(*゚ー゚)恋われたいようです( ´_ゝ`)
- 6: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/29(金) 00:20:01.23 ID:S/o8LsEd0
- 何を模しているのかよくわからないオブジェの下に誰かがいる。
正確な長方形に囲まれた公園は、今は雨に濡れて一層の暗さを増していた。
(*゚−゚)「……早く来すぎたかなぁ」
くるくると傘を回して暇を持て余す。傘を持つその手は既に冷たい。
ちらりと腕時計を見やると、待ち合わせの時間まであと15秒。
視線をあげると、均等に並べられた鉢植えの中心を彼が歩いていた。
(*゚ー゚)「あ、やっと来た!」
おーいと手を振れば、彼も手をあげてそれに応える。彼女は嬉しくて更に手を振る。
恋愛物ならばここで降りしきる雨が止んでもいいようなものだが、そうはならなかった。
相も変わらず空は灰色のクリームに色に染まり、透明な雫を溢れさせている。
- 7: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/29(金) 00:21:04.52 ID:S/o8LsEd0
恋われたいようです ./1/
- 8: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/29(金) 00:22:47.99 ID:S/o8LsEd0
- −しぃ−
彼はそれでもゆっくりとした足取りで歩いている。
腕時計の示す時間は後10秒、間に合わない。つまり遅刻だ。
遅刻とはいけない事だ。タイムイズマネー時は金なり。どこかの髭が言っていた。
そんな大切な物を可愛い恋人に無駄遣いさせる彼は、私に罵倒されて当然なのだ。
常日頃から彼の悪口を書き溜めていたメモをこっそりと確認した。私の片頬が思わず緩む。
(*゚ー゚)「へへーん遅刻だよ遅刻! ざーんねーんでーしたー!」
腕時計を外して、彼にも見えるよう高々と掲げ勝利宣言!
彼は視力が3.5と似非インディアン並だからこれぐらいはどうと言うこたないのだ!
(*゚ー゚)「んえ?」
目の前まで来た彼がすっと腕をあげて人差し指が何かを指す。
その先には幾何学模様が施されたこの公園の時計。
それは待ち合わせ時間である16時を指している。
そして流れ出す時報の音楽。何かの民謡らしいけど、私は知らない。
- 9: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/29(金) 00:25:08.94 ID:S/o8LsEd0
- (*゚ー゚)「………」
彼は無言で私の隣に立って傘を広げた。
正直ずぶ濡れになったその状態で差した所で意味はあまりない。
( ´_ゝ`)「遅れてはいないよ。君の時計が少し遅れていたんじゃないかな。ちょっと見せて」
そう言って私の手から腕時計を取ろうとするので、私はむきになってそれを振り払い手首に付け直した。
自分なりに怖い顔を作って睨みつける。おうおうナメてんのかあんちゃん。
( ´_ゝ`)「遅れてないのに…」
顔は変わらず無表情だけど、頭上の耳が少し垂れている。
ふふん、少しは反省してるみたいね。
さっきから私は何を突っ掛かっているかと言うと、彼の鈍感さ…あるいは完璧さについてだ。
(いいや、完璧と言う言葉からは程遠いかもしれない)
(*゚ー゚)「そーいう問題じゃないのよ、ごめんなさいしなさい」
( ´_ゝ`)「時間ぴったりでも?」
何せこの男、流石兄者。今まで時間内に遅れた事もなければ早まった事もない。
修学旅行も社会見学もホームルームも昼食も待ち合わせの時間も、全部が全部決めた時間その通りなのだ。
5分前行動? 何それおいしいの? を行動で表している男。ああ気に食わない。
彼の行動は、半径1km以内の人目がある場所で誰かが紐無しバンジーでもしない限り崩せないのだ。
- 10: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/29(金) 00:26:17.71 ID:S/o8LsEd0
- (#゚ー゚)「貴方のそれがイラつくのよ」
( ´_ゝ`)「よくわからないけどごめんなさい」
ちなみに100m走などの身体テストでも男子の平均タイムから外れた事はない。
それが小学校の頃から続いていたらしいのだが誰も不思議に思ってはいないようだ。
いや、そんな小さな事に固執する私がおかしいのか。
いやでも、コンマゼロ秒くらいズレてもいい筈だ。
だって記録係は人間だもの、自分の時間で刻んだっていいじゃない。
その時間が毎回出される男子の平均タイムから0.00もズレないのは異常だ。
これはもう記録係と目の前の男が共謀したとしか思えない。
じゃなくて。
- 11: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/29(金) 00:27:42.04 ID:S/o8LsEd0
- ( ´_ゝ`)「何?」
私はオブジェの段差に上がり、彼と同じ目線で睨みつけた。
それなりの身長差がある所為で、こうでもしないと見下されたままなのだ。
決して、私がチビというわけじゃない。
(*゚ー゚)「このノッポ」
( ´_ゝ`)「うん」
否定しろよ。
(*゚ー゚)「もう少し乙女心ってモンを理解しなさい」
( ´_ゝ`)「ええ…」
少し困ったような顔になる。
(*゚ー゚)「男の子は常に女の子を待つものよ、例えば服の買い物に付き合って荷物持ちをされられて
心底うんざりするのが男の子の役目なのよ、それが恋人を持った男の役目なの、罪なの、罰なの
興味がなくても女の子が『ねぇこの服似合う?』『これ可愛いかな?』って聞いてきたら全力で褒めるの
店内で色っぽいねーとかエロいねとか言って褒めたら駄目よ、相手の知能指数が一桁じゃない限りね
痺れを切らして『マダー?』とか言ったら悪即斬よ、瞬獄殺よ、その場で通報してやるわ」
( ´_ゝ`)「ごめんわからない」
(*゚ー゚)「そういうモンなの、言っても理解できないの。わからないものなの」
( ´_ゝ`)「言ってる事が矛盾してるんだけど…」
- 12: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/29(金) 00:28:50.98 ID:S/o8LsEd0
( ´_ゝ`)「あ、そっか、萌えと同じ感じか」
(;゚ー゚)「何それ?」
想定外の言葉が兄者の口から出て来た。あれ、兄者ってオタクだっけ。
( ´_ゝ`)「友人のアサピーが言ってた。萌えは理解するものじゃなく込み上げるものだって」
それと似てるね。と呟く彼は正解を当てた子供のように嬉しそうだ。
ただし外見上の変化が何もないので、長年付き合った私でも、声のトーンくらいでしかわからないけれど。
(;゚ー゚)「そ、そう…」
私はそれに、曖昧な相槌でしか返せなかった。
( ´_ゝ`)「取り合えず、もう10分経ってるよ、行こう」
(*゚ー゚)「あ、そだね」
そして私を無視して歩き出した兄者の尻に蹴りをくれてやる。
玉を狙わなかったのはせめてもの慈悲だ。精々有り難く思うがいい。
- 13: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/29(金) 00:30:17.93 ID:S/o8LsEd0
- ( ´_ゝ`)「どうして蹴るの…」
中腰になり蹴られた場所を抑えてる彼は、そのリアクションの割にダメージがあまりなさそうだ。
いっそピンヒールで蹴ればよかっただろうか。しかしその格好うんこ我慢してる人みたい。
(*゚ー゚)「乙女心を理解しなさい」
( ´_ゝ`)「………」
ふん。だんまりか。
(*゚ー゚)「こーいう時はねー? 男の子は女の子と手を繋いで先導させてあげるものなの
でもあんまり強く握ったり、勢いよく引っ張ったら駄目よ、女の子が痛がるから
ちなみに向こう側から人が来てフェイント合戦になるとかデート中は論外だから」
( ´_ゝ`)「両手は空いてないよ?」
そう言って彼は左手のトートバッグと右手の傘を差し出した。
ええい貴様、私の説明を聞いておったのか愚か者めが。
(#゚ー゚)「傘はいいとして! そのバッグは肩にかけるか腕にかけるかにしなさい!」
( ´_ゝ`)「でもこれ手提げ袋って」
(#゚ー゚)「呼称とかどうでもいいわよ! 寄越しなさい!」
私は差し出されたままだったトートバッグ(彼曰く手提げ袋)を奪い取ると、自分の傘のフックにかけた。
軽い、携帯と財布が尻ポケットに捻じ込まれている彼の鞄はあまりにも軽い。中身は入っているのか。
でも、軽いに越した事はない。
- 14: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/29(金) 00:32:43.38 ID:S/o8LsEd0
- (*゚ー゚)「もうこれでいいわ」
私は傘を畳んで彼の傘の中に入れてもらい、空いた左手と手を繋いだ。
彼の右肩がシャワーを浴びているが気にしない。
( ´_ゝ`)
あにじゃが なにか いいたそうにしている
(*゚ー゚)「何?」
シャワーについての愚痴かと思い問い掛ける。
( ´_ゝ`)「女の子が荷物持ちって…」
(#゚ー゚)「もうどうでもいいわ!」
そして私が早足で歩き出すと彼は私が先程言った
『男の子は女の子と手を繋いで先導させてあげるものなの』
と言う戯言を実行しようとしているのか僅かに歩幅が大きくなった。
- 16: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/29(金) 00:33:48.42 ID:S/o8LsEd0
それに負けじと私が更に足を早めると彼も早める。
私が走る。
彼も走る。
私は全力疾走に切り替える。今日ヒールじゃなくてよかった。
隣を見ると彼は涼しい顔で並走している。
雨が顔に当たって痛くないけど傘で前見えんわボケ。
息を切らしてへたり込む私の前にしゃがみ込み(ついでにトートバッグも奪い返し)、
『結構足早いねー、去年の100m走より早かったよ』
などとほざく彼の鳩尾に拳を一発お見舞いしてやった。
そこは褒めるとこじゃねぇ。
その後、映画の待ち時間で何故待ち合わせ場所に来るまで傘を差していなかったかにまで話は遡り。
雨に濡れてから傘差したってあまり意味ないでしょうという私の言葉に彼が一応意味はあるよと、
そんな議論になりそうな手前で映画は始まった。
周囲に座っていた観客がほっとした顔をしている。
- 18: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/29(金) 00:34:54.90 ID:S/o8LsEd0
.
.
・
(#゚ー゚)「女の子が泣いてるのに何もしないってどういう事!」
( ´_ゝ`)「だって何もしてないのに…どうしたらいいの…」
(*゚ー゚)「感動して泣いたのよ、そう言う時は黙ってハンカチを渡して」
( ´_ゝ`)「さっきしぃが袋の中身こぼしたから泥まみれだけど」
(*゚ー゚)「ティッシュも駄目?」
( ´_ゝ`)「さっき鼻かんだ」
(*゚ー゚)「袖を出せ」
( ´_ゝ`)「ずぶ濡れ」
(*゚ー゚)「もういいわ」
( ´_ゝ`)「トイレの紙じゃ駄目? 持って来ようか?」
- 19: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/29(金) 00:35:55.08 ID:S/o8LsEd0
- 取りあえずアッパーカットで彼の顎を殴り抜いておいた。
映画館の出入り口付近にいるゴミ集めの店員が驚いてこっちを見ているけど知ったこっちゃない。
( ゚д゚ )
(*゚ー゚)「こっちみんな」
( ゚д゚)
( ´_ゝ`)「あ…こっちもあまり見ないで下さい」
(゚д゚ )
そうして映画館に彼を置いて来た。取りあえず何かしらメールか電話が来ないか夜中まで待つ。
何も来なかった。
次の日、普段通りに話し掛けて来た彼の後頭部をはたいておいた。
- 20: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/29(金) 00:37:00.67 ID:S/o8LsEd0
恋われたいようです ./1/ END
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