(*゚ー゚)恋われたいようです( ´_ゝ`)
- 3: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/04(木) 00:50:34.65 ID:kRUudhOM0
廊下の進むにつれて、和がなくなってきた。
木目模様の残った板が、いつの間にか質素なフローリングに変貌を遂げている。
ここは母屋と離れを繋ぐ渡り廊下なんです、と渡辺さんが説明する。
離れ、何故ショボンは離れにいるんだろうか。
余計な詮索をしながら、僕は渡辺さんの後に続いて行く。
- 5: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/04(木) 00:54:27.34 ID:kRUudhOM0
君を/6/
- 6: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/04(木) 00:57:28.25 ID:kRUudhOM0
- −ブーン−
从'ー'从「では、私は失礼します」
( ^ω^)「ありがとうございますお」
ポテトチップス(コンソメ味)とお茶とオレンジジュースが乗ったお盆を手渡される。
チョイスがいまいちだが、文句はない。
渡辺さんはその場でぺこりと頭を下げると、また小走りで母屋のほうに戻って行った。
途中で着物の裾を踏んづけて転び『ふぇえ〜ん』とか言っていた。
あの人、あれでちゃんと働けているのだろうか。
結果とやる気は別物だ。
- 7: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/04(木) 00:59:30.30 ID:kRUudhOM0
- お盆を持ったままではドアノブに手が掛けられないので、一度床に置くかどうか迷う。
しかしその過程が面倒に感じたので、持ったままショボンを呼ぶことにした。
( ^ω^)「ショボーン、いるかお? 僕だお」
『内藤…?』
返事はすぐに返ってきた。
でも、ドアは開かれない。
急いで部屋の中を片付けてもいるのだろうと解釈して、そのまま待つ。
待つ。
入って来ないの? と中から言われた。
( ;^ω^)「お盆持ってるからドア開けれないんだお」
外開きのドアに殴打されそうになりつつも、ようやっとショボンに会える事が出来た。
- 10: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/04(木) 01:02:36.83 ID:kRUudhOM0
- (ヽ´・ω・゙)「久しぶりだね」
久しぶりに見たショボンは大分変っていた。
声は涸れ、頬は陥没し、表情は憔悴しきっている。
それが、服装(今彼は何故かスーツでネクタイをしめている)までもみすぼらしく感じさせていた。
(ヽ´・ω・゙)「それにしても、家に人が来るのは初めてだよ。
今まで誰にも教えた事はないんだけどなぁ」
( ^ω^)「僕らが心配して調べたんだお、シャキン兄さんが教えてくれたんだお」
(ヽ´・ω・゙)「兄さんか…」
外面は変わってしまったが、内面は変わっていない。
その事に、少しだけ安堵する。
- 11: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/04(木) 01:06:34.23 ID:kRUudhOM0
- ( ;^ω^)「…」
(ヽ´・ω・゙)「…」
ただ、あまりにも久しぶりで何を話せばいいのかわからない。
こんな時に何を言えばいいのかわからない。
何を話すか考えて来た筈なのに、ショボンに会った途端全部吹っ飛んでしまった。
( ;^ω^)「…」
以前は有り得なかった、気まずい空気が漂う。
そろそろ学校に来いよ。
お前単位ヤバイぞ。
サークルの部費溜まってんの出せよwww
教授がお前の事心配してたぞ。
頭の中に浮かんだ道しるべとなるべき台詞は、声にはならずに消えていった。
- 12: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/04(木) 01:10:21.91 ID:kRUudhOM0
- 折り畳んでいた銀色の譜面台を広げ、銀色の真っ黒なケースからエレキバイオリンを取り出す。
エレクトーンの電源を入れ、ぽちぽちとボタンを押すと、一定のリズムが流れ出した。
(ヽ´・ω・゙)「それじゃ、弾くよ」
( ^ω^)「バッチコイだお!」
弓を握るその手に、力が入るのが見てわかった。
すぅ、と息を吸って、彼は弾き出す。
- 14: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/04(木) 01:14:40.11 ID:kRUudhOM0
─────────────────w─────wヘ√レv──
音楽は義務教育内でしか習っていない僕にとって、彼がどういったものを弾いて表そうとしているのか
僕には理解出来ない。
曲としては軽快なアップテンポの曲で、聴いているこちらも体が弾みそうな曲調だった。
次第に、それは軽快さを無くしていき、暗澹たる調べを響かせていく。
そこまで来て、僕はようやく気付いた。
- 15: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/04(木) 01:21:16.41 ID:kRUudhOM0
- ( ^ω^)「…お?」
ショボンの様子が、おかしい。
楽譜に目を落として聞いていたから気付かなかった。
彼は眼を見開いて、その視線は虚空を漂わせたまま凄まじい量の汗を顔にはりつかせていた。
エレキバイオリンでは到底出せない、有り得ないもう一つの音がショボンの弦に同調する。
曲は嫌が応にも激情的になり、弓は手元を放れて飛んで行ってしまうのではないかと思わせる動きをした。
がっと言う轟音に身を震わせれば、いつしか窓の外には暗雲が立ち込められている。
その暗い雲と黒い煙の隙間から、稲妻が走る。
今日の天気予報は、などと考えている余裕は既になかった。
- 17: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/04(木) 01:30:02.25 ID:kRUudhOM0
- 空を走る稲妻に合わせるように、ショボンの弾くエレキヴァイオリンの音は甲高く迸る。
もう一つの音も。いや、もう一つではない。
最早幾千幾万もの名状しがたい音がこの部屋に満ち溢れている。
( ;ω;)「し、ショボン! ショボン!」
僕は泣きながら彼の名を叫んだ。
その叫びにこの演奏をやめてくれと言う意思を乗せて。
しかし、彼の演奏は鳴り止まない。一層の恐怖が増しただけだった。
彼は既に僕の声など聞こえてはいないのだろうか、狂ったように弓で弦を弾いている。
体をくねくねと波打たせ、目は血走り、焦点はあっていない。
稲光が部屋を照らし出す。窓は割れていた。
その窓から、豪雨と轟音と風が部屋に入り乱れる。
強風が譜面台に置いていた楽譜を舞い上がらせ、豪雨がそれを地面に叩き落とす。
その様を轟音は脚色する。
僕は恐怖に駆られながらも、ショボンを正気に戻らせようと彼の元に這って行った。
- 18: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/04(木) 01:33:04.55 ID:kRUudhOM0
- 未だにヴァイオリンを掻き鳴らし蠢くその手に、僕は手の乗せて─―
( ;ω;)「!?」
――瞬時にその手を払いのけた。
払いのけた時に生まれた音は狂騒に混じり、曲の一楽章となって消える。
あれの手は常軌を逸したまま、狂宴を続ける。
僕は無我夢中で離れから飛び出すと、元来た道を駆け戻り、友人に泣きついた。
渡辺さんの視線も兄者の動揺も何もかも捨てて、ただひたすらに泣いた。
- 20: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/04(木) 01:34:24.34 ID:kRUudhOM0
坂眉ショボンは、死んだ。
- 22: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/04(木) 01:37:50.38 ID:kRUudhOM0
恋われたいようです ./1/
足して十になる物理/2/
夢の泡沫に添えて./3/
一定の連続存在 /4/
覚えておいて花 /5/
パン屋の邂逅 ./6/
謎の意味合い/7/
ある音楽家と/8/
魔法使いに./9/
しぃ家の怪/1/0
ぜろぶんのいち
『1』について
胡蝶の夢/1/
どんまい/2/
お部屋 /3/
消える/4/
家族 /5/
君を/6/ END.
戻る//7/