(*゚ー゚)恋われたいようです( ´_ゝ`)

27: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/27(水) 20:34:40.73 ID:x/jT4GZ30
私は今銀色の円筒の中にいる。
どうしてこうなったのか、何故そうなったのか。

人である私にはわからない。
人である私には理解出来ない。

しかし彼らは人ではないから、私がこんな感情を抱いている事が理解出来ないのだろう。


多分。



28: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/27(水) 20:36:22.85 ID:x/jT4GZ30



覚えておいて花 /5/



30: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/27(水) 20:38:56.80 ID:x/jT4GZ30
<謎の失踪で世間を賑わせた大富豪 荒巻 スカルチノフの手記より>


私は今とても後悔している。
これを書いているのは彼らの慈悲か、好奇心か、それはわからない。
ただ、今の私が心の底から浮上する思考をこれに連ねろと言った。
そして、これは彼らが大事に保管してくれるのだと言う。
彼ら自身の好奇心の対象として、大事に保管してくれると言うのだ。

彼らは私に、我々に嘘は吐かない。
吐く価値さえもないのだろうと、邪推をする。

私の居た場所には、これと寸分変わらぬ複製が届くと言う。
ただ、都合の悪い個所はこちらで削除させてもらうとの事だ。

それでいい。それでいいのだ。
何一つ文句はない、愚痴もない。私は幸福だ。
何せ私の生きた証は、人類が滅びても尚、時間の終わりまで遺るのだから。



31: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/27(水) 20:40:43.94 ID:x/jT4GZ30
まずは、私がこの手記を書く事になった原因について記そう。
とは言っても、これは推測の域を出ないので、鵜呑みにするのはやめてほしい。
私の思考以外は、あくまでも、私の推測に過ぎないのだから。

私の名前は荒巻スカルチノフ。親兄弟は既に亡く。妻も先立ち、息子と、孫が一人。
世間では大富豪と言う事になっている。
それもこれも、全ては=========<この部分は文字が消えている>のお陰だ。
いや、お陰、と言う言葉は違う。当て嵌まらないのではなく、無礼な言葉だ。
今ある私の全ては=========の恩恵なのだ。

信じる、信じないは各個人の好きなようにしたらいい。
私自身、こんな状況になってさえ、まだ心の何処かに疑念があるのだ。



32: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/27(水) 20:42:12.26 ID:x/jT4GZ30
私は人の一生では遊び呆けても使い切れぬ程の財を手に入れ、
金では買えないと言っていた人の心もこれで手に入れた。

私はこの世のあらゆる酸いも甘いも味わい尽くし、そして唐突に寂しくなった。
人の暗い部分も汚れた部分も、綺麗で神聖と思うような部分でさえ私に満足感を齎せない。
空虚感に襲われた、とでも表現したほうが適切だろうか。


私は私としてこの世に何かを残したくなったのだ。
人々から忘れ去られる事に急に怖くなったのだ。
それがその焦燥感が、物理的な圧迫感を伴って私に襲ってきた。

私には誇るべき息子と、可愛らしい孫娘がいる。
それでも、彼らもいつしか私と同じ場所に立ち、そして死んでいく。

今ではこうしてマスメディアにも顔を出してはいるが、それも一時の流行り廃れだろう。
そのうち世間など見向きもしなくなるに違いない。



33: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/27(水) 20:43:14.67 ID:x/jT4GZ30
歴史に名を刻む程度では足りない。
社会に貢献するのではなく、逆に何か大きな爪跡を残そうかと考えたが断念した。
人類はいつか滅びるのだ。そして星が揃えば地球は彼らの物となる。

人では、駄目だ。
人にはそもそも忘却というものがある。
人には、無理だ。

だから私は、こんな事を考えた。



35: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/27(水) 20:49:36.04 ID:x/jT4GZ30
私の血を受け継ぐものは作ったが、それが永遠に続くものではない。

肉体は滅びる。あるものはいつか滅びる。形あるものは。
ならば=========はどうか。彼らは。

彼らは肉体的ではなく精神的な==として永遠に―彼らに永遠と言う概念があるのか定かではないが―
続き、その子孫は精神的な==の子孫として生きると言う。
そもそも、彼らの肉体的な死が精神にまで及ぶものかどうか私にはわからない。

ただ、==を超えて存在する彼らならば、彼らとの子供ならば損なわれる事はないだろう。
人類滅亡後の繁栄も約束されている、決定されている、彼らならば。

しかし、どうやって子孫を作ろうか。
私は男であるし、この世に顕現している彼もまた生物学的には男だ。
精神体である彼らに性別と言う概念はないだろう。

…到底無理かも知れないが、
====の隙をついて受精済みの卵子を宿した子宮を埋め込めば…



36: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/27(水) 20:50:38.99 ID:x/jT4GZ30
 


 
37: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/27(水) 20:53:31.22 ID:x/jT4GZ30

そこで私の思考は途切れた。

唐突に現れた、目の前の存在によって。
いや、目の前の存在は何もしていない。
ただ、現れただけだ。

だが、私はそれを確認した瞬間、全身から冷や汗が噴き出るのを感じた。
極度の緊張が全身を覆い、過敏症のような神経が空気の密度すらも苦痛として取り込む。

煉瓦を突き抜け響く雨音が鼓膜に痛い。
ああ、そう言えば彼と初めて出会った日も雨であったかとつまらぬ思考に走る。

暫く、一瞬、どれ程の時が過ぎたか判らないが、私はこの状況を理解した。
先程の馬鹿げた妄想を、未来の私は実行しようと…いや、してしまったのだろう。



39: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/27(水) 20:56:42.09 ID:x/jT4GZ30

だからこそ、彼、     は此処にいる。
未来を変える為に、その原因たる私に直接介入して来たのだろう。

「わかっているな?」

地の底から響くような、それでも抑揚の全くない声で   は言った。
それが声帯を震わせて口から発生させられた音であるのかどうかは怪しい。
体は人間だ、体だけは。精神は、肉体にも影響を及ぼすものなのだろうか。

彼らに感情はあるかどうかわからない。
そもそも、彼らの言葉や表現や行動を、人の言葉で表せるかどうかはわからない。

ただ、私の運命は最初から彼らの手の内にあったようだ。
彼が目の前から消えても尚、私は動く事ができなかった。



40: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/27(水) 20:59:44.80 ID:x/jT4GZ30



私はどうやら脳だけを取り出され、===に贈られるらしい。
一応==に貢献した者として、そちらでは丁重―彼らの丁重はよくわからないが―
に扱ってくれるようだ。が、まだ不安が残る。
しかし、彼らと===が繋がっていたとは新しい発見だ。
悔しくは、今の私には既にそれを伝えるべき手段を持たない。

===での私の死期は私自身が決めていいと言う。
ただ、人類滅亡までは、拒否しても無理矢理生き続けさせる、と。

私の願いは叶ったりだ。
私に発声器官は既にないが、よくわからないおどろおどろしい機械と思われる物体から、
生きていた頃の私と―今も一応生きてはいる―寸分違わぬ声がそれに二つ返事で承諾した。
是が非でもと言った時に、彼の顔が笑みの形に歪んだようにカメラ―と一応言っておく―
を通して見えた。それがどのような意図の表現であったか私にはわからない。
ああ、わからない事だらけだ。


そうして私は===に居る。
ここから見える太陽は酷く儚く脆く、まるで壊れ逝くようだ。



43: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/27(水) 21:02:10.29 ID:x/jT4GZ30
最期に



リリィや、私の可愛い孫娘や。
この愚かで下劣極まりないこの爺やを許しておくれ。

私はこの状態を、それでも幸福と捉えてしまう程に狂ってしまっていたのだ。
この愚かな狂人をどうか、どうか



<文章はここで途切れている>



44: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/27(水) 21:05:38.97 ID:x/jT4GZ30
この文書は荒巻 スカルチノフ氏が執筆したものである。
専門の者に調べさせた所、この手跡は荒巻氏のもので間違いないとの事。

これより読み取れる事は、彼が何か薬物の類を服用していたか、
何か恐ろしいカルト教団に入信していたかどうかと言う事だ。

しかし、彼の親しい友人や家族に尋ねても、誰も何も知らないと言う。

これが公表された日には、その界隈に点在する集団が我が教団こそ彼のと声高らかにして、
それこそ壁の中に存在する鼠のように、鼠よりも煩く汚らしく冒涜的な呪詛を吐いた。
(これが原因でカルト教団の一斉検挙が行われたのだがそれは余談である)

荒巻 スカルチノフは、その温厚な人柄で周囲の信頼も厚かった。
それがどうしてこんな狂人めいた手記を遺書として遺したのか。
私には、何もわからない。

<ハインリッヒ 高岡   20XX年 X月8日>



46: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/27(水) 21:07:46.75 ID:x/jT4GZ30



恋われたいようです ./1/
足して十になる物理/2/
夢の泡沫に添えて./3/
一定の連続存在 /4/

覚えておいて花 /5/    END.



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