(*゚ー゚)恋われたいようです( ´_ゝ`)
- 7: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/06(土) 11:23:22.70 ID:RPmDSyiM0
- −ブーン−
病院の中には自動販売機があった。
僕はアイスコーヒーを買う。勿論ブラックで。
兄者はアイスココアとホットココアの間で、何度か手を右往左往させる。
( ^ω^)「決まらないのかお?」
( ´_ゝ`)「ああ」
( ^ω^)「ならどっちも買ったらいいお」
( ´_ゝ`)「そうはいかないだろう」
何で熱い、冷たいがあって、その中間がないんだろうなと兄者は愚痴る。
( ^ω^)「それならどっちでもいいお。今は夏だし、どっちを買ってもすぐにぬるくなるお」
( ´_ゝ`)「…それもそうだな」
そう言って、兄者はボタンを押した。
- 8: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/06(土) 11:26:25.53 ID:RPmDSyiM0
I/1/0
- 9: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/06(土) 11:31:31.30 ID:RPmDSyiM0
- 紙のカップにクリームたっぷりのコーヒーを作るしぃを尻目に、僕は兄者に尋ねる。
( ^ω^)「それで、兄ちゃんは何処に居るんだお?」
( ´_ゝ`)「618号室」
( ^ω^)「じゃあ面会許可…」
( ´_ゝ`)「取っておいた」
( ;^ω^)「早いおね」
しかし、取ってくれてるのなら話は早い。
早速上の階へ向かおうとして、手に持ったコップに迷う。
二人が座って飲んでいるのを見て、僕も飲んでから行く事にした。
- 11: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/06(土) 11:35:38.54 ID:RPmDSyiM0
(*゚ー゚)「結局私も着いて来ちゃった」
( ^ω^)「いいお」
(*゚ー゚)「私はここで待ってるから」
( ^ω^)「わかったお」
しぃは空になった紙コップをゴミ箱に捨てると、無造作に置かれている雑誌の山に手を伸ばした。
(*゚ー゚)「んー…これでいいや」
その手に握られているのはオレンジページ。
意外さに僕が驚いていると、兄者が僕の肩を叩き、その手で雑誌の山を指した。
- 12: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/06(土) 11:40:20.91 ID:RPmDSyiM0
- ( ^ω^)「成程お」
雑誌の山は週刊女性や生活週刊誌、古典文学ものしかない。
せめてジャンプが置いてあればいいのに。
全く、気が利かない病院だ。
( ´_ゝ`)「じゃ、行こうか」
しぃが雑誌を捲り始めたのを見て、兄者が機をする。
( ^ω^)「案内頼んだお」
( ´_ゝ`)「任せとけ」
- 13: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/06(土) 11:45:31.39 ID:RPmDSyiM0
- 精神病院と言っても、普通の病院とそう変わらなかった。
窓に鉄格子もついてないし、壁一面が真っ白と言うわけでもない。
そもそも、カラフルな病院とか、小児病棟以外では見たことがない。
僕の見て来た病院と違うのは、病室がカーテンではなく扉で区切られている事くらいだった。
( ´_ゝ`)「着いたぞ」
( ^ω^)「お」
兄者が立ち止ったのは618号室の入口。
その扉はしっかりと閉め切られていており、ドアに嵌め込まれた窓は磨りガラスになっていて、
中の様子をこちらから確認する事は出来ない。
病室の外側の窓も、そうなっているのだろうか。
- 14: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/06(土) 11:48:33.07 ID:RPmDSyiM0
( ´_ゝ`)「ほれ」
兄者に鍵を握らされた。
これで開けて入れって事か。
鍵をしてまで、閉じ込めておかねばならないのか。
( ´_ゝ`)「云十年ぶりの再会だろ。家族水入らずって事で、俺はここで待ってるよ」
( ^ω^)「十も年を越してないおw」
僕は兄者に感謝しながら、鍵穴に差し込んだ。
- 15: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/06(土) 11:53:15.19 ID:RPmDSyiM0
- −しぃ−
(*゚ー゚)「おっそいなー」
読み終えた雑誌を山に放り投げて、一旦伸びをする。
(*゚ー゚)「仕方ないか…」
小さい頃に生き別れた家族との数年ぶりの再会。
どっかのTVで、ドラマや特番として放映されてもおかしくはないネタだ。
内藤は今、どんな気持ちなんだろう。
(*゚ー゚)「…」
兄も居て、妹も居て、彼氏も居て、両親も欠けてはいない。
おじいちゃんもおばあちゃんも、仲良く二人揃って御健在だ。
つくづく、私は幸せ者だなと思う。
(*゚−゚)「…」
- 16: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/06(土) 11:56:54.19 ID:RPmDSyiM0
- 不倫や、離婚や、失踪なんてのはブラウン管の向こう側の世界だと思っていた。
実感がなかった。幸せ過ぎて、そんなものはまやかしだと信じていた。
(*- -)「…」
どろっとした感情が滴る、でろでろの愛憎劇。昼ドラ。
レイプ。ドラッグ。援助交際。身売り。スイーツ(笑)。携帯小説。
きっと自分がその立場になったら、笑ってはいられないんだろう。
けど、知らないからこそ笑えて、馬鹿に出来る。
知っているからこそ笑えて、知っているからこそ怒る人もいるだろうけど。
そしてその逆も、そのまた逆も。
- 21: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/06(土) 12:03:25.82 ID:RPmDSyiM0
兄者の父親は失踪。内藤は孤児。
だから、最初の頃、それを知った時、二人になんて声を掛ければいいのか判らなかった。
変な好奇心が騒ぎ出して、どうしてそうなったのか、なんでこうなったのか、
その過程を一瞬でも尋ねようとした自分に嫌気が差す。
隣人愛を唱えながら、他人の傷を見て楽しむそこらの悪人となんら変わらない。
なんで人は、他人の不幸に喜べるように出来ているのだろう。
( ´_ゝ`)「しぃ」
- 22: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/06(土) 12:06:46.30 ID:RPmDSyiM0
- いきなり声を掛けられて、びくついて裏返った声のまま返事をする。
(*゚ー゚)「あれ、もう終わったの?」
でも、内藤の姿が見えない。
( ´_ゝ`)「内藤なら兄さんと今二人っ切りさ、家族水入らずと言うだろう」
(*゚ー゚)「そっか、そうよね」
兄者も雑誌の山に手を伸ばす。
握られたのは料理雑誌。レタスクラブ。
似合わなさに、少し吹き出す。
( ´_ゝ`)「面会時間が終わる頃に迎えに行こうか」
兄者はそれに気づいていないようだった。
(*゚ー゚)「そうね」
- 24: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/06(土) 12:10:05.03 ID:RPmDSyiM0
†
∧
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レ´l ̄ ̄`ト、:
〔;'´l ̄ ̄`ト、〕
| | | |
18時の時報が鳴る。
- 25: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/06(土) 12:13:11.09 ID:RPmDSyiM0
- 結局、面会時間を過ぎてしまった。
と言うのも、一重に声を掛けて来ないナース達のお陰でもあって、
|゚ノ ^∀^)「あのー」
(;*゚ー゚)「ひゃわっ!」
横を通り過ぎて行ったと思っていた人に、急に声をかけられた。
|゚ノ;^∀^)「ご、ごめんなさい」
( ´_ゝ`)「いえ、こちらこそすみません」
なんであんたが謝るのよ。
じゃなくって、
(;*゚ー゚)「ごめんなさい、すぐに帰ります。その前に友達を…」
白い服。帽子。右手にカルテ。つまり白衣の天使。ああ怒られる。
|゚ノ ^∀^)「あ、それはいいのよ」
(*゚ー゚)「え?」
- 27: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/06(土) 12:16:56.63 ID:RPmDSyiM0
- どうやら、面会時間を過ぎてもまだ居る事を咎めに来た訳ではないらしい。
|゚ノ ^∀^)「あなた達みたいな若いカップルが、こんなトコにいるのって珍しいから」
(*゚ー゚)「そうですか…いや、ですよねぇ」
一応、周りからはカップルとして見えるんだ。
ちらっと隣の唐変木を見る。
( ´_ゝ`)「…ん?」
_,、
(*゚ー゚)「…」
相変わらずの無表情でぼけっとしている。
うーん、これとカップルかぁ…。
( ´_ゝ`)「今すごく失礼な事思われたような」
(*゚ー゚)「きのせーよ」
( ´_ゝ`)「…そっか」
- 28: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/06(土) 12:20:04.25 ID:RPmDSyiM0
|゚ノ ^∀^)「あなた達って、この町の住人?」
レモナと名乗った看護婦さんは、腰を屈めて探るように質問してきた。
(*゚ー゚)「? いえ、違います」
その返答に、幾分かほっとしたようだった。
+
|゚ノ ^∀^)「近くで大きな事故があったからかしら…最近、町の様子がおかしくてね」
(*゚ー゚)「おかしい?」
|゚ノ ^∀^)「うん、ちょっと…」
言いかけた所で、レモナさんははっとしたように立ち上がる。
|゚ノ;^∀^)「ごめんね! 気をつけて!」
そして他の看護師さんの所に走って行ってしまった。
そのままナースステーションに入り、姿が見えなくなる。
- 29: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/06(土) 12:23:25.36 ID:RPmDSyiM0
(*゚ー゚)「気をつけてだってさ、ここ治安が悪いのかな?」
( ´_ゝ`)「さぁね、でも町の人達の視線はあまりよくないね」
言われて、あの冷たい濁った水の中に棲む、魚のような視線を思い浮かべる。
少し鳥肌が立つ。
(*゚ー゚)「港町なのに…閉鎖的って、何か変なの」
兄者はそれに、そうだねと応える。
(*゚ー゚)「そろそろ迎えに行ったほうがいいかもね」
( ´_ゝ`)「ああ、ちょっと待ってて」
(*゚ー゚)「うん」
私は、読みかけだった雑誌を元の場所に戻した。
- 31: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/06(土) 12:27:24.21 ID:RPmDSyiM0
- 暫くして、兄者が内藤を連れて帰って来た。
そんなに遠い場所にあるんだろうか、内藤の兄さんの病室は。
( ^ω^)「ただいまお」
(*゚ー゚)「おか」
内藤の様子からは、今どんな心情なのか読み取れない。
いつものニコニコ顔で本を片手に戻って来た。
( ^ω^)「…」
(;*゚ー゚)「・・・」
こんな時、なんて声を掛ければいいのかわからない。
『久しぶりに見た兄さんどうだった?』
『顔うp』
『今の気持ちを産業で』
頭に浮かぶ文字列はどれもアウト。
自然と沈黙が出来上がる。
- 33: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/06(土) 12:32:14.77 ID:RPmDSyiM0
( ´_ゝ`)「どうだった?」
気まずい沈黙なんて堪えなさそうな兄者が言葉を発した。
( *^ω^)「昔と変わってなかったお! この病院出たら、一緒に住もうって言ってくれたお!」
途端に上機嫌になる内藤。
なんだ、杞憂だったかぁ。
(*゚ー゚)「いいお兄さんなんだ」
( *^ω^)「だお!」
そして、子供の頃の兄ちゃんの英雄譚を嬉々として語る。
風に飛んでった風船を見事取り戻してくれた事とか、いじめっ子に囲まれた時に助けてくれたとか、
海で溺れた時に真っ先に助けてくれた事とか。
34: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/06(土) 12:35:43.30 ID:RPmDSyiM0
(*゚ー゚)「あれ?」
( ^ω^)「どうしたんだお?」
違和感。
(*゚ー゚)「ううん、なんでもない」
何かが引っ掛かる。
胸の辺りがもやもやする。
そもそも、内藤のお兄さんは、なんで入院を。
( ´_ゝ`)「ちょっと話があるから、しぃは先に行っててくれ」
(*゚ー゚)「…わかった」
- 36: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/06(土) 12:39:07.72 ID:RPmDSyiM0
言葉に出来ない不安。これはなんだろう。
何か、大切な事を見落としている気がする。
( ^ω^)「あんなのと二人きりにさせてごめんお」
( ´_ゝ`)「あんなのって」
でも、今の私にはそれを表現する術はない。
(*゚ー゚)「早く戻って来なさいよー!」
海に沈む夕日で黒く染まる二人に、そうやって叫んだ。
影はそれを、手を振って承る。
- 38: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/06(土) 12:40:09.31 ID:RPmDSyiM0
恋われたいようです ./1/
足して十になる物理/2/
夢の泡沫に添えて./3/
一定の連続存在 /4/
覚えておいて花 /5/
パン屋の邂逅 ./6/
謎の意味合い/7/
ある音楽家と/8/
魔法使いに./9/
しぃ家の怪/1/0
ぜろぶんのいち
『1』について
胡蝶の夢/1/
どんまい/2/
お部屋 /3/
消える/4/
家族 /5/
君を/6/
狂 ./7/
歪/8/
Y/9/
I/1/0 END.
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