問うていた。
答えは、真逆の方向から来る。

('、`*川「簡単よ。 これから大一番の獣狩りってのにバラけてちゃ駄目でしょ?
     だから『神の裁き』が発動した時点で、私達は北側に移動を開始してたのよ」

( ´_ゝ`)「そういうこと。
     もしラスボスが現れた場合、真っ先に狙われるのは本陣辺りだろうしな。
     あそこには奴らが欲しがる大きな餌がある」



45: ◆BYUt189CYA :2008/05/20(火) 22:23:26.14 ID:S4eItPZ50
川 ゚ -゚)「どうやら間に合ったようだな」

(´<_` )「俺達先発隊は、な。
     まだ後続が移動中だが……まぁ、何とかなるだろう」

从;゚∀从「あ、あの……」

('、`*川「久しぶり、ハイン。 元気してた?」

軽く手を振ってみせたペニサスは、
ハインの背後に膝をつく15th−W『アゲンストガード』を見上げた。

('、`*川「これが貴女の本当の力なのね。
     与えられたモノじゃなく、貴女自身が望んだ……共に戦えるのを光栄に思うわ」

(*´_ゝ`)「ハインちゃん、結界をぶっ壊すの見てたぞ! 頼もしいったらありゃしない!」

(´<_`;)「作業手伝わずに何してたのかと思えば……」

呆れるように肩を落とした弟者に、皆が軽い笑みを浮かべた。

と、その時だ。

後方の空から高い音が響き、近付いてくる。
何事かと見上げてみれば、二機の戦闘機がこちらに向かってきていた。



49: ◆BYUt189CYA :2008/05/20(火) 22:25:35.72 ID:S4eItPZ50
そのまま着地する黒と灰色の戦闘機。
片方の風防が開けば、見知った顔が頭を出し、

<_プー゚)フ「よぉよぉ、時間無制限で狩り放題の獣狩り会場はここで良いのかい?」

と、阿呆が阿呆なことを言った。
すると同じように、隣の機体の風防が開き、

(`-ω-´)「すまない。 度重なる戦闘でエクストの頭がイカれてしまったらしい。
      特に空気を読む機能を司る部分が……もう、二度と……」

【最初から在ったのかすら疑わしいですが、プログラムである私には判断しかねます】

などと、フォローになっていないフォローが入った。

川 ゚ -゚)「無事だったn――いや、これは聞く必要はないか」

<_;プー゚)フ「ひっでぇ。 これでも三回くらい死に掛けたのに」

(`・ω・´)「大丈夫だ。 馬鹿は死なんことが今日判明したからな」

<_プー゚)フ「俺は寛大で大人だからスルーするぜ?
        にしても、アレが隠し玉か……でけぇな」

おー、とエクストは『アゲンストガード』を見る。
開戦当初に比べてだいぶ高く昇った太陽が、その黒い装甲を鈍く照らしていた。
人によって作られていながら、それは人の手に余るような空気を纏っているようにも思える。



54: ◆BYUt189CYA :2008/05/20(火) 22:27:47.61 ID:S4eItPZ50
<_プー゚)フ「EMAと大差ねぇように思えるが、あの結界を壊したのはそれなんだろ?
        いいねぇ……我らが姫君は巨人を従える戦女神ってか」

(`・ω・´)「随分と乱暴な姫だが、
      後ろで縮こまっているよりは俺達に相応しいかもな」

从;゚∀从「エクストさん、シャキンさん! お、御久し振りです……!」

<_プー゚)フ「それでいてこの可愛らしさ。 マジ嫁にしてぇ」

(`・ω・´)「お前が言うと問答無用で犯罪だ。 止めておけ。
      そして、よく戻って来てくれたな――『最強』」

その名で呼ばれ、ハインの表情が少し曇った。
だが、シャキンは敢えて言葉を続ける。

(`・ω・´)「ここへ舞い戻ったということは、自分の力を認めたということだろう?
      だったら胸を張ることだ。 そこに至るまで失ってきたモノに対してもな」

从 ゚∀从「あ……」

そして更に、彼らの背後から新たな声と気配が来る。

( ゚д゚ )「俺達が最後のようだな。 遅れてすまない」

( ^ω^)「ミルナさん! 無事でしたかお!」



60: ◆BYUt189CYA :2008/05/20(火) 22:29:32.83 ID:S4eItPZ50
( -д- )「あぁ、何とか……だがミラーは守り切れなかった。 すまん」

ノハ#゚  ゚)「謝ってばかりじゃ駄目だよ、ミルナ。
     それに懸念していた結界は完全に破壊されたんだから――彼女の活躍で、ね」

ミルナの横に肩を並べたヒートは、ハインを見る。

ノハ#゚  ゚)「初めましてハインリッヒ。 私はヒート。
      そして、私達を助けてくれてありがとう」

从;゚∀从「ど、どういたしまして!」

ノハ#゚  ゚)「うん。 じゃあ次は私が貴女に力を貸す番だから、覚悟しておいて」

从;゚∀从「は、はい……! よろしく御願いします!」

勢い良く頭を下げたハインを見て、ヒートは軽く苦笑。
同時に、初対面でありながら上手くやっていける、と確信した。

誰もが『そういう』空気を纏っているのだ。
途中から参戦したヒートは、特にそれを感じ取っていた。

組織や所属世界ではなく、もっと根源的な絆で結ばれているような、そんな雰囲気。

だから、無責任に思う。


――きっと大丈夫だ、と。



66: ◆BYUt189CYA :2008/05/20(火) 22:31:45.17 ID:S4eItPZ50
この流れをきっかけとして、更に声が来た。

連鎖するように重なる声援は名前さえ知らない兵達にも伝わっていく。
ざわめきが高まり、応援となり、そして吼声へと変化していった。
先ほどまでの疲労や絶望が、ここにきて一気に払拭されることとなる。

*(‘‘)*「まさに勝利の女神って感じですかね。
    こりゃ期待以上の働きを見せてくれそうです」

<ヽ`∀´>「敵を駆逐するだけでなく、味方の士気励起まで。
      これが先人達の望んだジョーカー……兵器に感情と命を与えた意味、確かに見たニダ」

ようやく叶った祈願の具現に、ニダーは軽く目を細める。
機械の世界が望み、一人の博士が力を貸し、一人の助手が紡ぎ、一人の科学者が編み上げた希望。
お、という雄叫びに似た声の中、希望であるハインは申し訳なさそうに四方八方へ頭を下げていた。

从;゚∀从「ありがとうございますっ!
      ど、どうも!! 応援ありがとうございます! 申し訳ありません!!」



69: ◆BYUt189CYA :2008/05/20(火) 22:33:14.41 ID:S4eItPZ50
川 ゚ -゚)「……ハイン」

そんな彼女の背中に、クーが声を投げかけた。
は、とした表情でハインが振り向く。
誰もが彼女を歓迎する中、一人だけ黙っていたクーを見た。

川 ゚ -゚)「一つ、いいだろうか。 真剣な問いだ」

从;゚∀从「は、はい……!」

川 ゚ -゚)「お前の思い描く人間としての未来の中に、私と内藤はいるのか?」

从 ゚∀从「…………」

果たしてどういう意味の問いかけなのだろうか。
確認か、懇願の表れか、それとも彼女以外には見当もつかぬものか。
ただ一つ言えるのは、その言葉は強く響き、周囲の音を抑えつけたことだけだ。

再び訪れようとしている沈黙の中、ハインはクーから目を逸らさず口を開く。

从 ゚∀从「それは、解りません」

(;^ω^)「……!」

从 ゚∀从「――でも、ずっと傍にいてくれればいいな、と思います」

川 ゚ -゚)「…………」

それはハインの本心からの言葉だった。



72: ◆BYUt189CYA :2008/05/20(火) 22:34:37.56 ID:S4eItPZ50
未来は解らない。
けれど、共にいてほしい人はいる。
だから願わずにはいられないのだ。

从 ゚∀从「そして僕は、その希望ある未来を手にするため、戦います」

思うだけではなく、望んだ結果を自力で引き寄せる。
その努力こそが人間たる証なのだとハインは知って――いや、これまでを通して知った。

何処かの世界を救おうとした男がいる。
人知れず自分の世界を護ろうとした男がいる。
襲い掛かる大きな力に抗おうとした女がいる。

それだけではない。

仕組まれた宿命に巻き込まれた者達がいる。
それぞれの世界から、それぞれの思惑を持ちながらも手を取り合った者達がいる。
彼らは、天地晦冥となった現実の前に『救われぬ』と嘆くことなく、自分達の力を以って抗おうとしているのだ。

苦しいことかもしれない。
報われることすらないかもしれない。

しかし、彼らは抗うことでの生を望んだ。
武器をとる手に偽りの意志はなく、ただひたすらに、どうしようもなく真っ直ぐで。
だからこそハインの目には、何よりも気高く美しいものに写ったのだ。



75: ◆BYUt189CYA :2008/05/20(火) 22:36:11.53 ID:S4eItPZ50
从 -∀从(僕は今まで思うだけだった……彼らのようになれないか、と。
      ただ願い、目の前の問題にがむしゃらにぶつかるだけだった)

方角すら定まらない進撃は、ただの暴走である。
そして願いを振りかざしながらの暴走は、もはや滑稽を通り越して哀れと言えよう。
目的のために走っているように見えて、希望が向こうからやってこないかと期待していただけなのだから。

簡単な話だった。
真に望むのであれば、立ちすくんで待つのではなく

从 ゚∀从(目標を見据えて足を踏み出す!
      どんなに小さくてもいい。 恐る恐るでもいい。 情けなくてもいい。
      視線を希望から逸らさずに、ただ前へ行く力と意思あるのなら……!)

川 ゚ -゚)「…………」

何を考えているか解らない視線を送ってくるクーに対し
ハインは初めて、押し返すようにその場で踏ん張った。
いつもなら無言の重圧に目を伏せるか、自分の意見を取り下げてしまうところだが――


……今回だけは譲れません。


戦うと決めた。
抗うと決めた。
護ると決めた。

これからの人生を、自分の手で勝ち取っていくと決めたのだ。



77: ◆BYUt189CYA :2008/05/20(火) 22:37:54.50 ID:S4eItPZ50
川 ゚ -゚)「……ふぅ」

やがて、クーは軽く俯いて首を振る。
ほんの数秒の睨み合いは、ハインにとっては何時間にも感じられたが
それよりも何よりも、クーが先に視線を下ろしたことに驚いていた。

从;゚∀从「え、えっと……?」

川 ゚ -゚)「お前の意思は解った。 充分にな」

言葉を遮ったクーはハインに背を向けた。
そのまま視線を遠くへ投げれば、ほとんど破壊された結界が目に入る。
ハイン自身が自ら望んで刻み込んだ、現実という名の結果だ。

川 ゚ -゚)「……いつまでも子供なわけがない、か」

( ^ω^)「親の代わりとして、これ以上の喜びはないお?」

川 ゚ー゚)「あぁ。 そして、同じくらいの寂しさも感じるのも仕方ないのだな。
     だが今は、ネガティブな感情に浸るのを拒もうと思う」



82: ◆BYUt189CYA :2008/05/20(火) 22:39:54.43 ID:S4eItPZ50
左手が動く。
握られた14th−Wの切っ先を天へ伸ばし、

川#゚ -゚)「ハインリッヒ!!」

強く言う。

川#゚ -゚)「私も、私も皆と同じように君の望みを支えよう!
     敵がいれば打ち払い、障害があれば踏み台にもなろう!!」

だから、と刃を水平に振り下ろし

川#゚ -゚)「今はただ導いてくれ! 私達が生を打ち立てるためにも――!!」

鋭い声は断ち切りの宣言に等しい。
クーは今、ハインを認めて共に戦うことを決めたのだ。

ハインの方からは見えなかったが、クーの隣にいたブーンは確かに見る。
その口元に、少し哀しげな歪みが浮かぶのを。

( ^ω^)「大丈夫だお、クー。
      ハインを護るのは、いつまでも君の役目だから」

川 ゚ -゚)「……これからは堂々と言えないのが辛いところだが、な。
     だが、ありがとう内藤。 君が私の傍にいてくれることは本当に幸いだよ」

そう言って、クーはブーンだけにスッキリした笑顔を見せたのだった。



85: ◆BYUt189CYA :2008/05/20(火) 22:41:49.47 ID:S4eItPZ50
('、`*川「さぁて……私達の結束はここに完成したわけだし、あとは勝つだけね」

( ゚д゚ )「一番厄介な問題だが、だからこそ挑み甲斐があるというもの」

<_;プー゚)フ「挑み甲斐? わっかんねぇなぁ……これだから脳ミソ筋肉野郎は」

(`・ω・´)「だが決着の時は近い。 この事実は変わらん。
      そして何の後悔も生まないため、すぐに出られるように搭乗しておくぞ、エクスト」

<_プー゚)フ「あいよ。 最期の出撃にならねぇように頑張りますかね」

シャキンが駆け足で、その後ろをエクストがリラックスした様子でついていく。
この二人が空にいる限りは上を気にして戦う必要もないだろう。

(´<_` )「レモナさんはどうするんだ?」

|゚ノ ^∀^)「リベリオンはまだ動けるわ。 さっき出来る限り調整してみたし、大丈夫だと思う。
     それよりも……シュー、貴女の方はどうなのよ?」

lw´‐ _‐ノv「おんしは怪我人のあっしに出ろと言うでござるか……非道にも程が……!」

|゚ノ;^∀^)「ごめん、あんまり意味が解らない」



89: ◆BYUt189CYA :2008/05/20(火) 22:44:09.61 ID:S4eItPZ50
|゚ノ;^∀^)「……でも困ったわね。 貴重な戦力なんだけど」

( ´∀`)「あ、じゃあ僕が――」

|゚ノ ^∀^)「却下」

(;´∀`)「最近のこの扱いはホントに酷くないモナ!? せめてこっち見て! こっち!
     っていうかどうして僕がここにいるとか、そういうのも聞いてほしいモナ!」

|゚ノ ^∀^)「特に興味ないんだけど……」

(;´∀`)「酷――!!」

ぬあ、と仰け反ったモナーは、しかしめげずに勝手に説明を始めた。

( ´∀`)「もう本陣に戦力はほとんど要らないから、
      手が余った人達は皆、こっちに合流することになったんだモナ。 ほら!」

そう言うモナーの背後には、本陣の方で防衛戦を繰り広げていた兵達が集合していた。

更には傷だらけの装甲服を着た世界政府残党の姿もあった。
皆、血や砂埃にまみれながらも強かな微笑を浮かべている。



95: ◆BYUt189CYA :2008/05/20(火) 22:47:00.44 ID:S4eItPZ50
そんな中、彼らの代表らしき男――プギャー直属の部下、田中ポセイドンが一歩前に出て、

(゜3゜)「今更こんなことを言うのは情けないですが……私達も仲間に入れて欲しく願います。
    誰よりも世界を想う貴方達と肩を並べることが、今の私達全員の望みなので」

すると、応じるように誰かが

「馬鹿野郎。 ふざけてンじゃねーぞ」
「だな。 コイツらは甘い。 甘過ぎる」
「甘過ぎて胸焼けが発生したのでどうしてくれる貴様」

(;゜3゜)「なっ――」

理由を求める言葉が出るよりも早く、一人の中年の兵士が立ち上がった。
一部隊を率いる隊長らしき彼は、世界政府残党へ厳しい表情を浮かべて言う。

「この戦いに参加してる時点で想いの丈は同じだろう?
 なら願わずとも既に加えられているのさ。 仮に嫌だと言っても許さん」

その言葉を転機として、男は破顔一笑。

「そして生き延びた後が、さぁ大変。
 お前達は将来、子供や孫の前で武勇伝を語る時に必ず後悔することになる。
 『俺はあんな馬鹿どもと一緒に世界を救ってしまったのか』ってな。 ざまぁみろ」

は、と頭にクエスチョンマークを乗せた世界政府残党全員が、同時に首をかしげた。
それを見た世界混合軍の面々は、腹を抱えて『同類認定ドンマイwwwwwwwww』と笑い出す。



96: ◆BYUt189CYA :2008/05/20(火) 22:49:33.27 ID:S4eItPZ50
笑い声というよりも奇声を浴びながら、逸早く理性を取り戻した田中は不思議そうに問うた。

(;゜3゜)「……私達は以前、貴方達と敵対していました。 貴方達の仲間を傷付けました。
     しかしそれを知っていながら、何も言わず既に仲間と見ていてくれたのですか……?」

「あぁ、そうだ。
 俺達なんて所属する世界が違うくせに、そういうの忘れてるぜ。
 境界線なんか有って無いようなもんさ。 俺達はそれ以前に人間なんだからな」

「しかも究極の馬鹿揃いときたもんだ。
 こんな世界のために命張って絶望的な戦いに挑もうってんだから。
 ……なぁ、いいだろう? リーダー?」

少しして問われたのが自分だと気付いたクーは、額に多くの汗を浮かべながら

川;゚ -゚)「ぶっちゃけるとまったく意味が解らん理屈だったが……うむ。
     ここにいる時点で皆、同じような輩だというは同意する」

(゜3゜)「――ありがとうございます。
    これで、我々の薄汚れてしまった誇りも少しは輝きを取り戻せましょう」

仲間として受け入れられた世界政府残党は、その場で敬礼を行なう。
対し、混合軍の面々も一部は真面目に、一部は軽い調子で返礼した。



98: ◆BYUt189CYA :2008/05/20(火) 22:51:14.99 ID:S4eItPZ50
(;´∀`)「あ、あのー……僕の話は……」

|゚ノ ^∀^)「そもそもアンタ、EMAの操縦出来ないじゃない」

( ´∀`)「そうだけど……で、でも何もしないのは嫌だモナ。
      皆が命懸けで頑張ってる中で、そんな情けないこと……これでもやれば出来るはずの男だモナ!」

腕まくりしながら意気込むモナーに対し、レモナは溜息を吐く。

|゚ノ;^∀^)「そういう台詞は、それなりの実力をつけて言ってほしいものだわ。
      しかし困ったわね……何も出来ないくせに戦わせろなんて――」

そこで、言いかけたレモナの口が止まった。
視線が一瞬泳ぎ、何か深く考えるように顎に手を置く。

|゚ノ ^∀^)「何も出来ない……つまり、あぁ、成程……そういうこと……」

( ´∀`)(なんだか生きてきた中で一番嫌な予感がし始めたモナ)

|゚ノ ^∀^)「ねぇ、一つだけアンタが役に立つ方法があるわ。 如何かしら?」

( ´∀`)(もう、どう答えても逃げられない気がするモナ) コクン

そのままズルズルと引っ張られていくこととなったモナー。
一体お前は何がしたいんだ、と言わんばかりの視線を送る兵達だったが、すぐに各々の作業に戻ることとなった。



99: ◆BYUt189CYA :2008/05/20(火) 22:53:11.00 ID:S4eItPZ50
それから数十分が経つ。
全ての準備――部隊の再編や武器の調整など――が終わり、皆はクーやハイン達を中心として隊列を組んでいた。

その間、敵側からほとんど妨害がなかったことが気になるが、
今ここで確証のない答えを出しても意味がない、と理解しているクー達は、
来たる時に備えての待機を優先していた。

川 ゚ -゚)「さて……東西南北全ての戦力が、ここに再結集したわけだが」

適当に機を読んだクーが言うと、再会に賑わっていた声がなりを潜める。
誰もが『しかし』という類の思いを浮かべたからだ。

東――ギコ、しぃ、ジョルジュ、レモナがいる。
西――ペニサス、兄者、弟者がいる。
南――ミルナ、ヒートがいる。
北――ブーン、クー、ニダー、ヘリカル、シューがいる。
他――シャキン、エクスト、モナー達がいる。

その他、それぞれの隊で戦ってきた兵達がいる。

しかし、誰かが足りなかった。
戦う前にはいたはずの誰かがいなくなってしまっていた。
激戦の果てに死んだか、止むを得ずリタイアしたか、どちらにせよ戦場からいなくなった者達がいる。

つまり先ほどの言葉には誤りが発生するのだが、クーは敢えて訂正しなかった。



101: ◆BYUt189CYA :2008/05/20(火) 22:55:24.05 ID:S4eItPZ50
たとえ死しても、その想いは胸中に。
せめて、この戦いの間だけでも。

誓ったのだ。
共に戦い抜こう、と。
いなくなってしまったからといって除外するわけにはいかない。
だから、と言うように、クーは思ったそのままの事を口にした。

川 ゚ -゚)「皆、悲しむのは後にしよう。
     泣くのも、憤るのも、悔やむのも……負の感情全てが、後回しだ。
     何故なら、まだ私達には未来を掴むチャンスが残っているのだから」

(,,゚Д゚)「……あぁ、それでいい」

( ^ω^)「こんなところで泣いてたら怒られちゃうお」

( ´_ゝ`)「明日出来ることは明日やればいい、ってな……そうだろ?」

川 ゚ -゚)「そうだ。 そして私達は今から、その明日を手に入れるために――」

一息。


川 ゚ -゚)「――正真正銘、最後の戦いに挑む」



104: ◆BYUt189CYA :2008/05/20(火) 22:58:03.38 ID:S4eItPZ50
『ソレ』は既に狂っていた。

幾重の時間、幾多の時間を渡ってきた『ソレ』に、もはやまともな理性は残っていない。
ひたすら自分の役割を果たすために稼働しているに過ぎなかった。

ただ、強い力を食らうために。

目的が完全に崩壊しているのだ。
もう『ソレ』には何故、力を求めるかが解っていない。
次々に浮かぶ欲求を満たすため、能力を行使するだけの獣と成り下がっている。

理性を持っていたはずのミリア達がそれに従ったのは仕方のない話だった。
異獣から生まれた存在もまた、異獣である。
子というよりもコピー、または分裂と言っていい個体達は、生まれた時から既に狂っているも同じだ。

暴走する欲求。
膨れ上がる狂気。
増殖していく狂った自己。

遠い過去、胸に秘めていた願いは既に溶けている。

何を求めているのかなど、もう『ソレ』にとっては理解の及ばない答えだった。



105: ◆BYUt189CYA :2008/05/20(火) 22:59:18.23 ID:S4eItPZ50
そもそも何故、『ソレ』が狂ってしまったのか。

理由は三つある。

自分だけでは処理し切れないほど増えてしまった力。
人間が耐え切れる量を遥かに超える時間の負荷。
そして、『ソレ』が内包している意識が複数あること。

『ソレ』は一人ではないのだ。
最低でも三人分の意識が『ソレ』の中で渦巻いている。
はっきりしている、という観点から見ればそれだけあり、取り込んだ数を含めれば数えるのも億劫となろう。
これでは、狂わない方がおかしいと言える。

そのまま自己崩壊の末、活動を停止していれば何も起こらなかったかもしれない。
どこかの世界で動きを止め、そのまま生きながらに死んでおけば、
このような事態になることはなかったかもしれない。

獣を突き動かしたのは一つの妄執。

三人の意識の中、最も原初で、最も根源にいる男の執念が異獣をここまで動かしてきた。
自分が何であるか、何のために動いているのかすら解っていない理性が
しかし何よりも一番強く、獣の意思に訴え続けてしまっていたのだ。



106: ◆BYUt189CYA :2008/05/20(火) 23:01:07.16 ID:S4eItPZ50
目的がない以上、『ソレ』は既に終わっている。
それでも動き続けるのは、ただ心の底にある一つの欲求に従ってのこと。
だが先に言った通り、獣の目的は既に失われている。

呪われた輪廻に囚われているようなものだ。

ただそこにあるのは手段のみ。
目的という際限が無い以上、永遠に手段だけを行使し続ける狂った獣。


『ソレ』が、異獣なのである。


今、その獣は久々に自己を意識していた。
勝手に、しかし己の手足のように動いていた個体――赤と青の双子が消えたの感じ取ったからだ。

異常がある、と判断する。

自分が寝ている隙に寝室の目前まで攻め込まれた、と言い換えてもいい。
あの双子を倒せる者がいるのなら、他の個体をぶつけても意味はないだろう。

久々だ、とノイズ交じりの意識の中で思う。
本当は『久しい』などという生易しい言葉では計りきれないほどの時間だったのだが
既に狂っている獣にとってはどうでも良い感覚であった。

何も問題はない。
ただ自ら出て行き、目の前にある力を食らうだけ。

生み出した個体を通すか、自分の喉を通すか――それだけの違いだった。



109: ◆BYUt189CYA :2008/05/20(火) 23:02:12.31 ID:S4eItPZ50
突如、き、という濁った音が鳴り響いた。

「「!?」」

戦場にいる者達は、その音に対して即座の反応を見せる。
誰に問わずとも理解したからだ。

これが、最後の戦いを知らせる音であることを。

そして音が追加される。
断続的に、しかしリズムは一定でなく、そして徐々に狭まっていく間隔は、
狂った時計が発するカウントダウンのようにも聞こえる。

全員の視線が戦場の中央へ集った。
そこにあるのは破壊された結界の中身。
何もないように見えて、しかし本能的に誰も踏み込まなかった未踏の地だ。

誰もが言葉を止める。
先ほどまでの戦闘から自分の命を守ってくれた武器を各々腕に抱き、
緊張した表情と少し強張った身体で、最後の戦いの始まりを待つ。


音が、更に重なっていく。



111: ◆BYUt189CYA :2008/05/20(火) 23:03:40.65 ID:S4eItPZ50
「――!? 見ろ!!」
「そ、空が……軋んで……!?」

続いての合図は聴覚ではなく視覚へと飛び込んできた。
皆が見る先、何もなかった中枢部の空間が、明らかに軋みをあげながら震えていた。
軋みの震動は、大気へ、空へ、音へ、そして大地へと伝わっていく。

(;゚∀゚)「う、おぁ……っと!? なんだこりゃ?」

(;゚д゚ )「一体何が起きようとしているのだ……!?」

<_;プー゚)フ「おいおい、まさかこのまま世界崩壊一直線じゃねぇだろうな」

从 ゚∀从「――皆さん気を付けてください! 来ます!!」

揺れる地面の上、動揺の声に負けることなくハインが叫んだ。

(;^ω^)「来る、ってまさか……」

从#゚∀从「ここに至るまでの悉くを、例外無く灰燼に帰してきた全ての元凶が――!!」



112: ◆BYUt189CYA :2008/05/20(火) 23:05:03.19 ID:S4eItPZ50
その言葉に、真っ先に反応した者がいる。

クーだ。
彼女は、武器を持っていない方の手を大きく振り上げ、

川#゚ -゚)「総員構えろ! 待ち望んだ決戦だ! そして兄者!!」

(;´_ゝ`)「ふ、ふぁい!」

川#゚ -゚)「本陣へ連絡を入れろ! 出てくるところを狙って『龍砲』をブチ込む!!
     相手がまだ動けない内に、頭を出した瞬間を狙い撃て!」

鋭い声に、兄者は慌てて通信機を手に取った。
それを見届けたクーは、自分を見る全ての味方へ向けて言葉を放つ。

川#゚ -゚)「だが、それでも我々はすぐに動けるよう用意しておくぞ!
     考えたくはないが、『龍砲』で倒せないケースもあるかもしれん!」

(,,゚Д゚)「ふン、そっちの方が直接叩き潰せるがな」

ノハ#゚  ゚)「でもこれで倒れてくれた方が良いに決まってる。
      戦いが続けば、それだけ犠牲になる人も増えるから」

(,,゚Д゚)「……解っているさ。 これで終わるのが一番良いということくらい」



113: ◆BYUt189CYA :2008/05/20(火) 23:06:39.35 ID:S4eItPZ50
( ´_ゝ`)「連絡完了! なんか見えたらすぐにブチかますってよ!」

川#゚ -゚)「よし、これを最後にするぞ!!」

クーが吼え、呼応する皆が闘争心を最大まで引き上げた瞬間だった。
硬いモノが割れる音と同様の響きが、戦場の中央から広範囲に撒き散らされた。

(;^ω^)「く、空間が――」

(;゚д゚ )「――割れた!?」

飛び散るは大小様々な『空間の欠片』だ。
形も何もかもが均一でない欠片は、空に散る過程で粉々になる。
当然、形あるものが割れたということは、そこに代わりがあるからで――

(´<_`;)「うぉ!? なんだあれは!」

('、`*川「空が食われていく……?」

まるで、窓ガラスの一部が割れ砕けているような光景があった。
空間という壁が破砕され、その奥にいる何かがこちら側に出てこようとしているのだ。

軋む音が更に大きくなる。
同じく、空間に開いた穴がこじ開けられていく。

そのサイズは、今まで戦ってきた敵の何よりも巨大であることを示していた。



114: ◆BYUt189CYA :2008/05/20(火) 23:08:17.96 ID:S4eItPZ50
現出する。
異世界からの侵略者――その根源が、遂に姿を見せる。

「「ッ!!?」」

まず最初に見えたのは鋭い爪と、白い毛――獣の前足だった。
今まで見てきた異獣のモノと似ていたが、だた一つ圧倒的に違う点がある。

その大きさだ。

「うぉぉ!? で、でけぇ!?」
「嘘みたいだろ……あれでまだ前足だけなんだぜ……」
「俺のやってきたどんなゲームにも、あんなデケェのいなかったぞ、おい……!!」

割れた空間を乗り越えるようにして上げられた足は、そのままこの世界へ侵入した後、落とされた。

轟音。

踏みつけられた大地は容易く形を崩し、その衝撃の程を伝える。
響く地鳴りと震動が、待ち構える四世界混合軍兵の身体を容易く震わせた。



117: ◆BYUt189CYA :2008/05/20(火) 23:10:39.94 ID:S4eItPZ50
来る。

来てしまう。

最強の生物と謳われる異獣の、その中で最強の存在が――


川#゚ -゚)「――撃てッ!!」


クーの咆哮と同時、一条の光が後方から来た。

魔法世界の技術と魔力を纏め上げて作られた『龍砲』の一撃が、間髪入れずに発射されたのだ。
大気の壁を突き破りながら迸る極太の光線は、出てくる何か目掛けて突っ走る。



直後、戦場全てが大きな光に呑まれた。



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