(*゚ー゚)恋われたいようです( ´_ゝ`)
- 5: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/08(月) 00:25:07.85 ID:rJbmYkmW0
- 音恐怖症。
雷鳴のような、大きな音をおそれる場合もあれば、遠くの足音のような小さな物音に、
何か自分の知らないところで異変があったのではないかと恐れる症状もある。
僕が恐れるのは、あの日、あの部屋で響いた。あの旋律。
- 7: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/08(月) 00:29:17.11 ID:rJbmYkmW0
ぜろぶんのいち
『0』について
- 8: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/08(月) 00:33:44.69 ID:rJbmYkmW0
- 夕日を受けて赤黒く輝く海を眼下に、内藤ホライゾンと流石兄者は防波堤に佇む。
橙が藍に浸食される様は何かを彷彿とさせた。
夕日は沈んでいるのではなく、飲み込まれているのだ。
壁にぶつかって弾け飛ぶ波飛沫を見ても、最早何の感慨も湧いて来ない。
飛沫の一つ一つが光を反射して、きらきらと瞬間のダイヤモンドダストを作り上げた。
夕暮れを背に漁から戻る漁師達の目も、この時ばかりは気にならない。
いや、違う。
二人を見る目からは、明らかに敵意が抜けている。
それらは一様に、帰ってきた家族を迎えるような生温いものばかりだ。
昼間のギャップが相俟って、それは逆に薄気味悪いと感じざるを得なかったが。
- 10: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/08(月) 00:37:42.37 ID:rJbmYkmW0
( ^ω^)「…」
此処は耳に優しい音ばかり。水の音。 波の音。 泡の音。 海の音。
何故か、その全てに懐かしい気持ちにさせられる。
( ´_ゝ`)「帰りたくなったか?」
内藤は息を吐く。
( ^ω^)「…そうだおね、今日は歩き回って、疲れたお」
( ´_ゝ`)「いや、そっちじゃなくて」
( ^ω^)「え?」
兄者は困ったように耳を掻くと、その手をポケットに押し込めた。
- 11: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/08(月) 00:40:44.02 ID:rJbmYkmW0
- 昼は、空と海が繋がっている。
( ´_ゝ`)「ごめんな、お兄さんがこの病院に居るって知らせてなくて」
夜は、空と海が繋がっている。
( ´_ゝ`)「本当は、ここから連れ出した後、お前の枕元にでも置いて驚かせてやろうと思ってたんだ」
夕刻は、空と海を別れさせる。
( ´_ゝ`)「けど、お前があまりにも落ち込んでたから、断片的に教えて喜んでもらおうとしたんだ」
長いようで短い、謝罪と言い訳。
僕は沈む夕日でオレンジ色に染まりながら、言葉を返した。
( ^ω^)「いいお」
見晴らしのよかった海に、白いものが立ち込める。
空気中に小さい水滴や吸湿性の粒子などが浮遊し、遠方の物体が灰色に霞んで見える状態。
視程は1kmを超えているので、これは靄だろう。
( ^ω^)「兄者は僕の、一番の友達だお」
- 12: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/08(月) 00:45:02.58 ID:rJbmYkmW0
- 手持ち無沙汰になって、尻ポケットの中の携帯を出す。
開いて時刻を確認すれば、表示されているのは18時33分。
しぃに早く帰って来いと言われていたのを思い出し、思い出すだけに留める。
携帯を閉じ、尻ポケットに捻じ込んだ。
内藤ホライゾンは考える。
兄者が何故自分にここまでしてくれるのか。面倒を見てくれるのか。
自分と彼の出会いは、決して良いと言えるものではなかった。
それから、どうやって仲良くなったんだっけ。思い出せない。
ただ、あの頃は、自分に敵意を向けて来ないからと言う理由のみで慕っていた。
ネガティブな方向に思考が流れて行く。
しぃとよく三人で行動するのも、対人恐怖の自分を見下して遊んでいるのではなかろうか。
実は西川との邂逅も何もかも知りつつ、影で嘲笑してるんではなかろうか。
ここに着いて来た事に、兄者に何のメリットがあったのか。
友達だから、と言う理由だけでは、納得出来ない。
内藤は拳を握りしめた。
- 14: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/08(月) 00:47:10.30 ID:rJbmYkmW0
ざっざっと、飛ぶような引き摺るような足音が聞こえる。
こんな時間に釣り人かと思って振り返った内藤が見た者は、予想外の人物だった。
( ^ω^)「よっ」
病室で見たままの姿の、薄水色の病衣を着た西川ホライズン。
( ;^ω^)「に、兄ちゃん!?」
思わず後ずさる。
( ^ω^)「病院脱走して来たんだおwwwwwww実況しようにも
担当医に携帯没収されてるからお前の貸してくれwww」
( ;^ω^)「ちょっwwwおまwwwwww」
後ずさった距離を埋められる。
( ^ω^)「え、脱走?」
- 15: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/08(月) 00:50:39.54 ID:rJbmYkmW0
( ^ω^)「あそこって、鍵がかかってる上に内側からも開けれないし
3階だから窓から飛び降りようにも無理なんじゃないかお」
( ^ω^)「カーテンとシーツ破ってロープ状にして窓から垂らしたんだおwwww」
( ^ω^)「テラ脱出ゲームwwwwwwww」
( ^ω^)「途中で看護婦に見つかったけどなwwww首締めて来たwwwwwwwww」
( ^ω^)「CQCの基本を思い出せwwwwwwwwwwwww」
( ^ω^)「窓から降りる時に手が猛摩擦wwwwww何度手放したくなった事かwwwwwwwww」
( ^ω^)「なにそれあついwwwwwwwww」
( ^ω^)「冗談だけどwwwwwそんな身体能力も度胸もねーよwwwwwww」
( ^ω^)「しねwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww」
( ^ω^)「…ふぅ」
( ^ω^)「…ふぅ」
二人で草を生やしまくって、一段落する。
内藤は、先程まで持っていた陰鬱な感情が吹き飛んだ事に気付いていない。
- 18: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/08(月) 00:53:46.08 ID:rJbmYkmW0
- 西川ホライズンは、先程と違い落ち着いた様子で内藤の後ろに目を向ける。
( ^ω^)「ぶっちゃけると、そこの兄者って人と、あの黒服の人に助けられたんだお」
( ^ω^)「おい兄者」
内藤が振り返ると、いつの間にか車の運転手は降りて来て、兄者の斜め後ろに並んでいる。
あの黒服、サングラスを外しても顔が怖い。
黒服と兄者は、二人で顔を見合わせると、同時に親指を立てた。
( ´_ゝ`)b d(ФωФ )
( ^ω^)「_」
てめぇら。と内藤は心の中で毒づいた。
- 21: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/08(月) 00:56:58.74 ID:rJbmYkmW0
- ( ^ω^)「グッジョブじゃないお、病院にどうやって言い訳するんだお」
( ´_ゝ`)「何、精神病を理由に隔離されてる患者が脱走するのはそうおかしな事じゃない
向こうだって、脱走癖のある患者が一人増えたと思ってるだけだろうし
担当医なんざ厄介払いが出来たと安堵しているさ、多分な」
内藤は病院の院長に、心底同情した。
( ^ω^)「兄ちゃんはこれからどうする気だお」
( ^ω^)「戻る気はないお」
内藤は西川の言葉に、心の底から溜息を吐いた。
( ^ω^)「アテはあるのかお?」
西川は夕日の沈んだ場所を指差す。
( ^ω^)「行こうぜ…あの果てしなく遠い、水平線の向こうにな……」
( ^ω^)「なん…だと…」
____________________________________
- 22: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/08(月) 01:00:05.79 ID:rJbmYkmW0
( ФωФ)「すごく見分け辛いですね、この二人双子ですか?」
( ´_ゝ`)「ただの腹違いの兄弟だよ、見分けに関しては眼を凝らせ」
( ФωФ)「あなたと弟者さんが霞んで見えますね」
( ´_ゝ`)「…」
( ;ФωФ)「あ、いえ」
- 23: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/08(月) 01:03:48.53 ID:rJbmYkmW0
- −杉浦−
( ^ω^)「それじゃ、そろそろ行くお」
そう言われた西川さんは、節榑立ち、水掻きのようなものが出来た手を差し出しました。
( ^ω^)「助けてくれて、ありがとう」
兄者さんは迷いなくそれに応えます。
私ならその醜悪さと悪臭に躊躇し、その手を握る事はありません。
( ^ω^)「行くって?」
( ^ω^)「おっおっww」
西川さんは、内藤さんの問いに笑って答えません。
笑いながら西川さんは彼の肩を掴みます。鷲掴みにします。
( ^ω^)「お?」
( ^ω^)「あそこなら、怖いものなんか来ないおwwwww」
彼は頭上にクエスチョンマークを浮かべたまま、海面に勢いよく叩き付けられました。
ばしゃん
西川さんは、最後に『ユールの日によろしく』と煽られました。
- 25: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/08(月) 01:07:14.51 ID:rJbmYkmW0
( ゚ω゚)「ぶばら!」
飼育員に餌を求めるイルカのように、内藤さんは浮かび上がりました。
人である彼に、水中はまだ辛いのでしょう。
人だったものである彼は、既に水中での活動が可能のようですが。
パニック状態に陥った内藤さんを、兄者さんは促します。
( ´_ゝ`)「落ち着け内藤! そんな時はリュカ数を数えるんだ!」
素数ではないのですか。
( ゚ω゚)「えぷっ…2! 3!」
( ´_ゝ`)「アウト!」
兄者さんの声と共に、内藤さんがその身を海に沈められました。
海中で薄笑いを浮かべた西川さんが、彼を引っ張ったのでしょう。
隣では、兄者さんは堪え切れない笑いを漏らすような動作をしています。
それが、私が見る事が出来た、内藤さんと兄者さんの交わした最後の会話でした。
- 26: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/08(月) 01:11:01.36 ID:rJbmYkmW0
- 暫くの間、兄者さんは内藤さんと西川さんの消えた海面を見つめていました。
その内、その視線は少しずつ上にあがり、いえ、彼らを追って遠くに伸びて行きました。
落ちた波紋が波に消されて、暴れた気泡が弾けた波に消され、黒く染まったこの海でも、
兄者さんは彼らの痕跡をその目で追えるのでしょうか。
それは、私の知る由ではないのですが。
完全に日が落ち、月が顔を見せても尚、私達は其処に居ました。
彼は何時まで見続ける気なのでしょうか。
彼らが200海里を越えるまででしょうか。あの町へ上陸するまででしょうか。
あの暗礁へ辿り着くまででしょうか。あの海底都市に泳ぎ着くまででしょうか。
私の、知る由ではないのですが。
いつまでも夜風にあたっていると、冷えてしまいますよ。
- 28: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/08(月) 01:14:01.47 ID:rJbmYkmW0
ぜろぶんのいち
『1』について
胡蝶の夢/1/
どんまい/2/
お部屋 /3/
消える/4/
家族 /5/
君を/6/
狂 ./7/
歪/8/
Y/9/
I/1/0
ぜろぶんのいち
『0』について END.
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