( ^ω^)ブーンと川 ゚ -゚)クーは抗い護るようです

11: ◆BYUt189CYA :2008/07/22(火) 15:07:38.27 ID:wcoHHkfi0



この戦いが、本当の意味で開幕したのはいつだろうか。


集った四世界の者達が獣に抗うことを決めた時か。

とある科学者の計画によって世界が通じ合った時か。

そのとある科学者が行動を開始した時か。

人の手によって創られた少女が指輪を扱う者達に討たれた時か。

その少女が誕生した時か。

少年が彼女と出会った時か。

また別の科学者が他世界を垣間見た時か。

機械の名を冠する世界が獣に侵略された時か。



或いは――――…………



        最終話 『永き狂走の終焉』



13: ◆BYUt189CYA :2008/07/22(火) 15:08:59.85 ID:wcoHHkfi0
人と獣による激戦は、まずケーニッヒ・フェンリルの足下で開始された。
獣の王を倒そうとする人らと、王を護るように集っている獣との激突だ。

「突撃突撃突撃――ッ!!」

「ぬおぉぉぉぉぉぉぉるぁぁぁぁぁっ!!」

もはや隊列など関係ない。
逸早く誰かがケーニッヒ・フェンリルに辿り着き、ダメージを与えることが肝要だからだ。
そのためには、どんな手を使ってでも獣の壁に穴を開けるしかない。

己の武器を振るい、穿ち、発射する人の群れに迷いは一切なかった。

《グッゥゥ――》

《ガァァァァァァァァッ!!》

迎撃する獣は、白色の狼に似た形をしていた。
しかしサイズは象と同等で、それでいて俊敏さは失っていない。
向かい来る小さき人類を、赤く鋭利な牙と爪、そして巨体で迎え撃つ。

両者咆哮。

人間達は、未来の絶望を払拭するため。
異獣達は、迫り来る希望を退けるため。

互いに一歩も譲ることなく、最初の激突から両軍は均衡した。



21: ◆BYUt189CYA :2008/07/22(火) 15:10:45.15 ID:wcoHHkfi0
「押されるなァ! 前だけを見ろ!!」

「そうだ! 後ろは絶対に見るなよ!
 我らの望む勝利、ただ前にしかないと知れ!!」

《グルァァァァァァッ!》

乱戦となった場の中、人と獣の叫びが交錯する。

更には剣撃の音が、銃撃の音が、爪撃の音が、噛撃の音が重なっていく。
少し遅れて悲鳴が、血潮の噴く音が、激昂の声が、大地を砕く音が追加されていく。

そんな混戦状態となった中、黒の色を纏った女神が声を放っていた。

川#゚ -゚)「進軍せよ! 敵の大将は目の前だぞ!!」

刀状態の14th−W『ハンレ』を左手に持ったクーだ。
己の武器を見せ付けるように掲げ、右手は味方の目指す方角を指し示している。
まるで抗う者達を導くように、だ。

川#゚ -゚)「我らが敵は人に非ず……!
     理性を持ち、しかし欲に溺れた悪鬼! 故に遠慮は無用だ!」

刀を振りかざし、

川#゚ -゚)「――『生』は我らが頂く!!」



28: ◆BYUt189CYA :2008/07/22(火) 15:12:04.22 ID:wcoHHkfi0
若き女性の、しかし似つかわしくない鋭い声に、味方軍の士気は確実に上がっていく。

それもそのはず。
彼女は口だけでなく、戦列にも積極的に参加していた。
敵の先鋒を潰し、劣勢に陥った味方勢を助け、時には道を切り開くため単身で突撃していくのだ。
これを見て士気の上がらない軍勢などいないだろう。

川#゚ -゚)「行けッ! 私は向こうの援護へ向かう!」

「了解!!」
「あとは任せろ、女神様!」
「アイツぶっ倒したらチューしてくれ!」

川 ゚ー゚)「ふっ……内藤が許せば頬くらいにしてやろう」

「おいおい、そりゃケーニッヒ・フェンリル倒しても無理じゃねーかぁ!?」
「こうなったら内藤の奴をちょっと脅して……」

川 ゚ -゚)「……今、誅(ちゅう)されたいか?」

「「何でもありません行って来ます!!」」

気合も新たに突っ込んでいく兵を見送ったクーは、まったく、と漏らしながら苦笑した。

この状況であれだけの冗談が言えるのなら心配無用だろう。
それに、もし危なくなっても助けてくれる者は何処にでもいる。
今自分がすべきは誰かの心配ではなく、戦場を走り回って皆を鼓舞することだ。



31: ◆BYUt189CYA :2008/07/22(火) 15:13:54.99 ID:wcoHHkfi0
川 ゚ -゚)「ところで――」

適当に見当をつけて走り始めたクーは、自分の周りを見渡し

川;゚ -゚)「……内藤は何処へ行ったのだろうか」

激突開始時には傍にいたはずなのだが、この乱戦の中、いつの間にか逸れてしまったようだ。
状況が状況だけに仕方がないとはいえ、多少の不満も出るというもの。
しかし彼女は溜息一つで払拭し、

川 ゚ -゚)「まぁいい。 私を残して倒れる男でもなかろう」

ここまで生き残ってきた実力――それがたとえ運だとしても――は、決して偽物ではないはずだ。


それに、クレティウスが一緒にいる。


確かに彼(?)はほとんど素性が知れないが
それでも自分達はともかく、ブーンを裏切ることはしないだろう。

根拠も何もないが、クーはそう判断していた。



35: ◆BYUt189CYA :2008/07/22(火) 15:15:40.70 ID:wcoHHkfi0
現状、むしろ危険なのは自分である。

単独で行動しており、その位置は常に流動的だ。
もし誰にも知られず命を落としたり、行動不能になった場合、自軍に大きな混乱が生じる可能性が高い。
『最強』を自負する異獣達が、それを解らぬわけもなく。

川 ゚ -゚)「ふン……いいだろう、邪魔をするのなら切り払うだけだ」

己の周囲を囲いつつある獣達に、クーは冷たい視線をぶつけた。

《グルルルル……》

見たところ、敵の数は六。
その全てが三メートルクラスの巨体だ。
一塊になって戦う皆ならともかく、女性一人が抗うには厳しい状況である。

しかしクーの顔には、焦りとは無縁の強かな笑みが浮かんだ。

川 ゚ -゚)「その判断は良し。
     だが、認識がまだ甘いようだな……その程度の戦力で、私を倒せると思うなよ」

何故なら、と言い

川#゚ -゚)「私達はもう、二度と止まることなどないのだから――!!」



39: ◆BYUt189CYA :2008/07/22(火) 15:16:58.31 ID:wcoHHkfi0
更なる混乱を生む戦場。

その中で人が砕かれ、しかし同じように獣も砕かれていく。
しかし誰もが後ろを振り返ることなく、己の武器に意志を乗せて振るった。

確かに恐怖はある。

噛み千切られる激痛は想像を絶するだろう。
身体のどこかが無くなるかもしれない、と考えるだけで震えがくる。
自覚もない間に死ぬことすらあるのだから、嫌な予感と恐怖を止めることは出来ない。

「だが――!」

それでも身体は前を目指した。

理屈などない。
言葉でも説明は出来ない。

ただ心の底にある何かが、有り余る恐怖を尚、凌駕しているだけだ。

「そっち行ったぞ! 気をつけろ!!」

「OKブラザー! 射線を集中させろ!
 怯んだ隙に近接部隊、一斉にブチ抜けッ! 獣姦でも何でもいいからファックして穴ァ開けろ!!」

《――ギュァァァァァァァァアアアア!!》

「うるっせぇ!! もう誰もビビらねぇよクソ獣がぁぁぁぁっ!!」



42: ◆BYUt189CYA :2008/07/22(火) 15:18:38.48 ID:wcoHHkfi0
一斉射撃に怯んだ獣に、剣や槍を持った兵達が突っ込んでいく。

多重の撃音。
そして断末魔の叫びがそれを追う。

今まで彼らを縛っていた恐怖はどこへやら。
完全にトリップした一部の兵達が、まったく怖じることなく獣へ立ち向かっていく。
戦術面で見れば愚かとしか言い様のない行動だったが、今の混合軍にとっては何よりの興奮剤だった。

興奮は恐怖を消し、気迫を呼び起こす。
増していく勢いは限度を知らず、更に更にと脳髄を熱く焦がしていく。

しかし、そのうなぎ上りな状況に文句を言う者もいる。

<#ヽ`∀´>「まったく……!
       今日のウリは、馬鹿の面倒ばかりニダ!」

彼らの後方から援護射撃を送るのはニダーである。
無駄に戦力が削られないよう、的確な射撃と指揮で戦線を保っている。

異獣に対する知識、経験が人一倍豊富な彼は、今や無くてはならない存在だった。



48: ◆BYUt189CYA :2008/07/22(火) 15:20:11.94 ID:wcoHHkfi0
冷静な観察眼で戦場を見渡し
獣に襲われかけている者を見つけては、狙撃。
弱り始めた獣を見つけては、その脳天を狙って狙撃。

その技量は、時には四方戦の主要メンバーすら助けることがあった。

('、`*;川「ぬわっとぉ!?」

ペニサスの眼前を光の弾丸が掠めた。
同時、彼女が相手していた異獣の右前足が弾け、その動きが一瞬だけ止まる。

好機だと思う前に身体が動いていた。
ワンステップで跳び、腰の捻りを加えた回し蹴りを顔面に叩き込む。
肉が千切れ、骨が割れ砕ける感触を得ながら、ペニサスは身を綺麗にロールさせて着地し、

('、`*;川「ちょっとアンタ、撃つなら撃つって言ってから撃ちなさい! 私以外を!」

<ヽ`∀´>「心配する必要はないニダ。 味方には当てんニダ」

('、`*川「私のか弱いハートには当たったわよ、ビックリドッキリ的に!
     あとで謝罪と賠償を要求するから覚悟しておk――」

がなり立てるペニサスの背後に、異獣が飛び掛かった。
すぐさまニダーがライフルを構えるが、

('、`*#川「――うっさいわぁ!!」

それよりも速く、ペニサスの踵上げ蹴りが異獣の顎を砕いた。



58: ◆BYUt189CYA :2008/07/22(火) 15:21:56.77 ID:wcoHHkfi0
('、`*川「まったく、どいつもこいつも……」

手をはたき、改めてニダーを見れば、彼は額に汗を浮かべ、

<;ヽ`∀´>「……か弱いハート?」

('、`*;川「…………」

問われたペニサスはその場で一回転。
片手を頭へ、目を強く瞑り、軽く舌を出し、

(>、<*川「いやーんペニサス怖くて涙が出ちゃうー☆」

<ヽ`∀´>「…………」

ニダーは無視した。



66: ◆BYUt189CYA :2008/07/22(火) 15:23:35.09 ID:wcoHHkfi0
ノハ#;゚  ゚)「……馬鹿だ」

一連の様子を遠くから見ていたヒートは、感想混じりの溜息を一つ。
しかしその身は腰を深く落としており、爪を立てる異獣に黒い刃を合わせていた。

《ガァァァァァァ!!!》

ノハ#゚  ゚)「さっきから、そんな誇りも意志もない攻撃で――」

弾き、

ノハ#゚  ゚)「今の私達の心を折れると思うなッ!!」

斬撃する。
かち上げの動きから、一気に刀身を落としたのだ。
縦に切り裂かれた獣は死の叫びをあげて地に伏せる。

しかしそれで終わりではない。
また新たな異獣が、最前線に立つヒートを睨み始めていた。



70: ◆BYUt189CYA :2008/07/22(火) 15:24:54.07 ID:wcoHHkfi0
ノハ#゚  ゚)「ダイオードの使っていた剣……悪くない」

いるだけで震え上がりそうな殺気の中、ヒートは軽い感想を放つ。

かつて尊敬すらしていた騎士の剣。
彼女の真の目的や言動をミルナから聞いた時は驚きもしたが、しかし今は違った。
柄を両手で握り、重さを感じ、吸い込まれそうな刀身を見ていれば解る。

――ダイオードがこの剣と共に戦い抜いた意志は、紛れもなく本物であったろう、と。

だから必要以上に重く感じるのかもしれない。
華奢な両腕に圧し掛かる重量は、今のヒートにとっては心地良いものだった。

陶酔すらしてしまいそうな感覚の中、獣が飛び掛かる姿勢を作ったのを見る。
だが、ヒートはその前に疾駆を開始していた。

ノハ#゚  ゚)「まだ私に挑むか……ならば、解るまで刻み込んでやろう――!」

激突の直前、軽く跳ぶ。

ノハ#゚  ゚)「英雄としての誇りを! そして私の感情を!!」

《《ガッ!!?》》

まさに一瞬の出来事だった。
地面と平行になるように構えた巨剣で薙ぎ払う。

その刀身に触れた敵を、空気を、塵を一気に弾き飛ばしたのだ。



82: ◆BYUt189CYA :2008/07/22(火) 15:26:54.96 ID:wcoHHkfi0
しかしそこで終わらないのが英雄の技量。

着地したヒートは、回転を止めることなく更に前へステップを踏む。
遠心力によって生まれるロールは斬撃の数を増やし、彼女の感情を刻んでいった。

ノハ#゚  ゚)「おぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!」

血潮と悲鳴の中、仮面の姫が舞い踊った。
遠心力を最大限に活かした連続攻撃は、まさに熟練された円舞。
蜘蛛姫の名に相応しい、豪胆でありながら美しささえ感じる戦闘だ。

( ゚∀゚)「うっひょー、やるじゃんテメェ!
     それ知ってるぞ! 何とか無双っていうゲームの技だろ!?」

声は上から。
鎖を纏い、その手に紫色の槍を持つジョルジュだ。

ノハ#゚  ゚)「……英雄の技とゲームが一緒に見えるか。
      私もまだまだ修行が足りないな」

( ゚∀゚)「でもそんなの関係ねぇ! ついでに俺様も混ぜろ!!」



85: ◆BYUt189CYA :2008/07/22(火) 15:28:17.89 ID:wcoHHkfi0
ヒートの回転斬撃が終わると同時に、ジョルジュが着地。
その時には既に彼の攻撃が始まっていた。

《ガッ――アァァ!?》

突如、ジョルジュ達を包囲していた獣達がバランスを崩す。
原因は足下だ。
ジョルジュのいつの間にか放っていたユストーンが、敵の前足を引っ掛けている。

( ゚∀゚)「覚悟しとけよ薄汚ねぇ獣が……!!」

素早く両腕をクロス。
そうすることで、5th−W『ミストラン』が真横に構えられた。
彼は腕の力だけで一気に回転を加え、

(#゚∀゚)「居場所もねぇようなホームレスが俺様に勝てると思うなぁぁぁ!!!」

ジョルジュを中心に、刺突が炸裂した。

しかも一つではない。
周りにいる獣達の顔面を、見えぬ槍が一度に貫いたのだ。



91: ◆BYUt189CYA :2008/07/22(火) 15:29:34.53 ID:wcoHHkfi0
( ゚∀゚)「うひゃひゃ! ぼーっとしてると死ぬぜぇ?」

ノハ#゚  ゚)「お前、今のは……」

( ゚∀゚)「理屈は聞くなよ。 俺様にはまったく解んねぇからな」

だが、と言い

( ゚∀゚)「一つ言えるのは、優秀作たる俺様に不可能はねぇってことだ。
    回収は面倒だが意外とおもしれーぞこの槍……ま、借り物だから貸さねぇけど」

狡猾な笑みを浮かべたジョルジュは刺突の回収へ向かう。
時間制限がどれほどあるのか解らないが、それはとても度胸のある行動に思えた。

ノハ#゚  ゚)「何が彼を変えたのか……戦いが始まる前とは大違いだな」

それは自分も同様だが、と心の中で付け加える。
今まさに死線の中にいながら何故か気分はこの上なく晴れやかで。

ヒートは、いつも以上に高揚し、そしていつも以上に戦える自分を自覚していた。



98: ◆BYUt189CYA :2008/07/22(火) 15:31:36.72 ID:wcoHHkfi0
《ウゥゥ――グァァァァァ!!》

しかし想いに浸る間はない。
前方、低く構えていた異獣が襲い掛かってくる。

気配はそれだけに留まらない。
更に背後からも強い敵意を感じるということは
ヒートを強敵と認めた上で確実に仕留めに来たのだろう。

ノハ#゚  ゚)「――――」

だが、甘い、と思う。
この程度の挟み撃ちで英雄たる自分を捉えるつもりとは。

……英雄の技量を嘗めるな。

思いながら踵で地を蹴った。
前後を挟まれる形となったヒートは、悠然とブロスティークを構え、

「――ヒート!」

ノハ#゚  ゚)「ッ!!」

直前に聞こえた声に、反射の勢いで前方へ跳んだ。
牙を剥いてヒートを引き裂こうとしている獣の首を刎ね、深い着地姿勢をとる。
背後を狙っていた敵に対して無防備な背中を晒すことになるが、彼女は特に焦らなかった。



105: ◆BYUt189CYA :2008/07/22(火) 15:33:07.66 ID:wcoHHkfi0
「ぬんッ!!」

気合の声に、骨が粉々に砕ける音。
重なった二つの音はヒートの背中にぶつかり、心地良い震動を骨に与える。
今まで何度も聞いてきたリズムとテンポに、笑みを止められなかった。

ノハ#゚  ゚)「流石だね、ミルナ」

( ゚д゚ )「――あぁ、お前の背中は護り甲斐があるからな」

拳の一撃で異獣を粉砕したのはミルナだった。
腰を深く落とした姿勢から、流れるような動作で立ち上がる。
拳に付いた血を払いながら周囲を警戒する姿は、まさに騎士そのものだ。

ノハ#゚  ゚)「流石弟者はいいの?」

( ゚д゚ )「何とか無事に後方へ送り届けた。
     これから俺も戦線に戻る」

そう言うミルナは周りを見渡しながら、

( ゚д゚ )「……さて、敵は巨大な獣の群。
     そして誰もが本気になる戦場の中、勢いは均衡しつつある。
     こんな状況を一気に傾けることが出来たら――愉しいだろうな?」

ノハ#゚  ゚)「答えるまでもない。
      そのために私達、英雄がいるようなものだ」



112: ◆BYUt189CYA :2008/07/22(火) 15:34:37.00 ID:wcoHHkfi0
各々の武器を構え、両者並び立つ。
戦いに特化した遺伝子を受け継ぐ彼らにとって、今この状況こそが待ち望んでいたものである。
己の武をぶつけ、道を切り開いていくことこそが英雄としての愉悦なのだ。

もはや本能レベルに刻まれた感情に、二人は呼吸によるリズムを合わせていく。

何よりも容易いことだった。
自分は誰よりも相手のことを知っていて、その逆もまた然り。
『合わせる』という意識すら持つ前に、ヒートとミルナの呼吸は寸分の狂い無く一致した。

ノハ#゚  ゚)「「――!!」」( ゚д゚#)

瞬間、土煙が舞う。
二人の踏み込みの力が大地を砕いたのだ。
同時に前へ疾駆した二人は、道を阻むように構える異獣を睨み、

ノハ#゚  ゚)「――はぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」

吼える。
鋭い空気の振動が、津波となって獣達にブチ当たった。

普通の人間ならば失神してしまうほどの覇気に、しかし異獣は身を固めることで耐え切る。
自ら『最強』を名乗る生物である以上、他の生物に気圧されるわけにはいかない。

野性と狂気の中にある、小さいが、確かに存在するプライドが英雄との対峙を実現した。



117: ◆BYUt189CYA :2008/07/22(火) 15:36:07.74 ID:wcoHHkfi0
《グルァァァァァァァ!!》

獣の迎撃は単純なものだ。
馬鹿正直に正面から突っ込んでくるのであれば、そこ目掛けて爪を叩き込めばいい。
勢い余った二人は、相対速度で自ら深く突き刺さるだろう。

そんな一つの未来に、二人の判断は一瞬で対応した。

ノハ#゚  ゚)「「ッ!!」」( ゚д゚#)

跳躍。
しかも上ではなく横――ヒートが右で、ミルナが左――へ。
まったく迷う素振りすら見せず、二人は同時に同じ対応を為したのだ。

予め打ち合わせていたかのような素早く正確な動作。
いきなり二手に分かれた敵に、異獣はどうすべきか判断を見失う。
通常で考えれば限りなく短い思考時間は、しかし英雄にとって絶好の好機と化した。

ノハ#゚  ゚)「おぉぉ――!!」

左手から突っ込んできたのはヒート。
たった一回のステップを刻むことで急激な方向転換を行なった彼女は
異獣が反応する間に、その黒い刃を――

(#゚д゚ )「喰らえッ!!」

《ギッ!!?》



124: ◆BYUt189CYA :2008/07/22(火) 15:37:46.47 ID:wcoHHkfi0
だが、ここにきて予想が大きく外れた。

左から来るヒートに気をとられた直後、いきなり右から強い衝撃が来たのだ。
二人の完璧なコンビネーションに、異獣は何が起きたのかを知ることなく絶命することとなった。

ノハ#゚  ゚)「喰らえええええっ!」

そしてフェイントとして先に跳んでいたヒートは、
背後で獣が倒れる音を聞きながら、奥にいた獣の頭を両断する。
血潮を浴びる暇なく次の獲物へを狙う貪欲な姿は、まさに『蜘蛛姫』の名に相応しい。

そして一体を相手すると見せかけての二体同時撃破は、心身共に通じ合う二人にしか出来ぬ芸当だろう。

( ゚д゚ )「この呼吸……あの頃のまま、変わっていないな」

ノハ#゚  ゚)「当然! 私は私だ!
      顔が無くなろうとも、何年経とうとも、この事実だけは絶対に変わらない!!」

だから、と言い放ち

ノハ#゚  ゚)「安心して私の背中を護ってくれ、ミルナ!
      私は昔と変わらず無茶をするぞ!!」

( -д- )「あぁ、安心しよう。
     お前が無茶をする限り、この戦いはお前の思うがままだからな。
     そのサポートを行える俺は、おそらく世界で一番幸せ者だろうさ……!」



132: ◆BYUt189CYA :2008/07/22(火) 15:40:20.04 ID:wcoHHkfi0
(;^ω^)「あれ……クーは何処行ったんだお……?」

乱戦極まる戦場で、ブーンは見事に迷子になっていた。
先ほどまで一緒にいたはずのクーを探し、きょろきょろと周囲を見渡す。
と、そこで見知った顔を見つけた。

( ^ω^)「あ、ジョルジュ! 無事かお!」

( ゚∀゚)「んあ?」

( ゚ω゚)「ほわぁぁぁ!!?」

散り散りとなった仲間の一人に出会えたブーンは、しかしいきなり顔面目掛けて穂先をブチ込まれた。

(;^ω^)「いきなり何するんだお!?
     って、それは……5th−W『ミストラン』かお?
     成程、今のは刺突の回収ってわけk……まさかショボンから奪ったのかお!?」

三段もの連続問い掛けに、ジョルジュはうんざりしたような表情を浮かべる。

(;゚∀゚)「お前な、俺様のキャラ誤解してねぇか?」

( ^ω^)「うーん……口が悪くて大雑把で馬鹿で、全体的にどうしようもないっていうか……」

(#゚∀゚)「あとで刺す。 巻いて刺す。 泣くまで刺す」

(;^ω^)「あばばばばばばばばばば――って、あれ?」



139: ◆BYUt189CYA :2008/07/22(火) 15:42:02.55 ID:wcoHHkfi0
馬鹿会話を展開する男二人が、ふと気付く。
いつの間にか周囲を異獣に囲まれてしまっていることに。
慌てて構えをとるブーンと、肩をすくめたジョルジュが背中合わせになる形で立った。
ジョルジュが9th−W『ユストーン』を地面に垂らしながら

( ゚∀゚)「おい、そういやテメェは何でここにいる?」

( ^ω^)「え? いや、特に理由はないお。
     強いて言うなら、がむしゃらに戦ってたらジョルジュがいたから。
     最初はクーと一緒に戦ってたんだけど……あれ、もしかして僕って迷子?」

( ゚∀゚)「馬鹿はどっちだか……ったく、まさかテメェとこうやって一緒に戦うなんてな」

( ^ω^)「おっおっ、そういえばそうだお。
     最初の頃はジョルジュがクーを襲ってたから驚いたお」

それはブーンにとって全ての始まりとなった戦闘だった。
ある日、学校に現れた不審者クーとジョルジュとのいきなりの交戦。
巻き込まれた少年は、自分の身とクーを護るために白き拳を得た。

( ゚∀゚)「俺様もだ。 まさかいきなりウェポン使いこなされるとはな。
     しかもこの俺様がただの素人にあれだけ抵抗されるたぁ……まぁ、今のお前を見てりゃ納得だが」

( ^ω^)「変わったお。 僕も君も」

以前に比べてブーンは強くなった。
同じようにジョルジュも。

それぞれ、様々な部分が。



149: ◆BYUt189CYA :2008/07/22(火) 15:44:02.82 ID:wcoHHkfi0
( ゚∀゚)「でも変わってねぇこともあるぜ?」

( ^ω^)「お?」


( ゚∀゚)「……お前がクーを護ってやらなきゃならねぇっていう事実さ」


一瞬、戦闘体勢に入っていたブーンの顔が固まった。
背中合わせになっているため表情を見ることが出来ないジョルジュは、そのまま言葉を続ける。

( ゚∀゚)「アイツは俺様と違って弱虫だからな。
     誰よりも真面目で、真剣で……だからしょーもねぇことで悩んで、苦しんで、でも答え出してさ。
     だからこそ他人のことも本気で考えられて、正直すげーと思う。
     あ、これアイツに言うなよ? 調子乗るからな」

( ^ω^)「ジョルジュ、君は……」

( ゚∀゚)「他人に対して本気になれるから、誰かが代わりにアイツを護ってやらなきゃならねぇ。
     そしてその役目は、あの最初の戦いからテメェだって決まったんだよ」



162: ◆BYUt189CYA :2008/07/22(火) 15:45:56.53 ID:wcoHHkfi0
だから、とジョルジュは言う。
右手を振るえば鎖がのたうち、左手を振るえば槍が風を切った。
仁王立つような構えをとったジョルジュは、ブーンの背中を押すように、

( ゚∀゚)「ここは俺様が任された。 さっさとテメェはクーのところへ戻れ。
    きっとアイツは……今も他人のために馬鹿やってるだろうからよ」

( ^ω^)「……ズルいお。
     何でジョルジュの方が僕よりクーのことを理解してるんだお」

( ゚∀゚)「さぁね。 俺様には難しい理屈なんぞ解らねぇーよ」

ぶっきらぼうな口調にブーンは、ウソツキ、と呟いた。

ジョルジュとクーは、言ってしまえば同じ人間である。
性格の差異はあれど、同じ制作者、同じ時期、同じ方法で作られているからには
芯となる心の根源が同一でもおかしくはない。

だからジョルジュには解るのかもしれない。
クーの気持ちはきっと、自分のそれと限りなく近いはずだからだ。

( ^ω^)(つまり逆を言えば、君も――)

(#゚∀゚)「早く行け! そしてテメェはテメェの仕事を果たせ!
     自分の仕事も満足にやり遂げられねぇ奴は速攻でクビだぜ!?」

( ^ω^)「……ッ! 生きて帰ったらバーボンハウスで奢るお!!」



173: ◆BYUt189CYA :2008/07/22(火) 15:48:08.12 ID:wcoHHkfi0
駆け出すブーンの気配を背中で感じながら、ジョルジュは逆方向へ走る。
同時に仕掛けておいた鎖を波立たせ、ブーンを追い掛けようとする獣の足止めを行なった。

周囲にいる全ての獣の殺意が、ジョルジュを捉える。

( ゚∀゚)「バーボンハウスのメニューじゃあ割に合わねぇな、こりゃ……」

敵の数は八。
そのどれもが巨大で、しかし俊敏かつ獰猛な獣だ。
いくら9th−W『ユストーン』と5th−W『ミストラン』を操るジョルジュでも、この状況には流石に身の危険を感じる。

《ウゥゥゥゥゥ……》

(#゚∀゚)「けっ、さっさと掛かってこいっつーの。
     言っとくが俺様は何がなんでも生き残るつもりだから覚悟しろよ。
     たとえ腕や足が何本無くなろうとも――」

瞬間、死の旗を立てそうな言葉を遮るように、光が降り注いだ。



181: ◆BYUt189CYA :2008/07/22(火) 15:49:27.47 ID:wcoHHkfi0
流星の如く落ちる光は、細長い線となって獣の身体に突き刺さった。
一度に半数ほどの数を減らされた敵群は、何事かと空を見上げる。

(;゚∀゚)「なっ……?」

*(‘‘)*「やれやれ、これだから馬鹿は。 後先考えて戦えってンですよ」

( ゚∀゚)「テメェ……俺様を助けるたぁ良い度胸じゃねぇか、ヘリコプター」

*(#‘‘)*「ヘリしか合ってねぇーじゃねぇですか馬鹿!」

(#゚∀゚)「どっちも同じだろうが! 空飛ぶし!」

*(#‘‘)*「アンタ空飛べば何でも一緒に見えるんですか!?
     親切心で言いますが頭の病院へ行きなさい!」

(#゚∀゚)「命令かよ!!」

*(#‘‘)*「後ろ!」

(#゚∀゚)「あ!?」

振り向けば攻撃が来ていた。
足を止めて口論していた二人は、しかし瞬時に動いて回避する。



193: ◆BYUt189CYA :2008/07/22(火) 15:51:29.03 ID:wcoHHkfi0
(;゚∀゚)「ちィっ……人が争ってる時に手ェ出すなっつーの!」

*(;‘‘)*「味方同士で争ってりゃ敵の攻撃が来るのは当たり前です!」

言う間に攻防が始まっていた。
まずジョルジュが跳躍し、その下をヘリカルが低い姿勢で疾駆。
油断した獣の顔面に杖の先端が突きつけられ、次の瞬間には桃色の光にブチ抜かれる。
そしてその隙をカバーするようにジョルジュが割って入り、

(#゚∀゚)「おらよっ!!」

突き上げられた不可視の刺突が、少し離れた位置にいる獣の胸部を穿った。

*(‘‘)*「ジョルジュ!」

もはや明確な指示は要らない。
ステッキを構えるヘリカルを見たジョルジュは、迷わず前へ跳んだ。

一瞬前に彼の頭があった空間を、鋭利な爪が通過していく。

*(#‘‘)*「引っかかりやがりましたね! そいつは囮です!!」

間髪入れずに光線が走った。
ピンク色に染まったそれは途中で三股に分かれ、空振りする異獣の腹部を貫く。
赤黒い血が噴出するのを見届けたヘリカルは、満足そうに頷き

(#゚∀゚)「勝手に人を囮にすンな!!」

ジョルジュの軽いチョップを脳天に受けた。



200: ◆BYUt189CYA :2008/07/22(火) 15:53:01.78 ID:wcoHHkfi0
*(;‘‘)*「……っ!? な、何をしやがりますか!!」

( ゚∀゚)「生意気なんだよテメェ。 あと、ゴニョゴニョ……」

*(‘‘)*「は? 何て?」

(;゚∀゚)「あーくそっ! 聞いとけ馬鹿! あと一度しか言わねぇからな!」

バツの悪そうな表情を浮かべるジョルジュは、しかし頭を下げながら



( ゚∀゚)「さっきはたすけてくれてありがとー」←棒読み



*(‘‘)*「…………」

(;゚∀゚)「な、何だよその奇妙な動物を見るような目は!?」

*(;‘‘)*「いやー……すげーモン見ましたよこれ。 ねぇ?」

周囲、視線が集まっているのをジョルジュは感じる。

首を回して見てみれば、何人かの兵が懐に携帯電話を入れるところで
何やってんだ、と瞬間的に思ったジョルジュだが、すぐに自分の考えの過ちに気付いた。



210: ◆BYUt189CYA :2008/07/22(火) 15:54:48.47 ID:wcoHHkfi0
(;゚∀゚)「テ、テメェら、まさか……!!?」

「いいぞジョルジュ! ナイス謝罪!」
「おい、誰か代わりに前に出とけ。 ちょっと皆に緊急なメールしなきゃならんから」
「あ、その写真僕にも送っといてくださいね」

(#;∀;)「止めろおおおおおおおお!!」

*(‘‘)*「あははは、バーカ」

可笑しそうに笑うヘリカルが、ジョルジュの睨みを受けながら空へ浮かんだ。
ステッキに腰を乗せて浮かぶ姿は魔女を彷彿とさせる。

*(‘‘)*「んじゃ、今度はちょっと上の方へ行ってきますね。
     アンタが寂しくなった頃に降りてきますから、安心してください」

(#;∀;)「二度と戻って来るんじゃねぇよ馬ァー鹿! ちくしょう!!」

半分涙目になっているジョルジュを真下に、ヘリカルは一気に上昇した。



221: ◆BYUt189CYA :2008/07/22(火) 15:56:52.98 ID:wcoHHkfi0
そのまま上へ向かって宙を駆ける。

右手にはケーニッヒ・フェンリルの胴体が、左手には突き抜けるような赤い空だ。
赤い景色は今や見慣れてしまった光景だが、この世界本来の姿ではない。
そして元の光景を取り戻すためには、異獣全てを相手に戦い抜かなければならない。

向かう先からは、断続的に響く音があった。

戦闘の音だ。
それに混じり、誰かの叫び声や獣の吠声もある。

乱戦状態の地上に比べ、空の戦いは単純なものだった。
敵と呼べる存在はケーニッヒ・フェンリル一体で、対する味方はハインを筆頭とする空を駆ける兵達だ。

彼らは空を自在に走り、隙を見ては攻撃を叩き込んでいる。
対するケーニッヒ・フェンリルの迎撃は噛み付きくらいしかなく、一見すればやられ放題にも見える。
しかし実際は一撃の攻撃力と速度が大きいこともあって、単純なミスが命取りになる綱渡り状態であった。

そしてその中でも、特に高速を生む存在が二つある。

『イィィィィィヤッホォォォォォォォォ!!』

奇声を発しながら灰色の戦闘機と、

『行け……!!』

攻撃の意志を乗せながら黒色の戦闘機の二機だ。
風を切り、破片を纏っての飛翔は、まさに疾風一陣の体現である。



228: ◆BYUt189CYA :2008/07/22(火) 15:58:44.36 ID:wcoHHkfi0
*(;‘‘)*「まったく……あの人達はいつも騒がしいですね」

そんな光景を見ながら、ヘリカルは溜息を吐いた。

どちらかと言えば『質素で派手』などという矛盾した戦法を好むヘリカルは
雄叫びをあげながら、風切音を奏で、爆撃の重奏を敷くエクスト達のやり方が気に入らないらしい。

しかし、その攻撃力は目を見張るものがあった。
高速連打の射撃音が威力の程を物語っている。

*(‘‘)*(ま、人の戦闘スタイルに口出す暇なんてありゃしませんか)

他人のやることに何かを言えるのは、己が満たされている者だけだ。
まだまだ未熟であると自分で解っているヘリカルは、それ以上言うことなく自分の役割を確認する。

攻撃はシャキン達が担っている。
となれば、足りないのは囮や弾幕を張る支援役だろう。
広範囲をカバー可能な武装を持つヘリカルにとっては得意な分野だ。

*(‘‘)*「さて、と……って、あら……?」

丁度良い位置を探そうと首を振った時、ヘリカルは奇妙なモノを見た。



239: ◆BYUt189CYA :2008/07/22(火) 16:01:13.00 ID:wcoHHkfi0
それは、空中に浮かぶ桃色のドラゴンだった。

どこかコミカル調にも見受けられる造形の竜が、大きな両翼の羽ばたきによって宙に静止。
頭の上には兄者が、いつになく真剣な表情で腕を組んで立っている。
見方によっては、それは酷く間抜けな格好にも見受けられる。

*(;‘‘)*(あんな場所で何やってんですか、あの馬鹿は……)

よほど余裕があるのか単なる馬鹿なのか。

どちらにせよ、あんな狙われやすそうな位置にいるのは自殺行為である。
今はまだ良いが、もしケーニッヒ・フェンリルが対空攻撃手段を出してきた時が危ないだろう。

*(;‘‘)*(やれやれ……一応、見に行きましょうか。
      まったく世話の焼ける男です)

決戦が始まって早々に二度目の溜息を吐きながら、
ヘリカルはステッキの先をドラゴンへと向けた。



247: ◆BYUt189CYA :2008/07/22(火) 16:03:02.97 ID:wcoHHkfi0
( ´_ゝ`)「…………」

兄者は深い思考の底にいた。

考える先は、異獣について、である。
現物を見てから抱いていたいくつかの疑問を、思考していく。
こういう状態になった兄者は、やたらと真面目なので取扱注意だ。


さて、異獣とは世界を喰う獣として認知されている。
中身で言えば、世界に必ず一つある『純正ルイル』を捕食することだ。
そのために数ある世界を次々と襲い、丸ごと滅ぼしてきた。

今回、この世界に侵攻してきたのも同じ目的からである。


――では何故、捕食するのか。


そう、すっぽりと抜け落ちていた違和感の正体はこれだ。
敵の一連の『行動理由』が、今までまったく解明されていないのだ。
特に『純正ルイルを喰う』という行為に、確かな目的が確認されていない。

(生きるため、か?
 違う。 魔力を喰わねば生きていけないのなら、純正ルイルを喰う必要はない。
 アレは核さえ残っていれば、半永久的に魔力を放出し続けるのだから)

いくつか集めて保管しておけば済む問題だ。
それをしないということは、捕食するのに別の理由があるからに他ならない。



255: ◆BYUt189CYA :2008/07/22(火) 16:04:53.46 ID:wcoHHkfi0
( ´_ゝ`)(魔力とは、奴らにしてみれば『力の濃度』だろう。
     喰えば喰うほど増していく……確かに厄介だ)

だが、それだけではないはずだ。
そうでなければ説明出来ない。

( ´_ゝ`)(雑魚異獣の主成分は魔力……魔力を依り代とする人形のようなもの。
     それはつまり……?)

魔力を喰う行動。
魔力で構成されている異獣。
ケーニッヒ・フェンリルの異獣を生み出す能力。

それらを一本の線にまとめるならば――


( ´_ゝ`)「異獣は、異獣を生むために魔力を必要としている……?」


そうだとして、果たして何のためだろうか。
何を目的として異獣を生み出しているのか。

他の世界を滅ぼすため、という見方が強いかもしれない。

しかし断ずるには納得出来ない要素がある。
ミリアやキリバの圧倒的な戦闘力があれば、他の雑魚は要らないのではないか、と思えるからだ。
純正ルイルを奪うだけなら、彼女達の力を使うことで容易く達成出来るはずなのだ。



270: ◆BYUt189CYA :2008/07/22(火) 16:07:24.41 ID:wcoHHkfi0
( ´_ゝ`)(奴らの行動原理は『純正ルイルを奪う』ことであって世界を滅ぼすことじゃない。
     結果的には滅ぼしているんだが……それは純正ルイルを奪うことによる副次的な現象だ。
     だが、どこか異獣は戦いを望んでいる部分もある。
     やはり何かがおかしいぞ、コイツら……)

こんなに魔力を集め、兵隊を生み出して何をしたいのか。
最近では人間を用いた実験・改造を行なっている。
つまり奴らは大軍勢でありながら、更なる力を欲しているのだ。

何故。

強さに対する欲求か。
最強生物としてのプライドを保持するためか。
それとも単に、自分の考えが誤っているのか。

( ´_ゝ`)(考えろ、考えろ俺……!
     もしかしたら重要なことが解るかも――
     ひいては、俺達が最小限の被害で勝利することが出来るかもしれんのだ……!)

兄者の頭の中で思考が迸る。
計算とは異なる論理展開が、複雑に絡み合う神経を焼く勢いで広がっていった。
一つの答えを得るため、そしてそれが正しいのか確かめるため。

繰り広げられるは不可視の理論構築。
幻想と呼べる実体の無い脳内空間で、いくつもの意見や仮定がぶつかり合う。

ヘリカルが近付いてくるのも気付かぬまま、兄者は更に思考の深みに沈んでいった。



278: ◆BYUt189CYA :2008/07/22(火) 16:09:26.23 ID:wcoHHkfi0
空戦を役目とする者が幾人かいる。
その内、最も速度を生んでいるのは二機の戦闘機だ。

ケーニッヒ・フェンリルを中心として竜巻を生むように旋回する鉄鳥。
敵が別方角を見ている時を見計らい、その無防備な背中や頭に機関銃の雨を降らせている。
しかし、

<_;プー゚)フ『ちっ、どうにもこうにも戦ってる感じがしねぇ』

エクストが不満を漏らすのは当然だ。
いくら攻撃をぶつけても、敵は痛がる様子をまったく見せない。
のれんに腕を通しているような感覚だった。

冷静で長期的な視点を持つシャキンに対し
速攻、突撃等の短絡的な行動を好むエクストにとっては、現状がつまらなく感じるのだろう。

(`・ω・´)『無駄ではない。 気持ちは解るがな』

<_プー゚)フ『こう、一気に勝負を決める方法はねぇもんかねー』

(`・ω・´)『無いことは無いが……この場面で使用しても、大した結果は得られんだろう』

エクストの駆るGDF『ミョゾリアル』には、13th−W『ラクハーツ』。
シャキンの駆るEMA『キオル』には、6th−W『ギルミルキル』がある。

攻撃の属性は異なれど、本質は同じ――突撃による体当たりだ。
大型異獣ですら一撃でブチ抜く威力だが、ケーニッヒ・フェンリルに通じるかは怪しいところである。
むしろその厚い魔力の防御に、こちらの方が破壊されるかもしれない。



286: ◆BYUt189CYA :2008/07/22(火) 16:11:04.34 ID:wcoHHkfi0
<_;プー゚)フ『んなこと言うなら、どうやって倒せってんだよ。
         「龍砲」が効かなかったんだろ?』

(`・ω・´)『流石兄者が言うには直撃ではなかったらしい。
      狙いが外れたのか回避されたのか解らんが……もしかしたら、という希望がある』

<_プー゚)フ『小せぇ希望だな』

嘆息混じりのコメント。
その時、それを擦り抜ける動きがあった。

|゚ノ#^∀^)『――攻撃を諦めるというのなら、せめて私のサポートくらいしなさい!』

<_;プー゚)フ『んな……っ!?』

青い巨剣を持った赤い巨人だ。
別行動をとっていたはずのレモナが、いつの間にか合流していたのだ。
機械仕掛けの巨躯が背部スラスターから出る光を従わせ、一気に行く。

|゚ノ#^∀^)『はぁぁぁぁっ!!』

激突した。
剣へ変形しているリベリオンを、身体ごとぶつけるような形だ。
衝撃波と音が円を描くように散っていく。

しかしまったく揺るがないケーニッヒ・フェンリルを前に、レモナは更に剣を振りかぶった。



294: ◆BYUt189CYA :2008/07/22(火) 16:12:12.23 ID:wcoHHkfi0
|゚ノ#^∀^)『私は絶対に諦めない! 弱音も吐かない!
      だってその分、自分の弱さを認めるってことだもの!!』

根源的に、彼女はそれが許せなかった。
己を弱いと認めるのは敗北の時だけだ。
しかし自分は生きていて、まだ戦いは終わりを告げてなどいない。

|゚ノ#^∀^)『だから……!!』

青い刃を叩きつける。
この一撃一撃が、遠き勝利に繋がっているのだと信じながら。
手を止めるのは己への敗北だと理解しながら。

(;´∀`)『あ、あのぉー!? 僕が乗ってるってこと考慮して――もぎゃ!?』

レモナが鬼気迫る勢いで攻撃を続ける中、間抜けな声が割り込んだ。
それは赤いEMAが両手に構える青い巨剣の中からで

|゚ノ ^∀^)『……剣は黙って振られてなさい』

(;´∀`)『酷――――っ!!』

<_プー゚)フ『おいおい、なんだありゃ。 新手のコントか?』

【コント……短編小説の一種で、特に機知に富み、ひねりを利かせた作品のことを言います。
 しかし一般的には『笑いを誘う寸劇』という認識が多く――】

(`・ω・´)『無駄な解説は省略しろ、キオル。
     おそらくだが、あの剣にも人が乗らなければならんらしいな』



305: ◆BYUt189CYA :2008/07/22(火) 16:14:25.39 ID:wcoHHkfi0
あの剣は元々EMA-01『リベリオン』のはず。

経緯はよく解らないが、変形することで自身を刀身と化すことが出来るらしい。
そしてその完成した巨大な武具を、あの赤いEMA『ウルグルフ』が振るうのだ。

と、そこでシャキン達の方へレモナが戻ってくる。
どうやらモナーの間抜けな声に気合を失ってしまったようだ。

|゚ノ ^∀^)『乗るのは誰でも良かったんだけどね。
      どうしてもこの人が役に立ちたいっていうから、一番良い役を与えたのだけど』

(;´∀`)『うぅ、だからってこの仕打ちはひどいモナ……』

<_プー゚)フ『まぁ確かに素人にゃあキツい役割だろうなぁ』

(`・ω・´)(む? あれは――)

多少の魔力加護はあるにせよ、それでも振られる度に内部は大変なことになる。
カクテルシェーク状態なコクピットは、ある意味で地獄だと言えるだろう。

戦闘機に乗り慣れているエクストやシャキンならばともかく、
素人のモナーにとっては絶叫マシーン以上の恐怖と衝撃が襲い掛かってきているはずだ。



312: ◆BYUt189CYA :2008/07/22(火) 16:16:11.96 ID:wcoHHkfi0
|゚ノ ^∀^)『あのねぇ』

しかしレモナは、そんな弱音と同情の声を溜息で切り捨てた。

|゚ノ ^∀^)『あの馬鹿みたいに大きな獣に食べられて死ぬのと、この剣に乗って勝利するの。
     ……どっちが良いと思ってンの?』

(*´∀`)『そりゃあ勝った方が嬉しいモナ!』

|゚ノ ^∀^)『なら言うことはないわね。
     文句なら後で聞いてあげるから、せめて今は地獄見なさい』

(;´∀`)『うぉあー! 悪夢確定――っ!?』

<_プー゚)フ『あっはっは! 悪魔だ! シャキン、ここに悪魔がいるぞ!』

(`・ω・´)『……お前達、余裕だな』

<_;プー゚)フ『え?』

瞬間、状況に大きな変化が訪れる。
いきなりというタイミングで、対空軌道の魔力弾が襲い掛かってきたのだ。

見れば、既にシャキンは回避運動に入っている。
なんとズルい奴だ、とエクストは直感的に思った。



315: ◆BYUt189CYA :2008/07/22(火) 16:18:02.05 ID:wcoHHkfi0
<_;プー゚)フ『ちくしょう、ここにも悪魔がいやがったか!』

【随分と自分勝手な悪魔認定ですね。
 ですが、本物の悪魔は私達の下にいると認識します】

キオルの機械的音声に、皆は下を見る。
そこにはケーニッヒ・フェンリルが堂々と構えているわけだが、その背に変化があった。

<_;プー゚)フ『うげっ、なんだありゃ!?』

|゚ノ;^∀^)『あれは……!』

複数の蠢きが見てとれる。
いや、よく見ればその全てが上半身だけの獣だ。
背中の所々に『生えた』獣達が、その口から魔力の塊を弾丸として吐き出して攻撃してきたのだ。
しかも単一ではなく連射で、その光景を言葉にするならば、

|゚ノ;^∀^)『まるで弾幕の真似事だわ……まだ数は少なく、狙いは稚拙だけど――』

(;´∀`)『弾幕薄いよ何やってんの! って感じモナか!』

(`・ω・´)『こちらの戦い方を見て、その身を変化させた……。
     やはり普通の生物とはまったく違うのだな』



319: ◆BYUt189CYA :2008/07/22(火) 16:19:30.43 ID:wcoHHkfi0
しかし一つ解ることがある。
今まで足下に戦力を集中させていたケーニッヒ・フェンリルが対空攻撃手段を持ち出したということは
即ち、飛行戦力であるシャキン達を煩わしく感じ始めている、ということだ。

<_プー゚)フ『うぇっへっへ……どうやら敵さん、俺達が相当にウザいらしいぜ。
        こりゃもっと色んな角度から突いたり引っ掻いたりイジったりしてやらねぇとな』

(;`・ω・´)『言葉はアレだが概ね同意する』

飛来する魔力弾に、シャキン達は回避をとりながら言葉を交わす。
確かに遠距離攻撃の手段を講じられたのは予想外だが、それで撃墜されるほどの腕ではない。

敵の狙いはデタラメが良いところで、テンポも一定。
更に言えば連射でない時点で撃墜はあり得ない。
そして空戦の何もかもを知り尽くそうとしている彼らに、その砲撃は侮辱とさえ言えた。

【こちらの飛べる時間も限られています。
 そして、そろそろ地上部隊もケーニッヒ・フェンリルに接近し始める頃……】

|゚ノ ^∀^)『……なら、ここで一気に総攻撃を掛けることも可能なのね?』

肯定の電子記号を示すキオルに、レモナは厳しい表情を浮かべた。



321: ◆BYUt189CYA :2008/07/22(火) 16:21:16.00 ID:wcoHHkfi0
決着は近い。
人か獣、どちらが生き残るかを決める審判の時だ。

思うと、焦燥にも似た緊張が湧き上がるのを自覚していた。
待ち遠しいような、訪れてほしくないような、微妙に揺れる心境だ。
鼓動は不規則になり、息も思うように吸えなくなってくる。

<_プー゚)フ『へっへ、ビビってんのかぁ?』

彼女の微妙な震えを感じ取ったのか、エクストが軽い調子で言う。

|゚ノ;^∀^)『ふ、ふざけないで! 私はそんな――』

(`-ω-´)『――俺は、少し怖い』

『『え"……』』

割り込んできたシャキンの言葉に、二人は絶句する。
特に以前から彼のことをよく知るエクストは、文字通り口をあんぐりと開けていた。
冷静沈着で、容赦無しで、全体的にセメントな感じのシャキンが恐れを抱いているとは。

二人の微妙な沈黙に、シャキンは、だが、と付け加え

(`・ω・´)『怖いからこそ抗えるのだと、俺は思う。
      死にたくないから生きるために全力を尽くすことが出来るんだ。
      だから、恐怖を感じるのは別に恥じゃあない』



324: ◆BYUt189CYA :2008/07/22(火) 16:22:51.50 ID:wcoHHkfi0
|゚ノ ^∀^)『…………』

(`・ω・´)『意地を張ったり強がったりするのも良いがな、少しは場合を考えたらどうだ。
      お前が「怖い」と言ったとして……それを馬鹿にする輩が俺達の中にいると思うか』

瞬間、レモナの乗る赤いEMAがエクストへ視線を向ける。
すると瞬間的に彼が首を振るのが見えた。

<_:プー゚)フ『ば、馬鹿野郎! いつ俺がそんなことしたよ!?』

|゚ノ#^∀^)『一レス前の自分くらい憶えてなさい馬鹿!!』

尚もしらばっくれようとするエクストに、レモナは大きな溜息を一つ。

|゚ノ#^∀^)(納得いかないわ……!)

そう思うのは当然で、

|゚ノ ^∀^)(何で三度も諭されなきゃならないのよ……情けない)

東戦で一時離脱のきっかけに一度。
補給に戻った本陣にて一度。
そして今。

どうにも感情的になり易い自分に、彼らは上手くブレーキを踏んでくれる。
それは仲間として見てくれている証拠だ。



329: ◆BYUt189CYA :2008/07/22(火) 16:24:46.37 ID:wcoHHkfi0
|゚ノ;^∀^)(うぅ……)

複雑な心境である。
嬉しくもあり、くすぐったくもあり、そして屈辱的でもある。
今まで仲間などという存在に疎かったせいもあって、レモナは妙な恥ずかしさにコクピットの中で俯いた。

(`・ω・´)『……落ち着いたところで、そろそろ攻撃に戻るぞ』

<_プー゚)フ『だな。 とにかくブッ叩かねぇと終わりが見えねぇ』

直後、二機が鋭く動いた。
シャキンは右、エクストは左方向へ。
まるで最初から示し合わせていたかのように、二人は互いをサポート出来る最良の軌道へ乗った。

いや、これは――

<_プー゚)フ『おーい、お前が来ねぇと始まねぇぞ!』

(`・ω・´)『威嚇と囮は俺達に任せろ。
      レモナ、お前はその隙に真ん中を突っ切って攻撃するんだ』

|゚ノ;^∀^)『……!』

言葉通り。
レモナの眼前には一つの道が見えていた。
それは、味方がどう動くかを理解した時にだけ見える、不可視のエスコートロードだった。



331: ◆BYUt189CYA :2008/07/22(火) 16:26:18.48 ID:wcoHHkfi0
自分が何処へ、どうやって行けば良いのか一目で解る光景に、レモナは思わず意気を呑む。

( ´∀`)『レモナ』

と、モナーの声が届いた。
それは伺うような音ではなく、むしろ後押しするような力強さだ。
剣を振られれば自分が怖い思いをするというのに、この男はそれを知っておきながら言っている。

だから、レモナは余計なことを考えずに頷いた。

|゚ノ ^∀^)『――えぇ、解ってる。 そして解ったわ』

かちり、と音を立てて心が確定を為した。
胸の内から溢れる衝動に身を任せ、レモナはレバーとペダルを確かめるように動かし、

|゚ノ ^∀^)『こんなに素晴らしいと思える戦い、一秒たりとも無駄には出来ない……!!』

高速で身を打ち出した。
赤い装甲巨人が、青い巨剣を携えての飛行を開始する。


――更に前で、自分を待ってくれている者達のためにも。



336: ◆BYUt189CYA :2008/07/22(火) 16:27:21.17 ID:wcoHHkfi0
一段と騒がしくなった上空を、ハインが見ていた。
黒と灰の戦闘機が舞い、彼らが作った道を赤い巨人が走る。
短い間に何があったのかは解らないが、その動きは今まで見た中で最も滑らかに見えた。

从 ゚∀从「皆、生きるために……」

必死になっているのだ。
その中で気付くこともあれば、得るものもある。

从 ゚∀从「だから頑張って……躓いても、誰かが手を差し伸べて……」

共存、という言葉が思い浮かぶ。
誰かが誰かのために本気になれる『絆』だ。
ハインがずっと憧れ、望み続けてきた光景が空で展開している。

从 ゚∀从「よぉし、僕も……!」

気合一新。
切り替えるように首を振ったハインは、改めてケーニッヒ・フェンリルを睨んだ。
『欲しい』、『羨ましい』などと嘆くのではなく、自分から得に行くために――

从#゚∀从「行くぞっ!!」

加速する。
爆発に似た空気の破裂に身を任せ、アゲインストガードごと飛び込んでいった。



340: ◆BYUt189CYA :2008/07/22(火) 16:28:57.13 ID:wcoHHkfi0
大質量を加速に乗せるには、それなりの時間とパワーを必要とする。
しかしアゲインストガードに搭載されている機械世界の純正ルイルは、その制限を呆気なく破壊していた。
人には扱いきれない量のエネルギーを、ハインは兵器としての本能を頼りに操っていく。

そこから生まれるのは自在の機動だ。

右かと思えば左へ。
下かと思えば上へ。
回避かと思えば攻撃へ。

縦横無尽、無窮自在のままに空を舞う姿は、まるで物理法則を蔑ろにしているかのようだ。

从#゚∀从「負けない――!」

そんな彼女の姿を追う目がある。
正面あるケーニッヒ・フェンリルの巨大な両眼と、身体の各部に生えた異獣の目だ。

合計して四十余りの視線がハインリッヒを追っている。

途端、光が複数破裂した。
上半身だけ獣の形をとる異獣の口が、王に仇なす敵を狙っての魔力弾を発射したのだ。



346: ◆BYUt189CYA :2008/07/22(火) 16:30:06.85 ID:wcoHHkfi0
一斉に向かい来る殺意。
しかし、対するハインに怯えの表情は一切無く。
逆に歯を剥き、

从#゚∀从「そんな攻撃で僕は負けない!」

屈することなく吼えた。
急加速に準じた力の急停止をかけ、創造した全砲門を前方へ展開する。
その間にもこちらへ襲い掛からんと光の粉を散らしながら走る魔力弾を全て見据え、


从#゚Д从「負っけて……たまるかぁぁぁぁぁぁッ!!」


同時、迸った光の線が、敵の攻撃全てを無効化した。
しかし光は留まることを知らず、

从#゚∀从「『走れ』!
      無限軌道の螺旋を描き、僕の意志を――」

《!?》

从#゚∀从「『刻め』ッ!!」

ハインの右手――ひいてはアゲインストガードの右腕が大きく振られた瞬間。
放たれていた幾多もの光の線が、ケーニッヒ・フェンリルの巨体を貫いた。



351: ◆BYUt189CYA :2008/07/22(火) 16:31:47.11 ID:wcoHHkfi0
《グ――ァァァァァァアァアアアアアァァアアア!!》

獣の吼声が響き渡る。
今までのような攻撃的なものではなく、痛みに耐える声だ。

ここにきて誰もが、ケーニッヒ・フェンリルが発する初めての悲鳴を聞く。

从#゚∀从「苦しいでしょう。 それが痛みです。
      そして、お前達が人間に与えてきた苦痛だ……!!」

それは小さな手傷なのかもしれない。
いや、傷にすらなっていないのかもしれない。
しかしその瞬間、ケーニッヒ・フェンリルは感じたはずだ。

痛みを。
苦痛を。

刻まれた感情は消えることなどない。
つまりハインは身体ではなく精神に一撃を入れたのだ。
この目に見えぬ傷を、ケーニッヒ・フェンリルは忘れることなど出来ないだろう。

そういう意味での、傷だった。



358: ◆BYUt189CYA :2008/07/22(火) 16:33:18.36 ID:wcoHHkfi0
从#゚∀从「…………」

《……ウゥゥゥゥ》

睨む先、巨大な獣は前足を一歩下がらせた形でハインを見ている。
目には初めて感情のようなものが映っており、言葉にするなら『怒り』に近い。
そして唸り声は、明らかに苛立ちを含んでいた。

身の毛もよだつ殺気だ。
以前のハインならば腰を抜かして怯えていただろう。

しかし今の彼女は、そんな視線に真っ向から立ち向かっていた。
震えも、怯えも、恐怖も、何もかもを勇気で押し留める彼女の胸中は、

从#゚∀从(恐れることなんか何もありません……だって――)


自分は、もう一人ではないのだから。


(#,,゚Д゚)「おぉ――!!」

ハインの真横を、ギコとしぃが通過した。

巨剣を正面に構えての突撃は高速の一言。
そしてハインに神経を集中させていたケーニッヒ・フェンリルにとって、
この攻撃はまさに予想外だった。



364: ◆BYUt189CYA :2008/07/22(火) 16:34:44.11 ID:wcoHHkfi0
《ガァァァァァァァ――!!》

迎え撃つはケーニッヒ・フェンリルの牙。
一噛みで何百もの死をもたらす、もはや巨大な『兵器』である。
だが、

(*゚ー゚)「んっ!!」

しぃの羽ばたきが位置をずらし、ギコの身を砕こうとしていた牙は空振りに終わる。

如何に強力な攻撃だろうが回避してしまえば無効だ。
しかも慌てての迎撃など、喰らってしまう方が難しいというもの。
余裕あるタイミングで死を逃れたギコは、すぐさま1st−W『グラニード』を構え、

(#,,゚Д゚)「切り裂け――!!」

その刃をケーニッヒ・フェンリルの首に突き立てた。
更なる羽ばたきで加速するしぃに連れられ、グラニードの刃が火花を散らして走り始める。

ぎ、という濁った音が響く。
チェーンソーで硬い物を刻む音に似ていた。
音は、黒紫の刃と巨大な獣の毛のぶつかりから発せられている。

(#,,゚Д゚)「たっぷり喰らえよ……ッ!!」

《ギュガァァァァァァァァァ!!》



371: ◆BYUt189CYA :2008/07/22(火) 16:36:29.58 ID:wcoHHkfi0
煌く光粒と獣の叫びの中、ギコは無情の刃と化して突っ走っていく。
先ほどのハインのようにケーニッヒ・フェンリルの体毛を切り裂く軌道だ。

だが、すぐにその表情が警戒の色を示した。

(#,,゚Д゚)「しぃっ!!」

(#*゚ー゚)「うん!!」

途端、ギコの身体が浮く。
しぃが羽ばたき一つを追加し、二人の身を風に乗せたのだ。
そして次の瞬間、今の今までギコ達がいた空間を破砕する動きがあった。

(,,゚Д゚)「やはりな……二度も通用するような甘い相手ではない、か」

高速で動く景色の中、ギコは背後を見て舌打ちする。

そこには獣がいた。
大きな獣から、獣が生えていた。

ケーニッヒ・フェンリルの体毛から出現した獣が、こちらを仕留め損なったことによる苛立ちの視線を向けているのだ。

(;*゚ー゚)「あ、危なかったね……っていうか気持ち悪い……」

(,,゚Д゚)「…………」



372: ◆BYUt189CYA :2008/07/22(火) 16:38:09.85 ID:wcoHHkfi0
从 ゚∀从「大丈夫ですか!!」

しぃの正直な感想に、ハインが追いついてくる。
それを見ながらギコは、

(,,゚Д゚)「」

何かを言いかけた時、ふと言葉が止まる。

(,,゚Д゚)「待てよ……何かおかしいぞ」

(*゚ー゚)「ギコ君? どうしたの?」

(,,゚Д゚)「身体から子分を生む能力……それが奴の力なのか……?」

(;*゚ー゚)「そ、そうじゃないの?
     今だって小さな狼がケーニッヒ・フェンリルの身体から生えてきたんだよ?
     こんなの普通じゃないと思うけど……」

(,,゚Д゚)「…………」

もし仮にケーニッヒ・フェンリルの能力をそれだとするならば、おかしな点があるのではないか。
前提や考え方からして破綻しているような、そんな違和感だ。
焦燥に似た感情がギコの心に浮かぶ。

大切な――それも決定的な――何かを見落としているのではないか、と。



377: ◆BYUt189CYA :2008/07/22(火) 16:39:22.04 ID:wcoHHkfi0
だが、違和感は言葉とならずに霧散していく。
感覚では解るのだが、具体的な意識に変換されない典型的な例だった。

(,,゚Д゚)「ちっ……これでは嫌な予感かも解らんではないか。
    だがどちらにしろ、この疑問は解消する必要があるだろう」

そして、と言い

(;,,゚Д゚)「おそらく兄者は既にこの事に気付いている、か。
     まったく、何という嗅覚を持っているんだアイツは……」

(*゚ー゚)「ギコ君、私達はどうする?」

(,,゚Д゚)「俺などが頭を働かせても何の足しにもならんさ。
    このまま攻撃を続けるぞ。 どちらにせよ、奴の纏う魔力を剥ぎ取る必要がある」

そう、己の身は『牙』だ。
難しいことは考えず、敵の喉笛を食い千切ることだけに専心していればいい。
いくら敵が巨大で、強くて、圧倒的だろうが、この事実だけは変わらない。

何より、しぃがいる。

彼女が傍にいれば自分はいくらでも戦うことが出来るだろう。
それは同時に、彼女を護ることにも繋がるのだから。



380: ◆BYUt189CYA :2008/07/22(火) 16:40:38.81 ID:wcoHHkfi0
(,,-Д-)「この戦いが、『牙猫』としての俺の最後の仕事になると良いが……」

呟きに、背中側から応える声がある。

(*゚ー゚)「うん……そうなるように、二人で頑張ろう?
    そして全てが終わったら――」

二人の色が混じったブラックパープルの色彩を放つグラニード。
二人分の体重を支え、尚も光を失うことをしないレードラーク。

ギコは剣を、しぃは翼を構える。

(,,゚Д゚)「あぁ、もし全てが終わったら戦いとは無縁の人生を歩もう。
    この地獄のような光景からすれば、きっと何もかもが芳醇に見えて……幸せだろうさ」

そのためにも負けるわけにはいかない。
絶対に生きて勝利する。
自分のために、そして愛する彼女のために。

从 ゚∀从「行きましょう、ギコさん! しぃさん!」

隣を飛ぶハインに促され、ギコは深呼吸を一つ。
未来を憂う感情から、今の障害を叩き切る意志に切り替え、

(,,゚Д゚)「……行こう。
    ハイン、遅れるなよ……!!」

身体の中にある不気味な軋みを感じながら、ギコは再度の突撃を開始した。



386: ◆BYUt189CYA :2008/07/22(火) 16:42:37.06 ID:wcoHHkfi0
*(‘‘)*「流石、不滅世界側のエースだけありますね……」

ようやく良いポジションを探し当てたヘリカルは、
空中でありながら近接戦を挑むギコ達を見て、ふと感想を漏らす。
並々ならぬ気迫と勇猛さ、そしてそれらの根拠となる実力だった。

聞くところによれば、指輪騒動の初期から戦いに参加していたという話だ。
1st−W『グラニード』一本で戦い抜いてきた実力は伊達ではないらしい。

*(‘‘)*「さて」

勢いを味方として戦うギコ達を見ながら、ヘリカルは更に上を目指す。
そこには桃色の竜に乗る兄者がいる。

兄者はケーニッヒ・フェンリルを見ていた。
しかしいつもの腑抜けた表情は無く、代わりとして鋭く熱い視線があった。
戦闘に参加することなく、彼はひたすら敵の観察に集中しているようだ。

*(‘‘)*「何か解りましたか?」

傍まで行って問いかけると、ややあって兄者の顔が上がった。

( ´_ゝ`)「……ん? おぉ、ヘリカルちゃんか。
     とりあえず違和感だけが残る感じでな……これがなかなかどうして」

あの兄者がここまで考え込むということは、よほど気になるのだろう。
そして、その疑問に執着するのにも理由がありそうだった。



392: ◆BYUt189CYA :2008/07/22(火) 16:43:48.29 ID:wcoHHkfi0
( ´_ゝ`)「しかしなんだ、この妙な感覚は……音か、光景か、匂いか、別の何かか。
     理屈から来るモノじゃなく、おそらく五感に訴える何か……?」

*(;‘‘)*「はぁ?」

( ´_ゝ`)「ヘリカルちゃんは何も感じない?」

*(‘‘)*「んぅー……」

兄者と同じように目を向ける。
見えるのは巨大な身体を持つ獣と、それを倒さんとするハイン達だ。
互いの勢いが最高潮に達しているのか、隙間がないほど激しい攻防が繰り広げられている。

*(‘‘)*「特に何も感じませんが」

( ´_ゝ`)「感じない、か……やはりもう一つの疑問も問いかけるに値するっぽいな。
     だが、それだと逆にこの感覚の説明が……」

*(‘‘)*「こっちはアンタが何を考えてるのかさっぱりです。
    別に変わってるようには見えませんがねー」

そう言ったヘリカルは、ハイン達を援護するためにステッキを構えた。
そのままの姿勢で兄者の桃色ドラゴンに降り立ち、自身を砲台とするため重心を固定する。
だが、直前に動きがあった。


( ´_ゝ`)「変わっているようには……見えない?」



398: ◆BYUt189CYA :2008/07/22(火) 16:45:01.04 ID:wcoHHkfi0
兄者の表情が変わる。
眉をひそめた形から、目を見開く形へ。

( ´_ゝ`)「何だ……? 俺は今、何を思った?」

それは、

( ´_ゝ`)「『それはおかしい』と……しかも無意識に、瞬間的な反射のように思った……のか?
      何故? どうして? 確かに変わっているようには――」

言葉が止まる。
緊張に身を固めた兄者の視線は、ケーニッヒ・フェンリルを見ていた。

しかし先ほどまでのように行動を見るのではなく、全体を見通すように。

(;´_ゝ`)「ま、さか……」

そうすることで解る事実があった。
根本的であり、原初であり、前提を否定するような事実が。
あまりの馬鹿馬鹿しさに兄者は慌てて思考を再トレースするが、結果は同じだった。

(;´_ゝ`)「おいおいおい、俺達はとんでもない勘違いを……!?」

*(‘‘)*「……?」

ほぼ確定だ。
だとするなら、ケーニッヒ・フェンリルの脅威性の妙な低さや、
保有する能力に対する説明、そしてそのことによって派生する事象の全てが理解可能となる。



404: ◆BYUt189CYA :2008/07/22(火) 16:46:36.04 ID:wcoHHkfi0
そもそも、これほどまでの数の手下を持つこと自体に疑問を持つべきだったのだ。


更に言えば、ミリアやキリバ等の圧倒的な力を持つ獣。

人間というデータを用いた実験研究。

自身の身体から生み出す手下の形状が似通っていること。


それら全て、不可思議なのである。
異獣という生物が為したと考えると、尚更に。

しかし今、兄者の脳裏に浮かんだ仮説から考えれば多少納得することが出来ていた。
もちろん全貌を解き明かしたわけではないが、運良く肝心な部分を掘り出せた感覚を得ている。

仮説の本質が正しければ、異獣を倒すためにとるべき手段とは――



407: ◆BYUt189CYA :2008/07/22(火) 16:47:32.11 ID:wcoHHkfi0
(;´_ゝ`)「ヘリカル、通信機を! 皆に知らせなきゃならん!!」

*(;‘‘)*「慌てずアンタの腰に下がってるそれ見てから言ってください!」

(;´_ゝ`)「俺の腰!? 腰ってどこ!?」

集中する余り、忘却の彼方へ飛んでいってしまっていた自分の状況を、兄者はヘリカルの声で思い出した。
早く皆に伝えようと慌てて視線を落とし、自分の腰を手探りで探す。

(*´_ゝ`)「あ、あっt――」

硬い感触に顔が綻んだ時。
兄者は三つの感触を、ほぼ同時に得た。


前方から照らす大きな光を。
ヘリカルの焦りに満ちた声を。
太陽を前にしているかのような熱を。


( ´_ゝ`)「……へ?」

瞬間、兄者のいた位置に複数の魔力弾が殺到し、爆発を引き起こした。



417: ◆BYUt189CYA :2008/07/22(火) 16:49:13.60 ID:wcoHHkfi0
*(;‘‘)*「――!?」

一瞬だった。

無理もない。
考え事をしているくせに、ケーニッヒ・フェンリルへ接近していたのだから。
距離が短ければ、その分だけ危険も多くなると解っていたはずなのに。

止める間はなかった。
ケーニッヒ・フェンリルの身体から生える獣からの砲撃は、射出から直撃まで数秒もかかっていない。
その間に出来ることと言えば、警告の声を放つくらいのものだった。

結果は火を見るより明らかである。

いくら魔力で強化した装甲服を着ていても、
あれほどの規模の砲撃を受けてしまえば無事でいられるはずがない。
最悪、死体すら残らずに消し飛んでしまった可能性すらあった。

*(;‘‘)*「…………」

これが生死を賭けた戦闘の一つの終末。

呆気なく、儚く、そして人間の脆さを痛いほど知ることの出来る終わり方だ。
もう何度も人の死を見てきたが、やはり慣れることなどない。



423: ◆BYUt189CYA :2008/07/22(火) 16:50:00.29 ID:wcoHHkfi0
*(;‘‘)*「そ、んな……」

爆発によって発生した熱と煙を間近で浴びながら、ヘリカルは構えようとしていたステッキを力無く下げた。

あんな距離からの砲撃など人間の技量で防げるわけがない。
解っていたが、しかしだからこそ余計に感じる自分の未熟さに、彼女は強いショックを受ける。
意識が一瞬で熱く、そして徐々に冷たく、やがては白く染まっていくのだ。

その中で浮かぶのは後悔の念。

もう少し自分が警戒していれば。
もっと自分に技量があれば。

駄目だと解っていながらも、そう思わずにはいられない。
人はどうしても『かもしれない』という幻想に憧れを抱いてしまうもの。

ヘリカルも例外なく、止まっていく思考の中で溢れていく後悔にどうすれば良いのか解らずにいた。

このままでは感情が爆発する。
自責による『泣き』という感情が。

間にも、ひ、という嗚咽が喉から出そうになる。



433: ◆BYUt189CYA :2008/07/22(火) 16:51:18.16 ID:wcoHHkfi0
だが、その直前――

「――っ」

小さな声。
それが、表情を歪めかけたヘリカルの耳に届いた。
溜めていた酸素を短く吐き出す音で、音源は煙の中からだ。

*(;‘‘)*「あ、ぇ、うそ……」

(;´_ゝ`)「げほっ、う、嘘とは何だ、嘘とは……! イテテ……」

煙を裂いて現れたのは、確かに兄者であった。

が、身に纏っていた装甲がいくつか吹き飛んでおり、兄者自身の身体にも多数の傷が刻まれている。

特に左腕の損傷は酷く、だらりと力無く下げられた手は肌色の部分の方が少ない。
咄嗟に盾として使ったのだろうが、しかしそれだけでこの程度の怪我とは考え難かった。

*(;‘‘)*「だ、だって……あんな砲撃を受けて、どうして……?」

(;´_ゝ`)「確かに流石の俺も驚いたが、この竜が咄嗟に動いてくれてな……」

視点を下げれば、桃色の竜が胸部から煙を上げているのが見えた。
おそらく砲撃を受ける直前に身を伸ばし、着弾位置をズラしたのだ。
兄者の怪我は、その余波によって受けてしまったのだろう。



451: ◆BYUt189CYA :2008/07/22(火) 16:52:58.55 ID:wcoHHkfi0
余波でこの威力である。
もしこれが直撃であったなら、本当に身体ごと消し飛んでしまっていたはずだ。

(;´_ゝ`)「っつ……だが、これで通信機は無事だ……」

そう言う兄者の右手にあるのは、傷一つ付いていない通信機械だった。

*(;‘‘)*「ま、まさかそれを守るために左腕を!?」

(;´_ゝ`)「これで奴を倒せるのなら安いもんだ……そして、この程度で済んで良かった」

*(;‘‘)*「でも――!」

(#´_ゝ`)「――ヘリカル!」

いきなりの強い響きに、ヘリカルは思わず身をすくませた。
対し、兄者はすぐに柔和な表情へ戻り、

( ´_ゝ`)「またこのようなことがないよう、お前に俺の護衛を頼みたい」

*(‘‘)*「え……」

( ´_ゝ`)「お前の実力なら安心して任せられる。 頼んだぞ」



462: ◆BYUt189CYA :2008/07/22(火) 16:54:14.99 ID:wcoHHkfi0
痛みを押して言い切った兄者は、早速スイッチを入れる。
皆に聞こえるよう、範囲を全域に設定し、

(#´_ゝ`)「――聞こえるか、皆!!」

怪我人とは思えない鋭い声で、言った。
地上に、一瞬のざわめきが広がるのを見る。
返事はすぐに来た。

『無事だったか、兄者』

クーだ。
おそらく皆を代表しての返答だろう。
うむ、と頷いた兄者は、額から右目に流れてきた血すら拭わず続ける。

( ´_ゝ`)「いいか、よく聞いてくれ。
     あの馬鹿デカい異獣を攻略する方法がある」

『本当か……!?』

こんな状況で冗談など言うものか、と思ったが、
日頃の自分の行いを思い出した兄者は、苦笑しながら首を振った。

( ´_ゝ`)「そもそも大きな勘違いをしていたんだ。
     今、俺達が戦っているあのデカブツは……異獣の王様なんかじゃない。
     少なくとも俺達にとっては、な」



467: ◆BYUt189CYA :2008/07/22(火) 16:55:12.90 ID:wcoHHkfi0
『どういうことだ』

( ´_ゝ`)「これまでの奴らの行動を見る限り
     奴の固有能力は、『自分自身の分身を生み出す』みたいなものだと思っていいだろう。
     そしてそのために必要なのは大量の魔力で、
     他の世界の純正ルイルを食ってきたのは、このためだと思われる」

つまり世界征服や崩壊が第一目的ではないのだ。
あくまで『魔力を手に入れる』のが目的であり、だから異獣はこのような軍勢を保っていられるのだ。

聞こえてきたのは、クーの納得のいかない吐息だ。

『……だが、それではおかしくないか。
 奴らは自分達を増やし、その群で魔力を手に入れ、また自分達を増やしていくのだろう。
 そこには理由が見えない』

そう、理由がない。
何のためにこのような軍勢を持つのか。
何故、無限に力を蓄えていくのか。

誰もが一度は疑問に思い、しかし答えを出せない問い掛け。

だが、兄者は一つの答えを見出していた。



475: ◆BYUt189CYA :2008/07/22(火) 16:56:24.03 ID:wcoHHkfi0
( ´_ゝ`)「単純に考えて、力を求めるのは何故だと思う。
     例えば俺達が魔力を知り、魔法を用い、武力を強化したのは何故だ?」

問いに、クーは沈黙した。
ややあってから返答が来る。


『……「敵」か』


( ´_ゝ`)「そうだ、敵だ。
     自分達を脅かす敵が、倒さねばならない天敵がいるからこそ生物は力を求める。
     だったら、こうは考えられないか?」

一息。

( ´_ゝ`)「異獣にも敵がいる……もしくは敵がいた、と」

『…………』

その瞬間、戦場から声が消えたような気がした。
誰もが兄者の言葉を聞き、その仮定の答えを吟味する。



484: ◆BYUt189CYA :2008/07/22(火) 16:57:58.05 ID:wcoHHkfi0
と、そこでヒートの声が割り込んできた。

『ごめん、少しいいかな。
 ミリアが妙なことを言っていたけど、流石兄者の言うことを考えると頷けるかも……』

四方戦の時だ。
ミリアが、肉迫してきたヒートに対して切り札を発動させる瞬間、
彼女は意味の解らないことを言っていた。


ル(i| ー ノリ「集められ! 管理され! 整頓され! 自己満足の一手段とされ――!」

ル(i| ー ノリ「知らぬ方が幸いにもなろうさ!
      知れば抗いたくもなる! 無謀だと知ろうとも!」


今思えば、その『敵』のことを言っていたのかもしれない。
直接ミリアの声を聞いたヒートは、特にそう感じていた。

『ふむ……推測の域は出ないが仮にそうだとしよう。
 ならば兄者の言う、王ではない、という言葉の意味は?』

( ´_ゝ`)「簡単さ。
     その迫力に気圧されて見えなかったかもしれんが、アレはただデブなだけだろ?」

あっけらかんとした言葉に、クーの言葉が消えた。



490: ◆BYUt189CYA :2008/07/22(火) 16:59:24.99 ID:wcoHHkfi0
しかし、確かにそうだ。
己の分身を生み出す、という能力を除けば、ただ異獣が巨大化しただけに過ぎない。
特殊な攻撃能力を持っているわけでもなければ、言葉を放って偉そうなことを言うでもない。

( ´_ゝ`)「思うに、俺達がケーニッヒ・フェンリルと呼ぶ獣は『原型』だ。
     あれを基本として雑魚が設計・生産されているんだと思う」

つまり、

( ´_ゝ`)「……ありゃあ、王でも何でもない。
     名付けるなら『異獣製造機』さ。
     魔力という原料を身体に貯め、延々と自分のコピーを作るだけの、な」

通信機の向こうから、クーの息を呑む音が聞こえた気がした。

無理もない。
今まで最大の敵と思っていたケーニッヒ・フェンリルの正体が、ただの製造機だと言われたのだから。
この仮説に辿り着いた兄者ですら、最初は自分の思考を疑ったほどである。

しかし一連の異獣の行動を見る限り、この考え方が一番正しく思えるのだ。

無機的でありながら矛盾を孕んでいる。
まるで、狂ってしまった機械のように。

キリバやミリアが妙な言動をとっていたこともあったのは、それが原因の一つなのかもしれない。



500: ◆BYUt189CYA :2008/07/22(火) 17:01:01.04 ID:wcoHHkfi0
( ´_ゝ`)「無論、これが絶対の正解だとは言わない。
     まだ足りない真実があるだろうし……今の俺達では、奴らの全貌を理解するのは不可能だ」

だが、と言い

( ´_ゝ`)「重要なのは正体を知ることじゃなく、奴らを倒すこと。
     そして倒すにおいて、俺が思う仮説を皆に聞いておいてもらいたかった」

『随分な御高説だな……それは良いが、ちゃんと倒す方法はあるのだろうな』

呆れた調子のギコの声に、兄者は頷きを返す。

( ´_ゝ`)「先ほども言った通り、異獣ってのは魔力の塊なんだ。
     魔力が獣の形をとっている、と言い換えてもいい」

『あのケーニッヒ・フェンリルが異獣製造機だと考えた場合の理論だな?
 だが信じるに値する証拠はあるのか?』

( ´_ゝ`)「うむ、それを今から言うところだったのだ」

兄者は一つの発見を、この戦いの中で見出していた。
それはケーニッヒ・フェンリルを見た時から抱いていた違和感。
『何かが違う』という漠然とした感覚の正体とは、


( ´_ゝ`)「――あの馬鹿デカい巨体な、実は最初と比べて小さくなっていってるんだ」



510: ◆BYUt189CYA :2008/07/22(火) 17:02:31.65 ID:wcoHHkfi0
『『……は?』』

( ´_ゝ`)「言ったろう? 奴らの身体は魔力の塊だ、と。
     そして奴らの防御力の源も魔力だ。
     即ち攻撃を受ける度、攻撃する度、自分の身体を削っているようなものなんだ」

最初に一瞬だけ姿を見せたケーニッヒ・フェンリルと、
こちらの切り札である『龍砲』を受けた後のケーニッヒ・フェンリル。

同じ存在でありながら、兄者はどうしても違和感を拭い去ることが出来なかった。

その疑問を解消するために行なったのが、先ほどまでの観察である。
桃色のドラゴンに乗り、空中戦を繰り広げる味方も手伝わず、ただ敵を見続けた。

攻撃を受ける時。
己の分身を生み出す時。
魔力弾を打ち出す時。

全ての魔力を消費する行為を観察し、兄者は遂に確信する。
僅かに、ほんの少しずつケーニッヒ・フェンリルが小さくなっている、ということを。

『ってことは……』

( ´_ゝ`)「出会い頭に撃ち込まれた『龍砲』を回避したのは、そういうことなのだろう。
     逆を言うなら……もし『龍砲』のような強力な攻撃を正面から叩き込むことが出来れば
     ケーニッヒ・フェンリルの縮小化――上手くいけば弱体化も狙えるかもしれん」

『『……!』』



512: ◆BYUt189CYA :2008/07/22(火) 17:03:35.24 ID:wcoHHkfi0
倒せるのかすら解らない敵の具体的な攻略法が解った。
兄者の自信に満ち溢れた言葉に、それぞれの戦場の士気が更に上がる。

今まで見えなかった希望の光が、ここにきてようやく見え始めたのだ。

( ´_ゝ`)「さて、あとは肝心の『強力な攻撃』なのだが――」

そこまで言って兄者は口を噤んだ。
言葉には出さなかったが、最大の問題がそこにある。
たとえ方法を見つけたとしても手段が無ければ意味がないのだ。

『龍砲』は使ってしまったし、ハインのウェポンは確かに強力だが火力が足りない。
となると――

『前のハインの時みたく全員で囲んでフルボッコはどうよ?』

(;´_ゝ`)「言い方最悪だな、ジョルジュ」

強大な敵に挑む姿勢としては褒められるものだが、如何せん状況が悪い。

そもそも敵が大き過ぎて近付けないのが実情である。
迂闊に接近して蹴飛ばされたり、挙句の果てに踏まれて圧死するなど笑い話にもならない。



518: ◆BYUt189CYA :2008/07/22(火) 17:05:14.43 ID:wcoHHkfi0
総攻撃は行なうにしても、まずは敵の巨体を何とかすべきである。
その方法も解り、あとは手段を用意するだけなのだが、

『ってか、お前そこ考えてねぇのかよ』

( ´_ゝ`)「すまん。 ぶっちゃけ発見した事実を知らせたくてたまらんかった」

|゚ノ#^∀^)『氏ねばいいのに』
川;゚ -゚)『少し見直したと思えばこれか……』
('、`*川『ねぇねぇこいつを異獣に差しだして、その隙に攻撃するってどう?
     少なくとも世界のためだと思うんだけど』

( ´_ゝ`)「綺麗な女の人が怖いこと言ってるの聞くと興奮するよね」

『『っていうか真面目にやってもらえますかね皆様方……!?』』

(;´_ゝ`)「ご、ごめんなさい!!」

必死に戦っている兵達の押し殺した怒りに、兄者は思わず仰け反る。

しかし無いものは無いのだ。
こちらの火力を全てぶつけるのも考えたが、散発的な攻撃が果たして通じるのか。

欲を言えば全ての威力を一点に集中するような方法が一番良いのだが、
こちらの手札は既に使い果たしている。



529: ◆BYUt189CYA :2008/07/22(火) 17:07:32.86 ID:wcoHHkfi0
さぁ、どうするか。

戦況を鑑みるに時間も残されていない。
今ある要素を並べ立て、兄者は再び深い思考へ――


『――あーあー、皆、聞こえておるかの?』


その時。
全軍に希望をもたらす声が、通信に割り込んで来た。



川 ゚ -゚)「この声……レインか?」

( ^ω^)「おっおっ、ってことは本陣は大丈夫なのかお!」

地上にいるクーが真っ先に反応した。
本陣にて『龍砲』関係の指揮を執っていた一国の王女だ。
『龍砲』を撃ち終わってからは音沙汰なかった女の声が、クーの耳に入ってくる。

『おぉ、聞こえておるようじゃの。
 実はおぬしらに一つ伝えておかねばならぬことがあるのじゃ』

川 ゚ -゚)「伝えておくこと、だと?」



537: ◆BYUt189CYA :2008/07/22(火) 17:08:39.07 ID:wcoHHkfi0
『今、「龍砲」の第二射の用意が完了してな。
 もし必要であればいつでも撃てるようにしておる』

言葉に、え、と問い返しの声が続いた。
先の通り、既に『龍砲』は撃ち終わっているはず。
弾丸に使われた力は一つの世界分の魔力で、そう簡単に調達出来るはずがない。

そういった疑問の気配を、レインは敏感に感じ取ったようで、

『どうも良い予感がしなくてのぅ。
 一射目を撃ち終わった後、すぐに再発射の準備を始めておったのじゃ。
 しかしその様子だと我の判断は正解だったようじゃな?』

『グッドタイミングだ!
 もう一度アレが撃てるというなら……!』

兄者の歓喜の声が聞こえるが、

『――だが、調達した魔力の純度が低いのが問題でな。
 出来る限り、こちらも善処したのだが……残念ながら一射目よりも威力が落ちるようじゃ』

申し訳なさそうなレインの声は、おそらく本気で対処したからこその色だろう。

それを責めることなど出来ない。
再びのチャンスの土台を得ただけでも僥倖である。



546: ◆BYUt189CYA :2008/07/22(火) 17:10:58.22 ID:wcoHHkfi0
『くそっ、やはり同じ威力は無理か。
 それではたとえ正面からの直撃でも、大した効果は得られない……!』

『それも解っておる。
 だからこうして我が自ら連絡をよこしたのじゃ。
 誰もが知っていて、誰もが忘れている事実の確認のために』

どういうことだ、と問う間もなく、

『しかし本人は既に気付いているようじゃのぅ……ならば我から言う必要もあるまいか』

一息。


『――そうじゃろ? 「最強」ハインリッヒ?』


从 -∀从「……っ」

川;゚ -゚)「ハイン!?」

いつの間にか背後にハインが立っていた。
アゲンストガードを人型に戻し、クーの持つ通信機から飛ぶ声に耳を傾けている。

閉じた目には少し皺が寄っており、何か苦悩するような震えを起こしていた。



552: ◆BYUt189CYA :2008/07/22(火) 17:13:01.19 ID:wcoHHkfi0
『おぬしは既に気付いているはずじゃ。
 自分の力と、そして託された希望……その用途と責任を』

从 ゚∀从「何故……解ったんですか?」

『簡単じゃよ。 
 この戦場の主役はおぬしであり、そして昔から決まっておるからな。
 大きな戦いは主役が終わらせるものだ、と』

从 ゚∀从「…………」

『だからおぬしが鍵だと思った。 それだけじゃよ』

川 ゚ -゚)「ハイン……?」

問い掛けに、ハインは一つ大きな溜息を吐く。
そして頷き、

从 -∀从「……確かに僕の――いや、アゲンストガードの力を使えば何とか出来るかもしれません」

搾り出すような言葉に、クーは理解した。
おそらくハインは、兄者の話を聞いている時から自分の役割に気付いていたのだろう。
自分の持つ力を使えば、もしかしたら道を切り開けるかもしれないことに。
だが、そうでありながら今の今まで黙っていたのは、

从;゚∀从「ですが……それはつまり僕がここから離脱する、ということです。
      希望である僕が戦場からいなくなって……クーさん達を残したまま……!」

( ^ω^)「ハイン……」



561: ◆BYUt189CYA :2008/07/22(火) 17:14:12.53 ID:wcoHHkfi0
それがハインの正直な理由だった。
共に戦うと決めた以上、自らの意志で離脱などあり得ない、と。
そしてそれは、自分の持っている強大な力を理解しているからこその気持ちだった。

从;゚∀从「僕がここからいなくなれば、その分だけ皆さんの負担も大きくなります。
      もしかしたら、死ななくて良い人が死んでしまうかもしれません。
      そんなことになるのは……嫌です」

川 ゚ -゚)「…………」

( ^ω^)「…………」

周囲、未だ終わらない戦いの音の中、クーとブーンは沈黙した。

優しい子だ、と思う。
優しくあり、他人のために本気になろうとしている。
拙いながらも自分の意志を持ち、そして支えとしている。

その優しさはきっと、いつか誰かを救うことになるだろう。



567: ◆BYUt189CYA :2008/07/22(火) 17:15:36.20 ID:wcoHHkfi0
だが、違う。

この場においてハインの意見は、善悪で言えば確かに善と言えるかもしれない。
自分がいなくなることで、その分を他人に負わせるのが嫌だと思うのは当たり前だ。
それが元で取り返しのつかないことになるかもしれないのなら、尚更である。

だが、違うのだ。

川 ゚ -゚)「ハイン……君は一つ勘違いをしている」

从 ゚∀从「え……」

( ^ω^)「僕達は、決して君に護られているのではないんだお」

从;゚∀从「……!」

ハインの表情が曇った。
だが、それも違うのである。

川 ゚ -゚)「いいか、ハイン。 私達は仲間なんだ」

从;゚∀从「な、仲間だから……!」

( ^ω^)「それは違うんだお。
      確かに仲間を護ったり、逆に仲間から護られたりすることもあるお。
      でも仲間っていうのは……そういうのを根本とした関係じゃないんだお」



579: ◆BYUt189CYA :2008/07/22(火) 17:17:28.81 ID:wcoHHkfi0
だが、違う。

この場においてハインの意見は、善悪で言えば確かに善と言えるかもしれない。
自分がいなくなることで、その分を他人に負わせるのが嫌だと思うのは当たり前だ。
それが元で取り返しのつかないことになるかもしれないのなら、尚更である。

だが、違うのだ。

川 ゚ -゚)「ハイン……君は一つ勘違いをしている」

从 ゚∀从「え……」

( ^ω^)「僕達は、決して君に護られているのではないんだお」

从;゚∀从「……!」

ハインの表情が曇った。
だが、それも違うのである。

川 ゚ -゚)「いいか、ハイン。 私達は仲間なんだ」

从;゚∀从「な、仲間だから……!」

( ^ω^)「それは違うんだお。
      確かに仲間を護ったり、逆に仲間から護られたりすることもあるお。
      でも仲間っていうのは……そういうのを根本とした関係じゃないんだお」



586: ◆BYUt189CYA :2008/07/22(火) 17:18:26.15 ID:wcoHHkfi0
支え合いとは違う、別の何か。
それは、

( ^ω^)「信じ合うこと。 それが仲間なんだお。
      他人を認めた上で信じて、信じて、信じ抜く……いわゆる『信頼』だお」

川 ゚ -゚)「だから先ほどの君の発言はね、私達にとっては侮辱に等しいんだ。
     それは私達の力を、意志を、信じていないということだから」

从;゚∀从「ぁ……」

川 ゚ -゚)「そして返答として、全軍の意志を私が伝えよう……嘗めるなよ、と」

从;゚∀从「……ご、ごめんなさい」

川 ゚ -゚)「謝る必要はない。 別に咎めているわけでもない。
     ただ、それが仲間なんだということを知っておいて欲しい」

笑みを浮かべ、

川 ゚ー゚)「これからも私達と仲間であるつもりなら、ね」

从 ゚∀从「……!」



595: ◆BYUt189CYA :2008/07/22(火) 17:20:14.00 ID:wcoHHkfi0
その時だった。
まるで示し合わせていたかのように、クーの持つ通信機へ声が届く。
それは各戦場にいる者達の声で、

ノハ#゚  ゚)『ハイン。 私を――いや、私達を信じてくれないか。
      貴女の信頼に足るくらいの実力は持っているつもりだから』

(,,-Д-)『さっさと行け……何があろうとも俺達が食い止める』

<_プー゚)フ『任せるぜ、「最強」。
        テメェがド派手な一発をブチかますまでは、俺達が持たせておくからよ』

(`・ω・´)『渡辺達がお前に託した意志……見せてみろ』

( ゚д゚ )『俺達を信じてくれ。 そうすれば、俺達もお前を信じることが出来る』

連鎖する声は止まらず、

「ハインちゃん、ここは俺達に任せて行ってきな」
「俺達は弱いけど……ちょっとくらいの時間は稼げるからさ」
「心配なら、絶対に死なないって約束してやんよ」

周囲で戦っている兵ですら信頼の言葉を放つ。
一度たりともこちらを見ず、しかし背中で語りながら。



600: ◆BYUt189CYA :2008/07/22(火) 17:21:25.63 ID:wcoHHkfi0
从;゚∀从「み、皆さん……僕は……」

それらの声を聞きながら、ハインは震える息を吐き、

从;゚∀从「信じて、良いのですか……?」

川 ゚ -゚)「許可を求めることはない。
     ただ聞かせてくれ、ハイン。 君の正直な意志を。
     君が信じてくれた分だけ、私達も相応の感情を以って応えよう」

促され、ハインは表情を変えた。
うろたえの色から、何かを決めた色へ。

从 ゚∀从「――っ!」

強い頷きと同時、ハインはアゲンストガードの肩に飛び乗った。
片膝立ちしていた状態の巨人を立ち上がらせながら、

从 ゚∀从「皆さん!
      今から僕は、『龍砲』と15th−W『アゲンストガード』を使って準備を行なうつもりです!
      それはおそらくケーニッヒ・フェンリルに対して、高い効果を与えることが出来ると思います!」

変形させる。
フレームを中心に軽い分解を為したアゲンストガードが、ハインを中心として形を作る。

硬い音を立てて合致すれば、再びアウトフレームモードが姿を現した。
スレンダーでありながら重厚さも持ち合わせる機体は、どこか神々しいように見える。



606: ◆BYUt189CYA :2008/07/22(火) 17:23:05.45 ID:wcoHHkfi0
从 ゚∀从「だから――」

背部スラスターに光を灯すハインに、もう迷いは見られない。

从 ゚∀从「だから、ここを皆さんに任せます!!」

疑問形ではない。
今度は、心の底から皆を信じての言葉だ。

川 ゚ー゚)「あぁ、任せてくれ。
     お前のやるべきことを為すまで、ここは私達が引き受けよう」

( ^ω^)「行ってくるお、ハイン! 僕達が君への道を守ってみせるから!」

ここに至るまでの経緯を、ハインは知っている。
皆、気高く、誇りに準じて戦いに身を投じていることも。
たとえ重圧に潰されて負けようとも、己の意志だけは絶対に曲げないことも。

それは誰にでも為せることではない。

焦がれ、しかし足を止めなかった者のみが手に出来る、前進のPROVE。
刻んだ足跡の分だけ、人は強さを得ることが可能なのだ。

つまり、この戦いにまで辿り着いたクー達の力は――

从 ゚∀从(決して偽物なんかじゃないんだ……!!)



609: ◆BYUt189CYA :2008/07/22(火) 17:24:09.34 ID:wcoHHkfi0
信じよう。
信じた上で、頼ろう。
彼らの力は信頼に値するのだから。


そして自分も、相応の結果を以って応える――!


心に決めると途端に力が湧いてきた。
制限解除とも呼べる緊張からの解放に、ハインは一層の笑みを重ね

从 ゚∀从「行ってきます! 幸運を……!!」

後悔や未練は無く。
一点の陰りも淀みも無く。

『信頼』という絆を胸に、ハインは本陣へと飛び立っていった。



615: ◆BYUt189CYA :2008/07/22(火) 17:25:03.68 ID:wcoHHkfi0
《――――…………》

その光景を見る両眼がある。

ケーニッヒ・フェンリルだ。

山のような巨体を持つ異獣の統率者は、この戦場から離れていくハインを一身に見据えている。
その目には感情の一端すら見ることが出来ない。
だが、それは確実に何かを思っての視線だった。

その時、戦場に小さな異変が起こる。

地上で人間と戦闘を繰り広げていた異獣達が、一斉に北――本陣の方角を見たのだ。
まるでケーニッヒ・フェンリルが号令をかけたかのような一斉動作である。

行動に皆は、何が起きたのかを、そして何が起きるのかを予感した。

「まさか……!」

知っての通り、異獣の行動目的は『魔力の捕食』である。
より高く、より多く、より美味い魔力を求めるのは本能レベルでの当然だ。
そして先ほどまでいたハイン、つまり彼女の持つ『機械世界の純正ルイル』が離れたとあっては
それをわざわざ見逃す理由などあり得なかった。

動き始める。
群れが、獣が、そして巨体が。

大きな震動と共に、遂にケーニッヒ・フェンリルの足が北を目指して動き始めた。



620: ◆BYUt189CYA :2008/07/22(火) 17:25:49.61 ID:wcoHHkfi0
追おうとしているのだ。
北にある本陣で、『龍砲』を使って何かをするつもりのハインを。
何かされる前に、更にはあわよくば純正ルイルを食らうつもりなのだろう。

だが、

(#^ω^)「そんなこと……させると思ってんのかお!!」

ハインの信頼を受けたブーン達が、それを許すわけもなく、

川#゚ -゚)「止めるぞ!! 何があろうとも、どんな手を使っても――!!」

弾けるように全員が動いた。

ケーニッヒ・フェンリル、その他の異獣の群の進軍を阻止するために。
ひいてはハインを護り、彼女の放つ一撃で異獣を葬り去るために。


戦場の中枢から本陣まで、約一キロメートル。


四桁の距離数字が三桁になった瞬間、死力を尽くす防衛戦が開始された。



682: ◆BYUt189CYA :2008/07/22(火) 17:59:48.26 ID:wcoHHkfi0
从 ゚∀从「――見えたッ!」

遥か背後で更なる戦いの音が響くのを聞きながら、ハインは本陣を目指していた。
最大戦速を維持して飛ぶこと数十秒、ようやく目的地が見える。

巨大な砲がこちらを見ていた。
魔法世界の技術を結集して作られた切り札『龍砲』だ。
既に一発を放った後だが、既にレインの働きによって二射目の準備が終わろうとしている。

その眼前に着地したハインは、発射の準備を進める整備兵の迎えを受けた。

从・∀・ノ!リ「おぬしがハインリッヒか」

从;゚∀从「は、初めまして! よろしく御願いします!」

从・∀・ノ!リ「こんな時にも礼儀を忘れぬか……くくっ、確かに面白い子じゃな」

満足そうに頷いたレインは、自分の背後へ視線をやった。

从・∀・ノ!リ「さぁ、行くのじゃ。 全ての人の命運を救うために。
       御膳立ては我らがやっておく故、おぬしはトリガーを引くだけで良い」

从 ゚∀从「……いえ、それは違います」

从・∀・ノ!リ「?」



687: ◆BYUt189CYA :2008/07/22(火) 18:00:49.08 ID:wcoHHkfi0
从 ゚∀从「僕は戦場にいる彼らを信じ、頼り、任せてここに来ました。
      そして最大限の信頼には、最大限の結果を以って応えるのが仲間だと知りました。
      だから僕だけが楽をするわけにはいかないんです」

从・∀・ノ!リ「では……どうする?
       言ってしまえば敵を討つだけの能しかないおぬしが、何を為す?」

从 ゚∀从「こうするんですっ!!」

大きな跳躍を一つ。
アゲンストガードを蹴立て更に跳べば、着地点は『龍砲』の上だ。
そして砲身ではなく機関部に乗ったハインは勢いよく右腕を振り上げた。

反応するは彼女の相棒、15th−W『アゲンストガード』だ。
追うように跳んだ鉄の巨人は、ハインの真上まで達した時、

从・∀・ノ!リ「――!」

音立てて分解した。
大小様々、今までで最も細かく分かたれたパーツは、雨のようにハインの周囲へ落ちていく。

だが、現象はそこで終わることなどあり得なかった。



692: ◆BYUt189CYA :2008/07/22(火) 18:02:21.16 ID:wcoHHkfi0
从・∀・ノ!リ「ほぅ……?」

(;><)「す、すごいんです!!」

(*‘ω‘ *)「ぽぽっ!!」

降り落ちるパーツは当然、その直下にある『龍砲』へ接触する。
そして硬い音を連続で立てて跳ね――ることはなかった。

まるで吸い寄せられるように接着したのだ。

分解したアゲンストガード各部分が、文字通り『龍砲』を包み込んでいく。
例えるならばアゲンストガードという装甲を追加されたに等しい姿は、一回り大きな形で完成を為した。

砲身の左側に設けられた専用の射席にハインが座る。
すると、ガントリガーとコンソールが彼女の目の前に横から迫り出してきた。

そんな様子を下から見上げていたレインは、納得したかのように頷き

从・∀・ノ!リ「成程。
       その巨人の正体は汎用型可変万能兵器、といったところか。
       まさか大砲とまでも合体するとは思わなんだが……」

从 ゚∀从「これはここに至るまでに命を落としてしまった、僕の親のような人達が作ってくれた武器です。
      如何なる幻想であろうと現実にしてしまう究極のウェポン。
      この15th−W『アゲンストガード』に不可能なことはありません」



694: ◆BYUt189CYA :2008/07/22(火) 18:04:02.83 ID:wcoHHkfi0
从・∀・ノ!リ「だが、合体したところで何をするつもりじゃ?
      おぬしの持つ機械世界の純正ルイルを用いても、
      総合出力は一・五倍程度にしかならぬが……」

从 ゚∀从「大丈夫です」

言い切ったハインは、コンソールを叩く。
命令を受けた『龍砲』型アゲンストガードに変化が生じた。

砲身の上部装甲が開いたのだ。
観音開きによる両扉展開は、内部にあった一つの機構を外界へ露出する。
機構とは、何かをハメ込むようなソケットで、その数は四つだ。

内の一つは、青白い光を発する結晶体が既にセットされていた。

从・∀・ノ!リ「まさか――」

从 ゚∀从「レインさん、大至急で御願いがあります。
      この本陣に残る魔法世界と不滅世界の純正ルイル、その核を僕に貸して下さい」



701: ◆BYUt189CYA :2008/07/22(火) 18:06:06.90 ID:wcoHHkfi0
ハインの言葉に、レインは渋い表情を返した。

この『龍砲』型アゲンストガードの機構と純正ルイルという要素から、
ハインがやろうとしていることは自ずと理解出来るだろう。
しかし、レインはそれが不可能だと悟ってしまっていた。

从・∀・ノ!リ「……おぬしの企みは解った。
      だが、既に魔法世界と不滅世界の純正ルイルは使用済みじゃ。
      たとえ魔力を生み出す核といえど、このような短い時間では大した量の魔力は生み出せぬぞ」

从 ゚∀从「それも、大丈夫です」

从・∀・ノ!リ「何を根拠に――」

从 ゚∀从「――言ったはずです」

一息。

从 ゚∀从「この15th−W『アゲンストガード』に不可能は無い、と。
      だから御願いします。 僕を信じてください。
      その分だけ、僕も相応の感情を以って応えますから」

从・∀・ノ!リ「…………」



705: ◆BYUt189CYA :2008/07/22(火) 18:08:17.08 ID:wcoHHkfi0
その強い光を放つ瞳に、何を言い返せようか。
元より藁であろうとも掴みたい戦況なのだ。
ここで最もやってはいけないことは、自分が渋って時間を浪費することではないのか。

他、様々な思考が一瞬で巡ったレインは、しかし大きな溜息を吐きながら

从・∀・ノ!リ「……やれやれ、どうにもこの世界の人間は押しが強いのぅ。
      不確定要素が多いように見えるが仕方あるまい。
      そこまで言われたのなら、我もおぬしを信じるとしようか」

从 ゚∀从「ありがとうございます……!」

从・∀・ノ!リ「礼なら成功してから言ってくれ。
       ビロード、チン。 すぐに作業に入るぞ」

( ><)「はいなんです!!」

(*‘ω‘ *)「ぽっぽぽぃや!!」

傍に控えていたビロードとチンが、目を輝かせながら返事をする。
良かったね、とハインへ嬉しそうな視線を送った二人は、先を行くレインを追いかけていった。

从 ゚∀从「…………」

ありがとう、と心の中で呟く。
『信じる』という気持ちの良い感覚を胸に秘めながら、ハインは前方を睨んだ。



710: ◆BYUt189CYA :2008/07/22(火) 18:09:59.04 ID:wcoHHkfi0
と、そこで異変を察知する。

从;゚∀从「!」

疑問を得る前に答えが目に入った。
ハインの傍を、拳大の光石が柔らかく浮遊しているのだ。
いきなりの光景に驚きながらも、ハインはそれを注意深く見つめる。

从;゚∀从「こ、これって……」

わざわざ問うまでもない。
これほどの存在感、そして輝きを見ているだけで理解出来る。
ハインは、確かめるようにアゲンストガードへセットされた一つの結晶を見て

从 ゚∀从「四世界の内の一つ、英雄世界の純正ルイル核……ですか」

どういうことだろうか。
何故、行方知れずになっていた核がここに。
話によれば英雄神なる者を内包していたはずなのだが、見る限りではその存在は感じられない。
淡い赤色を放つ光石は、何も語らずハインの周囲を浮くだけだ。

从 ゚∀从「でも、どうやってここへ……?」

いくら核とはいえ、自律して動けるほどの機能はない。
淡々と魔粒子を生み出すだけの物質だ。

つまりここに在るということは、誰かが持ってきた、と判断する他ない。



714: ◆BYUt189CYA :2008/07/22(火) 18:11:54.06 ID:wcoHHkfi0
一体誰が。
何故。

そして最大の疑問は、

从;゚∀从「どうして持ってきてくれた人の姿が見えないのでしょうか……」

核をハインへ渡したということは、少なくとも敵ではないはず。
思い、周囲を見渡した。
しかしそれらしき人影は確認出来ない。

从 ゚∀从「…………」

考えられる原因は、そう多くなかった。

从 -∀从「……ありがとうございます」

核が浮いていた方角へ頭を下げる。
きっと、これを持ってきてくれた人はこの先にいるだろう。
それが生きているのか死んでいるのかは、今の彼女には解らない。


でも、姿を見せないということは――



717: ◆BYUt189CYA :2008/07/22(火) 18:13:53.25 ID:wcoHHkfi0
そこで無理矢理に思考を打ち切った。
ハインは首を振り、受け取った二つ目の核をアゲンストガードにセット。
稼働を開始する赤い光石を、眉をハの字に曲げながら見つめる。

从 -∀从「――――」

そして、心に浮かぶ感情を押し殺した。

この戦いの間だけ『兵器に徹する』と決めたのは自分だ。
だから、ここで余計な感情に時間をとられるわけにはいかない。

何より英雄世界の純正ルイル核を持ってきてくれた者も、きっとハイン達の勝利を願っているはずだ。

遺された思いに報いるためにも集中しなければ。
戦いに慣れていないハインにとって非常に難しいことだったが、
持ち前の責任感の強さもあってか、なんとか頭をゆっくりと冷やしていく。

その目で、改めて前を見た。



719: ◆BYUt189CYA :2008/07/22(火) 18:15:02.75 ID:wcoHHkfi0
从 ゚∀从「…………」

戦いの音が聞こえてくる。
抗いの声が聞こえてくる。
誰もが護れと叫んでいる。

戦塵が舞い、中央を掻き分けるようにして巨大な獣が歩いてきているのが見えていた。

ケーニッヒ・フェンリルはこちらを見ながら、大きな身体をゆっくり動かしている。
周囲、魔力や火薬の破裂が花火のように発生しているが、意にも介していないようだ。

歩調はひどく鈍い。
しかし、巨体な分だけ一歩の距離は大きいだろう。
鈍重な見た目よりも、よほど早く移動しているはずだった。

そしておそらく、その足下ではクー達が戦っている。
ハインが信じた仲間が、信じるハインを護るために抗っているのだ。
そう思うだけで、ハインの心には激痛とも言える痛みが突き刺さってくる。

从 -∀从「どうか、どうかもうこれ以上、誰も死なないで下さい……」

思わず口をついて出た言葉は、素直な感情にまみれており

从 -∀从「御願いします……!!」

難しいことだと解っていながらも、そう望まずにいられなかった。



723: ◆BYUt189CYA :2008/07/22(火) 18:16:17.95 ID:wcoHHkfi0
ケーニッヒ・フェンリルが移動を開始した瞬間。
クー達、四世界混合軍は一斉に三手へと分かれていた。


装甲車に乗って先回りし、必殺の一撃を準備する者達。

巨大な獣の足下で、追いすがりながら足止めを続ける者達。

そんな彼らを妨害しようとする獣を撃退する者達。


言葉の類は一切なかった。
ただ、全員が同じことを同じタイミングで悟ったのだ。
彼らの胸中には、以心伝心などという生易しい言葉では表現出来ない何かがあった。
これは仲間という絆が生み出した、一種の奇跡と言えよう。

本陣まで一キロメートルを切る。

世界の命運を決める距離としては心許ないものがある。
しかも、ハインの用意する切り札が必ず通用するとは誰にも言えないのだ。

だが、彼らに一切の迷い無し。

心に刻むは『最強』であるハインリッヒへの信頼。
そのために為すべきことを、誰もが理解し、そして身体を張って実行しようとしていた。



729: ◆BYUt189CYA :2008/07/22(火) 18:18:32.13 ID:wcoHHkfi0
「何がなんでも止めるぞ――!!」

一歩一歩、鈍重ながらも確実に歩を進めるケーニッヒ・フェンリルの足下で
混合軍の一部が追いすがりながらも追撃を行なっていた。

残す距離九五〇メートル。

ハインの準備が整うまで、その数字を決してゼロにしてはならない。
それ即ち敗北の時であるからだ。

だから誰もが必死の形相で走り、攻撃を重ねている。

既に体力の限界は超えていた。
しかし脱落者は少ない。
精神が肉体を凌駕しているのだ。

「あぁぁ畜生……! ハァ、ハァ……こりゃ世界一キツいマラソンだぜ……!
 走りながら攻撃なんぞ、タイミングもへったくれもあるかっつーの!」

「だが俺達の誰かがここで脱落したら、ケーニッヒ・フェンリルは数センチの距離を得ることとなる……!
 その数センチが致命的だったとしたら……っはぁ、負けられんな……!!」

「っへ……そんなことになる前に、仕留めてやんよ……っ!!」

気力だけは充実しているのが解る。
身体の疲労を偽りながら、兵達は執拗に攻撃を続けていた。



732: ◆BYUt189CYA :2008/07/22(火) 18:20:13.84 ID:wcoHHkfi0
《――……!》

四本足から来る微かな痛み。
これを生み出す足下の兵を、頭上のケーニッヒ・フェンリルは苛立ちの目で睨んでいた。
あまりにしつこい追撃に、怒りを抑えられなくなってきたのだ。


――小さき存在が、ここまで追いすがるか。


何に因り。
何のために。
何を思って。


疑問は尽きない。
そして一つも答えを見出せない。
いくつもの世界を滅ぼしてきた異獣にとって、この人間達の行動は理解出来るものではなかった。


生命の、
覚悟の、
希望の、
意志の、
信頼の、


その全ての貴い輝きを知らぬ獣は、果たして哀れと言えるだろうか。



738: ◆BYUt189CYA :2008/07/22(火) 18:21:48.45 ID:wcoHHkfi0
元より誰にも解らぬ問いかけだ。
何故なら、勝ち残った方の理屈のみが適用されるのだから。
唯一の生存戦争規則に則り、これまでもこれからも、幾重幾多の生物は戦い続けるだろう。
この戦いもまた、そんな一つの解答を生むための歴史の一部に過ぎない。

だが、

「負けてたまるか……! たとえ足が折れようとも、這ってでも貴様を追うぞ……!!」
「護るんだ! 希望を! 俺達の――ッ、世界を!!」

それでも人は、本気になれる。

多種の感情を持つが故に、死に対する恐怖と畏怖を感じ、抗おうとする。
それは泥や血にまみれ、汚く、一見すれば野蛮の極みにも見受けられるかもしれない。
元よりこれは、歴史に残るかも解らぬ戦いなのだ。

しかし、もう一度言おう。


それでも人は本気になれるのだ、と。



740: ◆BYUt189CYA :2008/07/22(火) 18:23:27.62 ID:wcoHHkfi0
その瞬間、ケーニッヒ・フェンリルに更なる異変が起きた。

《――――……!!!》

巨躯を大きく震わせ、毛を逆立てて威嚇するように構えたのだ。
こちらの追撃などまったく意に介していなかった獣の突然の行動に、皆は戦いながらも緊張に身を固める。
正体は『異獣製造機』だと兄者が言っていたが、果たしてこの行為は――

「! なんだ!?」
「何を……いや待て、あれは――」

誰もが見る。
見上げるほど巨大な獣の胴体部分が、まるで皮膚下に虫がいるかのように蠢動し始めたのを。

誰もがその光景に覚えがあった。
確か先ほどの異獣を生み出す時も、同じような動きをしたのではなかったのか。
あれは身体の一部を分離させるようにして生んでいったが、今度は蠢動範囲は身体全体に及んでいる。

指し示す事実はつまり、

《グ》

合図はケーニッヒ・フェンリルの呻き声で、


《ゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥァァァァァァァァアアアアアアアアアアア――――!!!》


しかし、とても声として聞いてはいられない音が、戦場を貫いた。



744: ◆BYUt189CYA :2008/07/22(火) 18:25:01.79 ID:wcoHHkfi0
巨大な発声器官から発せられる咆哮に、疾駆の最中にいる者達も思わず顔をしかめる。
衝撃波に備えて慌てて防御姿勢をとる者もいたが、果たしてぶつかってきたのは音だけだった。

だが、変化は当然のように現実として刻まれる。

「っ!?」

不気味としか言えない、肉と骨が擦れるような音。
聞こえてきた時、地上にいた者達は弾けるように顔を上げた。

「っ……!」

そして現れた光景に戦慄する。

皆が見る先、巨大な獣の身体各部から生えてくる群がある。
白い植物の芽に見える存在の正体は、先ほどギコ達が見た上半身だけの獣だ。
しかし今度はそれで留まることなく、身体全てを、のるり、と染み出そうとしている。

それが無数といえる数で、更に背に翼を生みながら、今にもケーニッヒ・フェンリルの背から飛び立とうとしていた。

「くそっ! またかよ!」
「やべぇな……」

ここから見えるだけでもかなりの数だ。
周囲はケーニッヒ・フェンリルを守らんと暴れる獣の群で、上からは今しがた生まれてきた翼持ちの獣の群。
攻略すべき獣の王は、今も多量の子を生み落としながら一歩一歩、確実に本陣へと足を進ませていた。

ここで獣の包囲が完成してしまえば、追いすがることすら出来なくなってしまう。



748: ◆BYUt189CYA :2008/07/22(火) 18:26:40.28 ID:wcoHHkfi0
「……くっ、やることは変わらねぇよ!」

考えている時間などなかった。
刻一刻と本陣との距離は縮まり、そして自分達も獣に埋もれていく。
ならば、たとえここで終わろうとも――

「周囲は既に逃げ場もねぇし、しゃーねぇか……あとは先回りした奴らに任せるとすっかねぇ。
 アイツらおっちょこちょいで心配だが、やる時はやってくれると信じよう……!」

絶望的な戦況の中、隊長格の男が強く言う。
彼についてきた部下達は、応、と己の武器を掲げて返答した。

退路はない。
進路もない。
あるのは戦場のみで、それも獣という絶望に覆われようとしている。

しかし、それでも彼らの顔に諦めはない。

……さぁ、これこそ最期の戦いだ。

たとえ先に待つのが陰惨な死に様だろうが、まだ今の彼らは生きている。
ならば、身体が動く限りは刻んでやろうではないか。

この現実というクソみたいな壁に、力が足りずに壊せずとも、せめて自分達が生きた証を。



753: ◆BYUt189CYA :2008/07/22(火) 18:28:47.61 ID:wcoHHkfi0
瞬間、音が響いた。

獣の咆哮に囲まれる中、それは上から落ちてくる。
ひ、という甲高い音は、どこか鳥の嘶きに似ていて――

「な、んだ……?」

騒がしい戦闘音を叩き伏せる高音は、クレッシェンドの勢いを以って落下してきた。
音に釣られるように、手の空いた者が絶望を示す表情で空を見上げる。

ここにきて新たな敵か、と思うのも当然で、しかしすぐに引き締まった表情へ戻した。

いいだろう。
駄目押しの敵増量だというのなら、相応の覚悟で抵抗してやる。
死を覚悟した人間のしつこさを思い知るがいい。

皆で頷き合い、歯を食いしばった時。

『知ってるかテメェらァァ!?
 そうやってすぐ死を覚悟する奴のことをなんて言うか――!?』

現れた影が言葉を発した。
スピーカー越しなのか多少のノイズを混ぜた音声は、
絶望に染まろうとしていた者達へ、こんな言葉を送った。


<_#プー゚)フ『――小物っつーんだよッ!!』



756: ◆BYUt189CYA :2008/07/22(火) 18:29:49.19 ID:wcoHHkfi0
<_#プー゚)フ『いくぜ……!!』

二つの内の一つ――灰色の戦闘機が、遥か上空に姿を見せた。

速度を落としたかと思えば、それは機首を下にして落下を開始。
回転を交えた軌道は、渦巻く空気の白尾を纏いながら直下を目指していた。

本陣までの距離が九〇〇メートルを切る。
次の瞬間、男の声が高らかに響いた。

<_#プー゚)フ『――必中爆砕! プラズマン・ミサァァァァイルっ!!』

言葉と同時、白の尾が一気に数を増した。
それぞれの先端には鋼鉄で構築された爆撃兵器、マイクロミサイルがある。

僅かに螺旋を描いたミサイルの群は、しかし一定の速度を得た瞬間に軌道を変えた。

曲線から直線へ。
追うようになびく煙を置いていきかねない速度で。
重力加速をも味方に得たミサイルは、狙い通りの場所へ殺到し、

爆発する。

ただの運動エネルギーでさえ破壊的でありながら、そこに爆炎が加わった。
爆撃を受けたケーニッヒ・フェンリルの背中から黒煙が上がる。



758: ◆BYUt189CYA :2008/07/22(火) 18:31:09.86 ID:wcoHHkfi0
<_#プー゚)フ『はっはー! どうだ、ざまぁ見やがれ!』

(;`・ω・´)『お前は……まだ戦いは続くというのに、もう少し兵装は節約して使え』

<_プー゚)フ『残念無念! プラズマン・弾切れ!!』

(;`-ω-´)『…………』

【もうどうしようもありませんね、この人は】

エクストの奇抜発言に、シャキンとキオルの冷静で呆れ気味なコメントが続く。
しかし言われた彼はへこたれることなく、

<_#プー゚)フ『どうせ戻って補給する時間も余裕もねぇ!
         それに節約したって、最終的には全て敵にぶつけンだ!
         なら、今やったって後でやったって結果的には同じだろうよ!?』

(;`・ω・´)『まったく……この単細胞が』

安易に頷けないが、彼らしい理屈だった。
そして今という状況において、不思議と『馬鹿』の一言で切り捨てることは出来なかった。
むしろ、この胸に湧き上がる感情は――

(`・ω・´)『だが、応じよう』

え、とキオルが疑問を発するよりも早く指が動いていた。



762: ◆BYUt189CYA :2008/07/22(火) 18:32:10.18 ID:wcoHHkfi0
スロットルレバーの側面上部に備え付けられている赤いスイッチを、親指が叩く。

そうすることで兵装パネルが明るく光った。
続いて、それぞれの兵装の残段数が表示される。
シャキンは迷うことなく、ウインドウに並ぶ兵装パネルを全指定した。

【貴方は――】

キオルはそこで、シャキンのやろうとしていることを理解した。
理解した上で言葉を並べる。

【随分と、貴方らしくありませんね】

(`・ω・´)『生憎、俺らしく、というのがどういうものなのか俺には解らんのでな。
     それに一つ我慢ならんことがある』

【それは?】

(`・ω・´)『……このままでは弾切れしていない俺の方が有利だ、ということだ』



766: ◆BYUt189CYA :2008/07/22(火) 18:33:46.99 ID:wcoHHkfi0
直後、機体が小さな震動に襲われる。
左右の翼、そして機体の底の兵装ハッチが全て展開したのだ。

奥から頭を覗かせるのは数種類のミサイル群。
今の今まで、シャキンが頑なに温存してきたものだ。
しかし、

(`・ω・´)『行け……!!』

それらはスイッチ一つで発射された。
相棒でありライバルであるエクストに負けられない、という気持ちが後押ししていた。

放たれたミサイル群は、どれもが初速からして高速だった。
一拍の空白後、一気に白煙を噴出させながら疾駆を開始する。

放射線状に分かたれた多量のマイクロミサイルが、
その中心を突き抜ける数基の対地ミサイルが、
それを追う形で飛ぶロングレンジミサイルが、
定まらない軌道を見せる二つの魔爆光ミサイルが、

狙いであるケーニッヒ・フェンリル目掛け、我先にと殺到した。

《――……!!》

撃音と爆音が同時に鳴り響く。
それは、雷鳴のような音に近かった。



768: ◆BYUt189CYA :2008/07/22(火) 18:35:17.73 ID:wcoHHkfi0
<_プー゚)フ『へぇ、やるじゃん』

ややあって、エクストの声が届いた。
妙に嬉しそうな感情が混じっており、シャキンも合わせて口元を緩ませる。

(`・ω・´)「……ふン」

【爆撃箇所確認……見た限り、目立った損傷さえも与えられていませんね】

何故か少し皮肉げな声のキオル。
しかし機械である彼女が言うのならば、今の報告は純然たる事実なのだろう。

【やはり人間とは解らない。
 一時の感情に身を任せて、果たして何を得るのでしょうか。
 今の攻撃も目に見える成果はありません。
 もっと効果的な機会に放つべきだったのではないでしょうか】

<_プー゚)フ『はっは、テンションに身を任せてはならないって考え方だな。
         キオルらしいっちゃーらしいが……まぁ、俺達はどうしようもなく人間で、馬鹿で、男なんだよ』

な、と同意を求めるエクストに、シャキンは、あぁ、と応え

(`・ω・´)『……感情が全て正しいとは言わない。
     キオルの言う理屈や理論の方が正しい時もあるだろう。
     だが、これに限って言えば「正しいか間違っているか」じゃないんだ』



774: ◆BYUt189CYA :2008/07/22(火) 18:36:58.76 ID:wcoHHkfi0
【では、何を以って?】

(`・ω・´)『自分が納得出来るか否か。
     そこに損得や是非など入り込む余地はなく、狭い自己満足の世界さ』

言葉にするならば『矜持』か。
『誇り』と言い換えてもいい。
ちっぽけで、理解などされない自分だけの世界だ。

(`・ω・´)『だからこそ極めたくもなる……空しか知らん男にとって、それが全てだからな』

<_プー゚)フ『そういうこと』

(`・ω・´)『空は広い。 が、それは一つしかない。
      そしてそれが空に生きる半端者の唯一のルール。
      「己の誇り」を貫くことが出来ぬ者から墜ちていく』

<_プー゚)フ『だから俺達は過去に戦い、シャキンはラミュタスを超えた。
       同じ空を飛ぶ者同士、思想が違えば共存なんか出来やしねぇんだ』

【…………】

<_プー゚)フ『あー、なんだ。 難しいこと言ってるが、つまりこういうこと――』

一拍の間。
そして二人は口を揃え、


<_プー゚)フ『『――コイツには絶対負けたくない』』(`・ω・´)



778: ◆BYUt189CYA :2008/07/22(火) 18:39:23.30 ID:wcoHHkfi0
【貴方達は……】

一瞬、言葉が途切れ

【貴方達は、私が知る限りで最大の馬鹿だと言えましょう。
 しかし不思議なもので、それを否定する気にはなりません。
 データ上では否定材料などいくらでも抽出できるのですが……不思議です。
 その馬鹿げた行為を、むしろ喜ばしく思うなど――】

(`・ω・´)『そいつは重畳。
      ならば、その勢いで行こう。 決着をつけに……!!』

両機が傾いた。
機首を真下に向け、メインスラスターを全開へ。
旋回の軌道から、落下の軌道へ移るためだ。

程よい浮遊感を得ながら、二人は接触寸前まで機体を近付ける。
並のパイロット同士には出来ない芸当だ。

過去のいがみ合いは、今この時においては懐かしい思い出でしかない。
あの戦いを通じて二人は互いの力を認め、掛け替えのない好敵手となった。

敵ではなく、しかし単なる味方でもない。

切磋琢磨を基部においた摩訶不思議な関係。
超えることを誓い合い、互いの成功を喜び、そして同時に目標ともする絆。
そこに損得などといった無粋な感情は一切ない。

それほど、今のシャキンとエクストの気持ちは通じ合ってた。



781: ◆BYUt189CYA :2008/07/22(火) 18:41:01.95 ID:wcoHHkfi0
<_#プー゚)フ『待たせたな、13th−W「ラクハーツ」!
         テメェの仕事がやってきたぜ!!』

(#`・ω・´)『キオル!
      6th−W「ギルミルキル」モードと、「Force Attack」モードの同時発動を!』

【――心より、了解】

大気を切り裂きながらの急降下。

水蒸気の白尾を引きながら、二つの機体に多量の魔力が循環を始めた。
物理法則を否定する力がオーバーヒートの火花を散らし、その機体のカラーすら歪め始める。

エクストの駆るGDF『ミョゾリアル』は、緑の光に。
シャキンの駆るEMA『キオル』は、赤の光に。



783: ◆BYUt189CYA :2008/07/22(火) 18:42:17.94 ID:wcoHHkfi0
更に最接近していた機体の二色が混じり、レッドグリーンのコントラストを生む。
そこに大気の破裂と白尾が加われば――


(#`・ω・´)『おぉぉぉぉぉぉぉっ!!』

<_#プー゚)フ『いっけぇぇぇぇぇぇぇっ!!』


一直線に落ちる二機は流星よりも疾く、
その輝きは空に浮かぶ星々よりも煌き、


――赤と緑の色が、目にも留まらぬ速度で落ちていく。


狙いは、真下にいるケーニッヒ・フェンリルの巨体。
その無防備な背中に最大級の突撃をぶつけるため、二人は意思を持って吼える。


決着を呼ぶ第一撃が、大音と共に放たれた。



785: ◆BYUt189CYA :2008/07/22(火) 18:44:01.84 ID:wcoHHkfi0
|゚ノ ^∀^)「…………」

少し離れた位置でレモナは見ていた。
自身を兵器に見立てた二人の突撃を。

コクピット越しに映る景色は、赤と緑、そして細い白の線によって彩られている。
心を通じ合わせ、しかしプライドを捨て切れない男達にしか描くことの出来ない光景である。

二機が最大の力を以って落ちた先にはケーニッヒ・フェンリル。
巨大な獣は、いきなりの直上からの攻撃に驚いたようだ。

そして直撃を受けた背は曲がり、順調に動いていた足が止まっていた。

残り八〇〇メートル。

シャキンとエクストの同時突撃で歩調が鈍くなってはいるが、
ここでレモナの攻撃を重ねることにより、更に時間を稼ぐことが出来るだろう。
だから、彼女は深く息を吸い、

|゚ノ ^∀^)「行くわよ、モナー」

(;´∀`)『わ、解ったモナ……!』



790: ◆BYUt189CYA :2008/07/22(火) 18:45:25.15 ID:wcoHHkfi0
浮かんでは流れる汗も拭わず、レモナはレバーを握り直した。

剣と化したリベリオンは既に構えの中に組み込まれており、
あとはペダルを踏み込めば、彼女の乗るウルグルフは最大速度で突っ込むだろう。


チャンスは今しかない。


|゚ノ#^∀^)「この一撃に全身全霊の力を込める……!!」

腰だめに構えた剣は青色を放ち、包む魔力が輝きを与えた。

発進する。
高機動性を活かして先回りしていた位置から、赤い鎧武者が空を疾駆した。

前から来る重力付加が、レモナの身体をシートへ押しつける。
しかしその重圧と痛みすら、今の彼女にとっては生の実感であった。



795: ◆BYUt189CYA :2008/07/22(火) 18:46:40.12 ID:wcoHHkfi0
レモナは刹那に思う。

何度も間違えた。
何度も死にかけた。
何度も誰かに迷惑をかけた。

だから謝って、感謝したい人がたくさんいた。

でも、その言葉を送る相手は、もうこの世にいない。
だというのに、自分は未だ生きている。

生かされたのだ。
レモナの過ちを知っていながらも。
過たれていると受け止めた上で、彼らは彼女を生かしたのだ。

何故。

答えなどない問いかけは、今もレモナの胸にある。
何も知らず、偽りの権利だけを振りかざし、感情のまま刃を持つ自分を、彼らは何故に生かしたのか。

解らない。
解るわけがない。

もう二度と聞くことの出来ない声。
答えを欲する感情はあるが、それは不可能だと理性が言う。

だが求める心は、この冷たい戦場の中でも凍えることなく焦がれ続けていた。



800: ◆BYUt189CYA :2008/07/22(火) 18:49:06.61 ID:wcoHHkfi0
|゚ノ#^∀^)「っはぁぁッ!!」

ケーニッヒ・フェンリルへ一気に接近したレモナは、迎撃を受ける前に腕を動かした。

容赦無しの無加減斬撃。
機体と慣性の全加重を乗せた一撃は、身を前に投げるような形で繰り出された。


半円を描く一刀は太陽を割るが如く。

軌跡を描く青刃は月輪を裂くが如く。


剣線を真芯で捉えた見事な斬線は、

|゚ノ#^∀^)「ッ!!」

だが、分厚い魔力の毛並によって逸らされることとなる。
自分の放った力が外れるという並の人間には解らない不快感が脳を突いた。
頭に血が昇るのを自覚しながらも、しかしレモナは努めて冷静でいようとする。

今までの経験が、自然とそうさせた。



804: ◆BYUt189CYA :2008/07/22(火) 18:50:29.67 ID:wcoHHkfi0
|゚ノ#^∀^)「だったら教えてあげるわ……!」

前への勢い余った機体は、振り抜いた剣に引っ張られて上下逆さまとなる。

このまま力を抜けば地に落ちるだろう。
逆に姿勢を戻そうとすれば攻撃を受けるだろう。

今、ケーニッヒ・フェンリルから生まれた多くの獣は、生みの親を守るように布陣していた。
陸は言うまでもなく、翼を持つ個体は空にも、だ。
その只中に突っ込んで来た自分は間違いなく最優先駆除対象である。

圧倒的な死の予感に、しかしレモナは表情を緩めない。

|゚ノ#^∀^)「どうして、わざわざEMA一機を変形させて剣を作っているのかを――!!」

判断は一瞬。
レバーをしっかり握り、身を一気に振った。

機体がその場でロールする。
レモナの身にかかる慣性の突っ張りは、むしろ心地良くすらある。
そして、身体の中身全てが半身に集ったかのような感覚の中、

|゚ノ#^∀^)「こうするためよッ!!」

青い巨剣を、力の限り振るった。



809: ◆BYUt189CYA :2008/07/22(火) 18:52:48.25 ID:wcoHHkfi0
形としては、ケーニッヒ・フェンリルに背を向けて逆さになった状態からの攻撃だ。
つまり下から上への斬撃が炸裂したことになるのだが、
如何にEMAといえども、その巨躯にかかる重力を全て無効化するほどの出力は無い。

しかし、剣は振られた。

《――……ッ!!》

いきなりの挙動に加え、首元を切りつけられたケーニッヒ・フェンリルは見る。

物理法則に反する事実の正体とは、光だった。
巨剣となったEMA-01『リベリオン』の刀身の根元。
そこに、元はリベリオンの飛行機能を支えていたスラスターが、一纏めになって光を噴いていた。

今のは、剣から出るブーストによる現象だ。

数十トンはある金属の塊を飛ばす大出力は、
逆さになったウルグルフの姿勢を一瞬で反転させるほどの瞬発力を持っていた。

|゚ノ#^∀^)「そして――っ!」

斬りつけついでに上昇したウルグルフは、しかし止まらない。
両腕で柄を握り、今度は重力に身を任せて落ちてくる。

|゚ノ#^∀^)「『リベリオン』の名が示すは復讐……遂げられるまで、しつこく追うわ!」

三撃目。
上、下、ときて、更に上からのアタック。
機体と剣の両方のスラスターを用いた、EMAならではの贅沢な連続攻撃である。



813: ◆BYUt189CYA :2008/07/22(火) 18:55:08.50 ID:wcoHHkfi0
破裂音。
そして強烈な光。

剣と化したリベリオンの魔力と、ケーニッヒ・フェンリルの纏う魔力との擦過による大音だ。
火ではない火花――いわば光花が激しく散り咲き、その威力の程を周囲に伝える。
あまりの光に、一瞬だけ時が止まったかのような空気が流れるが、

|゚ノ;^∀^)「――っくぅぅぅ!!」

(;´∀`)『うわわわ……!?』

果たして根負けしたのはウルグルフの方だった。
魔力と魔力のぶつかり合いに耐えられなくなった機体が、一気に後方へ弾き飛ばされる。

(;´∀`)『レ、レモナ!!』

|゚ノ#^∀^)「解ってる!!」

乱れた姿勢を空中で立て直しながら、レモナは強く言う。

これもまた、一つの想定内であった、と。

弾き飛ばされたことで、機体とケーニッヒ・フェンリルの間に充分な間合いが発生する。
言い方を変えれば充分な助走距離が出来上がったことに等しく。

事実、レモナはこの空白を加速の材料にしようと狙っていたのだ。



820: ◆BYUt189CYA :2008/07/22(火) 18:57:30.08 ID:wcoHHkfi0
|゚ノ#^∀^)「私は負けない! 諦めない! そして簡単には死なない!!
      彼らが何故、私を生かしてくれたのかは解らないけれど――」

雑魚が集まるが、隙など与えてなるものか。
巨剣を今度は突き出すように構えたウルグルフは、背のスラスターに目一杯の光を生み、

|゚ノ#^∀^)「――これからも生きていくのが、最大の応えになるんだからッ!!」

もはや魔力の残量など考えない。
出来る限りの最大出力を以って、復讐に燃える赤い機体が疾駆した。

初速からコンマ数秒で音速を超える。
同時に機体にとって想定外の衝撃と加圧が、一気にメインフレームの寿命を奪う。
自壊の兆しを見せるウルグルフは、しかし水蒸気爆発による白い輪を幾重にくぐりながらも飛んだ。

|゚ノ#^∀^)「!」

そんな一瞬の間にレモナは見た。
剣化しているリベリオンに、更なる魔力が纏われるのを。

あの操作を可能とするのは、リベリオンに乗っている者だけである。


……いいわ、行きましょう。


愚図で、情けなくて、どうしようもないけれど。
今この時に貴方が出した勇気と覚悟、私が見届けた。



823: ◆BYUt189CYA :2008/07/22(火) 18:59:10.64 ID:wcoHHkfi0
|゚ノ#^∀^)「ぅぅぅぅぅぁぁぁぁぁぁああああああっ!!!」

《――――……ッ!!?》

赤光が、獣へ激突した。

一瞬だった。
光を放つ赤が行き、衝撃が走り、そして轟音が最後に来る一瞬だった。
道程にいた異獣が、発生した衝撃波によって微塵切りにされるほどの速度であった。

そして結果は一目瞭然である。

赤い人型が、右肩から巨大な獣にぶつかっていた。
よほどの衝撃だったのか、その右肩を始点とする腕全体は無惨にも全壊している。
その他にもフレーム各部の軸がずれてしまったのか、微かに歪な様相で存在している。

だが、それで終わりではなかった。

《グ……――ガァァァァ……!?》

自身を『刃を持つ砲弾』として打ち出したレモナは、しっかりと剣先をケーニッヒ・フェンリルの腹部に差し込んでいたのだ。

魔力の総量では勝てない勝負だったのかもしれない。
しかし速度が味方したおかげか、
発生した瞬発的な貫通力が、ケーニッヒ・フェンリルの防御力を上回ったようだ。



831: ◆BYUt189CYA :2008/07/22(火) 19:03:44.36 ID:wcoHHkfi0
しかし以降、ウルグルフが動くことはなかった。
刀身の半分ほどをめり込ませた形で、装甲の隙間から火花を散らしながら。

|゚ノ;^∀^)「――っはぁ、はぁ……!!」

あまりの衝撃に冷房装置が壊れたか、熱を持ち始めたコクピット。
その中でレモナは震える身体を抑えつけるようにして喘いでいた。
額と肩から少量の血が流れていることから、激突時の衝撃が凄まじかったことが解る。

|゚ノ;^∀^)「はぁ……何とか……一矢報いることが出来たみたいね……」

ブレる頭で機体をチェック。
右腕部はどうしようもなく、全身は衝撃に軋んでいる状態だ。
各部を繋げる接続線が千切れたのか、レバーやペダルを動かしても反応は薄かった。

何とか生きているスラスターを操作し、リベリオンを引き抜く。
また集まってくる異獣に包囲される前に、レモナはそれ以上攻撃もせずに撤退した。
既に機体は崩壊寸前で、いつ力を失って墜落してもおかしくないからだ。

不時着の操作を行ないながら、レモナはバックカメラで巨獣を見る。

彼女の放った一撃は、思ったよりも小さな傷跡として残っていた。
ケーニッヒ・フェンリルにとって、さほど重大ではなかったのかもしれない。
しかし、

|゚ノ#^∀^)「生き残った私の、勝ちよ……異獣……!」

地面が近付いてきたところで言い切り、レモナはそこで意識を失った。



835: ◆BYUt189CYA :2008/07/22(火) 19:05:21.82 ID:wcoHHkfi0
( ゚∀゚)「なんとか間に合ったみてーだな……」

本陣まで残り七〇〇メートル。

ジョルジュが立っている。
荒れた赤褐の大地の上、疲労に面倒そうな表情を乗せて。
ここまで全力で走って来たのか、額には多量の汗が浮いていた。

荒い息を吐く視線の先には、巨大な白い柱がある。

いや、柱ではない。
大き過ぎるが故にそう見えてしまうが、表面をよく見れば毛で覆われている。

ケーニッヒ・フェンリルの足だ。

ジョルジュは巨大な獣の足下に立っていた。
四本ある内の、右後ろに位置する地点だ。
攻撃の準備をしに先回りしたクー達とは違い、彼は単独でケーニッヒ・フェンリルを追っていたのだ。

もちろん理由がある。

( ゚∀゚)「シャキン達は上手くやったみてーだな。
     なんだかんだ言ってやるじゃねぇか」

シャキンとエクスト、レモナとモナーの連続攻撃を受けたケーニッヒ・フェンリルは行動を停止していた。
あまりの衝撃に体勢が崩れ、その立て直しを図っているのだ。



838: ◆BYUt189CYA :2008/07/22(火) 19:06:31.83 ID:wcoHHkfi0
( ゚∀゚)「だが頼ってばかりじゃいけねぇ……次は俺の番だ」

足止めの必要があった。
既にシャキン達の攻撃は終わり、特にレモナの方は再度の攻撃が不可能な被害を受けている。
先回りしている味方の準備時間を稼ぐ意味でも、ここで誰かが代わってやらねばならない。

思うジョルジュは、おもむろに己の両手へ目を向ける。

右手指は四。
左手指は三。

数字は、折れていない指の数だ。
残る全ての指は関節の存在しない部分から歪に折れ曲がっている。
血が集まり、腫れ、まるで手袋をしているかのように膨らんでいた。

(;゚∀゚)(ちっ……あの野郎、しつこかったよな……)

機械の四肢持つ男、キリバ。
東側での激戦時、ジョルジュはこの男を抑えつけるため鎖を振るった。

しかし、束縛されながらも動きを止めないキリバは数本の鎖を引き千切る。

操作系の問題で鎖と指がリンクしていたのがいけなかったのが
鎖を一本失う度、対応するジョルジュの指が折れていたのだ。



843: ◆BYUt189CYA :2008/07/22(火) 19:07:42.47 ID:wcoHHkfi0
(#゚∀゚)「けど、負けねぇぞ」

誰に言うでもなく呟かれた言葉には力が満ちている。
この戦いに、勝利する価値を見出しているからだ。


……生きて帰る。


ジョルジュの目的はそれだ。
戦闘しか知らなった彼が、果てに見つけた帰るべき――いや、帰りたいと思える場所。
そこに至るため、今のジョルジュは一人でケーニッヒ・フェンリルに挑もうとしていた。

(#゚∀゚)「DOUBLE OVER ZENITH……!!」

右手からは灰色の光が。
左手からは紫色の光が。

同時というタイミングで、握った両拳から強い光が漏れた。

そして二つの色が混ざり始める。
自分の内で何かが這いずるような感覚の中、ジョルジュは意識を集中させた。

限界突破した二つの大きな力を纏め上げるためだ。



849: ◆BYUt189CYA :2008/07/22(火) 19:09:49.38 ID:wcoHHkfi0
二種の疑似精神を制御し、一つにするという荒業は決して容易いことではない。

少しでも気を抜けば魔力が暴走してしまい、
最悪の場合はジョルジュ自身の身が破壊されてしまうだろう。
だが、

(#-∀-)(――――)

ジョルジュは制御しきった。

理屈ではない。
流石はウェポンを扱うために生まれてきたと言うべきか、
本能レベルでの意識下により、高難易度の制御を成し遂げたのだ。
そして、たった一人でケーニッヒ・フェンリルを抑えようとする姿は、間違いなく『優秀作』たる堂々としたものであった。

(#゚∀゚)「さぁ、こっからは俺様オンステージだぜ……!」

両腕を勢いよく振るった。
すると、翼のようにして広げられた腕、そして五指の先に鎖が出現する。
合計十本もの鎖――その内五本はボロボロだったが――は放射線状に広がり、更に翼を大きく形作っていった。

最大まで仰いだ動きを止め、一呼吸。
深く吐き、深く吸い、

(#゚∀゚)「――だぁぁぁぁぁりゃあああああああッ!!!」

構えた両腕を勢いよく前方へ投げ出した。



857: ◆BYUt189CYA :2008/07/22(火) 19:12:22.47 ID:wcoHHkfi0
十の鎖が意志を持っているかのように宙を走る。
魔力で編まれた鉄の連鎖が絡む先は、ケーニッヒ・フェンリルの右後ろ足だ。

硬い金属音と共に、鎖が束縛する。

完全固定。
鎖には一片の撓みもない。

(#゚∀゚)「さぁ、力比べといこうぜ……!!」

一息。


(#゚∀゚)「テメェと俺様の魂! どっちが重いってのかをなぁ!!」


次の瞬間、ジョルジュの身体が前へと吹き飛んだ。



862: ◆BYUt189CYA :2008/07/22(火) 19:15:20.24 ID:wcoHHkfi0
背後から強い力で押さえれたように見える光景は、しかし逆だ。
体勢を立て直したケーニッヒ・フェンリルの右足が前を目指し、絡みつく鎖に引っ張られての吹っ飛びだ。
身体の中、特に腕と肩が軋みをあげるのを感じながら地面に叩きつけられる。

(#゚∀゚)「んぎっ……! っちくしょう!!」

完全に倒れる直前、反射的に出した左足の膝が支えとなり、更に一回転を追加した。
そのまま驚異的な身体能力で着地したジョルジュは、腰を深く落とし

(#゚∀゚)「行かせると思うか……!?」

体重を後ろへ流し、

(#゚∀゚)「この俺様が、テメェを素直に歩かせると思ってンのか!?」

歯を食いしばり、

(#゚∀゚)「そんなわけねぇよなぁ……!?」

あぁそうさ、と口の中で呟き、

(#゚∀゚)「確かにテメェの脅威はハインかもしれねぇけどなぁ!?
     俺様だってテメェの相手くらいは出来るように作られてンだよ!!」

だから、

(#゚∀゚)「この、俺様がァァァァァァッ!!」

叫び、両足を大地に刺す勢いで沈め、重心を後方へ落とした。



867: ◆BYUt189CYA :2008/07/22(火) 19:16:26.67 ID:wcoHHkfi0
《!?》

変化が生じたのは直後だ。
前だけを目指していたケーニッヒ・フェンリルが、僅かに身を震わせた。
前へ出ようとし、しかし何かに邪魔されているような動きだ。

特に動きを阻害されているのが右足である。
そしてそこには、文字通り足を引っ張る形でジョルジュが踏ん張っている。

行かせてたまるか、と。
進軍の阻止は出来ないかもしれないが、足止めくらいは、と。

《……――――!》

(;゚∀゚)「ぬぎぎぎぎぎ――って、うぉ!?」

しかし現実は厳格であった。
ケーニッヒ・フェンリルが強く右足を引くことで、耐え切れない力がジョルジュを襲う。

踏ん張っていた足が外れた。
引っ掛かりを失った足裏は、堰を切ったかのように滑り始める。

慌ててもう一度足に力を込めるが、既に勢いはジョルジュ一人では止まらないところまで来ていた。



869: ◆BYUt189CYA :2008/07/22(火) 19:18:33.14 ID:wcoHHkfi0
(#゚∀゚)「ちっくしょ……!! ざけんなっ!!」

形振り構わずの本気で止めにかかるが、それでもケーニッヒ・フェンリルに変化はない。
むしろ更に勢い増して引き摺られていく状況だ。
ジョルジュの顔に焦りが浮かぶ。

あり得ない。
この自分が何も出来ないなんて。

シャキンとエクストは、その速度と技術にモノを言わせて足止めに成功した。
レモナとモナーは、EMAという兵器を用いて足止めに成功した。
ケーニッヒ・フェンリルの足下では、敵に囲まれながらも抵抗を止めない兵達がいる。

事実を確認した上で、ジョルジュは自分を見て、


――なんだこの様は?


(#゚∀゚)「くそっ! くそくそくそっ! 止まれっつってんだろぉがぁぁぁ!!」

鎖を制御する指から異音が響くのも厭わない。
全身を突っ張らせ、地に足を刺すようにして抵抗した。

だが、それでも止まらない。

単純な力や理屈では覆せない圧倒的な質量差が原因だ。
いくらジョルジュが踏ん張ろうとも、ケーニッヒ・フェンリルの巨体からすれば小動物の抵抗に等しい。
まるで気に留める素振りすら見せず、ゆっくり前だけを目指していた。



874: ◆BYUt189CYA :2008/07/22(火) 19:19:50.43 ID:wcoHHkfi0
侮辱以前の問題である反応に、ジョルジュは獣を睨みながら思う。

一体自分は何をやっているんだ。

早く止めなければ。
少しでも歩を削って、そして少しでも時間を稼がなければ。
誰もが本気で時間を作っているのだから、自分だって負けていられない。

(#゚∀゚)(何やってンだ、俺様の身体は!
     こういう時にしか役立たねぇ人間じゃねぇかよ!?)

いや、

(#゚∀゚)(まともな人間ですらねぇっ……!
     こんな化物達と戦うための存在……そんな俺様が何も出来ずにいるなんか!)

認めるわけにはいかない。
それは自分の存在理由の否定にしかならないからだ。

だから、というように、彼は更に力を求める。

(#゚∀゚)(これは汚ぇ戦いしか知らなかった俺様の最後の仕事だろう!?
     なら果たしてみせろよ俺……!!)



879: ◆BYUt189CYA :2008/07/22(火) 19:22:03.23 ID:wcoHHkfi0
既に身体は限界を超えつつあった。

勢いよく流れる血流が管を破り、引き締まった筋肉が更に絞られ自壊していく。
鎖とジョルジュを繋ぐ両腕はボロボロで、いつ壊れてもおかしくない状態だ。
現に両手指のほとんどが歪に折れ曲がっており、腕部分の骨も悲鳴をあげっ放しである。

しかしそれでも、ジョルジュは離さなかった。

戦いでしか自分を表現することが出来ないから。
存在の理由を己で否定することになってしまうから。
そして何よりも、


――帰りたい場所があるから。


(#゚∀゚)「テメェらからすりゃ、ここは下らねぇ世界かもしれねぇ……。
     あぁそうさ。 この世界は誇れるほど美しくもねぇし、しかも変態多いしな」

あまり認めたくはない部分を素直に認めたジョルジュ。
その表情に諦めは無く、むしろ逆で、

(#゚∀゚)「だが、テメェの勝手な行動で壊されてたまるか……ッ!
     それが俺様は我慢ならねぇ!」



884: ◆BYUt189CYA :2008/07/22(火) 19:24:25.85 ID:wcoHHkfi0
この世界は、絶対に離さない。

以前のジョルジュからすればあり得ない思考だ。
偽善ならまだ解るが、しかしこの思いは間違いなく本物である。
確かに、ここは自分を生み出した憎たらしい世界だが、

(#゚∀゚)「……今の俺様にとっちゃ割と住み心地が良いトコロなんだよッ! そう見えるんだよ!」

やっと見つけた自分の居場所を、そう易々と手放すわけにはいかない。
世界の命運だとか、これからどうなるのか、などに興味はなかった。

(#゚∀゚)「馬鹿が多くて、変態も多くて、全体的にどーしようもねぇ!
     けど、こんな俺様をも対等に仲間として信じてくれる奴らがいるんだ!
     だったら俺様は……!!」

崩れかけた体勢を戻す。
無理な動作に全身が軋みをあげたが全て無視。

ただひたすらに、ケーニッヒ・フェンリルと己を繋ぐ鎖を握りながら吼えた。

(# ∀ )「――――ううううぉぉぉぉぉぉおおおおおああああああッッ!!!」



889: ◆BYUt189CYA :2008/07/22(火) 19:26:58.70 ID:wcoHHkfi0
止める。
止めてみせる。
止められないわけがない。

己は戦うために生み出された身だ。
『この程度』の巨体に負けるわけにはいかない。

(#゚∀゚)「テメェなんかよりも、もっとデケェ奴を見てきたんだからよ……!」

単純な質量では説明出来ない大きさ。
腕力じゃ到底動かせない、そういう意味での『重い』者達を見てきたのだ。
自分などと比べるようもないほど大きな、見果てぬ理想を追い求めた者達がいるのだ。

だから、

(; ∀ )「――っぐぅっぁああ!?」

己を鼓舞することで耐えてきた身体に限界が訪れようとしていた。
腕の各機能は崩壊寸前、手に至っては無事な指がない。
それでも鎖を手放さないのは、ジョルジュの執念によるものだ。

しかし、限界は限界だ。
こればかりは誤魔化しようもない。

二つのウェポンを操作する精神の方にも無理がきていた。
もし今の全力状態で制御を失ってしまえば、荒れ狂う魔力がジョルジュの身を喰らうだろう。



900: ◆BYUt189CYA :2008/07/22(火) 19:29:12.87 ID:wcoHHkfi0
(#゚∀゚)「くっ……!?」

動きが止まった。
いや、ケーニッヒ・フェンリルの右後足が地面についたのだ。
逆を言えば、またすぐに動き出すということでもある。

そんな中、ジョルジュの頭に一つの考えが浮かんだ。

今すぐこの手を離せば助かる、と。

両腕は既にボロボロだが、最悪でも命だけは助かるはず。
だがその分、他の者への負担が大きくなってしまう。


死ぬか生きるか。
負けるか勝つか。


双方の誘惑がジョルジュを惑わす。
『勝って生きる』が理想だが、今の状態では難しいのは彼が一番理解していた。

(#゚∀゚)「くそっ」

だからこそ、その悪態は吐き出され、

(#゚∀゚)「くそくそくそくそくそくそくそくそくそくそぉぉぉぉっ!!
     なんで俺様はこんなに……こんなに、こんなに弱ェんだよ――!!?」



902: ◆BYUt189CYA :2008/07/22(火) 19:30:34.35 ID:wcoHHkfi0
クーのように気高くもなければハインのように強くもない。
何もかもが中途半端で、誇れるモノなど持っていなくて。
情けない自分を、ジョルジュは心の底から恨んだ。

たったこれだけの足止めも出来ない自分など、存在価値があるのか、と。

いや、そもそも自分は存在を許されて生まれていない。
勝手に作られ、勝手に生み出されたのがジョルジュだ。
正しい方法で生まれていない自分が、この世界に必要などされているわけがない。

己を『様』付けで呼ぶのも、そんな暗い考えを吹き飛ばすためのものだったのだが――

(;゚∀゚)「はは……そうだよな。 そんなもんだよな。
     初めから存在することなんかなかった命……それが俺なんだよな」

だったら、

( ゚∀゚)「死んで世界を救う……それも良いかもしれねぇ、か」

帰りたい場所はある。
けれど、自分などでは不相応なのかもしれない。

場所の問題ではなく、そういった願いを持つこと自体が。



907: ◆BYUt189CYA :2008/07/22(火) 19:32:08.06 ID:wcoHHkfi0
( ゚∀゚)「……ごめんな」

全身に力を籠めながらジョルジュは言う。
行動とは裏腹の、弱い言葉を。

( ゚∀゚)「ごめん……俺、やっぱ弱かったよ。
     でも、それで終わりたくないから……最期くらい、皆の役に――」

震える息を深く吸い、目を瞑る。

ここからは己の身体がどうなっても、ケーニッヒ・フェンリルを止める。
如何なる激痛にも、恐怖にも耐え抜く覚悟で。

強く思い、そして身体を引こうとした時。


(;゚∀゚)「……え?」


右の肩を叩く手が、あった。



916: ◆BYUt189CYA :2008/07/22(火) 19:33:30.12 ID:wcoHHkfi0
(;゚∀゚)「え?」

思わず反射的に振り向き、ジョルジュは再び疑問の声を発した。
そこに予想すらしていなかった人物がいたから。


(´・ω・`)「やぁ、随分とボロボロだね」


そこには、彼を護るために自ら傷付き、戦線から退いたショボンがいた。
更に後ろには装甲車が一台あり、それに乗ってここまで追いついたことが解る。
走行音にすら気付けなかったのは、よほど自分が集中していた証拠だろう。

しかし理解出来ないのは、

(;゚∀゚)「何で……なんでだよ!? どうして来た!?」

彼の手に紫色の指輪と意志を託したショボンが、どうしてわざわざ。
表情と声で問いかけると、彼は困ったような笑みを浮かべ、

(´・ω・`)「――友達のピンチに駆けつけるのが友達だと思うんだ」



924: ◆BYUt189CYA :2008/07/22(火) 19:35:03.12 ID:wcoHHkfi0
(;゚∀゚)「ば、馬鹿か! お前、怪我してんのに!」

(;´・ω・`)「応急処置は済んでるし、痛み止めも無理を言って打ってもらってる。
      ……それに、怪我の度合いで言えば君の方が重傷にも見えるけど?」

(;゚∀゚)「俺は……そ、そこら辺の奴より頑丈だから――ら?」

そこまで言って気付いた。
制御している指輪の負担が和らいでいることに。

まるで誰かが肩代わりしているかのような感覚に、ジョルジュはショボンを見る。
すると彼は、またもや困ったような笑みで、

(´・ω・`)「とはいえ無理は駄目だし……これくらいのことしか出来ないけどね」

(;゚∀゚)「お、お前……」



932: ◆BYUt189CYA :2008/07/22(火) 19:36:26.27 ID:wcoHHkfi0
5th−W『ミストラン』はショボンのウェポンだ。
ジョルジュの操作よりも、彼の方が数段上手く扱えるのは自然である。
それをジョルジュの肩を掴みながら行なっているのは、少々驚きではあるが、


……これなら、もう少しだけ頑張ることが出来る。


(´・ω・`)「アイツを止めるんでしょ? 僕も手伝うよ。
     運転手さん、もうちょっと時間をくれないかな」

問えば、装甲車の運転席にいる爽やかそうな男が返事を寄越す。

「はっはっは、『早く戻ってこい』とうるさい医療班は俺が適当にあしらっておくさ。
 しかし無理はしないでくれよ。 動けるとは言え、君は重傷者に変わりないんだから」

(´・ω・`)「ありがとう」

そして呆けるジョルジュを見て、

(´・ω・`)「さぁ、どうする?」

(;゚∀゚)「馬鹿野郎……お前、ホントに馬鹿だよ。
     怪我してて、無理も出来ねぇってのに……俺なんかを手伝いに来やがって……」

(´・ω・`)「君のことだから一人で無茶してるんじゃないか、って思ってね。
      どうにも君は、自信満々なくせに自分を蔑ろにする部分があるみたいだし」

(;゚∀゚)「うっ……」



939: ◆BYUt189CYA :2008/07/22(火) 19:37:29.19 ID:wcoHHkfi0
心当たりがあるのかジョルジュが表情を歪める。

彼はクー達と違い、人間ではなく戦闘用生物だと割り切っている部分があった。

故に、死を諦観してしまっている部分がある。
何がきっかけで壊れてしまうか解らないほどの不安定さだ。

あの弾けた言動も、その裏返しだとショボンは知っている。
一歩間違えれば自分も似たような考えに至っていたかもしれない、と理解していたからだ。

(´・ω・`)「でも……『どうする』なんて聞き方は卑怯だったかな」

(;゚∀゚)「え?」

(´・ω・`)「アイツを止めよう、ジョルジュ。
      僕と君で、出来る限りの時間を稼ぐために……帰るべき場所を守るために」

( ゚∀゚)「……!!」



958: ◆BYUt189CYA :2008/07/22(火) 19:43:13.08 ID:wcoHHkfi0
認識したと同時、震えが来た。
背中から首、頭を回って胸、そして肩、腕、腰ときて、最後に足が地面を軽く擦る。
体力は果て、精神力は枯渇し、しかしどこからか力が湧いてくるのを感じた。

それは意志の力。
本気で望もうとした時だけに来る、特別な力。

身体が熱を取り戻していく。
思考も、神経も、皮膚も、全てに熱が満ちていく。

(  ∀ )「馬鹿野郎……お前、ホント馬鹿だよ。
     自分が怪我してんのに他人を手伝おうとするなんて、御人好しもイイとこじゃねぇか」

(´・ω・`)「うん、よく言われる」

( ゚∀゚)「でも……そこがお前っていう存在の一つなんだよな。
     だから――」

伏せていた目を開く。
そこには既に、死を予感させる暗い光は微塵もなく。

(#゚∀゚)「俺様を手伝う以上、半端な覚悟じゃ痛い目見るぜ……!!」


直後、一気に力を解放した。


時を同じくしてケーニッヒ・フェンリルが突如、足を止めた。
その原因を知るのは、うるさそうに通信機のスイッチを切る装甲車の運転手だけであった。



70: ◆BYUt189CYA :2008/07/22(火) 21:00:06.74 ID:wcoHHkfi0
残り六〇〇メートル。

激闘を前方に見る本陣では、着々と準備が進んでいた。

今行なわれているのは、
先にハインが注文した魔法世界と不滅世界の純正ルイル核の運搬である。

あまりに強い力を発揮しているため、特殊なクレーンのような機械に釣られての登場だ。
その機械に乗るデフラグが、慎重な操作で純正ルイルを『龍砲』の上に持っていき、

[゚д゚]「あとはこれを接続させるだけで良いんだな?」

从 ゚∀从「はい! 手伝ってくれてありがとうございます!
      あとは僕が何とかしますので!」

从・∀・ノ!リ「…………」

しかし、それを見るレインは疑問を思っていた。



79: ◆BYUt189CYA :2008/07/22(火) 21:01:34.21 ID:wcoHHkfi0
『核』という名を冠してはいるが、その正体は魔力を生み出すためだけの物質である。
単体のみでは大した力は得られないのだが、ハインには何か考えがあるようだ。
『龍砲』の内部機構に核がセットされるのを見上げながら、呟く。

从・∀・ノ!リ「しかし本当にどうするつもりじゃ?
      これで二つの世界と、おぬしの持つ機械世界、先ほど届いた英雄世界の純正ルイル核が揃った。
      そして我らが用意した魔力を合わせれば、威力はざっと五倍ほどにはなるが……」

从 ゚∀从「いえ……おそらく足りないと思うので、もっと増やします」

从・∀・ノ!リ「何……?」

从 ゚∀从「アゲンストガード、御願いします!」

ハインの命令が実行される。
『龍砲』を包みこむアゲンストガードの装甲に光の筋が走った。
それはハインを中心として広がっていき、遂には全体に刻まれることとなる。
明滅する光の線は、まるで生き物の鼓動のようだ。

从 ゚∀从「確かに、このままでは魔力の量が足りません!
      だから僕はこうします――!」

き、という甲高い音が響いた。
それはジェネレータを動かす――充填の――音に近い。

音源は『龍砲』上部の機構からで、そこは今、純正ルイル核がセットされたばかりなのだが。



86: ◆BYUt189CYA :2008/07/22(火) 21:02:44.44 ID:wcoHHkfi0
从・∀・ノ!リ「この音、もしや――」

ここでようやく、レインはハインの行おうとしていることに気付いた。
それは、

从・∀・ノ!リ「まさかおぬし、核の活性化を……!?」

从 ゚∀从「はい!」

アゲンストガードに不可能はない。
言葉通り、彼女は前代未聞な行為を成そうとしていた。

純正ルイルの核に、アゲンストガードを通じて外部から接触し、その設定を書き換えようとしているのだ。

これにより核の生み出す魔力量が格段に上がる。
一気に光を増した四つの核を、更に更にと活性させていく。

从;・∀・ノ!リ「…………」

まさか『世界の核』とも呼べる物質に手を加えるとは。
そんなこと、それこそ世界を創造した神にしか出来ないだろう。
しかし呆気なく為したハインリッヒと15th-W『アゲンストガード』に、レインは感嘆の息を漏らす。

流石は対異獣用の決戦兵器というべきか。
こちらの想像をはるかに超えるポテンシャルを秘めているらしい。



95: ◆BYUt189CYA :2008/07/22(火) 21:06:43.91 ID:wcoHHkfi0
从・∀・ノ!リ(しかし――)

レインは弱点を見抜いた。
残念ながら万能ではない、と。

確かに魔力さえあれば何でも出来るかもしれないが、しかしハインリッヒという存在は一人である。

作業に集中しなければならない以上、
これでは、戦闘という面が完全に封じられてしまうのではないか。
戦闘どころか、その作業以外の行動は全て不可となるだろう。

強力な力を持っているが、そのベクトルには限りがあるようだ。

从・∀・ノ!リ(これは上手く誰かが支えてやらねばのぅ)

兵器は人の手によって円滑に働く。
もしかすれば、ハインリッヒも同じようなものなのかもしれない。



102: ◆BYUt189CYA :2008/07/22(火) 21:09:08.89 ID:wcoHHkfi0
从;゚∀从「!!」

そのハインが視界に何かを捉えた。
南を向く視線は、危機を察知したものだ。

《……ウゥ》

獣がいる。
一頭ではなく、複数だ。
おそらくケーニッヒ・フェンリルの命令を受け、先行してきたのだろう。
いくらクー達でも、網の目から抜け出せる獣を止めることは出来なかったらしい。

从;゚∀从(まずい、ですよね……本陣には戦える人が少ないと聞いています。
      このまま何もせずに侵攻を許せば、大変なことに……)

それだけは許せない。
作業が中断されようとも、目の前の死を見ぬフリなど彼女には出来なかった。

思い、腰を上げようとした時。

《――ッ!!?》

その胸部に光の線がブチ込まれるのを、ハインはしっかりと見た。
砲撃、と理解する前に、

从・∀・ノ!リ「まさか、何もせずに見守るほど他人任せではあるまいよ」

レインが、こちらを見上げて笑みを浮かべていた。



107: ◆BYUt189CYA :2008/07/22(火) 21:10:13.76 ID:wcoHHkfi0
砲撃を入れたのはレインだ。
身の丈に合わない巨大な銃型EWを担いでいる。

砲熱の湯気を背に浴びながら、威風堂々と両足を地につけている。

从 ゚∀从「レインさん……!」

从・∀・ノ!リ「おぬしは我らの希望……そうじゃろう?
       ならば希望として集中しておけ。 邪魔する者は我らが防ごう」

声に応じる動きが二つ。
武器を持って走って来たのは、ビロードとチンだった。
レインと同じく戦闘面では頼りなさそうな二人ではあるが

(#><)「ここは僕達に任せるんです!!」

(#*‘ω‘ *)「ぽぽってぽいやぁ!!」

気合は十分のようだ。
鼻息荒く構える二人は、纏う空気だけで言えば異獣にも引けをとっていない。



110: ◆BYUt189CYA :2008/07/22(火) 21:11:23.60 ID:wcoHHkfi0
从;゚∀从「でも……!」

いくらレインのEWが強力であろうとも相手が悪い。
全長三メートルは優に超える異獣の巨体は、その体躯に似合わず俊敏である。
たった一足で間合いを詰めることの出来る敵に、EWのような隙の多い武器は相性が悪い。

そこで足止めや囮になる近接攻撃役がいればいいのだが
ビロードやチンでは力不足であり、そもそも二人はレインの傍を離れずに構えている。

この状態では一匹なら対処出来るだろうが、複数に囲まれたら終わりだ。

从;゚∀从(くっ……もう目の前で人が死ぬのは……!)

絶対に嫌だ。
新たに姿を見せる異獣を睨みながら、ハインは強く思う。

从;゚∀从(人が死ぬのは辛いことなんです……!
      大事な人が、大切なことを全て伝えられずに死ぬなんて――)

痛みは解っている。
だから、させるわけにはいかない。

たとえ誰かに怒鳴られようとも、それとこれとは別問題だ。



119: ◆BYUt189CYA :2008/07/22(火) 21:12:56.74 ID:wcoHHkfi0
思い、ほとんど反射的に助けに入ろうとした時。

《――ッギュァァ!?》

レイン達に襲い掛かろうとしていた異獣の胴体が切断された。
真一文字にスライスされた肉片が吹き飛び、生々しい音を立てて地面に落ちる。

残った下胴体部分の傍らに立っているのは、


lw´‐ _‐ノv「……私、参上」


从;・∀・ノ!リ「シューか!?」

(;><)「で、でもシューさん、確か肋骨を折っていたんじゃ……?」

先の異獣と化したロマネスクとの戦闘。
戦っていたブーン達の危機を救ったシューは、そのままロマネスクと戦い傷を負った。
彼女は戦闘続行を不可能と判断し、本陣に退避して応急処置を受けていたはずなのだが。

lw´‐ _‐ノv「この身体に響く痛みより、大切な人を失う痛みの方が耐えられそうにないから」

大した精神力である。
痛みによるものか額に汗を浮かせながらも、その姿勢に隙は無かった。



126: ◆BYUt189CYA :2008/07/22(火) 21:15:04.01 ID:wcoHHkfi0
左手で脇腹を押える彼女は、周囲にいる敵を見渡しながら

lw´‐ _‐ノv「掛かってきたまえ獣諸君。
      我が主に牙を剥いた罪、その身に受けてもらう」

言い終わると同時に動く。
ハインから見て左へステップを刻み、高速で異獣へ接近。

『掛かってこい』って言ったの貴女じゃなかったっけ、などと言う暇などない。
その時には既に異獣の首が刎ねられていた。
怪我をしているとは、とても思えないような美しい剣線であった。

lw´‐ _‐ノv「……っ」

从;・∀・ノ!リ「シュー、おぬしは重傷なのじゃ! 無茶はするでないぞ!」

lw´‐ _‐ノv「ううん、無茶しなきゃ駄目だよ」

きっぱりと否定。
剣と戦に励んできた彼女は、身を以って知っている。

lw´‐ _‐ノv「……この地獄とも言える戦い。
      自分の安全を確認しながらでは生き延びることなど出来はしない。
      大切なモノのために、躊躇なく自分を投げ捨てることの出来る者のみ、生きられるんだ」



131: ◆BYUt189CYA :2008/07/22(火) 21:16:03.66 ID:wcoHHkfi0
隙を見た獣が襲い掛かる。
素早く反応したシューは背後へ跳び、苦痛に眉を歪め、しかし腕を振る。
五指でホールドされた刀が閃き、異獣の前足を切り落とした。

lw´‐ _‐ノv「これは矛盾じゃない」

返す刃で胸部を裂き、

lw´‐ _‐ノv「どうしようもない、この世の真理」

更に回転を重ね、

lw´‐ _‐ノv「そのために」

応じて剣線は数を増やし、

lw´‐ _‐ノv「私は――」

まさに斬撃の繚乱。
目にも止まらぬ速さで刀が振るわれた結果、
刃が反射する光だけが残存し、シューを中心とした檻のような空間が完成する。
しかし、それも一瞬の幻想で、

lw´‐ _‐ノv「――異獣の消滅を望む」

《《ギュガッ!?》》

瞬間、血潮がブチ撒かれる。
身体中に裂傷を刻まれた獣が、一斉というタイミングで崩れ落ちていった。



143: ◆BYUt189CYA :2008/07/22(火) 21:19:07.22 ID:wcoHHkfi0
从;゚∀从「す、凄い……!」

怪我を負っておきながら、あの斬撃である。

実は彼女を見るのは今日が初めてなのだが、だからこその驚きがあった。
あまり歳も違わないように見えるのに、という驚きだ。

从 ゚∀从「でも、彼女がいればこっち側は大丈夫ですね……!」

問題は逆方向。
シュー達が陣取る左ではなく、つまりハインから見て右側だ。
そちらにも異獣が攻め寄っていたはずなのだが、

从;゚∀从「――って、あれ?」

いない。
生きている異獣が、いない。
向かって右方向からも攻め寄っていた群れが、全て死骸と化して倒れている。

何が、と思う前に答えが見えた。
本陣の危機を救ったのは、

爪゚ -゚)「設定した『Killing Zone(殺戮地帯)』内の敵殲滅、完了致しました」

竜騎士のような物々しい武装を装着しているジェイルと、

( ・∀・)「はっはっは、相変わらず容赦が無いね」

彼女に肩を預けて支えられているモララーだった。



152: ◆BYUt189CYA :2008/07/22(火) 21:21:55.39 ID:wcoHHkfi0
从;゚∀从「モ、モララーさん!?」

( ・∀・)「久々だね、ハイン君……だが丁寧な挨拶は後にしよう。
     そしてこちら側は任せてくれたまえ。
     今の君は、為すべきことに集中するんだ」

从;゚∀从「ですが、その怪我は……?」

流暢な言葉とは裏腹に、モララーの顔色は良いとは思えない。
胸部と腹部に巻かれている包帯と、それを染める赤の色が彼の状態を示していた。
その上から律儀にスーツの上着を羽織っているのは彼なりの拘りだろうか。

( ・∀・)「あぁ、これか。 少々油断してしまってね……名誉の負傷というやつだよ。
     だが決して戦えないわけではない」

2nd−W『ロステック』を右手に解放しながら、自信満々に言う。
視線は既にハインから外れており、続々とやって来る異獣の群へ向けられていた。

( ・∀・)「それに私は思う……戦えるか否かではなく、戦いたい、と。
     こんな戦いの美味しい最終局面、ただ見ているだけでは後悔しそうだ」

从;゚∀从「……!」

( ・∀・)「故にこちら側は私達が担当しよう。
     なに、心配は要らない。 ここに私を殺してくれない人がいるのでね」

爪゚ -゚)「当然です。 自分を誰だと御思いですか」

( ・∀・)「君の主だ。 では、行こうか」



168: ◆BYUt189CYA :2008/07/22(火) 21:24:40.13 ID:wcoHHkfi0
格好自体は二人三脚そのものだが、不思議と不安には思えなかった。
遠くの敵はジェイルの砲撃で、接近してきた敵はモララーのロステックが。

二人はそれぞれの領域で、それぞれが完璧なタイミングを連続させて戦い始める。

まるで舞踏だ。
完璧に二人の息は合っていた。
そして、負傷しているモララーをジェイルが気遣っているのが解る。

从 ゚∀从(互いが互いを大切に思っているから……)

羨ましい限りだ。
大切に思える人がいて、その人からも大切に思われているなんて。
自分はクーやブーンを大切に思っているが、向こうはどうなのだろうか。

从 ゚∀从(いえ……愚問ですね)

信じられているに決まっている。
何故なら、自分がこんなにも信じているのだから。

ともあれ、こちら側も問題は無いようだ。
戦力が戦力だけに、これならば集中して準備を進め――

《グァァァァ!!》

从;゚∀从「うぇ?!」

今度は前でも左でも右でもない。
上から、牙を剥いた異獣がハインを狙って飛びかかっていた。



179: ◆BYUt189CYA :2008/07/22(火) 21:26:22.58 ID:wcoHHkfi0
しかしその牙がハインへ届くことはなかった。

直前、割り込む人影があったからだ。

まさに一瞬の出来事。
いきなり予期せぬ方向から飛び掛かってきた人影は、異獣の首を掴んで一回転。
真上を位置取り、いつの間にか手に持っていた刃物を突き刺した。

苦痛の声をあげて落ちる異獣。
同時、跨っていた人影も同じように着地し、

「さようなら」

氷のような冷たい声と、銃声が重なって響いた。
着地した人影が異獣の頭を踏み、またいつの間にか持っていた拳銃で頭を撃ち抜いたのだ。
断末魔の叫びすら挙げる暇もなかった獣は、おそらく自分が死んだことにすら気付いていないだろう。

从;゚∀从「……!!」

冷静かつ、容赦のない殺し方。
こんなことが出来る者は、本陣において一人しか存在しない。

川 -川「――――」

貞子。
渡辺が作り出した戦闘用機械人形だ。
右手にナイフを、左手に拳銃を持つ姿はまさしく殺戮マシンだ。



195: ◆BYUt189CYA :2008/07/22(火) 21:30:21.67 ID:wcoHHkfi0
今まで何度も圧倒的な戦闘力を見せ付けてきた彼女は、ハインに背を向ける形で静かに立ち上がる。

从;゚∀从「貞子さん……!?」

川 -川「……ハイン、リッヒ」

振り向いた彼女の目は垂れ下がる長髪で窺うことが出来ないが、少なくとも敵意は感じない。
しかも今の今まで積極的に戦闘への参加をしていなかった彼女が何故、今になって手を出したのだろうか。

从;゚∀从「って、危ないです! 後ろ!!」

貞子の背後に異獣が迫っていた。
爪で地を砕きながら走る姿は、獰猛そのもの。

しかし、気付いているはずの貞子は振り返らない。
ハインが慌てて立ち上がろうとした時。

《ッ!?》

その腹を貫く光があった。
合計三発分の光弾は、異獣の身体を的確に穿って消滅させる。

从;゚∀从(い、今のって――!?)

確かに見た。
光弾の色。

それが、かつても見たことのある茶色だということを。



230: ◆BYUt189CYA :2008/07/22(火) 21:34:27.98 ID:wcoHHkfi0
瞬間的な動きで、光弾が来た方を見る。
しかしそこは戦塵に包まれ、まったく奥を確認することが出来なくなっていた。

( ・∀・)「今の光は……」

モララーも気付いたようだ。
確信は更に深まる。

从;゚∀从「えぇ、あれは――!」

川 -川「――まだ戦える者、そして戦おうとする者。
     枯れた本陣だろうとも……貴方達が思っている以上に存在するものです」

貞子は正体を知っているようだ。
そして、『彼』の狙撃を完全に信じている節もある。

果たして一体何があったのか。

从 ゚∀从「…………」

解らないが、貞子がそれに関して口を割るとは思えない。
彼女自ら話さないということは、こちらが介入する話ではないのだろう。

だから、ハインは今ある疑問へと意識を定める。



240: ◆BYUt189CYA :2008/07/22(火) 21:36:10.31 ID:wcoHHkfi0
从;゚∀从「あ、あの――」

[゚д゚]「――まぁ、ちょいと待とうや」

从;゚∀从「え? いつの間に……?」

[゚д゚]「問い掛けるのはアイツに任せてみろよ」

デフラグの言葉に、ハインは改めて貞子を見る。
すると彼女へ鋭い視線を向けている存在があることに気付いた。
それはハインから見て右方に位置し、見るも美しい金の髪を持つ女性で、

爪゚ -゚)「――何のおつもりでしょうか」

対する貞子はハインを見据えたまま

川 -川「私はマスターの言葉を実行するのみ。
     そして、それは貴女方と共に為すことで果たせる率が上がる、と判断したまで」

爪゚ -゚)「……貴女は」

川 -川「こちらの敗北は即ちマスターの言葉を叶えられなかったということ。
     ならば私は、それをさせないための有効な手段をとるまで。
     別に馴れ合う気も他意もありません」

ですが、と言い

川 -川「……ハインリッヒは、私が護ります」



253: ◆BYUt189CYA :2008/07/22(火) 21:37:48.95 ID:wcoHHkfi0
静かに放たれる言葉の一つ一つに力があった。
あのジェイルすら、貞子の声に何も言えなくなっている。

そんな彼女の状態を、ハインは知っていた。

从 ゚∀从(おそらく、あれが貞子さんの本気の……)

思い、そこで貞子が自分を見ていることに気付き、

从;゚∀从「あ、あのぅ……貞子さんの熱烈な視線が僕から離れないのですが?」

[゚д゚]「俺に問われてもなぁ。
    結局、アイツに渡した音声データは俺聞いてねぇし」

从 ゚∀从「……音声?」

[゚д゚]「お前が気にすることじゃねぇよ、ハインリッヒ。
    ただ一つ言えるのは――」

満足気な笑みを浮かべ

[゚д゚]「貞子がお前を護ると言った以上、それは必ず成し遂げられる」

从 ゚∀从「……!」

よほど自信があるのだろう。
デフラグの笑みは、確実に何かを誇っていた。



260: ◆BYUt189CYA :2008/07/22(火) 21:39:20.80 ID:wcoHHkfi0
爪゚ -゚)「…………」

( ・∀・)「行きたまえ」

爪゚ -゚)「は? あ、あの?」

( ・∀・)「隠すことはない。 同じ機械人形として貞子君に対抗したいのだろう?
     製造期間から考えれば、貞子君は君の妹のような存在だ。
     姉が、庇うべき対象である妹に任せっきりなのは、本能レベルで気に食わないのだろう」

軽く目を見開いたジェイルに、モララーは口端を愉快そうに吊り上げた。
右手にあるロステックを肩に担ぎながら

( ・∀・)「君の満足は私の満足。 君の誇りは私の誇り。
     何も問題はないので、満足のいくまで存分に戦いたまえよ」

爪゚ -゚)「ですが……」

( ・∀・)「私の心配は無用。 ポリフェノール君、いるかね?」

|;;;|:: (へ) ,(へ)|シ「はい、ここに」

いつの間にか背後にいたポリフェノールがモララーの腕を掴む。
肩へと回し、彼の身を支えるようにして立った。



266: ◆BYUt189CYA :2008/07/22(火) 21:40:31.71 ID:wcoHHkfi0
( ・∀・)「これで君はフリーだ。
     まぁ、男に支えられる趣味はないのだが……君のために我慢しよう。
     ただし必ず私の下へ帰ってきてくれ」

爪゚ -゚)「モララー様……」

( ・∀・)「おや、呼び方が違うね?」

言われ、ジェイルは頷き、

爪゚ -゚)「お気遣いありがとうございます御主人様。
     貴方の秘書であることの誇りを賭け、あの機械人形に勝利して見せましょう」

両手を前に組んだ淑やかな一礼。
金の髪がさらりと落ち、光を反射して輝く。
プログラムされた完璧な動作だが、今のモララーにとっては見惚れるほどの美しさだった。

それがたとえ竜騎士のような装甲に纏われたものだとしても、だ。

爪゚ -゚)「では――」

( ・∀・)「――あぁ、好きに暴れておいで」

左手に巨大なランスを携え、ジェイルは本陣の最先端へと走った。



273: ◆BYUt189CYA :2008/07/22(火) 21:41:24.34 ID:wcoHHkfi0
ハインリッヒが準備を進める『龍砲』が向く先に激戦の場がある。

異獣が大挙として押し寄せてくる光景の前に、黒色の人影が一つ立ち塞がっていた。

ハルバードに似た巨斧とハンドガンを持った姿は番人のようだ。
ここから先へは行かせない、と身体で示す姿はどこまでも威風堂々である。

爪゚ -゚)「…………」

だが、それを見たジェイルは視線を鋭くした。

躊躇なく戦場へ飛び込む。
貞子の横に踵を落とし、そして膝を折りながら着地。
反動を内部機構により処理しながら、何も問題がないことを確認しつつ

爪゚ -゚)「――貞子、そこをどきなさい邪魔です」

川 -川「無視します」

予想範囲内の返答だ。
だからジェイルは、特に感情を動かすことなく立ち上がる。
すぐさま敵の数を視認し始めた彼女に、今度は横の貞子が疑問を投げた。

川 -川「「ところで……良いのですか? 大切な主を傍で護っていなくとも」」



285: ◆BYUt189CYA :2008/07/22(火) 21:43:51.00 ID:wcoHHkfi0
いきなりの言葉にジェイルは目を伏せ、

爪゚ -゚)「大切な主だからこそ……良いところを見せたいと思うのです。
     見事成し遂げ、褒めて頂きたい、とも」

自信を持って言える言葉だった。
モララーのことを大切に思っているからこそ、大切に思われたいと思う。

機械人形としては褒められたものではないだろう。
最悪、自意識と擬似意識による意見の衝突により自己崩壊すら起こしかねない。
しかしジェイルは確信していた。


……今の私は、擬似思考に刻まれた命令ではなく、己の胸の内から湧く欲求に従っている。


今までの彼女では考えられない思考ルーチン。
いや、最初からプログラムすらされていない感情が、彼女を支配していた。

爪゚ -゚)「そして、そう思える私は幸いなのでしょう。
     この世界で最も幸福な機械人形だと自負致しております」

川 -川「…………」

貞子は何も言わない。
感想も、皮肉も、何もかも。
まるで聞こえていなかったかのように、だ。



292: ◆BYUt189CYA :2008/07/22(火) 21:45:18.04 ID:wcoHHkfi0
意味をおぼろげながら察したジェイルは、貞子を見やり、

爪゚ -゚)「しかし貴女こそ、ハインリッヒを傍で護らなくても良いのでしょうか?」

川 -川「ここで全ての敵を倒し尽くせば、後方の憂いなど持つ必要もありません」

即答だ。
そしてストイックな答えである。
かなり無茶な考え方だが、貞子の性能であれば決して不可能ではないだろう。

爪゚ -゚)「では――」

互いの意志を確認し合った結果、二人は同じ結論に達した。
つまりどちらもここを退くつもりない、と。

ならば、やることは決まっている。

川 -川「――えぇ、護りましょう。 互いの大切なモノを」



303: ◆BYUt189CYA :2008/07/22(火) 21:47:39.72 ID:wcoHHkfi0
ジェイルは左手のランスを、貞子は右手のハルバードを傾ける。
二つの武具は二人の間で金属音を立ててクロス。

それは不可侵の門を示し、


川 -川「今よりここは裁断の地」

爪゚ -゚)「そしてここより奥は生を望む人々の聖地」

川 -川「故に穢れた獣が入ることなど許されません」

爪゚ -゚)「獣よ」

川 -川「薄汚い獣よ」

爪゚ -゚)「それでも血を求めるのであれば、私共が御相手致しましょう」



307: ◆BYUt189CYA :2008/07/22(火) 21:48:57.79 ID:wcoHHkfi0
鉄のように冷たい言葉は途切れず続く。


爪゚ -゚)「我らは門番」

川 -川「役目は守護」

爪゚ -゚)「守るために剣を持ち」

川 -川「護るために敵を討つ」

爪゚ -゚)「守護のために血を求める矛盾的定義は、しかし機械人形だからこそ為せる所業」

川 -川「罰は既に受けております。 心無き機械として生まれたことで」

爪゚ -゚)「我ら無血の機械人形」

川 -川「足りぬ血は、御身を裂くことで得られるでしょう」

爪゚ -゚)「喜び、そして祈りなさい」

川 -川「せめて、満足の末に死ねることを――!」


直後、本陣で最も激しい戦闘が開始された。



314: ◆BYUt189CYA :2008/07/22(火) 21:50:29.64 ID:wcoHHkfi0
本陣までの距離、約五〇〇メートルを切ろうかという地点。

足下で暴れる人間達や、シャキン達の攻撃を受け、ジョルジュの鎖を引き摺りながらも歩くのは巨大な獣だ。
最初に比べて少し歩調が鈍くなっているようにも思える敵を、空中で待ち構える影があった。

(*゚ー゚)「ギコ君」

(,,゚Д゚)「……来たか」

ギコとしぃだ。
黒紫色に染まった翼と剣が一体となってケーニッヒ・フェンリルを見据える。
ここから先へはタダでは通さない、と二人の気迫が物語っていた。

(,,゚Д゚)「思っていたより少し遅い、か。
    先に仕掛けた連中が良い仕事をしたようだ」

(*゚ー゚)「うん。 だってジョルジュ君達は強いもん」

(,,゚Д゚)「勢い余って死んでいないと良いが。 奴ら、血気だけは盛んだからな」

(*゚ー゚)「それは今からの私達にも言えるけど……大丈夫、私がさせないわ」

(,,゚Д゚)「あぁ、頼む」

剣を振る。
濃密な魔力が粉となり、軌跡を残して散った。



324: ◆BYUt189CYA :2008/07/22(火) 21:52:28.68 ID:wcoHHkfi0
(,,゚Д゚)「しぃ、この一撃に全てを注ぐぞ。
    こうなった以上、のんきに追いながら攻撃など意味がないだろうからな。
    効果の少ない継続的な足止めより、大きな一発を与えて行動を短時間でも封じる方が効果的だろう」

同じ考えを持った者がいたのだろう。
ギコ達よりも前に足止めを開始したレモナ達の姿は、ここからでは見えない。
おそらく今からのギコのように、全身全霊の一撃を与えてリタイアしたのだ。


――後に控える仲間を信じ、任せるために。


(,,゚Д゚)「そして俺達も後ろを信じて役目を果たす、か」

(*゚ー゚)「後ろの人達に任せるのは心配かしら?」

(,,-Д゚)「……いや、そんなことはない。
    奴らは確かに頼りないところもあるが……信頼に値する仲間だ」

真剣な言葉に、しぃが嬉しそうな声を漏らした。



332: ◆BYUt189CYA :2008/07/22(火) 21:54:39.48 ID:wcoHHkfi0
(*゚ー゚)「変わったね、ギコ君は。
     強くなったし格好良くなったけど、それよりも優しくなった気がする」

(,,゚Д゚)「ただの『牙』だった俺の身を研磨してくれたのは、お前だ。
     お前がいたから、俺は変われた」

(*゚ー゚)「私もだよ。 ギコ君がいなかったら、きっと今も護られてばかりの女だった」

(,,゚Д゚)「そちらの方が可愛げがある気もするがな」

(*゚ー゚)「じゃあ……今の私は嫌?」

(,,゚Д゚)「まさか。 俺にとって最高の女だ、お前は」

(*゚ー゚)「……ありがとう」

言葉を交わす度に二人は実感する。
自分は、相手がいるからこその自分なのだ、と。
今も繋がっているウェポンを通し、二人は更に意思を通わせていく。

敵は近い。
だが、さほど問題ではない。

気力は充実しており、二人はいつでもケーニッヒ・フェンリルを迎え撃つことが出来るのだ。


……そう、思っていた。



346: ◆BYUt189CYA :2008/07/22(火) 21:56:39.11 ID:wcoHHkfi0


「――がっ」


突然のそれはギコの声で。

響きと同時、身体が無意識に震えた。

寒気とも、悪寒とも異なる黒い感覚。
今まで一度も感じたことのない不快感の出所は、自分の胸の中だった。

(;,,゚Д゚)「なっ……?」

(;*゚ー゚)「え……ギ、ギコ君!? それ!?」

どうした、と問いかける前に理解する。

自分の口から真っ赤な血が溢れ出ているのを。
着ている服の胸元を染める鮮やかな色を、ギコは呆然と見下ろした。

(;,,゚Д゚)「こ、れは――」



356: ◆BYUt189CYA :2008/07/22(火) 21:57:49.45 ID:wcoHHkfi0
無論、ギコは攻撃など受けていない。

背を護るしぃの回避運動は的確で、必要あらばグラニードを盾代わりとする構えは鉄壁だ。
そこにレードラークの羽ばたきによる速度があれば、キリバ戦で見せた通り二人は強力な武器と化す。

だが、先に根を上げたのはギコの身体だった。

無理をし過ぎたのだろう。
東軍のリーダーを務めながら最前線に立ち、キリバとは最も多く切り結んだ。
途中で両足を砕かれ、その上で限界突破を行ない、リベリオンを用いて敵を撃破している。
そして更に、今も限界突破を使い続けているのだ。

これでは、身体が異常を訴えない方がおかしい。

本来なら両足を砕かれた時点で戦闘行為は不可能だったはず。
激痛によって身体が発熱し、指一本すら動かせない状態になっているのが普通なのだ。

彼を動かしたのは誇りと愛情。
驚異的な原動力だが、それでも現実を覆すことは出来なかった。

騙し騙し使っていた身体が、ここに来て限界を迎えようとしているのだろう。



371: ◆BYUt189CYA :2008/07/22(火) 22:00:33.56 ID:wcoHHkfi0
(;,,゚Д゚)「くっ……こんな時に……」

自分の血液だと認識した途端、震えがギコを襲った。

(;*゚ー゚)「ギコ君!? 大丈夫!?」

(;,,-Д゚)「ま、ゴホッ、まずいかも、しれんな……随分とタイミングが、悪い」

身体が熱を持ち、しかし冷えていく。
痙攣とはまた少し違う震動が続き、右手に持つグラニードの剣先が震えた。

気分が悪い。
そして、その気分すら希薄に感じる。

これ以上の戦闘行為は明らかに己の命を削ることを、ギコはおぼろげながら理解した。

(,,゚Д゚)「だが……」

真っ先に否定の意志が浮かぶ。
この場からの撤退を許さないのは、彼の傷だらけなプライドだった。

(,,゚Д゚)「……俺は、しぃも含めて皆を信じている。
    同様に皆も俺を信じているだろう。 気恥ずかしいことだがな」

(;*゚ー゚)「…………」

(,,゚Д゚)「だから退くわけにはいかん。
    それがたとえ自分の命を削ることであっても……俺は逃げたくない」



385: ◆BYUt189CYA :2008/07/22(火) 22:04:40.83 ID:wcoHHkfi0
それはギコの偽りのない本心だ。
一番理解出来るしぃの表情が、迷いという表情を浮かべる。

実を言えば、結論は疾うに出ていた。
こうなった以上、ギコはテコでも動かないことを知っているからだ。
彼自身が心変わりしない限り、放たれた言葉は全て実行される。

しぃが出来るのは、そんな無茶をするギコを支えることだけだった。
しかし、こればかりは彼女の支えではどうにもならない。

だから、迷うのだ。

その時、ケーニッヒ・フェンリルが動きを止める。
自ら、というより周囲からの妨害によって、だ。
言うまでもなくチャンスである。

《――ゥゥウウウウウ》

足を折り、腹が地面に触れるギリギリまで身体を落とし、しかし倒れない。

巨獣の足下で暴れる軍勢が。
空を舞う二機の戦闘機が。
巨獣の右後足に絡みついた多数の鎖が。

それら全てが全力で動いて、ケーニッヒ・フェンリルを抑え込もうとしている。



389: ◆BYUt189CYA :2008/07/22(火) 22:06:09.62 ID:wcoHHkfi0
(,,゚Д゚)「しかしそれでも……っ、あの馬鹿デカい獣は歩みを止めようとはしない。
    そんな光景を見て退くほど、俺は物分かりの良い人間じゃないんだ」

(*゚ー゚)「……知ってるよ。 
    いつだって本気で、誰よりも真っ直ぐで……それが私の好きなギコ君だもん」

(,,-Д-)「……すまんな」

明確な言葉を交わさずとも解る。
彼女は、仕方ないなぁ、と困った笑みを浮かべて頷いた。

(*゚ー゚)「いいよ、ギコ君は何も心配しなくて。
    貴方は私が護る……って、あの時に言ったよね?」

(,,゚Д゚)「あぁ……頼む。 この不甲斐無い『牙』を護ってくれ」

一息。
口元に付着した血を拭いとり、
変調を訴える息を吐き、新たな空気を吸い、

(,,゚Д゚)「その代わり、敵の全てを俺が叩き斬ってみせる。
     お前が俺を護る必要もなくなるようにな」

(*゚ー゚)「――うん」



398: ◆BYUt189CYA :2008/07/22(火) 22:08:54.40 ID:wcoHHkfi0
しゃん、という鈴を束ねたような音が高らかに響く。
ブラックパープルに染まった両翼を勢いよく広げた音だ。
しぃの意志の強さを示すように、機械で構成された骨格が最大の広がりを見せる。

支えられるギコが剣を構えた。
ブラックパープルに染まるグラニードを胸の前に、切っ先を天へ向けて。
纏う魔力は力強く、ギコの意志をそのまま表現しているようだ。

二人が同時に動いた。
赤髪の異獣との戦いで見せた、己を剣とするための動作だ。

グラニードの切っ先が、ゆっくりとケーニッヒ・フェンリルを向く。

二人で一つの大剣と化した黒紫の刃は、巨獣を討つために更に光を生んだ。
鼓動するように、しかし確実に光を重ねていく。

(,,゚Д゚)「……雑魚には構うな。 奴だけを断つ」

頷きを背に感じた。
既にウェポンの操作の集中に入っているのだろう。

ギコも同じように目を瞑り、彼女と、己の武器達との繋がりを確定していく。



412: ◆BYUt189CYA :2008/07/22(火) 22:13:01.14 ID:wcoHHkfi0
ややあって訪れた暖かい感触に、ギコの口端が微かに吊り上がった。

(,,-Д-)(最高の気分だ。
     今なら何でも出来る気がする)

強がりでも何でもない。
ギコは本気でそう思っていた。

それほど、愛する人と精神レベルで共鳴は筆舌に尽くしがたい快感なのだ。

地響きが近くなる。
敵意も向けられている。

しかし、それでもギコとしぃは動じない。

目を瞑って見定めるはケーニッヒ・フェンリルただ一体のみ。
周囲を取り巻く翼持つ獣など、今の二人にとっては障害にすらならない。

羽ばたきのテンポが遅くなっていく。
一度、二度、と身を浮かせる動きが最小限のものへ移行。
それは二身で一つの剣と化した自分達を飛ばすための『溜め』で、

(*゚ー゚)「行くよ、ギコ君……!!」

(#,,゚Д゚)「――あぁ!!」

瞬間、最大まで広げられた翼が空を叩き、押し出されるように二人が飛翔を開始した。
戦場全てに轟くような大斬撃が炸裂したのは、その数秒後であった。



3: ◆BYUt189CYA :2008/07/23(水) 19:28:02.91 ID:NP7tvWF90
残る距離は四〇〇メートル。

既に中間地点を突破された状況だが、それぞれの追撃と待ち伏せによる攻撃は確実に効果を生んでいる。
というのも、当初に比べ、ケーニッヒ・フェンリルの歩調が更に遅くなっていた。

しかも大きさが変化している。
遠くから見ることではっきりと解る。
数メートルほどの違いだろうが、全高が低くなっていた。

人間達の度重なる猛反抗、そして異獣を生み出すための魔力消費が効いているのだ。

小さくなれば、その分だけ歩幅も狭くなる。
つまりハインのために時間を稼ぐことが出来る。
言わずとも理解出来る自明の理を、皆は黙して実行していた。

そしてここにもまた、時を稼ぐためにケーニッヒ・フェンリルを待ち構える姿がある。

( ´_ゝ`)「ふむ……予想時間より遅れている。
     どうやらこちらにとって追い風が発生しているらしい」

(´<_` )「皆、頑張っているみたいだな」

流石兄弟だ。
桃色の竜の頭に乗っている二人は、互いを支え合うようにして背を合わせている。
度重なる戦闘に、既に二人の体力は限界を超えていた。



8: ◆BYUt189CYA :2008/07/23(水) 19:29:45.40 ID:NP7tvWF90
(´<_` )「兄者、その腕は大丈夫か?」

兄者の左腕は微動だにしない。
ケーニッヒ・フェンリルの攻撃を受けての怪我だ。
急ぎのために止血くらいしかしておらず、痺れるような激痛が兄者を苦しめている。

しかし弟者には、『何も問題ない』と言ってあった。

( ´_ゝ`)「お前の方こそ、さっき限界突破を放ったばかりだろう?」

弟者も顔色が悪かった。
止まらない汗を拭いもせず、ただ荒い息を吐いている。
気を抜けば気絶してしまいそうなほど、彼の意識は安定を失っていた。

しかし、彼も首を横に振り、

(´<_` )「ここで倒れているわけにもいかないさ」

( ´_ゝ`)「強情だな。 誰に似たんだか」

(´<_` )「さぁ? けど一つ言えるのは、兄者も似たようなものだってことだ」

( ´_ゝ`)「む」

(´<_` )「左腕、動かないんだろ。
     まったく……ロクな処置もせずに何をしてるんだ」



13: ◆BYUt189CYA :2008/07/23(水) 19:30:50.08 ID:NP7tvWF90
呆れたような弟者の言葉に、兄者は笑みを浮かべた。

( ´_ゝ`)「弟が無茶しようとしてるのに……兄が、それをただ見てるだけってわけにはいかんだろう」

(´<_` )「双子だから、兄とか弟とかの差は小さいんだけどなぁ」

( ´_ゝ`)「いーの。 お前は俺の弟なの」

随分と地響きが近くなっていた。
疲労が満ちている目を南へ向ければ、巨大な獣が一歩一歩こちらへ向かってきている。
足下や周囲では、未だに魔力の破裂による光が連鎖しており、

( ´_ゝ`)「見ろよ、弟者。 まだ頑張ってる奴らがいるぞ」

(´<_` )「根性だけはあるからな」

( ´_ゝ`)「必死にもなるよ……何せ世界がかかってんだから」

勝てば存続。
負ければ破滅。

その採択を、ある程度自分達で選べるのだから必死は当然だ。



17: ◆BYUt189CYA :2008/07/23(水) 19:31:54.14 ID:NP7tvWF90
( ´_ゝ`)「……そろそろ俺達も仕掛けるか。 ところで何か案、ある?」

(´<_` )「先の戦いのように、バリアを張って頭から突撃するのが妥当だと思うが」

( ´_ゝ`)「自分のことを考えてから言いたまえ君ィ。
     そんなフラフラな状態で、まともな限界突破が出来るものか」

(´<_` )「実は兄者も、竜を保持し続けるだけで結構キツいんだろ?」

(;´_ゝ`)「…………」

(´<_` )「双子だから何となく解るんだよなぁ」

ずっと一緒にいたわけではない。
幼少時以降、指輪による騒動までは別々の場所で生きてきた。
ある意味、二人は限りなく他人に近い兄弟と言える。

しかし、その身体に流れる血だけは本物だった。



22: ◆BYUt189CYA :2008/07/23(水) 19:33:11.48 ID:NP7tvWF90
( ´_ゝ`)「しかしどうすっかね。
     玉砕覚悟で立ち向かわなきゃ、このままだと何も出来んぞ」

(´<_` )「世界を救うために死ぬか、世界を救えずに死ぬか……か」

( ´_ゝ`)「柄じゃないよなぁ」

(´<_` )「でもこの世界は壊されたくない、と俺は思う」

( ´_ゝ`)「偶然だな。 俺もだ。
     こんな芳醇で、美味しくて、素晴らしい世界を壊すなんてもったいない」

初めから答えは決まっていたようなもの。
どんな条件であろうとも、ここでケーニッヒ・フェンリルを迎え撃つ。
全力を出し切り、一秒でも長く時間を稼ぐのだ。

それは、自分達の生きる世界のためでもあり、

( ´_ゝ`)「俺達を信じてくれたハインちゃんのためにも、だな。
     ホントあの子良い子だよ」

(´<_` )「うむ……さて、そろそろだぞ」

弟者の言葉に視線を向ければ、ケーニッヒ・フェンリルが更に近く見えている。

満身創痍の双子の力だけで何とか出来る状況とは思えないが
しかし、何もせずに見過ごすことはしたくない心境だった。



25: ◆BYUt189CYA :2008/07/23(水) 19:34:36.86 ID:NP7tvWF90
自分達を信じてくれた少女に応えるためにも、たとえ無謀であろうと挑む。

それは、損得などでは計れない信頼の度量。

兄者は思う。
世界を救う彼女に対応する全てとまでは言えないが、出来る限りの結果を返すのが義というもの。
何より彼女は、自分に知識を与えてくれた恩師の大切な子供なのだ。

(´<_` )「兄者、この身体が保つ限りの最大出力を維持するつもりだが……もし力尽きたらすまん」

隣で12th−W『ジゴミル』を解放した弟者が言う。
申し訳なさそうな響きは、おそらく自信の無さが直結しているのだろう。

連戦に続く連戦に身体は疲労し、限界突破も本日三度目だ。
今までのことを考えれば、むしろよく持った方だと兄者は判断する。

( ´_ゝ`)「その時はその時だな。
      ま、成るように成るだろう」

今までもそうだった。
行き当たりばったりで死線を潜り抜けてきたのだ。

少し過去を思い出しながら、兄者は桃色の竜に突撃を命じ――


「――あーあ、そんなことだろうと思いましたよ」



30: ◆BYUt189CYA :2008/07/23(水) 19:35:56.60 ID:NP7tvWF90
( ´_ゝ`)「お?」

突然の声。
響きは少女のもので、空にいる兄者達よりも更に上からだ。
見上げれば、

*(‘‘)*「まったく……アンタらは突撃することしか思いつかないんですか?」

<ヽ`∀´>「手を貸しに来たニダ」

ヘリカルとニダーが、空飛ぶステッキに腰掛けていた。
滑るように飛ぶ二人は竜の傍まで降りてくる。

*(‘‘)*「二人よりも四人。
    攻撃力的に心許ないメンバーですが……まぁ、そのくらい集まれば何とかなるんじゃないですか?」

(´<_`;)「簡単に言ってくれるな。 何か良い案でもあるのか」

*(‘‘)*「んー、一斉に撃ちまくるとか?」

(;´_ゝ`)「ヘリカルちゃん、悪いけど人のこと言えたもんじゃないよ」

*(;‘‘)*「……うるせー馬鹿」



36: ◆BYUt189CYA :2008/07/23(水) 19:37:01.46 ID:NP7tvWF90
気まずい視線をニダーへ向けるが、彼もまた首を横に振る。
つまり彼らは、具体的な作戦も考えずに手伝いに来たことになり、

( ´_ゝ`)「期待させといて落とすなんて酷くね?」

*(;‘‘)*「う、うるさいうるさい!
     アンタ達みたいな必殺技なんか持ってねぇんだから仕方ねぇーでしょーが!!」

何とも切実な声である。

ともあれ状況が少し変わった。
突撃の姿勢を見せていた竜をなだめつつ、兄者は考える。

( ´_ゝ`)「戦力が増えたのは喜ばしいのだが、肝心の手段が乏しいのが残念だな。
     しかもあんまり時間的余裕もないし……」

(´<_` )「ううむ……」

こんなことをしている間にもケーニッヒ・フェンリルは動いている。
目前とまではいかないが、かなり近い位置まで進まれていた。



42: ◆BYUt189CYA :2008/07/23(水) 19:37:59.17 ID:NP7tvWF90
<ヽ`∀´>「もう手段は選んでられないニダ。
      ここは各々、持ち得る全ての攻撃力をぶつけるしか――」

( ´_ゝ`)「――お?」

<ヽ`∀´>「ニカ?」

何かに気付いた兄者はニダーを、いや、その背を見ていた。

彼の背には斜めに掛けられたライフル型EWがある。
ニダーの愛用する、魔力を弾丸として打ち出せる特殊な銃器だ。


( ´_ゝ`)「…………」

<ヽ`∀´>「…………」


(*´_ゝ`)「貸してっ☆(キラッ)」


<;ヽ`∀´>「断固として断るニダッ!!」

(;´_ゝ`)「あ、ちょ、おま、人が下手に出てりゃイイ気になりやがって!」

<;ヽ`∀´>「それのどこが下手ニカ!?
       ……ってヘリカル! 何するニカ!? あ、あ、あぁぁぁあ!!」



48: ◆BYUt189CYA :2008/07/23(水) 19:39:47.49 ID:NP7tvWF90
(´<_` )「――というわけで」

<;ヽ`∀´>「また獲られたニダ……」

(;´_ゝ`)「ちょっと借りるだけだから、そんな落ち込むなよ……」

*(‘‘)*「でもニダーのライフルなんか何に使うつもりですか?」

( ´_ゝ`)「お前ら完全に忘れてるだろ。
     俺がこのEWをメチャクチャにイジり倒したってことを」

それは決戦が始まる前。
アジトにて、ニダーとヘリカルが装備強化の相談を持ちかけた時だ。
本来はデフラグに頼むところを、不在を理由に兄者が受け持ったのだが、

<;ヽ`∀´>「ちょ、ちょっと待つニダ……!
       あれはゲシュタルトブラストの機構を組み込んだんじゃないニカ!?」

( ´_ゝ`)「それはフェイクだッ!!」

「「「何で!?」」」

三人分の問い掛けに兄者は腕の動きで答えた。
ボルトを引き、生まれた隙間に左手指を捻じ込んだのだ。



53: ◆BYUt189CYA :2008/07/23(水) 19:41:40.17 ID:NP7tvWF90
<;ヽ`∀´>「え……?」

すると、ややあって『かちり』という硬い音が聞こえた。
何かが外れるような音が続き、ライフル型EWがその形を変えていく。
まったく心当たりのない機構に、ニダーは目を丸くして兄者の動きを追った。

( ´_ゝ`)「ふふふ、この俺がゲシュタルトブラストを組み込むだけで終わると思っていたか?」

<;ヽ`∀´>「出来ればそうあってほしいと願っていたニダ……」

(´<_`;)「――って、兄者! 兄者! もう敵がかなり近くなってるぞ!!」

作業を進める兄者の耳に、慌てた弟者の声が飛び込んでくる。

地を踏み砕く音に混じって羽ばたきの群音も聞こえてくるのは、
雑魚が先行して、こちらに向かってきているということだろう。

(´<_`;)「このままじゃケーニッヒ・フェンリルに攻撃する前に、俺達がやられる!」

( ´_ゝ`)「落ち着け弟者。 何も問題はない」

(´<_`;)「すまん! 控え目に言っても問題だらけだ!」



57: ◆BYUt189CYA :2008/07/23(水) 19:42:48.61 ID:NP7tvWF90
弟者の慌て様も仕方がなかった。
空から大量の異獣が接近してきているのだから。

赤い目は兄者達が乗る桃色の竜を見据えており、今にも襲い掛かろうと牙を剥いている。
今のまま何もせずにいれば、大した抵抗もすることが出来ずに食われてしまうだろう。

(´<_`;)「くっ……こうなったら限界突破で皆を――!」


(#´_ゝ`)「弟者ッ!!」


(´<_`;)「!?」

今まで聞いたこともないような兄の鋭い声に、弟者の身が固まる。
そして次の瞬間、猛烈な音と光が来た。

音は光線。
光は桃色だ。

《ギュ――!?》
《ア"ァァァァァァァァァアァァ!?》

上空から雨のように降り注ぐ光の線は、的確に空飛ぶ異獣の背を穿った。



64: ◆BYUt189CYA :2008/07/23(水) 19:43:58.20 ID:NP7tvWF90
獣の悲鳴が連鎖、大合唱となり、遅れて弟者の驚きが追う。

(´<_`;)「な、何だ!? 何が起きた!?」

( ´_ゝ`)「大丈夫だと言っただろう。
      なぁ、ヘリカル?」

放たれた声は上を向いていた。
その方向から降りてくる影がある。
コミカルなステッキに腰掛けて、こめかみをピクピクさせているヘリカルだ。

*(#‘‘)*「まったく……私がアンタの言葉を忘れてたらどーするつもりだったんですか」

( ´_ゝ`)「むしろ憶えてた方に驚きだね。
     『お前に俺の護衛を頼みたい』……ふふ、予防線を張っておいて正解だったか」

*(‘‘)*「はいはいワロスワロス。
     んで?
     私がこうやってアンタ達を護ってやったからには、結果を見せてくれるのでしょう?」

( ´_ゝ`)「うむ、任せろ」

と、兄者は右腕で抱えているものを軽く掲げた。
ニダーから借りたライフル型EWは、変形に変形を重ね別の形になってしまっている。

兄者の隣には、持ち主であるニダーが口をあんぐりと開けて呆けていた。



73: ◆BYUt189CYA :2008/07/23(水) 19:45:08.83 ID:NP7tvWF90
<;ヽ`∀´>「ウ、ウリのライフルは何処へ行ったニダ……もはやその形は……」

既にライフルではない。
銃身部分が縦に大きく開き、全体の長さも1.5倍ほどに展開している。

形状から判断するならば、『バズーカ』が一番近いかもしれない。

<;ヽ`∀´>「ウリが長年愛用してきたEWになんてことを……」

(*´_ゝ`)「わはははは、天才だな俺」

言いながら変形したバズーカ型EWを竜に手渡す。


受け取った竜は、まったく迷いなくそれを口の中に放り込んだ。



77: ◆BYUt189CYA :2008/07/23(水) 19:46:20.38 ID:NP7tvWF90
<;ヽ゚Д゚>「……あ!? あぁ!? あぁぁぁぁぁぁぁぁあっぁあぁぁぁぁ!?」

*(;‘‘)*「「えぇぇぇぇぇぇ!?」」(´<_`;)

( ´_ゝ`)「良いリアクションしてくれるなぁ」

ニダーの反応は当然と言える。
愛用していた武器を獲られ、挙句の果てにペットのようなモノに食されたのだから。
あまりのショックに顔の造形も壊滅しよう。
そして弟者とヘリカルも、兄者の奇行に怖れ慄きながら自分の武器を胸に抱きかかえた。

そんなニダーが『orz』のポーズをとると同時、
兄者達の足下――つまり桃色のドラゴンに動きがある。
尻尾を始点として、頭へ向かって震えを走らせたのだ。

<;ヽ゚Д゚>「な、な、な……!?」

( ´_ゝ`)「言ったろう? 俺に不可能はない、と」

(´<_`;)「すまん兄者、記憶の限りでは言っていないはずだが……」

( ´_ゝ`)「…………」

少し沈黙した兄者は気を取り直し、

(#´_ゝ`)「見よ! これが俺達の切り札だ!!」

次の瞬間。
桃色のドラゴンが盛大に嘔吐した。



86: ◆BYUt189CYA :2008/07/23(水) 19:48:23.23 ID:NP7tvWF90
いや、よく見れば動きだけだ。

腹の中身を吐き出そうとする動きの中、口から出てくる物がある。
それは胃液や吐瀉物などではなく、金属製の筒のような物体で、

<;ヽ`∀´>「……まさか!?」

果たしてニダーの予感は的中した。

竜の口から迫り出してきたのは砲口であった。
兄者が食わせたEWを解析し、自身のサイズに合うよう魔力で再構成したのだ。
己の思い描く結果が完成したのを見届けた兄者は、強かな笑みを浮かべる。

( ´_ゝ`)「ニダーさんのEWに、我が飛竜の機動力……この二つの要素を合体させた、いわば『砲竜』。
     限界突破ならではの荒技だぜっ!」

(´<_`;)「おぉ……! でも『だぜ』はちょっとダサい!」

(#´_ゝ`)「竜の構成魔力も砲弾に使用するから、普通に撃つより何倍も強力!
      加速しながらブチ込めば……その威力は更に膨れ上がるっ!!」

*(;‘‘)*「アンタは本当にとんでもないことを……!」

<;ヽ`∀´>「なんという無茶な……」

( ´_ゝ`)「褒め言葉として受け取っておこう。
     さぁ、行くぞ諸君!」



92: ◆BYUt189CYA :2008/07/23(水) 19:49:42.70 ID:NP7tvWF90
(´<_`;)「行くって……」

弟者の問いに兄者は頷き、

(#´_ゝ`)「加速しながらの最大の一撃を、ケーニッヒ・フェンリルに叩き込むのだ!」

皆は前へ視線を向けた。
ケーニッヒ・フェンリルがこちらに向かってくる光景が見える。
その周囲には翼を羽ばたかせる多数の獣がいる。

兄者は、あの中に突っ込む、と言っているのだ。

( ´_ゝ`)「いいか? 竜の操作は俺がやる。
     ヘリカルは砲撃で道を開き、弟者はヘリカルの攻撃を抜けてきた敵から竜を護るんだ。
     そしてニダーさん」

<;ヽ`∀´>「?」

( ´_ゝ`)「進むべき道はアンタが指し示してくれ。
     アンタの冷静な観察力と、異獣に対する経験と情報。
     それだけが、あのケーニッヒ・フェンリルへの道を知っているはずだ」

先とは打って変わっての真剣な表情。
ニダーは、兄者の切り替えの早さを少しは知っていた。

<ヽ`∀´>「…………」

そしてこうなった時の彼は、かなり容赦がないことも。



100: ◆BYUt189CYA :2008/07/23(水) 19:50:52.83 ID:NP7tvWF90
真剣そのものな眼差しに、ニダーは再度、敵の群れを見た。

<ヽ`∀´>「…………」

ケーニッヒ・フェンリルを護るように展開している軍勢は、雑に見えて統率されている。
指揮官がいるのか、それとも全ての獣の思考がリンクしているのか。
ニダーには詳細など解らないが、一つ言えるのは、

<ヽ`∀´>「……このまま何も考えずに突っ込んでも駄目ニダ」

( ´_ゝ`)「ふむ」

<ヽ`∀´>「つまり道をこじ開ける必要があるニダ。
      大量の獣という壁に穴を開ける。 それが出来るのは――」

*(‘‘)*「私ってことですね。 良いですよ。
    撹乱に弾幕に突破口の抉じ開け……これくらい忙しい方が集中出来るってもんです」

言いながらステッキを撫でるヘリカルの声には自信が溢れている。

彼女の砲撃能力の高さは、既に皆が知っていることだ。
高威力広範囲のレーザーや雨霰と降らせるビームシャワーなど、その攻撃方法も多い。
何より単独行動がとれるというのが最大の強みと言える。



106: ◆BYUt189CYA :2008/07/23(水) 19:52:05.08 ID:NP7tvWF90
( ´_ゝ`)「そして弟者は……」

(´<_` )「あぁ、任せてくれ。
     どれだけ持つか解らないが全力を尽くそう。
     どんな数でも攻撃でも皆を護り通す」

弟者の視線に、兄者は強く頷いた。
この二人に限っては多くの確認など要らない。
言葉を少し交わすだけで弟の覚悟を感じ取り、そして大丈夫だと確信する。

( ´_ゝ`)「んじゃあ、いっちょ行くかね。
     準備と覚悟はOK?」

<ヽ`∀´>「……いつでも」

d(´<_` )「どこでも」

*(‘‘)*「……誰とでも?」

( ´_ゝ`)「良い返事だ。 流石だな。
     そしてそこに俺達兄弟の流石分も含めば、それこそ最強の流石が完成する。
     故に――」

無事な方の腕を上げ、その指先をケーニッヒ・フェンリルへ向け、

(#´_ゝ`)「――何も恐怖することはないっ! 突撃だ!!」



112: ◆BYUt189CYA :2008/07/23(水) 19:53:12.17 ID:NP7tvWF90
促されるように、桃色の竜が『発進』した。

大きな翼を一つ羽ばたかせば、その大質量が強く前へと押し出される。
上に乗る兄者達三人は身を押さえつけるようにして衝撃に耐え、それを一拍遅れてヘリカルが追った。

初速は上々だ。
ぶつかってくる風も、上手く羽で制御出来ている。
一気に距離を稼ぐ形となった竜は、文字通り敵陣の中へと突っ込んでいった。

《……!!》

そして当然、追い抜いた群れと迎え撃つ群れに挟まれる結果となる。
いきなり飛び込んできた桃色の竜に、異獣達が最大の警戒を見せ、牙を剥いた。
今にも群がられようとする中で、

(#´_ゝ`)「ヘリカル!」

*(#‘‘)*「貫け根性――ッ!!」

瞬間、光が降り注いだ。
土砂降りに近い光景は、数多の光線が竜の周囲に落ちるもので。

それは見事に、兄者達を避けての砲撃連射として完遂された。



115: ◆BYUt189CYA :2008/07/23(水) 19:54:22.38 ID:NP7tvWF90
射撃を受けた異獣が、翼や力を失い、身を焦がしながら落ちていく。

*(#‘‘)*「はっはぁー! ざまぁみろです!!」

(#´_ゝ`)「今の内だ!!」

羽ばたきを重ね、身を捻り、ひたすらに前を目指す。
竜の突撃に危機を感じ取ったか、展開している異獣が本格的にターゲットをこちらに定め始めた。

状況は良いとは言えない。
上下左右全方位に異獣がいる。
少しでも進路を間違えれば、一斉に飛びかかられて地面に落ちるだろう。

(#´_ゝ`)「だが――!」

<ヽ`∀´>「上ニダ!!」

声に、竜が応じた。
跳ねるような動きだ。
今までの前への動きから、いきなり上方向へ。

羽ばたきによる突風と大気の破裂が重なり、ひ、という細い音を生んだ。



122: ◆BYUt189CYA :2008/07/23(水) 19:55:49.66 ID:NP7tvWF90
当然、異獣は追いつけない。
上へ飛んだ竜を、少し遅れて追おうとしたところで

*(#‘‘)*「色々ブチ撒けながら死ね!!」

《!?》

いきなり前から来た多数の光によって、全身を貫かれ消滅する。

だが、それだけで終わらない。
更にロールを加えた彼女は、全方位へ向けてビーム砲を発射した。
回転しながらの砲撃を名付けるならば、

*(#‘‘)*「ローリングガトリングレーザー……!!」

引き金を引き続けることで、スタッカートな連射音がバラ撒かれる。
その連音に対応する数の光線が八方へ飛んだ。

一つ一つが魔力の塊であるそれらは、必殺の勢いを以って敵群を砕いていく。



128: ◆BYUt189CYA :2008/07/23(水) 19:56:57.96 ID:NP7tvWF90
半径五十ヤード範囲の獣全てを焼き尽くしたヘリカルは、回転の勢いを止めながらステッキを構えた。
宝石のような装飾が施されている杖頭がケーニッヒ・フェンリルの方を向く。

*(#‘‘)*「さぁ、私達の最大の恨みと怒り……その全てを貴様に受けてもらいますよ!」

機械音。
杖頭が展開した。

*(#‘‘)*「貴様を倒すために死んでいった馬鹿共の!
     今も貴様を倒すため戦っている阿呆共の!」

ステッキの先端が大きく広がり、派手な様相となる。
更に核の役割と担っている宝石部分を強調させ、

*(#‘‘)*「その全てを、勝利という一つの結果に繋げるため――」

魔力が集中する。
カートリッジ内の全エネルギーを核へ集め、莫大な力場を編み上げた。
それは彼女が会得しているステッキの使い方の中でも、最も強力な一撃を放つ形態だった。

放たれる音階が最大へ移行。
鼓膜を強く震わせる音の中、ヘリカルはステッキを身体で押さえつけながら

*(#‘‘)*「――派手に死ねッ!!!」

溜まりに溜まった魔力の奔流を、一気に解放した。



145: ◆BYUt189CYA :2008/07/23(水) 19:59:14.74 ID:NP7tvWF90
桃色の光と大音が走る。

ステッキから放たれた力は、一本の極太線という形を持って大気を焼いた。
熱線とも光線とも言えるレーザーは、途中にいた異獣の悉くを消し飛ばしていく。

強烈な光。
一瞬遅れて、轟音。

次に見た光景は凄まじいものである。
ヘリカルの位置を起点、ケーニッヒ・フェンリルの額を終点として、その間にある全ての物質が消滅していた。
阻んでいた獣はもちろん、空気や音さえも呑み込むような一撃だった。

(#´_ゝ`)「――!!」

そんな無に近い空間へ、飛び込む動きがあった。

先ほど上昇の軌道を選んだ桃色の竜だ。
一度舞い上がり、放物線を描くように降りてきたのだろう。
その頭に立つ兄者が僅かに、背後のヘリカルの方へ顔を向け、

( ´_ゝ`)「お前の覚悟は見届けたぞヘリカル! 流石だな!!」

*(‘‘)*「御世辞はいいから、さっさとブチ込んできなさい!
    もしこの一撃を無為にするようなことになったら、今度はアンタを蜂の巣にしますよ!」

( ´_ゝ`)b「OK任せろ! アンタの怒りと恨みは俺が繋げてみせる!」



151: ◆BYUt189CYA :2008/07/23(水) 20:00:30.00 ID:NP7tvWF90
同時、竜が吼えた。
翼を大きく、鋭く動かし、身を伸ばすようにして飛ぶ。
ただ速く走ることのみを考えた運動だ。

ヘリカルが貫いた空間を、兄者達は最大戦速で行く。

既に穴は閉じられようとしていた。
いきなりの砲撃に状況を見失っていた異獣達が、桃色ドラゴンの進撃を防ぐために集まり始める。

(#´_ゝ`)「だが甘い、甘いぞ獣ども!!」

それまでの僅かな空白。
今の竜にとっては、充分過ぎるほどの時間であった。

加速に加速を重ね、助走は既に充分。
あとはケーニッヒ・フェンリルの鼻先に、口内のEWから放たれる魔力弾をぶつけるだけだ。
これほどまでの速度を加えた一撃は、おそらくかなりの衝撃とダメージを与えることだろう。

しかし、その前に妨害があった。

ケーニッヒ・フェンリルを護るために集まってきた獣の口に光が灯る。
先の戦いでシャキン達を狙い撃ちした魔力砲撃だ。

爪や牙が届かないのであれば撃ち落としてしまえ、という魂胆がありありと解った。



156: ◆BYUt189CYA :2008/07/23(水) 20:01:58.68 ID:NP7tvWF90
(#´_ゝ`)「あと少し……っ!」

<ヽ`∀´>「このタイミングでは間に合わんニダ!!」

ニダーの声に、しかし兄者は前だけを見ることで応える。
その表情には緊張が張り付いていたが、しかし微かに別の色も見え隠れしていた。

《グギュァァァァァァァァァ!!》

砲撃が来る。
三百六十度全方位からの攻撃だ。
獣の口から漏れる光は、限界だと言わんばかりに膨れ上がり、

「――おぉぉぉぉぉぉぉっ!!」

しかし直前、獣とは違う咆哮と光が放たれた。

獣の口から出る赤色と異なり、竜を丸々包み込む光の色は黄金だ。
それはケーニッヒ・フェンリルの衝撃波を全て受け止めた光と同じ力強さを放っている。

この現象を兄者達が認識するよりも早く、獣の光が弾けた。

( ´_ゝ`)「弟者か!!」

(´<_`#)「もう一仕事頼むぞジゴミル! お前はやれば出来る奴だ!!」



163: ◆BYUt189CYA :2008/07/23(水) 20:04:16.72 ID:NP7tvWF90
周囲が赤に染まった。
空よりも深く、血よりも激しい彩りの光。

愚かにも母なる巨獣へ向かう敵を穿つべく、全ての光が竜を一点として集中する。

「「――ッ!!!」」

大きな音が響いた。
ガラスを砕くような高い音――しかも連打だ。
連続で叩かれ生まれた音は、纏う大気を震わせて己を表現する。

同時に光が視界を覆い、竜に乗るニダー達を不可視の世界へと叩き落とした。


<;ヽ`∀´>「な、にが……?」

そんな言葉が出たのは、果たしてどれだけの時間が経った頃か。

数秒とも、数分とも思える空白の感覚。
視覚と聴覚を麻痺させられた状態では、上手く現状を把握出来るわけもなく。

その中で、ニダーの頭が徐々に正常を取り戻す。
あまりの大音に耳を痛めたニダーが、周りを見渡した。
自分達と竜の無事を確認し、信じられない、といった表情で兄者を見ると、

(;´_ゝ`)b「ふ、ふふ……我が弟は流石だろう?」

ニダーと同じように耳を押さえた兄者が、堂々と言い放った。



178: ◆BYUt189CYA :2008/07/23(水) 20:08:03.67 ID:NP7tvWF90
その背後には、膝をついて今にも倒れそうな弟者がいる。

(´<_`;)「役に立てたのは良かったが……すまん、マジで限界だ」

( ´_ゝ`)「よし、寝ておけ。 あとは俺とニダーがケリをつけてやる!」

羽ばたきを再開。
戦塵を突っ切り、行く。

《!!》

いきなり煙を裂いて現れた竜に、異獣が驚愕の感情を得た。

しかしそれも一瞬のことで、もはや防御能力がないと見るや否や
再び口に砲撃の準備を灯し始める。

<#ヽ`∀´>「兄者!!」

(#´_ゝ`)「だが、止まらんッ!!」

否定するように叫ぶと、しかしニダーは頷き、

<#ヽ`∀´>「正解ニダ! 今の内に飛ぶニダ!!」



185: ◆BYUt189CYA :2008/07/23(水) 20:09:53.88 ID:NP7tvWF90
先ほどの砲撃を見る限り、次まで間があまりない。

(#´_ゝ`)「しかぁぁぁぁしッ!!」



間に合う。

いや、間に合わせてみせる。

ここまで来て終わるわけにはいかない。


加速を念じて竜へ通ず。
思考の共有を経て、一人と一頭は更に等しく。


(#´_ゝ`)「限界を超えてみせろ……! お前は、そのために生まれてきたはずだ!!」



196: ◆BYUt189CYA :2008/07/23(水) 20:12:46.85 ID:NP7tvWF90
轟、という風の音。

それを最後に、全ての音が消えた。

視界が飛ぶ。
目にも止まらぬ早さ。

周りを囲う異獣の口に光が灯る。
全天に輝く星々のような光景だ。
あれらが一斉に放たれれば、瞬きする暇もなく竜は朽ちるだろう。

一瞬先の濃厚な死香に、しかし兄者達は吼えることで抵抗する。


<#ヽ`∀´>「ケーニッヒ・フェンリル!!」

(#´_ゝ`)「俺達の受け継いできた全てを、喰らいやがれぇぇぇぇ!!」


同時、加速に加速を重ねたドラゴンも吠える。
流石の意志を籠められた竜に、如何なる恐れも無い。


速度の援護を受けながら、必中必殺の砲が大音と共に光を放った。



201: ◆BYUt189CYA :2008/07/23(水) 20:14:46.61 ID:NP7tvWF90
三〇〇。

本陣までのメートルだ。
一〇〇〇もあった数字は三分の一となり、もはや頼りないものとなっている。

《――――…………》

数々の防護に耐え、全身に傷を負いながらもケーニッヒ・フェンリルは前進していた。
まるで何かにとり憑かれてしまったかのような無機質さを持ちながら。

いや、初めからだったのかもしれない。
たった一言すら理解の言葉を放たない口は、今や血と涎が混じった液体を垂らすのみ。
は、という熱い吐息は、明らかに疲労や痛みから出るものだ。

しかし尚も身体を引き摺ってでも進む挙動は、線路を上を行く列車に似ている。
ただひたすら前へ歩くことしか出来ないように。

その進軍を待つ一団がいる。
装甲服を身に纏った男女が数十名。
誰もが厳しい表情で、各々の武器を握って構えていた。

('、`*川「んー……」

竜の咆哮と、大気を爆焼する音が響く。
一拍遅れて獣の叫び声が聞こえ、大質量が地面を揺らす響きが続いた。



208: ◆BYUt189CYA :2008/07/23(水) 20:16:15.45 ID:NP7tvWF90
('、`*川「何故でしょーねぇ」

震えを足に感じながら、リラックスした状態のペニサスが呟く。
少し後ろで腕を組んでいるミルナが問い掛ける。

( -д- )「何がだ」

('、`*川「いや、ああやって必死になってるのはどーしてかな、って思って」

ノハ#゚  ゚)「……自分のことでもあるのに」

半目で突っ込まれ、しかしペニサスは首を横に振った。

('、`*川「私達じゃなくて異獣の方よ。
     あそこまで抵抗されて、痛めつけられて、尚も前に進もうとしている。
     『我らに撤退の二文字はない!』みたいな感じでね」

( -д゚ )「俺達と同様に、奴らにも貫くべき覚悟と意志があるのだろう。
     そしてぶつかった時……より強く、硬い方が打ち勝つ」

('、`*川「それ矛盾してない?」

問いに、ミルナは首を傾げる。
突拍子もないことを言うのはいつものことで、少しは慣れてきたと自負しているミルナだが
流石に今の言葉の意味は解らなかった。



216: ◆BYUt189CYA :2008/07/23(水) 20:18:00.95 ID:NP7tvWF90
('、`*川「だって流石兄者が言ってたじゃない。
     あのデカいのは『異獣製造機』の可能性が高いって。
     そういう表現をしたってことは、自分の意思なんかまともに持たないツールみたいな見解なんでしょ?」

( ゚д゚ )「ツール……成程、確かに」

('、`*川「そんな存在が覚悟とか意志に拘るかしら?」

ノハ#゚  ゚)「…………」

何が言いたい、と訴える視線にペニサスは頷き、

('、`*川「個人的に、異獣は狂った機械に見えるわ。
     どんな障害があろうとも関係ない……ただ、プラグラムされた命令を実行するだけの存在。
     魔力という呼び水に集まるだけの、ね」

ミルナは組んでいた腕を腰に当て、沈黙した。
魔力に固執しているのか、それとも固執させられているのか。
ただ闘争本能を剥き出しに襲い掛かってくる獣を見るだけでは、判断するのは難しい。

( ゚д゚ )「……俺にはよく解らないが、仮にそうだとして……どうなる?」

('、`*川「ん? 何もないけど?」

(;゚д゚ )「は?」



220: ◆BYUt189CYA :2008/07/23(水) 20:19:16.23 ID:NP7tvWF90
思いきり半目で睨んでくるミルナに、ペニサスは『あー』と呆けるように呟いた。
手を頭へやり、ポリポリと掻きながら

('、`*川「ごめんごめん、ただ普通に思ったことを口に出してみただけ。
     別に答えが出たって私達のやることは変わらないわ」

ただ、と付け加え

('、`*川「一言で『異獣』とは言うけど、ちょっと気になるのよね。
     奴らの過去に何があったのか……そして何故、魔力を求めて戦力を増強するのか」

( ゚д゚ )「もう今はいないブロスティーク。
     そして内藤の持つクレティウスが何かを知ってそうだがな。
     聞いても喋ってくれないだろうが……間違いなく無関係ではないだろう」

('、`*川「……案外、中核に位置してたりして、ね」

( ゚д゚ )「ん?」

('、`*川「ごめん、何でもないわ」

さっぱりと会話を打ち切るペニサス。
一体何を言ったのか気にはなったが、彼女相手に食い下がる度胸もない。
結局、ミルナもこれから始まる最後の戦いに備え、呼吸を整えていく。



224: ◆BYUt189CYA :2008/07/23(水) 20:21:09.88 ID:NP7tvWF90
ノハ#゚  ゚)「…………」

視界の端にはヒートがいる。
彼女は緊張もリラックスもしていない状態で、ただケーニッヒ・フェンリルを見ていた。

( ゚д゚ )「どうした? 何か気になるのか?」

ノハ#゚  ゚)「……ううん、ちょっと考え事。
     もし天災で世界が滅ぶ直前っていう時も、こんな気持ちなのかな?」

( ゚д゚ )「また後ろ向きな想像だな。 お前らしくもない」

ノハ#゚  ゚)「自分でもそう思う。
     けど、これが最後『かも』しれないんだよね。
     そう思うと……どうしても何もかもが切なく見えちゃってさ」

寂しげな言葉に、ふむ、とミルナは吟味の息を吐く。
これまでの行いから勝利を疑わないミルナだが、考え方を少し変えればヒートの言うことも理解出来る。
同時に、ネガティブだと言われても仕方ないだろう、とも思う。

しかし、駄目だと思いながらも想像してしまうのが人間だ。
知能が高い故に余計なことまで考えて、悩むのも人間だ。

だから今のヒートの瞳に浮かぶ感情は、非常に『らしい』ものだと言えるだろう。



232: ◆BYUt189CYA :2008/07/23(水) 20:22:15.74 ID:NP7tvWF90
( ゚д゚ )「……結果をいくらか左右出来る状況だが、失敗すれば滅びだからな。
     絶対ではないだけマシとはいえ――」

ノハ#゚  ゚)「――私は勝つつもりだよ。 絶対にね」

( ゚д゚ )「……む」

ノハ#゚  ゚)「そしてミルナと離れていた一年間の分を取り戻すんだ。
     色んなことを話して、色んなことをして、色んな感情を共有したい」

それはミルナも同じ気持ちだった。
相思相愛と解っている二人は、しかし一時期離れ離れになっていたことがあり、
だからこそ、その空白を未来で埋めたいと思っている。

ノハ#゚  ゚)「でも……もし何かの間違いで異獣に負けてしまったら、って思うとね。
      どうしても後悔が残りそうで怖いんだ」

( ゚д゚ )「ふむ、成程な。
     だったら今の内に何かしておくか?」

ノハ#゚  ゚)「例えば?」

( ゚д゚ )「む……」



239: ◆BYUt189CYA :2008/07/23(水) 20:23:59.75 ID:NP7tvWF90
問い返され、ミルナはしばし考えた。
この戦いが終わってからヒートとしたいことを想像し、その中で今出来そうなのを検索。
アレは無理、コレも無理、ソレは微妙、などと考えていき、

( ゚д゚ )「……キスくらいなら出来るぞ」

ノハ#゚  ゚)「うわ、ミルナって私とそんなことしたいと思って……意外とえっちぃんだ」

(;゚д゚ )「ぐはっ! い、いや、それは、その――!」

ノハ#゚  ゚)「あはは、冗談だよ。 それに私も似たようなこと考えてたしね。
     でも今は無理でしょ?」

( ゚д゚ )「! ぁ……す、すまん」

言われてようやく気付いた。

彼女の顔には、表情を覆い隠すような仮面が在ることを。



245: ◆BYUt189CYA :2008/07/23(水) 20:25:46.56 ID:NP7tvWF90
暗い顔をするミルナに、しかしヒートは強気な笑みを浮かべた。

ノハ#゚  ゚)「大丈夫だよ。
     異獣を倒して、顔を取り返して、ちゃんと私の顔でミルナを見て……それからだよ。
     色んなことをするのも、出来るのも」

( ゚д゚ )「……あぁ、そうだな。
    そしてそう思うと、絶対に勝とうという気概も湧いてきたぞ。
    未来でお前と一緒に生きるための、な」


ノハ#゚  ゚)「ミルナ……」

( ゚д゚ )「ヒート……」

('、`*川「…………」


ノハ#;゚  ゚)「「っ!!?」」(;゚д゚ )



255: ◆BYUt189CYA :2008/07/23(水) 20:27:37.47 ID:NP7tvWF90
('、`*川「えー、ゴホン! 
    人目もはばからずストロベるのは御勝手だけど、そろそろお時間よ?」

ノハ#;゚  ゚)「ストロ……?」

('、`*川「甘酸っぱいってことよ。
     まったく、私の前にでイチャつくなんて命知らずも良いとこね」

(;゚д゚ )「……そ、そういえばペニサスの周りで浮いた話を聞いたことがないな。
     こういう時に聞くのも何だが、心に想う人などいるのか?」

( 、 *川「…………」

ペニサスが目を俯かせて黙り込んだ。
今までののん気な空気が氷点下まで落ち、違和感にミルナは首をかしげた。
しかしそれも一瞬のことで、ふと彼女を見ればいつもの表情。

いや、よく見れば妙に頬が赤く――


('、`*川「――私はミルナ君が好きだなぁ」


ノハ#;゚  ゚)「「っ!!?」」(;゚д゚ )



266: ◆BYUt189CYA :2008/07/23(水) 20:29:05.41 ID:NP7tvWF90
衝撃発言にミルナが一歩引いた。
追うようにペニサスは足を踏み出し、

('、`*川「真面目で、男らしくて、一途で、ゴツいけど顔も悪くないし、英雄の中でもそれなりの地位にいるしぃ?
     よく考えたら貴方って凄い良い男なんだと思うんだぁ」

ノハ#゚  ゚)「…………」

(;゚д゚ )「なんということだ……」

('、`*川「ほらぁ、業名の儀式の時だって、
     暗闇の中で私を(拳で)触ったり(技で)押し倒したりして、色んなモノ(汗や血)を出したり出させたりさぁ。
     最後はミルナ君の凄いアレ(八極拳風体当たり)が私をズッキューン(内臓損傷)って!」

(;゚д゚ )「ま、紛らわしい言い方を……」


ノハ#゚  ゚)「…………」


(;゚д゚ )「待てヒート! 誤解が――ぐぉっ!? ブロスティークで背中を突くな!!」



282: ◆BYUt189CYA :2008/07/23(水) 20:30:27.60 ID:NP7tvWF90
周囲にいる英雄兵達が生暖かい視線を送ってくる中、
ミルナは二人の女性によって精神的にも身体的にも追い詰められていく。
そのテの性癖を持つ者ならば大興奮だろうが、あいにく彼はつまらないほど正常であった。

そして無言で刺突されるミルナを楽しげに見ていたペニサスは、

('、`*川「はいはい、遊びは終わりよー」

(;゚д゚ )「誰のせいでこんなことに……!!」

抗議の声は無視される。
周りから、は、という声。
連鎖し、皆が可笑しそうに笑みを浮かべた。

('、`*川「とまぁ、こんな感じだけどリラックス出来たかしら?」

ノハ#゚  ゚)「ペニサス……ここにいるのは全員英雄だよ?
     こんな大きな戦いを前に興奮することはあっても、緊張はあまりしないと思う」

('、`*川「あ」

(;゚д゚ )(刺され損か、俺は……)

言いながら背中から血を流すミルナ。
しかし流石に英雄だけあってかダメージはないようだ。
傍から見れば異常な光景だが、英雄という人種柄か、その程度は怪我の範疇にすら入らないのだ。



289: ◆BYUt189CYA :2008/07/23(水) 20:31:38.47 ID:NP7tvWF90
('、`*川「んじゃ、テンションも上がったことだし。
     あのデカい獣を止め――いえ、あわよくば倒しちゃいましょう」

( ゚д゚ )「そう簡単には言うがな……力押しで何とかなる相手でもないぞ」

('、`*川「力押しなんて前時代的なことはしないわよ。
     いつの時代も戦いには知恵がいるってね」

(;゚д゚ )(逆にそれが心配だ……)

ウインクするペニサスの表情に、ミルナは背を冷たい汗が流れるのを感じていた。



293: ◆BYUt189CYA :2008/07/23(水) 20:32:41.72 ID:NP7tvWF90
数分後。

そこには、ペニサスの提案を実行に移そうとする面々がいるわけだが、
やはりミルナは最後まで首を捻っていた。

(;゚д゚ )「……本気でこれをやるつもりか」

('、`*川「大丈夫。 成功すれば私の言った通りになるわ」

ノハ#;゚  ゚)「それ逆じゃないの……?」

三人は各々の武器を構えて立っていた。
ミルナを真ん中に、一歩引いた形で左にペニサス、右にヒートがいる。

三角の形をとる陣形は、まるでミルナを盾とするような状態だ。

額に汗が浮いているのをミルナは自覚していた。
暑いからではなく、ペニサスの作戦の無茶苦茶さによる不安からだ。

(;゚д゚ )(しかし本当に突拍子もないことを考えつくものだ。
     そして更に恐るべきは、彼女のカリスマ性……)



303: ◆BYUt189CYA :2008/07/23(水) 20:34:16.19 ID:NP7tvWF90
ペニサスの発案した作戦は、正直に言って無茶も良いところであった。

掻い摘んで言えば、彼女自身とヒートの攻撃力に頼った特攻である。
前提となる二人は確かに強いとは思うが、他の兵達が納得するかは別の問題だった。

しかし、話は滞りなく決着した。

これもペニサスの人柄の恩威だろうか。
最初こそ堅実なミルナは『危険ではないか』と思っていたのだが、
ふと気付けば『大丈夫だろう』と何となく頷いている自分がいた。

根拠も何もないが、彼女が言うならきっと大丈夫だろう、という空気が確かに在った気がする。
不思議なものだ、と己の中で結論したミルナは、ペニサスの言葉を思い出す。

( ゚д゚ )(……作戦の要は俺、か。
    俺のような若輩者に任せるとは……いや――)

それだけ信じてくれているのかもしれない、と。
ふと浮かんだ考えに、ミルナは苦笑した。



319: ◆BYUt189CYA :2008/07/23(水) 20:37:15.78 ID:NP7tvWF90
( ゚д゚ )(都合の良い妄想だな。
     だが、信じてみたいと思う自分もいる。
     本当に不思議だ……これは俺が変わったせいなのか、それとも……)

ノハ#゚  ゚)「ミルナ?」

( ゚д゚ )「……ん、問題ない。 いつでもいいぞ。
    俺の拳に賭けて、お前達を絶対に送り出してみせる」

('、`*川「頼もしいわね。 んじゃ、そろそろ実行するわよ。
     天賦の才を持つ英雄三人による前代未聞のミッション……成功させましょ?」

言った時、地響きが更に大きくなった。
ケーニッヒ・フェンリルが徐々に近付いてきている。

ミルナは自分の両拳を握ったり開いたりしながら、有効射程範囲を見定めていた。
出来れば最大まで引き付けたいところだが、やり過ぎてもタイミングが合わないだろう。

遠くもなく、近くもない絶好の距離を模索していく。



324: ◆BYUt189CYA :2008/07/23(水) 20:39:08.52 ID:NP7tvWF90
果たして絶好の距離は存在し、そして見定めることが出来た。

思うと同時にミルナが強く頷く。
すると、背後に動きが発生した。

ノハ#゚  ゚)「いくよっ!!」

('、`*川「ほいっ」

二人が背後で跳ねたのだ。

跳躍というよりも、ステップに近い動きだ。
瞬発的に放たれた身体を、二人は同じタイミングで背を曲げて丸める。

前へ一回転。

ミルナの肩の少し上を跳んだ二人は、重力に従って身を落とす。
その時には、既に尻と足を地面に向けている状態だ。



328: ◆BYUt189CYA :2008/07/23(水) 20:40:13.25 ID:NP7tvWF90
(#゚д゚ )「加減はしない……歯を食いしばれ!!」

二人を迎える動きが一つ。
ミルナだ。

両拳を握り締め、左足を一歩引き、両肘を曲げて背後へ抜く。

構えは打突だ。
しかも両方の。

機を同じくして、跳躍していた二人がミルナの前に落ちようとする。
次の瞬間、

(#゚д゚ )「――っ!!」

身を前に押し出しながら、ミルナが両拳を前方へ向けて放った。

激突の感触はすぐに来た。
しかし、当たったのは敵ではない。

丁度、視界の両脇に落ちてきたペニサスとヒートの揃えられた両足裏だった。



337: ◆BYUt189CYA :2008/07/23(水) 20:42:33.07 ID:NP7tvWF90
(#゚д゚ )「っであああああッ!!」

硬い感触を拳の表面に得ながら、ぶち抜く。


身体を前に倒す勢い。

歯を噛んで得る力み。

強靭な腰の踏ん張り。


強力な打撃を生み出す一連の動作を完璧にこなした。
もし英雄神――シャーミンが傍で見ていれば、感嘆の息を吐いただろう。
それほど、彼の打突のフォームは完成の域に近付いていた。

拳を足裏に当てられたヒートとペニサスが、砲弾の如く『発射』されていった。

送り出したミルナは、額の汗を拭い、

( ゚д゚ )「……ただ耐え、護るだけだった俺の拳も随分と贅沢になったものだ」

舞い上がる砂煙に目を細めながらコメント。
幾度となく傷つき、しかしその分だけ障害を破壊してきた拳を見て、自嘲気味な笑みを浮かべた。

( ゚д゚ )「誰かを信じて送り出す、か……悪くはないな」

そして、己の拳を映すに目は――



344: ◆BYUt189CYA :2008/07/23(水) 20:44:37.29 ID:NP7tvWF90
ノハ#゚  ゚)「……!!」

ミルナの拳によって放たれた二人は、己を弾丸に見立てて真っ直ぐに飛ぶ。
狙いは言うまでもなくケーニッヒ・フェンリルだ。

風に乗るように身体を伸ばし、回転すら掛けながら、一気に。

ヒートは黒剣ブロスティークを。
ペニサスは鍛え上げた両脚を。

誰にも負けない、と自信を持って言える技術を武器に、二人は宙を貫いた。

発射から激突まで僅か三秒。
その短い間に二人は、アイコンタクトで意志を交わしている。

('、`*川(んじゃあ、私は左足。 貴女は右足。
     片方だけ崩せればいいから、そっちは寝てても良いわよ?)

意図が伝わったのか、ヒートの目が微かに鋭くなった。

ノハ#゚  ゚)(……それはこっちの台詞だ!
      たとえ英雄としての先輩だろうとも、戦いにおいて遠慮する理由にはならない……!)

この期に及んで対抗心を剥き出しにする二人。
ペニサスは口端に小さな笑みを、ヒートは貫くような視線を前へと向ける。
互いの力量を理解しているからこその競い合いだ。



347: ◆BYUt189CYA :2008/07/23(水) 20:45:51.29 ID:NP7tvWF90
瞬轟。

大気に穴を開けながらの突撃は、見た目以上の威力を以って果たされる。

ノハ#゚  ゚)「はぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

《ッッ!!!?》

弾丸と化した二つの身が、それぞれケーニッヒ・フェンリルの前足に激突した。

完遂するは威力の極み。
速度と力と技術を編み上げ目指すは究極のそれ。
英雄という武神のみが到達出来る、人類の頂点光景。

雷鳴に似た音が二つ轟く。

あまりの威力に、衝撃波と大音が可視化した。
白い霧のような粒子が飛散し、一拍遅れて震動が追う。

まさに攻撃力の桜吹雪だ。



352: ◆BYUt189CYA :2008/07/23(水) 20:46:48.18 ID:NP7tvWF90
《――ッ――……ッ!!》

果たして痛覚があるのかは解らないが、ケーニッヒ・フェンリルが息を詰めるような声を発する。
ヒートとペニサスがぶつかる前足を震わせ、しかし体勢は崩さない。
最強生物としてのプライドが、支柱として巨躯を支えているのだろう。


('、`*川「でも――!」

ノハ#゚  ゚)「――欲による蹂躙の上に立つ誇りなんかぁぁぁぁぁぁっ!!!」


押す。
ヒートは押し付けたブロスティークの刃を。
ペニサスはぶつけた右足の踵を。

全身の力を前へと向け、ただひたすらに前進を――!



355: ◆BYUt189CYA :2008/07/23(水) 20:47:56.69 ID:NP7tvWF90
我ら英雄。
生きながらにして修羅。
天分と天運に恵まれた天与的存在。

たとえ絶望的な戦いであろうと、その役目は決して変わらない。

勝利を。
栄光を。
生存を。

望む全てを得るために。
英雄は、英雄足らんと吼え続ける。


《グ――ギュォォォォォォォォォォォォオオオオオオ!!!?》


ケーニッヒ・フェンリルが悲鳴を挙げた。
力の入らない両方の前足を折り、上半身をゆっくりと落としていく。

英雄とはいえ、たった二人の人間が巨獣を揺るがす光景は圧倒的だった。



368: ◆BYUt189CYA :2008/07/23(水) 20:52:07.17 ID:NP7tvWF90
前足から力が抜けるということは、支えを失う、ということだ。
当然のように重力に従い、首を地面へ落としていくケーニッヒ・フェンリル。

その視線が捉える。

落ちる顎先、待ち構える人影があることを。


( ゚д゚ )「まさかペニサスの言った通りになるとは。
     あのようななりでも、やはり遺伝子レベルまで英雄なのだな」


ミルナ。
二人の英雄を送り出した男が、堂々と拳を構えて立っている。
膝を折り、身を屈め、タイミングを合わせ、

(#゚д゚ )「さぁ――受けるがいいッ!!」

アッパー気味に放たれた拳が、ケーニッヒ・フェンリルの顎先をブチ抜いた。
落ちてくる勢いと、打ち上げる力が見事に一致し、深い大衝撃を生み出す。
が、と苦痛の声を挙げた巨獣は、思わず目を瞑って震えを起こす。

(#゚д゚ )「今だ! 全員突撃しろ!!」

ミルナの背中を追い抜かしながら、様々な英雄が走り込む。
英雄の獣狩りは、これからが本番であった。



379: ◆BYUt189CYA :2008/07/23(水) 20:53:41.31 ID:NP7tvWF90
本陣まで二〇〇メートルを切る。

目を凝らせば『龍砲』の小さく見える距離だ。
ケーニッヒ・フェンリルの大きさを考えれば、ここが防衛可能なギリギリのラインだと言える。
出来る限り時を稼ぎ、ハインリッヒへバトンタッチしなければならない。


遠くに光が見える。

皆がまだ、粘り強く抗っている証拠だ。


遠くから音が来る。

皆がまだ、護れと叫んでいる証拠だ。


そして声が聞こえる。

雄叫びと、獣の方向が混じる混沌とした声の群れだ。


それら全てが、誰もが希望を信じて待っている証拠である。



387: ◆BYUt189CYA :2008/07/23(水) 20:54:44.44 ID:NP7tvWF90
川 ゚ -゚)「…………」

人が立っている。
黒いコートを羽織るクーだ。
ハードポイントに装甲を装着しているが、いくつかは壊れてボロボロになっている。
しかし指輪をはめている方の手は、傷だらけでありながらも硬く握られていた。

( ^ω^)「…………」

隣にはブーンもいた。
服はクーと同じように装甲などが崩れ、無いに等しい。
指輪をはめている方の手は、またクーと同じように握り締められている。

二人は並んで立っていた。
手が触れそうなほどに近い。
しかし視線を絡めることなく、ただ前だけを見ている。

敵がいた。
おそろしく巨大な敵だ。

地を揺らしながら、ゆっくりと向かってくる『絶望』そのもの。

戦いの終わりは二つに一つ。
背後に控えている『希望』ハインリッヒが倒されれば、この世界は終焉を迎える。
その前にケーニッヒ・フェンリルを打ち倒せば、この世界は救われる。

未だ本陣から『準備完了』の連絡はない。
本陣に残るオペレータが言うには、ハインが『龍砲』に細工を施している最中らしい。

あとどの程度の時間を稼げば良いのか解らないが、全力を尽くすことには変わりなかった。



396: ◆BYUt189CYA :2008/07/23(水) 20:56:12.99 ID:NP7tvWF90
川 ゚ -゚)「内藤」

( ^ω^)「ん? どうしたお?」

川 ゚ -゚)「いや……さっきから黙っているのが気になってな。
     もしかしたら怖がっているのかもしれない、と思っただけだ」

( ^ω^)「……怖いのは昔からだお。
     二年前のあの日を境に、色んな敵や状況と戦ってきたけど
     未だに命を賭けた戦いだと思うと、震えが止まらなくなるんだお」

見えるブーンの左腕。
僅かに震えを見て取ったクーは、申し訳なさそうに眉をハの字に歪める。

川 ゚ -゚)「すまないな……二年も前のことを悔やんでも仕方ないが、
     もしあの時、私が君を巻き込まなければ――」

( ^ω^)「あ、それとこれとは話が違うお。
     むしろそれなら感謝してるお」

川 ゚ -゚)「?」

( ^ω^)「あの時、クーと出会えたことが……なんというか、今の僕にとっての幸いだと思うんだお」



406: ◆BYUt189CYA :2008/07/23(水) 20:57:29.48 ID:NP7tvWF90
向けられるは屈託のない笑顔。
心の底から本気で喜んでいる表情だ。

どういうことだ、という問いを含む視線に、ブーンは再び前を見て

( ^ω^)「確かに戦いとか殺し合いとか、未だに恐怖を感じるお。
     でもクーと一緒にいることが出来ると考えれば大丈夫なんだお」

川 ゚ -゚)「…………」

( ^ω^)「だから感謝してるんだお。
     君がいなかったら、きっと僕は強くなれなかったから。
     強くなくても良い世界で、自分の弱さに自己嫌悪しながら生きてたんだと思うお」

川 ゚ -゚)「そんな……内藤は強いじゃないか。
     素質も運もあったと私は思うぞ」

( ^ω^)「それは身体の強さだお? 僕が言ってるのは心の強さだお。
     まだまだ弱いとは思うけど、それでも昔より強くなってるって解るんだお」



411: ◆BYUt189CYA :2008/07/23(水) 20:58:16.96 ID:NP7tvWF90
川 ゚ -゚)「様々な敵と戦い、血を流し、緊張することで強く……人としての成長、か」

( ^ω^)「それもあるけど――」

川 ゚ -゚)「む?」

なんだ、と顔を向ければブーンがこちらを見ていた。
彼は頬を少し赤くしながら、言葉を選ぶようにゆっくりと、

(*^ω^)「……く、クーのことが好きだから頑張れたんだお」



川 ゚ -゚)



(;^ω^)(え、何この反応……もしかして地雷踏んだかお……?)

「いいぞいいぞフラれてしまえ小僧め」
「お前もこっち側に戻ってこいよぉ……ウヘヘ」
「さぁ、ネットでエロ画像集める仕事に戻りましょうぜ内藤君」

(;^ω^)「アンタらちょっと黙っててもらえませんかお!?」



422: ◆BYUt189CYA :2008/07/23(水) 20:59:50.86 ID:NP7tvWF90
今までなかなか自分から言うことがなかったのがまずかったか。
もしくは、クーから言うのは良いけど相手から言われると冷めるとか、そんな感じなのだろうか。
女という生物はよく解らない、と誰かが言っていたが果たして――

フルスロットルで嫌な予感を連射し始めるブーン。
それを無表情に見ていたクーがいきなり、は、と目を見開いた。

川;゚ -゚)「……あ、いや、すまん。 嬉しくて言葉を失っていた」

(;^ω^)「なんと……」

こういう肝心なところで意思疎通が出来ないのは、まだまだ自分が未熟な証拠なのだろう。
今度からは積極的になるべきか、などと思案していると、

川 ゚ー゚)「嬉しいよ、ありがとう……そして私も君が好きだ」

( ^ω^)「…………」

川;゚ -゚)「……どうした? 迷惑か?
     ま、まさか自分から軽々しく言う女は君の好みでは――」


(;^ω^) ハッ



430: ◆BYUt189CYA :2008/07/23(水) 21:00:41.50 ID:NP7tvWF90
(;^ω^)「ご、ごめんお。 なんか正面から言われてフリーズしちゃったお」

今ならクーの気持ちが解る。
心に電流が走ったような感覚だ。
これならば、一瞬でも意識を失うのも当然だろう。

浮かぶ感情は暖かく、そして甘い。
ここが戦場であることを忘れてしまうほどの多幸感に、笑みが止まらなかった。

皆なら一目見ただけで『キモっ』と一蹴するであろう表情を浮かべるブーン。
それを呆けるように見ながら

川;゚ -゚)「なんと……」

呟いたクーは、しかし表情を変え、

川 ゚ー゚)「私と同じ、だな」

(*^ω^)「おっおっ」

背後から嫉妬の声が聞こえてきたが、ブーンとクーは無視を決め込んだ。



442: ◆BYUt189CYA :2008/07/23(水) 21:01:59.07 ID:NP7tvWF90
地響きが近くなる。
足を引き摺りながら、身体を崩しながら、疲労の喘ぎを漏らしながら。
今も全軍の抵抗を見に受けるケーニッヒ・フェンリルが、しかしハインリッヒだけを目指して向かってくる。

その巨体は随分と小さくなっているように思えた。
魔力を放出し、そして外部から執拗に削られてきたせいだろうか。

しかし、まだ余力があるように見える。
足並みは確かに衰えているが、それでも前を目指すだけの力はあるのだから。

川 ゚ -゚)「……ここで止められるかが鍵だな。
     少しでも足止め出来れば、今度は皆で移動の要たる足を押さえることが出来るかもしれん」

( ^ω^)「…………」

川 ゚ -゚)「やはり……怖いか?
     いや、別に咎めるつもりじゃないが、君の傍には私がいr――」

( ^ω^)「大丈夫だお。 僕にはクレティウスがいるお」

『む?』

  _, ,_
川 ゚ -゚)


(;^ω^)「ぬぉ!?」



452: ◆BYUt189CYA :2008/07/23(水) 21:03:32.93 ID:NP7tvWF90
川 ゚ -゚)「そうか……やはり内藤は、私よりもクレティウスの方が頼りになると言うのだな。
     ははは考えてみれば当たり前か。
     私なんか、ただ他の者達の能力のレプリカが扱える程度だし、
     限界突破は使えないし、人間として見ても女性的な魅力は薄いし、
     口うるさいし、融通利かないし、いつも黒コートだし、君のことが好きで好きでたまらないし――」

(;^ω^)「ちょ、ま、待つお!
     ってか自分分析が妙に的確なのはどうして!?」

いや、そんなことよりも

(;^ω^)「ってか、違うお!
     クーはもう、何て言うか……頼りにしたくないんだお!!」


ガ―――川 ゚ -゚)―――ン


(;^ω^)「うわぁ顔普通!
     じゃなくて、そういう意味じゃないんだおー!!」

その後、ブーンの説得は一分にも及んだ。

流石にあまり時間をかけ過ぎるとケーニッヒ・フェンリルが来てしまうので、
クーも控えめにむくれていてくれたのが幸いした。



464: ◆BYUt189CYA :2008/07/23(水) 21:05:06.21 ID:NP7tvWF90
結局ブーンが言いたかったこととは、

川 ゚ -゚)「頼り切るのではなく、自分から率先して頼らせたい……か」

( ^ω^)「今までクーには甘えてばかりだったから。
      今回の戦闘だってクーは指揮官みたいでかっこよかったし、こりゃ僕も負けてられないな、と」

川 ゚ -゚)「別に一生甘えてもらっても構わんのだが」

(;^ω^)「そ、それは魅力的な提案だけど、僕も男なんですお……!」

川 ゚ -゚)「そういうものか……」

よく解らん、と唸るクーは本当によく解っていないのだろう。
しかし男に生まれた以上、好きな人におんぶに抱っこではかっこ悪過ぎるというもの。
今までが今までだけあって最後くらいは自分が先頭に立ち、クーを引っ張っていきたいのである。

( ^ω^)(でも、本来の関係はそんなのじゃなくて――)

解っている。
こんな自分がクーを引っ張っていくのは難しい、ということくらい。
そもそも大事な戦いで我を通すのは危険過ぎる。



480: ◆BYUt189CYA :2008/07/23(水) 21:06:50.20 ID:NP7tvWF90
( ^ω^)「クー。 そういえば、どういう作戦で足止めするか決めてるのかお?」

川 ゚ -゚)「うむ。
     ロマネスクと戦う時も確認したが、私達の中で最大の攻撃力を持つのは君だ。
     それを基本に考えない理由はない」

( ^ω^)「っていうことは……」

川 ゚ -゚)「私が14th-W『ハンレ』で道を作り、君が一撃を見舞う、という方法だな」

クーのウェポンは限界突破が使えない。
去年の年末での事件では擬似的に使用出来たようだが、その条件は限定的なものだ。

つまりクーの力は万能だが、ここ一番の爆発力がないという欠点を抱えており、
こういう場面に直面すると途端にサポート役に回らざるを得ないのだ。

( ^ω^)(…………)

川 ゚ -゚)「安心してくれ。
     君が突き進むための道は、必ず私が――」

( ^ω^)「クー」

川 ゚ -゚)「ん?」

( ^ω^)「僕に一つ提案があるお」

その提案とやらをクーに話す。
すると今度は、彼女が大慌てする番であった。



484: ◆BYUt189CYA :2008/07/23(水) 21:07:41.97 ID:NP7tvWF90
二人は堂々と並び立つ。
満身創痍に近いが、しかし迫力はまったく失っていないケーニッヒ・フェンリルを前に
ブーンとクーは、まったく怖じることなく立ちはだかっていた。

震えはある。
嫌な汗も流れる。

だが、目線は真っ直ぐなままだ。
逸らした方が負け、と言わんばかりに睨みを利かせている。
先ほどまであった柔らかさなどまったく見る影はない。

決意と覚悟も新たに、二人は完全な戦闘体勢でケーニッヒ・フェンリルを迎えようとしていた。

川 ゚ -゚)「……絶対に阻止するぞ。
     命以外の、何を投じてでも」

( ^ω^)「解ってるお。 ハインには近付けさせないお」

同時にウェポンを解放。
クーの左手には透明色の刀が、ブーンの両手には白色のグローブが出現する。
今まで何度も使い、助けられ、共に戦ってきた戦闘のパートナーだ。

それでも、ケーニッヒ・フェンリルからしてみれば小さな力かもしれない。
大した傷も刻めずに潰される程度の力なのかもしれない。
しかし、

川 ゚ -゚)「その全てをぶつけていった結果……その累積は、確実に表れている」



490: ◆BYUt189CYA :2008/07/23(水) 21:08:55.27 ID:NP7tvWF90
全軍の集中攻撃を受けた巨獣の身体は傷だらけだ。
特に足の損傷は酷いものがあり、兵達の抵抗が凄まじかったことが解る。

今、特に派手に暴れているのは英雄だ。
ミルナやヒートを中心とした軍が、激流のような突撃と攻撃を繰り返していた。
真正面から堂々とケーニッヒ・フェンリルに挑む姿は、まさに神話に出てくるような英雄である。

川 ゚ -゚)「……そろそろ射程範囲内だな」

少し目を鋭くして確認。
巨体過ぎて距離感に少し違和があるが、クーの目は誤魔化せない。
彼女の情報を全面的に信じたブーンは、両の拳を握り締め、右足を一歩引いて構えた。

( ^ω^)「クレティウス。 頼むお」

『了解だ』

両拳のグローブが光に包まれた。
ややあって輝きは分離し、それが何度か続き、合計八つの光球をブーンの周囲に浮くこととなる。

現界。

光が弾け飛ぶと、そこには別の物体が出現していた。
光の数に対応した八つの拳である。



498: ◆BYUt189CYA :2008/07/23(水) 21:10:11.58 ID:NP7tvWF90
川;゚ -゚)「『OVER ZENITH』の言葉も無しに……」

『元々、あの鍵語はウェポンの音声認識のためだからな。
 ウェポンとは多少異なる私にとっては、術者の覚悟を知るための言葉に過ぎない』

( ^ω^)「ってことは……」

『もう、いちいち問いかける必要はあるまい、ということだ。
 これでも私は、君を高く評価しているつもりでな』

覚悟は既に知れている。
ならば、あとは意志さえ察知出来れば手を貸してくれる。

それはつまり、クレティウスがブーンを認めていることに他ならない。

(;^ω^)「……こんな僕だけどNE」

『謙遜することはないと思うが。
 闘争も何も知らなかった男が、ここまで戦えるのは誇っていい。
 なかなか出来ることではない』

( ^ω^)「おっおっ」

『私はかつて君のような、一般人から戦いの世界に巻き込まれた女を知っている。
 彼女も君と同じように戦おうとして……しかし、自分の無力さを嘆いていた。
 だから、そうやって戦えること自体が稀有なんだ』



508: ◆BYUt189CYA :2008/07/23(水) 21:11:41.63 ID:NP7tvWF90
クレティウスが過去を語るなど珍しい。

珍しいだけに、ブーンは少しばかり嫌な予感を心の中に思った。
この戦いが終わったら二度と会えないような、そんな予感だった。

振り払うように首を振る。
今は、今だけは後ろ向きな考えに引っ張られるわけにはいかない。

( ^ω^)「……うっしゃ! いっちょやったるかお!」

『あぁ』

川;゚ -゚)「内藤、本当に良いのか?」

( ^ω^)「お?」


川;゚ -゚)「その……君の限界突破に私の拳も組み込むなど……」



514: ◆BYUt189CYA :2008/07/23(水) 21:12:49.65 ID:NP7tvWF90
ブーンの提案とは、このことだった。

クレティウスが操作する八つの拳と、ブーンの拳、合計九つの拳を一つにまとめて放つのが彼の限界突破なわけだが
ここにクーの拳も一つ追加して、拳の数を十に増やそう、という内容である。

川;゚ -゚)「君も知る通り、私のハンレに限界突破が使えないんだ。
     加えるとしてもノーマルの……いや、その劣化した拳を加えることになる」

それでも良いのか、とクーの視線が問うていた。
だからブーンは迷いなく頷き、

( ^ω^)「たとえ劣化だとしても、その拳は正真正銘クーの拳だお?」

川 ゚ -゚)「……!」

( ^ω^)「それが事実であるなら僕は何でもいいお。
      大切なのは攻撃力とかじゃなくて……君と一緒に、同じ位置で立ち向かうことだから」

あ、と付け加え

( ^ω^)「もちろんクーが一緒に来てくれるだけで
      僕のやる気もアップして、自動的に攻撃力が一・五倍くらいになるお!
      だから、一緒に!」



526: ◆BYUt189CYA :2008/07/23(水) 21:13:59.01 ID:NP7tvWF90
右手を差し出すブーン。
限界突破モードの手甲に包まれた手は、戦いによって傷だらけだ。
それを見ながら、クーは浅く眉を歪めた表情で思う。

……この傷は、私が刻んだようなものだ。

ブーンを巻き込んだのは自分。
その後の戦いも彼の意志で戦ったとはいえ、責任を感じないわけがない。
責任を誇示する気はまったくないが、しかし果たさねばならない、とも思っている。
だから自分はこの手を握るべきなのだ、と心が言っていた。

川 ゚ -゚)「…………」

( ^ω^) ハヤクハヤクー

川 ゚ -゚)(しかし……何故だろうな)

新たに不思議な感情が心に浮かんでいた。


――責任だとかそういう理屈無しに、この手を握りたい、と。


これこそが自分の本当の感情だということに気付くのは直後で。
苦笑を浮かべそうになるのを我慢しながら、クーは自然とブーンの手をとっていた。



536: ◆BYUt189CYA :2008/07/23(水) 21:15:03.40 ID:NP7tvWF90
川 ゚ -゚)「こんな私でも役に立つのなら。
     そして君と一緒に一つのことを成し遂げられるのなら、これ以上の喜びはない」

( ^ω^)「僕もだお!」

言った二人は、同時に前を見た。
ハインを食い殺すために進軍するケーニッヒ・フェンリルを。
未だ、誰かが戦っている戦場の最前線を。

川 ゚ -゚)「雑魚はどうするつもりだ?」

( ^ω^)「……強行突破するお」

川 ゚ -゚)「解った」

そうするしかないだろう。
ブーンは四肢内部に展開する符で、クーはギルミルキルで超速の突撃を掛けるつもりだった。

ギルミルキルは言うまでもなく、ブーンの方もロマネスク戦で見せた通り、爆発的な加速を得ることが出来る。
ケーニッヒ・フェンリルを護るように展開している多くの異獣は、その速度にモノを言わせて散らす算段だ。

もちろん危険は多いだろう。
しかし彼とならばどんな障害だろうと――

その時である。
いきなり、二人の背後で音が鳴った。
正体は銃器を鳴らす音で、

「しゃーねぇな。 雑魚の方は俺らが撃ち落としてやるよ」



548: ◆BYUt189CYA :2008/07/23(水) 21:16:05.87 ID:NP7tvWF90
( ^ω^)「!!」

そこにいたのは混合軍の兵士だ。
最終防衛ラインを護らんと、ブーンとクーについて来た者達である。

「何か役に立ちたいからな」
「せめてあのフラフラ飛んでる雑魚共は俺達にくれよ」
「君達は、ケーニッヒ・フェンリルの土手っ腹へ拳をブチ込むことだけに集中してください」

川 ゚ -゚)「皆……」

「勝利の女神のエスコート。 最高じゃないすか」
「ヒモ付きなのがアレだがな」
「内藤は自力で何とかしろ」

(;^ω^)「うえぇぇぇぇぇぇ!?」

ブーンの声に、冗談だよ、と皆が笑った。
しかしその表情もすぐに引き締まり、

「だから、頼むぜ。
 その拳はお前らのモノだけじゃねぇ……死んじまった奴も含めて俺達全員の意思を乗せた拳なんだ。
 キッチリカッチリ全て籠めて殴ってきてくれよ」

無骨な男の手がブーンの肩を思い切り叩いた。
その音と衝撃と微かな痛みは、確実に心に刻まれる。



567: ◆BYUt189CYA :2008/07/23(水) 21:17:45.37 ID:NP7tvWF90
( ^ω^)「……解りましたお。 絶対に果たしますお」

川 ゚ -゚)「ありがとう」

構える。
今度は二人ではなく、数十の人の群れとして。
背後で皆が銃口を持ち上げる音が鳴り、応じるようにブーンは前方を見た。


……己の拳で穿つべき敵を。


背中に熱を感じた気がした。
戦いに疲労した兵達の血が滾る体温だ。
それが、とても心強い。

今から強大な障害へ挑むというのに、不思議と大きな不安はなかった。

川#゚ -゚)「GET SET――!」

クーの言葉に、ブーンは腰の重心を下げていった。
視線は前を見たまま上半身を傾け、膝を折り、踵を僅かに浮かせる。

隣の気配を耳で感じてみれば、クーが足に透明色のブーツを纏っていくのが解った。



580: ◆BYUt189CYA :2008/07/23(水) 21:19:20.65 ID:NP7tvWF90
瞬間、銃口が光を噴く。

ブーンとクーの背後から撃ち出された弾丸の群れは、一直線にケーニッヒ・フェンリル目掛けて飛んだ。
滞空時間はほんの数秒で、次の瞬間、着弾の音が遅れて聞こえてくる。

「今だ! 行けよ希望の護り手ッ!!」


川#゚ -゚)「「ッ!!」」(^ω^#)


言葉に押されるように地を蹴った。
足の内部で力が発動し、膨らむような感覚と焼けるような痛みが来る。
しかしこれこそがブーンの身を高速で飛ばすための代償であった。

撃音一つ立て、ブーンの身体が爆発的な速度を得る。

視界が一瞬で背後へ。
壁のような厚みのある大気に顔をしかめ、しかし前を目指した。

隣にはクーがいる。
ブーンと同じように身を前へ倒し、コートをはためかせながら高速で跳躍していた。
その両足には透明色のブーツがあり、彼女もまた音速超過の勢いに乗っていることが解る。

彼女はブーンの視線に気付くと、高速で流れる景色の中、強く頷いた。



590: ◆BYUt189CYA :2008/07/23(水) 21:20:25.96 ID:NP7tvWF90
( `ω´)「――ッ……!!」

風が強い。
音が聞こえない。

ただ、あるのは速度だけだ。

前方。
巨獣を護るように展開していた異獣の一部が崩れている。
先に放った一斉射撃のおかげだ。
このまま一直線に突っ込めば、渾身の拳をブチ込むことが出来るだろう。


しかし、先んじた動きがあった。


開いた穴を埋めるように異獣が集ってくる。
血のように赤い眼は、既にブーン達を捉えていた。



599: ◆BYUt189CYA :2008/07/23(水) 21:21:26.97 ID:NP7tvWF90
タイミングはギリギリか。

いや、僅かに足りない。
音速超過の速度で向かっているとはいえ、少しばかり距離が開き過ぎていたようだ。

そして何より、異獣の統率力を甘く見ていたのが、この状況を作り出していた。

このままではまずい。
獣の群れの中に突っ込んでしまう。

(;^ω^)(くっ……!)

川;゚ -゚)(どうにもならんか……!)

迷う時間も隙もなかった。

もはや止められない速度の中、二人は危険地帯へ跳び込んでしまう。



611: ◆BYUt189CYA :2008/07/23(水) 21:22:37.41 ID:NP7tvWF90
風が途切れ、入れ替わるように生暖かい空気が二人を包む。

そこは地獄だった。
三百六十度、全てを獣が覆うという光景。
天の光は全て敵、と言った状態である。

血走った眼はこちらを睨み、羽ばたき一つで跳びかかれる姿勢を作っていた。

ほんの数秒後、おそらく自分達は八つ裂きにされた後で食べられてしまうだろう。
未だ宙にいる以上、ここから逃げることなど出来はしない。

(;^ω^)「クーっ!!」

咄嗟に叫び、右手を出していた。
素早く反応したクーは、左手でそれを力強く掴む。

(;^ω^)(せめてクーだけは……っ!)

川;゚ -゚)「な、内藤!?」

手繰り寄せ、抱き締めた。

川;゚ -゚)「止めろ! それでは君が――!?」

クーが暴れるのを力で抑えつける。
何か必死に叫んでいるが、ブーンの耳には入らなかった。



620: ◆BYUt189CYA :2008/07/23(水) 21:24:12.34 ID:NP7tvWF90
(;^ω^)(どっちにしろ、このままじゃ二人とも死んじゃうお!
     何か手が……)

その時、視界に入ったのはクレティウスだ。
限界突破時だと、ある程度の自律行動を行えることを思い出し、

(;^ω^)(クレティウス! クーだけでもここから連れて逃がしてくれお!!)

『…………』

何故か反応がない。
未だグローブが現界していることから意識があり、そしてこの声も届いているはずなのだが。

(;^ω^)「聞いてんのかお!? クレティウス!!」

『内藤ホライゾン』

(;^ω^)「!?」


『――危険に飛び込んだ以上、君が見て良いのは前だけのはずだ』


え、という疑問を放つ前に音が来る。

直後。
連続した光の帯が、異獣の群れを真横から串刺しにした。



642: ◆BYUt189CYA :2008/07/23(水) 21:27:23.92 ID:NP7tvWF90
串刺しの正体は槍に見え、しかし異なる。

最終防衛ラインから来る援護砲撃だ。
間髪入れず連射される威力の光が、ブーンとクーの周りにいる獣を砕いていく。

(;^ω^)「こ、れは……!」

『仲間を信じるのが仲間だろう。
 ならば彼らを信じ、君は目的を果たすべきだ』

それが、と言い

『彼らに対する最大の返礼となる』

(#^ω^)「……ッ! クー!!」

川#゚ -゚)「あぁ、解っている!」

思うと同時に身体が動いていた。
抱き締めていたクーの身体を開放し、右手と左手を繋げた状態で四肢を広げる。

初速に乗じて風に乗るように飛んだ。



680: ◆BYUt189CYA :2008/07/23(水) 21:32:25.65 ID:NP7tvWF90
(#^ω^)「もっと接近するんだお!!」

川#゚ -゚)「ならば敵は――」

二人で同時に頷き、


川#゚ -゚)「「――彼らを信じて任せる!!」」(^ω^#)


返答のように射線が増えた。
ガトリングの勢いで来る光の弾は、ブーン達を捉えようとする獣の身体を乱打する。

周囲はまた別の意味で地獄だ。
獣が吠え、光が貫き、血が溢れ、連射音が謳う。

未だにブーンとクーが無事でいられるのが、奇跡だと思ってしまうほどだ。

(#^ω^)(怖くない怖くない怖くない怖くない怖くない怖くない!!!)

心に強く念じたブーンは、右手を強く握る。
すると、クーも同じように左手を握り締めてきた。

『内藤ホライゾン! 近いぞ!』

クレティウスの声に前を見る。
あまりに巨大な獣の眼が、こちらを睨んでいた。



692: ◆BYUt189CYA :2008/07/23(水) 21:34:51.00 ID:NP7tvWF90
ぞく、と悪寒が全身を貫いたが、

(#^ω^)「怖くないって……言ってんだおおおおおおおおッ!!」

余った左手で額を殴り、震えかけた身体を強制的に初期化した。

川#゚ -゚)「行くぞ、内藤! タイミングを合わせろ!」

(#^ω^)「合点承知!!」

二人が同時に動いた。

握手するように組まれた手を一旦解き、再び繋ぐ。
手の平同士を合わせ、その五指を絡ませるように、互いの手を包み込むように。

その組んだ手を上げる。
拳が見る先には、巨大すぎるケーニッヒ・フェンリルの顔があった。
穿つべき敵を確認し、やはり同時というタイミングで腕を引く。

打突の構えだ。

しかも両手を絡ませ、組んだまま。



709: ◆BYUt189CYA :2008/07/23(水) 21:38:37.39 ID:NP7tvWF90
(#^ω^)「クレティウス!!」

『座標固定……「Octet +」を確定する。
 あとは打ち出すだけだ』

八つの拳が、二人で作った一つの拳の周囲に集った。
リボルヴの軌道を描きながら回転を開始し、やがては高速の域に達する。

金属同士を強く擦るような、ぎ、という音が連続で、火花を散らしながら響き始めた。


川#゚ -゚)「この一撃に思いを全て……!」

(#^ω^)「籠めて穿つっ!!」


既に身体の引きは限界。
軋みを挙げる筋を更に引き締め、歯を食いしばった。

頬が振れそうなほど顔を近づけた二人は、余った方の手を前方へ突き出し、


川#゚ -゚)「「――『Fist Octet ++』!!」」(^ω^#)



725: ◆BYUt189CYA :2008/07/23(水) 21:41:54.70 ID:NP7tvWF90


――フィスト オクテット ダブルプラス。


合計十もの拳が、爆発的な力を速度に乗せて打ち出された。


《ッッッ!!!?》


肉を穿つ感触。
骨を砕く音。
獣の悲鳴。

三連もの感触を得ながら、二人は更に拳を押し進めた。


川#゚ -゚)「「うぁぁぁぁぁぁぁあああああああッ!!!」」(^ω^#)


思いの力が、更に力を呼ぶ。



ケーニッヒ・フェンリルの上半身が見事に浮いたのは、直後だった。



735: ◆BYUt189CYA :2008/07/23(水) 21:43:28.71 ID:NP7tvWF90
その時、全ての要素が繋がった。


機械世界の、
英雄世界の、
魔法世界の、
不滅世界の、


戦いに参加する人々の『生きる』という意志が、音立てて連結する。


総力戦に始まり、
四方戦に繋がり、
結界を破壊し、
追い詰め、
仲間を信じ、


そして、今も少女のために時間を稼いでいる。


過去から、
現在を、
未来のために、


ここに至るまでに得て、失ったモノを否定させないために。



743: ◆BYUt189CYA :2008/07/23(水) 21:44:35.88 ID:NP7tvWF90
思いが、遺志が、時間が、力が、その全てを一本の線へと化す。

その先にいるのは

从 -∀从「――――」

『最強』たるハインリッヒ。
彼女をサポートする15th-W『アゲンストガード』。
そして、各世界の技術を集結して作り上げた切り札『龍砲』。

異獣という敵対存在を倒すためだけに生まれた『希望』の具現である。

三要素は既に一つの兵器と化していた。
アゲンストガードを纏い、一回り大きくなった『龍砲』が唸りを上げる。

普通ならば自壊するほどに異常な量の魔力は、しかしアゲンストガードによって保たれていた。

しかし動力部は更に不安定な状態だ。
何せ、四世界それぞれに在る純正ルイル核を積んでいるのだから。

しかもそれを強制的に活性化させているとなれば、この危うさは説明せずとも理解出来ることだろう。



754: ◆BYUt189CYA :2008/07/23(水) 21:46:02.62 ID:NP7tvWF90
从 ゚∀从「――……」

前方から聞こえる戦いの音は、既に止みかけようとしていた。
ハインの準備が完了し、充分な時間稼ぎが出来ている以上、これより先の妨害に意味は薄い。

ほぼ全ての妨害を失ったケーニッヒ・フェンリルが、足を引き摺りながらもこちらを目指して歩いている。
取り巻きである小さな異獣の数は随分と減っていた。
あれは、限界を超えてまで戦った者達の確かな成果だろう。

そんな光景を見ていると、彼らの声が聞こえてきそうだった。


あとは任せた、と。


从 ゚∀从「……任せてください。
      皆さんが繋いできた全てを、僕が責任を持って紡いでみせます」

視線を落とす。
アゲンストガードが形作った小さなウインドウが視界に入った。

画面には大きく数字が表示されており、『97%』と記されている。



773: ◆BYUt189CYA :2008/07/23(水) 21:47:37.81 ID:NP7tvWF90
確認したハインは再び前を見た。
ケーニッヒ・フェンリルの進行速度と距離を吟味し、

从 ゚∀从(余裕で間に合いますね……皆さんが頑張ってくれたおかげです)

あとはパーセンテージが百を超えた時、手元にある引き金を引くだけだ。
『龍砲』は莫大な魔力を編み上げた砲撃を放ち、ケーニッヒ・フェンリルを穿つだろう。
それで倒せるかは解らないが、かなりの痛手を与えることは確かだ。

封入されていながらも感じる圧倒的な密度の魔力。
こんなものに耐えられる存在など、ハインにはまったく想像することが出来なかった。

从 ゚∀从「……!」

数字が一つ追加され、『98%』の表示に切り替わった。
刻一刻と近付く決着の時を予感し、ハインが思わず身震いをした時。

( ・∀・)「む」

と、モララーが小さく呟いた。
疑問というよりも警戒の色が濃い。
周囲、未だ残存する異獣を倒す戦いが続いているため、その声が聞こえたのはハインと一部の人間だけだ。

从 ゚∀从「!」

数拍遅れて気付く。
ケーニッヒ・フェンリルに微かな異変があるのを。



782: ◆BYUt189CYA :2008/07/23(水) 21:48:42.60 ID:NP7tvWF90
それは震えだ。
足を止め、毛を逆立てて震えている。

威嚇するような動きは、先ほどのように身から獣を生む動作に似ていた。

しかし距離から考えれば意味は薄い。
獣を生み出したとしてもこれだけ離れていれば、襲われる前に砲撃準備を終えることが出来る。
むしろ足を止めたのは間違いだろう。

从;゚∀从(ですが……)

果たして本当に問題ないのだろうか。
仮にも最強生物を名乗れる異獣の王が、誰にでも無駄だと解る行動を選ぶだろうか。
ハインの懸念は他の者達も同様らしく、

( ・∀・)「……手が空いている者はハイン君を護るような配置に。
     それと、誰かジェイル君を呼び戻してくれ」

爪゚ -゚)「既に戻っていますが」

( ・∀・)「おや、流石だね。
     貞子君との決着はついたかな?」

爪゚ -゚)「いえ……悔しいですが彼女は強いです。 私と同じくらいに。
    異獣討伐数もさほど変わりなく、また再戦の機会を設けて頂ければ嬉しく思います」

( ・∀・)「考えておこうか」



788: ◆BYUt189CYA :2008/07/23(水) 21:50:08.55 ID:NP7tvWF90
最前線に出向いたジェイルの無事に、ハインは安堵の吐息。

そこでパーセンテージが『99%』を刻む。
濃い決着の予感が、ハインの身体を緊張させていった。

正面、未だケーニッヒ・フェンリルは足を止めている。
遠吠えに似た格好を維持したまま、首から上を天へ向けた形だ。
胸部や腹部はこちらに晒された状態で、

だが、ハインは見る。

上を向いたケーニッヒ・フェンリルの口から、陽炎のように揺れる光が漏れているのを。

从;゚∀从「あれは……」

どくん、と心臓が蠢いた。
無理に押し出された血流が四肢に流れ、微かな息苦しさをハインへ与える。
距離的にも、時間的にも何も問題などないはずなのに、その光景を見た瞬間から焦りが止まらなかった。


……まさか。


あの距離からの攻撃手段があるのか。
ただ噛みついたり、他の異獣を生み出す以外の力を持っていたのか。



794: ◆BYUt189CYA :2008/07/23(水) 21:51:17.61 ID:NP7tvWF90
ウインドウの表示は未だ『99%』。
これが百に到達するには、残り三十秒ほど掛かると予測される。

三十秒。
今のハインにとって、これ以上長く感じる時間はないだろう。
背を伝う冷たい汗を感じつつ、不気味に動きを止めたケーニッヒ・フェンリルを注意深く睨む。
そして

从;゚∀从(……来る!?)

ぞくり、と悪寒が全身を貫いた時。


《――――ギュアァァァァァァァアアアアアアア!!》


身の毛も弥立つ咆哮と共に、ケーニッヒ・フェンリルが首を逸らし、そして前へ振った。
すると口内にあった光の塊が、首を振る勢いによって前へと投げ出される。

塊は、青白い吐瀉物のような半固体の形を持っていた。

放物線を描いて飛ぶ光。
正体を、ハインは敏感に感じ取った。

从;゚∀从「あれは魔力……!? いえ、魔力そのものですか!?」



805: ◆BYUt189CYA :2008/07/23(水) 21:52:31.79 ID:NP7tvWF90
何故、という疑問が最初に出た。
何故今になって、あんな原始的な方法を選んだのか、と。

時間的余裕がないことを察したのだろうか。
まともな遠距離攻撃の手段を持たないケーニッヒ・フェンリルにとって、おそらく咄嗟に出た攻撃に違いない。

しかし、ただの魔力なら恐れることはない。
特に強い魔力耐性を持つハインリッヒなら、あの程度の量の魔力を頭から被っても被害は少ないだろう。

从;゚∀从(あれ? でも、これってもしかして……!?)

ハインは気付く。
今自分がいる場所についてだ。
その事実を確認したハインは、異獣の企みに戦慄した。

狙いがハインということは、彼女が乗る『龍砲』もその範囲内だ。
高密度の魔力が循環している『龍砲』に、あんな魔力の塊が降り注いだらどうなるか。

从;゚∀从「……!!?」

燃え盛る炎に油をぶっかけるようなものだ。
エネルギーが暴走し、周囲一帯は粉微塵に消えてなくなるだろう。

いや、原子の一つすら残さぬ無の空間が出来上がるに違いない。



816: ◆BYUt189CYA :2008/07/23(水) 21:53:49.76 ID:NP7tvWF90
( ・∀・)「ジェイル君!」

爪゚ -゚)「了解です」

最初に反応出来たのはモララーだ。
ハインと同じ考えに至ったのかは解らないが、危険と判断したのだろう。
そして、その声よりも先に行動を開始していたジェイルが、ランスを持って前へと出る。

構え、突き出した。

槍の先端が展開し、一つの砲口を作り出す。
ランスに内蔵された魔力が暗い穴の中に集い、そして力を描いた。
一瞬の空白の後、砲からレーザーに似た光の帯が噴出する。

しかし、

爪゚ -゚)「!?」

( ・∀・)「効いていない……いや、吸収されたのか!?」

放物線の頂点に差しかかった魔力塊は、ジェイルの砲撃を受けてほんの少し巨大化していた。

从;・∀・ノ!リ「アレは魔粒子の塊ぞ!
        生半可な魔力攻撃では意味がない!」



829: ◆BYUt189CYA :2008/07/23(水) 21:55:10.82 ID:NP7tvWF90
lw´‐ _‐ノv「いけない……こっちに来る」

頂点を超えた魔力塊が斜め下に下る軌道で、ハインの方へ向かってきていた。
このままでは『龍砲』が破壊されるどころか、本陣自体が消えてしまう。
アゲンストガードを人型に戻して対処することも考えたが、
『龍砲』を包み込む形に変形しているため、元に戻るには若干の時間が必要だった。

从;゚∀从「くっ……イチかバチか……!」

立ち上がり、右の袖を捲った。
包帯に包まれた右腕には、未だ15th-W『ラークレイング』の細胞が少し残っている。
これを稼働させて、何とかあの塊を退けるしかない。

しかし、その直前に跳躍する影があった。

川 -川「――ハインリッヒ、貴女は『龍砲』の発射を」

从;゚∀从「!?」

貞子だ。
武器も何も持たずに、落ちてくる塊とハインの間に割り込む。
四肢を広げ、まるでハインを守る壁になるように構え、

川 -川「護ります……!」

両手から発生した力場で塊を抑えた時。


――無情にも、アゲンストガードが示すウインドウに『100%』の表示が刻まれた。



842: ◆BYUt189CYA :2008/07/23(水) 21:56:19.47 ID:NP7tvWF90
貞子の行なった行為は簡単なものだ。

両手に仕込んだ魔法機構を用いて特殊な重力力場を生成。
その力場で魔力塊を包み込んだのだ。

川 -川(しかし……)

魔力塊は半固形。
その形は、外部からの力によって複雑に歪む。
単純な座標指定ではなく、力場生成タイプのため、


……長くは保たない。


やがては力場に限界が生じ、消滅する。
動きを止められていた塊は、先ほどの続きを再生することで『龍砲』へ落ちるだろう。

その前に何とかしなければならない。



854: ◆BYUt189CYA :2008/07/23(水) 21:57:08.57 ID:NP7tvWF90
だから、貞子は後ろを見て、

川 -川「ハインリッヒ! 撃ちなさい!!」

从;゚∀从「……!」

貞子らしからぬ鋭い声に、ハインはコンソールを素早く叩いた。
そして表示されたウインドウを見ながら引き金に手を伸ばし、しかしその腕が止まる。

从;゚∀从「だ、駄目です……撃てません!」

何故なら、


从;゚∀从「効果範囲内に貞子さんが……!!」


爪゚ -゚)「!」

(;><)「そ、そんな!」

射線上ギリギリに貞子が入ってしまっていた。
このまま発射してしまえば、超高密度の魔力が貞子の身を食い殺してしまう。

如何に貞子という機械人形が強力であろうとも、ケーニッヒ・フェンリルすら倒しかねない『龍砲』の一撃に適うわけがない。



867: ◆BYUt189CYA :2008/07/23(水) 21:58:41.65 ID:NP7tvWF90
从;゚∀从「貞子さん! そこから退いて下さい!!」

しかし貞子は首を振る。
力場の維持に全機能を集中させているのだ。

ここから動こうとすれば、即ち魔力塊のホールドを解除することになる。

だから、動くわけにはいかない。

川 -川「構いません。
     私もろとも、異獣を撃ちなさい」

从;゚∀从「で、出来るわけないじゃないですか!
      僕は異獣を倒すために……決して貴女を殺すためにここまで来たわけじゃ――」


川 -川「――聞き分けなさい!!」


从;゚∀从「!!?」



895: ◆BYUt189CYA :2008/07/23(水) 22:02:18.34 ID:NP7tvWF90
川 -川「貴女は『最強』なのです!
     そう作られた存在! ならば己が使命を果たしなさい!!」

从;゚∀从「い、嫌です!
      僕は貞子さんを殺すためにここまで来たわけじゃありません!
      僕の力は――」

視界が滲む。
息を、ひ、と音立てて吸い、


从 ;∀从「僕の力は、人の敵を倒すためなんですよぉ……?」


川 -川「…………」

システムエラー。
限界を超えた衝撃が、貞子の身体を蝕んでいく。
オーバーヒートして熱を持った機構が、他の部品まで溶かし始めた。


……時間が、ない。



938: ◆BYUt189CYA :2008/07/23(水) 22:07:57.17 ID:NP7tvWF90
从 ;∀从「ここまで来て仲間を殺すなんて……っ、僕には出来ません……!」

川 -川「ならば、ならばそれで全世界の人が死んでも良いのですか!?
     私という命すら持たぬ機械人形のために、人が死んでも良いのですか!?」

从 ;∀从「うぅ……うぅぅぅぅ……!」

ハインの心で葛藤が暴れ回っていた。

理屈では解る。
貞子一人よりも、全世界の方が重いに決まっている。
いくら綺麗事を言っても、こればかりは事実だ。

でも、

从 ;∀从「なんで……何故、今なんですかぁぁぁ!!」

川 -川「早く……撃って……!」

駄目だ。
限界が目前だと解る。
既に四肢の感覚はなく、全身のフレームが歪み始めていた。

死を目前にして、貞子に一つの感情が浮かぶ。
溶けかかった思考能力と最後の力を振り絞り、貞子は心に得た言葉を紡いだ。

川 -川「ハイン、リッヒ…・・貴女は……私の、希望でも、あるのです」

从 ;∀从「!?」



971: ◆BYUt189CYA :2008/07/23(水) 22:10:51.91 ID:NP7tvWF90
川 -川「我がマスター、の、手によって生まれ……」

軋む。

川 -川「我がマス、ターの希望を、受け継ぎ……」

軋んでいく。

川 -川「我が、マスターの、子供とも言える、貴女は――」

一息。
しようと思ったが、既に疑似呼吸器管は死んでいた。
だから、貞子は深く頷き、

川 -川「同じ、生まれで、あり、ながら……破壊、しか呼べぬ、私の――」



――希望でもあるのです。



最後の言葉は声にならない。
しかし、確実に伝わったはずだ。


ハインの目に、僅かな光が灯っていたから。



55: ◆BYUt189CYA :2008/07/23(水) 22:17:25.90 ID:NP7tvWF90
从 ;∀从「僕は……僕は……!!」

異獣を討つための存在。
生まれた時から、いや、生まれる前から決められていた運命。


果たすべきは今。


たとえ、

川 -川(誰かの死を得ようとも――)

突き進まねばならない。
それが兵器としての宿命だ。

誰かの悲しみも、怒りも、喜びも踏みにじり、目的を完遂する。

残酷な宿命だ。
まだ幼いハインにとっては、重過ぎる部分があるだろう。
しかし、と思う。


川 -川(私の――wwヘ√レvv――死で、終わ――wwヘ√レvv――なら。
     それは、ハインリッヒを、護った――wwヘ√レvv――ことに、なります、か……?)


……もう、どの世界にもいないマスターよ。



86: ◆BYUt189CYA :2008/07/23(水) 22:21:26.05 ID:NP7tvWF90
从 Д从「う、うぁ……あぁぁ……!!」

川 -川(あぁ――wwヘ√レvv――やはり――)

身体が崩れるのを感じながら、貞子は最後にハインの姿を見た。
自分の死を悲しみながら嗚咽する姿に、一つ思う。


         从 ー 从


川 ー川(貴女は……母親似です――よ、ハインリッヒ)



从 ;Д从「うわあああああああああああああああああああッ!!!」



悲痛な叫びと同時、『龍砲』が光に包まれ――



――最大の光を以って発射された。



127: ◆BYUt189CYA :2008/07/23(水) 22:26:33.62 ID:NP7tvWF90
強烈な光が戦場を包む代わりに、全ての音が消えた。


龍の砲から放たれた光は、白という色で迸る。


大地を、大気を、音を削りながら一直線に。
その先には、ハインリッヒの敵がいた。

《グ――――》

ケーニッヒ・フェンリル。
異獣の王にして、全ての元凶。

巨獣は向かい来る光に対し、防御の構えを取った。
直後、


白光が、硝子を砕くような音を以って、ケーニッヒ・フェンリルを貫通した。



163: ◆BYUt189CYA :2008/07/23(水) 22:32:12.46 ID:NP7tvWF90
《グァ――》

更に、深く。

《――ギュアァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!?》

一気に行く。
ケーニッヒ・フェンリルの、強靭な肉体が穿たれる。

身体に溢れる魔力でどうにかしようともがくが、
それよりも強い光が阻止し、更に貫通した穴を広げていった。

《グルァァァォォォオオオオオオ!!》

それでも抗おうと身体を捻る。
『龍砲』の光から逃れるように、だ。

しかし逃げられない。
既に捉えた光が更に太くなり、巨獣の身体を削っていくのだ。
もはや止めることも、逃げることも出来なくなったケーニッヒ・フェンリルは、


《――――アアアアアァァァアァァァァァ……――――》


確かにハインリッヒを見ながら、その身を消滅させていく。

空に、断末魔の叫びと、魔力の光が散っていった。



204: ◆BYUt189CYA :2008/07/23(水) 22:36:45.03 ID:NP7tvWF90
<_プー゚)フ「――で、これがそうだってのかよ?」

戦いが終わった戦場。
全ての異獣を撃破した面々は、ケーニッヒ・フェンリイルが消滅した場所に集まっていた。

( ・∀・)「らしいね……魔力を限界まで削られたからだろうか」

人々はドーナツ状に集まっている。
内側にはブーンやクーといった、主要メンバーが揃っていた。
彼らが円を作って見ているのは、


《――――ゥ―――ァァ―――――》


一メートル。
いや、五十センチにも満たないほどに小さくなってしまった異獣だ。

(;^ω^)「これが……異獣の正体なのかお?」

川 ゚ -゚)「…………」

( ´_ゝ`)「俺の理論は正しかったようだな」

皆、驚いている。
あれだけ巨大で強大だった獣が、
見るも無残な姿になってしまっているのだから。



254: ◆BYUt189CYA :2008/07/23(水) 22:41:45.53 ID:NP7tvWF90
('、`*川「こんな奴に、今まで私達は苦戦してたわけ?
     なんか納得いかないわねぇ」

(`・ω・´)「……全ての元凶、か」

<ヽ`∀´>「…………」

(,,゚Д゚)「…………」

口々に言い、それぞれの思惑を込めた視線が集中する。

(メ゚∀゚)「んで、これどーすんだ?
     まさか持って帰るわけでもねぇーだろうし」

( ・∀・)「本当なら色々と分析やら解析やらしてみたいところなのだがね。
     まぁ、誰も許してくれないだろう?」

「「「当然だ馬鹿!!」」」

いくら手足の一本すら動かせない状態にあろうとも、
たとえば魔力を与えてしまえば、おそらくだが復活するはずだ。

そんな危険な存在を、この世界に許しておくわけにはいかない。

( ^ω^)「でも、どうやって……」


『――私に任せてもらっても良いだろうか』



289: ◆BYUt189CYA :2008/07/23(水) 22:46:40.60 ID:NP7tvWF90
意見をよこしたのはクレティウスだった。
指輪状態に戻っている彼は、震えを起こして自分の存在をアピールする。

ある意味、こうなるだろうと予想していたブーンは
握っていた拳を開き、その上に白色の指輪を乗せることで応えた。

川 ゚ -゚)「お前なら何とか出来るのか?」

『あぁ』

(´<_` )「別に疑うわけじゃないが……大丈夫なのだろうか」

从・∀・ノ!リ「おぬしと異獣。 決して無関係ではないのだろう?
       そんな存在が死にかけの異獣に入っても、無問題なのかのぅ」

確かにそうだ。
魔力を内蔵しているクレティウスが異獣に入った場合、
何が起こるかまったく想像出来ない。

『…………』

(;^ω^)「あ、あの!」

沈黙に耐え切れず、ブーンが声を発した。
視線が集中するのを感じながら、

(;^ω^)「……クレティウスを信じてあげてほしいんですお!」



325: ◆BYUt189CYA :2008/07/23(水) 22:50:04.74 ID:NP7tvWF90
『内藤ホライゾン……』

(;^ω^)「クレティウスは、最初の戦いから僕をずっと守ってくれたお!
     一緒に戦って、力を貸してくれて……ええと、ええっと……」

胸に手を当て、一息。


( ^ω^)「……彼も僕達の仲間だと思うんだお!」


言えた。
今まで言っておきたかったことだ。
たとえ秘密にしていることがあったとしても、それまでの戦いは決して偽物なんかじゃない。

クレティウスがブーンに力を貸してくれたのは、疑いようのない事実なのだ。
だから、ブーンは絶対的な信頼で応えようとした。

『…………』



353: ◆BYUt189CYA :2008/07/23(水) 22:53:36.89 ID:NP7tvWF90
沈黙が訪れる。
皆の視線がブーンとクレティウスに集中していた。

試されるような視線に、身をよじらせて抵抗してみる。

( ・∀・)「ふむ」

するとモララーが一歩前に出た。
周囲を見渡すように両手を仰ぎ

( ・∀・)「……だ、そうだが?
     皆の意見も聞いておこうか」

問われた皆は顔を見合わせた。
少し言葉を交わし、うん、と頷き、再びブーンを見て、


「「ま、内藤が言うならいいんじゃね?」」


と、案外軽い調子でブーンの望む返事を寄越した。



408: ◆BYUt189CYA :2008/07/23(水) 22:59:13.24 ID:NP7tvWF90
(;^ω^)「い、いいんですかお!?」

思わず問いかける。
おかしな慌てように、皆が苦笑し、

(,,゚Д゚)「アイツと一番長く付き合ってきたのはお前だろう。
    お前以外の誰の意見を信じろ、と言うのだ」

(´・ω・`)「だよねぇ」

ノハ#゚  ゚)「私は新参者だけど……彼とクレティウスの絆の強さは解るよ?」

*(‘‘)*「自分の武器を信じるのは普通ですよ」

川 ゚ -゚)「まったくだ」

(*‘ω‘ *)「ぽっぽとぽやがれ!!」

(;^ω^)「おぉ……皆が神に見えるお……!」

今更ながら、皆の信頼にブーンは胸が熱くなった。
クレティウスを信じる自分を信じてくれるなんて、半ば諦めかけていたというのに。
そして軽く半泣きになりかけるブーンに、

『――ありがとう、内藤ホライゾン。 そして四世界の者達よ』

と、素気なく感謝の言葉が来る。



453: ◆BYUt189CYA :2008/07/23(水) 23:05:11.91 ID:NP7tvWF90
ブーンの手にある指輪から、光が浮いた。
おそらくこれがクレティウスの本体――というよりも、思念体のようなものなのだろう。
フワフワと浮遊する光は、ブーンの目の前で静止する。

( ^ω^)「クレティウス……」

『今までよく頑張った、と思う。
 あの時の弱かった少年がここまで強くなるとは』

(;^ω^)「そ、それは君のおかげだお!」

『いや、私だけじゃないさ。
 君自身の潜在的な強さがあったから、ここまで一緒に来ることが出来た』

一息入れ、

『……本当に感謝するよ、内藤ホライゾン。
 君が強いおかげで、私は目的を果たすことが出来そうだ』

( ;ω;)「う"……う"ん! 今まであ"りがどうだお!」

『もう二度と会えないと思う。
 けれど、私がいなくても――』

( ;ω;)「わ"、わわ解ってるお"!! 強く生きる"お!!」

『ならば、安心だな』

その時、クレティウスが初めて笑った気がした。



482: ◆BYUt189CYA :2008/07/23(水) 23:09:42.42 ID:NP7tvWF90
光がブーンの傍を離れた。

( ;ω;)「……!」

一瞬、ブーンが足を出しそうになり、しかし踏み止まる。
隣にはクーが寄り添い、その肩を優しく抱いていた。

『…………』

朽ちかけた異獣の上で止まる。
まるで見下ろしているようだ。

彼にも、おそらく異獣に対して何らかの感情があるのだろう。

( ・∀・)「では、その元凶の処理は頼むよ」

『あぁ、任せてくれ。
 もう二度と世界に危害を加えないように、な』

光が落ちる。
葉から落ちる雨雫のようだ。
吸い込まれるように異獣の上に落ちたクレティウスは、


『――さようなら』


と、呆気ない別れの言葉を残して消えた。



503: ◆BYUt189CYA :2008/07/23(水) 23:12:00.39 ID:NP7tvWF90
全てが白い世界がある。


音も、景色も、何もかもが白い。


その中を漂う存在があった。



『…………・』


クレティウス。
8th-Wとして戦いに参加した謎の存在。
最終目的である異獣に到達した彼は、
真白であるはずの世界を、まるで導に従うように真っ直ぐと泳ぎ始めた。

更に深い方へと、沈んでいくように。



537: ◆BYUt189CYA :2008/07/23(水) 23:14:57.95 ID:NP7tvWF90
『全ての……そう、全ての元凶が……』


身体の感覚はあるようで、無いようで。
『泳ぐ』という感覚で泳ぐような、そんな感じだ。

更に行くと、何かをクレティウスの視界が捉えた。


『これは――』


クレティウスと同じ思念体が一つ、転がっていた。
視覚的には『光が一つ浮いている』状態なのだが、彼はすぐさまその中身を感じ取る。


『……違う』


目的の存在ではなかった。
光を捨て置き、クレティウスは更に奥深くへと潜っていく。



565: ◆BYUt189CYA :2008/07/23(水) 23:17:49.98 ID:NP7tvWF90
どこまで潜っただろうか。
道中、何度か光を発見したが、その全てがクレティウスの求めたモノとは異なっていた。

疲労は感じない。
しかし同じ景色を見続けるのは流石に飽きる。
そう思っていた時。


いきなり、クレティウスの周囲を闇が包み込んだ。


『最下層、というわけか。
 ここならばおそらく――』

視覚で周囲を見渡すと、それはすぐに見つかった。


【――――】


『……!』


闇の中でもハッキリと解るほどの黒い光。
クレティウスの視線の先に、それはフラフラと浮遊していた。



609: ◆BYUt189CYA :2008/07/23(水) 23:21:51.57 ID:NP7tvWF90
忘れるはずもない。

この感覚。
全てを狂わせた張本人。

『ッ!』

知覚が認めた瞬間、身体が飛び出していた。
今までに見せたことのない速度で、その黒色の光に近付いていく。

『貴様が……貴様が……!』

何かが聞こえる。
それは黒い光からで、


【か、みみみ、み……殺す……ヒヒ……全て……朽ちろ……我が物と……ヒャハ。
 殺す……強く……食え……秩序、……二十一……種……】


呪いの言葉を吐き続ける黒光。
いつからかは解らないが、おそらく異獣と化した時から狂っていたのだろう。

だが、その惨状を見てもクレティウスは止まらなかった。



650: ◆BYUt189CYA :2008/07/23(水) 23:27:14.57 ID:NP7tvWF90
『たとえ狂っていようとも、報いは受けてもらうぞ……!』

意識で拳を作った。
握りを確かめ、更に速度を重ねていく、

【NNN……ブロス……ゼアフォー……邪気眼……ザンヌ……ヒヒ……】

『貴様が――』

は、と息を吐き

『貴様が俺とツンの……!!
 それだけじゃない!
 母者を! デレを! クーを! ヒートを! 八頭身を! イチを!
 その全てを狂わせて――!!』


最大の恨みを籠めて振り抜く。
拳が黒い光を砕く直前。
クレティウスの口が、とある名前を作っていた。


――『あ』『え』『い』『あ』、と。



直後、全てが、消えた。



707: ◆BYUt189CYA :2008/07/23(水) 23:33:10.25 ID:NP7tvWF90
( ・∀・)「しかし……」

全てが終わった戦場。
皆、怪我人の応急処置や、死体の処理などで忙殺されている。

その都度、的確な指示を出していたモララーは、ふと呟いた。

爪゚ -゚)「如何しましたか?」

( ・∀・)「いや、なかなか休まる時がないな、と思ってね」

(;^ω^)「…………」

川 ゚ -゚)「ふむ」

視線の先、ブーンとクーが空を見上げていた。
赤から元の青へ戻った空は、どうしても懐かしさを感じてしまう。
しかしブーン達が見ているのは、空全体ではなかった。


――今までなかったモノが存在しているのだ。


( ・∀・)「まぁ……予想の範囲内だったがね」

釣られるようにモララーの見上げる。

そこにあったのは――



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