('A`) 濡れた拾い物のようです

3: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/26(火) 23:55:12.50 ID:MD2WOsJsO
玄関のドアが乱暴に開いた。


从゚∀从「おらー、ハイン様のお帰りだぜー」

('A`)「帰ってこなくて良いと心底思う」

从゚∀从「おお! どくおたっだいまー。あのな、今日はお土産が」

('A`)「いらん」

从゚∀从「いやいや、どくおに見せたくて持って来」

('A`)「まにあってます」

从゚∀从「んもう、つれないんだから。まぁ話を聞け家主」

('A`)「断る。お前が住み着いてこのかた、土産って単語に良い思い出が無い。諦めろ」



6: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/26(火) 23:58:31.49 ID:MD2WOsJsO
背を向けようとしたドクオの肩がむんずとつかまれ、強制方向転換。
その正面に、有無を言わせずハインがどっかとあぐらをかいた。


从゚∀从「歩き慣れた道を行き、到着後すぐに始まった俺の一日」

从゚∀从「職場の紅一点としてたんぽぽを刺身に華麗なステップで乗せ続ける事8時間。外に出ると結構な雨でした」

(;'A`)「話すの諦めろって言ったじゃないか……」


呆れてため息一つ。
話しはじめた途端の、八面六臂の身振り手振りがとっても五月蝿い。

从゚∀从「こりゃー濡れるのはこの際仕方ないな、と可憐なハインちゃんは愛してやまないママチャリへダッシュした訳だ」

(;'A`)「へー」


最高に関心のない返事をしているのに、うきうきハインには届いてない。
そりゃもう確実に。



7: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/27(水) 00:02:21.80 ID:52olYXgaO
从゚∀从「チャリ置場まであと10mぐらい。ようやく愛車の姿が見えた時、ピビッと来たんだよ」

从゚∀从「誰かが俺の助けを待っている! 命の灯が消えそうだ! って」


('σA`) ホジホジ


从゚∀从「世界最速ダッシュで駆け寄る、水もしたたるいい女ことオレ!」


('A`)σ ポイッ 〜 ●


从゚∀从「そしたらかごにでんでんむしが! しかも雨に濡れて震えてる!」

(;'A`)「ひいっ!? 今すっごい悪寒した!」

从゚∀从「心優しいハインちゃんは、濡れて震えるでんでん虫をそっと抱き寄せ胸に抱いたのでありました」


女優顔負けの演技が止まった途端、目の前にずいっと顔が寄る。



9: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/27(水) 00:07:11.31 ID:52olYXgaO
从゚∀从「で」

('A`)(もう完全に嫌な予感しかしない……)

从*゚∀从「このこがそのでんでんむしちゃん!」

(;'A`)「……うわぁ……これは……」


出て来た物は予想を軽く飛び越えた。

両手に余る大きさなだけでも相当気持ち悪いのに、それ以上になんなのこのツヤ無しの黒色は。

問い詰めたい詰問したい尋問したい。
どうしてこれを かたつむり だと思えたのか。


从*゚∀从「なぁなぁドクオ、オレこいつ飼うからなー」

(;'A`)


( 'A`)

('A`)

('A`)「え〜……いま、何とおっしゃいましたか、居候」

从゚∀从「今回はきっと生き物苦手のお前でも、気に入る! 間違いない!」



10: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/27(水) 00:09:22.74 ID:52olYXgaO
('A`)「もう二度と生き物は拾ってこないって誓約書を書いたのは、たった一週間前だ」

从*゚∀从「え? そんなの書いてませんけど?」


コレガセイヤクショダッ!
□⊂('A`) サッ


   モギトリッ    アッ
从゚∀从つ□  ⊂('A`;)そ


=3 バビュン  ⊂('A`;)


ビリビリビリビリ  Σ('A`;)

  ヒュバ
ε=从゚∀从


从゚∀从「な? そんな誓約書なんか無かったろ? 」

(#'A`) コンニャロウ


どうやら俺(世帯主様)の意見はすべからく無視するつもりだ、この居候。



12: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/27(水) 00:11:56.67 ID:52olYXgaO
从*゚∀从「よーし、頑固家主の許可がおりたぞー♪ 今日からお前はうちの子だー♪」

('A`)「許可してない。断固していません」

从゚∀从「しっかしお前はかわったでんでんむしだなぁ。殻が長四角だもんな〜」

('A`)ノ「お〜い」

从゚∀从「よし! いっちょ名前をつけてやる!」

('A`)ノシ「もしも〜し」

从-∀从。oO(黒い殻に言い知れぬ存在感。この見たこと無いでんでんむしの名前は−−−!)


从-∀从 ムー

从-∀从 

从ー∀从 + ピコーン

从゚∀从 クワッ

从*゚∀从 +「棺桶死オサム! これだ!」

(;'A`)「縁起悪ッ!!」

从#゚∀从「なにがっ」



13: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/27(水) 00:15:51.46 ID:52olYXgaO
从*゚∀从「棺桶死オサで〜んで〜んム〜しム〜し かーたつーむーりー」



【+  】




从*゚∀从「おーまえーのあーたまーはどーこにあーるー」



【+  】ゞ )



14: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/27(水) 00:18:04.32 ID:52olYXgaO
从*゚∀从「ツっノっ出っせ」


     /
【+  】 ゞ )





从*゚∀从「ヤっリっ出っせ!」


     / /  
【+  】 ゞ )



17: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/27(水) 00:18:48.54 ID:52olYXgaO
从*゚∀从「目っだっまっ 出せぇ〜」



      。 。
     / /  
【+  】 ゞ )     ドーン



从*゚∀从「きゃあぁぁん、かっわゆぅうい!」


(#'A`)「得体が知れな過ぎる! せめてもっとまともなの拾え! いや拾うな! すぐ捨ててらっしゃい!」



18: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/27(水) 00:19:44.45 ID:52olYXgaO
从#;∀从「いーやーだー!!」


子どもみたいに駄々をこね続ける馬鹿を正座させた。
向かい合うおれも正座する。

騒動の中心となったオサム(仮称)は、部屋の端に寄せたちゃぶ台の上で段ボール箱に入っていてもらうことに。


(#'A`)「もう一回いわせてもらう!」

(#'A`)「捨ててらっしゃい!」

从#;∀从「やだっつったらやだ! あんなに可愛いのに!」



19: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/27(水) 00:21:12.84 ID:52olYXgaO
('A`)「もし持ってきたのがソレそっくりのガラクタならまだ許せる」

从;∀从「じゃあオサムだって良いじゃないか!!」

('A`)「いいえ駄目で从;∀从「なぜ!!」

('A`)  ふぅ

('A`)「二ヶ月前、サボテンの三郎になみなみと水をやり続け、ついに腐らせたのは誰」

Σ从;∀从「オレ!」

('A`)「半月前、カエルの真奈美をカラッカラになるまで日光浴させたのは誰」

从;∀从「…オレ!!」

('A`)「三日前、かまきりの竜二と一緒に寝て、ぺらっぺらの押し花みたいにしちゃったのは誰」

从;∀从ノシ「オぉぉぉレぇぇぇだー!!」

(#'A`)「まともな生き物すらろくに飼えないお前に……

(#'A`)「訳の分からぬ謎の生き物を飼う資格などありませんから!!」



22: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/27(水) 00:22:47.87 ID:52olYXgaO
从;∀从「やーーーだーーー! 飼うんだーーー!!」

(#'A`)「わがまま言うんじゃありません! 駄目ったらダメー!!」

从;∀从「あほー! ドクオのあほたれうんこたれー!!」


言うが早いかダッシュして、正体不明のなまものを俺に突きつけてきた。

腕が一気に鳥肌で埋め尽くされた気が。
こんなものを飼いたがる神経がわからん。


从;∀从「こんなに可愛い棺桶死オサでんでんムしなのに!」

(#'A`)「どっからどう見たって非常識なイキモノじゃないか!」

(#'A`)「殻は真っ黒長四角だし!」
从*゚∀从「この造形美はまさに神の仕業だぜ(はぁと」

(#'A`)「本体は濃淡があれど毒々しい真紫!!」
从*゚∀从「日本では古来より紫を格の高い色として扱ってきた。まさにオサム色(はぁと」

(#'A`)「あげくカタツムリを模してるくせに魔女みたいなワシ鼻!」
从*゚∀从「それはオサムがナンバーワンでオンリーワンだから当然だ(はぁと」



23: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/27(水) 00:25:01.05 ID:52olYXgaO
(##'A`) ブチブチブチ

(#'A`)「なぁ頼むからよ〜く考えろ? カタツムリにあんな立派な魔女っ鼻があるか?」

从゚∀从「カタツムリにゃ無いな〜」

('A`)「だろ?」

从゚∀从「だけど、でんでんむしには普通に鼻があるじ(#'A`)「あるかー!」

从゚∀从 ちっ ひっかからねえか

(#'A`) ひっかかるか どアホウ

从゚∀从「だいたいドクオは頑固すぎるんだ」

('A`)「自分のまともな生活を守るためです」

从゚∀从「いやん、いけずぅ」



26: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/27(水) 00:31:57.48 ID:52olYXgaO
('A`)「とにかく俺はやだからな!」

从゚∀从「意地っ張り屋さんめ」


ばーかばーかと小声で聞こえるように悪態をつくハイン。

ふと手のオサムを見、言い争いに夢中になってて、握り締めたりぶんぶん振ったりしてたことを思い出したらしい。
慌てて四角い殻を結構な勢いでさすり始めた。


【+  】

反応なし。


从゚∀从「あ、ほらドクオがけちんぼなことばっかり言うから、おさむちゃんが出てこなくなっちゃったじゃないか」

('A`)「けっこうなことじゃないか」



27: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/27(水) 00:33:18.91 ID:52olYXgaO
从゚∀从「なんでさ、ドクオはまだオサムの可愛らしさをとくと拝んでいないだろ!?」

('A`)「確実に俺のためにならないものを見る必要性がどこにあると」

从゚∀从「はい今! お前は今、人生の9割5分をむだにしました!!」

Σ(;'A`)「ええぇ!? えぇぇぇぇっ」

从゚∀从「残りの人生、燃えカスみたいな、歯くそみたいな、惨憺たる結果になります!!」

(;'A`)「ヤダ、いますっごいひどいこといわれてる」

从゚∀从「はい大決定〜♪ そうときまれば意地悪家主なんぞほっといて」

从゚∀从つ【+  】

从*゚∀从「よ〜しよしよしよしよしよし怖かったでちゅねーもうだいじょうぶでちゅよ〜」

('A`)「非常に鬱だが、それ以上にこの上なく腹立たしい」



29: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/27(水) 00:34:31.22 ID:52olYXgaO
从゚∀从「ほら、出ておいで。かわいい顔を見せて」


【+  】

【+  】


从゚∀从「あれ? おさむ〜?」

从゚∀从「寝ちゃった? 出ておいで? おっさむ〜?」

('A`)「俺はもう知らん。たばこ買ってくる。ソレちゃんと捨てとけよ」



玄関脇にかけている上着を適当に着込み下駄箱に隠してある財布を掴む。
中をチェック。
OKしっかり320円ある。

あれこれやってる馬鹿に背をむけ、ビニール傘を持ってノブを回した。



30: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/27(水) 00:39:59.37 ID:52olYXgaO
すぐに帰路につくのが嫌で、わざととおくのコンビニでタバコを買った。
これで残金は0円に。

家出中の子供みたいにあてもなく、傘をさしてふらふらさまよう俺。

目についた小さな公園に入った。


('A`)「あああぁぁああああかえりたくねええぇぇぇぇ」

('A`)「絶対捨ててない。あいつは何があっても捨ててない」


思いっきり吸ったたばこの先が長い灰になって落ちる。


('A`)「俺の平穏を邪魔する奴は、わけのわからぬモノに喰われてしまえぇぇぇ」


ひとりごとは日の落ちた雨の公園に消えた。


('A`) ……

('A`) ……

('A`)「はぁ」



32: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/27(水) 00:42:36.67 ID:52olYXgaO
('A`)

('A`)「どうせロクに世話せず俺に頼るくせに」

('A`)「生き物は自分とおなじ食生活だと信じてる大バカのくせに」

('A`)「どうやったら、オタマジャクシが鍋焼きうどんを食うと思えるんだよ」

('A`)「なにを思ってラベンダーの花にアクエリアスをぶっかけられるんだよ」

('A`)「犬に玉ねぎとはレベルが違うぞ、レベルが」

('A`) 

('A`)「はぁ」


雨が強くなってきた。



('A`)「帰るか」

('A`)「アレ、何を食うんだろうな……」

まともなカタツムリはきゅうり食うんだっけ。
葉っぱ食うかな。
見つけたらタンポポでもむしって行ってやるか。



33: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/27(水) 00:43:50.44 ID:52olYXgaO
('A`)「ただいまー」


くつをそろえて傘をたたむ。


('A`)「おーいごくつぶし。返事しろ返事。家主様だぞ」

('A`)

('A`)


へんじはない ただのしかばねのようだ


('A`)「……ほんっとにおいだしてやろうか、あの居候め」


とりあえず説教だ。
このままじゃ腹の虫がおさまらん。


(#'A`)「ハイン!! ハイーン!!」

(#'A`)「ハインこらどこにかくれやがったー!」



34: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/27(水) 00:44:41.16 ID:52olYXgaO
一気に飛び込んだ我が家の狭い居間。

同居人は いた。
ざり ざり という削るような音が絶え間なく響く部屋に。


ハインはいる。
いる、けれど。


      。 。
     / /  
【+  】 ゞ )


ハインの顔全体が粘液質の不気味な紫に覆われている。
軟体がうごめくたび、ざりざり音が歪む。
細い指が細かく痙攣している。
確かカタツムリの口はやすりみたいなもんだった。
コンクリートも食うらしい。


      あぁ喰われてるんだ。


         たぶん、いきたまま。



恐怖を覚える前に、そう直感した。



35: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/27(水) 00:45:36.13 ID:52olYXgaO
('A`)「だから飼わない、そう言ったのに」


頭だけ冷静で、体は役立たず。膝がたたない。

ああ、最悪だ、生きたままかよ




脳を食われ始めたためか、強烈な筋収縮ででたらめな動きを始めた居候。
それを見たくなくて目線を天井に移動させてこの世で最後の後悔をした。



天井は埋め尽くされていた。

棺桶のような黒。
暗い暗い真紫。


('A`)「は……ははっ」


笑うと同時、ひしめきあういきものが一斉に、落ちてきた。



【了】



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