(*゚ー゚)恋われたいようです( ´_ゝ`)

8: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/27(土) 15:26:09.96 ID:lbo3zAlw0

それぞれの人生の最期、人としての最期。

         ┌──────────────────────┐
         │ 大多数の人間は、静かな絶望の生活を送っている。 |
         │                                      │
         │         by ヘンリー・デイヴィッド・ソーロー   │
         └──────────────────────┘



11: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/27(土) 15:31:21.31 ID:lbo3zAlw0

ある晴れた日。
とある町の大きな記念品、一応観光名所の一つとなっているブロンズ像。
それが近日中に撤去されるとの風聞を耳にして、しぃは次の目的地をここへと決めた。


(*゚ー゚)「わぁーでっかい銅像」

しぃが、所々剥がれて鉄錆色が露出している、焦茶色の銅像の足元まで走り寄る。
これは所謂、金メッキならぬ銅メッキと言うものだろうか。
銅像は中世の騎士を模っており、折れた剣を支えに片膝をついたポーズを取っている。
近くの、銅像の説明文が書いてある看板を読むと、モチーフには歴史的な意味があるらしい。

何故、こんな東方の島国の小さな公園に立てたのか。
しぃは腕を抱えてううむと唸る。

(*゚ 、゚)「変なの」

剣の柄には青色の宝石のようなものが埋め込まれており、説明によるとただの硝子玉のようだ。
子供か不良か、誰かが勝手に持ち去ろうとしたのか、硝子は表面が傷だらけ。
硝子の埋まっているその周囲の塗装も酷い。
その部分だけ、『先に埋め込んじゃったので塗れませんでした』とでも言いたげに剥がれている。

(*゚ー゚)「ぼろぼろ」



13: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/27(土) 15:35:26.45 ID:lbo3zAlw0

( ´_ゝ`)「しぃ、来てたのか」

(*゚ー゚)「来てましたとも」

両腕を腰にあて、足を肩幅まで開き、無い胸を張り、えへん威張って仁王立ち。
もしここに内藤か坂眉が居たら、きっとしぃの胸部を指摘する事だろう。
最も、二人とも、もういないが。

(*゚ー゚)「この像、なくなるんですってね。壊されるのかな?」

しぃは像を見上げて、見上げようとして、反射した日光が邪魔をした。
ノースリーブを着ているが、日焼け止めを塗っているから肌にダメージはないけど。
帽子を被ってくればよかったと、少し後悔する。

( ´_ゝ`)「いや、南にある博物館に寄贈されるらしいよ」

しぃはふぅんと応えて、兄者の被っている帽子に手を伸ばした。
身長差が有り過ぎて届かない。
足の膝から踝までの部分を蹴ったが、蹲る様子すら見せない。
諦めてもう一度像を見上げた。

(*゚ー゚)「これを運ぶのかー…」

見た目や色の重厚さも増して、嫌に重量がありそうである。
ビルの建設に使うクレーンでも持って来るのだろうか。
それを動かせる金が、この寂れた町にあるとは思えないが…



15: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/27(土) 15:38:33.74 ID:lbo3zAlw0

( ´_ゝ`)「目測、シベリアの成人男性の3倍。」

(*゚ー゚)「んふぇ?」

隣を見ると、兄者は人差し指を顔の真ん中に差し当て、何かをしていた。
いきなり兄者が見当つかない言動をするのは日常茶飯事なので、多少の事は慣れた。
が、それでも口をぽかんと開けてしまうのは、最初の頃から直らない。

( ´_ゝ`)「体積が約27倍だと仮定し、この人物の体重は装備している物も含め95kgと推定
      ブロンズの比重は人の約9倍。つまり95かける27かける9だ。答えは?」


しぃは息を止めて、その計算過程を聞いていた。
答えを出して、満足気な顔をして振り向く兄者を見て、ほぅと息を吐く。

(*゚ー゚)「…言いなさいよ」

答えを解っておきながら、他人に聞くその態度。
好きにはなれない。

( ´_ゝ`)「23085、約20tだ。重いな」

全く、勘に障る。

( ´_ゝ`)「あ、今のは像の中を空洞とした場合の計算式じゃないからね」



16: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/27(土) 15:41:54.12 ID:lbo3zAlw0

(*゚ー゚)「この人間計算機め」

( ´_ゝ`)「算盤やってる人なら、これくらい出来ると思うけど」

基礎数学、応用数学、線形数学、幾何学、その全てを総ナメにした奴に言われたくない。

(*゚ー゚)「何よ、私は頭が悪いとでも言いたいの?」

( ´_ゝ`)「ごめん、知らなかった」

余裕綽々としている彼の顔をぶん殴ってやりたい。
しぃは握った拳をもう片方の手で包み込み、背後へ隠す。

(*゚ー゚)「兄者は電卓の上に生き字引ね、どっかの図書館にでも司書として入ったら?」

( ´_ゝ`)「情報電子工学科に入った俺の全てを無碍にするのはちょっと」

(*゚ー゚)「うーん確かにそうね、あなた生き字引って言うには微妙」

( ´_ゝ`)「そこですか」

兄者は看板に腰掛ける。
そこは椅子じゃないと怒鳴ろうとしたが、地面に対しての角度が直角ではなく30度程になっており、
座るではないにしろ、壁に寄り掛かるよりは遥かに楽な造りとなっている。
だからと言って、ベンチではないのだが。

(*゚ー゚)「…兄者は色々知ってるけど、人の心に疎いもの」



18: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/27(土) 15:45:05.27 ID:lbo3zAlw0

しぃは、自分の腰掛ける場所を軽く払ってからすとんと座った。
腰掛けた事により低くなった身長が、帽子の奪取が容易となった。
しぃはその手を素早く翻すと、兄者の帽子を自分の頭に被せる。
少しぶかぶかしている。サイズが大きいようだ。

(*゚ー゚)「帽子の鍔の部分が、日除けにいいわ」

( ´_ゝ`)「返して貰えませんか?」

(*゚ー゚)「い、や、よ」

差し出された手の平に、んべーと舌を出す。
兄者は困ったように耳を掻いて、鞄をごそごそと漁り出した。
何をしてるのかと覗き込めば、その手に掴んでいるのは折り畳み傘。

(;*゚ー゚)「何持って来てるのよ、今日は晴れなのに」

( ´_ゝ`)「だって雲の動きに比べて降水確率が」

(;*゚ー゚)「あーもう、こんな場所まで来てそんな話はいいわよ!」

耳を帽子の中に入れ、もう聞きたくはないと行動で表現する。
しぃは兄者の手からシンプルなデザインの折り畳み傘を奪うと、自分の鞄へ仕舞った。



19: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/27(土) 15:48:17.09 ID:lbo3zAlw0

(*゚ー゚)「あんたこれで何する気だったの」

自分の鞄をぽんぽんと軽く叩きながら、兄者を問い詰める。
日は既に、真上に来ている。兄者は自分の鞄で影を作りながら言った。

( ´_ゝ`)「何って…日除け」

その言葉に、しぃは鞄の中の物を取り出して調べた。
普通にただの雨傘である。アンブレラである。
決して日傘ではない。パラソルではない。

(*゚ー゚)「ねぇ兄者、傘にも種類ってものがあるの。これは日除け用のやつじゃないわ」

子供を諭すように、優しく。

( ´_ゝ`)「そうなの?」

(*゚ー゚)「えぇ、そうよ」

そしてついさっきの生き字引と言ったものを訂正。
兄者の知識には、偏りがあり過ぎる。

( ´_ゝ`)「しぃが帽子を返してくれれば済む話なんだけど…」



21: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/27(土) 15:53:38.63 ID:lbo3zAlw0

(*゚ー゚)「あーもう兄者、あんた自主学習機能付けなさいよ、自動アップデート機能
     時間が来ると、勝手に更新し出すやつ。再起動は面倒だからするな」

( ´_ゝ`)「そんな無茶な、俺は機械じゃないよ」

(*゚ー゚)「情報電子工学科で、教授にも目を付けられるような関数電卓が何を言うの
     電子と名のつくものに入っているのなら、いっそあなたもデジタルになりなさい」

( ´_ゝ`)「理不尽な…」

そうして下らない会話を10分。半時間。2時間。もう1時間。
ああ全く、折角の日なのに何をしているんだろう。

持って来た昼食は近くの芝生に直に座って食べた。
伸びた草がちくちくと刺さってむず痒い。
普通に正座している兄者が羨ましい。
私もズボンを履いて来ればよかった。

(;*゚ー゚)「ピクニックじゃないけど、ちっちゃいシート持ってくればよかったね」

( ´_ゝ`)「ゴミ袋があるけど」

そう言って鞄の中から黒いゴミ袋を取り出す。
最近のって、中が見えるように透明になってるんじゃなかったっけ?
いつのだよ。



23: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/27(土) 15:57:13.48 ID:lbo3zAlw0

(*゚ー゚)「遠慮するわ、それにもう中身入ってるじゃない」

( ´_ゝ`)「問題ないよ?」

(*゚ー゚)「私を乗せてゴミ圧縮して、持ち運びを楽にしようなんて考えてたらぶっ飛ばすわよ」

( ´_ゝ`)「…」

いや、そこは何か言えよ。
何も言わないので耳に往復びんたをかます。

(*゚ー゚)「撤去作業まだなのかなー」

( ´_ゝ`)「今日やるって決まってた訳じゃないんだろう? もしかしたら別の日かもしれないよ」

(*゚ー゚)「いいのよ、別の日でも。撤去作業見れなくても、今日しか来れる日はなかったんだから
     最後に見に来ておいて損はないじゃない。あなたはそうは思わないの?」

( ´_ゝ`)「そんなモンかねぇ」

兄者はぐるりと周りを見渡す。

( ´_ゝ`)「今日に撤去との風説は、一体何処から届いたんだい?
      自分達以外に、ここに人の姿は見えないよ」

しぃも習って、ぐるりと見渡す。



24: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/27(土) 16:01:50.00 ID:lbo3zAlw0

(*゚ー゚)「知られてないのかしら、近日中なのは確かなんだから、見に来る人がいると思ったのに」

( ´_ゝ`)「近隣の住民はいつも見てるからな。他は、外に知られてなかったか
      見に来る価値もなかったか、誰も気に留めてなかったのか」

(*゚ー゚)「寂しいわね、それって」

同情でもするかのように、像に視線を向ける。
時刻と角度との関係で、青い硝子玉に日光が反射し、その部分だけ水色に輝いていた。
しぃは素直に、その光景を綺麗だと思った。

(*゚ー゚)「これって、日時計の役割でもしてるのかしら」

( ´_ゝ`)「書いてないね。けど、この時間帯のこれは一応見所らしいよ」

兄者は何かパンフレットのようなものを開いて、それに目を通しながら返した。
そんなものがあるのなら早く見せろ、としぃが憤慨する。



26: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/27(土) 16:05:53.32 ID:lbo3zAlw0




(*゚ー゚)「こうなったら、夕暮れまで待ちましょ。暇だからしりとりしましょ」

( ´_ゝ`)「俺に着いて行けないとかよく言うけど、俺もしぃに着いて行けないよ」

(*゚ー゚)「普通のしりとりじゃ終わらないから…何かない?」

( ´_ゝ`)「……IT関連用語とか」

(;*゚ー゚)「あんたの得意分野じゃない、それ」

( ´_ゝ`)「習っている分野であって、得意な分野ではない」

(*゚ー゚)「どちらにしろ私は不利よ。まぁいいわ、受けて立つ!」

( ´_ゝ`)「ではまず、しぃさんからどうぞ」

(*゚ー゚)「しりとりのり!」

( ´_ゝ`)「…」



27: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/27(土) 16:08:04.77 ID:lbo3zAlw0

( ´_ゝ`)「Linux」

(*゚ー゚)「それってx? す?」

( ´_ゝ`)「す」

(*゚ー゚)「す…3D」

( ´_ゝ`)「でぃ? い?」

(*゚ー゚)「い」

( ´_ゝ`)「e-mail」

(*゚ー゚)「る…ルータ」

( ´_ゝ`)「TurboLinux」

(*゚ー゚)「それずるい」

( ´_ゝ`)「じゃ、タイピング」

(*゚ー゚)「グ…」


(;*゚ 、゚)「…ぐ……」



35: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/27(土) 16:20:05.37 ID:lbo3zAlw0

(;*゚ー゚)「濁点抜いていい?」

( ´_ゝ`)「どうぞ」

(*゚ー゚)「クラッキング」

( ´_ゝ`)「…クラスタリング」

(;*゚ー゚)「くっ…クリック!」

( ´_ゝ`)「クロスサイトスクリプティング」

(#゚ー゚)「んぎぎぎぎ」


(#゚ー゚)「クローキング!」

( ´_ゝ`)「クリームスキミング」

(#゚ー゚)「ぬが!」

( ´_ゝ`)「クラウドソーシング」

(#゚ー゚)「まだ言ってないわよ!」



32: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/27(土) 16:17:34.51 ID:lbo3zAlw0

(#゚ー゚)「そっから離れなさい!」

( ´_ゝ`)「しぃだって…」

(*゚ー゚)「ちゃんとやるわよ、クライアント」

( ´_ゝ`)「ドット」

(*゚ー゚)「…ドメイン………ジャック!」

( ´,_ゝ`)「クロスポスト」

(#゚ー゚)「ドラッグ!」

( ´_ゝ`)「クリーンブート」

(#゚ー゚)「トラック!」

( ´_ゝ`)「クリップアート」

(#゚ー゚)「トランザクション!」



(*゚ー゚)「あ」



36: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/27(土) 16:26:22.43 ID:lbo3zAlw0

しぃの負けだねぇと笑う彼のこめかみに肘鉄を入れる。英語で言うとエルボゥ。
狙ったとしか思えない時間差で、どさりと倒れた兄者に、像に留まった鴉があほぅと鳴いた。

勝ち誇りガッツポーズを決めたと同時に、起き上がった兄者に帽子を奪還される。
あわわと頭の上に手をやるが、もう遅い。
兄者は立ち上がり、帽子はジャンプしても手の届かない兄者の頭上へ。

(#゚ー゚)「今日は日差しが強いんだから! 乙女の柔肌が傷ついたらどうするの!」

( ´_ゝ`)「俺の傘借りる?」

言って、鞄の中から折り畳み傘を取り出す。
待て、何時の間に兄者の手に戻った。

(*゚ー゚)「いらないわよ」

霧雨も降っていない、こんな晴天、快晴の日に傘を差すだなんて。
頭がお天気な人、可哀想な人として見られ兼ねない。

(;*゚ー゚)「うー直射日光が」

( ´_ゝ`)「帽子被って来ればよかったのに」

(*゚ー゚)「失念したわ」



40: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/27(土) 16:29:32.62 ID:lbo3zAlw0

( ´_ゝ`)「じゃあ、こっち」

しぃの二の腕を掴むと、ぐいっと引っ張る。
いきなりなものだから、バランスを崩して。
兄者に腕を掴まれているからずっこける事はなかったが、膝をついてしまった。
二の腕を掴む手を振り払い、彼の股間を蹴り上げる。

短く呻いて地面に突っ伏した。

( ´_ゝ`)「何するの…」

(#゚ー゚)「こっちの台詞よ!」

背中にもう一発蹴りをお見舞いする。
しかしそっちはダメージになっていなさそうだ。
女子プロレスラー王者の息子と言う称号は、伊達ではないと言う事か。

( ´_ゝ`)「俺はただ日陰に連れて行こうと」

ozの状態からorzに移行する兄者。
そのまま両腕に力を入れて立ち上がった。

(*゚ー゚)「……」

驚異の回復力だ。



43: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/27(土) 16:33:47.02 ID:lbo3zAlw0

(*゚ー゚)「あ、の、ねー兄者君。いつだったか前にも言ったけど、女性にはもっと優しく
     華麗にエスコートするものなのよ? レディーファーストと言う言葉を知らないの?」

自分で言っておきながら、何かが違うとしぃは思ったが。
訂正したら負けだと思い、その後に続く言葉を飲み込んだ。

( ´_ゝ`)「レディーファーストは知ってるよ。戦争の時に、閉経になった女性を
       弾除けとして先に行かせるんだろう? でも今は戦争じゃないから弾は」

もう一度兄者に蹴りを入れる。
だが兄者め自動学習機能を取り入れたらしい。
私の蹴りを同じく足で受け止めやがった。
そのまま右を軸足に、左で何度か蹴りを入れる。
傍目から見たら似非テコンドーの偽実演だ。金は取らない。

彼女を抱き締めようとして、そのままカンフーアクションに発展したコピペを思い出した。
それと似たような状況なのかなーと思いつつ、右足を地面に付ける。
兄者もそれを見て、ガードに使っていた左を降ろす。

隙をついて左でキック!
畜生防がれた!

(#゚ー゚)「チッ」

( ´_ゝ`)「何やってるんですかしぃさん」



46: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/27(土) 16:38:12.51 ID:lbo3zAlw0

(*゚ー゚)「あーあ、折角の日なのに。色々と台無しだわ」

スカートに付着した草をぽんぽんと払う。
空は既に夕刻色。黄昏。終焉。終わりの色。
そう言えば、中学校帰りによく見る光景だったと感慨に耽る。

(*゚ー゚)「まあ、いっか」

すっと兄者が前に出て、振り返り手を差し出して来た。
何の事かと驚いたが、すぐに意図を理解して、その手の平の上に自分の手を乗せる。
そのまま二人、手を繋いで歩み始める。

手繋ぎの時だと、乾いてる者同士でも気温や湿度により湿り気が云々と語った兄者を思い出した。
思い出し笑いをする彼女を、不思議そうに見つめる兄者。
その様子に、しぃは再度笑いを溢した。

(*゚ー゚)「ふふっ」

兄者となら、繋いでる手が汗ばんでも気にならない。
恋愛とか純情から掛け離れて、現実的で夢もないけれど。
リアルとは多分、こんなものだ。



48: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/27(土) 16:42:21.71 ID:lbo3zAlw0

( ´_ゝ`)「楽しかった?」

(*゚ー゚)「楽しかったわ」

色々あったけど、と言葉を付け足す。
そっか、よかったと呟く彼の感情は、帽子と夕日の影で見えない。
漫画のように、それよりも深い影がその表情に落ちている。


『また二人で来ようね』

そう言ったのはどっちだったか。












65: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/27(土) 17:11:51.08 ID:lbo3zAlw0
−内藤ホライゾン−


深い深い水の中。光も来れない水の底。
ここならあの怖く恐ろしい旋律も来れまい。それに優しい兄ちゃんもいる。

兄者が来れないのは本当に残念だ。
いや、他の同属と精神交換を行えば共に僕らと同じ場所へ来れるが、
それでは犠牲となる誰かが不憫で哀れでならない。
せめて体が女ならば、その腹に子をあげることができるのに…。



いいやと僕は首を振り、大いなる=====に祈りを捧げ未練を払う

ふんぐるい むぐるうなふ ===== るるいえ うが=なぐる ふたぐん!
いあ! だごん! いあ! はいどら! いあ! =====!

歓喜が安楽が狂気が畏怖が僕の胸の中を満たす。
隣を見ると、濁り水の中で死んだ魚のような目を爛々と退廃的に輝かせる兄がいた。
僕は母親の羊水のような水の中で、ようやく安息を手に入れようとしていた。



68: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/27(土) 17:14:58.73 ID:lbo3zAlw0


内藤ホライゾンの音恐怖症の克服の仕方。



そして最後の最期。



70: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/27(土) 17:18:05.45 ID:lbo3zAlw0

( ´_ゝ`)「異常無し…」

薄暗い部屋、何時かの時代、何処かの世界。
彼は淡く薄緑色に照らされながら、光る六角形のパネルを操作する。
そのパネルには文字なのか絵なのか判別出来ないものが書かれている。
象形文字と言うものであろうか。人には到底知れ得ぬものか。
慣れた手つきでかたかたと押すと、目の前の半円形のシリンダーが回転した。

その中には、灰色の流動体。隆起し、泡立ち、のたうつ不定形。
解り易く例えるなら、ドラクエで言うバブルスライム。
しかし、あのような可愛らしさや憎らしさなど何一つない。

時折、白玉のような、透明な硝子玉のようなものが、思い出したように体表に浮かび上がる。
そしてそれは、流動する肉に埋もれてすぐに沈む。
『それ』はそういった一連の行動を、延々と曲線の中で繰り返していた。

( ´_ゝ`)「よい、しょっと」

壁と思われていた、プラスチックのようなものを兄者の腕はすっとすり抜ける。
慈しむように愛しむように、灰色の『観音林しぃ』の熟れの果てを取り出すと、その胸に抱いた。
それを一度片手に乗せ、注意深く指の隙間から零れないように乗せて。
片手を胸の内ポケットに入れ、小さく透明な小瓶を取り出した。



73: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/27(土) 17:22:05.22 ID:lbo3zAlw0

きゅぽんと小気味のいい音を立てて、蓋のコルクが外される。
そこに、試験管らしきものを斜めにし、淡く光る液体で瓶を満たす。
最後に、浮かび上がった眼球に眼球をあてて『接吻』を施す。

『接吻』は、唇と唇を触れ合わせる行為だと聞いた。
既にその器官が失われて久しい『それ』に残るのは、融けた内臓と皮膚と眼球のみ。
体表面積が小さい箇所同士を触れ合わせるものだと解釈した彼は、視覚器官で行う事にした。

柔らかい、白玉よりも柔らかく、硝子玉よりも澄んだそれを壊さないように。
母なる=====などへと回帰せぬように、小瓶の中に落とし込んだ。
溢れ返る水と共に瓶の外へ出ようとしたのは、せめてもの抵抗か。
それは優しく、指で『それ』を瓶の中へ押し返した。

そうしてコルクの蓋を閉めて、ぎゅうと閉めて。
人型を取っていた頃のしぃの衣服、ピンクのワンピースの切れ端を取り出す。
それを丸めると、袋型になり瓶を包んだ。

最後に、恋人同士を繋ぐと言う赤い紐で袋の上部を結ぶ。



77: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/27(土) 17:25:49.41 ID:lbo3zAlw0

そもそも何故こんなにも彼女に入れ込むようになったのか。
小瓶の入った袋を手の内で弄びながら、椅子に深く座り思考する。

観察対象は他にも在った。自分も含めて。

人間の女性として、観音林しぃ。
人間の男性として、坂眉ショボン。

内藤ホライゾンは当初の予定外だったが、深きものの血が流れると知って対象に。
ああ、====に居た頃の記憶を返すべきか、返さぬべきか。
人間の精神は絹糸のように脆いので封じていたが、今ならどうか。

そして最後に、自分と同じく、精神的な子孫として産み落とされたが、
==との割合が1:9と言う事で人として過ごす事になった弟。

一個の人に執着するとは、自分もまだまだ人だったのだろうかと、ぼんやりと薄眼を開ける。
視認したのは、緑色の鉱石が連なり吊られている天井。
そう言えばもうすぐ電源が切れる頃だったと、それの一つを掴み電源を入れ替える。

最期に、『それ』が入った袋に目を落として、胸の内ポケットへしまった。



78: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/27(土) 17:28:58.24 ID:lbo3zAlw0

次の十の日、また会うと内藤に言った日付。
===に外皮手術でも施してもらって、本来の姿で会おうかと思索に耽る。
全身スーツに身を包んだ、巨大な正義の宇宙人が暴れる動画の敵、何と言うんだったか。
バルタン星人、それの物真似でもして笑わせてやろうかと企む。

自分の鉤爪を見ながら、そう考えた。



後ろから、同族の這い寄る音が聞こえる。
弾力性のある灰白色物質で縁取られた底部、
そこをある種の軟体動物のように這って移動する音が。



80: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/27(土) 17:30:23.09 ID:lbo3zAlw0

その透明で小さな瓶、それから更に袋で包み、胸ポケットに入れられて。
そうして彼女は夢を見る。

彼が私に飽きて、忘れて、捨てる夢を。

そうしていつか、いつかと願う。






『彼の胸の内から、毀れ落ちますように』



83: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/27(土) 17:33:25.54 ID:lbo3zAlw0
                 l''n,--,,,_ 
              、  ゙l `┐ │
                 l゙\ |  |`''-八、,,,r-、
                 |  ゙l. | ,i´,i,!|` ィ'{, _|
              `''-,,,l,,}l.| 丿゙゚'ー,iト`r|、
           nニ'''"゙二'|ア'ヲl,,,,gldi゙‐'''"゙゛
           ,ィ'゚“゚”''''″  `゙ミ゙l ̄ヽ
             /         `'゙l、
           ,r"             ゙l  最高の善意と最高の悪意。
        /`             .}  至高の愛情と窮極の執着。
       ,l゙               ゙l   最高点にまで達したものは、
       /                ヽ
     .,r"                 |
     'lr‐,!‐                ゙l       皆全て狂気である。
      `''i、            `''″  .|
        `-,_                  ゙l
            ゙゙''―---,,,,,,,,,,_     _川l、
                 ⌒゙゙゙゙゙ ̄`



85: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/27(土) 17:36:29.70 ID:lbo3zAlw0



ぜろぶんのいち
『0』について

昔\
過去\
紛い物\
壊れたい\
冒涜的な唄\
もしもifの世界\_

毀れたいようです\ END.



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